序
「お、お前ら……全員魔王の手先だったのかよ! 」
ここは『魔王領』にある、都市『ラバレン』である。教会より魔王討伐の使命を与えられた勇者は仲間たちと共に、度重なる困難に立ち向かいやっとの思いでここまでやってきた。ところが、ここで勇者は絶望することになる。勇者が仲間だと思っていたパーティーメンバーは皆、魔王の手先だったのだ。
しかもその1人には、勇者の妹も含まれていた。
「ディ、ディアナ、まさかお前も……なのか? 」
勇者は恐る恐る訊いた。
「そうよ。私は魔王様に忠誠を誓っているの。決してお金のために、貴方を捕らえたわけではないわ」
「ど、どうして……ま、魔王に忠誠って……信じられない」
「兄さんには悪いけれど、これからは牢獄での生活になるわね」
こうして、勇者は魔王の手先によって捕らえられ、牢獄に幽閉され、心を病んだ。彼の心が晴れるのは幾分かの月日が経った後、『ある男』が彼に接触する時を待たなければならない。
序 終わり。
(60)
くそ!
狙いは私の首筋だったのか……これは終わっちまったな。……まさかこんなところで……。
私は絶望した。私にはまだやることがあるというに、ここで命を落としてしまうという現実に。もちろん、私を恨んでいる者たちは大勢いるだろうしこれは必然なのだろう。
「ちょっぴり、キミの血をいただくよ」
そして暗殺者(?)はそう言って、私の首筋に短剣でも突き立てたのだろう。首筋からチクりと痛みが感じたのである。そしてこの痛みは激しくなり、その後は出血多量で死ぬ。これで私の人生は仕舞だ。
しかし……
「痛みがそれほどでもないだと? 」
そう。
私は自分に生じた痛みがそれほどのものでは無いことに気づいたのである。むしろ想定していたものと比べると。可愛いと連想してしまうくらいの程度にも感じてしまう。
さらに不思議なことに私の意識は未だはっきりとしているのだ。
であるが故に、冷静に事実確認を行うことにした。
「まさかな……? 」
その暗殺者らしき人物は若い女であり、何故か己の歯で私の首筋を噛付いていたのである。決して短剣などではなかったのだ。
まるで吸血鬼じみた行動と言えるだろう。
「これで少しは元気なったわ! キミの血はとっても美味しかったわ。ありがとう」
そして、女はそう言って、この場を去ろうと行動に出た。
「こらまて! 」
逃がしてたまるものか!
私はとっさに腕を伸ばし、女の腕を掴んだ。
「貴様ぁぁぁぁ! 私に攻撃してくるとはな! 暗殺のつもりなのだろが、失敗して残念だったねえ? で、誰の指図なんだ? 教会か? それとも天使共から直接指図を受けたか? まさか戦死した兵士の親族か? どうなんだぁぁぁぁぁ!!!!」
私は突如として湧きだした怒りの感情をコントロールできず、畳みかけるように女に対して質問責めをしたのである。
ところが、女は私の怒りの叫びなどには一切影響されず、全くもって余裕な表情を見せていた。
「ふふ。私ばかりに気をとられていて、良いのかな? 」
「何だと!? 」
直後。
私の背中に何かが突き刺さったのだろうか、激しい痛みと凍り付くような冷たさを感じたのである。
(64)
背中に感じた痛みと冷たさが原因で、一瞬気を散らしてしまった私は女の腕を掴んでいた手を放してしまった。
それを良いことに、当然女は走って逃げだしたのである。
「くそ! まちやがれ」
私も当然女を追いかける。
「ところで……」
追いかけるための動作とほぼ同時に、ほんの一瞬だけではあるが私はチラッと後ろに振り向いた。
背中がやられた以上、先程の攻撃は後方からなされたのは間違いないからだ。
そして、茶色でフード付きのロングコートを身にまとう者の姿が見えたのである。その者も今まさに廊下の窓から飛び降りようとしていたところであった。
「どこの誰さんなんだろうかね」
と私は小声でつぶやいた。
まあ、あのロングコート姿の者も今追いかけることにした協力者なのではあるのだろう。
そう気になる私ではあったが、それよりも例の女を追いかけることを優先した。
さて例の女であるが、中々走るのが速く、そしてある程度の持久力もあるのだろう。私も走ることには自信があるとは言え、何故だか追いつきそうで追いつかないのである。
そして、
「快速魔法を使いたいところではあるが……」
と、私に感じさせるほどである。
しかしここはプランツ王国の王都であって、私にとってそんなところで安易に快速魔法を使うには心理的ハードルがあるのだ。理由としては教会に目を付けられたくないというものである。先日、快速魔法で王都アリムーシと西ムーシの町を行き来した際は、街道から少し離れたところで移動していたわけだ。
要は、せめて人通りの少ない場所にあの女が駆けこめばこれ幸いと思うところである。
(65)
「おいあんた! 大丈夫か、そんな状態で走っていて」
例の女を追いかけていると、不意に後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ほんの一瞬、例の女の協力者かと思ってしまったが、これは私が雇った傭兵団の団長の声だ。
「良かった。団長さんたちか」
「まあ、あんたが負傷しながらも誰かを追いかけているのを部下が発見してな。だから『仕事』をしているわけさ」
「それはどうも。中々、心強い傭兵団だな」
元々、アリムーシの酒場の店主の紹介だとは言え、この傭兵団に対してそこまで期待などはしていなかった。とりあえず私の指示に従う頭数さえ揃えば良かったのだ。しかし彼らは自発的に行動してくれている。
「そりゃどうも。で、あの女を追いかけているってわけか? 」
「ああ。あの女だ」
そして、傭兵団の面々と共に引き続き、女を追いかけているとボロい屋敷が見えてきた。
「おい! あの中に入りやがったぞ」
女はそのボロい屋敷の中へと入ったのである。『吸血鬼の屋敷』というイメージ通りの屋敷の中へ。
「すんなりと中へ入ったからな。アジトとして使っているのかもしれない。恐らくあの女の協力者もいるだろう」
あの女が単に一時的に駆け込んだようには見えなかった。ボロ屋敷の門や玄関を開ける際に、最初から鍵がかかっていないことが判っていたかのように、開けたからである。
これは恐らく、我々を迎え撃つ準備が整っているという事だろう。
皆様へ。
この小説も、途中で終わっていますが、つい先日、別のサイトで投稿した次第です。
小説家になろう
エブリスタ
以上、2つの掲示板で投稿しました。
誤字脱字の修正は、エブリスタの方が逐一修正がしやすいので、こちらの方がより正確な文章になっていると思います。ただ、小説になろうの方が先行して投稿しているので、物語はエブリスタに比べて進んでいます。
以下にURLを貼っておきます
https://ncode.syosetu.com/n4930gl/
なろう↑
https://estar.jp/creator_tool/novels/25705294
エブリスタ↑