感情喪失ガール

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1:シオン:2016/09/20(火) 17:36

―ずっと前、幼い頃からそうだった。

「次も頑張りなさい」
             ―はい。
「これ、やっておいてね」
             ―はい。

私の返事は決まって二文字。
事を荒立てることのない言葉。

幼い頃から、私は人形だった。
これをやれ、と言われればその通りにやったし、とにかく周りの人間に逆らったことなど一度もなかった。
逆らうどころか、自分の意志で発言したことがあるかどうかも怪しい。

―あぁ……。そろそろ戻らないと……。

2:シオン:2016/09/20(火) 18:01

1話「目覚め」

閉め切ったカーテンの隙間から漏れる、淡い太陽の光。
私が、この世で一番苦手なものだ。
低血圧ゆえか、体中が倦怠感に満ち溢れている。
それでも、スマートフォンに表示された時刻を見てベッドから降りる。
いつもの様に洗顔、歯磨きを済ませ、紺色の冬服仕様のセーラー服に着替える。
そっと階下へと向かうと、玄関の上り口に座っている短い黒髪が目に入った。

「あら、おはよう。真澄」
「おはよう」
「お母さんとお父さん、仕事に行くから。学校気を付けていくのよ」
「はい」

慌ただしく出て行った背中を見ながら、私はリビングのテーブルに上がっている朝食を食べ始めた。
「北川真澄」それが、私の名前だ。

3:シオン:2016/09/22(木) 11:55

私は今日も、いつも通りの時間に、いつも通りの通学路を歩いて学校へと向かっていた。
人気のない通りに入る。
ふと、民家の窓ガラスに映っている自分の姿が目に入った。
―白い髪と赤い目が……。
そう、私の髪と目は、黒や茶色ではない。
『先天性白皮症』
いわゆるアルビノだ。

4:シオン:2016/09/22(木) 21:05

誰かと通り過ぎれば、その人は必ず振り返る。
教室に入れば、皆の目が一斉に向けられる。
人の目を常にかわしながら生きている日常……。
だから、私は比較的人数の少ない通りを歩くし、学校も、中高一貫校の私立の女子校を受験した。
一学年に一クラスしかないような小さな学園だが、学校設備は充実している。
むしろ、人数がこんなにも少ないのはそのエスカレーターに乗るために必要なチケットがあまりにも高レベルだからだ。
これは私の憶測に過ぎないが、私が人の目を奪う理由の99%がこの変わったルックスだとしたら、残りの1%はこの制服を着ているからだと思う。
他にも私立学園はいくつかあるものの、他の学園はほとんどブレザーだし、例えセーラー服だったとしてもデザインやカラーリングが違う。

5:シオン:2016/09/22(木) 21:54

今日も、道行く人に好奇の目で見られながら、私は教室へと到着した。
もう既に分かっているかもしれないが、私には友達がいない。
小さいころからそうだ。
別にいじめられた過去があるわけでは無い。
ただ、独りが好きなだけ。
だから私は、他人を拒絶する。
誰ともかかわらないように。自分が傷付かないように。

「……ははっ!それでさー……」

私の白髪が見えた途端に会話を中断しこちらを見るクラスメイト達。
だが、そんなことは気にしない。
黙って自分の席に座り、読みかけの本を開く。
本は、私がこの世で一番好きなもの。
本を読んでいる間は物語の世界に入り浸れる。
何も感じず、何も考えなくて済む。
だから、私は読書が本当に好きだ。


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