【リレー小説】学園女王【企画?】

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1:ビーカー◆r6:2017/01/29(日) 18:05

――この学園は、女王に支配されている。

【主な内容】
生徒会長によって支配されカースト、いじめなど様々な問題が多発した白羽学園(しらばねがくえん)。生徒会長を倒し、元の学園を取り戻す為に生徒達が立ち上がった……という話です。

【参加の際は】
好きなキャラを作成し、ストーリーに加えていただいて構いません。
ただし、
・チートキャラ(学園一〇〇、超〇〇)
・犯罪者系
・許可なしに恋愛関係や血縁関係をほかのキャラと結ばせる
は×。
また、キャラは「生徒会長派」か「学園復活派」のどちらかをはっきりさせてください。中立派もダメとは言いませんが程々にお願いします。
キャラシートは必要であれば作成して下さい。

【執筆の際は】
・場面を変える際はその事を明記して下さい。
・自分のキャラに都合の良い様に物事を進めないように。
・キャラ同士の絡みはOKです。ただし絡みだけで話が進まないということの無いように。
・展開については↑のあらすじだけ守ってくださればあとは自由です。
・周りの人を不快にさせないように。

15:ABN:2017/02/12(日) 01:47

(翼との交流ありがとうございます。他の方の投稿を挟まないのはいかがとも思いましたが、話の流れ上最適だと判断したため投稿させていただきます。すみません)



「……ってことは何だ。生徒会長の話に名前が出る程度には、俺らは目をつけられてるって訳か?」

「その通り。翼クン本人は良い子だけど、悪いお友達とよくつるんでるから不安だって、かいちょーが『心配』してたよ?」


 机の上で足を組みながら、愉快そうにクスクスと笑う璃々愛。だが彼女とは対称的に、翼は面白くなさそうな顔でチッと舌を打った。生徒会長が言う『心配』が額面通りの意味でないことは、学園に入学して間もない彼もとうに理解している。
 そんな期待通りの反応を示した後輩に満足しつつ、璃々愛は言葉を続けた。


「今回の奴らみたいに、真っ向から反逆宣言するよりかはずっと賢いと思うけどさ。『壁に耳あり障子に目あり』だっけ? 自分の発言には気をつけないと、誰が見聞きしてるか分かんないんだからね」

「あーはいはい、ご忠告どーも先輩様。しかしそんな事をわざわざ教えてくれたっつうことは、お前は俺達の味方って認識でいいわけ?」


 これ以上は耳が痛いと言わんばかりに、翼は璃々愛の台詞を半ば中断して、話題の方向を自分から彼女に向ける。彼の問いに璃々愛は少し考える素振りを見せると、間もなくしてニイっと意地の悪い笑みを浮かべた。


「さあねえ。それは翼クンたちの行い次第じゃない? ま、どちらにせよ、アンタたちの命運はもうアタシが握っちゃってるしー」

「さっきの俺の話をチクるつもりか? 証言だけじゃあちゃんとした証拠とは認められねえんだぜ」

「それは裁判所での話じゃん。残念ながらここは白羽学園で、その法律はかいちょー。逆に言えばかいちょーの信頼さえあれば、冤罪を吹っ掛けることだって不可能じゃないんだから」

「うっわ、マジかよ……」


 既に警戒されている新入生の翼と、一定の信頼は得ている在校生の璃々愛。生徒会長の前で有利なのは言うまでもなく後者だろう。言外に答えられた正論に対し、返せる言葉を翼は持っていなかった。


「まあまあ、そんな悔しそうな顔しないの。別に今すぐ密告するとは言ってないし、それに表向きだけとはいえ、アンタたちみたいな過激派がいると助かるんだよね」

「助かる?」

「かいちょーが命令するまでもなく、処刑対象をボコるつもりだったんでしょ? そうしてくれれば、アイツら以外の不満分子に対していい見せしめになるからさ」

「生徒会長の代わりに俺達が直接手を下せってか。流石、清く正しい女王様だぜ」

「誉め言葉として受け取ってあげる。じゃ、言いたいことは大体そんな感じだから。精々加減しながら暴れてちょうだいね?」


 その台詞を最後に、璃々愛は座っていた机から飛び下りると、彩度の高い桃色の髪を翻しながら退室していった。女子特有の甲高い声が消えた空き教室で、翼は盛大な溜め息を吐く。


「……という訳だ、お前ら。あいつの言った通りに動くのは癪だが、ほとぼりが冷めるまでは大人しくしてるぞ」

「はあ? マジであんな奴の言いなりになるのか!?」

「もうちょい上手く言いくるめられなかったのかよー」

「うっせえよ! 不満垂れるなら端から俺に丸投げしてんじゃねえ!」


 璃々愛には弱みを握られ、生徒会長には警戒され、友人の不良たちからはブーイングを受け。行き場のない鬱憤が限界に達した翼は、璃々愛が座っていた机を乱暴に蹴飛ばしたのだった。



(長文になってしまいすみませんでした)
(主催のビーカーさんに質問なのですが、一人で作ってもよいキャラの人数に上限はありますか?)

16:ビーカー◆r6:2017/02/12(日) 21:33

上限はありませんが、自分が使いこなせるくらいに留めておくのが良いかと思います。

17:かおり:2017/02/15(水) 20:18

シンプルながら伝統的な雰囲気を醸し出す学園の講堂。
綺麗な声が響き渡っていた。
「この度、とても喜ばしいことに、二人の生徒の方が昇格されます。白野恵里さんと、戸塚亜衣さんです」
全校生徒の前でそう話したのは百合子。すると、大きな拍手が会場を包み込んだ。
……昇格、ね。
生徒達も気づいているだろう、この話の本当の意味に。

今回『昇格』するのはE組生徒二人。クラスごとの人数は決まっているため、その代償として他のD組生徒二人が降格することになる。
私達生徒会のねらいはそれだ。
降格するのは勿論……板橋麻衣と松葉晃だ。
E組になれば、自由はほぼ無いに等しい。

革命の予防、というわけだ。

これで、百合子の楽園は、守れる。

百合子を、守れる。

そのためなら、なんだってしてやる。

それが、私、神狩美紀なのだ。

私にとって、百合子がすべて。
それは、ただ幼馴染だからというわけではない。


百合子を見上げる生徒の中に、一人、明らかに異質な生徒を見つけた。
ピンク色に染められた長髪……結城璃々愛だ。
あんな見た目でもこの学園にいられるのは、何故か百合子が気に入ったからだ。

璃々愛のどこがいいのかは知らないが、まあいい。

百合子はいつでも正しいから。

18:匿名 ABN:2017/02/16(木) 07:30

>>16 回答ありがとうございます。あと二人ほどキャラの案があるので、一応それまでに留めておきます)
(かおりさんが投稿した場面が、仮の処刑宣言の翌日だと仮定して書きました。不都合などがあればスルーお願いします)



「どうかしましたか? 神狩会計。会長の演説中に余所見とは珍しいですね」

「いえ、なんでもないわ。ちょっと心配ごとがあっただけだから」


 自分の隣に立っていた、同じく生徒会役員の安部野に声をかけられる。彼の問いに対して、美紀は本心を誤魔化す形で答えた。
 ――璃々愛は確かに得体の知れない不安分子だ。しかし他でもない百合子自身が彼女を肯定しているのなら、少なくとも璃々愛は百合子、及び自分の障害ではないのだろう。それより、問題は……。


「ところで神狩会計。今回の『昇格』に伴って一つ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」

「提案? 何かしら」


 美紀がその話を聞き入れる姿勢を見せると、安部野はゆるりと口元を緩めながら言葉を続けた。


「今回の処刑対象は、自ら生徒会長に手を出した無謀者でした。無謀というのは時に恐ろしいもの。こちらにも読めない方法で、反逆を企ててくる可能性もあります」

「確かにね。でも、だからこそ今回の『昇格』でしょう? E組に堕ちた生徒は、この学園では無力も同じよ」

「無力だからこそ、ですよ。失うものがなくなれば、リスクを恐れる必要もない。恐れがなければ、過激な手段でも躊躇いなく実行するかもしれません。そんな危険人物を放置するわけにはいかないでしょう」

「……つまり、今回の処刑対象には監視をつけたいということ?」

「理解が早くて助かります。それに自分で言うのもなんですが、僕の観察力は人並みよりは高い。彼女たちに不穏な動きがあれば、それを理由に処刑を先導……あるいは煽動することも出来るでしょう」


 いかがでしょうか? と最後に締め括って、安部野は自分の提案を述べ終わった。
 確かに彼の意見は一理ある。それを踏まえた上で念には念を入れ、という理由での監視なのだろう。美紀はそう思案する。


「……なるほど、悪くないアイデアね。でもそれを通すには、会長の承認が必要になるから即答はできないわよ」

「勿論、承知しております。ですので生徒会長のお時間が空き次第、この案の是非を判断して頂きたい所存です」

「安部野くんの考えは分かったわ。一応今の話は、会長に伝えておくわね」

「ありがとうございます」


 保留の返事を受け取り、うやうやしく頭を下げる安部野。その顔が下がっている間、美紀は彼の仕草を訝しげな目で見ていた。

 安部野椎哉。彼は今年度の新学期から、白羽学園に転入してきた生徒だ。三年生とはいえ、新参者の彼が生徒会役員の座に就けたのは、優秀な学力と、学園への強い貢献心を認められたからという話だが。
 執事のようだと揶揄されるほど、柔らかい物腰と周囲への綿密な配慮。その一挙一動があまりにも丁寧すぎて、逆に胡散臭さを覚えるのだ。従順という分厚い皮で、それとは真逆の性質を覆い隠しているような。


「おや、そろそろ始まるようですよ。正式な処刑宣言が」


 百合子が立っているステージに安部野が目線を向ける。同時に美紀も、演説台に立つ彼女をじっと見つめた。
 ――板橋麻衣。松葉晃。結城璃々愛。安部野椎哉。誰が敵に回ろうと同じこと。親愛なる百合子に仇成す者は例外なく、全員破滅を辿らせるまでだ。
 全校生徒の前、凛とした佇まいで直立する百合子の姿に、美紀は改めて自らの決意を固め直すのであった。

19:ビーカー◆r6:2017/02/16(木) 19:17

「……皆様、御二人に盛大な祝福を」
麗しい声が演説会場に響き渡る。一瞬の間、空気が止まる。女王は相変わらずの微笑みを浮かべ、理想の少女として振る舞い続けていた。勿論、その底知れないおぞましさの宝石はしっかりと胸にしまい込んで。
「そして同時に……どうかあの二人に弔いを」
視線は女王突き刺すことなく、寧ろ彼女を優しく包み込む。木々にとまった烏でさえも、女王をじっと見つめている。
「……先日、仮の処刑宣言はさせて頂いたものの、皆様にはきちんとご説明をしていませんでしたね。最高学年の三年生ならまだしも、一年生や未経験者、休みがちの方々には解りにくい点が少々あったでしょう」空気さえも、女王に服従している様な錯覚。女王の声は確実に全生徒達の耳に届く。
「処刑。それは白羽学園の平和の為の制度です。学園の意思に背く、私達や周りの方々に迷惑をかける、白羽学園生としてあるまじき行為を行う……そういった事を行い、残念ながら処刑対象になってしまった生徒達。そんな生徒達を処刑するのは、皆様なのです」
ごくりと唾を飲み込む音がした。女王は生徒達を見回し、訴えかける。
「処刑には勿論苦痛が伴います。しかし、彼等を放置しておけば皆様を守ることができません。彼等に最大限の痛みを、人の痛みを理解してもらわなければ、平和な学園は築けない。恐れることはありません、これは皆様自身の為の処刑なのですから。約束します。皆様が対象を処刑しても。散々に苦痛を与えても。私は貴方を赦します。貴方を讃えます」

「学園の為に――皆様の為に、私は宣言致します」

「2年C組、板橋麻衣さん。2年D組、松葉晃さん。二人を、処刑しなさい」

20:蒼月 空太◆eko:2017/02/18(土) 00:19

処刑の宣言がされてから翌日。
松葉 晃は、自室でノートに、ペンを走らせていた。どう対抗するか。どうやれば勝てるか。
が、まったく案が浮かばずに、ボールペンを投げ出して、布団へとダイブした。

「はぁ・・・勝てる策が浮かばねえ・・・っつーか絶対俺らE組に落ちてるだろ・・・味方作れるかなー・・・ってか、返事しろよー、板橋ー」

晃は、麻衣を連れて、自室に止めていたのだ。丁度一人暮らしだから。という理由だけで。

「あのさ・・・自分から仕掛けたことって言っても、無謀すぎる気がするの。なんていうか・・・どうにか味方・・・作れない?」

「それを今考えてるんだっての!それによ、俺喧嘩強くねえし、もう八方塞なんだよ。しかもやたらと誰かに見られてる気がするしよー。」

晃は、D組の友達へ、スマホでMINEを送ると。

こー『どうにか俺らの手伝いできねえか?友達だったろ?』

タク『ふざけんな裏切り者。俺はあの生徒会長とあわよくば付き合いたかったのにお前みたいな野郎がいるせいで友達だとか言われた俺まで避難されてるんだよ。マジふざけんな。』



「ちくしょー!薄情ものめーっ!」

晃はスマホを投げて、そのままノートにペンを走らせて、ちょこん、と座っている麻衣。

「あのさ・・・一つだけ、作戦が浮かんだんだけど・・・」

麻衣の口からは、衝撃の作戦が告げられた―。

21:ABN:2017/02/18(土) 14:41

>>18 名前書く場所間違えたああああorz)
(白野恵理さんの視点お借りしました。麻衣さんと晃くんが相談している一方その頃のような感じです)



 長らく努力し続けてきた成果が実ったのだろう。今回の集会を以て、白野恵理は最底辺のE組から晴れてD組へと昇格できた。全体で見ればまだまだ下の方だが、勉学のプレッシャーからは幾分か解放され、心にも今までより余裕が出来るだろう。


「初めまして、白野さん! D組へようこそ!」

「これからは私たちと一緒に頑張ろうね!」

「う、うん……」


 余裕が出来る。と恵理は思っていた。しかしあの集会以降、彼女の心はずっと晴れない。
 恵理と入れ替わるようにしてE組に降格した、二年生の板橋麻衣と松葉晃。自分(ともう一人)の昇格が二人を贄にして行われたのだと思うと、素直に喜ぶことはできないのだ。それに今だって、目の前の新しいクラスメイトは朗らかに話しかけてくるが、少し目を逸らせば麻衣と晃の侮辱話を嘲笑いながら繰り広げている生徒が見える。
 果たして自分は、こんな生徒たちと上手くやっていけるのだろうか? 恵理が溜め息を吐きそうになったとき、教室の外がやけに騒がしいことに気づいた。


「どうしたの?」

「あー、二年の人が廊下で倒れたみたい」

「大分しんどそうだけど、この人って確か……」


 D組前の廊下を見ると、確かに小柄な男子生徒が床に転がるようにして倒れ付していた。だが、周囲の生徒たちは彼を遠巻きに見るばかりで、誰一人として彼に手を差し伸べる様子はない。通常なら誰かしらが彼を介抱するなり、保健室に連れて行くなどするはずなのだが。


「お前保険医員だろ? 早く連れて行けよ」

「はあ? 嫌だよ。確かにあいつは処刑対象じゃなかったけどさ……」

「分かるー。『広報部』の奴らとは関わり合いになりたくないし」


 うずくまって呻いている男子生徒には声もかけず、生徒たちはひそひそと介抱の面倒を押し付け合う。周囲の話に耳を傾けると、どうやら彼は「広報部」と処刑関連で過去に何かがあったらしいことが聞き取れた。
 この学園において、自らの評判は生命線と同義である。例え些細な行為でも、それが学園全体――もっと言えば生徒会長の意向にそぐわなければ、たちまち白い目を向けられてしまうだろう。
 ……しかし、それでも。


「あ、あの! 大丈夫ですか?」


 彼が敬遠される所以こそ恵理は知らないが、それでも病人が利己的な都合で放置される光景は気分が悪い。
 自分の評価を犠牲にする覚悟を決めると、恵理は思い切って二年男子生徒に声をかけた。



(長文になりすぎるため、男子生徒の詳細などは次回くらいの投稿で書こうと思います。それまでに挟みたい交流などがあればどうぞ)

22:奏:2017/02/18(土) 15:20

【あの、小説と関係ないんですけど生徒会長の名前って百合子じゃなくて百合香ですよね?】

23:ビーカー◆r6:2017/02/18(土) 15:36

(百合香、ですねー
まあ間違いはよくありますしお気になさらず!次から直していただければ幸いです)

24:ABN:2017/02/18(土) 17:46

(うわああああ人様のキャラになんて失礼をすみません;以後気を付けます;;)
(再発防止といってはなんですが、こことは別にキャラをまとめたり質問などが出来るスレがあれば便利だと思うのですがどうでしょうか…)

25:ビーカー◆r6:2017/02/18(土) 18:20

>>24
大丈夫ですよ!
なるほど、立てるとしたらどの板にいたしましょう?小説か創作かどちらかだと思うのですが…

26:ABN:2017/02/18(土) 18:56

>>25 ここは現在進行形で書かれている他の小説もあるので、立てるなら創作でしょうかね?勿論他の参加者さんたちの意見も聞いた方がいいと思いますが)

27:奏:2017/02/19(日) 10:51

〜麻衣と晃の作戦会議〜
「あのね、私趣味っていうかなんかそんな感じでね、洗脳について調べてたの。」
まさかこの知識がここで役に立つと思ってなかったな…
「するとね風花百合香の支配の仕方は全て洗脳の技術な訳。そこで考えたの。これを私たちも使ってみないかって。」
すると晃は、「うおっ!マジか!」
「成功するかはわからないけどね…でもやってみないとわからない。お願い、晃くん。
協力して。」
麻衣は真っ直ぐな目で晃を見つめた。すると晃は笑って
「そんなん言われなくても協力するっつーの!で、具体的にどんなことをするんだ?」
「よく聞いてくれたわね。風花百合香は完璧でしょ?そして理想的。まずそれで魅了する。
でも不正を犯したものには厳しい罰を与える。これで恐怖を植え付けるのよ。そしてこれから私たちが
一年生たちの恐怖の植え付けの見世物ってわけ。あなたも見たでしょ?一年生の時にえっと、確か
藤野真凛。彼女だったわね。彼女もまた生徒会長に反抗した。でもどう?今はもうこの学校にはいない。
あの時もきっと粛清されたんだわ。そしてまた私たちに恐怖を植え付けた。
これが彼女の洗脳方法よ。私たちはこの洗脳を解く。解き方はいろいろあるわ。例えばいろんな人たちの意見を
聞く。あとは善悪で物事を考えない。要するに物事の見方を変えるってこと。学生たちはみんな
風花百合香の思想に塗り替えられてるから私たちはその思想を壊すの。そうなるとかなりの人の協力が
必要だわ。でも今の時代はネットがある。利用しましょう。風花百合香を潰すために。」

【長文すいません>>26 そうですね 創作でいいと思います。】

28:蒼月 空太◆eko:2017/02/19(日) 18:54

俺も書きますね

「でもよー、どうやってネットに皆集めるんだ?俺らは投稿すれば粛清対象で授業中すら追いかけられるしよー、これはキツいんじゃねえか?」

「晃くんって確かパソコン使うの上手いよね?」

「まぁ、パソコンの腕なら負けたことはねえな」

「じゃあ、学校掲示板を立てちゃおう。そういうのが出来ればなんとか集められると思うの。」

マジか。随分と大胆なこと考えますな麻衣さんよ。って、まぁ掲示板作るくらいなら余裕か。つっても外部人が来ないようにしねえとなぁ・・・ああ大変だこりゃ。

続く(短いけどすみません)

29:ビーカー◆r6:2017/02/19(日) 19:30

(了解しました。創作板の方に建てさせていただきます)

「かいちょー?」
生徒達のいざこざがあちらこちらで起きる中、放課後の生徒会室を覗き込む生徒が1人。目が痛くなるようなピンク色の髪に小さな身長、短いスカート。そう、結城璃々愛だ。
「あら……どうしたの、璃々愛ちゃん」
その声に反応し、彼女の方に視線をやる百合香。相変わらずの優しい笑顔。
生徒会室にいるのは、椅子に腰掛け雑務をこなす百合香1人だけだった。
「かいちょー、あの反逆者共がね、なんか危ないかも」
璃々愛はそう言いながら、百合香の肩に両手を回す。金木犀の優しい香りが、璃々愛の鼻に入り込む。
「まあ、どうしてそう思うの?」
「えへへーっ……盗み聞きしちゃったの」
そう言って璃々愛は、女王の耳元に携帯電話を当てる。そこから流れ出たのは、反逆者――麻衣と晃の、作戦会議。その音を、百合香は暫く黙って聞いていた。
やがて再生が終わると、百合香はゆっくりと口を開く。
「……璃々愛ちゃんったら……いつ盗聴器を仕掛けたの? 犯罪になっちゃうわよ」
「証拠がないから訴えられても負けないもーん。それよりかいちょー、どうする?」
麗しい女王の耳元で微笑む璃々愛。その光景はさながら、小悪魔が天使に囁く様だった。
「そう、ねぇ……」
百合香は数分の間考え込み、やがて璃々愛に笑いかける。
「璃々愛ちゃん、『また』お願いできるかしら? ついでに掲示板ごと操作してしまいましょう」
「了解っ、かいちょーの為なら何でもしてあげる」
そう言いながら璃々愛はスマートフォンを取り出し、電源をつけた。SNSアプリを開くと、50個以上ものアカウントがずらりと表示される。彼女はその中から1つを選び、プロフィールを開いた。

『Lily.
フォロー 121 フォロワー 63,982』

30:ビーカー◆r6:2017/02/19(日) 19:37

http://ha10.net/sou/1487500416.html
こちらになります。

31:奏:2017/02/19(日) 22:11

【2人目のキャラ作らしていただきます】
「…うふふふふ…きゃはははははは!」
暗い部屋の中pcのエンジン音が鳴り響きブルーライトの光に照らされる少女は深夜、不敵な
笑みを浮かべていた。
「生徒会長さん。あなたってほんと素晴らしいわね…」
彼女も白羽学園の生徒。今は出席停止状態の少女。そして今パソコンに何やら打ち込んでいる。
「まさか反逆者が出るなんて、おもしろい展開じゃない!…ふふふふふふ…」
そして彼女がエンターキーを押した瞬間部屋に電気がついた。
「あの時の復讐…この機会を待っていたの…」
彼女の部屋の壁には風花百合香の写真が貼ってあってその写真は全て顔が切り裂かれていたり、
えんぴつでぐちゃぐちゃにされていたり。
その傍には生徒手帳が置いてある。『藤野真凛』と書かれた生徒手帳が。

32:ABN:2017/02/20(月) 01:43

>>30 スレ立てありがとうございます!)
(告知通り前回の続きです。どうしても長くなってしまったので、二回に分けて投稿させていただきますすみません)



「筆崎先輩、あれから大丈夫でしたか?」

「なんとか。心配かけてごめんね。……で、どうして君は俺のクラスに来てるの?」


 二年男子、筆崎剣太郎(ふでさきけんたろう)を恵理が介抱した翌日。恵理は剣太郎の様子を見に、彼のクラスである二年E組を訪ねていた。
 しかし剣太郎は、恵理の気遣いに感謝こそすれど、自分の教室にまで赴いた彼女の行為はあまり歓迎していないようだ。弱々しくも突き放すような態度が、彼のそんな心情を物語っていた。


「昨日も少し言ったけど、俺にはもう近づかない方がいい。白野さんの沽券に関わってくるから……」

「……私の沽券に関わるから、また先輩が倒れたとしても見捨てろってことですか?」

「そうだよ。君もE組にいたなら分かるだろう? この学園は成績と評判が全てを決める。必要以上のお節介は自分の身を滅ぼすだけだ」


 剣太郎の言葉に、恵理はぐっと喉を詰まらせる。実際に自分がE組だったときの扱いは、他の組の生徒と比べて明らかにお座なりだった。彼の言い分は確かに正しいだろう。しかし。


「でも、体調不良の人を見捨ててまで保つ沽券の価値なんて、たかが知れてます。そんな紙切れ程度のものなら、いっそない方がマシですよ」

「!」


 恵理のその言葉で、剣太郎の顔は明らかに驚愕で染まった。そうして観念したように肩を竦めると、躊躇いがちな小声で、恵理だけに聞こえるようにして話す。


「……分かったよ。お節介を続けていいとは言えないけど、忠告くらいはしてあげられると思うから」



◆ ◆ ◆



 中庭の中でも日の当たりが悪い、人気がない隅の隅。そこまで恵理を連れてきた剣太郎は、ぽつりぽつりと自分の身の上を話し始めた。


「まずね、この学園には『広報部』って部活があったんだ」

「ああ、筆崎先輩が倒れたときにも、微かですが聞こえてましたね。どういう部活だったんですか?」

「学園内のイベントや功績を挙げた生徒を取材して、それを学園新聞にまとめる。謂わば学園の新聞社ってやつだね」


 昨日聞こえてきていた生徒たちの話からもある程度推測できたが、かつては剣太郎も広報部の一員だったのだろう。当時の活動内容を想起する彼は、僅かだが楽しそうに見えた。生憎その表情は、その直後に見る影をなくしてしまったのだが。


「でもあるとき、当時の部長が言ったんだ。『この学園は異常だ。この異常性を学校中に知らしめる』って。反対した部員もいたんだけど、それでも部長は独自の調査と取材を続けた。それまで行われてきた処刑の詳細や……この学園を牛耳る生徒会長の秘密や、権力の実態まで」

「まさか、それで広報部は……」

「部長が掴んだ情報がどこまで真実だったかは分からない。でもどちらにせよ、部長の行為は生徒会長の逆鱗に触れてしまった。結果、広報部は強制廃部になって、部員は全員Eクラスに降格。加えて部長には処刑命令が下されて、それで……」


 剣太郎が吐けた過去はそれまでだった。嗚咽に似たうめき声を上げると、口を抑えて昨日のようにうずくまってしまう。
 恐らく昨日の体調不良も、宣言された処刑命令によって引き起こされたものなのだろう。彼自身の意思もあったとはいえ、全く同じ症状を引き起こさせてしまったことに、恵理は酷い罪悪感を覚えた。


(続く)

33:ABN:2017/02/20(月) 01:44

>>32 続き)



「ごめんなさい、筆崎先輩。そんな酷いことがあったなんて……」

「ううん……白野さんが謝ることはないよ。むしろこのことを誰かに話せて、少しは楽になったし」


 そう言って剣太郎は微笑むが、その笑みはとても弱々しく、体躯の小ささや具合の悪さも相まって、いっそ病人のようにさえ見える。
 直接の処刑対象でない彼さえも、ここまで追い詰める生徒会長と、白羽学園。彼女たちの容赦のなさと非道さを、恵理は改めて目の当たりにしたのだった。


「とにかく、俺が皆から避けられてる理由はこんな感じだね。だから白野さん、君はもっと自分を大切にして……」

「あっ、すみません先輩。D組の人からMINEが来たので、ちょっと待ってください」

「う、うん」


 話の腰を折ってスマホを弄るのは本来なら許されがたいことだ。しかし折角入れたD組の席から追い出されないためには、今度は成績だけではなく、コミュニケーションにも気を配らねばならなくなるだろう。
 剣太郎もそれを察したのか、特に文句を言わずスマホの使用を承諾する。彼の気遣いに感謝しつつMINEを開くと、そこにはURLが投稿されていた。


メッセージ:面白い掲示板見つけたよ! 白野さんも見てみたら?
リンク:【白羽学園 学校掲示板】



(今回存在だけ登場した広報部部長で、ABNが作るキャラは一先ずこれまでとなります
(実はABNがライン使ったことのない原始人なので、MINEの描写がおかしいかもしれませんすみません)

34:ビーカー◆r6:2017/02/20(月) 16:57

「……あったあった……白羽学園、学校掲示板? かいちょーの邪魔しようってわけね」
鍵のかかった屋上の扉の前で1人、結城璃々愛は呟いた。彼女の左手には、派手な装飾がなされたスマートフォンが握られている。
掲示板には今のところ、特に内容のある書き込みはなされていない。せいぜい『何年何組?』『管理してるの誰か知ってる人集合』といった、雑談系のものが数件あるだけだ。
「ふーん……今のうちに釘、刺しちゃおうかなっと」
そう言って璃々愛は右手を動かす。
いくら学校掲示板だからといって、第三者に見つかる可能性を蔑ろにしてはいけない。処刑の件を話題にしたり、むやみやたらに会長の話をしたりするのは得策とはいえない。
では、どうすべきか。
簡単だ。ただの雑談会場にしてしまえば良い。
Wi-Fiを変更したり消したりを繰り返して、IDを変更しながら璃々愛は作業を進める。IPアドレスを管理者が特定したとしても定期的に変更されるのだからほとんど意味はなさないし、そこから個人を特定するのは国の許可が必要だ。機種だって同じものを使っている生徒が大多数であり、璃々愛の特定は不可能といえる。

『学園祭何したいか話そー』
『勉強会ー課題わかんない人集合』
『文化部雑談スレ』
『白羽学園一の美人決定戦』

そして最後に1つ。
『【生徒会より】要望・御意見募集』

「……よし」
念のためにスクリーンショットを残し、璃々愛は立ち上がる。
生徒会も見ている、という牽制にはなっただろう。もし書き込みが消されたら、スクリーンショット付きで文句を言って掲示板ごと過疎させればいい。管理者が差別を行う掲示板は批判の果てに潰される。
「……それに……どうせ気付いてないんだろうなあ。あいつらの中にこっち側がいるってのに」
独りそう言い放ち、璃々愛は満足そうに笑う。
「アタシはその逆に気付いたけどね、でも言わないでおいてあげるよ。まだかいちょーの邪魔はしてないみたいだから」
ポケットに手を突っ込み、スマートフォンと入れ替えに別の物を手に取る。それを取り出すと左手の指先で数回転くるくると回した。
「……かいちょーに手出ししたら、許さないけどね」
左手のカッターナイフを持ち変え、悪魔はその刃先を舐めた。

35:蒼月 空太◆eko:2017/02/21(火) 20:13

晃視点

ただの雑談だとかそういうのがかかれてて中々麻衣の洗脳作戦出来ないな・・・まぁ、ここはあれで行こう。スレ削除より手っ取り早く・・・
俺は新規スレッドを立てた。もちろん、俺は管理人だから、管理人権限。それを使って、そのスレッドが必ず一番上に上がっている状態にさせた。

「よっしゃ。これでなんとか行けるか。」

掲示板タイトルー

『生徒会反逆者に対して語る』

ハンドルネームはタク。MINEでも使ってる名前だから、アイツはそれなりに人望があるし、上手く誘えるか。

1:タク ×月○日(▲)13:27

生徒会長にたてつく反逆者へのスレ。俺の元友達だった松葉晃と板橋 麻衣がメインになるだろうな。まぁ、すぐに押しつぶされるのがオチだろうけどなw



よし、こっからだ。俺はパソコンをいじりながら、眠気覚ましドリンクを飲んだ。ほぼ不眠で掲示板作り作業をしているからだ。

「ただ・・・なーんか何か聞かれてる気がすんだよなぁ・・・」

俺は心配だったことを片付けるために、部屋を探してみた。

36:ABN:2017/02/21(火) 23:06

「はあ? 板橋も松葉も今日休んでんのかよ」

「処刑宣言にビビったか、それともマジで反逆の作戦でも立ててんのかね」

「どっちにしろアイツらがいないんじゃ、制裁もクソもねえよ。あー、つまんねえ!」


 処刑。それは暴力好きな生徒にとって、自分の破壊衝動を合法的に解消できる一種のイベントである。たった一人を大人数で痛め付け、助けや許しを乞う声を無視し、酷い大怪我や心の傷を負わせても。相手が処刑対象でさえあればその罪を問われないどころか、学園の風紀を守ったとして称賛されるのだ。
 しかし本日、肝心の処刑対象である麻衣と晃は学園を欠席している。先日璃々愛に牽制された分の八つ当たりを処刑で晴らそうと思っていた大路伏翼とその友人たちは、やり場のなくなった鬱憤をうだうだともて余していた。


「大体、翼が結城の奴を上手くやりこめてりゃ、こんなことにはならなかっただろうに」

「いい加減黙れっつってんだろ。それとも自分の方がもっとアイツを言いくるめられたってか? この底辺E組が!」

「ああ? ちょっと頭いいからってなに調子乗ってんだよ!?」

「その頭の良さにあやかってんのはお前らだろうが! 都合の悪いときだけ妬んでんじゃねえよ!」

「おいおい、二人とも落ち着けって! ……ん、MINEか?」


 鬱憤の責任を互いに押し付け合い、険悪な状態になった二人をなだめようとした友人の一人。そのとき、彼のスマホから軽快なメッセージ着信音が流れる。反射的に画面を見ると、翼たちとは別の知り合いから見知らぬURLが送られていた。


「なになに、『白羽学園学校掲示板』?」

「この学園に掲示板ってなかったような……。新しく作られたのか?」

「へー。生徒会からのスレも立ってんだな」


 ネット上に新しくできた交流の場。現在リアルタイムで更新されている掲示板を見ようと、スマホの周りに続々と集まる友人たち。険悪だった翼たち二人も掲示板に興味を引かれ、争いは一先ず横に置きつつ友人たちに倣って画面を覗いた。


「割と最近に作られたからか、結構人はいるみたいだな」

「なんつーか、妙に中身のないタイトルのスレが多い気もするが……」

「掲示板なんてそんなもんだろ。それより俺、いいこと思いついちゃったんだけど」


 目まぐるしく生まれては流れるスレッド名の数々。スマホの持ち主である友人はその中の一つに目をつけ、早速投稿フォームに文字を打ち込む。


「処刑対象が登校してこないんだったら、俺たちが直々に迎えに行ってやればいいよな?」

「はあ? 迎えっつっても、俺たちアイツらの家とか知らねえぞ」

「だから今から聞くんだよ。学園中の全校生徒にさ!」


--------

スレッド名:生徒会反逆者に対して語る

2:匿名(20**/05/2* 13:3*)
板橋麻衣と松葉晃の住所とかよく出掛ける場所知ってる奴教えろ
ビビって学校に来ない反逆者を潰すぞ



(※注意:ネット上で個人情報を公開したり、他人のプライバシーを脅かしたりしてはいけません。良い子の皆さんはネチケットを守りましょう)
(もし翼の友人を作りたい方がいれば、自由に作っていただいて構いません)

37:蒼月 空太◆eko:2017/02/22(水) 15:35

晃視点

さて・・・誰か書き込んでりゃいいんだけどなー・・・って、うっわ、住所問題か・・・まぁ、今の俺はタクだし、いけるか。

3:タク 20**/05/2* 13:27

一応松葉の住所なら知ってるぞ。元友達だしなw
白羽町2-17-6

よし、確かヤクザが屯してるってとこで有名なこの住所ならいけるか。まぁバレたらそこでどうにかするけれど。

「さあって・・・物探しするか。」

38:ビーカー◆r6:2017/02/22(水) 16:51

(あまり掲示板の書き込み合戦を続けるのもアレですので、キリの良いところで一旦切っていただければ幸いです)

39:奏:2017/02/22(水) 18:24

真凛視点
『カタカタ…』
今日も真凛はPCをいじっている。画面には白羽学園学校掲示板の文字が写っている。
彼女がPCのキーを押す。 すると書き込んである人たちのアドレスの横に本名、電話番号、メールアドレスが映る。
「あとは学校のデータベースに侵入するだけ…♫」
真凛は言う。真凛がなぜ出席停止になったか。それは彼女もまた生徒会長に反抗したものだからだ。
彼女はネットでは有名なハッカー、『killer』であって彼女は生徒会長の秘密を探るべく
生徒会長のPC、スマートフォン内に侵入、ハッキングに成功した。だが生徒会長にバレ処刑された。
しかし彼女はその時生徒会長のPC、スマートフォンから入手したデータをコピーしていた。
そして生徒会長のスマホに残っていた日記に驚くべきデータが残っていた。
『2011年11月23日
今日もいじめられた。痛い。死にたい。高校生になったら絶対に私に反抗できないくらい
絶対権力を築いてやる。




2014年3月7日
名門校、白羽学園の受験成績トップで受かった。あの学校で私は 生徒会長になってやる。
そして私に反抗するものは消す。私に服従するものはたっぷり利用する。』

40:ビーカー◆r6:2017/02/22(水) 22:01

「……会長。頼まれた仕事、全てこなしました」
「お疲れ様、ありがとう。私の言う通りにやれば出来たでしょう?」
生徒会室の扉を開け、1人の生徒が立ち入った。どうやらこの生徒も、女王の従者として役割を全うしていたらしい。
「はい、流石会長です……あんな複雑なプログラムを数時間で組み上げてしまうなんて」
「元からあるのをちょっと弄っただけよ、私なんて大したことないの」
そう言って女王はくすりと笑う。その仕草は始めから終わりまでやはり優雅。ああ、この人は昔から天才で謙虚だったな。1人の生徒はそう、心の中で呟いた。
「これで藤野真凛はダミーのデータベースを歩き回る羽目になる。本来の学園のサーバーは全て暗号化されロックがかかっている筈です。幾ら有名ハッカーといえども、あの桁の……256ビットの暗号を解読するのは流石に不可能でしょう」
「そうね……」
女王は右手のペンを、静かに机に置いた。
「藤野さんの腕は確かに素晴らしかった。でも、彼女は自分の力を過信し過ぎる。自分より上の存在なんか幾らでもいるのだと分かってないのよ……その油断が自分を破滅させたというのに」
そう言って女王は生徒の目を見つめた。彼女の口元は綻んでいるものの、その瞳は黒曜石の様な闇があるだけだ。生徒はその闇を見つめ返して、また目を逸らす。
「可哀想な子」
あくまで女王にとって、彼女の処刑執行はただの自殺でしかなかったのだ。勝手に向こうが暴れて、勝手に朽ちていった、ただそれだけ。
生徒もまた、そんな彼女の考えを察していた。
「……ところで会長……先程送らせていただいたあれは」
「あら、まさか本気で信じているの?」
女王は拍子抜けた顔をした後、ふふっ、と可笑しそうに笑い出す。生徒はただその様子をじっと眺めていた。
「私がいじめられる様な事をしたとでも? 私はいつだって友達にも環境にも恵まれた、とても裕福な子だったのよ」
「では、あの日記は……」
藤野真凛が見つけ出した、あの日記は。
「弱い人を見ながら、相手になりきって日記を書いてみたの。そうすれば、その人の気持ちが分かると思って」
その言葉の意味を、1人の生徒はすぐ様汲み取った。そして……女王のその行為に身震いさえした。
言い換えるとこうだ――百合香はいじめられた人間をただただ見て、その相手の日記を想像し書いてみたと。
それでも女王は笑い続ける。

この人にとってはこんな反逆、お遊びでしかなかったのだ。

「さあ、私はそろそろ見回りに行かないと……皆さんがトラブルを起こしていないかね」
女王は立ち上がり、少し背伸びをして歩き出す。生徒会室から足を踏み出し、振り返る。
「じゃあ、くれぐれも感づかれない様に気を付けて? 大丈夫、貴方ならやれるわ」
女王は、生徒会室という城の扉を閉めた。

41:ABN:2017/02/22(水) 22:16

 空が徐々に暗くなり、ネオンや街灯などの照明が次々と点る街中。その光が届かない大通りの裏道で、翼を始めとする大勢の不良生徒に睨まれているのは片原拓也。全員から明らかに怨念を向けられていることは分かるが、彼らの恨みを買うような心当たりは全くない。拓也はわけも分からないまま、ただ否定の言葉を繰り返していた。


「だ、だから知らねえって! いつ俺がお前らにヤクザの居場所を教えたってんだよ!?」

「とぼけんじゃねえ! 松葉の住所だって嘘ついて学園掲示板に書き込んだだろうが!」

「翼の口八丁がなかったら、今頃俺たちボコボコにされてたぞ!?」

「証拠のレスもしっかり残ってんだ。言い訳なんて効かねえからな、『松葉の友人だったタク先輩』?」


 ドスが利いた声でそう脅しながら翼が見せたのは、松葉晃の元友人だという「タク」の書き込み。勿論拓也本人に見覚えなどなく、首を横に振ることしかできない。


「本当だって! 学園掲示板もたった今知ったし、誰かの成り済ましじゃねえの!?」

「ほー、成り済ましねえ。じゃあもし俺が松葉の住所を教えろって頼んだら、お前は素直に教えてくれるわけ?」

「当たり前だ! あんな奴友達でもなんでもねえ、むしろ俺だって松葉をボコりてえよ!」


 ほんの数日前まで、共通の話題で盛り上がっていた友人。しかし晃が生徒会に反旗を翻し、その風評被害を自らが受けた瞬間から、彼との絆は拓也の中で一切なかったことになった。それほど拓也にとって、生徒会の存在は偉大なのだ。

 一方、拓也の必死の返答に翼は意外そうな顔をした。てっきり友人を庇うものだと思っていたのだが、彼の口から出てきたのは鮮やかなまでの手のひら返し。
 反逆者になるということは、自分の評価が奈落の底まで堕ちること。その事実を改めて目の当たりにした翼はぞっとした震えを覚えつつ、それでもニヤリと口角を歪めた。


「よーし分かった。拓也、俺たちを連れて行け。そうすりゃ礼として、松葉をボコらせてやるよ!」

「へ? い、いいのか!?」

「当たり前だろ? 元はと言えばアイツを処刑するための投稿だったしな。協力してくれるんなら、あれが冤罪だってことも信じてやるさ」

「マジか! 是非とも頼む!」


 願ったり叶ったりな翼の提案に、今まで横にしか振らなかった首を今度は縦に振る拓也。そんな彼が赤べこのようだと内心嘲笑しながら、翼たち不良生徒は今度こそ処刑の期待に胸を踊らせていた。

 晃の自宅に、裏切り者の足音が近づく。



(この後できればやりたいことがあるので、未遂でも構わないのでよろしければ翼たちにボコられていただけると助かります(酷)。無理でしたらスルーで構いません)

42:蒼月 空太◆eko:2017/02/23(木) 16:11

晃視点

結局何も見つけられなかったな・・・っつーか、なーんか嫌な予感すんなー。よし、ドアキッチリ閉めとくか。と、俺はドアの鍵をチェーンごとかけて、そのままなるべく奥の部屋まで行った。

「晃くん、いきなりどうしたの?こんな風に奥まで行って布団被るなんて・・・」

「嫌な予感がする。俺は勘がいいからな。」

「でもパソコン置いてきちゃったじゃん!」

「大丈夫。パスいれねえと掲示板の管理人権限使えねえし、仮に壊されようがデータ消されようがバックアップは取ってるからスマホでも管理人権限使えるし、元々データは消すのにパスワードいるしな」

俺は不安な麻衣に説明をしておく。用意周到なんだぜ?俺。と強がっておくが、多分ヤクザの方は見破られただろう。タクは今頃吊るし上げ・・・もしくはこっちに来てるな。

「松葉 こおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!出て来い!」

うわうるせえええっ!どういう声出してんだよ!ってか誰だよ!しかたねえ。麻衣だけでも守るためにどうにか出るか。と、俺は窓を開けて、家の前で思いっきり睨んでる不良数人と案の定いたタクへ。

「はぁ〜い〜なんのようですか〜?」

「テメエ!よくもぬけぬけと出てこれたなぁ!俺を破滅寸前まで追い込みやがって!」

「なんのことやらさっぱりわかりませんなおとっつぁん」

「お前が反逆者になったからこっちまで避難されてよ!それだけじゃなく冤罪で殺されかけたんだぜ!?」

「あっははぁ、そりゃわかりませんなぁ。えっへっへ。」

俺はなるべ〜く向こうに悪い気をさせないように言う。ちなみに向こうは明らかにヤバいもん持ってるし投げつけられたりしたら大変なもんばっかしだ。

「このっ・・・とぼけんじゃねええええッ!」

タクはそのまま石をこっちに投げてきた。予め用意した盾・・・・こと学生鞄で防ぐ。

「あぶねえだろ!なんてことすんだよ!」

「うるせえ!今すぐそっち向ってやらぁ!」

タクたちはそのまま、玄関のドアへ直行して、ドカドカと体当たりや、持っているもので殴ったりしてくる。

「oh・・・・・」

「畜生っ、中々開かねえなこの野郎!」

ガンガンドアが叩かれるところに、俺は、こ〜っそりと部屋に戻って、俺が小学生の頃に作ったこけしを用意して・・・・

「せーのっ!」

ヒュッ

ゴンッ!

「いでええええええええええええええええええええええええええええええッ!」

こけしは不良の一人に当たって、落ちる。不良は頭を押さえて痛がる。
さてさて、こっからどーしましょ。

続く(タクがボコられるのは自由ですが・・・俺だとつなげるのが難しいので、他の方にお願いしますね)

43:ABN:2017/02/23(木) 22:12

>>42 注文に応えていただき本当にありがとうございます…!)
(また長くなってしまったので二回投稿させていただきます。その上自分が作ったキャラがかなりでしゃばってます。重ね重ねすみません;)



「な、なんだこれ!? こけし!?」

「『こけ』しだけに俺らのことを『コケ』にしてるってか! ふざけんなゴラア!!」

「ふざけてるのはお前の駄洒落だ!!」


 頭上に硬いこけしを落とされ、(若干の自己解釈込みで)更に憤慨した不良たちは、各々の得物を振るうペースを怒りに任せて加速させる。滑らかな表面だった玄関の扉は今や無残にも傷だらけで、所々ガタも来はじめているようだ。この弁償代が学生の小遣い程度で済まないことは想像に難くないが、目の前が真っ赤になっている不良たちは考えなしに扉を壊し続ける。
 そんな不良たちの中でも、率先して破壊活動に勤しんでいるのは片原拓也。血眼になり、脂汗をも浮かべながら、固く握った石でドアノブを何度も叩きつけていた。あまりの必死さに周囲の不良さえ若干戦いているが、本人は彼らの様子に目もくれない。


「お、おい……。拓也、もうやめとけって」

「うっせえ! まだ一発も殴ってねえのに引き下がってたまるかよ!」

「そ、そうじゃなくて……ひっ!?」


 とん、と不良の悲鳴とほぼ同時に、拓也の肩に手が置かれた。その手を振り払うようにして振り向き――瞬間、拓也の顔が凍りつく。


「これは一体なんの騒ぎでしょうか? 片原役員」

「あ……安部野、さん」


 生徒会書記、安部野椎哉の変わらない笑顔が、拓也のすぐ後ろにあった。
 予想だにしなかった人物の登場で思わず手から滑り落とした石は、静まったその場に無機質な音を響かせながらコンクリートの地面に落ちる。


「あの、違うんです! これは松葉晃を処刑するために……!」

「ええ、仰りたいことは分かりますよ。学園の風紀向上のため、処刑対象を罰するというのは立派なことです。しかし……」


 一旦言葉を区切ると、拓也と不良たちの視線を促すように街道の方向を揃えた指で示す。そこにはこの辺りの近隣住民だろうか、遠巻きに彼らを見ながら、ひそひそと小声で会話する人々の姿があった。今更第三者の目線に気づいた拓也たちは、自分たちの行いを省みると一斉に戦々恐々とした。


「生憎ここは白羽学園ではなく、白羽町の住宅街。処刑という言い分が、果たして学園の外でも通用するでしょうか?」

「で、でも! 処刑対象が学園に来ないんじゃ意味ないじゃないですか! 俺たちは……そう、無断欠席の松葉を登校させようと!」

「なるほど。だとしても、他人の家を破壊してもいい理由にはならないでしょう。しかもこんな講習の面前で……」


 まだ何人か残っている周囲の人目を改めて見やり、安部野はくつりと笑った。いつもと同じ顔の筈なのに、漏れ出た笑い声には若干の狂気が含まれているようにも聞こえる。
 拓也がかいていた脂汗はいつしか冷や汗に代わり、その体をぞくぞくと冷やす。膝小僧はガクガクと笑い続け、体を上手く支えることができない。そして――。


「あなたたち。そんなに白羽学園と生徒会長の顔に、泥を塗りたいのですか?」

「う……うわああああああああ!!」


 自分がしでかしたことの重大さに、それによって墜落するであろう生徒会長の信頼に、そして目の前の男子生徒の底知れない凄みに耐え兼ね、拓也は一目散にその場から逃げ出した。


「ちょっ!? おい、待てよ拓也!」

「一人だけ先に逃げるとか卑怯だぞ!」


 街道に飛び出していった彼を、不良たちが次々と追いかけていく。そうして安部野意外の男子生徒がいなくなると、松葉邸の前はようやく静寂を取り戻したのだった。



(続く)

(ところで、本来なら前もって聞くべき質問だったのですが、今回のような演出の注文はやっても大丈夫なのでしょうか?)

44:ABN:2017/02/23(木) 22:19

(続き)



 一方、松葉邸内。玄関を見下ろせる部屋の窓から、晃は安部野の姿を認めていた。
 拓也たちに続いて、彼も自分たちに危害を加えに来たのだろうか。そう晃が考えたとき、安部野の顔が窓の方に向いた。


「松葉晃さん、降りてきてください。渡したいものがあります」

「……」

「警戒は不要です。今回はあなたに一切の危害を加えないことを誓いましょう」

「……今回は、かよ」


 つまり次回以降、自分たちに危害を加えない保証はないということか。あからさまに敵側である彼の前に姿を現す気はないが、このまま相手が諦めるまで粘れるかは分からない。それに長時間の緊張状態が続けば、匿っている麻衣の精神にも悪影響だろう。


「……仕方ねえ。相手は一人だ、俺が全部引き受けりゃ大丈夫だろ」


 深く息を吸って気合いを入れ、晃は忍び足で玄関へと向かう。そして覚悟を決めると、最大出力の警戒をしながらゆっくり扉を開けた。


「こんばんは、夜分遅く失礼します。生徒会書記の安部野です」

「……なんの用だ?」

「まずはこちらを。本日まで休んでいた分のプリントと、あなたのクラスで出された課題です」

「え? あ、どうも」


 こちらの敵意をものともせず、むしろ学園からの配布物を当然のように渡してきた生徒会書記。彼の唐突な親切さに、思わず普通に感謝の言葉が口から出る。


「あなたは処刑対象であるとはいえ、れっきとした白羽学園生の一人です。学園の偏差値を下げないよう、しっかりと勉学に励んでください」

「そりゃ、余計なお世話をどーも」

「それと学園の方にも登校するように。無断欠席は内申点にも影響しますし、第一あなた方がいなければ処刑制度の意味がありません」

「……やっぱそれか。全校生徒からボコられるのを分かって、のこのこ登校する馬鹿がいるわけねえだろ?」


 やはり一番の目的は処刑関係か。プリントで僅かに緩んだ警戒を引き締め、晃は今一度安部野を睨んだ。対して安部野は相変わらずの笑顔でくすくすと笑っている。


「ほう。板橋麻衣さんの謀反を手伝っておきながら、そのような臆病風に吹かれているとは笑えますね」

「なっ、違えよ! 今はまだ準備期間なだけだ! 絶対お前ら生徒会を打ち負かして、その余裕顔をぶっ飛ばしてやるんだからな!」

「……戯言を」


 安部野の顔から笑顔が消える。瞬間、彼の腕は晃の襟首を掴み、自分の顔のすぐ近くに引き寄せた。あまりにも突然のことに、晃は抵抗も叶わず――。


「!?」


 晃の目が見開かれる。それから然程間を置かず、彼の襟首は安部野の腕から解放された。


「失礼しました。危害を加えない約束をしておきながら、僕としたことが感情的になってしまいましたね」

「おい、待て! 今のは」

「そろそろ時間も遅くなりますし、今晩はこれで失礼させていただきます。ではまた明日、学園にて」


 そう言い残すと、安部野は晃の二の句を待たずに松葉邸から立ち去っていった。残されたのは、玄関に立ち尽くしたまま呆然とする晃のみ。


「晃くん、大丈夫? 静かになって随分経つけど……」

「あ、ああ。なんとか。もう全員諦めて帰ったぜ」


 自分だけ隠れている状態に耐え兼ねたのか、おずおずと麻衣が廊下に出てきた。一先ず晃は彼女の緊張を解しつつ、ポケットに入れていたスマホを取り出す。そしてメモ機能を起動すると、手早く文字を打ち込んで麻衣に見せた。


『自分の荷物を調べろ。変なものがあったら触るな』



◆ ◆ ◆



「どういうことだ……?」


 安部野に襟首を掴まれたときのことを思い出す晃。あの瞬間、彼はごく小さな声で囁いたのだ。

『あなたたちの荷物に面白いものが入っています。ただしそれには触れないように』と。

 その言葉に従って自分と麻衣の手荷物を調べたところ、確かに学生鞄に盗聴機が隠されていた。こんなものを仕掛けてくるのは生徒会長側の人間だろう。
 ならば、どうして生徒会長に近しいはずの彼があんな忠告をしたのだろうか?


「……考えても分かんねえや。とりあえず今日はもう寝よう」


 自分たちが不利になるようなことを喋らないよう気をつけつつ、自室のベッドへ向かう。そんな晃の胸中では、信じがたい一つの可能性が頭をもたげていた。

45:ビーカー◆r6:2017/02/24(金) 19:21

翌朝。
白羽学園の校舎の前には、2人の反逆者の姿があった。麻衣と晃は考えに考えた末、学園に登校することを決めたのだ。また昨夜の様な出来事が起こる可能性も高い。それに学園を相手に戦うならば、学園の状況を把握しておくべきだろう。当然ながら、通りがかる生徒達の目は冷たいもので、時折ひそひそと悪口が聞こえてくる。
提案したのは麻衣自身といえ、その手には汗が滲んでいた。現時点では学園の全てが敵だ。もう誰も自分達を助けてはくれない。
そんな麻衣に、晃はいつもの調子で笑いかける。
「大丈夫だって。味方なんか少しずつ増やしゃいいんだし、どうにかなるだろ」
「そう……ね。……行きましょう、いつまでもここにいたって仕方ないもの」
こういった状況の時には、無責任に思える発言がむしろ心を軽くしたりするものだ。麻衣も覚悟を決め、一歩を学園の中に踏み出した。
「私は負けないわ。どんな仕打ちを受けようとも、風花百合香に勝ってみせる」
その自信がどこまで本当なのか、今の麻衣には分からなかった。それでも麻衣は前を向く。その目には、しっかりと燃えたぎる決意が宿っていた。

「うわ、来たよあいつら……よくあんな胸張ってられんな」
「会長に逆らうとかどういう神経してんだろうね。ヒーロー気取り? 自分から地雷踏みに行くとか真性の馬鹿じゃん」
「今度は何日持つんだか。誰か賭けてみない?」
突き刺さる周りの視線。飛び交う言葉と嘲笑の声。
理解してはいたものの、やはり実際にその立場に立ってみると、お互いにどうしようもない孤独感に押し潰されそうになった。そんな自分を見せまいと麻衣は脚を無理矢理動かし、背筋を伸ばして歩いていく。一方晃は、周囲の人間を先程から気に入らなさそうにちらちらと見ていた。
「あっ、板橋さん! おっはよーっ」
後ろから不意に背中を強く叩かれ、麻衣は思わず前のめりになる。驚いて後ろを振り返ると、そこにいたのは元クラスメイト……璃々愛だ。
「……おはよう」
麻衣はクラス替えの時から、璃々愛に対してあまり良い感情を抱いていなかった。その派手な見た目と子供じみた言動が受け入れがたかったこともあるが、彼女が生徒会側の人間と知ってからは余計に嫌悪感が増したのだった。
「あっれ、なんか暗くなぁい? この間のこと気にしてるの?」
全てを知っているというのに璃々愛は、わざとらしく麻衣問いかけた。晃も彼女の性格を察したのだろう、表情には苦手意識が表れている。
「結城さんには関係ないから。じゃあ私、教室行かないと」
「やっぱ暗いじゃーん、板橋さん。 ……これでも飲んで……元気出してよっ!」
ぶっきらぼうに言い放ち踵を返した麻衣の頭に、冷たい液体がかけられた。
璃々愛の片手には封の空いた紙パック。オレンジの断面図が印刷されたそれの注ぎ口から、数滴のジュースが滴っていた。
「……板橋!?」
その声で、呆然としていた麻衣は我に返る。璃々愛の方に振り返ると、彼女は悪びれる様子もなしに言う。
「あっ、ごめぇん。手が滑っちゃった!」
その言葉を火種に、生徒達は腹を抱えて一斉に笑い出す。
「ちょっと璃々愛、やり過ぎー! 最高なんだけど!」
「見ろよあの間抜けヅラ! 腹いてぇ〜!!」
「可哀想ー、制服ベッタベタ!」
廊下中に巻き起こる笑いの渦の中で、麻衣はただ怒りと悔しさに震えていた。思わず怒鳴りつけようとした瞬間、顔面に雑巾が飛んでくる。
「――これで拭けば?」
璃々愛がそう言い放つと、周りの笑い声は一層強まるのだった。

46:蒼月 空太◆eko:2017/02/24(金) 20:57

その笑い声の中の嵐を、一瞬で沈めた者がいる。男の声。やや低い声。言葉が言い放たれた瞬間、その男は手を伸ばし、璃々愛の制服の胸倉を掴んだ。

「テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!いい加減にしろよこのクソ野郎ッ!散々やりたいほうだいやりやがってよ!俺もお前が女だからって見逃してるけどよ!本気でぶっ飛ばすぞ!」

晃。彼は本気でキレていた。麻衣をそこまで傷つけられること。仲間を侮辱されること。やること自身が人間として、最低と思うことに。思わず叫ばずにいられなかった。彼は今、周りが見えていない状況。

「へー、あっそー。手ぇ滑っただけでぇ、拭く物も渡し―」

バァンッ!

晃は、そのまま璃々愛を投げた。今完全にキレている彼は相手が生徒会長ですら殴りかかるだろう。

「え・・・」

周りの生徒は、お遊びの気分で見ていた。だが、それはもう違う。晃自身が、璃々愛を投げたのだ。片手で。腰から落とされた璃々愛は、目が変わっていた。人を殺すつもりでの目つきに。

「へー、かいちょーにもアタシにも逆ら」

「黙れ」

晃の拳が振りぬかれた。璃々愛はいきなり眼前に迫る拳に避けー

「やめろ!」

ガッ!

晃を羽交い絞めにする男子生徒二人。晃はそのまま暴れる。肘を打ち付け、必死にもがく。声にならない声を上げて、璃々愛を睨みつけている。

「あはは、結局味方いないんじゃ、話になんないね、じゃー」

璃々愛は、そのままスタスタと歩いて行った。

「待ちやがれこの野郎!」

暴れるだけでも、男子生徒が強く押さえつけるために、晃は廊下の床に倒され、うつぶせにされているところに圧し掛かられ、たつことすらままならない。

「なんだ松葉の奴。頭おかしくなったんじゃねえの?」

「逆らうのはやっぱ馬鹿の考えだったな。」

生徒達が口々に言う。晃は、そのまま身を捩じらせて抜けようとするが、抜けれない。

「放せッ!」

「出来るかボケが!」

晃は、暴れ続けるが、もう既に十名近くの生徒が晃を押さえつけていた。

「何があったのですか?」

その場に現れたのは。


―生徒会長。



風花 百合香。そして取り巻きともいえる生徒会役員。

「風花・・・百合香・・・」

呆然とし続けていた麻衣が言った一言は、それだけであった。

47:奏:2017/02/25(土) 02:45

皆慌てて整列する。そして生徒会長は落ち着いた口調で言った。

「一体何があったのですか?星澤くん、狩野さん、あなたたちは見ていたかしら?」

「いえ、私は何も…」と、狩野。 すると星澤が

「見ておりました。2-C結城瑠々愛が同じく2-C板橋麻衣にオレンジ色の液体をかけ雑巾を投げた際
2-Dの松葉晃が結城に暴力を振るおうとしたそうです。」

「ありがとう。星澤くん。」 「お役に立てて何よりです。」

そして風花百合香は誰かの方へ歩き出した。 その先にいたのは麻衣だった。

「板橋さん。大丈夫かしら?このよかったらハンカチを使って。」

全校生徒が驚いた。皆松葉の方へ行き追放するのかと思っていたのだ。

「な、なによ、こんな時に手を貸すになんて…あんたの行動が読めないわ!これが罪滅ぼしだとも思った?」

麻衣がすこしふてくされたような顔をしていう。

「いいえ。罪滅ぼしだなんと持ってないわ。ましてや罪も犯していないから。松葉さんを連れて来て」

そして彼女は璃々愛の方へ向かい言った。

48:美鈴:2017/02/25(土) 09:58

(この騒ぎを見ていた女の子を書きます。えっと、隠れ『復活派』です。)

私は、伊藤美雪です。1−Aです。
風花百合香≠ネんて、心の腐った人間…いや、動物ですね。ちょっと、百合香にさかっらただけでみんなに裏切り者≠ノされるなんて。本当にここはおかしいです。でも、顔や態度には出しません。だって、百合香のいとこですから。この学校に入ったのは百合香に進められたからです。

「美雪ちゃん、このこと見ましたか?」

「はい。」

「じゃあ、後で私のところに来てください。」

「?はい。」

生徒が驚いていますよ。見ていただけなのに呼ばれたのですから。璃々愛さん、松葉さん、坂橋さん、3人ともかわいそうです。璃々愛さんと松葉さんは騒ぎを大きくしたので処刑されそうですね。面倒なことになりそうです。

「会長、あのその時に話したい事があるので家に行ってもいいですか?」

「ええ、いいですよ。じゃあ、一緒に帰りましょう。それでいいですね?」

「はい。ありがとうございます。」

璃々愛さんのことです。ちょっとだけ気になることがあったので。


(おかしかったり、嫌だったらスルーしてください。)

49:ビーカー◆r6:2017/02/25(土) 10:30

「……璃々愛ちゃん、大丈夫だった?」
会長が現れたと聞きしばらく立ち止まっていた璃々愛に、百合香は優しく声をかける。
「かいちょー!」
百合香の顔を見ると、璃々愛の表情はぱっと明るくなる。そのまま勢いよく会長に抱き着いた。
「あらあら、璃々愛ちゃんったら……怪我はしてない? 保健室に行かなくて平気?」
「うん! あんなのちっとも怖くないんだから!」
「そう……それは良かったわ」
子供をあやす母親の如く、百合香は璃々愛の頭を撫でている。それは異様な光景でもあったが、白羽学園ではごく普通な光景でもあった。
璃々愛は百合香を溺愛し、百合香は璃々愛を妹の様に可愛がる。そういった奇妙な関係性が、2人の間にはあったのだ。
「板橋さんにジュースをかけたの? 後で代わりのを買いに行きましょうね。雑巾を触った手は洗った?」
「あ、まだかも……ちゃんと洗わなきゃだよね」
「そうよ、病気になったりしたら大変だもの」
百合香に璃々愛を咎める様子はない様だった。寧ろ璃々愛を気遣い、心配さえしている。
「いい子ね、璃々愛ちゃんは……」
「いい加減にしやがれ!!」
その光景に耐えかねた晃が、会長に飛び掛らんばかりの勢いで暴れ出す。男子生徒達も必死になって取り押さえた。
「何がいい子だよ!? あいつに謝るのが先じゃねぇのか!? こんなんただのいじめだろ!!」
その訴えは、会長に届く筈もない。
「あいつがジュースぶっかけられんのはいじめじゃねぇのか!? 雑巾投げられんのはいじめじゃねぇのかよ!? 都合の良いことばっかり正義ぶってペラペラ話しやがって、ただのクズでしかねぇだろうが!!」
麻衣は恐る恐る顔を上げた。周りの視線が様々なことを物語っている。哀れみ、嘲笑、好奇心、嫌悪……目を塞ぎたくなるほどの。
その怒鳴り声を受け止めて、くすりと笑う女王がいた。2人の惨めな反逆者に、交互に視線をやりながら。
「いい、松葉君? ルールというのは皆が楽しく安心して暮らすことが出来る様にするためのもの。憲法や法律、そして校則。これらは全部守るべきルールなのよ。では、そのルールを破った人は何をされるかしら? 罰を与えられるでしょう? 罰則さえもいじめだというのなら、ルールを破る人は野放しにしなければならなくなるわ。そうしたらどうなるかしら。皆がきちんと生活していくことが出来なくなる。だから貴方達にはこうして罰を与えているの。皆の幸せを守るために、ね」
さも当然の様な顔で、女王はすらすらとそんな言葉を口にする。軽い演説が終わると、生徒達はうんうんと頷き納得した表情を見せた。
だが、晃の怒りは収まるどころか更に燃え上がっていく。
「ルールだぁ!? 逆らったら罰を与えるなんてただの独裁じゃねぇかよ!! お前らは何とも思わねぇのか、こいつの言いなりになる気か!?」
周りに訴えかけるが、賛同者は見当たらない。
女王はそんな反逆者を見下ろすと、落ち着いた声でにこやかに言った。
「璃々愛ちゃんに、謝りなさい。さもなくば板橋さんに罰を与えます」
「!!」
璃々愛への謝罪をしなければ、余計麻衣へのいじめは加速するということだ。自分が悪かったと、向こうは間違っていないと認めなければならないのだ。
……今は晃も、従うしかなかった。麻衣を守る為にも。
「…………悪かったよ」
消え入るような声だった。
「かいちょー、どうする?」
「そうね、今回だけは許してあげて。でも次璃々愛ちゃんを傷付けたら……言うまでもないわね」
凍りついた瞳で百合香は晃を一瞥する。直ぐに普段通り微笑むと、百合香は生徒達に向かって言った。
「皆さん、処刑を続けて下さいな。何かあったら私を呼んで下されば、直ぐに駆けつけますから」

50:ABN:2017/02/25(土) 12:15

「会長、もうすぐ生徒会定例会議のお時間です。生徒会室に急ぎましょう」

「そうね、神狩さん。では私達はこれで。」


 優雅に一礼すると、処刑騒ぎの集団を残して踵を返す生徒会長と役員たち。その背中を、物陰に隠れながら怯えて見つめる目があった。筆崎剣太郎だ。
 せり上がる吐き気と戦いながら、彼は小さな体を更に小さく縮め込ませていた。


「やっぱりおかしいよ……こんなの、ルールでもなんでもない」


 確かに集団を統治するなら、ルールや罰則が必要なのは間違いない。しかしこの学園のルールには致命的に足りないものがある。それは「罰の区切り」だ。
 校則違反なら、規則から逸れた部分を直せば終わりだ。法律なら、罰金を支払ったり懲役期間を終えたりすれば罪から解放される。そんな一定の罪を償った後の「許し」が白羽学園には存在しないのだ。


「生徒会長に楯突く奴らって、なんで揃いも揃ってバカばっかりなんだろうねー」

「この間の藤野真凛なんか、会長のデータにハッキングして処刑されたしな。普通に犯罪で笑えるんだけど」

「それに『広報部』の天本千明もいたじゃん? 処刑の特集新聞を組むとかパパラッチ気取りかよって感じ!」

「……!」


 処刑の喧騒に混ざって、かつての部長の名前が上がる。彼女が学園から消えて幾分か経つのに、今もなお消えない酷評に耐え兼ねて剣太郎は耳を強く抑えた。
 この学園で生徒会長に逆らったが最後。幾度の暴力や悪口を浴びせられても、心身共に傷付いて学園に通えなくなっても、反省の意を見せて生徒会長に忠誠を誓っても、例え限界を迎えて自らの命を絶とうとも。一度反逆者とされた者は、そのレッテルを永遠に剥がされることはなく、元の身分に戻ることは二度とできないのだ。


「おい筆崎、こんなところで何びくびくしてんだよ」

「!!」

「ま、ちょうどいいや。ちょっとこっち来い!」


 外界の音を聞かないようにしてうずくまっていたため、気付くのが遅れてしまった。物陰に隠れていた剣太郎を見つけた男子生徒はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべると、彼の襟首を掴んで処刑集団の中に引きずり込んだ。そして人混みが少し開けた中心にまで連れてくると、半ば投げ捨てるようにして、剣太郎を麻衣と晃の前に押し出す。


「お前さあ、会長に楯突かないのはいいけど、それだけじゃ反省の証明にはならないよな?」

「許されたきゃあ態度で見せてみろよ。その反逆者どもを処刑してさ!」

「そ、そんな……!」


 麻衣と晃と、目線がぶつかる。二人が何を思って自分を見ているのかは分からなかった。
 できることなら、暴力など振るいたくはない。だがここで周囲の雰囲気に逆らえば、二人ほどではないとはいえ、自分も処刑の巻き添えになってしまう。そんな剣太郎の葛藤を急かすように、集団の喧騒はどんどん昂っていく。


「早くしろ!」

「処刑も満足にできねえのかよ」

「部長さんの同類は乱暴できないってか? この共犯者!」

「身分を弁えろ、共犯者!!」

「共犯者! 共犯者! 共犯者! 共犯者!」


 誰かが口にした一言がきっかけで、辺りはたちまち共犯者コールに包まれる。ここまで追い立てられてしまえば、従わないという選択肢は取れない。くらくらとするような声量に背中を押されながら、覚束ない足取りで晃の前に近づく。そして。


「……ごめん、なさい……っ!」


 弱々しい拳の音と共に、狂人たちの喚声が弾けた。

51:かおり:2017/02/25(土) 15:36

(定例会議に行く途中の百合香と美紀)

丹念に磨かれた廊下を進むのは、学園の女王・百合香と私・神狩美紀。
「ねぇ百合香」
静かな廊下に、私の声は良く響く。
「あの人達、気を付けてね?」
「………誰のこと?」
百合香は私を見た。
「この学園の、全員」
「あら、どうして?とても良い子達でしょう?」
「まさか、忘れていないよね?」
私は、足を止めて百合香をみつめる。あの百合香のことだから覚えているだろうけど、それでも私は不安だった。
「なんのことかしら…」
百合香の唇が、綺麗な弧を描く。
うん、よかった。これは、確実に覚えている印だ。
「覚えてるなら、いいよ」
「そう?」

私が質問したのは、去年のこと。
百合香が学園の女王となった原因でもある、残酷で悲惨な思い出。

それを知るのは、私と百合香のみ。


あの時私は、百合香を守れなかった。
そこに立ち竦む百合香を見ることしか出来なかった。

あの時、なんで百合香を助けなかった?
どうして、そのまま立ち去った?

後悔してもなにも起こらないと分かっているけれど、それでもあの時の自分は大嫌い。


その思い出が、全て消えない限り、私は百合香を側で守り続けるつもり。

52:ビーカー◆r6:2017/02/25(土) 15:41

(すいません!百合香が生徒会長になり支配を始めた理由はもう決まっていまして…あの、本当あの、つまんないくだらない理由ですので!深読みする程のものでもないです!(?) )

53:蒼月 空太◆eko:2017/02/25(土) 16:25

少し時間を飛ばさせていただきますね
晃達は。学校が終わったあと、すぐに、晃の自宅へ戻った。無論、麻衣もいる。

「クソッ!完全敗北だ!あの野郎!絶対に許さねえ!独裁を覆したら真っ先にぶん殴るッ!」

晃は、自分がコケにされたこと、筆先に殴られたこと。腹を立てるの比ではない。自分だけならまだしも、麻衣までいじめられたことにキレていた。

「晃くん、落」

「今は黙ってくれッ!」

晃は、パソコンを早速いじりだした。そして、メールを開く。そしてメールアドレスを記入し、そのまま本文を送信。その作業を、二度したあと、晃は現在の状況を、全てまとめ、また二回メールを送信。

「晃くん・・・誰にメールを送ったの?」

「メールアドレスの入手には時間が掛かったが・・以前処刑された人も、皆戻って来れるようにしておいた。そんだけだ」

晃は、学生鞄に入っていた盗聴器を取り出し、二階の窓から投げた。それは跳んだというより落ちて、庭で砕け散った。

「もうこれで十分だ」




一方、処刑されてしまった二人―。
こと、ハッキングの藤野 真凛。もう一人、広報部の天本 千明。二人にメールが届いた。
差出人は、晃である。

本文

俺達は学園を復活するために立ち上がった二人組みだ。お前に協力を求めたい。お前の高いスキルがあればなんとかあの生徒会長に勝てるかもしれない。だから頼む。俺達が生徒会長に勝ったら、お前も登校できるようにするし、処刑制度もなくすし、自由な学校へと変える。だから頼む。



晃、彼は手段をかぎりなく使い、生徒会長へ、勝つ気である。

54:ABN:2017/02/25(土) 20:10

>>53 千明への交流ありがとうございます!メールの返事は返させていただく予定ですが、今回は少し定例会議に時間を遡らせていただきます)
(今回も二回投稿となってしまい本当にすみません;問題がありましたらお申し付けください)



「それでは、次の議題ですが……。先日新たに起こった、板橋麻衣と松葉晃の反逆についてですね」


 議事堂を思わせるような、厳粛な雰囲気の生徒会室。そこで主に響き渡るのは、進行役の神狩美紀と生徒会長の風花百合香の声。「学園のより良い治安」という目標の元、会長である風花百合香を上座に置いて、生徒会とその役員による定例会議が展開されていた。


「安部野くんのアドバイスを受け、反逆者二人には監視を置いていますが、成果はどうですか? 結城さん」

「うーん、まずまずってとこ? とりあえず、最近できたっていう学園掲示板ね。あれ、反逆者の松葉クンが作ったみたいだよ」


 役員たちにどよめきが広がる。彼らの中にも何人か掲示板を利用した者がいたのか、驚きを隠せなかったり、あからさまに嫌そうな感情を浮かべたり、よく見れば若干一名、顔を真っ赤にしている者もいた。


「そうだったのですか。……しかも、掲示板は確かに便利なツールですわね。折角ですから、私達も『利用』させていただきましょうか」

「かいちょーがそう言うと思って、既にご意見板建てておいたよ!」

「まあ! 流石璃々愛ちゃん、気が利くわねえ。ありがとう」

「えへへ、かいちょーもありがとー。……でも、残念ながらいい成果ばかりじゃないんだけどね」


 百合香からのべた褒めを受けてへらっと緩む璃々愛の表情。だがそれは間もなくして、開花時期を終えた花のようにしゅんと萎む。


「昨日の夜くらいから、有力そうな言質が取れなくなったんだよね。妙に向こうが発言に気をつけてるっていうか……」

「もしかすると、私達の監視に気付かれている可能性も否定できませんね。ところで、昨日の夜といえば……」


 美紀と璃々愛の疑念の目が安部野に向けられる。二人の目線に従って、全役員も彼の方を見た。そんな生徒会室中の集中に臆することなく、安部野はその場に起立する。


「昨日の夜は、僕が松葉さんのご自宅を訪ねていましたね。その時は、僕の見立てでは変わった様子はありませんでしたが」

「ってかさあ、なんで安部野にぃは反逆者の家くんだりまで行ってたわけ?」

「板橋さんと松葉さんに、クラスで配布されたプリントと課題を渡すためですよ。反逆者とはいえ、勉学に励んでいただかねば学園の偏差値にも関わるでしょう」

「そりゃまあ、そうだけどさ……」


 晃の襟を掴んだときに安部野が耳打ちしたあの言葉は、流石に璃々愛の盗聴機も拾えていない。しかし既に安部野を黒と見なしている璃々愛には、彼の一挙一動が全て疑わしく思えてならないのだ。
 しかし確証のない疑念だけを理由に問い詰めるわけにもいかず、璃々愛の反論材料はそこで尽きてしまった。すると今度は彼女に代わって、今度は美紀が質問を続ける。



(続く)

55:ABN:2017/02/25(土) 20:13

(続き)



「ですが安部野くん。反逆者に勉学など必要ないのではありませんか? 処刑とは、反逆者に徹底的な罰を与えること。学ぶ機会を取り上げるというのも、立派な罰の一つだと思いますが」

「なるほど、神狩会計はそうお考えですか。……ところで、僕は白羽学園の一員になってまだ日が浅い。故にまだ、学園の全てを理解できていないかもしれないことを、一つご了承ください」


 美紀の意見に、一度考え込む素振りを見せる安部野。それからやけに勿体ぶった前置きを述べると、全役員に体を向ける。


「白羽学園の宣伝文句、それは進学校であることです。確かに治安の安定も大事な要素ではありますが、処刑によって得られる勉学面のメリットは薄いのではないかと思います。実際、処刑に力を入れすぎるあまり、勉学が疎かになっている生徒も見受けられますしね」


 ちらりと、安部野の目線が役員の一人、片原拓也に向けられる。昨日の今日で晃の玄関を破壊しようとしていただけに、拓也には俯いて彼の視線を回避することしかできない。だが、それ以上安部野は拓也に何をするでもなく、自分の弁論を続けた。


「それに勉学の機会を奪うのならば、処刑ではなく退学にしてしまった方が早いのではありませんか? これなら反逆者によって偏差値が下がることもありませんし、学園の治安も守られ、生徒の皆さんも勉学に集中することができるでしょう」


 ざわざわと、役員たちに動揺が走った。安部野の意見は確かに理に叶っているが、言っていることは現在執行されている処刑制度の否定だ。彼らと同じ考えを持った美紀は、すぐさま彼の意見に異を唱える。


「安部野くん。それは生徒会長が作った制度が間違っていると言いたいのかしら?」

「とんでもありません。これは飽くまで僕の見解です。先ほども言いましたが、僕はまだこの学園には疎い。もし退学ではなし得ない処刑のメリットがあるのなら、是非ともお教えいただきたいのですが……。お答え願えますか? 生徒会長」


 そう言いながら、安部野は問いの矛先を今度は百合香に向ける。
 安部野椎哉と風花百合香。穏やかな二つの仮面が向かい合わせになった瞬間だった。



(自分の意見が肯定されても否定されても、安部野は百合香さんの答えを聞いた時点で深入りせず、意見を肯定して引き下がる予定です。描写の参考にしてくださると幸いです)

56:ABN:2017/02/25(土) 20:33

>>55 追記が紛らわしかったので補足すると、安部野は「百合香さんの」意見を肯定する形で引き下がります)
(結局三連続投稿になってしまい本当に申し訳ないです;)

57:ビーカー◆r6:2017/02/26(日) 19:55

「……なるほど、ね」
安部野の顔を見ながら、百合香はゆっくりとその口を開いた。
「確かに、退学にしてしまうのが一番効率の良い方法なのかもしれない。それには同意しましょう。でもね、安部野君」
視線が2人の元へ集まる。安部野は相変わらず彼女の話へ真摯に耳を傾けていた。あくまで真摯に。
「仮に彼らを退学にしたら、皆さんはどうするかしら? 彼らのことをいつまでも覚えている? 自分のクラスメイトならまだしも、他のクラスから退学者が出たところで、せいぜい数日話の種になって終わりだわ。彼らが今何をしているかも分からない。別の学校で幸せにやっているかもしれないし、社会人として働きに出るかもしれない。そう考えるとね、退学には欠点があることが分かるの。秩序を破った者の罰のもつ重要な効果が失われてしまう、ということ」
「要するに……見せしめ効果、ですか」
安部野は百合香の目を見ると、静かに言い放つ。その心の奥底で何を考えているのかは全く読み取れない。
「その通りよ。秩序を破った者は非難され、痛めつけられ、苦しまなければならない。それを見た人々は、自分がその立場に行くことの恐怖を明確に感じ取る。処刑という形で相手の苦しむ未来をはっきりさせてしまうのは、とても大切な事なの」
言い終えると、百合香は安部野の方に微笑みかけた。長い髪がさらりと揺れる。
「成程。会長のお考えはよく分かりました……では、僕は引き下がりましょう。進行の妨げになった事をお許しください」
「いいのよ。会議は皆で意見を出し合う場だもの、遠慮なく発言してちょうだい」
そう言うと一息ついて、百合香は辺りを見回した。
「しかし偏差値の低下は確かに問題ね。今度学習会でも開きましょうか……」
会議が進む中、璃々愛は安部野の姿をいつまでも眺めていた。

58:かおり:2017/02/27(月) 21:33

(わーーー‼ビーカーさん、ごめんなさい!以後気をつけますね……)

(定例会議中の1‐D 白野恵里目線)

今日、久しぶりに友達ができた。
この学園内での友人だなんて、いないに等しい。

新しい友達の名前は戸塚亜衣。そう、私と同時に昇格した子である。

D組に上がれたのはうれしいけれど、やっぱり馴染めなかった私と亜衣。
そんな私達が仲良くなるのは自然なことなのかもしれない。

偶然にも自宅の方向が一緒だった私と亜衣の帰り道で。
亜衣は私にとある掲示板を教えてくれた。
………ああ、学園のか。

『学園祭何したいか話そー』
 79:通りすがりの者  メイド喫茶してえ つーかメイド服の女子みてえ あーでも似合うヤツ少ないか?
 80:匿名女子  うわヒッドーイ
 81:ミーコ  でも面白そうじゃん

『文化部雑談スレ』
 94:吹奏楽  ねー次の土曜日って午後練だっけ?
 95:別の吹奏楽  んー、9時から3時じゃない?
 96:研究部  おい資料持ってるやつ今すぐ名乗れマジで
 97:文芸部  どーかしたの?

……ほとんど意味のなさそうなものの中に、気になるものが2つ。
『生徒会反逆者について語る』
『【生徒会より】要望・ご意見募集』
後者は分かる。
この掲示板が生徒会主催ならあって当然だし、生徒個人がたてたものだとしても、監視や威嚇のためにも『生徒会』の名を入れておくのは適作といえる。
だが前者は?
書き込まれた数は他より劣るのに、なぜ一番上にある?

………まあ、私なんかが考えて分かるようなことではないだろう。
「恵里、どうかした?」
「ううん、なんでもないよ、亜衣ちゃん」
私はそう判断して、掲示板を閉じた。
「ちゃん付けはやめてってば。あたしは亜衣でいいよ!」
明るく笑う亜衣。
ああ、こんな風になりたいな。
そんな思いを込め、私は亜衣に返事をする。
「分かった、亜衣。これでいい?」
「うん、もちろん‼」


久しぶりの友達と行く帰り道は、なぜだか少し暗かった。

59:ABN:2017/02/27(月) 23:20

(前回から時間が前後してすみません。晃くんが真凛ちゃんと千明にメールを送った少し後になります)



 藤野真凛と天本千明にメールを送ってから数十分後。パソコン画面の前で、晃は唸りながら首を傾げていた。


「どうしたの晃くん? もしかしてさっきのメール、無視されて……」

「いや、天本先輩から返信は来た。来たんだが……これがなあ」


 そう言って、晃はパソコンの画面を麻衣に見せる。表示されている受信メールの送信先は確かに天本千明のものだ。しかしその本文に目を通すと、晃に続いて麻衣も首を傾げたのだった。


--------

 その是非を答える前に、あなたたちに質問があります。
 風花百合香が行っている独裁政治について、おかしいと思う点はありませんか?

--------


「うーん……なにこれ?」

「な? アイツの独裁が徹頭徹尾イカれてるのは今更だろ。なのにどうしてこんなことを聞くんだろうな」


 校長をも凌駕する権力を持つ風花百合香。そんな女王を盲目的に崇める生徒たち。そして彼女に楯突く者への徹底的な処刑。
 これらのどこが異常だと問われれば、全てとしか答えようがない。故に晃はこの質問の意図が分からず、千明宛ての返信を送るに送れなかったのだ。


「独裁、独裁……関係ないかもしれないけど、風花百合香の処刑制度が始まったのっていつだっけ?」

「確かアイツが副会長になってからだから、俺たちが入学した頃……大体一年前だな」

「うええ、一年でここまで汚染されたのかあ。しかもこれが来年も続くんじゃ……ん?」


 落胆と共にこぼした自分の言葉に、麻衣はふと違和感を覚えた。違和感は彼女の脳内で瞬く間に展開され、やがてそれは一つの新たな答えに、そして新たな疑問となる。


「……天本さんの言う通りだ。この独裁はおかしい」

「は? おかしいのは今更だって、ついさっき」

「そこじゃなくて! 風花百合香は三年生でしょ? 来年にはもう卒業して、学園からいなくなるのよ」

「お、おう」


 思い付いたひらめきが薄れないうちにと、捲し立てるように早口で喋る麻衣。そんな彼女の剣幕に圧され、晃は麻衣の推理を黙って聞くことにした。


「卒業すればアイツは生徒会長じゃなくなって、それまでみたいな権力は振るえなくなるはず。つまり、風花百合香が学園を支配できるのはたったの二年間。そんな短い期間のためだけに、あんな独裁政治を普通やると思う?」

「言われてみれば……確かに『おかしい』ぜ」


 生徒会長という肩書きには期限がある。その権力を最大限に拡大して学園を都合の良いように作り替えたところで、卒業を迎えればそれらは全てリセットされてしまう。すなわち百合香は高校生活の大半を、たった二年の独裁のためだけに無為にしていることになるのだ。
 尤もあの生徒会長だ。もしかすると何かしらの策を講じて、卒業後も何らかの形で支配を続行してくる可能性も否めないが。


「じゃあどうして、そんな普通じゃないことをアイツは実行したんだ?」

「そこまでは分からないけど……。とにかくこれで、千明さんへの返信は書けるんじゃない?」

「そうだな。果たして正解だといいが」


 自分たちが至った推測をメール本文に打ち、千明宛てに送信する。すると、程なくして返信がメールボックスに届いた。本文を早速開封した麻衣と晃は、その内容に目を丸くすることになる。


--------

 あなたたちも気づいたようですね。
 なぜ風花百合香は二年しかない独裁政治を実行したのか。その理由はこちらも分かりませんでしたが、ある程度の推測はつけています。

 彼女にとって白羽学園の支配は下準備でしかない。風花百合香は白羽学園を土台にして、もっと巨大な組織を作り上げようとしているのではないかと思うのです。
 話が飛躍しすぎだと思うのなら、そう思ってもらって結構です。しかしそうでなければ、あのような無意味でふざけた独裁を平然と行うでしょうか?

 どちらにせよ、風花百合香が強大な力を持った狂人であることは間違いありません。そんな途方もない存在と最後まで戦い抜く覚悟が、あなたたちにはありますか?
 ほんの僅かでも躊躇いがあるのなら、革命など諦めなさい。



(諦めなさいとは言ってますが、フリのようなものだと思っていただければ……)

60:美華:2017/03/01(水) 19:45

「巨大な組織…。」
「風花百合香は何で組織を作り上げる必要があるのか?」

61:ABN:2017/03/05(日) 20:36

(長らく更新がないようなので、テコ入れ的な話を挟みます。時間は晃君がメールのやり取りをしている辺りです)
>>59の続きはかおりさんか蒼月空太さんの投稿を想定していますが、お二人を含む皆さんからの続きが今週末くらいまで投稿されなかった場合、自分で続きを書こうと思います。すみません)



 大路伏翼は非常に面白くなかった。昨日の松葉邸襲撃を、安部野に邪魔された逆恨みが尾を引いていたのである。その鬱憤は彼に咎められる元凶となった拓也を私刑に処しても、本日ようやく登校した麻衣と晃の処刑に加勢してもほとんど晴れることがない。故に翼はいつも侍らせている友人たちと離れ、夕暮れの街を一人で徘徊していたのであった。


「くっそー、転校生のくせに生意気なんだよ、あの書記野郎は」


 だが徘徊の成果は芳しくなく、いくら気を紛らわせようとしても、昨日の安部野の言葉と顔が翼の脳内でしつこく再生されてしまう。自分の意思に反する無意識に、翼は荒々しい溜め息を吐いた。


「……しかもあいつ、あのアマの仲間にしてはなんか臭えんだよな」


 風紀向上のための処刑は立派なことだ。
 しかし、処刑が学園の外で通用するとは限らない。
 学園と生徒会長に汚名を被せることは許されない。

 これらは昨日の安部野が発言した台詞の要約だ。いずれも生徒会役員の台詞としては間違っていない。
 しかしそれでも、翼は一度抱いた懐疑を手放すことができなかった。その一因には彼への私怨もあるのだろうが、それとはまた違う、何か違和感めいたものを感じていたのである。
 と、そんな折。視界の端が見覚えのある影を捉える。翼は影の姿を確認すると、咄嗟に建物に身を隠した。


「……病院? あいつがあんなところに何の用だ?」


 噂をすればなんとやら。翼が見定めた影というのは、病院を後にする安部野の姿だった。安部野は自らを偵察する目線には気付かず、スマホを操作しながら人混みの中へ消えていく。
 翼は彼に怨念を込めた睨みを飛ばしつつ、しかしそれ以上は何もせずに彼の背中を見送った。そうしてから安部野が出てきた病院を見上げると、にやりと酷薄な笑みを浮かべる。


「病院って言やあ、弱ってる奴が集まる場所だよなあ?」


 安部野が何かしらの病を患っているという話は聞いたことがない。彼自身が病気を隠していることもあり得るが、その可能性を無視するなら、健康な人間が病院を訪れる理由はほぼ一つ。

 安部野にとって相応に大切な人物が、あの病院に入院しているに違いない。

 弱者を庇護する人間は、得てしてその存在が枷になる。安部野が見舞う人物の詳細を今のうちに調べておけば、有事のときに彼にとって有効な人質になるかもしれない。もしくは逆にその人物と交流を深めて安部野の秘密を聞き出す穴としても良いし、虚言を吹き込んで安部野の敵に転じさせるのも面白い。


「……ま、一先ず今は裏取りが先だよな。どう料理してやるかはそれからだ」


 思いがけず拾った安部野の弱味となりそうな種は、僅かながら翼の不機嫌を癒した。もっとも、そこから収穫できるものが期待通りである保証はないのだが。
 そんな可能性も視野に入れたつもりの翼は、安部野の見舞い相手にどうやって接触するかの算段を立て始めたのだった。

62:ビーカー◆r6:2017/03/07(火) 15:06

「お前さぁ、暗いし気持ち悪いし目障りなんだけど」

昨年のことだった。
当時クラスでリーダー格として権力のあった女子。
彼女は軽蔑した目で、そう言い放つ。
突然そんな事を言われた相手の方は、ただ縮こまって目をぱちくりとさせていた。同じ長さに切り揃えられた長い黒髪まで、おどおどと震えているかの様だ。
「……だから、そういうとこがウザいんだってば」
一方で堂々と立っている少女、木嶋京子はそう言って荒々しい溜息をついた。
それに野次をかける様に、静まっていたクラスは動き出す。
「京子の言う通りだよね〜、あいつ暗い上に何考えてるかわかんない」
「普通に気持ち悪いっていうかさ……前髪長すぎて表情見えないし」
「どうせブスなんだろ、あんな顔まじまじと見たくねぇよ」
クラスがざわつく中、黒髪の少女はただ黙って俯いていた。それがより一層、周りの心無い発言に拍車をかける。
「ほら、何か言えないのかよ?」
「見ててイラつくわぁ、木嶋さんに同意」
「やっぱあいつ邪魔だよな」
その日からだ。クラスメイトが彼女をいじめ出したのは。
教科書や私物は次々となくなり、体育着はズタズタに切り裂かれた。弁当はトイレに捨てられ、いかがわしい写真が生徒間に流出した。それはいじめのほんの一部に過ぎず、毎日クラスメイト達はあの手この手で彼女の精神をすり減らしていく。顔もアザに塗れ、制服は汚れが目立っていった。
彼女は何も言わなかった。逆らえば面倒なことになるのは分かっている。誰に助けを求めることもなく、ただただ黙っている。

「貴方達、何をしているの!」
そんな惨めな彼女に、手を差し伸べる存在がいた。
リンチに参加していた生徒達は散り散りになって逃げていき、後には床でうずくまる少女だけが残された。
「ねえ、大丈夫?」
暖かな微笑み。白く美しい手。彼女の様に長いが、美しく整った髪。
「結城璃々愛さん」

「……かいちょーに……手出しはさせないんだから」
放課後の教室で、璃々愛は1人呟いた。
彼女は自分がやられた事と、同じこと……それ以上のことをしてやった。
今まで処刑されてきた人間から、悪魔となじられたのも無理はない程に。

63:ビーカー◆r6:2017/03/07(火) 15:52

http://ha10.net/sou/1487500416.html

こちらにおいて、ABNさんがこれまでの流れや時系列表を書いて下さいました。ありがとうございます。

64:かおり:2017/03/11(土) 17:13

(亜衣と別れた下校中の恵里目線)

一緒に帰っていた私と亜衣。信号のないとある十字路で亜衣は左に曲がり住宅地へ。私はそのまま進み、自分の住むアパートへ。
ここからあと………10分位。
それなりに人通りのある道路を歩くと、右に病院が見えてくる。
いったことはないが、ここを通る度に思う。
「やっぱりおっきいなーここ。………って、あの人、翼さん……だっけ?」
その入ロ近くに、B組の翼さんがいた。なぜ名前を知っているかというと、裏で有名だから。勿論、悪い意味で。
言っちゃ悪いかもしれないけど……彼は、その、猫かぶり。
よく噂になってる。教師の前ではあんな良い顔してるけど、すっごい不良だって。
私は彼のことをよく知ってる訳ではないけど、あんまり関わりたくはないかな。それにしても………
「何してるんだろう……?」
お見舞いでもなさそうだし、なんか笑ってるし。
う―ん、ま、いいか。
すぐ諦めるのは私の悪いクセ。直しようがない。
「………?」
コンクリート製の歩道の隅に何か、黒の………手帳?
このままにしておくのもアレなので、持ち主の電話番号でもないかとページをめくる。
うわ、この人すごい几帳面だ。
なんていうか、物凄く細かい。定例会議の時間とか、生徒総会の段取りとか、変更した日程とか。
っていうかこの手帳の持ち主、学園の人?行事とか全部同じなんですけど……。
「ぁ、わ……」
カサリ、と音をたててカバーが落ちる。手帳本体に書かれている文字は……

独裁女王 風花百合香 絶対に許さない

え、革命派の人?
どうしよう。持ち主にかえしにくくなっちゃった。
とりあえず、カバーを拾ってかけ直す。
「お前、誰?」
「ッ!!?」
いつのまにか目の前に、翼さんがいた。
「てかさ、その手帳どこで手に入れたんだよ」
「さっき、ここに、落ちてた………」
「ハア?なわけあるか。それ、書記の阿部野のやつだぞ」
「ぇ……で、でも、これ……」
私はカバーをはずし、翼さんに見せる。あの、書き殴られたような赤い文字を。
「……へえ、表向きは生徒会長派でも実は……ってとこか。何考えてるんだか」
生徒会書記の人が、革命派?そんな……。
生徒会の人に言った方がいいのかな。でも、そうしたらあの人はきっと、処刑されちゃう。
「ぁ、あの、これ」
「ああ、悪いけど返しといて。俺帰るわ」
そのまま翼さんは小走りで去っていく。

って、ちょっと、やめてよ。
私が返せるわけないじゃん。生徒会の人はみんなA組なのに………。
あ、そうだ。あの先輩に頼もう。
3年A組の笹川先輩。すごくかっこいいお姉さんって感じの人。
清楚でお嬢様な生徒会長も人気だけど、私は頼れる姉貴な笹川先輩が好き。キリッとしていても頭のなかでは空想のオンパレードってとこも好き。
ああ、とにかく帰ろう。笹川先輩に頼むのは明日だ。

黒いカバーの手帳をカバンに入れ、私は自宅アパートへの道を急いだ。

65:ABN:2017/03/11(土) 19:10

>>61で言ってた続きを想定している方の名前、かおりさんではなく奏さんでした。間違えてしまい本当に申し訳ありません;)
(今回は今までで一番の長文になってしまいました。更に皆さんのキャラがかなりぶれているかもしれません。すみません)



「なるほど、巨大組織……! いかにもあの生徒会長が考えそうな計画ね」

「いやいや待てよ! 組織とか流石に妄想が過ぎねえか!?」


 千明による突飛な陰謀論は、中二病的なものを好む麻衣には好感触だったようだ。そんな彼女の高揚を晃は慌てて抑えようとするが、なまじ説得力のある推理に麻衣の目の輝きは収まらない。


「でも実際、今の学園は風花百合香の帝国って言っても過言じゃない状態でしょ? 今の時点でも十分異常なんだし、これが組織を立ち上げる計画の一部って言われてもおかしくはないわ!」

「確かにそうだけどよ……。じゃあ天本先輩の仮説が合ってたとして、あいつはどういう組織を何のために立ち上げようとしてるんだ?」

「それは分からないけど……悪徳企業か、新興宗教か、はたまた本当に帝国でも作る気かしら? みんなに自分を崇め奉らせてる時点で、ろくな組織にはならないでしょうけど」


 敵側ながら中々興味深い、風花百合香が目指していると思われる独裁集団の最終形態。ある種の浪漫に満ちたその予想図をあれやこれやと考えていた麻衣の顔色は、しかししばらくすると何かを悟ったようにさっと青ざめた。


「……そうか。私たち、そんな狂った組織に立ち向かおうとしてるのよね。たった数人で」


 方や真凛や千明を誘おうとしているとはいえ、現時点での同志は二人しかいない自分たち。方や全校生徒のほとんどを味方につけ、将来的には巨大な組織をも立ち上げかねない生徒会長。その絶望的な戦力差を改めて実感した麻衣の体は、次第に小刻みに震え始めた。
 臆病風に吹かれた心が倒れそうになったそのとき、くぐもったバイブレーションの音が静まっていた部屋に響く。反射的に麻衣は自分のスマホを取り出すが、画面にはいつもの待ち受け画像が映っているのみ。連絡があったのは麻衣ではなく、晃のスマホのようだ。


「ああ、俺の方か。……なんだこの番号?」


 未だに震え続ける彼のスマホには、見覚えがない電話番号からの着信画面が表示されている。晃は確認を取るように麻衣へ目配せを送ると、音声をスピーカーに切り替えてから、慎重に画面の通話ボタンを押した。


「……もしもし?」

「さっきのメール、読んだわよ。二年D組……いえ、E組の松葉晃」

「うっわ、そこまで知ってるのかよ!? ってかメール読んだってことは、藤野先輩なんだな?」

「正解。私にかかれば、メール一通で身元や電話番号を割り出すなんて簡単なんだから。そんなことよりあなた、よくも素晴らしいことを考えついてくれたじゃない!」


 電話の主は、先ほどメールを送ったもう一人、藤野真凛だった。スピーカーから聞こえてくる彼女の声は、興奮のせいかやや上擦って聞こえる。


「生徒会長さんは順風満帆だった私の人生を、それはもう滅茶苦茶の台無しにしてくれたわ! それ以来ずっと復讐の機会を窺ってたけど、信者という名の盾の前には流石の私のハッキングもぬかに釘だったのよ。でもあなたたちが力を貸してくれるなら、勝機は見えたも同然ね! 喜んで協力してあげるから、一緒にあの女を死ぬより辛い地獄に叩き落としましょう! で、具体的な反逆の内容や決行日はもう決まってるのかしら? というか今の人員はあなた以外に誰がいるの?」

「わ、分かった分かった! 協力してくれるのはありがたいけど、ちょっと落ち着いてくれ!」


 余程多くのフラストレーションを溜め込んでいたのだろうか。マシンガンのように百合香への恨み辛みを吐き出す真凛の迫力に、麻衣と晃は気圧されそうになった。そんな彼女をどうにかなだめ、晃は真凛の質問に答える。



(続く)

66:ABN:2017/03/11(土) 19:12

(続き)



「具体的な内容っつっても、まだメンバーが俺と麻衣……同じ二年の板橋麻衣ってやつしかいなくてな。今のところは学園掲示板を立てるくらいしかできてねえんだ」

「掲示板なら私も見たわ。でもあの狂信者共が、あんなありきたりな学園掲示板程度で変わるかしらねえ。私以外に声をかけた人はいないの?」

「ありきたりで悪かったな。一応あんたに送ったのと同じメールを、天本千明ってやつにも送ったんだが……」

「ああ、あの広報部長さんね。電子機器だけに頼らない彼女の情報収集能力は、私から見ても目を見張るものがあるわ。味方に選んだのは正解ね。それで、部長さんからの返事は?」

「それがなあ、『生徒会長は巨大な組織を立ち上げるかもしれないから、覚悟がないなら諦めろ』って返信が」

「なんですって!?」


 来たんだよ。と晃が言い切ろうとした所で、叫びに近い真凛の大声がスピーカーから発される。あまりにも高いデシベルに耐え兼ね、晃は自分の耳元からスマホを遠ざけた。


「巨大組織の可能性については否定しないわ。でも、だからって諦めろ? そんな仮説にビビって風花百合香に被せられた汚名を放置しろってわけ? ふざけないでよ! その天本千明、腰抜けの成り済ましとかじゃないでしょうね!?」

「そ、そんなはずはねえよ! 確かな筋から手に入れたアドレスだ、間違ってるなんてことは……」

「大体組織云々が本当だっていうなら、それこそ反逆のチャンスは今しかないじゃない! あの女が生徒会長の枠で済んでる今のうちに潰さなきゃ、近い将来にはあの狂った女王独裁が日本中、下手したら世界中に蔓延してしまうわ!」


 復讐のチャンスをみすみす逃せという意見が、真凛の逆鱗に触れたらしい。先ほどやっと落ち着いた言葉のマシンガンが、再びスマホから立て続けに流れ続けた。
 しかし言いたいことを言い尽くしたのか、今度は晃の制止なく自分からクールダウンする。


「……松葉晃、天本千明のアドレスを送ってちょうだい。彼女の説得ついでに、そいつが本物がどうか調べてあげるわ」

「わ、分かった」


 真凛の言う通り、ハッキングのプロである彼女なら、より確実な裏付けが取れるはずだ。晃は言われた通りに、千明のアドレスを真凛宛のメールに貼り付けて送信した。
 しばらくすると、スピーカーからカチャカチャとキーボードのタイプ音が聞こえ始める。千明へのメール作成とアドレスの調査を始めたのだろう。晃はスマホの通話を繋げたまま、マイク部分を指で押さえてから麻衣の方を向いた。


「なんつーか、想像してた以上にすごい奴だったな……」

「そ、そうね……。あそこまで我を忘れちゃうくらい、風花百合香のことを恨んでたのね、ずっと」

「でも、よく考えりゃあ当然だよなあ。俺たちと違って、藤野先輩は既に処刑を受けて追放された後なんだからよ」


 恐らくは処刑されたときから今までの約一年間、自分一人では訪れるかどうかも分からない復讐の機会をずっと待っていたのだろう。自らの気がふれてしまうほどの、百合香への怨恨を抱き続けながら。
 巨大組織説を聞いても消沈しないほどの強い負の感情を持っているなら、革命の味方としては心強いし途中で裏切るということもないだろう。しかしそれならば、半ばその場の流れで革命を決めたような自分たちが、彼女の憎しみに果たしてついていけるのだろうか?
 そんな期待と不安が入り交じった二律背反が麻衣の心中を占め始めたころ。スマホから真凛の声が聞こえてきた。晃はスマホのマイクから指を退けて通話に戻る。


「疑って悪かったわね。あのアドレスは確かに、天本千明のスマホのものよ」

「マジか、ありがとうな! これで安心してメールを送れるぜ」

「……いいえ、まだ気をつけた方がいいわ。彼女、なんだか怪しいから」

「は? どういうことだ?」


 晃が疑問符を浮かべたのと同時に、パソコンが千明のアドレスからのメールを受信する。真凛にも送られたであろうその本文は彼女の言う通り、確かに警戒を解ききれない内容だった。


--------

 あなたたちの覚悟は分かりました。
 それでは今週土曜の午後3時、白羽病院のコインロッカー前に来てください。そこでこちらの事情と意見を伝えます。

67:ビーカー◆r6:2017/03/12(日) 16:24

翌日。
「おっはよー、板橋ちゃんに松葉クン!」
昨夜のメールの件に頭を悩ませていた晃と麻衣を迎え入れたのは、小生意気な幼い声だった。処刑を中心となって進める璃々愛は、相変わらずの調子で2人を煽る。
「……」
昨日の様な騒動は起こすまいと、2人は何を言われても無視しようと心に決めていた。藤野真凛が味方に加わったとはいえ、学園の現状は何も変わらない。生徒達の刺さる様な冷たい目線と理不尽な暴力に、暫くの間は耐えなければならないのだ。
「あっれー、無視ぃ? ちょっと、酷くなーい? せっかく処刑対象にも優しくしてあげてんのにさぁ」
クスクスという周りの嘲笑が耳に入る。それでも2人は璃々愛と目も合わせずに教室へと向かった。
教室に行けば待ち受けるのは落書きに塗れた机と無慈悲なクラスメイトだが、璃々愛の相手をするよりかはマシだろう。
しかし今日、璃々愛は少しばかり苛立っていた。
愛する会長は昨日顔も知らない女子生徒と2人で帰っていき、何を話したのかも教えてくれない。掲示板を探ってみても、有効な手がかりはありはしない。そして安倍野という、会長に付き纏う不穏な存在。
そういった小さな物が、璃々愛の脳に鬱陶しく絡み付いていたのだ。
その鬱憤を晴らす相手は、目の前の反逆者に決まっている。
「挨拶のやり方……教えてあげよっかぁ?」
懐から出した銀色の裁ち鋏を右手に持つ。生徒達の期待の目。空いた左手で麻衣の髪を引こうとした瞬間――。
「やめなさいよ。くだらない」
冷ややかな声が、3人の後ろでずっしりと響いた。
振り返った視線の先にいたのは、すらりと背の高い大人びた少女。彼女のひたすらに黒い髪の中で、紫のカチューシャがきらりと光る。
璃々愛は彼女の姿を確認すると、あからさまに不満そうな顔をして舌打ちした。
「……なんで邪魔するの」
「また面倒事を起こされたくないからよ。風紀委員長として止める権限が私にはあるわ」
麻衣ははっとして、もう一度彼女の顔を凝視する。その凍りついた眼は、しっかりと璃々愛を捉えて離さなかった。
「……月乃宮……先輩?」
堂々と、しかし優雅に立つ彼女こそ、風紀委員長。
月乃宮いばらであった。

68:かおり 復活派に入ろうかな:2017/03/12(日) 17:28

(えっと、64の続きで67と同じ時間です。ややこしいですかね……)

朝。いつもより少しだけ急いで家を出る。
私の所属する文芸部は基本的に平日の午後と休日のみの活動だが、物語を書きたくてたまらない笹川先輩は朝早くからいるはず……。
「おはよ恵里ちゃん、珍しいね。締切前でもないのに」
「おはようございます、先輩。いえ、ちょっと頼みたいことがあって……」
やっぱり、いた。A組であっても全く威張らない、綺麗でカッコイイ文芸部の部長。
「なになに?ひょっとして恋愛相談?」
「ち、違います!その、渡してほしいものがあるんです、阿部野先輩に」
「ラブレター……はないか。あんなのはちょっとねえ。聞いたことはないかな」
だから違いますって……。
じゃない、手帳だ、手帳。
「これなんですけど……」
私はカバンの中からあの手帳を取り出した。勿論、カバーはつけたままで。
「わ、アイツの手帳じゃん。どこで手に入れたの?」
「下校中、落ちていたんです」
「ふーん……ま、わかったよ。後で渡しとく」
「ありがとうございます!」
あー。

……よかった、本当に。
ほっとしながら部室の扉を閉め廊下を歩く。すると、見慣れない光景が、窓の外では繰り広げられていた。
なにあれ……。好奇心を見事にくすぐられた私は、速足でギャラリーの中に紛れ込んだ。

「やめなさいよ。くだらない」
あ、あのカチューシャ見覚えがある。あの人はきっと……月乃宮風紀委員長だ。
「……なんで邪魔するの」
あの人は、結城先輩。
そして、処刑された二人の生徒。
ええと……板橋さんをいじめた結城先輩と、それを止める月乃宮先輩って感じかな。

処刑されたあの人たちを見るたびに、罪悪感が私を蝕む。あの二人は、私の身代わり……。

やっぱり、こんな制度おかしいよ……。
私なんかよりずっと勇気のある人を、こんな……。

   革命に、参加したいな。

それは、前から思っていたことだった。こんな私じゃ力になれないのは分かってるけど、でも……‼

とにかく、今日一日考えよう……。
小さな決心をした私は、野次馬の中からそっと抜け出した。

69:ビーカー◆r6:2017/03/13(月) 17:16

(月乃宮いばらについての設定を深めるため、連続になりますが書き込ませていただきます)

「……いばらねぇ、何でアンタが見逃されてるのか分かってんの?」
「ええ、私は見逃されている身よ。だったらその立場、存分に活用させていただくわ。大体、貴方の校則違反を見逃してあげているのは私よ?」
いばらが歯切れの良い言葉でそう告げると、璃々愛は途端に黙ってしまう。流石風紀委員長ともあり、その佇まいは堂々たるものであった。
「あまり調子に乗りすぎないことね、結城さん……私がそっち側につくとなんて思わないで」
先程から周りは彼女の気迫に圧倒されてしまい、誰一人としていばらに異論を唱えることはしない。璃々愛の方も言い返す言葉をすっかり失ってしまっていた。
今は不利だと悟ったのか、璃々愛は何も言わずに不満げな様子で去っていく。その後ろ姿を見届けると、いばらは2人に向き合う。
「貴方達ね、噂の処刑対象とやらは」
「……あーっと……月乃宮先輩、でしたっけ? ありがとうございます」
気さくな晃と堅いいばらという対照的な組み合わせ。だが少なくともいばらは、そんな晃に味方した様だった。
「いいのよ、別に……前々からあの人達はあまり好きではなかったし」
「あの、月乃宮先輩……いいんですか?私達に味方したら……」
共犯者として処刑される。
それは白羽学園の暗黙のルールであり、誰もが理解している筈の事実。ましてや処刑の邪魔などしたらただでは済まない。現にたった一度反逆者に味方し、自殺に追い込まれた生徒が過去にいたのだった。
たとえ相手が風紀委員長であろうが、生徒達は容赦しないだろう。
しかしいばらは冷静に言う。
「私の父が白羽学園に多大な寄付金を出していてね。私がいなくなると寄付金は半減する事になる。そうなればこの学園は一気に崩壊するわ。学園にとっても風花さんにとっても私の存在は必要不可欠なの」
「……お金持ちなんですね、月乃宮先輩のお宅」
なるほど、確かによく見るとそのカチューシャにも高級感溢れる細かい装飾がなされていた。近くの雑貨屋に売っている数百円の安物とは幾分違っている。
「……で、月乃宮先輩」
2人の間に入り込むように、晃が口を挟む。
「アンタはこっちの味方なんですか」
いばらは少し考え込むような素振りをし、2人を交互に見据える。表情が少しも変わらないおかげで、若干の不気味さが醸し出される。
「……そうね。貴方達の味方と考えてもらっていいわ」

70:ABN:2017/03/13(月) 20:46

(今回全文の七割くらいが恵里さんの自問自答です。読み辛かったらすみません)



 拾った手帳を信頼できる部長に預けるミッションをクリアしてから、恵里はずっと考え事に没頭していた。

 女王の自己都合が横行するこの学園で、自らの意志で彼女に反抗した麻衣と晃。通常なら居丈高を戒めたと称賛されるはずの二人は、ここでは反逆者だと定義され、非難と侮辱の嵐を浴びている。
 こんな理不尽をひっくり返すことができるなら、是非ともその手段を選びたい。しかし、その選択において枷となる二つの懸念を、恵里は手放せずにいた。
 一つは革命に参加しても、自分にできることが思いつかないこと。頭の良さは学園内では平均以下、運動は体育の成績に響かない程度。何かしらの専門知識を持っている訳でもなく、強いて言えば小説執筆に役立つ文法や表現などを覚えているのみ。そんな物書きの端くれである自分に、どんな助力ができるだろうか?

 自分の無力を思い返すあまり、恵里の思考はネガティブな方向に転がり出す。それに伴い、先日聞いた剣太郎からの忠告が想起された。


『この学園は成績と評判が全てを決める。必要以上のお節介は自分の身を滅ぼすだけだ』


 彼の言う通り、処刑対象の麻衣たちは、現在進行形で生徒会公認のいじめを受けている。ジュースを浴びせられたり、机を落書きで汚されたり、晃の自宅を不良が襲撃したとも聞く。
 もし自分も革命に参加して、そのことが他の生徒たちにバレたとき、あのような心ない悪意に自分は耐えられるのだろうか? それが恵里が抱えるもう一つの懸念であった。

 以上の自問自答を、納得のいく答えが出ないままぐるぐると考え続ける。そんな堂々巡りは授業中や休み時間にも止まることはなく――。


「白野恵里さん、少しよろしいですか?」

「は、はい!?」


 教室移動の途中、背後からかけられた声に必要以上に驚いてしまった。痛くなるほど跳ねた心臓を鎮めながら後ろを振り向くと、そこには今朝、部長経由で手帳を渡したはずの安部野が立っていた。



(続く)

71:ABN:2017/03/13(月) 20:47

(続き)



「驚かせてしまいすみません。先ほど、僕と同じクラスの笹川さんから手帳を受け取りまして。彼女に聞いたところ、あなたが拾って届けてくれたと仰っていたので、お礼に参りました」

「あっ、はい、その通りです! ええと……手帳、無事に届いて良かったです」

「ええ。落としたことに気付いたときには、どうしようかと困り果ててしまいましたよ。本当にありがとうございます」


 心から安堵した様子で頭を下げる安部野。そんな彼に倣って恵里も笑顔を作るが、内心は動揺を表に出さないようにすることで精一杯だった。
 あの手帳の中表紙に書かれているのは生徒会長への恨み節。そしてその持ち主である安部野は、恐らく麻衣たちと同じ反逆者。

 もし中表紙についてここで言及すれば、あわよくば安部野の革命を手伝うことができるだろうか? 同じ思想を持つ同志の中では恐らく生徒会に一番近い彼だ。上手く行けば、革命の心強い味方になるかもしれない。
 だが逆にその目論見が外れ、中表紙を見てしまったことを問い詰められた場合。口封じとして生徒会役員の権限を利用され、自分が新たな処刑対象に選ばれてしまう可能性も否めない。
 そもそも革命に参加する決心も固まっていないのに、今ここであの文字について言及してもいいのだろうか?

 恵里のそんな葛藤を知った様子もなく、安部野は頭を上げると、一つの提案をした。


「もし白野さんのご都合が良ければ、明日にでも改めて、ちゃんとしたお礼をさせてください」

「えっ、そんな! そこまで大したことしたわけじゃありませんし、大丈夫ですよ!」

「いいえ。白野さんのおかげで、大事な手帳を無くさずに済んだのです。さもなくば僕の気が済みません」

「うーん……分かりました。そこまで言うなら、お言葉に甘えます。明日は特に予定もないですし……」


 一度は反射的に遠慮したものの、安部野の押しに負けた恵里は、大人しく彼の礼を受け取ることを決めた。
 よく考えれば安部野の礼に付き合うということは、彼と落ち着いて話せる機会を得るということだ。あの中表紙について聞くなら、そのときにすればいいだろう。
 恵里の快諾を受け、満足げな笑みを浮かべた安部野は。続けて希望の待ち合わせ時間を述べた。


「それでは明日土曜日の午後二時半、白羽病院内にある喫茶店で落ち合いましょう」

72:ビーカー◆r6:2017/03/15(水) 18:05

(生存確認がしたいので、この書き込みを見た方は2週間以内に続きを書く、報告するなどで生存を知らせて下さると助かります。
確認がとれない場合、その方のキャラクターは今後自由に使用できるキャラとして扱わせていただきます。)

73:蒼月 空太◆eko:2017/03/15(水) 18:17

一応生きてますよ?ただ・・・ネタが浮かばないんですよ。例え浮かんでも、それでいいんだろうか・・・となるので

74:ABN:2017/03/15(水) 19:22

(展開に悩むようでしたら、創作の方の設定スレで相談してもいいのではないかと思います…)

75:奏:2017/03/16(木) 13:17

>>72
(いますが…せっかくの素晴らしい小説が幼稚な分しかかけない私のせいでダメになるのは嫌なので…)

76:かおり:2017/03/16(木) 17:58

(わ、私も生きてますからね!次の話で恵里を革命軍?に入れるつもりですよー!)

77:かおり:2017/03/16(木) 18:01

(あ、書記さんの手帳についてはしばらく恵里の心の中で保存(保留)とするつもりです)

78:ビーカー◆r6:2017/03/17(金) 12:07

皆様ありがとうございます。

ネタの相談については創作板を使って頂いて大丈夫ですし、創作板でABN様も仰っていた通り文の出来や話の流れの出来について気にすることはありません!遠慮なく続きを作って頂いて大丈夫です、むしろ皆様の続きを楽しみに待っております!
あまり深く考えず、お気軽にどうぞ(^^)

79:ビーカー◆r6:2017/03/17(金) 22:04

「もー…っ…、ムカつくムカつくムカつくムーカーつーくーっ!!」
放課後の生徒会室でそう叫ぶのは、幼い駄々っ子の様に床で暴れ回る璃々愛だった。彼女はいつも会長の雑務が終わるのを待つ為、この部屋に居座っている。会長の仕事が終われば会長を家までしっかり見送り、会長が玄関の扉を閉めるのを見届けてから帰路につく。はたから見ればストーカーの域に達しているが、会長本人も特に悪い気はしていなかった。
「何よあの態度!? 超ムカつくんだけど!? 風紀委員長だからって調子乗ってぇ……!!」
彼女の怒りは収まる所を知らず、次から次へと溢れ出ては暴言となって撒き散らされる。そんな彼女の様子を、くすりと笑いながら見つめる百合香。
「まあまあ、落ち着いて璃々愛ちゃん。もう少しの辛抱よ」
「……でもぉ〜……早いうち、何とかした方がいいよ、かいちょー……風紀委員の奴らもまとめて」
相変わらず不満は垂れるものの、会長が一言宥めれば璃々愛は途端に大人しくなる。やがてすくりと立ち上がり、髪を整え始めさえする。璃々愛をここまでコントロールできるのは、やはり百合香くらいなものだろう。
「父親は雪羽広告の取締役、母親は元白羽病院の看護師、そしてお姉さんはその白羽病院の現役看護師……そりゃあお金持ちよねえ」
百合香はそう言って、確認の終わった資料を引き出しにしまった。
「もうっ、感心してる場合じゃ……」
「それより、璃々愛ちゃん。良いニュースよ」
璃々愛に微笑みかけると、百合香はスマートフォンの画面を彼女に見せる。白羽学園では授業中以外ならスマートフォンの使用が許可されており、放課後にもスマートフォンを使用しながら部活動にのぞむ生徒は多い。もっともそれは、主に個人主義の強い文化部でしか行われていないが。
画面上のニュースサイトには、ゴシック体の見出しがでかでかと書かれている。

『木嶋一家失踪事件 長女衰弱状態で発見』

「!!」
璃々愛の目に光が灯ったのが見える。

『昨年末突如姿を消し長らく捜索が続いていた木嶋(きしま)一家の長女、木嶋京子(- きょうこ)さん(17)が、Y県の山林から衰弱状態で発見された。京子さんは市内の病院に搬送され、経過観察中だ。父の富博(とみひろ)さん(39)、母の雪(ゆき)さん(35)、次女の沙織(さおり)さん(15)も発見されたものの、死亡が確認された。
一家は昨年12月7日…………』

「市内の病院って……白羽病院、だよねー?」
「ええ、あそこくらいしか受け入れ場所はないもの……おいたはダメよ、璃々愛ちゃん」


『Lily.
行方不明の子、見つかって良かった。
メディアとかは病院名とか明かすよりまず、その子の様態とか家族問題とかを優先して伝えてあげるべきだと思うなあ。その子がどんな思いして生き延びたのかもっと報道してもいいのに。

13,568 RT 16,928 いいね』

80:美鈴:2017/03/19(日) 15:00

(遅くなってすみません!そんなにこれないので使ってもいいですよ!だけど、近いうちに下校中のは書きます!月曜日(明日)くらいには、書けるようにします!今ちょっと考えてます!)

81:かおり:2017/03/20(月) 12:46

 土曜日、午後二時五分。私、白野恵里は喫茶店への道を急いでいた。家から喫茶店まで十分くらいで、待ち合わせは二時半。早すぎるかもしれないけれど、相手は最上級生でA組で生徒会なのだ。遅刻が許されるわけがない。
 病院の大きさに感心しながら喫茶店へ歩く。腕時計をみると時刻は二時十二分だった。まだいないよね、と心の中でつぶやいたけれど……
「こんにちは、白野さん」
「こ、こんにちは」
 奥のテーブル席には既に安部野さんがいた。
「お早いですね、先輩」
「いえ、少し用があったので。注文どうします?」
「えっと、コーヒーを」
「分かりました」
 店のロゴが入ったエプロン姿の女性店員さんにコーヒーを二つ頼む。頑張れ、という意味ありげな目配せは首を横に振って否定する。安部野さんは気付かなかったようだ。

 先ほどとは別の女性店員さんからコーヒーを受け取り、話を再開する。
 私が一番知りたいのは、あの手帳に関すること。本当に革命派なのか。でもそんなこと、直接聞けるはずがない。そこで私はこんな質問を投げかける。
「……先輩は、あの二人について、どう思いますか?」
 革命に肯定的とも否定的ともとれる聞き方。これが吉と出るか凶と出るか……。
「何故そんなことを?」
「……学園の中でもいろんな意見があるので。強いて言えば、生徒会の方の考えをお聞きしたいな、と」
 まさか質問を返されるとは思わなかった。うまく誤魔化せただろうか。
「そうですね……生徒会としては厄介と言わざるを得ません。今まで守られてきた制度に反対されたのですからね」
「そうですか……」
 うぅ、私が聞きたかったのは生徒会としての意見ではなく安部野さん個人の意見なのに。
 あーあ、失敗。
 冷めてしまったコーヒーを飲み、小さくため息をついた。
「ああ、すっかり忘れていました」
「?」
「あなたとお会いした本来の目的ですよ」
 あ、手帳のお礼か。別にいいのに。
「本当にありがとうございます。助かりました」
「いいんです、そんなたいしたことではないですし!」
 だから頭をあげてくださいよー!
「いえ、新しいものにしようとも、難しいので。どうしようかと思いました」
「……あぁ、たくさん書き込んでありましたもんね。確かに、あれをもう一度書き直すのは大変そうです」
「……ええ、まあ」
 なんだろう、気になる沈黙だな。何か変なこと言ったっけ?
 私は先ほどの発言を振り返り、大きな失態に気づいた。
「っ!」
 たくさん書き込んであった、と。
 言ってしまった。
 それが分かるのは、手帳の中を見たひとのみ。そして……。
「いつも、手帳からカバーが外れないように折り込んでいるのですが、笹川さんから受け取ったときはそうなっていなかったんですよ。もしかして、とは思いましたが、まさか……」
「……」
 ごめんなさいと素直に謝りたいけれど、出来ない。

 どうしよう……。


(ABNさん、お願いします!私じゃ無理‼)

82:美鈴:2017/03/20(月) 14:15

〜下校中〜

「会長、あの……」

「?何ですか?」

「璃々愛さんのこともあるんですが、その前に処刑制度のことについていっていいですか?」

「いいですよ」

「処刑制度を…その…少し緩くしたほうがいいと思うのですが…」
ストレートに言いたいけど、処刑されるのは嫌ですからねぇ…我慢しますか。

「何故そう思うのですか?」

「それは…厳しく処刑するとその…一部の生徒にはいいことだと思いますけど、ほかの生徒には悪いことだと思うからです。例えば…悪いことをしたら処刑する、それはいいんです。だけど、悪いことをしていないのに濡れ衣を着せられて処刑されるのはかわいそうだと思います。それに、璃々愛さん、会長が処刑しているのを見て処刑人を見て、いじめて、すごく楽しんでいるように見えるんです。」
本当は、もっと言いたいけど…後で氷雪(ひゆき)に話すことにしますか…。

「そうですか?厳しくしているつもりはないし、璃々愛は楽しんでいるように見えませんけど。」

……本当に百合香の頭はどうにかしてますよ。イライラします。
「でも、濡れ衣を着せられるのはかわいそうなのでそこは何とかしてくださいっ!」

「濡れ衣を着せてません。なので何もしません」

本当にそう思っているのか…もう無理だ。早く分かれないとこいつに怒りそうだ。

「すみません。余計なことを言いました。付き合っていただきありがとうございました。さようなら」

「さようなら。また明日」

もう嫌だ。本当にこいつはやばい。

〜美雪の部屋〜
私はパソコンを立ち上げた。いつものことだ。イラついたら、パソコンに打ち込む。
『何なんだ。あいつは‼何であいつが会長なんだ‼あんな奴が生徒会でいいのか‼頭がおかしい‼おかしい。あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼むかつくむかつく💢』
「氷雪に来てもらおぉ…はぁ」
『氷雪、今家に来てくれる?できたら今すぐ来て』
『はーい。今から行きます』

(ちょっと保留します)

83:美鈴:2017/03/20(月) 16:41

(続き)

『あのさぁ、あえかと愛夏(まなか)連れて行っていい?』
『愛夏?』
『美術部の子。友達になったの。復活派だから大丈夫。多重人格だけど…』
『いいよ』
    
「美雪、あいつのこと?」

「うん」

「あのぉ、あいつって誰ですか?」

「あっ、そっか。愛夏、今日が初めてだもんね」

「今更だけど私、あえか。で、あいつって言うのは生徒会長のこと」

「えっと、この方ですか?」
そう言って、愛夏はアイツの似顔絵を見せてきました。流石、美術部。

「そうそう。美雪、早く教えてよ!小説のネタにするから」

「うんうん。アイツが自分のことってわからないように崩すし」

「氷雪さんとあえかさんって文芸部ですか?」

「うん、そうだよ。氷雪ちゃんと一緒。ついでに言うと、小説家」

「えっ!いつなったの!」

「美雪……びっくりしすぎ…」

「氷雪さん、あえかさん、小説の挿絵、私書きたいです!」

「いいよ。美雪、早く話して」

私は下校中のことを話しました。感情的にならないように、客観的になるように。

「本当にどうにかならないかな…」

「あえかぁ、ネタにはなるけどこれはねぇ…」

「会長さん、ある意味、すごいですよねぇ」

(またまた保留します。すみません)

84:ABN:2017/03/21(火) 00:14

(いきなり違う場面から始まりますが、一応>>81の続きとなっております)
(創作板の方でも予告した通り、今回は今まで張っていた伏線を一気に回収するので、今まで以上の長文かつ粗削りの文章になります。すみません;)



 白羽病院の入り口付近にある、来客専用のコインロッカー。千明からのメールで集合場所として指定されたそこに、麻衣、晃、真凛の三人は集まっていた。


「あー……天本先輩、遅くね?」

「遅いって言っても、まだ三時にはなってないわよ。もう少しで来るんじゃない?」

「それはそうだけど、日時を指定してきたのは向こうでしょ? だったらそれよりも先に待ってるのが、言い出しっぺの礼儀ってものじゃないの」

「だよなー。一体何やってんだろうなあ、天本先輩」


 三人が集合したのは午後二時四十分頃。そして現在時刻は午後二時五十八分。未だに姿を見せない相手に、麻衣はそわそわと落ち着かない様子を見せ、晃は待ちぼうけによる疲労でだらけ、真凛は待ち人の無礼に憤っていた。


「ってか、どうして集合場所が病院なんだろうな? 折角待ち合わせるなら、もっと他にも場所があっただろうに……」

「あら、知らないの? 処刑された天本千明の末路」

「ま、末路?」

「彼女は歴代の処刑対象の中でも、相当メンタルが強い人だったらしいの。けれど、そんな彼女も全校生徒ぐるみの処刑には耐えられなかったのか、最後には学園の屋上から飛び降りた……って聞いているわ」

「飛び降りって、じゃあ、天本さんは……!?」

「あんなメールが届いてる以上、少なくとも命と頭は大丈夫そうね。でも、他の五体も無事で済んでるかどうかは……」


 蒼天にそびえ立つ白羽学園の学舎。その屋上から見える地面の遠さを想像して、麻衣と晃は顔から血の気が引いた。

 あの高さから身を投げれば、命どころか体が原型を留めるかどうかすら怪しい。にも関わらず、詳細不明とはいえ一命を取り留めたのは奇跡としか言い様がない。
 しかしそれと合わせて今回の集合場所を踏まえると、恐らく千明は、未だに病院から動くことができないほどの大怪我を負ってしまったのだろう。

 麻衣の思考が千明の様態を想像するにまで至ったそのとき、午後三時を告げるチャイムが病院内に響く。それと同時に、麻衣たちに声をかける者がいた。


「あ、あの……二年の板橋先輩、ですよね?」

「はい、あなたは……っ!?」


 どこかで聞き覚えのあるその声色に、麻衣は何気なく返事をする。吊られて晃と真凛も声の方に振り向き、直後、三人は息を飲んだ。
 麻衣たちに話しかけたのは、自分たちと同じ白羽学園の一年生、白野恵里。そこまでは想定通りなのだが、彼女のすぐ背後には、黒いフードを目深に被った人物がぴったりと接するようにして立っていた。よく聞けば恵里の声は上擦っており、体はびくびくと震えている。傍目から見ても、彼女がフードの人物に対して怯えているのは明らかだ。


「おい、誰だよお前!? うちの後輩がビビってるじゃ」

「刺激しないで! あの人……危ないわ」


 フードの人物に威嚇しようとした晃を、真凛が素早く制止する。彼女の目配せに従って黒フードの手元を見ると、その手には不恰好で無機質な機械が握られていた。ドラマなどのフィクションでしか見たことがないあの先端の形は、恐らくスタンガンだろう。
 もしあれが本物で、自分たちが黒フードの機嫌を損ねるようなことをすれば、目の前にいる罪なき後輩の身は――。

 麻衣たち三人がそう悟ったのを見計らったように、フードの人物は小声で恵里に何かを耳打ちする。ひっ、と小さな悲鳴こそ上げたものの、彼女は抵抗せずにその言葉を最後まで聞くと、三人の方に顔を上げた。


「ええと……皆さんが持ってる荷物、全てコインロッカーに預けてください。スマホも、上着も、ポケットの中味も、手放せるものは全部……」

「ど、どうして? 白野さん、この人の目的は何なの?」

「それは、その……きゃっ!」


 バチッ、とスタンガンから火花が弾ける。幸い恵里が感電した様子はないが、今の電撃でスタンガンがハッタリ用の偽物である可能性は潰えてしまった。つまりこのフードの人物は、やろうと思えば本当に恵里を害することができてしまうのだ。



(続く)

85:ABN:2017/03/21(火) 00:20

(続き)



 目の前の凶器が本物であるというショックで呆然とする麻衣。そんな彼女に、真凛はそっと声をかけた。


「麻衣、ここは言う通りにしましょう。あのスタンガンが、私たちに向けられる可能性もゼロじゃないし」

「は……はい」


 フードの人物の機嫌を損ねないよう用心し、三人は指示された通り、預けられるだけの荷物を全てロッカーに収納した。それが終わると、黒フードはもう一度恵里に耳打ちをする。


「ええと、今度はエレベーターまで行って、上りのボタンを押してください。階のボタンは、この人が押す……とのことです」

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺たち、これから待ち合わせが……」

「仕方ないわよ。千明には後で、理由を話して納得してもらいましょう。……最も、向こうがそれを許してくれるかは分からないけど」


 後輩の身の安全が保証されない以上、自分たちに不都合があっても口答えをするのは危険だ。そう判断して晃を説得する真凛の表情は、彼と同じく歯噛みするほどの苦々しさに満ちていたのだった。

 恵里を人質に取るフードの人物をしんがりに置き、麻衣たちはエレベーターに向かう。そして指示通り、上りのエレベーターに乗り込み、扉が閉まるのを待つ。それを確認した黒フードは、個室の病室がある階のボタンを押してから、ようやく自ら口を開いた。


「お疲れ様でした、白野さん。ご協力感謝いたします」

「あ……も、もう大丈夫ですか……?」

「はい。お三方も、騙し討ちのような真似をしてしまい申し訳ありませんでした」


 その言葉に恵里は腰を抜かして安心し、麻衣たち三人は突然しおらしくなった黒フードの変化に目を点にする。そんな彼女たちの様子にフードの人物はクスリと微笑すると、今まで被っていた頭巾部分の布を外してみせた。その下から表れた顔に、麻衣と晃はにわかに身を固くする。


「お、お前は……安部野椎哉!?」

「あべの? あなたたちの知り合い?」

「知り合いというか……新学期から転入してきた、学園の生徒会書記の人ですよ」

「板橋さんの仰る通りです。出席停止となっていたのなら、ご存じなくても無理はありませんね。藤野真凛さん」

「! どうして私の名を……!」


 学園における彼の立ち位置を知っている麻衣と晃は元より、転入生であれば知らないはずの自分の存在を認知された真凛も、安部野に強い不信感を向けた。そもそも秘密裏に打ち合わせた反逆者たちの集いが、なぜ生徒会の人間にバレてしまったのか?
 エレベーター内の空気が麻衣たちの警戒心で侵食され、一触即発となりそうなそのときだった。


「ま、待ってください! 安部野先輩は、私たちの敵じゃありません!」

「何言ってるのよ! 生徒会長に仕えてるあいつが、どうして私たちの味方になるわけ!?」

「そ、それは……」


 恵里が躊躇いがちに口を開こうとすると、チャイムと同時にエレベーターの上昇が止まる。目的の階に到着したのを確認すると、安部野は床にへたりこんだままの恵里に手を差し伸べた。


「その説明は追々させていただきます。ですがその前に、白野さんへの誤解を解いておきましょうか」


◆ ◆ ◆


 それは恵里の失言から始まる。本来は安部野の手帳の中表紙に書いてあった、文字の真偽を問う予定だったのだが、逆に自分が中表紙を見てしまったと彼に感づかれてしまったのだ。
 気まずいでは済まない沈黙の中、目の前のにこやかな笑みは崩れない。それがなおのこと、恵里の不安感を一層募らせていた。


「では、僕もお尋ねしましょう。現在執行されている処刑制度について、白野さんはどのようにお考えですか?」

「!」


 安部野からの思わぬ問いに、恵里は思わず俯きがちだった頭を上げた。
 質問の答えは決まっている。だがこの状況で彼相手に、馬鹿正直な回答が通用するのだろうか? いや、どちらにせよ先ほどの失言で、安部野からの信頼は無くなってしまっただろう。それならいっそのこと――。


(続く)

86:ABN:2017/03/21(火) 00:25

(続き)



「私は……あの処刑制度は、理不尽だと思います。学園の平和と言えば聞こえはいいですが、その定義は生徒会長の独断同然じゃないですか。それに処刑によって、体や心を傷つけられている人もたくさんいます。そんな人たちを無視して平和を謳うなんて、あまりにも矛盾していると思います」

「……なるほど、なるほど」


 ああ、とうとう言ってしまった。これで晴れて(?)私も、処刑対象の仲間入りだろう。革命への参加を考えていたときから分かっていたことだが、果たしての残り約三年間、私は生徒たちからの心ない処刑に耐え続けることができるのだろうか。
 一度口に出した本心からの意見を、遅まきながら後悔しだした恵里。しかしそんな彼女とは対照的に、安部野はやはり変わらない笑みを浮かべたままだ。彼は恵里の意見を反芻するように二、三頷くと、おもむろに自分の鞄を開けた。


「白野さん。この後、お時間の余裕はまだございますか?」

「えっ? あ、はい」

「それは良かった。実はこの後、もう一件待ち合わせの予定があるのですが、その際に僕の指示に従って欲しいのです」

「指示?」


 言いながら、安部野は鞄の中から黒いフードを取り出して羽織る。そして再び鞄から、今度は黒く不恰好な機械を取りだした。


「簡単な伝言ゲームですよ。僕が適宜お伝えする言葉を、待ち合わせ相手の方々に話していただくだけですので。ただし余計な真似をするようであれば、少々身の安全は保証できかねますがね」


 彼が取りだした機械の正体がスタンガンであること。そして恐らく、これから自分はあれを使われ、待ち合わせ相手の人質にされるということ。それらを悟った恵里の後悔はとうとう限界を極めたのか、くらりと目眩を呼び起こしたのだった。


◆ ◆ ◆


「……なるほどな。とりあえず、お前がここに呼び出された理由は分かったぜ」

「なんと言うか……災難だったわね、白野さん」

「あ、あはは……」


 安部野を先頭にして、一行は個室用フロアの廊下を歩く。その道中で説明された恵里の経緯に麻衣たちは同情を覚え、当の恵里は乾いた笑いを漏らすしかなかった。


「それにしたって、あんな脅しみたいな真似をする必要ありました? 不審者かと思いましたよ」

「承知しております。しかし何分、僕は生徒会に属する身。同じ役員の目を誤魔化し、かつ盗聴の可能性を排除するためには、あのような方法しかなかったのです」

「盗聴……あっ! じゃあ、俺たちの鞄についてた盗聴機って」


 ほんの数日前に、安部野の提言で発見した盗聴機。彼がこのように言うということは、やはりあれは会長側の人物によるものだったのだろう。つまり安部野の一連の行動は、反逆者である麻衣たちを会長派の監視から逃すためのものだったのだ。


「待ってよ。それじゃあ、千明のメールの内容を知ってることについては、どう説明するの?」

「……その答えは、彼女に直接会えば分かると思いますよ」


 そう言うと同時に、安部野はある個室の前で足を止める。名札の部分書かれている名前は「天本千明」。彼はその病室の扉を開けると、先に中へ入るよう麻衣たちを促した。
 誘導されるまま、彼女たちは部屋の中へと進む。通常の病室よりも広い、真っ白な部屋の中央に備えられたベッド。その上にいたのは――。


「……おい、マジかよ」

「この人が、天本先輩……?」


 何本もの管で医療用の機械に繋がれ、血の気のない顔で昏々と眠っている女子。予想だにしなかったその姿に麻衣たちはざわめくが、その騒がしい音にも彼女は一切反応しない。
 そんな彼女たちの合間を縫って、病室の扉を閉めた安部野がベッドの側まで歩み寄る。


「……そうですね。初対面の方もいらっしゃいますし、改めて紹介させていただきましょう」


 微動だにしない千明の寝顔に、安部野はそっと手を添える。しかしすぐにその手を離すと、麻衣たちの方に体を向け直した。


「彼女は天本千明。昨年度に処刑対象となった広報部部長です。そして僕は彼女の弟、安部野椎哉……改め、『天本椎哉』と申します」

87:蒼月 空太◆eko:2017/03/21(火) 08:31

「マジっ・・・かよ!?」

病院の中で声をあげるのはご法度。だというのに、一番最初に声をあげたのは晃。彼は数歩後ずさって、そのまま千明と安部野・・・椎哉の顔を交互に比べる。似ているところは見つからない。しかし、晃は納得が出来た。今ここに千明が入院してるのならば。椎哉がパソコンなどを操作して見つけることも。秘密裏に打ち合わせていたことも。全てつじつまがあったことを。

「じゃあ、私達が秘密裏に打ち合わせていたことも。」

「あんな風な強大な力だとか組織だとか言っていたのも・・・」

「はい。全て僕が言った事ですよ。姉はこのような状態です。いえるはずもありませんからね。僕は姉をここまで追いやった生徒会長を・・・一生許さないのですから。それでも立ち向かう貴方方の覚悟を少し知りたいと思ったのですよ。姉のように被害に会う人を止めたかったので、その覚悟を。」

「かーっ。回りくどいことする上に、生徒会長派に見えた復活派、なんというか、お前顔がありすぎだろ。」

頭をガリガリとかきながら言う晃に、笑顔で椎哉は答えた。

「言われるだろうとは思っていました。」

「じゃあ、復活派だってことならよろしく。」

麻衣は笑顔で手を差し出した。

88:ABN:2017/03/21(火) 11:22

(間を置かずしての投稿となりますが、補足しておきたいことがあったので、また少し書かせていただきます)



「『復活派』、ですか」


 同志であることを認められ、差し出された麻衣の手。だが椎哉は彼女の台詞を少し反芻しただけで、その手を取ろうとはしない。


「……あの、椎哉さん?」


 まさかここまで手の込んだお膳立てをしておきながら実はやはり会長派だった、なんてことを言い出したりしないだろうか?
 中々真意の読めない椎哉にそんな不安感を覚えながら、麻衣はおずおずと声をかけた。


「そうですね。後々すれ違いが起こっても面倒ですし、ここで一つはっきりさせておきましょう」

「なんだよ。まさか、まだ何か裏の顔があるってのか? 一体何面相だよお前」

「いいえ、僕は怪人じゃありませんよ」


 かの有名な少年向け推理小説の悪役を引き合いに出しつつ、クスクスと笑う椎哉。しかしその笑みをすぐに引っ込めると、今度は真面目な表情で四人の顔を見た。


「麻衣さんは『復活派』と仰りましたが、それはつまり『学園の復活』が最終目的ということでよろしいですか?」

「は、はい。会長に支配される前の、平和な学園を取り戻すために……」

「でしたら生憎ですが、皆さんと僕が全面的に協力するのは難しいでしょうね」

「どうしてですか? 先輩も、生徒会長を倒そうとしているんでしょう?」

「ええ、その通りです。僕の最終目的は『風花百合香への復讐』。その過程で必要とあらば、何を犠牲にしても構わないと思っています。僕自身の尊厳や、ここにいる皆さんを含む全校生徒。あるいは白羽学園そのものであっても、ね」

「……!」


 誰が飲んだかも分からない息の音が部屋に響いた。
 麻衣たちにとって百合香の打倒は、平和な学園を取り戻すための「手段」だ。しかし椎哉にとっては百合香の打倒そのものが「目的」であり、その悲願を叶える為なら敵味方問わず何を贄にしてでも、文字通り彼は手段を選ばないのだという。

 一見は復活派の味方のようで、その実は自分たちはおろか、学園全体の敵に転じる可能性もある厄介者。それが復讐者、天本椎哉という男だった。


「まあ、飽くまでそれが最善手であればの話ですので、好き好んで破壊活動を行うわけではありませんがね。それを踏まえた上で僕を味方に引き込むかどうか、今一度よく考えてください」


 そう言うと椎哉は今一度、四人の顔をゆっくりと見渡す。深淵のように黒いその目に、白羽学園の未来は一切映っていなかった。

89:ビーカー◆r6:2017/03/21(火) 18:19

しばらくの間、沈黙は続いた。
この安部野、いや、天本椎哉という復讐鬼に対して、一体何と言葉をかければ良いのか誰1人として答えを導けないのである。誰も口を開こうとせず、ただ無機質な心電図の音が白い病室に響くだけであった。
果たしてこの男を味方に引き入れて良いのだろうか。
もし天本を味方にすれば、革命軍の心強いサポーターになってくれる事は確実だろう。その賢明さと情報収集能力はあの会長も褒め称える程なのだから。それに加えて藤野真凛のハッキングがあれば、学園内のあらゆる情報は網羅できてしまうかもしれない。
しかし……彼の眼中にあるのは、風花百合香への復讐ただ一つ。学園の再興など『転入生の安部野』にしてはそこまで重要視する話ではない。ましてや学園からの生徒達の解放なんざ極端な話、彼にしては心底どうでもいい話なのだろう。
『打倒、風花百合香』という目的こそ共通しているが、彼にしてはそれこそが唯一であり最終の目的なのだ。その為に彼はあらゆる手段を使い、あらゆる犠牲を払う気でいる。何としてでも女王を玉座から引きずり下ろす。そこから先は勝手にすればいい、というのが天本の考えだろう。

その長い沈黙を破ったのは、病室の扉の開く音だった。一瞬肩を跳ねさせた彼等の視線が、一斉に扉の方に集まる。
扉の向こうには二人の女性が佇んでいたに。そのうち一人は誰もが見覚えのある……。
「……月乃宮先輩!?」
「あら貴方達、皆揃ってどうしてこんなところに……特に安部野君。もしかしてその患者さん、誰だかご存知ないのかしら? 貴方、転入生だものね」
そう饒舌に語ると、ちらりと安部野に視線をやる。彼女は不快感を露骨に表すタイプではないものの、黒い瞳は普段より幾分冷たかった。
安部野の方は特に何も言わずにいる。この月乃宮いばらが果たして信頼のおける相手なのか、それを判断するにはまだ早い。今全てを打ち明けるのは彼等にとってリスクが高過ぎた。周りもそれを察したのか、自分から説明をしようとする人間はいない。というより、この状況を赤の他人に説明するにはまだ頭の整理がついていないだけかもしれないが。
だがただ黙っている訳にもいかず、麻衣は話題を逸らしてしまおうと話し出す。
「せ、先輩こそ……どうして病院に?」
「姉がそちらの患者さんの回診を頼まれてるから、付いてきただけよ……一応彼女とは知り合いだったしね」
「えっ、じゃあ隣にいるのは……」
いばらの隣にいる、背の高いすらりとした女性。ナース服に身を包んだ彼女の髪にはよく見ると、紫色のバレッタが留めてある。
女性は若干照れくさそうに微笑むと、深々と頭を下げて丁寧に言う。
「初めまして、いつもいばらがお世話になってます……月乃宮すみれです」
その声はいばらの突き刺さる声とは正反対に、どこかふわりとした優しい声だった。
「あら、貴方がいばらの言っていた安部野君? 生徒会のお仕事、いつもお疲れ様……大変でしょう? あんな大きな学校の生徒会なんて。無理はしないで、たまにはゆっくり休んでね」
そう言うと安部野にそっと微笑みかけるすみれ。
彼女はどうやら、学園で何が起きているかも知らない様だった。
「……いえ。御心配ありがとうございます。苦労する事も多々ありますが、やはりその分やり甲斐も大きいので」
そう言うと安部野も笑みを浮かべる。その笑顔は先程からその場にいた人間にすれば、酷く貼り付けたものに見えたに違いない。
「ふふ、立派ねえ……天本さんが面会中なら、先に木嶋さんから見ちゃいましょうか」
「……木嶋?」
その名前に、1年生の恵里を除いた四人が反応する。

90:美鈴:2017/03/21(火) 18:21

(場面が変わります。保留してた話しの続きです)

「あっそーだ!愛夏、多重人格じゃん!だから―」

「あぁっ!!そうゆうことぉ〜。いいねぇ」

「?でも、多重人格のときは、自分が知りたい事しか記憶にないですよー」

「でも、いいと思います」

「じゃあ、もう時間だから。今日は解散でーす」

〜みんながいなくなった美雪の部屋〜

これで少しは楽になります…。…安部野先輩に言ってみましょうか。私の情報収取力をなめないでいただきたいですよねぇ…。いつにしましょうか。

(ちょっと、考え中……。近いうちに)

91:ビーカー◆r6:2017/03/21(火) 18:28

>>90
本人ではないのですが、安部野さんの今回の秘密についてはストーリーの核心に関わる重要な設定だとも思いますので、1度ABN様に問い合せた方が良いかもしれません…!

92:かおり:2017/03/21(火) 21:37

土曜日の午後2時頃。病院から徒歩5分ほどの小さな公園にて。
自販機のレモン炭酸水を片手にベンチに座り、1人落ち込む私……戸塚亜衣。

あー……………。
どうしよう………。

「喧嘩、しちゃった……」
笑顔で走り回る小学生の声をBGMに、ポツリと呟く。
そう、何を隠そう、この私は……。

 姉・彩美(あやみ)と喧嘩してしまったのである。

専門学校に通いながら事務系のバイトをし、作家としても名をあげてきた姉と。


朝。私が起きたのは6時頃。本来朝に弱い私がこんな時間に目を覚ましたのには訳がある。
忙しい姉が久し振りに休みを取り、外出しようと言ってくれたのだ。
私はすぐに答えた。
「行く!映画みたい!!」
「はーいはい。りょうかーい。あ、費用は自己負担ね」
「えー、ケチィ」
「当たり前でしょ。折角バイトでかせいだんだもの」
最近はあまり話せなかったけど、別に、仲が悪いわけじゃない。むしろ良好だ。

お気に入りの若草色のワンピースを着て小さな飾り付きのヘアピンをつけ、私は姉の後を追いかけた。

楽しい休日になるはずだったのに。

「あのシーン最高!!」
「演じてる人がいいんだってば」
「あー、あの人引っ張りだこだもんねえ」
「次はコレみたいな……」
小説が原作となる映画を堪能した後、有名なファストフード店で食事していた私と姉。
話題は映画から姉ののろけ話、面白かった小説、そして……。
「亜衣、学園生活はどう?慣れた?」
学園にも移った。
「えーっと、まあ、それなりに?」
うう、革命のこととか話したいけど言えない。
姉は……

   白羽学園の卒業生で、元生徒会副会長なんだ。

そんな人に対して、あんな独裁を報告できるような強さを持つ私じゃない。

でもやっぱり、長年一緒にいた姉は騙せない。
「ふーん……。じゃあ、コレはなんなの?」
姉はあるものを私に向けた。ブラウンとクリーム色のケースがついた、スマートフォン。その画面には……。
「彩姉……なんで知ってるの……?」
「真帆ちゃんに教えてもらったの。いろいろと関わってるから。……で、コレは本当なの?」
「それは……」
あーもう……笹川先輩、やめてよ……。
ど、どうしよう……。

知られちゃった……。


(喧嘩の原因はまだ明かしてませんが、続きは後日……♪)

93:ABN:2017/03/22(水) 07:25

「聞いた名ですね。確か去年に失踪し、つい最近発見されたという一家の名前がそれだったような」


 木嶋という名字の話題に、一足先に触れたのは安部野。「〜ような」とは言っているが、一瞬前の反応からして、恐らく彼も事件の概要は既に知っているのだろう。にも関わらず飽くまで無知を演じる安部野の様は、彼の正体と「木嶋」という人物を知る者の目には滑稽に映った。
 そんな演技を見通す手掛かりを持たないすみれは安部野に疑いを持つことなく、振られた話題を展開する。


「あら、やっぱりご存じなんですね。確かにああも大々的に報道されれば、記憶にも残りやすいでしょうし」

「ということは、今この病院には『木嶋京子』が入院しているのね?」

「ええ、まあ」


 他の患者についてみだりに話すのははばかられるのか、返ってきたのはやや歯切れの悪い返事。それでも肯定の意味合いであることには変わりなく、つまりは百合香の被害者がもう一人この病院に存在するということになる。これはチャンスとばかりに晃は早速、木嶋京子とのアポイントを取ろうとした。


「なあ、月乃宮先輩の姉ちゃん! 木嶋がここにいるなら聞きたい話がたくさんあるんだけどよ、今って面会できるか?」

「無理に決まってるでしょう」

「即答か! ってか先輩が言うのかよ!」


 しかし彼の試みは、いばらの一言ですぐさま却下された。自分の案を一切の間を置かず否定された晃は、不満げな目でいばらを睨み付ける。だが当の彼女は、呆れたような顔をするとそのまま首を横に振った。


「松葉さん、ニュースを見てなかったの? 木嶋さんは今、体が衰弱してて経過観察中なの。それに家族を亡くしたショックも大きいでしょうし、どう考えても人と話せる状態じゃないわ」

「あっ、そうか……」


 失踪した木嶋一家の身に何があったのかは分からない。それでも家族のうち三人が死亡し、残り一人の生き残りも酷く弱っていたとなれば、余程壮絶な目に遭ったのだろうと予想がつく。
 折角の目論見が尤もな理由で外れ、晃はがっくりと肩を落とした。そんな彼の様子を気にかけつつ、今度は恵里がおずおずと挙手をする。


「あの……すみません。私、木嶋さんという方について、ほとんど知らないんですが……」

「そっか。白野さんは一年だから、彼女のことを知らなくても無理はないわよね」


 ここにいる白羽学園生の中で、唯一京子についての前知識を持たない恵里。周囲が彼女の情報を持った体(てい)で話を進めていたため、どうしても話の流れから放置されてしまっていた。


「椎哉先輩と同じくニュースで名前は見たんですが、あの人も白羽学園の人だってことは、今初めて知ったので……」

「ええ。まさかあんな痛ましい事件の被害者が学園の生徒だったとは。その木嶋さんに何があったのか、よろしければお教え願えますか? 白野さんはともかく、僕も実質的には一年生のようなものですから」


 恵里の無知に便乗し、安部野も京子についての説明を求める。復讐者という先入観が無ければその真摯な姿勢は、同じ学園の一員である京子の安否を心配する、若輩者ながら献身的な生徒会役員に見えただろう。

94:ビーカー◆r6:2017/03/22(水) 20:27

「……そうね。分かったわ、話してあげる。姉さんは仕事に戻ってて。あまり時間も無いでしょう?」
「ええ、そうね……じゃあ後はよろしくね、いばら」
そう言って一礼すると、すみれは病室を出てその扉を閉めた。
いばらがすみれを病室から出したのは、時間の都合という理由だけではないのだろう。恐らくすみれは、事件の詳細も今の白羽学園で何が起こっているのかも知らない。彼女に余計な心配をかけるまいといういばらの配慮がそこには垣間見えた。
すみれの足音が遠のいていくのを確認すると、いばらは一息ついて近場の椅子に腰掛ける。五人の顔と横たわる天本千明を見据えると、口を開いて静かに話し出した。
「一年生の白野さんも、結城璃々愛はご存知よね? 生徒会の」
「は、はい……見た目がかなり派手なので、印象には強く残っています」
「そう。なら、早速本題に入らせてもらうわ」

かつて結城璃々愛は、どの学校にも一人はいるような、話下手の地味な生徒だった。特に目立った事もせず、何かに進んで立候補することもなく、ただ周囲の目を伺うようにおどおどとしていた。そうやって俯いていると長い黒髪が顔を隠してしまい、薄暗い雰囲気が一層強まる。そんな彼女に好んで近寄ろうとする人間はなかなかいない。流行の話も話題作りも出来ない彼女は友達の一人も出来ず、クラスでも部活でも常に孤立していた。
そんな彼女に目を付けたのが、木嶋京子だった。
京子は当時、クラスの中心的存在となっていた生徒だった。気が強くハッキリとしていて、言いたい事は躊躇せずに言う。彼女は入学当初から徐々にその地位を確立していき、秋頃にはクラスメイトのほとんどが彼女の言うことを聞いていた。
彼女はクラスメイト全員の前で、璃々愛を標的にすると宣言した。
生徒達がそれに従ったのは京子に逆らえなかった、という理由ではない。勿論逆らえば面倒な事になるのは分かりきっているが、それが主な理由になったのではないだろう。
単純に、璃々愛はクラスの邪魔者だったのだ。
その日から璃々愛へのいじめが始まっていく。
京子を中心としたグループが彼女に直接手を下し、お調子者の男子達がそれに便乗して彼女をからかい、両者にも入らない生徒達はいじめの光景をクスクスと嘲り笑いながら見ていた。手を差し伸べられもしない無力な璃々愛は、何も言わずにただただ耐えしのぐのみである。それが京子の気に触ったのかいじめは余計に酷くなり、生傷の耐えない日々を璃々愛は送っていた。

哀れな彼女を救い出したのが、当時の副生徒会長。風花百合香だったのだ。

風花百合香は独裁者であったが、決して悪の味方ではない。自分の正義を貫き、自分の悪を許しはしなかった。
処刑以外のいじめ行為というのは、彼女にとって許されない悪であったのだ。
百合香は彼女を好いた。彼女は自分を愛す人間にはそれ以上の愛を与え、自分を嫌う人間にはそれ以上の嫌悪と制裁を与えるのだろう。
璃々愛もまた、百合香を愛した。最初は警戒こそした。だが、毎日の様に自分を気遣う百合香を気にかけずにはいられなかったのだ。その感情は徐々におぞましい執着へと変わり始める。
愛されず受け入れられなかった自分を認めてくれた、初めての存在。自分に手を差し伸べ笑いかけた、唯一の存在。 百合香の存在は、彼女にとってどれだけ大きかったのだろうか。
彼女になら、自分の人生を捧げても良いと思った。地獄から自分を引きずり出した天使とも言えるべき百合香になら、自分の全てを差し出すことすら喜ばしい。たとえ彼女がどれだけ残虐で非道であろうが構わない。
彼女に救われ気に入られた璃々愛は、地位と彼女への執着を我が物としたのだ。
髪を目も冴えるピンク色に染め上げた時、璃々愛に逆らう人間はもう誰もいなかった。

95:ビーカー◆r6:2017/03/22(水) 20:28

いじめに加わった人間は処刑が下ることを恐れた。虐げていた璃々愛が会長側の人間となった以上、報復は避けられない。誰もがそれを理解していた。あの強気な京子さえも、口数が異常に少なくなる程の不安感を覚えていた。
しかし、いつになっても処刑の宣言はなされない。会長直々に開かれる集会すらない。それどころか毎朝、C組の生徒達にも会長は微笑みを振りまくのだ。
初めこそ大きかったこの状況に対する違和感が徐々に忘れ去られてきた頃。12月7日の朝、木嶋京子は家族と共に姿を消した。
警察の捜査は大規模に行われた。木嶋一家失踪事件は大々的にニュースに取り上げられ、連日特集が組まれた。情報提供もあちこちで求められたが、それでも木嶋一家は見つからない。友人からの連絡も一切つかず、警察が入った自宅は火がつけられ全焼した後だった。近隣はまだ開拓の進んでいない住宅地で、幸い周りへの被害はなかったのだが。
分かっていたのはただ一つ。木嶋京子が失踪する前日、結城璃々愛が彼女を呼び出していた事。その事を警察に口にする者は誰もいなかった。それは根も葉もない噂として片付けられていたからだ。
璃々愛は事件当日、普段の様に笑っていたという。

「……これが、私の知っている全てよ」
再び沈黙が病室に訪れる。
同学年の晃や麻衣さえ、ここまで詳しい事実は知らなかったのだ。その場にいる者の受けた衝撃は余程大きかったのか、誰もが言葉を見失う。
「私はどちらにも味方出来ないわ。だっていじめは良くないから。木嶋さんにも当然罪はあった。ただ……」
息をもう一度、いばらは深く吸い直す。
「関係ない人間を巻き込むのは、その上命まで奪うのは許された事ではないわ」

96:奏:2017/03/23(木) 01:03

〜麻衣目線〜
う…そ… そんな…
私は驚きで声も出なかった。結城璃々愛がいじめに…
確かにこのいばら先輩の話を聞くとどちらにも味方になれない。
私の安易な考えから始まったこの革命。もっと深刻なものだった。
晃も真凛もうつむき考えている。
こんな私に比べたらみんなすごい人ばかり…
私は一旦この混沌とした状況を整理したかった。
「…ひとまず、解散しませんか?一人一人考えたいこともあるだろうし。」
「ええ、何かあったら連絡を」「僕はまだ少し居ます。皆さんお気をつけて。」と安倍野…いや天本椎哉を残し
みんな病室から出て解散した。


帰り道、私と真凛は同じ方面であったので一緒に帰ったが会話が交わされることはなかった。
そして真凛の豪邸の前に差し掛かった時真凛が口を開いた。
「…私、今日で実は出席停止期間終わるの。明日学校行くから。その時はよろしく…」
「あ、うん…」
きっと今このどんよりとした空の下、みんな考えているのだろう。
(久しぶりに書いてみました。あ、無理やり帰らしてしまいましたが嫌だったらキャラをみんながいなくなった後病室
に一人戻る…という風にでもしてください。真凛の出席停止が解けました。)

97:蒼月 空太◆eko:2017/03/23(木) 08:29

晃視点

俺は病院の帰り道を、ただ一人歩いている。麻衣は家に帰るそうだし、俺は一人だ。この先何を思って進んでいけばいいか。それを考えながら歩いている。

「晃ッ!」

「ッ、拓也かよ・・・」

「今日こそお前を処刑してっ・・・生徒会長に認めてもらうッ!」

拓也は血走った目で走って殴りかかってきた。あぶねっ。と俺は避ける。こいつ、完全に犯罪を起こす気だ。恐ろしい。あー恐ろしい。

「処刑処刑言うけどなっ・・・お前のやってることは、犯罪だ!」

俺は拓也の蹴りをジャンプして避けて、着地した瞬間に飛び込んで拓也の腹を殴る。ドシロートの攻撃だけど、一応は通じる。

「うるせえええっ!お前が!お前が!邪魔をするから!俺は!誰からも!見放された!ああああああああ!」

ダメだコイツ。もう完全に俺と友達だった頃の拓也じゃあない。だったらもう、こいつをどうにかするしか・・・でも、コイツは生徒会長、風花 百合香に洗脳されただけの人間だ。コイツを傷つけても、意味はない!

「あああああ!」

拓也はもう発狂してるレベルで襲い掛かってくる。殴りや蹴りが大降りになっている。生徒会長への忠義というか、なんというかもうアホだ。怪しい宗教の信者かってもんだ。

「そこまでですよ」

と、声がした。後ろには、安部野・・・いやちがった。天本椎哉がいた。

「貴方にはもう既に学校外での処刑はダメだ。と言いましたね?それなのにまた処刑者、松葉さんを殴るような」

「またお前かあああああああああああああああ!うるっせえええええええええええええ!」

拓也は。椎哉を殴った。裏では復活派、もとい生徒会長を倒すような奴だというのに、表では生徒会長の駒だ。つまりそれを殴ったってことは、生徒会長に背くことだ。

「拓也ッ!お前明らかにっ・・・生徒会長派を殴ってるぞ!?生徒会長の命令に背いていることと同じだぞ!?」

「黙れええええええええええええええ!」

もうダメだ。天本椎哉と協力してコイツを退けるしかない。仕方ない。もう手加減はやめだ。全力で完膚なきまで潰すしかない。





―法正視点

ククク、松葉 晃、安部野 椎哉、片腹 拓也・・・奴らの喧嘩か・・・奴への報復に復讐に・・・松葉 晃は取り入れるべきだな・・・ククククククククク・・・

(えーと、なんか変になっちゃいましたけど、拓也の末路は自由にしてくだされ。法正が倒すもよし、生徒会長に裁きを下されるもよし、晃と椎哉にやられるのもよし。)

98:ABN:2017/03/23(木) 18:23

 けたたましい咆哮を上げ、烈火のような憤怒をあらわにした拓也。己の激情を八つ当たりも同然に、目の前の邪魔者にぶつけるその様は、理性を失った獣でしかない。
 ここまで狂った彼を止めるには、負傷の一つ二つは覚悟しなければならないだろう。晃は改めて自分を奮い立たせると、過去に見た漫画やゲームの記憶を頼りに構えのポーズを取ろうとした。のだが。


「……この程度ですか? あなたの生徒会長への忠誠というのは」


 拓也の拳で真っ赤に腫れた椎哉の左頬。にも関わらず、当の本人は殴られても直立不動のまま、痛がる様子が全くない。それどころかいつもと変わらない冷静な態度で、拓也を挑発するような言葉を投げ掛けた。


「お、おい! なに煽って……」

「舐めんじゃねえ! この書記風情がああ!!」


 案の定いとも簡単に挑発に乗った拓也は、癇癪を猛攻に載せて椎哉に何度も叩き込む。晃を処刑するという当初の目的はどこへやら。すっかり目の前が真っ赤になった今の拓也の視界には、最早椎哉しか映っていない。
 対する椎哉はその攻撃を避けることも防ぐこともせず、辛うじて二本の足で地面に踏ん張りながら、浴びせられる暴力にただ身を委ねている。防戦とすら言えないやられ試合を見せられ、我慢ならなくなった晃は拓也を止めようと足を踏み出した。


「……!」


 だが、彼の足はすぐに止まる。拓也の視界から見えない自分の背後で、椎哉は晃に手のひらを向けたのだ。続けてその手で指を立てる仕草を二回、輪を作る仕草を一回見せ、最後に今度は手の甲を向けて、下から上に払う。
 椎哉のサインの意味を汲み取った晃は、しかしそれが最善手なのかと躊躇った。確かに彼が提案した手段は、今の拓也にとって効果的な灸になるだろう。だがその方法を取れば、十中八九椎哉は無事では済まない。もっと他にリスクが少なくて住む方法はないだろうか――?


「反撃もしないで余裕こいてるつもりか!? 調子乗ってんじゃねえぞ!!」

「ぐっ……!」


 振りかぶった拓也の拳が鳩尾にめり込む。素人の攻撃でも急所に入れば流石に堪えたのか、苦しげな呻きを上げて椎哉は膝を折った。それでも拓也の激情は鎮まることを知らず、むしろ攻撃しやすい姿勢になったのをいいことにタコ殴りを続ける。
 ――椎哉だけが犠牲になる選択を取るのは良心が痛む。しかし自分が最善手を考えている間にも、ああして彼の傷は増えていく。ならば椎哉のダメージが少なくて済むうちに、彼の意図を叶えてやるのがベターな選択なのだろう。
 今にでも拓也に反撃したい憤りを歯噛みで堪え、晃は走ってその場を後にした。

 一方拓也は、第一目標であった晃が消えたことにも気づかぬまま、ひたすら拳や蹴りを椎哉に振るい続けた。そうして端正だったその顔が痣と血で塗れた頃、肉体的疲労を覚えてきた拓也はようやく暴力を止める。だが彼の憤怒はまだ払拭されたわけではないようで、今度は椎哉の胸ぐらを掴むと罵倒による攻撃を始めた。


「書記ってことで上辺だけでも慕ってやってきたけどなあ? 安部野、お前のことは最初からずっと気に食わなかったんだよ!」

「……」

「去年から会長を崇め続けてきた俺でさえ、役員の一人止まりだってのに! ぽっと出のお前は生意気にも書記の座に就きやがって!」

「……」

「シカトしてんじゃねえぞ!! お前が転校してこなけりゃ、今頃は俺が書記になって会長の近くにいられたかもしれねえんだ! いや、今からでも遅くねえ、ここでお前を再起不能にすりゃあ」

「……ふふ。興味深いスピーチ、どうもありがとうございます」


 現在の空気に全く相応しくない、心の底から楽しそうな笑い声。あまりにも唐突なその感情に、拓也は思わず罵倒を止めた。
 この笑みには既視感がある。日頃から浮かべている、人の良さそうな微笑みではない。数日前に晃の家を襲撃したとき、肩に手を置かれて振り返った先にあったものと同質の表情だ。
 既知の狂気を再び目の当たりにし、思わず怯んで言葉を詰まらせる拓也。その一瞬の静寂をついて、今度は椎哉の方から喋り始めた。



(続く)

99:ABN:2017/03/23(木) 18:27

(続き)



「『生徒会長に認めてもらう』と先ほどのあなたは仰っていましたが……それでは、会長が認めるもの、目指すものが何なのか。あなたは理解していますか?」

「そ、それは……!」

「会長を信奉するのは構いません。しかし、あなたは彼女の意思をまるで理解しようとしていない。そうやって自分の感情を一方的に押し付けている限り、あなたは永遠に一介の下っ端のままでしょうね」

「う……うるせえうるせえうるせえ!! お前に何が分かるってんだよ!! 俺が一番会長を慕ってるんだ! 一番会長を信じてるんだ! 一番会長を愛してるんだ! この俺が! 会長の一番なんだよおおおお!!」


 百合香への想いを全否定されたと思い込み、やっと治まったばかりの憤怒が再び噴火する。溢れたての憎悪を右手で握りしめて、拓也はもう一度拳を振り下ろそうとし――。


「君! 何をやっているんだ!」

「げっ……警察!?」


 辺りに突如割り込んだ第三者の声。その主が着ている制服には、警察であることを現す紋章がつけられていた。顔から血の気が引いていく感覚を覚えつつ、拓也は掴んでいた椎哉の胸ぐらを投げ捨てるようにして手離すと、警官がいる方向とは反対の道に逃げ出す。しかしその先にも既に別の警官が待ち構えており、あえなくして拓也は身柄を確保されたのだった。


「離せ! 離せよ!! 俺が安部野を、あいつらを、処刑しなきゃいけないんだああああ!!」


 日が落ち始めた仄暗い街の中。女王を盲信する獣の悲痛な、しかし同情の余地はない独善的な吠え声は、アスファルトに僅かに反響してから跡形もなく消えていった。



◆ ◆ ◆



 拓也が警察の御用になってからしばらくして。既に帰路に着いていた晃は、千明名義で送られた椎哉からのメールに目を通していた。


「……全く、椎哉先輩も無茶するよな。『110番して逃げろ』だなんて」


 あのとき晃に向けて示した椎哉のサイン。あれは警察を呼ぶことで拓也を合法的に連行してもらうこと。また、晃がその場から消えることにより「拓也が理不尽な理由で、椎哉に一方的な暴力を振るう」という図式を完成させることが目的だったのだ。
 椎哉からのメールには、以上の目論見が上手く進んだという報告と、その協力の礼が書かれていた。彼が想定した通りに物事が進んだことに、晃は一先ず安堵しながら返信のメールを打つ。


『拓也が捕まったのはいいが、怪我は大丈夫なのか? 結構派手にボコられてただろ』

『お気遣いありがとうございます。骨折などはありませんし、元より体の怪我は時間が経てば治りますので、心配には及びません。
 それより、先ほどから続けざまで申し訳ないのですが、また一つ頼みがあります。今回の片原役員の一件を、学園の内外を問わずネット上に拡散していただけませんか?』

『別に構わねえけど、なんでだ?』



(続く)

100:ABN:2017/03/23(木) 18:29

(続き)



 確かにここで拓也を世間の晒し者にすれば、暴力的な人物というレッテルを彼に貼り付けられる。加えてそんな荒くれ者が白羽学園の生徒だと周知されれば、あわよくば学園や百合香の評判が揺らぐ可能性もあるだろう。
 だが、椎哉の目的は飽くまで生徒会長への復讐。拓也の評判を貶めるのは筋違いであるし、誘発される評判の揺らぎも、百合香の失墜を期待できるほどのものではないはずだ。晃はそこが納得行かなかったのである。
 そんな彼の疑問は、次の返信メールですぐさま解消されたのだが。


『風花百合香の権力がどれほどのものなのかを調査するためです。本日お聞きした木嶋さんの一件で、もしかすると警察や報道機関などへの介入も可能なのかもしれないと予想しました。
 ですので、拡散といってもそこまで力を入れる必要はありません。要は風花百合香が情報隠蔽の手段を有しているのか、それがどこまで通用するのかを判断できれば十分です。
 尤も、木嶋さんのときとは事態の深刻さが違うので、今回の一件自体が無視される可能性もあります。しかしそれはそれで、風花百合香の価値観を測る材料になるでしょう』

「よくもまあ……売られた喧嘩一つで、そこまで考えつけるもんだな」


 椎哉自身の負傷というリスクこそ支払ったものの、その結果として自分たちが得たものは多かった。――いや、得られるものを椎哉が余すことなく根こそぎ集めてきた。と言うのが正解だろうか。
 千明の病室で聞いた、「あらゆるものを犠牲にしてでも復讐を果たす」という椎哉の宣言。その代償候補に挙げられたうちの、少なくとも一つが紛れもなく真実であることをまざまざと実感した晃は、彼に感嘆と若干の恐怖を抱いた。


「『了解。とりあえず、今週末はもう大人しくしとけよ』……っと」


 情報拡散に了承する旨に労いの言葉を添えて、返信用の文章を作る。それを送信しようとしたとき、再び椎哉からのメールが届いた。その文面に目を通した晃は、不覚にも勢いよく失笑してしまったのだった。


『余談ですが、片原役員による風花百合香への熱い想いを録音しておきました。入り用になることがありましたらお使いください。
 【添付:katahara_profession.mp3】』



(折角法正くん出てたのに、介入させる余地を作れませんでした、すみません;)
(音声ファイルの中には、拓也くんが罵倒を始めてから警官に捕まるまでの音声が入っています)

101:かおり:2017/03/23(木) 19:09

〜恵里視点〜

今日1日いろんなことがあったな……。
私は自宅アパートの一室で、またため息をついていた。
「なんかスタンガンあてられたし、手帳のことばれちゃったし、先輩の正体知っちゃったし、月乃宮先輩のお姉さんは綺麗だったけどあの人達の話は意味わかんないし、私1人だけ1年だし……」
愚痴は次から次へと出てくる。こればっかりはどうしようもない。
こんなときは、ちょっと気分転換しないとね。
っていっても亜衣は予定があるらしいから無理。小説は読みきっちゃったし。文芸部の原稿はもう提出済み。インドアのため外出は嫌。
あーあ、やることない。つまんない。このまま1人でいたらどんどんマイナス思考になりそう。
何気なく見た机に、自分のスマートフォンを見つけた。
学園掲示板でも見ようと手を伸ばす。

『白羽学園掲示板

  1生徒会反逆者に対して語る     62
  2学園祭何したいか話そー      158
  3文化部雑談スレ          214  
  4いろんなあるある教えてください  163
  5好きな教師、嫌いな教師。     147

    もっとみる  新スレ作成  書き込む 』

相変わらずかな……。特に新着はなさそう。
ちなみに、『いろんなあるある教えてください』のスレ主は私だったりする。文芸部の活動時に重宝するんだ、これが。
何か面白そうなスレないかなー、と探していると、スマートフォンが着信音を鳴らした。亜衣からだった。
『今ってヒマ?』
用事があるんじゃなかったっけ。ま、今はいいか。
『超ヒマー』
亜衣に返信するとすぐさまメールが返ってくる。
『病院近くの公園、来れる?』
『はーい、10分で着くと思う』
『待ってるー』
『はいはーい』
……さて。行きますか。

少し早足で公園へ。
その途中、ふとあることに気づいた。
「……もしかして、亜衣、悩み事?」
メールにいつもの元気が無い気がする。普段なら !! だの ♪ だの (o^−^o) だの、賑やかなメールなのに。
さりげなく聞き出そうと心に決めた私だった。

>>97 拓也可哀想w) 

102:かおり:2017/03/23(木) 20:06

(伏線です。しばらくしてから回収しますね)

白羽学園から少し離れたとある寺の中。
1つの墓を前に手を合わせる人影があった。
「お父さんお母さん、お兄ちゃん……」
墓に印された名は、男性のものが2つ、女性のものが1つ。
その墓に供えられている花のなかに、鮮やかな山吹色の花があった。
「キンセンカだよ、この花。……覚えてる?」
その時。こちらへ向かってくる足音が聞こえた。見れば、礼服を着込んだ男女10人ほどの集団が涙を拭きながら歩いてくる。
「あ……私、もう帰るね。また来るから」
そう言い残し、人影は寺の中から消えた。
山吹色の花は、風に揺られながら人影を見送った。


  《花言葉・キンセンカ 別れの悲しみ 孤独》

103:美鈴:2017/03/24(金) 14:48

(保留してた話の続きです)

でも、止めときましょう。会長に言われたら嫌ですからね…。………また4人でやりますか。その方が安全です。多重人格をどう使いますか……。ふふふ…おもしろくなりそうです。多重人格、結構使えますね…いいこと思いつきましたよ……。アイツ、どうゆう反応を知るのでしょうか…今から楽しみですよ…。

(保留します。すみません)

104:ABN:2017/03/24(金) 22:04

「……もしもし、久しぶり。元気にしてた?」


 携帯機器の普及により、今や街中で見かけること自体が珍しくなった公衆電話。その無骨で大きな受話器を片手に、椎哉はどこかに電話をかけていた。


「こっちは上手くやってる。信頼できるかはまだ分からないけど、一応の仲間もできたしね。四人くらい」
「うーん、一応もう二人はいるんだけど……片方は頑固そうだし、片方は再起不能かもしれないし」
「……あはは、相変わらず心配性だな。大丈夫だよ。僕はもう、昔とは違うんだから」


 いつものよそよそしい敬語を解き、時折朗らかに笑ってさえいるところを見ると、通話相手は椎哉にとって余程親しい間柄のようだ。
 そうやって、ひとしきりの談笑を終えると、今度はやや声を潜めて通話口に口元を近づける。


「そういえば今日は『例の日』だけど、頼んでおいた『いつものやつ』はやってくれてるよね?」
「うん、じゃあ安心だね。いつもありがとう」
「そうだなあ、だったら夏休みにでも行こうかな。そっちも気をつけて。またね」


 回線の向こう側に一時の別れを告げると、重い受話器をフックにかけて通話を終える。そうしてから自分の鞄を持って電話の前から離れようとしたとき、通りすがりの警察官と目が会った。


「おや、君はさっきの。怪我は大丈夫かい?」

「お疲れ様です。皆さんが適切な処置をしてくださったおかげで、痛みも多少引きました」


 通りすがったのは、先ほど拓也を捕まえたあの警官だ。彼は心配そうな表情で、手当ての跡で痛々しくなった椎哉の顔を見る。顔に貼られたガーゼに軽く触れながら、椎哉は愛想笑いを作った。

 拓也が警察の御用になったあの後。暴徒化した本人は勿論、彼の被害者である椎哉も参考人として任意同行に応じ、警察署を訪れていたのだ。傷の応急手当を受け、事情聴取が終わり、署内に設置されていた公衆電話をで所用を済ませてから帰路に着こうとしたところ、先ほどの警察官に声をかけられたのであった。


「しかし珍しいねえ。君くらいの高校生といえばスマホだってのに、わざわざ公衆電話を使うとは」

「そうですね。しかし最近の携帯端末は、便利すぎて疲れてしまうことがあるんですよ。そんなときはこの電話のような、多少不便でも風情が残っているものを使いたくなります」

「……君、歳の割には結構渋いこと言うね」


 高校生くらいの若者といえば、新しいものに興味を引かれ、それを追いかけるエネルギーを秘めているもの。だがこの現役男子高校生が言うことはまるで、文明の近代化に着いていけなくなった老人の嘆きのようだ。今時珍しい感性の若者だなと、警官は苦笑いを浮かべる。
 そんな彼に、廊下の向こう側からおおい、と呼び声がかかった。拓也の件の続きななのか別件なのかは分からないが、とにかく彼にもまだ仕事があるのだろう。


「呼び止めて悪かったね。外も暗くなってきたし、気をつけて帰りなさい」

「はい。本日はお世話になりました」


 椎哉は警官に深々と一礼すると、出入り口の方向に向かった。そうして警察署を後にし、その保有地を一足越えたところで、首だけで後ろを振り替える。その顔に、いつもの柔らかい愛想笑いは浮かんでいなかった。


「……勘弁してくれよ。権力に屈する警察なんて、フィクションの中だけで十分だ」



(少々中途半端な終わり方ですが、椎哉の土曜日の行動はこれで以上です)

105:かおり:2017/03/27(月) 21:29

白羽学園掲示板にはとてもありがたいところがある。
それは、生徒用と卒業生用で分かれていること。一見なんの意味も持たないように思えるが、この学園に通う私達にとっては本当によかった。
卒業生は生徒用の板を見ることができない。つまり、女王の独裁や処刑制度について書き込んでも外部に漏れることはない。
なのに……。
「彩姉……なんで知ってるの……?」
学園の卒業生である彩姉のスマートフォンには 生徒用の 学園掲示板が。
なんで、どうして。今の学園の状況は、何があっても広める訳にはいかないと、それが学園での暗黙の了解になっていたのに。
「真帆ちゃんに教えてもらったの。いろいろと関わってるから。……で、コレは本当なの?」
「それは……」
笹川先輩、なんで教えちゃうかなあ。この状況をあたしにどうしろと?
疑問を見つけた彩姉が引き下がることは絶対に無い。でも、伝えてしまったらただじゃ済まないのは分かりきっている。
でもさ……。
『白羽学園掲示板

  1生徒会反逆者に対して語る(62)

  57 バカ、アホとしか言えないね
  58 あの会長に勝てるとでも思ってんの?
  59 本当にそうだったらひく。
  60 もしかして反抗期?うわ、ないわー。
  61 E組になってまでやりたいとは…
  62 確かに 根性ありますねーあの方々

  もっとみる 書き込む 新スレ作成    』

本当に、なんで見れるんだろう。
「なんであたしがコレを見れるのかって?言ったでしょ、真帆ちゃんとは仲間なの。いろんな意味でね」
文芸部長仲間、生徒会副会長仲間、''学園の姉貴''仲間。それから……?

「先に言っておくよ。あたしは百合香ちゃんに味方する。ちなみに真帆ちゃんもそう」

「っ、なんで!?あんな学園だよ!彩姉がいた頃も、あの制度はあったでしょう?あれがもっと酷くなってるの!!あたしは
「少し落ち着きなさい、亜衣」
「でもっ」
「黙って、頭を冷やしなさい」
「……っ」
ヤバい。彩姉が敬語だ。敬語嫌いの彩姉がこうなるのは余程の時か、冗談か、もしくは……。

  彩姉が、本気で怒った時。

でもさ。あんな学園を許せると思う?不可能でしょ。
なんで彩姉や笹川先輩は会長に味方するわけ?おかしいでしょ。意味が分かんない。理解できないよ。
こんな状態で一生に一度の青春を終わらせるなんて、こっちから願い下げなの。

うん、決めた。

  あたし、板橋先輩達の仲間になる。おかしくなってしまった学園を、もとに戻すんだから。

「亜衣、本当に何なの」
「……彩姉には、言えない」
「は?」
「事後報告はするつもり。あたしが正しいって証明してみせる」
実の姉に宣戦布告?やってやろうじゃないの。当たり前でしょ!

人生を楽しく生きるために必要なのは、美味しい食事に適度な運動・睡眠・恋愛・それから友情。あとは、自分自身を信じること。頼りになる姉に逆らってでもね!

あっけにとられる彩姉を尻目に、あたしはファストフード店から出た。
残念ながら料金は支払い済み。勿論自腹。あーあ、彩姉に払ってもらいたかったのに。後で請求しようかな。
っと、駄目だ。女王の独裁政治を終わらせるまで彩姉とあまり話すのは良くない。質問攻めになる。

でも、口止めはしなくちゃ。
急いで彩姉にメールを送る。彩姉の弱点は……コレだ!
『その掲示板、誰にも言わないでよね もし言ったら……この間のこと、ばらしちゃうから 調べるのも禁止』
多分、これで大丈夫。
仲の良い姉妹って大変だよね。
他人に知られちゃったら死にたくなるくらいの秘密を知ってるんだから。

あーあ。どうしよう。板橋先輩達の仲間になるのは決定だけど、今すぐは無理。
一言で言うと、ヒマ。
……恵里と会おう。愚痴を聞いてもらいたい。恵里は聞き上手だから。
早速あたしは恵里にメールを送る。
『今ってヒマ?』
『超ヒマー』
よかった。じゃあ集合場所はここからも恵里の家からも近い、あの公園。
『病院近くの公園、来れる?』
『はーい、10分で着くと思う』
『待ってるー』
『はいはーい』
「……ふふっ、恵里らしいや」
主に、伸びる口調が。あの子はしっかりしているようで少しふわふわしたイメージなんだよね。ま、文芸部に入っていればそんなもんか。

駆け足で、さあ公園へ。
女王より大切な、可愛い友人のもとへ。

106:奏:2017/03/27(月) 21:49

〜日曜日 麻衣視点〜

朝、窓から光が差し込みその眩しさに起きる。
「ふぅ〜…昨日はよく眠れなかったな… 」
まああんなことがあったから仕方ないか… っさて、 今日の予定は何もない。じゃあ情報収集しに行こうかな。
もう革命を起こしてしまったのだから、私が責任を持ってリードしていかないと。
早速洋服に着替えて出かける準備をした。玄関で靴を履いていると親に「麻衣、どこ行くの?」「あー…ちょっと散歩。」
もちろん親は私が革命なんか起こしたことは知らない。こんなことを言ったら親はぶっ倒れるだろうな…

ちょっと私は気になることがあってある場所へ行った。 直接対決。 ある人の家のインターホンを押すと
《ピーンポーン》
『はい。立花です。…板橋さんね?』
『…はい。ちょっとお話しさせていただけますか?立花生徒会長。』
『…いいわ、どうぞ入って』

〜 立花邸 〜
「お邪魔します」
生徒会長の家は清潔で整理されておりいかにも敷居が高い家、というイメージがぴったりの家であった。
「さあ、二階へ。私の部屋で話しましょう、私はお茶を持ってくるから待っていてくださる?いくら反逆者でも最低限のもてなしは、ね?」
「…そうですね」 敵相手にもてなされるとはすごく変な気分だ。
さて、百合香の部屋に入るとトロフィーや賞状、メダルなどが飾られており机の上には百合の花が飾られていた。
まじまじと物色していると百合香が入って来て
「待たせてごめんなさいね、さあ座って。」
「ありがとうございます」
「あとローズヒップティーも入れてみたの、どうぞ飲んで」
百合香がこう優しいのは珍しいことではないが警戒心が解けない。囚われるも覚悟で来たのに…
「ありがとう…ございます」
その後10分間沈黙が続いた。
「…さて、そろそろ何を話したいか教えてくださるかしら?」
「聞きます。あなたは…何がしたいんですか?あなたの目には何が写っているんですか?」
私は薄々気づいていた。風花百合香の眼中にこの革命など映ってもいないこと、百合香の脳内ではほんの小さなことでしかないこと… わかってはいたけど聞いてみたくなった。 すると
「さあ? 何が写っていると思う?」と百合香は笑む。 ああ、やはり写っていないな…彼女の目はもっと先を見据えている。 そんな奴に見てもらうには…


その後会話は交わされることなく私は立花邸を去った。
【なんか意味わかんないですよね…】

107:ビーカー◆r6:2017/03/27(月) 21:59

「あら、いらっしゃい。遅刻なんて珍しいわね?」
「遅れて申し訳ございませんでした……面倒事の処理が長引いてしまって」
「いいのよ、別に。さあ座って、今紅茶を淹れてあげるから。今日はお客様が多いのね、紅茶がもう無くなってしまいそうだわ」
暖かな日曜日の昼間。碧い風が吹き抜け、木々は時折さわさわと揺れる。エメラルドグリーンの木々に包まれる様にして高級住宅地が潜む。そこに風花百合香の自宅は建っていた。周りの住宅より大きいという訳ではないが、普通のそれらに比べれば充分な広さがある。そして何より美しく清潔感のある外観は、住宅地の中でも一際目立っていた。白く塗られた壁は汚れの一つもなく、深い青色の屋根とよく合っている。庭には色とりどりの花々が育っており、その隙間から黄緑色の芝生が顔を覗かせた。花の状態を見る限り、手入れは日頃から欠かさず行っていることが分かる。
家のリビングには現在、百合香とその来客の姿がある。来客は本来なら午後12時きっかりに彼女の自宅を訪れる予定だったのだが、時計が今指している時刻は12時32分。およそ30分の遅刻である。
百合香の発言からも伺えるが、彼女は普段なら時間にも厳しい几帳面な生徒なのだろう。実際彼女が遅刻する事は滅多に無いが、今回ばかりは少し厄介な用事が入ったらしかった。最も、百合香に彼女を咎める気はたとえ事情があろうが無かろうが微塵もなかったのであるが。
「わざわざありがとうございます」
「もう、敬語じゃなくたっていいのに……私達、友達じゃないの」
「お気持ちは嬉しいです。しかし立場上、そういう訳にはいかないのですよ」
会話をしながらも、キッチンでアールグレイの茶葉をティーポットに入れる百合香。沸騰したお湯をその中に注ぐと、部屋に紅茶の上品な香りが広がっていく。
「お堅いんだから……せめて卒業後くらいは普通にお話しましょうね?」
「それが出来れば良いのですが」
こうして見ると、今の百合香にあの暴君女王としての面影は少しも無い。いるのは美しく優しくお淑やかな、優等生の少女でしかないのだ。そんな彼女を客人は、一体どんな目で見ていたのだろうか。
数分経った後に百合香は二人分の紅茶を運んできた。煌びやかな細かい模様が描かれたティーカップの傍らには、銀のスプーンに乗せられてローズジャムが添えてある。机の上のクッキーの缶を開けると、百合香は客人の向かい側に腰掛けた。
「それで……どうだった? 文芸部のこと」

108:ビーカー◆r6:2017/03/27(月) 21:59

客人に改めて向き合うと、百合香は話題を切り出した。客人はその声を聞きながら紅茶を一口飲んだ後に、小さなメモ帳をポケットから取り出す。百合香の声には落ち着きこそあったものの、その奥底では重く不穏なものが感じられる。だが客人はそれを気に留めることもなく、彼女に返答した。
「一年生の白野恵里はあちら側の人間だと確定しました。また会長が仰っていた同じく一年生の伊藤美雪も怪しいですね、会長にわざわざあの様な事を言うからには何かしら不満を抱えている事には間違いありません」
「ありがとう。そうね、白野さんはまだ放っておいても問題ないでしょう。あの子は多分、直接私を攻撃はしないだろうから」
そこまで言うと、百合香は一度紅茶に口をつける。少しの間考え込むと、角砂糖を一つカップに入れた。
「それにしても……。本当、美雪ちゃんの自信過剰は何とかならないのかしら。自分こそが正しい、自分なら何でもできるんだという考えが抜けないわね」
優しい口調で冷たい毒を吐くと、会長は相変わらずの笑顔を見せる。その笑顔はやはり汚れ一つ無い。
「従姉妹と言えども仲はよろしくないのですか? 白羽学園に彼女をお誘いになるくらいでしたのに」
「昔からあの子は嫌いなのよ、私。見ていて見苦しいのよね、ああいう人間は……私は全部お見通しだっていうのに。従順な人とそうでない人の違いなんてすぐ分かってしまうに決まっているでしょう?」
言い終わると百合香はクッキーの缶に手を伸ばす。くすんだピンク色の苺クッキーを指先で摘むと、半分ほど齧った。
「さて……どうしましょうかね、文芸部は」
そう言いかけた時、スマートフォンに通知が入る。失礼、と一度断ってから、百合香はMINEアプリを開いた。
画面見て若干小首を傾げると、百合香は客人にもその画面を見せる。
神狩美紀から送られてきたのは、数個の掲示板やRTwitter(大手SNS。世界中で利用されており、システムは現代の某SNSとあまり変わらない)のスクリーンショットだった。

109:ビーカー◆r6:2017/03/27(月) 22:00

『白羽学園の生徒、暴力で警察沙汰に!!』
『「会長への愛」語り出す暴力生徒』
『三角関係? 白羽学園生徒会長との関係は?』

「これは……」
「誰がこんな事広めてしまったのかしら。片原君も、後先考えずに行動しちゃって……あとで誰かにお説教でもしてもらわないと」
スクリーンショットには、これらの情報が既に十数回程度拡散されている事が示されている。美紀からは新たに会長の身を案じるメッセージが送られていた。客人は百合香の方を若干心配そうに見ている。
百合香はしばらくスクリーンショットを見つめていたが、急に顔を上げにっこりと微笑んで言った。
「ねえ、こんな『デマ』を『故意的に』流したのは誰だと思う? 『学園の評判を下げて生徒達を困らせようとした』のは誰だと思う?」
「え? ……誰と言われましても…………あっ」
客人は何かを理解した様だった。
この2つの問題を処理する方法を。
「これを流したのは文芸部の一年生達、そしてそんな事をする部は活動停止……最悪、廃部にするしかないでしょう? 『大変心苦しいけれど、校長からの命令で仕方なく』。誰が拡散したかという証拠もない、もし文芸部を庇って犯人が名乗りを上げれば一石二鳥! 犯人も、そのお仲間である文芸部が反逆者の集まりだということも、どちらも確定するわ。我ながら良い案だと思わない?」
「流石です、会長……彼女達以外の部員も、矛先はまず一年生に向けるでしょうし。一年生を擁護したところで自らが周りの標的になるだけですから」
「ふふ、私も張り切って演説しないとね。さて後は……『デマ』を消してしまうだけ。またお願い出来るかしら、××××?」
「勿論です。璃々愛さんにも協力してもらえると良いのですが」

夕方、どこを探しても書き込みは見つからなかったという。

110:ビーカー◆r6:2017/03/27(月) 22:00

(またまた長文すみません…!
あと百合香の苗字は風花でございますー)

111:かおり:2017/03/27(月) 22:03

(続きです)

《亜衣視点》

恵里って、本当にすごい。
改めてそう思った。

おそらくかなりしつこいであろうあたしの話に付き合ってくれるし、大抵の人と早く打ち解けてしまう。話題が豊富で飽きない。反応も良いし、とっても優しい。
成績こそD組だけど、白羽学園は進学校。全国平均からすれば上だ。外見も普通に可愛いと思うし、なにより面倒見が良いから、ついつい甘えたくなるんだよね。恥ずかしがってあたふたするのも意外性があるし、イジりがいがあって可愛い。

どうして今更こう思っているかというと、時は戻り先ほどの話へ。


少し急いで病院近くの公園まで。2,3分ほど時間をおいて恵里が来た。
「ごめーん亜衣」
「ううん、大丈夫。あたしも来たばっかだし」
「そう?」
ならよかったー、と微笑む恵里。……今日も可愛いですね。白い肌が眩しいよ。
「恵里ってさ、日焼けしないの?」
「え、私?」
「うん。将来シミができなさそう」
「インドアだからだよー。それに、日焼けせずに真っ赤になっちゃうんだよね」
それは大変そう。でも羨ましい。
「そういえば!ね、あの小説が映画化したって!」
「え、本当!?」
「でもねー、なーんか雰囲気がちがうの」
「あるある。原作ではショートカットなのにロングになってたり!」
「優しい少年がタラシっぽくなってたり!」
「やっぱり小説が一番だね」
「ねー。コミカライズするとちょっと省略されるし」
「確かに。そこはギャグシーンじゃないって感じ」
「そーそー」

こんな感じの、何気ない会話が一番好きかもしれない。

(ごめんなさい、まだ続けます)

112:ビーカー◆r6:2017/03/27(月) 22:05

>>111
まだ更新の途中でしたか!申し訳ないです…!

113:かおり:2017/03/27(月) 22:19

>>112 いえ、全然大丈夫ですよ!
っていうか、うわあああああ!!文芸部がなくなるううう!犯人名乗り出ろ!
ここは笹川先輩と彩姉……学園の姉貴コンビに守ってもらわねば!!
ということで次の展開を心から待ってます!)

114:奏:2017/03/27(月) 23:57

(すいません…大切なキャラクターの名前を間違えてしまうなんて…不覚ですね)


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