白語り 〜ツクモガタリ〜

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1:海兎◆Pw:2017/01/15(日) 17:55

◆プロローグ

 もうすぐアラフォー。around 40なんて呼ばれるようになる私だが、未だに色濃く残っている記憶がある。――母が亡くなった日のことだ。

当時まだ中学1年生。
ついさっき小学校を卒業したような私にとって、その事実は衝撃的だった。

昔は――いや、今でもお昼ご飯に大量のおにぎりをもぐもぐしているような楽天家の私だけれど、その時ばかりは号泣したのをよく覚えている。
 般若心経かそれとも他の宗派だったか……そこら辺はよく覚えてはいないけど、
とにかく難しいお経が響く葬式会場――には全く近づかず、
トイレの隅で泣きながらおばあちゃんが作ってくれたおにぎりをもぐもぐしていた。

……あれ? 結局もぐもぐしてたね、今思い出してみると。

 ま、それは置いといて。
そんな訳で母を亡くし、生まれる前に父を亡くしていた私は父方の祖母の家にお世話になることになった。
中学校もその時に転校して、ただでさえ周囲から浮いていた私は本格的に人から避けられるようになった。

でも、寂しくはなかった。
だって何の因果か私には多くの『モノ』が語りかけてくれたから。

これは、私に語りかけてくれたモノ達――白(ツクモ)の物語。

人ならぬ者――モノが語る、『モノ語り』

2:海兎◆Pw:2017/01/15(日) 18:41

 初めまして、海兎と申します。
つたない文ですが読んでってくれれば幸いです。

○登場人物紹介

◇白凪千里(しらなぎ ちさと)
 天才バカでちょっとココロが壊れている中学3年生。
そのあまりにぶっ飛んだ思考回路について行けない周囲から、
障害児と馬鹿にされているものの、本人はよく分かっていない。
 セミロングの髪は基本伸ばしっぱなしで、たまにお婆ちゃんに切ってもらっている。
付喪神と会話することができる。

◇富山和人(とみやま かずと)
 基本テキトーな中3男子。千里とは小学生からの仲。アタマは悪いが心優しく機転が利く。
千里のことが心配なあまり、わざわざ中学校を転校してまで千里のそばに居ることを選んだ。

◇おばあちゃん(白凪 チヨ)
 白髪。お団子ヘアーの典型的おばあちゃん。
両親を失った千里の保護者であり、千里のことを心配しているようだ。

◇塵塚怪王 (ちりづか かいおう)
 付喪神の王とされる妖怪。
精神が『劣化』して暴走した付喪神を無に帰す重要な役目を担っている。
 どこか人間臭く、妖怪としての恐ろしさや威厳はけっこう簡単に崩壊する。
本体は古ぼけた小箱。

◇紙代 花 (かみよ はな)
 活発そうな黒髪短髪でどこか猫っぽい人。
基本的に服装は白いワンピースだが、実はその下に普段着を着込んでいる。
『あらゆるものを無に帰す(水に流す)力』を使い、暴走した付喪神の処理を怪王と共に日本各地で行っていた模様。

◇付喪神
 古びた『モノ』が自我を持つことで生まれる化け物。
生者や死者の思いや怨念。動物や人の魂などをエサとして生まれる化け物で、数もそれなりに多い。
しかし喋れるモノはごくごく少数なうえ、そもそも動くことも喋ることもできないモノもいるので人懐っこくはない。
 依代(よりしろ)である『モノ』が壊れたり、
ヒトの強い悪意や邪気に飲まれて自我が薄れると暴走し、人を襲うことがある。

3:しばりん◆Fg:2017/01/15(日) 18:51

小説うまいですね

4:海兎◆Pw:2017/01/15(日) 23:06

 しばりんさん、ありがとうございます。
まだまだこれからですけど、頑張ります!

5:海兎◆Pw:2017/01/15(日) 23:14

◆第一話 白と凪りて福を成す

「ねぇ、ここ分からないんだけど……」

 6月某日。神屋東(コウヤヒガシ)中学校。

「ねぇ! 分かんないんだけどっ!」

 一学期、期末試験間近の学生が詰め込まれた3年2組の教室で数学の授業が行われていた。

「ねぇねぇ! 聞いてる!?」

 そんな試験前の緊張状態にある教室で……。

「ねぇ! ねぇ! ねぇっ!!」

 とある女子学生が声を張り上げていた。

「いい加減にしなさい白凪さん!!」
 だが、すぐにその声は授業を担当していた教師によって打ち消される。
「授業中の私語は厳禁と、何度言ったら分かるんですか!?」
 かすれた、もう言い飽きたとでも言いたげなその声に、
しかし白凪(しらなぎ)と名指した女子学生は首を傾(かし)げた。

「……? 分からないから、安田さんに聞いてるの」
 傾げながら、今まで話しかけていた安田という名字の気の弱い女子生徒を指差す彼女。
どうやらその指差した先にいる生徒がプルプルと、涙ながらに震えていることには全く気付いていないようだった。
 その光景を見て「はぁ……」とため息を吐く数学教師。
そう、彼女の――白凪千里(しらなぎちさと)の暴走はなにも今日に限ったことではない。

 テスト中に話し出す。授業中、堂々とおにぎりを食べる。急に歌を口ずさみ始める。「空が綺麗だから」と言って窓から外に出ようとする。等々、挙げてゆけば限りないが、
とかくこの白凪という生徒は教師のあいだでも『不良よりもタチが悪い』『一回精神病院で精密検査を――』と言われるほどに危険視されているのだ。

「……とにかく。今は授業中ですから……静かにして下さい」
 これほど悪名高い生徒に対して、これ以上何を言っても無駄だ。
そう判断した教師はとにかく授業を再開するために言葉を飲み込み、沈黙をうながす。

「……なんで?」「なんででも、です!」
 それが教育でないと言われようとも……。
この生徒はもう無理だと切り捨て、教師・生徒共々それを無言で了解し、
千里を――白凪千里を置き去りにしたまま、今日も『いつも通り』の日常が過ぎて行った。

6:海兎◆Pw:2017/01/16(月) 23:22

「はい……。今日はここまで……」「きりーっ」
「れい」『ありがとうございました〜』
 そうして教師が疲労困憊しながらもようやく授業が終わり、ホームルームを経て放課後となった。
と同時に、そそくさと教室から出る教師と歌い出す千里。
それらを見て顔をしかめる生徒達という奇妙な光景が生み出される。

「今ぁ〜私の〜。願ぁーいごとがー。かなーうな〜らばー。翼がほし〜い」
 「……帰ろ♪」と呟くと、カバンに教科書を詰め込みながら、歌を口ずさむ白凪千里。
それを見た女子生徒数名。
おそらく先ほど千里に質問攻めにされていた安田の“関係者達”が千里。そして安田に聞こえる声量で話し始めた。

「ほんっと、安田ってかわいそうだよね〜」
「あんな障害児の隣とか……八ッ、私だったら即登校拒否するわw」

「いやホント、ちょっと『お願い』しただけで隣になってくれて助かったわ〜マジで」
「いやマジあんなのの隣とかナイ……。多分あたしあそこに座ってたら、受かる高校も受からなくなってた。馬鹿がうつる前にアタマ狂うし〜」 『だよね〜』

 そう言いながら笑う集団に、千里の隣に座っている安田はただ沈黙する。
ぎゅっと唇を噛みしめ、落ちそうになる涙を必死に押し戻す。

だが。千里はその集団を見ても何も感じないのか、
首をかしげるとまた歌の続きを口ずさみながら教室を出た。

7:海兎◆Pw:2017/01/19(木) 23:45

すると今度は職員室のある北校舎へと渡る渡り廊下で、
先ほど教室を出て行った女性教師が別の男性教師2人と話しているのが目に入る。

「あの子は異常過ぎます! どうにかして特別教室か別の施設に移動できないんですか?」
 教室を出た時と同じく疲労困憊した様子で語る女性教師。
しかしそれを片方の男性教師が、何とも言えない表情で諭(さと)す。

「そうか、君は今年この学校に来たんだったね……。僕達も何度か試みたんだけど、なにせあの子の保護者が頑な(かたくな)なんだ。“うちの子はそんな人間じゃない”ってね……」
「そんな……っ。ただでさえ登校拒否になりかけている子やクレームをつけに来る保護者が――」
「本人に悪気が無いからね。停学にするわけにもいかないんだ。保護者も色々と説得してくれているみたいだけど……」

「け、検査。精神病院で検査を受けさせれば自然と施設に移る流れに……」
「残念だけど」
「学校側だけであの子に検査を強制するわけにはいかないんだ……分かってくれ」
 為す術が無いと分かり、愕然する女性教師。
その苛立ちを汲み取ったのかもう片方の男性教師が小さく唸った。
「ったく……。子も子なら、親も親だ……。どっちもイカレてやがる」

「おい! 生徒たちの前でそういう発言は……」
「…すんません、つい頭にきて。――まぁ、なにはともあれ僕達も親に掛け合ってみるから、あなたもできる限り対応して下さい」
「……はい。分かりました」
 やり取りを終えた教師達は職員室へ帰って行く。
それを最後まで見届けた千里は、また首をかしげると歌の続きを口ずさみながら昇降口へと向かった。

8:海兎◆Pw:2017/01/22(日) 00:07

 昇降口へ続く廊下はさっきまでとは打って変わって混雑していた。
どうやら千里が先生達を眺めている間にほとんどのクラスでホームルームが終わっていたらしい。
下校する生徒や部活に行く生徒達が昇降口へと一斉に吸い込まれてゆく。

「…………」
 それを見た千里はなぜかすぐに踵を返し、
クセっ毛のひどいセミロングの髪を振り乱しながら昇降口とは逆方向に駆け出した。
「この大空にぃ……翼を広げ、飛んで行きた……よ〜」
 逆方向に向かいながら千里はまた歌い始める。
ところがさっきとは打って変わってすぐに息が続かなくなり、
千里は何度も息継ぎをしながら走り続けた。

「悲しみ……無い、自由な空へ〜」
 歩くスピードが徐々に早くなる。心拍数が上昇する。
だがそれより胸の奥にある不快感が千里を悩ませた。

「翼は、め……か、せぇ〜」
 何か後ろから追いかけられているような、止まった瞬間に飲み込まれてしまうような、そんな焦燥感に駆られ、千里は理由も分からず歩き続けた。
 歩かないと、進まないと……自分が壊れてしまうような気がして、
自分を見ては避ける通行人を無視してひたすらに進み、歌う。

「行きたいぃ〜っ」
 しかしそんな通行人の1人である男子生徒の声を、
――自分に続いて歌うその歌声を聞いた瞬間。

 千里はビクンと体を振るわせ、その場に停止した。
「……な〜んてな」
 男子生徒はその反応を見てにやりと笑うと、
千里の正面まで歩み寄り、右手をめんどくさそうに上げてこう言った。

「……よぉ白凪! 元気だったか?」
 が、千里は目の前の男子を邪険に振り払う。
「和人(かずと)邪魔……」
「な、ちょ……会ったそばからその対応はねぇだろ、おい!」
 それを引き止めようと、和人と呼ばれた男子生徒は千里の肩に手を伸ばすが――まるでそれを予知していたかのような速さで千里に手を払われた。
「おい、待てって!」
 それでも諦めずに千里に声をかける通りすがりの男子生徒こと、和人。
すると千里は少し立ち止り、ふてくされた様子で言い放った。

「……キコエナイっ」
「はぁあッ?」
 何が!? というか子供かっ!
そんな言葉が口からこぼれそうになった和人だったが、それよりも早く千里が口を開く。
「人の歌取った人の声なんて、キコエナイ……っ!」
 不満そうな表情で、低い声を発する千里。
それを見て大体のことを察した和人は「あぁ……」と大きなため息を吐いた後、自分の短い髪を掻き回しながら言った。

「はい、はい。そっか〜先に歌っちゃダメだったか〜」
「……ん」
 それを聞いた千里は仕方ないとばかりに和人の方を向く。
それから、ちょっと申し訳なさそうに「もしかして分からなかった?」と和人を見上げた。
「あぁ、単細胞の俺じゃ身勝手なお前ルールはよく分からなかったわ〜あっはっはっは〜」
 照れ隠しなのか、そうでないのか。
千里の視線から目を逸らし、大袈裟な笑い声を上げる和人。

それを見た千里がまた眉を吊り上げた。
「……それ、もしかしてバカにしてる?」
「さぁ〜? どうだかな」
 しかし和人は――千里のたった一人の親友は、
仕返しとばかりにそっぽを向き、にやにやと笑いながらそんな千里を煽る。
そんなこんなでいつもの挨拶を終えた二人は廊下のド真ん中に立ち、
周囲から浴びせられている軽蔑の目も全く気にせず談笑し始めた。

9:海兎◆Pw:2017/01/28(土) 22:42

 いつから知り合ったのか。どこで仲良くなったのか。そんなことはお互いどうでもいいし、覚えていない。

ただ単純に楽しいから一緒にいる。

それだけの理由で今日も話が弾んで行き、その最中、和人がこんなことを言い出した。
「でさぁ、俺のクラス理科の試験対策プリント出たんだけど、全く分かんねぇんだよ〜。教えてくれぃっ、白凪!」
 そう言ってどこからか取り出したプリントを差し出す和人。
人にものを頼んでおいてなぜハイテンションなのかは謎だが、
いつものことなのか千里は真顔でそれを受け取り、内容に目を通してから呟いた。

「ん……分かった。分かる範囲でなら……」
「おぉ! そっか、サンキュー」
そうして千里は「ここなんだけどさぁ」と和人が読み上げる問題を黙って聞き始める。
「え〜っと、問3。二酸化炭素中で物を燃やすことは可能か? また、可能であるなら燃焼させる物質の名称を答えなさい……だとよ」

「イオン化傾向の大きな金属なら、可能(できる)。2Mg+CO2→2MgO+C……。マグネシウムを二酸化炭素中で燃焼させると酸化マグネシウムに……二酸化炭素は還元されて炭素に、なる」
 眠たそうな声で、即座にそう回答する千里。

「……相っ変わらず理科はすごいよな…お前」
 知り合った仲とはいえさすがに驚いたのか、和人は問題を読むのを止め千里に向き直る。
「ううん……計算できないから物理系は、無理」
 が、やはり何食わぬ顔でそう言う千里。
「…………」
 その態度に少し腹が立ったものの、
物理系が一体どこの分野なのか分からない和人は無言のまま問題の音読に戻る。

「……問5 原子を構成している粒子を答えよ」
「電子、陽子、中性子。通常の原子であれば同数ずつ存在……」
「問8 太陽の中心温度は何℃か?」
「約1600万℃ 主に水素からヘリウムへの核融合により発熱」
「問11 皆既日食において、太陽が完全に隠れる前後に発生する現象とは?」
「ダイヤモンドリング……内部コロナが――」「よし、分かんねぇ!」

 何かを悟ったようにプリントを引っ込め、勝手にうなずく富山和人(とみやまかずと)14歳。
コイツハトクベツナンダーキットソウダー。
と謎の呪文を唱えた後、一部では爽やかだと評判の笑顔に明らかな怒りを乗せて、忌まわしい天才へと向き直った。

「まぁ赤点ギリギリのラインまで理解してたしいいかぁ……。って白凪?」
 するとそこには先ほどしぼめたはずの頬をまた膨らまし、見るからに不機嫌そうな千里がいた。
「和人……ずるい。私も問題出す」
「え? いや、何?」
 訳が分からずそう突っ込む和人。
だが声が全く聞こえていないのか、千里は「うーんとね、うーんと」としばらく何かを考え、その後何かを閃いたのか「あっ、そーだ!」嬉しそうな顔で和人にこう問いかけた。

「問12 私は試験日が苦手……。何でだろう?」

 ――もはや問いではなく人生相談だった。
そのあまりの意味不明さに思わず「は?」と言いかけた和人だったが、ふと思い当たったフシがあり。それをそのまま口に出してみた。
「あ〜多分 試験がお昼ごろに終わるのに給食が出ないからだろ? お前試験があるたびにお腹すいたって言ってるもんな」
 その瞬間、千里が目を丸くする。
「正解……まさか当たるとは思わなかった……」
「やっぱりか。……というかお前、いつもおにぎり数十個持って来てるだろ」
「試験終わる前に全部食べる、から」
「……それでお腹が空くお前の構造を知りたい所だが、それより俺からもう1つだけ別の質問していいか?」
 そう言いながら、ニカッと笑う和人。
その態度に何か不快なものを感じ取ったのか、千里はあからさまに嫌そうな顔をする。

「ぇ……。もう帰りたい……」
「まぁ、まぁ、そう言うなって。すぐ終わる」
「…分かった。ちょっとだけ…」
「んじゃ、問13」

「何があった? 白凪」

10:海兎◆Pw:2017/02/05(日) 22:12

 ついさっきまで楽しそうに話していたというのに、
その質問を口にした瞬間、その場の空気が凍り付いた。
 和人は冷や汗を流しながら笑い、
千里は必死に表情を消しながら黙る。

 そんなどうしようもない時間がしばらく続いたあと、
最初に言葉を発したのは以外にも千里だった。
「質問の意味……分からない」
 なんの話? と言わんばかりに一切の感情を排除した冷たい声で威圧する千里。
が、和人はそれに臆(おく)することなく言う。

「とぼけんなよ……」「……とぼけてない」
表情を消しながら、千里も負けじと言い返す。
「何があった?」「何もない」
「お前にしては焦ってんな?」「焦ってない……」
「……言えないのか?」「言えなくない……」
 反論が反論をよび、意味のない言い争いを続ける2人。
将棋であれば千日手と判断されそうな言い合いの最中、しかし和人は唐突ににやりと笑った。

「大丈夫か?」
「大丈夫じゃな……」
 言った瞬間「ぁ……」とその発言の意味と和人の罠に気付き、声を漏らす千里。
必死にごまかそうとするも「ほら、やっぱり動揺してんじゃねぇか……」と目の前の友人に諭され、そのまま沈黙する。

「ひねくれんなよ白凪……『あんな顔』して歩いてたくせに、分からないわけないだろ」
 もう観念しろよ。そう言いながら千里の頭を撫でる和人。千里はその手を払おうとするも張り合うこと自体が馬鹿らしくなったのか、そっと体の力を抜き、和人の手のなすがままに頭をぐわんぐわんと揺らす。
「で……何かがあったんだ?」
 和人もそれを気配で察したのか、もう一度千里に問いかける。
千里は数秒間、撫でられている感覚を味わうように沈黙した後、こう語った。

「和人は……私と話してて平気?」
 うつむきがちに、まるで母親に叱られた子供のように縮こまる千里。
「みんなね……私と話すと嫌な顔したり、泣き出したりする」
「……そうか」
 そんな千里の気持ちを、和人は自分なりに解釈しうなずく。
するとその反応を見て少し警戒心が薄れたのか、千里はさっきよりも大きな声で続きを語った。
「分からない……何でそんな顔するのか、分からない……」

 小さい頃から、人と付き合うのが苦手だと言われてきた。
でも自分はそんなこと気にしなかった。最初からみんな友達で、みんな仲間。
それが当たり前だと思ってたのに……。この頃なんかおかしいの……。
 言いたいことは出てくるのに、言葉にできない。
「…………」
そんな千里の――親友のことを知っている和人はその言葉をただじっと聞いた。
「私が悪いのかなって思うけど……。でも、何でか分からないから、どうしたらいいか……分からない」

「お前は悪くねぇよ……。きっと相手もお前が急に話しかけて来て驚いてるだけだ」
 千里の悲痛な声を聞いた和人はつい条件反射でそう答える。
するとその解答が理解できないのか、千里は首を傾げた。

「何でビックリするの……? 私、ビックリしない。みんな友達だから」


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