愛を知らない僕たちは。

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1:中学一年生:2019/07/07(日) 20:50

この物語はフィクションです。
コメントなどくださると泣いて喜びます!

2:中学一年生:2019/07/07(日) 20:59

梅雨明けの明るい空の下。
水たまりもよけずに歩く少年の姿があった。
彼の名前は近江碧(おうみ あお)
ごく普通の中学生…という訳ではない。
碧の家はかなり複雑な家庭だ。
母親と父親は別居中。
碧は母親についていくことにした。
母親は言う。
「お母さん選んでくれて有り難う」と。
が、碧は知っている。
母親にも父親にも互いに不倫相手がいることを。

3:中学一年生:2019/07/07(日) 21:14

が、碧は大して構わない。
母親はロクに家にいなかったためだ。
朝食は菓子パン、夕食は五百円が置いてあった。
親がいないというのは有り難い。
が、碧は親のことが嫌いじゃない。
それ以上に無関心なのだ。
*****************
「では、これに対し質問がある人は挙手を。」
学校ではクラス委員を碧は務めていた。
テキパキと仕事をこなし相手の身になり考える。
教師からは勿論のこと生徒からの
信頼も厚かった。
とはいえ、碧の家庭環境を知る人間は
学校には誰一人といない。
弱みを、見せるのが嫌いだからだ。
それに碧には秘密を共有できる友人がいない。
碧のことを友人だというものは大変多くいた。
が、碧はそう思っていない。
名だけの友人はいてもあくまでそれは名だけ。
事実、人気者の碧に本当の友人などいなかった。
学校でいい子を演じるのもかなり疲れる。
碧は人気のない場所で思わず溜め息をついた。

4:中学一年生:2019/07/07(日) 21:31

「あーおっ」
帰り道、1人の少女が碧に声をかける。
「夏湖…」碧があからさまに嫌そうなな顔をする。
雪代夏湖(ゆきしろ かこ)
夏湖は碧の隣の家に住む幼なじみ。
同い年だが夏湖は違う学校に通っているため
最近顔をあわさなくなっていた。
会って早々に夏湖は言う。
「ウチのママたちまた喧嘩してんだよー!
毎日毎日うるさいったら!この前なんか…
ん?何だっけ…。あ、あれだ!
パパがゴルフクラブをね買ったの。
12万円のやつ。もーママ大激怒で困っちゃう。
あと、私のテストの点数が悪くて喧嘩になった笑
パパがママに言ったの。お前の育て方が悪い!て。
で、ママが何で私ばかりを責めるの!
あの子があんななのはあなたのDNAのせいよ!
って!普通さぁ本人の前で言うかなって思うよっ」
一気に夏湖は愚痴を言い切った。
夏湖も恵まれない環境に育っている。
夏湖の母は幼い頃に亡くなった。
そのため夏湖は父親についていくことに。
その父親が今の母親と結婚。
その義母は夏湖のことを邪魔者にしている。
「大変だな」碧はその一言夏湖に言った。
「碧は?おばさんたち、どうしてんの?」
夏湖の言葉に碧は何も答えずに前だけを向いた。
「そっか…」夏湖も理解したらしい。
碧も夏湖も親の愛情をうけることなく育ってきた。
そういう意味でいえば碧にとって夏湖は
唯一の理解者と言えるのだ。
でも碧はそんな夏湖にでさえ弱音を吐かなかった。

5:中学一年生:2019/07/08(月) 14:50

夏湖と別れ家に入ると
玄関に母親の靴があった。
(母さん、帰ってきてるのか…)
碧は物音をたてないように
二階へ上がろうとした。すると…
「碧、遅かったわね。こちらへいらっしゃい。」
と、母の低い声が聞こえた。
(テストのことか…)
碧は憂鬱に感じつつ
荷物を持ったままリビングの扉を開けた。
「おかえり。」母が冷たい目で碧を見る。
「只今帰りました…」
碧は距離を感じさせるような敬語を使い、
母から目を逸らした。
「碧、テストは総合何点だったの?」
結果を知っているくせに母は笑顔で聞く。
「…461点です。」俯いたまま碧が言う。
顔を見なくても母親がいまどんな顔を
しているのかなんて分かりたくなくても分かる。
「なんで480点も採れないの?」
(きた…。)
「大体あなた、たるんできてるんじゃない?
500点満点中のテストで40点も落とすなんて…
聞いたわよ。あなたと同じクラスの子…
498点なんですって。すごく惜しいわよね。
それに比べてあなたはどうなの______」
蒼の母親の説教はまだ続いているが
蒼はロクに聞いていなかった。
母親にへの腹立たしさをじっと我慢していた。
(普段俺へ無関心のくせに…こういうときだけ。
この人にとって俺は単なるアクセサリーだ…)
その後母親の説教は2時間続いた。

6:中学一年生:2019/07/08(月) 21:18

(あのババァ説教なげぇーんだよな。)
碧が心の中で母親の悪口を言ったとき
自分と部屋の窓から隣の夏湖の部屋が見えた。
夏湖も母親と揉めているようだった。
口論になっている。
(夏湖はまだいいよ。発言権があんだから…)
碧はただただその光景を眺めていた
しばらくするとその言い争いが終わった。
母親が夏湖の部屋を見ていると
夏湖は窓までずんずんと歩いてきた。
見ていることがバレていたらしい。
「なにボケッと眺めてんのよ(`ヘ´)」
「悪い悪い。」碧はそう言って笑った。
時計を見ると現在夜の11時。
「夜遅くまでお疲れさん。」
碧の言葉に夏湖は言う。
「本当にね。そろそろ疲れてきたな…
家にも学校にも居場所なんてない。」と。
その言葉に碧は何も言えなかった…。
*********************
小さい頃碧はとても泣きむしだった。
ちょっと転んだだけで大泣きしたものだ。
でもその涙はすぐにやんだ。
転んだら起こしてくれる父と母がいたからだ。
そのときの碧は笑っていた。
でも…そんな幸せは長くは続かない。
夜中寝れずに一階へ降りると、
両親が口論をしていた。
碧はその様子をそっとドアから覗いていた。
「喧嘩しないでよ」
そう言ってドアを開けた。
「今はお父さんとお母さんでお話してるの。
ゆっくりおやすみ。」両親が笑っていうのに
「喧嘩しないで…」碧は繰り返した。
その言葉に母親が言った。
「子供の意見なんか聞いてないのよっ!」と。
碧は大人しく部屋に戻った。
この時からだんだん碧自身理解していった。
この家では自分の発言権がないことを。
このとき碧は5歳。
5歳の子供ですらここに愛がないことを悟った。
死をはじめて考えるようになった。
人を嫌うその意味が分かったんだ。
優しいお父さんとお母さんもそこにはいなくて
自分の部屋で布団にくるまって…
声を押し殺して泣いた夜だった。


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