あいつは私達にその攻撃は効かないと分かっているはず、なのになおもナイフを飛ばしている、その顔に笑みさえ浮かべて……。
「まさか、あいつは——」
そうあいつは遊んでいる。本来、あいつの得物は銃火器なのだ。
だったら私が今やるべき事はたった1つ、あいつが遊んでいる内に、全力を出す前に勝負を決める。
「はぁぁぁッ!」
私は拳をきつく握り締め飛びかかった、腕にナイフが数本突き刺さるが今の私にとっては些細な事だ、ノスフェラトゥの脳天めがけ渾身の力を込めた拳を叩き込む。
まともに食らえばアフリカ象でさえも昏倒させるであろう一撃を、しかしノスフェラトゥは頭部を鋼鉄化させ防いでいた。
「はッ、効かねぇな、今のがお前の全力か? 」
「これならどうだぁ!」
そこに間髪入れずローラがラッシュを打ち込む、ノスフェラトゥの鋼鉄化した身体をナックルダスターが凹ませる。
「グオッ、……お前やるな」
攻撃を受け、身体が大きくのけぞるがノスフェラトゥの両足が地面から離れない、いや、離すことが出来ない。
最初の一撃が命中した時点でローラの能力はノスフェラトゥを拘束していた。
ローラの能力とは磁力操作、鉄製の武器を使う相手との相性は抜群だ、それが鋼鉄化した相手ならなおさらに。
「これで……終わらせる」
言い終わると同時、ローラは疾風となって突撃した。
このチャンス、無駄にはしない、ひたすらに拳を叩き込む、何度も何度も何度でも。
相変わらずノスフェラトゥは身体を鋼鉄化して防御しているが、それでいい、鋼鉄化した箇所からはナイフを射出できないのだから。
「まだだ、俺がしたいのは本気の戦いだ、まだお互い本気を見せてないだろうが!
見せろよお前の本気(dritt)、俺を熱くさせてくれぇ!」
「——私のdrittはこんな所で使うようなものじゃない」
声を張り上げるノスフェラトゥとは対照的に声のトーンを落として告げた。
「くく、くははははははははは」
河川敷にノスフェラトゥの哄笑が木霊する、それに呼応するかのように大気が震えた。
「何がおかしい」
「こんな所で使うようなものじゃない、ね。
くくく、そうか、そうか。だったらこれならどうだ」