キミ色に染まった世界で恋する

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1:相原梨子◆x.:2018/01/09(火) 13:13

●作者からメッセージ●
こんにちは!
恋愛小説は3回目。
頑張って、読者の皆さんに希望や勇気を届けられたら嬉しいと思います。
掛け持ちしまくりですが、どうぞよろしくお願いします。

47:相原梨子◆x.:2018/01/23(火) 19:52

おばあちゃん専用の部屋に呼ばれた頃は、コンピュータ打ちが終わって11時を回った時間だった。

「今日は大変だけど、美海にお客様がいらっしゃってるわ。灘野の社長様だから、失敗がないようにね」

敦樹くんのママが…?
背筋に冷たいものが走った気がする。
灘野、やっぱりあきらめてないんだ。
接客室へ行くと、パパが敦樹くんのママと話していた。

「あら、美海ちゃん。見ないうちに大きくなって〜。さあさあ座って!」

敦樹くんのママの隣には、ニヤニヤ笑っている敦樹くんがいる。
親子面談みたいな感じなの?

「ちょっと、私たちと美海ちゃんだけにしてもらってもいいですか?」

パパが接客室を後にする。
ど、どうする…?
私ひとりなんて無理だよっ!
さっきだって、おばあちゃんに助けてもらったんだし…。

「どうしたの、美海ちゃん。そんな悪いことじゃないんだから〜。もっと緩くしていいのに〜」

幼なじみのママの顔って感じ。
私の中では、幼なじみのママの顔のイメージが来雅のママだから…。

「こ、今回は、何のご用ですか?」

「さすが詩神の娘ね。礼儀がきちんとしていてすごいわ」

首をすくめて、ゆっくり首を横に振って見せる。
すると、さっきの緩い敦樹くんのママとは一変して灘野の社長の顔になる。

「改めて、美海ちゃん。私の名前は、灘野杏子です」

名刺を差し出される。
パソコンで綺麗に打たれた文字。
灘野杏子さん。
私、名前知らなかったな…。

「ぜひ、杏子さんって呼んでね…。本題に入らせてもらうわね…」

ゴックンとつばを呑み込む。
何を言われても、大丈夫。
そう自分に言い聞かせた。

「先程も、家の敦樹が詩神にお邪魔させてもらって、美海ちゃんのことについて話し合いをしたのだけれど…」

「あの…」

杏子さんは「んっ?」と目を見開く。
ドアの向こうにいるだろう、パパを指差して言った。

「父を呼んでもいいでしょうか…?」

「もうちょっと、待ってくれる?不安なのは分かるんだけどね…」

「すみません…」

杏子さんはにっこりと笑う。
敦樹くんも姿勢を正してこちらをジッと見つめてきた。

「実際の話なんだけど、本当に詩神にいるより灘野にいた方が幸せになれるって証拠もあるの。知りたいなら、灘野においで」

知りたいけど…。
どうして、おばあちゃんと言い、パパと言い、杏子さんと言い…。
私は危険だとか言うの?

「ひとつ分かって。私も敦樹も、みんな美海ちゃんのためなのよ」

48:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 20:16

そうよ、美海ちゃんのため。
全ては美海ちゃんを助けてあげるためなんだから。
真実を言っているだけ…。

「私のためってどういうことですか?灘野に行くことで…」

「美海ちゃんは幸せになれるの。灘野に来ればね」

幼なじみのママなのに、ずいぶん警戒してるんじゃない?
美海ちゃんったら。
クスクスと笑いながら、美海ちゃんに向き直る。

「詩神にいると、知りたくもない事実を知ることになるのよ。そんなのイヤでしょう?」

これでジリジリと…。
美海ちゃんの顔が変わっていく。
ちょっと緩くなってきた…?
よしよし、いい感じ。

「美海ちゃんには、敦樹はもう決まってるから、別の灘野の男と結婚してもらって、こちらで働いてもらう。結婚した男と一緒にいてもいいけど、敦樹の秘書でもしてもらいたいわ」

「けっ、結婚ですか!?」

そんなに驚くかしら…。
予想外すぎて、こちらがビックリする。
敦樹の婚約相手は、危険かもしれないけど、一応決まっている。
大丈夫なはず…だから…。

「敦樹くん、誰と結婚するんですか!?もう決まっているんですね…」

あ、そっち…?
…言ってもいいのかしら。
『あの子』の名前。
まだ小さいうちだし、いいわよね…。

「木下のお嬢様よ。美海ちゃんも木下は知ってるでしょう?」

木下のお嬢様っていうと、花奈ちゃんを思い浮かべるかしら。
花奈ちゃんじゃなくて、もうひとりのお嬢様なんだけど…。


木下先輩と!?
今度会ったら、それとなく敦樹くんの話を持ちかけてみよっと。

「うーん、そろそろ用事があるわね。悪いけど帰りますね。今度は、木下と高橋を回りますから」

木下は知ってる。
木下救急会社のことでしょ?
だけど、高橋ってどこ?
医療系の会社で聞いたことない…。

「じゃあね、美海ちゃん」

ひらひらと手を振って接客室を後にした杏子さん。
ちょ、ちょっとっ!
パパの登場0っ?
あわてて接客室を出ると、おばあちゃんが立っていた。

「正人は灘野様の見送りよ。…美海のためは詩神なんだから、灘野なんか絶対ダメよ。あと…」

おばあちゃんは言葉を濁らせる。
あれ、聞こえない。
ただずっと、おばあちゃんの口が小さくパクパク動いているのみ。

「…ってことだから」

おばあちゃんは身をひるがえして、専用の部屋に入ってしまう。
聞き逃しちゃった。
だいぶ大事なことだと思ったけど。

「美海様?」

「はい?」

「大津ですけど」

振り返ると、掃除道具を手にした大津さんが立っていた。
どうしてこんなところに?
それを聞くと、大津さんは笑って答えた。

「美海様こそどうしたのです?こんなところで。灘野様がお帰りになられても帰って来ないというので、探しに参りました」

あれ、マジですか…?
大津さんと一緒に主部の事務所へ行く。
鈴木さんが冷や汗を垂らして待っていた。

「良かった…。美海様、心配したんですよ!用事が終わったらすぐ帰ってきてくださいね!」

「すみません…」

すると、鈴木さんはギュッと私を抱きしめてくれた。
ママみたいな匂いがする…。

「佐江子様の指示です。これから12時までお昼休憩。美海様自信で作ってとのことです。12時ちょっきりに、大津がお迎えに行きますと…」

私が作るぅ!?
何にも作ったことないのに〜!

49:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 20:32

ー第7話ー

「あ、涼じゃん。美海のお迎え?」

瑠夏がドンと背中を蹴らない…。
なんかあるぞ!
「あぁ」とうなずくと、瑠夏は苦笑いしてつぶやいた。

「バーカ。美海のこと好きなら、知っといてやってよ」

瑠夏、コイツ男か?
話し方がずいぶん荒いぞ。
すると、やっと背中をドンと蹴ってきた。

「美海は詩神の会社の社長のひとり娘ってことは知ってるでしょ?」

「もちろんだ」

「ふんっ。もちろんって言えるのかねえ…。美海は詩神の会社の研修。2週間来てもいないよ」

えーーーー!
俺は知らないのに、瑠夏は知ってる。
信頼度薄くねえか?
もっと一緒にいないと…。

「美海のこと好きで追いかけてるんでしょ?だったら、もっと分かってあげてよ。大変なんだからさ」

美海、大変なのか?
詩神って言ったらチョー金持ち。
困ること、あるか…?


美海に会った時は、私も思った。
こんなお金持ちのお嬢様と仲良くなれるわけないって。
だけど、私の好きな人である涼が、美海のこと好きになったんだ。
どうしても、私のこと見てもらいたあったから…。
美海に近づいて一緒にいた。
最初は、めんどくさいヤツって思ってて、嫌いだった。
今までの時間もったいないとも思ったけど…。
どんどんどんどん消えていった。
美海っていい人なんだって。
お金持ちでひとり娘なんて、プレッシャーでしかないはず。
だけど美海は、私のノリにも応えてくれて、優しいし、好かれる。
涼も好きになるに決まってる。
私なんかより全然。
いつの間にか、誰よりも美海の近くにいるのが私になってたんだ。
涼が美海を好きになるまでは…。


確かに大変なのかもな。
ずっと、俺がいたいって思っていたけど、ダメなのかもしれない。
美海パパにも言われたし。
ちゃんとしなきゃな。

「悪いけど、ちょっと美海と距離を置いてくれないか?」

美海パパの言葉が胸に広がる。
一緒にいるの、良くないのか…?

50:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 21:01

どうして俺が結婚しないといけないんだ、お母さん…っ!
相手の前ではもう言えない。
木下さんの前にいるから。

「カッコいいわぁっ!敦樹くん!」

木下さんのお母さんが声を上げる。
本当にそう思っているのか…?
俺が見る限り、何となく支配されているかのような木下さん。

「とりあえず、ふたりにしますね」

木下さんのお母さんは、お母さんと一緒に退出してしまう。
何話せばいいの?
話題とかないんだけど。
すると、木下さんが口を開く。

「初めまして、敦樹くん。私の名前は木下愛海。私の方がちょっとだけ年上だけど、仲良くしてね」

木下愛海さん…?
めっちゃ前の知り合いにいた名前。
同じ名前くらいで何だって話だな…。

「私ね、敦樹くんのこと知ってる気がするんだ。会社がいろんなとこと関わってるからかもだけど」

俺は木下さんのこと知らなかったよ。
ってか、俺も喋らないとダメ?
そう思って口を開く。

「木下さんは、どこで俺を知ったと思う…いますか?」

ヘンなところで敬語にしちゃった…。
すると、木下さんはふふっと笑う。

「ずうっと前に会ったことがある気がするだけ。敦樹くんはそんな感じしない?…あと…私のこと愛海って呼んでほしいの。木下さんってヘンだし」

「じゃ、じゃあ、愛海さん…」

木下…愛海さんはふふふっと大人っぽい笑いを見せる。
美海とは全然違う。
お人好しで大人っぽい愛海さん。
無愛想で引っ込み思案の美海。
でも似てるところは…。

「敦樹くん緊張してる?大丈夫だよ。もっと楽しくやろう」

和ませてくれて、相手を気遣ってくれるところが似てる。
あと、名前…。
『あみ』さんと『みみ』。
それだけなんだけど…。

「で〜、敦樹くんは昔、私と会ったような記憶ない?」

「ありません…」

初対面だし…。
愛海さんだって初め『初めまして』って言ったでしょ…。
初対面っぷり出てるじゃん。

「じゃあ、今日から付き合うんだよね。いい?敦樹くん」

聞いてねえし!
お母さん、もしかして…。
愛海さんと付き合う…かぁ…。

51:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 21:15

敦樹くん大丈夫かな?
部屋から、灘野のリムジンを見る。
トボトボ歩いてる敦樹くん。
望遠鏡で追いかけてる私。
なんだか、敦樹くんをストーカーしてる人みたいっ?
あわてて望遠鏡を離す。
これも、カメラに収められてる。
こんなことしてられない!
キッチンに立つと、いざ何をしていいのか分からない。
とりあえず、冷蔵庫を見てみる。
空っぽ…。

「何も入ってないじゃん!」

買い物に行けってこと?
自分のお財布、使うんだ〜。
お金くらいくれてもいいのに。
カバンにお財布とポーチを入れて、最寄りのスーパーへ出かける。


付き合ったんだ…、今日から。
嬉しそうな顔の愛海さんを見る。
今更、絶対断れないな…。

「このまま結婚できたらいいね、敦樹くんっ!」

愛海さんがニコッと笑いかけてくる。
結婚できたら本当にいいか?
今は嬉しそうな愛海さんだけど、結婚なんて選ばれた俺でいいのか?

「また今度、お母さんを使って連絡。デートしようね!」

もうデートかよ…。
理想の高い愛海さん。
理想を叶えられない俺。
愛海さん、離れていくんだろうな。

「そろそろ終わった?愛海」

愛海さんのお母さんが部屋に入ってくる。
にっこり笑った愛海さんはうなずき、今日はこれで木下終了。
次は、高橋さんの家へ行くんだ。

「失礼しました」

愛海さんの家を出ても、微妙な後悔が私の頭の中を渦巻いていた。


呼ばれて来たここは、瑠夏の家。
美海の家じゃない女の子の家。
俺、最低かな。

「クラスの野郎がごめん。マジうるせーから!」

瑠夏、言葉使いが荒いよ…。
女の子だったら、もうちょっと…。

「ねえ、涼?」

「ん?」

「私、涼のことが…」

52:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 21:43

テレビないじゃん…。
真っ暗になったカーテンの向こうの夜空を見つめる。
星が輝いてる…。

「ごめん、美海ちゃんっ!入るぞ!」

カーテンを急いで閉めて、入り口を見る。
立っていたのは、敦樹くん。
どうしているの!?
すると、ずんずん歩いてきた敦樹くんは、私のほっぺたにキスをした。

「へっ、へえぇぇっ!?」

こ、これって、ファーストキスに入るんでしょうか…?
それとも、やっぱり入りませんか?
どうか入らないで!

「ごめん、美海ちゃん…。俺、どうしてもあきらめられないんだ!美海ちゃんのこと!」

「えっ?」

それって、イコールどういうこと?
もっ、もしかして、告白っ?
そんなことないよ、ね…。

「そいだけ。俺、付き合い始めたんだ。遅くならないうちに、気持ち伝えといた。もう、忘れて!」

「待って!」

忘れられるわけない。
別に、敦樹くんが好きなんじゃ…。
私だって好き。
敦樹くんが好きだよ。
恋愛的にじゃなくて、記憶が曖昧だけど、幼なじみのひとりとして。

「ありがとう!」

敦樹くんは部屋を飛び出して行った。
望遠鏡で灘野のリムジンを見る。
あっという間に発車した。
もう帰ったんだ…。
望遠鏡を置いて夜空を見る。

「今日は、いろんなことがあったな。お客様…きっ、きっ…」

「す」

はっ?
後ろを向くと、おばあちゃんが冷たい目でこちらを見ていた。

「やっぱりね。灘野のお坊っちゃんは美海が好きだったのよ」

どうしておばあちゃんが…っ!
せっかく、敦樹くんが伝えてくれた気持ちなのに…。
何か軽いものに感じてしまう。

「やめてよ、おばあちゃん…」

「ん…?」

「はっ…!や、やめてください。おばあちゃん」

敬語は基本。
タメ口なんてありえない!
なのにどうして…?

「おばあちゃんに口答えする気?何かあるなら言ってごらんなさい」

ない、な、ありません。
おばあちゃんはジリジリと迫ってくる。
どうしたらいい?
神様、仏様、えーっと…。
ピンチがすぐ切り抜けられる、いつでも元気で…。

「涼くん!」

「誰よ、それは。聞いたことがない名前じゃない」

えっと、どうやって説明する?
ためらっていると、おばあちゃんはフッと笑って言い下した。

「おばあちゃんへの礼儀がなってないんじゃない?引っ越すか、捨てるわよ!」

捨てる…?
何、それ…?

             (つづく)

53:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 21:51

あとがき

こんにちは!
『キミ色に染まった世界で恋する』作者の相原梨子です。
2巻はいかがですか?
詩神の研修と言うことで、美海ちゃんや周りの未来への道を近づけました!
ちょっとは歩めたかな?


皆さんの中に知ってくださっている方はいらっしゃいますか?
1月27日が何の日か。
分かる方がいたら、私の小説をめちゃめちゃ読んでくださっている方がいるということですっ!
1月27日は、私のデビュー作『ここは明確スイーツ研究部!』シリーズが1周年を迎える日です!
2周年くらいで完結かな?
今の流れだとそんな感じですね。
よろしければ、1月27日のうちに、明スイのスレや創作板のスレ、短編小説板のスレ、日記板のスレでコメントください!
よろしくお願いします!


さあ、ここまで読んでくださっているあなた!
本当にありがとうございました。
次巻も見守ってください。
よろしくお願いします!
3巻で会えることを楽しみにしてます!
See you.

    英単語を使ってみた相原梨子

54:相原梨子◆x.:2018/01/24(水) 21:53

ー次回予告ー

「捨てるわよ!」

捨てるってどういうこと?
私、どうなっちゃうの!?


「お願い、美海。私のために、涼をあきらめてほしいのっ!」

瑠夏はずっと頑張ってる…。
涼くんへの想いは、きっと…!

55:相原梨子◆x.:2018/01/25(木) 21:22

『キミ色に染まった世界で恋する 3』

登場人物

詩神 美海
お金持ちの家庭のひとり娘。
みんなは気楽だと思っているが、実はとても苦労している。

冴橋 来雅
美海の幼なじみ。
優しくて頼りになるイケメン。
モテているらしいが、自覚はない。

桜庭 涼
美海の秘密を知っている。
隣町に住むイケメン。
私立に通っている秀才。

56:相原梨子◆x.:2018/01/25(木) 21:27

今までのあらすじ

友達から始めることになった美海と涼。
毎日、美海を学校へお迎えに行く涼だけど、そんな涼にパパから衝撃の言葉が。
美海は詩神医療会社の研修に呼ばれてしまって、涼と会えない。
そんな中、瑠夏の恋も芽生えていき…?

57:相原梨子◆x.:2018/01/25(木) 21:28

目次

ー第8話
ー第9話ー
ー第10話ー
ー第11話ー
あとがき
次回予告

58:相原梨子◆x.:2018/01/25(木) 21:47

ー第8話ー

「引っ越すか、捨てるわよ!」

捨てる…?
どういうこと…?
何で捨てられなきゃならないの…?
すると、おばあちゃんはハッとして手を口元に当てる。

「みっ、美海。今のは忘れなさい。明日も早いんだから、早く起きるのよ」

「待ってっ…!」

ガッチャンと音を鳴らして閉まってしまうドア。
おばあちゃん、私がいらないの?
いつも厳しく育てられた私。
だけど、叱られて、反省したら同じように言われてきた言葉があった。

「全ては、美海のことを思ってやっていることなのよ」

ずっとずっと、私のためにしてくれたことだったらしい。
おばあちゃんも、パパも。
だけど、時々外れるんだ。
捨てるとか、意味が違うことになる。

「美海様、どうしましたかっ?」

大津さんがドアをノックしないまま入ってきた。
いつの間にか泣いている私…。

「カメラ、音はないんですが…美海様が泣いている様子が映し出されたのでやって参りました」

グスグスと鼻を鳴らしている。
大津さんにお願いして、パパに来てもらった。
ちゃんと話がしたい。
おばあちゃんは話してくれないこと。
きっとパパなら話してくれるから。

「美海、パパだよ。大津さんに呼ばれて来たよ」

ドアをゆっくり開けたパパ。
私は本をベッドの上で広げていた。
良かった、まだいて。
もうひとつのベッドに座ってもらって、おばあちゃんに言われたことを正直に話した。

「…で、どういうこと!?捨てるって。私って何…?」

「ごめんね、美海…。だけど大丈夫。捨てないから。おばあちゃんも、ちょっと言い過ぎただけだよ…」

本当に、そうかな?
いつもなら、引っ越すだけ…。
たまにだけど、別館に閉じ込めるって言われるかもしれないけど。
ちょっと様子もヘンだった気がする。

「落ち着いたか?…もう大丈夫?」

「う、うん…。ごめんなさい」

「いいんだよ。パパの方からも、おばあちゃんに言っとくね。ごめんね」

パパはベッドから立ち上がって、ドアノブに手をかけた。
そして、振り返ってにっこり。

「おやすみ、美海」

「おやすみなさい」

59:相原梨子◆x.:2018/01/27(土) 14:43

朝の5時に流れた館内放送。
その時には、もう身仕度、朝ごはんなどは済ませてあった。

「美海、入るわよ」

入ってきたのは、おばあちゃん。
昨日、パパがおばあちゃんに言ってくれたらしく、今日ちょっとだけ真実を知らせてくれるみたい。

「美海…。昨日はごめんなさい…」

向こう側を向きながら言うおばあちゃん。
きっと、昨日結構反省したんだな。
そんな感じがして顔がほころぶ。

「これは、あくまでも昨日悪いことを言ってしまったと思ったからすることって分かってね」

「うん…」

そういう理由なんだ…。
まあ、知れるからいいんだけどね。
おばあちゃんは、私がスーパーなどに行く時に持っていくカバンをベッドにボンと置く。

「この中に筆記用具と衛生的なもの、サイフを入れてロビーへいらっしゃい。待っているわ」

おばあちゃんはバタンとドアを閉めて行ってしまう。
昨日泣いたおかげで、ヘンなものがなくなった感じがする。
かなり楽になれた…。


ロビーに着くと、スーツに着替えたおばあちゃんが立っていた。
私の格好を見ると、おばあちゃんとは打って変わって、汚れてもいい服。
動きやすい服だった。
こんな格好で大丈夫かな…?
そう言えば、灘野が来た時もこの格好でダサかったな…。

「行くわよ、美海」

おばあちゃんのリムジンは、詩神気の中で一番高くて一番大きい。
何でも良いものを好むからね…。
みんなもそうかもだけど、私は違う。
あえて、小さいものが…。

「早く乗りなさい、美海!この用事は午前中で終わらす予定なんだから!」

急いでリムジンに乗り込む。
どこに行くんだか…。
ちょっと緊張してきた。

「今から行くところは高橋さんの家。ごくごく普通の一般家庭よ」

高橋さんの家?
これに、捨てられることについて秘密が隠されているの…?

60:相原梨子◆x.:2018/01/27(土) 22:05

高橋さんの家に着くと、家族みんなでお出迎えしてくれた。
その中のひとりが…っ!

「詩神さんだったのっ?来るの!」

「高橋さん!」

同じ卓球部所属の高橋さん。
ちょっと厳しくされたことがあったきり、あんまり話してなかった相手。
高橋さんの両親が驚いている。

「由里、美海さんと仲良しなの?」

「部活が一緒なだけ!別に…」

おばあちゃんは、高橋さんの最後の言葉を聞き逃さなかった。
なので、おばあちゃんは私をゆっくりと見た。

「高橋さんと仲良くないの?美海」

「部活では、指導してくれたり、厳しく…してくれたり…」

「由里、美海さんに指導しているの!?厳しくしているの!?」

高橋さんのママは叱りつけている。
この時の高橋さんの気持ち、分かる。
何度も叱られた私だから。
すると、おばあちゃんが高橋さんと高橋さんのママを見た。

「出来ましたら、そう言うのは後にしていただけませんか?」

うわっ、圧力半端ない。
そう思いながら、ちょっと頭を下げる。
高橋さんのママは謝り、客間に通してくれた。

「では、私と莉海がいたらいいでしょうか?」

「ええ。よろしくお願いします」

莉海と呼ばれたお姉さんは、客間にお茶を持ってやって来た。
カワイイ…キレイの方かな?
めちゃめちゃ美少女なんだけど!

「おはようございます、美海ちゃん。私の名前は莉海です」

莉海さんは、頭をペコッと下げて、私のちょうど前の椅子に腰かけた。
後から来た高橋さんのママは、おばあちゃんの前に腰かけた。

「今日お訪ねさせていただいた理由は、美海と莉海さんの関係についてです。高橋さんのお母さん、説明してあげてください。あれに従って」

一度、打ち合わせみたいなのしてる?
そう思いつつ、高橋さんのママの方を見る。

「よく聞いてね、美海ちゃん。実は、美海ちゃんとウチの莉海は姉妹なの」

姉妹!?
どっ、どういうこと?
詩神莉海さんってことなの!?

「名前も『海』が入ってて一緒でしょ?それも共通点だと思います」

確かに一緒だ…!
『みみ』と『りみ』。
語呂もそこそこ似てる…!

「どうして離れたかは言えないんだけど、美海ちゃんは詩神にいないといけない存在なの。だから、移動することは許されないってこと。莉海は、私たち高橋家のところにいるのよ」

私は、詩神にいないといけない存在。
だけど、莉海さんは違うの?
どう考えても、莉海さんが詩神にいるべきじゃない?
莉海さんの方が年上だから、私より早く社長になれるし…。

「ここまでしか言えないわ。とにかく分かってほしいのは、莉海と美海ちゃんは姉妹ってこと。由里とも、ずっと離れた親戚みたいな感じかもしれないわね。仲良くしてあげてくれる?」

「はい…。分かりました。ありがとうございました」

莉海さんと姉妹なんだね。
おばあちゃんは、先にリムジンへ戻っていき、高橋さんのママも出ていった。
ふたりの環境を作ってくれてる?

「ねえ、美海。私のこと覚えてる?」

「ごめんなさい、覚えてません」

ふふっと笑った莉海さん。
「タメでいいよ〜。姉妹なんだから」と緩く話している。

「私はちょっと覚えてるよ。妹がふたり…いることはね」

「ふたりいるの?ってことは、私の姉か妹がもうひとり…」

莉海さんが口元に人差し指を近づける。
聞いちゃった…!
また、調べてみよっと。

61:相原梨子◆x.:2018/01/28(日) 16:47

これから向かったのは、敦樹くんの家だった。
近くにある家は、和泉家、涼くん家が知っている。
灘野家のチャイムを鳴らす。

「おはようございます、詩神様。今日は足をお運びいただき、ありがとうございます。さあさあ、どうぞ」

杏子さんがお辞儀してくれる。
そして、リビングに通された。
前に座っているのは、杏子さんと敦樹くん。
もしかして、敦樹くんも兄弟だったとか言わないよね?

「美海ちゃん、オレンジジュースでいいかしら?」

「あ、ありがとうございます」

杏子さんがオレンジジュースを出してくれて、話が進んだ。
灘野家で知ることが出来るのは…?
ドキドキ胸を鳴らしながら聞いた。

「美海ちゃんは、ずっと昔、私たち灘野と幼なじみだったでしょ?そのことについて説明するわね」

ああ…詩神で敦樹くんのパパが働いていて、遊んでたから幼なじみってわけだったよね。
そう思っていた私に、杏子さんが厳しい目付きで言った。

「美海ちゃんは、本当は灘野家の隣の家で暮らしていたの。だけど、わけあって今のところに住んでいるのよ」

灘野家の隣に住んでたんだ!
知らなかった…。
だから、詩神と灘野の交流がそこそこ多いんだね!
今は空き地のところに、詩神の家があっただなんて…。

「美海ちゃんのお母さんの名前は?」

「詩神彩美です」

ママの名前を言った瞬間、ママが出ていった日のことを思い出した。
あれから、気付けば1ヶ月近く経つ。
こんなに普通に過ごしてる私…。
ママがいないのに、こんな風に過ごしてていいの…?

「美海ちゃんのお父さんの名前は?」

「詩神正人です」

杏子さんはふふふと笑って見せた。
何だか、ヘンな感じ。
どうしてママとパパの名前を聞くんだろうか…。

「美海ちゃんのお母さんの名前とお父さんの名前がヒントよ…。では、朝ごはんにしましょうか」

すると、リビングに敦樹くんのパパやお兄さんたちが集まってきた。
久しぶりに見る顔ばっかり。
特に、敦樹くんのお兄さんは。

「可愛くなったね、美海ちゃん」

「ありがとうございます」

誉めてくれたのは、大輝くん。
がっしりした体つき。
肩幅がすごく広かった。
お兄さんって感じ。

「あはは。タメ口でいいのに〜」

朝ごはんで出されたのはハンバーグ。
わざわざこんなものを!
朝からカロリー高め…。
そう思っていると、私とおばあちゃんの分のハンバーグも出てきた。

「食べてってちょうだい」

杏子さんがオレンジジュースのおかわりを持ってくる。
いいのかな?と思ったけど、おばあちゃんはためらわずに腰かけていたので私も座った。

「おい、悠輝…」

悠輝くんがそそそっと二階から降りてきた。
何だか、タイプ違う…。
何事にも真っ直ぐな敦樹くん。
元気で明るい大輝くん。
オタクみたいなイメージが付いてしまう悠輝くん。

「久しぶりだね、悠輝くん…」

一番遊んでいた悠輝くん。
なのに…どうして?
杏子さんは「ごめんね」と謝る。

「悠輝も結婚候補が上がってて、気を落としてるだけだから」

すると、大輝くんが目を輝かせた。
そして、私の手をギュッと握る。

「美海ちゃんの結婚候補って知ってる?」

「知らないけど…」

大輝くんは、人差し指で自分を指差して声を張り上げた。

「俺だよっ!」

えーーーーーーーーっ!

62:相原梨子◆x.:2018/02/15(木) 21:24

だっ、大輝くん!?
おばあちゃんがふふふと微笑む。
親公認しちゃってるの!?

「よろしく〜」

大輝くんがイヤってわけじゃないけど引っ掛かる気持ち。
恋もしてなくて、全然そういうのに関心を持っていないけど…。

「はい、そろそろ帰りますよ」

ご飯を平らげたおばあちゃんは、私の前に置いてあるご飯を見る。
まだ、めちゃめちゃ残ってる。
おばあちゃんはため息をついた。

「詩神の者として、時間を気にしなさい。さっさと食べなさい」

みんなの前で怒られて身が縮むよう。
急いでご飯をかきこみ、みんなが見る中で何とか平らげた。

「では灘野さん、今日は美海のためにありがとう。ひとつ忘れないでほしいことは、灘野さんに美海が行くのではなくて、灘野さんに来てもらうということよ。では」

おばあちゃんが厳しい目付きで杏子さんに言い捨てるように言う。
杏子さんはまるで愛想笑いのように笑って見送った。

「さあ、美海。ここからはキャンセルして帰るわよ。かなり知れたでしょ?莉海さんとは会わないように。いいわね?」

お姉さんなのに会っちゃダメなんて。
だけど、逆らったらどうなるか。
私は小さな声で返事した。
車が動くと、景色がゴロゴロと動いて見えた。
途中で涼くんの家も見えた。
起きてるかな、涼くん…。

「美海っ!窓の外をジロジロ見ません!だから礼儀正しくなれないの!」

おばあちゃんが車内の鏡を見ながらキツくにらんでくる。
どうしてこんなことまでダメなの…。
あっという間に事務所に着き、これからの日程を伝えられた。
瑠夏に会いたい…!
私は、空を見上げてそう思った。

63:相原梨子◆x.:2018/02/15(木) 21:44

ー第9話ー

「俺だよっ!」

どんな日の朝も繰り返し頭の中で言っている言葉。
大輝くん笑いながら言ってた。
もしかしたら、嬉しいのかな…?

「美海ーっ!朝ごはん出来たぞー!」

一階でパパの声が響く。
部屋にも声がちょっと響いた。
もう終わったんだと思うと、すごく清々しい。
研修が昨日で終わった。
今日からいきなり学校。
でも、みんなに会えるからすっごく嬉しい気持ちでいっぱい!
久しぶりにカワイイ制服に着替えて部屋を飛び出した。
リビングにトーストの美味しそうな匂いが広がる。

「疲れは取れたか?おばあちゃんが誉めてたぞ。テスト連続合格で。美海の頑張りが認められたんだ」

おばあちゃんが誉めた?
私を?
そう聞いた瞬間、心をくすぐられたような不思議な気持ちになる。
すごく嬉しい…!

「今日はみんなとたくさん喋って楽しんで来い」

パパがにっこり笑ったのが久しぶりな感じがする。
それだけ会ってなかったってことだ。


家を飛び出すと、瑠夏がすぐそこで待っていてくれていた。
隣には他の子が3人いる。

「久しぶり!美海!」

「瑠夏〜!」

スクールバッグを肩に引っ掻けたまま瑠夏と抱きしめ合う。
寂しかった思い、会えた嬉しさが一度にグンッと押し寄せてきた。

「美海って珠乃と結衣と姫花のこと知ってる?覚えた?」

「ごめんなさい。まだです…」

すると、隣の女の子3人が笑った。
左が珠乃ちゃん。
右が結衣ちゃん。
真ん中が姫花ちゃん。

「詩神さんよろしく〜」

「瑠夏の言った通りの子だね〜」

「やっぱりカワイ〜」

この子たちと上手くやってけるんだろうか…。
うーん…。

64: 瑞◆MIZU/j3v.s:2018/02/15(木) 21:45

あわわ!たくさん投稿してるね〜!最近小説見る暇あんまりなくて…
今度最初からまた読むね!

65:相原梨子◆x.:2018/02/16(金) 18:18

ありがとう!
良ければどんどん見てね♪
出来たら完結まで見届けてね…☆

66:相原梨子◆x.:2018/03/03(土) 13:29

知っている方も多いとは思いますが、葉っぱ卒業を決めました。
出来たら完結させて、続きはオリジナル小説を書いていただきたかったのですが、恋愛小説は簡単に完結出来ない物語です。
なので、ちょくちょく来れるときにゆっくり更新します。


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