自由を手にしたつもりが色々と巻き込まれた

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1:アーリア:2017/12/07(木) 21:52

今回も尽きるまで頑張って書いてみます。

2:アーリア:2017/12/07(木) 21:56

 
 (1)


 妹が婚姻したのは、4年前のことである。妹が高校1年生で俺が高校2年生の時の夏のことである。
 婚姻から1年後には双子の男女が生まれた。歳は3歳だ。俺からすれば甥と姪に当たるわけだがお目にかかれたのはたった2回だけだった。何を言おうか妹は現国王と結婚し、二人の子を産んだということである。要は甥と姪は生まれながらの王族だ。
 先の国王は現国王が生まれてすぐに他界したために、現国王は生まれてすぐに即位したという。ただ実際の政務の実権はその当時から今に至っても王太后(現国王の母親)と宰相(現宰相は先代国王の弟)が握っているので、比較的に自由に生活できた結果、王都にある「ごく普通と解すことのできる中学校乃至高校」に通っていたところ、同じ中学校乃至高校に通っていた妹と出会い恋に堕ちて結婚するに至ったというのだ。
 で、現国王と平民である妹の結婚が決まったとき、王太后や宰相はそれを支援したという。王太后自身も平民出身と言うことと、現宰相はどうにも極度に保身的な立場(つまり現国王と結婚したのが有力貴族だと実権が有力貴族に移ってしまうと危惧した)であったからだともっぱら噂されているのだ。
 まあ、兎にも角にも妹は王妃である以上は王族ということだね。
 ところで一方の俺と言うと、妹の結婚が原因なのか「お前も早く相手を見つけろ」と毎回の如く言われる羽目になってしまった。毎回適当に流して来たが、ついには父親が「王妃の父親」になったことを良いことに、勝手に縁談を持ちかけるなど随分と面倒なことしてくれたのだ。実は俺はあまり結婚には気が進まなかったのだ。しかもその縁談の相手が貴族だったことも相俟って俺は、

「俺には自由権がある。人権万歳! 」

 そう言って、縁談当日の前の日、普通に昼飯を食ってから支度をして、家を出て行った。ちょうど高校を卒業して春休みだったこともあったのが幸いだ。就職先も学校の方には家の稼業を継ぐ(さらさらその気はなかったが)と言う事にしていた。よってしがらみがない俺は乗船券2つを手にして、遥か遠くの国へと旅立ったのである。
 今から3年前の話だ。
 
 

3:アーリア:2017/12/07(木) 21:57

 
 (2)

 
 俺の生まれた国は大ハイデルン王国。列強国の二番手に当たるらしい。
 そして俺が家出をしてから3年間から世話になっているこの国は、リベラール合州国という。つい15年前に独立したという新しい国である。15年前というと、俺は21歳であるから単純計算で6歳の時にこの国は誕生したことになる。今後どのようになって行くか、色々と夢のある国であるが、決して大国と呼べるものでは無かった。
 俺は3年前にここへ移民として来たわけだが、最初は炭鉱の下働きとして生活していた。
 そして俺の生活は3年で、大きな変動をもたらした。
 と言うのは、炭鉱の下働きをしながら、毎月の給料日には決まって問屋に赴き、くそ安い給料の半分をつぎ込み、毎回同じ会社の株券をこつこつと買っていた。それを2年も続けていたところ、どうもその会社の株の価値が急騰し、俺は今まで買った分の株を全部売り払いかなりの大金を手にしたのである。
 で、その金でそこそこ広い土地を買った。ざっと400坪くらいだろうか? まあ、無知なる俺ができるだけ広くて安く買える土地を買いたいと土地販売業者に掛け合ったところ、この土地を紹介されて、持っていた金のほとんどを使い果たして、買ったのである。
 場所は未だ未開拓地と比喩される西プライン州の南方の村である。その村はほとんどが原住民で構成される村で、農業を生業とする部族である。その土地が安い理由は、都市部とはかなり離れており、村と言っても原住民部族で構成される村であることが考えられる。結局、その土地を購入して、とりあえず、その村へ移住することになった。
 そしてその土地を今度は原住民に安く貸すということになったのだ。毎月6万といったところである。6万と言うと調度俺が炭鉱の下働きをしていた時の給料の4分の3だ。400坪で6万と言うのは残念かもしれないが、原住民に格安で貸すことにした。また6万の中から俺が住まう家賃やまた、税金を含めて1万を控除されるので手取りは5万である。
 ところで、彼ら原住民達はその土地をどうやら農地として使うらしい。
 まあ、農業が生業なら農地を増やすのが得策なのかもしれないが、400坪と言うとどれ程の生産高なのかも俺は知らなん。原住民には黒字になってもらうよう願うだけである。
 こうして俺は炭鉱の下働きから一転して、とてもしょぼいが、地主へとなったのだ。
 変動をもたらしただろ?

4:アーリア:2017/12/07(木) 21:57

(3)

 
 俺がこの村に来てから一ヶ月になる。小さな小屋に住む地主様なわけだが、村長の使い走りとして色々動いていた。
 そして今日も使い走りの件で呼び出されていたのである。しかも、とても面倒な案件だ。
 
「クロイン君。これを州政府に届けて貰いたい」
「何ですかこれは? 」
 
 俺は村長(厳密に言うと郡長を兼務)から、書類を渡された。一体の何の書類は何なのだろうか?

「請願書だ。私ら原住民には選挙権が制限されているからね。他の村の村長の署名もある」

 彼ら原住民は選挙権は制限されている。
 西プライン州の南方一帯の『南方郡』には原住民達の村が複数ある。これら村と郡(ここでは南方郡のこと)に関する選挙権については彼らは有するのだが、州知事選挙や州議会選挙、合州国議会選挙や合州国大統領選挙に対する選挙権を彼らは有していないのであった。

「無論、クロイン君をただの青年として送り出すわけではないよ。君には今回は郡議会の特使として州政府にこれを届けてもらいたい」

 そして村長は俺はもう一通の書類を手渡しされた。

「これは君が郡議会の特使であることを証する書類だ」
「特使って・・・・・・」

 どうも俺は政治闘争に巻き込まれたようだ。
 とても嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか? 
 権利を求めて闘って暗殺された人は五万と居る。それもこの合州国でだ。最近は色々な権利を求める無名の闘士までもが次々と行方を暗ましているとの話しである。俺自身の身の安全が心配だ。
 ただ・・・・・・縁談をすっぽかして故郷から夢の生活を求めてこの合州国へ来たのだ。このまま故郷へ帰るのも癪に触る。闘って死ぬのも悪くないかもしれないな。或いは真実を暴くの面白いかもしれない。

 そして、村長が懐からお札を取り出して、

「今回の特使としての報酬は、5万でどうだ? 旅費も含めてだが、手取りは十分あるだろ? 」

 とのことだ。
 おっと、報酬もくれるって? 何だよそれを先に言いなよ村長さん。
 俺はこれで生活の足しになりそうだ。

「僕に行かせてください」
「おう。頼んだぞ」

 こうして俺は半ば金のため、西プライン州政府へ殴り込みに・・・・・・いや、書類を届けに向かうことになったのである。

 そして、村からは駅までは、村の青年に馬車で送ってもらうことにした。

「郡議会の特使だそうだな」
「今回、州政府へ行くことになってね。選挙権の話しだよ」

 原住民にとっては選挙権の話しは大きいのだろう。選挙権がなければ国民として認めてもらえないのと同じだ。元々は彼らが古来ここに住んでいたわけで、筋として彼らにも選挙権を与えるべきだと俺も内心思っている。


「その話か。俺は普通に生活出来て、統治者が暴君みたいな奴じゃなきゃそれで良いのだがな」

 確かに合州国では都市部の不労者となるときついかもしれないが、選挙権が無くとも普通に生活は出来きるだろう。原住民であろうとも、その個人は私権の主体としては認められている。つまり、商売で成功して資産家になるチャンスはあるのだ。
 
 それはともかく、村長が大統領を目指していると聞くのは初耳だった。

「村長はやりすぎだ。あれだと暗殺されるよ。政府の野郎共に」
「・・・・・・暗殺ねぇ」

 さっき俺がそんな目に合うかもしれないと、思っていた。

「最近では同性愛者支援党だっけ? そこの党首が死んだらしいよ。お前がこの間持ってきた新聞の一面に掲載されてたさ。で、暗殺らしい」

 同姓愛者は数多くの人から嫌われており、政治家たちの多くからも批判を浴びていたことは俺も知っている。そういう背景もあることから過激派が出没し、党首を殺したのかもしれない。
 
「党首自身も合州国議会の議員だったらしいし、やっぱり政府は誰にでも手を出せるわけだな」
「でもまあ、本当に暗殺されたとは限らないじゃないか」
「新聞によれば、逮捕された容疑者が政府からの指示で殺したとかと言ったとか書いてあったけどな」

 ・・・・・・マスコミを鵜呑みするのも如何なものと思うけど、まあいいか!

5:アーリア◆Z.:2018/03/16(金) 22:23

(4)

「で、君が南方郡議会の特使のクロイツという者か。蛮族みたいな顔つきじゃないが、気のせいだろうかね? 」

 俺は無事に西プライン州の州都にある州政府庁舎まで来ることができた。そして請願を担当する役人に、村長から預かった請願書を提出して帰ろうしたところ、何と西プライン州知事から呼び出しを受けたのである。
 そして只今、原住民を蛮族扱いする州知事の執務室に居た。

「で、俺を呼び出した理由は何でしょうかね? 」

 と、私は州知事に訊ねた。

「蛮族の長老に伝言を頼もうと思ってな。君ら蛮族がこれ以上、権利を要求するなら州政府は州軍によって南方郡を制圧させる、以上のことを伝えて欲しいね」

 俺はこの州知事こそ蛮族と罵られるべき存在だと内心思ったが、何とか我慢した。

「わかりました。そのことを村長に伝えておきますよ。で、そろそろ帰ってもよろしいですね? 」
「ああ、帰って結構だ。蛮族の奴隷よ」

 いつかこいつの首を物理的な意味で吹き飛ばしたいと思いつつ、俺は執務室及び州政府庁舎を後にした。


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