自分が好きな歌を小説化

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1:奏多:2016/08/23(火) 15:29 ID:Feg



どれほど泣いたのか、記憶できないほどに泣いて

もうこのまま消えてしまいたいと思った瞬間

暗いこの部屋には似合わないほどの軽快なノック音が響いた

(こんな泣きはらした顔で…出れるわけがないだろう。)

内心いら立ちを募らせつつ、いたって平穏に返事をする

「どちら様?」

すると扉の向こうから、明るい返事が返ってくる。

「名乗るほど大した名じゃ無いが…人は俺をラフ・メイカーと呼ぶ。」

(…名乗っているじゃないか、あほらしい。)

男は優しい声音で

「アンタに笑顔を持ってきた。…寒いから入れてくれ。」

と言った。

(冗談じゃない!)

「ラフ・メイカーなんて奴は呼んだ覚えが無い!」

頼むから…と掠れたような声で付け加える

(俺なんかにかまわないで…)

「…消えてくれ、そこにいられたら泣けないだろう」

暫くすると、場違いな軽いノック音がまた聞こえた。

(あのふざけた野郎、まだいたのか…)

「…消えてくれって言ったろ!」

扉の向こうからぽつりとつぶやきが聞こえた。

「そんなことを言われたのは…生まれてこの方初めてだ。」

今にも泣きだしそうな返事が返ってきた。

「…どうしよう、泣きそうだ。」

(冗談じゃない!泣きたいのは俺のほうだ!)

なのに、なぜ俺ではなくこの男が泣いているんだろうか

「…おい、そこの泣いてるやつ」

と俺が呼びかけると扉の向こうのすすり泣きがやんだ。

「…今でもまだ、こんな俺を笑わせるつもりか?」

と問いかければ

「……それだけが、生きがいなんだ。笑わせないと帰れない。」

真剣な気持ちが返ってきた。

「今となっては…アンタを部屋に入れてもいいと思えたが」

たまった涙の水圧で扉があきそうに無い

いや、そんなもの言い訳だと自分で分かっている。

(俺はこんな小さな扉を開けることさえ…恐ろしいと思っているのか。)

「そっちで扉を押してくれないか?…鍵ならもう開けたから。」

しかし帰ってくるのは寂しい静寂

「なんとか言えよ…なあ、おい!」

それでも聞きたかった返事は帰ってこない

(まさか、アイツ…)

裏切りという文字が脳内を掠める。

刹那、背後で窓の割れる音がした。

(次から次へと…なんなんだよ今日は!)

男の後ろには待ち望んだ姿があった。

自らをラフ・メイカーと呼ぶ奇妙な男の泣き顔だった。

「アンタに笑顔を持ってきた」

窓ガラスを割ったであろうパイプに太陽が反射する。

(…眩しい)

と顔をしかめればラフ・メイカーは俺に近づいてこういった。

「アンタの泣き顔笑えるぞ」

悔しい気もするが

「…なるほど、笑えた。」


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