――この学園は、女王に支配されている。
【主な内容】
生徒会長によって支配されカースト、いじめなど様々な問題が多発した白羽学園(しらばねがくえん)。生徒会長を倒し、元の学園を取り戻す為に生徒達が立ち上がった……という話です。
【参加の際は】
好きなキャラを作成し、ストーリーに加えていただいて構いません。
ただし、
・チートキャラ(学園一〇〇、超〇〇)
・犯罪者系
・許可なしに恋愛関係や血縁関係をほかのキャラと結ばせる
は×。
また、キャラは「生徒会長派」か「学園復活派」のどちらかをはっきりさせてください。中立派もダメとは言いませんが程々にお願いします。
キャラシートは必要であれば作成して下さい。
【執筆の際は】
・場面を変える際はその事を明記して下さい。
・自分のキャラに都合の良い様に物事を進めないように。
・キャラ同士の絡みはOKです。ただし絡みだけで話が進まないということの無いように。
・展開については↑のあらすじだけ守ってくださればあとは自由です。
・周りの人を不快にさせないように。
(お久しぶりです、すみません! 書きたいことはあったのですが、なかなかタイミングをつかむことが出来ず……ひとまず、この更新で書けることは書こうと思います)
勉強っていうのは、それなりの環境下ならばちゃんと進むものらしい。文字と式と図形とアルファベットで埋まったノートをパラパラ見返し、恵里はその成果に感心した。そして同時に、たった今まで維持していた集中力が切れていくのが分かった。
―― 先輩に呼ばれて朝早くから、トラックに積まれて誘拐(?)されて、倒れた人を介抱して、よく分からないけれど勉強会が始まって。
周りの人も集中できなくなったようで、思い思いに休憩している。
安部野先輩は別の部屋に行っていて。
松葉先輩はトイレから帰ってこない。
探しに言った亜衣も、やっぱり帰ってこない。
一葉先輩はなにやらブツブツ呟いているし。
藤野先輩と板橋先輩は、お互いの文房具をいじっているし。
筆崎先輩は……相変わらず、ずっと自分のポジションから動かない。
要するに恵里は、ヒマだった。
(うーん……皆さんにお話ししておきたい事があるんだけど……どうしよう、せめて松葉先輩だけは戻ってきてくれないかな……?)
現在この部屋にいないのは3人。にもかかわらず松葉先輩だけは、と考えたのには理由がある。
まぁ、単純なものだ。亜衣には後から話せばいいのだから。
(それに安部野先輩には……あんまり、話したくないんだよね……)
❅恵里視点❅
どうしよう……。
私は頭を抱えた。もちろん、心の中で。
いやいや、分かってますよ、ちゃんと今日中にお伝えしますって。でもやっぱり、いろいろと気にしちゃうんですよ。
亜衣には先に言っておいた方が良かったのかなぁ、とか。
安部野先輩にはちょっと言いずらいなぁ、とか。
松葉先輩に言ってしまっても大丈夫かなぁ。
一葉先輩に何て言われるだろう?
筆崎先輩、また倒れたりしないといいなぁ。
板橋先輩や藤野先輩に、黙っていてすみませんって謝らなきゃ、とか。
そして……
本当に、言ってしまっていいのだろうか、と、今も悩んでる。
「……よぅ」
「戻りました……」
松葉先輩と亜衣が帰ってきた。なぜか顔色が優れない。
藤野先輩たちも気づいたようで、何かあったのか、と質問する。亜衣たちは後ろめたそうな顔をした。語尾を濁らせ、曖昧な返事。
それぞれの場所で過ごしていた先輩たちが、不思議そうに集まってくる。
けれど亜衣たちは、やっぱり言いたくないようだった。暗い顔をして、困ってる。
あぁもう、仕方がない。安部野先輩がいないのだから、ちょうどいいじゃないか。
やけくそ気味になりつつも、私は周囲に呼びかけた。
「あの……休憩中、すみません。皆さんに、お知らせがあります」
みんなが一斉に、私の方を向く。わりと苦手なシチュエーション。
「わたしたち『学園復活派』に、とある人が協力してくれることになりました」
安部野先輩が戻ってきませんように。
誰かに盗聴されていませんように。
この中の誰かが、他人にバラしたりしませんように。
頭の片隅でそう祈りつつ、私は事の次第を話し始める。
晃と亜衣がリビングに戻り、椎哉が小部屋の中を覗いたタイミングは奇しくも入れ違いとなった。そのおかげで三人が一堂に鉢合わせることはなかったものの、それでも椎哉はこの家の家主。僅かに移動した家具や引き出しに気づくのは容易だった。
「何か物音が聞こえたと思ったけど……やっぱりか」
昼食用の菓子パンやサンドイッチなどが入ったコンビニ袋を一旦机の上に置き、その引き出しを開ける。綺麗に揃えて重ねておいたはずの手紙の束は、まるで急いでまとめたかのように乱れていた。
椎哉が昼食を取りに席を立ったとき、リビングから離れていたのは晃と亜衣。二人のうちこんな不躾な真似をし得る人物といえば――。
「……ま、いいか。今日呼んだ人らには見られても特に困らないものだし。むしろこれはこれで……」
客人の無礼に椎哉は眉根をひそめるが、間もなくして何かを思いついたのかクスリと微笑む。すると彼は手紙を何通か取り出し、机の上に置かれていた小さな写真立ても手に取った。そうしてからゆっくりと部屋の扉を閉めると、何事もなかったかのように椎哉もリビングへと戻っていったのだった。
(ほんっっとにお久しぶりです、すみません! お待たせしました、回収です……)
【毎度おなじみ恵里視点】
「私たち『学園復活派』に、とある人が協力してくれることになりました」
と言ったは良いものの、どうしたらいいんでしょう……。
驚き、疑い、好奇心。色々な視線が全部で6組。うわぁ、焦る。めっちゃ焦る。
ていうか、どこから説明するべきなのか……。
「と、とりあえず、聞かせてくれる? 色々気になるし、ね」
板橋先輩のフォローが入る。亜衣は激しく頷き、藤野先輩は身を乗り出す。
「あまり話すの得意じゃなくて、まとまらないし、結構長いんですけど……その、」
「いいから、早く。このタイミングで切り出すっつーことは、あの書記サンに聞かれたくないんだろ?」
「……それは、個人的な思いで、べつにどっちでも、いいっていうか」
「そんなの私だってどうでもいいわ。あの人、一応仲間だし。というか、とにかく話してもらわないと、なにも判断できないのだけど」
「ごめんなさい……」
藤野先輩におこられた。駄目だ、いつまで経っても変われない。変わってない。私は……変わらなきゃ、いけないのに。
「……えーりっ」
「ぇ、あ、亜衣?」
俯いていたら亜衣が肩をつかんだ。そのままぐっと背中を伸ばされる。
「話すと言ったらちゃんと話しなさい、有言実行、だいじ! 話せば、変わるから。学園、あたしたちが変えるんでしょ?」
「……うん、変える」
あぁもう……まったく、亜衣には敵わない。どうして亜衣は、私が言ってほしい言葉を言ってくれるんだろう。こんなにも、的確に。
まるで、そう……生徒会会計の神狩先輩————あの頃の、美紀みたいに。
「私たちの新しい協力者は、3-A、現生徒会会計の神狩美紀さんです……どうします?」
首をかしげて、ちょっとお茶目に訊いてみた。
しばらくの間、リビングには無音の空間が居座っていた。
前途多難。今日の勉強会で解いた国語の参考書、テスト形式ページ大問3の文学的文章、空欄に当てはまる四字熟語を選択するタイプの問題の、答え。
引っ掛けがあることにはあったけれど簡単な問題。シャープペンシルでBと書いて、私は2点を手に入れた。
ちなみにその2つ後の記述を解説してくれたのは安部野先輩である。
新たな協力者についての私の話を壁の向こうで聞いているのも、安部野先輩であるらしかった。
……素直じゃないなぁ。
(長らく更新がなかったので半ばもう諦めていました、ありがとうございます…!)
(スパンが長かったので、文体が本調子ではないかもしれません)
「……は、はあ!?」
最初に無音を破ったのは、晃の素っ頓狂な大声だった。彼は目と口を大きく開けたまま、恵里の方へちゃぶ台越しに体を乗り出す。ずいと勢いよく顔を近づけられ、思わず恵里はわずかに身を引いた。
「ちょっと待てよ! 会計の神狩っつったらバリッバリの会長派だろ? そいつが協力者だって!?」
「悪いけど、にわかには信じがたいわね。あんな風花百合香の腰巾着代表みたいな奴が、そうそう私たちの味方になるとは思えないわ」
「う……。お、仰る気持ちは分かります」
真凛の言い分は間違ってはいない。学園においての美紀といえば、百合香に付き従う忠実な部下の一人だ。さらに彼女と百合香は、子供の頃から親交があった幼馴染同士でもあるという。そこまで百合香に近しい人物が復活派に加勢すると突然言われても、信用を得られないのは仕方ないことだ。
予想していた反応とはいえ、感触の良くない手ごたえに恵里はうなだれる。そんな彼女をフォローするように、流れそうになった話を麻衣が繋げた。
「で……でも、白野さんたちの言うことが本当なら心強いんじゃない? 生徒会の味方が増えるのは頼もしいし、それにあの人なら安部野先輩よりは怪しまれずに済むかも……」
「そうですね。もっとも実際に味方に引き入れるかどうかは、彼女が加担するする理由にもよりますが。確か、結構長い話なんでしたっけ?」
法正は横目でちらりと恵里を見やる。その視線から話の続きを促す意図を受け取り、恵里は躊躇いながらもコクコクと頷いた。反応こそ三者三様であるものの、どうやらこの場の先輩たちは話を遮るつもりはなさそうだ。
「は、はい。そもそもの発端の出来事が、大分昔に遡るんですが……」
再度口を開きながら、リビングの扉の小窓に目を移す。壁の向こうの気配が動かないところを見ると、椎哉はこのまま恵里の話に聞き耳を立てるつもりらしい。恵里は一人気まずさを内心で覚えながらも、美紀が協力者となる経緯を説明し始めたのだった。
(うわああ、本編のみ更新で分かりにくかったですねすみませんっ
なんだか私の伏線にもお気遣いいただいたようで、ありがとうございます嬉しいです*)
【そろそろ慣れたね恵里視点 >>240続きから】
「大分昔に遡るんですが……」
そう、本当に昔の話。具体的に言うのなら、私が生まれた頃からのお話。
それでは初めに、皆さんに爆弾発言をプレゼント。
「まず、生徒会会計の神狩美紀先輩は、会長の幼馴染……ではありません」
チラと亜衣たちを見てみると。
は? という顔で固まっていた。
フリーズすること約3秒。
「え、ちょ、ちょっとストップ。神狩さんて、会長の幼馴染だから会長の手伝いしてるんじゃなかったっけ!?」
「そうだよ恵里! てゆーかあたし、恵里が会計さんと話してるの見たことない」
「正直、スパイとかじゃないか心配ですけど……」
うぐ、と言葉につまる。
「絶大な権力を持つ生徒会長の、幼馴染かつ補佐かつ腰巾着。自分と風花百合香は幼馴染だって、本人が言ってたことがあるけど。実は違いますなんて急には信じがた——
「でも! ほんとです。美紀は私の幼馴染なの! 美紀は、あんな人の手下なんかじゃない!!」
つい大声になってしまい、遮られた藤野先輩たちは変な顔。
「あ、す、すみません……でもホントなんです」
ぎゅ、と手を握り縮こまると、松葉先輩はしびれを切らしたようで。
「あのなー……分かったから早くしてくんねーか? わりと真面目に」
「そうだよ恵里ー。まいてまいて。めちゃ気になってるから」
「は、はい、ではあの、詳細は後日ということで、横槍禁止令でお願いします」
片津を吞んで身を乗り出す観客6名。壁の向こうで音漏れに耳を傾ける招かざる観客1名。
どちらにせよ、重大な話をするのには最高の状況。
私と、私の幼馴染の過去を告白するのなら、せいぜいドラマティックに頑張ろうじゃないか。
そして私は話し始めた。
「神狩先輩の家は、3つ隣のご近所さんでした————」
(美紀さんの過去が更新されるまでの穴埋めとしてちょっと別視点の話を……)
「ごめんなさい。あまりに急な事態だったから、まだ私たちも詳しいことは聞かされてなくて………」
「そう……。姉さんにも分からないのね」
閑話休題。復活派の面々が安部野邸で勉強会に勤しんでいたころ。休日のため人気の少ない白羽病院の一角で、月乃宮姉妹が声を潜めて語り合っていた。
彼女たちの話題は、先日死亡した木嶋京子の死因。それがすみれたち病院側の故意的な医療ミスだろうと百合香から言外にほのめかされ、憤慨したいばらは真相を確かめに姉の元へと赴いたのだ。しかし残念ながらその当ては外れ、いばらはため息とともに肩を落とす。
「ありがとう、いばら。私たちのことを心配してくれて。だからそんなに怒らないで?」
「無理よ。証拠もなしに医療ミスなんて決めつけられたら、病院や姉さんの評判が落ちるのは目に見えてるわ。そんなことになったら……!」
「いばら。落ち着きなさい」
「!」
姉への侮辱で煮え立っていたいばらの頭に、すみれの冷静な一声がかけられた。すっと妹を見据える彼女の目つきはいばら本人のように冷たく、だがその奥に見えるのは大人としての硬い意志。そんな姉の双眼に、いばらは息を飲んでたじろいだ。
「確かに、患者さんからの信用も病院にとっては大事だわ。自分の体や命を預けるところですもの」
「でしょう? その信用を失って、患者が来なくなったら経営が立ち行かなくなるわ。なのに、どうして……」
いばらの言葉に滲み出ているのは、親愛なる姉が社会的地位を失うことへの不安。そんな彼女の声色に構わず、すみれはゆっくりと首を横に振る。
「私たちは、お金や信用だけが目的で患者さんを診ているわけじゃない。本当に大事なのは『患者さんに対して責任を持つこと』よ」
「……!」
(続く)
(続き)
「木嶋さんが本当に医療ミスで亡くなったのなら、ちゃんとそれを公表して謝罪するべきだわ。最初こそ批判や酷評も出てくるでしょうけど、それは私たちの責任。厳しい言葉にも真摯に向き合えば、自ずと信用も回復するはず。むしろ失墜怖さに自分たちの不手際を隠蔽するやり方こそ、病院の風上にも置けないわ」
飽くまで自分自身の保身ではなく、患者の安心と信頼に重きを置く、医療人としての凛とした矜持。不正と欺瞞に塗れたどこかの生徒会長とはまるで大違いだ。
看護師の鑑のようなすみれの言葉に、いばらはようやく安堵の息をついた。
「……そこまで覚悟が決まっているなら、口出しする権利は私にはないわね。ごめんなさい、姉さん」
「いいのよ。いばらみたいな家族思いの妹がいてくれて、私は果報者だわ」
「いやそんな、感動するほどのことじゃないでしょう……」
「ちょっと、月乃宮さん!」
目元を潤ませたすみれがハンカチを取り出し、彼女の涙腺の緩さにいばらが呆れていた、そのとき。
廊下の遠くから重量の重い足音が、月乃宮姉妹の元へどたどたと近づいてくる。その主は二人の顔を見ると、むっと僅かに顔をしかめさせた。
「あらっ、お取込み中? 困ったわねえ、ちょっと急ぎの用なんだけど……」
「島江さん! すみません、もうちょっとだけ待っててください」
子供嫌いに定評のある島江だが、彼女も熟練看護師の一人。普段は若い患者の前でも露骨に表情を変えることはほとんどない。そんな島江がいばらの前で嫌な顔をしたということは、そもそも持ってきた要件が部外者の前では話しがたいことなのだろう。
それに気付いたすみれはすぐに話題を切り上げようと、いばらに一度向き直る。しかしいばらも島江の都合を察したらしく、自分の胸の前で手のひらを横に振った。
「いいわよ姉さん。聞きたいことは聞いたから。それでは、お邪魔しました」
「折角ご姉妹水入らずだったのに悪かったわねえ。またいらっしゃい!」
ぺこりと一礼すると、いばらはスタスタと出口の方へ向かっていく。そうして制服の後ろ姿が廊下の曲がり角で見えなくなると、島江はチッと舌を鳴らした。どうやら先の再訪を期待する台詞は看護師としての建前だったらしい。
「全く、小生意気な小娘が。休日に病院に来るなんて迷惑ったらありゃしないわ」
「す、すみません。妹には私から言っておきますので……。それで、急ぎの用ってなんでしょう?」
本人が目の前にいないとはいえ、嫌悪対象の親族を前に堂々と理不尽な毒を吐く。そんな島江の厚顔さに内心辟易しながら、すみれは適当な決まり文句を用いて話題を逸らした。すると島江は、いら立っていた表情を打って変わって深刻なものに切り替える。
「月乃宮さん、落ち着いて聞いてちょうだい。実はね……」
「…………!?」
――本当に大事なのは『患者さんに対して責任を持つこと』よ。
――木嶋さんが本当に医療ミスで亡くなったのなら、ちゃんとそれを公表して謝罪するべきだわ。
つい先ほど、いばらに告げたばかりの矜持。だが、それがものの数分で実現不可能になってしまったことを知り、すみれは思わず立ち眩みを覚えたのだった。
(何があったのかは勉強会の終わりごろに続きを書きます)
(ちなみに正解は既に設定集スレの方に書いてあるものです)
※過去の時系列について考えていたら少し不自然な部分を見つけたので、そこの補完も兼ねた番外編です。
※テコ入れも兼ねて新キャラが登場しています。今後も登場するかどうかは未定です。
※部活設立についての捏造設定があります。
※京子さんの失踪事件についてそれっぽい推理がありますが、実際の真相と違ったらスルーして構いません。
※色々詰め込んだらまた長文になってしまいました、申し訳ありません。
木嶋京子および木嶋一家の失踪、そして木嶋邸の全焼火災。どう見ても事件性の高いそのニュースは全校生徒たちをにわかに騒めかせた。何しろ白羽学園においての彼女といえば、現生徒会長のお気に入りとなった璃々愛に、かつて陰湿ないじめを行っていた女子生徒。当時の変遷を知る生徒たちはもっぱら、璃々愛が百合香の権力を借りて京子に復讐を遂げたのではないかとこぞって推測を立てた。もっともその仮説の真偽は、今日まで明らかになっていないが。
いずれにせよこの一件を機に、百合香への反目を企てる者がさらに減少したことは言うまでもない。家庭一つを丸々抹殺できるような支配者を相手取ろうと考える無謀者は存在しなかったのである。――たった一人の例外を除いて、だが。
◆ ◆ ◆
「えーん! 剣太郎くん、今日も駄目だったよう」
「いや、俺のところに泣きつかれても困るんだけど……」
困惑する剣太郎に構わず、やや大袈裟な泣きのジェスチャーで会話を切り出してきたのは、女子にしてはかなり大柄な身長と体形の同級生。そのショートヘアと同じくゆるふわとした雰囲気をまとう生徒の名前は『足立八重(あだち やえ)』と言った。
彼女は元々、剣太郎と同じく広報部の一員だった。そして部長の千明が部員たちに自主退部を薦めた際、自らの身の安全を優先して退部を選んだ生徒の一人でもある。その後無所属となった八重は新たな楽しみを求め、広報部時代に培ったカメラワークを活かして『映画研究部』を立ち上げようとしているのだが――。
「だってえ、書類の文字も全部綺麗に書いたんだよ? メンバーや顧問の先生だって十分集めたし、条件はちゃんと揃えたんだよ? なのになのに、璃々愛ちゃんったら『広報部の輩が建てる部活なんて承認できない』って言うんだもん! ひどーい!」
「聞いてないし。……まあ、結局あいつらにとってはそれが本音なんだろうね」
自分の迷惑顔を気にしていない八重にため息をつき、それはそれとして璃々愛の言い分に剣太郎は呆れに似た納得を覚えた。
白羽学園で新たな部活動を設立する場合、部員集めや顧問の確保など、いくつかの条件をクリアする必要がある。そして最後に教師たちの審議を経て校長からの承認をもらえば、晴れて新部活が誕生するのだ。とはいえ学園内の権力者が、この冬から生徒会長に就任した百合香にすり替わっている現状では、承認をもらうべき相手も校長ではなく彼女に代わっているのだが。
そしてその百合香と言えば、今日まで映画研究部の設立を否認し続けてきたのだ。八重が用意した書類や部員数などに問題はないにもかかわらず、やれ書類の字が美しくないだのやれ部員のやる気が見えないだのと重箱の隅をつつくような難癖をつけては、八重の申請をことごとく突っぱねてきたのである。しかし実際のところ以上の難癖は生徒会としての建前に過ぎず、璃々愛が言った通り「八重が千明率いる広報部の一員だったから」というのが本当の理由なのだろう。
「むー。別にわたし、会長さんに反逆しようとか考えてないんだけどなあ。ただ学校生活を楽しめればそれでいいのに」
「足立さんが考えてなくても、向こうはそう思ってるだろうさ。……あるいはそれを抜きにしても、単純に嫌がらせってこともあるかもしれないけど」
(続く)
八重が集めた映画部(仮)のメンバーは、その多くが彼女と同時期に広報部を辞めた部員たちだ。当人たちにその意思はなくとも、生徒会としては強制廃部や部長処刑を理由にした反逆を危惧していることだろう。そんな危険性のある集団を部活認定すれば、部費という名の塩を敵に送ることになってしまう。
それに百合香からすれば、前々から自分の周囲を嗅ぎまわっていた千明の行動はさぞかし煩わしかったはずだ。恐らくその腹いせを千明一人の処刑だけでは晴らせず、元広報部員である剣太郎や八重にまでぶつけているのかもしれない。
どのみち部活承認の否認理由が広報部だというのなら、彼女と同じく元広報部員である剣太郎にできることはない。具体案を出せないのなら、これ以上八重の相談を聞いても無意味だと判断し、剣太郎は座っていた席を立った。
「待ってよう。もう少ししたら期末考査で忙しくなっちゃうから、今のうちに承認してもらいたいのにい」
「やめておきなよ。君は前もって退部したからまだマシだけど、それでも出しゃばり過ぎたら部長の二の舞に――」
「呼んだかーい?」
「っ!?」
噂をすれば影。廊下の外に出ようと剣太郎が手をかけた扉が向こうから開く。そこに現れた人物の姿に――より正確に言うなら、その人物の体の状態に剣太郎と八重は絶句した。
「どーしたんですか部長!? 体中怪我だらけじゃないですかあ!」
「どーしたもこーしたも、毎度お馴染み会長ちゃん主催の処刑大会に決まってるだろ? いやー、みんな面白いほど手加減しないね。はっはっは」
「笑ってる場合じゃないですよ! と、とにかく手当しないと……!」
扉近くの柱に寄りかかる姿勢で登場した千明の体は、夥しい量の傷や痣で埋め尽くされていた。制服も血や泥で汚れ、明確に集団暴行を受けたと分かる出で立ちだ。何より千明本人もかなり息を荒げており、いつもの笑顔も生気が半減しているように見える。
このまま放置していては傷が化膿するか、雑菌が入ってさらに状態が悪化してしまう。それを危惧した剣太郎は、救急道具を借りようと急いで保健室の方に向かおうとした。だがそんな彼の行動に、千明は即座に待ったをかける。
「やめとけ。この学園の保健室に行ったって、『処刑対象に手当は必要ない』って門前払いされるのがオチだぜ。それより八(や)っちゃん、ちょっと撮影頼むわ」
「撮影? あー、分かりましたあ」
千明から差し出された彼女のスマートフォンを見て、首をこてんと傾げる八重。しかしややあってその意味を理解するとスマートフォンを受け取り、ボロボロな千明の姿を写真に収め始めた。最初は全身、次は背面、そして顔、腕、脚、腹部などを詳細に撮っていく。二人の様子を見ていた剣太郎は、千明が何をしようとしているのかようやく理解した。
「ぶ、部長……。もしかして、処刑の証拠を集めるために、わざわざ怪我を?」
「正解。処刑対象ってのは、ある意味じゃ処刑制度の実態に一番近いポジションだからな。これでもっと詳しい被害内容が記録できるってもんだ」
にやりと口角を上げながら、千明は制服についているボタンの一つを指さす。一瞥しただけでは分からないが、よく見るとそれはボタン型のカモフラージュカメラだった。恐らくはこのカメラで、処刑として暴力を振るってきた生徒たちの凶行も記録しているのだろう。
過程の動画と結果の静画。あとは怪我の診断書を揃えれば、暴行罪を立証することは十分可能だ。ただしその対象となるのは、今回千明を痛めつけた一部の生徒のみ。彼らを裁いても別の会長派の生徒が湧いて出るだけで状況はほとんど変わらず、増してや直接手を下していない元凶の百合香を告発することは到底できない。相応の収穫があったとはいえ、千明が掲げる目標を考慮すれば、彼女が被った負傷は剣太郎にとって看過できないものだった。
(続く)
「だからって、ここまで無理することないでしょう! これじゃあ処刑制度を明らかにするとか以前に、部長の体が持ちません……!」
「んなもんとっくの昔に承知済みだっての。それにこの間のあれ、木嶋京子ちゃんっていただろ? その一件を考えりゃあ、この程度のリスクを渋ってる場合じゃねえのよ」
「きしまきょーこちゃん……。ああー、十二月の初めにどっか行っちゃった人かあ。それと部長の目標と、何か関係あるんですかあ?」
全焼した自宅を残し、謎の失踪を遂げた木嶋京子と彼女の家族。京子には処刑制度が適用されていたわけではないが、「百合香の機嫌を損ねる真似をした」という経緯と「原因不明の失踪」という末路は他の処刑対象たちのケースと酷似している。その点に限って言えば彼女も処刑制度に関わっているかもしれないと予想できるのだが、それはあくまで生徒間に流れる噂の範疇。十分な信憑性を確立できない情報では、「処刑制度を白日の下に晒す」という目標の足しになるとは到底思えず、八重は撮影の終わったスマートフォンを渡しながら頭上にクエスチョンマークを浮かべる。そんな後輩の疑問に答えるべく、千明は得意げに人差し指をぴっと立てた。
「まず二人とも。木嶋一家失踪事件特集のワイドショーは見たかい?」
「え? あ、はい。地元ニュースでもそうですが、全国放送の番組でも大々的に取り上げられてましたよね」
「わたしも同じの見ましたあ。京子ちゃんたちの失踪理由とか考察してて、すごかったですう」
「すっげー文字通りの小並感。んじゃ次。その番組の中で流れたインタビュー映像は覚えてるか?」
「えーっとー。ちょっとうろ覚えですが、町の人たちが答えてたのですよねえ? みんな怖いなーとか無事だといいなーとかって言ってた……はずですう」
「そう、概ねそんな感じでした。言っちゃあ何ですが、行方不明のインタビューにしては月並みというか……。あんな特集を組むくらいなら、もっと関係の深い人に取材すれば良かったのに…………あれ?」
はたと思い当たったように剣太郎は顔を上げる。言われて思い返せば、あの特集番組には足りないものが一つあった。自分と同じものに行き当たった様子の彼に千明は頷くと、今度は八重に三問目の質問を投げかける。
「じゃあ八重ちゃん。“白羽学園の生徒や教師が失踪事件のインタビューを受けた話”は聞いたことがあるかい?」
「……ああー。言われてみれば、全然聞いたことないですねえ。同じ学校の人なら町の人より、もっといー手掛かりが手に入るって思いそうなのにい」
「その通り。あたしが調べた限りでも、学園関係者が取材を受けたって情報は見つからなかった。あるいは関係者の方が取材拒否した可能性もあるだろうが、全員が全員完全スルーってのは考えられねえ」
「ということは、残る可能性としては……」
「ああ。“会長ちゃんがマスコミに圧力をかけて、白羽学園への干渉を禁止した”だろうな。もし学園関係者が処刑制度に関わる失言をかましたら、そこから自分たちの所業がバレかねねえだろ?」
最終結論に辿り着いた後輩二人に、千明はにっと笑みを浮かべる。だがその表情は満足というより、苦笑いという表現の方が似合った。
広報部員たちに退部を薦めた際、千明は「百合香は警察や裁判所を無力化するほどの力を持っている」と考察した。しかし実際はそれらに加え、報道機関をも抑えつける力を持っている可能性もある。情報を武器とする千明にとって、この新情報は非常に都合の悪い凶報だったのだ。
(続く)
「公的機関も駄目ならマスコミを当てにしようかと思ってたんだけどな。そこも潰されたとなりゃあ、もはや学園の真実は自力で外に持っていくしかない。だからこそ自分の身を犠牲にしてでも、処刑制度の情報を集める必要があるんだよ」
「……なるほど、部長の考えは分かりました。でも、やっぱり俺は……」
「剣くんの言うことも一理ありますう。命あっての物種っていーますし、死んじゃったらその真実も抱え落ちですよう」
「へーきへーき。だってあと一、二ヶ月もすりゃあ合法的にトンズラできるんだぜ? ボコボコになることはあれど、流石に死ぬことはねえだろうさ」
「トンズラ? 部長、どこかに行っちゃうんですかあ?」
「そんな今生の別れみたいな目すんなって。卒業だよ、そつぎょう!」
三月一日。それは高校生活最後の日であり、学修の日々に有終の美を飾る門出だ。そしてこの日を迎えれば、三年生は卒業証書と引き換えに『白羽学園生』の肩書を失う。つまり学園とは無関係の人間になり、百合香の独裁から解放されるのだ。ついでに言えば、学園外の人間には処刑制度を適用することもできないため、理不尽な処刑生活もそこで終了する。それが千明の考える魂胆だ。
「この学園から逃げおおせれば、会長ちゃんにできることは何もなくなる。部外者まで不用意に処刑しようもんなら、それこそ自分の足がつきかねないだろ? あとは持ち帰った証拠を外にぶちまけりゃあこっちのもんよ」
「なるほどお、だったら本当にあとちょっとの我慢なんですねえ! そしたら会長さんも反省して、映画部も承認してくれるかも!」
「そんなに上手くいくかなあ。それに、木嶋さんについての噂が本当なら……」
楽観的な女子二人に対し、不安げに肩を落とす剣太郎。そのタイミングで時間の区切りを告げるチャイムが響く。その音に気付いた剣太郎と八重は、驚いた様子で時計を見た。
「ああー、もうこんな時間だあ。剣くん、そろそろ行かなくちゃあ」
「うん。でも、部長をこのまま放っておくわけには……」
「大事ねえよ。こんなこともあろうかと、ある程度の救急道具は自分で持ってきた。伊達にこれまで処刑制度を調べてきたわけじゃないぜ?」
処刑制度を理由に保健室を頼れないとはいえ、それでも千明の負傷を放置することはできない剣太郎。彼の心配を察した千明は、おもむろに制服のポケットから自前の包帯やガーゼなどを取り出した。ポケットに入る程度の量しかないため十分とは言い難いものの、痛みを凌ぐための気休め程度にはなるだろう。
「なら良いんですが……。でも、手当してもすぐに動かないで、少し休んだ方がいいと思います。怪我だけじゃなくて体力も消耗してるでしょう?」
「うんうん。部長がここにいることは、わたしたちが適当に誤魔化しておきますう」
「オーライ、そこまでしてくれりゃあ十分だ。二人もあんまり油売ってると他のやつらに怪しまれるぜ? そろそろ行きな」
「は、はい! 部長もどうか気を付けて……!」
去り際の瞬間まで自分の身を案じながら、教室を後にした剣太郎と八重。広報部という繋がりは既に途絶えたにも関わらず、それでもかつての部長として慕ってくれている。千明はそんな二人の背中を見送ると、廊下側の窓の下に身を隠してから壁に背を預けた。ここなら廊下からは死角となって見えづらいため、当分は他生徒たちの追撃をやり過ごすことができるはずだ。
後輩たちの手前平気なふりをしていたが、やはり女子の体に容赦のない暴力は堪えたのだろう。千明は目を閉じたまま、しばらくの間ゆっくりと大きな息を繰り返していた。そしてある程度疲労が癒えたところで、不意に口角をニヒルに歪める。
「……ま。ああは言ったけど、あの会長ちゃんが卒業を待ってくれるほど悠長な性格とは思えねえしな」
皮肉のような独り言を呟きながら、メール機能を立ち上げて新規作成画面を開く。その件名欄に入力したのは『遺言書』の三文字だった。