——Episode【3】
人は一生の内に何度死にたいと思うのだろう、そして一生の内に何度心の底から生きたいと思うのだろう。
「——なんだこれは、何もない、何も——ない、父さん、母さん、……どこだ?」
焦土、見渡す限りの焦土、家もビルも何もかも崩れ去り、至るところで火の手が上がる、しかしサイレンの音も人の声もしない、聞こえるのは遠くで炎の燃える音だけだ。
「エリナ? エリナ!」
呼び掛けても返事は返ってこない、不気味なほどに静かだった。
立っているのはオレ一人か、まったく、これじゃあオレがやったみたいじゃないか。……いや“オレがやった”のか、右手に感じる熱がそのことを何よりも雄弁に物語っていた。
オレが全て壊した、全てを灰塵に帰した、一体どれだけの命が失われたのか、一体どれだけのエネルギーがあればこの光景を再現できるのか、実際に見たことはないが核兵器が爆発すればきっとこうなるのだろう。
核兵器、か。まだそっちの方がましだ、自分がやったのではないのだから。
「これは……」
視線を地面に落とす、パーカーが視界に入る、それは元の色もわからないほど煤けて汚れて破れていたが、オレはそれに見覚えがあった。
「——エリナ?」
それは、エリナ、オレの妹が着ていたもの。——ようやく実感がわいた。そうだ、この状況下で生きているはずがない。エリナが死んだという現実が否応なしにつきつけられる。
「——エリナ、エリナァァァァッ!」
慟哭——オレは現実を受け入れることが出来なかった。持ち主を永遠に失ったパーカーを手に、哭き叫んだ。
この罪、どう償えばいい? 誰か教えてくれ、オレはこれからどうやって生きていけばいい? オレはこの時、19年の人生で初めて、死にたい、この世界から消えてなくなりたいと思った。
そして見上げた空は、いつもと変わらず青かった。