イケメンしんどい

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1:わっふる:2018/03/25(日) 21:20




「男子運動部の女子マネージャーって評判悪くならない??」

2:わっふる:2018/03/25(日) 21:20



今思えば、なんてことない、いつもと変わり映えやしないと思っていたあの日は、私の中の何かを決定的に変えられた……いわば運命の日だったのだ。

『来るぞ!!!』

_____会場中が、一斉に息を飲んで。
ふわり、と翔んだ彼の、目標だけを見つめるまっすぐな眼差し。
ボールが放物線を描いてゴールに吸い込まれて行った、あの瞬間を。

私は……私は、ずっと_________


*********

3:わっふる:2018/03/25(日) 21:26


よく晴れた、暑い日だった。

紫外線からの熱烈なアプローチは、ニート予備軍の肌には些かキツいものがある。

「やめてくれ、君にはもっとお似合いのメラニンが居るはずだから……」
「なに言ってんのあんた」

せっせと日焼け止めを塗りながら私の隣を歩くのは、同じくニート予備軍……と言いたいところだが違う。紹介します。どちらかと言うとアウトドア派で私とはまるきり違うタイプの筈なのに、なぜかいつも一緒に昼食を食べている羽崎麻里ちゃんです。
面倒臭がりの私にいつも何かと世話を焼いてくれる彼女は、今も出しすぎた日焼け止めを私の首筋に甲斐甲斐しく塗りつけていた。……これからどうせ室内行くから良くない?なんて思ったけれど、それを見越したかのように「ほんの数十分でも引きこもりには痛い日焼けになるだろうねぇ」なんて言われてしまえば、もうそれは心に留めておくしかなかった。

「……ねえ布施」
「んー?」

不意に、羽崎が神妙な声色で語りかけてきた。
ああ、ちなみに布施、というのは私の苗字だ。
正直名乗る価値も無いとは思うけれど一応名乗っておこう。私の名前は、布施灯埜と言う。
女の癖に“とうや”だなんて嫌だと思った時期もあったけれど、今はもう受け入れられないほど子供ではない。

なんてまあ、私の名前の由来解説なんてどうでもいいか。視点を元に戻すと、羽崎は日焼け止めのキャップを嵌めながら、あんたのことだから、ロクな解答はこれっぽちも期待してないんだけど___と何気に酷い前置きをした。

「今回バスケ選んだのって、なんか理由あるの?」
「……えーー……」

なんだ、もっと深刻な質問が来ると思っていたから拍子抜けだ。
私が中総体の応援観戦に男バスを選んだ理由か……うーーん、強いて言うなら試合会場が家から一番近かったからかなぁ……あと、室内なのもポイント高い。
しかしそれは羽崎の言う“ロクでもない回答”に当てはまってしまう。ここはひとつ意外な答えでイメージチェンジだ、と謎の闘争心を燃やした私は少しばかり考えを巡らせてみる。

「ぬーーん……………………
少年たちの青春にかける熱い思いを見届けたかった……?」
「はいはい家から近かったからね」

完全に見抜かれていた。つらい。てか、分かってるなら最初から聞くんじゃない。

そのあとも他愛もない会話を続けているうちに、会場である体育館が見えてきた。
地区の準決勝と決勝が行われる今日は車の出入りが盛んで、体育館に辿り着くのにも一苦労しそうだった。それにこれだけ人がたくさん来てるんだから、中はさぞかし蒸し暑いことだろう……うげー。

「ね、ねえ布施!」
「ん?」

なんとか一苦労して漸く体育館に入る直前、羽崎が突然切り出した。
振り向くと何やら意を決したようにこちらを見つめている………何だ??

「……今日」
「……うん」
「…………今日、榛名出れるかも、って」

やたら小さな声で言われたその言葉を聞いて、なんとなーーく羽崎が先程からそわそわしていた理由を察する。下を向いてしまったからもう表情は伺えないけれど、きっとその頬っぺたは真っ赤なんじゃないだろうか。

「良かったやん」
「…………うん」

羽崎は姉御肌なのに、こういう時だけ乙女で可愛い。彼女の恋話を聞いているとそれに影響されて私も女子っぽくなれたような気がするが、それだけは本当に気のせいだから虚しい。まず好きな人いないし。
というか、もしかしてさっき聞いて来たのってこれが理由なんじゃないだろうか。私が榛名目当てで男バスを選んだかも、とか……うっっつわぁ、絶対ないね。

4:わっふる:2018/03/25(日) 21:27



榛名 千秋と言えば、男子バスケ部の絶対エース。
1年生ですでにメンバーに選ばれるぐらいの実力があったんだが、中2の時に膝に大怪我をしてしまい。それから試合にもすっかり出させて貰えなくなったけど、本人は諦めずにリハビリを続けて…………ついに今日その努力が実るかもしれない、と。
私からしてみれば、よくもまあそこまで諦めずに頑張れるなぁ……という感じである。

榛名千秋とは何の縁か、中学の3年間ずっとクラスが一緒だった。入学当初から何故か、ほんとうに理解し得ないけど何故か目をつけられてしまった私は、いつも何かと奴にイチャモンを付けられていた。
掃除を少しサボれば「真面目にやれ」。ちょっとふざければ「うるさい」。行事の時、特に合唱祭なんてなんてもっと酷かったな。わざわざ放課後に呼びつけて私に説教垂れたくらいだ。
一応弁明しておくと、何も私だけがそんな顕著に悪いことをしていた訳じゃない。むしろ割と目立たないように過ごしてたし、サボる時だってちゃんと塩梅を確かめながらを見てサボっていたし(サボっていることは事実)。

まあつまり、あいつは私のことが嫌いなのだ。
奴はノリが良くて優しいから皆から好かれるけれど、良い事と悪い事を区別して行える正義漢でもある。そんな人間から特に嫌われている私の立ち位置考えられます??そりゃあ友達たくさんもできないよね……あー、思い出したら腹立って来たわ。

「大丈夫よ羽崎。私榛名のこととか鳥のフン程度にしか思ってないから」
「……それって良い意味??」

さあねっ、と残して私はさっさと袋にスニーカーをしまった。

5:わっふる:2018/03/25(日) 21:31



『いけいけ条南おせおせ条南』
『ファーイト、ファイトファーイト今沢』

体育館に入る前でさえ響いていた歓声は、会場内に入ればより一層凄まじい。
誰だろうか、拡声器であるはずのメガホンを最初に叩き出したのは。プラスチック製のそれが立てる音は、それなりに耳に来る。

「行くよ布施!もう始まってる!!」
「あーーい」

立ち見の人たちの間を掻い潜って、なんとか我が校の試合が見やすい位置に来る。
試合は第2クォーターが始まったばかりだった。さすが地区の準決勝なだけあって、お互い一進一退と言った様子だ。

「……!榛名!」

なんとか席を確保したのも束の間、羽崎は早速ベンチに待機しているお目当ての君にご執心だ。羽崎だけではない。周りに伺える我が校のジャージを来た女子たち、それから多分他校の人も揃って「榛名くんかっこいい」をつぶやいている……前述した通り1年の頃からレギュラーに入る実力があり、おまけに成績優秀、容姿も認めたくねぇけどめっちゃカッコイイとなれば注目を集めるなという方が無理な話だ。
いや……でも本命は試合だかんね?試合も見てあげようね??

あっという間に第2クォーターが終わり、選手たちが続々とベンチに戻ってくる。
彼らに積極的にタオルやドリンクを渡しているのは、マネージャーの小鳥遊さんと榛名だ。
……こういう些細なモーションにさえ歓声や小鳥遊さんへの嫉妬の声が上がるのだから、人気者は凄いなぁ。
なんて考えていると、監督らしき人物が榛名に声をかけているのが目に入る。榛名は頷いたあと、ベンチを立ってアップを始めた。

「榛名先輩かっこいい……」
「千秋くーーん!!頑張ってーーー!!!!」

……こういう些細な(以下略)。それにしてもここまで榛名榛名されていると、それ以外のメンバーが気の毒になってくるな……。あながち見当違いじゃないだろう、どこか憔悴したような表情のレギュラーメンバーたちを見て、なんとなく心境を察する。南無。

6:わっふる:2018/03/25(日) 21:34



それから第3クォーターが始まっても、女生徒たちの榛名コールは止まっていなかった。
……心なしか、うちのチームのミスが増えてきているような気がする…………いや、気のせいじゃない。さっきまで難なく通っていたパスさえも、うまく繋げていないようだった。点差がみるみるうちに開いて……すぐに、タイムアウトが入る。

監督はメンバーたちに何やら厳しい言葉をかけているようだが……もしかしてこれ、応援の方にも問題があるんじゃないだろうか。
私にバスケ経験は無いけれど、何をやるにも誰かから応援があると頑張れるものだ。それはモチベーションにもつながってくると思う。
ちなみに現状、相手チームの応援団はめちゃくちゃ豪勢だ。自分たちのチームにボールが回ってくるだけで太鼓ドコドコ、シュートを決めれば校歌を大合唱。……いやーーこりゃあこっち側からしたらなかなか辛いだろうなぁ……

……なんて他人事のように考えていた時、不意に懐かしい光景が脳内に蘇った。

______会場中が“彼女”に味方して、私には見向きもしてくれなかったあの時。

“お願い、こっちを見て…私を見て……!”

必死に訴えても、それが届くことはなくて。……もがけばもがくほど、皆が私を嘲笑っているようだった。
______あの場所に、私の味方など1人もいなかった。スポットライトが当たっていても、私を見ている人なんていなかった。私の声は……届かなかったのだ。

その、言いようのない不安と恐怖が私の身体を震わせた時…私は、思わず席を立っていた。

7:わっふる:2018/03/25(日) 21:38





「布施!?」
「ごめん羽崎!!」

未だにキャイキャイ叫んでいる応援女子たちの群れから少し離れた、一番コートに近い柵の前に立つ。
配布されていた『応援観戦のしおり』を丸めて即席メガホンに。後は何も考えないで、息を吸い込んだ。

「平床ーーーー!!!!!!!頑張れーーーーーーー!!!!!!!!」

あ、メガホン無い方がいいやすいかも。次は即席メガホンを下ろして、叫ぶ。ちな、平床って言うのは私たちの中学校の名前だ。こっちに視線が向いた気がするけれど、気にしてなんかいられない。

「吉田ーーーーーー!!!!!!!いいぞ吉田ーーーーーー!!!!!!」

なんとかボールを奪った吉田が、面食らったように顔をあげるのが見えた。
吉田は良い奴だ。本当にこの一言に尽きる。提出物を面倒臭がる私にいつもノートを見せてくれる、榛名なんかとは段違いに良い奴だ。中学からバスケを始めた奴は努力に努力を重ねレギュラーの座を勝ち取った。『所詮榛名の代理』とか言う奴がいるけどそんなことはない。見ろ、吉田を!!敵チームから果敢にもボールを奪った吉田を!!!!

吉田はこっちを見て少しはにかんだようだ。そのままディフェンス?を抜いて、超カッコよくシュートを決めた。

「いいぞーーーー!!!!!!いいぞぉ吉田ぁああああ!!!!!!!めっっっちゃいいぞぉおおおおおおお!!!!!!!!」

声が裏返った。矢印もつけて表記すると『いぃ↓いぞぉおおおおおお↑』という感じだ。ヨーデル歌手もビックリだ。
周囲から少し笑い声が聞こえて、吉田もこっちを見て笑いながらグッドポーズを出してくれた。その笑顔があまりにも輝いて見えて、私も笑いながらグッドした。
私たちが友情のグッドを交わしたのも束の間、はっとベンチを見た吉田は瞬時に顔を青ざめさせて去って行った。一体なんだと言うのだ。まあ取り敢えずナイスプレーだぞ吉田!!!

「いいぞぉおおお!!!!!!6番……誰だ6番……ろくばーーーーん!!!!!ろくばいいいぞぉーーーーーーーーー!!!!!!!」

同じ学年だったはずだけど名前が思い出せない。でも軽々と相手を躱してみせる姿は、見ていてとても気持ちがいい。きっと、たくさん練習したんだろうなぁ。

「ろくば「高木君だよ!!!高木君頑張れ!!!!平床ファイトーーーー!!!!!」あ、ありがとうございます」

気づいたら横に羽崎がいた。ご丁寧に6番君のお名前を教えてくれる。

「……今は、こっちの応援しないとだよね」

羽崎の言葉が何故か嬉しくて、私は我が物顔で頷く。それからも2人で声を張り上げた。

「平床!!平床いけーーーーー!!!!いいぞいいぞぉーーーーーー!!!!!平床いいぞおおおおおお!!!!!!!!」
「遠藤君!!!遠藤君頑張れーーー!!!!」

「が、頑張れ!!平床ファイトー!!」
「みんながんばれえええええ!!!」

気づいたら、さっきまで榛名コールを送っていた女子たちも揃って応援に混じっていた。
それがたまらない嬉しくなって、今度はみんなでコールを送る。バラバラの声援だけど、ボールが渡ったら喜んで、シュートが決まったら拍手して。
……榛名に対する当てつけも少しはあったんだけど。まあみんなの気持ちが纏まったからいいか!……なんて柄でもないけど。

やっぱり応援がさっきより良くなったからか、結構開いていた点差がどんどん縮まっていく。と、ここで相手チームが2点リードの状態で第3クォーターが終わった。

歓声が、大きくなる。
この最終クォーターで、全てが決まる……この場面で、切り札である榛名がコートに歩みを進めた。

8: アーヤ◆TQ:2018/03/26(月) 17:57

はじめまして!

読みにくいので三行か四行にして

9: アーヤ◆TQ:2018/03/26(月) 17:58

面白いよ

10:わっふる:2018/03/27(火) 00:11



>>8

ぐ、具体的には……!?
改行を、ということなら!

ありがとうございます大好きです。

11:ましろ◆r.:2018/03/27(火) 07:26

この改行でも読みやすいです

12:わっふる:2018/03/29(木) 18:48


>>11

了解です!ありがとうございます!

ーーーー


……なんて言うか、圧巻の一言だった。

最終クォーターで試合入りした直後から、榛名の勢いは凄まじかった。
まず、相手のディフェンスを次々と抜いていく。こんなこと言ったらすごく失礼だけど、あの高木君すらも目じゃないような身軽さとスピードだった。
そして、突破されたディフェンス達が必死で追いかけるも届かず、ゴール下まで行った榛名は軽々とシュートを決めてしまう。この一連の流れの繰り返しのようだ。
毎回ごとに違うのはシュートの種類で、遠くから打つこともあれば近くから打つこともある……いや、何ぶんバスケには疎いものでしてね。詳しい説明ができないのは大変申し訳ない。

「きゃあああああああ榛名ああああああああ!!!!!」

そして待望の榛名の活躍で、喉を潰すんじゃないかっていう勢いで叫ぶファンガールズ。
榛名が抜くディフェンスの数にその歓声の大きさが比例して、シュートを決めたらそれが絶頂に達する。もはや悲鳴だ。絶叫だ。これもまた榛名の一連の動作に伴って繰り返されるのだ……おい榛名、そろそろ死人が出るぞ!!!

「平床ーーーーーーー!!!!!!頑張れーーーーーー!!!!!!!!!!」

ファンガールズに負けないように、私も声を張り上げる……とはいえあれだけ沢山のファンがいるんだから、榛名の応援には回らないことにする。私はあくまでも平等に愛するのだ。
……いつも口煩い榛名を応援したくないとか、別にそういう訳ではない。ないったらない。

しかしただ叫ぶというこの行動も、引きこもりにはなかなかの重労働である。
声をしっかり届けるためには腹筋使わないといけないし、息をたくさん使うから酸欠にもなるし。何より榛名ファンの歓声に押しつぶされてしまうから、余計に声を張り上げなければならなかった。蒸し暑い室内ということも相まって、叫ぶたびに体力がゴリゴリ削られていく……あぁ、なんだか目眩がしそう……ぐぅ。

……とそこで、何重ものディフェンスに囲まれて身動きが取れなくなってしまった榛名が、やむを得ずシュートを打つ……と見せかけて、近くの吉田にパスをした。榛名に集中していたディフェンス達があっと驚く暇もなく、ノーガードの吉田が軽々とシュートを決めて見せる。思わぬフェイントに、会場からはわっと歓声が上がった。私もここぞとばかりに声を張り上げて吉田の健闘を讃える。

「いいぞーーーーーーー!!!!!!いいぞ吉田ーーーーーーーー!!!!!!!」

会場の皆さん、今シュートを決めた彼の名前は吉田君と言うのですよ!スカウトなりなんなりすれば良いですよ!!……気分はさながら、自分の息子を自慢する母親だ。

一見榛名のプレイが目立つこの試合だけれども、なにも榛名だけが凄いわけではない。他のメンバー達も復帰したばかりの榛名にかかりきりにならないよう、できることを精一杯頑張っているのだ。でなきゃ今みたいなスーパーコンビネーションできないだろう??……なんて脳内で解説してしまう私は一体何様なんだろう。

しかし、先程から吉田は私からの声援が飛ぶたびに顔を青ざめさせ、周りをチラチラと見ながらそそくさと去って行ってしまう。気付いてるはずなのにその反応はなかなか辛いよ吉田。

「なんでだろ……」
「あああああああああああああ榛名ああああああああ!!!!!!!」
「…………」


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