泡のように

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1:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:00

短編です。途中まで書き、力尽きました。キャラクター
、ストーリー、どのように改変しても構いません。 
どうかこの物語を、最後まで、紡いでは頂けないでしょうか。お願いします。

2:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:01




幼い頃に一度だけ 
読み聞かせてもらった
人魚姫の最期を
私は、今でも覚えている。
叶わぬ恋に終わった少女は、
泡となって消えていくんだ。

3:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:02

硝子の世界に沈んでいた。
ゆらゆらとうごめく
硝子の世界に。
息を吸おうとしても
息が出来ない。
ただ、泡となって消えていくだけ

4:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:02

……私の、思考、躰、記憶
 全て泡となって消えて
 くれれば、良いのに
頭では、そう思っているのに
私の躰はもがく
無様に、醜悪に、
必死にもがく
右手を誰がが、掴んだ。
引き揚げられる。
「良かった、
 水死体じゃなくて」

5:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:04

元カレの、慧だった。
引き揚げられたとたん
気温の低さに寒気がした。 
「さっ寒」
躰の震えが止まらない。
五月とはいえ 
今日の気温は14度
ただ何となくの理由で
薄汚れたプールに飛び込むのは
私、ぐらいのものだろう
「彩佳ってさ
 馬鹿だよね、全体的に」
慧が、プールの縁に座り込む
「てめぇも引きずりこんで
 やろうか
 私、お前より
 通知表の合計成績
 良いんですけど……」 

6:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:04

私の意地を
さらっとかわす。
「彩佳、勉強だけは
 出来るよね
 それ以外、出来ないのに」
余計な一言が多いのも
慧の特徴と言える。
ただ……
「このままでいるの?
 別にいいけど」
私の我が儘に
付き合ってくれる
所が、私は好きだ。
泡の様に3
高校二年、五月
一年の様な上の年代に
対する緊張感は皆無で
三年生は、受験真っ最中
私達は、
束の間の自由を
満喫していた。
「てかさ〜あや
 コミュ英サボって
 何してんの?」
私が、一時限目の時
制服だった事を
指しているのだろう。
友人の加那(かな)が
ジャージ姿に突っ込みを入れる。
「何か、制服ダサいから」
私は、髪を弄りつつ
そう答える。
「あっそう」
加那の無表情と
共に会話は終了。
軽い雑談へと変化していく
ーお前等に私の秘密を
教えるものか
私達の、秘密を。

7:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:05

熊谷の唇が、
私の上唇に軽く当たる。
かさかさしていて
唾液の匂いが鼻先に匂う。
「うっ…………」
思わず顔をしかめる。
「だっ大丈夫」
熊田が、私に尋ねる。
「いっ嫌別に大丈夫だから」
何が大丈夫なのだろう
ここまで嫌な思いを
するくらいなら
もう、誰かと付き合うなんて 
やめれば良いのに
「ごっゴメン、あたし
 帰るね」
いつもと違う
声を二オクターブ
ほど上げた声を出し、
私は熊田に手を振る。
私、ではなくあたし
一人称さえも
私は演技していた。 
「そ……そう
 なんつうか、ゴメン」
小さく謝る熊田に
私は申し訳なく
思えてならなかった。
泡の様に5
昼休み、プリッツを摘まみつつ
加那がそう聞いてきた。
窓から入った穏やかな風が
加那の塩素で
脱色したショートを
すこし、撫でた。
水泳部なのだ、彼女は。 
「え……っ?」
体温が、上昇する。
「だから、熊田と
 最近、どうなのかって」
わかってる、
きっと加那は、
私の事情は、
どうだって
良いのだろう。
結構ラブラブ
デートとかめっちゃしてるよ‼
だと話したとしても
『あっそう』
で終わってしまうだろうし
いや……別に……普通……でも
『あぁ以外』
とか、受け流すのだろう
そう言う奴だから、

8:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:05

こいつは
けれど、この
淡い圧力感をどう表せば
良いのだろう。
分からない、この感情は
言葉に 出来ない。
ただ一つ言えるのは、
私は、慧にまだ恋をしている。
泡の様に6
視線を上げると、
熊田の赤い顔が眼に入った。 
「どっどうかな
 この店、彩佳
 趣味カフェ巡りって
 言ってたでしょ」
少し横目で逸らしながら
緊張気味で話す。
「ま……まぁ、ね」
嘘だ、
私に趣味なんてもの
皆無だ。
私は辺りを見渡す。
駅前に二ヶ月前に
オープンした喫茶店
メニューが、
パンケーキや、
ケーキセット等の
甘い甘味類だからか
周りの客層は、
十代、二十代の女性
そして、彼女に
連れられてであろう
カップルが多数だった。

9:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:05

「どうしたの?」
熊田の声が、聴こえた。
「いや、何でも……ない」
熊田のこういうところが、
私は嫌いだ。
無駄なところで、気が利く
こんなとき、慧なら
解っていても
素っ気ない態度をとって 
くれるだろう。
デート場所だって
こんな洒落た喫茶店じゃなくて
もっと、普通の……
窓側のカーテンが、揺れる。
つられて熊田の方向を見る
そこには、慧がいた。
決め細やかな白い肌も
右瞼の下にある
小さな、ほくろも
座るとき、右手で
頬杖を付く癖も
慧が、唇を開いた。
「何、どうしたの
 彩佳?」
この、若干の
上から目線で
私に問いかける。
それだけなんだ、
それだけなんだ。
それだけで、震える。
何が?
分からないけど何かが。
カーテンから、光が洩れた。
視線が、交錯する。
「へ……いや……へ……」
違う、違う
これは、幻想
目の前にいるのは
慧じゃなくて、熊田
慧?が、視線を窓にやる。
今だ、今だけだ。
今なら、慧に触れられる。
時が、遅くなる。
周りの声が、聞こえない。
ここにいるのは、
私と慧だけ
この、ゆったりとした感覚
これは、何だろう?
この重く、苦しい感覚
息がしづらい
あ、これは海だ。
なんかわかんないけど
そんな言葉が、頭に浮かんだ。
水、辺り一面の水 
私と慧は、
水槽の中に、沈んでいた。

10:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:06

水槽の中、
私は、慧に手を伸ばす。
頬に、触れる。
冷たく、脆い
「何、さわってんのさ」
さとる、が笑った仄かに。
風が、凪いだ。世界がざわめく
私は、水槽じゃなくて
さっきと同じ、喫茶店にいた。
触れているのは、
慧じゃなくて、熊田
「何、どうしたの?」
熊田が首を傾げる。
「いや……何でも……ない」
顔の体温が上昇する。横に背ける。
熊田は、慧に似ている。
顔の造形、表情、仕草
だけども
熊田は、熊田であって慧じゃない
愚かな私は、未だにその点に抗っていた。
―馬鹿じゃねぇの私
「あのさ、私もう少しで
 塾があるからさ、 ゴメンねもう、行かないと」
腕時計を見つめながら、わたしはそう呟いた。
熊田に向かって両手を合わせ笑みを作る。
「え、あ、そ…そうゴメン予定があったのに
 誘っちゃって」
申し訳なさそうに、熊田は私に言った。
その仕草は、慧は決してしない
熊田は、熊田であって
慧じゃない。
翌日の月曜は、梅雨だからか
皆、気分がぐったりとしていた。

11:猫文 しなも:2019/02/06(水) 14:07

それに加えて只々べらべらしゃべくるだけで、
声が子守唄と評判の
古典の教師の授業であった事も、相まってか
クラスの六割が眠りについていた。
私は、必死に眠気に抗おうと、
何度も、瞼をまばたきし
抵抗していたが、
大きく私を襲う、睡魔の波に
引きずり込まれて行ってしまった…
夢の中で私は、図書室にいた。
夢だからか、
司書の先生も、周りに生徒も皆無で
私も、そのことに少しも不思議を感じては居なかった。
なぜか私は、借りたい本があって
椅子を引き、書棚に向かった。
新潮文庫「人魚の姫 アンデルセン童話集」
普段、本なんて読まないのに
どうして、この本に眼が留まったのだろうか
理由は、分からない
敢えて理由をつけるとするなら、
―幼いころ読んだ、悲劇の話に溺れてみたい、からだろうか
そんな、思いからか一ページ目を開いた。

12:匿名:2019/02/06(水) 14:15

遥かに続く海が見えた、
わたしは、沖合にいた。
海を見ると、透き通るような黄緑の藻や
見たことのない、魚が見えた
ひれ、えらは不思議な形
表面は、太陽の照りを受けて
光り輝いていた。
「末っ子!!、早く家に帰るよ!!」
声が聞こえた。
右に振り返る。
亜麻色の髪の毛の少女が、数人、水遊びをしていた。
齢は、見たところ、十六・十七
裸の上半身に白絹の薄衣を纏っている。
けれども、唯一つ違っていたのは、
下半身は、鱗で覆われていた。
銀と蒼を混ぜたような色合い
ひれを、水に触れて遊んでいる。
波紋が、辺りに、拡がる。
「ねえ、彩佳もこっちにおいでよ」
声が聞こえて、主を見つめる。
加奈、がいた。
そんなわけない、加奈がいるわけ
てか、髪の毛、黒じゃなくて亜麻色だし
しかも、少し幼いし
「か…加奈どうしてここに
 じゃなかった、なんでこんな所に…」
声に違和感
声に、艶がない
舌足らずな声、幼年期特有の
加奈かどうかの確証も持てないのに、
わたしは、呆然と立ちすくむ。
視線が、水面に映る私を映した。
―亜麻色の髪
―絹の薄衣
少し幼い、瞳も心なしか大きい。
誰だ、お前は、誰だこの幼女は、
ここは、何処だ、どうして私は、どうして私は
瞳に、二筋の光が溢れた。
加奈は、首を傾げる。
「どうしたの、彩佳どうしてそんなに」
 泣いているの?

13:匿名:2019/02/06(水) 14:18

騒音が、耳元に響く。
「なんだ、夢か、」
背中に汗が、びっしりとついていた。
うしろから、圧迫感
「あ〜や‼」
柔らかな両腕、艶のある髪
スポーツをしているからだろうか
清涼剤、爽やかなミントの匂いがした。
「ひゃ…かっ加奈」
何故だろうか、
夢を見る前と見た後
加奈の様子が少し、違うような…
「えっとさ加奈何か良い事でもあった?」
加奈は、頬に指を付けて考える仕草をして呟いた。
「そっそうかな…私は前からこんな性格だったと思うけど…」
そうだろうか、廻りを見渡す、
廻りの風景が水を覗くかのように揺れていた。
波に歪む―クラスメイト
そこからの記憶はない、
まあ救急車に運ばれていないことから
普通に授業を受け、
いつも道理、下校し、
いつも道理、夜までのルーティンワークを繰り返したのだろう、
最後に記憶にあるのは
眠りに落ちる直前の
―深海に潜る感覚
夢で私は、花、満ちる神殿にいた。
透明な液体で出来た硝子の外からは、
色とりどりの魚介類、甲殻類、海藻、貝類が
様々な表情を魅せていた。
また…こんな夢だ。
明晰夢ってやつなのかな?
現実と夢想の区別がつく感じ
それにしては、やけに感触がリアルだ。
硝子の触れると温度差からか、ひんやりと冷たい。
水の中にいるのに、身体の中が仄かに暖かい。
服装を見る―前と同じく白く透明な薄絹のワンピース。
足だけが、違う―鱗の生えた尾びれではなく桃肌色の人間の足
年少特有の、光沢のある弾力性のある肌。
皆は何処にいるのだろうか加奈は何処に…
後ろから騒々しい声、振り返る。
今の私よりも、三つ、四つ違う少女達が、大きな花壇に水をやっていた。
水の中に住んでいるのに、水をやらないといけない
そのアンバランスが面白くて私は、くすりと笑ってしまった。
年上の少女達が、振り返る。
その中には、加奈の姿があった。
「こんな所にいたの、末っ子?」
加奈は、そう言って静かに微笑む。
「か―かな…」
「かなって誰かな?わたしは五番目の娘、
貴方のお姉さんだよ」
「おねえ―さん?」
彼女が、少し優越感をにじませた表情を、浮かべた。
右端にあった緑が鯨へと姿を変える。
一番目の姉が、作ったのだ、
何故か、そう思えた。
「私も、私も」
それから、上の姉から順番に
花壇の緑を違う形に変化させていった。
「えっと、かなじゃなかった―
 五番目のお姉さん私の花壇ってどこなのかな?」
加奈の指が左に跳ねる。
「こっち」
視線の先、緑の花が集まって三日月を作っていた。
「き、綺麗…」
「綺麗なものなんてないよ、
 美しいものほど、汚らわしい」
発言の主は、加奈じゃなかった。
皆が、花壇で遊んでいる場所から、少し離れた所に、
その光景を、じっと見つめる少女の姿があった、
その瞳の奥は暗い、相貌に満たされていた。
私が、何か言おうとすると彼女は近くにある
薄汚れた小さな石の石像を手に取って呟いた。
「汚れたものだって磨けば輝くんだ
 私は、こんな綺麗な花より
 薄汚れたものを、愛したい」

その、深遠な瞳は一体、どんな世界を見ているのだろうか。
私は、彼女のことが気になってしまった。

泡が交わる音がして、私は深海から現実へ眼を覚ました。
水が、身体に張り付く感覚が今もかすかに体に残っている。
彼女に…会いたいな
これが、夢であってもいい
というか、夢に違いないのだが
何を言ってんだ、私

今日の朝も、梅雨の影響で霧のような雨が
コンクリートの道路を濡らしていた。
足に、違和感
小さな蛙が一匹、靴に張り付いていた。
「うわっきもっ」
蹴とばそうと、足を上下に動かす。
ふと、彼女の言葉が頭を過ぎる。
やっぱり、蹴とばすのはやめよう。
ここんとこ一週間位連続して雨だからか、
傘をさして歩くサラリーマン、学生、近所のおじいちゃん
皆、浮かない顔をしているように感じる。
その浮かない集団の中に、
加奈の顔を見つけた。
話しかけようと、腹の力を込めたその時
時が、止まった。
加奈は、とてつもない笑顔で男と手をつないでいる。
私にも見せたことのない、笑みで。
しかも、そいつは
二度と、会いたくない奴
身体の体温が、冷たくなる隅から隅まで
石像へと、変化する。
よりにもよって
「なんで、慧なんだよ…」

14:匿名:2019/02/06(水) 14:29

先生の声がこだまする教室で、私はずっと机のひんやりと
した冷たさを感じていた。
海の中も…これくらい冷たいのだろうか。
「彩佳、彩佳、」
肩に、二回柔らかい感触
「んっ…」
薄おぼろげに、目を開ける。
同じ古典の授業を受けていた、加奈が肩をたたいて
教えてくれていた。
「先生に、呼ばれてるよ」
「うお、マジか」
反射的に立ったからか、椅子が倒れる。
クラスから漏れる、失笑
顔の温度が、上昇する。
「え…っと」
あっ…ヤベ、寝てたからページ分かんない
その様子を察したか、加奈がそっと耳元で囁く
「46ページ竹取物語、翁のところ」
「サンキュ、ありがとう」
加奈に言うと、加奈は何も言わず、席に座った。
いつも通りの、加奈だ、
元カレと付き合っているとは、思えないほど
いつも通りの、加奈だ。

昼休みの鐘が鳴った。
学食へ行くもの、弁当を広げるもの、
三時限目に食べ終え別行動をとるもの
様々だ
私は、いつものように加奈と机を合わせる。
さあ、釈明の時間と行きましょうか。
「えっとさ、加奈」
「んっ何かな」
加奈はスマホのYouTubeを見ながら、
箸でご飯を食べるという器用なことをしていた。
スゲー、加奈結構器用だな
いやいや、違う違う
「加奈って慧と付き合ってんの?」
時が止まった。
上目づかいで、私を見たまま加奈は、唇を動かす。
「だから、何」
「え…」
――私の、右唇が歯に当たった。
加奈が、私の唇に人差し指を押し付けていた。
「元カノさん、元カレとはキス、した?」
「いや、えっと、その」
「私、したんだ」
加奈が、瞳と唇をゆがませ、ニヤリと笑う
「慧と初キス」

15:匿名:2019/02/06(水) 14:29

空を見上げても、どこまでも続く泡のスノードーム
少し、先を見ると一番上の姉を囲んで、周りのお姉さんたちが、
彼女のことを、満面の笑みで祝福していた.
いつも着ている白い薄衣と違い、
光る貝殻が散りばめられた
薄桃色の足までかかる長いドレスだった。
頭には、貝殻でできた被り物を被り
少し恥ずかしいからか
はにかんだ笑みを見せながら、
二言三言話をしていた。
貝の死骸の塊と真珠を合わせてできた、神殿の中心に
黒いケープを着た、老婆が立っていた。
その老婆が、皆に言った
「よく聞くんだよ、お前たちも十八歳になったら
 外へ出なくてはいけないんだよ
 この海の中ではなく、大きな広い大地へと」
やがて、一番上の姉さまが帰ってきて外での話を聞かせてくれました。
海が、どれだけ広いのか、空から聞こえる小鳥のさえずり
一つ一つを聞くたび、外界への興味が満ちる思いが
一つ一つ増えるように増してきた。
「ねえ、外ってどんな景色なのかな」
その晩、私は暗い瞳をした
少女に話しかけた。
「どうでも、良いよそんなの」
彼女は、意外にもその言葉に
対した反応を見せず
言葉を紡いだ。
「どうせ、外の世界なんてさ 
 不安と恐怖に覆われた
 世界なんだあとに残るのは、
 孤独感、それだけなんだよ」 
私には、彼女の言った
ふあんも、きょうふも、
こどくも何れとして
よく解らなかったが
彼女が、外の世界を
余り歓迎していないことは
良く分かったので 
それ以降、彼女に外の話をするのは
やめることにした。
そうこうしているうちに、
二番目の姉が十八になり、
三番目も十八に
全ての姉がそれぞれ、
一歳ずつ歳がずれているから
私も一歳ずつ歳をとっていく
一番目の姉が十八の時
十二歳だった私は
気付けば
十五になっていた。

16:匿名:2019/02/06(水) 14:29

上の姉も、暗い瞳が特徴的な姉
佳奈に似た姉を残して
皆、いなくなってしまった。
黒絹の婆やによると
皆、外の世界の男の元に
嫁いだらしい。
嫁ぐってどういうことだろうか
外の世界を、一度も見たことの無い
私には、良く解らない
佳奈に似た姉が
外の世界に飛び立つ時が、
やって来た。
彼女は、少し物悲しげな笑みを
私達に見せた。
「皆、少しずついなくなっていく
 此処も、誰もいなくなって
 終うのかな?」
そんなこと無いよ。
私は、嘘の声音で嘘の表情を
浮かべる。
これくらいの年代からなのかも
知れない、人に嘘を付くのに
罪悪感を感じなくなるのは、
熊田に言った時と同じような
体裁をとった私と比べ
暗い瞳を湛えた彼女は
違っていた。
「そうだよ、皆消えるんだ
 一番目も二番目も三番目も
 四番目も、私も
 そして」
そこで彼女は、
私をちらりと横目で見た。
どうしてだろうか、
その時の、彼女の目が
物悲しげに見えたのは…

泡の様に11
最近、眠気が強く感じる朝と夜との生活リズムが逆転している。
朝、学校で眠り
夜、夢で起きる
そんな感じだ。
心なしか体がだるい。
「彩佳、大丈夫?体調」
って聞いてくる加奈は、平常運転だ。
さすがだぜ、ポーカーフェイス
そのようにからかわないと、やってられない。
ここ三日くらい気付けば授業終了の鐘がなりホームルーム
最近、熊田ともうまくいってない
まあいいや、あいつなんて
部活も入らず、講座もないので
帰宅部である私は、ロッカー開けて靴を取り出し帰宅準備
そこで、肩を二回優しく叩かれる
「おいおい、彩佳さん
 今日もお眠りタイムですか〜」
少し首を傾け、後ろを見る
加奈が少し困り顔で私に言った。
「一緒に帰ろ、彩佳」

17:匿名:2019/02/06(水) 14:30

二歩先を鼻歌交じりで歩く彼女を
ため息交じりでゆっくり歩く
あの件があったからか、
さすがに、前のように並んで歩くなんてことは
不可能で、加奈も今のこの状況に、言及しては来なかった。
「あのさ、加奈」
先を歩く足が止まる。
意を決して言葉を紡ぐ。
「私、大丈夫だよ
 その、気にしてないからあんまり」
加奈は、身体を硬直させたまま黙って話を聞いていたが
直ぐに表情を、満面の笑みに変え
話題を変え、誘ってきた。
「私、行きたかった喫茶店があるんだ
 彩佳も一緒にどう?」

案内された喫茶店の外観を見て、
まず思った事は、うげっだった。
なぜならここは、熊田とのデートスポット
その喫茶店の一号店だったからだ。
前の時は、休日のこともあり
一、二時間待ちは、ざらだったが
今回は平日のこともあってか、とてもすいていた。
各自別途の飲料を頼み
その飲み物が、テーブルへと置かれたとき
加奈が口を開いた。
「あやが、今の状況をどう思ってんのかは分からないけど
 いつも通り、ふつーに接することってできないのかな?」
「え、いや、その…」
――飲み物に浮かぶ氷を見つめながら
私は、硬直したまま何も言えなくなる。
なんでだよ、聞くべき要素は大量にあるはずだ。
慧と付き合い始めたのは、いつなのか
もしかしたら、私と同時並行だったのかもしれない
へ〜色々デート言ってんだ、ラブラブじゃん
とでも言って忘れてしまおう
慧のことなど、忘れてしまおう
それなのに『ふつーに接して欲しい』何て
おこがましいにもほどがあるだろ
こざかしいにもほどがあるだろ
というか、直球勝負ですか?
様々な思いが、頭を過ぎり
私の心は、ミシンの線で締め付けられていく
ように、少しずつ少しずつ
痛みが走っていく
その痛みに、顔をしかめ立ち上がる
――こんな所にはいられない
適当につかみだした500円玉を机に置き
加奈の言葉なんて聞かないで、喫茶店の扉を開く。
開けたとき、目に入ったのは白の情景
あまりの光力の強さに
目をしかめてしまう
白の光の世界から、細長い右手が伸び
私の腕を掴む
陶器のような肌
そのまま私は、白い光に飲み込まれていく…
――その日から、この世界で私は行方不明になった。

18:匿名:2019/02/06(水) 14:31

空まで続く、泡の集合
背後から、砂利を踏む音
振り返る
黒く、物憂げな瞳
五番目の姉
「お早う、待ってたよ」
――もう、後悔なんてもの、無い
私はこの日から
今に別れを告げ、夢に出会いを告げたのだ。
泡のように11
十七になってまずしたことは、海以外の景色を見ることだった。
これが夕焼けというのか
空が、金色から次第に
橙、紫、赤薔薇、薄紅、そして白と
様々な色合いを輝かせている。
もうすぐ夜が来るのか
空には、点々と星々が、宝石のように
強く、煌々とひかり輝いていた
意外だ、外の世界がここまで近かったなんて…
今まで慣れていた、仄かに暖かい空気ではなく
和やかに澄み、肌を刺すような冷気が体の表面を襲った。
――溜息をつく、水面が揺らいだ。
さっきまで聞いた、ばあやの言葉が頭に残る
――確かに、外の世界は自由かもしれない
けれどね、気を付けることが一つある。
人間たちは、良い者たちが大半だ
けれどね、中には心に魔女を
住まわせているものもいる
きっと、大人のお前なら大丈夫だとは思うけど
気を付けるのだよ、
黒い、魔女に
激しい明かりが、私の顔面を照らした。
つられるように上を見上げる

19:匿名:2019/02/06(水) 14:32

仄かな明かりに照らされて、薄橙の船壁が視えた。
三本マストの木製帆船
上を見上げれば、
数人の水夫が帆の近くにある綱や柱に
腰を下ろし、遠くを見ていた。
そのうち、船の中から管楽器をベースとした伴奏が
あたりの海に、響き渡る。
次第に満ちる喧騒
その時、私の胸に満ちていたのは
帰る場所などどこにもない
焦燥満ちる潮風の音だけだった
十七になれば帰る場所は、
帰る場所ではなくなる
今、帰ってたとしても
きっと皆は、
それなりの反応を返してくれるだろう
けれども、今までとは違う空気感が
あたりには、漂っている
昨日の私と、今日の私とは違うのだ。
今日から私は、大人の人魚へと姿を変える。
右を振り返るとガラス窓が目に入った。
つられて、その方向へと身体を進める。
その中にある、光景を見て思わず顔がほころんだ
「きっ綺麗…」
暖炉の部屋の中心に絵が飾られている
上から光が差す深海に
ピンクの薄絹を身にまとった人魚が、
大きな銀の貝殻に横座りで見つめている。
髪は腰までかかるシニヨン、瞳は吸い込まれそうなほど大きい
光り輝く色彩豊かの貝類、魚類が少女の周りを回っている。
絵なのに、本物の人魚と話しているみたいだ。
私は、長い間その絵をずっと見つめていた。
水没音が、背後から聞こえた。
美しい伴奏が、止んだ。
「王子が、王子が‼溺れている、
 誰か、誰か‼」
悲鳴、怒号の阿鼻叫喚
後ろを振り返れば、光り輝く王冠
黒い燕尾服を着た
見たところ十三歳の少年が、
水に飲まれまいと必死に抵抗していた.
けれども、波の高さが高くて
今にも飲まれそうだ。
両腕を宙に浮かせ、必死に助けを求めている。
私の距離からは、少し遠く
姿、形を視認することは不可能だ。
――今、動けるのは私しか、いない‼
荒れ狂う水を搔き、波で溺れる少年を
掴もうと、必死に手を伸ばす。
袖口、襟を掴み、
背中から上半身前部にかけて腕を伸ばす
そうやって、私は彼の肢体を抱きかかえた
「大丈夫だよ…怖くないから」
感情すらも恐怖で溺れていたからか、
涙を流さず、茫然とした表情の王子を
両手へ運ぶ、岸へと運ぶ
ふわっと浮かびあげるように
土煙、苔の集合体に
王子の肢体を優しく置く。
「おい、あそこに王子の姿があるぞ」
王子の姿を、捜索していたのだろう
数隻の小舟から幾つかのランタンが
私の近くの水面を照らした。
人魚の掟、
人間に姿を見られないこと
人になりたいのなら、人になるしか方法はない
耳元で少年にじゃあね、と囁いて
海の中へと帰ろうと決めたとき
その少年の顔に既視感を抱いた。
唇の右端にある小さな黒子
透き通った白磁の肌
見覚えがある、忘れられない
その顔に、途轍もなく
「なんっ…で、慧が…」
王子として、クラスチェンジしてんだよ。


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