【chapter 3】
【休息――Vorkriegszeit】
薄暗い室内、時計の針が16時を指し示す頃、アスカは右腕の痛みで目を覚ました、最悪の目覚めだ。
「痛てぇ〜、くそ最悪だ……あれ?」
動かない、右腕が動かない。他の部位は痛みこそあるが動かせない訳ではない、だが右腕だけはそこだけ自分の身体ではないみたいにピクリとも動かない、これはまずいな。
喧嘩慣れしているアスカでさえこれほどの怪我は初めてだった。
「怪物か」
アスカは動かない右腕をさすり呟いた、そうあれは怪物、人間の勝てる相手ではない、生きて帰れただけでも僥幸だ。
もしあの時男が炎の力を使ったら、もしカミラが来なかったら、一昨日の哀れな犠牲者のように焼け死んでいたかも知れない。
あの時、アスカは恐怖を感じた、あの男が恐ろしかった、だがそれよりも恐ろしいのはあの二人だ。
カミラはあの怪物を簡単に退けた、ローラとか言う金髪も同等の力を持っていると思った方が良いだろう、彼女らが七海に危害を加える前にどうにかしないと、何かあってからでは遅いんだ。
「七海、ちょっと来い!」
可能な限り声を張り上げ、七海を呼ぶ。
「はーい、今行くよ」
声から少し遅れて下の階から足音が響く、足音の主はドンドンドンと小気味良いリズムで階段を上ってくる、そしてドアが開く。
「やっと目が覚めたの、あんた24時間近く眠ったままだったんだからね? カミラちゃんとローラちゃんがボロボロのあんたを運んできた時は本当に死んじゃうかと思ったんだから、葬式するお金なんかないんだから勝手に死なないでよ、というか一体どんな喧嘩をすればこんな大怪我になるのよ、まったく介抱する方の身にもなってよ、このバカ」
七海は発言の隙を与えぬ言葉の機銃掃射をアスカに浴びせかける。
だが、玖我七海という生き物は不安だったり心配なことがあったりすると口数が多くなる、とにかく喋りまくることで不安を紛らわそうとしているのだ。
「で、調子はどう?」
「右腕が動かん、全身痛い」
「ちょっと、そんなにひどい怪我なの? カミラちゃんは見た目ほどひどい怪我じゃないから病院に連れていく必要は無いって言ってたけど」
「その言葉を真に受けたのか!?」
「うん」
うん、じゃねーよバカ。