複雑な気持ちで毎日を過ごしていた

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1:◆s6:2017/08/23(水) 19:16


きっと失踪します

2:◆s6:2017/08/23(水) 19:25



「嗚呼、懐かしいな」

ふと口からそんな言葉が零れ落ちた。無意識だった。なぜ「懐かしい」という言葉が出てきたのだろうか。その言葉に自分も不思議な感情を抱きながら、外を眺めていた。
久々に晴れた空を、柔らかな朝の光を、日光を反射する建物達を、日影に在る淋しげな車を、只々眺めていた。

3:◆s6:2017/08/23(水) 20:51



「おはよー、詩織」

「あ…あぁ、おはよう、茉里」

名前を呼ばれ我に返る。慌てて返事をする。
あの渦巻く感情は何だったのだろうか、なぜ「懐かしい」のだろうか、そんな事を未だに考えていた。
時計を見ればもう12時を過ぎていた。授業も終わり、クラスメイトたちはお昼ご飯の準備を始めていた。

「お昼、一緒に食べようよ、詩織?」

心配そうに、親友…と呼んでいいのだろうか、茉里は声を掛けてきた。私はただ頷くことしかできなかった。
自分がふと言った一言、それだけでこんなに考えている事は初めてだった。こんな自分も不思議でならなかった。

4:◆s6:2017/08/23(水) 20:52


アドバイスや疑問点、感想などあったら是非とも教えていただければと思います

5:◆s6:2017/08/26(土) 12:12



「ね、詩織さ…いつもと違うよね。何かあったの?教えて?」

心配そうに私の顔をジッと見つめている為、心配させてしまったのかなと思いながら私は答える。

「本当にどうでもいいような話なのかもしれないけど、何か…懐かしいんだ、この風景が」

懐かしい…?、と不思議そうに考え込みながら、茉里はミニトマトを頬張っている。

「気にしなくていいよ、私のことだから、どうでもいいって」

「ふーん…あ、一緒に夏祭りに行かない?ほら、これがチラシ。どう?私と詩織で行った事無いでしょ、だからさ」

夏祭り__?
あの日の事は鮮明に覚えている。
浴衣を着て、あの場所で茉里と待ち合わせして、花火を見て。
「夏祭り…え、茉里と行った事あったよね?」

「え、私が詩織と初めて出会ったのって今年の4月だよ?この高校に入ってから出会ったんだしさ」

「…あ、私の勘違いかな…ごめんね」

チラシを鞄に無理矢理入れ、ごめんねと苦笑いをし、「夏祭りの件考えとくね」と言い残し鞄を持って教室を出る。

《嗚呼、此処はやっぱり「本当の私」の過去の世界なんだ__》

今迄ずっと考えてきた事の答が、やっと出す事が出来たのだ。
どうせ此処は過去の世界。学校の途中で帰ったって問題は無いだろう。何故なら「本当の私」が生活しているはずの世界に、戻ればいいだけなのだから。

6:◆s6:2017/08/26(土) 14:25



家に鞄を置き私服に着替える。本当の私は何なのだろう、どうすれば本当の私に戻れるのだろう。そんな疑問がポンポンと浮かんでくる。
ただ、私は目指していた。あの夏祭りの日、帰りに茉里と別れた後に通ったあの場所を、只々目指して走っていた。

決して足が速い訳では無かった。体力がある訳でも無かった。だが、本当の私に戻りたい、その一心で、夏祭りのチラシを片手にその場所を目指していた。少しでも本当の私に戻るための手掛かりが有ればと思っていた。

「ここだ…」

5分程度は経っただろうか。その場所は、私の記憶にあるあの場所とそっくりだった。林の奥にある赤煉瓦の橋、この場所に手掛かりは有るはずだと、根拠の無い自信が湧いて来るのだった。
そういえば、この橋を渡った後からの事は覚えていない。忘れてしまっただけなのだろうか。そんな事はどうでもいい、のだろう。きっと。

此の場所に来る人はそう居ない。人目に付かないこの林に来る人は珍しいのだ。自分の家が近いために遊びに来る事は何度もあった為、自分の経験からそう判る。最も、自分だって橋の方まで行った事は無く、林で木の実を拾ったりして遊んでいただけなのだが。

橋を渡ったのはあの夏祭りの日が初めてだった。親に「渡っちゃいけないよ」と、厳しい口調で小さい頃から幾度と無く言われていたからだ。それが何故かは解らなかったし知ろうともしなかった。

私は、家に帰りその橋について調べてみようと思った。この林の近くを通る度に、あんなに執念深く「橋を渡るな」と云っていたのには、きっと理由があるのだと今更ながら思う。


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