【CoCほぼリプレイ】もっと食べたい

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1:雪下◆Ck:2018/02/08(木) 13:55

先日某所にて行われたクトゥルフ神話TRPGのセッション、シナリオ「もっと食べたい」のリプレイ風小説です。
クトゥルフって何?という方でも読みやすいものにできたらいいな、と。
ぼちぼち更新していきます。

2:雪下◆Ck:2018/02/08(木) 17:09

 
ある日の昼下がり。二人の男が人で賑わう中華街を歩いていた。
右から左から食欲をそそる香りが漂うなか、目的地へと早歩き。
店先で売られている中華まんに目移りしながら、先を行く片方が連れへと振り返る。

 「早くしたまえ和田村君。僕はもうお腹と背中がくっつきそうなんだ」
 「元はといえば、お前の用意がトロいんだろうが……」

ため息をつき、和田村 聡は目の前の人物を恨めしげに睨みつけた。
和田村はこの中華街から、電車で三十分ほどかけた場所にある探偵事務所に勤めている。
たった二人しかいない事務所でも、ここ最近は仕事が舞い込むようになり、満更でもないようだ。

そして事務所のもう一人の人物こそ、今彼の目の前を行く男───西家 陸朗である。
西家は探偵として事件を扱い、和田村は専ら雑用係の探偵助手だ。
いつものように事務仕事をしていたところ、和田村は全く何も知らされず外に連れ出された。
もう少し詳細を聞かせろ、と不服そうにしていると、「着いたよ」と西家がある店の前で止まった。
そのまま扉を開けて店員に「連れを待たせている」と一声かけ、店の奥へ進む。
やがてこちらに手を振る一人の男が見えた。

 「わざわざありがとうございます、西家さん。和田村さんも初めまして」
 「はぁ……どうも」

男は和田村に名刺を渡す。それには『フリージャーナリスト 石沢 啓太』とあった。

 「知っているだろう。石沢君だ」
 「ああ、お噂はかねがね。初めまして、和田村です」

西家に彼を紹介され、やっと思い出した。
石沢 啓太。主に社会問題を扱うフリージャーナリストで、雑誌にネタを提供したりしている。
この業界ではそこそこ名の知れた人物で、ときどきワイドショーにも出演している。
つくづくこの男は顔が広いな、と和田村は隣の探偵を横目で見た。

 「どうぞ座って。まずは食事を済ませてから、話を聞いていただけませんか?」
 「もちろん。そのために来たのだよ」

西家が石沢の正面、その隣に和田村が腰掛ける。
注文を聞きに来た店員に二人が適当にメニューを頼むと、しばらくしてから石沢の頼んだ食事が運ばれてきた。
二人が来る前に注文していたのだろう。それにしても大きな炒飯である。

 「石沢君。別に食事しながらでも話は聞くよ?」
 「……あ、いえ、大丈夫です。食事しながらする話題ではありませんし」

石沢はそう伏し目がちに言うと、レンゲを手に取り炒飯を口に運んでいく。
五人前はあろう炒飯をすべて平らげると、その後来た巨大な餃子やラーメンも掻き込むように食す。
最初はよく食べるな、と見ていた二人も、次第に尋常でない様子に不安を覚えた。

 「……おい、石沢君? 大丈夫かい?」

知人である西家は立ち上がり石沢に寄ろうとしたが、そっと和田村に制される。

 「西家。石沢さんから変な音が聞こえる」
 「……どういうことだい?」
 「違う、下だ。テーブルの下!」

和田村がそう大声で言うと、二人はすぐさまテーブルの下を覗き込んだ。
すると、石沢の両足が彼の体の内側にのめり込んでいっている。
ボリボリと、硬いものを噛み砕くような音と共に。


    “ウガ…………クトゥ………………フ……”


それは声なのかは、はっきりと分からない。
石沢の体から聞こえてくるそんな微かな音が、西家の耳に入ってきた。

 「……どうなって……いるんだ………」

やがて彼の体は下半身、腹部とどんどんのめり込んでいき、腕だけでテーブルにしがみついても尚ひたすら食べ続けている。
そしてとうとう頭も無くなり、口だけになる。

   「もっと食べたい……」

そう口から呟きが洩れると、口が西家に向かって勢いよく飛びかかった。
咄嗟のことで体が動かない。
西家が息を呑んで身を固めたとき──口は彼の体にぶつかる前に、煙となって消えてしまった。
賑わう店内の奥の席、二人だけとなったそこはまるで別世界のように静まり返る。
食べ散らかした料理と皿だけが残されていた。

 「大丈夫か、西家」
 「……あ、ああ……なんとか」

額に脂汗を浮かべながら西家は応えた。
顔色も悪い。早く外へ出た方がいいかもしれない。
和田村は会計をさっさと済ませると、彼を引っ張って店を後にした。


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