(続き)
文芸部の強制廃部が最も理想的な処分であることは、美紀にもよく分かっていた。しかし生徒会の一因ではなく個人として、幼馴染の百合香にも打ち明けていない妥協の理由が彼女にはあったのである。そんな複雑な心境も露知らず、理想論を口だけで言ってのける良を美紀は睨みつけた。容赦ない彼女のきつい目線に良は僅かにおののくも、確かにそれは仕方ないという風に肩を竦めてみせる。
「まあ、部費ゼロが最善手っちゅうんなら、是非ともその方向で頑張ってほしいわ。俺がこうして作品作れんのも、一重に百合香ちゃんのおかげみたいなもんやし!」
「会長を応援してくれるのは構わないけど、絵ばかり描いてないで少しは自分の心配もしたら?」
「俺、実は『一日十枚は絵描かんと画力とセンスが衰える病』を患っとってな……」
「話はそれだけ? じゃあ私、これから校長室に行かなきゃいけないから」
「あー待って! ごめんて! もうちょいだけ聞いて!」
つまらない良のジョークをばっさり切り捨て、美紀はその場を後にしようとする。無慈悲にもその場に置き去りにされそうになった良は、慌てて彼女を引き留めた。彼の無様な呼びかけに、あからさまにうんざりしたような顔を向けながら、それでも美紀は立ち止まった。
「百合香ちゃんに伝えてくれへん? 『俺の絵のモデルになってくれんか』って! 構図ラフができ次第になるから、実際に見て描かせてもらうんがいつになるかは分からんけどな」
「伝えるだけなら別に構わないわ。でも、どうして会長の絵を?」
「さっきも言うたけど、百合香ちゃんのおかげで俺は絵が描けるねんて。せやから、そのお礼みたいなもんとしてな? それに……」
――女王なら、肖像画の一つくらい描いてもらうんが嗜みやろ?
そう言って良は、垂れ目の目尻をさらに下げてにっと笑う。彼の笑顔は、女王の繁栄を願う者のそれであった。