タイトル未定

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1:エレクトロ◆WI:2019/04/05(金) 10:46


タイトル未定のファンタジーもの書こうと思います。
書き終わってからか書いてる途中でタイトルが決まる……かも?

設定、世界観など>>2あたりで

2:エレクトロ◆WI:2019/04/05(金) 10:53

設定

主人公

穏やかなユマン村で暮らす、十歳の少女。
自分が思うままに生きる節があり、思っていることをかなり素直に言うこともある。


世界観

ファンタジー。現代より文明の発達していない時代が舞台。フィクション。恋愛要素恐らく無し。


その都度追加したりしなかったり。
>>3くらいから多分始まる。

3:エレクトロ◆WI:2019/04/05(金) 11:34


その日も、雀の囀りで目を覚ました。
目をこすりながらゆっくりと上体を起こし、背伸びと欠伸を一つする。
まだ寒い朝の空気をめいいっぱい吸うと、渋々布団から抜け出す。

寒さに身を震わせながら、外の井戸へ出る。思い切って水に顔を浸した。冷たい。急いで布切れで顔を拭き、ふと視線を上げると、まだ少し低い位置に太陽が昇っていた。

村に朝が訪れた。

両親はこの時間から仕事だ。
国内の村や街を訪れ、作物を売る仕事をしている。
昨日の夜、机の上に束ねてあった稲が無くなっている。今日はトランキルという城下町にまで行くと言っていたから、恐らく夜中ごろ家を出たのだろう。

私の仕事は、そんな両親の代わりに、家畜の世話や農作物の管理をすることだった。
私が生まれ育ったこのユマン村では、それらが特産品の一つでもある。田舎、といえばそうだが、穏やかに時の流れるこの村で暮らすためには、やはりそれらの世話を怠ってはならないのだと思う。……父からの受け売りだが。

そんなことをぽつぽつと考えながら、今日も畑へ向かう。
……その道中。
村の入り口付近で、うつ伏せになって倒れている少年の姿を見つけた。
ボロボロになった服、ぐしゃぐしゃの髪の毛。手や足には、ところどころ目立つ傷が見える。
どうしようか。やはりここは、見て見ぬ振りをしてはいけないと思う。
意を決して、声をかける。

「……あの」

しかし応答はなかった。
私は近くまで駆け寄った。そして、しゃがみこんで軽く背中を叩きながら再び声をかける。

「大丈夫、ですか」

すると、小さな呻き声が聞こえた。そして、数回の瞬きの後に、ゆっくりと少年の瞼が開く。

「ここは……」

虚ろな目で辺りを見回す目を見て、私は答える。

「ユマン村だよ。……君は、どうしてここに倒れているの?」

「どうして……?えっと……確か、村を追われて……」

そこまで話したところで、少年は痛みに顔を歪めた。
傷口が痛むのだろう。家に連れて行って、手当をしようか。

「……大丈夫?立てる?」

私はそっと少年に手を差し伸べる。
その少年は、私の手を取って、ゆっくりと立った。……しかし、歩き始めたはいいものの、フラフラとした足取りで少し覚束ない。少年の歩幅に合わせて、私もゆっくりと家まで歩く。

村の民家を横切って歩く中、しばらくすると静かな騒めきが聞こえてきた。
最初は、私が傷だらけの少年を連れて歩いていることに対してかと思っていたが、どうやらそれは少年を心配する声ではないようだった。
この人たちは、この男の子を警戒している。
突き刺さるような鋭い視線と、次第に煩く聞こえる小さな声。

「……村長に知らせなければ……!」

そんな声が聞こえた。
この少年は確か、「村を追われた」と言っていた。
この村に来ても、すぐにまた居場所を無くしてしまうのではないか。
私は少し足取りを速め、家路を急いだ。

4:エレクトロ◆WI:2019/04/05(金) 16:35


「……うん、これで大丈夫。多分もう普通歩けると思うよ」

少年を椅子に座らせ、傷口の手当てを始めてから数十分。
最後に、足の傷に薬草を括り付けた。母曰く、よく効く薬の葉だという。私も小さい時に転んで作った傷を、よくこれで手当てしてもらっていた。

「ありがとう」

小さな声で少年はそう呟いた。
私はその少年に、少し安静にしておくように伝え、荷物の準備を始めた。

……手当てをしている最中に、私は少年に訊いた。どうして村を追われたのか、と。
彼は重々しく口を開いた。

昨日は、少年の十歳の誕生日だったそうだ。
両親のいない彼は、友達にその誕生日を祝ってもらう約束をしていた。
服を着替え、友人の待つ場所へ向かっていた時、突然彼は村人たちから刃を向けられた。
彼は訳もわからず立ち竦む。しかし、村人たちからは石を投げられ、出て行けと怒鳴られる。
このままでは殺されると思った彼は、村から逃げ、森を横切りこのユマン村を目指した。
しかし、村の追手と飛び交う罵声から逃げ続けるも、途中でその場に倒れこんでしまったという。

……そこが村の入り口であったことは、不幸中の幸いと言えるだろうか。
彼にその心当たりについても訊ねた。すると彼は、前髪を手で掻き分け、額にある痣を私に見せた。
額のほとんど真ん中辺りにある、大きなひし形の青痣。
それが誕生日の日の朝に、突然浮き出たというのだ。
……つまりそれが、村を追われた理由なのではないか、と。

この村へ少年が来た時も、ここの人からはあまり快く思われていないようだった。
だから私は、この村から数日旅立つ準備を始めたのだ。

「……何してるの?」

椅子に座ったまま、少年が私に訊く。

「出かける準備をしているの」

どうして出かけるの、と再び訊く少年に、私は手を止めて答える。

「君の居場所を探すためだよ」

5:エレクトロ◆WI:2019/04/05(金) 16:51


私は続けて話す。

「君の居場所が見つかるまで、私、一緒に行くよ。君がどうして村を追われちゃったのかは、私にもよくわからない……けど、この国は広いんだ!きっと君が、楽しく暮らせる場所があるはずだよ」

そこまで話した後に、少年はぶんぶんと首を横に振った。

「……駄目だよ、僕と一緒に行ったら、君が嫌われちゃう。君も、誰かから刀とか向けられるかもしれないし、聞いてるだけで頭が痛くなるような言葉を浴びせられるかもしれない……」

だから駄目だ、と言い切る少年の手を、私は優しく握る。

「私が誰かから嫌われたっていいよ、困っている人は助けなくちゃ、ね」

両親から言い聞かされてきた言葉。幼い頃から、口の中で何度も反芻した。
確かに、刀を向けられるのも、心無い言葉を浴びせられるのも恐ろしかった。
けれど、一度決めたことは貫かなければ気が済まなかった。私は恐る恐る頷いた少年の手を離し、荷物をまとめ始める。

父が、商売先から買って帰って来てくれたお土産を、出来るだけ鞄に詰め込む。母がよく作ってくれた、苦い薬や美味しい料理のレシピも押し込む。
そして最後に、両親に向けて少しばかりの置手紙を書き残し、私はその少年と家から飛び出した。

6:エレクトロ◆WI:2019/04/05(金) 17:30


ドアを開けて、間も無く。

「出てきた……獣の少年よ!」

そう叫ぶ村人の声が聞こえた。
どうやら見張られていたらしい。迂闊に外に出るべきではなかった。
恐怖を顔に浮かべる少年の腕を掴み、私は声をかける。

「走れる?」

「……うん」

「……行くよ」

静かに答えた少年の手を引っ張り、駆け出す。
途端に、背負った鞄の向こうから、農作業用のクワや出刃庖丁を手に取った村の人の影が覗いた。

「引っ捕らえろ!」

「殺せ!!」

あちらこちらから、そんな声が聞こえる。思わず耳を塞ぎたくなった。
……小さい頃から、私に優しく声をかけてくれていた人も、この追手の中にいることに少し動揺したが。
今は全速力で、村から離れた場所まで。




どれくらい走っただろうか。
果てしなく続きそうな森林の中を、必死に走り続ける。
追手はまだいるようだった。ガサガサと足音が聞こえる。
足が棒を通り越して、最早自分の体ではないようだった。時折縺れて転びそうになるのを、どうにか食い止めて走る。
しかし、鬱蒼とした足元の草に、足を取られて遂に転んでしまう。

少年の手が離れた。

近づく足音に、後ろを見やり、少年に声をかけようとする。
逃げて、と言う前に……彼は私を立ち上がらせ、腕を握った。
そして、次の瞬間。
地面を蹴った彼は、人間では信じられないほどの速さで、森を横切った。
私は腕を握られていたため、どうにかこうにか、というのか、少年について行くことができた。
体に付いた葉を払い、息を整える。

「今の……」

私が訊こうとすると、彼は私の方へ振り向き、

「ごめんなさい……大丈夫だった?」

とまるで何事もなかったかのように、私に訊いた。
私は取り敢えず頷く。
少年は私とは違い、息切れの一つもしていない。

それに、村の人が言っていた、「獣の少年」という言葉。
獣、とは一体どういうことなのだろうか。
今更に不安がこみ上げてくる。だが、もう引き下がることはできなかった。
不安を少年に隠して、私は口を開いた。

7:エレクトロ◆WI:2019/04/06(土) 13:38


「そうだ、これ、被ってみて」

背負っていた鞄をその場に下ろし、中から麦藁帽子を取り出した。
父が随分と前に、商売先から貰ってきたという帽子。私にはまだぶかぶかで、あまり身につけることはなかったが、鍔が広く、もしかしたら少年の痣が多少は目立たなくなるのではないかと思ったのだ。

受け取った少年は、自分の頭にそれを被せた。やはりまだ大きいようで、少し視界が塞がるようだった。

「うん、これで痣が目立たなくなるよ」

だが、やはり見立て通り、痣は殆ど隠れて見えなくなった。

「それ、あげる。それを被っておけば、当分追われることもないと思うよ」

そう言うと、少年はパッと目を輝かせて、

「ありがとう……!大事にする」

と笑った。

ここまであまり、感情を見せることのなかった彼が、笑った。
考えてみれば、この少年も私と同じ十歳なのだ。十歳なんて、まだ少しは両親に甘えてみたい年頃。私のように、両親が仕事で忙しく、あまり話す機会が無ければ尚更に、だ。喜怒哀楽を素直に浮かべて、親に甘えて……。
なのに、村を追われた。
いきなり親元を離れ、広い世界に放り出された。
改めて、彼がされたことの重々しさを感じる。

ふと彼の横顔を見る。
先程まで綻んでいた顔は、次第に険しさを取り戻していく。
固く結ばれていく唇、帽子の下の鋭い目。

笑っていいんだよ、泣いてもいいんだよ、なんてそんなことが頭に浮かぶが。
そんな無責任な言葉が、彼を傷つけたらどうしようか。
数秒の間に浮かんだ言葉は、声にならずに喉の奥に落ちた。

何か他のことを考えようとして、少年が口を開く。

「今夜、泊まる場所はどうしようか」

まだ日が高い昼時だが、確かにそろそろ宿の心配をしなければいけない時間だ。
私は鞄を漁って、地図を取り出す。

「ここから北の方に、ラコンテっていう大きめの村があるのと……南の方に、リベルテっていう小さな村があるね」

少年は地図を覗き見た。

「ラコンテ村の方が大きいから、そっちに……」

私が言いかけた途端、

「ラコンテに行っちゃ駄目だ」

と少年が遮る。
少し強い口調に私が驚いていると、

「あ、ごめんなさい……ラコンテ村は、僕が追い出された村なんだ。それに、あの村の村長さんは、来訪者を嫌っているから……一代前の村長さんは、別に嫌ってはいなかったんだけどね」

と話す。

「そう……じゃあ、リベルテ村に行こうか」

少年は深く頷く。
私は荷物を鞄に仕舞い込み、再び歩き出した。


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