「ハーイ!今から半音階のロングトーン始めまーす、8拍でーす」
「何で先生、いないんですか?」
「3人とも出張です。行きまーす、1、2、3」
コンクールまであと2ヶ月。課題曲はあと少しで完成だ。自由曲はやっと3分の1までいった。
「トランペット、少し高いから下げて!ホルンとクラ、音小さいからもっと大きくして!」
「「「ハーイ」」」
「パートで基礎練したと思うので、課題曲します」
コンクールの期日も迫っているというのに、今日はなぜか、顧問も部長もいない。顧問は出張だから仕方ないが、その上部長も欠席となると……。私の負担も考えて休んでほしい。
「クラとフルート、ピッコロ、Jから連符のところ転んでるから焦らないで。もう一回します」
「麻美先輩、ここ教えて下さい」
「ここは――」
1年生、これぐらいわかるだろう!?こんな簡単なのに!中学でも吹部でサックスやってたって言ったよね!?
――なんてことは勿論言わない。ほら、表面上は良い先輩だから、私。
「次、自由曲しまーす。前できなかったHの6小節目から、96でやります。少し早いけど頑張ってね!」
「えー」
「バス、みんなを支えるパートだから、指揮見て。それからパーカス、少しずれてるから気を付けて」
やっぱり自由曲は難しい。金管がメインだけど、木管のソロも多い。どうしようか――
「すみませーん‼遅れましたー!」
大声と共に、女子生徒が飛び込んでくる。ああ、遅刻の子か。誰だろ……って!部長じゃん!
やっと部長来たー‼救世主来たー‼ってことは――私の負担が減る―――‼
「あっ、部長来た!」
「おー」
「あとは部長!お願いします!」
「私、今来たばっかだよ!?」
「遅刻するから悪いんです。さっさと、準備してください!」
「は〜い、それまでやってて。そんなに時間かかんないけど」
「当たり前だよ!?トランペットでしょう!?……気を取り直して、Hからやりまーす」
「ハーイ」
みんなが真っ黒な笑顔なのはなぜ?と思いつつ、私もそうなっているだろう。
「部長、Hからソロまでやってください」
「「「やってくださーい」」」
真っ黒な笑顔、その理由は簡単。ただただ、部長をいじりたいだけ。
やってくれと言ったところ――Hからソロまで――は、一番難しいところ。遅刻したからと言って、そこの手本を見せてほしいと言っているようなものだ。いつも失敗して、笑われていていつも悔しそうにしている。今回もそうなるだろう。
「いいよー」
また、いつものところを間違える――と思ったが、間違えずにちゃんとできていた。
「え―――!?」
「何で‼」
何もかも完璧にできていた。1週間前までできなかったのに。