素敵な青空を君に

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1:柳葉◆l.:2015/03/07(土) 22:10 ID:kE.

____今、私がこの青く澄んだ空を見ている頃
君はどんな顔をして「今日」を送っているのだろうか。

そして今日のような雲一つもない秋のあの日。
風がぬるくて、青々とした木の陰がとても涼しかったあの日。
広い校庭を一瞬で走り抜ける君を見て恋をした。

✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄

何回も何回も書いてるのに続かない柳葉です。
十回目ですねきっと←
「今回こそ頑張って続ける」
亀より遅い更新ですが温かい目で見守ってもらえると幸いです。

20:柳葉◆l.:2015/03/26(木) 19:48 ID:kE.

結局彼の手を払うことが出来なくて、流されるままだった。

「その様子じゃ荷物取りに行きづらいでしょ」

彼はふと、手を止めて私の足元を見ている。
膝を広範囲に擦りむいていたらしく包帯が巻かれていた。
痛そうには見えたが何も感じはしなかった。
彼は私に背を向けてしゃがむ。

「いや、重いですしいいですよ。
私だってもうそこまで子供じゃないんですし」
「良いから。早く。俺が恥ずかしくなるし」
そう言われ、仕方がなく彼の背中に身を委ねた。

「明乃ちゃん。細い。消えちゃいそうな位白くて細い」

そう言うと階段を軽い足取りで上がって行く。
響くのは彼の足音だけで、何となく彼と同じ目線で
世界を見れることが嬉しかった。
寂しかったよと私は彼に小さな声でそう伝える。
どうしたの。彼はいつもより落ち着いた声で返事をしていた。
彼の背中に私は顔を埋め、何でもないとまた答える。

「今日、リレー走ったんだよ」
そうなんですか、と私は答える。
「でもタイム落ちちゃった。
明乃ちゃんの声援がないからかな」

笑って彼はずれてきた私の体を上げる。
いつだって応援してますが、と私が言うと
嘘だねと笑って廊下を彼は走りだす。
彼の襟足が跳ねていて、何となく息をふっと吐いてみる。
「くすぐったいよ。そこ弱いかもしれない」
そう言いつつもちゃんとおぶってくれていて気がつけば教室の前へついた。

21:柳葉◆l.:2015/03/26(木) 20:31 ID:kE.

荷物を取りにロッカーへ向かった。カーテンが風で揺らぐ。
「あ、着替える? ジャージ大きいしそれに
洗うの面倒くさいでしょ」
私は、いや意外と落ち着きますと答え指定バッグを取る。
自分の座席に座り教科書を入れているとふ彼の匂いが後ろからした。
甘いけれど、制汗剤とかでもないし嫌にならない自然な匂い。
「女たらしですか。そういうの__」
「勘違いする? 別にしたって良いんじゃない」
彼に言いかけた言葉を読み取られていた。

甘い匂いと吐息が首にかかる。
「凄く、俺は好きなんだけど」
艶かしい声が耳に劈く。
鼓動がどんどん速さを増していき、彼にも伝わってしまいそうだった。
それにつれて火照っていく感覚が迸る。
「耳、林檎みたいに赤いね」
彼はそう茶化すと私の肩辺りに回していた腕を緩めた。

暫くぼーっとする。頭が白く何も考えられなかった。
彼は窓の方へおもむろに歩きだし、窓に凭れた。
そして私は帰宅準備を整えようと手を動かす。

「明乃ちゃん」
彼がそう呼ぶので手を止めて彼の方へ顔を向けた。

「体育祭のリレー俺が一番になったら
彼氏にして下さい」

短いけれどいくらか伸びた彼の髪が窓からの風で揺れていた。
窓の向こうの綺麗な夕焼けが彼を一層輝かせる。
あまりにも唐突すぎて、私は戸惑った。

「……はい。私でいいのなら約束しますよ」

どう言えば良いか分からないまんま
本心を口に漏らしたら彼は嬉しそうに、笑った。
胸が高鳴るのを感じ私は隠そうと俯く。

「好きになったのさ。明乃ちゃんと
授業サボって出会う前からなんだよね」

彼は淡々と話を始める。私はただ黙って聞いていた。
「多分君覚えてないだろうけど、去年の話で
俺変な奴に目つけられてたんだよね」
そうなんですか、と私は聞く。
「うん。ある日中庭にバッグを落とされてさ
偶然明乃ちゃんの体に当たったのかな。痛そうだったんだよね」
そんなこともあった気がしたね、と私は教科書をまたバッグに詰める。

「あれ見てちょっと申し訳ないから上から謝ろうとしたら
明乃ちゃん、バッグ持ってわざわざ二年の所来たんだよ」
笑って彼はその事を話続ける。
「明乃ちゃんさ。その時バッグを俺に渡してくれたでしょ。
何か、初めてそんな女の子を見たからさ胸に来たんだ」
それが理由かな、と彼は照れくさそうに言った。

別に当然のことをしただけですよ、と私が言うと
そういう真っ直ぐところが好きなんだよと言って彼は窓を眺めていた。
私は準備を終えたので彼のそばへより、一緒に外を見ていた。
「私も好きですよ」
彼に聞こえないように、私は呟いた。

22:柳葉◆l.:2015/03/27(金) 16:32 ID:kE.

私は、先輩の“名前”を知らない。
どこか踏み込めなくて、その“どこか”を聞いたら何かが壊れそうだった。
ずっと、私は心の隅っこで彼に怯えているのかもしれない。
「日川……か…………」
私はノートを自室の机に広げて彼の名字を書き、考える。

主に白で統一されている自分の部屋。
「何もないのかな。私に色は」
一回ぐるりと周りを見回すと、寂しくなってきた。

軽いノック音が部屋に響く。
どうぞとノックに答えるとドアは動く。
ゆっくりと、ドアノブを捻られ押される。
「お姉ちゃん。何か知らない男の人が来てるんだけど」
「それはどんな人? 」
妹はうーんと唸り、格好いい人と答えた。
話を聞くと、私にその人は用があるらしく
妹が私を下から呼んでもこないからこちらの部屋まで来たらしい。
一応、スリッパをつっかけて下へ降りる。
「__はい。生瀬ですが」
テレビドアホンに顔を近づけると、見慣れた人物だった。
「あ、明乃ちゃん? 俺日川だけど」
急いでドアを開けると彼は少し驚いた顔をしていた。
「何しにっていうかどうして家知ってるんですか」
彼は部活の後輩から片っ端に聞いた、と笑う。

立ち話もなんだったので、中のリビングへ通す。
ソファに座っていた妹はそそくさと
申し訳なさそうに部屋を出ていこうとした。
私はそんな妹を引き止めて、お茶を出しておいてと言う。
「えっでもお姉ちゃん。その人彼氏でしょ?」
きょとんとした顔で妹は言う。
どうやら俗に言う“雰囲気作り”をしようとしていたらしい。
気遣いは嬉しいが勘違いをしているようだった。

「この人は彼氏じゃ____」
「まだ、だけどね。そうでしょ? 明乃ちゃん」
口を彼は手で塞ぎ、私の言葉を遮った。

妹は、まだかと少し笑みを浮かべて自室へ戻っていった。
「すみません。あんな妹で」
私はそういい妹が放っておいていた茶を用意する。
「別に。姉にそっくりじゃない」
茶化すようにそう答え、ソファに腰掛けていた。

台所から少しだけ見える彼の背中を見ると、
同居をしているようなそんな暖かい感覚がした。
グラスに冷えた麦茶が入っていく。
「そう言えば明乃ちゃんってさ。
俺の名前教えたことないよね」
彼は今、思い出したように話す。
「そうですね。教えて下さい」
私は答えつつもお盆に茶の入ったグラスを乗せて、机に置く。
「……圭汰。なんかかったるいし圭でいいよ」
彼は二秒間の沈黙のあと一口グラスに手を付けた。

23:柳葉◆l.:2015/03/29(日) 11:51 ID:kE.

体育祭当日は蒸されているような感覚がするほど暑かった。

「____体育祭を始めます」

放送委員の放送が入る。辺りは騒がしく、お祭り騒ぎといったところだ。
「では、開会の言葉を三年三組日川圭汰くん……」
「はーい! 僕はこの体育祭を楽しいものにしたいです。
一生懸命頑張りましょう」
アナウンスが彼を呼ぶ前に彼は壇上に上がり、簡潔に話す。
明るいのはいつも通りで不安なようなほっとしたようなそんな気分だった。
開会式が終わり、各種目に入り出す。

「百メートル組対抗男子リレー選抜者は招集場所に集まってください」

私は関係なかったので席でじわじわと広がる汗をぬぐい
冷えた麦茶を喉に通す。
同時に流れる汗と冷え切った麦茶が何とも言えなかった。
「暑いねー今年もー。てか開会式の言葉の先輩
めっちゃ格好よかったー」
隣に座る伊瀬谷という女子生徒は私に向かってそう話す。
「そうだねー。でもリレーに出るみたいだし
もっと格好いいんじゃないかなー」

少し恥ずかしさも交えて話をすると彼女は食いつく。
「何でリレー選抜者ってわかるの? 」
「タスキかけてたじゃん」
ああーと彼女は頷き、好きとかそういう解釈はされなかったようだ。

やがて掛け声が響き、鉄砲が鳴り出す。
第一走者はやはり選抜の中でも更に上の人が走るようで
言葉では言い表せない位颯爽と走っていた。
第二走者の合図が出る前に“あの人”を私は懸命に探す。
「あ、居た」
私が思わずそう呟くと、彼女はどこどこと顔を出す。
彼のいるレーンを指し示すと歓声をあげていた。
彼は地面に手をつけてただ目の前を真っ直ぐ見ていた。
「一レーンで目立つねえ」
伊瀬谷がそう言った瞬間鉄砲が煙をあげ唸らせた。

「圭先輩! 頑張って下さい!」

私は立ち上がり彼に聞こえるよう叫んだ。
「そんなの当たり前じゃん」
彼はそう言ってぐんぐんと二位と差をつけていく。
「すげえ……凄いねあの先輩」
伊瀬谷はそう、私の手を握って立ち上がる。
私はうんと言いあまりの嬉しさではにかんだ。
彼女も笑い、きゃあきゃあと飛び跳ねる。
「凄いよ本当格好いいね」
彼女はそう彼を褒める。
私はそう思われるのが嬉しくて堪らなかった。
彼はゴール後、一位の旗が掲げられている場所にいた。

「明乃ちゃん! 俺凄くない?」

そう言って手を振る彼の姿があった。
「勿論凄いです! 格好良かったです」
彼は、だろといい笑いながら座った。

24:柳葉@スレ主◆l.:2015/03/31(火) 21:09 ID:kE.

体育祭は終わってそれぞれ荷物を持って家へ帰る。
バス乗り場までの畦道を二人で並んで歩いていた。
茜色に染まっていく山々の向こう側はまだまだ青空だった。
「疲れましたねー今日は」
私が話しかけるとそうだねと言いあくびをする。

「ちょっと走ろうよバス乗り場まで」
「先輩頭おかしいですって……体育祭直後ですよ。
筋肉痛もありますし…………」
彼は私の返答に二、三秒考えたあとじゃあおぶるよと言いしゃがんだ。
「そういう問題じゃないですって」
私が文句を言うと、いいからと言って体勢を変えない。
しょうがなく、彼の背中に身を預けておく。
彼の背中に二度も乗るとは思わなかった。

いつもより雲に近い気がして腕を伸ばした。
「何やってんのー首締まるって」
見上げた空にはハートを象ったような雲が浮かんでいる。
「__あのハートを掴みたいんです」
そう言うと、ちょっと一回降りてと言われ降りると
彼は徐に携帯を取り出し空に掲げた。
そしてシャッター音がなり、彼は携帯をいじる。
「これ、送るからバス乗り場ついたら
メールのアドレス教えて」
彼に突きつけられたのは、ハートの形の雲が写った写真だった。
「……はい」
私は何故か恥ずかしくなって顔を手で隠した。

よっしゃと喜んだ彼は携帯を
体育着のズボンポケットに滑り込ませて再びしゃがむ。
痛む脚なんか走りたくない言い訳なのにな、と私が言うと彼は答える。
「知ってる。明乃ちゃんが本当に痛い時は
なんか俺まで痛くなるし。前倒れた時もそうだったよ」
淡々とそう話す彼にまた好きになりそうになった。

好きが加速していくというのはこういう事なんだろうか。
「あ、バス乗り場見えてきましたよ」
「待って今何時。乗り過ごしてないよね」
私の腕に付けている腕時計を見たら五時少しというとこだった。
それを伝えるとまだ余裕あるか、と言い下にずれる私の体を持ち上げる。
彼の首あたりに顔を埋める。
「吐息がくすぐったいよ」
彼は笑いながら言い、私はわざと息を吹く。
それにまた彼は笑い私も釣られて笑う。
時が止まればいいのに、そう思った。

「____時が止まればいいのにね」

彼はいつもの声色でそう呟いた。

25: 依和 ◆aA hoge:2015/04/01(水) 11:33 ID:Hrk




レス失礼します!


すごく文章が綺麗で夢中で読んでしまいました!
これからも頑張ってください!!

26:柳葉◆l.:2015/04/01(水) 14:58 ID:kE.

>>25:依和様

有難うございます。私としては
こういう恋愛小説はよく読んだことがなく
まだまだ至らないところばかりですが
引き続き読んで下さると嬉しいです。

27:にっきー:2015/04/01(水) 15:17 ID:ifc



相変わらず文章が綺麗だね!
こういう風に書けるの、本当憧れる!(^^)
私も頑張らないとね!


先輩との恋かー!
なんかそういうのいいよね!憧れるっていうか

最後まで小説がんばってね!

28:柳葉◆l.:2015/04/01(水) 17:02 ID:kE.

>>27:にっきー様(ここではあえて敬称で進行します)
文章が綺麗、と言われてとても嬉しいです。
田舎のあの澄んだ雰囲気をどう文に起こせばいいのか
毎回頭を抱えています。
だけど情景だけじゃ小説は成り立たないので
登場人物の感情や思考も大事にして、リアルな
人間模様を書いていきたいですね。
もし宜しければ暇なときにまたいらしてくださいね。
感想コメント、そしてお読み頂き有難うございます

29:柳葉◆l.:2015/04/01(水) 17:20 ID:kE.

体を動かしていないからか眠気がさす。
さわさわとした風の音と足音が
子守歌のように聞こえ、眠気が増すばかりだ。
今眠い目で見えるのはぼんやりとした風景と彼の頭ぐらいだった。
「明乃ちゃん眠いでしょー」
からかうように私をおぶう人はそう話し掛ける。
眠気で彼の言葉さえも途切れ途切れに聞こえた。

眠気に意識をさらわれないようにしながら私は返事をする。
「……眠くなんかないですよ」
「嘘つきだな全くもう」
そう言いつつも、よいしょと彼は私の体を上げる。
「ほら、バス乗り場まであと少しだから頑張ろう? 」
彼は優しく、幼い子を相手にするかのように私に語りかけた。

確かにバス乗り場まで二十メートル程だがそれさえも
長く感じて、とにかく眠かった。
彼の首に回している腕の力も徐々に緩んでいく気がする。
「ほら、明乃ちゃん落ちちゃうよ。しっかりしてー」
私の落ちていく体を上げては話し掛ける。

「日川先輩の体に今こうしてくっつけているんだから
落ちたって別に良いですって」

私がそういうと、落ちたら洒落にならないよと笑った。
いつも並んで歩く時よりゆっくりとした歩調で彼は歩く。
重くないんだろうか、そう私は考えながら彼の後頭部を眺める。
「__先輩、髪綺麗ですね。なんかいい匂いする」
夕日で照らされる彼の髪、そして少し癖のある襟足に思わず触れた。
「嘘だー絶対俺今汗臭いでしょー」
照れくさそうに彼は返事をする。
私に背を向けているから顔はわからないけれど、耳が赤かった。
彼が照れるときは大抵耳が赤くて、私にその顔を隠す。
「照れてる」
少し悪戯に私が言うと、バレたと更に耳を赤くして笑った。

30:柳葉◆l.:2015/04/02(木) 21:03 ID:kE.

バス乗り場に着く頃には日が沈みそうで、薄暗くなりつつあった。
「お、星と月が見えるよー」
バス待ちのベンチで空を眺めて初めて見たかのように
隣に座る彼は無邪気に笑う。
私も釣られて空を見上げると橙と澄んだ青の上から
紺色が掛かったような空だった。
そんな美しい空の更にその上には瞬く星と丸い月が見える。

「……そうだ。例の写真送んなきゃね」

彼は思い出したように携帯を手に取る。
待って、と携帯を開こうとする彼を止めて
私は携帯を片手に持って夜空に掲げた。
ボタンを押すと同時に鳴るシャッター音で彼は私の意図に気づいたようだった。
「写真、交換っこしましょう?」
私がそう言うと彼は嬉しそうに、うんと頷いた。

白い電子光が私達二人を照らす。
「これでお揃いですねー」
私は嬉しさと恥ずかしさで必死に作った笑顔で誤魔化しても
赤く頬を染まらせているだろう。
彼はそんな私の気持ちを汲んでか、笑う。

「____先輩。私、先輩に惚れちゃったみたいです」

彼はそっかと言い口を左手で隠し、私から顔を背いた。
「それって告白ってことで受け取っていいのかな」
途切れ途切れに噛みながらも私に返事をする。

彼はベンチから立ち上がり、私の目の前でしゃがんだ。
今度は目と目が合うように、彼は私に背を向けなかった。
ちゃんと彼の顔を見たのはもしかしたら今が初めてかもしれない。
「好きです。俺と付き合って下さい」
私の両手が彼の両手で包まれるように握られて、そう目を見て言われた。

その真っ直ぐな視線に耐えきれなくて、か細い声で私ははいと返事をした。
返事を聞いた瞬間彼は目を丸くして、呆然とする私を抱きしめる。
抱きしめられると同時にきゅっと胸が締まるような気がした。

31:柳葉◆l.:2015/04/03(金) 12:35 ID:kE.

静かに、風を切りバスは来た。
バスの眩いライトが夜空を裂いて目に突き刺さる。
何も言わずに彼は私の手を引いて、バスに乗った。
夕方だからか私達と前方にいる客数名以外人は居なかった。
私らは適当に一番後ろの座席に座り流れる風景を眺めていた。
「……ねえ。明乃ちゃん」
何ですか、と答えると彼は首を振りその後少し間を置いて喋った。

「____月が綺麗ですね」

彼は、窓に流れる夜空を見つめてそう呟いた。
「…………死んでもいいわ」
私はただ目の前をぼうっと眺めて彼の返事に答える。
愛してるなんてひねくれ者の私らには似合わない、そう思ったから。
ただ、冷房の音が車内に響いていた。
「今日、送るわ」
彼はぽつりと、また窓を眺めてそう言う。
「……遠回りじゃないですか」
私がそう聞くと、彼は心配だからねと私の手を握った。
彼の手は、氷の様にとても冷たかった。
そっと握り返すと、彼は私の顔を横目で見て少し笑った。
「先輩は心が温かいんですね」
「明乃ちゃんは心が冷たいの? 」
案外そうかも、と答えるとそっと彼は手を離し頭を撫でた。
「俺らお似合いじゃん。冷たい同士」
彼はそう言って微笑む。今までよりずっと優しい笑みだった。

私は彼の横顔をちらりと見る。彼が何を考えてるか知りたかった。
いつも彼の心が遠くにあるような気がして、不安な自分がいる。
焦げ茶な髪に、ある程度焼けた肌、すっと通る鼻筋、長い睫毛。
血色の良い頬と唇。彼に不潔な所は一切なかった。
整い過ぎた彼の顔立ちは私には勿体無いとそう思える。
「人の顔じろじろと見てどうしたの? 」
彼は私の視線に気づき、笑った。
「綺麗な顔立ちで、よく笑うなーって」
彼に釣られて私は笑ってそう言うと、照れくさそうだった。
「改めて、好きだよ」
彼は小さな声で言う。散々聞いた言葉なのにそれでも嬉しかった。
「知ってますって」
私は、出来るだけ悟られないようしっかりと答えた。

32:柳葉◆l.:2015/04/03(金) 18:30 ID:kE.

バスが目的地に着いて私たちは降りる。
握りあっている手には汗が滲んで隙間に風が入った。
もう目的地に着く頃には夜を既に迎えていて、暗かった。
「明乃ちゃんこっちだったよね」
そう曲がり角を指差した。以前彼が私の自宅に来たのを思い出す。

「そうですが……何で家知ってたんですか? 」
前々から思っていた疑問をぶつけると彼は小首を傾げ話し始めた。
「あれ、言ってなかったっけ? 明乃ちゃんの家の近くだからさ
婆ちゃんの家が。実家自体は真反対だけどね」

その後彼はつらつらと、私のことを祖母がよく褒めていたとか
色々“彼の環境の話”をしてくれた。
今まで自分のことを打ち明けてこなかったから正直驚きはした。
だが私は、彼がやっと心開いたのだと思って追求はしなかった。
「____明乃ちゃん聞いてる? 」
ぼんやりとしていると彼は私の顔を覗き込んでそう聞いた。
「ああすみません……ぼんやりとしてました」
そう言って私が笑おうとすると頬を抓られた。

「顔色悪い。貧血とかじゃないの? 食事取ってる? 」
彼は物凄い勢いで話し始めて、私を叱る。
電灯の下だったからか顔がはっきり見えたようだった。
彼の顔もはっきりと見え、心配そうな顔をしている。
「可愛いんだから血色悪いのは勿体無い」
彼はそう言って、話を戻しいつも通りになった。

「な、何で心配するんですか?
何で私のこと好きになってくれたんですか? 」

叱られるという行動に慣れ無さすぎて私は彼に問う。
「明乃ちゃんだから心配だし
明乃ちゃんだから好きになった。これが答え」
彼はそうしれっとした顔で言い、私の手を取った。

33:柳葉◆l.:2015/04/04(土) 00:53 ID:kE.

ずっと私は一人だった。
幼い時から“お姉ちゃんなんだから”の言葉を何回聞いただろう。
中学に上がっても変わらなかった。
「妹は部活で優勝したのにお前はなんで出来ない。
どうしてテストの結果が悪い」
追い詰められて精神が潰れてしまいそうなくらい家が嫌いだった。

姉なんて好きでなったわけではないのに、姉としての
義務を押し付けられるのは違うと思う。
妹と比べて私はあまり可愛くはないけれど、そこそこ頑張った。
けれど頑張っても頑張っても頭ごなしに否定される。
「全然頑張ってない。その程度の頭なのか」
父親の言葉がどんなにやる気を削いでいくかきっと分かってない。

「お姉ちゃん……大丈__」
「大丈夫なわけ…………ないじゃん。
千代乃のせいだよ千代乃が出来が良すぎたんだよ」
妹に八つ当たりしたことなんて何回あったんだろう。

深夜まで勉強していたのを横目で見て、頑張りを知っていた筈なのに
「その程度」で済まされるのは何度目だろうか。
悔しくて、泣いても喚いても私が悪い扱いを受けて、
妹はただ気まずそうに怯えきった目で私を見るんだ。

一個しか変わらないけど妹は可愛い。でも
それが私には辛すぎたんだ。

だから、私を褒める君を見てとても驚いた。
「明乃ちゃんは可愛いよ」
なんて頭を撫でて言われたこと一度もなかったんだから。

きっと君に恋に落ちたのは、体育祭のあの沸き上がる様な
わくわくと、君に褒められたことから始まったんだと思う。
今見上げている空はどんな色だろう。私の目に写るモノと同じ青色なのかな。

「____明乃ちゃん。空が綺麗だよ」

ああ、そっか。隣に居るから見える景色も同じだったね。
「素敵な青空を圭先輩にもっと見せたいです」
私がそう言ったら君は、笑った。


第一話 君と私の話 end(タイトル忘れたまま進行してました)

34:柳葉◆l.:2015/04/05(日) 21:17 ID:kE.

第二話 日向と影


私の好きな人は明るくて弱い所を見た事が無い。
「____でさーあいつがさー」
けらけらと笑顔を零す彼は素敵だと思う。

でも時折何故か、彼を見ると分からなくなる。
二人でいるとき、ふと見ると凄く寂しそうな目をするんだ。

__今もそう。
「どうしたの? 」
私がそう聞くと一瞬驚き、また笑う。
「何そっちこそどうしたのー」
「私、圭先輩のこと何も知らないですよ」
曇った表情を浮かべて彼は、ごめんねと言う。

「先輩。私…………彼女ですよね? 」

声にするとじわじわと涙が溢れていく。
彼は屈み、困ったような顔で私の顔を覗き込む。
頬に流れる涙は彼の親指で拭われた。
「泣かないで笑ってよ」
宥められる度にまた涙が溢れて、きっと私は重く面倒臭い女だ。

「……先輩のことをもっと知っちゃ駄目なんですか?」

そう問うと彼は、駄目じゃないよと微笑んだ。
「ただ、今は話せないんだよごめんね。絶対いつか話すよ」
少しの沈黙が流れ、風がざわめき髪を揺らす。
「約束。しよ」
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます」
彼は小指を差し出して私の小指に絡ませて歌う。

聞いたことにはなんでも答える彼が言葉を濁したのは
今までなかった。
でもそれを探った今、私は嫌な予感がする。

「今の関係が崩れませんように」

私は立ち上がって彼に聞こえない程度の声で呟いた。

35:柳葉◆l.:2015/04/08(水) 23:00 ID:kE.

強い風が吹き、木の葉がガサガサと擦れるような音がした。
「寒くない? 」
そう問うのは“彼”じゃなくて、同窓生の上城という少女だった。
「ほんと寒いよねー」
受け答えながら私はタイマーを横目で見ていた。

今は体育の授業で、あと二十分位で鐘が鳴る所だった。
「あーあ早く終わんないかな。見学寒いし」
上城は溜め息をついて、自分の体をさすっていた。
確かにもう冬は近いと実感をさせられるような寒さだった。
ふと、朝見慣れたテレビ番組の天気予報士の言っていた、
“今年一番の寒さ”という言葉を思い出す。
空を見上げると、暖かさの欠片もない曇り空だった。

「見学ー喋ってないでちゃんと記録しろよー」
走り終わった男子達は赤く頬を染めて、息を荒げながらそう言う。
「記録してますー」
頬を膨らませながら上城は答えた。
走ってもいないのに上城の頬は少し、赤くなっていて
彼らが少し離れた後両手を頬に当てていた。
彼女は恋をしている少女、の典型的な子だった。

「好きな人あの中にいるんでしょ」

私がそう聞くと、彼女は少しぴくりと動き驚いた顔で私に尋ねた。
「何で、生瀬さん分かる……の? 」
「分かるから」
彼女は嬉しそうに微笑んで、仲間がいたと呟いていた。

「生瀬さんは好きな人誰? 」

思い出した様に私を問い詰めて、目を輝かせる。
「…………三年の先輩」
私がそう言うと、そうなんだと満足そうにまた笑った。
体育座りをする彼女とタイマーを片手に恋愛の話をするのは
どこか新鮮で、嬉しいような気がした。
今まで隣にいるのはずっと、あの人だったから。

36:柳葉◆l.:2015/04/11(土) 20:30 ID:kE.

淡い水の泡がぱちぱちと弾けた。
ずっと暗い、海の中で藻掻くこともせず体はただ沈んでいく。
少しずつ遠くなっていく陽の光を私は呆然と眺めていた。
「____きて。起きて、お姉ちゃん」
だんだん鮮明になっていく声と視界。

「……ごめんね。千代乃、今何時? 」
「九時。お風呂も入らないで寝ちゃったから……」
どうやら家に帰ったあとに眠りこけていたようだった。
「……うーん。先入ってていいよ。
ぼんやりしていたいし」
私はそう答え、妹は心配そうな顔で部屋を出ていった。

ここのところいい夢、というのを見ていない。
どこか嫌な予感しかしないのだ。
嵐がくる寸前の曇りがかった空、という心境だ。
体調は良いのに気分がどこか盛り上がらない。
「……何も起きませんように」
携帯を片手に起こした体を仰向けに倒して、天井を見る。

真っ暗な部屋で夢で見た光景と少し似ていた。
手を天井に伸ばして掴む仕草をしてみる。
その行為に何かがあるわけでもなく、意味はない。
「私は彼の何を知っているのだろう」
言葉にすると、悲しみと虚しさが込み上がって視界が涙で滲んだ。

37:酸素◆O2:2015/05/02(土) 14:58 ID:kE.

____足が浸かるほどの雪が降った。
余りにも白すぎる世界に目が眩んでしまいそうだった。
ほんのりと赤くなる耳と頬、鼻先を見ると冬が来たと感じる。
「寒いなー」
当然の様に彼は隣にいてそう零した。
雪のせいか田舎なせいか周りに人はいない。
冷ややかな手と手が絡み合う感覚に私は、
春が来ないで欲しいと願ってしまった。

九時に駅のホームで待ち合わせ、と彼から連絡を受けたのは
昨日のことだった。
新作の映画を見に行こうという内容だったので承諾した。
遠出というのは彼としたことはなかったので、わくわくして私はその日眠りについた。

朝、身支度をしていつもより気合を入れて服を選んだ。
時折部屋を訪ねてくる妹に確認しながら、一時間くらい悩んだ。
結局妹に選んでもらい、家を出た。
降り積もった雪は、近所の人により端に寄せられていて
歩けるようにはなっていた。
待ち合わせの駅まで学校で使うバスとは反対のバスに乗る。
「……大丈夫かな先輩」
そう呟きながら人気のないバスの窓をぼんやりと眺めていた。

38:酸素◆O2:2015/05/05(火) 19:00 ID:kE.





ある日の空は随分と曇っていた。
あの日あの時までは雨はふっていなかったんだ。
同級生と私の好きな人が当然のように手を繋いでいるあの瞬間を見るまでは。
「____優希ちゃん……?」
私に気づいたあの娘のか細い声が耳を劈くんだ。
うるさいな声をかけないで、耳を塞ぎたかった。

「優希? 久しぶり」
そう平然と、あの娘こ隣にいる私の元彼というやつは
笑って手を振っていた。

どうしたの、なんで泣いているの、優しい声色で私を
拾ったあの日の記憶が蘇る。
別に今は幸せだよ過去なんて気にしてないよ、なんて言えなかった。
もう既にあの二人は呆然と立ちつくす私を置いて去っていったのだから。
「__報われないことくらい分かってる」
そう言い聞かせないと何だか泣きそうだった。

雨が降った。高いビルに囲まれた狭い空から。
「……どうせ、ね。隣にいれないことくらい
最初から知ってたのにね。期待してしまったみたい」
私はにげるように人通りが少ない路地裏にうずくまった。

39:酸素◆O2:2015/05/06(水) 19:53 ID:kE.

ああ、見られたくない。
「さあ行こう? 映画間に合わないし」
あんな怒りで満ちた目で級友から睨まれるなんて死んでも御免なのに。
どうして隣にいる彼はあんなに余裕があるのだろう。
冷えた真冬の風が首元の隙間から入り込んで、
物理的にも、精神的にも凍ってしまいそうだった。

私の彼はきっと鈍いんじゃなくて、全部計算し尽くしているのだろう。
「飲み物、何がいい? 」
そう私に好みを聞いて、私に合わせてしまうところも、
きっと全部計算し尽くしてでの行動なのだと思う。
映画館の受付の人は業務用の笑顔を浮かべ、ごゆっくりと私たちを見送る。
「あと何分? 」
「七分ですよ。間に合いましたね」
私がそう答えると、彼は安堵の表情を浮かべた。

座席に座り、ただ映画が始まるのを待っていた。
「さっきの子さ____」
彼が少し居心地が悪そうに話を切り出した。
「元カノ、ですよね? 」
そういうと、ああと頷いて一口飲み物を飲んだ。
「別に、怒りませんよ私は。
ただ、優希ちゃんのあの目が怖かっただけです」
彼の言いたいことはなんとなく分かっていた。

「ごめんね」

彼は自分が悪くなくても謝る癖があるのをきっと自覚していない。


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