アイン・ソフ・オウル 〜Riging sun curiosity〜 リメイク版

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1:キュリオス:2017/03/28(火) 17:45

Episode 1

人は誰でも幸せになりたがっている。
人が幸せになりたい思うのはごく自然なこと、幸せは人それぞれ違うものだが自分の人生をより良くしたいと言う点は共通するだろう。
そして俺は特にその思いが強いと自覚している。俺だけは幸せに生きて幸せに死んでやる。
人生は一度だけ、二度目はない。だからハッピーエンドで終わりたい、後悔とかしたくない、バッドエンドは見たくない。
最後の瞬間に『ああ、よかったな』と、そう思える終わりかた、それが俺の考える最高の人生ってヤツ。
俺がそう思うようになったのは俺の親族や近所の人に幸せなヤツがいないから、例を挙げると過労死、自己破産、離婚、詐欺、それに一家心中ととにかく幸せなヤツがいない。かくいう俺も2週間前に自宅が全焼してるし、今だって変な奴に襲われそうだし。

「やっぱ呪われてるんだな」
 自嘲気味に呟き、俺は顎髭を生やした20代ぐらいの男へと視線を向ける。異形、それが真っ先に浮かんだ男の第一印象、この男の右腕は怪物のそれだ。夜の暗闇の中、街灯の光に照らされているせいか余計に怪物じみて見える。
彼の異様に大きな右腕は赤熱し湯気を立ち上らせている、その姿はまさしく茹で上がったシオマネキだ。
「……こいつに話が通じるとは思えないな」
 こいつが何なのか俺にはさっぱり分からない、ただ一つはっきりしている事はこいつが人を殺したと言うこと、男の足元に転がる死体を見やり思案する、さてどうしたものか。


 逃げる? 戦う? 助けを呼ぶ?


 逃げる、自身の生存だけを考えるなら最良の選択。だが俺がここで逃げたら他の誰かが犠牲になる、もしそんなことがあれば俺は一生罪悪感に苛まれる、そんなのは嫌だ。
 戦うと言う選択は愚の骨頂だろう、成人男性と喧嘩して勝てる保証はどこにもない、その相手が怪物の腕を持っているならなおさらに。
助けを呼ぶ、悪くないが一般市民にどうにか出来る相手なのか?
警察ならなんとか出来るかも知れないが警察に怪物が暴れていると通報してもまず信じてもらえない、信じてもらえたとしても到着するまでに殺られる可能性だってある。
それよりも今は相手を観察すべきだ、彼を知り己を知れば百戦殆うからずと言う言葉もあるくらいだ。相手をよく見ろ、そして見つけ出せこの状況を打開する策を。


 見たところ怪物化しているのは右腕だけ、その右腕は筋肉が発達し左腕三本分の太さがある、色は見る者に熔岩を連想させるような赤。
 口からは何か呻き声のようなものを漏らしているがこの距離では聞き取れない。
一歩、二歩、三歩怪物はゆっくりと俺の方へ歩みよる、数歩下がろうとしたその時だった。
「——っ!、——ガハッ」
 奴の赤熱した拳が目の前にあったかと思えば凄い速さで遠ざかる、それとほぼ同時胸と背中に強い衝撃が走る。
 吹き飛ばされ背後のブロック塀に叩き付けられたのだと理解するには数瞬の時間を要した。

9:キュリオス:2017/05/06(土) 13:21

 数百の蛇からなる紅い川は————見えない手に塞き止められたかのように、分断され、弾き返された。中にはボールみたいに丸まったもの、天井や壁に貼り付いたものもあった。
「お見事、さすがはローラ」
 その技巧に思わず称賛の声が漏れた。
 ローラの繰り出した見えない手、彼女の能力——【陰陽双極、我ら蒼穹を舞う比翼たれ】(センター・オブ・ジ・アース)は磁界生成と磁力付加を可能とする磁力操作能力、蛇の一匹一匹が強力な磁石と化し、さらにローラの意思で目まぐるしく磁極が逆転、1キログラムにも満たないであろう蛇の重量ではいとも容易く弾き返されてしまう。
 それでもなお蛇達は突撃を、何度も何度も繰り返すが結果は変わらない。
 それが意味するものは——紅い蛇を操る能力者(ヴァンパイア)は私達に手も足も出せないと言う純然たる事実。
「もう諦めて私達に投降しなさい、悪いようにはしないから」
 私の呼び掛けに応じたのか廊下に敷かれた場違いなレッドカーペットは一瞬にして消え失せ、代わりに一糸纏わぬ赤髪の女性が現れた、女はよほど自分の身体に自信があるのか恥じる素振りを一切見せず、むしろもっと見ろと言わんばかりに豊満な胸を突き出している、その口許には邪悪な笑みを湛えて。
「くっははははははは、投降? する訳ないじゃない! やっと、やっと手に入れたたんだ、この力で私は!!! 邪魔者を一人残らずぶっ殺す、まずお前らからだぁぁぁぁ!!!
 ——zweit(ツヴァイト)
 【紅蛇毒咬】(クリムゾンバイト)」


 狂気と殺意に満ちた叫びが女を神話の怪物めいた異形の姿へと変貌させていく、女の繰り出す拳はすでに毒牙を備えた蛇の顎(アギト)だ、しかもさっきより確実に速い
「ほら、死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ」
「——っ、スピードもパワーも上がってるよ、このまま……じゃ……」
 ローラと言えどこの変幻自在な蛇の軌道を読むことは難しいのか、ローラと女を交互に見やる。ローラは先程から攻撃を弾き返してはいるが、顔に疲弊の色が見えてきた。生体と磁力は相性が良くないのだろう、腕を多頭蛇へと変化させた女の連撃にジリジリ押されているように思えた。
 一方女は攻撃の手を緩めない、鞭打ち刑に使われる九尾の猫鞭を思わせる蛇と化した両腕を激しく振り回す。
「蛇の怪物はね、英雄様に斃されるものよ、もっとも貴女がそれを望んでいると言うのなら」
「カミラ?」
「私が貴女を斃す! ローラは自分の身を守る事に専念して」
 長引けば私達が不利になる、そう確信したから、それに私達が負けたら取り残されたクルースニクの戦闘班はどうなる? ゆえに変えねばならない————強行突破、危険だが戦況を変え、なおかつ、全員生きて帰るにはこれしかない。
「——anfang(アンファング)」

10:キュリオス:2017/05/17(水) 18:16

 魔法の呪文を唱えると変化はすぐに起こった。体の奥深くから熱いものが沸き上がって血管を駆け抜けるこの感覚——これが、ただの人間が超人になる感覚。
 今までの私は偽者で、魔法の呪文を唱えることでようやく本当の自分自身に戻ったようなそんな気がしてくる。超常の力を使うことに何の違和感も感じないのだ。
 あぁ、痛みに顔を歪めもがき苦しんだあの頃が懐かしいな、今となってはこの痛みさえも心地いい。
「……」
 殺到する数十の蛇頭を一瞥し、さて私はどうするべきかと思案する。狭い廊下だ、躱せないのは明白——ならば。
「はぁぁぁっ!」
 拳をきつく握り締め、床を強く強く蹴って加速、即席の凶器を振り抜く、蛇頭はちぎれ飛び、床に落ちて霧散し消滅した。
 つぶし損ねた紅蛇に咬みつかれ毒牙が剥き出しの腕に食い込む、紅蛇の毒がどのような性質の毒かは分からないが、おそらく最初の一咬みで人間の致死量を遥かに超える毒が流し込まれたと考えて良いだろう。だが私にとってそれはプールにインクを一滴落とすのと変わらない。


 再び拳を握り締める、渾身の力を込めて放った一撃を、しかし女は紙一重で躱した、拳が空を切り拳圧が女の髪を揺らす。
「何故だ、何故倒れない!?」
 体勢を立て直しつつ女は驚愕の声を上げた、当然だ、私の能力位階はanfang(アンファング)——言い換えればレベル1、一方女の能力位階はレベル2に相当するzweit(ツヴァイト)、今の時点では女の方が格上なのだから。
「まさか、貴様……あの御方と同じ……」
「ええ、そうよ」
 何かに気付いたような口調で女は言った、私はそれを出来る限り冷ややかな声色で肯定する。
「……化物め」
「それは貴女も同じでしょう」
「くっ——」
 次第に女の顔が青ざめていき、唇はブルブルと小刻みに震え出した、すでに攻撃の手は止まり、辺りは静寂に包まれていた。
まともに戦って勝てる相手ではないと本能で理解したのだろう。女は糸の切れたマリオネットのように力なく膝を折った。
「あっれ〜、さっきまであんなに強気だったのに、投降なんてしないって言ってたのに、ねぇ〜」
「ローラちょっと黙ってて……貴女に聞いておかなければならないことが有るのだけれど“あの御方”って誰かしら?」
 私はその場に頽れた女の顔をのぞきこみ問いかける、あの御方と言うのは十中八九、真祖のことだ。禍器(オミナス)から供給される無尽蔵のエネルギー、それを使いこなす規格外の能力者(ヴァンパイア)。
「…………」
「教えてくれないの?」
「……トウカ、アカツキ・トウカ」
 観念したのか女は口を開いた、女の口から飛び出した名は
「日本人?」
 聞き覚えのない名だ、少なくとも私とローラはその名を知らない、アカツキ・トウカ——
「じゃあローラ、後はよろしくね」
「りょーかいー」
 まだ見ぬ敵の名を反芻し、後は全てローラに任せ、私は三名の救出に向かった。


——Episode【2】end

11:キュリオス:2017/06/02(金) 17:37

——Episode【3】



 人は一生の内に何度死にたいと思うのだろう、そして一生の内に何度心の底から生きたいと思うのだろう。


「——なんだこれは、何もない、何も——ない、父さん、母さん、……どこだ?」
 焦土、見渡す限りの焦土、家もビルも何もかも崩れ去り、至るところで火の手が上がる、しかしサイレンの音も人の声もしない、聞こえるのは遠くで炎の燃える音だけだ。
「エリナ? エリナ!」
 呼び掛けても返事は返ってこない、不気味なほどに静かだった。
 立っているのはオレ一人か、まったく、これじゃあオレがやったみたいじゃないか。……いや“オレがやった”のか、右手に感じる熱がそのことを何よりも雄弁に物語っていた。
 オレが全て壊した、全てを灰塵に帰した、一体どれだけの命が失われたのか、一体どれだけのエネルギーがあればこの光景を再現できるのか、実際に見たことはないが核兵器が爆発すればきっとこうなるのだろう。
 核兵器、か。まだそっちの方がましだ、自分がやったのではないのだから。
「これは……」
 視線を地面に落とす、パーカーが視界に入る、それは元の色もわからないほど煤けて汚れて破れていたが、オレはそれに見覚えがあった。
「——エリナ?」
 それは、エリナ、オレの妹が着ていたもの。——ようやく実感がわいた。そうだ、この状況下で生きているはずがない。エリナが死んだという現実が否応なしにつきつけられる。
「——エリナ、エリナァァァァッ!」


慟哭——オレは現実を受け入れることが出来なかった。持ち主を永遠に失ったパーカーを手に、哭き叫んだ。
 この罪、どう償えばいい? 誰か教えてくれ、オレはこれからどうやって生きていけばいい? オレはこの時、19年の人生で初めて、死にたい、この世界から消えてなくなりたいと思った。
 そして見上げた空は、いつもと変わらず青かった。


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