【正味】自己満足【トリップする話】

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1:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 00:01 ID:PaI


 どうもおはこんばんにちはぜんざいです。前も言ったようにもうスレは立てねぇ! と宣言していたのですが、【正味】の方がごっちゃになってきてしまったので新しく作りました。
 あちらはいろいろ、こちらはトリップのみと分けさせていただくことにしました。勝手ですみません。
 ジャンル無節操、とりあえず自己満足しか無いので「あ、嫌だこれ」と言う方はブラウザバック! ぜんざいが小説を書くスレなので他様の小説カキコはお止めください。人が来ていただけるかすら分かりませんが雑談駄目絶対。感想は泣いて喜びます。多分なつきます。
 注意点ですが、ぜんざいは他サイト様でも「フレデリ・トリガー!」と言う小説を書かせていただいており、そこのキャラクターが出てきたりします。次から書こうとしているやつに早速出張って来ます。基本うちの子達の過去は暗い物や重い物が多い。アホの子も居ますが。
 上記もですが、それ以外にもオリキャラ登場するかもしれません。
 チートや最強、ハーレムや逆ハー等はオリキャラでは出来るだけ出しません。だって『主人公無双! そんでもって無敵! オマケにモテモテ!』とか面白くないじゃないですか。
 イラストの画像投稿も多分しますね。イメージ壊したくないわ馬鹿野郎! と言う方は見ない方が良いかと思われます。

 以上の点が「無理!」「やだ!」「好みじゃないなぁ」と言う方はお勧めできません。もう一度言いますここぜんざいの完全なる自己満足を書き散らす所です。

 こんな自己満足すら大空のように包み込んでくださる寛大な方はどうぞよろしくお願いします。



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2:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 00:52 ID:PaI

フレトリ→銀魂。とりあえずトリップしてくるキャラクター二人の設定です。今執筆しているフレトリより4年後。内容が今後どうなるか分からないので現在決まっている設定のみ。用語説明とか。

天使
人間をゴミとしか思っていない天界に住まう存在。大昔から敵対している。機械的な人工生物から人型まで。人間は食料的な思考を持つ。天使に付けられた傷は天使の血で作った薬でしか治らない。テラ強い。八代目四大天使と八代目ゼウスの上にもう一人いる。
悪魔
天使と敵対中の人間の味方。地獄に住み、その中で七王と呼ばれる七つの属性を司る王が武器シリーズとして現在最強ランク。契約するにはその七王に精神世界で勝利する他ない。圧倒的に死ぬ確率が高い。テラ強い。現在七王は一人を除き八代目を迎えており、基本的には七王より『八代王』と呼ばれる。次期七王は七王自身である武器の契約者。

人間
トリガー使いやフレデリ使いもいるが一般人もいる。基本的に一般人はトリガー使いフレデリ使いに叶わないものの余裕で両ともぶっちぎる強さを持つただの人間(化け物と呼ぶに相応しい奴)もいる。但しただの人間。
トリガー
誰もが持つ生命エネルギーが突出特化して特殊に変化し炎や雷等の様々な属性に変わった人間の持つ特異能力。トリガー持ちは目が深紅の色。何かしら属性に特徴がある。炎なら攻撃特化型、水なら攻撃型と回復特化型。雷ならスピード特化、雪なら重火器など。完全に天使に対抗するよう作られている。財閥や極道、マフィアや政治家、一門など大きな家の出が多い。
フレデリ
前世を持って生まれてきた人間の総称。固有能力を持つ。性格が丸々写っていたり違ったり人様々。前世が妖怪シリーズは激レア。目が紫。特化はトリガーとは違い様々。前世でポピュラーなのは偉人人間武器。

隠岐 快刻(おき かいこく)
高校二年生。左目の下の泣きボクロと、自身の雰囲気がハイパーにエロティックな神戸出身関西弁少年。纏う空気の所為かお陰か、口を開かなければエロさを無意識にどんどんとかもし出しているワイルドクール系イケメンだが、口を開けば突き抜ける程ハイテンションでギャップがとんでもなく酷い。雰囲気エロイケメン。とってもアホの子である。勉強は不安だが多分普通に出来る方に部類されると思われるアホの子である。彼女いない歴=年齢。
フレデリ使いなので目は紫。髪はキューティクルさらさらな黒に限りなく近い紫色。若干たれ目。右目を包帯で覆っている。銀魂の高杉さんに似てる(目の包帯は反対で高杉さんは泣きボクロ無いけど)。前世は激レア妖怪シリーズの『酒天童子』。なので酒を飲むことを義務とし政府から飲酒許可が出ている未成年。彼にとって酒は百薬の長で体に全く害が無い。日本酒が好き。彼の徳利は飲んでも飲んでも酒がなくならない特殊なものでそこだけ酒天童子の名残。顔は赤くなるが一ヶ月休まず飲み続けなければ酔わない。喫煙が駄目。
右目の包帯は前世で『烏天狗』に良薬になるとか言って無理矢理抉られ今世にまで影響した。生まれつき見えない。その所為で忌み子と呼ばれ親からネグレクトされ周囲から敬遠されて厳しい幼少期を過ごした。主人公の凪たちによりその一種のトラウマを克服。元気一杯。
真裏 宗近(しんら むねちか)
高校二年生。いつも綺麗な笑みを携える清楚系イケメンなハイパー思春期少年。快刻の親友。年がら年中思春期で、本当にただの男子高校生と変わらない。彼女いない歴=年齢。屋上でサボるのが大好きな新生アホの子。運動神経と顔にばかりいいところを持っていかれたのか勉強は全く出来ないホントのアホの子。その癖授業に出ない不良。
フレデリ使いなので目は紫色。髪は色素の薄い金髪で微かに天パ気味で寝癖ハネまくり。つり目で左目に第一期アニメ版のマスタング大佐のような黒い眼帯をつけている。ピアス空けまくり。前世は激レアな大煙管と言う狸の妖怪シリーズの一種。なので喫煙を義務とし政府から喫煙許可が出ている未成年。彼に実害はなく、煙管の煙を吸って息を吐けば酸素が吐き出され地球にわりと貢献している。相当な下戸で酒が駄目。
左目の眼帯は前世で『烏天狗』に良薬になるとか言って無理矢理抉られ今世にまで影響した。生まれつき見えない。その為所で忌み子と呼ばれ親から捨てられ周囲にいじめられた過去を持つ。似た者同士な快刻とすぐ打ち解けた。主人公たちのお陰でトラウマ克服。盛りまくり。

3:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 01:19 ID:PaI


快刻side

 天使が都市内に出現したとかで討伐に宗近のコンビで狩り出されへっとへとになって帰ってきた寮の自室。親にネグレクトされた俺は学園に引き取られる形で中一の二学期頃転校してきて寮暮らし。雰囲気でよお勘違いされる俺は右目のことも相まって暗かったような明るかったような気もするがまあようやく溶け込めたなって感じで。

 ばふりと備え付けのベッドへとダイブ。今日なんやものっそい疲れたわぁ。

 自然と落ちてくる瞼から最後に見たのは、無造作にソファに投げ捨てられた自分の通学鞄。……宿題って、出とったやろか?

**

 気が付くとふわりとした浮遊感、そして次の瞬間には耐えがたい激痛が体を襲う。え、なんなん!? 目を開く暇さえなく、俺の体はどうやら地面に叩きつけられたようだ。痛い。
 ゆっくりと上体を起こしてそして喉をついて出たのは「へげっ!」と言うなんとも間抜けな俺の声。頭にゴンッと何かが飛んできたのだ。
 頭を擦りながら涙目で飛んできた方を見れば明らかに何かを投げた態勢の銀髪天パのおにーさんと何かを避けた態勢のチャイナの女の子、それをソファに腰掛けながら端から眺める眼鏡の男。
 ……待って待って状況理解できひん。
 これは奴さんも同じようで、「誰おまええええええ!?」と天パのおにーさんが叫びをあげた。うるっさ!



「ちょ、そこの天パのオニーサンうるっさ! うるっさ!」
「何コイツ!? 大きい高杉!? でも包帯逆じゃね!? こんなバリバリ現代風な服アイツ着ねーだろ! 和服だろ女物の! それにしてもなんか全体的にエロいよこいつ!」
「失礼やな!? ってか高杉さんどちらさんですのん!?」
「関西弁だし! ギャップはげし!」
「うるっさ!」



 天パのオニーサンがわざわざ座り込んでいる俺のところまで着て叫び出した。うるっさ!
 そんな言い合いは眼鏡の彼が止めに入るまで続けられた訳であるが。



「……おい似非高杉。お前名前は?」
「やから高杉さんどちらさんやっちゅーねん。俺は隠岐 快刻言います、誰か知らんけど高杉さんちゃいます……って似非ってなん!?」



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4:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 23:33 ID:PaI


「……つまり隠岐くん、お前は別世界から来たってことか?」

 問い詰めてきた銀髪天パに経緯を話せば彼は復唱するようにそう呟いてから「はん」と鼻で笑った。……え。俺今笑われたん?

「おいおい、別世界からとかどんな厨二病設定だよ病院行くか? 頭大丈夫か? えー? 目に包帯なんて巻いちゃってぇ!」
「なんやねん、このクソ大人げない大人」

 思い返せば厨二病な話だとも思うが、ゲス顔で罵ってくる大人が居るとは。ほとほと呆れた様に

「……反面教師やな……。こんな大人にはなりたないわぁ……」
「え、銀さん今貶された? 銀さん馬鹿にされた?」
「銀ちゃんだし当然アルね」
「銀さんですしね」
「お前らどっちの味方ァ!?」

 銀さんと呼ばれる銀髪天パは坂田銀時と言う様だ。銀髪やから銀時とか安直やなー。とりあえずと言うようになぜか手に持っていた徳利に口をつけてごくりごくりと喉を潤す。散々叫んだせいでカラカラだ。
 他に居たチャイナ娘は宇宙人、まあこの世界で『天人』と言う存在でその中でも最強の部類に入る夜兎と言う戦闘種族らしい。名前は神楽。神楽ちゃんな。で、眼鏡の比較的常識人のような男が志村新八、自分の家が道場でそこの当主らしい。えらくすごい人出てきたな見た目ごっつ普通やのに。
 三人の口汚い罵り合いを喉をごくごく言わせて酒を流し込みながら眺めていれば、神楽ちゃんが俺に気がついた。

「なんか酒臭いと思ったら、銀ちゃん! 快刻がなんか飲んでるネ!」
「なんだとぉ!? 酒!? お酒なのかぁ!!!?」
「(え、なんやこの銀さんの飢えた反応……)」

 銀さんはこちらに詰め寄り俺の徳利を奪っていった。普通の男子高校生の唯一の楽しみを……!(※普通の男子高校生は飲酒出来ません快刻くん)呆然と銀さんを見上げながら、「返してくださいやー」と両手を伸ばす。

「だーめ。お酒は二十歳になってから! というわけでこのお酒は銀さんがいただきます」
「あかん! ただ、酒飲みたいだけやこの人!」
「ちょ、銀さん! 人のものを勝手に!」
「銀さん! 今日の酒は……!」

 新八くんの静止も空しく、銀さんはグイッと徳利に口をつけて酒を煽った。ちょ、その中身、中身は!

「……かっら!!! なにこれかっらぁあ!! 人間の飲める酒の辛さじゃねぇぞこれ!」
「あーあ、やから言うたのに」

 俺は座り込んだまま右手で額を押さえた。話を聞かない大人は本当に厄介だ。新八くんは「え、なになに」と疑問を声に出して俺に聞いてくる。

「……俺、前世がある言うたやんね」
「いや、もうその厨二設定良いから!」
「黙っとれやクソ眼鏡が!! エエから聞けボケ! このダボ!」
「クソ眼鏡!? っていうか口悪!」
「俺の前世は酒天童子、酒飲み妖怪やねん。やから俺の世界で俺は飲酒を政府から許されとったし、……俺の酒がぶっちゃけなんで辛いか言うと、まあアルコール69%以下は水としかおもえへんからやねん。やから有名な酒屋にアルコール度数70%から99.9%まで俺専用の酒を作ってもろて……まあそれが前世の俺から今の俺まで家に受け継がれとったその徳利に入れて飲めばさらにアルコール度数が上がっとる言うわけですねん。まあ徳利に入れれば酒は無限増殖して尽きることないです」
「……マジかよ。マジ話だったのかよ」
「せやからさっきから言うとるやろこの天パ!! 返せ俺の酒!」
「うおっ!」

 バッと銀さんから徳利を奪い返し縁に口をつけてぐいぐいぐいぐいと徳利を勢いよく傾けていく。その様子に他三人が引いているのにもちろん夢中で体内を酒で満たそうとするほどがばがば飲んでる俺は気付くわけもない。
 そして徳利から口を離して「っはぁー……!」と酒に濡れた唇を手の甲で拭う。体がなかなかに熱い。まあフラつくことは決して無いので気にも止めないが、俺の顔はきっと今赤らんで居るだろう。

「おいおい、あんな辛い酒そんなにがばがば飲んじゃ体にわりーだろ……」
「銀さん心配してくれとるんですか」
「流石にするよ!? めっちゃ辛かったもん!」
「そんな心配無用です。酒は百薬の長言いますやろ。その話、普通の人にとっては迷信ですけど、前世が酒天童子の俺にとっては事実なんで体に害は無いんですわ」
「なんだと!?」

 心底羨ましそうにする銀さんに苦笑いして俺は今後の身の振り方を考えることにした。
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5:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 12:03 ID:OEI


 同時刻、宗近side


 快刻とのコンビで今日も散々天使をぶちのめしてストレス発散をし終えたあと、俺たちは寮に帰宅して快刻の隣の部屋である俺の個室へと入った。
 生まれた時から左目の開かなかった俺は顔も覚えていない両親に現在の学園長、栂敷捺さんの家の前に捨てられていたらしい。そのときの年齢若干生後五ヶ月。それを拾ってくれた心優しき捺さんもとい母さんとは、血は繋がっておらず名字も違うものの、戸籍上俺の母に当たるのだ。え、母さん? めっちゃ美人ですよ何か? 勉強面に関しては思いやりの“お”の字もありませんよ何か?
 現在はこうしてその事情が公にならないように俺は寮に住んでいるのだ。偉くね? 俺偉くね? まぁ生徒と学園長が一緒に住んでるとなると結構な勘違いされそうだし? 周りは事情知らないもんね。凪たちには拷問大好き冷原くんに無理矢理吐かされました。あいつらは鬼か何かか。狸をいじめて楽しいのか。快刻は鬼だけどすっごく優しいんだよ! すっごく見た目がエロいのにね!

 いやいや俺は一人脳内でなんて快刻に失礼なこと考えてんだと首を振り、風呂に入るべくそのままその場所で制服に手を掛けた。
 俺は制服着崩しまくりな快刻と違い、制服はきっちり着る方だ、中等部からずっと。だって中高と制服のデザイン好きだもん。黒をベースに赤いテイスト。まあ制服は中高一貫だけどね。
 トリガー使いの瞳と同じ深紅の色のネクタイをしゅるりと外し、黒のラインに縁どられた赤のベストを脱ぐ。シャツのボタンを全て外して羽織る形のままネクタイとベストを持って脱衣場にいく。
 今日は本当に疲れたな。なんて溜め息を吐きながら煙管をくわえる。やっぱり俺キセル大好き。そう微笑んで噛み締めるように目を閉じた。
 すると次の瞬間体は謎の浮遊感に襲われ、俺はどさりと尻餅を着く。痛みにあわせて出てきたのは「へぐっ」と言う俺のクソ間抜けな短い叫びだった。

 かなり高いところから落ちたらしい。尻じゃなくて腰がいたい。なんだなんだ、床でも抜けたのか。でも俺そんなに重くないよ? 男子高校生の平均を辿ってるよ?
 そんな間抜けなことを考えながら「風呂入り損ねた」なんて周りを確認せず呟く。
 するとヒュッと何かが風を切る音が聞こえた。咄嗟にくわえていた煙管を口から離し、向かってきたものを煙管でガッと受け止めた。っょぃ。



「え。ちょ、ちょ、ただ床抜けて俺落ちてきただけでしょ。なんで俺刀向けられてるの? 俺の部屋の下ってこんな物騒な奴いたっけ……? あっ、ああ! 透か! とおるんか! 俺の部屋の下透だったね! ごめんね、修理費は俺が出すから、とりあえず俺風呂に入る前だったから服を着させて下さあ゙ぁ!?」



 謝りつつ目を開いて姿を確認しようとしたら最後変な声出た。だってここどこ。うぃんうぃんと音が鳴る機械的な一室、そこで派手な女物の着物を着崩した左目包帯巻いてる黒に近い紫髪が俺をくつくつと笑いながら見下ろしていた。
 そう、明らかに寮ではなかった。なんてこった俺はなんて恥ずかしい一人言を。

 というかこの人誰ですか。



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6:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 12:35 ID:OEI


 一方で快刻の万事屋での居候が決定していた頃。

 相手が刀を下ろしたので俺も煙管をくわえて立ち上がる。男を見れば彼も煙管を手に持っていた。と言うか、コイツ。



「……快刻じゃね? お前どうしたの煙管なんか吸って。なになに吸えるようになったの? でもお前煙管駄目じゃなかった? あれ、あの酒は? 酒瓶と樽の山はどこ? まさか酒やめた? 駄目だろお前は禁酒しちゃさー。酒飲むのはお前にとって生きることに必要不可欠でしょ、さっさと酒蔵ひとつ潰してきなよ、まったくもー。生きていくための義務でしょーが!
 っていうかこーんなに身長ちっちゃくなっちゃって。お前185あったよね。俺も180有るけどさ、俺より結構ちっちゃくなってない? 160ぐらい? 13の時の身長ぐらいじゃない? なになに幼児退行しちゃった? 可哀想にはぐっ」



 ドカッと鳩尾に蹴りをいただいた。何、快刻こんな暴力的だっけ?



「あのなぁ、俺ァてめえの知ってる人物じゃねぇよ」
「あっホントだ。関西弁じゃないしテンションも高くないしこっちの方がエロい。そもそも快刻が酒飲んでないとかあり得なかったわごめーんがふっ」



 再び蹴られた。彼は俺を蹴りつけたあと「いきなりなんもねぇとこから突然現れて……お前なにもんだ」と睨みつけられた。



「俺なんで初対面のオニーサンに睨まれてんのなんで? 俺普通に家帰って風呂入ろうとしただけなんだけど」
「俺を狙った暗殺者かもしんねーだろーが」
「ならむしろ俺も狙われる側なんだよ!? 奴(やっこ)さんが俺の目玉は良薬になるとか言ってさ、もう既にひとつ抉ってったろーに……」



 遠い目をして左の黒い眼帯を触った後に体育座りをしながら膝の間に顔を埋めた俺は「俺だって左目抉り出された時は痛かったんだよ……あの激痛をもう一度とかホント勘弁してよ俺目ぇ無くなっちゃうよ」と過去のトラウマを引きずり出してしまった。
 そしてそれにお構いなく降り下ろされる彼の刀。それを再び片手に握った煙管で受け止める。鈍い男が響いた。



「へェ……今のを受けるかガキ」
「俺のところは毎日が平和に戦争してますから、と言うか俺若干17歳のガキですよいきなり命狙うのやめていただけません?」
「相手にまるで切ってくれと頭を垂れたてめェが悪ぃんだろ?」
「ごめんなさい包帯のオニーサァン」
「それやめろ」



 彼は刀を鞘に戻して「俺は高杉晋助だ」と名乗った。……うちに高杉晋作の生まれ変わりなフレデリ使い居るけど晋作とは別人なのかな?



「晋助さんね。俺は真裏 宗近です」
「宗近な……ずいぶんとご大層な名前じゃねぇか」



 晋助さんは俺がここに来た経緯と俺の世界の話をすれば案外すんなり信じてくれた。曰くこの世界じゃそんなこともあるだろーよということらしい。か、かっこいい!
 そして俺はこの世界のことを教えてもらい、実際空にこの船が浮いているので信じる他なかった。



「気に入ったぜェ、真裏。……お前鬼兵隊入れ。俺の刀を受け止めた奴は久しぶりだ」
「嫌ですよ犯罪者はごめんですって。とりあえず居候ってことで」
「厚かましいなてめェは」



 俺のこの世界での生活権ゲットだぜ!



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7:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 20:52 ID:OEI


快刻side

 今日はこの世界の酒を購入して帰宅。いやー、見たことない酒がいっぱいいっぱいうへへへへ。
 両手に持った袋の中で酒瓶ががちゃんがちゃんと派手に鳴らしながら上機嫌で万事屋への道を辿る。
 銀時さんの家の下は大家さんかつスナックで店長しているお登勢さんのお店で、俺はまだ行ったことがないので今度訪ねよう。下やし。
 流石に現代風な服装は目立つと言われたのでフレデリを完全発動させたときの着流しを着用中。振り袖が邪魔なので肩まで布であげているけど。両手首の黒いリストバンドが目立つのなんの。

 銀時さんたちはいまだフレデリを信じていないようだが訂正もめんどうや。ほっとこ。

 カンカンと下駄が鉄製の階段で派手に高い音を鳴らし、視線が上がっていく。そこにいたのは「坂田サーン、オ登勢サンノ代ワリニ家賃ノ回収ニ参リマシタ。開ケテクダサーイ、イルノハワカッテマスヨ。坂田サーン、アホノ坂田サーン」と片言で話す猫耳の女性。下のお登勢さんの店で働くキャサリンさんである。



「キャサリンさん、どないしたんですか?」
「アア、隠岐サンデスカ。オ登勢サンノ代ワリ二坂田サンカラ家賃ヲモライニキマシタ」
「銀時さん……? 家賃払っとらんのですか? 俺でも寮の時はきっちり払っとったのに?」
「偉イデスネ」



 二人でそんな会話をして、中に入るのは無理そうだと察して一人スナックお登勢の中に入っていった。



「こんにちはー」
「おや、隠岐かい」
「ども。上がなんやごちゃごちゃしとるんで、酒ここで冷やしてエエですか」
「構わないよ、上じゃ銀時が飲んじまうさ」
「薄々感じとるんですけど、銀時さん駄目な大人ですわ」
「今ごろ気づいたのかい」



 カウンターの椅子に座りながらお登勢さんと会話して、瓶を一本開ける。上から聞こえてくる「ぎゃああああ!」と言う叫び声を聞きながらとくとくと杯に瓶を傾けてぐいと煽る。やっぱり酒は美味しいです。



「なぁに一人で楽しく飲んでるんですかー、ズルくないですかー」
「銀時さん、家賃払っとらんとかカスやん」
「もうちょっとやんわり包めよ! ダイレクトアタックすんなよ!」



 そういう銀時さんを無視して、かつストレスも溜まったので瓶をガッと掴んでラッパ飲みする。ごっくごっくと喉から音をたてて飲み込めば「てめっ、なんてもったいないことを!」と騒ぐ銀時さんに空になったそれを投げつけて新たな瓶を開ける。
 騒いでるけど知ったこっちゃない。そのまま五、六合連続で煽ってカウンターで突っ伏して眠ってしまった。



 突然ばしゃんと顔に水を掛けられてゲッホゲッホと蒸せかえる。えほえほと喉元を押さえながら「誰や水かけたん!」と怒鳴れば「俺だよ!」と銀時さんの声が返ってきた。



「銀時さん……なにすんねんボケぇ……」
「いつまでたっても寝てるからだろーが。ほら、仕事だ行くぞ」
「うぃーす」



 一旦万事屋へと戻ってびしょ濡れになった着流しを脱ぎ、とりあえず制服のシャツを着てカーゴパンツを履く。やっぱりいつも通りで落ち着くわぁなんて思いながら徳利を片手にバイクで颯爽と走り出していた銀時さんたちを追いかけた。



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8:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 22:44 ID:OEI


「私的にはぁー、何も覚えてないんだけどォ、前になんかシャブやってたときにぃアンタに助けてもらった的なことをパパから聞いてー」
「シャブ? 覚えてねーな。あー、あれですか? しゃぶしゃぶされそうになってるところを助けたとかなんかそんなんですか?」
「銀時さん! 失礼やで! 女性に!」
「ちょっとォ、マジムカつくんだけどー。ありえないじゃんそんなん」
「そーですねしゃぶしゃぶは牛ですもんね」
「失礼や! この人めっちゃ失礼や! あかん大人や! ちゅーかこの人どちら!?」
「それな」
「ちょ、銀さん。隠岐さんはまだしも。アレですよ、春雨とやりあったときのシャブ中娘ですよ」
「あーハイハイ、あのハムの!」
「豚からハムに変わっただけじゃねーかよ!」



 ファミレスの一室にて。そんな会話を聞きながら神楽ちゃんに酢昆布を与えてちょいちょい突っ込みを入れつつ失礼極まりない事ばかり言ってる銀時さんを冷めた目で眺めながら俺はこのファミレスのキンキンに冷えたビールを飲んでいた。
 女の人にハムとかデリカシー無さすぎて俺泣きそうやねんけど銀時サァン。まあ確かに? 顔ぱんぱんのハムスターみたいな体型してはるけど受ける人には受けるやろ。俺はちょっと……おん、宗近と取り合いしとる女の子居るからごめんやわ。根本で言うと生理的にあかん。すまんぶっちゃけたごめーん。



「もうマジ有り得ないんだけど! 頼りになるって聞いたから仕事持ってきたのにただのムカつく奴じゃん!」
「お前もな」



 即座に返す神楽ちゃんに「何をををををを!」と叫ぶお客さんに「店内やで、静かに」とビールを注いだコップを傾けながら告げれば「アンタマトモそうだなとか思ってたけどなんで昼から酒飲んでんの!?」と怒鳴り返された。なんなんこいつ。そんな苛つきをぶつけるようにずいぶんとなれてしまった、鼻をほじって最高に無礼な態度を取る銀時さんにビール瓶を投げ付けた。「なんで俺いきなり瓶投げられたの!?」とか知らんわ八つ当たりや。



「この人はアル中なのでほっといていいですよ。すんません。あの、ハム子さんの方はそのあとどーなんですがぶぇっ!」
「どこの誰がアル中やっちゅーねんクソ眼鏡ボケコラカスゥ、いてこますぞア゙ァン」
「アンタどこのチンピラ!?」
「ただの真面目な生徒や」
「どこが!?」
「眼鏡アンタフォローに回ってるみたいだけどハム子じゃないから、公子だから!」



 まあ要するに。
 彼女、もとい公子さんはシャブ中だったのだがなにやら痛い目を見たらしく懲りたらしい。そして彼氏(居ったんやな)がヤクの売人やっとって、一緒に足を洗おうとしとったらしいんやけど彼氏サンがもう引き返せへんとこまで足を突っ込んどったらしく、とある組織さんに追われとるから助けてくれ言うわけや。

 とりあえず。銀時さんは受けるみたいやで、その依頼。エエ金づるとかなんとかげふんげふん。



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9:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 23:10 ID:OEI


 宗近side


 俺はあのあと服を着て晋助さんに着いていく形で幹部のところへ紹介するべく行こうとしたのだが……まあ、俺の好奇心が勝った。ドヤァとドヤれるものでもない。



「晋助さん晋助さん! あれスゴくね!? スカイツリー!?」
「タワー見たぐれぇではしゃぐんじゃねェよ宗近」
「ごめん晋助さん! 俺流石にこんなデカくて大きいの初めてなんだよね! 初体験だよ!」
「おいやめろ誤解が生まれる」
「って船だよ! あの空の船全部晋助さんのでしょ権力者怖いね!」
「うるせェ静かにし「晋助さんあれ何!?」テメェ黙ってろ!」
「げふっ!」



 半ギレした晋助さんに渾身の力でぶん殴られて気絶した俺は彼に制服の首根っこを掴まれて引き摺られる形で移動している。途中で気が付いたのだがここで何か言うと斬られそうな雰囲気なので大人しく引きずられておいた。そろそろ尻がいたいけど。ズボンが心配。
 すれちがう人々に変な目で見られるが笑って手をひらひら振る。なんか不思議なものを見る目で俺じろじろ見られてたんだけどなんなの超失礼とか思って笑っとこう。なっ、涙なんて出てないんだからね!(笑)

 引きずられつつ煙管吸いながら流れる景色を眺める。晋助さんが通れば「総督!」とか声を掛けて挨拶していく人がたくさん居て、なんか母さんみたいだと思った。いや、母さん男じゃないけど。別にこんなにエロくないよ!? とても凛々しいよ!? カッコいいから憧れるよ! ……なんと言うかこうさ、人に慕われてるところが似てるなぁって。

 そこで襖が開いた音がして晋助さんが俺をそのまま引きずって中に入った。え、お、俺そのまま!? そのままなの!?
 ちなみに言うとここは鬼兵隊の一部と幹部を引き連れてやって来た旅館らしい。以前までは京に居たとか。ねえ晋助さん京ってどこ? ごめん俺お馬鹿なの。



「拾った」
「へぶっ」



 晋助さんにそんなことを言われながら俺は地面に投げ捨てられた。酷い!



.

10:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 23:49 ID:OEI


 打ち付けた腰を擦りながら起き上がるとそこには三味線持ったグラサンの男前とピンクの着物なのかよくわからんセクシーな服着たパツキンオネーサンと目が死んでる侍が居ました。
 訳がわからなくなって晋助さんを見れば綺麗なお見足を俺の背中辺りまで振り上げてゲシッと裸足の裏で蹴りつけてきた。真っ白くてとても綺麗な足でした。まあ、あの子の方が俺は好きかな、足も胸も良かったよね。それに俺男の足を見る趣味はないし。女の子可愛いよね((



「包帯巻いてるオニーサァン、蹴るのはやめてぇえ」
「その呼び方と喋り方をやめろ」
「うぃっすごめんなさい斬らないで俺はただの一般人なの」



 刀を出されれば黙る他ない。俺は「晋助さんに拾われたらしい居候することになった真裏 宗近ですよろしく」とへらりと笑いながら告げた。
 告げれば突然パツキンオネーサンに発砲された。慌ててくわえていた煙管を手に持ちカンッと弾く。そのまま晋助さんを見れば彼はなんでもないように煙管吹かしてた。アンタァ……人が攻撃されてんのに……ズルいぞ! ごめんこんなこといってる場合じゃない。



「ねぇねぇ晋助さん、なんで俺こんなに初対面の人に攻撃されるの? 俺のこのイケメンフェイスが駄目なの? 雰囲気かな? それとも態度? ねえなんで教えて晋助さん」
「知るか、強いて言うなら性格だナルシスト」
「俺別にナルシストじゃないよ!? 晋助さん酷くなゔぁうっ!?」



 再び飛んできた銃弾をすれすれでイナバウアーするみたいに良ければどさっと尻餅をついた。なにこれ俺今日よく尻餅つくね。
 彼女は銃口からのぼる煙をフッと消しながら「晋助様ああああああ!」と俺を指差しながら叫んだ。うるっさ。この美人さんうるっさ。



「なんすかこのガキは! 晋助様なんすかこのガキは!」
「うるせえ来島ァ」
「へらへらしてるわりに銃弾を弾くわ避けるわなんなんすかこのガキは!」
「あっ! 晋助さんあれなに!? 明らか人外居るんだけど!? 仲間!? 俺と同類かな!? 妖怪!? ねえ晋助さんあれなに!?」
「てめェはうるせェ!」



 俺は晋助さんに怒鳴られしぶしぶ黙る。それでもそわそわそわそわと首を周囲に動かして目がキラキラと輝いているのが俺でも分かった。それだけこの世界は俺の好奇心を擽ってくれやがるのだ。
 とりあえず晋助さんに「説明しろ」と促されたので事情を話すことにした。



**


「と言う訳でしてね」
「信じられる訳ないじゃないっすか! そんな突飛な話!」
「おっ、俺の存在全否定!?」



 パツキンオネーサン、もとい来島また子さんに存在を全否定されて激しくブロークンハートな俺。まさしく砂になりそう。



「だとよ厨二」
「俺高二です高二。中二は卒業しました。似非厨二ならウチにちゃんといるよ晋助さん」
「うるせえ黙れ」



 厨二と言うかなんと言うか、と目隠しをした右手包帯巻き巻きなあいつを思い浮かべる。あれは厨二と分類するのかしないのか……難しいところにいるやつだ。「俺の天腕がうごめく!」「天眼が疼く!」とか言ってたけど本当に天腕うごめいてたし天眼疼いてたし。あれは本人のキャラ作りだから素は普通に男子高校生だし。
 晋助さんから厳しい突っ込みをいただきながらどうにか納得してもらえた。
 一番の影響は晋助さんの「俺は事実だとして受け止めてるけどな」の一言だった。なんなんだよいったい。



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11:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 17:46 ID:OEI



 現在、銀時さんが太助と言う人物が奴さんに追われて頭ぶった切られそうになったところで登場し、予定になかったハム子さんがコンテナから飛び降りて銀時さんが瀕死ですどうぞ。



「うう、メス豚が邪魔しやがって……オイ作戦変更だ、連中残して戦線離脱するぞ!」
「あいあいさー」



 あらかじめ撤退するべく銀時さんの腹に巻いていたロープを引っ張る。現在俺は酒を入れていないので普通と何らかわりない腕力だ。神楽ちゃんすごぉい。



「あってめ何一人で逃げようとしてんの!?」
「わりぃが豚を二匹しょって逃げる作戦なんざ用意しちゃいねぇ、ハム子お前が勝手な真似すっからだ!」
「ふざけんな! パフェ何杯食わせてやったと思ってんだよ! きっちり働けや!」



 体型豚型二人が銀時さんの足に引っ付き、三人で引っ張る縄にドスンと重量が掛かる。そして銀時さんが「内蔵出る」的なことを言うから神楽ちゃんが本気にして「離せ!」と銀時さんに飛び付きながらそう叫んだ。
 あ、あかん! とか思って慌てて徳利の酒をプハッと飲み込み、手を伸ばすも縄は耐えられなかった新八くんの手をすり抜けた。結果、俺の指はソレを掠め、勢い付いていた俺はそのまま落ちた。
 どしゃあと言う銀時さんたちのようにはなりたくなかったので宙で回転して体制を整えすたっと着地する。
 上から新八くんの「ヤバイ早く逃げて!」と言う声と共に襲い掛かってくる奴さん。神楽ちゃんは無言で番傘の先を相手に向けて発砲。そっから銃弾出るんやすごっ!



「ケッ。結局俺たちゃコイツが一番向いてるらしーな。ついてこいてめーら。強行突破だァァ!!」
「銀時さん珍しくかっこええ!」
「一言余計なんだよテメェは!」



 「オラどけどけどけどけェェ!!!」と敵さんを薙ぎ倒していく銀時さんと神楽ちゃんに倣って俺も素手で相手をしていく。ズボンの中に入れていないのでシャツが翻っているものの動きやすいので気にしない。



「おお、アンタら二人やれば出来るじゃん! ホクロの方ヤベッ惚れそっ!」
「すんません俺好きな子居るんで!!!」
「快刻はシャツ体に乗せてる感じだから元々エロいのに余計エロいんだよ! って言うか素手のくせしてなかなかやるな快刻! いやほんとにやべーから止めてハム子! それよりこれなに!? どゆこと!? たかがチンピラ一人の送別会にしちゃ豪勢じゃねーか!? どーにもキナコ臭ーなその陰毛頭!!!」
「銀時さんそれ言うならキナ臭いやで!」



 そして「俺は陰毛頭じゃねえ!」とアフロのカツラをはぎとった太助さんの頭には明らかヤクと思われる白い粉がガムテープで貼ってあった。……ハgげふんげふん、坊主さんやったんですね。

 そのあと俺が酒をさらに入れてふはははと拳で『じゅうりん』しました。久々暴れて楽しかったで!



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12:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 18:39 ID:OEI



 現在俺たちは神楽ちゃんが商店街のくじ引きで当てた宇宙への旅四名様のお陰で船のゲートへと訪れていた。なんか定春がサングラスの土佐弁の男に拐われたもう楽しめないとか言っていますがもりもりご飯を船の中で食べてます。銀時さんもです。新八くんの「お前らの人間性を疑うわ」という言葉に激しく同意。

 そして地球は青かったとかバカゆうとったらテロが起きた。言うかハイジャックが起きた。今年は厄年か? 俺厄年なん? なんなん? 俺そんな日頃の行い悪ないやろ神さん! 銀時さんらと居るからか!? そうなんやな!?
 俺今銃つきつけられとるんやけどそうなんやな!?



「これよりこの船は我々革命組織『萌える闘魂』がのっとった! 貴様らの行く先は楽しい観光地から地獄へと変わったんだ! 宇宙旅行などという堕落した遊興にうつつを抜かしおって、我らの星が天人が来訪してから腐り始めたのを忘れたかァ!! この船はこのまま進路を地球へと戻し我が星を腐敗させた元凶たるターミナルへと突っ込む! 我らの血肉は燃え尽きるが憎き天人に大打撃をくわえることができよう! その礎となれることを誇りとし死んでいけ!」



 そう怒鳴る男を神楽ちゃんは蹴りあげ、銀時さんは蹴り飛ばし俺はちょうど酒を飲んでいたので銃口を握り潰してコッと凪ぎ払うように拳を軽く振るえば男は脳震盪を起こして沈む。
 その騒動に気が付いたもう一人が銃を持って駆けてくるのだが新八くんがお椀を顎にぶつけたのでノックアウト。
 このエリアのテロリストは伸したものの他にも居るだろうと警戒する俺とは別に沸き立つ乗客と調子に乗る銀時さんたち三人。頭弱いんやろか。
 俺は一応こういう事態に二、三度巻き込まれたことがあるので知っている。こういう場合テロリストはこんな数人ではない。
 ほら。銀時さんたちの後ろで銃を構えた男が一人。



「……あれ?」
「ふざけやがって、死ネェェ!!」
「遊戯は終わりやで」



 男が引き金へと指を掛けたときには俺は既に動いていて奥へと向けてつきだそうとした銃をパンっと腕で軌道をずらし、ザッと足を地面につけて急停止してから男にボディブロー。
 どさりと倒れる男を冷ややかな目で見下ろした。問題起こしてくれよってからに。



「テロリストさん」
「快刻無駄にエロかっけぇなテメェ!」



 銀時さんに叫ばれた瞬間扉が勢いよく開いたのでそれを利用して壁キックならぬ扉キックしてもう一度壁キックののち新八くんの隣に降り立つ。
 ドアの向こうにたっていたのはあのサングラスつけた土佐弁の男。今だ頭に定春を噛みつかせていた。
 出血しとりますけど大丈夫なん?



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13:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 19:47 ID:OEI

宗近side

「あれっ、晋助さんじゃん。今日どこ行ってたの?」

あれから数日、ここ、旅館での生活も慣れて来た頃だ。みんな戦争だなんだとか言ってるけど基本いい人だ。今日、晋助さんは幹部の人を引き連れて昼間、どこかに行っていたが、何をしているかはノータッチ。だって、なんとなく予想はつくからね。
 俺が縁側のような和風なベランダで煙管吹かして居れば晋助さんが入ってきて目を丸くする。彼の手には一合の陶器の酒瓶と御猪口があって、まんま快刻やんと苦笑する。掠める酒の香りで、快刻の飲んでいた激辛なものではないと区別が出来た。外戸だが香りは嫌いではない。俺がこちらの世界に来た原因は薄々分かっている。とある天使の液体攻撃だ。被っても何もなかったからまあいいかと快刻と二人してほっておいたのだ。なら、快刻も恐らくこちらへ来ている。……親友に会いたいな。なんて柄にも無いことを思った。

「知りてェか?」
「好奇心で。まあだいたい予想はついてるけどね」
「言ってみろ」
「幕吏の皆殺しとか?」
「あァ。料亭で会談してた幕吏十数人殺してきた」
「っはー! そりゃまた豪快に殺ってたねえ!」

ヘラっと笑ったあとに煙管を吸って外へ向けて煙を吐き出す。煙の色は白いものの、酸素だと言うのだからホント俺の体どうなってんの。

「宗近、お前年幾つだ」
「えー、17ー」
「はん。未成年が喫煙ねェ」
「あれ?晋助さんそんなこと言っちゃう人?」
「今ぐらい黙れ」

晋助さんは御猪口に酒を注いでちびちびと味わっている。そういうところを見てこの人は大人で、やっぱり10も年が離れてるんだなー、なんて実感して快刻を思い浮かべる。アイツ一見味わってないようにがぶ飲みするけど、意外に味をきっちり覚えてるからなぁ。フッと漏れた俺の笑みを晋助さんは一瞥し、綺麗に真ん丸な月を見上げて「なんで皆殺しにしてきたと予想がついた」と問い掛けてきた。

「予想がついたって、そりゃあ俺も前世で同じことをしたことがあるからだね」
「そりゃまた」
「あ、さっきの俺と同じこと言ってるー。
まあ、俺が生まれた時はまだ日本鎖国しててさ。ぺリー……ここじゃ天人か。その来航見てないの、ガキ過ぎて。まあこんなこと関係してないんだけどさ。……そのときから既に日本と天使間の争いって酷くって。そこで、人間の能力を強化するために……イレギュラーな存在の俺ら妖怪からその能力を抽出できないかって……幕府が妖怪取っ捕まえて妖体実験始めて。一番に裏切ったのは烏天狗の一族さ、幕府側に付いた。俺らの住処を密告した。そっからは仲間が次々居なくなった。生き残った俺も……まぁ幼馴染みだった烏天狗にこの左目、抉り抜かれてね、良薬になるとかなんとか。俺一応リーダー格だったからそれに他の妖怪もキレちゃってさ、俺ら妖怪と話のわかる人間と共闘して晋助さんがしてたみたいなことして……結果的に幕府をぶちのめして協力してくれてた人間たちが新しく官僚になり俺の世界は俺が生まれた時にはそりゃもう平和平和、一部を覗いてちょー平和。こんなわけで何してるかだいたい予想ついちゃうんだよねー」
「難儀な話だな」
「でしょー?」

ふはーと煙管を吸った息を吐き、そのままぺらぺらと俺の世界の話を聞かせる。世界を救った英雄たち、それの息子娘の双子が俺の友達、異常なくらいでかい学園都市、天界と地獄。めっちゃ暗かった傷まみれのイケメンが不死で親父に人体実験受けてたとか、俺と、晋助さん似の酒豪とが静かに水面下で取り合ってる無口な眼鏡のショートカットの女の子の事とか。

「楽しげだな、そっちは」
「ふっへへへ、楽しいよー学校。晋助さんは何がしたい?」
「あァ、俺はな、俺は、全てを破壊する」

そう呟いて何かを誤魔化すようにグイと酒を煽った晋助さんは俺を見てフッと嘲笑し「お前はどうだ」と月夜を見上げながら聞いてきた。

「まあ、晋助さんらしくていいんじゃない?」
「…ふん」

14:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 23:17 ID:OEI

やっとイラストを書く気になりました。各自10分クオリティなので雑なの許してください。隠岐くんの泣きぼくろを書き忘れた…。


隠岐
http://he10.net/up/data/img/17881.jpg
真裏
http://he10.net/up/data/img/17881.jpg

 イメージ崩したくない! と言う方は見ない方がいいかと思われます。


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15:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 23:20 ID:OEI

すいません二つとも同じものでした。

出なかったのでもう一度!

隠岐
http://he10.net/up/data/img/17881,jpg
真裏
http://he10.net/up/data/img/17882.jpg

16:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 23:45 ID:OEI


 出なければまた言ってください。

宗近side


 晋助さんは近々新江戸のかぶき町付近で祭りがあるからそこへ向かうらしい。「何!? 祭り!? 晋助さん祭りあんの!? 俺もいく!」と晋助さんに同行することとなった。



「あっ、万斎さん! 祭りだって! 祭り! 晋助さんが! 祭り!」
「そうでござるか、晋助は無類の祭り好きでござるよ、それにしても語彙力が乏しいな」
「テンション上がってるんだよ俺! 祭りと言えば綿菓子でしょ? りんご飴とフランクフルトと、チョコバナナホルモン焼きはし巻きたこ焼きいか焼きお好み焼き焼きそばだよね! ラムネも飲みたいな! 唐揚げバーとかさ! なんか祭りと全然関係無い食べ物とかとかとか! うへへ」
「見事に食べ物でござる、まったく食い意地のはった……」
「男子高校生なんて飯と女の子と遊ぶことしか考えてないんじゃない? あと射的とかもしたいじゃん?、流石に金魚すくいはやらないケド」
「はっはっは、確かにお前ほどの年の子供ならそれしか頭にないでござるなぁ」
「俺だって敵を斬ることとかちゃんと考えてるよ」



 頭の片隅にとどめとかないと俺の世界じゃすぐ首飛ぶからねぇ、としみじみ笑ってから煙管を吸って「じゃね」と足を進める。後ろで万斎さんが何を思ったかなんて知りません。
 そして前方に見つけたるは武市さん。フェミニストと言う名のロリコンだってまた子さんが行ってました。俺とは同志に当たるのか? いや俺はロリコンでもフェミニストでも決してない。ただの健全な男子高校生だ。



「武市さーん」
「おや、真裏くんですか。どうしました?」
「やっぱ武市さんってロリコンだったりする?」
「違いますよ、私はフェミニストです。いきなり失礼ですね」
「はっははは!」



 そんな会話を終えたあと、俺はさらに奥へと進む。何してるのかって? 散歩だよさんぽー。



「似蔵さんじゃん、こんにちは」
「今は夜だ」
「じゃあこんばんはだね。なになにどうしたの、黄昏ちゃって、何かあった?」
「いや、別にどうと言うわけでもない」
「へぇー」



 そのまま俺は煙管をくわえたまま歩みを進めて、さて自室へと戻るかと言うところでまた子さんと出会した。



「こんばんはまた子さん」
「アンタッスか、真裏」
「そうそう俺俺。どしたの」
「いや……晋助様が祭りに行くっていうんでつれてってほしいと頼んだんスけどねぇ『留守番してろ』って言われたんスよ」
「ごめんそれ原因俺だわごめーん」
「……あぁ、なるほど」
「ちょっとやめてよその荷物を見るような目。俺そんな役立たずじゃないって」
「あたしは真裏が戦ってるとこ見たことないんすよ」
「実際こっち来てから戦場出てないし? 無理もないですけど? 流石の俺もやるときはやるよ、相棒が居ればの話だけど」
「やっぱり役立たずに分類されるっすね」
「オネーサン今その言葉すっごく俺の心に突き刺さったよ泣きそう」



 レッツゴー新江戸歌舞伎町!



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17:ぜんざい◆A.:2017/02/20(月) 23:33 ID:OEI


 快刻side

 先日の宇宙旅行の件から無事帰宅してはや三日。生きててよかった。

 誰も気づいていないようだが一応俺は天使との戦いのあとすぐに帰宅したからその時の怪我など治療していない。天使につけられた傷は、治癒能力を持つトリガーかフレデリか、それか天使の血を混ぜた薬でしかなおらない。天使からの攻撃を受ければそこの身体の治癒活動が停止してしまうのだ。血液は多少なりとも固まるらしい。
 なぜ俺がいまこんな話をしたかと言うと、まあ……俺の鳩尾辺りには大きく刃物で突いた傷跡が在るのだ。もちろん天使からの攻撃のせいで。幸い痛みには親からのひどい虐待のおかげで慣れている。けれども痛いものは痛い。
 そして俺は今治療する術を持っていない。ここまで言えば分かるだろう、俺今地獄に居ます宗近助けて。宗近の煙管の煙には種類があり、いつもスパスパ吸っているのは通常の物だがそこに念を込めればいろいろ変化する優れもの。但し自分には効かない。俺の酒もそんな感じなので自分には効かない。
 俺はべったり血に濡れた包帯を風呂場でひっ剥がして患部に分厚いタオルを巻いて入浴。染みるなんてもんじゃないがよしとしよう。
 俺がよく酒を飲んだあとに寝ているのは体力温存の為でもある。俺は酒飲んでも眠くならない人間なのだ。はーっはっは……やめよか、悲しなるわ。



**


 それからは宇宙での疲労が溜まっていたのか三日も寝てしまっていたらしい。俺は銀時さんに銀時さんの隣の部屋を与えられており、そこで寝起きをしているのだがいくら邪魔されないと言えど流石に寝過ぎた。
 うぅんとわしゃわしゃ髪をかきあげながら襖を開ければそこではお登勢さんから平賀さんと言う歌舞伎町一の発明家の騒音騒ぎをどうにかしてほしいと言う依頼を承っている銀時さんたち他三人の姿が。



「……なにやっとんねん……あんたらおはよぉ」
「おーぅ完全に寝起きだな快刻ぅ、今昼だぞコルァ」
「どうしたんだい隠岐、珍しいね」
「三日も寝てたアル」
「疲れてたんですか?」
「……多分な。……銀時さん俺の徳利……どこや……」
「冷凍庫だ冷凍庫」
「……冷蔵庫な、冷蔵庫……冷凍庫ぉ!!? あんたどないなとこ入れとるんやシバき回すぞ!? 俺の酒! どないしてくれんねんドカス!」
「俺すっげー怒鳴られてんだけど!? すっげー怒鳴られてんだけどなんで!?」
「冷凍庫に入れた銀時が悪いね」
「流石お登勢さんやな」
「大人を敬え!」
「年下のことを考えてから言えや天パァ!」
「ゴメナサーイ(しまさかマグネット風に)」



 とりあえず冷凍庫(ホンマに入れとった)から中身が凍って、すっかり冷たくなった徳利を引ったくって再び布団へ逆戻り。宗近ぁ、助けてぇぇえ。



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18:ぜんざい◆A.:2017/02/21(火) 00:10 ID:OEI


 それから三日後、なんか江戸で鎖国解禁二十周年記念祭をやるらしくて、あの発明家の平賀さんはそれの出し物の為にガシャコンガシャコン騒音ならしてたらしい。それには将軍も来るらしいから出来上がらなかったら切腹ものらしいと逃げ帰ってきた銀時さんたちは言った。とりあえず手伝いを頼まれたようだ。俺は居候なだけで万事屋ではないので「お前も働け」と言う言葉をノータッチエースで「俺関係無いもん」と叩き返してやった。誰が金を支給しとるんやと思っとるねん。
 現在俺の財布は天使の討伐時の報酬でたんまりだ。十年は遊んで暮らせそうなぐらいにはな。
 まあ、祭りは今日らしくて、布団から起きれば既に手伝いにいっているのか銀時さんたち三人組は居なかった。
 とりあえず遊びに出向こうかと制服のシャツにカーゴパンツを履きいつも通りの服装で外へ出た。空は西がうっすらと赤くなっていた。どんだけ惰眠貪っとったん俺……。


**

 祭り会場に行けば上へ下への大騒ぎ。流石鎖国解禁二十周年と言うべきか、天人入り乱れての人が多い。

 たこ焼きを口にしながらまあまあやななんて呟いて辺りを見渡す。射的のところでチャイナの女の子がおじさんに向かってコルク銃発砲してるなんて見とらんし知らんわぁー。
 新たに“ビール瓶一本”片手に一人寂しく歩いていれば、浴衣を着た綺麗なお姉さん三人に絡まれた。と言うか声を掛けられた。おおお、これが俗に言う逆ナンなんやな! とかはじめての体験にふおおと感嘆していたのも束の間もう押しが強いのなんの。



「いや、やから俺一人で回りたいねんって」
「なになにー? 傷心中なのかな包帯くぅん」
「お姉さんたちが慰めてあげよっか?」
「こんな色男、断るなんてもったいないことしたのねぇ」
「(まだフラれてへんわバカ野郎!)あの、お姉さんらなぁ」



 ちょっと対応に困って強めに出ようとしたその時だった。後ろから肩を組まれて「ごっめーんお姉さんたち、コイツ迷ったくせにちょろちょろしてて見つかんなかったんだよね、ツレで来てるから悪いけど諦めてくんない?」と聞き覚えのある声が聞こえた。
 ふわりと鼻腔を掠めた煙管のアイツ特有の微かに甘い匂い。いろいろと慣れたような口調、視界の端をちらつく金髪。



「えっ、あ、友達で来てたんだぁ」
「ごめんねー」
「い、行こっ」



 そそくさと逃げ去る様に行ってしまったお姉さんたちに安堵しつつ肩に組まれた腕を外して姿を見れば、そこには想像通りの人物がヘラっと笑って居た。



「宗近や! 宗近やんお前も居ったんやな!」
「あれ、快刻気付いてない? 俺たちここに来る前天使の液体攻撃受けたじゃん、原因多分あれだよ」
「えっ、そうなん?」
「お前ホントこういうとき頭まわんねーなー」
「勉強が冷原よりできねぇやつに言われた無いわアホ! アホ、そう、お前なんかただのアホや!」
「おまっ、俺より成績良いからって酷くね!?」



 宗近も宗近でお世話になっている人が居るらしく、その人と一緒に来たから俺もそこへ挨拶に連れていくつもりらしい。宗近がお世話になっとる人、どんな人なんやろ。と澄ました顔して考えた。



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19:ぜんざい◆A.:2017/02/21(火) 00:32 ID:OEI

宗近side

 るんるんと快刻の無駄なく筋肉のついた二の腕を引っ張りながら晋助さんの待つところへと向かう。相変わらず酒を片手にしていたが、徳利ではなかった。どうしたのかと聞けばお世話になってる人が冷凍庫に入れてしまい飲める状態じゃないらしい。
 可哀想に。なんて思いながら口にくわえた煙管を軽く噛む。15年来の相棒だ、手放すことは出来そうにない。快刻は仕方ないとして。



「あっ、焼きそばやん、あそこエエ匂いするわ、きっと美味いやつや!」
「えっ快刻そんなに言っちゃう? 言っちゃう? なら美味しいのか! 早く買いに行こうぜ!」
「えぇ〜、俺向かいの出店の焼き鳥食いたいんやけど〜」
「先に焼きそばだって! その次に焼きとrあっ! 隣にイカ焼き屋めっけ! いい匂いだ! 美味しいやつだ!」
「なんやと!? はよ行くで宗近!」
「アイアイサー! うへへへへ!」



 二人してひゃほーとか言いながらめぼしい出店を巡る。快刻は本日四本目のビール瓶に取り掛かっている。片手にはイカ焼き。お前はどこのおっさんだよ。まあ見た目がエロいのでそちらが勝ってそんなこと一切感じさせないが。
 日焼けを知らないみたいに絹のような白い肌、炎天下の中汗ばむ(ここでは私服に見える)制服、髪の先から滴る汗、微かな吐息。お前はどこの星のエロ王子ですか快刻くん。君はもう歩く18禁だよ見ろよ周りの女性が俺たちに視線を釘付けだよ。まあ俺もよく清純派な顔をしていると言われるのでそれも有るのだろうけど。
 性格さえ見なければ完璧にエロいワイルドクール系イケメン(だが突き抜けるほどハイテンション)と清楚派顔の金髪(かつ脳内ピンクの年中思春期)の俺、流石に注目されるだろうよ。

 そこから俺たちは晋助さんの待つ橋へと向かった。快刻も満足したようで何より。俺は片手にりんご飴を握りながら聞いた。祭りの最後はりんご飴と決めているのさ。



「快刻お前さ、天使に鳩尾突かれて無かった?」
「突かれたわ。酒は自分には効かへんし、包帯巻いてほったらかしやねんけど、宗近居るし」
「へいへーい」
「はよ治せ。最近疲労で酒飲んだらすぐ寝てまうし、普通に二、三日寝てんねん」
「快刻が酒飲んで寝る!? ヤバイそれはヤバイ!」



 わりと快刻がギリギリ危ないラインに立っていたので慌てて煙管を口にくわえて煙で治療。快刻の顔色を見るに完全回復したらしい。そりゃ肌も日焼けを知らないような肌になるわ。
 そんなこんなでやっと俺たちは晋助さんと合流した。



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20:ぜんざい◆A.:2017/02/21(火) 23:36 ID:OEI

高杉side


 どこかをほっつき歩いてた宗近が戻って来た。その傍らには、初めて見る男。俺に似てなくも無いが、少し違う。

 黒に近い深い色みの紫髪、鋭くも流したタレ目。どこか近寄りがたい空気を纏い、色気を存分に晒し出す。シャツのボタンは第三まで開けられ、それに左目元の泣きボクロ、なぜか若干蒸気した頬。言わずもがなクールな色男が宗近に腕を引かれてやって来た。
 宗近が人混みの奥で「晋助さぁん! やっぱ俺の相棒こっちの世界来てたわ!」と笑顔で声を張り上げ俺に教える。周りと頭ひとつ抜き出た二人は目立つ。多分そうなのではないだろうかと予想はついていたが、あまりにも予想していた奴とイメージが離れすぎている。もっとこう、バカっぽいやつを予想していたのだが。



「その色男が相棒か」
「あ、やっぱ? やっぱり? 絶対晋助さんはそう言うと思ったわー」



 妙ににやにやしている宗近を内心怪訝に見ながら色男の方を見ればうろうろと視線だけが辺りをさ迷っていた。そしてちらりと宗近を一瞥し、ちょうどその時宗近もコイツを一瞥したのでにやっと笑ってから「この人が俺の世話になってる高杉晋助さんね」と指差して紹介した。おい指差すんじゃねェよ。



「あのなぁ宗近……人のこと指差したらあかんやろ? 教えられへんかったか? ホンッマ……学園長が見たら本気でシバキ回されんで、マジで」
「ごめんもうしない、もうしないから母さんには言わないで!? あの人容赦を知らないから! お願いホント頼む俺死ぬ殺されるぅう!」
「うっさ! 宗近うっさ! すんません高杉さん、このドアホ敬語も使われへんしめっちゃ鬱陶しかったんちゃいますか? このドアホ」
「なんで二回言った!? なんでお前ドアホって二回言った!? しかもシカト!? フルシカトなの!?」
「あぁ、俺隠岐 快刻言います、よろしく高杉さん」
「お願い快刻話を聞いて!」
「お前は黙っとれやニコチン野郎!」
「なんだとこのアル中が!」
「はァン!!? もっぺん言うてみぃ!!」
「いーよ何回でも言うよこのアル中!」
「そーやで俺は酒が大好きなんや! なんか問題でもあるか!」
「ない!」
「ならよし!」



 口調と性格と表情が見た目を裏切った。見た目のクールなイメージを破ってハイテンションが出てきた。無表情を貫くのかと思えばびっくりするぐらい表情が豊かで俺を煙管をくわえたまま軽く固まる。
 その様子に気が付いたらしい宗近はにやにやと笑みを深めてうへへと笑った。



「快刻って雰囲気イケメンなんだよねー、みんな最初は晋助さんみたいな反応するんだよねー! それ見るのが楽しくて仕方なんだよねー!」
「てめえ静かにしてろ!」
「おわあ」



 ドゴッと気持ちよく宗近の尻を蹴れば快刻が物珍しげに驚く。
 ビール瓶に入ったビールをグイと煽った快刻に少し固まり、ああコイツは宗近が確か酒天童子だとか言ってたなと一人納得してフーと煙管の煙を吐き出した。



「宗近、そっちおってうるさないですか?」
「うるせェ通り越して喧しいなァ、こいつァ」
「だってさー、晋助さん艦隊持ってるんだよ!? 驚かない訳にはいかなくない!?」
「そら驚かない失礼やな! 俺も晋助さんとこに厄介になってまおかな」
「宗近よか快刻の方が楽みてぇだしな。別にかまやしねぇよ」
「「やたー」」
「じゃあ俺今世話になっとるとこに挨拶してきますわ」
「またあとで! ここ来いよ!」
「んー!」



 居候が一人増えたな。



.

21:ぜんざい◆A.:2017/02/23(木) 23:53 ID:OEI

快刻side

 銀時さんたちにとある人にこれから世話になるから今までありがとうと告げれば金ヅルが! って叫ばれた。
 酷いと思わん? なぁ酷いと思わん? 人のこと金ヅル扱いやで酷いと思わん?
 待ち合わせ場所にてイチゴ飴を貪っていた宗近にそう告げれば「え、お前金持ってたの?」とキョトンとされた。そうだったこいつ普段財布持たない人種だった。金方面では高杉さんにお世話になっていたらしいホント何やっとん宗近。高杉さんの懐の深さに感激中な俺。

 だがしかし、今現在その高杉さんの姿が見えません。なぜでしょう。



「晋助さんなら知人めっけたから挨拶してくるってさ」
「律儀な人なんやな」
「あの人凶暴だからね言っとくけど。何度蹴られ殴られたか」
「それはお前が悪いんやろ」
「そうだけど」



 直後、背後で爆発が起きた。何やら将軍様めがけてロボットが襲いかかっているらしい。もしかして平賀さんだろうか。なんにせよ俺たちはここで待機だ。



「俺あの暴動の中に突っ込んで行きたい」
「その気持ち分かるけど今回はやめとこな、真撰組さん出とるらしいから」
「はーいおかーさん」
「誰がお母さんや誰が!!!」



**

 戻ってきた高杉さんは俺たちを見てフッと笑ったあと、「お前ら二人、受け入れが出来なくなった」とニヒルな笑顔で告げられた。



「はァン!?」
「おい唾飛ばすな宗近! それより、高杉さんそれあんまりですやん!」
「近々でけぇことやるんだよ。俺の船は関係者以外立ち入り禁止にならァ。わりぃが駄目だ。快刻の世話になってたとこ行きゃいいだろ」
「もう別んとこ行く言うて来たんやけど……」
「ちなみにどこに世話になってンだてめぇ」
「万事屋さんですわ」



 俺がそう告げれば高杉さんは目を微かに見開いたあと、俺の見た限りのニヒルな笑みへとすぐ戻して「そうかァ……」と手で顎を押さえてくつくつと笑う。



「ふん、まあそういうわけで無理だ。ことが落ち着きゃふらっと出会うだろうよ」
「まあ、関係者事情ならしゃーないですよね。わかりました。けどアイツをどないかしてください」



 ようやく船に乗れる! と意気込んでいたのにそれが出来なくなって落ち込んでる宗近を。
 俺がそう言うと高杉さんはふん、と鼻で笑って「時期がくりゃ乗れるだろ」と背を向けて歩いていった。後ろ手に手を振る高杉さんはかっこよかったです。まる。おいおい作文かいな。
 宗近はとりあえず、万事屋さん下ネタ酷いでと教えると目をキラキラさせて話題に飛び乗ってきたのでさほど面倒ではなかった。



.

22:ぜんざい◆A.:2017/02/24(金) 20:37 ID:OEI


 翌日、少し気まずい気持ちを抱えながら万事屋の扉の前へと立っていた。
 ふう、と息を吐いて引き戸に手をかけようとしたとき、宗近が要らんことを呟く。



「何、お前柄にもなく緊張してんのー? 酒天童子ともあろう者がー? へーふーんほー」
「……黙れ喫煙バカ!!」
「はァン!? だったらお前は飲酒バカだろーが!」
「もっぺん言うてみろやコルァ!!」
「何回でも言ってやるよバカ! 飲酒バカ!」
「ならお前はアホの子や!」
「言ったなお前!」



 ぐるると威嚇し合い額を付き合わせて低レベルな言い争いを繰り返していれば扉がガラリと開き「ぎゃーぎゃーうるせー!」と銀時さんが怒鳴り散らしてきた。アンタもそこそこや!



「あん? なんだよ快刻かよ。どした、依頼か?」
「いや、俺が世話になるはずやったとこ急遽用事が入ってあかんなったんで。もっかいここで厄介になるかと。一人増えて」
「増えたの!? いやいやいやいや無理無理無理無理これ以上人は」
「なんか白くてデカイのいるじゃん!」
「あっコラ!」
「バカ! なにしてんだ宗近!」



 無遠慮にずかずかと万事屋兼銀時さん家に勢いよく侵入した宗近は靴を脱ぎ捨てそのままにタタタと定春に駆け寄ってもふもふしている。噛まれへんかな、大丈夫やろか。とひやひやはらはらして見ていれば定春もなついていたので良いかと解決。



「……さぁて快刻くん。あの金髪誰だよテンションたけーな」
「相棒やで、アホの子やけど」
「アホの子かよ」
「誰今俺の事アホの子っつったの!」
「銀時さんやでー」
「はぁ!?」



 ご厄介になります!



.

23:ぜんざい◆A.:2017/02/24(金) 23:02 ID:OEI

宗近side



「改めまして、真裏 宗近でーす。これから厄介になりまぁす、よろしく〜」



 ソファに座ってヒラヒラと手を振りながらへらへら笑ってる俺の隣で「正直すまんかった」と坂田さんに謝罪して顔に影を落としているのが快刻。ちょ、快刻酷くね? それはなくね?



「俺まだ認めてねーけど。ねえまだ認めてねーんだけど!?」
「まあまあ、良いじゃないですか銀さん」
「なんで新八が我が物顔してんのぉおお!? なんでお前そんなこと言ってんのおお!?」
「おおおおお! 俺こんなに普通に会話してて叫ぶ人久々だ! 凪みてぇ!」
「宗近、銀時さんと凪じゃ意味合いちゃうわ。アイツはほんまに苦労人やけどこの人ただ自分がめんどいからやで」
「わぁクズだな!」
「笑顔で銀さんクズ呼ばわりされたんだけど!?」



 ぎゃんすか喚く銀さんを放って快刻と二人して定春をモフる。



「いやー、ふかふかだな〜! 兵器型天使もこんだけ癒しになれば切り捨てないのにな〜。人型はダメだ、アイツらは破壊しか運んでこなかった」
「アイツら見た目だけやもんなぁ、やらかそうなん。普通に前、レーザー砲で透の首すぱーんて飛ばしとったしなぁ」
「あれは笑ったよねぇ」
「いや笑えねーよ!? なにモフりながら物騒な話してんの!? どんだけ過酷な学校生活過ごしてんの!?」
「そーでもないで〜? 大抵は英雄さんらがその地区ごと焼け野原にしたりしなかったりやから」
「それなんて破壊!? 守る側なんだろ!?」
「信じてへんくせによぉ言うわ〜」
「るせぇ!」
「えっ、銀さん信じてないの!? マジか! じゃあなに、快刻も存在否定されちゃった系な?」
「いや、疑わしい目で信じてはもらった。なにお前疑われたん?」
「えー? 俺最初の人には「こんな世の中だ、そんなこともあんだろーよ」とかかっこよく認めて貰えたけど〜? 部下の人には「あり得ねーっす! そんなわけあり得ねーっす! でたらめっす!」って俺の存在完全否定されたんだけど〜?」
「喋り方ウザイアル」
「女の子だ! あー、んんっ。……ちょっとこっちおいでぇ?」
「すんません銀さん警察呼んでもらえます? この万年思春期エロボ喫煙バカは一回捕まった方がエエ思うんですわ俺」
「お前なかなか言うね、銀さんビックリだわ」
「コイツアホの子なんで」
「誰がアホの子だ誰が! この雰囲気勘違い残念ハイテンション歩く18禁飲酒バカ!」
「黙っとれ××××(ピー)が!」
「うるさいわこの××××(ピー)!」
「眼帯厨二病××××(ピー)!」
「××××××××(ピーー)!」
「お前らピーピーうるせぇ! 銀さんもそんなピーピー言わねーよ!」



第一部完

24:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 09:57 ID:gAY

もっかい「フレトリ」→「銀魂」トリップ。上の話とは繋がってません。
 注。フレトリ設定が今は小説にしていません。現段階で決定している編の設定を使います。
 今回飛ぶのは風紀委員長です。七王(炎の王)継承後。現在九代王としてフラフラしてたところ。炎の王は代々短命らしく(と言っても数百年は生きる)、炎の王だけは吹雪で十代め。成人して成長ストップ。

人物紹介。

黒鉄 吹雪(くろがね ふぶき):21歳

 世界の政治、財界、権力を握る13の表の家、表十三家のひとつ黒鉄家の長男。中学三年の時にトリガーもフレデリも持っていない一般人だと言うことで人前で勘当されて自ら出ていった元風紀委員長。
 実はその時既に炎の王「イブリース・イトシェル」と契約を交わしており、トリガー持ちと言う訳でも無かったが家が嫌で勘当てしばらくまで黙っていた。イブリースにそれは可哀想だと、六歳の契約した直後この世でトリガーとしてすごく珍しい『拒絶』のトリガーを貰った。
 こう考えると、吹雪は六歳で七王最強と言われるイブリースに勝利したこととなる。しかもトリガーもフレデリもなんの能力も無しに。言っておくが吹雪くんは本当にただの一般人だった人です。(七王との契約の際、彼らと精神世界で戦うことになるのだが、今まで千人一万人が挑戦しても成功者はたった数人)実力が化け物染みたただの一般人だった人だ。六歳だ。
 マイペースな性格で、話し方はどこぞの復活の風紀委員長。一人称俺。甘いものが結構好き。どこぞの復活の風紀委員長とは違い恐怖政治はしない。元々風紀委員長と言う座自体無理矢理押し付けられた形で就任していた。基本的に日本刀ではなく四節棍棒を使用。継承してから己である日本刀。
 昼寝が好きでよく屋上で姿を見かける。黒鉄家の格が堕ちてざまぁとか考えてる。綺麗な顔をした黒髪青年。炎の王を継承したので殺されるまで死なない。だが吹雪は怪我を拒絶すればきれいに治るのでほとんど不死。トリガー使いなので不老。頭脳明晰沈着冷静。
 補足だが、それぞれの属性の王を継承すれば右の肩甲骨辺りの皮膚に小さくそれぞれ属性の漢字が書かれる。炎なら「炎」雷なら「雷」。そしてその属性のトリガーも受け継がれる。ちなみに威力アップ。
 銀魂の世界にトリップしてからはイブリースではなく本名の黒鉄吹雪を名乗っている。当初なにここ、えー、みたいな感じだったけど吉田松陽さんに出会って行動を共にしている。
 服装はトリップしてくるその時普通に普段着だったのでワイシャツに赤と白のジャージの上を肩に羽織って下はカーゴパンツ。現在は目立つから、と着流し。
 銀時と高杉と桂がなついてくれてるので可愛くて仕方ない。表には出ない、表情があまり動かない。時々剣の相手をしたりとか勉強も塾で教えたり。基本屋根(瓦)の上で寝てる。
 自身の炎の王としての正装は特に決まっておらず、継承のもうひとつの証のコートを羽織ってりゃ良いだろ。って言う。本当に大事なときは九代目イブリースだった明智秀鶴(あけち ひでかく)から渡された狩衣の『先代の炎の王としての正装』を着る。
 周りからは冷たいように見えるけど優しい人と言う印象。



.

25:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 14:29 ID:gAY


 気が付けばそこにいた。はく、と口を動かして辺りを見回す。確か俺は家で読書に勤しんでいたはずだ。なんで屍まみれの戦場に立ってんの俺。どうした俺。
 本の代わりと言うように持っているのは元明智秀鶴現俺な日本刀『杯』。そして脇に抱えているのは継承したコート。



「……待ってわかんないこれ」



 静かに呟けば「何が分からないのですか?」と返答が来た。振り向けばそこには刀を携えた長髪の男。



「これは貴方がやったのですか?」
「……いや、違う。気が付いたら立ってたんだ」
「無意識下でやったんですね」
「いや、やってない。俺は汚れてないし、刀も血に濡れてない。俺はさっきまで部屋で本読んでたんだけど、気が付いたらここにいた」
「……珍しいことも有るのですねぇ」



 にこにこと笑う彼を横目に「……これからどうしよう」と呟いて死体の山に腰を掛ける。そうすれば彼は俺にいった。



「行き場がないなら私と来ますか?」
「……あんたと?」
「近々松下村塾寺子屋を開くつもりなんです。どうですか? 講師として来ませんか?」
「……」



 さしのべられた手を、取った。



「私は吉田 松陽です、これからよろしくお願いしますね」
「……俺は、……黒鉄 吹雪」
「吹雪くんですね、頼みますよ」
「……よろしく、先生」



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26:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 15:15 ID:gAY



 人の屍の上で、烏を横目に握り飯を口に運ぶ銀髪の少年がいた。
 そいつの頭に吉田は撫でるように手を置く。



「屍を食らう鬼がいると聞いて来てみれば、君がそう? またずいぶんと、かわいい鬼が居たものですね」



 吉田がそう告げれば銀髪のガキはそこを飛び退き自分の背丈にはずいぶんとあわない大きさの太刀をゆっくりと抜き去り頬についた米粒を舐めとる。その刀は刃こぼれが酷いし、血は付着して切れ味がひどく悪そうだ。それでも少年はそれを使って生き延びたのであろう。酷く、悲しい子だ。



「それも屍から剥ぎ取ったのですか。童一人で屍の身ぐるみを剥ぎ、そうして自分の身を守ってきたのですか。大したもんじゃないですか。
だけど、そんな剣、もういりませんよ。人に怯え、自分を守るだけの剣なんて捨てちゃいなさい」



 吉田はそう言って銀髪のガキにポイッと自分の刀を投げ渡す。雑か。おいこら雑か。
 重さゆえか受け取ってふらつくガキは体勢を整えたあと、吉田を不思議そうに見つめた。それを端から傍観する俺。



「くれてあげますよ、私の剣。そいつの本当の使い方を知りたきゃぁついてくるといい」



 ガキは吉田を見つめて、動かない。俺はソイツに歩み寄り、腰を屈めて服の袖でそいつの顔についた血を拭った。



「嫌じゃないなら、おいで。あの人、結構不器用なんだよ」



 そのガキの頭をくしゃっと撫でて背を向けた。



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27:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 16:36 ID:gAY



 あれから。あの少年はついてきてとある村にて『松下村塾』は開かれた。金のない子供に文字や剣術を教えて侍として生かすらしい。
 吉田松陽、俺と世界とは少し違った人物、ここはパラレルワールドかなにかだろうか。
 ここは江戸で、天人と言う宇宙から来たものを認めず戦っている攘夷戦争の真っ只中のようだ。
 それでも少しずつ俺たちは前へと進んでいた。
 あの銀髪のガキは坂田銀時。甘いものが存外好きでどこで覚えたのだろう下ネタが酷い。大層な悪ガキで授業はサボるわ昼寝はするわ、昔の俺と行動がそっくりだ。鼻をほじるのはいただけないが。



『銀時、久々に俺と試合しようか』
「やだよ、吹雪は手ぇ抜くし、それなのにつえーし俺瞬殺だし」
『ごめん、お前の古傷抉ったな』
「この人分かってて言ってる、分かってて言ってる!!」
『代わりと言っちゃアレだけど、ぜんざいを作ってきたよ』
「食うぅういぇい!」



 縁側からそう呼び掛けるとたたたとあのときに放られた吉田の刀を抱えながらこちらへやって来た。年の離れた弟が出来たようで少しむず痒い。
 甘味好きな銀時はすぐに飛び付いてきて「どこどこ俺のぜんざい」と俺の着流しの裾を引っ張る。あの子と似た髪色に少し泣きそうになりながら「道場だよ、みんな多分先に食べてる」と告げた。



「俺より先に!?」
『サボってたお前が悪いんだぞ』
「へいへーい」



 鼻をほじりながら道場の方へ駆けていく銀時を眺めて、無意識に言葉が漏れた。



「……雪」



 それを聞くものは誰もいない。



.

28:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 17:17 ID:gAY



 しばらくして、塾に子供が道場破りに来た。いい試合をしていたが銀時に負けて気を失い、俺が部屋へと運んで布団に寝かせた。
 頬に湿布を貼って、安らかに眠る黒っぽい紫の髪を撫でる。この髪が無償に右目を包帯で覆った彼に似ていて笑みを溢した。これくらいの子供が一番可愛らしい。彼は確か武家の子では無かったか。桂と言う幼くして当主になった子と一緒にいるのをよく見かけたが。
 目が覚めた彼に「まだ寝てろ」と声を掛ければ「いい」と返され、やっぱり可愛くないと溜め息を吐く。その前に額に乗せていた冷えたタオルを水につける。水はずいぶんと温くなっていた。



「まったく、寺子屋に道場破りなんて聞いたことが有りませんよ。怪我がこれぐらいですんでよかった」
「俺は弱いやつとしあうのに飽きただけだ……ホントはアンタかこの人、どちらかとやりたかった」
『……俺?』
「あの銀髪と一試合やってるのを偶然見た。ただ、あのときは本当に瞬殺で何をしたか分からなかったから」
『……もっと手を抜こうかな』
「ははは、あの銀時とあれだけやりあったのですから、充分スゴいですよ」
「でも負けた」



 布団の上でうつ向きながらそう告げた彼の顔は悔しげで、年相応に見えた。この子はきっと親に反抗して自由に生きたいんだろうな。



『吉田、ちょっと立つ。温いから、桶の水代えてくる』
「はい、わかりました」



 立ち去る前に彼の頭を撫でてから、桶を持って一旦その場を離脱した。後ろからあの子供が不思議そうな目をしてこちらを見ているとは知らずに。

**


 戻ってくれば吉田が「悩んで迷って君は君の思う侍になればいい」と彼に背を向けて穏やかな庭を見て告げていた。
 俺は気にせずその子供の側に腰を下ろして桶を畳に置く。すると、「アンタはどう思う」と子供が聞いてきた。



「……どういう人間が侍なのか」
『…なかなか、難しいな……』



 俺がそう告げれば子供は怪訝に首をかしげて眉をしかめた。それにどうかしたのかと思いながら敢えて触れず、彼の頭を去る前にしたように撫でる。



『お前、こうやって頭を撫でてもらった覚えがなかなか記憶にないんじゃないの』
「……」
『俺もそうだったよ』



 ふいと逸らされた視線に苦笑してそう告げれば奇妙なものを見るような表情で俺を見つめてきて、黙っている。
 俺は気にせず先程の答えを口にした。



『侍かなんて、人それぞれだよ。確かに、根本では吉田の言うように自分の思う侍になればいいのさ。
他人から見れば悪いことをしているようなのかも知れない、それでも自分が正しいと思ったことをすればいい。手出しは要らない、口出し無用、自由奔放、在り方なんて人それぞれなんだから』



 頭に乗せていた手を動かしてくしゃくしゃと頭を撫でると擽ったそうに俺を見つめてきて、少し俺は微笑む。



『お前、名前は?』
「……高杉 晋助」



.

29:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 17:44 ID:gAY

高杉side

 あれから俺は毎日のように銀時に戦いを挑んだ。
 先日も負け、一昨日も負け、昨日も負け、今日も負けた。
 日に日にぼろぼろになっていく俺は通っている講武館と言う塾で後ろ指を指されている。
 ぼろぼろになるのは俺が弱いから。でも、怪我をしたとき決まって手当てしてくれるのは吹雪さんだった。



『また負けたのか』
「負けた」
『お前も懲りないな、なかなか』
「俺が勝つまで、ここに来る」
『信念があるのは良いことだ。でも自棄だけは絶対に起こすなよ』
「……わかった」



 まったく、なんて言いながらこの人は手当てをしてくれるのだ。お人好しなのかなんなのか、でも、いい人だ。ほら、今日もこうして菓子を渡してくる。



『今日はケーキだぞ』
「……けーき…」
『外国の菓子だ、俺が作ったからどうとも言えないけどな。俺がよく作るやつだ』



 甘い香りが漂う。三角に切り分けられた真っ赤な苺の乗った生クリームがたっぷりと塗ってある柔らかそうなそれ。吹雪さんはそこの部分を銀紙で包んで俺に渡してきた。
 それを受け取ってから白いクリームが指につかないように銀紙部分を持って、先にぱくりぱくりと口に運んでいく吹雪を真似て先端に食い付いた。



「!」



 ベタつくような甘さだが嫌いではない。中の苺がみずみずしい。スポンジと呼ばれるものが存外柔らかくて、そのスポンジの間に挟まれたクリームの中からも苺が出てくる。甘い。美味しい。初めて食べたものだった。
 食べ終えた頃には吹雪さんはわしゃわしゃといつかのように頭を撫でて『怒られないうちに帰った方がいい』と案じてきた。


**

 家に帰ればクソ親父から竹刀で殴られて「次に問題を起こせば勘当だ、飯は与えない」と言われた。口から垂れる血を手で拭って、その後神社の境内で夕日に目もくれず前を見つめた。そこで桂が「婆め、俺はツナマヨは食わんといったはずなのに」とぶつくさ言いながら握り飯を持ってきた。聞いてたのかコイツ。桂に何か見つかったかと言われ、見つからなかったと告げてから俺はあいつらより強くなりたいと伝えた。



「ああ、そうだ高杉」
「なんだよ」
「黒髪の人からこれを預かってな。俺も食っていいらしいが、なんなんだろうな」



 そう言って桂が俺に渡したのは、小さな箱だった。開けてみれば昼間食べたものとは違う、茶色のケーキが2つ。



「甘い匂いだな」
「……ああ、ケーキって言うらしい」



.

30:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 22:13 ID:gAY

吹雪side

 ある日、俺がショートケーキを大量生産して道場に差し入れに行ったときだった。途中、吉田と合流して道場へと入る一歩手前で立ち止まる。



「すげー! あの銀時に勝つなんてすげーよ!」
「よく頑張ったよお前!」
「な、馴れ馴れしくすんじゃねえ! 俺とお前らは同門か!?」



 晋助が周りに取り囲まれやんややんやと言われている最中だった。どうやらようやく銀時に一本取ったらしい。そこで、吉田が中へと入った。



「おや、違うのですか? てっきり私はもう入ったのかと思ってましたよ。だってあんなに毎日熱心に稽古に……いや、道場破りに来てたから」
『……ふはっ』



 後ろで両脇に大皿構えてた俺は堪えきれず少し笑いを漏らすと晋助を取り囲んでいた子供たちがいっせいに笑い出した。それに恥ずかしそうに顔をしかめた晋助。そこに「おいぃ!!」と怒鳴り声が混じる。声のする方を見れば壁に持たれかかって晋助を指差す銀時の姿があった。



「なにアットホームな雰囲気に包まれてんだ!!!! ソイツ道場破り!!!!! 道場破られてんの!!!!!!! 俺の無敗伝説(処女膜)ぶち破られてんのぉお!!!!!!!!」



 喚く銀時に『下品だぞ』と告げて敗けを認めたくないところに苦笑する。そこへいつの間にかやって来ていた長髪ポニーテールの少年、桂が「みんなでおにぎり握ろう!」と銀時の肩に手を置いた。もちろん銀時が黙っている筈もなく、「てかお前誰よ!? なんで得体の知れねー奴の握ったおにぎりなんて食わなきゃなんねーんだ!」と再び吠える。だが、桂は「誰が食べていいと言った! 握るだけだ!」と反撃する。「それなんの儀式!?」と叫んだ銀時は、うん、まあ悪くはない。
 そこへ吉田が「もう食べちゃいました」と返すからみんな大爆笑だ。あんたはもうちょっと空気を読めよ。

 きょろきょろと周りを見渡した晋助は少しうつむいてから声をあげてみんなと一緒に笑い出す。
 それを一瞥してから俺も微かに笑って、『差し入れだぞ、一人一個な』と両手に抱える大皿を地面に置いた。わぁっと歓声をあげて駆け寄ってくるから素直に少し嬉しい。銀時は真っ先に飛び付いてきて予想通りだったが、晋助も駆けてきてひとつ大粒な苺の乗った物を素早くかっさらって行ったのを見て気に入ってくれていたのかと笑う。後ろで居心地悪そうにしていた桂も手招きで呼び寄せてひとつ渡した。



「……俺もいいんですか?」
『構わないよ、食べればいい。ほら、晋助んとこ行っておいで』
「ありがとうございます! 俺、桂小太郎です!」
『俺は黒鉄 吹雪、よろしくな』



.

31:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 11:57 ID:gAY

快刻宗近連載番外編
【煙草は一箱に一、二本は馬糞みたいな匂いのする奴が入っている】
宗近side



「……というわけで。賛成三人と一匹反対二人、快刻の慈悲を加えても少なかったのでぇ、この議案は可決されましたぁー。えー、万事屋は今日から一週間禁煙ね」



 無情にも銀さんから告げられた言葉に固まった。背後に落雷が落ちた気がする。心なしか視界が暗い気がする。震えて泣きそうになりながら快刻を見ればバツが悪そうに視線を背けられた。ねえ、こっち見てよ。



「待って待って待って待ってぇぇ!!! それは駄目! ダメだよ! 俺の生き甲斐! 生命維持! 銀さぁぁぁん! 俺! 死ぬ!」
「るっせーな! 新八も珍しく俺らと同票なんだよ! 諦めろ! たった一週間だ! 死なねーよ!」
「まあ、宗近さんには悪いんですけど、副流煙になっても嫌ですし」
「部屋煙たいネ、飯マズアル」
「わふっ」
「俺の! 吸って吐いた息! 酸素!」
「三人とも吸う前の煙のこと言うてんねんて、諦めや宗近」
「かっ、快刻ぅぅぅう!」



 最大の理解者にすら見捨てられて、うわああああと快刻に必死にすがる俺。それを見て「ニコチン依存かよ」と冷めた目で見てくる銀さん達ギルティマジギルティ。
 そのまま銀さん達三人にポイッと万事屋から放り出された。運悪くそこは地面がなくて一階へと落下する。
 いたたた、と腰を押さえていれば「吸いたいなら外で吸いな」とピシャッと扉を閉められた。
 閉め出しを食らいました。

 そこから路上でも店に入っても公園でもトイレでも吸えなくてちょっとキレ気味な俺がいる。異空間から大剣『煙切(えんきり)』を出して暴れたいのを止めるように電柱に頭をがんがんとぶつけて血を垂れ流しにしていれば向かいの電柱でも同じことをしている人がいた。あちらも俺に気がついたようであぁアイツも吸ってたなって顔してくれやがりました。



「……土方さぁん」
「万事屋の、金髪……」
「真裏 宗近だってば……」
「どうなってんだァ? どこもかしこも禁煙禁煙って……いつの間にか喫煙者(オレたち)の居場所がどこにも無くなってるじゃねーか」
「吸うなって言われたら余計に吸いたくなる。もうだめだ限界だよこのままじゃ俺……」
「オレは……」



 そこで二人して見付けたのが喫煙所。そこで慌ててかけより土方さんは煙草を、オレは煙管を取り出して一服する。別にオレは灰皿とか要らないしね。
 すると土方さんが煙草の灰をトンと落としたところで大爆発。咄嗟に俺は煙管をバトンの様に回転させて爆風を防いだがモロに食らった土方さんは地面に横たわりながら煙草の箱が燃え尽きていた。うわ、悲惨。



.

32:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 18:27 ID:gAY

本編

 翌日も晋助は松下村塾へと顔を出した。隣にはにこにこ顔の小太郎も一緒に。



『来たんだ』
「あぁ」
「……ダメでしたか?」
『いや、何も。銀時なら道場で寝こけてる筈だ、奇襲仕掛けてこい』



 そうやって二人の頭を撫でて『後で稽古をつけてやろう』と告げてから着流しの裾を揺らしながら立ち去った。



**

 冷えたぜんざいを持って道場を覗けばそこではぎゃいぎゃいと仲良さげに怒鳴り合う銀時と晋助、それを笑いながら眺めている小太郎がいた。



『……お前ら、なにしてんの』
「あっ、吹雪ィ! 今日はぜんざいか!? ぜんざいだなひゃふー!」
『待て待てなんだそのテンション』



 駆け寄ってきた銀時にぜんざいを手渡しながら二人を手招きしてそれを渡す。



「……吹雪師匠が稽古をつけてくれるのか?」
「……師匠か」
「ぶはっ!!」
『……師匠とか柄じゃないけど、お前らがそれでいいならね。銀時、シゴくのはお前からだ』
「大人げねーぞ!」
『躾も師匠の務めだぞ』



 銀時の頭をわし掴んでお互い構え、瞬殺すれば二人がドン引きした目で俺を見ていた。そんな目をしなくとも次はお前たちの番さ。


 結局全員伸したもののまた来ると言って帰っていった晋助たち二人に微笑んだ。笑うなんて、俺もずいぶん丸くなったものだ。


**

 そのあとから晋助は来なくなった。恐らく父に来るなと注意されたのだろう。何者かがこの塾のことを近所の子供を集めて幕政批判、国家転覆、怪しげな教えを説いていると噂にしたらしい。妬みかひがみか、はたまた晋助への嫌がらせか。
 今日の昼、晋助が外から塾を眺めていた。そこからの会話を聞いてしまって、今日の夜役人が来るらしい。
 ……一肌脱ごうか。吉田松陽には、松陽には、恩がある。



.

33:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 19:01 ID:gAY

高杉side

 深夜、俺がとある屋敷の角に背を預けて役人が来るのを待っていれば、桂が「こんな夜更けに遊び歩いていいのか、今度こそ勘当されるぞ」とほざきながらやって来た。



「心配いらねェよ、どうせ明日には勘当される身だ」



 脳裏に昼、講武館の坊どもを叩きのめした光景がよぎる。桂に特待生を取り消しされるぞと言い返せばゆとり教育にはあきていたと台詞が返ってきた。おまけに銀時のところへ逃げるよう伝えたらしい。



「名門講武館きっての神童と悪童が組むんだ、役人の足止めぐらい容易かろう」



 そういってのこのこやって来た役人を見て、桂と顔を見合わせる。そこへ「名門の二人? 笑わせるな」と銀時が腰に真剣、肩に木刀を担ぎながらにやっと笑いながら姿を表す。おいおい桂、あいつらはもう逃げたんじゃなかったのかよ。



「松下村塾の悪ガキ三人だろ」
「お前は!」
「なぜここに! 逃げろといったはず!」



 そう怒鳴れば銀時はそりゃ松陽と吹雪の話だろとぶっきらぼうに返された。いわく、俺と松陽と吹雪は流れものだから居場所なんてどうにもなる。でも俺たちは違うからこれ以上関わるな、らしい。



「士籍を失いてェのか」



 そう告げた銀時の声は冷たくて、でもしっかりと俺たちを案じていることはわかる。
 そんな、戻る居場所があれば、俺はここに来ていない。あったとしてもここに来ている。



「何より士籍などという肩書きが必要なものには、もうなる気はない」
「もしそんなもんがあんなら、誰に与えられるでもねェ。この目で見つけ、この手で掴む」



 そうして桂と共に銀時の両隣へと腰に指した木刀を抜きながら告げれば銀時はもう何も言わなかった。ただ、「そうか、じゃあもう何も言わねェ」とだけ、告げて。



「おいそこの童ども、こんな夜更けに何をやっている。貴様らどこの家の……」



 役人のそんな声を遮るように、俺達は言い放つ。
 あの人たちに教わりたい。あの人たちの作るもんを一緒に食いたい。あの人たちの言う侍になりたい。あの人たちと強くなりたい。あの人たちと離れたくない。コイツに負け越したままじゃ居られない。



「松下村塾、吉田松陽、黒鉄吹雪が弟子。坂田 銀時」
「同じく、桂 小太郎」
「同じく、高杉 晋助」



 三人で各々に木刀を構えて、叫ぶ。



「「「参る!!」」」



 俺たちに動揺を隠せない役人は「なんだこのガキども!」と声を張り上げる。目の前の敵が刀に手を掛けたときだった。


『おい』
「抜かないでください」



.

34:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 19:51 ID:gAY

高杉side



「そのまま剣をおさめていただきたい、両者とも。どうか私に、抜かせないでください。どうか……王様に抜かせないであげてください」



 役人の背後に居たのは、いつも通りの松陽先生と、何やら赤い狩衣を纏って上からコートなるものを羽織った吹雪師匠がいた。なんだ、あの吹雪師匠の姿は。見たことがない、あんな、足が鋤くんで震えるような殺気を振り撒く師匠なんて。それに、王様ってなんだよ……。
 そんな疑問を口にする前に、吹雪師匠は瞬間移動でもしたのか一瞬で俺たちの目の前に来ていた。



「私のことを好き勝手吹聴するのは構いません。私が目障りならどこへなりと出ていきましょう」



 そうして引き腰な役人の間を歩いてきた松陽先生は「ですが」と言葉を止める。止めた瞬間、吹雪師匠がチンッと刀を鞘に納めきる。そこで、パキィンと役人の刀の柄が折れた。



「剣を私の教え子達に向けるのならば、私たちは本当に国家位転覆しても構いませんよ」
『命が惜しければ、王(俺)の前に立つな。雑兵風情が』



 そう告げた二人の雰囲気は普段のものとはエラく違っていて背がゾクリと粟立ち唖然とする。



「やれやれ、教え子は巻き込まないようにみんな家に返したつもりでしたが、こんなところにもまだ残っていましたか。悪ガキどもが」
『危ないだろ、相手は真剣だぞ、斬れるぞ』
「でもすみません道場破りさん。破るにも」
『……道場も学舎もなくなったよ』



 申し訳無さそうにする松陽先生と吹雪師匠に俺たちは笑って告げる。



「心配いらねェ。俺が破りてェのは道場じゃねェ。アンタたちだよ、松陽先生、吹雪師匠」
「先生、師匠。我等にとっては、二人が居るところなら野原であろうと畑であろうと学舎です」
「それに、先生の武士道も師匠の武士道も、俺たちの武士道もこんなもんで折れるほどヤワじゃないだろ」



 そう告げれば驚いたような顔をする先生と、いつも通りの無表情ながら照れ臭そうにする師匠に自慢気に二人で鼻を鳴らす。
 フッと笑った先生は「そうですか、では早速路傍で授業をひとつ」と人差し指を立てて口を開いた。吹雪師匠の顔が酷いものになったので本能的にヤバいと悟る。



「半端者が夜遊びなんて100年早い」



 先生の拳骨ひとつで俺たち三人は地面に埋まった。



『……よく来たな』
「松下村塾へようこそ」



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35:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 20:39 ID:gAY



吹雪side

 それから俺達は五人でその村を出て、別の村で新たに塾を開いた。そこでは嫌がらせもなく、ただただ楽しく過ごしていた。



「今日こそおおおおお!」
『甘いっ!』 
「へぶっ」



 今日も今日とて掛かってくる銀時を叩きのめしながら『腕にもう少し力を入れて』とアドバイスすれば「流石王様、言うことが違うわ」と皮肉を言ってきたのでゴツンと頭にげんこつを落としておいた。



「っていうか、師匠はなんで王様って呼ばれてんだ?」
『……晋助…』
「なんだよその目!」



 なんで聞いてくるんだよと言う視線を縁側で隣に座っていた晋助に向ければくわっと怒鳴られた。……まあ、そろそろ頃合いか。ちょうど小太郎も銀時も居るし、話そうとは思っていたし。



『……俺はな、この世界の人間じゃないんだ』



 そう告げれば怪訝に首をかしげる三人に、『俺はこの世界に来るまで部屋で読書をしていたんだ。そしてふと気が付けば本は手に持っていないし、外だし俺の刀持ってたし回りには屍しかなかった』と告げれば目を見開かれた。



『俺の世界じゃ特殊な能力を持った人間が居てな。トリガー使いとフレデリ使い。生命エネルギーを変換して戦うトリガー使いは目が深紅で、前世を引き継ぎ固有能力を持つフレデリ使いは目が紫なんだ』
「……師匠は目が赤いからトリガー使いと言うわけですか?」
『そうだ、まあ俺は元々ただのなんの能力も持たない人間だったけど。俺の世界は大昔から天使と抗争を続けてきた。ちょうど今やってる攘夷戦争みたいなものを、何千年何億年な。
 そこでも悪魔ってのが居て、そこで七人の王様が居る。その王様七人は武器になって自分と契約し扱える生命体を待つ。契約には試練が必要で、それで何千とに人は帰ってこなかった。でも、俺は六歳の時にクリアした。そして、七人の王、七王の後継者として今ここにいる。
 俺は七王で最強の、10代目【炎の王イブリース】、この刀は、俺自身だ』



 そう告げればみんな疑うこともせず納得、と言ったように俺の刀に群がって「これが師匠?」「折ったら勝てっかな?」「おいやめろ」と触り出す。誰だ今俺のサオとか言ったやつ銀時だね分かるよ。
 でも、松陽と同じように俺を怖がることもしない三人に、泣きそうになりながら笑った。



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36:ぜんざい◆A.:2017/03/03(金) 21:53 ID:/VU

一応上記のものは第一部完結。第二部やる予定。
 次からは浦島坂田船(あの乙ゲーのやつの)転生トリップ。浦島坂田船メンバーは歌い手さんとして活動していらっしゃるので三次元駄目だわーと言う方は鮮やかに何も言わずスルーしてください。文句は受け付けません。友情系に恋愛がうっすら。御本人様もしくは関係者様は立ち入り禁止。ゲームの設定をそのままに内容はゲームに沿らないオリジナル。ゲームヒロイン捏造。基本青春してる。


 主。
「高杉 いおり」
無気力めんどくさがりなオタク女。関西弁。浦島坂田船にお熱だった。絵を書くのが好き。バイクに跨がって運転しつつイヤホンでアニソン聞いてたら車と正面衝突。そこでなんやかんやで転生、名前はそのまま性別もそのまま生まれてきた。出身はどっちも兵庫の神戸。そこから浦島坂田船学校の付近に六歳ごろやって来る。センラ幼馴染み。年はセンラのひとつ上で志麻と同級生。
 とりあえずゲームは七周八周してたのであっさりここがゲーム内だと知る。だってみんなフユカさんのイラストのまんまなんだもん。関わりたくない傍観主。それでもじわじわそしてどーんと関わる。眼鏡かつ肩上のショートカット(毛先が外ハネ)かつ黒髪かつ髪とまったく同じ色のカチューシャ(あまり気付かれない)。軽音部を影から見守る志麻のクラスメイト。志麻の後ろの席なので脳内がパレードかつhshs。うらたさんとは廊下でばったり出会ってたぬき可愛いねでしょーって感じで仲良くなり、坂田さんとはゲームカセット売り場でばったり出会ってからはゲームを一緒にプレイする仲。センラ家の隣人。あれ、これ囲われてねとか日々思ってしまうくらいなんか周囲が浦島坂田船でガチガチ。ゲームヒロインちゃんとは積極的に仲良くしている。平凡であれ。頭脳は中の下、顔は中の中の中の上程度。平凡であれ。周りからはクールな常識人と思われている。だがそんなことはない。あまり表情が変わらないだけで脳内は基本的にオンパレードな子。のちのち無理矢理軽音部に引き込まれる。声が低い。親友レズなんじゃね? と思い始めている今日この頃。

ゲームヒロインの設定を捏造(好き勝手やる)
「桃谷 愛音(ももや あいね)」
 浦島坂田船乙ゲーのヒロイン。坂田の幼馴染み。地元がここだが数年離れていてまたここへ帰ってきた坂田、センラと同い年。ほんわか系美少女。元気一杯、責任感強い。軽音部マネージャー。頑張り屋。いおりは頼りになって何かと可愛がってくれる仲のいい先輩。いおりの親友とも仲良くやっている。

完全なるオリキャラ。いおりの親友。
「三輪 久美子(みわ くみこ)」
 いおりに百合っ気のある親友。お家が財閥で大金持ち。愛音もお気に入り。浦島坂田と仲が悪い。いおりの右隣は私の指定席な子。可愛い系美少女。いおりに害を及ぼしたら報復でやることがえげつないらしい。頭が良い財閥令嬢。赤茶色のロングヘア。



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37:ぜんざい◆A.:2017/03/04(土) 23:43 ID:m9E


 今日も一日元気に頑張るぞ! と言う元気っ子な精神をもういおりさんは持ち合わせておりません。だって肉体年齢18やけど精神年齢2(ピー)歳やで? 普通の女子と同じようにはしゃぐとかめんどくさすぎて疲れるから無理やろ常識的に考えて。
 ああ、どうもおはこんばんにちは。浦島坂田船の乙ゲーに転生トリップしてしまったらしい高杉いおりです。こっちには前世の記憶とやらが有るようでバイクで車に引かれて死んだところまでくっきりはっきり覚えてますよ死に際覚えとるのんこれが意外とトラウマもんなんやぜェ? 幼い頃は荒れてましたが幼馴染みくんが可愛すぎて前世と同じような性格になりました、はい。妄想オンパレード、かつ授業中ひたすらノートにイラストを描きまくる日々を送っています。
 そして三年になった今年、志麻さんと同じクラスになりました。いや、本当に人気やね志麻くん。女子がキャーキャー言うてんで。
 浦島坂田船の四人でおりなしている軽音部は大層女子生徒から人気があって四人も四人でファンサービスが多いからもはや他校からのファンもいる始末。そんな四人と仲良くしたら派手目女子グループから嫌がらせとか受けそうなんで関わり合いにはなりたくない。だがしかし、席が後ろなのである。志麻の。出席番号順で。何これ拷問? 女子からの羨望の視線を一心に受けております高杉ですはい。泣きそう。はよ席替えしたい。別に会話とかしたりせんからそんなこっち見んといて。

 せや、春言うたらあのゲームのヒロインがこっちに転校してくるんやっけか。ゲーム本編やったら名前は出てこうへんけどきっとかわええ名前なんやろなぁ、顔も。
 休み時間、そそくさと席を立ってずいぶんと離れた席にされた親友の久美子の元へと行くと「お疲れだねぇ」と苦笑いされた。



『……ホンマ、殺されるか思たわ』
「大丈夫だよっ、その前に私がなんとかするから!」
『ありがとなぁ』



 にこっと笑う親友の三輪久美子。この子は財閥の御嬢様で賢い子だが最近レズなのではと失礼なことを思い始めているいおりです。やって右隣独占やで? いや、考えすぎか……せやんな、ないない。

 そこでスマホの着信を知らせるバイブレーション、ラインかと納得してポケットからスマホを取り出し開けば「女子からメルアドもらった〜!」と可愛らしい絵文字と共にメルアドの紙の写真が送られてきた。羨ましいでセンラェ。イケメンは滅べばエエんや。



「誰から?」
『あの子や。女子からメルアドもろたーって写真付き』
「ふふふっ」



 可笑しそうに笑う久美子に少し笑っう。センラがあの子、で通るのは今のところ久美子しかいない。不意に視線を感じて振り向く。そこには自分の席からこちらを睨むような目付きで見てくる志麻が。目が合えば自然と逸らされてクラスの男子と仲良さげに会話に混ざっていく。
 ……ぇぇぇ、いおりさん何か志麻にしたか? 高杉何かやらかしたん? あれか? 可愛い美少女の久美子と平凡顔の高杉が何で会話なんかしてんだって感じの? 男の嫉妬は見苦しいんやで……? そんで久美子の目元辺りに影が落ちましたが大丈夫か? 生理か? デリカシーなかったわすまん。



『……どないしたんや久美子』
「ううん何でもないの、何でも」
『さいですか……(絶対なんかあるやろコレ)』



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38:ぜんざい◆A.:2017/03/05(日) 00:15 ID:m9E

『www』表現有り。苦手な方はブラウザバック。

 三日後、センラから「ニュー女子マネが軽音部に来たで! 同級生やねん、かわええよー」と通話で言われた。『えーなー、会うてみたい』とか他愛ない会話をしていたらセンラが言う。



「いおりも軽音部入らん?」
『入らん』
「即答やんww」
『そら即答もするやろ。めんどいし。こっち一応美術部員やで、マネージャーめんどそう』
「じゃ、歌う方で。おねがーい」
『何がおねがーいや、かわええから許すけどなぁ……。こっち美術部員や言うとるやろ。っちゅーかな、お前ら四人な、学校での女子からの人気分かっとるか? イケメンの集まりやぞお前ら四人は。滅べばええねん、滅びろイケメン。バルス』
「ちょ、バルスとかwwwそんなん言わんとってやww」
『あのな、よく聞けセンラ。その美少女マネちゃんはエエとしてな、ごくごく普通の平凡眼鏡女がそんなかに入ったりしたら殺されてまうわ。女子に。刺されるわ。女子に。いじめ始まるっちゅーねん。女子の。特有の陰湿ないじめが。女子怖い』
「女子女子て、繰り返しすぎやろ、くくっ、ふはっ!」
『なに笑っとるんやセンラェ、これ意外と一大事やねんぞー、一大事やぞー、いおりさん死ぬぞー』
「えー」



 うそーんとかふざけるセンラにへらへら通話越しに笑ってから課題が終わってないことを思い出して『課題やるん忘れとった』と告げれば「頑張ってなー」と返事を返されて通話がぷつりと切れる。
 さてちゃっちゃと課題を終わらしましょかね。時計を見れば六時前、あれアイツ部活やなかったっけ。

 ちなみに美術部は今日お休みなのでバイク飛ばしてすぐ帰ってきました。


**

Noside


「……断られたわ! 潔く即答された、こう、ズバーって!」



 センラはスマホをズボンの尻ポケットに直しながらこの軽音部の部員全員に告げる。
 ここは軽音部部室、そんなやりとりの中で坂田は「そっかー、ダメだったかー」と口を尖らせた。うらたぬきは言う。



「まぁ高杉先輩、美術部一筋とめんどくさがりで有名ですからねー、無理もないんじゃないですか?」
「ホンマ、去年僕が何回誘って玉砕したか。あんときのまーしぃかなり怖かったで? なっ、部長」
「はいはいはーい、うるさいでセンラくーん、ちょっと黙ろうなー、なー?」
「えっ、志麻さんマジで!? まさかマジで!?」
「えっ、えっ」



 わーぎゃーと喧しい部室で混乱したようにキョロキョロするのはマネージャーの桃谷愛音。
 実は幼馴染みの坂田が女子一人じゃ寂しいだろうと女子もう一人誘おうと提案していい人材は居ないだろうかと検討したところ、センラが心当たりがあるといおりに連絡を入れたのだ。玉砕したが。センラとの連絡はスピーカーモードで全員に聞こえていた。いおり本人に取っては恥態である。イケメンを何回連発したことか。
 正直桃谷はいおりと言う先輩を知らない。訳がわからず慌てていると気付いたセンラが口を開いた。



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39:ぜんざい◆A.:2017/03/05(日) 09:10 ID:m9E

「あぁごめんな、いきなり言われてもわからんよな」
「ご、ごめんね」
「いやーええねんで愛音ちゃん。
さっき連絡入れとったんは高杉いおり、僕の幼馴染みやねん」
「「「「えっ」」」」
「えっ?」

幼馴染みと言う言葉に反応したのは桃谷だけではなく、坂田以外全員だった。

「えっ、知らんかった?」
「いや知らんわ! なんで黙ってたんやセンラ!!!」
「いや、てっきり言うたもんやと。なら僕あれか、いきなりいおり誘ってるように見えとったんやな」
「俺てっきり付き合ってるもんだと思いましたよー」
「へへへー」
「へへへじゃねぇよバカセンラ!!!」

志麻にどつかれてひどーいとかふざけたあと、センラは愛音に本格的にいおりの説明をする。

「あのな、その先輩歌けっこう上手いんよ、やから去年から誘ってんねん。めんどくさがりと美術部一筋で有名やで。あんま表情変わらんし、見た目眼鏡のクール子ちゃんやからみんな近寄りがたいみたいやけどな。ま? いおりは? 可愛い? 幼馴染みの? 僕を? 見捨てられへんから? 僕が泣き落としに突入したら入ってくれるやろ」
「最後の一文イラッと来たで。俺見んのやめろやセンラェ」
「ごっめぇーん志麻さぁん」
「なんか、心強そうだね坂田くん」
「んー! 俺、高杉先輩と結構ゲームとかしたりしてるしね!!! 見た目と違って楽しいよあの人!」
「俺もアニメとかの話結構ラインでしてますよー」
「へー、うらたくんも話とかしてるんだねぇ、仲良くなれるかな?」
「大丈夫だって、あの人女の子は猫可愛がりするから!」
「えっ、そうなん?」

そこで意外そうに声をあげたのは志麻である。この中で唯一いおりと同級生であり、この中で唯一接点が同じクラスぐらいでまったく関わったことがない人物である。

「意外やわ、高杉さんがそうやとはもしかして親友の三輪さんも?」
「ああ、三輪さん? いや、あの人は猫可愛がりされてへんよ。ちょっといおりに恋愛感情があるだけで」
「高杉先輩は百合?」
「いおりはノーマルやでうらたん、危ないのは三輪さんや。いおりの彼女の座をいつでもどこでも狙っとる。しかも男嫌いやから俺が幼馴染みやって知らんかったとき三輪さん意外と酷いことしてきたからな。その代わり女子とは仲良くしたい派の優しい先輩やで」
「へー」

いおりside

今日も今日とて学校で授業、聞いてませーんひたすら絵ェ書いてまーす。そして休み時間、志麻に少し睨まれてから彼は屋上で昼食を取るそうで行ってしまった。ちょっとちょっと、本間に怖いんやけどどないしたんや志麻ェ。久美子の側で他愛ない会話をしながら昼飯食ってたら通話の連絡が入った。久美子に断りを入れてその場を離れてもしもーしとか言うて出たらセンラやった。お前ラインより通話派よな。

「もしもーし、いおりー」
『お前ラインより通話派やろ』
「ちょ、いきなりなんやねん」

くつくつと笑ってから『なに、どないした』と質問すればセンラはテンションが上がったように「センラくんの質問コーナー」と告げた。いや、棒読みやしテンションは上がってなかった。

「僕の質問に答えてなー」
『ん』
「うちの部活どう思う?」
『顔のエエのの集まり』
「うらたは?」
『話の合うかわええ後輩。側におるたぬきめっちゃかわええよな』
「さかたんは?」
『ゲーム好きな後輩。かわええよな』
「僕は?」
『センラはあれやな、かわええ後輩よな、幼馴染み』
「…最後、志麻さんは?」
『っちゅーかお前なんで今そんなこと聞くねん、お前今みんなと飯食うとんちゃうんか?』
「えっ、? あははっ、大丈夫大丈夫」
『ふーん。で、志麻やっけ?』
「そーそー、まーしぃ」
『あんま喋ったこと無いしな……強いて言うなら苦手やな』
「ん!? えっ、なんでなんで?? まーしぃ有料物件やで?」
『おい人様をものみたいに言うたあかんやろ失礼やろ。……アイツなんや知らんけどめっちゃ睨んでくんねん、ビビるわ……。イケメンが睨むと迫力あるよな……こっち的には普通に仲良くしたい。……あっ、コミュ障には無理やな』
「ぶはっ! 何!? まーしぃ睨んどん!?」
『耳元でうっさいな黙れセンラェ』
「ふはっ、ははは! んじゃまたなっ、くくっ」
『お、おん、またな……』

40:ぜんざい◆A.:2017/03/05(日) 23:58 ID:m9E

Noside


「あっはははははは! 志麻さん、高杉先輩に苦手意識持たれてかつ睨んでるって思われてるじゃん! はははは!」
「…えー………マジでかー……」
「あっかーん! まーしぃのハート大打撃やー! 粉砕やー! ぶっふぉ!!」
「ヒャッハハハハ!」
「ふぐっ、ふ……う、うらたくん、その笑い方悪役みたいだよ……?」
「いや、笑いこらえきれてへんからね桃谷ちゃん」



 先程の会話を聞いてテンションただ下がりの志麻、爆笑する浦坂田船、そしてフォロー入れたいけど何を言えばいいかまったく分からず少し笑ってしまう桃谷。先程の通話もスピーカーモードで丸聞こえだったのだ。いおりはかわいいを連発していた。
 志麻は両手で顔面を押さえてうつ向いている。まさか睨まれていると思われていたとは。爆笑する浦坂田船を殴りたくて仕方がない。
 散々笑い転げたあと、センラは腹を抱えて目尻に浮かんだ涙を指で拭き取りながら「しゃーない、ならイメージアップや」と人差し指を立てた。



「は? イメージアップ? むりやろ……俺もう無理やろ……俺がもう無理やわ……」
「ぶっふふぉ、だ、大丈夫やって!! ほら、今日ちょうど部活休みやんか。いおり誘って放課後遊びにいったらええねん」
「……俺にはもう無理や……」
「(めんどくさっ、まーしぃめんどくさっ)な? いおりも出来れば仲良くしたい言うてたし、まーしぃゲームするやん、共通の話題やん」
「……」
「いおり寄り道とか好きやから誘ったら案外乗ってくれるかも知れんで?」
「……んー……」
「ほら、後々いおりが部に入ってくるとして、僕らもいおりとまーしぃ気まずかったら空気おもなるし?」
「……あーもー! わかったわかった!! 誘ったるわそんなに言うんやったら!(コイツ必死やな)」
「いぇーい(よし乗った。みんなで跡をつけて観察やー!)」



 二人がどうのこうの言っている間、浦坂桃は和気あいあいとお弁当のおかずを交換したり楽しげでした。天使の集まり。



「おいしーなー卵焼き」
「お母さんの卵焼きだもんねぇ」
「やっぱだし巻き派ですかね?」
「私だし巻き派かなぁ」
「俺甘いの」
「俺もー」
「どっちも美味しいよねー、結果的に」
「んー」
「そうですねー」



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41:ぜんざい◆A.:2017/03/07(火) 22:08 ID:m9E


 翌日、朝からちらちらと志麻の視線を感じる。
 一時限目が終わった休み時間。ちらっ。
 二時限目が終わった休み時間。ちらっ。
 三時限目が終わった休み時間。ちらっ。
 四時限目が終わった昼休み、ちらっ。ちらっ。
 そのたび口をもごもごさせ、視線をさ迷わせてから友人の方へと笑顔で話に混ざりに行く志麻。
 いじらしい。なんていじらしい。かわええな志麻くん。
 どうせ久美子を見ているのだ、こっちには関係無い。ふっ、と笑ってから久美子に『昨日は徹夜でゲームしてテイルズ・オブ・ジ・アビス、クリアしてきたで』とその話を聞かせるのだった。



『ラスボスが強すぎて吐くか思ったんやけど』
「あれっ、いおりがそんなこと言うなんて珍しい。何回死んだ?」
『いや、一発クリア。ナメんな』
「へー!」
「(は、うわすごっ。高杉さん、あそこのラスボス一回でクリアしたんや……俺何回挑戦したやろ……? まだ勝ててへんのよな俺……)」



**

 放課後、久美子は吹奏楽部で「また明日ね!」とぱたぱた行ってしまって、今日は美術部もないしとっとと帰るか、いや寄り道してこか。とスクール鞄を肩に掛けた時だった。
 高杉さん、と後ろから声を掛けられて振り向けばそこには視線をあちらこちらへ飛ばす志麻の姿が。あの、イケメンがそんなことすると、もしこの場に女子が居れば卒倒しますよ志麻さぁん。卒倒しそうやで志麻さぁん。泣きボクロが眩しーわっちゅーねん志麻さぁん!
 そんな叫びを飲み込んでこっちは声を掛けた。



『おん、高杉やけど。どないした志麻』
「あっ、えっと……いや、その」



 頬をぽりぽりと人差し指で掻いて汗を一筋ツゥと滑らせた志麻はいまだうろちょろと目が動き回って視線が合わない。なんやこのかわええ生き物。いじらしい。かわええ。
 何かの答えが決まったのかぱちんと視線が交差して志麻は「あのさ」と発音し、再び口を閉じた。かわええなおい。悶え死にさせる気かまーしぃ。でも早く内容を教えて。



『……どした』
「……あー……俺、今日暇やから……一緒に寄り道とか……ど? 俺、高杉さんとあんま話したこと無いし」
『……エエよ、行こか』
「えっマジで!!!?」



 意外な誘いに速攻で乗れば志麻は目を見開いて意外そうに「ホンマに!?」と驚きを口に出す。いや、ホンマやから安心し。
 少しだけ頬に朱がさす志麻にふっと笑みを溢してから『今日こっちも寄り道する気やってん、話し相手が居るならそっちのがエエ』と教えれば「あっ、そうやんな、うん、せやんな」と項垂れた。おいこらかわええなおーい。
 落ち込む理由は分からんがとりあえず浦島坂田船の頼みを断るつもりは更々ない。センラの頼みも全て断ることなく頷いたし、だってラマンだしセンラマンだし。
 いまだ固まって顔に影を落とす志麻の頭をはたいて声を掛ける。


『行かへんの』
「いや行くけど! 行くけど頭なんで叩いたん!?」
『イケメンは滅んだらエエねん』
「いややからなんで叩いたん!? 嬉しいけど!!!」



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42:ぜんざい◆A.:2017/03/12(日) 00:41 ID:hKw

Noside



「こちらセンラ、こちらセンラ。B班、応答願う」
「こちらうらた、状況をどうぞ」
「志麻さんが無事いおりを誘うことに成功、学校を出て大通りへ進行中や」
「了解、B班迂回して大通りへ向かいます」
「了解」



 B班、もというらた、桃谷班に連絡をいれたセンラはスマホを片手に志麻、いおりのあとを坂田とつけていた。もちろん、センラはこういう放課後の楽しみの一貫として志麻にけしかけたのだ。
 ぽつりぽつりとだが会話をしているようでセンラはホッと息をつく。
 無言で気まずい雰囲気になっとったらヤバかったわ、まーしぃのメンタルが。と何やら物騒なことを思いつつ、大通りの店でドーナツやケーキなどの店に目移りする坂田を引き摺って二人を観察していた。何気無くいおりが道路側を歩いているのには気付かない。
 ふと気が付くと、にやっと笑んだ志麻とふっと鼻を鳴らすように笑ったいおりは二人して駆け込むようにゲーセンへと姿を消した。



「B班へ連絡や、二人はゲーセンに駆け込んだで」
「あ、わかったよ!」
「頼むから早く来いよー」
「わかってるって坂田さん」



 そう別行動の二人に報告したあと、坂田とセンラもゲーセンへと入った。



『こっちクレーンとかめっちゃ好きやわ』
「おもろいやんな」
『おん。まあ、取れんかったらイラつくけどや』
「ふはっ!! それな! めっちゃ分かる!」
『やろ?』



 入ってすぐ、聞こえてきたのは二人の弾んだ会話で咄嗟に二人して身を隠す。志麻といおりはクレーンゲーム台で二人してひとつの景品を見つめてわいわいと楽しげだ。あっ、いおりが景品を落とした。



『キッタコレふううううッ!』
「うわー!! これとってまうとかやっば!!」
『ゲーム機本体って、意外と落ちやすいんやで』
「慣れとるなー」



 しかも二人してゲーム機に夢中とは。普通そこはぬいぐるみとかそんなんじゃねぇのと考えた坂田は別に間違っていない。
 そのまま奥へと入って行き、いろいろとクレーンを物色し一頻り遊んだところでようやく外へと退出。その間にA班であるさかせんはうらももと合流する。



「高杉先輩クレーンなにとってましたか?」
「うらたん気になるん? ゲーム機とかフィギュアとかやで」
「志麻さんといかにも話が合いそうですねぇ、高杉さん」
「いや、既に合ってるよももやん」



 四人でいかにも遊んでますよ的な雰囲気を巻き散らかしながら自然にしまたかのあとをつけ、二人が入っていった某Mファーストフード店へと入店した。

 二人が座る席を見れて尚且つ相手からはわからない四人席へと腰を下ろして適当に頼み、各々が間食を頬張る。
 その間も二人は意気揚々と何やら身振り手振りで会話を弾ませていた。なんの話をしているのやら。



「なんやめっちゃ楽しそうやなー」
「高杉さんのいつも死んだ魚みてぇな目がイキイキとしてるね」
「高杉さん目が死んでるの?」
「そーなんですよー」



 もしゃもしゃとそれからしばらくいろいろ語り合い、二人が席を立ち店を出ていったので時間を置いて自分たちもぞろぞろと出ていく。
 出てすぐ、そこにいたのは苦笑いの志麻といおりだった。



「「「「!?」」」」
『……なにしてんねんお前ら』
「すまんなー、お前ら騒がし過ぎやわ。わりと最初の方で気ぃついたで」
『こっちはセンラの【こちらセンラ、こちらセンラ】で』
「えっ、そうなん?」
「はッや! いおり気ぃつくんはッや!」
「とりあえずみんなで途中まで帰ろか」
『今日は意外と楽しかったわ。気まずなる思ったんやけど、まーしぃはエエヤツやった』
「そらよかったわー、センラくんから睨んでるって勘違いされてること教えてもらったからなー」
『……せ、せんら?』
「はっはッは(目逸らし)」
『おいこらこっち向けセンラ』



.

43:ぜんざい◆A.:2017/03/17(金) 23:56 ID:9sU

浦島坂田船一旦中断、フレトリ→銀魂の第二部です。吹雪さんの奴です。

**

 それから数日、俺はあの三人と組手をしたり、あまり見聞きしない西洋の菓子や飯をおやつとして出したり、松陽と夜、のんびりとお茶を飲んだりと充実した日々を送っていた。



「師匠ー、今日のおやつなに? 甘い? 甘い?」
『今日は……アップルパイだな』
「なんだそりゃ? 前のカスタードパイってのの別物か? 師匠」
「初めて聞くものですね」
「甘い?」
『銀時は甘い甘いうるさい、甘いから。……晋助が大体合ってるよ。前にりんごを砂糖に漬けてただろ……? パイ生地に、それを挟んで、その上から薄く切ったりんごを敷き詰めて焼いた奴』
「この匂いはそれかっ!!」
「どこだアップルパイっ!」
「相変わらず師匠は料理がうまいですね! お前たち! 俺の分も残しておけよ!」
『(小太郎はやっぱり愛想がいいな……)居間にある、松陽が見っけて食い尽くす前に、自分の分取っとけ。一人一個』
「「「はーい!」」」



 うおお、と競って廊下を走る三人を見送り、縁側に腰掛けて茶をすする。こちらへ来てからずいぶん経ったように感じるが、実はまだ二週間か三週間程しか経っていない。あまり進んでないんだなと思う反面、三週間程も、あの子を待たせてると思うと、何かが喉の奥でつっかえるような気がする。
 それにしても、とポケットに手を突っ込む。なんの連絡手段もないなら相当ヤバいな、と物思いに更ける。現在の俺の服は当初、俺がこの世界に飛んできたときの服だ。最近ごちゃごちゃと大変だったからか、松陽にもらった着物以来、まだ一度も来ていなかった。虫食いにやられても困る、と今日着込んだものである。やはり現代のものは落ち着く。
 ポケットに突っ込んだ手に、不意にコンと固い感触があった。そこでハッとする。慌てて取り出せばそれはスマホで、電源をつければ充電は満タン。……こんなところに、連絡手段が。
 俺としたことが、スマホを持っていることを忘れるとはなんたる体たらく……。茶をすすりながら片手でスマホの液晶をタップし、とりあえず電話帳の一番上にあった彼に連絡する。……どうしよう怖くなってきた。彼は俺よりふたつ年下の筈なのに……。頼む仕事中であってくれ。ワンコールは途中で切れた。それはつまり、通話を表す。


«委員長っ!!!»



 そのあまりの声量のでかさに思わず耳元からスマホを腕の伸ばせる限界まで遠ざけ、また近付ける。この相手は凪くんだ。鉄我 凪、俺の世界なら知らない人はいないだろう親子二世代に渡って世界を救った英雄たちの一人、超頭の良い参謀だ。天才と言う括りが一番しっくり来る。まあ、相変わらず身長は小さい。



『ごめんなさい』
«ごめんなさいで済む問題じゃないんだけど!? このバカ風紀委員長が!!!»
『ごめんなさい』
«どれだけ仕事が重んでると思ってんの!? バカなの!? あんたバカなの!? バカなんだねそうかバカだったね! このバカ!!!»
『ホントごめんなさい』



 アップルパイ片手に持つ先程の三人と松陽とが曲がり角の影から何事かと覗き込んできた。ごめん今見ないで超絶恥ずかしいから。
 身振り手振りで向こうに言ってろとジェスチャーすれば凪くんの話を聞いていなかったらしく「聞いてんのこのバカ野郎!!!」と怒鳴り声が叩きつけられ直ぐ様「ごめんなさい」と言う言葉が飛び出た。もうそれしか言えないよ俺。敬称どこいったのさ。



.

44:ぜんざい◆A.:2017/03/18(土) 00:49 ID:9sU

しかし、凪くんの説教は止まらない。

«委員長今どこですかっ! 普通に座れるとこなら正座しろ正座!!!! それか這いつくばって土下座しろバカ委員長が!!!»
『ごめん正座で。土下座とか俺のプライドが«知るかこのボケナス!!!! 勘当された無気力委員長が!!!!!
 帰ってきたら全員で一人一人目の前土下座させてやる!»ごめんホントいろいろ勘弁してくれ、古傷抉るなよ……』

縁側でうつ向き額を押さえて唸る。その様子に四人はどうしようかハラハラしているようだったがごめん構ってる暇ないや。

『……あー、その、ホント悪かった。俺も実はよく事態を分かってない』
«ホント先輩なんなの? 死ぬの?»
『……すまん』
«いいから事情を話してください»
『わかった』

そして大まかに凪に事の顛末を話すと«次っから次へと……君たちは僕を殺す気なの?過労死しろって言うの?ここのところ書類整理しかしてないんだけど»と悪態が返ってきた。とりあえず謝る。ごめん。

«……まあ、こんな事例は珍しくもなんともないですし、そのうちすればまたひょっこり帰ってくるでしょ貴方は»
『……え、ごめんちょっと俺どんな風に見られてるの』
«仕事をサボりまくる料理が上手い放浪人»
『……俺のところはもう三週間が経ってる、そっちはどうだ』
«あなたが消えて12時間です»
『……12時間? ずいぶんと遅いな』
«まあ。っていうか! 雪に報告はさせてもらいますからね! っていうか今隣で白くなってますよ! 安心で!»
『え』
«三日後の結婚式どうするんですか!!!?»
«吹雪さぁん!»
『ん、んんんっ!!? げっほ、げほ、えほ、ご、ごめん凪くん……ホント今そう言うこと大声で言うのやめて恥ずかしいし、近くに三週間世話になった人いるから。雪はうるさい』
«それを先に言えや!!!!!!!»
«凪くんうるさい»
『ごめんなさい』

耳キーンってなったんだが今。ちらりと視線を四人へ逸らせばそれはもう困惑した顔をしていた。け、結婚式!? って感じの。うわはずい。

«ちょっとその人呼んでください委員長»
『は?』
«テレビ電話のモードにしてください、ちょっと挨拶したいです»
『おい待てなんだそれ』
«あんたいつ戻って来るかわかんないんでしょ、ならウチの問題児よろしくお願いしますって言わないとですよね»

そこで松陽が出てきた。まだ俺いいとか言ってない。切り替えるぞ、と告げて松陽に画面を見せる。そこには額に青筋を浮かべてにこやかな笑顔のまま俺へ怒りを燃やす凪くんの姿が。器用だな。子供達もそれを覗き込んだ。

«はじめまして、鉄我凪です。ウチの問題児がお世話になっているようで、ホント、何か壊してないですか? 山ひとつ消し飛ばしてないですか? 弁償します、いや、させます吹雪さんに自腹きってもらって»
「いえいえ、そんなことはないですよ鉄我さん。吹雪さんはウチの寺子屋でキビキビ働いてくれています、道場で剣道の稽古を教え、おやつ等を出したり」
«えっ、あの超ド級問題児が!? 僕らの命の危機の時に呑気に昼寝してた吹雪さんが!?»
「はい。そのお話も気になりますが、また今度聞かせていただきますね。申し遅れました、私、吉田松陽と言います」
«……え? つ、つかぬことをお伺いしますが、吉田松陰さんのご兄弟か何かで?»
「いえ、私に兄弟は居ませんよ、面白いことを言いますね」

まあ、凪くんが驚くのも無理はないだろう。俺が視線を子供三人に巡らすとはいはーいと銀時が手をあげた。

「俺、松陽先生と吹雪師匠の弟子、坂田銀時」
「同じく桂小太郎です」
「右に同じく高杉晋助」
「高杉くんは身長が低いのに名字が高杉なんだぜ」
「銀時てめっ」
「落ち着け高杉事実だ!」
「「うるせえ黙ってろヅラ!」」
「ヅラじゃない桂だ!」
「こら、静かになさい三人とも。
こう賑やかな悪ガキが三人も居ますのでね、吹雪さんも面倒を見る側に回らないと動かないんですよ」
«なるほど、問題児がなにもしていなくてよかったです»
「いえいえ」

そして凪くんはいい笑顔で俺に«帰ってきたら覚えてろよ»と告げて通話を切った。こわっ。

45:ぜんざい◆A.:2017/03/18(土) 10:20 ID:9sU



 通話が終わって一息ついたら、子供達が「師匠結婚すんの!?」「マジで!?」「おめでとうございます!」「流石の私も驚きですよ、なんで教えてくれなかったんですか」と各々が言ってきた。子供たちは俺の周りにまとわりつく。か、かわいい……。



『……まあ。こっち来る前はな』
「相手の人どんな人?」
『……写真がある、ほら』
「「「……え、すごく可愛い」」」
「可愛らしい方ですねェ」



 ちょっと恥ずかしさが頂点に達してきたので話を聞かずに景色を眺めることにした。スマホは子供達が物珍しそうにいじっている。あ、こらそれは昔の写真……。



「師匠若いな!」
「服装かっけー」
「なんかたくさんの人が居ますね」



 もう知らない。俺は知らない。そんなことを思いながら苦虫を噛み潰したような顔をして、とりあえずコイツら三人の頭を撫でてスマホを没収し、電源を切った。



**


 その晩だった、松下村塾が燃えたのは。呆然とする銀時は何やら笠を被った黒い着物に身を包む男たちに取り押さえられ、松陽はつれさらわれていく。そんな光景、普通の俺なら何とかするのに、出来ない。後ろに、トリガー使いが居るのだ。なんで居るんだ、とか、どうして俺を知ってるのか、とかいろいろ聞きたいが、無理そうで。俺の首に小刀を回した男のトリガー使いは周りに聞こえる声量で言った。



「炎の王イブリース、大人しくしていろ、さもないと俺のトリガーで、お前と暮らしてきたガキ三人を、呪い殺すぞ」
『……お前、』
「師匠!」



 銀時の俺を呼ぶ声が聞こえるが、顔をしかめることしか出来ない。松陽は既に連れ去られた……俺と銀時に、晋助と小太郎を任せて。でも、俺は少し無理そうだ。



「俺のトリガーは呪殺でな、飛燕 小介に比べればなんてことないが、俺が殺す意思を持って名前を呼べば、即死だ。ガキ共殺したくなきゃ黙って捕まりな」
『……っ、』



 こう言うとき、本当に俺は役に立たない。さっさとこいつの声を拒絶してしまえばそんな必要無いのに。人間だから、天使じゃないから、そう言うのは憚られる。男は周りに居た部下たちに俺を捕まえさせて、銀時に告げる。



「おいガキ、教えておいてやるよ。この炎の王様が今から行くところをな」
「……師匠っ、」
「天空牢獄ベルサイユだ、所有は俺、入っているのは現在予定の黒鉄吹雪のみ。俺が黒鉄のために用意した要塞さ」
「師匠、師匠っ!」
『……銀時、』



 またな。

 そう呟いて、俺は意識を失った。最後に視界に映ったのは、泣きっ面の銀時だった。



.

46:ぜんざい◆A.:2017/03/18(土) 10:52 ID:9sU



 それからして、俺が連れていかれたのは天空牢獄とやらで、その中でも拷問部屋の様なところだった。



『一体何が目的だ、お前は』
「はぁん? 復讐に決まってんだろ……俺の家族をぶち殺してくれやがったお前へのな」
『……覚えてないな』
「だろーよ、てめぇは人を殺しすぎてんだ」
『それは仕方がない。天使と繋がってる奴は殺さないと』



 そう呟けば「うるせえ!」と言う声と共にガンっと岩が俺の顔にぶつかった。だらりと血が流れるのを感じる。いったいな……。
 でも、ここで反論して銀時たちを殺されちゃ困る。耐えなければ。


**

 そうして耐えてずいぶんと時間が経った。もう二十年近くこいつのサンドバッグになっている気がする。
 聞くところによると、銀時達が攘夷戦争に参加したらしい。終わったのは10年前のようだが。よかった、生きている。
 安心しつつも痛さに顔をしかめる。現在俺はこの男のサンドバッグ状態だ。



「ほんっとに何も言わねーなコイツ、叫びもしねえ」
『……』
「……飽きてきた」



 その言葉にバッと声をあげる。男は言った、「ガキ共殺しちまおう」と。俺は即座に『発声を拒絶』と呟いた。



「……っ!!!」
『……もう無理だ、それを言っちゃ俺はもうここにいるつもりはない』



 俺の体を壁に繋ぐ鎖を拒絶し、体の疲労を拒絶し、体の傷を拒絶し、服の破けを拒絶する。
 声が出ず口をはくはくさせている男に、ブンと拳を一発入れてやった。
 腕を一振りすれば今までコイツに取られていた俺自身、日本刀の『杯』が手元に握られた。ひゅんひゅんと振ればやはり手に馴染む。
 男も負けじと腰に差した日本刀を構えた。

 俺を怒らせたこと、後悔させてやる。



.

47:ぜんざい◆A.:2017/03/18(土) 14:55 ID:9sU

時系列は現在将軍暗殺編。


 パンっと柏手を打てば服装は歴代から受け継がれた赤い狩衣へと変化する。ちゃき、と切っ先を男に向けて睨み付けた。



『来な、叩き潰す』
「って、んめぇ……っ!」



 片手で鼻血を押さえながら負けじとにらみ返してくる男にそのままひゅっと突きを入れれば意表を疲れたのか、横に飛んで避けるもズッと右の横腹をかすった。
 そのまま男の方へ左手の平をかざし、「拒絶」と呟けば男は背後の壁へ激突、そのまま突き破って隣の部屋に転がり込んだ。
 どうやらその部屋はこの天空牢獄ベルサイユの動力源らしい。



「待て! ここを破壊すると落下するぞ!」
『知らん、落ちろ』
「ひっ」



 そのまま動力室を拒絶し大破させ、ゴゴゴと落下する音が響く。男は「馬鹿かお前は!」と斬り掛かってきた。その刀を受け太刀し、拒絶で吹き飛ばす。
 ぞろぞろと男の部下が何事かとやって来ては拳銃や刀、或いは槍などで襲い掛かってくる。
 それを斬り倒しながら、要塞を拒絶で馬鹿みたいに破壊しながら俺はこの雑兵の奥で手当てされている男を目指した。


**

銀時side

 土方や近藤に将軍様を頼むと言う依頼を承ったあと……空に突如、俺が、俺達が長年探し続けてきた物が現れた。
 絶対に見つけられない、逃げられなどしない天空要塞、『天空牢獄ベルサイユ』。
 それが崩れ落ちるようにやって来たのだ。

 立ち止まってはく、と口を開ける。崩れた橋の向こうで夜兎ならず百地や土方、近藤までもが何事だと唖然と空を見上げる。もちろん、俺達万事屋三人と将軍様も。
 恐らくこの場のほとんどがそうだろう。だが、俺は違った。

 それを見て浮かぶのは師匠の、頼もしい背中。



「……師匠……?」



 先生とは違い、塾が焼けてから一切姿を見なかった師匠。ぽつりと呟いたそれを聞き取った神楽や新八、将軍様が目を見開いて俺を見る。
 そんなの気にならない。俺は、思わず叫んだ。



「し、師匠ぉぉぉぉぉぉおおっ!」



 それと同時に誰にも崩されることのなかった天空要塞が爆発した。



.

48:ぜんざい◆A.:2017/03/18(土) 15:30 ID:9sU

高杉side

 突如として現れた、俺が探し求めた天空要塞。それが、猿飛を刺した俺達の近くに落下した。



「しっ、晋助様ああああああ! なんスかあれは! あれはぁっ!」
「落ち着きなさいまた子さん、高杉さんも呆然と……「うるさいっす武市先輩」って」
「晋助……?」



 唖然とする万斎たちに目もくれず、俺はポツリと呟く「……師匠か?」。
 その言葉に一同は目を見開き、隣の神威も、足元の服部は驚きを隠していない。



「……俺に、剣を教えてくれた人だ。……先生と師匠が居たから今の俺がいる」



 かちゃ、と刀をとった。上から降ってくる銀時たちに備えた。



**

 俺は俺を二十年いじめ抜いてくれた男を壁ごと大破して外へ出た。そのままその男を追い掛けてドゴッと蹴り飛ばす。
 俺は使いなれない刀は既に鞘にしまって異空間に納めて、狩衣から俺なりの正装を来ていた。……まあ、スーツのジャケットを着てないやつだが。
 そして武器は俺が9代目イブリースを倒した時の、幼い頃から使い込んだ四節棍棒だ。繋げずにゴムを伸縮させて振り回す。



「流、石……『栂敷の双壁』、ひ、げほっ、とりだけでも、この強さかよ、ばけもんが……げふっ、がはっ」
『うるさい』



 最後の最後で皮肉を言ってのけた男の首を刀を抜いて切り飛ばした。

 すると何やら機を伺っていたらしい男たちが襲い掛かってきた。誰だコイツらは。
 それすらも凪ぎ払って林を抜ける。そこには、血まみれの銀時と血濡れで腹に刀を刺して倒れている晋助、それを取り囲むような集団が。

 すぐに出てこようとしたが、銀時が口を開いたのでやめた。



.

49:ぜんざい◆A.:2017/03/18(土) 15:48 ID:9sU



「お前たちはいまだに、その折れた剣を握り締め、師匠を連れ拐われ、松陽を斬り、かつての友とさえ斬り合い、一体まだ何と戦おうとしている」
「……敵ならここにいるさ。今も昔も俺達ゃ変わらねェ、それぞれがそれぞれの胸に掲げた侍になるために自分自身と戦ってきた。
俺は高杉(コイツ)の侍を……やり方を認めるわけには行かねえ。例え斬ることになってもコイツを止める。
だがこの世で誰よりコイツの気持ちを知っているのも、この俺だ。
この世で最も憎んだものは、同じだ。てめぇらだけにはコイツを斬る資格はねぇ。コイツを斬るのも護るのもこの俺だ。それが、俺の定めた侍だ」



 よくやった。よく言った。そう言って頭を撫でてやりたい。成長したな、とか身長伸びたな、とか大きくなったな、とか褒めてやる。
 今、銀時と晋助に襲い掛かって来る、男たちを伸してから。
 銀時が木刀を振る前に襲ってきていた男を四節棍棒で凪ぎ払い、スタッとコートをはためかせてその場に降り立つ。え、とか、は、とか言葉にならない声をあげている銀時に、少しだけ振り向いて告げる。



『頑張ったな、銀時、晋助』



 だから、お前達は『朧』とか言う男に集中しろ。

 そう告げれば「師匠」と掠れた声を聞いた。ああ、よく頑張った。お前ら二人とも。



『……さて、誰だ。俺の弟子共を斬ろうって馬鹿は。俺が直々に全てを、存在を拒絶してやるよ』



 拒絶。そう告げればみじろぐ雑兵共。



『……銀時持ってろ。晋助の側に置いとけ。俺だ』



 腰から刀を銀時に投げ渡した。どうしてそうしろなんて言ったか、分かりきってるだろ、お前なら。



.

50:マメツキ◆A.:2017/04/06(木) 00:07 ID:JO2

テニプリの財前くんがpkspにトリップする話。捏造とか注意。


 そよそよと顔に掛かる風に違和感を感じ、快眠していたところで目を覚ます。相変わらず悪い目付きが寝起きかつ不機嫌で余計に鋭くなり、今の俺の顔は少し怖いもんになっとるやろな。
 っちゅーかここどこやねん。目が覚めたら緑の自然に囲まれた森の草原てどないなっとるねん。
 キョロキョロと辺りを見渡せばがさがさと草木を揺らしながら俺の様子を伺っとる黄色い生き物。名称、電気鼠いやちゃうちゃう、あれはフィクション。現実にはおらんって。ネットサーフィンのしすぎでとうとう頭がイカれたか俺言うとってなんやけど嫌やわソレ。俺は正常や、どこぞの王様部長とか絶頂部長とか野生児の後輩とちごて俺は正常なんや。そう正常なんや、平凡やねん俺は。確かに俺らがしとるテニスの世界は現実離れしとるけど、ないわーほんまないわー。
 電気ネズミ(本家と小型)ってアレ明らかピカチュウとピチューよな。ピカチュウ居る森ってトキワかあのカロスの最初の方の森、名前なんやっけ、まあエエわそこらへんやろ。ピチュー居るとか知らんかったけど。とにかくカロスとか地球で表すと外国やんカントーでエエわカントーで。英語も好きやけど書かなあかん字数多いやんめんどいやん。
 っていうか俺知らん男に妙な薬を飲まされた覚えないんやけどアポトキシン飲まされた覚えないんやけど。やのになに? 目が覚めたら……! ってなにこの展開。ないわー。トリップとかないわー夢であってほしいわないわーほんまないわー。
 周りを見れば傍らに落ちている俺のテニスバッグ。あのでかいやつな。重いやつ。中を探れば、中身の入った水、テニスやっとるといつか絶対必要になるやろと冗談で入れた非常食、テニスラケット、ボール、四天宝寺のジャージ上下、ピアスケース。そしてなぜか財布。暮らせってか、ここで暮らしてけってか。そしてなぜかノートパソコン。生命の源キタコレ。これがあれば生きていける。筈や。服装は私服。比較的動きやすい私服。準備バッチリか。準備バッチリなんか俺は。そして最後にちょこんと紅白のボール。もちろんビリリダマとかそんな物騒なもんやのーて、モンスターボールや。空の。トレーナーとして生きてけってか。そう言いたいんか。ふざけんな馬鹿野郎。
 不意に黄色が動いて気がしてそちらを見れば、ピカピチュが俺に近付いてきていた。おっかしいな俺今多分めっちゃ厳しい目付きしとる筈なんやけど。



「ピカ!」
「ピチュ!」
『……コイツらカワエエなちくしょう』



 座り込む俺の隣で二匹とも不思議そうに首をかしげて見つめてくる二匹。赤色の原点かつ頂点が片割れのピカチュウを相棒にしとった理由が分かった気がするわ。黄色の悪魔なんて言うて正直すまんかった。
 実は全作プレイ済みな俺。テニス部員がゲームせーへんとか偏見やぞ、俺かてただの中学二年やねんからな。もちろんポケスペの漫画やって持っとる。漫画は成人して既に子持ちの兄貴がくれた。泣く泣くな。おいそこ、誰や今俺のこと叔父さん言うた奴。甥っ子居るんやなって言えアホ。
 金銀、いやHGSS内のシロガネ山でのレッドとの対戦にはホンマ泣きそうになった時あるもん。雪山で半袖とかドン引きやっちゅーねんアホ。
 その二匹はピチュピカチュチュチュとかわええ声で鳴いたあと俺を見てうなずいた。すまん分からん。なんでウナズイタン。



「チュピ!」
『っあ゙!? おいこら……!』



 ピチューが突如として俺のテニスバックへと飛び込み、がさごそと中を漁り出す。非常食奪われたらたまったもんちゃうわ。慌ててカバンに手をかけるもそれより速くピチューが何かを持って飛び出してきた。モンスターボールやった。二つ。なんでや。



『は』



 止めに入るより速く二匹は各々勝手に俺のいつ買うたかすら分からんモンスターボールへと入った。さっさと入った。なんでやねん。どうやらなついていたらしい。やからなんでやねん。

 目が覚めたら
(ピカチュウピチューゲットした)

51:マメツキ◆A.:2017/04/06(木) 14:14 ID:JO2


 どうやらうちのピカピチュコンビはボールの中があまり好きではないようで現在ピカチュウは俺の肩に、ピチューを腕に抱えている。かわええ。さて、とりあえずこの森から出るかと歩き出して数時間。やっと森を出た。掲示板を見ればどうやらトキワの森だったようだ。マジか。



『ここトキワの森やったんか』
「ちゅ!」
『くっそ、かわええなお前ら』



 ぐっ、と唇を噛んだあと。ふと気付く。あかん、トレーナーカードもってへん。ポケセン……とりあえずニビ。ニビニビ。はよ行こ。そうして再び歩き始めて数分、さて、地面に転がっているあれはなに。マジ何。
 茶色に白色が混じっとる……もしかしなくてもなんかのタマゴやん。嘘やん。



『……タマゴよな、これ』
「ぴちゅ」
「ぴかちゅー」



 肩から飛び降りたピカチュウがひょいと両手にタマゴを抱えてやって来た。天使か。それを受け取り、どうするか考えてとりあえず連れていくことにした。見てもーたし何より気前悪い。とりあえず連れていこう。
 そんなこんなでニビに到着、白衣の天使ジョーイさんにトレーナーカードの発行を頼んだ。

 どうやらこの世界では既にレッドがロケット団を潰したらしい。ならゴールドとシルバーが頑張る世代か。



『……とりあえず、ジョウト行こ』



 思い立ったらすぐ行動
(やっぱリニアはやいわ。なんでジョウトかって? ほら、原作間近で見たいやん)

52:マメツキ◆A.:2017/04/06(木) 15:32 ID:JO2



 到着、ワカバタウン。ここに来るまでに飽きるほどにバトルして強くなったはず。と言うか元々ピカピチュのレベルが高かったみたいやねん。前にポケセンで見たときピカチュウLv57ピチューLv52やったからな。なんでお前ら進化してへんねん。っていうかなんでそんな高レベルが野生やねん。捨てられたんかお前ら。
 そしてあのタマゴ。あれもジョウトに来た理由のひとつである。孵す者の代名詞を将来担うことになるゴールドに預けようそうしよう。多分まだ一年経ってへんから第三章始まってへんやろーけど。
 二匹を腕に抱えてテニスバッグを背負い直して歩き出せば、前からスケボーに乗って大勢のポケモンを引き連れてくる少年。言わずもがなゴールドである。エンカウントはやー、めっちゃはやー。少年は俺を見て不思議そうな顔をする。そしてピカチュウピチューを見て「おおお!」と声をあげた。こっちじゃピカピチュ珍しいんやっけ?



「なあ! そこのイケてるにーちゃん!」



 俺のところでスケボーを停止した前髪爆発な少年、ゴールド。ゴールドに合わせて俺も立ち止まれば、キラキラした目で見上げてくる少年。おうっ、なんやなんや。ちっさいなコイツ。



「ソイツピチューとピカチュウか!? 珍しいの連れてんな! カントーから来たのか!?」
『……まあそーなるんちゃう?』
「かっわいいな! 触ってもいいか!?」



 はしゃぐゴールドに子供らしいと思いながらピカピチュに視線をやればこっちもこっちではしゃいでいるからよしとしよう。二匹を撫でるよう促せばうひょーなんて声をあげながら撫でくりまわすゴールド。俺はというとゴールドがつれとったエイパムやらサンドパンやらを撫でる。ピカピチュに限らずポケモンかわええなおい。



「あ、俺ゴールドってんだ! 俺んち見ての通りポケモンがたくさんいっからよ、周りからポケモン屋敷って呼ばれてんの」
『俺は、……ヒカル。ザイゼン・ヒカル』
「ヒカルさんな! よろしく!」
『ん』



 伸ばされた手に握手を交わせば「またなー」と手を振って行ってしまった。あ、タマゴ……。タマゴ渡すん忘れとった。まあエエか。と思いてくてくと歩いていく。ここにはポケセンが無いようで、え。と固まった。どないしよ、野宿……するにしてもテントとかないし……どないしよ。
 道路の隅でうんうんと唸ればピカピチュコンビも真似してうんうんと唸り出す。天使か。しばらくどうしようか悩んでいれば「あら」と声を掛けられた。なんや、と疑問に思いながら振り向けばそこには一人の女性。見覚えがあるものの思い出せず、『……すんません、なんすか』と無愛想になってしまった。



「いえ、何か困っているようだったから。よかったら話してくれないかしら」
『(流石助け合い第一の世界やな)あー……ここポケセンないやないですか。しばらくここに居ろうとは思っとるんすけど、なんせ宿がのうて』
「あら、そうなの。なんならウチにしばらく住めば良いわ。広くて部屋が余っちゃってるの」
『まじすかあざす』



 ほら、断ると失礼やん。

 利用できるなら
(せん手はないよなぁ)

53:マメツキ◆A.:2017/04/18(火) 23:38 ID:KgU


pkspにトリップ夢の男主連載。知識はなし。前世が医者。マサラから開始。グリブル要素はない。ブルー夢(?)。女の子キャラが増えるかも知れんから断定できない。


ヴァイオレット:男

 マサラ出身。レッドの家のご近所さんで、レッドたちとは同い年。あだ名はヴィオ。レッドたちとあんまり関わりはなかった。
 医者の家系の子。絵本か何かのように医学書を読んでいたなんかもういろいろ子供じゃない子。しかし親はすごいねーぐらいしかいわなかった。前世にもう医者になっているので別のことしてぇなーって感じで医者になるつもりはなく、トレーナーとして旅に出たい。両親は基本楽観的かつ放任主義なので「トレーナーになる? おーいいぞいいぞー」「まあ! 頑張ってね! いってらっしゃーい」『待て待て二人とも、俺準備してねェよ』な感じで送り出された。両親優しい。
 母がホウエン出身で、幼い頃、母からとあるタマゴをふたつもらった。以来そのタマゴから孵った『プラスル』『マイナン』とは仲が良い。相棒コンビとして連れていく。ゲンガーは父さんから頂いた。手触りはつるふわ。
 少しタラシ気質。落ち着いているがクールと言う訳でもない。前世と合わせてウン十歳なので、最近の子供のノリにはついていけてない諦感一歩手前気味のめんどくさがりや。怪我したらまずこの人のところにみんな来る。こんなんでも図鑑所持者。まず他の人が生きてることが第一。命、大事ですよね。自己評価はまず五段階ヒエラルキー最下層にいる。
 容姿は整っている方だと思いたい精神年齢おっさんな少年。まあイケメン。グリーンの手前程度にはイケメン。どこぞのマフィア漫画の雲の炎の様な紫色の瞳に黒っぽい紫の寝癖が跳ねまくった髪。黒ぶち眼鏡のインテリ系かと思いきやハイパーアグレッシブ。チャレンジ精神旺盛。こいつ本当に○(ピー)十歳か。つり目。幼い頃野山をかけずっていたので右頬に大きな引っ掻き傷あり。痕が残った。とりあえず暴力的。
 比較的常識人(ぼ、暴力的なんじゃないのか……!?)なのでメンバーの歯止め役。みんなのお兄さん的存在。頭が良いので頼れる時は頼れる。
 服装は涼しげな色のチェック柄の半袖ワイシャツに腰に黒と紫の上着を巻き付けている。ダボッとしたカーゴパンツ。肩から下げている鞄には親に絶対持っていけと言われた医療道具。腰に巻いた上着の下にモンスターボールベルトがある。脛辺りまでの大きさのブーツを履いてるけどカーゴパンツに隠れている。

代名詞 “治す者”

.

54:マメツキ◆A.:2017/04/19(水) 00:04 ID:KgU

口癖は『馬鹿野郎』。

**



 この世に生まれてもう10年程。いやはや時ってのは経つのがはえーのなんのって。どうやら神とやらは俺に前世の記憶を忘れさせることもないままこの世に産み落としたようだ。まったく、やれやれだぜ……なんて言えるか馬鹿野郎。なんでピー十歳のこの俺がベイビー期を二度も体感せにゃならんのだふざけろクソが。まぁ奴隷とか昆虫とかにならなくてよかったとは思う。馬鹿野郎、世の中適応しねーとやってけねーよ。
 どうやらこの世界は俺のいたところとは違い、ポケモンなる生き物が存在し、人間と共に力を合わせて共存しているらしい。ああ、そういやあったなそういうゲーム。俺がガキの頃に赤だ緑だ青だ黄だやれ金だ銀だ……まったくいい加減にしてほしいぜ。内容がまったく一緒じゃねーか馬鹿野郎。俺は赤しかしたことねーぞ図鑑コンプ難しくてやってられっか! ってなって投げ出してもうずいぶん経つからストーリーなんざ覚えてねーわ馬鹿野郎。



『早く旅に出てェなー』
「プラ?」
「マイ?」
『お前らかわいいなー』



 プラスルとマイナンの二匹を抱えて胡座を掻いた上に乗せてゆーらゆら。きゃっきゃと嬉しそうに騒ぐ二匹に頬を緩めて、昨日の出来事を思い出す。
 昨日、初めて親父とお袋に旅に出たいと言う意思表示をした。俺の家は医者の家系で反対されんのかなーとか覚悟もしていた訳なのだが、あっさりと許可が出た。理由を聞けば「医者になることに縛られる必要はないぞー」と親父。「あらー、もうそんな時期なのねー、いってらっしゃいヴィオ〜」とお袋。待って母さん準備してない。そんなやり取りをしたのはずいぶんと記憶に新しい。
 テンションの上がりまくった両親は医療関係で世話になっていると言うオーキド博士に俺が旅に出るだの一人立ちするだのいらんことを報告し、ならちょうどいいと言うことでなぜか明日の朝、オーキド博士の研究所に足を運ばねばならなくなった。



『めんどくせーなー、いっそのことオーキドのじいさんとこ寄らずに行っちまうか』



 ポツリと呟けば二匹から猛反発された。わかったわかった、行く行く。行くから。
 オーキド博士の研究所に寄ったあとはそのまま旅に出るつもりなので準備を整えて、まあ、今日はとっとと寝るか。



.

55:マメツキ◆A.:2017/04/19(水) 00:34 ID:KgU


 翌日の朝、プラマイコンビを引き連れやって来たオーキド研究所。ピンポーンとチャイムを鳴らせば扉が開いてオーキド博士が顔を覗かせた。



「おぉ! ヴァイオレット! よく来たな、待っておったぞ」
『どーもー、久しぶりっすオーキド博士』



 手招きされて研究所内に入れば「君は今日旅に出るようじゃからな」と微笑まれ、訳がわからず呆然とする。



「いやなに、昨日わしの孫が留学から帰ってきてな。帰ってきたと思い、図鑑とポケモンを渡したんじゃ。同じように昨日来た見所のある少年にも図鑑とポケモンを渡してな。タイミング的にぴったりじゃったからな。ヴァイオレット、お前さんのことを認めて、これをやろう」



 そうして渡されたのは赤色の機械、ポケモン図鑑。俺が訳もわからぬままそれを受け取り、唖然とする中で、「旅の記念の意味も含めておるよ」と言われたのでありがたく頂戴した。オーキドのじいさんマジリスペクト。



「そしてポケモンは……」
『あー、じいさんじいさん。俺、昨日親父にポケモン_ゲンガーもらってんすよ。だから大丈夫です。それに、コイツらも居ますし』
「おお、そうじゃったか」



 そのあとはオーキド博士の「早速行っといで。二人は恐らく森に居るよ」の言葉と共に俺達は研究所を後にした。とりあえずトキワの森、虫がいっぱい居るから行きたくねぇんだよな……。
 そんなことを思いながらプラスルを頭の上に、マイナンを腕に抱きながらトキワの森にやって来たわけだが。なぜか、赤い服の帽子の少年と茶髪のイケメンくんが喧嘩しそうなところに出くわしてしまった。


「あのときの! なんでお前がここに……」
『いや、てめェらなにしてんだ。こんなところで、喧嘩?』
「っ!?」
「誰だ?」



 二人して弾かれたように俺を見るから少し目を見開いて驚きつつ、『俺か』と口角をあげる。二人は俺の二匹に興味津々のようだ。



『俺はヴァイオレット。略してヴィオ。はじめましてー、こーんな森で口喧嘩してた仲の良いお二人さん』
「「仲良くねえ!/ない!」」
『喧嘩するほど仲が良いっつーだろ馬鹿野郎』



 その時だった。ズゥンと言う地鳴の音がだんだんと近付き、森から姿を表したガルーラ。茶髪のイケメンはコイツを狙っていたようだ。



「うわああああ!」
「待ってたぜガルーラ!」
『(若気の至りですな)』



 二人のように純粋に感想を述べられないのが俺だ。そう、俺だ。今ここで緑茶でも飲み出しそうな気分だぜ。元気いっぱいだなー。
 茶髪がずんずんとヒトカゲで攻撃していくなか、俺はガルーラが攻撃してこないことに違和感を抱いた。よく観察してみると、何かを庇うように……腹に手を……。俺があっ、と思う前にはすでに赤い帽子の少年が茶髪に攻撃をやめろ、とつかみかかっていた。横取りする気かとか言ってるがそんな呑気なこと言ってられない。肩の鞄を担ぎながら静止を促す二人の声を聞かずにガルーラへと駆け寄った。



『ガルーラ、生きてるか、腹の子は』



 俺がそう言えば腹の袋がもごもご動き、姿を表す赤ん坊。どくどく状態、何かにやられたのかなんなのかよくわからんがまあ早く手当てをしよう。


.

56:マメツキ◆A.:2017/04/19(水) 00:44 ID:KgU



『プラスル、鞄開けろ。マイナン毒消し取って』



 腰に巻いた上着を地面に敷き、その上に赤ん坊を寝かせて二匹に指示した。二匹は流れるように鞄を広げ、中に広がる治療器具や薬の中から毒消しを見事見つけだし迅速な対応を取ってくれた。
 毒消しでガルーラの子供の毒をとっぱらったあと、水を飲ませて汗を吹き、再び袋へと戻す。ガルーラは満足して帰ってくれた。よし、良かった。



『お疲れさん。片付けて』



 再び二匹はテキパキと動き始め、片付け完了。ついでに面白がって出てきていたゲンガーは俺の背中の真ん中に引っ付いてけらけら笑っている。お前何がおかしいの。そして二匹も肩へと移動するからそろそろ重量がヤバいぜ御三方。
 すると後ろから茶髪と黒髪帽子が声をかけてきた。



「すげぇ、医者みてぇ!」
『みてぇじゃねーよ。医者紛いだっつの馬鹿野郎。通りすがりのポケモン図鑑所持者だよ』



 図鑑所持者という言葉にひどく驚いた二人にへらっと笑う。そして茶髪を一瞥してその場を足早に去った。森嫌い。虫がなんか嫌。
 その途中、あ、二人の名前聞くの忘れたとか思いながら歩けば「俺はレッド!」と黒髪帽子の名前が響いてきて、しばらく間を置いてから「グリーンだよ! ついてくんなよ!」と茶髪の名前が森に響いた。
 まさかのレッドあーんどグリーンだったとかマジか。



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57:ぜんざい改めマメツキ◆A.:2017/07/02(日) 00:19 ID:8H2

弱ペダ。とりあえずトリップの箱学夢。W夢主。片方はぺったんロングヘアー逆ハー美少女ちゃん『朝比奈 カリン』東堂落ち。もう片方は関西弁巨乳眼鏡でショートカットクールの性格イケメン平凡娘、『最腹 いおり』荒北落ち。カリンちゃんといおりちゃんは一緒にトリップしてきた。高校は箱学で福富世代一年生スタート。両共オタクでレイヤー。いおりはエレキギターが好き。カリンはロードやってていおりはバイク乗ってる。原作にはあまり介入しないがカリンがチャリ部に入り浸る。のでいおりも着いてく形。※ヒロインポジはカリン。
**
カリンside

いおりと共にいきなり訳もわからず退行した中学時代。既に社会人だったのにまた中学からかよとしょぼくれるのも束の間。その中学には野球部のエースに荒北ってのがいて、肘壊して退部。いおりとそれを見てもしかしなくてもこれ弱ペダじゃんと、退行じゃなくてトリップじゃんと確信した。
 そこそこ荒北と仲の良かったいおりがさりげなく高校はどこいくねんと聞けば野球部ねぇ箱学と返ってきて完全に決定した。そしてなんやかんやあって私たちもどうせなら王者に行こうぜと元々ロード乗ってた私がいおりを誘って元々いおりは弱ペダなら箱学が一番好きだからと即決。無事受験受かって箱学に入寮。それから数ヵ月。私達は未来の三年生のレギュラーと絡むことなく平穏に過ごしていた。

「…平穏てなんやねん。…もしかして、お前が?」
「もしかしなくても私! うわっ、そんな目で私を見ないで!」
「入学してからもう二桁の半分行くほどの男に告られとる…逆ハー娘のお前がか?」
「現実を、私に現実をつきつけないで!」
「うるっさいねんめんどくさい黙れボケェ…」

 ずこっとパックのレモンティーをストローで飲み干したいおりはふいと視線を逸らして「なんでこっちこんなクソめんどくさくてやかましいのんと友達なんやろ」と真剣に考え出した。それは同類だからに決まってるじゃない。あと私がいおりのギター弾く姿に惚れたから。そう返すといおりは「こないなやつの前でギター弾くんちゃうかったわ」とくしゃっと空の紙パックを握り潰した。

「ま、いおり軽音部だからねぇ。でも素人の私から聞いてもアンタと軽音部の実力差激しいよね」
「あのハブられとる感ヤバいわ。こっちの精神ごりっごり削ってきよる。こっち見てひそひそ話すとかやめてやホンマつらたん。つらすぎるわもう軽音部やめる」
「おい豆腐メンタル」

 そしたら放課後時間空いてカラオケなりメイト巡りなりできるやん。とぐちぐち言ってるいおりは知らないだけで、あの軽音部ではハブられている訳ではなく、単に惚れられているだけである。ひそひそ話しているのも『やっぱりクールね』『邪魔しちゃ悪いよね』『かっこいい』みたいな感じだ。くそ、あんなにデカイのに! どことは言わないぞ悲しいから。ほら、コイツ身長は157cmしかないのに肉付き良いからさ!? クソッ! うらやましいな! でも足はわりと太いよし勝った絶対領域とか知らん。
 私? 私は全方位、男女共に様々な意味で好かれてるけどなにか? 肉付き? …つら。現在屋上にて昼食を取っているのだが、如何せん人来ない。のでかなりでかい声で私は喋ってる。いおりは普通。

「ていうかさ、荒北あのリーゼント切ってさっぱりしてたよね。私今の方が好き」
「短すぎる気ぃするけど、伸びるやろ」
「いおりは前髪長い方が好きだもんね。あとチャリ部でレース優勝したって」
「いや別にどっちでもエエんやけど…って、なんで荒北に話題行くねん」
「だっていおり、荒北好きでしょ」
「鑑賞用な。ホンマはあのしっろい肌に縄で痕つけて、とにかくほっそい腕を叩き折りたい」
「やだ過激。流石ドS」
「オイこれ冗談やし」
「いや、中学の時のテニス部の先輩に絶叫しながらギターでぶん殴ってたじゃん」
「……しつこかってん。夜目ェ覚めたら目の前におるんやぞ怖いやろこれドSとはかけ離れとる死にたい」
「おい紙メンタル。くっぷぷ、しかも相手の人女の子だったしね」
「…なに笑ってんねんぼけ」
「キレんなよ」
「キレてへんわ」

58:ぜんざい改めマメツキ◆A.:2017/07/02(日) 08:37 ID:8H2


 そのあとわーぎゃー騒いでたらぎぃと扉が開いて誰かが入って来た。とりあえずここに飯食いに来た生徒でしょ、と気にすることもなく談笑を続ける。



「ねーいおり、古典の授業の課題した?」
「やったで」
「見せて!」
「嫌や」
「なんで!?」
「自分でやれや、めんどくさい。あんなん教科書に載っとること写すだけやん」



 チュッパチャプス的棒つき飴を袋から出したいおりはそれを口に含んでこちらに視線を寄越す。
 こいつさらりと簡単発言しやがった。簡単ちげーよ。
 そのまま見せてよ、見せて攻撃してたらいおりが折れた。やったね。



「コイツホンマう「うざくないよ!?」自分で言うてもーとるやんけ。こっち鬱陶しい言うつもりやったのに」
「ぉ、思ってないし鬱陶しくもないよ!」
「やかましいうるさいめんどくさい黙れ」
「4コンボは流石につらい」



 うるっさ……しゃーないな、教室戻るで、と立ち上がったいおりはバリンと棒つき飴を噛み砕く。舐めないの? と聞けばこんなん長い間舐められへん噛んでまう、と返ってきた。やだ荒々しい。
 私もその場から立ち上がり、振り向いた時だった。扉のところで立ち止まってこちらを凝視する三つの影。荒北、東堂、新開である。
 ……なんで凝視してんの?
 とりあえずいおりはそんなの俄関せずって感じで歩いていくからそれについていく。おい欠伸すんな。



「次なんやっけ、美術?」
「あ、うん。美術。いおり得意だよね」
「せやな。あ、お前の好きな歌い手さんのCD昨日発売やで」
「大丈夫! 買った! あと復活のDVD&ブルーレイボックスも全部買ってきた!」
「お前にしてはよくやった早く雲雀さんに会いに行くぞ」
「待って私山本派だし!」
「雲雀さんやろ、めっちゃ美人。しかも最強」
「代理戦争編忘れてない!? 山本と獄寺くん時計壊されずに逃げれたし!」
「あれは山本が逃げに走ったからや」
「戦略的撤退と言って!」
「『逃げの山本』……あかん笑う」
「コイツ! そこは小太郎でしょ!」
「高杉派」
「沖田くん派」
「間を差すな」
「ごーめーんー」
「よし殴る」
「ごめんなさい。流石に空手やってた人に殴られると死ぬ」



 そんな会話をしながら私たちは三人の横を通りすぎた。



.

59:ぜんざい改めマメツキ◆A.:2017/07/02(日) 17:53 ID:8H2


 いおりは軽音部の部活で居ない。そんな帰宅部な私は今日もロードに乗って寮へと走る。



「ひゃーきもちー!」



 びゅおんびゅおんと飛ばして走っていたので、まあ周りが見えなくなったと言うか、横の二人組に気付かなかった。



「おーいちょっと」
「ん¨ん¨っ!?」



 横を振り向けば、一年の姿の新開、東堂。困惑した顔で二人を見ていれば、新開に「見えてるよ」とスカートを指差された。
 ……あ。



「も、もも、もけきゃあああああ!」
「も、もけ?」
「な、なななんと美しくない叫びだ!?」



 慌てて座って見たのかと確認をとればバッチリと返事が返ってきた。
 ロードの前傾姿勢で顔を隠して項垂れる。



「もうやだお嫁に行けない……」
「貰ってやろうか?」
「間に合ってます。いおりにもらってもらう」
「はっはっは! ならこの美形が「間に合ってるってば」なんとぉ!?」
「ねえ、新開、東堂コイツ頭大丈夫?」
「大丈夫だって。ていうか、俺たちの名前知ってるんだな」
「うちの友達にあんたらのファンがいるからね!」



 どや、と言ってやれば東堂が「やはり俺にはファンが居るのだな!」とはしゃぎ出し、新開はそんな東堂に苦笑い。



「ところで、いおりって、あの最原さん? 昼に屋上に居たあの……」
「そう!」
「アニメの話で盛り上がってたやつだな!」
「そう! いおりね、かっこいいでしょ!」
「普通の顔だったな!」



 とりあえず東堂は殴っておいた。いおりは眼鏡っ子なんだよ!



「いおりはね、顔じゃない、性格なのよ! 男前でかっこいいし、声はかっこいいし、何よりギター弾いてる時が一番かっこいい! しかも雰囲気エロい!」
「えっ、えろっ!?」
「まぁ確かにな」
「でしょ!? こんなの言ってるの聞かれたらぶっ殺されるけど!」



 東堂に行っておいてやろうかと聞かれたので全力で断っておいた。
 後日いおりに「東堂から聞いた。お前ホンマ殺す」と殴られた。東堂めぇ……。

60:ぜんざい改めマメツキ◆A.:2017/07/04(火) 22:15 ID:8H2


 その頃いおりは軽音部にてなぜかひそひそ話しながら出ていってしまった先輩、同級生たちに怒りをぶつけるようにエレキギターを弾き暴れていた。いや、実際に暴れているわけではないけど。暴れてたら大惨事だ。



「(なんでやねんあいつら! くっそ、先輩らなんか嫌いや! そろそろやめるからな! ホンマやからな! やめたるからな!)」



 若干苛立った顔をしながらギターを激しく弾きまくるいおりは内心で紙メンタルを発揮している。眼鏡の奥の瞳はめっちゃ鋭い。
 無造作に音を鳴らしても楽しくなかったのか、彼女はふとトリップ前の弱ペダのキャラソンを弾く事にした。スタンドマイクを引っ張ってきて、その正面に立つ。歌うのはもちろん、弱ペダで一番好きだった荒北の『唯我独走』。
 いおりは一人、滴る汗すら気にせず部室で歌い叫び弾き荒らしていたのだった。そして翌日、一年生の間で最原が爆音でギターを弾いていたと言う事実が出回ったのである。



**


「ふむ、なら荒北と同じ中学だったのだな」
「そ。わりと仲が良かったのはいおりだけど」
「ほうほう」



 新開、東堂らと並んで走った寮までの帰り道。二人はジャージにレーパンなので部活中なのだろうと思われる。
 寮前まで来たところで別れた。その際、連絡先を交換して「よかったら自転車競技部のマネすれば?」と新開に誘われたので考えることにした。


**

 とまあ、こんな感じが私達と自転車競技部の出会いである。現在は次期三年レギュラー(現一年)のメンバーと仲良くやっている。福富が林檎しゃくしゃく食べてるのはビジュアルに似合わず可愛かった。
 私といおりはと言うと、私は新開と東堂に誘われたのでチャリ部のマネに。いおりは居心地の悪くなった軽音部を抜けて私の手伝いとしてチャリ部に来ている。私が来たときのチャリ部全体のテンションの上がり方は異常だった。相変わらずいおりに対しては普通なのに。そして成長するいおりのむn(以下略。連られてほしい私の(以下略
 そして迫る文化祭。私のクラスは東堂が居るので劇をやることになった。ベタにシンデレラである。ベタベタじゃねえか。そして決まる王子役東堂、シンデレラ役私。他の子たちは東堂相手に演技なんか出来ないよぉふえぇ、とかうんぬんかんぬん。めっちゃ女子なめたわ今ごめん。
 いおりのところはあれだ、定番の喫茶店。しかも男女逆転メイド・執事喫茶。あれだろ、わかるよ、いおりいるもんね。女子の要望でしょそうでしょ案の定そうだった。大概いおりの人気の理由は「ギターを弾く姿が誰よりかっこよかった」とかの類いだ。顔も勉強も平凡なのにどうしてそうなった。そうか性格が男前だからか。



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61:ぜんざい改めマメツキ◆A.:2017/07/04(火) 22:41 ID:8H2

sideカリン

 文化祭を翌日に控える私たちハコガク生。私のクラスは最後の衣装あわせだ。



「きゃああ! カリンちゃんめっちゃかわいいいいいいい! かわいいいいいいい!」
「早く! 早く! 早く見せにいこ!」
「絶対みんな叫ぶから!」



 だからってこれはないと思うんだ。動きやすさ重視の衣装だってことは分かるけど、ミニスカはないと思うんだ。
 ふんわりレースの広がるスカートの裾、プラスチックのガラスの靴、全体的に薄い水色で纏められた清らかなめちゃくちゃ可愛いドレス。そして脚。露出された脚。なんで脚。
 そんな抗議をする間もなく、私が教室に連れ込まれたときにはみんなみんな大絶叫。教室めちゃくちゃやかましい。男子の視線が気持ち悪い東堂助けて、と視線を送ればサムズアップされた。てめこら、後で校舎裏な、絶対だかんな。



「早く着替えたい……」
「まだ駄目! 私達写メ撮ってない!」
「撮らんでいいわ馬鹿!」



 もうやだいおり助けて、と呟いた時だった。隣の__いおりのクラスからの女子の黄色の歓声。
 あ、これはいおりが衣装着た感じのやつだ。そしてしばらくしてもう一度女子の黄色の悲鳴。え、これわかんない、誰これ。マジで誰これ。あ、東堂が着替えに教室出ていった。絶対笑ってやるかんな!



「はよ来い東堂爆笑してやる……」
「カリンちゃん東堂くんに恨みでも有るの……?(汗)」

**
sideいおり

 こっちのクラスはなぜか知らぬ間にご奉仕喫茶になり、なぜか女子の意見で男女逆転。そしてその日から訳もわからず採寸され、衣装合わせを繰り返し、前日に衣装公開。
 仕立て担当の子に渡された衣装を女子トイレで着替えて見れば無言写メ。びくついたのはしゃーないおもうねん。元々髪は短かったし、アメリカンピンで右の前髪を横に止めただけ。
 燕尾服のような黒のジャケットに裾を通し、手袋をはめる。ワイシャツは灰色だった。ネクタイは白。狙ってんのかおいこら。ズボンはちょっとダボッとした感じ。緩いから好き。
 とりあえず、黙ってこっちを見つめ続ける仕立て係りの女子三人にどうだろうと反応を伺えば、しばらく間があったあと、小さく悲鳴が上がった。そんな嫌かコラ。
 そのまま三人に囲まれ、引っ張られ、一人の女子が入って「最原くんの誕生だよ!」とこっちを引っ張りいれた。よろけたものの、たたらを踏む程度で終わったのでよしとする。


「……どうや」


 そう問い掛けたら女子の甲高い悲鳴が目一杯上がり、咄嗟に耳を塞ぐ。え、なになになに。困惑して同じクラスの荒北に視線をやれば、あれ、アイツおらんやんくそが!
 ちょっと居心地悪くなったので荒北どこや、と聞けばその子は顔を伏せて着替えに……多分もうこっちに向かってると言われたので廊下に出た。
 心の頼り荒北! はよ帰ってきて! とばたばた衣装のまま向かえばそこには男子に囲まれた荒北激似美少女。


「げぶっ、」
「はァ¨!!!?」


 こっちはストレートパンチを腹に食らった感ヤバかった。

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62:ぜんざい改めマメツキ◆A.:2017/07/04(火) 22:57 ID:8H2

sideいおり



「荒北……ちゃうわ、今荒北ちゃんやめっちゃかわええなんやこいつ持ってかえってエエか」
「だろ!? そうだろ!?」
「男子だと言われないと気づかないレベルな」
「でもお持ち帰りはやめなさいそこのイケメン最原」
「おいやめろ! 誰が荒北ちゃんだっつの気持ちわりぃ!」



 黒髪ロングのウィッグを被ってメイド服来た荒北とか破壊力やばし。足ほっそ、肌しっろ。あかん殺しに来てる。殺しに来てるヨこいつ。
 全体的にクラスじゃ男子と仲が良いこっちはよく喋る。
 ぎゃーぎゃー騒ぐ荒北を放り「教室まで連れてってエエ」と男子軍に聞けば気前よくオーケーいただきましたー。紙メンタル回復しましたー。


「行くで荒北」
「おい待ていおりチャン! これで女子のとこ行くのかヨ!? ちょっと男に対してそれはないんじゃナァイ!?」
「こっちの姿を見ろ荒北。平等やぞ」
「種類がちっげーよバァカ!」



 嫌がる荒北を半ばエスコートするように連れだって歩く。今こっちシークレットブーツわりと高いの履いとるからな、荒北よりちょっと目線高め。
 ご機嫌で肩を抱きながら歩くと相変わらずぎゃーぎゃー文句言ってるが物分かりの良い荒北はぶつくさ文句を言うだけになった。ふはは。
 そうしてふんす、と満足しつつ相変わらず荒北の肩を抱いたまま教室の扉を開けて中に入ると女子の二度目の悲鳴が上がった。びっくりして荒北を教室に置いて教室の戸をバンとしめて廊下に飛び出た。中で「おいコルァいおりチャァン!?」と荒北の怒鳴り声が聞こえた気がした。いおりさん知らん。

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63:マメツキ:2017/07/08(土) 19:43 ID:wkY


弱ペダ夢主達です。
左が朝比奈、右が最原
https://ha10.net/up/data/img/20195.jpg

64:マメツキ◆A.:2017/07/08(土) 19:48 ID:wkY

カリンside
 そんなこんなで濃かった文化祭は本当に何事もなく終わった。東堂がわりと似合ってた。私? 私は相変わらずナンパされまくりだよバァカ!かっこいいよ花宮さぁぁあん!



「……福ちゃん、これどうしよ」
「……東堂か新開に聞いてくれ朝比奈。生憎俺はそういう経験は多くない」
「よっし、新開かもん!」
「待て! なぜ美形の俺じゃなく新開なんだ!」


 部室にて。私は今朝下駄箱に入っていた一通のとある手紙を手に握り絞めて昼休みにいおりを引き連れチャリ部へとやって来た。東堂相変わらずやかましい。
 いおりは顔にありありとくそめんどくせえと刻まれており、「くそめんどくせえ」と呟いた。それすでに伝わってるから!
 そう、私がもらった手紙とは。お分かりだろうが、ラブレターである。しかも同じクラスの少年から。サッカー部のまあまあイケメン。時間は放課後、場所は裏庭。



「行った方がいいのこれ。どーもう新開」
「とりあえず、行った方が良くないか? 俺も流石に呼び出しには素直に従ってるぞ」
「ふふん、美形のこの俺が考えを授けてや「裏庭とか嫌な予感しかしないんだけど。エロ同人のような気配しかしないんだけど。お前ら高校生だろ!」聞きたまえよ!」
「お前はちょっと内容を慎もな、どつくで」
「ご、ごめん」
「とにかく、どちらにしろそうなるとは限らない。行ってみたらどうだ」
「福ちゃん……!」



 福ちゃんにそう諭されやって来た放課後、訪れた裏庭。逆か? 訪れた放課後、やって来た裏庭の方がいい? よーしこの際どっちでもよし。
 そして結果だ。ん? 途中経過? あるわけないだろもー。
 お、起こったことをありのままに話すぜ! 裏庭には行った。で、まあその少年がいて告られてもちろん振ったわけよ。そしたら柄悪そうな男どもたくさん出てきて流石に泣きそうになった。とりあえず隠れて様子を見に来ていた新開とか東堂、荒北、いおりが助けてくれたよ。いおりが男ども蹴散らして無双しててかっこよかったね。

 後日その男たち(クラスメート含む)は警察にご厄介になりました。ちゃんちゃんって感じ。
 後日。



「無事終わってよかったな、見てる方がひやひやしたぞ?」
「ごめんて東堂」



 ぶすくれる東堂に苦笑いして謝れば「まったくお前は自分が可愛く可憐なことに気付いてないいいかお前は」とぶつぶつ親かと言いたくなるくらいしつこくなってきたので、この移動教室の移動は少し早歩きにした。
 可愛く可憐なこととか言われて照れたわけではない。断じて照れてない!



「デレたんやろ」
「いやああああああ! 言わないでえええええ!」



.

65:マメツキ◆A.:2017/07/08(土) 21:14 ID:wkY



 今日の放課後、いおりが左の頬に湿布を貼って私を迎えに来た。顔にはありありとこっちくそ不機嫌やねんけどコルァって感じにしかめられてて、目付きの悪さで人一人殺せそう。はっきり言おう、怖い。ほら、チャリ部の先輩方が「ヒィッ」って悲鳴あげたよ。ざまあとは言わない。セクハラするからこうなるぐへへへ。
 とは言え、唯一無二の親友がそのクールかつ平凡な顔に傷つくって来たのだから慌てないわけがない。私達一年生が。特に私が。



「い、いいいおりぃ!? どうしたの!? 転けたの!? 階段から落ちた!?」
「……落ち着けカリン」
「いおりチャン何があったの!? ケンカァ!? 殴り合いぃ!!?」
「大丈夫かいおり!? 手当てはちゃんと保健室でしたか!?」
「……大事ないか?」
「女子が顔に傷を作っては大変だぞ!? ケアはちゃんとしろよ!?」
「福チャン以外やかましいねん黙れ」



 いおりはポツリと「最後の時間の体育で転けたんや」殺人鬼のような視線で告げた。明らか転けた感じではないのは確か。それでも隠すと言うことはそれほど知られたくないらしい。他のみんなはそうか気を付けろよと言うのだが、荒北は違った。腕を組んで怪訝な顔をしている。ほほぅ……。
 頬が下世話に緩むのを隠しながらやはり隠すいおりが気になる。なにがあったのだろう。


**

いおりside

 今日の放課後、知らない先輩方に呼び出され、階段の踊り場にて。まああれだ。チャリ部の一年と仲良しなこっちが気に入らんらしい。



「チャリ部の東堂くんと仲良くて良いわねー」
「福富くんもでしょお?」
「新開くんとか、前までダサかったけど荒北くんも」
「あれでしょ、朝比奈さんと一緒に居れば関わりがあるから友達やってんでしょ」
「うわっ、朝比奈さんかわいそー。こんな胸がでかいだけの普通な顔した眼鏡とって!」
「優しい朝比奈さんに漬け込んでんじゃねーよ」
「ギターがどうだか知らねーけどさ! 先輩にちょっと譲れよ彼らを! 迷惑だって分かんないの!?」



 次々に捲し立てる女子の先輩方を冷やかな目で見ながら聞いてるフリをする。
 ただの嫉妬だ。相手する必要なし。こっちの胸のデカさにムカついてるだけ。唯一カリンの隣に友達として居れることを嫉妬してるだけ。
 白けていると唐突に鋭い音と顔が横に振れた。



「聞いてんのかよ!」
「人の話はちゃんと聞けって言われなかったぁ?」
「図星だから言い返せないんだよ!」



 頬を手のひらで擦って腫れていることを確認。当初よりこうなることを予想していたので起動していたボイスレコーダーを停止して「ってぇな」とぎりりと睨み付ける。怯む隙にケータイイジってカメラでかしゃりと顔写真を撮って生徒指導の先生に連絡。
 慌て出す先輩を嘲笑してやって来た先生に事情説明、まもなく先輩たちは御用となった。ふはは。

 完全勝利やで! ふはは、胸くそ悪い。これ絶対カリンに言うたあかんやつや。


.

66:マメツキ◆A.:2017/07/08(土) 23:46 ID:wkY

カリンside

 時もずいぶん過ぎて12月。私は告白が日常茶飯事となり、毎回東堂や新開、福ちゃんが助けに入るのが常となっている。高確率で押し倒しに来るってどういうこと。もう告白で呼び出されても行かないことにした。自業自得である。いおりは度々怪我をしてくることはあれど、元気に過ごしている。前はギターで『#嘲笑ポラロイド』を全力で歌っていた。ヒロイン(敬礼!)。
 そんなこんなでやって来たクリスマス。いろんな男子や女子にクリスマス会に誘われることはあれど、クリスマスもイブも予定があるからと断った。もちろん、イブはチャリ部の四人といおり含め遊びに行って、クリスマスはいおりと二人でのんびりケーキやチキンを食べつつ溜まってた深夜アニメ鑑賞だ。楽しみ。
 教室にて。自席で上体を机の上に倒しながら隣の東堂と会話をする。



「はやくイブにならないかなー」
「うむ、俺もそう思うぞ! その日は丁度部活も休み、久々の完全休日だから遊びまわれる!」
「東堂ってばもしかして楽しみ?」
「ふふん、楽しみに決まってるだろう! なにせお前とも一緒に居れる!」



 ふんす、とドヤ顔しながら言い切った東堂から目を逸らし、自分の腕を枕にしてうつ伏せになる。「いおりも頭数に入れたげて……」とぼやきながら東堂っていつからこんなこと言う子になったんだっけと真剣に悩む。前はもっとわははって感じの残念な美形だったじゃん。静かにしようよ“眠れる森の美形”(スリーピング・ビューティー)、もしくは森の忍者。



「もう東堂やだ……」
「!?」
「カチューシャださ……」
「何おぅ!? カチューシャの良さが分からんとは女子として終わってるぞ!」
「お前より女子力あるつもりだよ」
「!?」



 不意を突いて出たその言葉に慌てふためく東堂を見るのも悪くない。どうせもとの世界には帰れないし、構わないと私は思うね。このまま無事進展してほしいんだけど、東堂は私のことどう思ってんだろ……。それだけが疑問だ。



「問題はあの二人だよねぇ……」
「? どうかしたのか?」
「いぃえぇ?」
「!? なんだその言い方は!」
「ほら東堂部活行くよ」
「話を逸らすな! 答えろよ!」
「走んないの東堂」
「走るに決まってるだろうが!」


.
自転車に乗らない……

67:マメツキ◆A.:2017/07/09(日) 09:32 ID:wkY

いおりside

 クリスマスも間近に迫ってきてる今日この頃。今日も今日とて先輩に呼び出され教室に向かったのだが、ガラリと扉を開いて入ってきたのは、息を切らした荒北だった。



「……荒北? どないした、部活は?」
「それどころじゃねーだロ! さっき先輩がこそこそ話してんの聞いた! なに呼び出しにのこのこついてってんだヨ!」



 今日お前犯されるぞ! とこっちの腕を引いて教室を出ようとした荒北から聞くに、とうとう先輩方の嫌がらせもヒートアップ、男を数人連れてきて輪姦させるつもりらしい。うわそれは不味い。
 ちょっとこっちも逃げる気になったのだが、その前に数人の男子の下品な会話と足音。やべえまずいと顔を見合わせたこっちと荒北は慌てて半開きだったロッカーへと滑り込んだ。その数秒後、ガラリと扉が開かれる。



「あれ、いねーじゃんあの眼鏡」
「会話聞いて逃げたとか?」
「嘘だろ、マジかよ」
「最初っから来てなかったんじゃね?」



 と落胆する男子の先輩が踵を返した時だった。一人の先輩が「あそこのロッカーにはいってんじゃねぇの?」と余計なことを口にした。荒北とぐっと息を潜めるが、別の先輩が「やめとけ」と告げる。



「そこのロッカー、扉が歪んでて開かねーみてぇなんだよ、入るのなんて無理無理」
「ああ、それでこの教室空き教室になったんだっけ」
「不発かよー、ないわー」



 ぞろぞろと先輩たちが出ていくのを聞き届け、扉が完全にしまったことに二人で安堵し、試しに扉を押してみるが、開かない。



「……あかへん」
「マァジでぇ!?」



 一言で言おう、この中はかなり狭い。そんな中で叫ばれたら耳が痛い。「荒北うるさい」とポツリと呟けば「あ、ごめんネ」とさっと返事が返ってきた。



「荒北、ケータイ」
「そんなもん今持ってねーヨ、着替えてさぁ走るぞってとこだったんだから。いおりチャンは?」
「……鞄や」
「嘘ォ……」



 しばらくがちゃがちゃ暴れて居たのだが、開かなくてちょっと諦めた。暴れたからかすごく暑い。汗掻いてきたんだがどうしよ。



「あっつ」
「暴れたからネェ」



 もう一度言おう、この中はかなり狭い。人一人分程度のスペースしかないので、つまり二人で入るとなるとそれなりに近い。だからそんな耳元で喋るのやめてもらっていいですか。



.

68:マメツキ◆A.:2017/07/09(日) 23:54 ID:wkY

カリンside
 いおり、迎えに来ないなー、なんて思いながら荒北がなぜか遅いのにも心配する。
 荒北はあぁ見えてかなりの努力家でやることきっちりやるからサボるとかはしないと思う、いおりだって私を一度たりとも置いて先に寮に帰ったりしたことないし、となるとなにかあったのだろうか。
 部室内のベンチに座りながらいおりの迎えを待つも、来ない。来ないのだ。部活も終わっているしいつも来る時間はとっくに過ぎている。今は冬だ、日が落ちるのも早い。寮といっても少し距離あるし、一人で歩くのもわりと怖い。ビビりで悪かったな。紙メンタルに比べたら全然マシだ。
 冷えた手にハァと息を吐き掛けながら待っていれば、がちゃりと扉が開かれる。一瞬いおりかと思ったが、相変わらずカチューシャ付けた東堂だった。こいつこんな遅くまで自主練してたのか帰れよ体に悪い。汗だくの東堂も私がいるとは思っていなかったらしく、顎から滴る汗を拭いながら「む? 朝比奈か?」と怪訝に顔をしかめた。

「こんな暗がりに女子が一人とは! まったく……最原と帰ったんじゃなかったのか?」
「ん〜、それがね、いおりが来ないんだよ。でもいおりは私を置いて帰ったりは絶対しないからさ、ちょっと心配。あと荒北も帰ってきてないの。サボってる訳じゃないと思うんだけど、遅いよね」

 こんな寒い中汗だくじゃ風邪引く、とタオルを渡しながらそう言えば、「そうだな、アイツが遅いのも最原が迎えに来てないのも珍しい」と汗を拭いながら東堂も不思議そうな顔をした。

「とにかく、これ以上遅くなるとまずいし帰ろうと思ってたんだけど」
「む? それはいけない。夜道に女子が一人で歩くなど危険だ。俺も一緒に帰るぞ」

 確かに男子寮と女子寮は方向同じだし何の問題もありゃしないけどなんでそんなことさらりと言えるんだスリーピング・ビューティー。
 むぐぐ、と微妙な顔をしていたからか、東堂がどうした腹でも冷やしたかとデリカシーのないことを言うから「うるさいわ! 帰るなら早くしてよ!」とチョップをかました。くそ、身長……!
**
荒北side
 外は既に日が落ちて、だんだんと暗くなっていた。あかんな、カリン待たしとる、と焦るいおりチャンに対して一向に扉は開かない。くそ、よりによってなんで壊れたロッカーに。結果論で言えば助かったのかもしれねぇけど。

「……開かへん」
「ヤベェなァ、部活終わってるし、もうちょっとで多分学校も閉められちまう」
「冬のくせして暑いし、はよ出な体力持たんで」

 この狭い空間で二人で居るのだから当然暑いわけで、俺達二人は汗だく。俺は競技用のジャージ着てるからまだ良いけど、いおりチャン制服だからネ。本格的にマズいことになってきた。制服多分二着も持ってないと思うし、香ってくるいおりチャンのスッとした鼻に通るミントっぽい匂いとかシャツ透けてるしで本気で俺がマズイ。
 持ってくれヨ俺の理性、とわりとギリギリな理性を叱りつけたところで、いおりチャンがごそごそ動いて俺に背を向けた。二人して扉に向き合い、何するのかと問い掛ける。

「……最悪壊してもエエ、蹴破るで」
「えぇ、超強行突破じゃナァイ?」
「最終手段や。荒北、支えろ」

 俺の腕を引っ付かんで自分の腹に添えさせたいおりチャンは「行くで」と俺を見た。俺も蹴れってことネ。俺は回した腕に力を込めて、足を振り上げる。

「「せー、のっ」」

 バギャン、とデカイ音が響いて、キィと扉が開く。やっと出れた、と雪崩れるように二人でロッカーを脱出、座り込んで大きく息を吸った。

「……暗っ」
「カリンチャンは……多分誰かが送ってるんじゃナァイ?」
「……せやな。荒北、帰ろ」
「ン。結局練習出来なかったわ」
「すまん」
「いや、悪いの多分先輩だからァ」
「ん」

.

69:マメツキ◆A.:2017/07/10(月) 00:13 ID:wkY


カリンside

 私達二人が寮の入り口まで来たところで、後ろから汗だくの荒北に肩を貸してもらいながら帰ってきたこれまた汗だくのいおりに思わず目を剥いた。何があったのか聞けば、いおりは誤魔化そうとしたのだが、荒北の視線に溜め息を吐いて渋々告げる。


「まァ、要するにィ……」
「先輩らのイジメ、エスカレートして輪姦」
「「はぁ!!?」」
「される前に荒北に助けられて二人でロッカーに隠れとったら扉が開かなくなって奮闘して今に至る。ケータイとか連絡器具、鞄やった」
「そういうコトォ、マジ疲れた」
「「!!?」」



 東堂と二人で目を点にしながら話を聞く。いおりがイジメ? は、私のいおりにイジメ? エスカレートして輪姦? 許すまじ高校生。
 とりあえず荒北が助けてくれて本当に助かった。それにしても。



「いおりはなんで先輩にイジメられてたの?」
「……こっちがカリンとか、チャリ部のお前らと居るのが気に入らんのやと」
「「「!?」」」



 荒北も混じって私達と驚愕する。そ、それは今後どうなるのだろう。不安げな顔をしていれば、いおりがふと気が付いたように私の顔を見、口の左端をつり上げ凶悪に笑んだ。ポストカード大の茶封筒を手に。



「心配すんなやカリン……既に手ぇ打っとるからな……明日が楽しみやで」
「顔怖いんだけどいおりー……」
「……東堂、カリン送ってくれて助かったわ。荒北も……ありがとう」



 そうして翌日、掲示板に張り出されていたお知らせでは、十数人の女子生徒と、五、六人の男子生徒の名前と、退学になった程だった。これ絶対いおりがやったんじゃん……。
 ちなみに、これを知らされた福ちゃんと新開大変お怒りになり、どうして相談しなかったのだといおりを叱るので今回限りは私もそちらに回らせてもらった。相談しなさい!



.

70:マメツキ◆A.:2017/07/11(火) 23:07 ID:wkY

カリンside

 いおりのそんな事件があったものの、ようやく迎えたクリスマス・イブ。チャリ部のいつものメンバーといおりとで出掛けたんだけど。



「……はぐれた」



 私一人だけはぐれてしまったのだ。彼ら、ぎゃーぎゃー騒ぎながら行ってしまったから、気がつけばはぐれていた。もう少し周りを見てほしいものだ。そしていおりも今回はそっちだった。我が親友、カムバック……。



「流石に気付いてると思うから連絡入とこっと」



 時計台の前に居るからみんな戻ってこい、といおりに連絡を入れて、ベンチに座って手袋の上から手をさする。12月の終盤ともなれば本格的に寒くなって来ているので、本当に寒い。
 ぴこんとラインの返事が帰ってきて、みんなで急いで戻るようだ。ほっと一息ついた私はそのままスマホゲームを開始した。
 そしてしばらく経ったとき、知らない二人組の男に声を掛けられた。



「君、さっきから見てたけど一人?」
「よかったら俺らとカラオケいかない?」



 ナンパである。忘れていた、私は逆ハーレム体質なのだ。眉間に皺が寄るのを感じながら、笑顔で返す。



「グループで行動していたんですけど、私一人だけはぐれちゃって。みんなで戻ってきてくれるみたいなのでごめんなさい」
「えっ、友達と来てんの?」
「ならその女友達も一緒に遊びにいこ、大歓迎だからさ!」
「だから……」



 腕を一人の男が掴んで引っ張ってくるので渋い顔をしながら周囲を見渡す。誰か助けてくれる人はいないのかと救助の視線を与えるもみんな見ないふり。いつから日本人はこんなに冷たくなったんだ。がっでむ。
 引っ張られつつも拒否を続けていれば、「なぁ」と聞きなれた声が聞こえてきた。パッと振り返ればそこにはハイパー不機嫌な顔のいおり。おま、腕を組むんじゃありません! そのデカイのが強調されるでしょ、どことはいわないけど。
 ファーフード付きのコートにワイシャツ、いおりにしては珍しい短パンっていう服装に豊満な体つきの女の子なんて見たらナンパ野郎どもがつけあがるじゃないか。ほら見ろもう彼らの目が野獣だよ!



「彼女も君の友達!? いいねいいね遊びにいこ!?」
「人数ちょうど二対二だし、きっと楽しいって!」
「……なんやコイツら」



 あ、バカ。この場合いおりじゃなくてナンパ野郎どもが、である。あーあ、番犬がキレた。番犬と言うか……番獣?



「どこが人数ちょうどォ? 男の比率の方が全然高いじゃナァイ、どこに目ェつけてんだヨ」
「お、荒北やん」
「まったく、はぐれてる間にナンパとは」
「……やめた方がいい」
「カリン、無事か!? 相変わらずどこか抜けてるのろまめ!」
「東堂殺す、絶対殺す」



 東堂の言葉に些かキレかけたが、ナンパどもは荒北たちの登場により、名残惜しそうに去っていった。名残惜しそうに去っても絶対ついてってないからねばーか。



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71:マメツキ◆A.:2017/07/15(土) 23:56 ID:JUo


 カリンside

 クリスマス事件も終了、冬休みもろくなことなしに終了、バレンタインも終了、春休み終了。二年も福富の金城との落車事件とか新開の轢き殺し事件、東堂と巻島のレースの件など、多少ごたごたがあったものの無事終わり、やって来た最後の始業式でクラスを拝見。再び東堂と同じクラスだったことに驚きだ。いおりはもう先生狙ってるよねってぐらい荒北と一緒。中学からずっと一緒って陰謀感じるんですが。

 そして始まるインターハイ。ハコガクと総北の壮絶な戦いが始まるのだ。我が校の最終的な結果がどうであれ、私といおりは優勝できると信じてる。例え原作がどうであろうと、信じ抜く気でいる。
 まあそれは置いといて。最近荒北のいおり贔屓が益々すごいことになってきている。他校が見たらドン引きレベルの甲斐性。いやまぁ、気持ちはわかるけどさ。東堂は東堂で意味深なことを言うだけで終わりだから私が攻めてるんだけどさ!



「東堂が振り向いてくれなくてつらい、東堂つらい」
「荒北からの愛が嬉しすぎてつらい荒北可愛え可愛え」
「てめえ」



 屋上で体育座りで膝に顔をうずめる私の頭を撫でながら真顔で言うもんだからそりゃあむかつくわ。
 いおりの可愛えコールは早々に止んで、「それにしても東堂も恋愛下手やな」と呟いた。



「意味深なことばっか言うのにぃ〜、それ以上しないとはこれどゆこと……」
「苦労性は大変やね荒北可愛え」
「うるさい黙れ。高三男子に可愛い連呼すんのお前ぐらいだから」
「妬むのはよせ」
「やめろつらい」



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72:マメツキ◆A.:2017/07/17(月) 00:49 ID:JUo


 今年のルーキー、真波の遅刻が酷い。遅刻魔波と言ってやろうか。カリンさんおこだよ。授業は良いけど部活にすら遅れるってどゆこと。
 そんなことを現在正座させてるちょっと拗ねた真波にぶつければ、横から東堂がにゅっと首を突っ込んできた。



「いや、授業の遅刻が一番駄目だろう。両立できてこそだぞ真波!」
「東堂は下がっててうるさい邪魔」
「なんだと!?」
「とにかく、真波は今後遅刻はしないこと。わかった?」
「はーい、わかりましたー」



 笑顔で返事をする真波に「ホントにわかってるのか?」と新開がパワーバーをくわえながら聞き返すと「善処しまーす」と呑気な答えが返ってくる。
 こんなときどうして福ちゃんが用事でいないんだよ……。あ、荒北帰ってきた。一瞬私たちのことを怪訝に見つめていたが、ベンチに足を進めていく。



「お疲れ荒北ー」
「どーも。俺のボトルどこォ?」
「ほら」
「おー、ありがとネー」



 ボトルを投げ渡せばしっかりキャッチした荒北はどかっとベンチに腰を下ろし、汗だくのまま一気に中身を煽った。まったく、靖友は乱暴だな、と新開が苦笑いして、東堂が品がないぞと吠える。



「あんたらみんな走り終わったあとこうでしょーが」
「むっ!? 心外だぞ! 俺は違う! なんといっても美形だからな!」
「やかましいわ!」



 そんなやり取りの中でも無言でボトルのドリンクを煽り続ける荒北にそろそろむせるんじゃないかと思うもそんな様子はないから良いかと放置。すると、至極疑問そうな真波が首をかしげた。



「俺、思うんですけど、朝比奈さんをいつも迎えに来る荒北さんの彼女さんは自転車部のマネージャーやらないんですか? ほら、あの眼鏡で関西弁の胸の大きな」
「ぶっ」



 恐らく変なとこに入ったのであろうむせた荒北はげほげほと咳き込み、口の端から垂れるそれを手の甲で拭ってから「彼女じゃねーヨ!」と怒鳴り散らす。おいおい後輩ビビッてるよ荒北。ただでさえアンタ目付き悪いのに。口に出していたようで、新開と東堂が「まったくだ」と同意した。と言うか真波お前どこ見てんの? 思春期か? 思春期なんだな? 許さん。



「え、違うんですか? 荒北さんの彼女さんじゃないんですか?」
「いちいちうるせェんだけどォ!? っつーか真波どこ見てんだよ」
「男なんですから仕方ないじゃないですか」
「てめっ」



 へらへらする真波にキレ気味の荒北を新開と東堂、その他後輩と眺めながら、確かにいおりはマネージャーやらないのかなと思った。



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73:マメツキ◆A.:2017/07/17(月) 18:23 ID:JUo


 その後の部活終わり、福ちゃんが部員に緊急召集を掛けた。なんだなんだとわらわら集まる私達を前に、福ちゃんは相変わらず落ち着き払っている。とりあえず誰かが怪我してインハイ出られないとか退部とかじゃなさそうだからひと安心する。
 みんなの視線が福ちゃんに集まる中、荒北が一歩前に出て口を開く。



「それで、どーしたの福チャン、緊急召集なんて掛けて。なにか報告ゥ?」
「とうとう真波の部活の遅刻が問題になったのか? 福」
「それならもっと寿一の顔が険しいぞ尽八」
「とりあえずあんたたち静かにしなさい」



 再び静まり返る部室内にて、福ちゃんはゆっくりと口を開いた。



「お前たちも知っているだろう。朝比奈を迎えに来る、最原いおりのことだ」



 その瞬間「はぁ!?」と声をあげてばっと福ちゃんに掴み掛かろうとした私と荒北はそれぞれ東堂と新開に背後から止められ、福ちゃんは淡々と「お前たちが心配しているようなことじゃない」と告げる。その一言にホッと一息ついた私は東堂から解放され、荒北はちょっと不満そうなので続行中。福ちゃんは再び「俺が用事で抜けたのもこれだ」と言われた。



「彼女は俺たち三年が一年の時からずっと朝比奈を迎えに来ている。それに、俺たち自転車競技部のサポートも時々行ってきてくれた。もう仲間と言っても過言ではない」
「……どゆこと?」
「カリンチャンちょっとうるせェ」
「俺の用事というのは、最原にマネージャーをしないかと誘ったものだ。監督も交えて三人でな」
「……え、嘘」
「待て待て寿一、それ、え、結果は……」



 期待が込められた私達四人の視線に福ちゃんはこくりと頷き、「入ってきてくれ」と扉に視線を向ける。そこから入ってきたのは、私と同じハコガクのジャージの上着を着ているいおり。
 入ってきてすぐ部員から晒される奇異の目にいおりは不機嫌そうに眉をしかめ、訳がわからないと言うようにじとりと福ちゃんを見た。返答がもらえなかったいおりは一層にむすりとしたまま、彼の隣に立つ。



「……福チャン、なんでこないなっとるねん、どういうことなん」
「その疑問には後で答える。今は部員に自己紹介してやってくれ」



 福ちゃんから目を逸らしたいおりはジャージのポケットに手を突っ込んだまま、不服さを隠そうともせず、「めんど……」と呟いたのち、言葉を紡ぎ始めた。



「っちゅーか、知っとるやろ部員共……。まぁエエわ、最原いおり、今日からマネージャーやることにやりました、よろしく」



 その瞬間。部室が、と言うか私たちが歓喜で湧いたのは仕方ないと思う。結局殴られたけど。



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74:マメツキ◆A.:2017/08/01(火) 01:30 ID:fVg

上のは多分続くか続かないか。思い浮かべば書きます。次連載。なんか俺得すぎる内容なんですが、弱ペダのチャリ部が女子で夢主が男だったらって話。先天性女体化。notトリップ。先天性男主。眼鏡関西弁男主。にょた荒北、にょた黒田寄りの荒北落ち。男主の外見はテニプリの財前くんにメガネ掛けたのに酷似した感じ。要するにイケメン俺得。とても出会いがベタ。

**

 私立箱根学園高等部。インターハイ覇者で『女帝箱学』の名を欲しいままにする女子自転車競技部の強豪校である。インターハイメンバー全員が『エース』と名乗れるほどに優秀な者が揃う、部員の多い部活だ。

 キャプテンの福富杏寿(フクトミ アンジュ)。
 エースアシストの荒北靖友(アラキタ ヤストモ)。
 エースクライマーの東堂八子(トウドウ ヤコ)。
 エーススプリンターの新開隼(シンカイ ハヤ)。
 スプリンターの泉田 塔子(イズミダ トウコ)
 クライマーの真波 山岳(マナミ サンガク)

 他にも注目選手は黒田 雪(クロダ ユキ)、あとその他もろもろ居るのだが、今回のお話は荒北さんと黒田さんの自転車の出番がわりと少なくあまり関係無いお話である。

**

 俺は最原いおり、箱根学園高等部の三年生である。高校入学と同時にアニメイラストやデジタルイラスト等を専門とする科があると聞き上京、いや神奈川に引っ越して来た生粋の関西人である。関西人と言うとやかましく人の輪の中心で騒がしいイメージを持つだろうが、俺はそんなものとはかけ離れた人種だ。目が冷酷だの冷たいだの言われ、人の輪の中心とかには全く興味がなく、ほぼ一匹狼を貫いている。周りが話し掛けて来ないせいでもある。流石にさみしい。
 そんな外見クール中身紙メンタルな俺はどうにか高校三年生にまで辿り着き、ようやくもうそろそろで卒業だ、と気を楽にした。こんなとこくるんじゃなかった。専科はとても有意義だった嬉しい上達した。
 そんな風で俺は購買に向かうために廊下に出たのだが、モーゼのなんちゃらの如く割れていく人並み。集団いじめ駄目、絶対。辛い。
 そんなことを考えて階段に差し掛かると、登りの階段の方から「うォっ!?」と声がして倒れてくる人影、見るからに女子。その黒髪ロングの子の落下地点は俺より少し階段に近いところ。わりと高いところから落ちてるから、多分無事じゃすまない筈だ。咄嗟に落下地点に腕を伸ばし、そのまま彼女を俺の方へ引き寄せ、どさりと尻餅をつく。背中は膝と右腕で支えたし、足も衝撃が来ないようにちゃんと抱えた。不意をついて出た「っぶね」と言う呟きは聞こえただろうか。聞こえてないでほしい。今わりと心臓ばくばくなんだよ。
 はー、と安心で息を吐いて目を閉じ、ゆっくり開ける。
 外傷無さげだし、大丈夫か、と手を話そうとしたとき、驚きで固まっていた彼女が「うわァァァア!?」と勢いよく飛び退く。え、触るなってか。ごめん。そのまま叫びながら階段を駆け降りていく名も知らぬ同級生の去っていった方を見ながら硬直していたら、「最原」と聞き覚えのある声が俺を呼んだ。先程の女子と会話していたであろう二人、福富と新開だ。



『……福富、新開』
「うちの荒北を助けてもらって感謝する」
『いや、俺がそこにいたからやろ』
「お姫様抱っこで抱えて受け止めるのかっこよかったぜ!」



 と新開にバキュンポーズなるものをされて気づく。だから叫ばれて逃げられたのか。



『……安易な行動は次からやめるわ』
「?」
「え?」

75:マメツキ◆A.:2017/08/01(火) 22:32 ID:fVg



 さっき助けた子は女子チャリ部だったのか、と納得する。基本人と話さない俺は知り合いが少ない。福富は去年同じクラスでちょっとしたキッカケもあり話す様になり、新開は福富繋がりだ。荒北さんは見たこと無かったが、二人からよく話を聞かされている。
 それにしても荒北さんには悪いことをした。見た目根暗の中身紙メンタルな俺に抱えられるなど嫌だったろう。



『……報復来たらどないしよ』



 元ヤンだと聞いているので、本当に報復が来そうだ。俺は支えただけなんだが。生きるのが辛い。

**

 放課後、女子チャリ部にて。部室の隅で体育座りをしてうずくまる黒髪ロングの女子が一人。もちろん荒北である。後輩はそれを不思議そうに眺めつつ、見すぎてキレられても嫌なのでそそくさと通りすぎていく。
 そうして声を掛けたのは新開、東堂だった。



「大丈夫靖友〜? 昼のがそんなにショックだった?」
「……っげーヨ」
「そう?」
「昼? 何かあったのか?」



 自他ともに認める美形を名乗る美人の東堂は首をこてりとかしげ、新開に問う。新開は「昼休みにね。靖友が階段落ちたんだけど、最原が丁度そこに居て、お姫様抱っこで」とまで言うと、荒北が素早くその肉厚で扇情的な唇に手を押し付けた。若干手遅れな気もするが。
 納得、と言った顔をした東堂は「なるほど」と呟き、手をポンと叩く。それを不思議そうに見つめた新開と荒北だったが、次の瞬間各々の反応を見せた。



「さては最原に惚れたか!」
「ちがっ……!」
「マジでか靖友!?」



 ボッと顔を赤くして東堂に掴み掛かる荒北に興奮したように目を輝かせる新開。きゃっきゃと彼女をいじりまくる二人に沸点の限界に達した荒北が激しく舌打ちして「ウゼェんだヨ!」と怒鳴りながら部室を出ていく。
 にまにまとその様子を眺めた二人はふぅと息を吐いた。



「それにしても荒北の相手が“あの”最原とはな」
「そうだね。私も今なんで彼みたいな有名な人と友達になれたかすごく謎だよ」



 最初に会ったときなんか威圧感がすごくてちょっと固まっちゃったし、と肩を竦めた新開。それにふむ、とうなずく東堂は続けた。



「私も箱学一の美形女子クライマーと名高いが、彼は少々凄まじいからな」
「本人非公認隠密ファンクラブはあるし、女子人気はダントツだし、男子でもちらほら最原くんになら抱かれてもいいって人居るからね。みんな最原くんの鋭い目付きと近寄りがたい雰囲気と威圧感で近付けないんだけど。付いたあだ名は『帝王』なんて大層なものだしね」
「しかし、可笑しなファンクラブだな。最原にアタックする女子を全力で応援するようだし、最原に近付く女子に嫌がらせ等を一切しない、大人なんだな」
「本人の見た目と言動がそうだしね。だけど、最原くん、話すと普通よりかなりネガティブなだけのただの男子高校生なんだよ」
「そうなのか?」
「そ。靖友がお姫様抱っこにびっくりして叫びながら逃げたあと、自分に触られたのが嫌だったからって勘違いしてめっちゃ落ち込んで挙げ句に「どうしよう死にたい」とか呟いてた」
「……そうなのか」



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76:マメツキ◆A.:2017/08/03(木) 23:24 ID:B5.


 翌日、俺は窓際の一番後ろと言う最高の俺の席に着きながら読書に勤しんでいたら、突然同じクラスの男子に名前を呼ばれた。肩がビクついたのを見てないといいが。



『……なんや』
「あ、いやっ、その、チャリ部の荒北さんが呼んでて……!」
『……すまん、ありがとう』



 そのまま本に栞を挟んで立ち上がるとその男子はそそくさと去っていった。扉のところを見れば、確かに黒いロングヘアーに巨にゅuげふんげふん、制服の上からでも分かるぐらい良いスタイルした荒北さんだ。後ろ手に何かを持っているようだが、釘バットではないようなのでよし。早く来いみたいな視線をいただいたので少し早足で彼女の元へと歩いた。荒北さん美人や……クール美人や……。やっぱりチャリ部の女子のレベルの高さは異常やな。



『……なん?』
「……ん」



 パッと後ろ手に持っていたもの、何かの入った紙袋をぐいと胸元に押し付けられ、とりあえず受け取ってから疑問の視線を荒北さんに向けると、「昨日はありがとネ」と視線の合わない彼女から言われた。



「それ、お礼」
『……え、待ってや荒北さん、俺、礼もらうようなことしてへんねんけど』
「……昨日驚いて叫んで逃げたし、その謝罪の分も含めてだからァ」
『え』



 俺に触られて嫌だったから叫んで逃げたのかと思っていたのだが、そうか、驚いただけなのか……。誤解も解け報復ではなかったので安堵しつつ、そんな大層なことしてへん、と悪いので返品しようとすると、荒北さんに「受け取ってもらわないと困る」とだめ押しされたので受け取ることにした。中身は俺が読みたかった本でした。



『……本』
「……福ちゃんに聞いたんだヨ、それ読みたいって言ってたって」
『……マジか。これ、読みたかったからかなり嬉しいわ。ありがとうな、荒北さん』



 至高の至福と荒北さんいい人だったと言う感情から普段あまり動かない表情筋が緩み、笑みを浮かべれば、彼女は少しキョトンとしたようだが、ニッと笑って「あっそ」と駆け足で去っていった。
 荒北さん美人。いい人。イメージ像が完全に良い方向に崩れた。変な勘違いしててごめん荒北さん。アフターケアまでちゃんとするとかいい人過ぎるかっこいい。

 再び動かなくなった表情筋ながら、今の俺の雰囲気はとても明るいだろう。本好き。しかも読みたかったものである。福富ありがとう荒北さんありがとう。席について早速俺は読書を開始した。



(荒北さん美人でエエ人やった……)
(うわあぁァ! うわあぁァァ! なァにあの笑顔! かっこいい死ぬわ殺す気かヨ! 一目惚れ辛い! かっこいい最原かっこいい)



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77:マメツキ◆A.:2017/08/05(土) 23:41 ID:B5.



 あれ以来荒北さんを見かけると声を掛けるようにしている。一言で言うとなついた。的確表現です。荒北さんも嫌がる素振りを見せないのでとても安心だ。荒北さんいい人。知らない仲でもないし。



「……おはよぉ荒北さん」
「あ、おはヨー最原」



 下駄箱のところで朝練終わりらしい荒北さんを見かけ、そこから連れだって歩く。朝から後輩の真波さんが「荒北さん!山に登りたいです! 山! 山!」とすがってきたらしい。鬱陶しいだのという愚痴を聞きながら、それでも本気で嫌悪した顔はしていないので嫌いではないのだろう。彼女の人間性からして嫌いな人種とはとことん会話すら行わないはずだ。



『……部活、賑やかそうやな』
「まーねェ。どちらかと言うと賑やかってより喧しんだケド。っていうか、さっきからあたしの話ばっか聞かせてごめんネ?」



 荒北のそんな言葉に対して、俺は少し沈黙したあと、そんなことはないと否定する。どうにも俺は会話の引き出しが少ないようで、すぐに話が終わってしまう。彼女の話にはわりと救われてるので気にしないでほしい。むしろチャリ部気になってきた。興味が出てきた。
 そんな意味合いを含めた理由を話すと彼女は「そっかァ」と満足げに笑みを浮かべた。美人だった。流石。



**

 放課後、どこの部活にも所属していない俺は寮へと帰るべくすぐ近くの道のりを歩いていたのだが、道路の脇に座り込む名も知らぬ後輩の女の子を発見した。水色掛かった白髪のショートカットの彼女の傍らには倒れた競技用自転車が放置されている。……放置されている。ちなみに彼女が来ているのは箱根学園女子自転車競技部のものだ。
 ……これ、明らかに体調不良じゃね? うつ向いてるし肌から血の気引いてるし。見てみぬふりをするのもいただけないし、何より友人である福富や新開、荒北さんの後輩だ。助けるのは道理。



『……大丈夫か?』
「、は、……あっ」



 俺の声にぱっと顔をあげた彼女は俺の顔を見るとあっと目を見開き、「……さ、いはらさん…?」と俺の名字を口にする。……俺もしかして悪い意味で有名だったりする? するか。ピアス開けてるしな。



『最原やけど……、体調不良なん?』
「……多分……そう、です」
『立てるか?』



 気分悪くて、ちょっと……と言葉を濁す彼女の蒼い顔を見て無理なんだと悟る。少し考えてから果たして良いものかと短考し、『……自転車。後で俺が取りに戻るから、保健室行こか』と彼女の足を抱えて背に手を添えて、立ち上がる。



「はっ、最原さん!?」
『声出したら体調余計悪なるで』
「いや、でも!? 流石にこの態勢は……」
『お前今薄着やろ。背負うと当たる』
「あっ……。や、それでも悪いですっ、体調良くなるまでそこで待ってますから!」



 何を言っても聞かないので『うるさい』と独特のイントネーションでピシャリと言い放つと彼女はピタリと抵抗をやめた。怖がらせたのは分かる。怯えてるのも分かる。だからってそんなに露骨に両手で顔を覆わなくても良いのではないか。紙メンタルの俺に対しての嫌がらせか? そうなのか? 針が俺のメンタル貫通したんだが。どうしてくれよう。とりあえず保健室だ。



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78:マメツキ◆A.:2017/08/06(日) 00:05 ID:B5.


 極力揺らさないように彼女を保健室に連れていくと丁度女医が居て、どうしたのだと問い掛けてきた。



『……道端でうずくまってるん見っけたんで、とりあえず連れてきました』
「あらぁそうなのぉ!? ありがとう最原くん!」



 やけに距離が近い若い女性保健医のキラキラした笑顔に一歩後ずさりつつ、とりあえず抱えていた彼女をベッドにゆっくりと下ろす。未だに両手で顔を隠したままの彼女は「……ありがとうございました……」と見つけたときとは違い、少し高い声でそういった。別に泣いてた訳じゃないのか。安心安心。
 とりあえず、自転車広いに行って、あぁ、チャリ部にも報告にいかないと。あ、この子の名前知らん。



『……なあ、名前は?』
「……は、あ、えっ」
『チャリ部に知らせなあかんから。俺が言わな誰も分からんやろ』



 俺がそう言うと、彼女から「黒田 雪です……」と小さく聞こえた。とりあえず名前聞けたのでよし。あとのことは先生にお願いして自転車取りに行かねば。

**

 先程の場所まで戻って自転車を回収し、動きにくかったのでなんとなしに肩に担いでやって来たチャリ部の部室。の、扉の前。この奥は恐らく女子だらけだろう。その中に男一人入っていくのはやはり気が引ける。ええいままよ。トントンとノックして、部屋の中がシンと静まるのを聞き届けてから『三年の最原やけど』と告げると目の前の扉が勢いよく開かれた。黒田さんと同じピッタリした競技チャリ用のジャージに身を包んでいる、胸元のチャックが大きく開いた荒北さんだった。た、谷間が!



「は、マジで最原……え、なんでチャリ……」
『とりあえず荒北さん前。はよ。はよ前のチャック閉め。はよ』
「は、あ、うわっ!」



 ジッと勢いよくチャックを上まで閉めた彼女の奥で新開と……あの有名な東堂さんがくすくす笑っていた。東堂さんと目が合い彼女はばちりとウインクを決めたが生憎俺はウインク出来るほど表情筋が動きません。とりあえずちょっとペコってな感じで頭下げといた。ホント表情動かなくてごめんなさい変な勘違いされたらどうしよう死ぬる。



「ど、どーしたのォ? 最原、黒田のチャリ担いで……」
『……それやねんけど、その黒田さん、体調不良で今保健室居るで』
「はぁ!? なんで!」
『……帰る途中でな。うずくまっとん見掛けたから、声かけて顔真っ青やったからとりあえず連れてったん』



 とりあえず伝えたで。と奥の福富を見るとこくりと頷かれた。よし。荒北さんにチャリどないしたらええんやと聞くと、一拍遅れて「あたしがやるからいーヨォ」と言われたのでチャリ渡してからまた明日なと声をかけてからその場を去った。部室の中の女子からの視線がそろそろ俺のメンタルを塵にしそうになったからだ。部室に男子が来るなど珍しいからだろう。ふっ、死ぬかと思った。

79:マメツキ◆A.:2017/08/06(日) 22:41 ID:B5.

Noside

 先程まで外を走っていたせいか、部室に汗だくで帰ってきた荒北は扉の側のベンチに腰掛けると、胸元のチャックをジッと臍辺りまで開いてボトルを煽った。飲みながら汗を拭く荒北に、部室の奥の方のベンチにいた新開が「はしたないよ」と笑う。東堂も新開の隣で「とっとと前を閉めろ! 胸がこぼれるぞ!」と指摘を続けた。



「こぼれねェしうっざ。それにいーんだヨォ、ここ女しかいねェだろォ」
「突然誰かが訪れてきたらどうするのだ!」
「例えば最原くんとか?」
「万が一にもねーヨ、そもそもあいつ帰宅部だからァ」



 そんな会話を横目に、福富は部室で少し首をかしげる。黒田が帰ってこないのだ。荒北や新開、東堂の他に泉田と真波も気付いていたので、不意にノックされた隣の扉に、一番近くにいた荒北が素早く反応する。シン、と静まる大勢がいる部室内に、しばらくしてから『三年の最原やけど』と声が掛かったので反応した荒北がガチャリと勢いよく扉を開けた。



「は、マジで最原……え、なんでチャリ……」



 噂をすればなんとやら。呆然とする荒北の後ろで新開と東堂、そして突然の『帝王』の訪問に注目していた部員達が気付いた、最原がスッと視線を荒北からとてつもないスピードで逸らしたことに。少し遅れて新開と東堂、そして周囲が荒北の格好を思い出す。



『とりあえず荒北さん前。はよ。はよ前のチャック閉め。はよ』



 それにより慌て出す荒北に新開と東堂がくすくす笑う、がしかし、この時の周りは限りなく好意に近い好評価を最原に下していた。普通の男子生徒なら荒北が気付くまでそれを放って自分はそれを見つめるだろうに、勘違いに勘違いを重ねまくられている最原はこの瞬間『紳士』のレッテルが貼られた。当然最原も健全な男子高校生であり、内心ひょおおおとか荒ぶってはいるものの、歓喜とこれバレたら殺されると言う感情が入り混じり、周囲の視線と持ち前のネガティブ思考からの恐怖プラス罪悪感で目を逸らしただけだった。服に関しても部員も知っているはずだろうから指摘しなければ変態だと思われ、言い触らされでもすると最原自身の勘違いの一つ『人種ピラミッド最下層最底辺』と言う最悪な事態をより悪化させてしまうと踏んだからである。チキンとネガティブの塊、それが最原いおりである。



「ど、どーしたのォ? 最原、黒田のチャリ担いで……」
『……それやねんけど、その黒田さん、体調不良で今保健室居るで』
「はぁ!? なんで!」
『……帰る途中でな。うずくまっとん見掛けたから、声かけて顔真っ青やったからとりあえず保健室連れてったん』



 とりあえず伝えたで、と福富に告げ、こくりと頷く彼女を見てから、最原は荒北にチャリのことを聞くと荒北がそれを受け取り、彼は颯爽と去っていった。眉をピクリとも、顔色ひとつ変えずにだ。鉄の理性過ぎる。周囲がそう思うのも仕方はないが別に最原は鉄の理性でも何でもないのでそこんとこ勘違いしないでいただきたい。
 黒田のチャリを所定の位置に片付けた荒北は、先程のベンチに座るとその場で体育座りをして顔をうずめる。大方先程の失態だろう。なんかぶつぶつ言ってんのが見受けられた。



「まぁまぁ靖友、気にしないでよ。他の男子より全然マシだろ?」
「むしろ良かったのではないか? 最原で」
「……違ぇヨ、そっちは万々歳だと思ってるケドォ」
「「思ってんのかよ」」
「ちげぇんだヨ」



 最原の腕と制服の鳩尾辺りから、黒田の匂いがした。と鼻のいい荒北が呟く。そこからどうやって黒田を保健室に連れてったかは想像に堅くない。部室から割れんばかりのキャアアアと言う悲鳴が上がった。

80:マメツキ◆p.:2017/11/03(金) 01:27 ID:7kQ

マギの白龍成り代わり短編。前世記憶持ちのマギ知識なし。白雄兄上に復讐しろとか言われたけど別にしなくていいんじゃねとか思いつつその過去の記憶と周囲の人のキャラの濃さにストレスで胃痛を発症させても逞しく生きてますよ的な人。

**

 俺のシンドリア留学。それはいい。でも夏黄文、まだまだ純粋な紅玉義姉上に痴情のただれを偽装するのはどうかと思うぞ、義姉上可哀想。夏黄文による紅玉義姉上のシンドバッド王との寝た寝てない抱かれた抱いてないのクッソどうでもいい事態にめんどくさくなって俺が頭を下げて問題解決し、シンドバッド王に第四皇子だと挨拶したあと、いまだ鼻をぐすぐす鳴らして俺の服の裾をギュッと掴み離さない義姉上に内心辟易していた。


「うっく、ぐすっ、」
『あー、ほら、紅玉義姉上、いつまでも泣いてないでシンドバッド王に改めて御挨拶しましょう、ずっと座り込んでいては相手に失礼ですよ。あと俺の胃にも負担が掛かります』
「ううっ、分かったわぁ白龍ちゃん……」


 ホッと一息吐いて一旦下がろうとするとあろうことか義姉上は俺の服を引っ張ってそちらに行ってしまわれた。当然、いや、なぜか引きずられる俺。え、ちょ、いくら紅玉義姉上が年上だからってたったのひとつ違いだし紅玉義姉上は女じゃなかったか? ねえ、ちょっと、ねえってば。答えろよぉ……。


「……改めまして、シンドバッド様。煌帝国第七皇女、練紅玉ですわぁ」
『(……アレッなんで俺ここにいるんだろう)』


 無事紅玉義姉上に先に部屋で休んでいるウマを伝え、侍女の方々に俺が再び部屋を出るまで人を寄せないでくれと言い付けて部屋の扉を閉める。



『……なんだよ、どいつもこいつも……俺を過労死させる気なのかな!? かな!? 死ぬわ! いや、死ぬわぁ! なんなの!? 胃が痛いわ! 次から次へと問題ばっか……とてつもなく胃が痛いわ馬鹿野郎! 別に紅玉義姉上悪くねぇけど!? 俺! 必要かよマジかよ! ねぇマジなんなんなうぇ……え。あれ? え、ちょ、俺なに言ってんだ? そろそろヤバくね? 精神的にヤバいとかもー。もー。やめろよもー。ダメだ、やっぱり最近ストレスでやべえよ俺禿げるかも、いや、白髪になるのが先か。……若白髪くそだせぇな普通にやだわ』



 一人になったことで一気に白龍キャラが崩れ、俺の素が晒される。ガキの頃、まだ兄上が居たときはこんな感じだったが亡くなられてからはずっと猫被ってたからな。しんどい。皇子サマ超辛い。
 ぽいぽいと服を脱ぎ捨て、何も身に纏わぬままベッドに入る。全裸が一番楽だ。服にシワはつかないし着替えが楽。

**

「ところで」


 シンドバッドが寝ているときにいつの間にか服が脱げていると言う件を思い出した紅玉は、八人将及びシンドバッドに声を掛けた。


「シンドバッド様も寝るときは何も着ていらっしゃらないのねぇ……」
「……“も”? ですか?」
「ええ、白龍ちゃんもなのよぉ、あの子は寝ているときに、じゃなくて寝る前に、なのだけど」
「えぇっ、あの真面目で苦労してそうな白龍皇子が!?」
「そうなのですわぁ、真面目に見えるけどわりとめんどくさがりなところもあって……部屋に入ったとき驚いたわぁ」


 きゃ、と頬を染める紅玉はまるで恋する乙女のようでシンドリア勢はちょっと唖然だ。それ以上に白龍のそういうところに驚いているのだろうけど。


「多分今回頭を下げたのも状況にめんどくさくなったからに違いないわぁ……」


 その頃の白龍は全裸で色気を撒き散らしながらぐうすかと寝ていた訳だが。



.

81:マメツキ◆p.:2017/11/03(金) 01:54 ID:7kQ

マギの白雄成り代わり短編。原作知識はなっしんぐ。前世の記憶は有るけどオフの時はちょっとアホっぽい。オンとオフの差が激しい。if的な生存ルート。

**


『死んでたまるかああああああ!』



 ちゅどおおおおん!

 宮殿を焼き尽くす炎の中、神官たちを全て切り伏せ、酷い火傷を負っている白龍を小脇に抱えて駆け抜ける。
 障害物を飛び越え、俺がそう叫んだ瞬間背後でちゅどんと大爆発が起こった。上記のことである。ふと隣の白蓮を見れば顔の前で両腕をクロスさせて小さくなって飛んでいる。おま、一体どこでそんなもん覚えてきたんだ!? どこのライダー!? お兄ちゃんはそんなもん教えた覚えはありませんよ!?
 小脇に抱えた白龍はすごい顔して泣いてるから笑えてくる。いや、笑っちゃいかんのだろうけど。



『とりあえず白蓮! 死なん程度に火傷してでも脱出するぞ!』
「死なない程度ってどのくらいですか兄上!」
『白龍ぐらいが目安だ! 末弟より怪我が少ないのは認めんからな!』
「目安!」
『そうだ! 可愛い妹弟を置いて先に逝けるかバカヤロウッ!』
「兄上っどうどうっ! バカヤロウなんて兄上が言ってはいけません!」



 あらぶってきた俺の精神に白蓮が爆笑しながら止めにかかる。必死に炎の中を駆けて白龍の状態を見ながら移動していれば、パッと炎の無いところに出た。周囲を見れば泣きじゃくる白瑛や泣きかけの顔で驚いたように俺たちを見る従兄弟の紅兄弟姉妹たち。
 俺はいの一番に医療班に火傷の酷い白龍を差し出した。



『白龍が体を火傷した、治療を頼む、意識がない』
「はっ、はい!」
「あにうええええええ!」
「白瑛! お前はなんともないか!? 無事だな? よし!」
『なにがよし、だ。少し落ち着け白蓮。お前も火傷が酷いだろう、白瑛は俺が預かるから先に行ってこい』



 ぴっと指差してほら、と促すと周囲の視線が俺に突き刺さる。え、なになに。



「殿下が一番重症ですッ!」
「早く集中治療室へっ!」
「さあ早くっ!」



 え。ふと意識し、視界は暗転。平行感覚が無くなった。



「でっ、殿下ああああああ!?」



 原因はいい年の癖に調子のって全力疾走して黒煙を取り込みすぎたことだと言う。



.

82:マメツキ◆p.:2017/11/04(土) 00:42 ID:7kQ

長編。白雄様のマギ→ネギま→マギみたいな特殊トリップ。。

設定

練 白雄
 麻帆良学園女子中等部3年A組32番。男子部女子部共学の為に男一人で女子部に放り込まれたテスト生。
 京都神鳴流剣士。愛刀の野太刀の名前は「煌白」。
 孤児の少年だったが近衛(青山)詠春に引き取られ養子に入っているため、ぶっちゃけ木乃香の義兄に当たり、「お兄さま」と呼ばれている。また、刹那の兄弟子であり「兄様」と呼ばれる。
 最強と言われる青山鶴子や素子に勝るとも劣らない実力を持ち、事実剣の天才だったのでエヴァくらいとなら軽くやりあえる戦闘力。しかしなぜか魔法が使えないので残念ではあるが、気の扱いに天性の才能があり、雷天双壮を使用したネギと余裕でやりあえる程。
 クラス内での立ち位置は“ご意見番”または“頼れるお兄さん”。あだ名はその圧倒的存在感から『帝王』と名付けられた。本人非公式。落ち着いたイケメンで女子人気もかなり高い。ネギのように苛烈な好意のアピールはないものの、他クラスのラブレターなど告白の呼び出しは3-Aが全て阻止し、3-A内では静かに激しく水面下の戦いが続いている。現在雪広、早乙女、長谷川(不本意)が優勢。
 実は魔法世界“オスティア”第一王子。実質アスナの血縁に当たり、自身も世界で20人と居ない数少ない固有能力者であり、そのなかでもレア中のレアの『魔法無効化能力』者。魔法が使えないのはアスナと違い、魔法無効化能力が使用する魔法まで無効化してしまうからである。鉄壁。
 ネギ、小太郎、のちにフェイトを弟のように想い、惜しみの無い兄弟愛のようなものを注ぐ。三人からはとても慕われている。
 実は煌帝国第一皇子練白雄の生まれ変わり。しかし前世の記憶は全く無し。だが、長男だったからか兄力が爆発しているのはこのせい。
 マギの世界にトリップしたときに金属器を手に入れる。
 第13迷宮“ベレト”
 冷酷と暗闇のジン。
 氷と影を操る。氷に関してはエヴァを思いっきり真似ており、無双する。影は分身や転移ゲート、攻撃や防御にも使える神羅万象オールマイティアイテム。


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83:マメツキ◆p.:2017/11/04(土) 01:17 ID:7kQ


 俺の名前は練白雄。麻帆良学園所属だ。そしてネギやフェイト、小太郎、神楽坂、雪広と世界各国を政治的要人として飛び回る神鳴流剣士である。そう、中学三年の夏休みに人生で一番苛烈と言っていい大冒険ののち自分がその亡き王国の第一王子ということがわかった戦災孤児だった練白雄だ。魔法世界の王子だが、両親が旧世界の人間なので俺は幻でもなんでもないぞ。
 圧倒的な存在感だが知らんが世間から『帝王』と名付けられてしまった
 そんな『帝王』なんて大層な肩書きを背負った『白き翼(アラアルバ)』の俺だが、いつだか気がつけばどこか懐かしく思える世界に居り、訳のわからぬまま迷宮とやらを攻略、ここに麻帆良がないことを知り異世界だと暫定し、馬車の護衛をして金をもらって生活し現在旅をしている。
 いや、別に頭が可笑しいわけではない。だって本当のことなのだから。問題は山積みだったと言うのに。真摯な好意を寄せてくれている雪広に応えてやらねばと意気込んだところだったと言うのに。謀ったようにタイミングが悪い。丁寧に言うなら間が悪い悪すぎる。

 現在、バルバッドという大海洋国家で一番のホテルの一室で項垂れていると、天井がいきなり爆発した。あまりの衝撃に硬直したのは仕方のないことだと言えるだろう。そうじゃなければおかしい。え、俺がおかしいのか?



「襲え襲え! 金持ちどものホテルだ!」



 ぞろぞろと武装して入ってくる男どもに、俺を誰だと思ってるんだ、と呆れてものも言えない。恐らくスラムで英雄視されてる盗賊、『霧の団』だろうなと目星をつける。そんなことを考えながら俺は袴の帯で下げられている愛刀に手を掛けた。
 俺に剣を向けては腰に携える煌白が火を吹く。実際に火を吹いている訳じゃないが。あれだ、比喩だ比喩。居合抜きで向かってきたやつから斬ってるだけだ。居合抜きは楽だ、高畑先生の居合拳のように相手に悟られず攻撃出来るから。
 そろそろ一人一人相手にするのも面倒になって雷光一閃で横一文字に凪ぎ払ってチン、と煌白を鞘に納める。鯉口に鍔がない代わりにとくくりつけられた先端に鈴のついた赤い紐が揺れ、軽やかにちりんと鈴が鳴った。
 その鈴が鳴ったとたん悲鳴をあげてばたばたと倒れていく盗賊たちを尻目に部屋を出ようとしたら扉は既に開いていて、三人の男たちが唖然と俺を見つめていた。誰だ。



.

84:マメツキ◆p.:2017/11/04(土) 01:59 ID:7kQ



「俺はシンドバッドさ、よろしくな」
『俺は練白雄だ』



 三人の男達の身元が判明した。紫の髪に爽やかな笑顔を携えた太い眉の男がシンドリア国王シンドバッド、緑のクーフィーヤを被った銀髪のそばかすの男がジャーファル、柘榴に近い赤髪の目付きの鋭い大男がマスルールだと言う。
 俺の名前に三人は目を見開いたので、首をかしげてどうしたのか訪ねるとなんでもないと首を振られる。なんなんだ一体。



「……ところで、この盗賊たちは、君が?」
『見てたんじゃないのか、シンドバッド王』
「やっぱりか」



 俺の涼やかな目元を見て納得したようなシンドバッドやジャーファルたちは何しに来たんだ。
 マスルールはどうしてかじろりと俺を見ているし。仕方ないだろうけど。俺は白の着物に紺の袴を履いた東方の人間だ。この世界じゃ鬼倭国と言うのだろうか。



「これから俺たちは霧の団の頭領がいる屋上に行くんだが、白雄くん、君も来ないか? 力になってほしい」
『悪いなシンドバッド、行く理由が俺には見当たらない』



 ばっさり切り捨てると驚いたようなシンドバッドに、ちょっと警戒し出したジャーファル、ぼうっとしてるマスルール。マスルールは警戒するなりなんなりしろ。しかしまあ行かないとは言ってないさ。



『……俺は護衛職をしていてな。今まで受けた仕事で依頼人や周囲の人間に傷ひとつ付けたことはないぞ』
「……ほう? ん?」
『いや、ん? じゃない。もう少し簡単なことに頭を回せシンドバッド難しく考えるな。俺には理由がない、しかし護衛職だ。どうしても連れていきたいならお前たちが理由を作れ。と言っても、お前たちはそれなりの実力者と見受ける。本当は俺の助力なんて別に必要ないと思うが』



 腕を組んでそう告げると彼は面白そうににやりと笑い、同じように腕を組んで呟いた。俺も目を伏せて口元に笑みを浮かべる。



「いくらだ?」
『ふふ、……生憎と、俺は今金には困っていないが、ツテが驚くほどなくてな。普通の『友人』になるならついでにタダで受けてやろう』
「っ! ……はははっ、いいねぇ、その交渉、乗ったぜ……。俺たちは今日から『友人』だ!」



**


 端的に言おう、マスルールが俺の部屋の天井を飛び上がって破壊し、屋上への直通を開いた。しかしこんなことでわざわざ怯む俺ではない。虚空瞬動で宙を駆けて、砂利を払うジャーファルの横にスッと立つ。
 どうやらシンドバッドの知り合いが居たようで、「アラジン、大丈夫か」と声を掛けた。



「シンドバッドおじさん! ……あれっ、そっちのお兄さんは誰だい?」
『……俺か』
「うん!」
『練白雄だ』



 練、という言葉に少し反応したアラジンだったが、にっこりと「僕はアラジンだよ!」と言ったのち、目の前の敵を見据える。



「流石に数が多いな……マスルール!」
「了解」



 シンドバッドに名指しされたマスルールが前に出て構える。次の瞬間、マスルールは人垣を一直線に駆け抜け、人が宙を飛び交ったあと、カシムと呼ばれる青年の背後に立った。まるでネギの雷天双壮の時に放つ桜華崩拳のようである。
 シンドバッドはやりすぎだ、手加減しなさいと軽く叱りながら人が飛んだことで空いた真ん中を歩いていく。いや、お前がやれって言ったんだろうが。一応護衛だからついていくけど。




「な……なんだてめえは…」
「何って…俺を捜しに来たんだろ?」
「そうか、お前がシンドバッドか! 先に手を出してきたのはそっちじゃねぇか!」



 カシムが黒縛霧刀、と黒い鉛のようなものを放出する剣をシンドバッドに向けた。咄嗟に剣を抜こうとするが、見抜いていたシンドバッドが制し、それをもろ身に受ける。重さでガクリと体勢を崩したシンドバッドにコイツ馬鹿かと視線をやった。結局は自分の魔力で相殺したから無事そうだったが。俺は一体なんのためにここにいるんだ。



「この程度の魔法道具は俺には効かないよ」
『それを先に言え』



 抜くとこだったぞ、とチリンと煌白の鈴をならして見せるとすまん、と笑われた。笑い事じゃないんだが。




.

85:マメツキ:2017/11/04(土) 19:01 ID:7kQ

転生白雄。〜現在の服装とともに〜

https://ha10.net/up/data/img/21935.jpg

86:マメツキ◆p.:2017/11/07(火) 00:39 ID:7kQ

また新しいのです。ホント書きたいのがちょこちょこ変わって申し訳ない。上記のはお気に入りなのでまたきっと書きます。
 練家、紅炎たち紅兄弟の長男の話。白雄より二つ上。またイメイラ上がります。オリジナルから原作に繋がってくよ。

設定。
練 紅影(こうえい)
練家で一番最初に産まれた男。白雄の二つ上なので紅炎の七つ上。
深紅の髪は短く切り揃えられており、左頬の横の髪が少し長いだけ。前髪は紅明の左右逆のような髪型。左目は前髪に完全に隠れており、右目の下には泣き黒子がある。襟足の髪はシルバーリングで首もとの所で括られている。右頬の切り傷の痕は戦場に出て付いたもの。紅炎たちが着ている煌の服を好まず、極東の島国の着物を好んで着る。
煌帝国一の変人。基本テンションが高い。ヘイヘイヘヘイイェイイェイフゥー↑な人。基本かっこいい笑顔。
剣の才能や体術、戦略などの才能に満ち溢れているが、某千の刃の男のように基本気合いで何とかできてしまう超人。「紅影さんなんか適当に右パーンチ!」で山に穴が開くとか。とりあえず粉砕はできる。
男らしいと言うか漢らしい。スーパーウルトラ兄貴肌。色男。紅炎や紅明が目にいれても痛くないほど可愛らしく、身分は違えど白雄、白蓮も可愛らしく思うただのブラシスコン。下からも慕われている。
とある事情により煌や兄弟、従兄弟たちを守るため皇位を退冠、ぶらり世界の一人旅に出る。
初代皇帝として、従兄弟の父として慕っていた白徳の死に弔おうと一度煌へ帰ってきたら白雄、白蓮の訃報が入ってきて唖然。煌の宿にて今後煌へ立ち寄ることをやめると決意。血涙するほど悩んだ。ジンを四つ所有。
 してその実態は、通り魔に刺されて死に、転生した男子高校生だった。剣道部の帰りに友達を庇って亡くなった。楽天家なところは有れども頭も運動神経も非常に優れ、また生命力も強かったため、通り魔にめった刺しにされたあとにも意識を取り戻し一発ぶん殴ってから逝った。それには満足してた様子。
 生まれ変わってからも正義感が強く、一夫多妻制でありながら妻は一人しか要らない妾も要らないの一点張りの誠実な男になった。玉艶に不信感を抱きつつも白雄や白蓮、紅炎や紅明、白瑛、紅覇紅玉、白龍にめろっめろのめろめろの骨抜きになってしまった。前世で一人っ子だった。

87:マメツキ◆p.:2017/11/07(火) 01:19 ID:7kQ



 暖かな陽射しが降り注ぐ禁城にて、不意に「あにうえ! 紅影あにうえ!」と呼ぶ声がしてふっと振り向く。



『おぉ、紅炎紅明! おはよう』
「おはようございます、紅影あにうえ!」
「……おはようございます、あにうえ」



 ぱたぱたと駆け寄ってきた弟の紅炎、紅明。紅炎は7歳になったばかりで、紅明もまだ5歳と二人とも幼い。現在14の俺、練紅影は二人の可愛い弟にめろめろです。俺の弟達が可愛過ぎてつらいんだが。
 まだ眠そうな紅明を見るに、紅炎が叩き起こして引きずってきたのだろう。朝から元気なことだ。紅明よ、衣服が乱れまくりだぞこの毛玉め。
 さっと紅明の服を直してから紅炎の頭を撫でて、肩に座らせるように抱っこして、紅明はまだ眠いだの紅炎は起きろ紅明だの、耳元で騒がしくされでも怒る気は毛頭なくむしろ子供特有だよなあと和む和む。超和む。
 紅炎を勉学用の部屋に、紅明を鍛練場に連れていこうとのらりくらり遠回りして気付かれないように進んでいたのだが、突如として背後で「わっ!」と明らかに驚かそうとする声が聞こえた。



『うおっ、とっとっとっ、とととぉ!? あ、白蓮皇子ですね!? やられました!』
「へへへ、大成功!」
『ははは! あっ紅炎紅明前見えない! 手、手! 手ぇ退けて! お兄ちゃん目が痛え! とても痛え!』



 白蓮皇子の背後からのドッキリに驚いた二人が俺の頭にしがみついてきてもうまったく前が見えない。ふらふらしてるから余計にか。
 おまけに白蓮皇子までドンッと腹に飛び付いてくるからもうそろそろ本格的にヤバイかもしれない。そんなとき。



「! 大丈夫か紅影」
『白雄殿下!』



 後ろからぱっと背を支えてくれたのは、この煌帝国第一皇子、我らが練白雄。
 二人が出揃ってしまったので弟をしたに下ろし、膝をついて挨拶をする。かしこまらなくていいと言ったのは殿下の方だった。殿下とは言えまだ12か……。いや、もう12と言った方がいいのか。もう立派な年だ。



「うちの白蓮がすまない、紅影」
『いえ、構いません。年の近いのが私どもしかおりませんので。身分の差はあれども、紅炎や紅明も楽しいのでしょう』
「……そうか」



 嬉しそうに微笑んだ白雄殿下を見て、あぁやっぱりまだ12なのだと思い知らされる。前世のこの年の俺は何してたっけ、確か外でかけずりまわって遊んでいたはずだ。上にも上の苦労があるらしい。


『……平和ですね』
「……ああ、平和だなぁ」



 愛しい弟や従兄弟を見て俺は目を細めた。



.

88:マメツキ◆p.:2017/11/10(金) 00:15 ID:KXc

捏造有り。

 俺はそのあと、自分がまだ6.7歳だった時に前世の知識をフル活用して作り上げたビデオカメラや普通のカメラを取りだし、笑顔の彼らにそれを向けてその笑顔を納める。ビデオカメラはてててと弟たちの方に駆けていく白雄殿下を始め、弟の紅明を問答無用で連れ回す紅炎や、紅炎を肩車しながら走りまくる白蓮様、他にも鬼ごっこをやりたいと言い出した白蓮皇子に御命令とあらばと嫌がる紅明を引き連れ従う紅炎、「久々に混ざらせてもらおう」と珍しくノリ気な白雄殿下。なんてほほえましい。



「ほら、紅影。お前も来い」
「紅影! お前が年長なんだからお前が鬼だぞ!」
「俺はたとえ兄上だろうと逃げ切ります」
「たすけてください紅影あにうえ……」
『っ、ふははっ!』



 紅明お前も今日は付き合え。昨日もやらされましたよ。我が儘言うな紅明。紅炎の言う通りだな。

 俺はそんな会話をしながら四人へと嬉々として駆け寄った。



 あの平和な年から数年、俺は18歳になった。紅炎は11、紅明は9、白雄殿下が16、白蓮皇子が14、そして白瑛皇女が5歳、紅覇、紅玉が3つ、白龍皇子が1つになった。俺はどうやら煌帝国1の変人らしく、なにやら『生ける伝説』と言われているようだ。由来は知らん。理由として心当たりがあるのは、俺が戦でただの気合いパンチを見舞うと山が貫通したり科学者として機械を発明したからだろうか。
 それはそうと、玉艶王妃の連れてきた黒い連中とジュダルからは黒く陰った気配がするのだが、気のせいか?
 まだ幼い紅覇にでれでれしつつ紅炎、紅明の頭を撫でた。紅玉にも会いたいな……。

 その数日後、俺は組織側から兄弟を狙われたくなければ皇位を退冠しろと言われ、絶対に手を出すなよと睨みを利かせて退冠した。



「兄上……どうして兄上が」
「……兄上」
『……くそ、悔しいな』



 ……まあ、いつかまた会えるさ。俺は二人にいつか俺と紅炎、紅明で撮った写真を渡して手を振った。


 その後、追い出されるように禁城を後にする。その悔しさといったら舌を噛んで死んだ方がマシだと思えるほどだった。



.

89:マメツキ◆p.:2017/11/26(日) 23:19 ID:8Mw

唐突に始まるあれ。上記のはまた今度。
練紅明inMHA記憶なし転生。全く関係のない炎瑛。年齢操作あり。

 練紅明。雄英のヒーロー科三年に兄がいる雄英一年生。A組。
 長兄、紅炎に「お前はもっと何かしらにやる気を出せ!」と怒鳴られ挙げ句何故か雄英ヒーロー科を受験。倍率300ぐらいだし自分なんて記念受験だよ記念受験と浮かれていたが合格通知が来たときは目の前が真っ白になった。
 軍事書が好き。中学までの勉強を小学二年で終了させて子供らしくない趣味に没頭した変な子。学校はちゃんと通ってたけど寝てばっか。寝不足。つまり頭がいい。
 吹き出物じゃなくてそばかす。濃い紅っぽい色の髪。耳には原作通りの耳飾り。
 中学まではもっさもさの腰までの髪をポニーテールにしてたが紅炎に「見ていて鬱陶しいから切れ」と七つ下の紅覇と紅玉に受け渡された。するとアラびっくり(原作30巻以降と同じ)すっきりした短髪に。耳飾りはそのまま。
 家は裕福でわりと広く、何故か書庫がある。基本紅明はそこで籠っている。紅炎も時々来る。
 紅徳一家は原作なら紅玉の上に七人姉が居たけどここはいない設定。
 お向かいの家には従兄弟の白徳一家が在住。白瑛は紅明の一個上っていう年齢操作。ちなみに炎瑛。紅明的によくあの白兄弟の男連中を押し退けたなと感心している。紅炎からして五つ上の白雄と二つ上の白蓮は白瑛に彼氏が出来たことに対し当初「はあ? 彼氏絶対ブッコロす」的なあれだったが紅炎と分かると一気に「紅炎、白瑛を任せたからな」な手のひら返し。信頼パないですね。白徳と白龍は今でもちょっと拒否ってる。まだ拒否ってんですか。
 白徳と紅徳はただのいい人。ここ仲の良い兄弟。玉艶さんもただの優しいお母さん。紅明たちの母は病死。コイツらわりと重たいぞ。
 白瑛が義理の姉になるのはちょっと楽しみ。尊敬する白雄白蓮、自分はちゃんと慕ってくれてる白龍と義兄弟になるのも。
 隠れブラシスコン。多分紅玉がいつか嫁に行くってなるときに一番静かに最後まで拒否る心づもり。いくらそれがアラジンだとしてもだ。愛が重たい。コイツらわりと重たい。
 個性:ダンタリオン。ただの転送系個性。ゲートが星座っぽい。魔装はしない。どこでも繋げられる。いくらでもゲート出せる。ちなみに切断可。


.

90:マメツキ◆p.:2017/11/26(日) 23:41 ID:8Mw




 流石に。雄英からの合格通知が来たときは目の前が真っ白になった。なんでこんなことになってるんですか訳がわからない。
 あれか、貴重なワープ個性だったからか世の中個性で決まるんですか辛い。合格通知を握りしめてソファーで項垂れていると二つ上の長兄、紅炎兄さんが現れた。うっ、なんか目線いたい。



「髪が鬱陶しい」
『エッ』
「記念だ。ばっさり切ってこい」
『エッ』



 ずるずると廊下を引き摺られて放り込まれたのは七つも下の弟妹、紅覇と紅玉の部屋だった。事前に話が進めてあったようで、「任せたぞ」「お、お兄さま! ホントによろしいのぉ……?」「炎兄良いって言ってたじゃーん! はやくやろーよぉ!」と目の前で行われるやり取りに目を白黒させる。



「明兄はここ座ってね! 動かないでよぉ? 怪我しちゃうしぃ」
「紅覇お兄さま、髪切りバサミはどこ……?」
「ああ、それならあそこ! 取りに行こ紅玉!」
『え、はあ。……エッ、お前たちが切るんですか!?』
「だ、ダメかしらぁ……?」
「明兄ダメ〜?」



 多分、本来ならちゃんとした店にいった方が良いんでしょうが、この子たち異様に美容には気を使っているし、まぁ大丈夫だろう。てな感じで二人に任せた訳ですが。



「……えらくさっぱりしたな」
『自分でも思います。前がもさもさし過ぎたんでしょうかね……』
「似合うよ明兄〜!」
「紅明お兄さまのお顔がちゃんと見れてかっこいいわぁ」



 驚くほどマトモだった。顔の横の髪は少なくもかなり長いが全体的に短くなった。顔の半分を覆っていた前髪は綺麗さっぱり切られ、ずいぶんと視界が開けている。首回りも涼しくなった。こればっかりは切ってよかったと思いますよ。
 昔は軍事書を朝から晩まで読み漁り、3日部屋から出てこないこともあって、子供は小柄なこともありほぼ毛玉になったりしましたからね。何度兄さんに無理矢理(物理的に)風呂に放り込まれたか。



『……高校、雄英ですよ紅炎兄さん……』
「受かって当然だ」
『もう私辞退して書庫に籠りたいです』
「同じ学校だからな、担いででも連れていく」
『それが目的でしたかちくしょうっ!』



.

91:マメツキ◆p.:2017/11/27(月) 00:07 ID:8Mw



 1-Aと表示されたやたらとデカイ扉を躊躇なく開けて、まだまばらにしか集まっていない教室へと足を踏み入れる。今年のA組の定員は21、私の出席番号的に最後列のうちひとつ飛び出た席が私の自席だった。寝れるところである。私超運良い。
 カバンを置いてから中身を漁り、目当ての物を見つけて取り出す。兄さんにこれが面白かったと渡された私は未読の歴史書である。この中の政治の内容が面白かったとのこと。しかし、全文英語とは。読めなくもないが、なんかめんどくさい。ぱらぱらとページを捲っていくとわりと興味をそそる内容だったので集中し始めたとき、バンと机を叩かれた。



『うぇっ!?』
「ったく……とっととこれに着替えろ。周りはもうとっくに更衣室に向かったぞ」
『え、はあ。すみません』



 目の前に居たのは担任らしく相澤先生だという。慌てて分厚い本に栞を挟み、手渡された体操服を持って更衣室へと駆け出した。

**

 案内されたグラウンドにて告げられたのは今から『個性把握テスト』を行うと言うウマだった。女子一名が「入学式は!? ガイダンスは!?」と先生に問い掛けて居たが、ヒーローになるにはそんな余裕ないらしい。私はとっとと教室に戻って続きが読みたい。ここ雄英は『自由』な校風が売り文句で、それは先生側も変わらないようだ。
 個性把握テストとは、中学まで行っていた個性禁止の体力テストを指すらしい。ほう、練家スポーツテストの結果が散々な私に体力テストですか。帰りたい。しかし、どうやらコレは個性解禁らしい。デモンストレーションとして爆豪さんが個性を使ってハンドボールを投げた。球威に爆風がのせられたボールは勢いよく彼の手から飛び出し、七百メートル越えを叩き出す。先生的に自分の最大限を知らねばならないようだ。



「なんだこれ! すげー『面白そう』!」
「個性思いっきり使えんだ! 流石ヒーロー科!」



 でも、面白そう、は流石にいけないのではなかろうか。コレはあくまでヒーローになる素地を形成する合理的手段。遊びではないのだ。案の定相澤先生の琴線に触れたようで。



「トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分とする」



 んなまためちゃくちゃな。



「生徒の如何は先生の自由。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」



.

92:マメツキ◆p.:2017/11/27(月) 00:36 ID:8Mw


 第一種目、50m走。



『よいしょ』
「1秒12!」



 スタート地点にゲートを開き、ゴール地点へとワープ。跨ぐだけ。なんだこれ超楽。実際一歩踏み出して終わりですからね。
 第二種目、握力。これは私を殺しに来ている。実際バカにしに来ている。



『んんっ!』



 力を込めて記録を見てみればそこには25の数値。おもむろに思いきりがしゃんと計測器を地面に叩きつけた。周囲からの視線は痛いがそれどころではない。最早女子以下。これで壊れないのだから身の程の腕力すら知れている。女子以下とはなるほど泣きたい。そうですよ……! 白瑛さんでも30は越えてますよ……! くっ!

 次の立ち幅跳びはゲートを開き、立ち幅跳びの要領で飛び込んで、立ち幅跳びの砂場のなくなるギリギリまで飛んだ。着地地点で前のめりに転けるとは日頃の運動不足が祟っている。これはヤバい。

 第四種目、反復横跳び。これは体力を削りにかかっている。ダンタリオンを使おうと思えば使えますけど、複雑になるしめんどくさいし結局は足をゲートから出して着地点を変更しなければならないからやめた。その結果ぜえはあ息切れが激しすぎて倒れそう。体力が無さすぎる。爆豪さんにぜーはーいってるところを見られなんだコイツみたいな顔をされた。

 第五種目、緑谷さんだかなんだか知らないがちょっと休ませてください。っていうかこのあとは多分前屈と持久走だけでしたっけなんだ超楽じゃないか。膝に手をついてうつむきながら未だにぜーはー言ってると金髪の上鳴さんに「お、おい大丈夫か」と問い掛けられ、赤髪の切島さんに背中をさすられた。いい人すぎる。



『すみませ、ちょっと、息切れ、が』
「お、おう。なんかヤバそうだな?」
『は、反復、横跳びは、私を殺しにかかって、きてますよ……』
「私!? わりと男らしそうな見た目で私で敬語!?」
「お前反復横跳びでこんなになってんの!? マジかよヤバくね大丈夫か!?」
『だ、大丈夫です。落ち着いてきました……』



 次の瞬間、緑谷さんがえらく勢いよくボールを投げた。めっちゃ飛んできますね。……爆豪さんの顔がめちゃくちゃ驚愕してえらいことになってますが顔芸すごいですね。
 ああ。もう私の番……。



『えい』
「約2km」
「「「やべー!?」」」



 ゲートに向かってペッと投げると、歓声が上がる。ちなみに、「どこに転送した?」と相澤先生に問われたので「私の自室に」と返答した。



.

93:マメツキ◆p.:2017/11/27(月) 01:03 ID:8Mw



 第六種目の前屈は壊滅的でしたが、第七種目の持久走はトップでしたよ。だってスタート地点とその先をずっとワープし続ければ良いんですから。ようは白線跨ぎゃこっちのもんですよ。

 その後、除籍は先生が生徒を鼓舞する嘘と明かされ、麗日さんや飯田さん、緑谷さんはずいぶんと驚き、八百万さんは「あんなの嘘に決まってるじゃない……少し考えればわかりますわ」と言っていたが、多分本気でしたよねあれ。何かしらに期待をしてあとから嘘と言い換えましたよね。うちの兄さんと真反対のことしてるじゃないですかやだー。

 初日の下校時間、門まで歩いていると、緑谷さんたちご一行を発見した。あちらも私を見つけたようで、「君は、転送男子!」と飯田さんに声を張り上げられた。ちょっと周りを見てください。
 なぜかわざわざ私のところに駆け寄ってきた三人は私の名前を聞きに来たようで、どうもこんにちはと告げたあと「練紅明です」と言うと「こうめい……孔明かな?」と緑谷さんに漢字を問われた。



『紅に明るい、ですよ』
「ヘェ! 明るい……」
『私自身なんで『明』が名に入ってるかよくわかってませんけど。私どちらかと言うと『暗』の方です』
「いやしかし名は体を表すと言うだろう!」
「そのうち明るくなるよ!」
『えぇ……そのうちとはまた不明確的な……』



 駅まで一緒に行かないかと誘われるも、『すみません、車が待ってますので』と黒塗りのベンツを指差すと「「「ベンツ!」」」と声をあげられた。……ベンツおかしいですかね?

**

 ようやく帰宅。ベンツの中には紅炎兄さんと白瑛さんが既に待機していましたよ。
 リビングにて制服もそのままにべしゃっとソファーに倒れ込むと駆け寄ってきた紅覇が背に飛び乗り、『ぐぇっ』と蛙の潰れたような声が出た。どうやら紅玉も乗っているようである。



「明兄おかえりぃ!」
「お、おかえりなさい紅明お兄さま……!」
『はい、ただいま帰りましたよ……』



 そのまま横になっていると着替えたらしい兄さんがリビングに入ってきて二人はいっせいにそちらへ向かっていった。悲しきかな、天使は私より紅炎兄さんの方が好きらしい。……悲しきかな。



.

94:マメツキ◆p.:2017/11/30(木) 23:30 ID:W3Y



 翌日の通常登校、午前中は普通のカリキュラム。なんと言うか、普通過ぎて眠気が凄かったです。あれですかね、昨夜も軍事書を読み耽っていたからですかね?
 いやしかし、流石にプレゼント・マイクの英語は喧しくてうつらうつらとも出来ませんでしたよハァ……。まぁうつらうつらしてるなんて兄さんにバレたら張り倒されますけどね。悲しいことに。兄さん厳しすぎる。いい人なんですがねぇ……。無表情で読み取りづらいだけでむしろブラシスコンですよ。あれで内心紅覇と紅玉見て「天使」とか思ってんですよ。あぁ、私もか。恐らく兄さんの対象に私も入ってると思いますが、流石にね、天使はないでしょうよ。あったら逆に気持ち悪いです。
 そんなことを一人思いながらもそもそと弁当に手をつける。従兄弟’s母、玉艶さんの手作りである。美味しい、そう、とても美味しい。ちなみに、白瑛さんも料理はなさる。がしかし、もうあれは食べる生物兵器ですよダークマターですよ劇物ですよ。あれは毒だ、毒が入っている。一回「紅明くんの為に作ったスタミナ弁当です!」とじゃじゃーんなんて効果音と共に渡された弁当箱の中がガタガタ揺れ……暴れ動いてましたもん。何入れたの怖い。
 普通に食べれるものってすごいなぁと将来義理の姉となる彼女のせいでそう思わずにはいられないんですよね。あれで頑強な胃を持つ兄さんが何度病院に送られたか。なぜ毎回食べるんですか紅炎兄さん。
 さっさと弁当箱を片付けたのち、机の中に突っ込んでいた軍事書を開く。これの内容は興味深く、兵法も古いものだから工夫も多彩で色々と発想の役に立つ。
 どんどんのめり込んで無言でぱら、ぱら、と捲っているとオールマイトがいきなり「わーたーしーがー! 普通にドアから来た!」と扉を勢いよく開けたものだからハッと意識が浮上した。
 時計を確認するともう午後のヒーロー基礎学が始まる時間帯でもうそんな時間かとぱらぱらぱらと残りを流し読みしてからぱたりと古錆びた本を閉じた。
 前の席の八百万さんから謎の視線をいただき、『どうかしましたか』と問い掛けると、わりと意外な返答がやって来た。



「その古い本……良ければあとで貸してくださりませんか?」
『えー……っと、これですか?』



 机にしまった先程の本を出して見せれば、「それです」と興味深そうに頷かれた。



『私は別に構いませんよ。……理由を聞いても?』
「それはですね、私の個性は『創造』ですので、知識を蓄えておく必要があるのです」
『なるほど……』



 どうぞ、と手渡しすると八百万さんからありがとうございますと返事をされるも、最後に付け加えておく。



『……一応、これ、兄に借りたものなので……汚されたりすると……その、なんというか……非常に不味いです、私が。私の体が。意識が飛ぶまでプロレス技かけられますので、くれぐれも、くれっぐれも、大切に扱ってくださいね。書庫出禁にされてしまいますので、私が。お願いしますね』
「は、はぁ……わかりましたわ」



 のち、ちょっとしょぼくれているオールマイトを横目にヒーロースーツのケースを持って教室を出た。すれ違い様「私の話ぐらい聞いてくれてもいいじゃないか練少年……」と言われたのであぁしょぼくれているのは私のせいかと思い至った。



『……オールマイトさんって、兄さんの言う通りちょっとめんどくさい御方なんですね』
「ちょっと練少年酷くないかな!!!?」
『えぇ……ごめんなさい、悪気はないです』
「そんなあからさまにめんどくさいって顔しないでくれよ!」



.

95:マメツキ◆p.:2017/12/06(水) 23:18 ID:woA


 ヒーローコスチュームである白の着物に黒の羽織を金輪で結びつけたあと肩から下げ、半分の仮面を顔に、黒い羽扇を手に私はグラウンドへとやって来た。
 ちらりと周りに視線だけやると、男性陣もわりと露出の多い方がいらっしゃるが、女性陣にはぱつぱつの全身スーツのかたや最早それは着ている意味があるのかと普通の男なら目のやり場に困る服装の方までいる。羞恥心はどこかに置いていかれたのですかね八百万さん。



「あれ、練くん仮面なんだ?」
『……一応のためです。コスチューム、似合っていらっしゃいますよ、緑谷さん』
「そっ、そうかな!!?」



 照れる緑谷さんなどどこふく風。のそのそと羽扇を手に腕を組みながらその場から移動する。オールマイトの実践形式はヒーローチーム敵チーム、それぞれペアで別れて行うらしい。



『…オールマイトさん、A組は21人なので一人余りますが……』
「うんそうだね! どこか一組三人チームになるわけだ!」



 そう言うことらしい。ルールはまぁ核に見せ掛けたハリボテを敵が守りきるかヒーローが奪取するか、それかお互い確保テープを所持しているのでそれを相手に巻き付けるか。単純な話ですね。

**

 第一試合は緑谷、麗日のヒーローチームバーサス爆豪、飯田の敵チーム。爆豪さんが飯田さんの指示を無視して動いたり完全なる緑谷さんへの私怨だったり核を背の後ろに守る飯田さんに対しての麗日さんの無謀な瓦礫攻撃が行われたり爆豪さんも緑谷さんも建物の中だと言うに大技ぶちかますなどこいつら本当にヒーロー目指してんのかよと言いたくなるも、講評時、八百万さんが全てそれを言い当てていた。ちなみにベストは状況設定をよく理解し馴染んでいた飯田さんである。オールマイトさんもお役ごめんですかね、と羽扇で口元を隠したとき、一通り喋り終えた八百万さんがこちらに視線を寄越した。



「常に下学上達! 一意専心に励まねばトップヒーローになど、なれませんので!
……ところで練さん、あなたなら今回の組み合わせ、どう動くのがベストだと思いまして?」
『そこで私に振りますか』



 一気にクラスの注目を浴びた私は『うーん、そうですねぇ……』とどこか気の抜けたように返事をして、相変わらず羽扇で口元を隠しながら言葉を紡ぐ。
 生憎と、そこまで深い作戦は立てられませんでしたけど。



『私は今回、敵チームは攻守を間違えたかなと判断しました。機動に優れていらっしゃるのはどう見ても爆豪さんより飯田さんですので、彼が確保テープを手にお二人を相手取れば良かったかと。人体の目で追える速さだとしても、いきなりなら体は動けませんしね。とっさに動いたとしてもどうしてもタイムラグが起きます。万が一飯田さんが抜けられたとして、爆豪さんが核を守っていれば、広範囲の爆撃によりヒーローは近付けず、恐らく鉄壁だった筈。爆発による核への引火も考えられますが、彼は見ていて地の頭脳と判断力、反射神経にとても優れた御方だと思うので、そうなることはないでしょう。敵チームはそれこそ押さえればもっと短時間でケリがついたとおもいますよ、安全にね。
ヒーロー側も同様です。核までの道のりで敵と出会ってしまったなら相手を無重力にし無力化してしまう麗日さんが適役でした。今回、麗日さんではなく緑谷さんが核を取りに行けば彼の個性を発動して猛スピードで核に迫れたはず、もっと良い結果だったと思われます。第一試合は誰がベストを取っても可笑しくなかった個性の相性でしたけど。
別に今回が悪かっただけ、訓練ですのでこれから直していけば良いと思うのですが……』



 何か異論などはございますか? と一同に視線をやると皆同じようにふるふると首を振る。意見を言ってくださって構いませんよ? と再度問い掛けてみるも反論はなかった。
 オールマイトは「そこまで深く考えないよ! 普通!」と顔に表していらっしゃった。そんなもんですかね?

 次は私と葉隠さん、尾白さんの敵チームバーサス障子さん、轟さんのヒーローチームの試合です。



.

96:マメツキ◆p.:2017/12/06(水) 23:46 ID:woA

Noside

 別のビル棟へと移動した紅明、葉隠、尾白はビルに散らばり、轟と障子がその外で待機している。
 モニタールームにて、切島がオールマイトの横で問い掛けた。



「なぁオールマイト先生、あの練ってやつ、何者なんだ?」
「ん? 何者って?」
「なんかやけに戦法に詳しいっつーか。初めて見た個性なのに理解力がすげぇなって」



 切島の疑問はクラスメイトの疑問だったらしく、うんうんとうなずく1-Aにオールマイトはうーん、と少し唸ってから答えた。



「彼はね、聞いた話じゃどうやら中学までの勉強を小学校二年生の時点で終わらせたらしいんだよね」
「!? まじすか!? アイツ天才じゃないっすか!」
「それがそうでもないらしくて……そんなに早く勉強を済ませたのは自分の好きな読書を勉強に時間を取られず存分にしたかったらしい。幼い頃から軍事書や兵法の書を読み耽っていたようだしね」



 一同はどこ情報だよ……、と思わなくも無かったが、時間になり開始された訓練に目を向けた。
 中に入ろうとした障子を手で制し、轟がビル内に一歩入っていく。その右足の一歩の瞬間、ビルの表面がバキバキビシッと凍り付く。その氷の寒さでモニタールームすら気温が下がったほどだ。
 轟が悠々とビル内を歩き、核のある部屋へと入っていく。その部屋には足元の凍った尾白と、核の側で身動きの出来なさそうな練。葉隠はまた別の所で張り付けにされているようだ。



「仲間を巻き込まず核兵器にもダメージを与えず尚且つ敵も弱体化!」
「最強じゃねえか!」



 焦りの浮かぶ尾白の横を通りすぎた轟はソッと核へと手を伸ばす。



「ヒーローチーム、ウィン!」



 呆気なく終わったそれに轟の最強説が生まれたわけだ。


**
紅明side

 なんとか無事に訓練を終えて、帰宅の時間。他の皆さんは反省会を行うようですが、私はとっとと鞄を持って帰路へつかせて貰いましょう。
 教室を出て廊下に踏み出したとき、後ろから「おい」と声を掛けられた。振り向くとそこにはちょっと不機嫌そうな轟さんが立っていた。



『……どうかなさいましたか?』
「……訓練の最後、手ぇ抜いたろ」



 彼の言葉に若干驚いてから『まさか』と微笑む。クッと眉を寄せた彼には悪いが、話す気にならない。
 ガリガリと鞄を肩に掛けていない方の手で頭を掻く。



『……えーっと、その、用件はそれだけで?』
「……ああ」
『そうですか……それでは、また明日、轟さん』



 ぺこりと気持ち程度のお辞儀をしてから背を向ける。
 なかなかどうして鋭いのだろう。今更転送しても訳もなかったと判断して無力を装ったと言うのに。
 これはまた考えねばなりませんねぇ、と考えながら再び髪を掻いて、校門に差し掛かる。そこで多分聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうと私は思いますね。
 緑谷さんは元々無個性でオールマイトの個性を受け継いだこと。



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97:マメツキ◆p.:2017/12/07(木) 00:15 ID:woA



 翌日、のそのそと校門に向かうとマスコミが群がっていた。なんだなんだとそれを他人事のように眺めながら影を極限まで薄くして通り抜けようとするもそりゃまあ当然というか、事も無げに捕まった。



「オールマイトの……あれ? どこかで見た顔の…」
『きのせいですよたぶん』
「っていうか、どこかでモデルでもしてるのかしら? ずいぶん爽やかなイケm」
『そんなことないのでとおしていただいていいですかねむい……』



 眠気が酷すぎて舌足らずになってしまったが、どうにかその場を切り抜け下駄箱に到着する。がちゃりと下駄箱の扉を開けると何かが数枚はらりはらりと落ちてきた。



『? なんですかね?』



 しゃがみ込んで二、三枚の手紙をよく見ると可愛らしい便箋にこれまた可愛らしいシールが貼ってあり、これはまた物好きな……と少し離れた下駄箱で静かにきゃあきゃあと騒ぐ女子グループの声を耳に靴を履き替える。
 差出人の名前を見るとA、B組にはなかった名前なので、恐らく普通科かサポート科か商業科かのどれかだろう。はてさて関わりなんてあっただろうか、と首をかしげながら進んで行くと後ろからポンと肩を叩かれ、過剰に反応してしまった。



「よお!」
『うっ、うわぁっ!? って、上鳴さんでしたか……驚かせないでくださいよ……』
「わりわり、で、練はなに持ってんの?」



 私の持つ手紙を覗き込んで来た上鳴さんにあっと制止をかけるまもなく、可愛らしい装飾で気づかれてしまったらしい。
 丁度クラスに着いた。彼が何か言う前にそそくさと教室内に入るも、そのあとを彼は猛スピードで追ってきた。



「練待てゴルァ! なんだその手に持つ可愛らしいシールの貼られた手紙は!」
『ひ、う、うわあああ! こ、こっち来ないでください!』
「なんだその三枚の手紙はぁ!」
『気のせいです上鳴さんの幻覚です!』



 ばたばたと教室内を駆け回る私たちにクラスメイトは少し不思議そうにしていたものの、上鳴さんの発言で一部の男子が目の色を変えて「どう言うことだ練んん!!」と感化され追いかけてくる。ひいい。
 ひいい、気のせいです気のせいです! こっち来ないでください! とちょっと涙目になりながらぜーはー息を切らして走っているとついに捕まってしまった。
 瀬呂さんと上鳴さんに両脇を抱えられ、峰田さんがパシッと手紙を私の手の中から奪い取る。



『ちょ、峰田さ、ぜー、返し、はー、てくださ、げほっげほっ』
「おいおい……練お前大丈夫か……?」
『そんな心配、するくらいなら、げほげほ、助けて、くださいよ切島さ、ん……!』
「体力ねぇな」
『あのですね、元引きこもりに、体力求め、ないで……いただ、け、ますかね……!?』



**


 学級委員決めも無事緑谷さんと八百万さんに決定しましたが昼休みのマスコミ侵入騒動で緑谷さんは何か思うところがあったらしく、飯田さんに委員長の座を譲った。
 八百万さんのメンツどうなるんですかねこの場合……。



.

98:マメツキ◆p.:2017/12/10(日) 00:02 ID:woA


 翌日の五時限目、今回のヒーロー基礎学は相澤先生、オールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになったようだ。なった、だからオールマイトに何やらあったらしい。
 瀬呂さんが「はーい! 何するんですかー!?」と挙手して問い掛けると、相澤先生はなにかしらのプレートをデデンとつき出した。



「災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だ!」



 途端にわっと騒ぎ出す級友に『ここぞって感じの活かせる個性をお持ちの方もいらっしゃいますしね』と微笑む。すると八百万さんが「活かせると言えば練さんもですわよ」と返され、『そうですかねぇ……』とガリガリと頭を掻いた。
 結局、この騒ぎは相澤先生の「おいまだ途中」でぴしりと中断されたが。今回、コスチュームを使わなければならないと言う強制はないようですが、まあ一応のため着替えておきましょうか。

 校舎を出てバスへと向かう途中、後ろで麗日さんと緑谷さんの会話が聞こえてきた。



「ん。デクくん体操服だ。コスチュームは?」
「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから……」



 緑谷さんは体操服らしく、あぁ……と納得する。まあ確かに、焦げたり焼けたり千切れたりしてましたもんねぇ。
 丁度隣に爆豪さんが口を一文字に引き結んでいたので、そちらには目をやらず、羽扇で口元を隠しながら一言。



『言われていらっしゃいますよ』
「うるせえ黙れそばかす野郎!」
『おや、なんのことやら』



 ガルルと怒鳴った爆豪さんに出来るだけ顔を遠ざけて視線をやらずにすっとぼけててっくんてっくん。素知らぬ顔で通していると後ろから「くそ野郎が!」とただの悪口が飛んできた。子供ですか。
 前方にて飯田さんが「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列に並ぼう!」と仰っていましたが、実際入ってみると市営バスのようなものでしたので、わりとショックを受けていました。
 轟さんの隣にお邪魔させていただいていると、みんなの会話が個性へと移り変わったようで。



「派手で強えっつうと、やっぱ轟と爆豪と練だな」
「ケッ」



 意外と聞き耳を立てていた爆豪さんが喉を鳴らすと蛙吹さんに「爆豪ちゃんキレてばっかで人気でなさそ」と辛辣な一言を投げ付けられていた。それでキレるからまたからかわれる矛盾サイクル。



「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってスゲーよ」
『……確かに』
「てめぇのボキャブラリーはなんだコラころすぞ! 紅髪野郎も同意してんじゃねえ」
『あぁ……その、えーっと、何て言うか、……うちの兄よりは全然怖くないですよ、はい』
「だとコルァ!! フォロー入れんじゃねえ!!!」



 耳を塞ぎながらそう言うとまた怒鳴り散らされる。私の渾身のフォローですよ、渾身の。
 なんて羽扇を口元にのらりくらりとしていると、芦戸さんが「練って兄弟居たんだ!」と声を張り上げた。



『はい、居ますよ。二つ上の兄が一人、9つ下の弟と妹一人ずつ』
「へー。兄貴どこ校だ?」
『兄さんは雄英のヒーロー科にいます。ちなみに、従姉妹の一つ上がここのヒーロー科二年』
「ヒーロー兄弟だった!」



 わあわあと騒ぐなか、兄がどれくらい怖いのかを上鳴さんに問われ、『ふむ』と羽扇を抱え直す。



『そうですねぇ……立ってる威圧感だけであぁこれ正座しないとヤバイやつだ、と感じとれる程には怖いです。私はとりあえず兄が口を開く前に謝ります。悪くなくても謝ります』
「エピソードとかあるかしら」
『……んー、恥ずかしながら私とにかく朝が起きれなくてですね。ふらふらしながら寝ぼけ眼で廊下を歩くんですよ。今日は出会い頭ストレートパンチからのラリアットを食らいました』



 首をさすさすと手で撫でると全員から怖いんだねえみたいな視線をいただいた。これいかに。



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99:マメツキ◆p.:2017/12/10(日) 00:24 ID:woA


 U(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)、本当にUSJみたいでしたよ信じられない流石雄英。
 スペースヒーロー『13号』、何を思って13号にしたのかさすがの私もさっぱりですが、増えるお小言と染み入るいい話を聞かせていただけました。私たちの個性は『人を助けるためにある』、いい言葉ですね。カッコいいです13号。
 さて、レスキュー訓練が始まるのかと気を引き締め、羽扇を握り直したところで、相澤先生が叫んだ。



「ひとかたまりになって動くな! 13号生徒を守れ!」



 下の広場に現れた敵に、その殺気にぞわりと悪寒が背筋を走る。多分きっと恐らく敵。切島さんが「入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン!?」と叫ぶが、そんなわけないだろう。



「動くな! あれは敵だ!」



**

 相澤先生が戦いに出たそのうちに学校に帰る手筈だったのだが、見事に敵のワープの個性に分断された。火災エリア。これまためんどくさいところへ飛ばしてくれましたね……。
 周りを見渡すも私一人で、周囲は燃え盛る炎と敵ばかり。一対複数とかどこの無理ゲーですかもー。
 羽扇で口元を隠しながら、はあと溜め息を吐く。



『……はあ、私の個性は戦闘向きではないのですが……』



 私の独り言を聞いた敵がにやりと笑い、聞き取れる訳もない汚い罵詈雑言を並べて一斉にとびかかってきて。
 それを眺めながら、再度溜め息を吐いた。



『まあ、戦えないとは言って無いんですが』



 私へと向かってきたその敵の拳をワープで、転送し、向かい側に刃物を持って刺そうとしていた敵に終点を置く。するとあら不思議、私をすり抜け向こう側の味方に攻撃が当たってしまう。それを彼ら全てに使って、残りの敵も同じように。最後の一人は袖に忍ばせていた短刀で太股の腱を裂いて。まあ、全滅ですよね。
 一応確認の為周囲を見渡すも影も形もない。ふむ、と頷き、羽扇の持ち手の装飾をいじり、位置情報を認識。とりあえず元の広場へ向かいましょう。なにかすごい音してしましたし。




.

100:マメツキ◆p.:2017/12/11(月) 00:08 ID:woA


 私が広場に駆け付けたときには全てが終結しており、オールマイトや他の先生方がいらしていた。
 とりあえず全員の安否確認を行い、大怪我を負ったのは緑谷さんだけだったようだ。ほっと息を吐き、連れられるままに歩いていくと、常闇さんに声を掛けられる。



「お前はどうやら無傷のようだな」
『はい。そこそこ敵が弱かったのもありますが、数が少なかったですしね。なんとかなりました』
「戦える質か?」
『そうですねぇ……あまり戦闘には向いていないと思います。後方で作戦考えるぐらいしかできませんよ、私』
「謙虚な」
『そんなことはないと思いますがねぇ。なんせ9つ下の弟と本気の腕相撲して負けるような私ですから』
「……それは」
『そんな目で見ないでくださいよ……』



**

 本日、臨時休校。昨日の敵の侵入でパニックを押さえるのと、先生方の会議のために休日となった。そこそこ気が立っていたわけでもなく、ずいぶん落ち着いている。まぁ、読書の時間が増えた訳で。
 昨日帰宅してから速攻で食事をし、風呂に入り甚平に着替え、異母弟妹と少し戯れてから早速書庫に籠ってまだ読めていない軍事書に手を出したのだ。しかし如何せん量が多く、また、興味深いこともあり時間すら忘れ熱中してしまう。
 巻物や書物に埋もれながら寝っ転がっていると、いきなりバンと扉が開かれた。



「紅明! っお前! 今何時だと思っている!?」
『うわあっ!? えっ、兄さん!? どうしましたか!? 今何時ですか!?』
「もう登校する時間だぞ! 全く、時間を考えろ!」



 ええっ!? と埋もれた書物から飛び起き、『私は丸2日分書斎に籠っていたんですか!?』とばたばたと制服を着る。書斎にこもっている間、一回も外に出ていない私の体は少し動かすだけでばきばきと嫌な音がした。お手洗いは書斎に備え付けられていたので心配はなかったが。
 時計を見るといつも出発する時間を少し過ぎていた。うわあこれはヤバイ。
 部屋に戻って慌ててズボンを履き、黒のTシャツを来てジャケットとネクタイを手にワイシャツに袖を通した所で唐突に兄に俵担ぎにされて家を出る。兄さん苦しいです。



『紅覇と紅玉は』
「もう学校に行った! 全く、飲まず食わず風呂に入らずとはどういうことだ紅明!」
『ごめんなさい!』



 車の扉が開けられたかと思うと私は勢いよくそこへ放り込まれる。その際ゴツンと扉の縁に頭をぶつけ、眠気も相まってか、私は意識を無くしてしまった。
 あぁ、車のソファが柔らかいです。



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101:マメツキ◆p.:2017/12/11(月) 00:38 ID:woA



 次に目を覚ましたのは唐突な浮遊感のせいだった。次の瞬間には私は後頭部を強打し、『ぃだっ!』と声を漏らす。
 寝起きでぼやけた思考回路をフルに回して倒れたまま視線を動かし周りを見てみると轟さんや八百万さん、その他のクラスメイトたちが唖然と私を見ていた。とりあえずフローリングが冷たくて気持ちいいです。
 のっそり起き上がって扉の方を見ると間髪言わずに上履きが飛んできて顔面に炸裂した。



『ぶっ!』



 痛い顔を再び放り込まれた扉へ向けると次は顔面にジャケットとネクタイが飛んできた。慌ててそれをキャッチし、もう一度扉に顔を向けると兄が威圧感と怒ってる恐ろしい雰囲気を発しながら私を見下ろしている。
 兄さんはホームルームをしていたらしい相澤先生に「遅れて申し訳ありませんでした」と口頭で謝罪をする。



「……謝罪は弟の方から聞く。お前こそ遅刻じゃないのか、練」
「先生には既に連絡してあるので大丈夫です、鞄は教室なので」



 あぁ駄目だ眠い。しかしここで寝るときっと兄さんの拳が顔面に飛んでくるに違いない。……目をあけて真面目な顔して寝たらバレないですよね。最近習得したんですよ、目を明けながら寝るの。
 座り込みながら真面目な顔で寝ていると「寝るな!!!」と言う怒声と共にバシンと強烈な痛みが頭に叩き込まれ、追い討ちとばかりにバキッと頬に拳が飛んできた。そのまま胸ぐらを掴みあげられる。あ、寝てるのばれた。



『いてて……やっぱりバレましたか。流石兄さんです』
「褒めるな!」
『いやね、最近私目を開けたまま寝られるようになりまして』
「威張るな! とっとと席に着け!」
『腰を強打して動けないので無理です』
「嘘をつくな!!!」
『あ¨ーーーーーーー!』



 キャメルクラッチをぎしぎしと決められたあと、兄は私から手を離し、「失礼しました」と相澤先生に腰をおったあと目にも止まらぬ速さで廊下を駆けていった。
 やれやれと席に着くと相澤先生に「お前昼休み職員室来い」と告げられる。それに『わかりました……』と最初に強打した頭をさする。
 ぷちぷちと服のボタンを止めてネクタイを閉め、ジャケットに袖を通した。

**

 休み時間、いまだに痛む頭を擦っていると切島さんや砂藤さんが声をかけて来た。



「よぉー練、頭大丈夫か? めっちゃ叩かれてたけど」
「お前の兄ちゃんこえーな……」
『ええ……』



 切島さんに慣れてるので大丈夫ですよ、と返すと緑谷さんが「どうして遅刻したの?」と問い掛けてくる。
 それにたいしてはペットボトルのお茶を口に流し込んだあとに答えた。



『えぇとですね……実は一昨日の夜から飲まず食わずで書斎に籠っていまして……』
「ショサイ!!!」
「飲まず食わずってマジかよ!!?」
『マジです……。それから登校時間までずっと本を読み耽っていたので、遅刻しました。二徹してるので正直眠いです寝たい』
「本音炸裂したな……」



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102:マメツキ◆p.:2017/12/16(土) 23:54 ID:YkM



 聞くところによると、雄英体育祭が近付いているらしい。敵に襲撃されたばかりじゃないですか、と上鳴さんに物申すと例年の五倍警備を固めるらしい。あれか、雄英は敵に襲撃されても揺らがない磐石の姿勢が整ってるんだぞっていう主張的な。
 個性が溢れて人工が収縮し形骸化したかつてのオリンピックに代わるものが本校の『雄英体育祭』。そりゃあ敵ごときで中止できるものでもないですよね。全国のトップヒーローが見るんですし。卒業後サイドキックに雇ってもらえるように、



『年三回のプロに見ていただく機会ですからね』



 まぁそういうわけでして。



「なんだかんだテンション上がるなオイ! 活躍して目立ちやぁプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」



 のりのりで盛り上がる一方を微笑ましく見つめて切島さんから上がった声に確かに、と頷き席を立つ。安いかつとても美味しいご飯を食べに食堂へ向かうためだ。
 出口へ向かう途中、「燃えるのは当然だろう!」とグッと身を縮めて緑谷さんに力説する飯田さんを蛙吹さんが「飯田ちゃん独特の燃え方ね、変」とおっしゃっていらしたので『それも彼の一種のいい個性ですよね』と横切るときにぽつりと呟いておく。
 くるると鳴ったお腹に苦笑して授業は寝てばかりなのに私も腹が減るんだなと実感する。が、実質一昨日から食べてないようなもんなのでそれも当たり前かと納得した。お腹空きました。
 財布がポケットにあることを確認し、廊下に出て右を向いたとき、左側から女子数人がぱたぱたとこちらへ駆けてきた。まぁどうせ通りすぎるだろうとタカをくくっていたのだが。



「れ、練くん!」
『…ん? はい?』



 意外なことに、彼女たちに呼び止められてくるりとそちらへ向き直る。
 三人の女の子のグループだが、一人の女の子を他が後押ししているように見えた。



「あの、その……いきなりごめんね、ほとんど面識ないけど……」
『? ああいえ、別に構いませんが、どうなさいました?』



 首をかしげて問い掛けると「お、おおっ、お昼ってもう食べた!?」と思いきり目を逸らされた。ふいと逸らされた目に私そんなにひどい顔してますかねぇと若干ちょっと傷付きながら『恥ずかしながら、まだでして』と返すと、パッと顔を明るくされる。



「ほ、ホント!?」
『ええ、ホントですけど……』
「じゃあっ、これっ、もらってくれないかな!? ほんと、美味しくなかったら捨てていいから! ホント! あ、あの、その……それで……いや、何でもないっ! 練くんじゃあねっ!!!」



 ばっと胸元に押し付けられた包みを半ば反射で受け取り、矢継ぎ早に告げてぱたぱたと言うかどどどと言うか、そんなスピードで駆けていった彼女を追い掛けるように付き添いの二人も走っていく。『え、ちょっと、』と引きずり出した私の声は聞いちゃいない。



『……えぇと……』



 ばりばりと頭を片手で掻いて、『食べきれますかね……』と恐らく包んであるのは重箱だろうと当たりをつけて、教室に入るべく後ろを振り向いた瞬間気付いた。ここ、1-Aの扉の真ん前である。
 もちろん、中は静まりかえってほとんどが私を凝視していた。幸い、外に出ている人も居るようだが、多いっちゃ多い。
 ちょっと不信に思いながらびくびくしつつ席につく。その行動すら凝視とはこれいかに。
 机に包みをおいて向いていく。予想通り重箱、かつ三段だった。ぱか……、と一段目を開けて、……ぱこ、と蓋を閉じる。うん、絶対食べきれない。
 深呼吸してからもう一度開いた。肉でした。彩りと言うかバリエーションありますけど、カツとか蒸してあるのとか焼いたやつとか。ちょっと私に優しくない、最近の私の胃に優しくない。再び蓋を閉めて一段目は諦めた。横に避けて二段目、彩り豊かな野菜。ほっと息を着く。三段目は四種のご飯。もう一度息を着いた。
 その間ですら凝視されるのだから困る。



『……すみません、誰か一段目食べていただけませんか』



 その瞬間ほとんどの方がばっと寄ってきて肉の取り合いが始まる。私はその光景を横目に野菜スティックをぽきぽき。



『世の中親切な方もいらっしゃいますね』



 そう呟いたら上鳴さんからパンと頭をはたかれた。



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103:マメツキ◆A.:2017/12/30(土) 00:31 ID:s1c

はたけカカシ転生inMHA。カカシ先生がナルト世界で寿命を全うしたらヒロアカに記憶を持って転生した話。
以下設定

畑 カカシ
 雄英で非常勤講師をしている忍者ヒーロー。ヒーローネーム『カカシ』。個性『忍』
 前世の記憶持ちなので無双できちゃうほぼチート忍者。政府お抱えの時に左目を失いこの世界のオビト死亡時にオビトの個性『写輪眼』をリンの個性『医療』にて移植してもらったので一応今世も写輪眼持ち。前世じゃ大戦後になくなったからなぁなんてしみじみしながらオビト、リンの墓に毎日朝早くから訪れては集合時間に遅刻している。時間にルーズ。相変わらず言い訳は適当。相澤、山田の元担任で相澤の天敵。相澤たちの担任を受け持ったのを最後に非常勤講師に移る。相澤たちが最後の生徒であり、最初に受け持ったクラス。それ以前のクラスは全て前世と同じように鈴取り合戦をしては容赦なく除籍にしていた。相澤たちのクラスも半分除籍にした。除籍回数は相澤のほぼ倍。 
 非常勤講師になってからは毎年一年生に変化して一学期間だけA組に送り込まれている。優秀かどうかを見るための評価と監視。しかし今年度のA組監視はUSJの騒ぎにより正体を表すことになった。教師以外の上級生A組は毎年誰がカカシか探している。
 「ま!」をよく言う。雄英で教師をする前は政府直属暗殺部隊(暗部)にいた。『狼(ロウ)』で通していた。面も着用。
 ヒーローとしては有名だが、ヒーローランキングには参加していない。実はプロヒーロー「ヘッジショット」に憧れられている。ちなみにマジモンの忍者である。
 生徒の前で堂々と18禁官能小説を読む。生徒の前では少し忍べ。
 基本は額宛で左目を隠し、口符着用。服装は前世の上忍時スタイル。言ってしまえば前世と変わらない。かなり真面目な場面じゃ六代目火影の服装になる。スーツも着る。
 生徒たちに常々『仲間を見捨てるやつはもっとクズだ』と説いているが、その前の掟を守らないやつはクズだ、は誰にも言っていない。みんなかなり気になってる。


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104:マメツキ◆A.:2017/12/30(土) 00:37 ID:s1c

訂正。
ヘッジショットではなくエッジショットです。

105:マメツキ◆A.:2017/12/30(土) 00:56 ID:s1c



 今日は雄英高校の入学式である。雄英の校長やら同僚やらに連絡を入れてから額宛と口符を着用して口を開いた。



『変化の術!』



 ぼふんと音を伴って出てきた煙を掻き分けて、ふむふむよしよしと鏡を見て満足気に頷く。目の回りや頬には紫色がくっついていてやっぱり変装はこれだよなと数年ぶりのこの姿に微笑んだ。
 今日から俺は一学期間『写家 スケア』として学生を評価しないとなあ、そんなことを思いながら以前この姿でナルトたちで遊んだのを思い出しながら、あれよりもいくばくか幼くした16歳のスケアの容姿。まぁ設定はあのときと同じようにやるわけにもいかない。今年も上級生は気付かないだろうな、とくつくつとほくそ笑み、雄英の制服を身に纏って家を出て、瞬身の術で校内へと滑り込んだ。


**

 緑谷side

 相澤先生にいきなり始められた個性把握テストに除籍にならなくて本当によかった……と安心して教室に戻ったところで『指、大丈夫かい?』と優しく声を掛けられた。振り向けば少し心配そうに微笑むテライケメン……!



「だっ、だだだ! 大丈夫だよ! 指! リカバリーガールに治してもらえたから!」
『そっか、よかった』



 ああ、俺写家スケア、よろしくねと伸ばされた手を写家くん、と覚えながら握る。見た目のわりにガッシリした手で意外だったが、まぁそんなこともあるよなあと納得して少し談笑してから僕は下校準備に向かった。

 背後でニコニコと微かに意地の悪い笑みを浮かべた写家くんには気付かずに。



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106:マメツキ◆A.:2017/12/31(日) 01:27 ID:s1c

潜入して数日、最近気になる生徒が出てきた。緑谷出久。実技入試のときや個性把握テストの時もそうだったが、決定的なのは昨日のヒーロー基礎学だ。オールマイトの担当の教科であり、ツーマンセルの対戦をした実技授業の時、彼は爆豪勝己との幼馴染み対決なんて生易しいものではない戦いを繰り広げたとき、“自ら”腕を捨てて天井を殴り破壊した。自己犠牲が酷すぎる。授業は真面目に聞き、きちんと受けているようだが、どうにも…。
と言うわけで、昼休みの談話室にて。スケアのままオールマイトを呼び出した。表向きはちょっとした相談ということになっている。もちろんオールマイトも写家スケアが畑カカシということは理解している筈だ。パタンと扉を閉めて入室してきた彼に微笑み、ドロンと変化の術を解く。

『オールマイト、いきなりで申し訳無いんだけど、すこーし聞きたいことがあってね』
「え、はあ…」

ちょっとぽかんとしたトゥルーフォームのオールマイトに『緑谷出久との関係性はどうなんですか?』といきなり核心をつくことを言えば、ガタタッと体を揺らして「なっ、ななな、なんのことでしょう!?」と盛大に動揺してくれた。

『いやぁ、ねー? ほら、評価するにも個性の事もちゃんと把握しなくちゃならないでしょ? こう見えても俺、『情報のスペシャリスト』なんで、こういう情報漏れは俺の信頼に響いてくる訳ヨ。とっとと吐いてもらおうじゃないの、昨日のアナタと緑谷の会話を踏まえて、彼の個性とアナタの関係性』

暗に昨日、爆豪を追い掛けて校舎の外に出た際の緑谷とオールマイトの会話を聞いてましたよ、と伝えるとオールマイトは観念したように溜め息を吐いて「わかりました…」と言葉を漏らす。

「しかし、これから話すことは一切他言無用でお願いします、カカシ先生。これは校長とリカバリーガールと塚内くん、グラントリノに、緑谷少年しか知らない最高機密事項なのです……」
『あ、そこんとこは大丈夫。最高機密事項漏らすほど落ちぶれてなーいし。教室の外にも人の気配は無いしね、情報漏れもないから安心してオールマイト』
「……ありがとうございます(……本当に忍者だなこの人)」
『うん、俺忍者だよ』
「ジーザス! 心も読めた!」

オールマイトをひと安心させてから事情を聞くと、流石最高機密事項と言うか、任務的にはSランク並の情報と言うか。オールマイトは数年前の傷が祟って一日何時間しかマッスルフォームになれず、ヒーロー活動も縮小。ここら辺は俺達ヒーロー科の教師も知ってる。そして彼の個性、ワンフォーオール。これは代々受け継がれていて、その個性は無個性だった緑谷出久に引き継がれた、と。

『…なるほど。オールマイト程の力が受け継ぎと言うことが知られると、狙うやつらも出てきますからね。文句なしの最高機密だな』
「理解していただけてよかったです……」

それじゃあ、ありがとうございました。とスケアになって談話室を退室しようとしたら、いきなり警報が鳴りだし<セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください>と言うアナウンスが響く。セキュリティ3って言うと。

『校舎内に誰かが侵入してきたのか…今朝のマスコミですかね?』

返事を待たずして窓を見ると、うわあいるいる大勢の報道陣。大方オールマイトの授業風景を取材したいんだろうなあと考えてからじゃあ俺ちょっと行ってきますねと談話室をあとにした。
変化の解き、瞬身の術でやって来たのは報道陣の目の前。突然現れた俺に報道陣は「ああ! カカシだ!」「あの! 写輪眼のカカシ!」「あれでオールマイトよりも年上!? 若っ!」と声が上がり、一気に注目を浴びる。忍って注目浴びちゃダメなんじゃなかったかな。若いのはチャクラコントロールの賜物だよ。

『はいはーい、押さないでねー。素早く校内から出てってくださーい』

途端上がるオールマイトを取材させろと言うオールマイトコールが俺に降りかかる。全く、そう言うのは校長に言ってもらわないと。俺じゃあどうしようもないんだけど。

『とりあえず、これって一応不法侵入になるんで早い内に出た方が身のためですヨ』

この人ことで渋々帰っていくのだから本当に、ね。とりあえず門が明らかに報道陣以外の手で破壊されていたから報告に行かないとなあ。

107:マメツキ◆A.:2017/12/31(日) 16:30 ID:s1c


 朝からオールマイトが事件に引っ張りだこだったのを人気者は忙しいねぇとほくそ笑みながら、USJへと向かうバスに乗っている。
 スケアとして入学してから上級生にはバレちゃいないし、なんと言うか幸先が良い。がしかし、今回のUSJ訓練に関しては嫌な予感しかしないわけである。こういうときに限って俺の嫌な予感ってよく当たってくれちゃうんだよね。
 轟の隣に腰を下ろしてバス内で交わされる会話に耳を澄ました。



「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」
「けっ」
「爆豪ちゃんキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さでクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーはなんだコラころすぞ!」
「低俗な会話ですこと!」
「でもこういうの好きだ私」
「爆豪くん、君本当口悪いな!」



 賑やかな会話にかつての幼い第七班とは違う親しみにくつくつと喉を鳴らす。しかし、これから命を救う為の訓練だと言うことを身をもってしっかり知っているのだろうか。分かってるが実感無いんだろうな。
 爆豪の喧しさにちょっと迷惑そうな顔をしていた耳郎に『席変わろうか?』と声を掛けるも「いや、目的地すぐだし大丈夫」と返された。最近の子ってしっかりしてるよネ。
 この賑やかな会話は相澤の「もう着くぞいい加減にしとけよ…」と言う一言に全員が返事をして終結した。ん? 恐怖政治?


**

 USJに到着し、オールマイトが活動ギリギリまで動いたのを耳にし溜め息を吐く。俺一応教師の監視評価も任されてるから、減点になんのかなコレ。
 13号の増えるお小言を耳にし、相変わらずいいこと言うね、と生徒たちの一番後ろでコクリと頷くとちょっと照れられた。まあ、仲間を見捨てるやつはもっとクズだしね、的を射ている。
 流石プロヒーローはヒーローがヒーローたる重みを理解しているなと感心している時だった。
 突如背筋に感じる懐かしい感覚、そう、殺気である。
 パッと広場を見下ろすと同時に黒いモヤモヤから誰かが顔を覗いている。言わずもがな敵だ。



「全員一かたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」
「なんだありゃ。入試みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな! あれは、敵だ!」



 ゴーグルをセットした相澤に、ようやく気付いた殺気に生徒たちが顔を歪ませる。恐怖しきった彼らの顔を見てやっぱ実践はまだまだだなと溜め息を吐いた。ちらりと相澤に視線をやられ、『まあ、緊急事態だししょーがないよね』とぽつりと呟き、相澤の元へ足を進める。周囲が視線を寄越してきたが気づかないふりをした。



「カカシ先生、もう評価はこの短期間で終了にしましょう」
『流石に心得てるよ相澤、とりあえず前線に出るけど……』



 振り返って生徒を見つめ、『13号の指示に従って避難しなさいよ』とドロンと変化の術を解く。「に、忍者ヒーローのカカシ!」「潜入してたのか!?」と声が上がった。



『13号は避難開始しなさい。あと、学校に電話も試して。センサー対策まで頭にある奴等だから、妨害してる可能性もあるヨ』
「上鳴、お前も個性で連絡を試せ」
「っス!」



 ぴょーんと手摺を乗り越え戦線へと突入する。後ろで緑谷が相澤に向かって何やら叫んでいたが、相澤の「一芸だけじゃヒーローは務まらん」と言う一言で静かになった。ま! そうだよね。



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108:マメツキ◆A.:2018/02/03(土) 00:15 ID:5/6

※自分のキャラクターを使用しています。晒しはお断り。
色化戦会→MHA。転生って訳じゃなく、ただ見た目と設定がまんまってだけ。

 騎士 錺(キシ カザリ)。
 雄英1-A。お母さん兼お父さん見たいな子。
 基本クラスメイトが人として好ましいので大好き。物欲が必要最低限なのでよく誰かに何かを奢っている。自己犠牲が激しい。
 基本人当たりの良い性格をしている。ちゃんと話せばとてもいい人。
 そして上記を引っくり返すような風格というか威圧感というかそんなのを雰囲気として出しているので初対面はみんなビビる。本人は分かってない。
 普通の表情をしているときはなんかみんなに怒ってると勘違いされるほど目付きが悪いつり目。片目に傷があるから尚更。難儀な子。色気の権化。
 かなり整った容姿をしている。赤黒色の短い髪に一本のアホ毛、右目の泣きボクロ。左目には縦に一筋傷跡があり、ほぼ動かないし見えない。
 制服のネクタイはつけるけど緩める派。ワイシャツのボタンは第二ボタンまで開いてる。鎖骨。ズボンは左の裾をふくらはぎまで折った。
 身長185cm。
個性『神速』…意識したモノのスピードを認知できないほどに高める個性。物や自身の体には影響しないが、自身以外の人体に、骨が砕ける等の存大な負荷が掛かる。この個性により錺は不可避の『居合い抜き』を放つ。
 使用武器は『太刀』。刃が薄紅色に輝く一級品。

 とある大きな事件により両親共に故人。幼馴染みとその両親も故人。
 錺は今でも幼馴染みに自分の持ちうるありったけの好意と愛情を注ぎ続けている。

 多分体育祭から。(入試〜USJを書きたくないとかそんなんじゃない、そんなんじゃないぞ)



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109:マメツキ◆A.:2018/02/04(日) 00:46 ID:5/6



 最近、USJの敵襲撃とかなんやかんやでびっくりするほど色々あった訳だが。二週間後にあの雄英体育祭が迫ってることに気付いとるんかね。
 俺は威圧感や見た目の問題で現在ぼっちなのであまり会話には入らないが、それぐらいは分かるでとちょっと哀愁漂わせた朝休み。
 雄英体育祭。かつてのオリンピックに代わる大々的日本の競技大会。日本巻き込んでのビッグイベントっちゅーわけや。もちろん、プロが卵の下見に来て評価をつける、プロヒーローに見てもらえる最大のチャンス。
 しかし、今年は敵襲撃の直後。ホンマにやるんかと思っていたが、朝休みのあとのSTで先生が敵への抑止力の為に開催するらしい。ただ、例年の五倍の警備をつけるらしいが。
 なるほど、と包帯まみれな先生に若干見た目があれやなとか思いつつ納得した。

 そしてやって来た昼休み。昨日の夕方、中学時代の家庭的過ぎてあだ名が「お母さん」だった男友達に偶然出くわし、なし崩し的に彼の家に引っ張られ、玄関先で「敵に襲撃されたみたいだけど体育祭頑張れよって意味で!」と頂いた手作りのケーキを賞味する。今年小五の友人の弟も「また今度遊ぼうなー!」と手を振ってくれた。久々に人とふれあった気がする。ありがとう友人とその弟。
 机においた包みをそっと開ける。チェリーパイ。包みをそっと閉じる。確認のためもう一度包みをそっと開ける。相変わらずチェリーパイ。苦笑いが飛び出た。

 ホール丸々なのは見間違いじゃなかった。



『…おぉ』



 思わず漏れ出た感嘆の声。こんがり狐色のパイ生地につやつやの甘そうなチェリーが一面に敷き詰められたそれはきっと甘美な味がするだろう。流石友人、パティシエ並みのケーキ作りの腕は伊達じゃない。しかし、これならきっと食後があう、今じゃない。食堂行くか、と包みを片付け尻ポケットに財布があるのを確認してから席を立った。


**

Noside

 昼休み、教室で弁当を食べるらしいクラスメイトの大半は机に大きな包みを置いた錺へと注目していた。



「騎士って、なに食べるんだろうね」



 呟いた芦戸に葉隠が「いつもはお弁当なのにね」とこくこくと頷く。八百万と耳郎はじっとこちらに気付かない錺を見つめている。



「誰かからの頂き物でしょうか?」
「あの威圧感とんでもない一匹狼っぽい騎士に? 誰だろうね」
「あっ、開けるよ!」



 葉隠の言葉に他の三人だけでなく、気になった教室組の切島、上鳴、峰田、瀬呂たちもその様子を見守る。
 錺が包みを開けた。そっと包みを閉じる。その顔は少し信じられないものを見たかのようだった。再び錺は包みを開けて、しばらくしてから優しく苦笑いした。



『…おぉ』



 感嘆ともとれるその呟きは静まり返る教室によく響いた。おもむろに彼は立ち上がると尻ポケットに財布があるのを確認してから、教室を出る。



「な、なんだ今の……」
「彼女か!? 彼女なのか!?」
「わかんねーよ」

「元々顔整ってるとは思ってたけど、笑った! イケメン!」
「ホントね! それね!」
「中身はなんだったんでしょう?」
「ウチは食べずにどっか行ったのが気になる」



 様々な疑問や憶測が漂うなか、数十分後に教室に返ってきた錺が席につき、『いただきます』と意気揚々とフォークを取り出して包みの中から現れた美味しそうなチェリーパイにみんながみんな目を向いたのだった。



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110:マメツキ◆A.:2018/02/04(日) 01:20 ID:5/6



 昼食にラーメンを食べ、教室で濃厚な甘味の絶品チェリーパイをいただき、ほうと息をつく。至福。
 わりと甘党な俺に美味しいチェリーパイの応援はもし貢がれたとしてもそれ以上に心に響いた。ありがとう友よ、今度お礼に行くわ。やっぱり友人って大事やなあと再確認する。
 疲れが引っ込んだところで、スマホをいじり、久々に開いた無料通話アプリで彼に味の感想を送り付けようとした矢先、「騎士くん」と扉の方から俺の名前が呼ばれた。
 ふいとそちらに目をやると、黒髪の、つり目の女の子が真っ直ぐ俺を見ている。…えぇと、何事や。



「ちょっと、こっちまで来てもらっていいかな!」



 マジでなんや。ちゅーか誰や。……いや、ちょっと見覚えあるぞ。……ちょっと待って、今思い出しとるから。えぇと、えぇと、ああ。思い出した。マスコミが門突き破って来たときに食堂のパニックで転けそうなとこ助けた子や。はー、思い出せてよかった。
 合点がいったと言うように『あぁ、あんときの』と呟いて席を立つ。本にはすでに栞が挟まれている。栞、しおりか……。……うぅ、しおり……。ちょっとというかかなり寂しくなった。
 扉のところまで行くと、「この間はありがとう」とお礼を言われる。丁度俺もアイツにお礼せなって考えてるときやったわ。とりあえず『気にせんでええよ』と笑って返した。怪我がなければ幸い。無事でよかった。



「あー、それでね。……それでですね」



 急に敬語になった彼女に若干きょとりとして「一年経営科の宮原 飛鳥です」と唐突に自己紹介され、「お、おお?」と疑問を返す。



「一目惚れです! 付き合ってください」
『ごめんなさい』



 一考もせずに最早反射で飛んで出てきた即答に少し焦るも、まぁ結果は同じかと開き直った。いやまあ女の子に失礼なのは俺の流儀に反するけれども、変に優しくして期待持たせて傷つけるのもどうかと思うし。いや、罰ゲームの可能性も捨てきれへんねんけど。



「そ、即答……! 即答なんて……私なんて眼中にないってこと……? out・of・眼中ってこと……?」



 とりあえずここは教室の扉な訳で。後ろのクラスメイトの雰囲気が「out・of・眼中か」「即答……」「即答なんて……」「告白なんて羨ましいんだよ……」「即答とはなかなか……即断即決タイプか」「out・of・眼中」「騎士くんって関西弁だったんだ」とだんだん俺の非難へ変わっていく。泣きたくなるからやめろください。関係ないん混ざっとりますけど。




『あー……さっきのは反射と言うか』
「反射!!!」
『あぁぁ!』



 喋れば喋るほどややこしいことになっていく事態に俺収集出来るんかなと不安がよぎる。……うーん、こういうことってないことはないけど、苦手なんよなあ。



「いいんですわかってます騎士くんこう見えて超優しいもんね変に期待持たせないようにしてくれたんだよね!」
『なあ、こう見えてってなんや。こう見えてってなんなんや』



 若干の心的ダメージを受けながら、そうだよね!? とちょっと必死に問い掛けてくる宮原にこくこくと頷くとほっとした彼女は「諦めるつもりはありませんので!」と俺をぴしりと指差す。




『人んこと指さしたらあかんやろ』
「あっ、はい」



 指を折り曲げて握り拳を作らせた。ら、真っ赤になって脱兎の如く走り去ってしまった。
 結果で言うに、俺的超面倒臭いパターンになってしまったに違いない。



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111:マメツキ◆A.:2018/02/04(日) 01:53 ID:5/6



 そしてやって来た体育祭。あの一件で俺は更に敬遠されているらしい。悲しみ。
 ここ二週間、下駄箱に呼び出しの手紙や机に市販のお菓子などがあったりするものの、呼び出しには応じず、お菓子も食べずに取っている。しかし、ちゃんと捨てていないので安心してほしい。ちゃんと保存してあるから。
 呼び出しに応じないのは結果が変わらないのが絶対として分かりきっているから。捨てないのは気持ちを尊重しているから。
 控え室にて勃発した轟の緑谷への宣戦布告や宣戦布告返しを横目に、パイプ椅子に腰を掛けた俺は腕を組んでうんうん唸っている訳で。そろそろちゃんとお断りした方がいいかもしれない。中にはためしで付き合ってみてそれから決めて、という内容もあったが、俺も俺で譲れないのである。



『……10年やからなぁ』



 そう、10年。しおりが亡くなって6年。それでも俺は彼女を想い続けている。これだけは死んでも譲れないのだ。俺きっと独身だな。しおりが心に居たから付き合いはしない。キスもしない。好きとも言わない。
 それでも童貞は卒業済みなんだよな。うーん。
 中学の時、抱くだけでいいからと何人かに頼まれ、仕方なく抱いた。相手は俺が絶対そんなことをしない性格で、そんな性根だと理解していたから泣きながら感謝をのべて、絶対口外しなかった。流石に手首切って死ぬとかカッター持ち出されたり、屋上で落ちて死ぬとかその他似たようなことを言われたりされるとなぁ……。
 あのときはかなり神経をすり減らした。今の状態もちょっとそれに似ている。前は信頼できる友人たちが居たから立ち直れたが、今は居ない。そうなる前にケリをつけなければ。俺がヤバイ。
 扉を出ようとすると飯田に「もうすぐだぞ騎士くん!」と止められるが、『すぐ戻る』と言い放ち、控え室を出た。


**

 経営科の控え室を目指していると、こちらに向かっていたらしい宮原に偶然出会う。


「騎士くん! どうしたの?」



 にへ、と笑った彼女にずくずくと心が痛む。が、俺が真剣な顔をしているのに気が付き、いすまいを正した。



『……悩んだままで体育祭には出れん。あと、ちょっと、キツいこと言うかもしれんけど』



 間髪入れず「良いよ」と返され、少しほっとする。うん、最低か俺は。彼女が良い子で本当に良かった。
 がしがしと頭を掻いて、一言放つ。



『二週間あったけど、やっぱり変わらん。ごめん』
「……あー、まぁ。そんな気はしてたよ、私も」



 残念そうにする彼女にポツリと呟いた。



『俺な、10年間ずっと好きな子居るねん』
「えっ10年! ……すごいね」
『すごない。ただ初恋拗らせとるだけや』



 苦笑いした俺に、彼女はふるふると首を振って、「10年とか本気ですごいよ」と笑った。



「……うん! ちゃんと返事くれてありがとう! 体育祭、頑張って」
『……ん』



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112:マメツキ◆A.:2018/02/04(日) 02:22 ID:5/6




<ヒーロー科! 一年! A組だろぉぉ!?>
『(ギリギリ!)』



 出場にギリギリ間に合った俺はどこかすっきりした面持ちだと思う。
 全国中継のテレビだと言うのに、体操服の前を開けて黒のインナーが見えた上にズボンの左の裾をふくらはぎまでまくった様は最早いつも通りだろうか。きっと友人たちも見ている筈だ、それは活躍せねば。
 先日の爆豪の態度でA組ヘイトが集まっている訳だが、選手宣誓で壇上に立つ彼にちょっと先が読めて苦笑いを漏らす。



「せんせー」



 やる気無さげな彼はズボンのぽっけに手を突っ込んだまま、言葉を紡いだ。



「俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」



 切島が声をあげる。まぁ当然と言えば当然か。だって爆豪だしな、爆豪。
 わあわあと非難が殺到するなかで「跳ねのいい踏み台になってくれ」発言は俺でもどうかと思うけど。これ一位なれなかったら大変なことになるぞ……。



「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!」
「雄英ってなんでも早速だね」
「いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)! さて運命の第一種目!! 今年は……」



 ドゥルルルルと言うドラム音に伴い、デデンと発表されたのは障害物競走。計11クラスの総当たり戦らしい。コースはこのスタジアムの外周約4km。



『コース守れば何したって構わんとか、妨害有りてモロ言うとるやんけ』



 さあ位置に着きまくりなさい! と言う今年の一年主審ミッドナイトの合図で流れるようにゲートへ向かう生徒の波に乗り、運良くゲートの一番前を確保出来た。
 隣には怖い顔した轟。ああ、コイツ絶対地面凍り付けるとかやるわ。絶対やる。この目はやる人の目や。



「スターーーート!」



 その一言で自身に神速を駆けていの一番に走り出す。後方でぱきぱきと音が聞こえたのでやっぱり凍らせたらしい。容赦ねぇ轟。



<さーて実況してくぜ! 解説アーユーレディ!? ミイラマン!>
<お前が呼んだんだろうが>



 相澤先生解説かー。
 そんなことを考えながら神速の速度をかなり落とす。あんまり速くしすぎると、俺の認知を越えてしまう。流石に音速とか見切れないし。だから居合い抜きはほぼ見えない。刀身よりも大きく抉る威力が出るからそれはきっと風圧の暴力だと俺は思っている。
 暴力、暴力か。と不意に目の前の暴力を体現したようなそれに目をやった。



「ターゲット……大量!」



 入試の0ポイント敵だ。



.

113:マメツキ◆A.:2018/02/04(日) 22:24 ID:5/6




<さぁいきなり障害物だ! まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!>

 プレゼント・マイクの実況をどこか他人事のように危機ながら、俺は目の前の入試の0ポイント敵を、背中に下がる刀に手をかけて一切の迷いや躊躇いなく一刀両断した。
 ピシリと真っ二つに綺麗に縦に避けたその真ん中をすたこらと時速40kmほどのスピードで走り抜ける。



<1-Aの騎士が躊躇いなくロボ・インフェルノを一刀両断! なんだアイツ刀抜いたのか!? 見えなかったぞクレイジー! そして同じく轟! 攻略と妨害を一度に! こいつぁシヴィー!>



 恐らく後ろでギリギリと俺を睨んでいるだろう轟に背筋を震わせながら、攻略と妨害を一度にとかどなしたんやと悪態をつく。コイツ恵まれた天才やな。親もおる、兄弟もおる。憎々しげやがその相手が存在することがどれ程良いことかよくわかってない。
 俺は復讐する相手すら居ないんだから、もうちょっと世界に優しくしてもうちょっと大人になれよ轟焦凍。

 後続がドンパチやっている所で訪れた第二関門。落ちればアウト、ザ・フォール。なんか、数ある土の柱に綱渡りみたいに縄が連なっている。これを越えて行けってことか。

 これ、俺にはちょっとだけ難しいかもしれない。とりあえずとっとと轟とか爆豪とか来る前にやってしまおう。


 とか頑張って神速で綱を踏んで飛び越えたりしてたら轟が氷で、爆豪が爆破で空を飛んでったので俺の一位捕守は呆気なく破れた訳だが。
 だってあいつら飛べるもん。ずるい。
 現在三位。これ落としたら上がるん大変やな……。


.

114:マッキー◆5A:2018/02/04(日) 22:54 ID:F6g


凄いですね!小説!ヒロアカのオリキャラから版権キャラまで幅広い文章力や表現力!何処をとっても凄いです。

それで、なりきりが不得意とは思えないのですが!苦手と言う感じが全然無いので、なりきりしたら楽しいと思うし。ヒロアカのなりきりなら、小説のネタとか出来るかと思いますよ!

あ!ちなみに凄く簡単なヒロアカクイズ。このキャラのはだれ?
https://ha10.net/up/data/img/23347.jpg

115:マメツキ◆A.:2018/02/06(火) 23:15 ID:5/6


 うおお、めちゃくちゃ褒められとる……。
 うへへ、そんなに誉められるとマメツキは天狗になっちゃいます(笑)

 クイズの答えは障子くんですね!!
 障子くんも複製腕とかかっこいいので好きです。

116:マッキー◆5A:2018/02/07(水) 21:12 ID:F6g

いえいえ!それでここに良かったらどうかと!なりきりしたら面白い場所をご紹介しますね!

http://m.saychat.jp/bbs/thread/629724/

http://m.saychat.jp/bbs/thread/623373/

正解です!そうですか。障子君って結構声とかカッコイイし(本体の声)
複製した声はそれぞれ声が違った所あるし!後仲間想いな所ありますよね。(USJで黒霧から飯田君を庇ったシーン)

117:マメツキ◆A.:2018/03/16(金) 01:12 ID:VaA

現代からテニプリにトリップしたら跡部に成っていて、その生を全うしたらなぜか次は財前に成っていて、「なんなんやもう!」と憤りながらその生も全うしたらnrtに転生していて財前のまま跡部のインサイドを持ってた男主の話。ナルト世代。


『財前 イオリ』
 財前一族の跡取りで関西弁。容姿と口調は財前、能力は跡部のインサイド。眉毛だけは普通に細いけどきりっとしている。壮絶な紆余曲折の末転生したらナルトの世界で「これ頑張らな死ぬやつやん」ってなった可哀想なイケメン。骨格レベルで相手の絶対死角を見抜く血継限界『眼力(インサイド)』を持って生まれた。普段の目は紅色で、発動時はアイスブルーになる。それを知って「いろいろ混ざっとるやんけ!」と叫んだのは当時四歳の頃。尚前世の財前の目の色はライトグリーン。
 封印忍術や結界、時空間忍術を得意としている。得意なのは瞬身。インサイドあってもその場に行けなきゃ意味ないよねってやつ。出来るだけノーリスクハイリターンが理想。流石最初の人生超絶平和だった男。
 容姿の為モテる。チームワーク大事なのはもう身に染みてる。ほら、全国大会とかU-17の世界大会とかで。

118:マメツキ◆A.:2018/03/17(土) 02:36 ID:VaA

訂正『財前イオリ』→『財前 光』。


**


アカデミーの教室のドアを開けて、ざわついている室内を見渡して空いてる席を視線で探す。あ、窓際の一番後ろが空いてる。ラッキー。
 背中に背負ったボディバッグを横にかけて席について早速自来也様のイチャパラシリーズを開いた。もちろんブックカバーついてるから安心や。

 なんか色々あって四度目の生を授かった俺、『伊織 丞』は今世も『財前 光』として生きていくことになった。前世は財前光、前々世は跡部景吾だった。なんだこのテニプリ面子とか思ってたらマジのテニプリだった訳で。もっかい財前やんの、とか思ってたらナルトの世界だった訳よ。マジ訳わからん。
 まぁ四度目ともなれば慣れるもので、そこそこに楽しくやっている。血継限界がインサイドやったことには混ざっとるやろ! と叫んだもののよくよく考えれば悪いことちゃうし。インサイドを使うために瞬身めっちゃ努力したからな、めっちゃ。お陰で一番得意やで瞬身。黄色い閃光を追い抜く日も近いか? 遠いな。あの人13かそこらで上忍やったし。俺この年でまだアカデミー生やし。いまやあ五歳頃卒業の話は来とったけど、面倒事はごめんやから断った。そのせいかめっちゃサスケに嫌われとるっちゅーな。こわ。
 そんなことを思いながらぺらりと本を一枚捲ったところで隣に誰か来た。ヒナタや、かわええなあ。



「おはよう、光くん」
『おはよお、日向』
「イルカ先生遅いね……」
『……せやな、どうせあれやろ、ナルトが叱られとるんやろ』



 授業開始遅れるから楽でええわーと呟くと「そ、そうかな……?」とヒナタに苦笑いされた。まぁこんなん今更気にしてもどないもならんし、楽観視しょーやと返す。前のシカマルに確かになと同意された。せやろ。あれもう病気やで病気。
 漫画でもそうやったけど、ナルトマジでなんべん怒られてもやめへんねんけど。あれか、構ってもらえるのが嬉しいのか。イルカ先生最初は里の人らと同じような冷たい反応しよったけど、今じゃちゃんと叱っとるしな。心境の変化様様。ナルトは構ってもらえて嬉しいんやろなあ。俺は怒られるなんて真っ平やけど。Mでも無いし。



「…光くんは何を読んでるの?」
『自来也様の書いたやつやで』
「ああ、ド根性忍伝だね…」
『……あ、そうそう。主人公の名前がナルトなんや、すごない?』



 いやまあ四代目がつけはったんやけどな。それにしてもヒナタがド根性忍伝と勘違いしてくれてよかった。



.

119:マメツキ◆A.:2018/03/17(土) 02:55 ID:VaA


 昨日の夜更かしが祟ったのかちょっと寝坊した俺はちょっとズルかと思いつつ瞬身で校舎のトイレに飛んだ。そのままぱたぱたと廊下を駆けて教室に入ると何やらナルトとサスケの周りが騒がしい。
 席に着きながら後ろに体を捻ってからそこにいた同級生に『おはよお、なんやあったんか』と問い掛けた。



「ああ、光おはよう。いや、俺もよく見てねえんだけどさ、なんかサスケにナルトが至近距離でガン飛ばして、サクラがぶつかってナルトとサスケがそのまま……って感じらしいぜ」
『……そか。分かりやすい説明ありがとお』



 くるりと前を向き、ぱらぱらとイチャパラを捲る。うーん、今日だったか。見たかったような見なくてよかったような。だからナルトが女子から袋叩きにされとるんか。ちょっと不憫な気もするけどまあ、いつの時代も乙女が強い言うことで。ヒナタはちょっと可哀想。仕方ないと割り切ったってや。そりゃまあサスケのファーストキス狙ってた女子からしたらナルトに奪われたようなもんやしな。しかしそう言うのは女子が一方的に狙うんじゃなく双方の合意の元でしなければならないのでは?
 こんな疑問は胸に留めておくことにした。口に出すとまたうるさくなりそうやし。

**


 卒業試験の分身の術も無事合格をいただき、額宛をもらった。これなんか二重の試験待ってるからしんどいねんな……なんやねん下忍試験は6割落ちてアカデミー逆戻りて。やっぱり世の中理不尽なんやなあ。
 教室で不合格を貰っていた筈のナルトがいたためあぁミズキ先生アデューとかせせら笑いつつ、とりあえず10か8班が良いなと呪文を唱える。だって7班とか死ぬフラグやろ。死亡フラグ立っとるがな、なんもせんでも立つがな。サクラ以外全員爆弾過去持ちやがな。いや、サクラも怪力に目覚めるけど。その班に俺が入ってチームワークが活かせられれば多分バランス良すぎるチームになるとおもうけど、里抜けが若干名おるからな。全く、いのしかちょーでも10班でも良いよ俺は。



「うちはサスケ! 春野サクラ! 財前光! そしてうずまきナルト! 以上が第7班だ!」



 お上は俺を殺しに来とるんかオイコラ。



.

120:マメツキ◆A.:2018/04/05(木) 23:36 ID:Rfs

現代→nrt転生トリップ
 オビトもリンもミナト先生も死ななくてうちはもクーデターなんて企てなくて五大里も仲が悪くなくマダラも落ち着いてて暁と言う組織もなくサスケも里抜けせず第四次忍界大戦なんて起こらないと言う夢にまで見た平和な世界線。要するに危険なことがない。
 転生トリップ主はうちはの家系。オビトは親戚。フガク家族は従兄弟。リン可愛い天使女神超可愛い好き、な眼鏡女子。名前は『うちはシオリ』
 っていうほのぼのが書きたくなった。一応カカシ夢。

**

 ナルト世界に生まれて幾星霜。ごめんそんなに生きてない私まだ五歳。一応前世の記憶を持った転生トリップなるものをしたが、私は神様になんてあっちゃいないし死んだ記憶も残念ながらない。夜寝て目が覚めたら母の中からこんにちはした状態だった。当初よくわからず赤ん坊だったこともあり泣き喚いたがまぁ落ち着きを取り戻したけどさ。
 うちは一族に生まれてしまったんだがどうしよう。作中ナンバーワンで命の危機に瀕してるんだが。確かイタチくんが暗部の命令でクーデター企ててたうちはをサスケちゃん残してブッコロしちゃったのはそりゃもう記憶にこびりついてる。その時はサスケ可哀想だな、物語進んで真相知ったときイタチお前すげえその上司ブッコロとか思ったけどもさ。そりゃないぜとっつぁん。そもそもここにとっつぁん居ねーよルパンの世界線行け。

 まぁそんなわけで。二歳ごろ自分の置かれた状況に命の危機を感じて鍛練を始めた。いやあ父との鍛練が進んで命の危機に瀕するとはおもわなんだ。でもまあ写輪眼も出たしいろいろスッ飛ばして万華鏡写輪眼も出たしオールオッケー。こんなに簡単に出てもいいのか万華鏡写輪眼。いやダメだろ。父さんも父さんだよ何してくれとんだ。全然オールオッケーじゃねーよ馬鹿か私。
 私はどうやら剣の方に才能が有るらしく適性だった火遁と風遁を使って上手くその才能を伸ばしている。日本刀とかまじかっけー。厨二心擽られる。前世の私は幾つだったよもう精神年齢25越えてるよそれで厨二とかうわ私やべーな。
 火影岩見りゃ三代目様までしかない。マジかよ主人公世代じゃなくてよかった……いややべーよ今第三次忍界大戦の終わり頃じゃねーか時期的に。確かうちのオビトが出た神無毘橋で決着着くんだよなうおおオビトは今生まれてるのか年は幾つだ! それで私の運命が決まる!
 その時「オビト君なんていつ知ったの、まあいいわあの子なら貴方と同い年よ」と母に言われたときの衝撃はでかかった。
 同世代かよ!! 母さん軽いわ!!

 そして現代アカデミー。まぁ楽しく暮らしてますよ。



「シオリちゃんおはよう!」
『リンおはよう』



 とりあえず叫んでいいかな。リン可愛い。



.

121:マメツキ◆A.:2018/04/08(日) 21:57 ID:Rfs



転生したらテニプリの某詐欺師みたいなことが出来るようになっていた男主が木の葉でのほほんするだけの話。見た目は仁王だけど髪が黒くて目が赤い。普通に喋る常識人。サクモ世代。


ていうのを書きたいです!

122:マメツキ◆A.:2018/06/17(日) 00:14 ID:McY

成り代わり荒船哲次(ワートリ)inヒロアカ

荒船哲次
 超理論派サラリーマンが事故で死んで転生したら荒船哲次とか言うイケメンに生まれてた記憶持ち原作知識無し。ボーダー入隊して木崎さんすげーってなってアタッカーからスナイパーした行動派。原作より戦闘力かなり高めでA級クラスとか言われてたらいい。なんやかんやとネイバーと戦って30歳。二十歳でパーフェクトオールラウンダー理論を確立させてマニュアルを作るもそれに必要なトリガーがもの足りねえってなってエンジニアに転向。そこから寺島さんに教わりつつトリガーの構造を熟知、マニュアルを完成させた。
 隊もかなりの古株になったしなあって思ってた所で事故で亡くなる亭年30歳。
 そしたら荒船のまままた転生してた理論派。個性? 敵? ヒーロー? 俺の個性は『トリオン』? ならここでもパーフェクトオールラウンダー理論作り上げてやろうじゃねーのと。アクション映画ばりに敵なんざ薙ぎ倒してやるぜと。アクション映画? ビルから飛び降りる真似するほど大好きですが何か。犬? あれの話はするなっ……!
 前世知識を存分に生かして主要トリガーからトリオン体、果てはトリガーケースまで造り上げる努力家(若干チート)
帽子をアイデンティティにヒロアカ世界で突っ走る荒船(成り代わり※しかし原作と大差ない)のお話。

 ちなみにデク&爆豪と同じ小中。(あんま関わりない)
 1-Aで斬撃狙撃お手のものって感じのパーフェクトオールラウンダーやりながらみんなとがんばります。

123:マメツキ◆A.:2018/07/04(水) 00:25 ID:bWM

記憶持って転生した影浦がヒロアカでがんばる話。雄英1年A組。

影浦雅人
 個性『トリガー』サイドエフェクト『感情受信体質』
 記憶にあるトリガーを主に扱うもの(基本前使ってた物ばっか)。サイドエフェクトは以前と変わらない。
 粗野な面はあるけど根は単純でいい人。雄英近くのお好み焼き屋『かげうら』次男坊。

**

 何かが刺さる、と言うか皮膚を撫でていく感覚に襲われ、がしゃーんと食器が重力に従い床へ叩きつけられて割れた。あ、くそ能力。

 意識がふと浮上したら、俺は四歳児になっていた。


 それから数日、わかったことと言えば超常が日常で個性なんつうのがこの世界の約八割に発現しているらしい。
 どうやら俺の個性は『トリガー』らしく、その副作用で感情受信体質が引き継がれたようだった。
 そして考えるがこれ転生じゃねーのかと考えたわけだ。わりとその手の漫画を読んでたのもある。が、俺は死んでないから不思議でならない。戻りたいとは思うもののもとの世界に戻れるまでの辛抱か。
 そしてここ数日で聞き慣れた『ヒーロー』と言う単語。ヒーローって何、と店の手伝い中だった俺が常連に聞くとあんなになりたいって言ってたのにどうしたと感情が刺さる。まあ、個性で犯罪を起こすやつらを取り締まるまあ対個性警察みてえなもんだ。

 前と変わらない環境で手伝いして、幼稚園行って。



『……だりーな』



**

 中学三年の春。始業式で早く帰ってきた俺は相も変わらず店の手伝いをしていた。ここ数年で刺さる感情は店ならかなり柔らかい。
 注文を受けていたとき、不意にその常連客が俺に話し掛けてきた。ネズミなのか犬なのか、よくわかんねえ容貌の見た目がかわいいおっさんである。



「ねえ雅人くん、君雄英に行く気はないかい?」



 急にどうしたとばかりにおっさんを一瞥してプレゼント・マイクの注文を書き出し、『どうしたおっさん……』と俺は若干引いた声を出した。マイクがやいのやいの行ってるがこの際無視だ。

124:マメツキ◆A.:2018/07/06(金) 00:09 ID:bWM



「君のその感情受信体質、かなり役に立つと思うんだ!」



 その一言に「……そんなに便利なもんじゃねえよ、こんなクソ能力」とだけ一言残し、次の席に移る。
 感情受信体質。ある種迅さんの未来視よりもしんどいサイドエフェクトは、他人の己に対する感情が針となって刺さる。不愉快な感情であればあるほど刺さったときの感じ方は不快になる。他人の感情がダイレクトに伝わってくるのだ。
 一通り手伝いを終えて自室に籠って一眠りしよう。それが一番、今はいい。

 翌朝、母に「雄英からスカウトなんてよかったわねアンタ」と言われてどういうことだと硬直する。雄英、確かに行かねえのかとかそんな話はしたけどスカウトだと?
 そんな顔をしていたのだろう俺に母はこう言った。



「あのネズミのひと、雄英高校の校長さんなのよ、まさか知らなかったの?」
『……知らねーよ……』


**

 あれよあれよと言う間に高校の入学式。俺はというと雄英高校の門を横目に大きくため息をついていた。
 結局、母が勝手にスカウト受けるだなんだ言ったらしく、回避行動が取れなくてずるずる引きずられるように引っ張りこまれてしまったのだ。
 しかしまあ俺みたいなのがこんなトップ争いしてるような学校で生き残れるとは思わない。



『……だり』



 向かうは1年A組である。

125:マメツキ◆A.:2018/07/08(日) 01:50 ID:m0o



 いやはや。雄英ってクソぶっ飛んでんな。初日から入学式スッ飛ばして最下位除籍の個性把握テストやらせるとは。いくら自由な校風とはいえマジで自由過ぎる。それをやってんのが相澤のおっさんなのに驚きだ。何を隠そう俺がガキの頃からの常連客なのだけど。
 トリガーを駆使して全てでそこそこの点数をとった俺は相澤のおっさんから刺さる感情に舌打ちしつつ教室へと戻る。真面目にやれだと、ざけんじゃねー俺はヒーローになる気はねえ。

 猫背にクソ悪い目付き、マスクにズボンに手ぇ突っ込んだ俺に声をかけるやつなんてまぁ居ない。いや別にもう精神年齢が30オーバーした俺は当時のバリバリ高校生だった時のようにツルもうだとか絡もうだとか思わねえけど。いや、前世でもばか騒ぎはすぐそばで眺める程度だったか。教室で穂刈の野郎が鋼にあることないこと倒置法で吹き込むのを爆笑しながら見てたぐらいで。

 そんなことを考えながら荷物も纏めて校門に向かっていると聞き覚えのある声に呼び止められた。ばっと振り向けばそこには。



「……は、カゲ?」
『…荒船……』
「ブレザー死ぬほど似合わねーなお前……」
『ぶん殴るぞ』



.

126:マメツキ◆A.:2018/07/09(月) 00:52 ID:m0o



 翌日。今日は荒船と登校中だ。荒船にもどうやら記憶が残っているらしく、まぁ、気心知れた友人な訳だ。



「なんだよ、お前もスカウトか」
『っせ、ババアが勝手に決めやがったんだよ』



 何を隠そうこいつ、隣のB組らしいのだ。うわちけえ。
 荒船も個性はトリガーらしく遠中近とで進んでいるらしい。二人目のパーフェクトオールラウンダーは伊達じゃないってか。
 帽子がないから多少の違和感を覚えるが、コスチュームじゃどうせいつものアイデンティティが頭の上にあるだろう。



「トリオン体作れるようになったからお前にもやるよ」
『荒船やべーなおまえ……』
「崇めろ」
『うぜえ』



 荒船と別れて教室へ。午前は必修科目に英語とごくごく普通の授業だった。
 飯時は荒船に誘われ食堂へ。ヒーローが作ってるらしく文句なしにうまかった。
 午後は待望らしいヒーロー基礎学。担当はオールなんちゃらさんだとよ。
 コスチューム身に付け外に出りゃグラウンドは疑似市街地だわ室内戦闘訓練だわなんだわと盛り沢山な訳だが、まぁ俺の浮きようは仕方ないっちゃあ仕方ない。みんな何かしらの装備をしていると言うのに俺は黒いコートにワークパンツ、要するに前世の隊服のまんまだからだ。なんだあの軽装と思われてもそれが普通だ。
 襟元のエンブレムを一撫でしてちょこちょこ刺さる感情に軽く舌打ちする。……あ、なんだこれ……好奇心? 探求心?
 ぱっと振り向くとそこには緑のマスクした奴が俺に声をかけようとしていた。



『……んだよ』
「えっ、イヤッ、かなり軽装だからっ! ど、どうしてかなー、と思って、」
『あぁ……個性の関係だ』



 きょどるそいつにたいしてわりと普通に返答したら多少驚いた様子だ。困惑が刺さる。



「……どうして?」
『俺の個性がかなり攻撃向きだからだ。あと興味津々で俺んこと見んな、痒い。刺さりまくりなんだよ』



 とりあえずどういうわけか問われる前にふいと背を向けて話始めたオールなんちゃらに意識を向けた。



.

127:マメツキ◆A.:2018/07/10(火) 00:41 ID:m0o



 そして始まる戦闘訓練。要するにペアチームで敵とヒーローに別れてから核を敵が守るかヒーローが回収するか、あと倒すかで勝敗が決まるらしい。
 めんどくせーなこれ建物壊しちまったらダメなやつじゃねーか。大規模破壊をすると建物が崩れて何かしらが核に作用して大爆発なんてことになりかねない。
 俺は轟、障子ってやつらのチームに一人余ったから放り込まれた。オールなんちゃらてめー雑なんだよ色々と。パワーバランスはどうなってんだ世……推薦入学とスカウト入学一緒にしちゃいけねーだろ……。

 第一戦目は爆豪と緑谷の私情を挟みに挟んだ泥試合だった。二人して建物破壊するわ麗日は核のこと考えてねーわで見てるとき思わず舌打ちがもれたろーが。隣の紫チビから怖いもんでも見たかのような表情と恐怖の視線をもらっちまっただろ。唯一まともなのは飯田か。
 まぁ言いたいことはポニテの八百万が全部言ってくれたからもういいけど。
 第二戦、俺達三人VS葉隠と尾白。くそあっさり終わってしまった。轟がチームワークも作戦もその手段すら俺達に説明せずビルを氷付けにしてしまったのだ。こいつはなんだもう。チームワークはこの際置いておく、せめて手段ぐらい説明すれば俺達も棒立ちにならずにすんだのに。
 轟がビルを凍らせて溶かしたあと、大きな溜め息を吐けばなんだと言わんばかりに轟に睨み付けられたのでとりあえず肩をすくめておいた。
 その後の試合はまちまち。訓練にならない訓練よりは全然ましだった。



『…こんぐれえだな、今回の戦闘訓練は』
「ランク戦なら建物破壊普通に出来るから気にしなくていいんだがな、それを置いといてもまぁ子供らしいと言うか」
『俺らも同い年だろーが』
「カゲお前肉体年齢同い年を恋愛対象に見れるのか」
『……ちっ』



 流石に犯罪だろ、と言うと違いないと荒船から笑いが帰ってきた。
 教室での反省会には参加せず下駄箱に一直線に向かえば荒船に会ったので戦闘訓練のことをお互い話し合う。ランク戦じゃあ真っ先に狙われておとされるやつだなとか、そんなん。

 わりと後方から爆豪、緑谷、オールマイトからの視線が刺さるがまぁほっとこう。



「うーっし、お前んちで作戦会議としゃれこもうぜ、腹減ったわ」
『おごんねーぞ自分で払えよ』



 けちくせー野郎だな、とどかっと肩を組んできた荒船の横腹にかるく一発かませば「カゲくそ野郎」と罵倒が飛んでくる。



『うっせえな泳げねーくせしやがって』
「泳げねーのはカンケーねえだろこの」



 その時俺のケータイが着信を知らせた。

128:マメツキ◆A.:2018/07/11(水) 01:09 ID:m0o



 言っておくと。俺の携帯電話の番号は前世と同じもので。着信した電話番号は驚くぐらい見覚えのあるものだった。



『……もしもし』
【……村上だ、その声はカゲか、よかった、番号は変えてないんだな】
『はぁ!? 鋼!?』
「鋼だと!?」
【お、そっちは荒船がいるのか。こっちはあと犬飼がいるぞ】
【話は聞いたよー、カゲー荒船ー久しぶりー】



 衝撃の出会いである。よもや鋼と犬飼までいるとは。他を探せばいそうな気がするのは気のせいか。
 鋼と犬飼はどうやら士傑に別クラスでいるらしく、まぁ今の俺たちのようになっているらしい。



『おーなら話ははえーな、鋼今度俺んちの店こいよ』
【行く】
【俺はー?】
『来んな』
「来ていいってよ」
【やったね!】
『言ってねー!』



**

 夜。腹を空かせて帰って来たからか荒船はいまだモグモグとお好み焼きを頬張っている。夕方ごろに来たくせによく食うもんだ。俺が友達を連れてきたのは初めてだからかめちゃくちゃ歓迎されていた荒船に憐れみの視線を刺されたので握り拳を見せておく。とは言え俺も頭にタオル巻いて店の服着て手伝い中だ、呼ばれたからバタバタと慌ただしく移動する。
 次にがらりと扉が開いて入ってきたのは相澤のおっさ……相澤先生とブラドのおっさん、プレゼント・マイク、ミッドナイトさんその他もろもろ。……なんか骸骨みてーなの居んな。見ねえ顔だ。



「よう影浦」
『暇かよ相澤のおっさんども……おいババァ! ヒーロー勢来たぞ!』



 直後「ババァって言うんじゃないわよバカ雅人」と怒声が返ってきたのもいつも通りだ。

129:マメツキ◆A.:2018/07/11(水) 01:23 ID:m0o



「なんだ、荒船も来ていたのか」



 そういったのはブラドのおっさんだった。どうやらB組の担任らしい。荒船は口の中のものをモグモグそしゃくし飲み込んだあと「こんばんは先生」と一礼した。
 先生たちと一緒に来た骸骨のおっさんも多分先生だろうと思われ、隣の相澤先生に何やら耳打ちしていた。刺さる感情からするにどうして俺がここにいるのかを聞いたのだろう。息子だと教えられたらしく納得が肌を滑った。



『つか荒船てめーいつまで居座って飯食う気だ早く帰れよもう九時だぞ』
「うわ九時とかやべぇな……おいカゲ今日泊めろ、帰るのだりーわ」
『くそ船それやめろ痒い』
「フッ」
『泊めてもらう立場の奴が鼻で笑ってんじゃねえぞ!痒いわ!』



 お互いヘラでオラオラやんのかと稚拙な攻防を繰り広げていると周囲から刺さるそれが一気に和らいでいく。『和むんじゃねえ!』と叫ぶが全く変わらなかった。



「雅人の感情受信体質は健在だなあ!」
「一時それのせいですごく暗いときもあったけれどね」
「それがあんな風に友達つれてんだから私達年とったわねー」
『っせ』



 常連客からの言葉に空気を吐く。照れんなよ、とはははと笑う荒船が憎たらしい。あと教師たちの荒船と影浦って仲良かったのかみたいな視線も痒い。骸骨先生からの感情受信体質への疑問の視線も痒い。



「流石はあの純粋な鋼に根は単純でイイヤツと言わしめた野郎だな」
『あのやろう…』
「根は単純でイイヤツ……」
『笑ってんじゃねーぞ荒船こら』

130:マメツキ◆A.:2018/07/12(木) 01:15 ID:m0o



 翌日の昼。食堂で荒船と飯を食べようとしていたときのこと。不意に水取ってくるわと立ち上がった荒船に「おー」と気の抜けた返事をしてスマホをいじる。マスクに姿勢が悪くスマホいじって目付きが悪い。そんな俺は視線を多々集めている。なんであんなのが雄英にいるんだと言う視線が刺さって不愉快だ。だから俺は人混みが嫌いなんだ。

 すると不意に警報が流れる。なんか、今朝のマスコミを校内に入れなかった防犯システムが突破されたとかなんとか。迅速な避難の行動過ぎてパニックになってんだけどどう収集つけんだこれ。と半ば呆れているとラインに通知が来た。
 荒船である。



【水汲むとこに居る。早く来い】



 小さく舌打ちしてガタリと席をたつ。ここら辺は人がいなくなってがらんどう、水汲むとこは人混みのなかだ。くそ……。
 人だかりのなかに身を滑り込ませて間を通り抜けていく。わざわざ俺呼んで一体どういうつもりだあいつは……。
 パッと目的地に付くとそこには荒船が居た。いやいないとおかしいんだけどよ。
 なんでうちのクラスの八百万と耳郎がいるんだよ……。



『荒船それどうなってんだ……』
「人混みに引っ張られてこけかけそうになってたんだよ、とりあえず端に寄せたけど俺一人じゃそろそろもたなかったからな、ナイスタイミング」
『てめー……!』
「良いからとっとと手伝えよカゲ」
『だろうと思ったわ!』



 なんで俺がとかぶつくさ言いつつも断れないのが俺だ。くそ、コイツ理解してるからムカつくわ……八百万と耳郎からの困惑の視線も鬱陶しい。
 舌打ちを噛まそうとしたとき、荒船が口を開いた。



「悪いな、あんまりカゲのこと見てやらないでくれ。そろそろ爆発する」
『うるせーな』
「まぁ根は単純でイイヤツなんだ、嫌な感情さえ向けなきゃただの御好み焼き屋の次男坊だしな」
『荒船そろそろいい加減にしろよ! 首飛ばすぞ!』
「出来るもんならやってみろよ、ぶったぎってやるぜ」
『上等だ後で表出ろ』
「こっちの台詞だ」



 人が捌けてきた頃、俺たちは「じゃあちょっと俺達行ってくるから」『……』「カゲ」『うるせえ』と二人を出口まで送り届けたあと中庭へと移動した。
 最後まであっけにとられてしゃべれなかった二人はまぁあとでどうにかする。



.

131:マメツキ◆A.:2018/07/13(金) 23:44 ID:m0o



 荒船とは一応言い争いで終わらせ教室に戻る。すると八百万と耳郎からの視線がいたい。なんだこれ勘弁してくれよ。
 あと非常口飯田ってなんだ。緑谷は委員長の座をそいつに譲るのか。なに? 昼休みの食堂? 俺居たけど知らねーよ。

 その後、八百万と耳郎が俺の席にやって来た。
 俺の席は八百万の後ろ、二十の席からひとつ飛び抜けたところにある。これも一応、スカウト枠の悲しい性ってやつか。今年から導入らしいけどスカウト枠。



「あの……お昼休みではありがとうございました、影浦さん」
「うん、正直助かった」



 真っ直ぐの感謝と刺さるそれに照れ臭くなって視線を逸らし『ん』 とだけ一言返す。しかし周囲がざわついているのが気になる。なんだあいつとか、影浦っての何したんだとか、あとは女子二人に対する心配的な警戒の対象、あとは興味ねえって視線。好意的な視線がないそれらがいっせいに俺に刺さって気持ち悪い。辛うじて目の前の二人の好意的なそれが救いだ。
 だんだんと微かに青くなっていく顔に気が付きつつも、もとの席に戻らない二人に視線を投げた。



「その、ひとつ質問よろしいですか?」
『……言ってみろよ』
「……B組の荒船さんが仰っていた『刺さる』とは一体どういうことなんですの?」
「あ、言ってたね。あんまり見てやるなよ、とか。どういうこと?」



 その二人の質問に答えようとしたとき、緑谷が「あっ、ぼ、僕も前に影浦君がいってたその事について聞きたかったんだ!」と寄ってきた。これにより視線は『疑問』へとシフトチェンジされる。……不愉快なものよりか全然ましだ。



『……感情受信体質』
「……え?」
「感情受……なに?」
「!? そ、それってどんな個性……!?」
『あー、ある意味個性か?これ……』



.

132:マメツキ◆A.:2018/07/14(土) 00:13 ID:m0o




『感情受信体質ってのは、俺の個性の副作用みてぇなもんだ』



 そういうと副作用!? と緑谷がやけに食い付いてくる。別に前々からそういう片鱗はあったから気にも止めない。



『俺の個性は万能で攻撃特化みてぇなもんだ』



 個性【トリガー】。心臓の近くにある見えない内蔵、トリオン器官から作られるトリオンと言うエネルギーを武器や防具、その他のサポートとして具現化して扱う。トリオンは、まぁ多い方が戦闘面で有利にはなる。



『この個性はわりと被りやすくてな、俺以外ならB組の荒船、他にも同い年に二人いる』
「……じゃあ、その他の方も副作用を?」
『いや、俺の他に持ってるのは一人だけだ。トリオン器官の発達のしすぎでトリオンがでかくなって身体に異常を起こすことが極希にあんだよ。それこそ宝くじが当たる確率だけどな。それが副作用……サイドエフェクトだ』
「サイドエフェクト……」
『それがあれば戦いじゃかなり有利になったりするが……マトモな日常生活は送れねえ。
俺の場合……くそ能力、感情受信体質はな、相手の視線から俺に対する感情の全てを受信する。受信っつっても脳内に直接語りかけるとか、そんなんじゃねえ』



 相手の感情が肌に刺さる感覚だ。チクチクする。好意的な感情ほどくすぐったいし、不快な感情ほど刺さり方が不愉快で気持ち悪い。簡単に言うと、好きとか優しいとか面白いとかの感情が知れる反面、嫌いだとか嫉妬だとか蔑みだとかの感情すらもダイレクトに伝わってくる。



『あそこの紫ちびからの『妬み』や爆豪からの『敵対心』も分かる。しんどさは他のサイドエフェクトを引き剥がしてトップを独走中だ』
「そんな……」
『別にもう折り合いはついてるからいい。それに、これのお陰で俺には不意打ちが効かないからな』
「……じゃあ、聞いてもいいかな?」



 ふっと顔をあげた緑谷になんだ、と視線で問い掛ける。いやまあ刺さるから分かってるんだけどな。



『そのサイドエフェクト、他には何があるの?』



 その一言に、クラスの疑問がひとつにまとまる。ふうと大きく息を吐いて『俺の知る限りじゃ……』と口を開いたところで別の声がその続きを引き継いだ。



「睡眠強化学習に未来視、相手の実力を色として可視化する、耳が人の五、六倍いい、動物と意思疎通ができる、相手の気配を察知する、気配を消す……あとなんだ?」
『あれだろ、嘘を見抜く』
「そうそれ」
『てめーなんでここにいんだB組だろうが』



 ばっと振り向くとそこには腕を組んで仁王立ちする荒船が立っていた。荒船に緑谷はヒッと萎縮し、女子二人は昼休みのことで感謝を述べていく。
 一通り対応し終えた荒船が言った。



「サイドエフェクトのせいでイライラして誰彼構わず噛みついてると予想して様子を見に来たんだがな、お前はなんか普通に個性のこと喋ってて拍子抜けした仕返しだろ」
『ちっせえ』
「そう言うなよ」
『おいきもちわりー感情向けんな』



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133:マメツキ◆A.:2018/07/17(火) 00:30 ID:WTU


 一頻り荒船を威嚇したあと、緑谷が「あ、あの……」と荒船に対して口を開く。



「……君は? B組らしいけど……」
「ああ、俺か。自己紹介が遅れて悪いな。荒船哲次だ、よろしく」



 荒船のそれに反射的に自己紹介を返した緑谷は「影浦くんと個性が一緒だって聞いたけど」と容赦なく踏み込んでいく。こいつなかなか度胸あるな。



「ま、カゲの言う通り個性は一緒だな。使い方のスタイルが違うだけで」
『おい荒船、べらべら手の内喋んな』
「喋らねーよ、俺だって不利になんだから」



 ポジションがどうだのと口を開く前に釘を刺せば軽い同意が飛んでくる。まぁ、楽しみに取っとけよってことだ。


**


 翌日。今日のヒーロー基礎学は急遽教師三人体制でレスキュー訓練らしくそれ用の訓練所へとバスで移動した。バス内の話題はせわしなく移り変わるものの、俺に刺さる感情は感情受信体質を詳しく聞いてみたいと言うものばかり。隣の轟からも一身に突き刺さるので流石に寝た。
 到着した場所はUSJ、嘘の災害や事故ルームというらしい。訓練施設はまるでアトラクションのようでこりゃUSJと呼ぶのも分かる。
 なんやかやとUSJ考案者13号の増えるけどかなりためになる話を聞いていたんだが、問題は、そのあとだ。
 敵が攻めてきたのだ。雄英に。
 オールマイトを、ころす為に。
 黒いワープゲートの個性でクラスの半分が散り散りにUSJ内に転送されているのが目の前の雑魚敵からの視線で伝わる。……オールマイトを倒す算段があるから攻めてきたんだろうな。
 俺が今居るのは倒壊エリアのとあるビルの中。群がるのは俺をただの学生とナメきった視線の雑魚敵ばかり。
 ああ、もう。



『俺はな、ナメられんのが大っ嫌いなんだよ!』



.

134:マメツキ◆A.:2018/07/17(火) 00:44 ID:WTU

切島side

 爆豪と共に倒壊エリアの敵を一掃する。あてがわれた敵の実力は言ってしまえば俺たちの敵ではなかったが、なんせ数が多い。



「これで全部か、弱ぇな」
「っし! 早くみんなを助けに行こうぜ! 俺らがここにいることからしてみんなUSJ内にいるだろうし! 攻撃手段少ねぇやつらが心配だ!」



 とりあえずまぁ爆豪のワープゲートぶっ倒す発言だとか、後ろから迫っていた敵を倒したこととかわりとクラスの奴等の実力を信頼していたことに俺は強い男気を感じたわけだ。
 そういうわけでワープゲートを倒しにいくことにのったんだが……。
 下の階からがしゃーんと大きな音が響いてきたんだ。
 びくりと反応した俺たちは視線を合わせて階段を駆け降り、その光景を見た。
 俺達が闘った敵よりも多い人数が、壁近くの床やそこら辺に転がっている。そこにただ一人立っているのは影浦だった。
 俺達二人であの量を相手にしたのに、真ん中で光る剣を持ったアイツは、たった一人でそれより多い敵を俺たちと同じ時間で倒したのか。
 それを見たとき、ただただ純粋にすごいと思ってしまった。



『あ? んだこれ……ってお前らかよ、変な視線刺すな』



 確か、感情受信体質だったか。今のすごいって感情も読まれているのだろうな。
 次の瞬間、影浦の右腕がぶれ、俺と爆豪の顔の横を勢いよく何かが通り、後ろでぎゃっと悲鳴が聞こえる。
 振り返ると無傷なのに首を押さえてくずおれる敵の姿がそこにあった。
 ……影浦が、やったのだろうか。



『あー、こちら影浦……って別に報告は要らねぇんだったか』



 影浦が小さく「もうクセだな」と不服そうに呟いたのを俺たちはきちんと聞いた。



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