先生、私は貴方を潰します

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1:さくら:2017/12/10(日) 17:03

思い付きのヘンテコ小説を書いていきます。


設定:中学校の生徒、教師との見えない闘い

登場人物(現時点において、随時追加)

香山怜菜……ある教師が苦手な女子生徒。
渡井政人……体育教師。怜菜が苦手とする教師でもある。怜菜のクラスの担任の先生。
前嶋結衣……音楽教師。温厚な性格だが、怒るとギャップが激しく、怖い。
怜菜はこの教師のことを信頼している。

登場人物が増えすぎてよくわからなくなったら、そのうちまとめます。

85:さくら◆aI:2018/04/01(日) 18:53

「ま、死ぬほどオッケーなら大丈夫……なのか?」
誰に向かってはいた言葉でもない。きっと、自問自答している。
愛衣がそんな大毅君に、
「もう、そんなんじゃやっていけないでしょ!」
と言いながら背中を軽く叩いている。

愛衣って、そんなことするっけ?
何だか、最近どうも、みんな調子がおかしい。
自分の感覚を、見失っている。別の人間になっている。そんな風に思えてくる。
「何言ってんの、怜菜」
素っ気ないこの声。杏奈だ。
「それは怜菜の錯覚。多分愛衣はちょっと疲れてる」
「そう?」
杏奈はため息をついた。

「いい? よく考えてみて。今まで真面目な人がいました。その人が突然羽目を外しました。そしたらどう思う?」
唐突に投げかけられた質問に、私はすぐに返事をできなかった。
必死で考えて、
「何か、変だなあって思う」
「それだけ?」
うん、と私は返事をする。情けない声だ。
「まあ、とにかく気をつけなよ。あの能無し熊センコー、何を仕掛けてくるかわからないから」

前よりも、渡井に対する当たりが強くなっていると思うのは、多分気のせいじゃない。

86:さくら◆aI:2018/04/01(日) 19:47

intermission

彼女はどうするつもりなんだろうね。
あの女の子は気が強いし、彼女にとっては刺激になると思うけど。
わたしがこっそり見守っていること、彼女が知ったら嫌がると思うんだよ。
だけどわたしは、彼女のことを守るって決めたんだよね。

昔の話になるんだけど。
彼女、小さい子どもの相手が上手でさ、わたしも当然、彼女と一緒に遊んだんだ。

彼女は、ボランティアでよく保育園に来てくれたんだ。
でもわたしは、彼女は普通に保育園で働いているものだと思い込んでいた。
だってほとんど毎日いたんだよ。それなら、そう思うよね。

ほかの保育士さんたちも、彼女のこと大好きで。
わたしたちも彼女のことが大好きで。
彼女は、わたしたちと保育士さんたちが大好き。
毎日、わたしたちは幸せだった。

でも、避けられない事もあるんだろうね。
ある日、彼女とわたしたちが、外に散歩に出かけたんだ。
あれは悪夢だと信じたい。
突然、一緒にいた子たちの方に向かって、車が突進してきた。
彼女は、わたしたちを庇ったんだ。

わたしのことを庇って、彼女は車に轢かれた。
逃げろ、と言われて、わたしたちは保育園に戻ったんだ。
それ以来、彼女がどうなったかの課は何も知らなかった。

でも、ある日街で彼女とすれ違った。
多分彼女の友達といたんだと思うんだけど、彼女の名前を知ってた。
怜菜。
だから、彼女のそっくりさんが『怜菜』と呼ばれていたのを聞いて、わたしは嬉しかった。
彼女は、あの時のわたしの命の恩人だとわかったから。

彼女の中学校とかは、名前を聞いて調べた。
彼女が今、大人に対して敵意を抱いているのを知った。
また、彼女がその大人に、生活の安全を脅かされているのを知った。
どうしても許せなかったんだよ。

どうなるかはわからないが、彼女の動きに合わせてわたしは動くつもりだ。
あの時の恩を返さないわけにはいかないのだ。


inteemission out

87:さくら◆aI:2018/04/02(月) 20:20

唐沢先生が出ていったのを確認してから、私達は集まった。
「しかし、なーんか俺は嫌だな、唐沢」
秋山君は本音をズバズバと言う性格らしい。
だけど、本人に面と向かって言う事はない。
「また泣きだされて、熊に呼び出されたくないから」

それを聞いた愛衣は、
「そうだよね。でもさ、私はとりあえずは普通に接したいと思う」
「ホントかよ!?」
クラスの皆が聞いて驚くほどの大きさではないけれど、驚いたのはわかる声。
いや、驚いたというよりも、想像していなかった答えってことかな?


「唐沢先生のことか……」
考える時の癖で、ついつい声に出してしまう。
苦手って訳では無い。だけど、何となくそれっぽいことを言ってのらりくらりとして逃げようとしている気がする。
そう考えてしまうのは、私の性格がひねくれてるからだと思う。

怜菜達を見た。
秋山君は割とバッサリと言うんだなあ。愛衣はオブラートに包んでる。
怜菜はその時による。何してるのって言いたいときもある。

私が何をどう考えているのか。
他人に話したことはないし、これから話すつもりもない。
私の性格はかなりひねくれてるらしい。だから何って思う。
唐沢とか、一番そんな感じ。
表ではまあ普通な人を演じていて、裏は悪魔の化身のような性格。
そんな風に見えているってこと自体、クラスメイトからすればかなりズレてるんじゃないかと思うらしい。

怜菜が何をどう見ているかはわからないけど、危ない。
見ていてよくわからない時もあるけど、あの能無し熊センコーに感づかれてるはず。
ま、結衣先生がいるし、相当アホなことはやらかさないと思うけどさ。

どうなってもいいなんて訳じゃない。
能無し熊センコーのことなんか正直目の前を鬱陶しく飛んでいるハエ。
あ、ハエが可哀想だ。
だって、前の学校では保護者ともめて、熊が悪いってことになって捨て台詞吐いて、厄介払いされたんだもの。
その前には、生徒のことを馬鹿にして、信頼を裏切ってどん底に叩き落したんだもん。

――いい加減にしろよ。
その生徒、私の幼なじみだったんだ。

なのにあいつのせいで、あの子は追い詰められた。
何してくれたんだよ、あの子の保護者も、熊、お前が完全に嘘を信じ込ませたせいで、話を聞いてもらえず、何も対処されない。
そんな風に生徒をボロボロにする教師なんて教師じゃない。
いや、むしろ同じ人間とも思いたくない。

返してくれよ。
あの時の、いつも楽しく笑っていたあの子を、優しかったあの子の両親を返してくれよっ!

88:さくら◆aI:2018/04/03(火) 20:11

私は愛衣の方を向いて、
「私も、今は普通に接するべきだと思う」
はっきりと言う。秋山君はちょっと考え込んだのか、
「…………怜菜、はそれでいいのか?」

かなり間を開けて聞いてくることに違和感を感じた私は
「何で?」
何でもない、という感じで聞く。

秋山君は声のトーンを落として、
「唐沢はどうなのか知らないけど、どうも杏奈の様子がさっきから変だ」
と、杏奈の方をちらりと見て言う。
「変?」
言われて私も杏奈を見る。

確かに、いつもは感じない強い怒りのオーラが杏奈を取り巻いている気がする。
そう見えるからなのか、いつもよりも目つきが鋭く見える。
「何だか近寄りにくい雰囲気だね」
愛衣が心配そうに言う。
別に私は、杏奈のことをどうでもいいと思ってはいない。
むしろ、何が原因で杏奈は怒っているのか気になるし、何か手助けができるならと思う。

でも、もしそれは杏奈にとって言いたくないことだったら?
言いにくいことで、杏奈にとっては辛いことだったら?
気になるけれど、下手につついて余計に杏奈がいらいらする、ストレスが溜まるようにはしたくない。

「今は見守る」
私たちの意見は一致した。
もっとも、秋山君は始めから関わる気はなかったらしいけれど。
愛衣は、優しい性格の持ち主なだけあって、
「でも、杏奈はそれで本当にいいのかな……」
ずっと、というわけではないけれど気にしていた。

私は、気にならないわけじゃないけど、杏奈は関わってほしくないときは距離を置く。
そういう時に干渉しすぎると、怒りの炎が飛んでくる。
だから今は、心配でも見守っているだけにしようと思うんだ。



まあ、怒っても仕方ないけどさ。
それでも振り切れないことだってあるよ。
だってもう、あの子は……。
うん、ダメだ。考えていたって変わらない。

怜菜たちと一緒に行動(今は距離を置いているけど)するようになって、前よりは楽しいって思う。
でも、やっぱりあの子を奪った能無し熊センコーは許せない。
謝れば許される?
そんな簡単な問題なの?

本当に一瞬で。
散って。
バラバラになって。
建物の取り壊しと同じ。
壊れるのに時間はかからない。
そのまま朽ちて。
色彩を失う。

私は間違っているかもしれない。
個人の復讐なんか、全体で見たらちっぽけなものだ。
分かっている。だからこそ……。

89:さくら◆aI:2018/04/04(水) 19:29

割り切れ、後ろを向くな。
そんな言葉は、多分今の杏奈には届かないんだろうな。

「あ、怜ちゃん」
廊下に出ると、結衣先生が近寄ってきた。
「大丈夫? やっぱり、あんな事が急にあって……」
「大丈夫です」

そう答えたものの、確証はない。
だって、またいつ、渡井が私たちに攻撃してくるかわからないから。
でも私は、すぐに渡井が行動に移す確率は低いと思っていた。
……実際、そんな甘い考えなんて通用しないのだけど。
「気を付けて、先生が見れないときを狙ってくると思うから」
どうしてかはわからないけれど、そう言われるとそんな気がする。


昼休み。
外に出ると、曇天の空が私を包み込む。
今の杏奈の心も、天気で表すならこんな天気なのかな。
根っからの、というわけではないけれど性格は割と明るい方。
今のこんな天気でさえ、私はポジティブに捉えている。

90:さくら◆aI:2018/04/05(木) 20:44

曇り空だって、いつかは晴れる。
今すぐにどうにか出来なくたって、いつかは良い方向に向く。
……正直、綺麗事って言われることもある。

でも、そう言う風に割り切って、前を向いたもん勝ちじゃん?
別に能天気って訳じゃないよ。でも、そうしないと渡井と戦えない。

だってあれだよ!?
表では善人ぶって、裏では気に入らない生徒を徹底的に嬲ってくるあの渡井。
あんな奴と、正当な戦い方で勝てるわけなんてない。
だからと言って、陰湿なことをしようとは思わない。
同等レベルに成り下がるなんて、こっちから願い下げ。

でもな……。
私一人じゃ絶対に負ける。何て言うか、正直に言いすぎて不利にしてしまう。
あ、これただの自業自得だ。アホだな私。
「何やってんの、怜菜」
「秋山君!」
一人でブツブツとつぶやきながら考えている私のもとに、秋山君は歩いてきた。


「って言うかさ、何でずっと『秋山君』て呼ぶの?」
「えっ?」
唐突に言われて、意味が分からないとも思ってしまう。
ああ、名字で君付けで呼ぶ理由か。
「えっと、なんか呼びやすいから、かな」
「じゃあ俺の名前、下の名前で呼んでくれる?」
「別にいいけど……」

秋山君って、結構大人しいタイプだと思ってた。
実際大人しいけれど、正義感が強いなあ、我が道を貫くドライなタイプだな、なんて考えていた。
「何か珍しいよな、怜菜が一人で考え事してるの」
「そう?」
実際、私は誰かと一緒にいて、大抵は笑顔を振りまく……というレベルではないけれど、ニコニコしている。
考え事するのは、多分家に帰って宿題をしている時かな。
「あれだろ、熊のせいだろ?」

まさか一発言い当てられるとは。
そんなに、私はわかりやすい思考回路をしているのか? ミドリムシか?
「顔に出てるし、ミドリムシが何で出てくるんだよ」
秋山君は笑ってる。
「口に出してるんだもんなあ」
「えっ!?」
恥ずかしいというレベルを通り越して恥ずかしいの二乗のレベル。
あー何を考えてるんだ私は。

91:さくら◆aI:2018/04/06(金) 19:44

クスクス笑いながら、
「そんなんだと、あの熊に笑われるぞ」
う、それは絶対に嫌だ。
「変な勘違いされたくねえし、俺もう行くわ。怜菜も何となく元気でたっぽいし」
じゃあな、と言ってから反対側に早歩きで秋山君は行った。
何だろう、特に何もしていないけど、気にかけてくれていたんだ……。

それなら私は、くよくよしている暇なんてない。
自分らしいかどうかはわからないけれど、とりあえずいつも通りでいよう。


帰りになると、愛衣と秋山君が来る。
二人と帰る方向が一緒という事もあって、最近はよく一緒。
「帰ろうぜ、熊に捕まる前に」
「捕まる要素あるの?」
いや普通にあるだろ、と秋山君がツッコミを入れる。
「だってあれだぞ、何してきてもおかしくないし」
確かに、そうかもしれない。

「しかし、今日はアイツいなくて良かったわ」
「へぇ、秋山君は結構バッサリ型なんだね」
愛衣が笑う。
愛衣は、たとえ苦手なことがあってもオブラートに包んで喋る。
だから、苦手な人に懐かれてしまう事もよくあると言う。
「いやダメだろ」
「ダメだけど!」
「まぁ、それも魅力でしょ」

私たちが一緒に帰ることは、これまでほとんどなかった。
けれど、いつの間にか一緒にいるようになった。
というよりも、熊が現れたせいと言うか、熊が来たからかな。

「何にせよ、熊に対して、俺たちは何もしない方がいいよな」
「ホントは何かしら、個人制裁を加えたいんだけどね」
私が二人に向かってそう言うと、
「怖いこと言うなよ」
「怜菜を敵に回したら大変」
なんて言われた。

でも、一番怖いのは杏奈だと思うんだけどなあ。

92:さくら◆aI:2018/04/07(土) 20:51

楽しい時間が過ぎるのは速く感じる。
「おっと、もう俺の家のすぐそばだ。それじゃあな」
玄関に走っていく秋山君を、私達は見送った。

「ねぇ、怜菜」
突然、愛衣が周囲の目を気にしながら切り出す。
「今日、怜菜の家に行っていい?」
「え?」
驚いて聞き返す。
愛衣は
「今日……帰れないの」
理由はあえて聞かないでおいた。話したくなさそうだったからだ。
いつもは大人しいけれど、芯が強い愛衣。
でも今日は、そんなイメージが全くなく、頼りなさげだ。
泣きそうな顔をしているのを見て、私は帰った方がいい、と言えなくなってしまった。

お母さんに何と説明したらよいものか、と必死に考える。
考え事が苦手なので、いい考えが浮かばない。
「ごめんね、無理を言って」
さっきから愛衣は謝り続けている。
「そんなこと気にしなくていいから」
実際、お母さんは割と器が大きいというか、深入りしてこない。
困ることもしょっちゅうあるけれど、こういう時は多分、深く理由を聞いてこないはずだ。

「ただいま」
「あら、今日は遅かったじゃない……?」
お母さんは私と愛衣の顔を交互に見た。
「怜菜、その子は?」
私は愛衣をちらっと見てから、
「友達なんだけど、今日親が出張で帰ってこないのに、家に鍵を忘れちゃったんだってさ」
実際、出張に行くことが多いから、何となく適当に考えた言い訳だ。
「あらそうなの。じゃ、お布団出さなきゃね」
自分でも驚くほどすんなりと納得したお母さん。

私は、すぐに夕ご飯を愛衣と食べてから、部屋に案内した。
「何だか、信じらんない。怜菜のお母さん、優しい」
愛衣の両親は、愛衣にあまり構うことが無い為、家に帰ると必然的に一人になると愛衣は言った。
「なんかさ、今日宿題を学校で出来たし、暇だね。何かゲームでもやる?」
「やりたいけど、ちょっと話もしたいな」
「ん、ひょっとして熊の話とか?」
「うん、気になるからね」

熊が何を企んでいようと、私たちに何か危害を加える気ならば迎え撃つ。
……いや、ボコボコにはしない。私にそんな力はないから。
でもまあ、ちょっと私たちが怖いなって思うくらいのことをしたいなあ。
じゃあやり返す?
ここで秋山君がいたら、すぐに復讐してたね。
杏奈はボロクソに罵倒してるよ。
とにかく、愛衣と私は話した。一気に話しすぎて疲れるなんて何時ぶりだろう。
「今日は寝ようか」
「そうだね、明日も一応学校だし」

別にいかなくてもいいんだけれど、成績が心配ならば出られる授業がある。
私の成績は平凡。今は結構危ないと思うから、この授業には頻繁に出ている。
愛衣は、私も危ないから出てるよ、なんて言ってる。
杏奈は成績いいし、多分来ないだろうな、と思いながら眠りについた。

93:さくら◆aI:2018/04/08(日) 20:37

眠い。土曜日の朝なのに早起きするなんて。
だるい体を引きずる。
「あれ、怜菜起きたの?」
同じく眠そうに目をこすりながら、愛衣が私の部屋に入ってくる。
「愛衣、トイレ?」
「うん。でもさっきは怜菜、ぐっすり寝てた」

確かに、まだ頭がボーっとしている。
「寝息が可愛かったよ」
「何言ってんのさ」
寝息が可愛いなら、愛衣の寝顔も可愛かった。
いや、寝顔にとどまらず、愛衣は可愛い。

「怜菜ー、起きてるー?」
お母さんだ。朝は私の目覚めが悪いから、すぐに起きてこないと心配して見に来る。
「うん、起きてるよ。何?」
「何、じゃないよ。今日は特別授業行くの?」
「行くつもり。あ、愛衣も一緒に行くから」
じゃ、弁当作っておいたからね、と言うとお母さんは仕事に出かけていった。


お弁当を持って、通学路を歩く。
「まさか弁当作ってくれるなんて」
「まあ、それがうちのお母さんだから」
いつでも忙しいことを何故か好むお母さん。だから、頼まれなくても作る。
愛衣が少し、寂しそうな顔をして
「うちの親も、怜菜のとこのお母さんみたいな人だったらいいのに」
「へぇ、佐野んとこの親はそんなに無関心なのか?」
「うわっ!」
情けない声を出して、私は飛び跳ねる。
後ろからひょっこり顔を出していたのは、秋山君だった。

94:さくら◆aI:2018/04/08(日) 20:44

「ま、でもそんな酷いって訳じゃないから……」
愛衣は人に対して、気遣わせるようなことをしないタイプ。
秋山君はそれに気づいてか、
「わかってるよ」
と言って笑う。「俺は子どもとして見られてないもん」
本当に何でもないことのように言う秋山君。
でも私と愛衣は、
「どういうこと?」
聞いてはいけないと思った。だけど聞かずにはいられなかった。

秋山君は、
「俺が生まれてから、両親は俺にあまり構ってくれない」
「家事を一任され、間違えると怒鳴られたし、家から追い出された」
少し間を開けて、無表情に淡々と言う。
でもそれ、愛衣の家よりマズいと思う。

愛衣の家は、両親の仕事が忙しい。
でも秋山君は、無関心なんだ、親が。
「ま、慣れたらそんなもん気にしないよ」
なんて秋山君は笑ってる。
だけど、普通の人なら慣れても気にならないことはないと思う。


教室に入ると、
「おはよう。怜菜」
杏奈が一人でメモ帳とボールペンを持って、窓際に座ってた。
「杏奈、来ないかと思った」
別に来る気はない、と杏奈は言う。
「ただ、渡井の行動監視のため」
誰かが聞いていることを気にしてか、声のトーンを低くして杏奈は言った。

95:さくら◆aI:2018/04/09(月) 20:20

「ま、そんだけだから」
それじゃ、と杏奈は笑ってた。
小さく手をあげて――誰かに合図をしたのかもしれないけれど――いつの間にか、いなくなってた。

「杏奈は別に、特別授業を受けには来ないんだよ」
「だからって、監視のために来るか?」
「……来ない、よね」

私たちは、お互いの顔を見てため息をつく。
私たちが渡井のことが苦手という事実は変わらない。
でも、別にわかる範囲で差別しているとわかる情報を集めようと思うだけ。
杏奈は、違う。
多分本気で苦手というか、ひょっとしたら憎んでいる。
そこで、休みの日にも登校したんだ。


今日は運がよく、特別授業をやってくれるのは結衣先生。
「あれ、怜ちゃんなんか苦手な教科あるの?」
不思議そうな顔をしている結衣先生。
正直、私は数学が苦手だ。
いつからかはわからないけれど、テストで思うように点数が取れなくなった。
「あー、でもそんな感じだなあとは思ってた」
流石結衣先生。
「愛衣ちゃんは英語?」
愛衣は驚いた顔で
「はい、長文問題が苦手です」
「じゃ、悠太は理科と社会?」
「……エスパーですか先生。確かに俺は理科と社会苦手ですけど」

それじゃあ、と結衣先生は
「主要五教科の要点を絞って、受験に向けた授業をやっていこうかな」

今更感があるけれど、結衣先生の受け持ち授業は音楽。
だけど、何故か国語を教えることもあるし、数学の問題を教えることもある。
「じゃあまずは英語から行くよ」
英語は同じような単語を見つけて……、と説明していく結衣先生の言葉を、ノートに書き写していく愛衣。
きれいな字だなあ。

96:さくら◆aI:2018/04/10(火) 20:29

intermission


あの子は、かなりの切れ者みたいだね。
まさか、わたしの存在に気が付くなんて。

わたしを助けてくれた彼女。
でも、多分彼女はわたしのことを覚えてないんだろうな。
だって、大勢子どもたちはいたんだもん。
たまたま引かれかけたのがわたしだった。
彼女からしたら、その程度の問題だと思うんだ。

ストーカーって訳じゃないよ。
盗撮してるわけじゃないし、たまに目で追いかける程度。
近くにいるけれど、偶然を装っている。
……やっぱり、ストーカーと言われてもおかしくないね。

わたしは学校に通っている。
当たり前だけど、いつでも彼女を見守ってるわけじゃない。
だから何が起きてるのかわからない、空白の時間がある。
彼女がおびえている相手の情報が足りない。

でも、彼女と割と親しい人がわたしの存在に気が付いた。
それが、さっき手をあげて合図してきたあの子。

意外なことに、あの子は熊そっくりさんに深い恨みを抱いているらしい。
さっぱりした性格だから、そこまで恨む対象がいることにも驚き。
大抵はいいんだけど、これは許せないって言ってたなあ。

彼女のことを、けなす奴は許さない。
彼女の明日を汚させない。わたしが守るんだ。


intermission out

97:さくら◆aI:2018/04/13(金) 20:51

特別授業を怜菜たちが受けに来た。
違和感はない。
むしろ、今まで行きたがらなかったのは何で? と思うくらい。
まあ余計なお世話だね。

あの能無し熊センコー、今私が突撃したらどんな顔するのかしら。
嗤う?
無理だね、あれは。笑うのなら頭逝かれてる。
とにかく、私はアイツ嫌い。
嫌いってレベルじゃない。
許されるなら、地獄に叩き落してやりたい。
この手で復讐してやる。

怜菜たちを傷つけた。
私の親友を奪った。
私の心も、親友の家族も傷つけた。
それなのに、渡井は笑っていられる?

そんなの許さないから。
見てなさい、私の復讐劇を。
泣いて誤ったって許さないわ。
追い込んで、生き地獄に叩き落して、ボロボロにしてやる。

98:さくら◆aI:2018/04/15(日) 20:09

特別授業を終え、少し理解できた。
テストの点数を気にするこの時期、授業はありがたい。

特に、結衣先生に会えるし。
「このくらいでどうかな?」
「ありがとうございます、これでどうにかできそうです!」
私に、笑顔で答える結衣先生。
「別にいいよ」
愛衣は、幸せそうな顔をしている。
「もう、今日の担当が結衣先生で本当に良かった」
「お前ずっと言ってたもんな」
秋山君に言われ、
「何で言っちゃうのー!」
顔を真っ赤にしながら、慌てる愛衣。

99:アレン:2018/04/21(土) 19:09

この小説好きです!
更新、がんばってください!!

100:さくら◆aI:2018/04/22(日) 20:12

>>99
アレンさん、ありがとうございます<m(__)m>

101:さくら◆aI:2018/04/22(日) 20:23

「そう言ってもらえると、先生は嬉しいな」
結衣先生が笑う。
その言葉を聞いて、愛衣も表情を和らげる。

私も笑って、
「先生のこと、私たち大好きですから」
「あんな熊なんか絶対信用できないからな」
秋山君もそう言って笑う。

結衣先生は心配そうに、
「うーん、やっぱり渡井先生何するかわかんないもんね。
怜ちゃんは暴力振るわれてるし、愛衣ちゃんと悠太君は屁理屈を押し付ける、差別されてるし。
それでも信用しろ、自分は正しいなんて言うのはあり得ないもんね」
「別に、それは」
「できる限り、先生も協力するから」
力強くそう言って、結衣先生はにっこりとほほ笑む。


私たちが教室を出で、しばらく歩いていると
「何かいるぞ」
突然秋山君が言う。
秋山君が指さす方を見てみるが、何も見えない。
ちょっと、と言おうとしたら秋山君は走り出した。
「おい、何してくれてんだよ!」
大声で怒鳴る秋山君。
「結衣先生に、何してんだよ!?」
「……!」
結衣先生は、渡井に腕をねじ上げられ、床に倒されていた。


「結衣先生っ!」
「愛衣! ダメ!」
愛衣が駆け寄ろうとするのを、私は必死で止めた。
無言で持っていたカメラを取り出し、写真を撮る。
それからすぐに、結衣先生のもとに駆け寄る。
「怜菜!」
「怜ちゃん!」
「香山!?」

私は迷わず、渡井にタックルした。
「子どもの分際で舐めてんのか!」
よろけて、体勢を崩した渡井に私は
「証拠はあります。ちゃんと写真を撮ってあるので、訴えますよ」
渡井は慌てて「今のは違う、間違いだ!」
「へぇ、あんたサイテーだね」
「……奈月、先生」
冷たい目で、渡井を見下ろす奈月先生が、後ろにいた。

102:さくら◆aI:2018/04/25(水) 21:14

「怜菜、ちょっとどいて」
奈月先生は冷たい視線を渡井に向けながら、私に言う。
普段は怒らず、諭すように言うだけの普段の姿とはあまりにもかけ離れていて、怖い。
恐怖を感じるのは、ギャップもあるんだろう。

私の脇を通り、渡井の目の前に立つと、
「あたしは無駄な時間は省く主義なんだ。さっさとそこをどきな」
そう言って、渡井を睨みつける奈月先生。
「……」
何かを口の中でボソボソと言いながら、結衣先生から離れる渡井。
結衣先生は、渡井に押さえつけられていたにもかかわらず、そこから離れない。

「結衣先生?」
愛衣がいぶかしげに言う。
「……ねぇ」
小さい、けれどその場にいるみんなが息をのむ迫力を込めて結衣先生が言う。
「生徒を差別して、気に入らない人がいれば力ずくで追い落とそうとする。それが、本当に正しいとでも思ってんの?」
「だって、あれは香山が」
「人のせいにするなよ!」
我慢の限界だといわんばかりに、秋山君が突っかかる。

「生徒の分際で、とかそんなもん関係ねえよ。
陰で校長に媚び売ってみたり、俺たちの悪口とか散々垂れ流して。
証拠がないとでも思ってんのか、この間抜け!」
そういいながら、ボイスレコーダーとカメラを取り出す。
「俺は戦うからな。あんたの名誉とかそんなもん爪の垢以上に興味ねえよ」
まあ、と一呼吸おいてから
「どのみち恥を晒すことにはなるんだから」
ニヤリと笑って言った。


奈月先生は、秋山君を遠くで見ていたが
「ああ、その辺にしときな。あいつ、あんたの家に行くつもりだろう。今すぐ帰んな」
秋山君は無言でうなずき、走っていく。
愛衣は、さっきから結衣先生を気にしていたが、泣きそうな顔をしている。
「愛衣、休んだら?」
「……そうする。ごめんね、怜菜」
愛衣も、家に帰っていった。

残った私は、まず奈月先生にお礼を言った。
奈月先生は笑って、
「どうってことない。それより、怜菜は大丈夫?」
「はい」
そっか、と言ってから
「あたしはこれで失礼するよ」
職員室に奈月先生は歩いて行った。


私は結衣先生を見た。
落ち着いて気が抜けたのか、廊下に座り込んでいる。
「結衣先生」
私が呼びかけると、
「……怜ちゃん」
普段通り、というわけがなく、弱々しい声で
「ごめんね」
と言ってきた。
「さっき、渡井先生に捕まれてさ。後ろから抑え込まれて……。抵抗できなくて」
泣きそうな顔で続ける。
「それで、襟を閉められた。ほとんど首を絞めてるようなもの。怖かったよ……怜ちゃんがタックルをしてくれたから助かった」
ありがとうね、と目に涙をためながら笑う結衣先生。

103:さくら◆aI:2018/04/28(土) 20:14

私は結衣先生の真正面に座り、
「いつも、私は先生に助けられていますから」
かっこよく決めたいと思ったから出てきた言葉だけど……。

実際は、何だか自然にタックルしてたんだよね。

104:さくら◆aI:2018/04/29(日) 17:43

正直、怖かった。
いくら何でも、力ずくでどうにかしよう、と渡井が考えるわけがない。
そんな風に思い込んではいけなかった。

思い込みって、怖い。


「結衣先生!」
愛衣と秋山君が走ってくる。
私はブイサインを見せて、大丈夫だと示した。
「よかった、怪我無くて……」
秋山君は
「いつかぶっ飛ばしてやる!」
なんて息巻いてる。
「ぶっ飛ばさなくてもいいよ……大丈夫、だから」

涙は止まっているけれど、恐怖心はまだ消えていないだろう。
私はすぐに感じ取った。
結衣先生のそばに、寄り添うように座る。
「渡井、あれでも自分は正しいって思いこんでるのかな」
愛衣がぼそりとつぶやく。

ああ、そうだった。
渡井は自分大好き熊だった。
「だろうな、一度脳病院に連れていくべきだと思うぜ」
いや、無理でしょと私はツッコミを入れる。
「だって、他の人から見たら正常だもん。どうにもなんない」


みんな、そうは思いたくなかった。
でも、それは現実だ。受け入れるしかない。
「とにかく、結衣先生のことは守って見せる」
私は力強くつぶやく。

105:さくら◆aI:2018/04/29(日) 20:18

「そんな、先生は大丈夫だから」
気にしないで、とでも言おうとしたのだろうか。
先生の言葉が出てくる前に、
「そんなことないです。それに、何かあってから、じゃもう遅いですし」
私は結衣先生のことだけを、先生の中では信頼してる。
だから、絶対に傷つけたくない。



それがたとえ、私のエゴだったとしても。
私は、絶対に守り抜く。




異性であろうと、同性であろうと。
大切な人の笑顔だけを見ていたい。

106:さくら◆aI:2018/04/30(月) 20:22

くすくすと笑う声が聞こえてきて、隣を見ると
「怜ちゃんは、いつも気丈に振舞うよね」
結衣先生が笑っていた。

渡井と違う。
バカにして、蔑んで嗤う渡井。その笑顔の卑しいこと!

でも、結衣先生はクスクスと笑っていても、それが厭味ったらしいものではないってわかる。
むしろ、誰かを気遣う優しさが滲み出ている。
だから、私は結衣先生が好き。一緒にいて、安心するし、人間として尊敬する。
「気丈っていうか……思い付きで行動しているんですよね」
「衝動的ってこと?」
一瞬、キョトンとしてから
「でも、とっさの判断で、その時に必要なことをどうにかできるってすごいよ」
「すごいですか?」

何だか恥ずかしい。
というより、アホか私は。

「たまに、怜ちゃん、表情に出てるからね」
何を考えているのかわかるよ、と結衣先生は言う。
ええ、顔に出てたのか……。
なんかショックだなあ。
「ううん、ちゃんと理解できるから、私はその方がいいな」
笑う。無垢な笑顔、と言える。


そのあと、しばらく結衣先生と一緒にいた。
でも、変える時間になったので、帰ることにした。

廊下を曲がった時、何かが視界をかすめた。
……何かいるの? この先に。

107:さくら◆aI:2018/04/30(月) 20:25

intermission


わたしの姿、彼女は見ちゃったのかな?
まあいいや。
どうせいつかはバレる。ばれないようにするってこと自体が違うかもしれないし。

わたしのことをどう思うのかは知らない。
悪いことって思うかもね。

だから何?
だって、彼女に何ができた?
この現状を打開するには、非現実的なことをしないと無理。
そんなこと、きっと考えなくてもわかる。

所詮はきれいごと。
自分の目的の達成のためだもの。


intermission out

108:さくら◆aI:2018/05/02(水) 20:16

私はそのあと、一人で帰った。
もともと、杏奈と一緒に帰ることはなかったから、愛衣、秋山君と一緒に帰るようになるまでは
必然的に一人だった。

歩きながら、私はずっと考えていた。
さっきの影は、何なんだろう。
多分、知らない人だ。だって、ちらっと見ただけとはいえ、着ている服くらいはわかった。
その服を持っている知り合いはいない。その影の背格好の人物で。

まさかストーカー……。
なわけがない。
私の顔は、どう考えても平凡並だし、女子らしい体つきでもない。
ショートヘアだから女子だとみられるけれど、もっと短いと男子と間違われる。

全く知らない人、とも考えにくい。
私は割と、顔が広い方だ。
小さい子とはよく遊ぶから、自分より小さい子どもの知り合いも多い。

でも、私の知っている子にあんな子はいなかった気がする。
流石に顔までは見えないし、背格好が似ている子なら何人もいる。
何だかモヤモヤする。とりあえず、似ている子に学校に来たのか聞いてみようかな。
そうしよう。さすがに中学校の人ではなく、知り合いでもないと思うと怖い。
とりあえず、今はもう考えないようにしよう。


家に帰ってからも、さっきのことを思い出してしまい、落ち着かなかった。
妹には笑われてしまう。
自分の部屋にずっといる。
何故かそのことが夢に出てきて、うなされて起きた。
思わず、笑いが込み上げてきた。
私の神経って、こんなに弱かったっけ、と考えると自然と笑えて来て仕方がなかった。

109:さくら◆aI:2018/05/03(木) 19:43

目を覚ました。
頬に水分を感じて、触ってみるとかなりべたべたした。
どうやら、眠りながら泣いていたらしい。
「……ははっ、情けないなあ」
自嘲気味につぶやいて、布団を剥いだ。

学校に行ってまで、昨日のことを引きずるのも格好が悪い。
せめて、クラスメイトの前では笑っていないと。

だって、昨日のことを説明できないから。
そんな些細な事を気にする性格じゃないし。


「おはよう!」
元気に声をかけてきたのは、愛衣だ。
「おはよう、愛衣。今日は早いね」
まあね、と愛衣は言う。
「朝早ければ、多分他のクラスメイトがいないし、話しやすいと思って」
「ん、誰と?」
「杏奈」

愛衣が答えた瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。
「あれ、怜菜もいたの」
杏奈はゆっくりと歩いてきて
「ま、その方が都合がいいか。とりあえず、ちょっと来て」
指さす方向を見ると、資料室があった。


「怜菜には悪いけど、ここは誰も来ないから」
杏奈はそう言いながら、内側から鍵をかけた。
「ああ、渡井に引きずられた時のことは気にしないで。それより、話って?」
促すと、杏奈は一度深呼吸して
「昨日、秋山君の家に渡井が現れた。それで、秋山君はケガ。今日は休み」
端的に言う杏奈。

「ちょっと待って、どういうこと?」
「どういうもクソもない。秋山君は、急に家に来た渡井を追い返そうとして、逆に渡井から襲撃された」
ええ、と私たちは驚きと呆れが混じった声をあげる。
「怪我の様子は?」
「腕から出血、顔に痣。それと、渡井からの襲撃をよけようとして転んで、足を怪我したらしい。症状は知らない」
何だか、思ったよりも派手……。
「大丈夫。それより、これからの作戦を伝える」

私と愛衣はうなずき合い、視線を杏奈に戻した。
「これからすぐに、私と一緒に動いて」
どうしたらいいのか、何も言わせない迫力で言う杏奈に、私たちは頷くしかない。

110:さくら◆aI:2018/05/05(土) 19:48

杏奈についていくと、職員室の目の前に着いた。
それまでは早歩きで進んでいた杏奈が、急停止して私たちを振り返る。
「これから、渡井に突撃するよ」
ひそひそと杏奈は言う。
「は、今から!?」
驚いたけれど、声を大きくしすぎないように気を付けながら私と愛衣は言う。

杏奈は頷く。
「ま、賭けだから」
賭けって言われても……。
それ、ハイリスクハイリターンでしょ。

と言おうとしたその瞬間、
「失礼しますっ」
杏奈は大きな声で言い、職員室の扉を勢い良く開けた。
唐沢先生は驚き、奈月先生は見て、結衣先生は小さくうなずいた。
金森先生は青筋を顔に浮かべている。
それを見て、渡井はニヤリと笑った。
私は隠し持っていたカメラで録画をしている。

渡井は杏奈を見て
「今は職員会議中ってことは、馬鹿でもわかるだろ」
と嘲笑う。

それを聞いて、杏奈は怒りを爆発させたのだろうか。
「フン、所詮一人じゃ何もできない粋がりクソ教師の癖に、生徒を馬鹿にするとか頭逝っちゃってるんですか?」
売り言葉に買い言葉、これじゃ何もできない。
「大人に向かってそんな口の利き方はないんじゃない?」
「あ? 誰が熊に敬語なんか使うんだよ?」
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「それはこっちのセリフだ、このクズ!」

杏奈はさらに一歩歩み出た。
愛衣が、杏奈の後ろから顔を出す。
「先生……最低です。私と秋山君を差別しているくせに」
「どこに証拠がある?」
「お前ら、話はあとで聞く。教室にすぐに戻れ」
「それが先生のすることなんですか?」
「いいから戻れって言ってんだろ!」

私は廊下で頭を抱えた。
こんなんで、本当に何か効果があるのだろうか?

111:さくら◆aI:2018/05/06(日) 20:00

廊下に出るなり、杏奈は大声で
「あんたらには失望したよ、能無し熊野郎の仲間はやっぱり能無しだな! この間抜け!」
「ちょっと杏奈!」
私たちは慌てて杏奈を制する。

愛衣は、杏奈の指示であの時に口を出したらしい。
でも、今の怒り狂ったようにしか見えない杏奈を見て、慌てるというレベルではないほど慌てている。
私はとにかく、杏奈を引きはがそうとした。

この場に私と愛衣がいるという事は、後で勘違いされる可能性が高い。
まあそれはまだいいけど、杏奈がボロクソに罵倒しているから、親を呼ばれる。
後から土下座させられるとか一番勘弁してほしい。
まあ、実際一度火が付いた杏奈をどうにかするのは難しい。
一緒にいることが多い人間ですらそう思う。


「お、怜菜おはよ」
階段を上ると、秋山君がいた。
「あ、おはよー……」
何だ、元気ないなという秋山君に、私は後ろでイラついている杏奈を手で示した。
「ああ、何かやらかしたんだろ?」
合ってるだろ、と言いたげな顔で私を見つめる秋山君。
「うん、何で分かったの?」
「顔がやばいぞ、朝から疲れ切ってるし、教師どもが来るの遅いし」
ああ、なるほど。

まあさっきのあの騒ぎがあったのに、すぐに上がってくるわけないよ。
生徒が反抗的な態度をとる、罵倒するなんて数十年前じゃあるまいし。
校内暴力のあらしが吹き荒れた時代でもない限り、大体は適当に意見を押し付けて
ゲームで生かされているような向上心のない生徒をつくる。

「ま、所詮は自分の利益しか考えないししょうがない」
「しょうがない、か……」
諦めたくないけど、あきらめようかな。

秋山君はそんな私を見て、ニヤッとした。
「革命でも起こそうぜ」

112:さくら◆aI:2018/05/12(土) 19:08

革命?
意味が変わらず、ポカンとした私を見て
「決まってんだろ、あいつをぶっ飛ばすんだよ」
「渡井を?」
「他に誰がいるんだよ」

秋山君は真顔で
「はっきり言やあ、これは正当防衛だろ」
そうかなあ……。
「また渡井に引きずられて、殴られてもいいのか?」
「それを、どうして」
「俺が知らないと思うか? ちゃんと知ってるし、その辺は本気で考えろ」

いつもの飄々とした雰囲気はどこにもなく、肉食獣のような眼をしていた。
私はそれに気が付き、おびえた顔をしたのだろう。
すぐに目を戻し、ふっと笑う。
「俺は本気であいつをぶっ飛ばす。もう、怜菜も杏奈も俺も愛衣も、誰も傷つかないようにするんだ」
「……」

私は何かを言おうとした。
しかし、言葉にならなかった。
それは緊張からか、それとも本気の目を見てかはわからない。
「革命、つまりこのことだ」
私が何かを言おうとした瞬間、
「何やってんの、怜菜?」

杏奈が歩いてきた。
「ああ、秋山君と革命の話をしてて」
ふうん、と杏奈。
「まだその話、途中だったんだけどね」
「途中?」

首をかしげる、私と愛衣に杏奈は
「うん、途中。どうしようか、計画途中だったけど……」
私たちの顔を一度見まわしてから
「いっちょやって見るか」
とひとり呟く。

113:さくら◆aI:2018/05/13(日) 18:34

「は? 何を?」
私は間抜けな声を出す。
杏奈はニヤリと笑って
「決まってるじゃん。渡井をぶっ潰すんだよ」

怖いよ、杏奈……。


杏奈が秋山君と一緒に行ったのを確認して、
「何考えてるのかな、杏奈」
と愛衣が言う。
そんなの、私だって知りたい。
一方で、怖くて聞けない。

愛衣も同じなのだろう。
少し、怯えた顔をして
「私は、怖い。杏奈がどこか遠くに行っちゃったみたいで……」

悲しそうな声が響く。
私は何も言えずに、ただ黙っていた。

愛衣の悲しげな視線が、杏奈と秋山君をとらえていた。

114:さくら◆aI:2018/05/27(日) 20:35

休み時間、秋山君は私のもとに来た。
「ちょっといい?」
「いいよ、何?」
席を立つと、廊下の隅に行く秋山君。

そして、制服をまくって見せた。
「――!」
私は声にならない声で叫んだ。


制服の下の足は痛々しいほどの痣があり、腕には包帯が巻かれている。
顔も、よく見ると青あざができている。
「これ、聞いたか?」
「あの、渡井にやられたっていう……?」

115:さくら◆aI:2018/06/02(土) 20:23

「ああ、そうだよ」
あっけらかんという秋山君。

何でもないよって顔をしてるけど、そんなことないでしょう?
「おい、そんな大ごとじゃねえんだから気にすんな」
「で、でも……」

私は思わず、声を大きくしていた。
「だって、こんな酷い……! 自分の思い通りにいかないからって、生徒を徹底的に差別して、それを指摘した秋山君が怪我しなきゃいけないなんて……っ」
「落ち着け」
冷静な声。私を見て、静かにはっきりと断言した。
「俺は自分が変だとは、今回のことでは思わない。怜菜もそう、それが普通だ。
だけど認めてもらえず、いっぱいいっぱいになっちゃってるんだ」
私はハッとして、秋山君を見上げた。
そうなんだろ? と言いたげな顔をして秋山君はじっと見ている。




intermission


流石。
あの男の子は、彼女にとっていい意味で刺激になるね。
わたし?
わたしは何にもならないよ。
しいて言えば、護衛。
そうそう、わたしはこっそり、賭けに出てみたんだ。
さて、どうなるかなあ?


intermission out

116:さくら◆aI:2018/06/06(水) 20:46

――認めてもらえないから、いっぱいいっぱいになってる。

秋山君……。
「だけど、大丈夫だ」
本当に、大丈夫かな?
なんて、信じたいのに疑ってしまう。
「……トモダチ、だろ?」

そうだ。
私は一人で、あんな悪魔と戦ってるわけじゃない。
杏奈、愛衣、秋山君がいる。
「だから大丈夫だ。俺は絶対、あいつからお前を守る」
「ちょ、自分の心配はしなくてもいいの?」
「俺がやられるわけないだろ」

真っ白な歯を見せて、ニッと笑う。
でも、昨日熊にやられた人がそんなに自信満々だなんて。
「あれは不意打ちだ、汚ねぇ手使いやがってあの野郎!」
「怒らないで」

ここで怒っても、あいつの思うつぼだ。
「こちらのペースに巻き込んでやろうよ」
「そうだな。……じゃ、怜菜やって見るか?」
「は?」


どうして私なのか、何度も聞いてみたけれど、何となくだって。
意味わかんない!
何で私がおとりなの?

「じゃあ、廊下で熊の悪口言いまくって」
「ええ、何でよ?」
「あとは俺と愛衣がどうにかするから」
強引に決められた。

「ねぇみんな、聞いて聞いて!」
何々?とみんな不思議そうに集まってくる。
「何、どうしたの怜菜?」
私はここぞとばかりに大声で叫ぶ。
「渡井先生ってねぇ、生徒を差別するんだよお!」

は、何言ってんのこいつ、気が狂ったのか……?
戸惑うみんなを、私は真顔で見つめ返す。
「何、怜菜大丈夫頭?」
「何なのマジで!?」

私はみんなを見てた。
無表情に、何も言わずに。
「何やってるんですか!?」
渡井が血相を変えて走ってくる。
「おい怜菜、こっちだ!」
同時に、秋山君が私を呼んでいる。

秋山君の指さす方向に向かって走った。
「杏奈!」
「怜菜?」
杏奈がそこに立っていた。「よくやったじゃない、ほら見て」
杏奈は、さっきまで私がいた場所を指さしている。
「私は差別などしていません! 香山怜菜、いい加減にしなさい!」
「みんな落ち着けー! 俺たちの経験談とボイスレコーダーが何よりの証拠だ!」
「そうよ、あなた散々差別して、たまに私にド変態発言しておいて、許されると思わないでよ、この幼女好き変態!」

少し聞いているだけで、お互いに罵倒し合っているのがわかる。
「うわぁ……すごい」
「まあ、そんくらいされて当たり前ね。やられたらやり返す。……私の親友を傷つけといて、ただで済むと思うんじゃねえよ」
いつになく低い声で言う杏奈に怯えて、私が距離を置くと
「ああ、ごめんごめん。いつもこんな声出さないもんね」
いつも通り、元気な杏奈がにっこりと笑って立っていた。

117:高尾優斗◆ow (=゚ω゚)ノ ―===≡≡≡ dice2:2018/06/07(木) 16:08

杏奈ちゃん怖いけどかっこいい!
スレ主さん頑張ってください!!

118:さくら◆aI:2018/06/24(日) 18:13

>>117
ありがとうございます<m(__)m>

119:さくら◆aI:2018/06/24(日) 18:21

杏奈は、秋山君と愛衣を見て
「なんなら、ボイスレコーダー再生しちゃえばいいんじゃない?」
と大声で言った。

私たち四人と、結衣先生が持っていたボイスレコーダー。
それらを、愛衣はみんなにしっかり見えるように持って
「これが証拠だよ!」
と言いながら再生した。

渡井は、
「違う、違う、私はそんなことはしていない」
と必死に繰り返している。
それを聞いた結衣先生が
「いい加減に認めたらどうなの、怜ちゃんたちを苦しめたこと」
さっきの杏奈みたいに低く、冷たい声で言う。
「だって、あれは香山怜菜が」
「杏奈ちゃんが考えていたことを知らなかった、そう素直に言った怜ちゃんが悪いの? どこが!?」
普段の優しいまなざしはどこへやら、と誰かがつぶやいた。

私は遠くから、杏奈と一緒に見ている。
「ねぇ、この後どうするの?」
「決まってんじゃんよ。怜菜がビシッとあの能無し熊に文句を言うんだよ」
えー……。

流石に、私の言葉じゃ……ともじもじしながら言う私に、
「いいんだよ。ダメなことを教える教師から、ダメなことを学ぶ生徒は増やしちゃいけない。
それに、わたしからもあいつに言いたいことはある」
そういうと、杏奈は私の前に進み出た。

怯えたように杏奈を見上げて、
「何をするつもりだ?」
と聞く渡井に対し、
「もう我慢できないから言う。……この人殺しっ!」
私はもちろん、周りのみんなも、秋山君も、愛衣も、結衣先生も、みんなが驚いた。

120:さくら◆aI:2018/06/24(日) 19:10

ポカンとする私たちに構わず、杏奈は叫んだ。
「わたしの、大事な幼馴染を追い詰めた最低熊野郎!」
私は杏奈の悲痛な叫びを、黙って聞くしかない。
「まさか、佐山凜のことか?」
「そうだ! あの子は、つい最近死んだんだよ、あんたのせいで!」

言葉の途中からあふれてくる涙を拭うこともせず、ただ叫ぶ杏奈。
「あんたが! 嘘を広めて、凜と凜の両親を壊した! 凜の両親はあんたを信じて疑わなかった!
あの後どうなったか知ってるのかよ?」
「……知るわけないだろ」
「凜は人形みたいになっちゃったんだよ! 凜の両親は凜のことを責めて、耐え切れずに凜は死んだ!
だけどあんたは、そんなの俺のせいじゃないって顔して、今もわたしの、親友である怜菜を
壊そうとしたし、秋山君と愛衣を差別したんだ!」

それまで、聞いたことのなかった杏奈の過去に、私は絶句した。
それでは渡井は、間接的に人を殺したのだ。

121:さくら◆aI:2018/07/01(日) 18:51

杏奈はさらに、
「同じ名字でさ、いつも一緒にいて、本当に楽しかったんだよ!
なのに、あの子の人生を奪いやがった!」
そこまで言うと、膝から崩れ落ちた。
杏奈は大声で泣いていた。

結衣先生は、茫然として杏奈を見つめている。
杏奈がもともと、渡井を病的に嫌っているのはわかってた。
でも、まさか幼馴染が奪われたという理由だなんて思ってもいなかったはずだ。

「……そんな」
私は思わず、言っていた。
「そんなの、酷い……!」
杏奈のもとへ走っていき、震えている杏奈の肩を抱きしめた。
「……怜、菜…………」

杏奈がこっちを見ているのがわかる。
「杏奈……よく、頑張ったね」
また、杏奈の肩が震えた。
顔を見ると、目を大きく見開いている。
そして、
「う……うわあぁぁぁ!」
我慢の限界だといわんばかりに、叫んで、大粒の涙をボタボタとこぼした。

122:萌夏:2018/07/14(土) 17:13

頑張って

123:さくら◆aI:2018/07/14(土) 19:38

>>122
萌夏さんありがとうございます<m(__)m>私もよく、萌夏さんの小説を読ませていただいています!

124:さくら◆aI:2018/07/14(土) 19:43

今まで杏奈が背負ってきたものは、きっと私たちが想像している以上に大きいものだ。
わかるわけがないんだ、と私は思った。
冷たいことを考えてしまう。

だって、自分の気持ちは、自分にしかわからないから。
それでも私は、杏奈を強く抱きしめた。

例え他人でも、痛みを共有することはできる。


「怜菜ぁ……」
杏奈が、弱々しい声で私の名前を呼ぶ。
「杏奈」
私は優しく返す。

今の杏奈に、何をどう言えばいいのか、私にはわからない。
だけど、いや、だからこそ、寄り添うんだ。

私も、渡井から受けた痛みはいくつもある。
別に杏奈のように、知り合いを間接的にも直接的にも壊された、というわけではない。
そこまで重くはない。

125:さくら◆aI:2018/07/14(土) 19:52

私は杏奈を抱きしめたまま、渡井を強く睨みつけた。
「何ですか、香山さん。その反抗的な目は!」
私は冷たく言う。

「反抗的? そりゃそうでしょう。
私も、あなたのせいで家族を壊されたんですから。
常に周りに怯えて暮らす、私の母を見ても、きっとあなたは何も感じないでしょう。
理由もわからず、突然壊れた母を見て、単身赴任中だった父が帰ってきて、それを嘆く姿が浮かびます?」

本当は怒鳴りたいし、感情に任せて報復したい。
でも、私は嫌だった。そんな気力すらわかない。

「……それは、私が悪いっていうんですか? 香山さんがそんなだから」
「いい加減にしてください!」
結衣先生が強く言うのを聞き、慌てて黙る渡井。
「この期に及んでまだそんな戯言言うつもり?
怜ちゃんが何をしたのよ? 逆に自分が生徒を差別しておいて、その態度なの!?
それ見なさい、今だって私が怒鳴った瞬間だんまり。何逃げてるの!」
私は、結衣先生を見て、軽くうなずいた。

「母がおかしくなったせいで、妹も壊れてしまいました。父も、結構必死に耐えてます……」
感情を押し殺していたけれど、体は素直だ。
涙があふれてきて、どうしようもない。
「責任とってくださいよ。私の大好きだった家庭を、返してくださいよっ!」

もう我慢できない。
気が付けば私は、渡井の肩をつかみ、激しく揺さぶりながら訴えていた。

126:萌夏:2018/07/14(土) 20:34

123さん
あ、そうなんですか?!嬉しいです。良かったらあっちのコメントで感想など書いてくれたら嬉しいです❤応援してます!

127:さくら◆aI:2018/07/16(月) 19:01

この日、渡井は早退した。


私が落ち着いて、教室に行くと
「怜菜、大丈夫?」
と何人か声をかけてくれた。
「うん、大丈夫だよ」

本当は、すごく怖いよ、不安だよ。
でも、『大丈夫?』って聞かれたら『大丈夫』って返すしかなくない?
だって、知らない人に話すといろいろ勘違いされるし。

「怜菜さん、奈月先生が呼んでるよ」
私が買えり支度をしていると、クラスメイトの御月さんが近くに来て、そういった。
「え、本当? ありがとう」
御月さんはうっすらと笑いを浮かべて、私を見つめ返した。


廊下に行くと、
「お、怜菜」
いつも通り、クールな奈月先生と、何故か大毅君がいた。
「何つーか、お前スゲーことしてんな……」
「つい、抑えきれなかったの……」
まずいよな、と思って下を向いて答えると、
「気にするな」

奈月先生が笑って、私の頭をグシャグシャと撫でた。

128:さくら◆aI:2018/07/26(木) 18:29

「あーあ、怜菜いいなあ」
いつのまにか隣にいた秋山君がボソッという。
「え、何が?」

秋山君が私をうらやましがる要素なんかあるのか?
なんて不思議に思っていると、
「だってさ……」
何かを言おうとして、口を開いた秋山君を遮って
「そうだ! 秋山、お前親に『いらない』って言われてたもんなァ!」

まだあきらめていなかったのか、渡井が嗤いながら言う。
「……はぁ!?」
私が怒り交じりの怒鳴り声を出すと、
「香山だって、ただのいい子ぶりっこじゃねえか、なぁ?」
周りに呼びかける。

どうしてそんなこと言うの?
っていう悲しい気持ちと、
何で、そんな情報を――秋山君の家庭の問題を――渡井が知っているの?
っていう驚きとで、頭の中がぐちゃぐちゃになった。


驚きの方が強かったからか、何も言えない私に
「香山、秋山、佐山! お前ら全員に復讐してやる! まずは秋山からな!」


唐突な宣戦布告とともに、渡井は走り去っていった。

129:さくら◆aI:2018/08/06(月) 21:17

しばらく驚いて、ポカンとしていた。

「なあ」
唐突に秋山君が口を開く。
「なんで、愛衣の名前は言わなかったんだアイツ」
「そんなの、知らないよ……きっと、言い忘れだよ。わたしのことも、きっと渡井潰すつもりだよ」
弱気な愛衣に、
「なわけ。愛衣は可愛いでしょ。だから」
杏奈がぴしゃりという。

ああ、そっか。
アイツ、面食いかー。って、ロリコンじゃないの?

「おい、怜菜」
急に名前を呼ばれ、後ろを振り向くと大毅君がいた。
「お前さ、何考えてんの? すげー不気味」
「あ、そうか。大毅君渡井のこと大好きだもんねー。そりゃそう言いたくなるでしょうね。
それとも、それは渡井からのお願いかな?」

あえて意地悪に言ってみる。
すると、
「ん、んなわけねーだろ!」
顔を真っ赤にして必死に反論してくる。
「説得力ないね。どうでもいいけど邪魔だけはしないでね?」
「何でだよ!」

何で、って……まったく、大毅君ったら。
「ま、アイツの肩持つなら勝手にしてね? でもそれは、差別を認めないことと同じだからね?」
「だってよお、美咲だって信じてないぜ?」
「ほらやっぱり。可愛くて聞き分けのいい子にはすごーく甘い顔。
要はご都合主義なんでしょ?」

さらに詰め寄る。
正直、こんな言葉がさらっと出てくるわけじゃないんだ。
ここで引き下がったら、きっと納得できないから。

ごめんね、大毅君。

130:さくら◆aI:2018/08/09(木) 17:59

でも、そんな私の気持ちは通じていなかった。
「怜菜……お前、そんなコロッと変わっちまうほどのショックがあったのか?
それがあいつのせいだって言いたいのか?
でも、だからってやり返していいのかよ……」

大毅君の気持ちもわかる。
わかりすぎるってくらいにわかる。だからこそ、つらい。
「…………ごめんね」


さんざん迷った。
もうここで、大毅君にすべてぶちまけてやろうか。
それとも、振り切って逃げるか。
でも意味はない。謝ることしかできない。
「怜菜……」
何か言いたげな大毅君を無視して、私は走り出した。


走ったところが廊下だった。
目の前にいた人にも気づかず、思い切り正面衝突してしまった。
「いったー」
何か聞いたことある声だなあ、と思っていると、亜依だった。
「わ、ごめん亜依ちゃん」
「怜菜先輩が前方不注意? 何かしたんですか?」

迷ったが、亜依ちゃんも渡井のことが嫌いだという。
すべてを話すことにした。
聞き終えた後「渡井サイッテー!」
と怒鳴る。

「怜菜先輩、実は私の友達も渡井に差別されてるんです!」
「え、そうなの!?」
「なので呼んできました。怜菜先輩のことを気にしていましたし」
亜依ちゃんの友達は、陽子というらしい。
「えっと、陽子ちゃんだっけ?」
「はい。初めまして、怜菜先輩」

131:さくら◆aI:2018/08/12(日) 18:10

大人しそうな陽子ちゃんを見て、一瞬迷ったが聞くことにした。
「渡井のこと苦手って、亜依ちゃんから聞いたんだけど……」

すると、それまで黙っていた陽子ちゃんは
「そうです。私はあの悪魔に壊されたんです」
と叫んだ。

聞いているこっちが悲しくなるような声。
私は思わず、
「アイツに何をされたの?」
と聞き返した。


どう言うべきか、と迷っている陽子ちゃんを見て
「私は、友達のこと聞かれたときに、引きずられたの。途中で一発殴られたし」
「え、何でそんな」
亜依ちゃんが驚くのも無理はない。
「きっと、私の答えが気に入らなかったのよ」
「それだけで……ひどい」

陽子ちゃんはこのやり取りを黙って聞いていた。
そして、
「私は、渡井に、体育の時間に差別されます」
とはっきりと言い切った。

「体育の時間? あれ、奈月先生が担当じゃないの?」
「違うんです」
陽子ちゃんはただ、首を横に激しく降る。「奈月先生がいないときです」
「どういうこと?」
詳しく聞くため、私はさらに聞いてみる。

「そうですね……渡井は、私が体育が苦手なことをネタにして、みんなの前でからかうんです。
私、長距離走は喘息持ちで無理で……なのに、渡井は
『サボり』だのなんだの難癖付けてきました。『どうせできないから言い訳してる』と」
う、うわ……流石にひどいな。

「それで? ほかに何かある?」
「その時ではないんですけど、走り幅跳びとかって砂ぼこりがすごいじゃないですか。
それでできないって説明したのに……」
一呼吸おいて、陽子ちゃんはきっぱりと言い切る。「頬をぶたれたんです」



驚きで、しばらく何も言えなかった。
「……アイツ、そんなことを」
私のつぶやきに、陽子ちゃんは一度首をかしげて聞いてくる。
「あ、あの……私の話、信じてくれるんですか?」
「うん」
私は優しく微笑む。
「陽子ちゃんの顔は、嘘を言っている顔じゃない。……それに、足の傷も、渡井がつけたんでしょ?
傷跡が残ってるよ……」

陽子ちゃんは、はっと自分の足を見る。
明らかに誰かが転ばせることでできた傷。
私は、それを秋山君を見た時に見つけてしまった。
「あのね、私のクラスメイトに、同じことされた男の子がいるの。その子と同じ傷。それが証拠」
「っ、あ、ありがとうございます……!」

陽子ちゃんは、今までで一番うれしそうな顔をしている。
こんな荒唐無稽な話、きっと亜依ちゃん意外に信じなかったに違いない。



陽子ちゃんの話を、私はボイスレコーダーに記録した。

132:さくら◆aI:2018/08/26(日) 17:50

陽子ちゃんと私を交互に見て、亜依ちゃんは
「あ、あの……私にも、何かできることってありますか?」
わたしたちを心配して、気遣うそぶりを見せた。

私は迷った。
亜依ちゃんを巻き込むのは嫌だ。
しかし、亜依ちゃんも渡井のことは嫌い。

そこだ。
嫌いならば、それなりの理由があるだろう、きっと。
だって、亜依ちゃんは周りをよく見て判断する。
単に見た目が無理とか、そういう理由で嫌うことはないから。


わたしはきくことにした。
「亜依ちゃんが、渡井を嫌いな理由って?」

『渡井』という言葉を聞いただけで、誰が見てもわかるというレベルで顔を歪ませる亜依ちゃん。

133:さくら◆:2018/10/06(土) 10:54

そうですね、と一度区切ってから
「アイツ、陽子にもそうですけど、とにかく差別するんです。例えば怜菜先輩のクラスにいる美咲先輩とか、かわいい子には甘い顔」

そう、確かにその通り。
「自分のこと責める子には差別」
それもそう。

「私が陽子にしたことを言ったら、渡井とにかく怒鳴って否定して、吐くほど殴られました」

…………!

134:さくら◆aI:2018/11/04(日) 20:43

「もうこれ体罰として訴えられませんか?」
陽子ちゃんは必死だ。
亜依ちゃんも、
「どうにか……」

二人とも泣きそうだ。
私だって泣きたい。

こんな教師がいるのに許す校長が一番嫌い。
「結衣先生なら聞いてくれるよね……」
「怜菜先輩庇って啖呵切っててかっこよかった」
「あーあれか……」

今のところ、教師軍の中で完全な味方と取っていいのは結衣先生だけ。
他の教師は……。
「あてにしないこと」
「うわっ、杏奈!」
いつの間にか、杏奈がいた。

「陽子ちゃんと亜依ちゃんだね。わたし、杏奈。よろしく」


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