♪テト×テッド リレー小説♪

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1:ひすい:2014/07/30(水) 16:17 ID:2E.

こんにちは。
ここでは、時雨・ひすい・ミオの三人でテドテトの二次小説を書いていきます。
コメントとかアドバイスとか貰えたら嬉しいです!(*^^*)
ほぼ短編なのでいろんなジャンル書いていくことになると思います。
よろしくお願いしますm(_ _*)m

じゃあ時雨…最初お願いね!

2:時雨:2014/07/30(水) 17:12 ID:Quk

はいはい、やって来ましたよ!
あ、ジャンルっていうか設定?どうする?
どんなのにします?(笑)

3:時雨:2014/07/30(水) 18:29 ID:Quk

あ、決めちゃっていいんですか(笑)
なんかテキトーだなww
では勝手ながら設定を決める‼︎

マスター

一応女。
とりあえずテト可愛いテッドかっこいいって人。

テト

これホント三十路いってんの?っていう子。
テッド大好き。
もちろん決めゼリフはアレ。
リツとはいい友達。多分。
よく相談乗ってもらってるしね。(主にテッド絡み)

テッド

うん。これホント三十路(以下略
テト好き。でもちょっとツンデレ。
男にも女にもモテるといい。
ルークとはいい友達。多分。
きっとルークさんはテッド大好き。
(いや、友達ね?)


………こんなもんかなぁ………。

4:時雨:2014/07/30(水) 21:18 ID:Quk

では始めますかね。

5:時雨:2014/07/30(水) 21:40 ID:Quk

「うううううぅぅぅぅぅぅ(泣)」
「………君は実に馬鹿だなぁ………………。」
「だって分からんもんは分からんもん。」
「こんなものも解けないのか。」
「うううぅぅぅぅぁぁぁぁあああ‼︎‼︎‼︎」
「マスター煩い。」

実はこの場面、とある一室で行われている
勉強会だったりする。
しかも、一人のUTAUとそのマスターが。
そして教わっているのはマスターの方だった。
なんと虚しい事か。

「だーかーら、ここは………」
「知るかいッッ‼︎‼︎」

馬鹿マスターが匙を投げかけたその時。

「………マスターに、……テト?」

低く、それでいて澄んだ声の持ち主。

来た。
天使来た。
降臨したッッ‼︎
「テッドぉぉぉおおぉぉ(泣)助けて‼︎
テトちゃんがいじめる‼︎‼︎」
「テッドぉぉぉおおぉぉ(怒)助けてよぉ‼︎
マスターが馬鹿‼︎‼︎」

6:ひすい:2014/07/30(水) 23:07 ID:/MU

引き継ぎますっ!

部屋に入ってきたのは、彼女達にとっては天使同然の存在――そう、テッドだ。
彼は部屋に足を踏み入れるなり、泣き声と怒声という全く対照的なものが同時に聞こえるという非常に稀な光景に軽く困惑した。
とりあえず二人を落ち着かせるべく「どうしたんだ?」とその場に相応しき言葉を投げかける。

「ううううぅぅ…テトちゃん怖いよぉ…!」
UTAUを怖がるマスター。もはやその名に等する威厳は微塵たりとも感じ取ることができなかった。
自らの背に隠伏する女性に溜息を漏らし、頬をふくらましぷるぷると震える少女へと目を移して声をかける。
「テト…また、やっているのか」
「だって…!マスターの方から教えてって言ってきたんだ!」

このように、テトがマスターを譴責するのはそう珍しい光景ではなかった。
マスターが天然でマイペースなのも原因であろう。自分達がしっかりしなければ、この人はどうなってしまうのか←

「もう勉強やだぁぁぁ!」
「うるさいなぁ、君は!」
自分越しに2人の喧嘩?は続く。

はい、ミオ、お願いします!

7:ミオ◆xM:2014/07/31(木) 09:23 ID:VtU

ではでは二人の続きを……^^
(終わらせちゃっていい……よね?(( )

「そもそもマスターが馬鹿すぎるのが悪いんだ!! だって一次方程式すら分かんないんだよ!?」
 テトの悲痛な叫びを、テッドはうんうんと頷き聞いてやる。
「確かにお前は勉強得意だから、イライラすんのは分かる。でも、人には得意不得意ってもんが……」
「分かるわけないでしょ何が一次方程式よっ!! だいたい何で英語と数字をくっつけんの!?」
 早口でまくしたてるマスター。どうやらこの二人は、中学校一年生の範囲である「一次方程式」を勉強していたようだ。
「うんマスター、分かんないのは分かったから、ちょっと静かにして話し合おう……」
「英語じゃなくってアルファベットでしょっ!? 君は実に馬鹿だな!!」
「あぁ、もうどっちでもいいじゃんっ」
 穏便に済まそうとするテッドを無視し、言い争いを続ける二人。テッドの中の何かが、ぷつりと切れた気がした。

「おい」
「「なに!?」」
 ぐるんっ、と息ピッタリにテッドの方へ首をまわす二人。テッドはつけていた眼鏡をはずして胸ポケットに入れると、二人に向かってにこっと笑った。そのダークな微笑みに、二人の方がビクっと震える。
「まずマスター」
「はっ、はいぃっ!」
 突然の呼びかけに怒られるのかと身体を震わせ、マスターの威厳も忘れ(UTAUに勉強を教えて貰っている時点で、威厳も何もない気がするけれど)敬語で返事をする。
「その年で一次方程式を解けないのは問題だ。そしてアルファベットぐらい覚えろ。何だ、このワイは」
 そう言ってテッドはテキストの一部分を指差す。そこにはマスターが書いた、Yとは呼べないYの字が書いてある。
「うっ、でっでも……」
「問答無用」
 マスターの言い訳を切り捨てたテッドは、テトに向き直る。
「テトはマスターに厳しすぎだ。ちゃんと出来ないやつのことも考えろ」
「わ、私だってちゃんとマスターのこと考えてっ……」
 涙目になるテト。するとテッドはテトの綺麗な髪を優しく撫で、
「分かってる。テッドなりにマスターのこと考えてのことなんだよな。俺が言ってるのは、気持ちを考えろ、ってこと」
先ほどまでとは打って変わって、優しい言葉をかける。
「えっ、テトずるい〜!!」
「大丈夫だ、マスターには俺がみっちりと勉強教えてやるから」
「テッド、大丈夫の意味が解らないよ……?」
 不安そうに首をかしげるマスターと、涙を指で拭き、笑うテト、眼鏡をかけなおすテッド。
 なんだかんだ言って、この三人はとても仲が良いのだった。

≪うぅ……。グダグダすぎて何が何だか分かんなくなってる事件がぁぁ((ry こんな感じのほのぼので良かったかな??≫

8:時雨:2014/07/31(木) 11:06 ID:Quk

うわー。いいなー2人とも。
ぁぁぁぁあああ。私もこの日常に加わりたい。
短編って、必ず三回で終わらせなくてもいいんだよね。

9:時雨:2014/07/31(木) 11:10 ID:Quk

さあ‼︎第二話ですかね〜。

10:時雨:2014/07/31(木) 11:25 ID:Quk

「テッド。」
「………。」
「テッド。」
「………。」
「テッド‼︎」
「………。」
「テッド‼︎‼︎聞いてんのか?‼︎」
「ッッ‼︎………すまない。」

今日、テッドは隣に住むルークとデュエットをしていた。
(珍しくマスターがやる気になったからだ)

が。

「テッド、お前顔色悪いぞ?」

UTAUという所謂アンドロイドに顔色も何もあるのか分からないが、
長い付き合いのルークは何かを感じ取ったらしい。

「おい、ダルいなら休めよ。」
「………いや、"あの"マスターが折角やる気になったから…。
「んな事言っても…。」

ほら、ちょっと休憩しようぜ、とルークが言いかけた瞬間、

ぐらっ………………

テッドの細い体が前方に傾いた。

「………‼︎え?!ちょ、おいッッ‼︎」

慌てて支えた体は、ぐったりとしていて。

(あー、過労、ね。)
………再び何かを感じ取った。

(ま、大方"あの"マスターとテトが原因だろ。)


よし‼︎次お願い‼︎

11:ひすい:2014/07/31(木) 11:55 ID:95k

はいっ!!

アンドロイドでも体調を崩すときはある。
ルークは彼を起こさない様、ゆっくりと抱き上げた。そこで違和感に気づく。

成人男子としては、異様に軽い。過労が過ぎているのか。
(後でテトやマスターにもう少し労わる様言わなければな)
ルークは微かにため息を吐いた。

その細い身体をソファーに置く。少しでも力を入れたら折れてしまいそうな感じがして、まるで貴重品を扱うように、慎重に。
テッドは目を覚まさず、熱い吐息を吐くだけだった。

額に手を当てる。汗に濡れた赤い前髪、そこから手を伝わる異様な熱さ。
(熱があるな・・・)
このまま寝かせておけば引くだろう。疲労が原因故、休ませておけば良くなる筈だ。
そう思った矢先。

「お〜い!!」
「テッド――!!!」

空気を読まない・・・否、読もうとしない女二人組がやって来た。

よし、頼む!

12:ミオ◆xM:2014/07/31(木) 18:57 ID:VtU

ごめん、今日書けそうにない……。
私飛ばして大丈夫だよっ

13:時雨:2014/07/31(木) 22:32 ID:Quk

では書きましょうか‼︎

「………お前ら。」

普段より1オクターブ低く声を出す。
今はテッドを休ませたかった。
…しかし、2人はまたも空気を読まない。

「あ!ちょっとルーク‼︎何テッドの髪触ってんのよ‼︎
この家の大黒柱?である私に断りもせずに‼︎」
「この馬鹿マスター‼︎僕の方がテッドのことが好きだぞ‼︎
マスターにもルークにも渡さないからなぁ‼︎」

……ルークの願いは粉砕された。

しかし、今実際こうして苦しんでいるテッドを放っては置けない。
テッドが呻く度、どうにかしてやりたいと思う。
……2人はどちらが看病するかで揉めているが。

「………ごめ、…な……。」
「‼︎」

確かに彼(そういやテッドはキメラだった=女かもしれない)
はそう言った。

「………いいから休めよ。」

呟く様にに言うと、テッドは薄く笑った。

次お願い‼︎

14:ひすい:2014/07/31(木) 23:18 ID:x1s

はい!!

どちらかと言えば、彼が笑顔を浮かべることは少ない。
熱があるのにも関わらず自分を気遣い、笑う彼。

何だかよくわからない、不思議な感情が身体の底から湧いてきた。
・・・その感情さえも打ち壊すかのように、またもや後方から賑やかな声が飛んでくる。

「ルーク、どくんだ!僕にその場所をよこせ!!」
「違う!!その場所は私によこすんだ!!」
「じゃんけんで負けただろ!?正々堂々の勝負に文句言うとは大人げない奴だ!!」
「うるさーっっい!!とにかくテトにまかせるとテッドが大変なことになっちゃうから私が見るのー!!」
「僕にまかせるとどうなるって!?」

・・・ここで二人に「テッドには休んでもらうから看病はいらない」というと間違いなくどちからが軽発狂するだろう。
とりあえず。
どちらが看病するのか決めてから部屋に入ってきてくれ。

そう言っても二人の耳は届かない。
「休めって言っても休めないよな」
また呟くように言う。
テッドの口元が微かに動いたような気がした。

「あぁもう馬鹿マスター!!」
「うるっさいアンドロイドの分際で!!」
「分際!?このアンドロイドの分際に負けた人間のお前は何なんだ!」
「私がいつあんたに負けたのよ!!」
「いろんな面で既に負けてるだろ!!!」

――ルークの中で、何かが切れる音がした。
彼はずかずかと2人の傍に近づき、その肩を掴んで部屋の外へと連れ出す。
部屋の戸をしっかりと閉め、中のテッドに少しでも声が届かないようにと彼なりに配慮し、小声でこう切り出す。

「あのなぁ、・・・どっちでもいいから、静かにしろ」
声にドスを聞かせる。
2人は怯えたのか、軽く体を震わせている、ように見えた。

中途半端・・・次頼みます!

15:ミオ◆xM:2014/08/01(金) 16:53 ID:VtU

「お前らが騒ぐと、余計テッドが疲れるだろ」
 ルークはそう言うと、紙を取り出して三つに切り分けた。そして赤いペンで何か書くと、適当な箱に入れ、振って混ぜる。
「まずマスターからひいて、それからテト、最後に俺の順番でひく。中に☆が書いてあった人が、テッドの世話をするってことでどうだ?」
 その問いかけに二人はこくりと頷き、マスターから順番に紙をひいていった。
「じゃあ……開いて」
「やったぁぁぁぁ!私がテッドの世話ぁぁぁぁ!」
 ☆つきくじを引いたのはマスターだった。しかし――
「マスター、うるせぇ。罰として世話はテトな。異論は認めない」
 というわけで、テトが世話をすることになった。
 しかし、またしても問題発生――

「テッドお兄ちゃんどこ〜?ミコ、お兄ちゃんと遊びたい……」
 普段からテッドによくなついている、ミコがお昼寝から目覚めてしまったのだ。
 ミコは泣くとかなり面倒だ。
 そして――テッドが居ないと必ず泣く。
 (どうしよう……?)
 ルークは、また頭を悩ませた。

16:時雨:2014/08/01(金) 21:08 ID:Quk

よし‼︎頑張る‼︎

「ちょっとちょっとちょっと‼︎‼︎なんであんたがテッドの看病するのよ‼︎
アンドロイドの分際で‼︎キメラの分際で‼︎テッド悪化しちゃうじゃん‼︎」
「ああ?僕は好きでアンドロイドに生まれた訳じゃ無い‼︎
どうせ僕はキメラだし生意気だけど、こんな"嘘の歌姫"を選んだのはマスターだろ!!
………もういい。夜まで帰らない。
その代わり、テッドが悪化したら許さない。」

あ、やばい。ルークは察知した。
この2人の仲が悪くなる事を、テッドはとても嫌う。
しかし、場面が場面だ。
このままにしておいた方がいいだろう。
………それよりもミコだ。正直言って、少々厄介なのだ。

「………さっきテッドが倒れた。今日は遊べないから、我慢してくれ。
テッドの為にも。」

論す様に言うと、ミコは俯いて

「………うん。ミコ、我慢する。」

と呟いた。
………あの2人よりよっぽど聞き分けが良い。

ミコがその場から居なくなった後、ルークはマスターと向き合った。

「マスター。あれは言い過ぎだ。テトが一番気にしている事なんだ。
もう少し考えてものを言って欲しい。」
「………ごめん。」

項垂れたマスターに、ルークは続ける。

「後、テッドの事だ。
あいつは、あいつの性格上、例え体調が悪くても声が上手く出せなくても
それを認めまいとする。
だから反動が来るんだ。
………一番あいつの側に居るんだ。
分かってやって欲しい。」
「………うん。」
「じゃあ、取り敢えずテッドは俺が看病するから。」

17:ひすい:2014/08/02(土) 18:31 ID:NpU

私もがんばる!

「うん。・・・わかった」
マスターが反省の色を見せるのは久しぶりだ。
「・・・マスターは、テトを探してこい」
彼女は顔を上げて目を見開いた。もともと大きい彼女の眼が見開かれると、零れてしまいそうだ。
「・・・!やだ・・・」
ぷいっと顔を背けるマスター。まぁ、あそこまで喧嘩をして探しに行くなど、普通の人間なら頷き難いことだ。
ルークは彼女の目をじっとと見つめる。彼女の澄んだ瞳孔と自分の瞳をしっかりと合わせた。
この状態になると、ヒトというものは自意向をつき進めることが難しくなる。
それを証明する通り、彼女は唇を閉じてしまった。
ルークは続ける。

「お前が人間に生まれたのは奇跡に近いんだ。テトだって、少しの運命の違いで人間に生まれていたかもしれない。
そして、お前がアンドロイドに生まれていた確率もゼロではないんだ。・・・わかるか?
テトも言い過ぎた所があるかもしれない。でもお前はテトにとって許せないことを言った。
テッドもお前達が喧嘩しているのを見ると悪化するだろう。だから――テッドを安心させてやってくれ」

語尾を極力優しげにした。
マスターの瞳が揺らぐのが分かる。ここまでくればあと一押しだ。
「テトはロボットだが、ちゃんと感情だってある。お前がちゃんと謝れば、元通りになるはずだ。
このまま気まずい生活を送るのと、ちゃんと謝って普段の生活を送るの。どっちを選ぶ?」



マスターは何も言わずに外に飛び出していった。彼女の瞳は潤んでいる――ようにも見えた。

テッドは踵を返し、苦しむテッドのいる部屋へと戻って行った。

駄目だ・・・文才。。。

18:ミオ◆xM:2014/08/03(日) 11:23 ID:VtU

「うぅ……二人とも……喧嘩……すんな……」
 テッドは案の定うなされていた。寝言のセリフからするに、きっとあの二人の喧嘩の夢でも見ているのだろう。
 ルークとしてはかわいそうとしか思えないが、きっとテッドはあの二人のことが好きなのだ。――勿論、家族として。
「何か妬けるな……」
 ルークとの友情と、テトとマスターへの愛情。どちらも天秤にかけると、釣り合うのだろう。それが何だか悔しかった。
「大丈夫だ、安心しろ」
 マスターもテトも、本当は根っからの優しい奴らなのだ。ただ、思ったことをすぐに言葉にしてしまうだけ。頭が冷えないと、思ってもないことを口走ってしまうだけで。
 きっとマスターは今頃、テトとどうやったら仲直りできるか考えているだろうし、テトもマスターに言いすぎたと反省している頃だろう。あの二人だったら、すぐに仲直り出来てしまうと思い、ルークはふふっと笑った。
「さて、俺は俺で、テッドに紅茶でも入れてやっかな」
 そう思い、テッドの部屋から出て、お湯を沸かし紅茶を入れる。ついでにミコの分のミルクティーも作り、フランスパンを出して切り分け皿にのせると、テッドの部屋に行った。

「あ、ルーク……?看病しててくれたのか?」
 部屋に戻ると、テッドが起き上がっていた。顔色もよさそうで安心したルークは、ベッドの横のミニテーブルにフランスパンとティーカップを置き、ニッと笑う。
「看病なんて大層なもんじゃねぇよ、ただ様子みてただけ。紅茶、いれといたぜ」
「あ、サンキュ。――なぁ、テトとマスター大丈夫か……?」
 やっぱり心配なのはそこかと、ルークはフッと笑った。
「大丈夫だ」
 多分だけど、と心の中で呟いて。

 次お願いしますっ。

19:時雨:2014/08/03(日) 19:48 ID:lLw

「なぁ、」

そう切り出したテッドの目は、悲しみと哀しみの色が滲んでいた。
ルークは、テッドは言おうとしている事が分かってしまった。

「………俺が居るから、マスターとテトが喧嘩するのか?
もし、俺が居なければ…、あの2人は仲良く出来るのか?」

嗚呼、言ってしまった。
言わせてしまった。

もし此処にマスターとテトが居れば、ルークの所為だとは言わないだろう。(先に泣き出すだろうが)
しかしルークは正直後悔で一杯だった。

(俺はもっと気の利いた言葉が言えなかったのか…。)

ただでさえテッドは病み上がりだ。
あまり考えさせると又倒れてしまう。
力になりたいのに、なれない。
全て自分で背負い込んでしまうテッド。

「……お前、勘違いしてないか?」
「………どういう事だ?」

こいつは知らない。
自分がどれだけ愛されているかを。

自分の何倍も大人びているくせに、自分の事になると鈍くなる。
…そこが可愛いんだが。

「……少し、自覚しようぜ。」


よし‼︎お願い‼︎

20:ひすい:2014/08/04(月) 14:41 ID:eBw

「じか、く?」
ルークが入れた紅茶を口元付近に持つテッドが、不思議そうに問う。
微熱のせいで猩々緋に染まった顔を、軽く傾げた。

「あのな、」

深呼吸して心に結わえた言葉を徐々に溢してゆく。
自分が真剣になれば相手も類似に合わせてくれるということを忘れずに。
「――正直、お前が・・・お前「達」がマスターに選ばれなければ。買われなければ、どうなっていたと思う?」
率直にそう切り出した言葉に、相手が攪拌せぬのを確認し、少し間をおいて続ける。
「マスターは一人。いや、独りなんだ。若く、しかも女だというのに、独りで暮らしている。
孤独な毎日を送って、他人との中合も少ない。そんな日々の中で生きていかなければならないんだ。

――お前たちがいなければ」
あえて、間を長く置いた。
お前がいなければ、あいつはどうなっていたかな、と少し笑って見せる。それに対し真顔で聞くテッド。
本当に心からそれを心配しているのか。否、熱の為に思考回路がおかしくなっているのか。
後者であることを心のどこかで祈りながら、言葉を綴った。

「だから、お前はあいつにとって必要な、あってはならない存在だ。
好きなんだ、あいつらは、お前のことを。――愛しているんだ。勿論、“家族”として」
ここで初めて、テッドに動揺の色が見えた。
家族。アンドロイドの彼にとって、この言葉を実際に言われたのは初めてなのかもしれない。

空になったカップを持つ彼の手が小刻みに震える。
ルークは一定に動くカップに目を落とし、あえてテッドの表情は見なかった。

その時、ふいに後方から音がした。これがノックの音、と気づくのにそれ程時間はかからなかった。
ソファーの端から腰を上げ、ドアを開け外に出る。
立っていたのはテトだった。
前のように空気を読まず、大声で言葉を言い放ちながら飛び込んではこなかった。この短時間に、彼女も成長したという事か。
「・・・夜まで帰らないつもりだったけど、心配だから帰ってきた」
彼女が言った「心配」という言葉は、テッドのことだけではなく、多分マスターの事も指しているのだろう――これはルークの憶測だが。
やはり彼女は成長した。お前は必要とされている。その想いを込めた視線をドア越しにテッドへ向ける。
その時、ある事実に気づいた。
「・・・テト、マスターは?」
「え?・・・知らない、けど」
お前を探しに行ったんだ。そういうと、彼女の顔に酷く動揺と顫動が浮かんだ。

な、なんとめちゃくちゃな乱文・・・!
ごめんなさい、次頼みます・・・;

21:ひすい:2014/08/04(月) 14:43 ID:eBw

ヤバい間違い文発見!!!
16行目、『あってはならない存在』じゃなくて『なくてはならない存在』でした!!
(ここであってはならない存在とか言ったらやばいですよルークさん

22:時雨:2014/08/06(水) 21:27 ID:Quk

ルークさんルークさん!
テッド可哀想やめてあげて(泣)
ほんともうテッドさん自殺しちゃ(強制終了

っとそろそろひすいが来そうだw

23:ひすい:2014/08/06(水) 21:33 ID:4/M

えーと、ここからは今の話を強制終了(笑)して、鏡音三大悲劇を小説化していきます。
最初は「悪ノ娘」、「悪ノ召使」から二次小説していきます。
勿論テトテド主演です!あ、ルークも結構主演ですww

24:ひすい:2014/08/06(水) 21:53 ID:4/M

*登場人物*
・ルーク=ルシフェン=ドートゥリシュ・・・ルシフェニア王国の王子。国民には「悪ノ少年」と呼ばれている。
・テッド=アヴァドニア・・・王子つきの召使。ルークの双子の弟。
・テト=マーロン・・・マーロン国の姫で、ルークの婚約者。
・ルコ・・・ピコと共に商人の家に仕える少年。美しい容貌を持つ。
・ピコ・・・ルコの親友。白の髪というネツマ族の特徴を持っている。
・メイト・・・剣術が得意な青年。ルシフェニア革命の首謀者。

25:ひすい:2014/08/06(水) 21:57 ID:4/M

序章

 むかしむかしあるところに とてもわがままなおうじさまがいました
 おうじさまはおかねをいっぱいつかって あそんでばかりいました
 そしてさからうひとたちを つぎつぎところしてしまいました
 あまりのひどさに おうじさまは
 「あくのしょうねん」とよばれるようになりました

 ひとびとは おかねもたべものもなくなり とてもこまってしまいました

 そのとき あかいよろいをまとったけんしがあらわれ「あくのしょうねん」にたたかいをいどんだのです
 はげしいたたかいのすえ ついにけんしは「あくのしょうねん」をつかまえました

 「あくのしょうねん」はひとびとのまえでしょけいされることになりました
ひとびとは みなよろこびました

 だけどだれよりもわらっていたのは しょけいだいにいた「あくのしょうねん」でした
かれはさいごにこういいました

「ああ おやつのじかんだな」

 きょうかいのかねがさんかいなったとき
 「あくのしょうねん」はくびをきられました
 こうして へいわがもどりました

 めでたし めでたし

26:ひすい:2014/08/06(水) 21:59 ID:4/M

処刑人は嘆く。
ああ、私はいつまで、罪のない人の首をはね続けるのだろう?
大臣は嘆く。
ああ、私はいつまで、あの少年のご機嫌取りをし続ければよいのだろう?
民衆は嘆く。
ああ、私はいつまで、空腹に耐え続けなければならないのだろう?

笑うのは、悪ノ少年ただ一人。
満足げな顔で、玉座に座る。

遠くで王子の命令が響く。

「さあ、跪くがいい!」

時雨、次・・・;

27:時雨:2014/08/06(水) 22:37 ID:Quk

「ねぇおばあちゃん、あの話してよ‼︎
えっと、"あくのしょうねん"………だっけ?」
「ああ、あれ。…本当にあった事なのよ。本当よ。
そう…、どこまで話したかしら?」
「えっとね、んー、」



【悪ノ少年・悪ノ召使】


「ああ、お願いします!私達には、もう家も家族も、
パンを買うお金さえ無いのです!どうか…、どうかお願いです!
少しの食料をお恵みください!」
「また金を盗まれた!!」
「お母さん、お腹空いた………。」
「…ごめんなさい、ごめんなさい………」

今日も城の門の外には、沢山の人々。
薄汚れた服を着て、金をくれ、パンをくれと咽び泣く。
………愚かな。
それを見て、良い加減に、と必死な大臣。
なんて盗まれた惨い…と怯える下女。
………愚かな。
結局、自分を分かってくれる人など、いない。
あいつを除いて。

「テッド?何処に居る?」

28:ひすい:2014/08/06(水) 23:15 ID:4/M

勝手にルークを兄にしちゃってごめん!;;;

「はい」
低く落ち着きのある声が、自分の声に比例するように返ってくる。
その声と共に俺へと歩み寄る、真紅の髪を靡かせる青年。
「お呼びですか、ルーク様」
俺の足元に跪く彼の名は、テッド=アヴァドニア。――いや、偽名だ。
彼は紛れもなくルシフェン王族の血を引く第二王子、テッド=ルシフェン=ドートゥリシュ。
「顔を上げよ」
その一言に、すぐに顔を上げる弟。これ程弟を安易に動かす兄が、この世のどこにいるだろうか。
――いや、彼だけではない。執事が、メイドが、大臣が、国民が――俺の前に腰を屈め、頭を下げる。
この世の全ては俺の一言で動く、そういっても過言ではない。
俺の権力に動く民達を見ているうちに、俺にとってはそれが日常茶飯時となった。
大人が俺の為に動くのが、面白くて堪らなくなってきた。
俺の言葉を待つ召使に、こう告げる。
「大臣を呼んで来い」
――と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おい、最近俺の食事が貧相になってはおらぬか!?」
やって来た大臣に、こう切り出す。
「・・・しかし王子、最近のルシフェニアは不穏で、作物が取れにくく、国民の暮らしも・・・」
「黙れ、金が足りないのなら、愚民どもから搾り取れば良いじゃろう!!」
俺の怒鳴り声に大臣は悔しそうに俯いた。
「・・・畏まりました。税を、上げることにいたします」
「――よし、それで良い、下がれ」

何か今回文才が0の作品になってしまったorz
そしてルーク・・・すみません・・・

29:時雨:2014/08/07(木) 12:21 ID:Quk

執事、メイド、大臣、そして国民。
全てが己の思うまま。
誰も、彼に逆らう事は無い。逆らう事は出来ない。
対等な立場などという言葉は、既に忘れ去られてしまった。

「ルーク様、お茶の準備が整いました。」
「ああ、おやつの時間だな。」

ルークの隣…、いや、斜め後ろに影の様に佇む少年。
ルークの命令で、唯一ルークを名前で呼べる者。ルークの、弟。

同じ日、同じ時間に生まれたはずなのに、身分の差はこうも激しいのは何故か。
何時も側で…ルークの影で居るのだ。
影が実体を望む時は無いのか。

"いいんですよ。ルーク様が笑って居られるならば…
………それでいいんです。"


*****

「おい、テッドは何処じゃ。連れて来い」
「はぁ、しかし………。」
「いいから連れて来いと言っている!!」
「……はい。」

悪ノ少年は、今日も嘲笑う。

「遅れて申し訳ありません、ルーク様。
しかしこの様な格好では…」

王座の間の扉の向こうから、テッドの声がする。

「どうでも良い。早く入れ。」

キィと音を立て、扉が開く。

「?‼︎‼︎何があった?」
「……少し、生活に不満を持った者が…、直ぐ治ります。
どうか彼らに制裁を与えないでください!」

そう訴えるテッドの服は、殆どが血に濡れていた。
貧血を起こしているのだろうか、顔色が悪かった。

30:ひすい:2014/08/07(木) 13:06 ID:REw

テッドに一際激しい眩暈が襲った、刹那。
彼の身体は王子の胸の中へと倒れ込んでいた。

温かく、懐かしい心地よさがテッドを包み込む。

父が死んだ、あの日。幼いあの時、泣いていた自分をこうしてルークが抱きしめてくれたんだっけ。
ルークの体温が、身体中から自分へと伝わる。冷酷非道で知られる彼が、どうしてこんなに温かいのだろう?
そして自分が、彼の温かさにこんなに安らぎを感じているのは、それは、やはり僕らが――双子だから、なのだろうか――
彼は変わってしまった。昔のあの無邪気な笑みで笑う兄はどこかへ行ってしまった。でも、でも―――
「――大丈夫か」
ルークの声に、テッドは我に返った。自分の胸から動かない弟を、兄は訝しげに見つめる。
「わぁ、す、すみません!!!」
「・・・フフフ」
何故か微笑むルーク。
「初めて見たぞ。お主がそこまでうろたえるのを」
「いや、・・・その、失礼いたしました」
「とにかく、少し休むといい」
「!・・・いえ、大丈夫です、これくらいは・・・」
「制裁を与えるなと言われてものう。お主に危害を加えた奴の首をはねずにはいられぬ」
そう言ってルークは微笑んだ。
先ほどの嘲笑うような笑みではなかった。
――やはり彼は、とても優しい僕の兄弟だ。

31:時雨:2014/08/07(木) 15:03 ID:Quk

「本当に申し訳ありませんでした!」
「?いや、お主こそ大丈夫なのか?まだふらふらしている様だが。」
「い、いえ、ほんと大丈夫ですから!あぁぁあ申し訳ございません!
だっ、大臣ッッ‼︎ルーク様のお召し物をぉ‼︎」
「はっ!」

テッドを抱き留めたルークの服は、夙に真っ赤に染まっていた。
謝り続けるテッド、微笑むルーク、慌てる大臣。
非道な王子の本当の姿。
"悪に成りきれていない"様なルークが、テッドは好きだった。

「お前に危害を加えた愚か者は、どんな奴だった?」

そうやって、自分の事を気に掛け、優しく見守ってくれる兄。
そんな王子だから、自分も大臣もついて行けるのだろう。
突き放してくれたならば、考える事も無い。
だが、こうして不器用な優しさを見せるルークに少し腹が立つ。
と同時に嬉しくもあるのだが。

(貴方が優しいなんて事、私が一番知ってます。)

卑怯だ、呟くテッドにルークは顔を歪める。

「おい、血が滴り落ちているぞ。」

その声を最後に、テッドは意識を失った。

32:ひすい:2014/08/07(木) 15:34 ID:REw

――場所は鏡の間。
いつものように玉座に座り、目の前の宰相と向き合っている。
「ミニス、」
ルークがそう切り出した。
「最近、愚民共の抵抗が大きくなっているようじゃ」
「?」
宰相、ミニスは頭の上に?マークを浮かべた。
「?と、いいますと・・・」
「前までは大人しく従っていたというのに、段々反抗するようになってきた」
「はぁ・・・」
「それに、先日は増税を反対する為、暴動まで起きた」
「・・・」
「更に、本日は我が城の召使に致命傷程の傷を負わせた。これは俺に逆らっているも同じであろう?」
「・・・左様にございます」
「テッドに危害を加えた者を探しだし、捕えよ」
「・・・王子」
先程までルークの言葉を静かに聞いていたミニスが、言葉を遮るように口を開いた。
「確かに、国民達はあなたに抗いの色を少なからず見せています。前までとは違ってきています。でも前までは、あなたの絶対権力により抑えられていただけ。自分達の鬱憤を少しでも晴らそうと微かな抵抗をし、それさえも許されずにギロチン行きでは、暴動だって起きるでしょう」
「・・・何が言いたい」
「ルーク様。今の税でさえも重すぎます。更に増税は、止めた方が無難です」
「・・・」
「もう少し、もう少しでいいのです。国民達もあなたと同じ人間です。ですから――」
「――っこの、無礼者!!」
突如、鏡の間に王子の大声が響いた。びくっと身体を震わせるミニス。
「俺と、あの汚らわしき愚民共を一緒にするなっ……!!」
「・・・っ、も、申し訳ございま」
「この者の首を刎ねよ!!」
ミニスの言葉を遮って叫ぶ「悪ノ少年」。部屋にかけ込んでくる兵士達によって一瞬に取り押さえられる大臣。

長年ルークに付き添ってきたミニスの首が刎ねられるのと、ルークの命令により自室に寝かされていたテッドが目覚めたのは、丁度同じ時だった。

33:時雨:2014/08/07(木) 19:01 ID:Quk

「ん ………。」

目を覚ましたテッドは、一瞬何も理解出来なかった。

(あ、そうか………)

(まだ迷惑を掛けてしまった。
このままではいつか自分も首を刎ねられるかもな)

己の考えに少し苦笑したところで、気付いた。
余りにも静か過ぎる。
何時もの城は、もっと話し声が聞こえる筈だ。
とすると。

(‼︎まさか、断頭台………?‼︎)

皆が一斉に集まる所など、そうそう無い。
では、誰の?

急いでベッドから這い出ようとすると、身体全体に痛みが走る。
民衆デモ、といったところか。
城の者だと言えば、包丁や果物ナイフで何度も刺された。

金をくれ。食べ物をくれと。

当たり前だ。己の君主に虐げられているのだ。
だからテッドは何も言わなかったし、何もしなかった。
一方的に刺されて、この様だ。
…情けない。

34:ひすい:2014/08/07(木) 21:10 ID:REw

「――大丈夫?」
ふと、戸の向こうから女性の声がした。ノックと共に、彼女はその姿を露わにする。
赤いショートカット、そして深紅の鎧。間違いない。彼女は我が姉、メイコだ。
「ごめんなさい、あなたを率先して斬ろうとした男性は、私の知り合いなの」
彼にはよく言い聞かせておいたから、と言いながら彼女は自分のベッドの傍の椅子へ腰を下ろす。
「メイコ殿、本日は何の御用ですか?」
「もう、余所余所しいわねぇ。前一緒に住んでたみたいに、「姉さん」って呼んでくれて構わないんだけど」
「そういうわけにもいかないでしょう」
――昔、父の後をどちらが継ぐかと言う理由で起きた政治紛争。あの時ルークを王にするべきと主張した大臣の一人は、テッドの暗殺まで企てていた。
いつ殺されてもおかしくなかった自分を引き取ってくれたのが、彼女メイコと、その兄メイトだ。つまり、彼女は義姉ということになる。
「本日は何の御用でここへ?」
そう尋ねると、彼女は少しだけ悲しそうな顔を浮かべて話し始めた。
「――国の食糧不足が、いよいよ深刻で。でも食糧不足と言っても、王宮の食糧庫にはまだ蓄えがたくさんある。それを少しでも民にわけてあげればいいのだけれど・・・ルーク様、中々首を縦に振ってくれなくて・・・。
挙句の果てに、あの王子様何て言ったと思う?『パンがなければおやつを食べればいいだろう』よ?」
呆れ顔で彼女は続ける。
「王子はモノの価値というのがわかっていないの。民衆の日々の食卓に並ぶ食事が、自分の愛馬に与えられる餌より遥かに貧相だってことを知らないのよ。自分の周りしか見えていないのね、あの少年は」
メイコとルークの軋轢は、今日に始まったことではない。男勝ちでいい加減で酒好きだが、弟や民への献身に関しては真面目なメイコが、悪逆非道で世間知らず、民の生活など我慢せずで贅沢三昧のルークとぶつかるのは、王宮ではよく見られる光景だ。
よくルークに首を刎ねられないものだと感心ものだが、メイコは民からの信頼も厚く、彼女を慕う者は民にも貴族にも未だ多く、不用意に首を刎ねればどれほどの反感を買うことになるか、傲慢の塊のような存在であるルークでも理解していた。
「でも、今日は生憎留守のようで。また来るとするわ」
そう言って彼女は立ち上がり、部屋を後にしようとした。
――その時。
運悪く、テッドの部屋の戸を開け、ルークが入ってきた。
ルークは彼女の姿を捕えるなり、いきなり不機嫌な顔へと変わっていった。
「――メイコ。何故お主が此処におる」
「いつもの要請ですよ。どうせ聞いてくれないでしょうけど」
2人の間に険悪なムードが流れる。何とか立ち上がり止めようとしたテッドだが、やはり痛みには勝てなかった。 

35:時雨:2014/08/07(木) 22:01 ID:Quk

「あの、ルーク様………ってぇぇええ?」
「メイコが居たら休めないだろう。寝ろ。」
「あら、私は邪魔?」
「そうだ。」

ルークに寝台に優しく押し倒されるテッド。
これ以上寝るのも難しいと思うが。

「そう言えば今日は大臣に会って無いわ。何時もなら私に泣き付いて来るのに。」

メイコが不思議そうに首を傾げる。
するとルークが思い出した様にああ、と当然の如く言い放った。

「ミニス、さっき首を刎ねたぞ。」
「「………え?」」

2人の思考は既に停止して居た。

「…っなんて事をっ!
そんな惨い事をっ‼︎何故‼︎何故ですかッッ‼︎」

テッドの鮮血の様な目から、涙が溢れる。
テッドは知っていた。
王子の事を誰より心配していた事を。
王子の事を誰より思っていた事を。

「当たり前だ。俺を愚民と対等だと言いやがったぞ。
それに、お前だ。お前が刺されたのは当然だったと。
そんな事を言った奴が悪い。」

「だからと言って………、く、ぁ…ッッ…………」

何故。
何故。
何故。
何故。
何故。

言いたいのに、
伝えたいのに、
テッドの身体は言うことを聞いてくれなかった。

「……おい、ちょっと落ち着けっ‼︎」
「まだ傷が開いてしまうわ!」

36:ひすい:2014/08/07(木) 23:09 ID:REw

ルークはテッドをもう一度ベッドに寝かせ、「ちゃんと寝ていろ」と命令を下した。
ルシフェニア王子の、悪ノ少年の命令”。それに逆らえば待っているのは首切り。ルシフェン王族の血を引くとはいえ下級身分の自分は、従うしか成す術がなかった。
「・・・畏まりました」
「宜しい」
と頷くルーク。満足気な笑みを浮かべて部屋を出る。
口をぽかんと開けて、呆気にとられている様子だったメイコは、次第に顔を紅潮させ、明らかに怒気を含んだ目をしながら部屋を出て行った。
テッドは慌てて追いかける――ことはできずに、寝た体制で声をかけた。
「メイコ殿っ、・・・!」
「・・・絶対的な権力で思い通りの世界を作る・・・まさに『悪ノ少年』。まるで悪魔のようね」
メイコはそう吐き捨てて、その場を立ち去ってしまった。s

それから三日後の事。本調子とは言えないが、召使としての立場を弁え、テッドは厨房で夕食の用意をしていた。
その時、ルークがいつも以上の怒り顔で、厨房へ乗り込んできた。
「ミクオ!ミクオはおるか!」
ミクオはルーク達のリーダー的存在、つまり執事長だ。ミクオの養子、リントがおびえた様子で答えた。
「ち、父は・・・ミクオは本日、出かけております・・・」
「そうか。ならばリント、お主で良い。聞きたいことがある」
「は・・・はぁ・・・」
「コック達が妙な噂をしているのを聞いたのじゃ。最近、食糧庫の食材が不自然に減っているそうではないか。それは事実か?」
「はい・・・確かに僕も、同じような話を料理長から聞きました」
 リントがそう言って、ニンジンを刻んでいる最中の料理長の方を見る。料理長は忙しいのか、こちらの会話は耳に届いていないようだ。あるいは、もめごとに関わりたくないので、聞こえないふりをしているのかもしれない。
「お主ら使用人の誰かが、つまみ食いをしているのではないのか?」
ルークがリントに詰め寄る。
「そ・・・そんなはずはございません!使用人が王宮の食事に手を付けるなど・・・」
「その通りじゃ。そんな奴がおれば即刻、首を刎ねてやらなければなるまい」
 王宮は全て俺のもの。それはルークにとって当然の論であり、自分のものに手を付ける人間は存在してはならない。
 ルークは引き続き、リントに向かってまくしたてる。
「リント、噂好きのお主なら何か知っておるのではないか?」
「そ・・・それは・・・」
 リントは一度言葉に詰まると、震える唇を開いた。
「・・・はい、知っています。犯人が誰なのか」
リントがそう言うと、ルークは怒りの表情を崩さぬまま、リントの方を見る。
「やはり知っておったか・・・誰じゃ!言うてみい」
「はい・・・あ、あの・・・」
「早くせい!あと十秒以内に言わねば、お主の首を刎ねるぞ!」
 ルークの怒声に、リントは物怖じしながら答えた。
「ぼ、僕・・・この前、街で見てしまったんです。食糧庫のものと思われる食材を、民衆に分け与えている人がいるのを・・・」
「だからそれは誰じゃ!俺が知りたいのはそこじゃ!」
 一呼吸置いた後、リントはこう口にした。
「メ・・メイコさん・・・です」

37:ひすい:2014/08/07(木) 23:18 ID:REw

翌日。今、テッドはルークと二人きりで彼の部屋にいる。夕食後、彼に呼び出されたのだ。
「テッド。もう傷の方は癒えたのか?」
「はい。大分良くなりました」
「それは良かった」
そう言ってほほ笑むルーク。やはり彼は――・・・
「――テッド。お主に頼みたいことがある。」
 テッドの思いを遮るように、ルークは言葉を綴った。嫌な予感がした。
「・・・何でしょう」
 ルークは一度目を閉じ、そしてもう一度瞳を開いた。その真紅の瞳には、先程とは違う「悪」の光が宿っていた。

「――メイコを、殺してほしい――」

――しばらく身動きができなかった。ルークは・・・兄は何を考えているんだ?
「驚いたか?まあ無理もない。しかしこれはお主にしか頼めんことじゃ」
 ルークの言葉に、どう答えればよいか分からない。
「・・・どうして、メイコ殿を殺そうなどと・・・」
「それを説明する必要があるか?俺とあやつの不仲は、お主も知るところじゃろう。それに加えて例の食糧庫の件・・・俺の堪忍袋も、もう限界じゃ。あやつは毎回毎回、俺の意に反することばかりして・・・!」
 思い出したのか、急にルークの表情が険しくなる。
 テッドの表情から何かを察したのか、ルークはテッドの顔を覗き込むように語りかけてくる。
「不満そうじゃな」
「・・・」
 ルークは続ける。
「然し奴は、他の家臣と違って、安易に首を刎ねるわけにもいかん。奴は慕われておるからのう・・・俺には理解出来んが。そこでじゃ。俺は思いついたのじゃ!公に処刑できぬのならば、こっそり暗殺してしまえばよい!」
 さも名案であると言わんばかりに、優しげな笑みでルークは話す。
(ヘッへーン。僕、いいこと思いついちゃった!)
 不意に幼い頃の記憶が甦る。
(この暖炉の奥、実は抜け穴になっているの。この前偶然、見つけちゃったの!ここから二人でお城、抜け出しちゃおうよ!)
 悪ノ少年となっても、兄は何も・・・何も変わっちゃいない。だけど・・・。
「僕の剣の腕では・・・メイコ殿を打ち倒せるとは思いません」
 やっとのことで言葉を口にした。メイコは弟のメイトと共に、町でも名高い剣士として知られている。
「安心せい。俺に考えがある」
 ルークは僕に、彼の計画の全てを説明した。
 なるほど、その方法なら確かに上手くいくかもしれない・・・しかし・・・。
「このことは、決して誰の誰にも言ってはならぬぞ。俺とお主の、二人だけの秘密じゃ」
(このことは、僕と君の、二人だけの秘密だよ♪)
 幼いルークが、テッドに言った言葉。
 何も変わっちゃいない。・・・ああ、だけど・・・。

―どこで、歯車が狂ってしまったのかー

「決行は明日の夜じゃ。それまでに準備しておくのじゃぞ。今はもうよい。下がれ」

38:ひすい:2014/08/07(木) 23:27 ID:REw

>>36の12行目のsいらないです;)

39:ひすい:2014/08/07(木) 23:29 ID:REw

(あと>>37の15行目、テッド達のリーダー的存在の間違い!!)

40:時雨:2014/08/08(金) 15:52 ID:Quk

いつか、こんな日が来ると思っていた。
自分が罪無き者を手に掛ける時が来ると。
しかも己の敬愛する義姉を。
そんな事、出来る筈が無い。出来ない。出来ない。
けれど、

「ごめんなさい……、ごめんなさい…姉さん………!」

王子の命令は絶対だ。
断れば、自分の首が刎ねる。
そう、優しかった兄は、今は居ない。
いや、"優しかった"のでは無い。
今も"優しい"のだ。
なのに。

「………姉さん。」

耐えられない。
耐えられない。
人を殺すなど、

耐えられない。

「……いっそのこと、」


自分が死のうか。

駄目だ。死ねない。
まだ兄がいるから。守りたいものが、あるから。

"命を奪う事は、己を穢す事。…貴方にはして欲しく無いわ"

あんなにもこの身を案じてくれたのに。

それでも。

「ごめんなさい。………ルーク様の為に」

"死んで頂きます"

そう呟き一筋の涙を流す。

「この名前は、穢名となるでしょう。」


"テッド"

41:ひすい◆lU:2014/08/08(金) 16:57 ID:/LI

その日の夜。
テッドはルークの部屋の外で待機していた。
 部屋の中の会話に聞き耳を立てる。
「よく来たな。まあ、座れ」
 ルークの声だ。
「実はな、メイコ。俺も一国の主として、民衆の事を考えていかなければならないと思っているのじゃ」
 ルークの言葉が意外だったのか、メイコの声が少々震えている。
「どういうことでしょうか?ルーク様」
「お主、食糧庫から食べ物を持ち出しているであろう・・・待て待て、慌てるな、別にそのことでお主を断罪しようというのではない。
むしろお主がそこまで民を想っていることに、俺は感激したのじゃ」
「・・・」
「今後も自由に食糧を持ち出してよいぞ。ただし、その時はちゃんと俺に許可を得た後、堂々と行え。俺は裏で勝手に物事を行われるのを好んではいない」
 しばしの沈黙。
「・・・あ・・・!ありがとうございます!ルーク様!」
「ハーハッハッハ。よいよい。お主とは犬猿の仲であったが、これからは仲良くしていこうぞ」
「・・・!ルーク様!このメイコ、嬉しゅうございますわ!」
 本当に嬉しいのだろう。メイコの声は相変わらず震えているが、それは先程までとは違う意味合いのものだということは、部屋の外からでも分かった。
 部屋から物音がする。ガラス、あるいは銀製品を運ぶような音。
「今日は祝いじゃ。お主、ずっと酒を断っていたのであろう?今日くらいはよいであろう、飲め」
 彼女が飲むだろうか。ルークとテッドが一番おそれていたのが、それだ。
 だが。
「ありがとうございます!いただきますわ!」
 獲物は罠にかかったようだ。
 何かに液体が注がれる音。
「『ブラッド・グレイヴ』・・・ある吸血青年が愛飲していたという一品・・・安心せい、血などは入っていない、極上の赤ワインじゃ」
 ルークによる解説。また随分高級な珍品を持ち出したものだ。
「まあ、美味しい!何というまろやかな味わい!どうですか、ルーク様も一杯召し上がられては」
 普段には決して口にできない極上の品に、メイコはすっかり上機嫌のようだ。
「俺は酒など飲まん。あんな苦い汁のどこが良いのか、さっぱり理解出来ん」
「ルーク様は幼いからですね。時が経てば、この味の良さが分かる日がくるでしょう」
 二人きりの宴は、深夜まで続いた。

 午後三時。
 すっかり千鳥足になったメイコが、鼻歌を歌いながら誰もいない庭園を歩いているのを確認すると、テッドは彼女の前に足を踏み出した。
「だいぶ、酔われているようですね」
 テッドの言葉に、赤い顔のメイコが答える。
「あら〜、テッドかぁ。いやぁ〜ちょっといいことがあってねぇ〜、ついつい飲みすぎちゃった」
「その調子では、襲われたらひとたまりもありませんね」

42:時雨:2014/08/08(金) 17:25 ID:Quk

「そうねぇ〜、確かにひとたまりも無いけど、そんな奴もそうそう居ないと思うわよぉ〜?
だって、そんなに悪い事した記憶無いものぉ。」
「……姉さん。」
「あらぁ珍しい。私を姉さんって呼んでくれるなんて!
嬉しいわぁ。…なんでそんな深刻な顔してるの?
ほらほらぁ、このメイコお姉様に相談なさいよ。」
「姉さん、ごめんなさい。」

一陣の風が吹いた。

紅蓮が舞い、メイコが地に落ちる。
メイコから流れ出た鮮血が赤く、紅く地面を染める。

返り血を浴びたテッドが呟く。

"これは、禁忌の罪"

既に息をしていない、さっきまで生きていたものを抱き寄せる。

「………姉、さん…姉さん、姉さん……….、
ごめ、なさい…ごめん……、な、さい…」

大切なものを、自らの手で壊した。
信じていた未来は無い。

彼の鮮血の様な色の目は、彼女の血の様に深い色となった。
そして、星瞬く空に向けて言い放つ。

「私は忘れない。人を殺めた事を。大切な人を、殺めた事を。
憎き人が、憎むべき人に逆らえないのならば、愛しているのならば、己は」

"朽ち果てて行くがいい"

彼は、自分で自分の死刑宣告をした。
もう、二度と笑ってはくれない人に囁く。

「貴女は、私の光でした。」

43:ひすい◆lU:2014/08/08(金) 18:16 ID:/LI

――ルークは一人ぼっちだ。
王宮で人に囲まれていても、彼の周りはみんな敵。だけど安心して。僕が君を守るから。君は玉座に座って、笑っていてくれればそれでいい。

『悪ノ少年』の手先?それもいい。
  
       君を守る そのためならば
       僕は悪にだってなってやる

メイト視点
昨日、メイトは一睡もできなかった。昨夜彼の妹が王子に呼ばれてから八時間が経とうとしている。メイトは家から出て、近くの川岸まで向かう。とりあえず川の水で顔でも洗ってこよう。そうすれば少しは気分も晴れるはずだ。
メイコは結局、朝まで帰ってこなかった。
『悪ノ少年』に朝まで説教でも喰らっているのだろうか?だとしたら気の毒なことだ。帰ってきたら久し振りに豪華な食事で迎えてやろう。何なら一緒に酒も飲もう。たまには、いいよな。そんなことを考えながら歩く。
 川の近くまで来た時、珍しい顔に会った。
「リント!久し振りだな!」
 メイトの義弟、テッドと同じ王宮で働く少年。よく妹と王宮に行くこともあり、顔なじみだった。
「あ!メ・・・メイトさん・・・久し振り・・・」
「どうしたんだ?こんなところで会うなんて」
「今日は朝から、執事長の命令で買い出しに来てたんだ!だけど・・・」
 何かあったのだろうか、妙に元気がないリントを、メイトは訝しげに見つめる。。
 よく見ると、川岸の方に人だかりができている。
「何だ?何かあったのか?」
 メイトの問いに、明らかに顔色を変えるリント。
「あ!な・・・な・・・何もないんだ!ほんとに何もない!ただの人だかりさ!」
「何もなければ人だかりなんてできないだろ?何かお宝でも見つかったとか?」
 人だかりの方へ行ってみようとするメイト。
「あっ!駄目だ!行っちゃ駄目だ!!」
 リントの制止を振り切り、人だかりの中央へとたどり着いた。
 
見慣れたものが、そこにはあった。


 いや、違う。あれは違う。あれはそうじゃない。あの赤い鎧はそうじゃない。あの倒れている娘は違う。あれは知っている人なんかじゃい。あれは妹なんかじゃない。メイコが死んでるわけがない。違う、違う、違うんだ、頼む、違ってくれ・・・・!!!

「メイトさん・・・気をしっかり持つんだ・・・ウゥ・・・ウゥゥゥ・・・」

 メイトは、メイコを抱きかかえ、上半身を起こした。――こんなに顔、白くなっちゃったな。大丈夫だよな。酒を飲めば、すぐに赤くなるさ。お前、すぐ顔にでるから・・・ウゥ・・・、嫌だよぉ・・・メイコ、死んじゃやだよぉぉぉ。

「うわぁぁぁあ、メイコ、めいこぉぉぉ!!!」

誰だ?誰がメイコを殺した?違う。メイコが殺されるわけがない。メイコは剣術の天才だ。誰だ?誰がメイコを殺したんだ?メイコは誰の所へ行った?
 あいつだ。あいつの所へ行ったんだ。あいつは誰だ?王子だ。悪ノ少年だ。ルークだ。あいつがメイコを殺したんだ。あいつが。あいつがあいつがあいつがあいつが殺したんだ。
 どうすればいい?あいつをどうすればいい?殺せばいい。殺されたなら、こちらもお返ししてやればいい。悪ノ少年を殺してしまえばいいんだ。復讐だ。そうだ、復讐してやらなければならない。あいつに。悪ノ少年に。ルークに。復讐を、復讐を・・・!

メイコ、見ててくれ。俺さ、必ずやり遂げるから。復讐を。お前の復讐を。いや、メイコの為だけじゃない。この国の皆の、民衆の為に。
たとえ王宮を敵に回したとしても。

       王子を倒す その為ならば
       俺は悪にだってなってやる

44:ひすい◆lU:2014/08/09(土) 13:17 ID:ysQ

むかしむかしあるところに くろのくにがありました
そのくにはおとこのひともおんなのひとも みんなかみがくろいろでした
そのなかにひとりだけ しろいかみのおとこのこがいました
くろのくにのひとたちはかれをいじめ なかまはずれにしました

ひとりぼっちのしろのしょうねんはもりにいきました
そしてもりのたいぼくに「ともだちがほしい」とおねがいをしたのです
たいぼくのかみさまはしろのしょうねんをかわいそうにおもい
かれにともだちをあたえました
たいぼくのかみさまは となりむらのおとこのこをしろのしょうねんにであわせたのです
それはとてもきれいな くろのかみのおとこのこでした

ふたりはとてもなかよくなりました
たいぼくからうまれた「くろのしょうねん」はそのうつくしさからみんなにあいされ
ついにはとなりのくにのおひめさまにけっこんをもうしこまれたのです

となりのくにのおうじさまは これがおもしろくありません
おうじさまは くろのくににぐんたいをおくり
「くろのしょうねん」をころしてしまいました

しかし ふしぎなことにかれのなきがらはちいさななえぎにかわりました

なえぎはやがておおきなたいぼくにかわり
いつまでももりをみまもりつづけました

めでたし めでたし

45:時雨:2014/08/09(土) 19:10 ID:GbE

「ルコさんッッ!」

暗い森の中、白銀の髪を振り乱して走る少年。
かの人の名を呼びながら。
彼は、ずっと一人だった。
ずっと孤独だった。
やっと掴んだ幸福。
訪れた幸せ。
全て、全て、彼のおかげ。

「ルコさっ、うわぁぁあぁああ?!」

…思いっきり木の根につまづいた。
と、暖かい腕が自分の身体を捉える。

「ごめんなさい‼︎」
「そんなに走らなくても、置いて行ったりしないぞ。」
「そっそんなんじゃ無いです!」
「お前なぁ、転ぶか謝るか叫ぶか驚くか怒るかどれかにしろ…。」
「なっっ………‼︎」

そんな日々が、唯只管楽しかった。
この人とならば、自分が自分で居られるから。

46:ひすい◆lU:2014/08/09(土) 20:24 ID:ysQ

 2人で森を歩いていると、向こうから村人が歩いてきた。村長の娘、ユキのようだ。彼女は美少女で、村の男性からも人気が高かった。
 ユキは二人に気づくと、大きく手を振った。
「やっほー、二人とも!」
「おっ、ユキ!」
「ユキさん・・・」
 ユキはにこっと笑った。
「千年樹の神様に、今年の収穫祭の成功をお祈りしてきたの」
「随分と気が早い話だな。祭りはまだ先だって聞いているけど?」
「早いに越したことはないよ。今年は不作だったから、できるだけ盛大にやりたいの」
「不作なのに、盛大にやるのか?」
「だからこそ、よ。来年の豊作を願うために、しっかりとね」
 しばらくとりとめもない世間話をして、ユキと別れた。あまりルコ以外の人間と話すことのないピコが結構楽しそうに喋っていたのが気になったのか、ルコはそれとなく理由を聞いてみた。
「ユキとは、よく話すのか?」
「最近はわりと・・・向こうから話しかけてくれます。ただ・・・」
「ん?」
「ルコさんがこの村に来るまでは、あまり話はしたことがありませんでした」
「そう、なのか」
 ふと足を止めて、ピコは頭を上げた。見上げた空は、もう少しで日が完全に沈むところだった。
「あの人は・・・ユキさんは、多分ルコさんのことが好きなんだと思います」
「え?」
「ルコさんに近づきたくて、僕に話しかけるようになったんじゃないかと…」
「そういうものか?」
 恋愛には疎いのか、ルコは首を傾げるばかりだった。
「ルコさんは、ユキさんのことをどう思いますか?」
「どう、って…」
「美男美女同士、お似合いだと思いますけど」
「え〜、そんなこと言われても、僕恋愛にあまり興味ないからなぁ…」
 言った後、逆に誤解を招きそうな発言だったと気づき、ルコは慌てて訂正しようとピコをみる。しかしピコはにこりと微笑み、こう言った。
「そうですか。僕と同じですね」
 何故かルコは安心した。

47:ひすい◆lU:2014/08/09(土) 20:24 ID:ysQ

 家の前まで来ると、隣に住んでいる少年、レイが鬼の形相で待ち構えていた。彼の後ろには男の子が二人、レイと同じ顔でこちらを睨んでいた。レイの友達、というか子分のようなものだ。
「ピコ、話したいことがある。ちょっとこっちに来てくれ」
 レイは短く切った髪を振り乱しながら近づいてきて、ピコに家の裏に来るよう言った。突然何だというのだろうか?
「・・・はい」
 言われるまま、ピコはレイたちの後について行く。ルコが心配になって一緒に行こうとすると、
「ルコは来なくていい。それじゃあな」
 レイに止められてしまった。来なくていい、と言われても、あんな雰囲気では気になって仕方ない。四人の姿が見えなくなってから一呼吸おいて、ルコは足音を立てないようにそっと後をつけた。家の陰から、そっと様子を窺う。
「お前、何様のつもりだ?」
 腕を組んだレイが、ピコに詰め寄る。
「さっきの、見たぞ。薄汚いネツマ族がユキに色目使ってどうしようっていうんだ?目障りだ。まさか、何か企んでいるんじゃないだろうな?」
「いや・・・あの、・・・」
「何だ?何か言えよ!」
「・・・すみませんでした」
「答えになってねえよ!」
 ええと、これは『嫉妬』というやつだろうか。それならば何故自分は呼ばれなかったのだろう?さっきのことが原因ならば、むしろ呼ばれるのは自分の方だ。だって、ピコはほとんど彼女と話をしていないのだから、とルコは疑問に思う。
 ピコは小さくなって震えていた。
「ユキだって、お前みたいなのに近寄られたら迷惑に決まっているだろう!?いいか?今後一切、ユキには近づくな!」
「・・・」
「黙ってないで答えろ!」
 声を荒げたレイが、右腕を振り上げる。ピコの身体がびくりと跳ねた。けれど、よけようとはしない。怖くて動けないのだろう。
「待てっ!」
 ルコはとっさに飛び出し、声を上げた。ピコに向けて振り下ろされたレイの手が一瞬止まったのを見て、素早くピコとレイの間に滑り込んだ。
「ルコ・・・」
 レイは驚き、振り上げた手をそのままにしていた。いつ振り下ろされるかわからなかったので、ルコはその腕を掴んで下ろさせる。
「えっと、喧嘩はよくないぞ?立ち聞きして悪いけど、その話なら僕も関係あるかなって」
「お前はいいんだ!俺はただ、そこのネツマ族が図々しくも色恋をしているのが許せないだけで・・・!」
「それは、勘違いだと思うぞ、多分」
 ルコは作り笑いを浮かべて、掴んだ腕に力を込めた。
「でも、」
「それに、暴力に訴えるのはよくないことだとだ。話し合いは大事だぞ?」
「・・・っ、もういい、放せ!二人とも、行くぞ!」
 ぱっと手を放すと、レイは子分(仮)と一緒に、表へと戻って行った。レイの姿が見えなくなってから、まだ震えているピコの肩をルコはそっと撫でた。
「大丈夫か?」
「は、はい・・・ありがとうございます」
「ピコも、言いたいことがあったら言わなきゃダメだぞ。ちゃんと伝えないと、勘違いされることもあるんだからな」
「ごめんなさい・・・ルコさん」
 一つ息をおいて、ルコはピコ抱きしめる。
「なあ、そろそろ『ルコ』って呼び捨てにしてくれよ。僕ら、友達だろ?」
「友達・・・?」
「そう。ともだち。・・・僕とじゃ、嫌か?」
「そんなことないです!あ、いや、・・・ありがとう、ルコ。僕、嬉しい・・・っ」
 ピコの腕が、ルコの背中に回る。弱々しい力だけど、しっかりと抱きしめ返してくれた。
「・・・ルコ、お願いが、あるんだ」
 こもった小さな声で、ピコが言う。ルコが「何だい?」返事をすると、さらに小さな声が聞こえた。
「もう少し、抱きしめていてくれるかな?人に抱きしめてもらったの、初めてだから・・・」
「ああ、いいよ」
 ルコはピコをぎゅっと強く抱きしめた。細くて、折れそうな身体。
 ピコ、君のことは僕が守る。

48:時雨:2014/08/10(日) 13:58 ID:Quk

「ごめんね、ありがとう。」
「何言ってんだ。友達、だろ?」
「うん…、ありがと。」
「謝り過ぎ。もっと楽に生きようぜ。」

自分の方を向いて、ぱぁっと効果音が付きそうな笑みを見せる。
楽しくて仕方が無い。
幸せ過ぎて仕方が無い。
だからこそ、怖かった。
これが一刻の夢だったら。
突然、終わりを告げたら。

「なぁに暗いカオしてんだ!まだ悩みでもあるのか?」

この黒髪の少年、いや、友達はどこまでお人好しなのだろうか。

「ううん。大丈夫。ただ、幸せ過ぎて怖いって思っただけだよ。」
「んな大袈裟な」

そうだよ。僕は嘘はつかない。
もっともっと強くなる為に。自分に素直になる為に。
幸せに、なる為に。

"君が笑ってくれるのなら、僕は消えてしまっても構わないから"

49:◆lU:2014/08/10(日) 20:24 ID:5A6

 そんな日々を送っていた、ある日。
 今日も村人からいじめを受けたのか、右腕と頬にあざを付け、よろよろと帰ってきたピコ。
 彼に駆け寄って治療をしていたルコが、ふと顔を上げ、思い切ったようにこう言った。
「なぁ、ピコ。もしよかったら、の話なんだけどさ、・・・」
 ピコは不思議そうにこちらを見る。しばらく迷っていたようだが、やっと言葉を綴る。
「僕と一緒に、この村を出ないか?」
 瞬間、ピコの顔に驚きが見える。そんなこと考えてもみなかった、とでも言いたげな、驚いた顔。
「町に行って、新しい生活を始めてみないか?環境が変われば、何ていうんだろう…色んなことをリセットできるような気がするんだ」
 少し、無理矢理な話だったかな、とルコは思う。
 実際彼は、ピコがこれ以上この村で迫害を受けるのを目の当たりにするのが耐えられなかった。自分が一緒にいても、止むことのない迫害。町でなら、少しでも薄れるかもしれない。そう思っての事だった。
「村を出る・・・か。それもいいかもしれない。町でルコと暮らして、そしてまた、君の引き立て役になる」
「・・・え?ピコ、何の話をしているんだ?」
「レイがさ、言ってたんだ。君が僕の側にいるのは、自分の美貌を際立たせる為だって。そして、ネツマ族相手でも分け隔てなく接することで、自分の優しさをアピールしているんだって」
 ピコの告白に、ルコは言葉が出なかった。自分は、そんなふうに見られていたのだろうか。
「もちろん、レイの勝手な推測だって思った。だけどさ、ルコ。それがまったくのでたらめだって言えるか?本当に、心の底から?」 
 ピコはさっきのままの格好で、笑っていた。だけどそれはいつもの優しい笑顔ではなく、ルコを、そして何より自分自身を責めるような、卑屈な笑顔だった。
「怖いくらいの美貌。屈託のない笑顔。透き通った綺麗な声。周りに元気を与える明るい性格。僕にないものを、君は全部持っている。そんな君がどうして僕に優しくしてくれるのか、嬉しかったけど、ずっと疑問だった」
 ピコは立ち上がると、ルコの胸倉を掴んだ。
「君は、僕に同情しているだけだったんじゃないか?自分より劣る男を哀れむことで、自尊心を満たしていたんだろう?」
「・・・違う」
「でも、僕はそれでもいいと思ってしまった。引き立て役でもいい、側にいたいって・・・」
「ピコ」
 誤解を解くための百の言葉を、ルコは飲み込んだ。今の気持ちはとても言葉では伝えきれないし、たとえ言っても、ピコにはきっと言い訳にしか聞こえない。
 その代わりに、ルコはピコを抱きしめた。前にそうした時よりも、強く、しっかりと。彼は一瞬だけ抵抗するそぶりをしたが、すぐに力を抜いて身を委ねてくれた。
 ピコの鼓動が聞こえてくる。自分の鼓動も、きっとピコに伝わっているはず。こうすれば、きっとお互いの気持ちをわかり合うことができる。
「なあ、ピコ。僕はピコのことが、好きだ」
 ピコは何も答えない。だけど、表情からは先ほどまでの卑屈さが消えていた。
「誰が何と言おうと、君は僕にとって、とても素敵な人さ。誰よりも、世界中の誰よりも、な」
 そう言うと、ピコはゆっくり目を閉じた。次に目を開けた時、そこから大粒の涙が溢れた。
 それからしばらく、ピコはルコの胸で泣き続けた。何も語らず、ただ全てを吐き出すように、ルコに身を寄せてわんわんと泣いていた。

「はい、これで顔を拭いて」
 ようやく落ち着いたピコに、ルコはそっとハンカチを差し出す。
「・・・ありがとう、ルコ。本当に、ありがとう」
 ピコは涙の跡を拭き取ると、次にこんなことを尋ねてきた。
「町に行くのはいいけれど・・・それからどうするんだ?」
「うーん、まだわからない。だけどまだお金はあるし、どんな生活でも大丈夫。ピコと一緒なら、さ」
「・・・やっぱり強いね、ルコは。僕は畑仕事以外、何もしたことがないし・・・不安でいっぱいだ」 
 弱音を吐きながらも、それでもピコは笑みを浮かべていた。
「でも、そうだね。大丈夫。ルコと一緒なら、乗り越えられる。僕だって・・・強くなるんだ」
 顔を寄せ合い、二人で微笑む。新しい生活への不安と、期待。そんな思いを、彼らはお互いに共有し合う。

50:時雨:2014/08/10(日) 22:41 ID:Quk

「ここかぁ………。」
「おお…、でかいな…。気後れしそうだ………。」
「こんな所で働けるんですか?」
「ああ、僕も心配になって来た…」
「なんか場違いと言うか。」
「まあ大丈夫だろ!」

そう。今日から僕達は此処で働く。
二人で生きて行く為に。
大きな屋敷に住む、商人の使用人。
少し心配もあるけれど、彼となら出来る気がする。
いや、出来ない事などないと言い切れるだろう。


* * *

「いつも頑張ってるな。」
「いえ!私達に出来る事をやっているだけですから!」
「そうか、頼もしいな。突然だが、今日屋敷に赤の国の王女がいらっしゃる。」
「「えぇえぇぇぇ?」」
「と、言う事で何時もより慌ただしくなるかもしれん。お前達の事だから安心している。」
「「はいッッ!」」

話を聞く限りでは、赤の国の王女はとても優しく、何時も民の事を考えているらしい。
時々商人などの屋敷来て、礼を述べたりするらしい。
商人の裕福な人々だけで無く、一般の民衆の家へも行くらしい。

「とても腰が低いんだな…。」
「噂によると、とても綺麗な声をしているんだって。あと、綺麗な赤褐色の髪。」
「どこも綺麗なんだな…。」
「取り敢えず、迷惑と失礼は無い様にしないと!」

51:ひすい◆lU:2014/08/11(月) 22:55 ID:b7Y

「ルコ、ピコ。ちょっといいかしら」
 メイド長に呼ばれたのは、ちょうど洗った洗濯物を干している最中だった。
「先ほどテト姫がいらしたの。お給仕をお願いできる?」
「僕たちが、ですか?」
 本来なら、来客への給仕は執事が担当するはずのなのだが、彼は主人の付き人として、一昨日からルシフェニア王国へと出向いていた。何でも会議がなんだとか。
 「あなたたちなら信頼できるって、御主人様からの御使命なの」
 メイド長は不思議そうな顔で僕らにそう言う。あの時お前達なら信頼できる、と言われたのは事実だったようだ。
 一通り給仕のマナーについて教わり、茶器ののった盆を持つ。
「もうじきご主人様がお帰りになるから、それまでの間よろしくね。決して粗相のないように」
 そうは言われても、給仕など初めての経験だ。緊張しながら応接室の扉を開け、中へ入る。
 初めて、二人は王族というものを見た。この国にも裕福な貴族は沢山いるが、何と言うか、彼らとは比べ物にならない空気をまとった、美しい赤の髪の女性が隣に控える従者であろう男性と何やら話していた。
「失礼いたします。お飲物とお茶菓子をお持ちしました。主人はじきに戻りますので、少々お待ちください」
 ルコは音を立てないよう注意しながらテーブルに食器を置き、お茶を注ぐ。続いてピコがお茶菓子を置き、部屋から退室しようとしたとき。
「待って?」
 不意に彼女が口を開いた。
 自分達を引き留めていると気づいた二人は、何かミスでもしてしまったのかと慌てて振り向く。
 しかし、彼女は笑顔を絶やさずにいた。
「あなたたちは、ここの使用人さんよね?」
「はい・・・」
 ルコが不安そうに答える。
「若いのに偉いわ。お時間があるなら、もう少し私と話していかない?」
「は、はぁ…」
 ピコが心配そうにルコを見る。何故彼女が彼を――ルコを引き留めたのか、その答えを二人が知る日は近かった。

52:時雨:2014/08/12(火) 22:51 ID:Quk

若いのにって、彼女も全然若い筈。
と言うか、彼女の方が若い気がする。確か16だったか。
若い……の前に子供らしい。笑いながら自分達に話し掛ける姫は、歳相応の笑顔を見せていた。

「私、一生懸命働いて生活している人々が大好きなのです。心の美しさが見えるのですかね。
だから私も、城で手伝える事を探してるのです。…尤も、役に立た無いと思いますが…。」

自分の中での王族のイメージが変わった瞬間だった。
王族と言うのは、何でもかんでも下の者にさせる我儘な人種だと思っていた。
それが、こんなにも違うのだ。
働く事を尊敬出来る人。
隣に座っていたピコも、驚いた顔をしていた。

可愛く、綺麗に微笑む。
美しいものを美しいと思える。
周りを惹きつける、暖かい雰囲気。

全てに、惹かれていった。
美しいと、思った。

自分は何を考えているのか。
相手は一国の姫だ。
一転して、こちらはただの使用人。
本当に、何を考えているのか。
叶う筈の無い事を、こんなにも望んでしまうなんて。

53:ひすい◆lU:2014/08/12(火) 23:24 ID:d7w

 御主人様が帰ってきて、二人は部屋から追い出された。
 ピコはまだ仕事が残っていたようだが、ルコは給仕の前に終わらせていたようで、先に休んでいる、とピコに伝え使用人控室へ言った。
「はぁ…」
 ぽすんとソファに座り込む。先程の姫の顔が脳裏に浮かび上がった。美しく、可愛く、優しいあの少女。恋愛に疎いルコでも、彼女への惹心は確かに抱いていた。
 使用人控室には、いくつかの絵画が飾られていた。主人のコレクションの一部だ。ルコは何とはなしに絵画を眺める。その中に一つ、何故だかとても惹き付けられる絵があった。
 その油絵は、ほかのものと比べるとかなり控えめの色使いがされていた。海岸に金髪の少年が微笑んで立っているという穏やかな絵なのだが、何だか奇妙な禍々しさと、ほんの少しの悲しさを感じた。絵の下部には作者のサインが入っていた。随分と前に書かれたもののようで、文字が擦れていて、よく読めない。
「テト=エルフィン。私の名前よ」
 背後から作者の名前を教えてくれたのは、いつの間にか部屋に入ってきたエルフェゴート王女、テト姫だった。
「テト様!?な、何故ここに!」
「今日は御礼を伝えるだけだったから、早くお話しが終わったの。この部屋のドアが空いていて、中にあなたがいたから」
 そう言って微笑む彼女。何だか今まで経験したことのない気持ちが湧き上がる。
「この絵はね、私が幼い頃に描いたものなの」
 どこか懐かしそうに、テトは語り始める。その表情は穏やかだった。
「もう五年・・・いいえ、六年は前かしら。十歳だった私は、その頃絵描きになりたいと思ったの。夢のためなら王室を出ることすら考えていたのよ。あなたたちの御主人様と出会ったのもたしか、その頃だったかしら」
 正直、意外だった。確約された未来があっても、自分の夢のためにそれを捨てる覚悟を持っているなんて。それに主人と彼女が昔からの知り合いだった、と言うところもルコにとっては驚きだった。
「まあ、お父様の差し金で潰れてしまったけれどね。お父様は画商や評論家に手を回して、徹底的に絵画界から私を排除した。もう、戻れないほどにね」
「そんな・・・」
「そもそも王位継承順位が画家になるなんて、とんでもないことだそうよ。・・・お母様が暗殺されて、私はそれまでに描いた絵をほとんど焼き捨てた。・・・今でも残っているのは、ここの御主人様が買い取ってくれたこの絵くらいでしょう」
「・・・テト様は、御姫様でいることが嫌なんですか?」
「そんなことはないわ。姫と言う立場には誇りを持っている。私の言葉一つで民が救われることもあるし、苦しむこともある。責任重大で、同時に何も代え難い素晴らしい仕事だとも思っているもの。でも・・・時々、考えてしまうの。私が歩んでいるのは、すべてお父様が敷いたレールの上にすぎないのではないか、私はただの、お父様の操り人形ではないのか、と。私のことは私が決める。そう常々思っているのだけれど・・・中々上手くいかないものね」
 彼はその時再び、何とも言えない違和感を覚えた。何だろう、この感じ・・・。身体の根っこが粟立つ感覚に、無意識に両腕をさする。
「・・・今までも、すべてを捨てて逃げ出したくなる時があるわ。姫であることを辞め、平民に混じって慎ましく暮らす。愛する夫や子供たちに囲まれて、ね」
 そこまで話して、テトはルコの顔をちらりと見た。
「その時に、・・・あなたのような人が横にいてくれたら、最高なんだけど」

54:ひすい◆lU:2014/08/12(火) 23:27 ID:d7w

耳まで真っ赤にして、彼女が言う。その様子を見ていると、先ほどまでの変な感じが薄れていった。可愛いな、と思ってしまう。
「テト様は、僕のことを愛してくれているのですか?」
「う・・・率直にものを言うのね、あなた」
 ルコの言葉に不意をつかれたのか、テトは少し言いにくそうに、それでもはっきりと言ってくれた。
「そうね。あなたのことが、好きよ。先程会った時から、ずっと――だからあの時あなたを引き留めてしまったの」
 そんなテトの様子を見ながら、ルコはテトのことについて考える。もし自分が恋愛に詳しい男性だったら、彼女にこんなことを言われたら喜ぶだろうし、恥ずかしくなるだろうし、もしかしたら「何故自分が」と困惑したり、怒りだしたりするのだろう。
「お気持ちは嬉しいのですが、僕には、人を愛するということがわからないのです。なのでお返事はできません。ごめんなさい」
 ルコは正直に答えた。テトの想いを適当にあしらうのは、彼女に対してとても不誠実になると思ったからだ。
「愛することが・・・わからない?」
「はい。僕は今まで、恋をしたことがないのです。愛とは・・・いったいどういうものなのですか?」

「ううん・・・難しい質問ね」
 下手すると「馬鹿にしてるのか」と怒られそうな質問だったにもかかわらず、彼女は真剣に考えてくれた。
「ルコ、あなたは親兄弟、家族のほかに、大切に思っている人はいるかしら?」
「・・・はい、います」
「その人が何か大変なことに巻き込まれた時、守ってあげたいと思う?」
「はい、もちろん」
「そう。ではその人と、ずっと一緒にいられたら嬉しい?」
「はい」
「その相手が、あなたとはもう一緒にいたくない。ほかの人がいいと言ったら、それを受け入れられるかしら?」
 今まですいすいと答えられたのに、その質問には少しだけ、胸が痛む。
「・・・いいえ。受け入れたいとは思いますが、無理だと思います」
「なら、あなたはその人を愛しているのかもしれない。私の持論にすぎないけれど、愛とは我が侭なものだと思う。相手が欲するものを与えたいと思う反面、相手のすべてを欲しいと思わずにはいられない。相手の目がほかに移れば嫉妬もする。友情ならば、どこか遠慮が伴うもの。友情と愛情の違いはそこだと、私は思うわ」
「なるほど・・・。んー、だけど、」
「なあに?」
「その相手って、男性なんですよ」
「・・・あらあら」
 テトは空を仰ぐ。ルコが思い浮かべていたのは、ピコのことだった。
「うーん、愛は異性間にだけあるものとは限らないということか…。私もまだ恋愛に関しては未熟のようだわ」
「そんなことはないです。少なくとも僕よりは御存知かと」
「・・・ルコ」
 テトは懐から小さなルビーのペンダントを取り出し、ルコの胸に付けた。
「私の汚れない愛の証よ。受け取ってくれると、嬉しいわ」
「・・・僕には受け取れません」
 もし自分が王族だったら、彼女からの贈り物を喜んで受け取っただろう。でも、自分はそれができない一介の使用人だ。
「エルフェゴート姫からの贈り物を無下に断ってもいいのかしら?」
 テトは鼻をふふんとならすと、冗談めかした口調で言う。この人は赤面症なのかな、まだ頬が赤い。
「急に権力を笠に着てきましたね」
「なんてね。ふふ、気分を悪くしたのならごめんなさい。私はあなたのことがもっと知りたいの。まずは友達としてでもいい。仲良くしてくれないかしら?」
 眉を下げたまま、いたずらっぽく笑う。ルコは胸に付けられたペンダントに触れた。
「ええ、友達としてなら、かまいませんが」
「あらあら、エルフェゴート姫を友達扱いとは大きく出たものね」
「・・・怒りますよ」
「ふふふ、冗談よ。これからも、よろしくね」
 そう言い残し、彼女は晩餐会へと戻っていった。

 

55:ひすい◆lU:2014/08/12(火) 23:27 ID:d7w

少し休んだら疲れも取れてきたので、会場に戻ろうと部屋を出ると、そこにピコが立っていた。
「ピコ?どうかしたのか」
「・・・さっき、ここにエルフェゴート姫がいたよね。二人で何してたんだ?」
「え?少し話をしていただけだけど」
「へえ・・・そのペンダントは?」
「ああ・・・彼女から貰ったんだ」
「はっきり言って、ダサいよ、それ」
 ピコは見るからに不機嫌だった。彼らしからぬ嫌味な物言いに、ルコは驚いてしまう。
「ピコ、どうしたんだ?」
「ねえルコ、あまりほかの人と仲良くしないでくれないかな」
「え・・・どうしてだ?」
「怖いんだ。ルコが遠くに行ってしまいそうな気がして、とても怖くなる・・・僕のことだけを見ていてほしいんだ」 
 眉間にしわを寄せて、泣きそうな顔になるピコ。何がそんなに怖いのだろう。自分はここにいるのに。
「・・・ごめん、変なこと言って。今のは忘れてくれ」
 そう言うと、彼はルコに背を向けて走り出した。

 ルコはテトが先ほど言っていた言葉を思い返していた。
「愛とは我が侭なものよ。相手が欲するものを与えたいと思う反面、相手のすべてを欲しいと思わずにはいられない。相手の目がほかに移れば嫉妬もする」
 まさに今のピコに当てはまる言葉だと思った。
 まさか・・・な。

56:時雨:2014/08/13(水) 18:22 ID:0EQ

ルコside
赤き姫が屋敷に訪れてから、一週間が経った。
今日は姫と2人で街の様子を見に行く約束をしていた。
ピコの事が少々不安だったが、まあ上手くやるだろう。

ルークside
昨日、テト姫が我が国に来た。
前々から好いてはいた。
美しく、明るく笑う彼女が好きだった。
何よりテッドの妹だ。俺とは血の繋がりは無いが。
しかし、俺の前に立った姫は俺の目を見据えてこう言った。

「私は、私の意思で生きます。
私は誰の言いなりにもならない!」

畜生。兵の噂によれば、黒い髪の背が高い男らしい。
とある裕福な商人の"使用人"として。
何故だ。何故そんな薄汚い奴を好きになった。
俺には分からなかった。
だからこう命じた。

「黒い髪…、ルコという男を殺せ。」

丁度良い。今日は姫と奴が出掛けるらしい。
姫には残酷だが、見せ付けてやらなければ。

テッドside
俺の妹だ。
誰かに縛られる事を最も嫌うだろう。
だがテトはこれから訪れる不幸を知らない。
それが彼女の為になるから。
たった一人の、本当の肉親なのに。
幸せになって欲しいのに。
俺はなんて都合が良いんだ。
俺はルーク様と偵察に行こう。

ルコside

「では行きましょう!最初は農家です。何時も美味しい野菜を届けてくれるのです。」

本当に民思いだ。こんな王族が他にいるだろうか。
話していると、やはり惹かれていくのが分かる。
信頼されるのも当たり前だろう。
楽しそうに笑う彼女に目を奪われていた。
だから、周りの事なんて目にも入っていなかった。

「こっちに行くと……あ…………ッッ‼︎‼︎」

何が起きたか分からなかった。
いきなり姫が突き飛ばして来た。
突然の事に体が付いて行かず、思いっきり尻餅を付いてしまった。

「…………え」

目の前には、さっきまで隣で笑っていた姫。
違うのは着ていた服が、胸の辺りが、

紅く濡れていた事だった。

「…………姫……?」

話し掛けても、揺さぶっても、ぴくりとも動かない。
長い睫毛に縁取られた瞼は開かない。

「姫、姫姫姫。起きて下さい。目を開けて下さい。
冗談は嫌いですよ。ねぇ。聞いていますか?ほら、農家行くんでしょ?街を散策するんでしょう?
ねぇ、起きて下さいよ。」

何度話し掛けても、答えは返って来ない。
嗚呼、彼女は殺されたんだ。
きっと、僕を庇ったんだ。
自分の命より、僕の命を守ろうとしたんだ。

「あ、あ…あああああぁぁああッッ‼︎‼︎‼︎」

目の前で、人が殺された。
理由も分からないまま。
自分は、彼女を守れなかった。

57:時雨:2014/08/13(水) 19:00 ID:0EQ

テッドside

何故。
何故そうなった。
そのまま行けば、ルコという男が殺されていた筈だ。
何故だ。何故テトが死ななければいけない。
テトを誤って殺した兵は、既にその場に居ない。
俺は隣で目を見開いているルーク様を置いて、ふらふらと息絶えたテトの元へ行った。

「…………テト。…テト。お前、幸せだったか?
……違うよな、そうじゃ無いよな。もっと、生きたかったよな。ごめんな。ごめんな。
………守りたいものがあったんだよな。…………ごめんな………。」

最後は涙混じりで上手く言えなかった。
口から出る言葉はごめんな、と謝るものばかり。
でも、何より言いたい事がある。
王族として生まれながら、不幸な道を辿ってしまった俺を、何時も心配していた。
家族として、愛していた。

「ごめんな、あと」

"ありがとな"

ルコside
もう、何がなんだか分からなくなった。
すると、物影から人が出てきた。
美しい赤い髪が、少し巻いている。
膝裏までありそうだ。
端正な顔立ちをしていて、何処かテト姫に似ていた。
違う。似ているんじゃ無い。同じなんだ。
よく見れば、鮮血の様な色の目。
生まれつきであろう、巻いた髪。
白い肌。
整った顔立ち。
何か姫に話し掛けている。
テト、と呼びながら涙を流していた。
そこで確信出来た。
彼はきっと姫の兄だろう。
彼は姫をそっと横抱きして、立ち去った。

ルークside
何が起きたのか。
愛しいものが死んで、憎き愚者が生きている。
気がつけば、テッドが居なかった。
テト姫の側で、何かを呟いている。
悲しいのだろう。哀しいのだろう。
当たり前だ。血の繋がった兄妹だ。
テッドが姫を抱えて戻って来た。
今日は城でテッドと語り合おうか。

58:時雨:2014/08/13(水) 19:17 ID:0EQ

「……すみませんでした。」
「貴様……ッッ‼︎」

王座の間でルーク様とテトを殺した兵が話している。
兵はその気は無かった筈だ。
首切りは免れるだろう。

「何の罪も無い姫を……‼︎おのれ…」
「…ッッ‼︎そもそも黒髪の男も罪は無かった‼︎
お前の所為だ‼︎お前の所為でこんな事になった‼︎お前の所為だ‼︎
お前が死ねば皆が幸せになれる‼︎」

兵が腕を振り上げる。その手には鋭利なナイフ。
テトを殺すのに使った、あの切れ味の良いナイフだ。
気が付けば、身体が動いていた。

「テッドッッ‼︎‼︎‼︎」
「……テッド様…」

ドスッッ…

鈍い音が響いた。
俺の腹に熱い様な痛みが走る。
深々とナイフが刺さった所から、赤黒い染みが広がる。
痛い。
熱い。

「おいッッ‼︎しっかりしろ‼︎おい‼︎」

ルーク様の焦った声が聞こえるが、もう既に身体は言う事を聞かない。
俺は死ぬのか。
テトも、こんな痛みを味わったのか。
女の身には辛かっただろうな。
何か温かいものに包まれて、そのまま意識は沈んでいった。

59:ひすい◆lU:2014/08/14(木) 16:22 ID:ceI

――姉が死んだ。妹も死んだ。


高熱の身体のテッドが目覚めたのは、それから三日後のことだった。

ぼんやりと、見慣れぬ天井が目に入る。自室ではない。それよりもっとずっと豪華なその天井。
起き上がろうと身体に力を入れるも、腹の激痛により拒まれる。
「っ、はぁ…」
額に汗が滲む。どうやら傷は思ったより深いようだ。
「・・・」
段々と思いだされてきた記憶。ルーク様は――無事だっただろうか?
そしてこの部屋に置かれる絢爛豪華な調度品や絵画の数々。ここは・・・
(ルークの、部屋・・・?)
ということは今自分が寝ているベッドは、ルークの――
「――っぁっ!?」
慌てて飛び起きようとすると更なる痛みが走り、声にならない悲鳴を上げ腹を押さえる。
霞む瞳でベッドに目をやる。自分のであろう血液が点々と付着していた。
何故自分はルーク様の部屋で寝ているのだろう。それよりベッドを汚してしまった――謝らなければ。
丁度部屋の戸が開き、ルークが入ってきた。彼はテッドを見ると少し驚いたような表情を見せる。
「意識が戻ったか」
「っ、ルーク王子」
返事をする間でもなくテッドは頭を下げる。何のことかと困惑するルークに対し、あの後の事情を問いだす。

ルークによると、あの後自分はかなりの瀕死状態だったが優秀なルシフェニア医師により、一命を取り留めたようだ。
玉座の間から一番近かったのが此処、王室だったようで、ルークは迷わず其処にテッドを寝かせるよう命を下した。
テッドにとっては妹、そしてルークにとっては愛人に値するテト。彼女を殺した上、主へ牙を剥かせたあの兵は当然ながら首を刎ねられた。
自分が刺された後、ルークは剣を引き抜いた。弟へ致命傷の傷を負わせた兵に対し、王子はかなりの凄腕で切り付けたようだ。そして斬首された兵。
結果的に言えば、自分は主に守ってもらったのだ。自分が守らなくてはならない立場だというのに。
「・・・ルーク様。御迷惑をかけて、申し訳ございませんでした」
素直に頭を下げるテッドに、ルークは微笑みかけた。そして彼も頭を下げる。妹を殺してしまい悪かった、と。殺したのはルークではないのに。

姉と妹が死んだ今、自分に残されるたった一人の兄弟。
テッドを守る為、俺は――――――

傷が原因か再度高熱が出たテッドは、何も出来ぬ無力な自分を呪いながら眠りについた。

60:時雨:2014/08/14(木) 18:19 ID:MKc

テッドが再び眠りに付いた後、ルークはそっと部屋を出た。

(かなり傷が深かった…。)

自分を守って刺されたテッド。
その時、あの光景が鮮明に脳裏に甦った。
好意を寄せていたテトがルコを庇い、死んだ時。
また、死んでしまうかもしれない。
また、失ってしまうかもしれない。
大切な人を。
自分にとって大事なものは、すぐに自分を置いていく。
自分の前から消えて行く。
だから、幼い自分は考えた。
弱い頭で考えて、考えて、考えた。
そして出た結果がこれだ。

大切なものを、作らない。

そうすれば、自分が傷付かずに済む。
全てを裏切れば良い。
裏切られる前に裏切れば良い。

それでも、唯一出来なかった事。

弟のテッド。

何時も何時も俺の心配をしてくれる。
安らぎを与えてくれる。
心の闇を察し、分かってくれる。

今、自分が一番守りたいもの。

目の前でテッドが刺され、腹から血を流した。
生と死の境を彷徨った。

どれ程願ったって、どれ程祈ったって、テトは返って来ない。
テッドにテトを重ね合わせているんじゃ無い。
ただ、大切だから。

笑っていて、欲しいから。

61:ひすい◆lU:2014/08/14(木) 21:23 ID:ceI

 ♦メイト 〜ルシフェニア王国「迷いの森のアジト」にて〜迷いの森に作られた、レジスタンスのアジト。
 ここを使うのは、今日が最後になる。
 メイトはアジトの扉を、決められた回数、ノックする。
「誰だ?」
 アジトの中から声がする。
「メイトだ。開けてくれ」
 扉が少しだけ開き、仲間が顔を覗かせる。外にいるメイトの姿を確認すると、扉が完全に開く。
「お疲れだな」
「おう、みんな集まってるぜ。どうだ。まずは一杯?」
「・・・終わってからにする。全てが終わってから」
 アジトの中にはメイト以外に、五人の男女がいた。みんなメイコを慕っていた、町人達だ。
 メイトはメイコが殺されたあの後、ルシフェニア革命を起こすべくレジスタンスを製出した。そして直後に起こったエルフェゴート姫の暗殺。
「最後の確認をする。まずは人数」
 一人が答える。
「十分すぎるほど集まったよ。ルシフェニアだけじゃない、エルフェゴートの民も」
「物資の方はどうだ?」
 今度は女性が発言する。
「エルフェゴート王朝様々よ。革命軍全員に武器がいきわたると思うわ。それに・・・」
 十分に足りた物資、人数。準備は全て整った。あとは・・・どうしても一つ、気がかりなことがある。
「なあみんな。前にも頼んだことだけど、テッドのこと・・・」
「ああ、お前の義理の弟か。」
「やっぱり、事前に王宮から連れ出すことはできないか?あいつを巻き込みたくはないんだ」
 副幹部の男性は考える仕草を見せた後、残念そうに答える。
「・・・無理だ。それはできない。王宮に情報が漏れる恐れがある」
「テッドは正義感の強い奴だ。きっと、俺達に協力してくれるはず・・・!」
「エルフェゴートからの情報なんだが、どうもテッドと王子は、通じてる節があるそうだ。まあ、しばらく長くいれば忠誠心だって本物になっていくからな」
「そんな・・・」
 テッドがあの『悪ノ少年』を・・・!?メイコのことも知っているはず。なのに・・・何故?
 いや、考えるのはよそう。テッドにはメイコ譲りの剣の腕がある。いざとなれば自力で王宮を逃げ出すだろう。俺はテッドを信じて待てばいい。

 ♦テッド 〜ルシフェニア王宮内「天国庭園」にて〜
 庭園では、ルークがリントと、午後のティータイムを楽しんでいた。
 ルークは、気まぐれに身分の違う使用人たちとも気さくに接したりする。
「リント、お主はよく最近仕事をさぼって王宮を抜け出すようだが、何をしておるのじゃ?」
「え、あ!?いえ、ぼ、僕は・・・ただちょっと・・・友人に会いに・・・」
「ほう、それは誰じゃ?女か?」
「い、いえ、そういうわけじゃ・・・」
 談笑する二人。こうして見ていると、ルークも普通の男の子だ。
 この優しい兄が、どうしてあのような残酷な命令を下せるのだろう?
 遠くから、大教会の鐘の音が聞こえる。一回、二回、三回・・・
「ああ、おやつの時間だな」
 テッドはルークに近寄った。ルークは驚く顔を見せる。
「!?ルーク、傷は・・・」
「もう大分良くなりましたので。このような仕事ならさせていただきます」
正直、結構歩くのも辛かったのだが、兄の為に休んでなどいられない。
 
 テッドは用意していたおやつを、テーブルの上に置く。
「今日のおやつはブリオッシュでございます」
 君は笑う。無邪気に笑う。

62:ひすい◆lU:2014/08/14(木) 21:24 ID:ceI

↑間違い発見。
「!?テッド、傷は・・・」でした!

63:るーら◆yc:2014/08/15(金) 03:13 ID:mPA

わぁ凄いっ!!
私もテト大好きです!!
毎日コメント書かせてもらっていいですか?!

64:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 11:00 ID:xqw

わぁっ!!
初めてのコメントすっごい嬉しいです!!(≧∀≦)
毎日コメント・・・夢のようです!!w
私の文は駄文ですけど温かく見守ってくれると嬉しいです!!

65:時雨:2014/08/15(金) 11:18 ID:0w2

るーらさん!
ああ夢のまた夢が現実になった瞬間です………(泣)
毎日コメ下さるんですか……。
有難いですね(泣)
私なんかただの邪魔虫なのに…
此処のスレ主のひすいは文才の塊ですよ!
見てたらわかりますね(泣)
これからもよろしくお願いします!

66:時雨:2014/08/15(金) 11:42 ID:0w2

メイトside

結局、昨日はあまり纏まらず解散してしまった。
町の市場では、人々が賑わっている。俺はこの光景が好きだった。
メイコが愛した町。都会とは言えないし、美しい訳でも無い。
だけど、民衆の心の暖かさが分かるのだ。
それを粗雑に扱う城民が憎らしい。
今、テッドはどうしているだろうか。"悪ノ少年"に良い様に使われていないだろうか。

「あ……!」

黒い服を纏い、赤く長い髪を一つに括った男。
テッドだ。
"悪ノ少年"の召使。俺の、弟。
久しぶりに会う事もあり、声を掛けようとして驚いた。

「お前は城民だろう!」
「私達の苦しみも分からないくせに‼︎」
「悪ノ少年は何をしているんだ‼︎」
「殺してやるッッ‼︎」

普段の穏やかな人々が豹変していた。
何人もの人が包丁やナイフを振り上げる。
そうだ。テッド達城民は町に受け入れてもらえない。
男のナイフがテッドの肩口を貫く。
しかし、テッドは微動だにしない。
俺は驚いた。
テッドならば、楽に避けられると思ったから。
違う。テッドは避けようと思っていない。
当然の報いだと、覚悟しているんだ。
赤い髪と同じ色の血が吹き出すのを見て、我に返った。

「ッッやめろ‼︎」

こちらを振り返ったテッドの顔は、驚く程血の気が失せていた。
確かに今、血を流したばかりだが、それだけだろうか。
最近、血を流す出来事があったのだろうか。

"悪ノ少年"の所為だろうか。

67:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 18:13 ID:1Tg

〜テッドside〜
カーン・・・コーン・・・カーン
 三回鳴る鐘の音、おやつの時間だ。
 ここ最近は、日が沈むのが早い。まだ三時だというのに、もう夕焼けが見え始めている。
 昼と夜、その二つを繋ぐ夕焼けの空が、今日はやけに赤く見える。
「世界の終わりでも、近づいておるような空じゃな」
 おやつのがレットをほおばりながら、ルークがそんなことを口にした。
 歯車は廻り始めている・・・ならばその運命を変えることは、もうできないのだろうか?
 俺にはもう、何が正しくて、何が間違っているのか、よく分からなくなっている。
 俺達双子のせいで、多くの人達が命を落とした。
 戦争は未だ続き、国は荒れ果てている。 
 いつか、報いを受ける時が来るのかもしれない。
 それでも俺は、守り続けると誓ったんだ。この哀れな、ひとりぼっちのルークを。



 




・・・・・・・・・あれ
 ひとりぼっちなのは、彼?

 それとも・・・俺か?


〜メイトside〜
革命当日。酒場の近くの広場には、多くの人達が集まって来ていた。酒場の中にいた人達も全員外に出ている。
俺は、人々の前に立ち、剣を天高く掲げる。
 歓声が上がる。
「お前たち!時は来た!」
 俺が声を上げると、歓声はさらに大きくなる。
「我々は、ずっと苦しめられ続けてきた!貴族たちに!あの忌まわしき王子に!だがそれも今日で終わる!今日が全ての終わりであり、全ての始まりなのだ!お前たち!お前たちに戦う勇気はあるか!?」
『オオオ――――――――ッ!』
「お前たちの盾は、何のためにある!」
『最愛の家族を守るために!』
「お前たちの鎧は、何のためにある!」
『この国の真の平和を守るために!』
「お前たちの剣は、何のためにある!」
『悪ノ少年を討つ為に!』
「行くぞ!同胞たち!革命の時は来た!」
『オオオオオオ――――――ッ!!』
 ひときわ大きくなる歓声。
 そして・・・
 革命は、始まった。

68:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 19:28 ID:1Tg

 〜メイトside〜
 正門を通った先には、広大な庭園が広がっていた。
 巨大な噴水から湧き出る水。英雄をかたどった彫刻。その豪華さは王国の栄華の象徴ともいえる。
 『天国庭園』と呼ばれるこの庭園で俺たちを待っていたのは、王宮の精鋭騎士たちの必死の抵抗だった。
「ルシフェニアの騎士たちよ、もはや大勢は決した!大人しく投降せよ!無駄に命を散らすな!」
「黙れ!この逆賊どもが!」
「ルシフェニアの騎士道精神、その目に焼きつけるがいい!」
 俺の勧告にも、彼らは聞く耳を持たない。何が彼らをそうさせるのか?お前たちの主は、その忠誠心を捧げるに値する人物なのか?
 数ではこっちが圧倒的に有利だ。だが屋内ではその数の利を十分に生かすことができない。ならば・・・
「突撃体制をとれ!」
 革命軍は、陣形を横陣から、中軍が前に突き出た形に変える。一極集中により、騎士団の陣営に穴を開けるのだ。
「行け!突撃!」
 必死なのは敵も味方も一緒だ。こちらの猛攻撃により、騎士団の陣形の一角が崩れる。チャンスだ!あそこを突撃すれば・・・。
「ぐわっ!」
 先陣を切っていた革命軍の兵が倒れる。一人ではない。二人、三人、四人・・・何人も、次々と。
「残念だな。ここを突破させるわけにはいかないのさ」
 そこに立っていたのは一人の男。騎士ではない。その身にまとっているのは・・・使用人服?「どけぇぇぇ!」
 使用人服の男に襲いかかる革命軍の兵たち。だが・・・屈強の男たちが、その細い体つきの男性にあっさりと打ち倒されていく。
 彼の手には二本のナイフ。それがまるで曲芸か魔術かのように飛び回る。いや、実際にナイフが宙を舞っているわけではない。彼のあまりにも機敏な動きによって、そう見えるのだ。
 ある者は首を、またある者は腹を、的確に急所を搔き切られ鮮血を上げる。その鮮血は彼を染める。その姿はまるで悪鬼のようだ。そして、その悪鬼は俺につぶやく。
「若者は強いのさ。君と同じようにね、メイトくん」
 彼は、どこかで見たことがある。そう、ルシフェニアの使用人長・・・!
「我は使用人長、ミクオ=フタピエ!ルシフェニア騎士団よ!お前たちの比類なき忠義、我に示せ!!」
 ミクオの見せた圧倒的な力に、一度崩れかけた騎士団の士気が再び盛り返してしまった。なるほど、この騎士たちの忠誠心、それは彼に向けられたものだったのか。
 まずい、このままでは庭園を突破できない。
 その時・・・。

―――ドゴンッ!―――

 鈍い音と共に、数人のルシフェニア騎士が宙を舞う。それはまるで何か爆発したような・・・そんな光景だった。

―――ドゴンッ!ドガンッ!―――

 また吹き飛ぶ騎士たち。次々と、何人もの兵が宙に舞い上がり、地面に叩きつけられていく。何だ?何が起こっているんだ?その中心にいたのは、巨大な剣を携えたフードの少年。
「 彼は確か、ルシフェニアの使用人。何故彼がここで戦っているかはわからない。だが――、
 彼は俺に視線を向けると、王宮を指さした。今のうちに王宮に突入しろというのか?
「よし、行くぞ!」
敵の陣を抜けるべく、再び突撃体制に入った。
「させるか!」
 それを止めようとするミクオ。だが次の瞬間、巨大な剣が彼の元に振りおろされた。
「チッ」
 慌ててミクオは身をひるがえす。その隙に一つの軍は敵陣を突破し、王宮に向かっていった。
 俺もそれに続くべく、自分の軍に突撃体制をとらせる。あいつがミクオを引きつけている今のうちに、突破する!
「王宮へ突撃!この機を逃がすな!!」
「おのれ・・・何者だ、お前は!」
 ミクオは叫ぶなり、二本のナイフでフードの少年に襲いかかる。危ない!
「ひゃっ!」
 すんでの所でかわしたようだ。だが、彼がまとっていたフードはズタズタに引き裂かれてしまった。もはや布切れと化したフードを、彼は脱ぎ捨てた。
あらわになった顔を見て、ミクオの表情が一変する。
「そんな・・・何故お前が・・・革命軍に!」
 俺も突破に成功した。対峙する二人を横目に、俺は王宮へ駆けていく。
 ミクオは、明らかに狼狽していた。
「何なんだ、これは・・・神だ、お前は一体、どこまで・・・」
 神・・・そんなものがもしいるのなら、俺も祈る。可愛い幼馴染の勝利を!
「・・・召使い対決だ。勝負だ、使用人長!」
 頼む、生き延びてくれ、リント!

69:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 19:39 ID:1Tg

 〜テッドside〜
 俺にできることは何だろう?
 ミクオ達と共に戦う?
 それもいい。だが、できることは他にもあるはずだ。
 俺にしかできないこと、それは――
 俺は回廊を駆けた。
 ルークを探すために。

 ルークは、自分の部屋に一人でいた。
 一人で、椅子に座っておやつを食べていた。
「お味はどうですか?ルーク様」
 俺は彼に訊ねた。
「少し甘みが強いな。ブリオッシュは薄味の方が好みだ」
 ルークの口に合うよう練習したかったが、今となってはそれも叶わぬ願いだ。
「お前は…逃げないのか」
 食事の手を止め、今度はルークが俺に訊ねてきた。
「私は逃げません」
「そうか。だが・・・おそらく、捕まったら殺されるぞ。俺の行いを考えれば・・・民は俺たちを、許しはしないだろう」
 ルークは食事を再開しようとする。しかし、手の震えが止まらず上手くいかない。しまいにはフォークを床に落としてしまった。
「テッド・・・俺の手を・・・握ってくれぬか」
 俺はルークの手を両の手のひらでそっと包み込んだ。
「・・・逃げろと言っても、お前は聞かないだろう。だが俺はお前に――生きてほしい。だから、生き延びてくれないか」
そう言って、ルークは俺の顔を見ると優しく、そして美しく微笑んだ。
そして。
「テッド、俺は・・・父上のような存在を目指していた。優しさと共に気高かさを持った彼を」
「・・・」
「父上は、誰にも自分の弱さを見せはしなかった。国が危機的状況になり、近臣達が寝返った時も、一人で国を支える為、強くあろうとした。だが父上は、厚い信頼を持っていた。強い支配者として、尊敬も持たれていた。だから、俺は父上の真似をしようとした。誰にも媚びぬ、我を突き通す強い王になろうとした。・・・だが駄目だった。俺はまだ子供だった。父上の真似さえも出来なかった」
俺はただ黙って、彼の話に耳を傾ける。
「俺は独り、それでも良いと思っていた。だがテッド、お前は・・・最後まで俺の為に尽くしてくれた」
「ルーク様・・・」
「ありがとう、テッド。最後にそれだけは言っておきたかった」
 大丈夫、大丈夫だよ、ルーク。俺が君を守るから。決して死なせたりしない!
 俺は、包み込んでいた彼の手を握りしめた。
「ルーク様、私は今まで、あなたの願いを何でも叶えてきました。だから・・・」
 君を守る為ならば、俺は・・・!
「今度は私の願いを、聞いてもらえますか?」

70:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 19:48 ID:1Tg

〜リントside〜
 あの後、ルシフェニア兵との接戦が続いた。やはり、王宮兵となると強かった。
 ――この世界の為、ルシフェニアはもう滅ぶべき国だ。今まで仕えてきた仲間に刃を向けるのは気が引けたが、僕は革命軍に参加した。
 ミクオを倒して間もなく、王宮内の『音の間』で、王子を捕えたとの報告が入った。
「よし、王子の所へ行こう!」
「リント!お前は駄目だ!さっきの戦いで体中ボロボロじゃねえか!これ以上動くと死んじまうぞ!」
「うう・・・」
 幹部に制止された。
「あの、幹部さん・・・」
「わかってるよ、リント。王子は殺しはしない。奴は民衆の、みんなの前で処刑してやらなきゃな。お前はその目が治った後、存分に王子へ恨みごとを言ってやればいいさ」
彼が行ったしばらくした後、やはり気がかりだった僕は応急処置を済ませ音の間へ向かった。

「リント!来るなって言っただろう!」
 部屋に入るなり、幹部に怒られてしまった。
「・・・ごめん。でもどうしても一目見ておきたくて、『悪ノ少年』を」
革命の首謀者、メイトはあの後兵にけがを負わされたらしく、今この場にはいない。
 部屋の中央に数人の兵士と、マントを付けた王子がいる。
「あれが、王子か」
「そうだ。後は俺たちに任せておけって」

「寄るでない!」
 僕と幹部が話していると、突然、王子が暴れ出した。兵士たちが慌てて押さえつける。
「やれやれ・・・とんだわんぱくだな」
 大きなため息が聞こえる。幹部が呆れているようだ。
「おい、王子様よぉ!・・・あんまり手荒な真似はしたくねえんだ。大人しくしてな」
 利昭が差し出した手を、パチンとはねのけて、王子が叫んだ。

「この、無礼者!」

71:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 19:54 ID:1Tg

〜「悪ノ少年」side〜
 どれほどの時が流れただろう。
 この地下牢までは、大教会の鐘の音も届かない。天井には格子のついた小さな窓がある。本来ならばそこから陽射しが射してくるのであろう。だが今はその窓も板が打ちつけてあり、外の景色を見ることはできない。
 たまにだが、その板越しにかすかな歌声が聞こえてくることがある。まだ幼い声だ。いや、これはもしかしたら俺の幻聴なのかもしれない。それぐらい、本当にかすかな声なのだ。もしかしたら、どこかの子供が王宮の周りで遊びながら、歌でも口ずさんでいるのかもしれないな、と思った。
 気がつくと、俺は歌っていた。幼い頃、母上がよく歌ってくれた子守唄。
 歌はいい。不安な気持ちを忘れさせてくれる。このままずっと、歌い続けていよう。
「おい、うるせえぞ!静かにしろ!」
 見張りの兵が怒声を上げ、ランプの明かりをこちらへ向ける。でも、俺は無視して、歌い続ける。
「・・・チッ」
 見張りの兵は舌打ちしながらも、それ以上は何も言わなかった。彼はおそらくエルフェゴートの兵だろう。エルフェゴート国では罪人への暴行・拷問は禁じられていることを、俺は知っていた。
 コツッ・・・コツッ・・・
 どこからか、新しい音が聞こえた。これは足音だ。誰かがこの地下牢へ降りてきているのだろう。見張りの交代の時間だろうか?
「見張り、ご苦労様。様子はどうだ?」
 降りてきた人物が見張りに話しかける。男性のようだ。彼の声を聞いていると何だか落ち着く。
「ハッ。大人しいものです。ここに入れられてからすぐは、しょっちゅう暴れて大変でしたが」
「そうか・・・観念した、ということか」
 暴れたのは、逃げ出そうとしたわけじゃない。『悪ノ少年』ならきっと、そうしただろうという思いからだ。
「すまない、少し席をはずしてくれるか?」
 男性は見張りの兵に、そう頼んだ。
「いや、しかし・・・」
「頼む!どうしても王子と二人で話がしたいんだ」
「・・・わかりました。しかし気をつけてください。くれぐれも牢の鍵は開けぬようお願いします」
 タッタッタッと、先ほどとは違う足音が遠ざかっていく。どうやら、兵士が階段を上がって行ったようだ。
「はじめまして、王子様。ようやく会えたな」
 鉄格子を挟んで、牢屋の前に立つ青年。暗くてよく見えないが、赤い鎧を着ているようだ。革命軍のリーダーは赤い鎧を着た青年剣士だと聞いた。なるほど、彼が今回の首謀者か。
・・・どこかで聞いたことのある声だ。
「俺は革命軍のリーダー、メイト=アヴァドニア。王子、お前の処刑の日取りが決まったから伝えに来たんだ」
「・・・ハハッ・・・ハハハハハハハハッ!」
 これは傑作だ。笑える。彼は今何と言った?処刑の日取りが決まった?それじゃない、彼の名前だ。『メイト=アヴァトニア』。ハハッ、俺はその名前を知っているぞ!
「何を笑っている?自分が死ぬとわかっておかしくなってしまったのか?」
 俺は立ちあがり、鉄格子に近づいた。そうすると、彼の顔がはっきりと見えるようになった。間違いない。彼はメイコの兄、メイトだ。
「処刑は二日後の午後三時、ボカラ広場で行うことに決まった。処刑までの間、神に今までの行いを懺悔することだな」
 メイトは俺の正体にまだ気がついていないようだ。俺の変装も中々、大したものだ。思わず心中で自画自賛してしまった。
「用件はそれだけか・・・ならばとっとと去れ。俺は疲れている」
 俺はそう言って、再び奥に引っ込もうとした。
 だがその時、
「・・・ちょっと待て!」
 メイトが僕を引きとめた。振り返ると、彼の目には明らかに動揺が広がっていた。
「・・・おい、待てよ・・・これは、どういうことだ?どうしてお前が・・・」
 さすがに気づかれてしまっただろうか。それでも俺は、正体を明かすわけにはいかない。
「何の話だ?俺をこの様な薄汚いところに放り込んだのは他でもない、お主らじゃろう」
「ふざけるな!テッド、テッドだろう!?どうして・・・」
「騒々しい男じゃのう・・・お前こそ勝利の美酒に酔いしれて、頭がおかしくなっておるのではないか?」
「テッド=アヴァドニア!俺の義弟・・・そうだろう?」
 彼の目には涙が浮かんでいた。もう、シラを切るのも限界のようだ。
「・・・久し振だね、兄さん」
「・・・テッド!」
 ばれてしまったものは仕方がない。俺はメイトに全てを話した。

72:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 20:08 ID:1Tg

ルークの自室。目の前には、召使の・・・俺の服を着たルークが、俺を見つめていた。俺からのお願い・・・それはお互いの服を取り換えっこすることだった。今、俺はルークの服を着て、ルークと同じ髪型をしている。
「・・・こうして見ると、お前は俺と、良く似ているな」
 そう、俺たちは、とてもよく似ている。
「それに、テッドの服。粗末な服だが、来てみるとなかなか動きやすい」
 そう。使用人服は、王子の重い服よりもずっと軽くて動きやすい。
 だから・・・。
「その服ならば、王宮からうまく抜け出せるかもしれません」
 俺の言葉に、ルークの顔から笑顔が消えた。
「何を・・・言っている?テッド」
「ルーク。その服を着て、暖炉の奥の抜け穴から逃げるんだ。外には君の馬を待たせてある。君はそれに乗って、どこか革命軍の手の及ばない遠くへ・・・」
「馬鹿言うなよ!王宮に俺がいないことがわかれば、すぐに捜索の手が入る!逃げ切れるわけ・・・ない」
「大丈夫。大丈夫だよ」
 俺は着ている服を見せびらかすかのように、その場をくるっと一回りする。
「君が王子だとは誰にもわからない。王子様は、“ここにいる”からね」
 そう、俺が王子に扮し、囮になる。王子さえ捕えられれば、革命軍は一介の召使など、わざわざ探し出そうとはしないだろう。
 「そんな・・・駄目、駄目だ!いくら似ているからって、所詮は他人だ、すぐにばれてしまう!」
 俺はルークを、そっと抱き寄せた。


 君と俺の体格は、それほどかわらない。でも君の体は俺よりもずっと・・・温かく思える。
「大丈夫。俺たちは双子。双子の兄弟だろう?きっと誰にもわからないさ」
「え・・・?」    
 ルークの目に涙が浮かぶ。
「何で・・・そんなことしたら、テッド、死んじゃうよ?殺されちゃうんだよ?何で、何でテッドが・・・」
「ルーク・・・君は悪い子だ。だけど、君を悪だと言うのなら、俺だって同じ血が流れてる。君『悪ノ少年』なら、私は『悪ノ召使』だ。だからいいんだ。俺が君の代わりになるから、君は俺のの代わりに・・・生きて」
「・・・嫌だ・・・嫌だよう・・・てっどぉ・・・」
 すすり泣きながら答えるルーク。
「駄目だよ・・・ルーク。男は、泣いちゃいけない・・・あ、別にいいのか。君はもう『悪ノ少年』じゃないんだから」
 俺はルークから身体を離し、部屋の外に出た。そして、扉を閉じた。
「・・・待って、テッド!」
 扉を開けようとするルーク。だけど開かない。俺が外側から鍵をかけたからだ。
「知ってた?ルーク。この扉、ちょっとした仕掛けがあってね。中から開けられないようにもできるんだよ。子供の頃、俺達が悪さをした時、父上はこうやって私たちを閉じ込めたんだ。お仕置きのためにね。お許しが出るまで、ずっと二人で身を寄せ合って泣いてたっけ・・・」
 扉の向こうから、レアの声が聞こえる。
「・・・そんな昔のこと、覚えてない。覚えてないよぉ、僕。ヒック。だからテッド、行かないでぇ。僕と、ヒック、もっと昔のこと、話そうよぉ・・・」
「・・・じゃあねルーク。俺は行くよ。君もすぐに抜け穴から逃げるんだ」
 俺は扉から離れ、歩き出した。
「待って!行かないでよぉ・・・」
 扉を懸命に叩く音と共に、かすかにルークの声が聞こえる。
「お願い、一人にしないでぇ・・・」
 大丈夫、大丈夫だよ。俺は『悪ノ少年』。強い王なんだ。だから・・・。

 





決して、泣いたりしない。

73:時雨:2014/08/15(金) 20:44 ID:Quk

ルークside

行ける訳が無い。
テッドを一人置いて、行ける訳が無い。
それでも、あいつは俺を逃がす。あいつは一人で全てを背負った。
俺の所為だ。
俺の所為だ。
俺の所為で。

「ぁぁあああぁああぁああぁああッッッッ‼︎‼︎」

何度後悔したって、何度悔やんだって、俺の罪は消えない。
テッドは戻って来ない。
追いかけないと。此処から出ないと。

でも、テッドはあの時、何て言った?

"私の願いを"

テッドは、俺に最後の願いをした。
何時も何時も俺の言う事ばかり聞いていたんだ。俺を守っていたんだ。
今度は俺がテッドを守る番。

走れ
走れ
走れ‼︎

城から逃げろ。あいつの為に。
きっと、帰って来る。
テッドは、帰って来る。

そこで、俺はテッドが何を企んでいるのかが分かってしまった。

テッドは帰って来ない。
そうだ。テッドは熱がある。俺の行いの悪さから、何時も何処かに傷を付けて帰って来るのだ。
今日も、高熱が出ていた筈だ。
駄目だ。熱がテッドの体力を奪っている。
逃げられる訳が無い。

誰か、誰か。

誰でも良いから



あいつを

テッドを


助けてくれ………

74:ヒス◆/I:2014/08/15(金) 22:51 ID:USc

こんばんは!
表現がうまくて凄いです!文章も読みやすくて感動ものです!
ほんとうまいです!時雨さんが!!
これからちょくちょく顔出ししていいですか?

75:時雨:2014/08/15(金) 23:41 ID:Quk

コメントありがとうございます‼︎
何時でも来て下さい‼︎歓迎しますよ!
私なんてまだまだですよ〜。
此処のスレ主様が文才ありますよ^_^
私も見習いたいです。
これからも頑張りますね!

76:ひすい◆lU:2014/08/15(金) 23:48 ID:1Tg

こんばんはヒス。
うん、時雨が上手いのはわかってるんだ。
時雨マジ小説家さんだから(笑
私は?私はどうだい?w

77:時雨:2014/08/15(金) 23:54 ID:Quk

御二方は何を言うとるんですか(笑)
無いわー無いですよー。
ひすいは本当上手いんですよ!
あたしなんて足元にも及ばない(泣)
努力します……

78:ヒス◆/I:2014/08/16(土) 12:08 ID:USc

ひすいも思ったより上手いよw
時雨さんに追い付けるよう頑張って!!

79:時雨:2014/08/16(土) 14:14 ID:Quk

思ったよりって……(笑)
でも私の何倍も文才ありますよ!
羨ましいです!
こちらこそ追いつける様に頑張りたいですね………(泣)

80:ひすい◆lU:2014/08/16(土) 21:30 ID:rco

そうか(笑
思ったよりとはww
はーい、頑張りまーす^^

81:ひすい◆lU:2014/08/16(土) 23:07 ID:rco

 〜テッドside〜
「お前が、王子と双子だったなんて・・・」
 俺の話が終わると、メイトは言葉を失う。それもそうだろう、俺はおろか、真実を知っていた姉さんからも知らされていなかったのだ。自分だけが知らなかったという失望感は大きいはずだ。
 少しの沈黙の後、メイトが口を開く。
「・・・少し待っていてくれ。今、このことをみんなに言ってくる。牢から出してやるから」
 メイトはそう言って、階段へ向かおうとした。
「俺を牢から出す?何故だ?」
「決まってるだろう!お前は王子じゃない、ただの召使だ!みんなに言えばすぐ・・・」
「君は昔から変わらないな。革命軍のリーダーともあろう人が、感情で動いちゃいけないんじゃないか?」
「・・・お前も変わらない。相変わらず愛想がなくて、皮肉屋で」
 愛想が無い・・・か。
「子供の時にも、メイトにそう言われたな」
「そうだな・・・あれはテッド、お前がうちに引き取られてきた時のことだったかな?あの時のお前は、周りの人間は全て敵、そんな顔をしていたな。俺とも全く目を合わせてくれなかった」
「・・・」
「その時は、どうしてお前がそんな態度だったのか、わからなかった。でも今ならわかる。お前は、さんざん利用されて、政治紛争に巻き込まれてきた後だったんだよな・・・。でもなテッド、お前はあの後、少しだけ変わったぞ」

82:ひすい◆lU:2014/08/16(土) 23:07 ID:rco

っ、・・・・・・・
・・・・・・・・・。

 危ない。
 意識が飛んでしまうところだった。
 体が熱い。どうやら・・・熱が上がってしまってきたようだ。それでも今、倒れるわけにはいかない。
「とにかく、お前は決して『悪』じゃない。殺される道理なんてないんだ。待っててくれ、今すぐ・・・」
「『釈放するように取り計らってやる』そう言いたいのかい?でもそれは無理だと思うよ」
 俺がそう言い放つと、メイトの動きが止まった。
 メイトは何事か考え込んでいるようだった。二人が黙ってしまうと、この牢屋は本当に静かだ。
「やっぱり・・・こんなのおかしいだろ!」
 メイトは一度、見張りが控室として使っていた部屋に駆け込み、すぐに戻ってきた。右手には鍵が握られていた。
「テッド・・・逃げよう。二人で逃げよう。どこか遠くへ」
「君は革命軍のリーダーなのだろう?そんなことをして・・・」
「そんなの関係ないさ!大丈夫、お前と俺なら、きっと逃げ切れる」
「・・・無理だよ」
「大丈夫、きっと大丈夫だ。どこか遠くへ逃げて・・・二人で、ゆっくりと暮らそうよ。そうだ、落ち着いたらあいつも・・・リントも呼ぼう。あいつなら、きっと分かってくれる。また三人で、昔みたいに三人で一緒に、楽しくやろうよ!・・・メイコはもう、いなくなってしまったけどさ」
 メイトは言葉をまくしたてた。目には涙を浮かべていた。
 駄目なんだよ、メイト。それはもう、無理なんだ。
 君の中では、俺たちは昔のままなのかもしれない。
 だけど実際は・・・。
 変わってしまったんだ、何もかも。
「・・・メイト。君が来ている鎧は、メイコのものか?」
 俺は彼が手にしている剣を指さし、訊ねた。
「・・・?ああ、そうだよ。俺のサイズに合うよう、鍛冶屋の親父さんが、作り直してくれたんだ」
「そうか・・・さすが親父さんだ。いい仕事だな。俺と戦った時についた、その紋章の傷も、きちんと直してある」
「・・・え?」
 メイトは、俺の言葉を理解するのに少々時間がかかったようだ。
「だから・・・メイコ、殺されただろう。天才剣士メイコは、何者かによって暗殺された。いったいこれは、誰の仕業だったのかな?君は考えたことあるか?」
 俺はなるべく表情を出さないようにと心がけながら、そうメイトに言った。
「それは、王子が・・・」
「ルークが?あの王子様が、一人で剣の達人を殺せると、君はそう思っていたのかい?」
「・・・」
 まずい。もう倒れてしまいそうだ。
 でも、もう少し。もう少しだけ・・・っ!
「ああ、そうか。わかったよ、メイト。君が革命を起こしたのも、多分それが理由だろう?ハハッ、何てことないな。君は正義だとか平和だとか、そんなことを大義名分とにしていたんだろうけど、そうじゃない」
「・・・違う・・・俺は」
「これは復讐だ。君は、自分自身の復讐のために、民衆を利用した。ただそれだけさ!」
「・・・違う・・・」
「違うものか!ハハハッ、笑わせるね。この革命で、多くの人が傷ついた。多くの人が死んだんだ!君は英雄気取りみたいだけど、俺にしてみれば君もルークも大して変わらない。自分の欲望のために民衆を利用する・・・ルークがそうなら君も、『悪ノ青年』さ!」
「やめてくれ・・・」
「安心してくれ、メイト。俺は『悪』の味方だ。だから君にも協力してあげなければいけない。君の復讐にね。王子は逃げてしまったけれども、問題ない。だって・・・」
「頼む・・・もうやめてくれ・・・テッド」
「だって、君の仇は・・・君の妹を殺した人間は、今、君の目の前にいる僕だからね」

 





メイトの絶叫が、地下牢に響き渡った。
意識が段々遠ざかって行った。遠くで“誰か”の足音が聞こえた――そんな気がした。

83:時雨:2014/08/17(日) 17:41 ID:Quk

ルークside

「はぁ、はぁっ……」

子供の頃に、テッドと何回も通った。
大丈夫。覚えてる。
今助けるから。
一人で死ぬなど、させない。
二人で生きてもう一度、やり直したいから。

テッドside

視界が反転した。

懐かしい、夢を見た。懐かしい、家に居た頃だ。
隣には、俺が殺した姉さん。その隣に兄さん。
いつも俺の事を考えてくれたのに。

俺は、その幸せを奪った。

嗚呼、なんて愚かな。

そして場面は変わり、城の中。
ルーク様がこちらを見ている。

貴方は、私の何ですか。
ただの、都合の良い召使ですか。
もしくは、従順な弟ですか。
そんなに、私は罪を犯したんですか。

私の存在価値は、何ですか。


嗚呼、もう何も見えない。
鮮やかな風景は何も見えない。
これで良いんだ。
悪ノ少年が死ねば、きっと皆幸せになれる。
兄さん、俺、分かったよ。

俺が姉さんを殺した時から、運命の輪〈ホイールオブフォーチューン〉は
廻り出していたんだ。

姉さん、ごめんなさい。
人間不信の俺に、優しくしてくれたのに。

兄さん、ごめんなさい。
何か言いながらも、こんな俺を守ってくれたのに。

ルーク様、ごめんなさい。
いや、"兄上"。
本当の悪は私なのに。

全ての人々、ごめんなさい。
苦しめたのは、私でしょう?

それから、


生まれて来て、ごめんなさい。





嗚呼、このまま目が覚めなくたって良い。
そう、自分は処刑される前に、きっと死ぬから。
処刑なんて、甘いもので死なない。
苦しめた人々に看取られるなど、あってはならない。
そう。

"悪ノ少年"の最期は、一人孤独に息絶えるのが相応しい。

84:ひすい◆lU:2014/08/17(日) 18:44 ID:/Vs

視界が明るい。

光を見たのは何日ぶりだろう。

いや、捕えられてからまだ数時間しか経っていない。

牢屋の鍵を外す音がする。

ああ、やっと外に出られるのか。

牢に入れられた数時間、長く長く感じられた。

足を踏み出す。

いい日だ、と俺は微笑んだ。

ルシフェニアが生まれ変わり、ルークが自由になる日には丁度いい日和だ。

暑い。熱い。苦しい。

それでも、最後まで――最期までルークを演じなければならない。

俺は二歩目を踏み出した。

85:ひすい◆lU:2014/08/17(日) 18:47 ID:/Vs

 〜メイトside〜
 なあ、メイコ。お前は今、元気にしていますか?
 お前のことだから、そっちでもお酒ばかり飲んでいることだろう。
 護衛隊の人達もそっちに行ったから、今頃はみんなで宴会でもしているのでしょうか?
 こっちは逆に、みんながいなくなって、少しさみしくなりました。
 メイコ、俺は今、広場にいます。お前がよく通っていた酒場の前にある、あの広場です。
 メイコは、よく知っていることだろうが、このルシフェニアには、悪逆非道の王子がいましたよね。
 その王子は、明日で十五歳の誕生日を迎える予定でした。
 しかし今日、王子はこの広場で処刑されます。ギロチンで首をはねるのです。悪いことをたくさんしてきたのだから当然です。
 広場にはたくさんの人が集まっています。みんな、王子の最期を見届けたいのでしょう。
 王子が広場に設置された処刑台の上に立ちました。人々は王子に罵声を浴びせます。しょうがないですよね、王子は悪いことをしたのですから。
 広場の一角で騒ぎがあったようです。男の子が何か叫びながら暴れています。よく見ると彼は俺の友人です。母さんもよくしっている子です。ああ、彼は気づいてしまったのですね。処刑台の王子、その正体に。暴れすぎて、また物を壊さなければいいのだけれど。
 だけどな、リント、もう無理なんだ。あいつは悪い子なんだから。
 ああ、だけど・・・。
 教えて。
 なあ、教えてくれよ、メイコ。

 『悪』とは一体、何なのですか?

86:時雨:2014/08/17(日) 19:17 ID:Quk

テッドside

処刑台に身体を固定される。
中々不愉快だ。ルーク様にこんな思いはさせたく無いな。

民衆が、哀れな格好になった"王子"に罵声を浴びせる。

もっと、罵れば良い。
もっと、嫌えば良い。

そうすることで、俺は悪ノ少年として死ねる。

ぼやける視界の中、眩しい太陽が見える。
声が聞こえる。
これから何も聞こえなくなって、何も見えなくなる。
ははっっ。

嗚呼、本当に愚かだ。

さあ、鐘よ鳴れ。
全ての人々に知らせるが良い。
今、ここで悪が滅びると。
本当の"悪ノ少年"が死んだと‼︎

そうだ、俺はまだ伝えて無い。
伝えて無い‼︎

ごめんなさいじゃ無い‼︎
違う。まだ、まだ、まだ駄目だ。

ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。ありがとう。

こんな俺を生み出してくれた世界に、

ありがとう。

俺は、きっと生まれ変わる。
皆に会う為に。
俺はこの道を進もう。

ありがとう。
ありがとう。

ゴーン…ゴーン…ゴーン……

三回の終焉〈終わり〉の鐘が鳴る。

ああ、 今は

あの時間だ。

ルーク様が好きだった時間。
明るい笑顔を見せてくれた時間。


「ああ、おやつの時間だな……」

87:ひすい◆lU:2014/08/17(日) 20:01 ID:/Vs

・・・るりら・・・るりら・・・。

 刃が首に突き刺さる瞬間、どこからか歌声が聞こえたような気がした。おそらく、幻聴なのだろう。
 幻聴どころじゃない。幻覚まで見えてきた。
 いつもどおりの、気高いルークが俺のすぐそばにいた。幻覚の彼は、笑いながら、俺の手をそっと、握ってくれた。

 ・・・ああ、温かい手だ。とても、とても安心する・・・

 幻覚のルークは、今よりもだいぶ、幼く見えた。そうだ、これは子供の頃、二人で王宮を抜け出して海に行った時のルークだ。
(ルーク〜もう帰ろうよ〜。早くしないと日が暮れちゃうよ)
 あの日、俺はルークにそう懇願したのを覚えている。
 子供の頃、夜が怖かった。暗いのが、たまらなく怖かった。
(大丈夫。怖くないよ!ほら、僕が手を握ってあげる!)
 ルークの温かな手。
 本当だ。君が手を握ってくれると、全然怖くない。とても安心できる。
 そうだ。ルークだけじゃない。俺も怖かった。ひとりぼっちが怖かったんだ。君の手を握って、安心したかったんだ。

 俺が欲しかったのは、きっと、それだったんだな。

(ありがとう、ルーク!おかげで怖くなくなったよ!お礼にいいこと教えてあげる!)
(え〜なになに?)
(あのね、この紙にお願いを書いて、こうやって小瓶に入れて、海に流すんだ。そうすると・・・)
(そうすると?)
(お願いがかなうんだよ)
(願いごとがかなうの〜?)
(そう!ルーク、君は何をお願いするの?)
(え〜とね、僕、生まれ変わってまたテッドと遊びたい!)
(・・・僕と?)
(王宮は退屈でつまらないもん。だから2人で国民に生まれ変わって、外を走り回るの。そしていろんなところに行くの!)
 ふふっ、そうだ。ルークは生まれ変わったら俺と遊びたいって言ってくれたっけ。

 生まれ変わる、か。それならルーク、俺から二度目のお願いだ。

 ――ありがとうルーク。もしも生まれ変われるならば、その時はまた遊んでね――

88:時雨:2014/08/18(月) 19:05 ID:Quk

【黒の少年】

ぽつり、と滴る雫。
空から降る時雨なのか、目から落ちる涙なのか。

あの日、あの時から全てが狂っていった。
それは自分の所為だという事は知っている。
何度自分を責めた事か。

もし、彼女が自分を好きにならなかったら。
もし、自分が彼女を好きにならなかったら。

悪いのは、誰?
ワルイノハ、ダレ?

悪ノ少年?
姫?

そうだ。違う。本当に悪いのは……

「………………僕?」

そうだね。そうだ。全て僕の責任だよ。
僕が誑かした?それは違う。でもね。

実際、好きになってしまったんだ。
心の内を拐かしたって、偽ったって、どんなに願ったって、

彼女は帰って来ないんだ。


ごめんなさい。
ごめんなさい。
こんなにも想ってしまって、ごめんなさい。
一人にさせて、ごめんなさい。

だから今度は、僕が行くよ。


………ピコ、ごめんね。

ずっと、友達だよ。

89:ひすい◆lU:2014/08/18(月) 21:10 ID:A/A

・・・。

僕は懐からナイフを取り出した。
あの日、テト姫を守る為に忍ばせておいたナイフ。静かにそれを取り出し、胸元にぴたりとあてる。
「・・・」
テト姫、すまなかった。だから僕も逝く。待っていてくれ――

「――っ」

・・・
…………。

かろうじて、意識は保っていた。
 僕の胸元に、ひび割れたルビーのペンダントが転がっている。テトから贈られたこのプレゼントのおかげで、即死は免れたようだ。
 けれど、出血が酷い。いずれにせよ、僕は助からないだろう。
 
 脳裏に、記憶のかけら一つ一つがコマ送りのように浮かんでくる。走馬灯、というものだろう。
 映るのは、テト姫ではなく――ピコ。村で送った、あの楽しい日々。心を打ち解けられた、あの日あの時。

「ピコ――」

死ぬ。僕はもうこのまま――死ぬのか?
・・・ああ、僕は、取り返しの事をしてしまった――
もう死んだら、ピコに会えない。嫌だ、いやだいやだいやだ、死にたくない……―――!!!
ああ、それさえも考えることができなくなる。意識が、感覚が、どんどん遠くなっていく。
(ピコ、すまない。最後に君に会いたかった。君に会って、僕の気持ちを・・・ああ、ピコ。会いたい、会いたい、一目でもいい、会いたいよお・・・・・・)
 視界がさらにぼやけていく。そして目の前が、少しずつ暗くなっていく。最後にもう一つ、人間について学ぶことができた。ああ、これが『死』・・・・・・。

 最後に瞳に映ったのは、血で更に赤く染まったルビーのペンダントだった。

90:ひすい◆lU:2014/08/19(火) 20:42 ID:1wQ

ルコが死んだ。
それを屋敷の主人・キヨテル様から聞かされたあの時、僕の視界は真っ暗に染まって行った。ルコが死んでから、何日が経っただろう。僕は特に何もせず過ごした。親友を無くした僕への、キヨテル様の気遣いからか、雑多なことはすべて屋敷の使用人がしてくれた。
 することがないと、余計なことばかり考えてしまう。
 あの時、追い詰められたルコを助ける方法はなかったのだろうか?あったとして、時を戻してやり直すことはできないのか。そんなことできないのはわかっているけれど、考えずにはいられなかった。
 どこかに希望はないのか。一つ一つ思考を巡っていく。しかしその先に待っているのは、もうあの頃に戻ることはできないという、限りない絶望だけだった。
「ピコ、入るよ」
 ノックの音がしたと思うと、キヨテル様が部屋に入って来た。
「キヨテル様・・・呼んでいただければ、こちらから伺いましたのに・・・」
「まあまあ、気を遣わなくてもいいよ。今日は君と、今後のことについて話そうと思ってね。ここ、座っていいかい?」
 僕が「どうぞ」と答えると、キヨテル様は入口の近くに置いてあった木製の椅子に腰を下ろした。
「仕事もひと段落ついたから、故郷のエルフェゴートに帰ろうと思うんだ。ここじゃやれる仕事に限度があるからね」
 エルフェゴート国・・・。実際に行ったことはないけれど、マーロンやルシフェニアに引けを取らないほど栄えた国だと聞いている。
「君さえよければ、そこでまたうちの使用人として働いてくれないか?君のとっては慣れない土地での生活になるけど、わりと住みやすくていいところだから、すぐに馴染めると思うよ」
 それもいいかもしれない。前みたいにキヨテル様のお屋敷で、掃除をしたり、洗濯をしたり、おやつを作ったりして。辛い時や、腹が立った時はルコに・・・。
 駄目。駄目なんだ。もう前みたいには戻れない。そこにはもう、ルコの笑顔も、綺麗な歌声も、存在しないんだ。
 僕の愛したルコは、もうそこにはいない。
 気がつかぬうちに、僕の頬を涙が伝っていた。もう泣かないと決めていたのに、思い出してしまうと涙が止まらなくなる。
 何日たっても、何年経っても、僕はきっとルコのことを忘れられないだろう。
「お心遣い、感謝いたします。だけどごめんなさい、皆様について行くことはできません。キヨテル様たちといると、どうしても・・・」
「ルコのことを思い出してしまう、か?」
「はい・・・」
 キヨテル様は立ち上がると、窓際まで行って外の景色を眺めた。そこからは、豪華な大教会が見える。
「ピコ、君は神を信じるかい?」
「以前は信じていませんでした。でも今は・・・信じています」
「そうか」
 彼はしばらく何かを考えるような仕草をすると、僕にこう切り出した。

91:ひすい◆lU:2014/08/19(火) 20:42 ID:1wQ

「この国の西の外れに、小さな港町がある。そこに僕の寄付で建てられた、この国では珍しい修道院があるんだ。そこで働いてみる気はないかい?」
「僕に、修道士になれ、と?」
「いやいや、別に出家しろと言っているわけじゃない。そこには孤児院も併設されているんだが、何かと人手が足りないらしくてね。しばらくの間でいいから、手伝ってもらえないかと思って。海が見えるいいところだよ。心を休めるにはちょうどいいと思うんだけど、どうかな?」
「海・・・ですか」
 内地の村で育った僕は、海をほとんど見たことがなかった。
「もしそこの生活が気に入れば、そのまま修道士になってもいい。僕としてはまたうちに戻って来てもらいたいけどね。」
 こんな僕でも、必要としてくれる人がいる。だけど、僕は・・・。
「ピコ。厳しいことを言うけど、ルコは死んでしまったんだ。それは悲しいことだが、事実なんだよ。だけど君はまだ生きている。先のことは分からないけれど、生きている以上、笑って生きてほしい。それはきっとルコも望んでいることだと、僕は思う」
 ルコは僕が悲しい時、一緒に泣いてくれた。僕が笑っていれば、ルコも天国で笑ってくれるだろうか?
「ルコの分まで生きろなんて言うつもりはない。ルコはルコ、君は君だ」
 ルコは僕を守ってくれた。そして同時に、僕に強くあってほしいと願っていた。その期待に応えるために、僕なりに努力して、昔より少しは強くなれたと思う。僕がまた弱くなってしまえば、きっとルコも悲しむ。
「・・・わかりました。その修道院で、お世話になろうと思います」
「そうか。じゃあ、僕から連絡を入れておくよ。ピコ、これだけは覚えておいてくれ。たとえ離れていても、君は僕らの家族の、一員だよ」
「・・・ありがとうございます」
 彼が右手を差し出してきた。僕はその手をしっかりと、握り返した。

 港町の修道院へ出発する日、キヨテル様たちは家族総出で見送ってくれた。
 馬車が動き出し、みんなの姿が見えなくなっても、僕はずっと手を振り続けた。

 ありがとう。そして、さようなら。
 僕のもう一つの家族たち。

92:時雨:2014/08/19(火) 21:10 ID:Quk

「おっかしいなぁ………。」

森へ行ったっきり帰って来ないルコ。
何をしているのだろうか。
辺りを見回してもそれらしき人影は見えない。
何処に行ってしまったのか。

何か生臭い………?
違う。
鉄の匂い。そう、これは
血の匂いだ‼︎‼︎
誰の?
滅多に人の来ないこの森に、誰が入った?
誰が行った?
僕の知ってる人?

……違うか。

そんな筈無いよね。
そんな理由も無いし。

あれ?最近何かあったっけ?
ルコに関する事、大事な事を忘れてる?

93:ひすい◆lU:2014/08/26(火) 14:09 ID:wkY

勇気を出して、森に足を踏み入れる。
昼間とはいえ薄暗いこの森、以前の僕なら、こんな行為はしなかった。
――しなかった、じゃない。できなかった、だ。

ルコに出会って、僕はこんなにも成長した。
ルコがいてくれるだけで、僕は日に日に大人に近付ける。
彼との壁を、壊していけるんだ。
最後――僕が、「ネツマ族」という衝立を完全に粉砕した時、ルコは喜んでくれるだろうか。
もう少し。もう少しでルコと同等の立場になれる。
心から分かち合えるんだ。

・・・
……

分かち合える、はずだったのに。

――アレ?
アソコニタオレテイルヒトハダレダ?
アノキレイナクロイカミハ・・・・・・チガウ、ボクガシッテイルヒトジャナイ。
キノウマデイッショニワライアッタ、ボクノシアワセヲダレヨリモネガッテクレタヒトガ、アソコデタオレテイルハズガナイ。

ー―ジャア、カレハダレ?−−


僕は彼に駆け寄った。
いつも温かかった彼とは思えない、冷たさがその身体を纏っていた。
信じたくない現実。
彼は、ルコ。
ここで目を閉じ冷たくなって、横たわっているのはルコなんだ。

「・・・ルコ、ルコ・・・?」
僕はゆさぶった。
いつもの通りに笑いながら起き上ってくれるのを信じて。
生きていることを祈りながら、僕は何度も彼の名を呼んだ。

気が付くと、空には星が瞬いていた。

94:時雨:2014/08/26(火) 14:25 ID:.CU

なんで?
何で?
ナンデ?

なんで、彼が死ななければいけなかったんだろうか。
他に、死ぬべき人は沢山居ただろう。
何故?

何から始まった?
何が発端だった?

そうだ。悪ノ少年だ。
悪ノ少年が、赤き姫を殺したから。
ルコは、何も悪くないのに。
言い方は悪いが、彼女は自ら死を選んだ。
それを それを
何故ルコが背負わなければいけなかった?

血が染み込んだ服を握る。

もし、もう少し早く此処に来ていれば。
もし、彼の思惑に気付いていたならば。
もし、姫が殺されなかったら?
もし、あの時ルコが出掛けなかったら?


もし、悪ノ少年が存在していなかったら?

95:ひすい◆lU:2014/08/26(火) 16:02 ID:wkY

そう。
あいつさえ、あいつさえいなければ…!!
でも、僕には勇気がない。
所詮、僕は弱い人間だ。ルコがいなければ何もできない、小さな子供。
――でも、もしも悪ノ少年に出会えたならば、僕は――
暖かい季節がやってきて、本格的な農作業が始まった頃。
 修道院に、新しい仲間が加わった。
「いい加減にしなさい!またこんなところでさぼっているなんて!」
 農具小屋の裏から怒鳴り声が聞こえてくる。慌てて様子を見に行くと、年配の修道女と少年が言い争いをしていた。
「働かないのなら、今日の昼食は抜きですよ、ルク」
「うっさいなあ。こんなに重たい道具、一人で運べるわけないだろう!?」
(またか・・・)
 僕は少しうんざりしながらも、横に転がった鍬のいくつかを両手に抱えた。
「僕が手伝ってあげるから、一緒に行こう?」
「ピコ!甘やかすのはこの子のためになりませんよ」
 腰に手を当て、年配の修道女はすっかり呆れた様子だ。
「彼はまだここでの生活に慣れておりませんから・・・どうかご容赦ください」
「ルクに関してはそれ以前の問題だと思うのだけど。とにかく、みんな待ちくたびれているわ。肥料は私が持って行くから、あなたたちはその鍬を早く運んでちょうだい」
 肥料の入った麻袋を二つ、軽々と持ち上げて肩に担ぐと、早々に畑の方へと向かって行く。その背中を見送ってから、僕はルクへと顔を向けた。
「さ、僕たちも行こう、ルク」
「・・・やだ。面倒くさい」
 しかしルクは、その場に座り込んだままそっぽを向いている。
「働かざるもの食うべからず。これを運ばないと、ご飯が食べられないよ」
「またピコがこっそり食べさせてくれればいいじゃないか」
「そう何回も同じことはできないよ。見つかれば僕も君も、たっぷりお叱りを受けることになるだろう」
「とにかく嫌なのっ!いーやーだ!」
 ついにルクはその場に大の字になって寝転がった。こうなるとこの子は、いくら怒っても宥めても、てこでも動かない。
(仕方ないなぁ・・・)
 僕は近くで遊んでいた、孤児院の子供たちの中でも年長者になる子を一人呼んだ。
「なあ、ちょっとこっちに来てくれるか?頼みがあるんだ」
「なあに、ピコお兄ちゃん」
「申し訳ないけど、この鍬を一緒に畑まで運んでほしい」
「お安い御用さ、任せてよ!」
 にっと笑って、ひょいと鍬を拾い上げる。
 僕はルクを横目で見ながら、彼に聞こえるようにわざと大きな声でこう言った。
「さすがだな!こんなたくさんの鍬を持てるなんて!いつもさぼってばかりの怠け者じゃ、こうはいかないよなぁ!」
 すると彼も状況を察したのか、僕に合わせて大きな声で返す。
「何を言ってるのさピコ兄ちゃん!この程度の鍬も運べないようなろくでなしは、この修道院にはいないよ!僕よりもっと小さい子だって、余裕で運べるだろうさ!」
 ルクは寝転がりながらも、こちらの様子をチラチラと窺っていた。だいぶプライドが傷つけられているようだ。ここまでくればあと一押し。とどめの駄目押しだ。
「君は偉いな。手伝ってくれたお礼に、あとでおやつのブリオッシュをサービスしてあげるよ!」
 その瞬間、ルクはガバッと起き上がり、彼の手から鍬をひったくった。
「僕にもできるもん!僕だってこれくらい運べるさ!だからおやつのサービスは僕のものだ!」
「わお!さっすがルク兄ちゃん!頼もしいや!」
 彼は大げさに驚いてみせると、僕にウィンクをして遊びの輪に戻って行った。
 やっぱり鍬が重いのか、ルクは軽くよろけながらも、それを僕に悟られないように平然とした顔を装いながら、毅然とした声で言い放つ。
「さあ、行くよピコ。僕についてきて!」
「ふふ、そうだね。行こうか、ルク」
 僕たちは畑に向かって歩き出す。見上げた空は雲一つない、絶好の農作業日和だった。

96:ひすい◆lU:2014/08/26(火) 16:06 ID:wkY

修道院の前には、急な坂道がある。その傍らで倒れていたルクを見つけたのは、僕が港町の教会で働き始めた一週間後のことだった。
 今よりも随分と痩せこけていて、そのままで飢え死にしそうだった彼を、修道院に運んだ。
 行くところがない、と語るルクをこの修道院で預かることに反対する者はいなかった。
 初めこそ、みんなルクに優しく接した。だがその行動は傍若無人なもので、食事がまずいと文句を言うわ、働くのは嫌だと駄々をこねるわで、次第に修道士たちからは厄介者扱いされるようになっていった。
 僕もルクの我が侭に辟易していた一人だが、それでも彼には優しく接してあげようと決心した。
 僕もかつて、村では邪魔者扱いされていた。ずっとひとりぼっちだった。別に好きでそうしていたわけではない。ただ、自分がどうやって人と馴染んでいったらいいか、わからなかったのだ。
 いつも強気なルクも、時折とても寂しそうな表情を見せることがあった。彼も決して一人でいたいわけじゃない。きっと彼も、大切な人を失ったのかもしれない。それは僕の独りよがりな思い込みにすぎないかもしれない。だけど僕だけでも彼に向き合ってあげれば、いつかきっと彼も心を開いてくれる。救われると思った。
 かつてルクが、僕にそうしてくれたように。

 「どうだ?ルク、ご飯は美味しい?」
 結局畑仕事まで手伝わされる羽目になり、くたくたになった様子のルクは、それでもナイフとフォークで野菜を丁寧に切り分け、上品に口まで運んだ。
「うん・・・中々かな」
 ルクは前ほど、食事に文句を言わなくなった。酷いときは甘いものしか口にしないときもあったけど、実際に農作業に加わって、食べ物の有り難みを感じるようになったのかもしれない。もちろん、彼がそれを口に出すことは、なかったけれど。
 僕はそんなルクの様子を眺めながら、植木鉢に水を注ぐ。
 食堂は修道院の中でも日当たりがよく、植物を育てるにはちょうどいい。
「それは何の植物なの?」
 パンをちぎる手を止めて、ルクが尋ねる。
「修道院で昔から育てている植物だよ。なんの種類かは、わからないけれど」
「何だかわからないものを、ピコは育てているの?」
「種類は重要じゃないんだよ。この植物が何であれ、生きていることに変わりはない。生命は等しく平等であるべきさ。」
 呆れたようにため息を吐いてから、ルクはふと真顔になった。
「生命は等しく平等であるべき・・・か」
「そうだよ。植物だって、人間だって。・・・僕は、すべてのものに等しく、手を差し伸べたい」
「天使のような考えだね。修道院に長く暮らすと、みんなピコみたいな考えになるのかな?」
「ふふ、きっとルクもそのうち、僕の考えが理解できるようになるよ」
「そう、かな」
 食事を終えたのか、レアが食器をテーブルに置いた。
「食器は自分で片付けてね?」
「うん、わかってる。・・・ねえ、ピコ」
「何だ?」
「ピコは、僕がどんな人間でも・・・例えば、とんでもない悪人だったとしても、僕に優しくしてくれる?」
 ルクの目は、いつになく真剣だった。
「ああ、勿論」
 僕は微笑んでみせた。

97:ひすい◆lU:2014/08/26(火) 16:08 ID:wkY

↑の下から八行目。名前間違ってる!!;
ハンネと混ざっちゃってる!!ごめんね〜;

98:ひすい◆lU:2014/08/26(火) 19:04 ID:Q0c

海と畑と、祈りに囲まれた毎日。
 人によっては、それを退屈な生活と呼ぶかもしれない。
 けれども、退屈は時に小さな変化を大きな喜びに感じさせる。
 ルクは少しずつ、ほんの少しずつだけど、素直になっていった。
 かわいらしい少年から、凛々しい青年へと成長したルクは、仕事も真面目に取り組むようになり、年上の人間に敬語も使えるようになった。先日は、僕に料理を教えてほしいと言い出した。
 彼のそんな変化は、僕にとって大きな喜びだった。可愛い弟ができたみたいで、嬉しかった。  
 いつしか、僕がルコのことを考える時間は、少しずつ短くなっていった。

99:ひすい◆lU:2014/08/26(火) 19:04 ID:Q0c

ある日の夜、眠りにつこうとしていた僕は、髪留めが一つ足りないことに気がついた。
(あれ?どこに忘れてきたのかな・・・)
 今日一日の行動を思い返す。朝食の後は畑仕事に出て、午後には懺悔室の掃除をして・・・。
 そうだ、あの時だ。懺悔室の掃除の途中で、着けていた髪留めが壊れてしまったんだ。スペアに付け替えて、壊れた方をそのまま部屋に置いてきてしまったのだった。
(直せばまだ使えるよね、あれ)
 物を粗末にはできない。明日の朝取りに行ってもいいけれど、寝ている間に忘れそうだから、今のうちに取りに行こう。そう思って燭台を手に懺悔室へ向かった。
 夜の修道院は暗く、燭台の上で灯されているろうそくの明かりがなければ、足元さえおぼつかない。壁に手を当てながらなんとか懺悔室までたどり着いた。
 そこまで来て、大事なことに気づいた。懺悔室は、夜には鍵がかかっている。このままでは中に入ることはできない。
(あちゃー、うっかりしてた・・・)
 鍵は院長室にあるはずだが、ここからは離れているし、何より院長を起こさなければならなくなる。仕方がない、明日にするか。
 部屋に引き返す前に、最後の望みをかけてドアノブをひねってみる。
(・・・あれ?開いてる!)
 当番の修道女が、うっかり鍵をかけ忘れたのだろうか。僕は音を立てないよう、慎重にドアを開けた。
(・・・誰か、いる?) 
 懺悔室の中には人影があった。こんな夜中に誰だろうか。
(泥棒・・・なんてこと、ないよね?)
 その人物は跪き、祈りを捧げながら、何かをつぶやいていた。
「・・・主よ、私は数多くの人間を殺めてきました。直接手を汚したわけではありません。しかし、私の下した命により、多くの人間が命を落としました」
 ここは懺悔室。夜中にこっそり忍び込んで、神に懺悔をしているのだろう。しかし人を殺めたとは穏やかな話ではない。いったい、懺悔をしているのは誰なのだろう?
「私は自分の意に沿わぬ者、歯向かう者をことごとく処刑台に送りました。そうすることが国のためだと、支配者の権威を高めることだと、そう思い込んでいたのです。しかし結局、それは私の独りよがりな我が侭でしかなかったのです。私は愚かで、何も分からぬ子供でしかなかったのです」
 男性の声だった。そして、僕はこの声の主が誰なのか、薄々とわかっていた。だけど頭の中で、その事実を必死に否定し続けた。
「・・・私はそのうち、自分が何故そんな行いをしているのかすらわからなくなっていきました。どんな我が侭を言っても、どれだけ無駄遣いをしても、どれだけ人をギロチンにかけても、私を咎める人はいませんでした。周りの者は、すべて私にへつらい、笑いかけるだけでした。それは狡猾な大臣が、意見できる者をすべて、私の周りから遠ざけたせいでもあります。・・・しかしこれは、言い訳でしかありません」
 彼の懺悔を、これ以上聞きたくはなかった。この懺悔は僕私のこれまでの決意を、すべて壊しかねない。しかしそんな気持ちとは裏腹に、僕はその場を離れることができなかった。
「大臣の権威が弱まり、批判する意見が私の耳に届き始めた頃には、すでに手遅れでした。その頃にはもう、国のすべてが自分の思いどおりになることが、愉快で堪らなくなっていたのです。それを邪魔する者は私にとって敵でしかなかった。私は父や母の大切な友人すら、謀殺してしまったのです」
 赤みを帯びた黒髪。ここに来た頃は肩ほどまでしかなかった短い髪は伸びて、彼自身も大人の男性になっていた。ついさっきまで、僕は彼を、本当の弟のように思っていたのに。
「私の悪意は国の外にまで向くようになりました。婚約者がほかの少年に奪われたと知り、私は狂おしいほどの嫉妬に苛まれました。自分の思いどおりにならない存在があることが、どうしても我慢ならなかったのです。私の嫉妬は婚約者ではなく、その相手へと向きました。私は彼を殺すだけではなく、隣国の姫までを、・・・」
 僕は踵を返し、自分の部屋へと戻った。
 もうこれ以上聞くことはない。僕はすべてを知ってしまった。すべて、わかってしまった。
 ああ、何ということだろう。
 彼が、・・・ルクが、ルコを死に至らめした張本人。
 ルシフェニアの王子――悪ノ少年――だったなんて。

100:時雨:2014/08/26(火) 21:22 ID:.CU

ルークside

何度彼を追おうと考えたか知れない。
何より愛しい、紅い髪の弟。
それでも、死ねなかった。
そう。

己は死ぬ勇気さえ無い、弱いただの人間。
そんな弱い人間がこの世で生き続ける事が、俺に刑された罰なんだと。
一生背負い続ける、弱い証なのだと。
今更に知ってしまったから。

ただ、こうして祈りを捧げ、懺悔する事で少しでも心が軽くなった。
唯一愛した
唯一信じた弟でさえ

自ら壊してしまったのに。

ああ、こんな風になるのならば
いっそのこと死んでしまえば良かった。
共に逝ければ良かった。

僅かな光が差すこの空間で、想い続けるのはかの人のみ。

101:ひすい◆lU:2014/08/27(水) 16:35 ID:Xz.

夜の海岸はとても静かだ。僕の耳に届くのは、かすかな波の音だけだった。
 港町の外れにあるこの海岸は、昼間はエルフェゴート国からの客船や、地元の漁師たちの漁船で賑わいを見せる。だがこんな夜更けには、夜に漁に出る漁船がちらほら見える程度だ。
 街からさらに離れると、そんな漁船すら見当たらない。ただ南の果てまで続く海岸と、壮大な海があるだけだ。
 一度部屋に戻った僕は、戸棚からあるものを持ち出して再び懺悔室へ向かった。しかし、そこにはすでにルクの姿はなく、窓の外で、修道院から出て行く背中が見えた。どこへ向かうのかはわからなかったが、僕はその後を追うことにした。
 ルクは今、この海岸で、ただぼうっと海を眺めている。
 そして僕は、その様子を少し離れた場所から窺っている。
(あんなところで、何をしているのだろう)
 やがてルクは、懐から瓶のようなものを取り出し、それを海に放り投げた。
(・・・ああ、なるほど)
 修道院長から、この海に伝わる言い伝えを聞いたことがある。羊皮紙に願いを書いて小瓶に詰め、それを海に流すと、願いが叶うのだという。
(だけどね、ルク。君はその言い伝えのすべてを知っているのかな)
 僕はルクに気づかれないよう、忍び足で近づく。
 耳元で、誰かの囁き声が聞こえた。それはさざ波に混じった、小さな囁き声だった。
『きっと知らないのさ。あの子は何もわかっていない』
(そうだな、あの子は何もわかっていない。その伝承は、悪魔との契約だというのに)
 ルクが私に気づいた様子はない。流れていく小瓶をただ、見つめている。囁き声は、次第に大きくなっていった。
『そう、これは悪魔との契約。それが成されるためには・・・』
(自らの命を捧げなければならない)
僕は部屋から持って来たナイフを取り出し、柄をしっかりと握る。囁き声はさらに大きく、唸り声のように脳に響いた。
『だったら、手伝ってあげなきゃな♪』
(そうだね、ルコ。彼が願いを叶えるためには、死ななきゃいけないのだから)
 何が懺悔だ。今更そんなことをしたって、もうルコは返ってこない。笑うことも泣くことも、もうできないんだ。彼はきっと、ずっとずっと僕と一緒に暮らしたかったはずなんだ。それをお前は奪った。ルコの願いも、僕の願いも、全部奪い取ったんだ。そんなお前が願い事だなんて、ふざけるな。
『ピコ。僕は、死ぬ時に自分の胸をナイフで刺したんだ。とても痛かった。痛くて痛くて堪らなかった』
(可愛そうなルコ。待っていてね。今あの子に、同じ思いをさせてやるから)
 ルクの背中はもう目の前だ。こんなに近くにいるのに、彼は小瓶に夢中のようで、僕に気がつくこともない。
『やるんだ、ピコ。俺の仇を取れっ!』
 

102:ひすい◆lU:2014/08/27(水) 16:36 ID:Xz.

・・・誰?
 誰なんだ、お前は?
 どうして僕の邪魔をする?
 ルクにそっくりな少年。君は誰だ?
 どけ、そいつを殺せないだろう!
 どうしてそんな悲しい顔をしているんだ?
 やめろ、そんな顔で見ないでくれ。
 ねえ、ルコ。君からもこの子に何か言って・・・。
・・・誰?
君は、ルコじゃない。
ルコはそんな、憎しみに満ちた顔はしない。
彼はいつだって、優しい顔で笑っていた。
君は、誰?
君は、・・・ああ、そうか。
君は・・・その悪魔のような顔は
・・・僕の・・・。

時間にして、どれだけたっただろう。突然白昼夢のような感覚に襲われた。
 気がついたとき、僕の存在に気づいたルクが、驚いた表情でこちらを見ていた。
 彼は僕が振り上げている物に気づいたようだ。僕の右手を見ながら、唖然としている。
「・・・そうか、さっき懺悔室にいたのは、君だったんだね」
 すべてを悟ったルクは、いつもの表情に戻った。僕はその後、彼が逃げ出すか、抵抗するものだと思っていた。
 しかし、ルクはその場で静かに目を閉じた。そしてすべてを受け入れるような、とても悲しい、今までに見たことのないほどの悲しい笑顔を浮かべた。
「いいよ。ピコの好きなようにして」
 もう僕には、どうしていいのかわからない。教えてくれる人はいない。ルコはもういない、僕が、僕が決めなくちゃいけない。
ルクはルコを殺した。
ルクは僕の可愛い、弟のような存在。
ルクは酷いことをした悪ノ少年。
ルクはとても孤独な、悲しい人。
ルクは・・・・・・ルクは・・・・・・。
「ああ・・・うわあああああああ!」
 僕は心を決め、ナイフを彼めがけて振り下ろした。

 夜の海岸はとても静かだ。
 僕の耳に届くのは、かすかな波の音だけだった。

103:時雨:2014/08/27(水) 21:47 ID:.CU

ふっと横切る影。
長い、長い髪が靡いた。

「ッッ?!」

目の前で倒れるルク。
違う。僕は何もしていない。あの、さっきの少年だ。

ルクと同じ顔をした、紅く長い髪をしたあの少年だ。

誰?どうして、ルクを庇うの?悪ノ少年なのに?
どうして、透けているの?
どうして、ルクに触れられたの?

色々な疑問が頭を飛び交う。


「…………テッド………………」

ルクは、確かにそう言った。
その言葉で我に返る。

「誰なんだ?!ルク、答えろ‼︎その、テッドって奴は………ッッ!!」
「………………。」

ルクは答えない。答えようとしない。

「誰なんだ?!!」

他人の空似というには、似過ぎている。
悲しそうな目をした少年は、ルクの隣に立っている。
誰だ?

「………………た。」

小さく口を開いた。しかし、声が聞こえない

「誰なんだ?赤の他人ではないだろう…」

「……ッ俺は‼︎何も………何もしてやれなかった……‼︎‼︎」

急に大きな声を上げるルクに戸惑う。

「……誰より、誰より大切だったのにッッ!!!
いつも俺の為に、何でもしてくれたのに!!!」
「俺は、いつも我儘ばかり言っていた!!!!
俺は、何も出来なかったッッ!!!!最後の、最期の………最期まで!!!!」
「俺が、………俺が、………………ッッ俺が殺したッッッ!!!!」

104:ひすい◆lU:2014/08/29(金) 19:21 ID:SpY

「俺さえ、悪ノ少年さえいなければ、テッドは――!!」







――「そんなことないっ!!」

「・・・いや、俺のせいだったんだ。お前を、殺したのは・・・っ!!」

「違う、違うんだ、ルーク。」

「何が違うんだ?・・・テッド」

「ルーク、君が――」

「・・・現にお前の義姉を殺せと命を下したのは俺だっ!それに、お前の実の妹だってっ…!!!」

「いいんだ」

「っ、……?」

「ルーク、君が笑っていてくれたから、俺はそんなことどうでもいい。今も、これからも、俺はずっと君の傍にいる。だから君はいつまでも――

――笑っていて」


・・・
……

――今のは、何だ?
直接、頭に響いてきた会話。
ルクと、そしてルクを庇う少年。
彼らが誰なのか、真実は何なのか、今の僕にはわからない。

そして。

聞こえてきた――歌声。

るりら、るりら――

・・・・・・………………………………………………………………………………

105:ひすい◆lU:2014/08/29(金) 19:30 ID:SpY

やがて・・・

彼は――ルクは、一筋の涙を流した。

「ああ、・・・ああああぁぁぁぁ!!!」

ルクは泣いていた。
あれ程泣いた彼を、僕は見たことがなかった。

薄い紅色の淡い光が、彼を包み込む。それがあの少年・・・“テッド”という名の彼だったかはわからなかった。
僕は振り上げたナイフをそのまま地面に落とす。
今の光景は、なんだ?と。夢のような情景を前にぼんやりと精神が薄れていった。

そして、次の瞬間、先程の赤い光とは違う、深海のような黒紺の光が僕へ向かってきた。
「それ」はまるで子犬のように僕の周りを一周すると、ゆっくりと離れてゆく。

最後に、二つの光は揺らいで、静かに水平線の彼方へと消えていった。

――――
先程ルクが流した小瓶が、赤い光に吸い込まれるようにして消えていったのは錯覚だったのかもしれない。

だが、あの黒紺の光が僕の傍へ来たとき「ありがとう」と、そう呟いたのは確かだ。
あの光はルコだった、これも間違いないだろう。

106:ひすい◆lU:2014/09/05(金) 17:55 ID:HT2

ぱたん、と背表紙が閉じられた。

あれほど壮絶な物語が、時を経た今ではこうして一冊の本へと収められている。
時の流れと共に、その伝説と出来事は薄れつつある。

老婆に話を迫った少年たちは、固唾を呑んで黙りこくり、終わった瞬間糸が切れたように脱力する。

「お婆ちゃん、これって、本当の御話なの?」
「さぁね。私はただ本に綴られた文字を呼んだだけだよ」

そう言って老婆は笑った。
安心したかのように、少年も続けて笑みをこぼす。

――そう。彼らにとって、これはただの話に過ぎない。
でも。
ああ、でも――

――――『悪』の因果は、終わらない。――――

107:ひすい◆lU:2014/11/17(月) 15:38 ID:cDA

この頃まったく更新できてなかった!・・・はい、私のせいです。時雨ごめんなさい(;_:)
一応悪ノは完結したので次はsoundless voiceとproof of lifeを小説化・・・してみたいと思います!

soundless voice×proof of life
-----------------------------
prologue

白く、
そしてまた、白く。
儚いその欠片、

白に生が宿って、雪がイノチだとしたら、その―――二つ。
一つが0でも、二つ合わさると――∞。
無限は、回る。
永遠に。

2人は、永遠に。

108:ひすい◆lU:2014/11/17(月) 16:00 ID:cDA

〜ルークside〜
―――――――――
始まりは、本当に小さなものだった。
そう、あの日2人で歌の練習をしていた時――
―――――――――

――「♪〜〜っ、」
「・・・テッド?」
 比較的暖かな冬の夜。
 窓の外の寒さを補う暖炉の炎が、パチパチと音を立てる。
 中にいるのは少年2人。年は十代半ばか後半程。『UTAU』の彼らは今日もその仕事を果たすべく、暖かな部屋の中で歌の練習をしていた。
 その時。
 ガガっというノイズと共に、バサッと楽譜が地面に落ちる音が響き、驚いたルークは隣の少年に目を向ける。
 
 赤い瞳を見開き、もう一人の少年――テッドはその場で固まっていた。
「?…大丈夫か」
 ルークは動かぬテッドを怪訝そうに見つめ、床に散らばった楽譜を拾い集め、軽く机の上で整えてからテッドへ渡すべく手を伸ばす。
「・・・おい、テッド!」
 はっと気づいた素振りを見せたテッドは、ルークへ顔を向ける。そして自分へ差し出されている楽譜に目を落とし、もう一度ルークを見てから苦笑する。
「す、…すまない」
「出てるぞ」
 何がだ?とでも言いたげな表情を浮かべるテッドに「ノイズ」と短く答える。
「調子でも悪いのか?フリーズしかけたよな、今」
「いや、なんでもない」
「今日はもう終わりにしよう」
 そう言って楽譜をテッドに押し付けるようにして渡し、楽譜をしまう。テッドは申し訳なさそうな表情で促される。

 少なくともルークにとっては、機械だから調子が悪くなるのはほぼ運命的、壊れたら直してもらえばいいと、そう思っていた。

でも。

テッドには、まだ序章にすぎなかったこの日、『全て』がわかりかけていた。

109:時雨:2014/11/17(月) 20:44 ID:.CU

ルークside

「マスター、最近テッドの様子がおかしいんだ。
…ノイズが出てたり、さっきはフリーズした。たまには検査くらい受けた方が良いと思うぞ。」

テッドは、心配される事を嫌う。
自分は柔じゃない。
自分は脆くない。
そういった信念を貫き通して、ここまで「生きて」来た。
テッドに余計な事を言って、文句を言われた数は、きっと両手の指では足りないだろう。

だからマスターに言ったのだが。

「あー、あー、そういや2年程行ってないねー。
まぁあの子丈夫だし、別にわざわざ行かなくても良いんじゃない?
壊れたって、直せば治るよ。ほっときなって〜〜(笑)」

…忘れていた。
マスターはこんな奴だった。
何かを求めた俺が悪かった。ああそうだ(泣)

マスターはああ言ったけれど、俺はどこか不安を隠せずにいた。

もっと、早く気付いていれば。
もっと、早く救えた。


後悔なんて、したく無かったのに。

テッドside


ルークが部屋から出て行った後。

「………あ…」

カラン、と軽い音を立てて手からペンが転がる。
ああ、もう駄目か。

気付いたのは最近。
手の感覚、足の感覚が無くなっていくこの身体に、少しの恐怖を覚えた。
本能的な、"心配を掛けたくない"が心で渦巻く。

そのうち声も出なくなって、耳も聞こえなくなって、目も見えなくなるんだろう。
少し自嘲的に笑う。

それまで、懸命に生きられれば良い。


人間を模した身体は、蝕まれていく。


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