(1)
私の目の前には玉座らしきものがあった。
その玉座らしきものには、王道RPGゲームに登場する王様のような恰好をしている中年の男が座っている。
さらにその者の横には少年少女そして中年の女性が立っており、仮に玉座らしきものに座っている中年男性を国王とするならば、中年女性は王妃、そして少年少女は王子や王女と推察することができる。
「ほう……勇者の召喚が成功したようだな。とはいっても4人のはずが、何故か5人であるのが、まあ些細なことは無視して今は召喚に成功したことを祝福すべきだろう」
玉座らしきものに座っている中年男性がそう言った。
「おい! ここはどこなんだよ」
「そうよ! 家に帰ろうと思って校門を出た思ったら、なんでこんなところに居るのよ」
「これはゆ、夢なのかしら」
「…………」
真横から声が聞こえてきたので、そちらを見てみると、私以外に高校生らしき4人がいた。何故、高校生らしきかといえば、4人が制服を着ているからである。
「うむ。突然のことで驚いているようだが、君たちは勇者として召喚されたのだ」
再び玉座らしきもの座っている中年男性が言う。
「はあ? 勇者ってなんだよ。おっさん中二病なのか! 」
「勇者って……、あんたたち馬鹿にしているの! 」
「やっぱり夢なのかな」
「…………」
そして高校生らしき者たちが抗議の声をあげた。
「おい貴様ら! 国王陛下に対してそのような態度をとるとは! 」
抗議の声をあげた途端に、私たちの両サイドに居る貴族風の身なりの男たちからの口撃が始まった。
「まあまあ。彼ら世界を救う勇者様なのだ。しかも突然の召喚で戸惑っているわだから仕方のないことだ」
と、国王が彼らを宥める。
それから国王はなぜ勇者の召喚をしたのかについての説明を行った。まず、約1000年前にこの世界を支配していた魔王をかつての勇者たちが討ち滅ぼしたものの、つい最近になって魔王が復活したとのことである。世界各国の精鋭騎士団等が征伐に向かったものの、返り討ちに遭い、次なる策として勇者の召喚を行ったとのことらしい。そして勇者として召喚された者は、少なくともこの世界では潜在的に人並外れた強さを有し得る素質を持っているのだという。
「もしかして……い、異世界に来てしまったのか? 」
「そ、そんなのありえないわ! 」
「ゆ、夢じゃないの? 」
「…………」
ここが、異世界……。
どうにも実感が沸かない。だが、とりあえずはここが異世界であるということで行動しようかと思う。
「王様。あなたに聞きたいことがあるのですが、先程、『何故か5人であるのが、まあ些細なことは無視して』と言いましたね? 」
私はここにきて初めて口を開いた。
「4人を召喚するつもりだったのだがな。なぜか5人が召喚されてしまったのだ」
なるほど。
もしかしたら、5人の内の1人はおまけとしてこの玉座の間に連れて来られた可能性があり、そのおまけは『勇者』ではない存在と私は推測している。
「例えば、召喚の際に例えば勇者以外の者が巻き込まれるというのはありますかね? 」
「実はそういう前例があったと記されている書物はある。よく見るとお主だけは何故か他の4人に比べて年齢が幾らか上に思えるが…………」
やはり、私は巻き込まれてこのに連れて来られたのかもしれない。
「陛下。確かに彼だけは一切の魔力が感じられません。勇者としての素質があれば、一定上の魔力が感じられるのですが……。もちろん他の4人は相当な魔力が感じられます」
貴族っぽい恰好をした者の1人がそう言った。
「なるほど。魔力が一切無いとなると、お主は巻き込まれたのだろう。では、お主には幾分かのお金を渡す。それで当分は生活するがよい」
そして私は別室に連れて行かれたのである。
(12)
「これで、13匹目だぜ! 」
俺は今、とても最高の気分だった。
と言うのも意外と容易くこの「デカ蜂」とやらを狩ることができているからのだ。
「ミサトもやればできるじゃん! 」
「夢の中なんだしさ! 張り切っちゃおうよ」
「ミサト……頑張ったね」
女子生徒3人も無事だったようである。俺としても良かったと思うところだ。とは言っても、俺よりも士気は高いし既に実力の差もある程度ついているかもしれないが。
「ま、まさか、『デカ蜂』の巣を4つも壊滅させるとはな。これぞまさに勇者としてのパワーなのだろうか」
教官役の騎士はそう言いながら、少し離れたところから俺たちを眺めていた。今回の戦果は結構、良かったのだろうか?
ちょっとばかり嬉しいかも……?
こうして、俺たちは良い戦果を得て王宮へと戻るのであった。
※
こんなに乗り心地の悪い乗り物は初めてである。
と言うのも私は今、ザクセランド王国のフレノバナまで行くため急行馬車に乗っているのだ。
「あんた、酔っちまったのか。まあ、急行馬車なんかに乗っちまったのが運の尽きってやつだね」
私ともう一人の乗客である男が、小馬鹿にした感じでそう言ってきた。
なるほど、急行馬車はこの世界の人間でもよく酔うものなのだろう。
「ええ。あまり馬車には乗らないものでしてね。まさかこんなに乗り心地が悪くて酔うとは思いませんでしたよ」
「そうか。なら尚更、馬車慣れもしてないわけだから急行馬車なんかに乗っちまったからさぞ地獄なんだろうね? 」
「馬車慣れしておくべきでしたよ本当に」
そもそも現代日本に生まれたならば、馬車に乗る機会というもの自体なかなかないわけなので仕方ない話である。そして、この世界に来てまだ日は極めて浅い。
「まあ、急ぎなら仕方ないが今後しばらくはなるべく急行馬車を使わずに済む予定を立てるべきだね」
「仰るとおりです」
とはいえ、既に半日(6時間)ほどひたすら乗り続けているので、そろそろ休憩になるのではないかと期待している。
私の期待通り、馬車駅(急行馬車停車駅)に到着し、馬車を引く馬の交換となったので、わずかながら外を歩く時間ができた。
尚、通常の馬車用の馬は質の悪いものらしくあまり体力がないことから、単に速度が遅いのみならず、頻繁に馬を交換するのでいくつもの馬車駅に停車することになるらしい。
そして、馬の交換作業が終わり再び馬車が動き出した。
一緒に乗っている男がいうには、今日中にはザクセランド王国領内に入るとのことである。