「―――次の方、お願いします」
……来た!
私の、番。
「みさき はるな! 11歳です!夢は、みんなを元気にできるアイドルになることです!」
これから始まるんだ。アイドルへの、道が―――
アイドルガールズ 〜トップアイドルを目指して〜
次の月曜日から、本格的な歌のレッスンが始まった。
「凛々代さんは、ボイストレーニングは初めてですね」
「はい!」
どうやらトレーナーさんは、まやがどれくらい歌えるかを知りたいらしい。
……私は、学校でそれを十分知ってるわけだけど。
「はるな。あの子、ちゃんと歌えるの?飲み込みは良いみたいだけど」
「大丈夫……」
まあ見ててと言うように、私は視線で合図をする。
なつきちゃんは、まやの方を向き直した。
「すぅ……」
大きく、けれども静かに息を吸ったまやは、
その歌声を披露した。
「凛々代さん、凄いですね。基礎が完璧どころか、大人のプロに並べるレベルです」
「そ、そうか?照れますわぁ……」
―――まやの歌が終わると、トレーナーさんは小さく拍手をする。
まやは、褒められたからか嬉しそうにしていた。
「……凄い。お嬢様って、何してたんだろう?」
「さあ……」
なつきちゃんも、すごく感心していた。
財閥の跡継ぎになるためで、ここまで歌を練習するんだ……?
「はい!じゃあ三人で、新曲のボイスレッスンを始めますよ!」
休憩を少し挟んだ後、2週間後に備えた新曲のレッスンが始まる……
「では、CDを流すのでもう一度曲の感じを覚えてください」
トレーナーさんがラジカセのボタンを押して、曲を流した。
……うん、前に聴いたのと同じ。
「―――はい。次は、曲に合わせて歌ってください。一人ずつ前に出てきてくださいね」
曲が終わるとそう言われたので、私が最初に前に出た。
「では、美咲さん。1番だけお願いします」
「は、はい!」
トレーナーさんはそう言いながら、また曲を流す。
私は、出来るだけ音がズレないようにして歌い出した。
序盤は少し後ろ向きで切ない歌詞。それが暫く続いて、サビに入ると曲は一気に明るくなる。……音がズレた。
どうやら、私はここの切り替えが少し苦手みたい。
「―――はい、良かったですよ。ただ、サビ前とサビの切り替えが少し上手くいってないですね」
1番が終わったところでトレーナーさんは曲を止めてから言う。
「す、すみません!」
褒められたけど、少し注意されちゃったから私はトレーナーさんに謝った。
「次は……」
「……あたし、行くよ」
2番目に行くのはなつきちゃんみたい。
なつきちゃんは、めんどくさそうな顔をしながら前に出る。
「じゃあ、流しますね」
そして、なつきちゃんは私と同じように一番だけを歌った―――
「えっと、高木さんは最初らへんは上手く歌えてますが、サビの辺りの盛り上がりが足りませんね。声量をもう少しだけ増やしましょうか」
「……はーい」
……なつきちゃんの歌は前みたいに感情が入ってないわけでは無かったけど、確かにサビの声のトーンが最初らへんと同じくらいだから盛り上がってないのかも。
「……」
私はそう思いながら、まやの方を見た。
まやは、やっぱり歌は得意だから、自信満々な顔をしている。
「では、凛々代さんお願いします」
「はい!」
そして、まやも私たちと同じように一番だけを歌った―――
「歌唱力に問題はありませんね。よく出来ました」
「ありがとうございます」
私やなつきちゃんとは違って、まやは何にも注意をされていなかった。
そんなまやを見て、なつきちゃんが「すごいね、凛々代さん」と私に耳打ちをする。……なつきちゃんの言う通り、まやはすごい。
「なーつーき! 凛々代さんやなくて、まやって呼んで!」
なつきちゃんの声が聞こえていたのか、まやはなつきちゃんに大きな声でそう言う。
「うっさい。分かった、分かったから黙って」
「なつき酷いわ〜」
……確かに、ちょっとなつきちゃん辛辣。
なんて失礼なことを思いながら、私は二人の会話を聞いていた。
「はーい、注目!」
すると、トレーナーさんが手を叩いて言った。
私たちは、慌ててトレーナーさんの方を見る。
「今日はお疲れ様でした。高木さん、美咲さんは課題を乗り越えられるように頑張ってください。それから、次はダンスレッスンです。振り付けの紙を配っておくので、ちょっとお家で練習してみてくださいね」
そして、私たちはトレーナーさんからホッチキスで綴じられた振り付けの載っている紙を貰った。すっごく分厚いから、きっと難しい振り付けが沢山あるんだろうな。
「では、解散です。気をつけて帰ってくださいね!」
「ありがとうございました!」
こうして、ボイスレッスンは終わったのだった。
……次の日、火曜日。
「まや、おはよう!」
「おはよう、はるな!今日の体育の授業な……」
今日も、まやと二人で、いつものように学校に向かう。
日々のレッスンがあっても、この時間があるから一日が楽しく感じるのだ。
「ねえ、はるな。最近、疲れてへん?」
「まや、どうしたの急に」
まやが急に立ち止まるので、私も止まっ、て話に耳を傾ける。
「今、夏やん?暑いやん?レッスンもあって、あんたが疲れてないかって……」
「あー、そっか……」
こないだランニングしてたときも、暑くてバテてしまった。
そんなことがあったから、まやは私を心配してくれてるんだろう。
「大丈夫だよ。でも、心配してくれてありがと」
まやに心配をかけないよう、精一杯の笑顔で返した。
「はるな……無理せんといてな。一緒にアイドル続けたいんやから」
「うん。私も……あ、遅れちゃう!早く行こ!」
「今日は暑い日が続いていますね。教室は涼しいですが、下校中は水分補給を忘れないようにしてください」
帰りの会で、先生からこんな話があった。
というのも、今日は昼ごろから、結構気温が上がっているからだ。
昼休みも、私含めて外で遊ぶ人は殆ど居なかった。
「今日ね、家でかき氷作るんだー」
「えっ、いいなぁ。遊びに行ってもいい?」
そんな会話が、ちらほら聞こえてくる。
かき氷かぁ……私も、レッスンが終わったら、お家でやりたいな。
「はるな、ちょっとええか?」
「んー?」
帰る準備を終えたところに、
同じく準備を済ませたまやが話しかけてきた。何だろう?
「今日な、そっちが良かったら、事務所までうちの車で送ってっても良いって、お父様が」
「本当!?今日、すごく暑いし、良いかも……」
お嬢様の車、クーラーとかすっごく効いてるんだろうなぁ。
車の色は綺麗な白で……
「じゃ、帰る時に校門で待ってるさかい」
「あ、ちょっとまって……親に連絡入れないと」
他人の車に送ってもらうというのだから、お母さんの許可を貰わないといけない。
私は、持たせられている携帯で、連絡を取ることにした。
「……そういうことなら、OKよ」
「ほんと?やったー!」
「こんな暑い中、徒歩で行くっていうのは無理があるわ。私が送っていけないぶん、あちらに任せましょ」
あっさり、OKをもらった。
そうして私は、校門へ急ぐのだった。
「まやー!」
「お、はるな。こっちや!」
校門では、まやが待っていた。
それと……
「これが、うちがいつも使ってる車や」
「おおー……」
思ったとおりの、綺麗な白色で、まさにお嬢様の車って感じがするものだった。
「―――お嬢様、今日はお連れ様が?」
車から出てきたのは、なんというか執事さんみたいな男の人……いや、執事さんだ。
「井原!うん、うちのクラスメイトで、同じ事務所の……」
「美咲春菜です。今日は、よろしくおねがいします」
執事さんを前に、私は丁寧に挨拶をした。
うう、ちょっと緊張する……。
「はは、そんなに改まらなくても良いですよ。では、行きましょうか」
優しい人だ……こんな人が執事で、まやが羨ましいと思った。
そして、まやと車に乗り、事務所に出発する……。
「今日のレッスンってダンスレッスンだったっけ?」
「うん、そやな」
私とまやは、車内でレッスンの確認をする。
「振り付けの練習、してきた?」
「一応な。ちょっとだけやけど」
……私は、疲れててあんまり出来なかった。やっぱり、まやはすごいな。
「お嬢様、美咲様。もうすぐ事務所に着きますよ」
そんな風に会話をしていると、執事さんがそう言った。
確かに、事務所までは学校から歩いて行けるくらいの距離だし、すぐ着くよね。
「……はい、到着しました扉を開けるのて少々お待ちください」
そして事務所につくと、執事さんはそう言って車内のボタンを押してドアを開けた。
私たちは、屈みながら車を出る。
「えっと……ありがとうございました!」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
私が執事さんにお礼を言うと、執事さんは笑ってそう返した。
「ほな、行こうか」
「あ、うん!」
そして、私たちは事務所に入った。
事務所について更衣室に入ると、中にはなつきちゃんがいた。
「……はるな、まや」
「なつき、今日もレッスン頑張ろうや!」
「……分かってるってば」
まやはなつきちゃんを発見して、すぐにそばに駆け寄って話しかけていた。相変わらずなつきちゃんの態度は冷たいけど。
「じゃ、みんな行こか!」
全員着替え終わって、まやが大きな声でそう言う。
そして、今日もレッスンが始まる。
「まずは新曲のステップから練習しましょうか」
レッスン開始。
トレーナーさんにそう言われて、私は振り付けの紙を見る。
……うわあ、サビのステップ複雑だな。
「私が手を叩くのでそれに合わせてください」
曲が流れる。
トレーナーさんの手拍子に合わせながら、私たちは踊り出した。
「……」
私とまやは苦戦していたけど、なつきちゃんだけは相変わらず完璧。
……そういえば、なつきちゃんこの前「あたし、見たら大体できるし」って言ってたな。羨ましい。
「―――はい、終了! 美咲さん、少し体力がついてきたように見えますね。その調子ですよ。もう少し練習してから次の段階に入りましょう」
「あ、ありがとうございます!」
苦戦したとはいっても、前よりは長く続けることが出来るようになっている。やっぱり、ランニングの効果があったのかな。
「高木さんはもう大丈夫なので次の段階に入りましょうか」
や、やっぱり……。
私は、そう思いながらなつきちゃんの方を見る。
なつきちゃんは、いつも通りの涼しい顔をしていた。
「凛々代さんは……初心者にしてはかなりいい線行ってますね。美咲さんと同じく、もう少し練習してから次の段階に入りましょうか」
「はい!」
それから、なつきちゃんは残りの一つ、私とまやは残りの二つの段階で終わるというところでレッスンは終わった。
二週間しかないからか、もう一日で半分は終わらせないといけないみたいだった。
「次は、ボイトレですね。それでは解散」
よし、今日は終わり。
そう思った時、レッスンルームの扉が開いた。
「……高木、ちょっといいか?」
中に入ってきたのは、プロデューサーだった。
プロデューサーはなつきちゃんに手招きをして、なつきちゃんとレッスンルームに出て行く。
「……なんやったんやろ」
「さあ……?」
私とまやは不思議に思いながらもレッスンルームから出た。
――――あたしは、プロデューサーにある個室に連れ出された。
「急に呼び出してすまない。大きなことでは無いのだが……」
……じゃあ、呼び出さないでよ。
そう思いつつ、あたしは視線でプロデューサーに話を促した。
「高木は、なんでアイドルになったんだ?」
「……は?」
突然の意味のわからない質問に、あたしは思わず冷たい声を出してしまった。
「それ聞いてなんか利益あんの?」
「いや、それは無いが……気になったからだ。お前はスカウトをした時、全く興味無さそうだった。だけど、アイドルになった。その理由を聞かせてくれ」
そういうことね。……まあ、別にいいかな。
「あの後家に帰ってママにスカウトされたことを話したんだよね。そしたら――――」
『嘘、なんで断ったの。せっかくあなたのやるべき事が見つかるところだったのに。……名刺貰った?』
『えー、貰ったけど』
『貸しなさい! ……高木です。娘がスカウトを受けたと言う話を聞いたのですが……』
『娘を、アイドルにしてください』
「――――って事になっちゃって、それで」
「要するに、無理矢理ってことか……」
あたしの話を聞いて、プロデューサーは頭を抱えた。無理もないと思うけど。
「……まあ、でも」
「ん?」
あたしは、そこで言葉を切る。
なんかプロデューサーに対してこういうこと言うのも照れくさいけど……たまには良いかな。
「最初はめんどくさかったけど、今は楽しいよ。ママの言う『やるべき事』、見つけてくれてありがとう」
……プロデューサー、超驚いてる。
いつもは言葉で負けてるから、たまには反撃しないと。
「じゃ、帰るね。もう要は済んだでしょ」
あんぐりと口を開けて驚いてるプロデューサーの顔を見て、あたしはいい気分で家に帰った。
―――本番まで、残り3日になった。
「ここでクロス!ターン!」
「は、はいっ!」
今日も、私達は新曲の練習をしているところだ。
大詰めとだけあって、いつもより気合が入っている。
「……一旦休憩!三人とも、すっごくいい調子ですよ!」
トレーナーさんが音楽を止めると、私とまやは、その場に座り込んだ。
「はぁ……お、終わった……」
「うん……ごっつ疲れたわ」
まやも私も、一旦と言われているのにもう終わってる気分。
それほど、ダンスレッスンはハードなのだ。
「ふう……はぁ……」
「あれ?なつきは、座らへんの?」
「あ、うん……。あたしは、いい……」
「そ、そう」
心配するまやをよそに、なつきちゃんは相変わらず、立ち姿勢を維持しながら水分補給をしていた。
休憩しなくて、疲れは大丈夫なのかな?ちょっと心配になってくる。
「そういえばはるな、イオリっちゅー子のことなんやけど……」
「え、あの子がなにか……」
いおりのこと、何か分かったのかな?
なんだろう……
「お前ら!下にお客様だ!」
「え??」
まやに話を聞こうとした途端、プロデューサーが入ってきた。
お客様?
「休憩中悪いが、すぐに下まで来てくれ。待ってるぞ」
「……何だろう?」
まやもなつきちゃんも、わけが分からなそうな顔をしている。
自分も、よくわからない。
とりあえず、下に降りてみよう。
トレーナーさんに一言言って、私達は一階に戻った
「……来たか」
一階に戻ると、焦った表情をしたプロデューサーが待っていた。
「プロデューサーはん。お客様って誰なん?」
「この先の応接室で待たせている。……来れば、わかる」
なんだろう?プロデューサー、焦ってるような……
そんなプロデューサーに案内されて、私達は応接室に入った。
「え、この人達って、まさか……」
そこで、私達を待っていたのは、意外すぎる人たち。
「初めまして、ノルンの皆さん。STARSの、美空まどかです」
丁寧にお辞儀をするその女性は、自分のことをスターズだと言った。
でも、疑うようなところは、なにもない。
……隣りに座ってる、もうひとりの女の子も、あの時会場で見た二人だからだ……。
「なんで、スターズの二人がここに来てるの?」
「そ、それはだな……」
なつきちゃんが尋ねると、プロデューサーは複雑そうな顔をした。
さっき焦ってたの、こういうこと……?
「……顔合わせだよ」
その時突然、ソファに座っていたもうひとりの女の子が、口を開いた。
「顔合わせ?あれ、あんたまさか、やっぱり……」
「え?まや、どうしたの?」
なんというか、少し男の子っぽい感じのその子を見てまやは、なにかわかったような顔をしている。
「あー!そうや。あんた、はるなにジュースおごったやろ?」
「え、まや……え?」
どういうこと?
まやの言うことが正しかったら……
「そうだけど……どうしてそっちが知ってるの?」
その人は、帽子を取り出して、それを深くかぶった。
「え、あの時の……あれ?女の子……」
確かにあの時の、 “イオリ”その人だった。
男の子っぽい、女の子だったんだ……。
「気付かれないと思ったんだけどね。ボクのこと、知ってたの?」
イオリさんは、驚いたような顔をしながらまやに尋ねる。
「……はるなから、ジュースを奢ったイオリって名前の男の子の話を聞いたんや。その後、この間のライブのパンフレットを見たら、イオリって名前が書いてあって……男の子じゃなかったけど、はるなの話とピッタリやったから」
そ、そうだったんだ……。
「……なるほどね」
まやの言葉に、イオリさんは納得したような顔をした。
……あっ、イオリさんに聞きたいことあったんだった。
「あの、なんで私の名前を知ってたの?」
あの日、イオリさんは私が名乗った時「知ってる」って言ってたけど、あれはどうしてだったのだろう。
それが気になって、私は尋ねた。
「デパートのライブのとき、君と高木菜月さんの名前を聞いてね。結果がボクたちと同等だったから、凄い子が居るんだなって、覚えてた。あ、今回共演を依頼したのもボク。君たちと、歌ってみたくてさ」
「ふうん……」
なつきちゃんはイオリさんの話を興味無さそうに聞いていたけど、これって結構重要なことだよね……?
だって、あのSTARSの一人が私たちに興味を持ってくれたんだから。
「あ、そろそろ時間だ。顔合わせは終わり。ボクたちは帰るよ。行こう、まどか」
「ええ。ノルンの皆さん、本日は、時間をとって頂き、ありがとうございました」
そして、イオリさんと美空さんは事務所から出ていった。
「……帰るのはやくない?」
「STARS、人気だからきっと仕事があるんだよ」
そんなわけで、STARSの2人が帰ったので私たちはレッスンルームに戻って再びレッスンを再開するのだった。
「……よし、今日のレッスンはここまでだ!」
次の日のレッスンは、気が強そうな方のトレーナーさんだった。
今回、この人に見てもらうことは少なかったけど、いつもどおりに出来た気がする。
「お、終わったぁー……」
ダンスレッスンも、ここ数日で上達してきた。
だけど、体力はあんまりみたいで……
いつものごとく、床に座り込んだ。
「は、はるな……本番前やけどもう一歩も動けへん。手ぇ貸してーな……」
「無理だよ……私だって疲れてるし」
私の隣では、まやもまた座り込んでいた。
なんか、いつもより疲れてる……かも。
「……まや、立てる?」
そんなまやに手を差し伸べたのは、なつきちゃんだった。
相変わらず、1人だけ立ってる。凄いなぁ。
「あんたも、たまには座りや?」
「……考えとく」
なつきちゃんの手を支えに、まやが立つ。
「ほら、はるなも」
「あ、ありがとう……」
私にも手を差し伸べてくれたので、その手をしっかりと握って、立った。
……なんか、いいなぁ。こういうの。
「よう、今日のレッスンもキツかったみたいだな」
「大和プロデューサー!」
ドアが開いて、プロデューサーが入ってきた。
こういう時には決まって、用事があるけど……
「疲れてるところ悪いが……今から下見に行くぞ」
この前と同じように、私達は駐車場に案内された。
「また、下見……?」
「そうみたいだね」
前と違うのは、まやが一緒なことだろうか。
「ここ、駐車場やけど、車一台もないやん!」
「はは……」
そう言えば、まやがここを見るのは初めてだったかも。
事務所の車も中々見つからない薄暗い駐車場に、まやは驚きを隠せないでいた。
「確か、この辺に……」
「……いた」
しばらく歩いていると、なつきちゃんの指差す方に、
前乗った大きなワゴン車が停まっていた。
「よし、三人とも来たな。乗ってくれ」
ドアを開けて、私達はワゴン車に乗った……
「プロデューサーはん、運転できたん?」
「ああ……って、こんなやりとり、前にもした気がするぞ」
まやも一緒に、車に乗ったわけだけど、
今回はどんな場所で、ライブをするんだろう?
「うう……こないだもそうだったけど、レッスンの後だから……ねむい!」
フカフカの座席が、睡魔となって襲ってくる。
寝てしまいたい……
「うちもや……はるな、肩貸して……」
「え、ちょっ、まや……!?」
まやは、私の方により掛かると、すぐに眠ってしまった。
「はるな、ごめんあたしも……」
「え!?なつきちゃん……」
なつきちゃんも、私によりかかって、すぐにぐっすり。
ああ……両端がすごく重いよ。
「美咲、お前も寝てていいぞー」
「……無理です」
左右から重みを感じているせいで、
到着するまで私だけ、寝付けないままだった……。
「ついたぞ……って、美咲、大丈夫か?」
「……はい」
ブレーキの音が聞こえて、車が止まるのがわかった。
同時にプロデューサーの声がして、私は目を開ける……。
ってことは、少しは眠れてたのかな?
さっきよりは、気分がいい。
「ゔっ……」
気分がいいと思ったのは一瞬で、左右に女の子二人がもたれかかっているのを思いだした。
掛かる重みは、相変わらず凄かった。
「二人共……起きてー……」
着いたし、そろそろ軽くなりたい。
そう思って、二人を起こす。
「えーもう着いたん……?」
「ふわぁ……着いたんだ」
まやの方はもう少し寝てたいって感じだけど、
なつきちゃんの方はゆっくり眠れたって感じで、すっきり起きていた。
「ここだ。明後日、STARSと共演するステージは」
「お、おお……」
車から降りると、目の前に大きな建物があった。
ライブハウスと書かれたその建物は、夕方なのに眩しいネオンが輝いていて、とても綺麗だ。
「ライブハウスで、アイドルのステージを開くん?」
「そうだ。中に入ってみろ」
プロデューサーについていくまま、私達はライブハウスの中に入っていく……。
「暗いね……」
「足元、気をつけて」
駐車場よりは明るいけど、それでも暗い通路を、ゆっくりと進んでいく。
「あれ?なんか聞こえへん……?」
「もうすぐか」
まやの言ったとおり、前の方からかすかに、音楽のようなものが聞こえてくる。
「ライブハウスだから、ライブやってるのかな……」
「多分ね……」
一歩ずつ足元に気をつけながら、音のする方へ進む―――
「……お、おお!?」
驚く私の声も聞こえなくなるほど、その部屋は盛り上がっていた。
ステージの上で歌うバンド。それを応援するお客さんたち……すごい!
「ラ、ライブハウスや……」
まやは、その騒がしい光景に目をキラキラとさせている。
「プロデューサー、私達……ここで歌うの?」
「らしいな。この客の中、行けるか?」
「……勿論」
なつきちゃんとプロデューサーが、何か話してたけど……
周りがうるさくて、私には聞き取れなかった。
「よし、帰るぞ。夜になっちまう」
また暗い通路をたどって私達は、入り口にある車まで戻った。
帰りの車は、もう遅いので一人ひとり送ってくれるらしい。
「あんなトコで歌うんか、明後日が楽しみやな……」
「ほんとだね……」
見学だけだったにもかかわらず、まやはすごく興奮しているようだった。
クーラーが効いてるのに、車の中は熱気に包まれている。
「今度はお遊びで登るんじゃなくて、アイドルとして立つんやな……」
「まや……どういうこと?」
お遊びで登る……まるで、登ったことがあるみたいな言い方。
なつきちゃんが聞くと、まやは上を向きながら言った。
「デパートの屋上で……あのステージにな……」
「え……!?」
まやの言葉で、私はとあることを思い出した。
―――それは、私がいつも感じている空気。
その人に見とれてしまうような……
一緒にいて、すごく心地が良い……
「まや……そ……れ……」
思い出した途端、意識が重くなって、遠くなっていく……。
「ん?はるな……寝てもうた」
その後私が目を覚ましたのは、自分の部屋のベッドの上だった。
それから2日後、ライブ当日だ。
「こんにちは、ノルンの皆さん」
「あ、イオリさん……」
私たちが控え室で待機していると、イオリさんが入ってきた。
「今日はライブだね。お互い、悔いのないようにしよう」
「う、うん!」
あのジュースの時といい、イオリさんはやっぱり優しいな。
「あ、ところで……ボクたちと君たちは共演という形になるけど、対決するわけじゃないからね。そこの所、よろしく」
そ、そうなんだ……
てっきり、ライバルユニットだし対決しなきゃいけないと思ってた。
「そうなんだ……じゃあ、お互い楽しまなくちゃね」
驚いて、私は少し間が空いたあとに答える。
「もちろん」
すると、イオリさんは思わず同性でもキュンときてしまうほどのかっこいい顔で微笑んだ。
「先にボク達のステージだから、見ててよ」
そして、イオリさんはそう言いながら控え室から出て行った。
……もう、ステージなんだ。そんな時に私たちの所に来てくれるなんてすごいな。
『みんな、STARSのイオリだよ』
『STARSのまどかです〜』
控え室のモニターに、会場の様子が映る。
2人は、衣装もメイクもすっごいキラキラしていて、星みたいで……とにかく、綺麗だった。
『じゃ、一曲歌うから。ボクたちの姿、見てて!』
それから、曲のイントロが流れてくる。透き通ってて、小さい音だからちょっと静かな曲なのかな。
そして、2人は歌い出した。
綺麗な歌声も、ブレひとつ無いダンスも。
2人は、キラキラしたステージに負けないくらい輝いていた―――
STARSのステージが終わった後。
「いよいよ、次はそっちだね」
「頑張ってくださいね、ノルンの皆さん」
イオリさんと美空さんが控え室まで来て、そう言う。
……もう、私たちのステージ直前なのだ。
「は、はい! ありがとうございます!」
私は、応援してくれる美空さんにお礼を言って、なつきちゃんとまやの方を見た。
「……頑張ろ」
「全力でいこうや!」
2人とも、気合いは十分みたい。
「じゃ、いこう!」
そして、私たちはステージの裏へと向かったのだった。
ステージまでは、デパートの時と似た感じで、少し長い階段がある。
私たちは、その階段の前でステージを待っていた。
「お前ら、頑張れよ」
「……大和プロデューサー」
すると、後ろからプロデューサーの声が聞こえてくる。
緊張しているから、この応援がありがたい。
「あんまりレッスンは見れなかったけど、お前らが頑張っていたのは知っている。失敗してもいいから、全力を出せ」
「……はい!」
うん、やっぱりプロデューサーの言葉は安心する。
それは2人も同じだったみたいで、緊張で堅かった表情が和らいだ。
「それでは、ノルンの皆さん。準備をお願いします」
「はい!」
いよいよ、ステージ。
私たちはステージへの階段を見上げる。
この先には、あの日下見で見たキラキラとしたステージが。そして、私たちはこの後そこに立つんだ!
「10、9、8、7……」
カウントが始まる。デパートの時みたいに、心臓の音がどんどん大きくなっていく。
「3、2、1……0!」
私たちは階段を駆け上がった。
――――この先には、ステージだ!
目がチカチカするほどのライト、見渡すと沢山のお客さん。
これこそが、私の目指してたアイドルのステージだった。
「こんにちは、ノルンです!」
緊張していたけれど、それがどんどん消えていく。
自分でもよくわからないけど、ステージに立つとなんでも出来るような気がするんだ。
「うち、凛々代真夜! ノルンの3人目の女神や!」
あ、そういえばまやって初めてお客さんの前に立つんだ。
お客さんが受け入れてくれないかもしれないのに、物怖じしている様子もない。
……すごい、まや。
「あはは!」
「いいぞ、真夜ちゃん!」
自信満々そうに言うまやが面白かったのか、お客さんたちにウケている。
「……えっと、今回も新曲。みんな、あたしたちの歌、しっかりと聞いて!」
「勿論!」
一方のなつきちゃんも、ちゃんと進行をしてくれている。
……そして、なつきちゃんのセリフに合わせて曲が流れた。
今回の曲は、なつきちゃんが歌い出し。
なつきちゃんが歌う横で、私とまやはひらひらと踊る。
「おお……」
なつきちゃんの間違いひとつもない100点の歌とダンスは、お客さんの注目を集めている。
そして、次はまやのパート。
まやが歌い出した瞬間、会場が湧いた。まやの声は人を魅了する力があるって、私は思う。
サビに入った。いよいよ、私の歌。なつきちゃんとまやがダンスの方に移る。
……失敗してもいいから、大きな声で。お客さん全員に聞いて貰えるような歌を、私は歌いたい!
そんな思いを込めながら、私は歌い切った。
曲の終わりのイントロ。私たちは、最初の切なげな踊りとは逆に、楽しそうなステップを踊る。
まるで、冷たい世界からあたたかい世界に変わったように……!
――――そして、曲は終わった。
「ありがとうございました!」
大歓声だった。ライブは、成功。
今までで1番やりきった。……私はそう思うけど、まだこれは終わりなんかじゃない。
「これからも、“3人の”ノルンを、よろしくお願いします!」
私達の夢は、まだまだ始まったばかりなんだ―――
「……そうか、ライブは上手く行ったか。向こうの事務所にも、礼を言わないとな」
―――社長室。
大原は、ライブハウスにいる大和と連絡をとっていた。
いい結果だと言われ、彼の顔は安堵の表情を浮かべている。
「じゃあ、帰ってくるのを待っているぞ」
そう言い残して、電話を切る。
「時間は掛かったが、お前の夢をようやく始められそうだ……」
携帯の待受を見て、大原は誰かに話しかけるように呟く。
「まだ、見守ってくれているか?……優奈」
待受画面には、あどけない表情をした可愛らしい少女が写っていた……。
Go To next stage……
・時々変なところで句読点打ってる
・心情表現が少ない気がする(自分が言えることじゃないが)
・改行が多すぎて逆に読みにくい
・ストーリー的には良い
・関西弁に違和感がある
・状況描写は良い