平穏な日常、当たり前の毎日の中には、見えない悪夢が隠れている・・・・・
その悪夢がどんなに小さな些細なものであったとしても、気づいたならば決して見逃すことは許されない・・・・・
平穏を崩されたくないのであれば・・・・・
【邪仙の異空間】
青娥
「ふふふ……少しばかり楽しい」
青娥を始めとした仙人は自身の力によって"仙界"と呼ばれる異空間を生み出すことが出来る。その異空間は外部からは感知する事が出来ないにも関わらず仙界側からは意図的に景戒を狭めることで任意の場所を覗き見ることが出来る隠れ家的なものとなっている。
特に青娥のように天人になれずに仙人のまま千年以上を生きている青娥にとって、この仙界を介した空間操作は呼吸や瞬きと同じようなものであり、その途方もない経験と知識から作り出された空間操作の精度や効力はより上位の仙人であり、聖徳王と呼ばれたあの神子でさえも上回る……
そんな完璧とも言える隠れ家(仙界)から美鈴達の様子を見ていた青娥は空間を薄めるために使用していた簪を右手に持ったまま左手を自分の頬を撫でるように当て、妖艶な笑みを浮かべながら更なる惨劇をもたらすための策を講じ始める。
【邪仙の異空間】
青娥
「あらあら、随分と楽しそうになってきましたわね?」
青娥を始めとした仙人は自身の力によって"仙界"と呼ばれる異空間を生み出すことが出来る。その異空間は外部からは感知する事が出来ないにも関わらず仙界側からは意図的に景戒を狭めることで任意の場所を覗き見ることが出来る隠れ家的なものとなっている。
特に青娥のように天人になれずに仙人のまま千年以上を生きている青娥にとって、この仙界を介した空間操作は呼吸や瞬きと同じようなものであり、その途方もない経験と知識から作り出された空間操作の精度や効力はより上位の仙人であり、聖徳王と呼ばれたあの神子でさえも上回る……
そんな完璧とも言える隠れ家(仙界)から美鈴達の様子を見ていた青娥は空間を薄めるために使用していた簪を右手に持ったまま左手を自分の頬を撫でるように当て、妖艶な笑みを浮かべながら更なる惨劇をもたらすための策を講じ始める。
落ち着きなさい、私は回復魔法は使えないけど、救う策がないとは言ってないわよ?
(そう言うと、咲夜の横たわる床に魔法陣が浮かび上がり、そのまま咲夜がいた場所には咲夜が消え、ビー玉ほどの大きさの謎の透き通った玉が現れる・・・・・
これがパチュリーの言う救う策とやらなのだろうか・・・・・
そして、謎の人物による突然の襲撃という事態の対応に精一杯で、青蛾の悪巧みなど夢にも思っていなかった・・・・・)
美鈴
「………これは?」
パチュリーの使う魔法のどれも、対象の姿形を変えるような術は無かった筈であり、パチュリーと知り合って長い美鈴にとってでさえ始めてみるこの魔法が何なのかわからず、問い掛ける。
これは一時的に対象を現状維持できる魔法よ、時間が進んでもガラス玉の中に影響はないわ、言わば仮死状態ってとこらかしらね・・・・・
(そう言うと「この状態なら、永遠亭まで運ぶのも問題は無いわ・・・・・」と、恐らくはいざと言う時の為に密かに学んでいたであろう魔法を駆使して美鈴にこれなら大丈夫だと告げる・・・・・)
青娥
「うーん……あの竹林の医師でもあそこまで酷い怪我は治せないと思いますわ。それに……腹に大穴が開いているのに生きているだなんて不自然じゃないかしら?」
いつの間にか、パチュリーの真横でニコニコと楽しそうに微笑みながら佇んでいた青娥が自身の顎に手を添えて考える素振りを見せながら、不可思議な点についてや、竹林の医師でも過度な外傷からの肉体の瞬間治癒は不可能であると言う……
・・・・・部外者は黙っててもらえるかしら・・・・・?
(いつの間にか真横にいる青蛾に内心驚き困惑しつつも、表情に出してしまえばそれこそ相手の思うツボな気がして、敢えて無表情を保ちつついきなりあらわれた青蛾に部外者は黙っていてと反論する・・・・・
綺麗事に聞こえるかもしれないが、やってみなきゃわからない、この精神でやらなければ何事も道は切り開けない・・・・・)
美鈴
「……と言うと、貴方には何か考えがある……と言うことですか?」
青娥は元は気の力をも習得しているからか、美鈴の感知能力を用いても読み取れないため青娥が何を考えているのかも、真の実力についてでさえもわからない……だが確かに咲夜が人間でありながら腹部に大穴が開けられたにも関わらずに何時間も生きている事に違和感を覚えている美鈴は、青娥の言葉から何かこの状況を打開する策があるのだと言うことがわかる……
この際、勝手に侵入した事については触れない。もし咲夜さんを助けられるのなら泥船で大海にだって出るし、藁にだってすがるし、冥府の悪魔にだって全てを捧げよう。
青娥
「勿論ですわ。成功する確率はそれほど高くは無いのですが、それでも宜しければ、直ぐにでも始められますわ。」
青娥はニコニコと微笑みながら、成功する確率は高くはないが、賭けてみる価値はあると応える……もし、これで咲夜を治すことが出来れば……紅魔館は青娥に対して大きな借りを作ることになる……青娥はこれを見計らっていたのだろうか?
・・・・・何をよからぬ事考えているのかしら・・・・・?
(咲夜の命が危ないというこの一刻を争う時に、突然タイミングを見計らったように現れては借りを作らせようとしている青蛾に対して、パチュリーはあまりいい印象を抱いておらず、何を企んでいるのかを問いかける・・・・・
どうせろくなことではないと大体の予想はつくが・・・・・)
美鈴
「それなら……直ぐに始めて下さい!!
私に出来ることがあれば何でも協力します……!!」
切迫詰まった美鈴は青娥の言葉を聞いて直ぐに治療を始めて
青娥
「わかりましたわ、早速始めましょう。
では、私にその傷を見せて下さるかしら?」
侵入者との戦いで消耗した上に妖怪にとっての核である精神が大きくて揺らいで焦った美鈴は青娥の言葉から、その内面に渦巻く巧妙に隠された本性を読み取ることが出来ず、全面的な協力を約束すると、青娥は優しく微笑みながらゆっくりとパチュリーに向けて咲夜を元の状態に戻して欲しいと言う。
もし、パチュリーが断れば青娥が何もしなくとも美鈴がパチュリーを打ち倒し、強引に解除させようとするだろう。……青娥が現れた時点で、既に主導権は奪われてしまっている。常に自分の優位性を確立させ、誰から疑われようと、どれだけ勘繰られようと、自分の思うがままに場の雰囲気や状況を巧みに操作する……
青娥の厄介なところは、千年以上を生きる仙人と言う多彩かつ強力な力を持ちながら、優れた観察眼と状況操作技術を持ち合わせた狡猾な策略家であると言うこと……
強さと賢さの二つを兼ね備えながら、その行動原理は常に自分本意。
これこそが青娥の最も厄介な点であり、邪仙と呼ばれる由縁なのだろう。
美鈴
「それなら……直ぐに始めて下さい!!
私に出来ることがあれば何でも協力します……!!」
切迫詰まった美鈴は青娥の言葉を聞いて直ぐに治療を始めて欲しいと懇願し、自分に出きることなら何でも協力するとまで言って頭を下げる。これまで館では互いに色々な出来事があり、時には仲違いしてしまったり、冷たく当たっている事もあったが、それでも自分と同じくレミリアを慕い、仕える仲間としての親愛も確かにそこにはあった。
……もっとも、青娥はそれらを見抜いた上でこうして姿を現し、協力を申し出たのだろう……美鈴が咲夜達を愛し、守りたいと言う感情を邪仙に付け込まれる事になるとは……
青娥
「わかりましたわ、早速始めましょう。
では、私にその傷を見せて下さるかしら?」
侵入者との戦いで消耗した上に妖怪にとっての核である精神が大きくて揺らいで焦った美鈴は青娥の言葉から、その内面に渦巻く巧妙に隠された本性を読み取ることが出来ず、全面的な協力を約束すると、青娥は優しく微笑みながらゆっくりとパチュリーに向けて咲夜を元の状態に戻して欲しいと言う。
もし、パチュリーが断れば青娥が何もしなくとも美鈴がパチュリーを打ち倒し、強引に解除させようとするだろう。……青娥が現れた時点で、既に主導権は奪われてしまっている。常に自分の優位性を確立させ、誰から疑われようと、どれだけ勘繰られようと、自分の思うがままに場の雰囲気や状況を巧みに操作する……
青娥の厄介なところは、千年以上を生きる仙人と言う多彩かつ強力な力を持ちながら、優れた観察眼と状況操作技術を持ち合わせた狡猾な策略家であると言うこと……
強さと賢さの二つを兼ね備えながら、その行動原理は常に自分本意。
これこそが青娥の最も厄介な点であり、邪仙と呼ばれる由縁なのだろう。
・・・・・ダメよ・・・・・
(そう言うと「たとえこの腕が切り落とされようと、アンタに咲夜は渡さないわよ・・・・・」と、反抗的な態度を見せる・・・・・
邪仙と名高い青蛾なんかに渡したりしたら最後、咲夜に何をされるかわかったもんじゃない、考えるだけでも恐ろしい・・・・・
今のこの状態ならば簡単に言えば咲夜は冷凍保存されているのと同じような状況であり、青蛾に渡さずとも永遠亭まで行ってえーりんに診てもらった方がまだちゃんと治る可能性は大いにあるためパチュリーは咲夜が入っている玉を持ったまま、その場を立ち去ろうとする・・・・・)
美鈴
「命がかかっているこの状況でそれを言うのですか!?
今助けることが出来るのならばそれをやるべきです!!
………仕方がありません……もし、それでもまだ断るようなら力づくで奪わせてもらいますよ……!」
青娥は何も言葉を口にせず、ニコニコと微笑み続ける中、美鈴はパチュリーの目の前にまで詰め寄り、今は一刻を争う状況であり、病病毒ならばまだしも、青娥の言うように咲夜の深刻な外傷を完全に治すことは竹林の医者にさえ不可能であると思い言う。
何時命を落としても可笑しくない……
むしろ、腹部に大穴を開けられてまだ生きている現状こそが奇跡である程だ。もはや迷っている暇など無い、直ぐにでも対策をするべきだと言うと同時に、断るようなら力づくで解除させるとまで言う。
魔力ではパチュリーの足元にも及ばないが、その純粋な身体能力や格闘能力はパチュリーを遥かに凌駕している。今此処で戦いとなり、美鈴とパチュリーが潰し合いを始めてしまえば、館の戦力は大きく削られ、負傷者が増える事になる……そうなれば、レミリアでさえこの状況を納めるために青娥に頼らざるを得ない状況が出来上がることになってしまうだろう……
パチュリーが断っても認めても、青娥の思惑通りにしか進まない……そんな状況は青娥はほんの数分足らずで作り上げてしまっている。
パチュリー「私とやろうっての?いい度胸ね、美鈴・・・・・」
レミリア「待ちなさい、パチェ、美鈴・・・・・」
(今にも美鈴とパチュリーの禍々しい戦いが始まろうとしていたその時、二人の様子を見たレミリアは二人に戦いをやめるように言う・・・・・
咲夜を救うことは最優先すべきことではあるが、いきなり現れた胡散臭い相手の言うことを聞くよりも、えーりんに診てもらった方が安心できるのは確かだとパチュリーに賛同する・・・・・)
青娥
「………わかりましたわ。
どうやら此処の主にさえ求められていないようですので私は去りましょう。」
青娥は両手を挙げてもうお手上げだと言う事を示すと、いやにあっさりと立ち去ることを決めると、ゆっくりと後ろに下がり始め、この場から大人しく立ち去ろうとしている。終始笑顔を崩しておらず、その様子はまるで笑顔以外の感情や表情が欠如しているかのようにも見える……
美鈴
「……………ッ……」
美鈴はレミリアの決定に異見を言うつもりはなく、黙り込むと、レミリアとパチュリー、そして咲夜が入っている球体を順番に見て、最後に立ち去ろうとしている青娥を見て、安堵や憤怒、不安や不信と言った複雑な表情を浮かべる。
レミリア「パチェ、簡単に言ってしまえば、今の咲夜は時が止まっているのと同じなんでしょう?」
パチュリー「えぇ、咲夜自身の体には負荷がかからないようになっているわ・・・・・」
レミリア「なるほど・・・・・美鈴・・・・・私だって咲夜が何の問題もなく助かるのならば、あの侵入者に躊躇いなく任せていたわ、言いたいことがわかるかしら・・・・・?」
(様々な感情が入り乱れる美鈴に向かって、何故自分までもが咲夜を青蛾に任せることはしなかったのかがわかるかと問いかける・・・・・
今の美鈴には理解は難しいかもしれないが・・・・・)
美鈴
「……………すみません……!!」
竹林の医師が治せると言う確証はない、掠り傷や軽い傷ならばともかく、致死に値する深傷を薬で治す事が出来る確証も無い……レミリア達の考えはあまりにも楽観的かつ希望論に過ぎないものだ。
美鈴は固く目を瞑り、苦しみながら何かを考えると、最終的に一つの結論しか思い浮かばなかったものの、それを口にする事は主であるレミリアの意思に背く事になるため、ただ一言だけ謝ると、立ち去った青娥の後を追うようにして駆け出して行く……
親しい者の死や苦しむ様子を見たくない、もう……あの男が居た頃と同じような目にはあいたくない、誰も死なず、苦しまないようにしたい……そんなお人好しとも言える優しい感情が美鈴を苦しめ、苛んでしまっていた……
レミリア「・・・・・未熟ね、行くわよパチェ」
パチュリー「えぇ、そうしましょう・・・・・」
(己の優しさとの葛藤に追い詰められる美鈴を見送れば、レミリアは未熟だと一言呟き、急いでパチュリーと永遠亭へと向かう・・・・・
青蛾ともし対峙するとなっても、美鈴なら大丈夫だろうと信じ、敢えて美鈴には構わずに、咲夜を診てもらうことを最優先とする・・・・・)
青娥
「あら、寛容な門番さん。どうしたのかしら?」
館の門から敷地外へ出て霧の湖を飛んで渡ろうとした最中、自分を追い掛けて来た美鈴に気付き、美鈴の方へ優しく微笑んだまま要件を伺う……それはまるで、最初からこうなる事がわかっていたかのように……
美鈴
「………貴方の言う通り、竹林の医師に見せても咲夜さんのあの傷を完全に治せるとは思えません……それに……」
青娥
「"主達は侵入者"による撃退をしなかった。
あの二人ならその気になればメイド長があれ程の傷を受ける前に防ぐことだって出来たのに……でしょう?」
美鈴
「………………。」
まるで此方の心情を透かし見ているように、自分の思っていた事を口にしていく青娥に対して何も言い返せずにいる……あのスピードに長けた天狗にも匹敵するレミリアの身体能力であれば、咲夜の腹部が貫かれる前に駆け付け、攻撃される前に迎撃することだって出来ただろうし、パチュリーの魔力探知を用いることで復活しようとしている侵入者に対して先手を取って遠隔でも高度な属性魔法を用いて完全に消滅させることだって出来ただろう。
自分にはそれらをする事が出来ない……駆け付けようとしてもあまりにも時間がかかり過ぎるし、遠隔で魔法を展開することだって出来ないからだ……
青娥
「自分は命を賭けて、死力を尽くして追い払ったのに、それを認められるどころか、意見を認めてもくれなかっただなんて悲しいわね?彼女達にとって貴方達なんて所詮はただの駒なのよ。」
美鈴
「そ……んな……事は……」
青娥
「可哀想に、私の意見や想いは彼女らにとってはどうでもいいものだったのよ。得体の知れない私に恩を作りたくないから……それだけの理由のためだけにあのメイドさんの命を助かるかもわからない賭博に使った……これだけでも貴方達の意見や命を軽視していることがわかるでしょう?」
美鈴は青娥の呟く言葉には些かの気の乱れも生じておらず、その言葉が全て真実であるとわかっているからこそ、その言葉に対して明確な反論も出来ずに黙り込んでしまう……
レミリア「パチェ、あの悪女、あれで終わりだと思う・・・・・?」
パチュリー「正直言うと、これからが本番だと思うわよ?あの程度で引くとは思えないし・・・・・」
(レミリアとパチュリーは、永遠亭へと向かう途中で、青蛾がまだ仕掛けてくるかどうかということに対して話し合いをしている・・・・・
それに、もしかしたら今回紅魔館を襲撃した侵入者が、青蛾と繋がっているかもしれないということも可能性としてあるかもしれないと考えている・・・・・)
青娥
「それに……貴方は侵入者を阻めなかった……
その事実こそが一番貴方を苛んでいるんじゃないの?」
美鈴
「………………。」
青娥
「大丈夫、別に貴方を責めている訳じゃないのよ?
私の言う通りにしてくれれば……彼女を助けた上で、貴方に復讐するための力を……守りたいモノを守れる力を与えてあげる事だって出来る。」
美鈴
「何を企んでいるんですか……?
私が強くなる事で……貴方にどんな得が生じるのですか?」
青娥
「あら、そんなに損得勘定に取り付かれているように見えるのかしら?
そうね……強いて言うのなら、私が天人になるための得を積めるから……といったぐらいかしらね?」
青娥は淡々と仙界を通じて見た出来事を引き出して美鈴を揺さぶりをかけ、自分が得ることが出来るのは仙人にとっての悲願であり理想である"天人"に近付けると言うものであると語る……
それが本心なのかどうかはわからないが、今の美鈴には……その邪仙の言葉に乗るしか選択肢が無かった……
無力だった自分が変わるために、今度こそ誰も失わずに、傷つけられること無く済むために……悪に対抗するために悪と協力をする事を決めてしまった……
レミリア「でもまぁ、流石に美鈴もあの悪女にそそのかされて協力したり・・・・・なんてことはないでしょ」
パチュリー「そうね、流石に美鈴もあの悪女に協力するなんてことは・・・・・」
「「有り得る・・・・・」」
(流石に青蛾に騙されて協力する、なんてことはいくら美鈴でもないだろう、とは思いたいものの、ついさっき青蛾に騙されてパチュリーにすら反抗しようとしていた事実から、有り得ないどころか寧ろ十分に有り得すぎると意見が合う・・・・・)
【妖怪の山 虹龍洞】
青娥
「此処には龍の命の結晶である"龍珠"がある……
世界最強の種族の一角でもある龍の命を……力を……大量に獲得した場合……どれだけの力が得られかしらね?
貴方にはそれに耐えられるだけの素質がある。」
妖怪の山に存在する龍珠や伊弉諾物質が眠る炭鉱……
虹龍洞の中にて、青娥と美鈴の二人は到着する。
通常であれば酸素がほぼ存在しないこの深層にまでは生物が辿り着くことは出来ないのだが、青娥はこの時に備えて編み出した酸素を必要としなくなる秘術と、どれだけのぶ厚い壁であっても通り抜けることの出来る簪の二つを用いることで警備が厳重な妖怪の山、そして無数の百足軍団が占拠しているこの虹龍洞にまで誰にも気取られること無く侵入することに成功する………
美鈴
「ですが……こんな勝手に侵入して盗むような……しかも命を利用するなんて事……」
青娥
「強くなりたくはないの?
龍の力を一気に取り込めば……誰でも守ることが出来る、救うことが出来るようになるのよ?この罪の贖罪は貴方が生きて多くの命を救い、守る事で購えばいいのよ?」
勝手に侵入したり、他者の命を自分のためだけに消費しようとしている事に対して強い罪悪感を抱いている美鈴に対して青娥は強くなるためには必要なことであり、この贖罪は強くなってから行えばいいと言って美鈴の良心を利用し、善悪の価値観を狂わせるように唆す……
そして、美鈴は邪仙に唆されるがまま、岩壁から覗く小さな虹色の鉱物……龍珠を手に取り、それを口許へと運んでいく……
レミリア「でもね、パチェ・・・・・私は主という立場上、どんな状況であれ従者を信じているの・・・・・例え美鈴がどんなに騙されやすい性格だろうとね・・・・・」
パチュリー「・・・・・信じすぎるというのも、破滅に繋がることがあるけれどね・・・・・」
(例え美鈴がどんなに騙されやすい性格だろうと、自分は従者を信じていられる主でありたいと告げるが、パチュリーからは信じすぎることは逆に破滅へと繋がることもあると忠告を受ける・・・・・
パチュリーからすれば、レミリアの言い分もわからなくはない、だが邪仙は種族を問わず心の弱さに入り込む・・・・・
それをわかっている以上、安心はできない・・・・・)
【その後……】
それから美鈴は姿を消した。
紅魔館に帰ることも、霧の湖周辺や博麗神社に訪れることも無く、まるで幻想郷の外へ行ってしまったかのよう行方知れずになる……
邪仙が関わっているであろうことは明白だが、神子達が訪れることは珍しく、行方を捜索することすら出来なくなってしまっている。
《・・・・・あれから数日・・・・・自身の誤った判断に責任を感じて身を隠したか、それとも・・・・・》
(レミリアは紅茶を飲みながら、あれから数日経過しても美鈴が帰ってこないことに不安を感じていた・・・・・
様々な可能性は考えられるが、やはり邪仙の誘惑に乗ってしまったと考えた方が自然か・・・・・)
妖精メイド
「レミリアお嬢様……あの……咲夜さんは大丈夫ですか……?」
消息不明になってしまった美鈴を心配しているレミリアの元へ妖精メイドの一人が訪れ、侵入者によって瀕死の重体を負い、時間停止によって辛うじて延命している状態で永遠亭に運ばれた咲夜が助かったのかどうかを問いかける。
レミリア「まだ意識は戻っていないけど、辛うじて山場は越えたって永琳が言ってたわ・・・・・」
(未だに意識不明の状態が続いてはいるものの、永琳が言うには山場は越えたとのことから、とりあえず死の危険は去ったと見て一安心できる・・・・・
だが、問題は美鈴だ・・・・・
この数日、紅魔館へ帰ることもなく行方不明のままとなっている現状、邪仙の言葉に惑わされて利用されている可能性がいよいよ高まってきた・・・・・
しかし、探そうにもどこにいるかもわからない・・・・・)
妖精メイド
「良かった……咲夜さんが無事で……
だけど美鈴さんが行方知れずなのは心配ですね……」
咲夜が一命を取り留めたのは嬉しい事であるのだが、その代わりに行方知れずになってしまった美鈴の事を心配する……美鈴は悪霊に取り付かれて悪心を増大させられても他者を気づかったり、夢の中でも紅魔館だけでなく幻想郷を守ろうとしていた等、根が善人であるのだが、その善人だからこそなの苦悩もありるのだろう……
・・・・・美鈴ならきっと大丈夫よ、美鈴は心も強いから・・・・・
(本当は自分自身が一番戸惑っている・・・・・
もしや美鈴は本当に邪仙に騙されて利用されているのではないかと・・・・・
だが、主として、従者を信じ抜かなければ、美鈴に申し訳ない気がしてならない・・・・・)
妖精メイド
「このまま何事も起こらなければいいのですが……」
妖精メイドは静かにレミリアの傍に近付きながら、このまま何事も起こらずに平和が続けばいいのにと呟く。
パチュリー「あまいわね・・・・・」
(美鈴なら大丈夫だと、何事も起こらなければいいと言葉を交わすレミリアと妖精メイドの前にパチュリーがやってくる・・・・・)
レミリア「あまいって、どういうこと?」
パチュリー「もう数日も経つのよ?流石にわかってるんでしょ?美鈴はあの女の手に落ちたのよ・・・・・」
レミリア「それは万に一つの可能性でしょ?」
パチュリー「そう言い切れる根拠は?それとも、事実である可能性が高いことを認めないのが、紅魔館の主の務めなのかしら?」
レミリア「何ですって?」
(お互い一歩も引かない言い争いに、場の空気が気まずくなる・・・・・
双方から意見が食い違いぶつかる、この様までも邪仙の掌の上で全て計画されているようにすら思えてくる・・・・・)
妖精メイド
「うぅ……美鈴さんが帰って来なかったらどうしよう……
美鈴さんは普段は寝てばかりですが、門番を勤めている娘達を助けてくれたり、美鈴さんが庭で育てたフルーツをくれたりもしていた、とても優しい方です……」
互いに美鈴の所在について話しているレミリアとパチュリーの前で、妖精メイドはあまり知られていなかった美鈴の一面についてや、その優しさによって活気が出ていた事を言う……
妖精メイド
「美鈴さんが居なくなってから、みんな元気が無いみたいで……
はやく帰って来て欲しいです……」
パチュリーにビックリしてレミリアの後ろに隠れるようにして移動すると、力無く美鈴にはやく帰って来て欲しいと言うのだが、これがレミリアとパチュリーの二人の仲に不和の種が生じてしまうことになるかもしれない……
青娥に借りを作ることを拒んだ結果、美鈴は行方不明になり、館内の妖精メイド達の士気も下がってしまう現状に繋がってしまった……加えて、これで美鈴が青娥に唆されて何か問題を起こしてしまう可能性も考えると、これが最善の手であるとは言い難いだろう。
レミリア「・・・・・大丈夫よ、必ず戻ってくるわ・・・・・」
(確信なんてない、ただ、こう言うことで妖精メイドたちの心を少しでも安らぐようにするのが、今の自分にできる主としてのせめてものことだと)
レミリア「・・・・・大丈夫よ、必ず戻ってくるわ・・・・・」
(確信なんてない、ただ、こう言うことで妖精メイドたちの心を少しでも安らぐようにするのが、今の自分にできる主としてのせめてものことだと思っているものの、この言葉には、美鈴が戻ってくるということを自分が一番信じている、いや、願っているということの意思表示なのかもしれない・・・・・)
妖精メイド
「………………。」
妖精メイドはレミリアの必ず戻ってきてくれると言う言葉を信じたのか、それともまだ悲しみや不安が残っているからなのか、何も答える事無くただ静かにうつむきながら部屋を出て行く……
レミリア「・・・・・複雑ね」
(咲夜は未だ意識不明、美鈴は行方不明、紅魔館における大切なモノが二つ無い現状、レミリアは主としての責任を感じていた・・・・・
もし、美鈴が邪仙に協力しているとするならば、あちら側はどういう手で攻めてくるのか、という不安はある・・・・・)
【紅魔館 メイド妖精の部屋】
妖精メイド
「う……ぁ…………」
《ズルッ》
部屋に戻った妖精メイドは自分の胸元を苦しそうに押さえながら、嗚咽し始めると、妖精メイドの体内に入り込み、その肉体を操っていた青娥が妖精メイドの口から這い出て来る……
《ドチャッ》
青娥
「フフフ……なるほどね?
案の定、最初に言っていた時みたいに永遠亭に運ばれたようね。」
青娥は妖精メイドの体内に入り込む事で自分の邪気や魔力を隠すと同時に、レミリアから情報を引き出すために再度潜入していた……
ヤンシャオグイ……流産した赤子や殺害された赤子を利用した外道の呪術の扱いに長けた青娥はその応用として他者の体内に入り込む事で感知や探知を掻い潜る事が出来る。
レミリア自身の言っていた言葉や、直近の状況からして永遠亭に運ばれたと確信する……
青娥
「龍(ケダモノ)に仲間や人間みたいな感情はいらない。あの侵入者がメイドを殺害した事にして、ついでにあの吸血鬼達が見殺しにしたと言えば……彼女の精神は確実に崩壊する。
憎悪と復讐の化身になった龍を操ることが出来れば、私は更なる力を手に入れることが出来る。」
妖精メイド
「う……ぅぅ………さ……くや………さ…………逃げ……て……」
青娥は美鈴を憎悪と復讐によって塗り潰し、全てを破壊する龍に変えることでそれを使役し、自分の力をも高めようと考えている……
そんな野心を露にした青娥の足元では、骨を抜き取られ、内臓の配置さえも変えられた事で身動き一つ取れない肉のスーツとなった妖精メイドは主のレミリアを裏切るような形になってしまった事に涙を流しながら咲夜に逃げて欲しいと呟く。
だが、青娥は最早用済みとなったその妖精メイドを気遣うような事はなく、証拠を隠滅するために何の躊躇いもなく床に倒れた妖精メイドに左手を翳し、その呪力を用いることで自然の化身である妖精メイドの肉体を急速に朽ち果てさせ、消滅させて行く……
青娥
「さあ……歩み始めましょう。
私が至高の天人……いえ、神になるための道を……!」
【邪仙は美鈴と妖精メイドの感情を踏みにじり、侵入者の影に隠れて自身の欲望を満たすために暗躍していく……】
【永遠亭 病室】
妖怪兎
「えーっと、十六夜さん〜。
起きていますか〜?」
邪仙の揺らぐことの無い野心と尽きることの無い欲望の矛先を向けられている事を知らぬ永遠亭……
そこでは鎮痛剤や治療薬、そして交換用の点滴が乗せられた木のトレイを持って咲夜がいる病室までトコトコと歩いて来た妖怪兎の一人が間の抜けた声で咲夜に起きているかと声をかけてみる。
レミリア「・・・・・」
(今、近くでなにかおぞましいことが起きたような、そんな気がした・・・・・
レミリアに生まれつき備わっている本能がそう告げたのかどうかは定かではないが、少なくとも、背筋に寒気が走ったのは紛れもない事実だが、妖精メイドが青蛾にあやつり人形の如く利用され、〇されたという事実など知るはずもなかった・・・・・)
咲夜「・・・・・」
(妖怪兎の問いかけには反応せず、未だに意識不明の状態が続いている咲夜・・・・・
一命は取り留めたものの、意識が戻る気配はなく、侵入者と一戦交えた後、紅魔館で起きた出来事、そして今紅魔館で起きていることを知らない咲夜は、意識が戻ってすべてを知ったらどんな顔をするのだろうか・・・・・)
妖怪兎
「まだ意識が戻っていないみたい……
ま、いいや。それじゃ、もう無くなりそうなんで点滴を交換しますね。」
鎮痛剤と治療薬の乗せられた木のトレイを近くのテーブルの上に乗せると、あまり慣れていない手付きでほとんど空になった点滴の袋を取り外し、その代わりとして新しい点滴のパックに付け替え始める。
チルノや妖怪兎が迷いの竹林内で攻撃され、更には館内で謎の侵入者の手で小悪魔が殺害され、咲夜も瀕死の重傷を受けたと言う騒動に便乗して暗躍する青娥の事を予知することが出来る者はまだ居ないだろう……
咲夜「・・・・・」
ピクッ・・・・・
(妖怪兎が点滴を交換しようとしたその時、咲夜の指が僅かに動く・・・・・
永遠亭へと運ばれ、そして意識不明のまま数日が経過していた時だからこそ、妖怪兎の見間違いでない限りは、咲夜の意識が戻った可能性が高い・・・・・)
妖怪兎
「…………!
意識が戻ったのか!?」
点滴を交換しようとしている中、微かに咲夜の指が動いたのを見ると驚き、一瞬だけ手が止まるが、直ぐに咲夜が本当に意識が戻ったのかどうかを確認するために声をかけつつ、点滴の入れ替えを急ごうとする。
・・・・・うっ・・・・・!ん・・・・・ん・・・・・?
(咲夜はわずかに声を漏らしながら、ゆっくりと目を開ける・・・・・
目を開けると、目の前には妖怪兎がいるということはわかるが、なぜ目の前に妖怪兎がいるのか、なぜ自分はここにいるのか、一体何が起きたのかなど、記憶の処理が追いつかないでいる・・・・・
そして、腹部にはまだ痛みも残っており、それもあって表情を少し歪めている・・・・・)
妖怪兎?
「……あらあら、目が覚めてしまわれたのですね?
それなら仕方ありませんわ。」
咲夜が目を覚ました事に気付くと妖怪兎は途端に口調が変わり、それと同時に手にした注射器を咲夜の首筋に向けて突き刺し、薬品を注入しようと襲い掛かる。
咲夜が下手に動こうとすれば腹部の傷が開いてしまう可能性があり、更には暫くはまるで体を動かせていなかった事から機敏に体を動かすことは困難な状態になってしまっているだろう……
咲夜「・・・っ・・・・・!?」
(動けば傷口が痛み、大声を出しても傷口が痛む・・・・・
まさにどうすることもできない、誰にも助けを求めることが出来ない状況下で、妖怪兎に扮した何かに襲われることしか出来ない・・・・・
相手側からすれば、絶好のチャンスなのだろう・・・・・)
妖怪兎?
「大丈夫大丈夫、貴方の死は無駄にはならないわ。だって……私が神仏になるための足掛かりになれるのだもの。」
妖怪兎は無表情のまま、自分が神仏(しんせん)になるための足掛かりになれるのだと言いながら、小柄な妖怪兎からは想像も出来ない程の強力な腕力を用いても咲夜を押し倒してそのまま強引に注射針を咲夜の体に突き刺そうとする。
・・・・・っ・・・・・!ぐ・・・・・っ!
(咲夜は、傷が痛む中必死に相手の腕を掴んでなんとか抵抗を続ける・・・・・
そして、相手の襲撃でようやく目が覚めてきた、今目の前にいるのが妖怪兎ではなく、妖怪兎の姿をした何者か、だということも・・・・・)
妖怪兎?
「フフフ……」
妖怪兎は変わらずに笑い声を出しながら……しかし、その表情はまるで死体そのものであるかのように硬直したまま、手にした注射器の針を少しずつ迫らせて行く。
その気になれば一瞬で押しきれるだけの力がありながら、敢えてそれをせずにジワジワと針を迫らせていることから咲夜からの抵抗そのものをまるで楽しんでいるかのようにも見える。
咲夜「・・・・・だっ・・・・・だれ、か・・・・・っ・・・・・!」
(咲夜は、誰かに気づいてもらおうと声を振り絞るものの、やはり腹部に力が入らずに途切れ途切れに小声を出すのがやっとの状態であり、他者からの救出は絶望的・・・・・
今こうやって相手に抵抗できているだけでも奇跡に近い・・・・・)
妖怪兎?
「……どれだけ足掻いても無駄ですわ。」
注射針が咲夜の首筋に当たり、少しずつ咲夜の肌に針が刺さって行く……
周囲には異様な静寂のみが広がっており、助けが来る様子はない……それもその筈で、青娥ほど狡猾になると、鈴仙が里へ薬売りに行き、てゐが竹林で新しいトラップ作成に向かい、永琳が診療を行う等の周囲の者達が助けに来れないような状況になるのを見計らい襲撃をしかける程の悪辣さを持っている。
更に抵抗したせいで咲夜の腹部に開けられた謎の侵入者から付けられた腹部の大穴の傷が開き始めてしまう……外へ通じる扉は閉まっており、扉の向こうにまでは咲夜の唸り声のような悲鳴は聞こえないだろう……
助けが来る可能性があるとすれば、輝夜か妖怪兎かのどちらかだが……妖怪兎が駆け付けたとしても、この眼前にいる妖怪兎の皮を被った得体の知れぬ人物を倒すことは出来ないだろう……
【永遠亭 入口】
妹紅
「おーい、誰かいるかー?」
幻想郷に取り返しのつかないダメージを与えるために暗躍し、妖怪兎の体を乗っ取った青娥による咲夜への襲撃が行われている頃、約束通り炭を売った金で大量に購入した人参の入った袋を担ぎながら永遠亭に訪れた妹紅が永遠亭の入口前で誰か人(妖)は居ないかと声をかける。
・・・・・ぅ・・・・・っ・・・・・
(徐々に咲夜の腕の力が弱まってゆく・・・・・
咲夜の今の抵抗も、言うなれば火事場の馬鹿力に近いものだったのかもしれない・・・・・
そのまま咲夜の腕は力なく落ちる・・・・・
意識を失う寸前、わずかに誰かの声が聞こえた・・・・・
朦朧とする意識の中だったため誰の声なのかは判断出来なかったものの、その誰かが気づいてくれることに賭けるしかない・・・・・)
妖怪兎?
「大丈夫、死にはしないわ。
その代わり目覚めることも出来ないけれどね?」
青娥は咲夜の抵抗を振り切って彼女の首筋に注射針を突き刺すと、その注射器の中に混入させていたモノ……青娥の呪術から生み出された昏睡薬とでも言うべきモノが入れてある……その効能は二つ……
一つは咲夜の意識が青娥の許可が無い限りは戻らないと言う口封じとしての役割。
もう一つは青娥の意思一つで何時でも咲夜の心臓を止めて死亡させるのと言う脅迫や人質として用いるための効能がある。
咲夜が意識を失う事を確認すると、妖怪兎は口の中から一本の簪を取り出し、それを床に向けて軽く振るうことで穴を開け、そこから永遠亭外へ脱出していく……
妹紅
「うーん……誰もいないのか?」
探している妖怪兎も、普段は永遠亭にいる
面倒になら無いように永琳が里で診療しているタイミングを見計らって届けに来たのだが、誰の姿も見えなかったため、亭内に入り、誰かいないかと探し始める。
既に青娥の脱出や侵入する時に開けた穴は塞がっており、青娥が入り込んだ痕跡を見つけ出すことは困難だろう……
・・・・・
(基本的に普通なら妖怪兎の一人や二人くらいは来客に反応して出てきてもいいくらいだが、怖いくらいの静寂が妹紅を襲う・・・・・
嵐の前の静けさという言葉があるが、今の永遠亭がまさにそれに当てはまるほどに、何かの前触れのような不気味な静かさが辺り一帯に漂う・・・・・)
妹紅
「……この感覚は……まさか………!」
妹紅が一目散に永遠亭内を駆け出し、チルノや妖怪兎に攻撃した謎の侵入者からの攻撃があったのかと思い、誰か生存者はいないかと、玄関近くの部屋に人参の入った袋を置いて亭内を走り出し、近場の部屋から部屋の戸を開けて生存者を探し始める。
・・・・・
(誰一人として永遠亭で見つかることがない中、戸を開けていくと咲夜が治療を受けている部屋に妹紅は辿り着く・・・・・
しかし、咲夜はまだ意識が戻っていないのか、目を閉じて横たわっている・・・・・
それが意識が戻った後に、意図的に意識を遮断された状態だと気づくのは難しいだろう・・・・・)
妹紅
「くそ……ッ!やられた……」
《ガンッ》
咲夜が眠っているのを見ると、彼女の元まで駆け付け、彼女の首筋に右手を添えると、辛うじて脈はあるものの、抵抗した跡があり、悪意ある何者かの手によって意図的に意識を奪われたことがわかる……
自分が来るのが遅かったからこれだけの侵入を許してしまった……輝夜の事はまるで気にしていないものの、妖怪兎の姿が見えなかった事から彼女達も襲われたと考えることが出来る……
妹紅
「どうして紅魔館のメイドがいるのかは知らないが……このタイミングは偶然じゃないな……」
チルノや妖怪兎が竹林で襲われてから月日が経っていない中、こうして永遠亭へ直接攻撃をされた事から、おそらく何らかの方法でこの竹林の迷路を抜けて永遠亭に辿り着いた例の襲撃者の仕業であると断定する。
カーッ!カァーッ!
バサバサバサッ・・・・・!
(これから起きる不吉なことを告げるかのように、永遠亭の近くをカラスが飛び交う・・・・・
抵抗した跡に気づいてもらえた分、状況は最悪なものの咲夜の抵抗は無意味ではなかった・・・・・
しかし、この状況を打破するのは今はまだ不可能でもある・・・・・)
妹紅
「……ちッ!輝夜の奴は何をしてんだ……!!」
咲夜が死んだようにして意識を奪われている事から、これだけの事をされながら、一応は永遠亭のトップである輝夜は何をしているのかと思い、輝夜の部屋に向かって走り出し始める。
輝夜「んん〜・・・・・?あら、妹紅じゃない、何しに来たの?」
(輝夜は妹紅がいつの間にか永遠亭に来ていることに気づけば、今の事の重大さに気づいていないのか、おっとりとした感じで妹紅に話しかける・・・・・
これだけのことが起きていながら普通に過ごしている辺り、危機感が欠如しているのだろうか・・・・・)
妹紅
「…………………。」
《ダッ》
《ゴオッ》
妹紅は輝夜の顔を見るや否や、言葉を交わす訳でなく、直ぐ様床を蹴って飛び上がり、空中で身を捩り、右足に炎を宿して問答無用に顔を蹴り飛ばそうと迫る。
ちょっ・・・・!?いきなり何するのよ!?竹林ならともかく、ここは永遠亭よ!?場所をわきまえなさいよ場所を!
(輝夜はいきなり蹴りかかってきた妹紅に対して、いつものように戦うのならば竹林ならまだしも、永遠亭でまで戦い始めてしまっては収拾がつかなくなる・・・・・
それに、ここは命を救う場所であり、そんな場所で戦おうなど言語道断・・・・・)
《ドゴオォォォォォォォッ》
妹紅
「お前は……此所の異変に気付いているのか?」
妹紅は輝夜に向けて炎を纏った蹴りを放ち、蹴りが当たると同時に細胞や妖力そのものを焼き尽くす炎を爆発させ、輝夜にダメージを与えようとする。
威力や規模を集中しているため周囲への被害を抑えた一撃となっているため、床や壁に燃え広がることは無いものの、蓬莱人である輝夜にとっては直ぐに再生可能な程度のダメージにしかならないだろう。
輝夜「異変・・・・・?何のことよ?最近運ばれてきた患者が住んでいた屋敷が侵入者の被害にあったって言うのなら知ってるけど?」
ジジジ・・・・・
(皮膚が少々焼けるものの、妹紅も、そして輝夜も、今はそんなことはどうでもいい・・・・・
妹紅からすれば、こんな時にのんびりと過ごしている輝夜が許せないのだろうが、対する輝夜は永遠亭内で起きている異変に気づいていないのか、妹紅がついにおかしくなったのでは程度にしか考えていない・・・・・)
妹紅
「……そうか、なら妖怪兎達はどこにいるんだ?
竹林の医者や、鈴仙ちゃん達は里に出向いているみたいだが、それ以外の妖怪兎の姿が見えないな。」
蹴りを繰り出す体勢から、再び空中で体勢を変えて床に降り立つと、両手をモンペのポケットに入れながら、敢えて咲夜の異変についてではなく、妖怪兎の姿が見えないことを伝え、異変には気付いているのかと問いかける。
輝夜「妖怪兎・・・・・?そういえばいないわね・・・・・」
(妹紅に言われてみれば、確かに妖怪兎が見当たらないということに気がつく・・・・・
しかし、誰かが連れ去ったりしたと考えるのも少々無理がある気もする・・・・・
輝夜は「永琳についていったか、出かけているかしているんじゃない?」と言葉を返す・・・・・)
妹紅
「……なら、屋敷から運ばれてきた患者が意識不明の状態になっていて、明確に何者かからの攻撃の痕跡がある事には気付いているか?」
妖怪兎達は元々はてゐの仲間だったものの、永遠亭に住む事と引き換えに永琳と輝夜に仕えるようになった……だから永琳か輝夜からの要請があれば里にも出掛けるだろ。
だが、里でそれだけの規模の病気が蔓延したり、死傷者が出た等と言う話があれば一応は里の守護や人間の保護をしている自分の耳にも入ってくるのだが、今回はそれが無かった。
普段ならば永遠亭の従者である妖怪兎が必ず居る筈であり、全く居ないと言うことはこれまでに一度も無かった……そのため明らかな違和感を覚えつつ、本題である咲夜が襲撃されて意識不明になっている事を伝える。
輝夜「だーかーらー、その状態で危険だから運ばれてきたんでしょ?アンタ頭大丈夫?」
(妹紅の言っていることをわかってはいるが、それが数日前に運ばれてきた時のことだと思っている・・・・・
一応、数日前に運ばれてきた時と情報的には合致してしまうため、そう思うのも無理はないのだが、これらの発言から輝夜は今の異変には気づいていないと思われる・・・・・)
妹紅
「あー、もう説明するのがめんどくさい!
こうなったら力で白黒ハッキリつけてやる!!」
時折詩的な言葉を言うことはあるものの、元々あまり口が上手い訳でも、説明が上手い訳でもないため、非常事態でありながら上手く説明できないもどかしさを感じつつ、手っ取り早く戦って勝つことで強引に説得しようと考える。
妹紅は自身の霊力から炎を生み出し、その火力や燃やす対象を輝夜とそれに付随する力や事象に限定して建物が燃えないように気をつけつつ、両手足に炎を纏わせ、体を斜めにして身構えて臨戦態勢に入る。
このように、何時もささないな事から壮絶な死闘に発展してしまっている。
輝夜「しっつこいわね!!!!!なんだって言うのよ!!!!!」
(いくら妹紅が建物への被害は及ばないようにしているとはいえ、流石に自宅での戦いは抵抗があるのか、言いたいことがあるならハッキリ言えと言わんばかりに言葉をぶつける・・・・・
よく見ると、輝夜の髪はところどころ跳ねていて、寝ていたことで出来た寝癖であることがわかる・・・・・)
妹紅
「うるさい!そもそもお前がちゃんとしていないからこんな事になったんだ!!」
所々髪が跳ねているため、髪をセットする間もないほどに寝起きである事はわかるものの、妹紅もまた焦りや不安、怒りと色々な感情が混ざりあっていて頭に血が登ってしまったため、その激情に任せた言動になってしまう。
妹紅は鳥の鉤爪を模した炎爪を右手に纏って輝夜目掛けて振るい、五つの爪型の炎弾を打ち出し、輝夜の体を引き裂こうとする。
がしっ・・・・・
輝夜「言ってくれるわね・・・・・寝ていただけなのにここまで言われると、本当に目が覚めるわ・・・・・」
ぐぐぐっ・・・・・
(輝夜は、妹紅の右腕を掴んで睨みつけながらへし折ろうとする・・・・・
ただ寝ていただけで、わけもわからずにいきなり罵声を浴びせられ、挙句の果てにはお前がちゃんとしていないからこうなったと更にわけのわからないことを言われ、輝夜も頭に血が昇り始める・・・・・)
妹紅
「………!!」
妹紅の放った炎爪が輝夜の皮膚や筋肉を切り裂き、裂傷部から炎が燃え移り、内外から焼き始めるものの、輝夜が距離を詰め、妹紅の腕を掴み、力を込めると妹紅の右腕が音を立てて折れる。
一枚天井を持ち上げ、投げつける程の腕力を誇り、それをスペルカードにする程の輝夜に対して元々はただの人間だった妹紅は単純な筋力では勝てないとわかっている。だからこそ、炎と言う再生を阻害する力の習得に特化する事になった。
そこで妹紅は折れた右腕の代わりに左脚に爆炎を纏わせて輝夜に向けて蹴り出し、直撃した際に爆発を引き起こすことで例え蹴りを防がれようと、必ずダメージを与えられるような攻撃にしている。
ボォンッ・・・・・!
・・・・・っ・・・・・いい加減にしなさいよ?妹紅・・・・・
ベキベキベキバキッ・・・・・!
ブチッ・・・・・
(輝夜は、いい加減に白と言葉に出し、そして同時に表情にも出しながら、蹴りを受けて爆発に巻き込まれるも、怯むことなくそのまま妹紅の左脚を掴んだまま離さずに、皮が剥がれ筋肉がむき出しの状態の右腕に力を込め、妹紅の左脚の骨を砕きながらそのまま今度は左脚を半分ほど引きちぎる・・・・・)
【「リザレクション」】
《ドゴオォォォォォォォォォォォォッ》
妹紅は輝夜に右腕と左脚を掴まれ、その持ち前の怪力から引き千切られると、更なる追撃を受ける前に自分で自分の舌を噛み切って自害すると、妹紅の中に蓄積されていた全ての炎が爆発を巻き起こし、輝夜の体を丸ごと焼き尽くそうとする。
ほぼ零距離からの自爆であるため、回避は困難である上に、輝夜を焼くことに特化した炎であるため、月の民の強靭な肉体であってもこれだけの至近距離から受けてしまえば防御は意味を成さないだろう……
ボォッ・・・・・!!!!!
ドサッ・・・・・
・・・・・
(流石にここまでの攻撃を回避することも防御することも、真正面から対応することもできなかったため、断末魔すらあげる間もなくそのまま全身を物凄い勢いで焼かれながら床に倒れる・・・・・
見るも無惨な焼死体だけが残る・・・・・)
妹紅
「………そもそも……こんな時間まで何で寝てんだよッ!!」
妹紅は自爆した場所から20m後方で肉体を再構築しながら、輝夜に対してそもそも何でこんな時間まで寝ているのかと怒鳴る。蓬莱人である妹紅や永琳、そして輝夜は死と言う概念が存在しておらず、たった今のように細胞一個、血液一滴も残らずに焼失したとしても、直ぐに肉体を再構築する事が出来るため、妹紅は今のような自爆技や、自分への反動や代償の大きい技を平然と繰り出す事で圧倒的な火力を誇る技の実現を可能としている。
とはいえ、完全に怒りの矛先が迷子になってしまっており、今は輝夜の昼過ぎにも関わらず寝ていた様子に向けられてしまっている。
輝夜「・・・・・私がいつ寝てようと私な勝手でしょうが・・・・・」
(輝夜も同じく体を構築しながら、自分がいつ、どのタイミングで寝てようがそれは自分の勝手だろうと反論する・・・・・
いきなり喧嘩を売ってきた挙句、わけのわからないことばかり言ってくる妹紅に「まだやるつもり・・・・・?何なら本気でボコボコにしてやってもいいわよ・・・・・?」と言い)
妹紅
「上等だ、今日こそどっちの方が強いのかを証明してやるよ輝夜ッ!!」
《バサッ》
そもそもの原因となった完全に咲夜が意識不明の状態になっていることを忘れ、輝夜を仕留めるその一念だけを抱き、背中から不死鳥のような炎翼を広げ、それに伴って両手足にも霊力によって生じた炎……霊炎を纏わせて対峙する。
まだ他の人物が相手なら理性的に落ち着くことが出来るのだが、元々は輝夜に惚れた父が死亡した事から積み重なった過去の執念や恨みが完全には抜けきっていないからなのか、一度火が付いてしまえば燃え尽きるまで戦おうとしてしまう。
妹紅は背中から広げた炎翼を羽ばたかせて羽根を模した無数の炎弾を撃ち出して再度攻撃しようとする。
輝夜「これだから低脳の小娘は困るわ・・・・・カッとなると何も見えなくなるのね・・・・・?」
(輝夜は再生し終わると、やれやれと言わんばかりに妹紅は一度本気で怒ると何も見えなくなってただただ怒りに身を任せることだけに専念してしまうから厄介だと挑発する・・・・・
妹紅が本気なのに対し、輝夜はわけのわからないままいきなり戦いに持っていかれたため、早く終わらせたい気持ちでいっぱいなのが表情で伝わってくる・・・・・)
妹紅
「無駄に長く生きただけの箱入り娘が生意気に人を語るだなんてお笑いだな!!」
【虚人「ウー」】
妹紅は怒りに任せて右腕を勢いよく輝夜目掛けて振るう。
すると、妹紅の腕の一振に伴い、三本の巨大な地を走る斬撃が放たれ、輝夜の体を切り裂いて一時的にでも動きを止め、更なる追撃を繰り出すための隙を作ろうとする。
輝夜「なんとでも言ってちょうだいな?」
(輝夜は怒りに身を任せた状態の妹紅が、我を忘れて襲いかかってくるということを誰よりも一番よく知っている・・・・・
だからこそ、こういう時の対処法も誰よりも知っている・・・・・
我を忘れた相手の攻撃を避けることなど、たやすいことなのだ・・・・・
輝夜は攻撃を避けると、距離を詰めてゆく・・・・・)
妹紅
「ああ!なんとでも言ってやる!
いつか妖怪兎達にも愛想をつかされるかもな!!」
妹紅は激情に身を任せてはいるものの、素の頭の回転の速さを活かして戦っており、三本の地を走る斬撃によって輝夜が左右のどちらかへ避けることを見越して左右に向けて青い文字が書かれた"身体封じ"の御札を投げ付け、回避した先で御札の力によって輝夜の動きを封じようとする。
・・・・・っ、死ぬことなんてできないから今更アンタの攻撃をむやみやたらに受ける気も避ける気もないけれど、私が悪くないってわかったら、覚悟しておきなさいよ・・・・・?
(自分は唯気持ちよく眠っていただけなのに、それを因縁相手から、しかもいきなり喧嘩をふっかけられる形で戦闘開始に発展したため、いつものように竹林で戦うならばまだしも、場所すら移さずに問答無用で襲いかかってこられるほどのことをした覚えはそもそもないと思いながら、動きを封じられた輝夜は覚えておけと言い放つ・・・・・)
妹紅
「悪くないだと?そうやってまた逃げるのか?」
妹紅は最初に咲夜が何者かによって意識を奪われていた事と、竹林で何者かから襲撃を受けた事、そして今の妖怪兎の行方がわからないと言う明らかな異変に危機感を覚え、最初は輝夜にも状況を伝えて対策を取るように言おうとしていたのだが
輝夜のあまりにもマイペースな様子や、積もり積もった過去の因縁が妹紅を戦いへ駆り立ててしまい、今に至ってしまっている……本来ならばしなくてもいい、協力する事が出来たのだが、二人の性格や、二人の因縁がその邪魔をしている。
妹紅は先程のスペルカードの効果がまだ残っている事を活かして、御札によって動きを封じ込められた輝夜目掛けて今度は回避がより困難になるように横へ薙ぎ払うようにして三本に重なる斬撃を放つ。
輝夜「がっ・・・・・!?」
(輝夜は動きを封じられていることから、妹紅の斬撃をもろに受けてしまい、目を見開いて苦痛に表情を歪める・・・・・
しかし、すぐにやるならやれと言わんばかりの表情を浮かべる・・・・・
ただ寝ていただけで悪者扱いされるのも、こうやって一方的にやられるのも、妹紅がまだまだ未熟なただの小娘だと逆に思い知らせる為に無抵抗な状態に入っているようにも思える・・・・・)
妹紅
「過去の罪からは逃げられない。
生きると言うことは罪を背負うこと、長く生きれば生きるだけ罪を背負う。私もお前も、とんだ大罪人である事に変わりはない……」
妹紅は今度は両手に炎を纏わせ、それを交差させるようにして輝夜目掛けて振るい、輝夜の左右から地を走る斬撃を放ち、月の民である輝夜の体をもバラバラに切り裂けるほどの威力の双撃を放つ。
ビシャァアッ・・・・・!
ボトッ・・・・・ボトッ・・・・・
(切り裂かれ、バラバラになった輝夜の体の残骸が床に音を立てて落ちる・・・・・
血しぶきが飛び散り、辺り一面真っ赤な鮮血の海と化す・・・・・
ここまでくると、完全に妹紅の勝利である・・・・・)
妹紅
「……だが、私はその罪からは逃げるつもりはない。生きることが罪なら私はその罪と向き合って生きてやる。お前はどうだ?月のお姫様。」
輝夜の体をバラバラに切り裂くと、ちょうどスペルカードの効果が切れ、妹紅の両手から炎が消えると、両足にはまだ炎を纏ったまま、両手をポケットに入れてバラバラになった輝夜に対してそう言葉を投げ掛ける。
自分達のような完全な不死の存在にとって決着も勝利も訪れない。例えこの世が滅び去ろうと、虚無の中で自分達は戦い続ける事になるだろう。死と言う概念すら消えた自分達には永遠に勝利も敗北も訪れない……
輝夜「・・・・・言っておくけど、アンタの話は今のこの状況においてかなり論点がズレてるんじゃなくって・・・・・?」
(妖怪兎が見当たらないことや、何かしらの異変が起きているというこの状況で、妹紅の問いかけは状況とはかなり食い違っているようにも聞こえてくる・・・・・
今大事なのは自身の罪と向きあうことかどうかよりも、何が起きているのか、ということだ・・・・・)
妹紅
「話の着眼点は少し逸れたが、根本的なところは何も変わってはいないさ。」
妹紅の言う罪からは逃げずにいると言う発言はかなり遠回しにはなってしまってはいるものの、宿敵である輝夜のいる永遠亭内で起こった異常事態を知らせ、その解決のために過去の自分達の罪を認めた上でそれらを克服して協力する意思もあると言うことを示してはいたのだが、口下手故にか、素直にそれを伝えることが出来ず、話が拗れ、戦い続けることになってしまう。
輝夜が再生し、喋れるようになると、少し飛び上がり、背中から生えた炎翼を羽ばたかせ、まだ再生中の相手に向けて炎を纏った蹴りを繰り出して追撃しようとする。
輝夜「・・・・・果たしてこうやって私をいたぶり続けることで、問題は解決するのかしら・・・・・?」
(間髪入れずに自分を攻撃してくる妹紅に対して、こうやって攻撃し続けてくる時間があるのなら、今起きているであろう出来事を一時停戦して解決に導くことの方がまずは先だろうと輝夜は思う・・・・・
そして「もし私がアンタの立場だったら、戦いには持ち込まないわ」と言葉を返す・・・・・)
妹紅
「ふん、生憎だが説得で分かり合えるのなら何百年も殺し合いなんかしてないだろ?それに安心しな、お前の体力が尽きて私の勝ちが確定したら地に伏したお前へ皮肉を込めてじっくり説明してやるよ……!!」
妹紅は両手に纏わせていた炎を消した変わりにポケットから無数の御札を指と指の間に挟んだ状態で取り出し、両手を自分の顔の前で交差させながら、取り敢えずは輝夜を打ち倒してから皮肉を込めて説明してやると応える。
口下手な自分には、状況を誤認し、危機意識の無い相手に説明出来るだけの話術は無い。それが出来るのなら何百年もこうして二人で不毛な戦いをしてはいない。
最初の口振りから、普段ならば何羽かは必ず亭内にいる筈の妖怪兎の姿が消えている事にも違和感を抱いておらず、説明の余地が無いと言うことから妹紅は両手に構えた御札を輝夜に向けて投げ付ける。
その御札にはスペルカードルールではまず使うことが出来ない強力な霊撃が込められており、触れただけでその箇所を吹き飛ばすことが出来る程の威力が込められている。言うなれば対輝夜用に妹紅が作った威力特化の御札となっている。
輝夜「・・・・・それはありがたいわね・・・・・」
(輝夜はどこまでも妹紅を馬鹿にするかのように、それはありがたいと言葉を返す・・・・・
再生使用にも間髪入れずに攻撃してくるためか、再生が追いつかずにむ抵抗の状態でいることしかできない・・・・・
その分、竹林で戦う時は思う存分地獄を味わわせてやろうと決める・・・・・)
妹紅
「結局……私達はこうしている事しか出来ないって事だ……!!」
妹紅が輝夜に向けて投げつけた御札が輝夜の体に当たると、当たった箇所の輝夜の体が次々と弾け飛び、消滅させられて行く中、結局のところ自分達はこうして永遠に戦い合う宿命にしか無いのだと言う。
輝夜「・・・・・本当に・・・・・哀れ・・・・・」
(自分達は永遠の時を生きることが出来ても、こうしてただただ争うことしか出来ないのだということを悲観してか、自分も含めて不老不死という存在の愚かさと哀れさを言葉に出す・・・・・
言い切る前に、消滅する・・・・・)
妹紅
「それにしても、お前は何で能力を使わないんだ?
まさかまだ私を馬鹿にしているつもりか?」
蓬莱人は肉体を失った時、任意の場所から再度肉体を構築することが出来るため、奇襲に備えて右手に御札を新たに三枚構えつつ、周囲への警戒を行いつつ、先ほどからまったく能力を使わずにいる輝夜へ注意し続ける。
輝夜「今ここで私まで戦いだしたら、今するべきことを誰がするのよ・・・・・?」
(今するべきことは、妹紅のいうことが表情からして本当だとわかっているため、妖怪兎たちを探すことや、咲夜についてのことだとわかっている・・・・・
長い付き合いだと、言っていることが本当か嘘かもわかってしまうから困る・・・・・)
妹紅
「ここまでやられていながら、まだ私を馬鹿にするのか?
やっぱり今ここでハッキリ白黒付けてやるよ……!!」
【不死「火の鳥-鳳翼天翔-」】
輝夜が能力を使わずにいる理由である"今するべき事"について、これまでの小馬鹿にする発言の延長として、"自分を相手にしても能力を使うまでもない"と言うように捉えてしまい、激情に任せて右手に炎の塊を発生させ、そこから巨大な不死鳥を模した炎鳥を形成させ始める。
長い付き合いとは言え、燃え盛る炎のように、一度火が付いてしまうと、歯止めが効きにくくなってしまうため、第三者の介入が無ければ妹紅が冷静さを取り戻すのは難しいと思われる。