【リレー小説】学園女王【企画?】

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1:ビーカー◆r6:2017/01/29(日) 18:05

――この学園は、女王に支配されている。

【主な内容】
生徒会長によって支配されカースト、いじめなど様々な問題が多発した白羽学園(しらばねがくえん)。生徒会長を倒し、元の学園を取り戻す為に生徒達が立ち上がった……という話です。

【参加の際は】
好きなキャラを作成し、ストーリーに加えていただいて構いません。
ただし、
・チートキャラ(学園一〇〇、超〇〇)
・犯罪者系
・許可なしに恋愛関係や血縁関係をほかのキャラと結ばせる
は×。
また、キャラは「生徒会長派」か「学園復活派」のどちらかをはっきりさせてください。中立派もダメとは言いませんが程々にお願いします。
キャラシートは必要であれば作成して下さい。

【執筆の際は】
・場面を変える際はその事を明記して下さい。
・自分のキャラに都合の良い様に物事を進めないように。
・キャラ同士の絡みはOKです。ただし絡みだけで話が進まないということの無いように。
・展開については↑のあらすじだけ守ってくださればあとは自由です。
・周りの人を不快にさせないように。

136:蒼月 空太◆2E:2017/04/16(日) 07:44

「ったく………しゃーね。」

晃は、早速掲示板の書き込みを消し始めた。
自身へのセーブか。それとも正気になったのか。

「拓也………俺ってなんで空いたと友達になったんだろ………」

友達。そのワードに、晃は、ハッ、と気づいた。
一年間忘れていた友達。

「アイツ今でも元気かな………よし、駄目元だけど…」

晃は早速MINEを操作し、ある友達を、公園に呼び出した。



「何のようですか、松葉 晃」

一葉 法正。左手に赤い布を巻いている男。

「本当にすまねえ!俺が………ちゃんと拓也を止めていたら!」

晃は頭を下げた。
その行動に法正は驚いたが。

「貴方は風花に復讐をするんですか」

法正の問い。晃は。

「あったり前だ!」

法正は。

「そうか………なら、貴方に協力しますよ」

学園復活派。一葉 法正の誕生。

137:藤井美鈴:2017/04/16(日) 08:18

>>130の続き

「じゃあ…会長にとって『復讐』は長い年月をかけて、大規模……ってこと?だから、二人のしていることは『復讐』ではない、ってこと?」

「そうですね」

「会長、どうやって処刑制度を作ったの?」

〔ごめんなさい。一回保留します〕

138:ABN:2017/04/18(火) 17:20

>>123の直後、>>124と同時期くらいの話です)



「白野さん、戸塚さん! お二人とも大丈夫ですか!?」

「はい、大丈夫です。ええと……アデラ先輩、でしたっけ」


 デマの真偽とその出所は曖昧にしたまま、百合香が璃々愛を連れて消えた後。未だに緊張冷めやらぬ恵里と亜衣の元に駆け寄ってきたのは、黒や茶ばかりの人混みでは一層目立つ天然の金。英国からの留学生アデラ・ヴァレンタインの名は、別学年の生徒の間でも有名だった。
 アデラは二人の体や顔色を観察し、怪我や精神的ダメージが見受けられないことを確認すると、ほっと安堵の息をつく。それから未だに騒々しい周囲を見渡してから、パンパンと手を叩いた。恵里と亜衣に侮蔑的な目線を向けていた生徒たちの注目がアデラに移る。


「皆さん。学園が貶められるような情報が流れてお怒りなのは分かります。しかし感情に任せて、何の根拠もなしにお二人を責めるのはおやめください」

「で、でもアデラちゃん! 確かに文芸部の一年がデマを流したって、生徒会が……」

「生徒会の証言なら全て鵜呑みにすると? いくら信頼しているからといって、彼女たち名義の情報が常に正しいと判断するのは軽薄ですよ!」

「はあ? お前、会長が嘘ついてるっていうのか!?」

「そのような色眼鏡がいけないと言うんです。風花先輩が嘘つきかどうかは今の論点ではありません」


 飽くまで問題は生徒たちの先入観であり、百合香を悪者に仕立て上げる意図はない。アデラが置いた前提は、しかし無意識下で百合香を妄信している生徒たちにはぬかに釘であった。彼女がいばら率いる風紀委員会の一員であるため炎上こそしないものの、彼らとアデラの間に剣呑な空気が漂い始める。そんな一触即発な二者の間に、挟まれる口があった。


「残念ですね、ヴァレンタインさん。僕たちがあなたの信頼に値しない存在だったとは」

「安部野先輩まで何を言っているんですか? 問題はそこではないと言っているでしょう。それにあなた……」

「ええ、存じております。全面的な信用を置いていただけないのは生徒会として非常に遺憾ですが、それはそれ。他者からの情報を頭から信じ切ることの是非については、僕も同意しましょう」


 生徒会である椎哉が口にしたのは、不敬に対する叱責ではなく、意見の限定的な賛同。アデラの言動を反逆だと定義するものとばかり思っていた生徒たちは、彼の予想外な対応に思わず耳を疑った。一斉にどよめく生徒たちを一瞥し、椎哉は言葉を続ける。


「進学校の生徒である以上、皆さんは利発な方々であるはずです。それなら得た情報の信憑性を自分の力で調べ直すことなど、造作もないでしょう。まさか事実確認なんて初歩的なことを怠るなど、白羽学園生として恥ずかしい真似はいたしませんよね?」


 学園の名前を引き合いに出され、生徒たちの大多数が言葉を詰まらせた。自分たちに反抗的なアデラの言い分を支持したのは気に喰わない。しかしここで彼に反論すれば、自分が事実確認もできない愚者だと主張することになる。そうなれば白羽学園に、延いてはその生徒会長である百合香に恥をかかせかねない存在だと、他の生徒に見なされてしまうだろう。
 剣呑な様相が鳴りを潜め、気まずい静寂がその場に満ちる。やがて椎哉の論破は不可能だと断念した生徒たちは、一人また一人と人混みから離れていった。悪意に満ちた視線から解放され、恵里と亜衣はようやく緊張を解く。だが一方アデラは椎哉に、傍からでも分かるほどの疑いの目を向けていた。


「安部野先輩。あなたは一体何がしたかったんですか」

「何が、といいますと?」

「風花先輩と文芸部一年のみなさん、どちらを支持するつもりだったのかということですよ。風花先輩の味方であれば、そんな怪我だらけの顔で結城さんを止めなければ良かった。文芸部の味方であれば、その怪我が片原さんによるものだと説明すればよかった。なのにあなたはそのどちらも行わず、曖昧な物言いでその場しのぎをしているようにしか見えませんでした」



(続く)

139:ABN:2017/04/18(火) 17:24

(続き)



 アデラの正義感は、学園内でも話題になることがあるほど強い。そんな彼女にとって椎哉の付和雷同さは、百合香の独裁政治と同等に許容できないものだった。どちらの味方とも明言しない彼の態度が、アデラの目には不愉快に映ったのである。対して当の椎哉は、相変わらず感情が見えない笑顔をアデラに向けるだけ。そんな彼を問いただそうとしたアデラを、恵里が慌てて止めた。


「待ってくださいアデラ先輩! 安部野先輩を責めないでください!」

「ですが、白野さん……!」

「だ、大丈夫ですよ。本当だったらあのまま結城先輩に丸め込まれて、そのまま反逆者にされてたかもしれないのに、それを少しでも庇ってくれただけで十分助かりましたから……」


 椎哉の事情を把握している恵里は、どもりながらも必死に弁解を紡ぐ。学園では会長派を名乗っているとはいえ、彼も自分たちと同じ復活派(一切の犠牲を厭わないという相違こそあるが)なのだ。アデラは知り得ていないとはいえ同じ派閥同士が争うのは無意味であるし、彼女によって学園における椎哉の心証が悪くなってしまえば、自分たちも不利な状況に陥ってしまうだろう。
 あまりにも必死な恵里の弁解に、このまま椎哉を問い詰めるべきかアデラが躊躇ったとき、見計らったように朝礼の予鈴が校舎に響き渡った。


「おや、もうこんな時間ですか。それではこの話は、また別の機会ということで」


 アデラと恵里、亜衣に一礼し、椎哉は踵を返してその場を後にする。恵里と亜衣は同じく一礼して彼の背中を見送るが、アデラはやはり最後まで懐疑心を外すことはなかった。


「……全く。彼は本当に困ったコウモリ男ですね」



◆ ◆ ◆



「コウモリ男……。留学生とは思えない語彙だね」


 去り際にアデラが呟いた独り言は、椎哉の耳にしかと届いていた。学園では会長派を名乗っているとはいえ、ただ生徒会に従属しているだけでは意味がない。真の会長派の目を盗みつつ、自分や他の復活派の人間が少しでも有利になるよう、密やかに行動する必要があるのだ。そのような言動の境界を何も知らない者が見れば、彼が軽佻浮薄な人物に映るのは当然のことだろう。だが椎哉はその批判的な比喩表現に憤ることはなく、むしろ自分に似合いの言葉だと感嘆した。


「まあ、万が一彼女一人が騒いだとしても、大多数の人たちは僕を信用してくれているからね。だから心配はいらないよ、姉さん」


 とうに日も暮れた真っ暗な病室の中。街灯の明かりが窓から差し込み、真っ白な千明の腕を照らし出す。椎哉はその手を取ると、おもむろに自分の頬へ触れされた。死体のように一切の力が込められない彼女の手は、それでも辛うじて体温を滲ませている。この温もりが椎哉にとって、千明を生者たらしめている唯一の証だった。もし、この温度が失われることがあれば――。


「あら、しいちゃん! こんな真っ暗な中でなにやってるの?」

「!」


 陽気な中年女性の声とともに、病室が真っ白な明かりで照らされる。慌てて顔から手を離し扉のほうに振り返ると、そこにいたのはふくよかな看護師だった。突然の第三者の介入に、彼にしては珍しく驚いた様子を見せるが、看護師は彼の挙動を訝しむことはせず、代わりにサイドテーブルに置かれた黒い花束を見て顔を顰めた。



(続く)

140:ABN:2017/04/18(火) 17:26

(続き)



「やだこれ、黒百合じゃないの。冗談でもお見舞いに持ってくるような花じゃないわよ」

「すみません。一緒に贈られていたメッセージカードによると、どうやら僕と同じ学園の生徒が持ってきたもののようですね」

「ああ、そういえばうちの同僚が言ってたわね。白羽の制服を着た派手なピンク髪の子が、真っ黒な花を持って歩いてたって。まさかとは思うけど、その子が?」

「なるほど。そんな派手な色の人を見間違えるとは思いませんし、おそらく彼女が届けてきたもので間違いないでしょう」

「いやあねえ。いくら進学校の生徒でも、こういう一般常識を弁えてないのは最近の都会っ子って感じだわ」

「あまり酷い物言いはいけませんよ。その女子生徒が偶然、花に対しての知識がなかっただけかも知れません」


 この看護師は、良くも悪くも正直な性分なのだろう。椎哉が嗜めるのも構わずに、彼女は花束の贈り主への嫌悪感を隠そうともしなかった。もしここが白羽学園の真ん中であれば、会長派の生徒たちによって容赦ない処刑が下されていたかもしれない。そんな白羽の暗黒面を知ってか知らずか、看護師は花束を手に取ると自分の小脇に抱える。


「どちらにせよこんなものが置いてあるなんて縁起が悪いし、私が片付けておいてあげるわよ。もしピンクの子がまた来たら、あたしが適当言っておいてあげるから」

「……ありがとうございます。実は僕も心苦しかったので、助かります」


 心苦しいのは、贈り主の好意を無碍にすることか。それとも姉の病室に悪意の花を放置することか。椎哉は明言しなかったが、彼の意思を汲み取った看護師は、自分に任せろと言いたげな笑みを見せる。


「さーて。面会時間もそろそろ終わりだから、さっさと帰ってご飯食べて寝なさい。明日も学校でしょう?」

「ふふ、まるで母親みたいな物言いですね。それでは、千明をよろしくお願いします」

「やっだあ、どうせまたすぐに来るくせに何言ってんのよ!」


 堅苦しい椎哉の挨拶を、うるさいくらいの声量で笑い飛ばす看護師。彼女の言葉に彼は苦笑じみた表情を浮かべるも、二人の様子は中睦まじい親子のようであった。



(今回出てきた看護師には少々伏線を仕掛けているので、登場させることがあればABNに一声かけていただけると助かります)

141:ビーカー◆r6:2017/04/21(金) 18:57

翌朝。8時に始まる朝学習の10分前の昇降口には、生徒達がわらわらと集まっていた。
この時間帯だと、A組の生徒達は既に席に着いて授業の予習や先日の復習に励んでいる。しかしC組やD組の生徒達は、彼等の様にそこまで厳しいスケジュールを送っていない者が大半だ。
恵里と亜衣もまた、例外ではなかった。彼女達も他の生徒と同じ様に、会話に花を咲かせながらのんびりと靴を履き替えている。
「おはようございます、白野さんに戸塚さん」
不意に後ろから声をかけられ、雑談に興じていた二人は思わず肩を跳ね上げた。慌てて上履きにしっかりと足を入れると、顔を上げて声の主を見返す。
「あっ……ば……ヴァレンタイン先輩?」
「アデラで構いませんよ、皆そう呼びますから」
そう言って、二人の前でアデラは微笑んだ。
「昨日はごめんなさい、余計なことをしてしまったみたいで……大丈夫でしたか、お二人共?」
「いえ、気にしないでください! 先輩が庇ってくださったおかげで、あたしも恵里も処刑されずに済んだんですし……」
昨日のあの一騒動の後、アデラは周囲をもう一度説得し直しなんとかその場を収めたのだった。勿論不満気な生徒達も少なからずいたのだが、風紀委員長が例の月乃宮いばらだという事もあり、彼等は渋々身を引いたのだ。
「そうですか……なら良かった」
「そ、それより先輩……確か、B組でしたよね? 朝の学習は……」
「ああ、それなら。私は生憎夜型でして、朝はどうしても早起きできず……夜に必要な勉強は全て済ましてしまうのです、暗記には夜の方が向くと言いますし」
彼女の言葉の流暢さは、やはりとても英国人とは思えない程のものだった。口を開けばすらすらと言葉が流れていくその様は、アナウンサーでも志望しているのかと思わせてしまう。
「そうだったんですか! ご立派ですね、ちゃんと夜に」
「ちょっと失礼」
亜衣の言葉を、一人の男子生徒の声が遮った。聞き覚えのない静かな声に、三人は振り返る。
ひょろっとした痩せ型の男子生徒が、こちらを見据えて微かに微笑んでいた。日に焼けていない肌とその体型が、いかにも病弱という雰囲気を醸し出す。その顔を見るなり、アデラは青い目を大きく見開いた。

142:ビーカー◆r6:2017/04/21(金) 18:57

「ぶ、部長……!? あの、お身体は……」
「もうすっかり大丈夫だよ。華道部の方はどう? 昨年から皆に任せっきりだったけれど」
「はい、お陰様で……」
部長と呼ばれたその生徒は、一年生の恵里と亜衣にとっては見覚えのない人物だった。だが周りを見廻すと、辺りがやけにざわついている。恐らく彼は上の学年の間では有名人なのだろう。
「なら良かった。ところで、安部野君はいるかな」
「私は今日は見ていませんが……何かご用事が?」
「いや」
そこまで言うと生徒は一旦顔を背け、コホコホと咳をする。弱々しい咳がますます彼の病弱な雰囲気を強めた。ある程度呼吸を落ち着けてから、再びアデラに向き直った。そして若干声を潜めて言う。
「怪我したって百合香から聞いたから。ちょっと心配でさ」

「あの、アデラ先輩……あの方は?」
生徒が去った後に、恵里はアデラに問う。
「……彼は私の部の先輩なんです。元々お身体が弱かったのですが、昨年の2月に体調を崩してしまって……しばらく休学されていたのですよ。彼こそが華道部の部長、北条智さんです」
「へえ、華道部の……その、北条先輩は生徒会長とお知り合いなんですか?」
「百合香」という単語に反応した亜衣が、アデラに問いかける。
アデラは少し困った様な表情を浮かべた。しばらく頬に片手を当てた後、微かに溜息を吐いて話し出す。
「そうでした……一年生のお二人は彼を知らないんでしたね。彼はこの学園の……生徒会長に恋心を燃やす、副生徒会長なんです」
アデラの発言に、同時に「えっ!?」と声を出す二人。
入学当初から密かに語られていた謎の副生徒会長の存在。その正体は、つい先程まで自分達の目の前にいた男子生徒だったのだ。
まさか、彼が噂の副生徒会長だったとは――。
アデラはやはり重苦しそうな表情をしていた。それに気付いた二人は最初こそ頭に疑問符を浮かべていたものの、徐々にその理由を察し始める。
副生徒会長、ましてや会長に恋する人物。となれば、自分達に協力するという事はまず有り得ないだろう。百合香と連絡も取り合っていれば、当然反逆者の事も知っている筈だ。彼が復活派の敵となる未来は、とても避けられそうにもない。
「……生徒会の中でも、彼はかなり穏和な人物です。直接処刑に加わることもほとんど無いようですし……ただ、協力はしてもらえないでしょうね。彼はいつも言っていますから……『百合香の為なら何だってするよ』、と」
SHRの始まりを告げるチャイムが鳴る。
だが三人は、しばらくその場を離れはしなかった。

143:文月かおり:2017/04/24(月) 15:12

>>142の朝から)

『はーい、彩美さんどうされましたー?原稿なら受け取りましたよー』
「ふみちゃんオハヨー。いや、次の打ち合わせしたいなぁと」
『……えええ、早くないですか⁉もう⁉』
「アハハ。今日できる?」
『今日は……あ、大丈夫です。10時から第二会議室でお願いしますー』
「りょーかい、じゃあバイバイ」
『失礼しまーす』

「さて、準備するとしよう」
自室で一人呟いたのは彩美だった。
打ち合わせは10時からなのでまだ時間はあるが、もう少し構想を練っておきたかった。なんの構想かというと、勿論次の小説について。
樹という人物に関する実話を基に書こうと決めたのが数日前。当事者であったおかげでネタはすぐにまとまってしまった。
そういうわけで出版社の担当さんに連絡した訳だが……。
「……さすがにアレをそのまま書くわけにはいかないなー」
問題が一つあるのだ。
あれこれ自問自答しながら時間を浪費していると、いつの間にか家を出る時間。
担当さんにも聞いてみようと思い、とりあえず出かけることにした。


「物語にはハッピーエンドを入れるべきか、ですかー……」
「そーなのよ。ふみちゃんどう思う?」
「えええ、私ですかー?」
ここはとある出版社の三階。第二会議室という立派な名前こそあるものの、収容人数は多くて6人の小さな部屋だった。
そこにいるのは彩美と、ふわふわの茶髪とパステルカラーの服を着た女性。文香という名の彼女は、愛らしい見た目や緩く伸びる口調とは裏腹に、手際の良い仕事ぶりで評判だ。……どうやら彼女が担当した作家は締切を破れなくなるらしい。
「んー……今の段階ではちょっと分からないですねー。ストーリーやジャンルによります」
「そっかー、ちなみにどんな感じ?」
「……恋愛小説なら十中八九必要です。青春小説はある程度あった方がいいですねー。推理小説は解決がハッピーエンドだから置いといてー。えっと、ホラーはどちらでもアリじゃないでしょうかー?」
彩美は腕を組んで頷いた。そのまま自分の世界に入り込んでいく―――

(あー、彩美さん思考中?集中力すごいからしばらく待つかー)
文香は彩美を見てそう考えた。こんな時は他に手段がないのだ。
手元にあるのはあらすじと登場人物のリスト。
(男の子と父、母、妹、その友達と……女の人?あ、成長した男の子のカノジョ!ま、まさかの恋愛系ですかあ、彩美さん⁉文香さんは聞いてませんよー‼あらすじ読まないとー!)
慌てて紙をめくると、ライトグリーンのメモが挟まっていた。

  一応これ、実体験なんでよろしくねー♪ 彩美

(な、なななんですとー⁉彩美さんの実体験‼超レアですー!)
文香は物凄い勢いであらすじを頭に入れていくのだった。

144:蒼月 空太◆eko:2017/04/24(月) 18:17

晃が法正と仲を取り戻してから翌日。
晃は、白羽学園のB組の前の廊下に呼ばれた。
そのために、朝時間から晃はB組前の廊下に法正と対面する。

「で・・・法正、用ってなんだ」

晃の一言に、法正は。

「別に・・・貴方にとってはどうでもいいかもしれませんがね・・・ただ、俺的には伝えたいから伝えるだけです」

「なんだよ?」

「実は俺と貴方・・・種違いの子ですよ」

・・・。
晃は一瞬固まった。
顔も違う、似ているところなど何もない。
しかし、一つだけ共通していた。
法正はやられたらやりかえす。
もちろん、晃もその精神を持っている。
つまり。

”負けず嫌い”
が一致していたのだ。
母親が同じというところが、負けず嫌いが同じで、昔は親近感の沸くような性格だったのだ。

「おいおいおいおい・・・・どういうことだよ!?」

「俺の父親は姓が一葉です。貴方の姓は松葉。しかしですね、母の旧姓は俺も貴方も、全て一致しています。名前に誕生日、身長に体重も。全て一致しています」

法正の一言に、晃は目がくらんでいた。

「おいおい、そりゃあないだろ・・・?」

「まぁ、なんにせよ、義理の兄弟です。だから、仲良くやっていきましょう―」

法正の一言に、晃は。

「ったく・・・友人どころか、それ以上じゃねーかよ・・・」

と言いながら、E組の教室へ向った。


―その影では。

「見つけたぁ・・・反逆者の弱点。」

そう呟きながら、スマートフォンの録音アプリを閉じる、一人の駒。
ピンク色の悪魔―。

145:藤井美鈴:2017/04/30(日) 10:02

>>137の続き

「ふふ、教えるわけないでしょう?

「…あっそう」

「他の人には言ッたノ?」

「いえ、言ってませんよ」

「フ〜ん、ジゃあモウいいヤ」

そう言って、出ていった。しなしなになったオダマキを置いて…。

≪花言葉≫
オダマキ  愚か

146:ABN:2017/05/04(木) 05:42

 看護師という職業は多忙である。必要とされる知識や経験は膨大で、人命を預かる仕事である以上一切のミスは許されない。加えて緊急の呼び出しや患者の都合に振り回されることもしばしばあり、規則的な生活リズムを保つことさえ難しい。そんな看護師たちにとって、休憩時間というのは非常に貴重な憩いの時だ。
 廊下からは見えづらいナースステーションの死角。備え付けのエスプレッソマシンで作られたコーヒーを啜りながら、中年看護師は全体重を椅子に預けてくつろいでいた。一端の女性としては流石にだらしない姿勢の彼女に、苦笑を浮かべながらすみれは声をかける。


「お疲れ様です、島江(しまえ)さん」

「あら月乃宮さん、お疲れ様。悪いんだけど、ちょっと聞くだけ聞いてくれる?」

「はい、なんでしょう?」


 すみれの姿を認めるなり、空いている近くの椅子を引き寄せて手招きをする。島江に勧められた通り、彼女はその椅子にそっと腰かけた。
 島江がこういう言い方をするときの話題は、決まって仕事や対人関係の愚痴だ。その話の内容自体に益はないが、心の中に溜まった鬱憤を他者に発散し同意してもらう行為は良いストレス発散になる。医療知識の一環としてそれを理解しているすみれは、二つ返事で島江の愚痴に付き合うことにしたのだ。


「月乃宮さんも知ってるでしょう? 意識不明の天本千明って子。あの子にお見舞いの花を持ってきた子がいたんだけど、その花がよりによってクロユリだったのよ!」

「そうなんですか。クロユリを持ってきた子の話は聞いていましたが、天本さん宛てだったんですね」

「酷いと思わない? 花の知識に疎い人でも、普通患者に黒い花を贈ろうだなんて思わないわ! しかもその子、白羽学園の生徒だっていうじゃない。それほど賢い頭の持ち主ならなおさら分かることだろうし、あのクロユリは絶対に確信犯よ!」

「白羽の生徒さんが? まさか、あんな立派な学園の子が……」

「学校の名前なんて関係ないわよ。あの年頃の子供って言うのは大体、何の力もないくせに自尊心だけは一丁前で、それなのに他者を敬うってことをしない。だからあんな不吉な贈り物だって、平気な顔で届けられたんでしょうね。そういう生意気で非情な生き物なのよ、あいつらは!」

「は、はあ……」


(続く)

147:ABN:2017/05/04(木) 05:43

(続き)


 表情はにこやかな笑顔を保ちつつ、すみれは内心で「またか」と密かに溜め息を吐いた。
 島江の子供嫌いの話はこれが初回ではない。というのも、彼女はどういうわけか子供、特に十代の少年少女を理不尽に嫌悪しているのだ。島江自身は常に朗らかで精神的にも丈夫という中々の人格者であるだけに、その致命的な一点だけを周囲は非常に残念がっていた。尤も職務上、患者たちの前で若者嫌いをひけらかすことはしていないため、仕事を妨げるような問題にはなっていないのだが。
 けれども自分には、丁度十代の妹がいる。本人にその意図はないだろうが、大切な家族の一員を「あの年頃の子供」というカテゴリで一括りにして非難されるというのは、とても気持ちのいいものではない。島江の愚痴を否定するわけではないが、せめて妹の人柄だけは弁解したい。そう思って反論を紡ぎかけたすみれの言葉を、しかし島江は食い気味に阻止した。


「それに今は私が片付けちゃったけど、花にはメッセージカードがついてたの。その内容がね……」

「……えっ?」


 ――どうぞ安らかなお眠りを。白羽学園生徒会一同。

 声量を絞った声で伝えられた言葉に、すみれは耳を疑った。喪中のような白黒デザインのカードに書かれていたという文章は、明らかに白羽学園の生徒会が千明の死を期待、祝福しているような内容。それが重体患者に相応しくない色の花に添えられていたとなれば、贈り主の悪意を疑う余地などない。
 だがすみれは、その意図を理解はしても納得はできなかった。名門進学校と名高い、しかも自分の妹が通っている学園の生徒会が、いじめにも等しい所業を行っているという事実を彼女は飲み込めなかったのである。半ば呆然とするすみれに構わず、島江は思い出したように話題を続ける。


「そういえば月乃宮さん、あなたの妹さんも白羽学園の生徒だったわよね?」

「は、はい」

「生徒会が直々にあんな嫌がらせみたいな真似をしてるんだったら、その学園の風紀も高が知れてるはずだわ。そこんところどうなの? 学園について、妹さん何か言ってたりしない?」

「え……ええと……」


 あの白羽学園が、実は生徒会ぐるみのいじめを黙認している問題校かもしれない。衝撃の推論で混乱冷めやらぬ頭を抱えながら、すみれは島江の回答に対する言葉を必死に模索するのだった。

148:文月かおり:2017/05/04(木) 16:48

燃えている

わたしのいえ

燃えていく

わたしのかぞく

燃えて、燃えて、燃えつづける


おねがい

わたしをおいていかないで……

行かないで

逝かないでよ

なんでいっちゃうの……


今からもう、ずっとずっと前。
私の両親は燃えきって、灰と煙と、焦げた骨になりました。


その時はまだ、私は独りじゃなかった。
兄がいた。私にとって唯一の、最後の家族。


花に詳しくて、勉強はできるけど運動はダメで。
いつも、何があっても笑ってて、とても優しくて。
あのヒトが大好きで、話しているとすごく嬉しそうで。


そんな兄も、死にました。

これで私は、独りです。

149:文月かおり:2017/05/04(木) 17:11

なんででしょう。

何か、悪いことをしてしまったのでしょうか。

なら、悪いのは誰ですか。

お母さんですか。  いいえ、お母さんはとてもいい人でした。わたしの憧れる、強い人でした。
お父さんですか。  いいえ、お父さんはとてもいい人でした。わたしの頼れる、大きな背中でした。

ならどうして、吹けば舞い散る燃えかすになってしまったのでしょう。

教えてくれますか。
わたしの大好きなお兄ちゃん。

すると、兄は言いました。

 きっと、あっちで元気にしてるよ。

違います。わたしが求めるのは、お母さんとお父さんが死んでしまった理由です。

なのに、兄は答えてくれませんでした。


そうですか。ならいいです。

悪いのは、わたしなんだ。
そういうことにしておきましょう。

誰にも言わず、ひっそりと。
私は独り、決めました。

そして、兄は死にました。




     『ブルースターの日に死んだお兄ちゃん。』序章より

150:文月かおり:2017/05/04(木) 17:15

「……実体験を他者目線で、か。うん、いいかもしれない」

戸塚彩美、執筆開始。
7月下旬、刊行予定。

151:ビーカー◆r6:2017/05/05(金) 00:10

「私は、特に……いばらも、学園のことはとても楽しそうに話してくれますし」
「楽しそうに?」
「え、ええ……風紀委員長として頑張ってるみたいですよ? 『皆仲が良いし仕事もやりやすい』って喜んでましたわ。生徒会の会長さん……百合香さん、だったかしら? 彼女とも仲が良いみたいでしてね。一度家に遊びに来たのだけど、美人で穏やかだし礼儀正しくて。とても悪い人には……いばらも付き合う友人はかなり選ぶタイプですしね」
あの妹さんが楽しそうにねえ、という言葉を島江は飲み込んだ。
すみれの妹、いばらとは彼女も面識がある。
しかし姉妹ながらその性格は正反対。愛想の良く優しげなすみれとは反対に、いばらは常に冷たく刺々しい雰囲気を醸し出していた。
決して態度が悪いことはなかったのだが、彼女の立ち振る舞いはどこか距離を感じさせるものがある。院内でもその姉妹の差は度々看護師達の話の種になっていた。
あのいばらが楽しそうに話すということは、学園や生徒会を相当気に入っているのであろう。……だがあのクロユリとカードを見た島江は、いばらもまたその類の人間だと疑わずにはいられない。ましてや彼女は風紀委員長。その様な立場の人間が生徒達の非常識な行いを見逃すとは考えにくい。彼女自身が生徒会ぐるみのいじめに加担している可能性も充分にあったのだ。
更に彼女が仲良くしているという生徒会長。あんな事をする学園の、しかも生徒会の会長と仲良くするなどとても考えられなかった。当の会長は一体何をしているのだろう。自分達と同じ学園の生徒があんな目にあっているというのに、心が痛まないのだろうか? この件に対して怒りを抱きはしないのだろうか?
「……いじめとか、本当に起きてないの? そこまで行かなくともトラブルとか」
「いえ、何も……大丈夫だと思いますよ。多分ただの悪戯でしょう、大方喧嘩でもした生徒がいたんじゃないでしょうか? いばらに注意するよう私からも言っておきますから」
そう言ってすみれは軽く微笑んだ。
悪戯で済まされる話じゃない、と言いかけた時、別の看護師が駆け込んでくる。
「月乃宮さん、電話……学校の生徒さんからみたいだけど」
「あら、妹かしら……ありがとうございます。すみません、失礼致しますね」
島江に申し訳なさそうに告げると、すみれはその場を後にする。紫色のバレッタが、照明の光を反射してきらりと光った。
「……やっぱり、妹さんも好きになれそうにないわ……月乃宮さん」
残された島江は、一人呟く。

152:ビーカー◆r6:2017/05/05(金) 00:10

「もしもし、姉さん? ごめんなさいね、仕事中に呼び出して」
「いえ、休憩時間だったから良いのだけど……どうしたの? わざわざ学校から電話するなんて。忘れ物?」
昼休みの学園は、いつも少し騒がしい。
一コマ65分の窮屈な授業から一時的に解放された生徒達は、背を伸ばし思い思いに自由時間を楽しんでいるのだ。ある者は会話に花を咲かせ、ある者は職員室に質問へ行き、ある者は何をするまでもなくぶらぶらとうろついている。
そんな中、月乃宮いばらは公衆電話の前に立ち、姉のすみれと話していた。携帯電話を使うという手を選ばなかったのは、あくまで風紀委員長としての立場の為だ。校則で一応は許されているとはいえ、校地内でスマートフォンを使うのはやり抵抗がある。その声は普段通り、非常に落ち着いていて冷たく静かだ。
「いえ、ちょっとね。……北条君、学校に来たわよ。もう大丈夫なの? 一応元気そうだったけれど」
「ああ、智くんなら……もう安心していいわ。大分調子も戻ったし、流石に体育とかはまだ見学してもらうことになるけれどね。風花さんとはどうだった? 会うのも久々でしょう」
「お互い嬉しそうだったわよ……安部野君とも挨拶したみたいだし。今年は副生徒会長を二人にして正解だったわね、北条君の身体の負担も大きいだろうから……まあ、風花さんにとっては北条君相手の方がやりやすいのだろうけど。あの人、風花さんの言うことには従うしね。自分の部が潰されたって何とも思わないんじゃないかしら」
「うふふ……確かにそうかもしれないわね。北条君、風花さんのことあれほど大好きなんだもの」
いばらの片手の十円玉は、次から次へと減っていく。最初は山積みになっていた小銭は、気付けば十枚程を消費してしまっていた。もっとも、普段から財布に万札が数枚入っている様な彼女にとって、こんな金額ははした金でしかないのだが。
すみれの声に若干微笑んだ後、いばらは一度周りを見渡した。顔付きを変えるとより声を潜めて言う。
「……クロユリの件、大丈夫だったの? 何か言われなかった?」
「……一応、ね。大丈夫、私が場を収めておいたから。貴方は何も心配しないで……面会なら私に言うように伝えておいてちょうだいな」
「そう……なら良かった」
いばらはそう言った後、軽く息を吸い込んだ。覚悟を決めた様な顔をすると、重い口ぶりで告げる。
「姉さん――そろそろ、花瓶の水の入れ替え時よ」

153:藤井美鈴:2017/05/15(月) 22:32

「……あれ?………ここは…ま、まさか…!?」

何で!私さっきまで自分の部屋にいたよ!?何でこんな所にいるの!?私が一番嫌いな所……。

「さぁ、今から裁判を始めます!」

あぁ、『今日』も始まった。『裁判』という名の処刑が……。今日……裁かれるのは、誰?

「うふふ…貴方は何をしたのか、分かってる?」

……また、濡れ衣を着せられたのか。どんどん排除する、自分にとって『邪魔な存在』を……。

全員参加の狂った『裁判』。また、生徒が、先生が―――


狂いだしたのはいつだろう?

学校で『裁判』が始まったのはいつだろう?

あの狂った人が会長になった日だろうか?

それともあの『事件』が起きた時からだろうか?

それとも―――。




                  『狂いだしたのは、いつ?』プロローグより

154:藤井美鈴:2017/05/15(月) 22:35

華藤 美咲、今月の最新作登場。

氷ノ宮 氷雪の最新作。

155:文月かおり:2017/05/17(水) 16:51

朝。上履きに履き替えながら雑談するD組の生徒たち。
なんでもない日常のワンシーン。
誰もが一度は耳にしたことのあるチャイム音が響く。

 『文芸部員にお知らせー。本日放課後、部員会議を開くので、どんなに忙しくとも顔を出すことー。
 繰り返し連絡しまーす。文芸部員は本日放課後、必ず会議に参加してくださーい。以上、文芸部長からー』

「……だってさー、亜衣」
「ん、りょーかい。一緒にいこ」
「はいはーい」
のんきに会話する部員。
これからの学園生活がどうなるのかも知らずに―――

156:文月かおり:2017/05/17(水) 18:26

白野恵里―――私と亜衣が部室に来た時は、既にほとんどの部員が集まっていた。
正面にホワイトボード、部員会議の大きな文字。

ざわつく室内、部員たち。議題はもう、分かっている。

 今後の課題

どうすればいいのかなんて、誰も知らない。
部費をゼロにされたのに、焦ってなかった私達が悪いのだろう。
怒涛の五月はもう過ぎ去ろうとしている。

「全員、集まった?始めるよ」
笹川先輩が雑談を遮り口を開く。

「分かってるよね、今回のテーマはこれからどうやっていくか、について」
「……あ、あの。部費がストップするのは六月分から、ですよね?いいんですか?なんか、いつも通りなんですが……」
私と同じ一年生の人が質問を投げかけた。
「あ、それアタシも思ってた!」
「ああ、そういうのは全然大丈夫。三ヶ月くらいなら余裕だよ」

「……はあ?三ヶ月も?」
「意味わかんないし」
「いくらなんでもそれは……」
「奇想天外どころの話じゃないです」
「事実は小説より奇なり……」
「それな。さすが真帆ちゃん」
いっせいに始まるブーイングの嵐。うん、まあ……

私も、ソレはないと思った。
三ヶ月分て、どこから来たんですかそんなお金。
みんなの反応からみて、誰も知らなかったらしいし……。

「いやコレ本当だからね?嘘はつかないよ?とりあえずさ、落ち着いてって。ちゃんと話すから」
そう言って、笹川先輩は立ち上がった。マーカーペンを持ちホワイトボードに向かう。
部員たちはひとまず黙り、笹川先輩のことを見つめる。勿論、私も亜衣も。

「六月から三月まで、学園からの支給停止。他生徒及びその保護者、もしくは外部からの寄付も禁止。つまり、これからの活動費は自分たちで手に入れろ。これが生徒会長から言い渡されたことね。
 ああ、廃部を防いだだけマシよ。あの百合香相手にね。
 でさっきの話だけど、私が稼いだ今までのバイト代でしばらくはやっていける。だからその間に、資金稼ぎ頑張ってもらうからねっ!勿論、全員で!」

「……」
「笹川ちゃん無謀だねえ」
「ちょっと無理があるかな、と」
「うちらで稼ぐって、どーすんのよ」
「努力はしますが……」
そんなので、やっていけるわけがないと。
だれもが、そう考えてた。

……いや、正確には、笹川先輩と―――あともう一人を除いて。

 「なーに?随分と暗い雰囲気じゃない。せっかくの里帰りだっていうのにさー」

初めて聞く、女の人の声。聞こえた先は、奥のドア。
「あ、彩美さんっ⁉」
「リアルでは久しぶりー真帆ちゃん。話は聞いたよ、協力しよっか?」
彩美さん……て、まさか?
思い当たることがあり、私は隣の亜衣にささやきかける。
「……ねえ亜衣。もしかしてさあ、あの人」
「……そのまさかだよ恵里。なんで来るんだし」
やっぱり。
突然現れたあの方は、私の親友と冷戦中のお姉さんでした。

「彩美さんお久しぶりです!」
「見たよーあの新刊。面白かった」
「次は七月の下旬だっけ?」
「相変わらず早いですねえ先輩」
三年生の先輩方が親しげに集まっていく。以前の部長とは聞いていたけど、ここまでとは……。
「えーっと、センセイ?なぜこちらに?」
先輩の一人が疑問をぶつける。すると、彩美さんはこう答えた。
「そんなの、可愛い後輩をヘルプしに来たに決まってるでしょ」

「「「「「ヤッタ―――――‼‼‼」」」」」

「ね、先輩たちなんであんな喜んでるの?」
「さあ?」
「強力な助っ人とか」
「だといいね!」
騒然となる部室。あとで確実に文句を言われるだろう。
っと、それは置いといて。
「……亜衣、大丈夫?」
沈んでいる亜衣に話しかける。そりゃあビックリだろうなあ。冷戦中のお姉さんが、部活に来たんだから。
「おおい、あーいーさーん?」
「今日はツイてないわ……」

157:文月かおり:2017/05/17(水) 18:37

「……じゃ、続きをドーゾ、現部長さん」
「はいはい了解しましたっと。
 ゴメンねみんな。そこの人はあとで説明するから、会議に戻るよ。座ってー」
「「「はーい」」」
よくわからないが、とりあえず笹川先輩のほうに注目する。
ホワイトボードに書かれた、活動費調達の大きな文字。
「みんながそれぞれバイトするのもアリだけど、それじゃあ効率が悪いので。
 文芸部らしい調達方法でいこう!」
「それって、つまり?」

 「色々なコンクールに小説を応募したり、部誌の制作を拡大したり」



【いったんストップします】

158:文月かおり:2017/05/17(水) 19:57

「まずは確認から。
 この中で、応募経験のある人は挙手」
笹川先輩に言われ、私は右手を挙げる。うなだれたままの亜衣も。
「……八割ってとこかな。よし、じゃあ次。
 一次選考を通過した人?」
その後は二次選考、最終選考と続き、挙がる手の数はどんどん減っていく。
私は最終選考まで、亜衣は二次選考までで手を降ろす。

【またまたストップ】

159:文月かおり:2017/05/17(水) 22:36

「最終選考が一割……思ったよりも成績良いみたいだね。一安心。
 では最後の質問。最終選考も通過し、賞を取った人はいる?」
私は最終選考で落ちてしまったので、少し落ち込む。通知が届いたときはうれしかったけど、後になってみれば、もう少しだったのにと、それしか思えなかった。
私の更に上をいく、最終選考を通った人は……
「三年が二名、二年も二名、一年が一人か……。
 大丈夫。これならいける」
それをみた笹川先輩は不敵に笑う。

笹川先輩は、何を考えているんだろう。
前から知りたかった。

生徒会長に味方する理由、資金ゼロでも文芸部を続けたい理由。

よく分からない人だなあ……。


「OK 最初に言ったように、みんなには、創った小説をコンクールに応募してもらうよ。
 手短に、ある出版社のコンクールが丁度期末テストの頃だから、当分はそれに専念してね。
 で、ここでやっとゲストの登場ってわけ。彩美さん、あとは頼みました」
「あいよ。―――文芸部員のみんな、こんにちは。二年前、文芸部の部長やってた戸塚彩美。今は専門学校に行ってて、作家活動もしてるよ。いろいろとあって、ちょくちょく顔出すんでよろしくねー。あ、そこで死んでる亜衣の姉だよ」
「以上、最近売れ出し中の作家さんでしたっと。読んだことない?『朝顔の観察、現実的に進む恋心』とかさ。最近だと『四つ葉をみつけたおんなのこ』が刊行されたんですよね?」
「さっすが、アタリさ」
彩美さんの、ちょっと満足げな表情。笹川先輩と似ていた。
ていうか、さっき、『朝顔の観察、現実的に進む恋心』っていってた?それ……読んだ!
「あのっ、私、読んだことありますっ!」
思い切って少し大きめの声で言ってみた。みんなの視線が一気に集まってくる。
いつもだったらひるんじゃうけど、今はそんなこと気にしていられない。本に関することなら……全然平気!
「彩美さんの―――天色アオイさんの小説は全部!」

ちょっと、嬉しかった。好きな作家さんに会えたことじゃなくて、たくさん人がいる中で、離れたところにいる人に話せたことが。
私は、変わったのかな?他人からすれば当たり前かもしれないけれど、とても嬉しい、今の自分。

「アオイ……そっか、君は読んでくれてるんだ。お名前は?」
「え、えっと……?」
だめだめ、自分から話したんだから、きちんと答えないと。それにこの人は……あの、天色アオイさんなんだ!
「白野恵里、です!」
「ん、恵里ちゃん?もしかして亜衣の友達って子?次の小説に出てもらえない?名前は変えるからさ」
…………え、えええ⁉私っ!
「はーい彩美さーん、うちの子を勧誘しないでくださーい?」
あたふたしてたら、笹川先輩が止めてくれた。正直、ちょっとほっとしたよ……。
「あ、真帆ちゃんも出るからね?美紀ちゃんと風花ちゃんも出るんでよろしく」
……先輩方も?
「あー、なんとなく分かりました。つまり、実体験をってことですか?メインは誰にするんです?」
実体験……笹川先輩の?どうして私が?
「そんなの決まってんじゃん。アイツだよ?」
「ま、さか……。立ち直ったんですか?まだでしょう⁉なのにどうして
「真帆ちゃん、後でちょっと話したい。だから今は文芸部に専念してて。あたしは帰る」
「……っ」
「失礼しましたー」
そう言って、彩美さんは帰ってしまった。

「……」
「ま、真帆……?」
「……ごめん、取り乱した。もう大丈夫。
 ―――さ!気を取り直してジャンル確認から始めるよっ!」
部室の空気は一見明るくなったように感じた。

たぶん、みんな気を使ってる。


文芸部に暗い雰囲気は似合わないと。
そう言っていたのは誰ですか?
私たちに気を使っているようだけど。
逆効果だと気づいてますか?

あなたたちの過去には一体―――


 何があったのですか?



【以上です。長々と失礼しました!】

160:藤井美鈴:2017/05/20(土) 11:38

「氷雪、早いよ〜。まだ書いてるのにー……………よしっ!終わったぁ〜〜!」

「よかったじゃん、あえかちゃん」

「麻美先輩、やっと終わったのにちょっと冷たいですよぉー」

「あえか、早く校閲に持っていかないと、明日締め切りでしょう?」

「氷雪、それ早く言って!」

今、私の部屋にいるのは、麻美先輩、和希先輩、氷雪の3人。私、あえかはたった今、出版予定の物語が書き終わったところだ。

「あえかちゃん、麻美はもうすぐコンクールだから、そのことでいっぱいなんだよ」

あぁー、だから上の空だったのか。

「ねぇ、あえか。ペンネーム、教えて」

「あ、そっか。今、氷雪と美雪以外知らないのか。えっと、『青島 美希』でーす!」

「分かったー。じゃあ、超楽しみにしてるよ!」

「えぇーー!そんなに期待しないで下さい!」

「じゃあ、時間だから帰るねぇ」

「あっ、私も帰るね」

「はーい、バイバーイ!また明日ー!」

先輩たちと氷雪は帰った。

「相変わらず、氷雪は書くのが早いなー。推理小説なんて結構めんどくさいのに。流石優等生」

161:藤井美鈴:2017/05/20(土) 11:46

「何で、捕まってるの?」

「――黒髪、黒い瞳…。そなたはどこから来た?」

言葉が違うのに、何で言ってることが分かるんだろう?

「どこって言われても……ここは【日本】ですか?」

「二ホンとは?」

え……。服装は完全に日本なのに!和服なのに!あっ、でも……髪と瞳が違う。こんな色日本人はありえない。

〔ちょっとストップ〕

162:藤井美鈴:2017/05/20(土) 21:43

〔止めてすみません!続き〕

「まぁ、いいだろう。私が面倒を見る。名前を言え」

「私は青井茉莉です」

「そうか。茉莉、くれぐれも会長に捕まらぬようにな」

え、何で?それが顔に出ていたのだろう、答えてくれた。

「会長は『処刑』という地獄のようなことをするからな。会長に逆らったらもう終わりだ」

もうすでに地獄のような生活が始まっていたことを、その時の私は気づいていなかった――

163:文月かおり:2017/05/22(月) 21:35

 ある日の放課後。私白野恵里はある人物に呼び出され、屋上への階段を上っていた。
 これから、何が起こるんだろう。呼び出しの手紙、差出人不明。理由も不明。
 ほんの少し暗いこの空間に、靴音はよく響く。
 私は―――



 ―――なーんてことはさらさらなくって、ここは普通の公園。
 私は、木製に見せかけた金属のベンチに座っていた。近くには親友の―――もう親友って言っても、いいよね?―――亜衣もいる。
 呼び出しを受けたというより、呼び出した側かな?

 そうなんです。私たちは今、とある二人をお待ちしているのです。

 超有名人のお二人ですよ。知らないという学園生はいないでしょうね。


「恵里っ、急いで、公園っ!」
 いきなり言われた。驚いたどころの話じゃない。
 慌てつつも問い詰めて問い詰めて、やっと分かった。

 どうやら、準備が整ったようです。

 ちょっと気になって、亜衣に質問した。
「どうやって呼び出したの?」って。
 そしたらね、亜衣は、あっけらかんと笑ってこう答えた。


 「んっとね、【ラブレターを渡すための、古典的で典型的な代表例】って言ったら通じる?」


 つまり。先輩方の靴箱に手紙を仕込んできたんですね……。よく考えるなあ、亜衣は。

 とにかく、【ラブレター】で指定した時間まであと10分をきった。

 もう、後戻りできないんだ。


 そう実感して、改めて事の重大さに気づいた気がする。生半可な決断でしていいことじゃない。みんなを、裏切ることになるかもしれない。
 それでもいいの?私なんかに、そんな覚悟がある?

 亜衣が計画者。私は協力者であり、共犯者であり、発案者だから。


 いいですか?風花百合香生徒会長?
 女王陛下には分からないでしょうね。

 私たち下っ端の努力と結束力。
 


 文芸部きってのグリム童話好きが教えてあげる。

 物語をより感動的なハッピーエンドにするにはね、一度暗闇にいくといいんだって。
 灰かぶり姫も髪長姫も白雪姫も人魚姫も、みんな暗いどん底から抜け出した。
 なら、私たちも大丈夫。
 暗闇なら、もう慣れたから。

 私をE組に降格しますか?それは、私にとってただの里帰りですよ?





「……」
 亜衣が小さく笑ったような気がした。
「……きっかり五分前行動ですか?白羽学園生として手本となりますね、先輩方」
「亜衣?」
「恵里、いこっ。賓客様のお出迎え!」
いつになく元気な亜衣が、少し羨ましい。

私も、慌ててゲストの方へ駆け寄った。





 どうかこの想いが届きますように

164:文月かおり:2017/05/27(土) 20:53

(遅くなり申し訳ございません!続きになります)

「……もしかして、これ二人の?」
「正直、また処刑関係かと思ったんだがー?」
 色白でかわいい先輩と、すっごい睨んでくる先輩。先日のことで一躍有名になった、板橋先輩と松葉先輩です。
 今回のゲスト、御登場というわけ。

「初めまして、1年D組の戸塚亜衣です。こっちは―――」
「ぁ、白野恵里と申します……」
「ご丁寧にどうも。知ってるだろうけど私は板橋麻衣。よろしく」
「2−E、松葉。よろしくするつもりはないからな」
 なんか……物凄い警戒されてるなあ。
 こんな状況で、ひょうひょうとしていられる亜衣は何なの?
「で、こんな手を使ってまで私たちを呼び出した理由を教えてくれない?」
 板橋先輩の視線は相変わらず厳しい。私は、黙ったまま縮こまることしか出来ない。
「……簡潔に言うとですね」


  「協力者になりませんか?」


 松葉先輩の顔に驚きの色が見えた。しかし、何も言わない。
 亜衣が、その沈黙を破った。

「メリットもデメリットもあります。先輩方が拒否されるのなら、それでこの話は終了です。どうしますか?」
 面白いことを見つけた、という小さな笑みは、彩美さんとよく似ていた。
 でも、いつもの亜衣ではない大人びた表情は、あまり見ていたくない。私が知らない亜衣を見るのは、ちょっと怖い。
 ……しっかりしなきゃ。私が発案者だってことを忘れちゃいけない。
「ならもう解散だな。俺らはお前たちと組まない」
 きっぱりと言われた。亜衣は少し悔しそう。
 私が言い返さなきゃ。

「いいんですか?メリットもあると、先ほど申しましたよね」

 私たちの切り札はコレ。
 学園での革命が有利になる、いくつかの情報。
 一部教えられないこともあるけど、それ以外なら―――この人たちなら。
 本当は、切り札を使いたくなかった。だって、そうすると、『あの人たち』の過去を広めることになるから。たった数人でも、嫌なんです。
 でも今は、そうしないと意見が通らない。何としても避けたいんです。

「……じゃまず、デメリットは?」
 板橋先輩が聞いてきた。やっぱりそっちからなんですね。
 これには亜衣が答える。
「会長にばれる確率が上がるおそれは、無いとは言えません。」
「そりゃそーだ。芋づる式になったら元も子もない」
 松葉先輩の的確な言葉が返ってくる。
「メリットは?人数が増える以外に何かあるの?」
「情報交換、です……!」
 これならいける。自信をもって答えた。

「学園の中には、いくつかの派閥が存在していますよね―――

 会長さんに賛成する人、私たちのように反対する人、中立の立場に立つ人。
 でもそれだけじゃないんです。極々少数派ではありますが、

   『会長さんに賛成しながらも反発する方』

 がいるのをご存知ですか?私が知る範囲では……学園内、それも生徒会に2人と、学園外に1人います。

 ―――もう一度お聞きします。どうしますか?」

「……」
 先輩方は、さすがに驚いたようだった。
「情報ありがとね。でもごめん、すぐには決められない」
 ハーフアップの髪が左右に揺れる。

 ちょっと、残念だった。

165:ABN:2017/05/28(日) 07:05

 平均的な学校と比べ、一コマの授業時間が長い白羽学園では、合間の休み時間も多少長めに取られている。次の授業で使用する教材を机上に並べ、不備がないか再三確認してもかなりの時間が余るほどだ。随分ゆとりのある休み時間を、成績優秀者の集まりであるA組は揃って勉学に有効利用しているのかというと、実はそうでもない。
 方や、天賦の才だけで高度な知識をいとも簡単に理解する者。方や、血が滲むような努力を以てA組の座にかじりついている者。あるいはそのどちらでもなく、何かしらの特例によってA組への在籍を許されている者も存在するかもしれない。現在の成績に至った背景が個々によって違えば、休み時間の使い方も必然的に多様化する。よって天下のA組も、他のクラスと比べればさほど変わらない教室風景となるのだ。

 閑話休題、A組教室の休み時間にて。椎哉は自分の席に座ったまま、しきりに鉛筆を紙上で動かしていた。傍から見れば自主勉強をしているようにも見えるが、よく観察すると時折自分の手帳に目を移しては電卓を叩いている。そんな彼の違和感に気を引かれ、声をかける同級生がいた。


「おや、北条副会長。何かご用でしょうか」

「そういう訳じゃないんだけど、さっきから何を計算してるのかと思ってね」

「これですか? 前回の期末考査の平均を割り出していたんですよ。次の考査もそろそろ迫ってきていることですし」

「前回って、安部野君が前にいた学校での成績?」


 智は首を傾げた。つい先日まで学園を休学していた彼も、椎哉が新年度からの転入生であることは百合香からの情報で知っている。ならば椎哉が言う「前回」とは、彼が前年度まで通っていた学校での最終考査なのだろうと予想した。しかし、ここは地方でもトップレベルの進学校。椎哉の出身校がどこかまでは把握していないが、並大抵の高校のテストでは、この学園での考査の対策材料にはなり得ないはずだ。
 そんな彼の疑念に気付いたのか、椎哉は手帳の一ページを開き、智に見えるようにして掲げる。その罫線上には人物名、クラス、そして五教科の点数と思しき数字とその合計が、上から下までびっしりと埋まっていた。


「いいえ、前回というのは『白羽学園の前年度最終期末考査』のことです。生徒会たるもの、生徒の皆さんの成績の推移を把握し、より効率的な学力向上の助力に努めなければいけないでしょう?」

「生徒の皆さんって……まさかこれ全部、全校生徒の前回の点数かい?」

「ええ。精密なデータを得るには、正確な値が必要不可欠ですから」


 言いながら椎哉は手帳を智に見せたまま、もう数枚ページをめくる。新たに開かれたそこにもやはり、生徒一人一人の成績が同じように綴られていた。



(続く)

166:ABN:2017/05/28(日) 07:12

(続き)



 元よりこの学園では考査終了後、得点順に並べた成績を個人の名前付きで掲示するのが定例だ。加えて処刑制度が執行されてからは、「見せしめ」目的で最下位の生徒名まで発表されるようになった。そのため、椎哉が全校生徒の点数を把握していること自体になんら問題はない。だが、学園内での公開が許されているとはいえ、一歩間違えれば生徒個人のプライバシーにも関わる情報が、一冊の個人手帳に全てまとめられているというのはいかんせん不気味である。
 図らずしも覚えた底気味悪さを表に出さないようにしながら、智は苦笑交じりに自分の感情を誤魔化した。


「そ、そうなんだ。熱心なのはいいけれど、その手帳を外で落としたりしないようにね」

「心配には及びません。ベルトに繋いだストラップをつけていますので、不注意で紛失することはまずあり得ませんよ」

「なら安心だけど……。ところで、平均点をまとめて何か分かったことはあった?」

「そうですね。やはり目立つところと言えば、クラスごとの成績格差でしょうか」


 椎哉は開いていた手帳を制服の内ポケットにしまうと、今度は鉛筆を走らせていた方の紙を見せる。書かれていたのは各学級別、学年別、学年を無視したクラス別、そして学園全体の平均点をまとめた統計表だ。そのうちクラス別の点数に注目すると、A組から段々と下るように平均点が下降していることが分かった。尤も、この学園ではそもそも成績を基準にクラス分けを行うため、このような結果になるのは必然なのだが。しかし椎哉はそれだけで話題を完結させることはせず、表の下の空白に簡易的な棒グラフを描きながら話を進める。


「A組からC組までは問題視するほどの点数ではありません。しかしC組とD組を比較すると、それまでと比べて点数の開きが大きいのです。さらにD組とE組では、その格差がより顕著に現れています」

「本当だね。グラフの先端を線で結ぶとさながら放物線みたいだ。つまり、学園全体の平均点が下位の二組によって著しく下げられているってことか」

「仰る通りです。加えて、D組とE組の成績を一人一人確認してみたところ、D組の一部とE組の多数の生徒が学園の平均点を大きく下回る成績でした。このように大多数の真面目な生徒が、ごく少数の不真面目な生徒によって足を引っ張られるということは、由々しき事態なのではないかと僕は思います」


 成績劣等生への懸念を以て話を結論付けると、椎哉は鉛筆を置いて智の方に顔を向ける。真っ直ぐな目線で相手を見据えると、智へ一つの質問を投げかけた。


「この二組の成績不振を改善するため、生徒会としては何かしらの対策を取る必要があると考えています。そこで一つお聞きしたいのですが、北条副会長はD組、E組の成績向上を妨げているものは何であるとお考えでしょうか?」

167:ビーカー◆r6:2017/05/30(火) 07:43

「成績低下の原因、かぁ……」
智はしばし目を細めると考え込む動作をする。骨ばった細く白い手が、紅い唇に触れている。白い手先の長い爪に、椎哉はその間視線を移していた。
「……もしかしたら……そうだねぇ、やっぱり百合香に手出しをする様な人間が多い事じゃないかな」
ゆっくりと口を開き言うと、智は軽い笑みを浮かべる。彼の笑顔は非常に優しげで、穏やかで、そしてどこか女王と似ていた。
「と、言いますと?」
「ほら。百合香の定めたルールを破る人間がいたら、僕らはその人間を処刑しなきゃいけないだろう? 学園の平和の為に、そして百合香の為にね。でも処刑にばかり気を取られてしまうと、やっぱり勉強に専念できなくなる人も少なからず出てきてしまう……B組やC組の人達にしたら、処刑制度は適度なストレス発散になるんだろうけど。D組辺りになってくると、処刑だけに全力を注いでしまう人達がちらほら現れるみたいだね。……どうしたものか……百合香に逆らう人間をなるべく減らせればいいんだけど……」
饒舌にこう話すと、再び智は目を細めた。
椎哉はその様子をごく冷静に見つめている。……しかし、内心この副生徒会長に薄気味悪さを感じていたのは言うまでもない。
彼の話は要約してしまえば、『百合香に逆らう人間がいなければ、処刑も発生しないし成績問題も解決する』ということになる。あくまで彼にとって、全ての原因は女王に歯向かう反逆者であった。女王の定めた規則に逆らえば、処刑されるのは当然だ。ならばどうやって反逆者を減らそうか……その話は、『百合香は何一つ間違っていない』という前提のもと成り立っていた。今の処刑制度には何の疑問も感じていないのだ。
「……特に百合香に平手打ちをする様な生徒は見逃せないなぁ……何か対策をとろうか、どんな形であり百合香が傷つくのは何より辛いしね」
「ふむ……しかし、成績不振についても解決を優先させるべきでは? 風花生徒会長の安全が第一なのは同意致しますが」
心にも無い言葉を並べ終えた椎哉の目を、智はすっと覗き込む。やがて、くすりと微笑んだかと思うと、暖かな笑顔を保ったまま平然と言い放つ。
「まあ、いいじゃないかそんな事は。だって、百合香が一位なことには変わりないんだから」
「…………なるほど」
その直後だった。席を空けていた百合香が教室へと再び戻ってきたのだ。
その美しい顔に、普段の笑顔はどこにも無かった。
「皆さん、少々聞いてくださるかしら」
A組の生徒達は一斉に百合香に視線をやった。百合香がこうして教室内で発言することは決して珍しくはないが、ここまで重苦しい雰囲気を醸し出すことは早々にない。智はというと、百合香の方へ歩み寄り、不安げな表情で彼女の様子を伺っている。
百合香はそんな智をちらりと見ると、大丈夫よと言うかの様に若干表情を和らげる。
2人の間にはやはり何かしらの信頼関係があるのだろう。何かしら異常なまでの。
「木嶋さんが……お亡くなりになったそうです、白羽病院で」
真っ先にしたのは、1人の生徒が立ち上がる際の机の揺れる音だった。

168:ビーカー◆r6:2017/05/30(火) 07:43


「……何ですって?」
「木嶋さんが亡くなったのよ、月乃宮さん。……仕方ないわ、あの状況下なら何か重い症状を患わってもおかしくないもの」
「だって、そんな……姉さんがついていたのに……!」
あの冷静沈着ないばらが、ここまで取り乱すのはそれこそ滅多にない。周囲は驚きを隠せない様子だったが、百合香の方は一切動じていなかった。
姉の診ていた患者が死んだというのは、やはり妹にしては受け入れ難いのだろうか。
「そうね……大変残念な事だわ。まさかあの白羽病院で、ね」
「……何かしら? まさか貴方、姉さんを疑ってるんじゃないでしょうね?」
いばらが荒々しい足取りで百合香の元に歩み寄った。彼女の瞳は更に鋭さを増し、その目はしっかりと百合香の姿を映している。
百合香の顔つきもまた、どことなく悪しきものがあった。まるで目の前の相手を見下したかの様な。
「別に……疑ってるわけじゃないのよ、月乃宮さん。ただ、あくまで視野の範囲に入れているだけで」
「いい加減にして!!」
百合香の声を遮り、いばらは大声をあげた。百合香の傍らにいた智が、目を見開いたのが見える。
「貴方は……どうしていつまでもそう悠々としていられるの!? 彼女だって貴方が余計な手出しをしたのはほぼ確実でしょう!? 彼女だけじゃない……今まで何人もの人を殺しておきながら、貴方はまだ自分の罪を擦り付ける気!?」
静まり返った教室に、ただいばらの声が響いていた。
いくら寄付金絡みの件があるといえ、ここまではっきりと逆らってしまえばどうなるかはわからない……処刑まではいかなくとも、何かしら罰を受けることになってもおかしくはなかった。誰もが息を潜めて見守る状況の中、百合香は静かに溜息をつくと、その口を開いた。
「月乃宮さん……私は誰も殺したことはないわよ? ましてや、誰かを傷付けたことも……」
「……じゃあ、天本さんの件はどう説明するつもり? 風花さん」
天本という名に、椎哉が少しながら反応した。しかしそれに気づいた者は恐らくこの教室にはいないであろう。
「天本さん? ああ、あの広報部の……」
百合香はそう呟くと、やがてまた笑顔を浮かべる。いや、笑顔というよりは口元を歪めたに近い。その黒い瞳は笑ってはいなかったのだから。
「私が彼女を追い詰めたと決めつけるのはあまりにも不道理だわ……自殺未遂を私の責任にされても、私は何も出来ないわよ? あの件は誰も悪くないの、天本さんが考え過ぎてしまっただけ……」
「貴方は……何も感じないの?」
いばらのその問いかけに、女王はしばらくの間黙り込む。彼女の姿を黒い瞳で見据えると、途端に普段通りの笑顔を浮かべた。
「感じるって……何を?」

169:ABN:2017/05/31(水) 05:21

 がん、と、頭を強く殴られたような気がした。
 「処刑制度」などというくだらない規則が確立してから早一年以上。ある者は暴行の末に再起不能の体となり、ある者は精神を蝕まれた後に自ら命を絶ち、ある者は何の動機もなく突然行方不明となり、ある者は家族もろとも不可解な死を遂げ……。数え出したらキリがないほどの犠牲者が、決して長くはないこの期間で次々と積み上げられていった。だが、制度を取り決めた当の百合香はというと、ただ犠牲者を憐れむ姿勢を見せるだけで、処刑制度や自分の裁定を省みることは一切しない。それどころか「悲劇」の原因は飽くまで自分には存在しないと、犠牲者本人やその周囲の人々を盾にしながらのたまってみせるのだ。
 学園の風紀、生徒一人の命や人権、そして自分の大切な家族を冒涜され。しかし抗議の応酬は、まず抗議自体の意味が分からないといった当然顔で。まるで人間の価値観が通用しない宇宙人を前にしているような感覚に、流石のいばらも言葉を失う他なかった。――この女には、何を言っても無駄だと。


「落ち着いてください、月乃宮風紀委員長。あなたのご姉妹がそのような真似をするような方でないことは、僕も存じております」

「安部野くん……」


 百合香に対して激昂している間に席を立ったのだろうか。いつの間にかいばらの斜め後ろに立っていた椎哉が、落ち着いた語調で声をかけてくる。姉の名誉を擁護してくれるような台詞にいばらは僅かに安堵し、しかし同時にそれ以上の不快感を抱いた。何しろ椎哉は彼女から見て、ある意味では百合香以上の不審の塊であったのだ。
 転入して間もないにもかかわらず、学園に貢献したいという理由での生徒会入会。生徒会への忠誠を誓っているかと思えば、一概に百合香の益にはならないような言動も行う付和雷同さ。彼にとっては赤の他人であるはずの、天本千明の病室への訪問。そんな怪しい行為を積み重ねている人間に庇われたところで、裏で何かを企んでいるのではないかと勘ぐってしまうのが正直な心情である。
 そんないばらの心情をよそに、百合香の意志を支持するようにして、今度は智が椎哉の言い分に異を唱えた。


「月乃宮さんの気持ちは分かるよ。でも、どんなに優秀な人でも医療ミスをすることはあるんじゃないかな」

「確かにその可能性も否定はできませんね。ですが。外因なく木嶋さんの様態が悪化しただけという可能性も同様に存在するでしょう」

「とは言っても、あの白羽病院だろう? 様態が急変したとしても、即座に対応できる技術や人員が揃っているはずだよ。それに、百合香だってそう言ってるし……」

「……まあ、僕たちがここで言い争っても、木嶋さんの死因が判明するわけではありません。餅は餅屋、死者は医者に任せておきましょう」



(続く)

170:ABN:2017/05/31(水) 05:22

(続き)



 智の主張から僅かに間を空けて、討論の中止を椎哉は提案する。彼の言う通り、専門的な医学の知識を持たない学生が、見てもいない死者の死因を推測するのは無謀だろう。姉の名誉にかかわる議論が流れてしまうのは不本意だが、その一点に関しては流石にいばらも賛同した。これでいばらと百合香の一触即発は解消されたと、教室にいた生徒たちは安堵のため息をつく。


「皆さん、お騒がせしてごめんなさいね。木嶋さんのお葬式などのお知らせは、決まり次第また連絡しますから。それでは……」

「お待ちください、生徒会長」

「……何かしら、安部野くん?」


 一礼して教室から立ち去ろうとした百合香を、議論を中止させた張本人である安部野が引き止める。訝しげな声色を若干含ませながら、それでも相変わらずな笑顔のまま百合香は振り返る。対して椎哉は、やはりいつも通りの微笑みを浮かべながら、目尻の下がりが浅い彼女の表情を見据えた。


「先ほど、月乃宮風紀委員長との会話に出てきました『天本さん』について、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 途端、日常的な雰囲気に戻ったはずの教室に再び緊張が走る。先ほどの険悪な会話の内容から、「天本さん」が処刑によって葬られた犠牲者の一人であること、つまり百合香がいるこの場にとって地雷とも言える話題であることは、学園に転入して数ヶ月経たない生徒でも理解できるはずだ。にもかかわらず、そんなデリケートな質問を遠慮もなしに投げかけた椎哉の蛮勇に、周囲の生徒たちは勿論いばらと智も目を見開いて驚愕した。その中でただ一人、百合香だけが笑顔を崩さずに返答する。


「それは今、聞かなければいけないことかしら?」

「いえ、回答に急を要するような質問ではございません。しかし月乃宮風紀委員長がああも取り乱していたとなると、よほど重大な事件だったのだろうとお見受けします。そのような出来事が過去にあったなら、僕も生徒会の一員として知っておく義務があるのではないでしょうか」


 ――あなたが知る必要はない。――いいえ教えてもらいましょう。
 譲る気はない本意を敬語というオブラートで厳重に包み、互いに言外で牽制し合う。厚い仮面を被った二人同士のプレッシャーは、教室の空気を不必要に研ぎ澄ますのだった。

171:文月かおり◆DE:2017/06/05(月) 22:04

1.真空玲奈の特等席

 ただ何となく歩いていたわけじゃない。直接的、間接的、二つの目的を持ってそこに向かっていた。
 木陰に隠れた木のベンチ。あたしだけの特等席。

 なのに。
 誰かがそこで眠っていた。肘掛けに倒れこむように居眠りするそいつは、おそらく別のクラスか違う学年。見たことのない顔だった。
 あたしはその時イラついてて、呟くようにこう言った。

「It is my ringside here.Would you get out,Mr.doze?」

 寝ているし、起きていてもたぶん通じないだろうな、と思っていた。
 でも違った。そいつは答えてくれた。

「I am sorry.But It is my ringside here,too.And I am not『doze』.」

 驚いた。そして、それ以上に嬉しかった。
 クラスの誰に言っても通じないであろう英語が通じた。たったそれだけであたしは直観的に思った。
『こいつはきっと話が合う』って。

「……とりあえず、どいてもらっていい?」

 彼は目をこすりながら場所を空けた。
 このベンチは三人掛け。二人で座っても間はある。

「で、ここは僕の特等席って言ったよね?」

 まだ寝ぼけてそうな顔。寝不足なのか?

「その前に、あたしの特等席ですがって言ったでしょ」

 あーはいはい、というマヌケな返事が返ってくる。男子にしてはやわらかめの声だった。
 ちょっと意外。もうちょいシャキッとしてそうなイメージだったのに。

「じゃ、僕ら二人の特等席ってことで。あ、でも所有権は僕だからね」

 勝手に言われた。とりあえず嚙みついておく(慣用句的表現)。

「ひっどい!唯一の逃げ場所なのにっ」

 言ってから、あっと思った。しまった。本音が少し混じっちゃった。

「逃げ場所?」

 彼は目ざとくそれに気付く。

「……そ、逃げ場所。何か?」

 お願い、何も言わないで。あんまり人に言いたくないの。
 そんな思いは伝わったのか、彼は興味なさそうにまた目を閉じた。
 あたしは安心して伸びをする。グーッと腕を伸ばしたら右の指先が樹にぶつかった。……地味に痛い。左手でさすりながら樹をにらんでおく。

「……」
「……ねえ」
「んー?」
「ここがあんたの特等席って、いつから?」
「僕が入学してから数ヶ月かなー」

 今は六月の中旬。あたしがここに通うようになってから彼に会ったことは無い。
 そう話したら、彼は溜息混じりで答える。

「あー……部活が忙しくて、時間がなくってさあ」
「何部なの?」
「……一応、文芸部」

 ……文芸部っ!?初めて聞いたんだけど!

「文芸部なんて、うちの学校にあるの!?」
「え、ああ、そうだけど」
「転部したいっ」
「そりゃまあ大歓迎ですけど……」
「〜〜〜っ!」

 チャイム音が鳴り響く。
 いつもなら、憂鬱になるだけの無機質なその音。

 確かに授業は嫌だけど。でも今は気にならない。


 あたしの特等席は無くなったけれど、気の合う話し相手が出来たから。

 その後あたしは、名前聞いてないや、と気づいた。





 わたしはその原稿をバサッと机に置いた。滝ちゃん(センパイ編集者さん)が怪訝なカオしてるけどそんな場合じゃナイんです!
 文香さん(わたし)は今現在、ひっじょーに興奮しているのですよっ!

 コレは、わたしが担当している作家さん――天色アオイさんの原稿です。最初の方だけ出来たということで見てましたが……『真空玲奈』ちゃんて、センセイがモデルですよねぇ?なんか、授業が嫌みたいだけど、センセイは超絶優等生ですよね?なんでなのぉ……?
 頭に付けたパステルグリーンのリボンをいじりつつ考えるけど、んと、やっぱ無理ぃ!
 こーゆーのは本人に聞くべきですよねっ。

 よし、そうと決まれば早速センセイに電話しよーっと。
 ……ん、スマホケースについてる飾りがとれそうかもぉ。むー、ウチにあるかな手芸用ボンド。……じゃなくてじゃなくて。電話だってば!



 その後わたしは
 『そのうちわかるよー♪』
 なんていう、イタズラゴコロ満載な言葉をもらい、更に悩むことになりましたっと。むむむむむ……うあっ、リボンが左に傾いちゃったし!

172:ビーカー◆r6:2017/06/10(土) 17:57

「安倍野君、あんまり百合香を困らせるのはだね……」
「いえ、いいのよ智君……彼にだって知る権利が無い訳ではないわ、天本さんの件については」
椎也を制そうとする智の言葉を遮り、百合香は真っ直ぐに椎哉を見た。相変わらず彼女は微笑んでこそいるものの、その目はやはり目の前の相手を軽蔑し見下している様に伺える。張り詰めた空気の中で悠々と立ちすくむ女王の周囲には、無数の薔薇の棘がちらついた。
「そうね、まあ……良いでしょう……ある程度なら……」
一人呟いた後、百合香は数歩足を進めた。不敵に微笑む椎哉に近寄ると、改めて彼の瞳を覗き込む。
「では、お話ししてくださるんですか?」
優しげな筈の彼の声も、今の百合香にはどこか耳につく。その穏やかな顔の中に、一体彼は何を隠し込んでいるのか。今の百合香にそれを知る術はまだ無い。
「簡単に、だけれどね? 全部話していたら休み時間が終わってしまうわ……昔、広報部という部活がこの学園にあったのは、貴方もご存知?」
「ええ、勿論……昨年度までの予算資料もある程度拝見させていただきましたので」
「なら良かった。その部活の部長として活動していたのが、天本千明さん。彼女、とても優秀な人だったのよ? 正義感が強くて、いつも真っ直ぐな……私も彼女には期待していたの。それなのに……」
自分は無関係とでも言いたげな口振りでそこまで言うと、百合香は憂いげに溜め息を吐いた。彼女の表情の陰りは、果たして何を意味してのものなのか。
「――彼女、ちょっとしたトラブルで精神が不安定になってしまったのよ。周りにも冷たくあたる様になってしまってね? それが新聞記事にまで影響して……周りも手に負えなくなってしまったの。仕方が無いから広報部は一旦活動停止にして、彼女が落ち着いてくれるのを待つことにしたのよ。……だけど……」
やがて百合香は、白いハンカチで目元を押さえ始める。見かねた智は、百合香にゆっくりと歩み寄ると、その背中を優しく撫でた。
「まさか、あんな事に……あそこまで思いつめていたなんて……」
「大丈夫、百合香は悪くないさ……百合香は正しい事をしたんだから」
それは本当の事情を知る者からすれば、非常に滑稽な茶番劇であっただろう。その茶番劇を良く思うか悪く思うかは人それぞれではあったが。少なくとも大多数のクラスメイトは、なかなかの誤魔化し方だと考えたに違いない。
「……生徒会長、ありがとうございます……申し訳ございません、辛いことを話させてしまって。僕の配慮不足でした」
椎哉は詫びを入れ頭を下げるものの、彼の本意など周りは誰も知らなかった。当然の事だ。皆、彼があの天本千明の関係者だなど少しも考えはしないのだから。
「いえ、大丈夫……ごめんなさいね、みっともない姿見せちゃって……智君も」
「百合香がみっともないだって? 君はいつだって凛としてるじゃないか……たとえ今みたいに泣いててもね」
百合香を宥めるように言う智に、女王は涙を拭いた顔でくすりと微笑む。
「あら、智君……いつからそんなにキザになったの?」

百合香が立ち去った後の教室には、再び普段の騒がしさが戻った。

173:文月かおり◆DE 時系列:放課後 場所:文芸部室:2017/07/01(土) 12:33

「はぁー……」
「……しょうがないよ、ね?」
「ん、でもなぁ」

 先日のことでテンションがイマイチな亜衣。溜息のくせ、移ったかな。

「マグネット、全員はったー?」

 先輩の声が聞こえてくる。大変、早くしないと。
 そう思って私は亜衣の手を引き、ホワイトボードへ向かおうとする。抵抗されたので、ほんのちょっと強めに。

「ほら亜衣、行くよっ」
「恵里ちょいストップ手え痛いからっ」
「大丈夫、私の握力は20だよ」
「絶対違うって!あんた壊れたヤツで量ったでしょっ」

 ひどいなあ、本当に20なのに。
 まあとにかく今は、亜衣を連れていくべきだ。

「漫才はいいから急げー」
「ご、ごめんなさい!」

 ほら言われちゃった。残念だね亜衣さん。


 本格的に活動を始めた文芸部。今日はネタ合わせの日です。

 出版社に応募することよりも、本当は、部誌の発行・販売がメインなんです。
 ジャンルごとに集めた部誌を何種類かと、長編連載もの、投票結果集なんてのもある。
 その中でもストーリーや設定、キャラなどが被らないように合わせるのがこの日。

 私はいつも通り、日常系小説を書くつもり。というか、それ以外にネタがない。

 日常系は人数が少ないけれど、内容がどうしても重なりやすい。だから私は設定に工夫してるわけだけど……

「よし、全員集合ね。じゃあ各自で始めてー」

 笹川先輩の合図で、部室は一気に騒がしくなった。

「恋愛系こっちー」
「あ、連載中のはドア付近ね!」
「二次創作したいやつ!」
「言っとくけど、3L禁止!白羽生徒は純粋ちゃんが多いんだから!」
「そういうのは同人で書きますってセンパイ」
「異世界系書きたい人、チートか日常か転生か選んでおいてねー」
「ホラー書いてる方、いませんか!」
「こっちこっち、ロッカー前!てかミステリーは推理かホラーかはっきりしろ!」
「青春と日常は集まって話した方がいいよ、あと恋愛も」
「あの!青春で、恋愛要素アリなんですが!」
「名前決まったらボードにかけよ!過去の資料は棚三段目!」
「佐藤、田中、高橋、斉藤、高木、鈴木、山田、中村は使いすぎに注意!」
「ねえちょっと静かに!研究部に怒られたから!」


 まあ、こんな感じにうるさいのが文芸部―――
「白野さんって連載じゃないよね?名前被ってないか確認しよ」
「あ、はいっ」
 ―――なんだろうな、と思った。


 ≪執筆予定作品≫
白野恵里 『こちらの原子が擬人化したとします。(仮題)』

戸塚亜衣 『トリップ女子は帰還を推奨、そして拒否(仮題)』

笹川真帆 『Make a school festival HERE,please!(仮題)』

174:匿名:2017/07/01(土) 15:04

えふぇwfwfwふぇwふぇwf

175:藤井美鈴 時系列:放課後 場所:音楽室:2017/07/01(土) 15:06

「ハーイ!今から半音階のロングトーン始めまーす、8拍でーす」

「何で先生、いないんですか?」

「3人とも出張です。行きまーす、1、2、3」

コンクールまであと2ヶ月。課題曲はあと少しで完成だ。自由曲はやっと3分の1までいった。

「トランペット、少し高いから下げて!ホルンとクラ、音小さいからもっと大きくして!」

「「「ハーイ」」」

「パートで基礎練したと思うので、課題曲します」

コンクールの期日も迫っているというのに、今日はなぜか、顧問も部長もいない。顧問は出張だから仕方ないが、その上部長も欠席となると……。私の負担も考えて休んでほしい。

「クラとフルート、ピッコロ、Jから連符のところ転んでるから焦らないで。もう一回します」

「麻美先輩、ここ教えて下さい」

「ここは――」

1年生、これぐらいわかるだろう!?こんな簡単なのに!中学でも吹部でサックスやってたって言ったよね!?
――なんてことは勿論言わない。ほら、表面上は良い先輩だから、私。

「次、自由曲しまーす。前できなかったHの6小節目から、96でやります。少し早いけど頑張ってね!」

「えー」

「バス、みんなを支えるパートだから、指揮見て。それからパーカス、少しずれてるから気を付けて」

やっぱり自由曲は難しい。金管がメインだけど、木管のソロも多い。どうしようか――

「すみませーん‼遅れましたー!」

大声と共に、女子生徒が飛び込んでくる。ああ、遅刻の子か。誰だろ……って!部長じゃん!
やっと部長来たー‼救世主来たー‼ってことは――私の負担が減る―――‼

「あっ、部長来た!」

「おー」

「あとは部長!お願いします!」

「私、今来たばっかだよ!?」

「遅刻するから悪いんです。さっさと、準備してください!」

「は〜い、それまでやってて。そんなに時間かかんないけど」

「当たり前だよ!?トランペットでしょう!?……気を取り直して、Hからやりまーす」

「ハーイ」

みんなが真っ黒な笑顔なのはなぜ?と思いつつ、私もそうなっているだろう。

「部長、Hからソロまでやってください」

「「「やってくださーい」」」

真っ黒な笑顔、その理由は簡単。ただただ、部長をいじりたいだけ。
やってくれと言ったところ――Hからソロまで――は、一番難しいところ。遅刻したからと言って、そこの手本を見せてほしいと言っているようなものだ。いつも失敗して、笑われていていつも悔しそうにしている。今回もそうなるだろう。

「いいよー」

また、いつものところを間違える――と思ったが、間違えずにちゃんとできていた。

「え―――!?」

「何で‼」

何もかも完璧にできていた。1週間前までできなかったのに。

176:文月かおり◆DE:2017/07/01(土) 15:08

>>174 荒らしはやめましょうねー。迷惑になりますよー。

177:藤井美鈴◆MI 時系列:放課後 場所:音楽室:2017/07/01(土) 18:28

「嘘でしょう?」

「何でだと思う?」

「練習したの?」

「当たり前じゃん。だって、ちょー悔しいんだよ?」

「ハイ。じゃあ、部長が来たのでまた、課題曲をしたいと思いまーす」

「「「ハーイ」」」

流石、部長。トランペットの音が良くなった。
あの1年生、役立たずだねー!コンクール、出ないでくれないかなー、表面上だけの奴がっ!音が雑すぎるんだよ!2,3年生の邪魔をするなー!
――勿論、表面上には出さない。
まぁ、いろいろあるが、楽しい……かな?――そう、思っていたらどうやら、お昼休みみたいだ。今日は1日練だから大変だ。

「1時に練習開始でーす」

「「「ハーイ」」」

上下関係はあるが、仲のいいメンバーでよかった――と思った。

178:匿名:2017/07/06(木) 20:16

>>165-170>>172の放課後、かつ>>173>>175>>177とこの話がほぼ同時と仮定しての話です)



 赤みが混ざり始めた夕暮れ空を背景に、天に向かって高々とそびえ立つ白羽学園の学び舎。その一角、音楽室から聞こえてくるのは、多数の管楽器による騒々しい音色。恐らく吹奏楽部が個人で、あるいは楽器別に各々練習をしている真っ最中なのだろう。そんなことを思案しながら、剣太郎は校舎の、音楽室がある辺りをぼんやりと見つめていた。

 かつては広報部に所属していた剣太郎だが、昨年執り行われた強制廃部によって、現在はどの部活にも所属していない。また、いたずらに学園やその周辺街を徘徊すれば、別の生徒にいちゃもんをつけられ、理不尽な恫喝や暴力を受けてしまう。学園に残る理由などなく、得られるものもなければマシな方。ゆえに終礼のホームルームが終わり次第、誰からも声をかけられないようにして速やかに逃げ帰る。それが現在、学園中から迫害されている剣太郎の、日常的な放課後だ。
 ――もしも、風花百合香が広報部を潰さなければ。あるいは部長の千明が、処刑制度や百合香に対する取材を諦めていれば。自分は今でも、部員たちと新聞を作り続けていられただろうか? 今のようなみすぼらしい思いを味わうことなく、青春の一ページを綺麗な思い出で飾れていただろうか? 溢れんばかりの後悔に塗れた仮定は、いつしか過去の情景を剣太郎に想起させていた。



◆ ◆ ◆



「部長、そろそろ深追いはやめた方がいいんじゃないですか?」

「そうですよ! このままじゃ俺ら全員、生徒会に処刑されてしまいます!」


 広報部が強制廃部となる数週間前。青ざめた顔の部員たちが必死の剣幕で、千明に詰め寄る光景が部室内で見られた。当時はまだ百合香直々の声明こそなかったものの、部活動の妨害や度重なる嫌がらせなど、明らかに広報部の動向を良く思わない存在からの脅迫をじわじわと受けていたのである。遠回しの通達とはいえ、声なき牽制をそこまで受ければ、通常の人間は身の危険を察して自らの活動を自重するものだ。だが残念なことに、千明の精神は良くも悪くも非常に丈夫であった。


「大丈夫だって! 向こうに気付かれる前に、バーっとネタ集めてガーっと記事書いてダーっと配布すればいけるいける!」

「そういう次元の問題じゃないんです! 俺たちの取材先に先回りしてくるような奴ら相手に、先手を取れるわけないでしょう? あいつらはこっちの考えを見通してるんですよ!」

「何でも調べたがる部長の悪癖は私たちも分かってます。でも、その弊害が広報部自体にも降りかかったとしたら、部長は責任を取れるんですか?」

「あー、責任かあ……。それ言われると確かに辛いな」


 生徒会側からの度重なる牽制にも負けず、処刑制度や百合香周辺の独自調査を続けてきた千明。その核心にこそ触れられてはいないが、今や彼女は百合香の目論見を、部外者の中では恐らく最も真相に近い形で知る存在となっていた。だからこそ、制度の犠牲者が強いられる処刑内容の凄惨さも十分承知している。その上で広報部を率いる者としての責務を引き合いに出されると、流石の千明も閉口する他なかった。
 言葉に詰まってそのまま数分。いつもは喧噪の中心である千明が黙り、部室内にもしんとした静寂が下りる。普段はアットホームな部活内の雰囲気に馴染み切っていた部員たちは、慣れない緊迫感に身を固くしつつ、それでも無意識に共通の期待を千明へ向けていた。彼女が自分の無謀さを自覚し、百合香の機嫌を逆なでするような取材をやめてくれると。
 それからようやく考えがまとまったのか、千明は天井を仰ぎ見ていた頭を部員たちの方に向け直す。――直後、向きを戻したばかりの頭の前方に、合掌した両の手を勢いよく差し出した。


「すまん、責任は取れない! でも取材をやめるのも無理だわ!」

「はあ!? 部長、それ正気で言ってます!?」

「うん正気。マジ正気。真っ当なたっぷりSAN値で考えた上でこの結論よ」

「じゃあ部長は、自分のせいで広報部が潰されていいとでも!?」

「まあ、ものすごく端的に言ったらそうなっちゃうな」

「ふざけんな!!」

179:匿名:2017/07/06(木) 20:19

(続き)



 バキッ、と鈍い音が、部員たちのどよめきを割った。続けて椅子が倒れる音と、女性部員たちの甲高い叫び声。千明の回答に激昂した男子生徒の一人が、彼女の顔面を手加減なしに殴り飛ばしたのである。そして感情に任せた彼の暴力を皮切りに、部室はたちまちパニックに陥った。千明の人格を疑い、彼女を手酷く攻撃する者。過激な暴力は慎めと、感情的な部員を嗜める者。自分の感情に精一杯で、まず周囲が見えていない者。信頼と統率が致命的に失われ、このままでは生徒会が手を下さずとも、広報部は自然崩壊してしまうのではないかとさえ思われた、そのとき。


「し、静かにしてください!」


 彼の一声で、騒々しかった部室内は、水を打ったようにしんと静まり返る。発言主の方を見た部員たちが、その人物の意外性に驚いて喧噪を引っ込めたからだ。一様に目を丸くした彼らの眼差しに、発言主――当時一年生だった筆崎剣太郎は思わずたじろいた。
 普段の剣太郎であれば今のような恐慌状態に巻き込まれても、気の弱さゆえに何をすることもできないまま、その場に立ち尽くしていただけだろう。しかし、広報部が失われるかもしれない危機を前にして。そんな状況の中で協調性を失った広報部の惨状を見て。何より、説明の余地もなく部員たちから一方的に詰め寄られる千明の姿を目の当たりにして。内に抱えていた混乱が爆発し、頭が真っ白になった剣太郎が気付いた時には、既に無意識で声を張り上げた後だった。
 自分がこの騒乱を中断させた張本人なのだから、何か言葉を続けなければならない。我に返ったばかりの頭で、剣太郎は次の句を必死に考える。だが、元々口下手な彼にとって、もっともらしい台詞を咄嗟に引き出すという行為は非常に難易度が高かった。空回りする頭に反比例して、口からはええと、その、などといった、中身のない思案語しか漏れ出てこない。自分の意見を言い出せずにいる剣太郎に、部員たちが苛立ちを募らせ始めたころだった。


「剣ちゃん、無理すんな。言いたいことは大体察したから」

「ぶ、部長……」

「むしろ皆を鎮めてくれてありがと。あのままじゃあ、弁明の「べ」の字も話せないままだったろうし」


 片目の周りにできた青あざを意に介しない笑顔で、千明は剣太郎の天然パーマを軽く叩くように撫でる。そして彼の勇敢さに対する労いを伝えると、服についたほこりを払ってから、部員たちの顔を今一度しっかりと見据えた。こんな状況でもやはり自信に満ちた千明と、対して彼女に猜疑心を向け続ける部員たち。二者に挟まれるような立ち位置となった剣太郎は、不安げな面持ちで両者の顔を交互に見ていた。


「語弊を招く言い方しちゃって悪かった。確かにあたしは副会長ちゃん関連の取材をやめる気はない。けど、広報部の皆をないがしろにしていいと思ってるわけでもない。この二つの考えが矛盾してるのは分かってるけど、どっちもあたしにとっては譲れない選択なんだ」

「ということは、私たちのことは大切に思ってくれてるんですよね? なのにどうして、部が犠牲になるかもしれない危険を冒してまで取材を続けるんですか?」

「なら、無礼を承知で逆に聞こうか。あたしがこの取材を諦めたら、一体誰が処刑制度の全容を広報する?」

「しなくていいですよそんなの! 世の中には知らなくていいことがあるんです。誰も副会長に逆らわなければ、これ以上犠牲者は増えません。余計な真似をしなければ、皆平和に暮らせるんですよ!」

「平和、平和か。いい言葉だ。しかしそれは、これまでの犠牲者に二度目の死と屈辱を与えた上での平和なんだぜ」

「……っ!」


 女子部員の言う通り、ここで処刑制度の真相追及を放棄すれば、自分たちの身の安全を確保することはできるだろう。だがそれには、これまでに名誉や命を奪われた犠牲者の存在をさらに「黙殺」しなければならない。存在する真実をなかったことにし、犠牲者を踏みにじって獲得した平和を、果たして甘んじて受け入れていいのか? 自己保身の観念から見れば合理的で、しかし道徳の観念から見れば非情な自分の意見を再認識し、女子部員は千明を説得しようとした口をつぐむ。



(続く)

180:匿名:2017/07/06(木) 20:22

(続き)



「これまでの調査で既に分かっていることだけど、どういうわけか副会長ちゃんには警察とか裁判所とかも通用しない。その上で広報部までもが真実追及を諦めてしまえば、処刑制度やその犠牲者は実質「存在しないものとして扱われてしまう」。だからあたしは、この学園で確かに起こった事象を「殺さない」ために、これからも制度の取材を続けるつもりだ」

「……部長の考えは分かりました。ですがそんな状況じゃ、処刑制度の情報を広めることなんて……」

「そだね。見栄切って大口叩いたはいいけど、ぶっちゃけこれ無理ゲーだわ」

「ちょっ、認めるのあっさりすぎるでしょう!?」

「しゃーないしゃーない。まあ、だからって副会長ちゃんへの挑戦の意思がない子たちまで巻き込もうとは思ってないさ。だからだね」


 公的機関さえ無力化するような存在との対立を前にして、それでも千明はカカッと軽やかに笑う。百合香からのプレッシャーを気にも留めない態度が逆に部員たちの不安感をあおる中、千明は一束の紙を取り出すと机の上に勢いよく置いた。紙の上部に整った明朝体で書かれているその題名は「退部届」。部長直々から惜しげもなく提案された選択肢に、部員たちが一様に目を丸くしたのは言うまでもない。


「自分の命が惜しい奴は、早めにこの広報部から脱出してくれ。これがあたしが皆に対して取れる、最上級の責任だ」



◆ ◆ ◆



 それから広報部は、いつもより早めの解散となった。日がまだ昇っているうちに閑散となった部室で一人、千明は受け取った退部届の提出者名を眺める。あの後、感情的、あるいは判断が早かった数名の部員がその場で退部届を提出。他の部員の大半も、一応考えておくといった感じに書類を持ち帰ったのだった。解散前の部員たちが揃って臭わせていた、百合香への恐れの感情を鑑みれば、手元の書類が翌日以降増えることは目に見えている。自分から勧めたこととはいえ、これまで活動を共にしてきた部員たちと袂を分けた現実を前に、千明は煙草の煙を吐くような呼吸法でため息をついた。そんな彼女の横から、弱々しい声がかけられる。ほのかな冷気を感じたその方を見ると、遠慮がちに冷却材を差し出す剣太郎の姿があった。


「こ、これ、良かったら……。殴られたところ、少しは痛くなくなるかと」

「おお、剣ちゃんサンキュー! ひえっ冷たっ」


 キンキンに冷えた冷却材を受け取ると、痣ができた目にぴたっと当てる。零度に近い冷たさに震えながらはしゃぐ千明の様は、禁忌事項の取材への決心を真剣な顔で宣言した広報部部長とは思えない。つい先刻と現在の彼女の落差に内心困惑しつつ、剣太郎はおずおずと千明の顔を見上げた。
 千明が入学直後から、広報部の一員として熱心に活動し続けてきたという経歴は、彼女より後から入学した後輩たちの間でも有名な話だ。入部から一年経っていない剣太郎でさえ、彼女と何度か取材を共にした際、その並々ならぬ熱意を思い知る機会に何度も遭遇している。つまり千明にとって広報部は、高校生活のほとんどを賭けた青春と同義のはずなのだ。しかし今、彼女は自分に同調できない部員に退部を勧めてまで、処刑制度と百合香の調査を強行しようとしている。下手を打てばその広報部すら奪われかねないリスクを背負いながら、それでも千明を突き動かす熱意の根源は一体何なのか。自分の中で渦巻く疑念に耐えかねて、剣太郎は恐る恐る口を開いた。


「あの……部長は、怖くないんですか? もし部長の取材が実際にバレて、副会長から処刑命令が出されたら……」

「処刑については大丈夫だよ。だからさっきも退部届を皆に渡したんだし」

「そ、そうじゃなくて……! 部員の皆は大丈夫でも、部長は絶対に処刑されてしまうんですよ? 部長は強いから、いじめとかは平気かもしれませんが、それだけじゃ済まなかったら……」

「あ、そっちか。うーむ」



(続く)

181:匿名:2017/07/06(木) 20:24

(続く)



 自分の身に関わる事態に今しがた気付いたような軽さで、千明は間延びした返事を返した。この調子だと本当にこれまで、広報部に降りかかる損害は危惧していても、自分自身の安全に対するリスクは毛頭考えていなかったのだろうか。その思慮の浅さは部長としては誉められたものではないが、やはり彼女は疑いようもない根っからの広報部員なのだと、呆れにも近い敬意を剣太郎は改めて感じた。それから、熟考と呼ぶにはやや短い程度の間を開けて、千明は彼の問いに答える。


「実はだね。あたし、親がいないんだよ」

「そうなんですか……って、ええっ?」

「物心ついたときには既に、今のお爺ちゃんお婆ちゃんたちに保護されててね。皆もあたしたちがどこの子なのか、さっぱり分からないんだとさ」

「えっ、えっ、ちょっと待って! そんな重大告白をさらっと済ませないでください!」

「言ってそんなに重大なことでもなくない? 「実は邪神を崇拝する魚人の末裔」とか「人肉を食べる怪物の取り換え子」とか、そんな背景と比べりゃ親が分からないくらい些細だって」

「比較の例えが随分名状しがたく冒涜的じゃありませんか」


 物心ついたときから親の顔も分からない環境に置かれていたのなら、千明にとってはそれが当たり前の日常なのだろう。そして本人がその背景を苦にしていなければ、第三者が彼女へ同情を向けるのは見当違いだ。頭では分かっていながらも、両親と同じ屋根の下で暮らすことを日常とする剣太郎にとって、千明の家庭環境はとてもショックを隠し切れないものだ。だが、当の千明は剣太郎の反応に傷付いた様子もなく、むしろ彼の大げさなリアクションを楽しんでいる様子さえ見えた。


「とにかくだ。親がいないことに対しては別に、寂しいとかそういうのはないんだけどさ。その分興味が湧くわけだよ。「あたしたちの親は、一体どんな人なんだろう」って」

「は、はあ……」

「けど残念ながら、親の正体に至れるような手がかりはないし、調べる手段も分からない。だからその反動かな。「自分の出自が分からない分、他の分からないことは余すことなく解明したい」と思うようになったのは。まあ、命の危険が分かってるのに危機感の欠片も感じてないのは、流石にそれだけ知識欲が育ちすぎたかとは自分でも思うがね」

「…………」


 住む世界が違う。剣太郎は心の奥底から思った。元より剣太郎自身は、何かしらの大層な目標を持って広報部に入ったわけではない。しかし自分の志の低さを差し引いたところで、千明との差異はほとんど縮まらなかった。処刑制度の真相究明や、学生時代の功績作りなど、彼女の目標はその程度のレベルには存在しない。以上の目標が「その程度」だと思えてしまうほど、彼女が目指す終着点は、通常の人間には思い至れない次元のものだ。あるいはそもそも、終着点など最初から視野に入れていないのだろうか。
 とにもかくにも、千明が真実にこだわり続ける理由。それは彼女の根底に関わる、いっそ宿命とさえ形容できてしまうものだったのだ。その一端を垣間見た剣太郎の心臓は、きゅっ、と何かに掴まれるような感覚に襲われ――。



◆ ◆ ◆



 在りし日の記憶に剣太郎がふけている間に、短くない時間が過ぎていたようだ。吹奏楽部が奏でる音色はひとまとまりのクラシック曲に切り替わり、夜闇が迫り始めた空は禍々しい赤に染まっている。あの日の彼女の横顔も、確かこんな色の夕日に照らされていただろうか。
 剣太郎は帰路への歩みを進め、思い出から距離を取った。あのとき、心臓に覚えた感覚の正体が何だったのか、今の彼にはもう分からない。

182:藤井美鈴◆MI 時系列 放課後 場所 音楽室:2017/07/15(土) 17:05

(続き)

でも、そう思うのは一瞬だけ。
凛ーー部長ーーもそう思っているだろう。私を裏切っていなければ。
大抵の部員はーー7割ーーは生徒会が大嫌いだが、残りはどうかわからないから。

(一回ストップします、ごめんなさい)

183:べるなに◆Lg:2017/07/16(日) 12:41

誰もいない一つの教室の中。
そこには、風花 百合香がいた。
常に冷静、同時に冷血な彼女が。
そこに、一つの影が。色で例えれば、黒。
2字の言葉で例えれば、下衆。

「会長………お会い出来ましたねェ………」

そこには、痩せ細り、目にはくまが。
完全に狂人と化していた、片原 拓也が。

「………誰かしら?」

百合香にとって、どうでも良い手駒。
それどころか、足を引っ張るだけの塵の顔など、記憶する必要もなくなった。

「俺ですよ………生徒会、片原 拓也………へへへへ………」

「本当に覚えのない人ですから、立ち去っていただけないかしら。」

「覚えて………ないい?」

「ええ。」

「駄目じゃあないですか会長!」

拓也は机を蹴り倒し、百合香へ歩み寄る。
じりじりと、じりじりと、少しずつ距離を積める。

「俺のことを忘れちゃ、会長は駄目ですよ。
俺が、貴方のことを一番知っていて、貴方の理解者ですから。」

まさにストーカー。
拓也はやや後退りする、百合香へ歩み寄る。
色欲な目をして。

184:藤井美鈴◆MI 時系列:放課後 場所:音楽室:2017/07/22(土) 23:24

>>182続き

凛は、みんなの、この部活の、理解者だから。
復活派の人は皆、吹部の人が相談する。私もその一人。

「麻美。私、会長に訴えようかなー」

「え!?やだ!やめてよ!そうしたら、―――」

「そうしたら、何?」

「―――ううん、何でもない。でも、やめて。お願いだから」

ここにいるのが2人だけで良かった。

「でも、一回だけ言ったことあるよ?ここはいかれてるって」

……!嘘…!?

「じゃあ、何で吹部が潰れてないの?」

「そりゃあ、いきなり強豪が潰れたらおかしいからだよ」

それはそうですけど…ねぇ。あいつなら何かと攻撃しそうだからねぇ。頭いかれてるしー。

「今年のコンクール、終わったら何かしてきそうだねー」

「凛!嫌なこと言わないでよ。美雪だって、フルートソロ全国まで行って、大会がコンクール終わってからなんだから」

「美雪ちゃん、すごいよねぇ。今回、フルートとピッコロの持ち替えでしょ?」

「うん。とにかく、あいつに訴えるのはやめて」

「……はーい」

これなら大丈夫…かな。

―――美雪❅視点―――

部長、遅れすぎです……!
でも、あそこ完璧とか流石です!
これじゃ、褒めてんのか、けなしてるのか……。
まぁいいでしょう。

❅  ❅  ❅

部長が、一回あいつに言ったあ!?
ハァ、何してんの!?
あぁ、やばいやばいやばいーーーどうしよう!
一応、あいつの秘密、知ってんだけど本当かわからないからなぁ。どうしよう。
とりあえず、観察――情報収取――しますか。

185:文月かおり◆DE 時系列&:2017/07/23(日) 11:34

 何の特徴もない、普通のお寺の、お墓の前。

 ほんの数日前も、私はここに来ていた。その時は形ばかりの親戚がいて、一応十回忌ということになっていた。で、今日は私だけ。好きなだけここにいることができる。

「でね、文芸部は部費ゼロなの。大変だけど、部長は楽しそうだったよ。すごいよね……」

 あーあ、これって他人から見たら私、幽霊と話してるみたいかな。……まあ、それでもいいかも。幽霊、いたらいいのに。話せたらいいのに。
 浮世とは無関係な幽霊ならさ、なんでも話せちゃうじゃん?言っちゃいけない陰口とかも、小さな誇りとかも。

「……やっぱ私、変だね。なんか駄目だ、もう」

 もともと悲観主義な私だけど、それ以上にお墓前というこの場所は、私を更に暗くしてくれる。

 でも、既に決めたことなので……

「守るよ、私。守りながら、壊すの。どの生徒とも違う方法で、私が壊す。……見守っててね?お兄ちゃん。約束なんだから」

 宣戦布告、参戦布告。


 あいつらは、みんな馬鹿。守りたいものが多すぎるのよ。だから混乱してる。ホントに、馬鹿。

 私の守りたいものは二つだけ。それなりに優先順位をつけて、割愛して。

 準備もそろそろ整う。大丈夫。私の方がよっぽど有利。

 今現在対立している双方を、どちらも利用すれば……いける。大丈夫。



 ゼラニウムの花が風に揺れ、私は少し微笑んだ。



 ❀ゼラニウム/geranium 真の友情、決意、君ありて幸福❀


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