アイン・ソフ・オウル 〜Riging sun curiosity〜 リメイク版

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10:キュリオス:2017/05/17(水) 18:16

 魔法の呪文を唱えると変化はすぐに起こった。体の奥深くから熱いものが沸き上がって血管を駆け抜けるこの感覚——これが、ただの人間が超人になる感覚。
 今までの私は偽者で、魔法の呪文を唱えることでようやく本当の自分自身に戻ったようなそんな気がしてくる。超常の力を使うことに何の違和感も感じないのだ。
 あぁ、痛みに顔を歪めもがき苦しんだあの頃が懐かしいな、今となってはこの痛みさえも心地いい。
「……」
 殺到する数十の蛇頭を一瞥し、さて私はどうするべきかと思案する。狭い廊下だ、躱せないのは明白——ならば。
「はぁぁぁっ!」
 拳をきつく握り締め、床を強く強く蹴って加速、即席の凶器を振り抜く、蛇頭はちぎれ飛び、床に落ちて霧散し消滅した。
 つぶし損ねた紅蛇に咬みつかれ毒牙が剥き出しの腕に食い込む、紅蛇の毒がどのような性質の毒かは分からないが、おそらく最初の一咬みで人間の致死量を遥かに超える毒が流し込まれたと考えて良いだろう。だが私にとってそれはプールにインクを一滴落とすのと変わらない。


 再び拳を握り締める、渾身の力を込めて放った一撃を、しかし女は紙一重で躱した、拳が空を切り拳圧が女の髪を揺らす。
「何故だ、何故倒れない!?」
 体勢を立て直しつつ女は驚愕の声を上げた、当然だ、私の能力位階はanfang(アンファング)——言い換えればレベル1、一方女の能力位階はレベル2に相当するzweit(ツヴァイト)、今の時点では女の方が格上なのだから。
「まさか、貴様……あの御方と同じ……」
「ええ、そうよ」
 何かに気付いたような口調で女は言った、私はそれを出来る限り冷ややかな声色で肯定する。
「……化物め」
「それは貴女も同じでしょう」
「くっ——」
 次第に女の顔が青ざめていき、唇はブルブルと小刻みに震え出した、すでに攻撃の手は止まり、辺りは静寂に包まれていた。
まともに戦って勝てる相手ではないと本能で理解したのだろう。女は糸の切れたマリオネットのように力なく膝を折った。
「あっれ〜、さっきまであんなに強気だったのに、投降なんてしないって言ってたのに、ねぇ〜」
「ローラちょっと黙ってて……貴女に聞いておかなければならないことが有るのだけれど“あの御方”って誰かしら?」
 私はその場に頽れた女の顔をのぞきこみ問いかける、あの御方と言うのは十中八九、真祖のことだ。禍器(オミナス)から供給される無尽蔵のエネルギー、それを使いこなす規格外の能力者(ヴァンパイア)。
「…………」
「教えてくれないの?」
「……トウカ、アカツキ・トウカ」
 観念したのか女は口を開いた、女の口から飛び出した名は
「日本人?」
 聞き覚えのない名だ、少なくとも私とローラはその名を知らない、アカツキ・トウカ——
「じゃあローラ、後はよろしくね」
「りょーかいー」
 まだ見ぬ敵の名を反芻し、後は全てローラに任せ、私は三名の救出に向かった。


——Episode【2】end


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