アイドルガールズ 〜トップアイドルを目指して〜

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1:みれちー◆aw:2018/06/23(土) 22:01

「―――次の方、お願いします」

……来た!
私の、番。


「みさき はるな! 11歳です!夢は、みんなを元気にできるアイドルになることです!」

これから始まるんだ。アイドルへの、道が―――



アイドルガールズ 〜トップアイドルを目指して〜

36:スミレ◆aw:2018/07/03(火) 21:08


―――ステージの本番まで、あと二週間になった。


「このステップはこうだ!美咲、テンポが遅い!」

「は、はい!」

この日も、怖そうな方のトレーナーさんからレッスンを受けていた。



「……よし、今日はここまで!」


「は、はぁ……」

お、終わった。
私は、その場にへたり込む。



「ふ……う……」

なつきちゃんも、すごく疲れているようだった。
でも、座りたくないのかわかんないけど、なんとか立っている。


「ふたりとも、私が初めて教えたときよりはかなり上達している。二週間後にははじめてのステージだったな?頑張れ!」

「……はい!」

怖い雰囲気だけど、いざ褒めてもらえるとすごく嬉しかった。

「よーしじゃあ、今日はストレッチで……」

レッスンも終わりに近づいた、その時。


「……ふたりとも、やってるか?」

「あ、プロデューサー!」

大和プロデューサーが、ドアを開けて入ってくる。


「……なんですか?」

突然入ってきたプロデューサーに、なつきちゃんは嫌そうな顔をしていた。

「そう怖い顔するなよ。今日はお前らに朗報だ」

「え??」


ろうほう……嬉しい知らせって、何だろう?


「着替えたら、会議室に来てくれ。急がなくていいぞ」


そう言うと、プロデューサーはレッスン室から出ていった。


「……気になる!」

私達もすぐにレッスンを終わらせて、着替えを済ませてこよう……。
そう考えると、最後のストレッチにも熱が入る今日のレッスンだった。

37:スミレ◆aw:2018/07/04(水) 07:26

「……プロデューサー!お待たせしました!」

「お、来たな」


レッスンを終えて着替えた私達は、プロデューサーの待つ会議室にやってきた。急がなくてもいいと言われたけど、朗報の方が気になるので時間はかからなかったと思う。


「で、朗報だが……ん?どうした高木」

「別に……」

ちらっと見ると、なつきちゃんは不機嫌そうな顔をしていた。
なんだろう?そういえば、さっきトレーナーさんとなにか話してたけど……。

「よし、じゃあ話を続けようか。……これまでのボイトレとダンスレッスンで、お前らにはステージで輝く力が着実に身についている」


「ステージで、輝く力……」

アイドルに、近づいてるのかな?私達……。
正直、あんまり実感はない。


「そこでだ。ユニットで歌う曲を持ってきた」

「曲!?」

プロデューサーは、一枚のCDをセットしてラジカセのスイッチを押した。


「……ふーん」

「わあ……!」


流れてくるのは、アイドルらしいはなやかで明るい曲。聞いてる方はしっかりと元気を貰えそうな……。


「残り二週間は、こいつの歌唱とパフォーマンスの練習だ。ステージで披露するぞ」

「これを……」


この曲を、私達で歌うんだ……。
練習してきたから、前よりは歌にも自信がついている。


「……」

「なつきちゃん……?」


でも、隣に座るなつきちゃんは、機嫌が悪いというか……不安そうだった。

38:Rika◆ok:2018/07/04(水) 16:58

新曲発表の前、あたしはトレーナーさんに、ある個室に呼び出されていた。

「技術は上がっている。だがな、お前には足りないものがある。それは……」

この時は、やる気がどうとか言われるんだろうなー。って、軽い気持ちでトレーナーさんの言葉を待っていた。
でも、この後言われたのは、想像とは全然違うことで……


「“感情”、だ」

あたしには、直すことの出来ない、どうしようもない事だった。



「感情……って、どういうこと?」

少しの心当たりはあったんだけど、あたしはとりあえず理由を尋ねた。

「……お前が一番分かっているだろう」

トレーナーさんは、呆れたような表情で答える。
……お前が一番分かっているだろう、ね。全くもってその通り。あたしに感情が足りないのは、あたしが一番知っている。

「この後のプロデューサーの話で理由は分かると思うが……お前、このままじゃダメだ」

トレーナーさんは、あたしにそれだけ言って、個室から出て行く。

あたしはその時イライラして帰ってしまいたい気分だったけど、呼ばれて行かないのもアレだったから、プロデューサーの待つ会議室に向かった。

……そして、今に至るわけ。

39:Rika◆ok:2018/07/05(木) 21:10

次の日、新曲のレッスンが始まった。
今日は優しい方のトレーナーさんのレッスン。
ダンスと歌を両方するのは難しかったので、今回は歌のレッスンだけみたい。

「まずは、新曲に合わせて歌ってみましょう!」

一人ずつ歌わないといけないみたいで、先に歌うのはなつきちゃん。
ちらりとなつきちゃんの顔を見てみると、昨日と同じような不安そうな表情をしていた。
トレーナーさんはなつきちゃんの様子に気付いたのか、少し戸惑ったような表情をしていたけれど、そのままラジカセの電源を入れる。

曲が流れて、なつきちゃんは仕方なそうな顔をしてマイクの前に立った。……そして。


明るくてはなやかなその曲を、静かに歌っていた……



「歌唱力には問題なし、です。しかし……」

トレーナーさんは、戸惑いを隠しきれてないような表情のままで、歌い終えたなつきちゃんの隣に立つ。
なつきちゃんは、トレーナーさんの方をちらりと見て、それからすぐに目を逸らした。
……まるで、これから何を言われるのか分かっているみたいに。


「感情でしょ、知ってる」

私にもトレーナーさんにも目を合わせずにそう呟いたなつきちゃんの横顔は、諦めてるような、そんな風に見えた……。



「今日は、ここまでにしましょう!」

なつきちゃんが調子が悪いのもあって、私が歌い終わった後にレッスンが終わった。

「……」

なつきちゃんは、あれから一言も話さない。
私は心配になって声をかけようとしたけど、今声をかけたら突き放されそうな気がして、それは出来なかった。



レッスンルームから更衣室に移動して、私たちは着替える。

「……」

相変わらずなつきちゃんは話さない。
不機嫌そうな、めんどくさそうな、そんな顔をしながら無言で着替えているだけ。

それで、私は先に帰った方が良さそうな気がして、着替え終わった後更衣室から出ていこうとした。

「……なんで出来ないの、あたし」

そして更衣室の扉を開けて足を一歩踏み出すと、後ろからそんな声が聞こえてきた。
普段のなつきちゃんとは違って、その声は少し辛そうだった。
慰めてあげたかった。声をかけてあげたかった。力になってあげたかった。
……だけど。


こういう時のなつきちゃんに話しかけるのは、怖くて出来なかった……

40:スミレ◆aw:2018/07/05(木) 21:22

「なつきちゃん……大丈夫かなぁ?」

その後、なつきちゃんは先に帰ってしまった。
追いかけようとしたけど、お母さんの迎えで車で帰ったみたいで、姿を見つけることもできなかった。

明日から、ちゃんとレッスンできるのかな……
そんな不安が、私を包み込む。


「私も帰る、か……」


リュックを背負いなおして、事務所を出る。
さようならとあいさつをする受付のお姉さんは、今日もまた笑顔だった。


今の私は……笑顔?

こんな調子で、曲を歌えるのかわかんない。
すごく、不安―――

41:Rika◆ok:2018/07/07(土) 07:41

「……」

あたしは、次のレッスンの日の朝もイライラしてた。

……今まで出来ないことなんて無かったはずなのに。何でも出来たはずなのに。
初めて出来ないことがあって、でも今まではなんでも出来てたからどうすればいいのか分かんなくて。
そして、ステージはもうすぐで……

だから、レッスンをサボるわけにもいかなくて。

「……めんど」

そうして、渋々あたしは歩いて事務所に向かった。



「おはようございます!」

事務所に入ると、受付の人がいつも通りの笑顔で挨拶をしてきた。

……なんでそんなにニコニコ出来るんだろうね、この人は。

心の中で悪態をつきながら、あたしは更衣室へと歩く。

「あ……」

更衣室のドアを開けると、中にははるながいた。
あたしは少し気まずくなってドアを閉めようとしたけど、そんな事したら感じ悪いし着替えられない。
だから、あたしは何事も無かったかのようにして、更衣室の中に入って着替えた。

42:Rika◆ok:2018/07/07(土) 07:41

「今日もレッスンを始めます!」

今日のレッスンは、それぞれの課題を克服するためのものらしい。
あたしの課題は笑顔で、はるなの課題はダンス。

「うわぁ!」

はるなはやっぱりダンスが出来ないのか、ターンで転んでいた。

「うー、やっぱりターン出来ない……」

……出来ない?

「高木さん、笑顔笑顔!」

「笑顔ってどうすればいいの……」

はるなの「出来ない」という言葉に何かが引っかかったけど、とにかく今は自分のレッスン。
今あたしがさせられてるのは笑顔を作るってレッスンなんだけど、笑顔の作り方って全然わかんない……。


そんな風に困惑していると、入口のドアがノックされた。

「どうぞー」

トレーナーさんがそう言うと、プロデューサーが「失礼します」と言いながら入ってくる。
……なんでプロデューサー?

「高木はさ……今、楽しいか?」

プロデューサーはあたしの前にずかずかと歩いてきて、いきなりそう言う。
質問の意図は見えないけど……

「……楽しくなくは、ないよ」

とりあえず、本心を答えておいた。
……ま、今の状況は楽しくないけど。

「人間はさ、楽しいと笑顔が出るんだよ。お前、一度アイドルを心から楽しんでみないか?」

「笑えるまで、楽しめないんだけど……」

プロデューサーの良いこと言った感満載の言葉に、あたしはすぐに反論する。

それに対して、プロデューサーは困ったように苦笑いをした。

「それは人それぞれだ。
とりあえず、これだけは言わせてくれ。
……高木、大丈夫。出来ないことは変な事でも悪いことでも無いんだぞ。普通のことだ」

普通、ね。
昔から普通とはかけ離れた生活をしてきたあたしにとっては、慣れない言葉。

「誰にだってそういう事はあるさ。出来ないことがある人間は、それを克服しようとする。それが、“成長”だ」

「成長……」

―――元から出来たから、成長なんてしなくていい。
そう思ってたから、あたしは心から何かに熱中することも、心から楽しむことも出来なかったのかな。

「お前の課題は笑顔なんかじゃない。アイドルを心から楽しむこと、だろう? そしてお前は十分に楽しんでるはずだ。だから……自分の気持ちに素直になってみてくれ。きっと変われるはずだから」

プロデューサーはそこまで言ってから、トレーナーさん達に頭を下げて出て行った。

……たしかに、あたしは自分の気持ちに素直にはなってなかったのかも。
アイドルを楽しいと思っても、気のせいだとかそんなわけないとか変な事考えちゃって誤魔化してた。

「あはは、プロデューサーさんらしい言葉でしたね。私も、笑顔を押し付けすぎたのかもしれません。ごめんなさい!」

あたしが一人考え込んでいると、トレーナーさんが目の前に来て頭を下げた。

「美咲さんには笑顔、高木さんにはパフォーマンスという良いところがあるから、無理に変えなくても良かったんですね」

「……違う」

トレーナーさんの言葉に対しそう言うと、トレーナーさんはびっくりしたような顔をしながらこっちを見た。

「あたしに笑顔は出来ないかもしれないけど、楽しむことはやってみせる。だから……あたし、変わります」

出来ないからって変わらない。
出来ないから変わるのが普通なら、それはなんか嫌だ。
プロデューサーの言葉で課題も分かった。
一度、自分の気持ちに素直なって……

「……はい、私も出来る限りサポートをするので、一緒に頑張りましょう!」

レッスンも、出来る限りは楽しもう。
楽しむのも、“感情”のうちの一つには入るはずだから――――

43:スミレ◆aw:2018/07/07(土) 17:32

同じ頃、同じ部屋……。

「ふぅっ……ふぅっ……」
美咲は、ダンスレッスンに励んでいた。


「ターン、難しい……!」

レッスンを始めてから、同じところを十数回は繰り返している。


「ここ、だけがっ……はぁ」

先に進みたい。そんな気持ちが、彼女を焦らせる。
止まってはいけないと思うのに、乗り越えられない。


「……春奈」

「なつきちゃん……?」


声のしたほうに振り返ると、菜月のほかにトレーナーやプロデューサーが立っていた。

周りが見えないほど練習していたのに気づいた美咲はハッとなり、少し落ち着いた。


「私も、手伝う……」

「え?」

菜月自らが手伝ってくれるのは、春奈にとってもありがたい。
だが、内心不自然だと思う春奈だった。

44:スミレ◆aw:2018/07/08(日) 13:36

「ほら、ここがこう……」

「う、うん」


私は、なつきちゃんに手を取られながら、同じようにステップを踏んでいく。

「ここで、ターン」

「あ、でも……」

動きに合わせようとしても、このターンだけは……
そう思っていると、

「回って!」


なつきちゃんの声に、思わずターンの動きをする。


「わっ……!」

回った瞬間、体が引っ張られるような感覚に襲われた。
そして、目の前が一回転……

「できたでしょ?ターン」

「う、うん……」

一回転。てことは、出来たんだ。
手伝ってもらいながらだったけど、ターンを出来たんだ……!


「……あ、でも」

このままじゃ、なつきちゃんのほうがターンできない。

「どうしたの?」

「ううん。手伝ってもらわなくてもいいように、練習するね」


なつきちゃんは、いつもみたいに淡々としていた。
でも、どこか、何かが違ってるように感じた……。

45:Rika◆ok:2018/07/09(月) 17:33

「……回って!」

「よっ……とと。出来たよ、なつきちゃん!」

懸命にレッスンをする2人の様子を、トレーナーとプロデューサーは見ていた。

「おお、美咲さん出来てますね」

「そうですね」

菜月に教えられながらターンをする春奈。
まだ動きは硬いが、前よりは確実に成長している。

「……でも」

トレーナーは、春奈の成長を喜びつつ、菜月の方を見る。

「高木さんも、成長しましたよね」

指導中も相変わらず気だるげな顔の菜月。
だが、その表情は初めの頃のレッスンの時より、生き生きしていた。
そして、これまで表情を変えることもなく、淡々とレッスンをこなしてきた菜月とは、違っていた。

「ははっ、スカウトした頃は『あたしが皆に笑顔を振りまく? ふざけてるの?』とか言ってたんですけどね……」

プロデューサーは、少し前の事を思い出しつつ、苦笑いをした。

「そ、それは中々……でも、高木さんはそう言いつつもスカウトは受けたんですよね。何ででしょう?」

それに対し、トレーナーは不思議そうな顔をして尋ねた。

「それが、俺にもさっぱり。
彼女には引き受けてもらえないって思ってたんですけど、スカウトをした数日後に親御さんから連絡が来たんですよ。『菜月をアイドルにしてください』って」

「そうなんですか……」

プロデューサーと、トレーナーはよく分からないと言ったように首を傾げる。

「……とりあえず、今は彼女達を見守りましょうか」

「……そうですね」

疑問はあったものの、すぐに切り替えて、プロデューサーとトレーナーは日が暮れるまで2人の様子を見守っていた。

46:スミレ◆aw:2018/07/09(月) 18:33

本番のステージまで、残すところ三日になった。
私は、毎日の事務所でのレッスンに加えて、学校がある日はまやさんからのトレーニングも時々受けている。


「……ふう。今日は、これくらいで」

「まやさん、いつもごめんね。練習に付き合ってもらってて……」


結構頻度が高いので、こっちとしてはまやさんの疲れが心配。

「ええんよ。こういう形で声を出すのも楽しいし」

口調を戻したまやさんは、笑顔でそう言った。


「うちな、いつもこっちで行きたい。でもな……」

「でも?」

口をつぐむまやさんの表情は、なんだか重い。


「……うちには、やるべきことがある。だから表は、お嬢様じゃないとあかんの」

「やるべき、こと……」


それが何なのか、私にはわからなかった。
だけど、重い気持ちはすごく伝わってくる。


「詳しく話す気もないのに、言ってもあかんな!……ところでみさき、歌上手くなってる。音楽の授業で、うちくらい拍手もらえるで」

「そ、そうかな……」


レッスンも重ねているおかげだろうか。実際に感想を言われると、少し照れ臭かった。


「すごいな。うちも、あんたみたいに―――」

まやさんが言いかけた途端に、チャイムが鳴る。昼休みの終わりだ。
その言葉はチャイムにかき消され、、最後までは聞こえなかった。


「……戻りましょ」

「う、うん」

47:Rika◆ok:2018/07/11(水) 16:51

学校が終わって、事務所に向かう。
今日のは歌のレッスンみたい。まやさんに褒められたし、きっとしっかり歌えると思う。

「おはようございまーす」

事務所について、私は挨拶をしながら中に入る。
最近知ったけど、こういう場所での挨拶はどんな時間でも「おはようございます」らしい。


そして、受付のお姉さんのいつもの笑顔を見ながら、私は更衣室に向かった。



着替え終わって、レッスンルームに入る。

それから10分くらいして、なつきちゃんが入ってきたので、レッスン開始だ。

今日は2人で合わせて新曲を歌う。明日までには完璧にしておかないといけないから、頑張ろう。

私はそう思いながら、マイクの前に立った。

そして、なつきちゃんが隣に立ったのを見て、自分のパートを出来るだけの力を出して歌う。

「美咲さん……歌、上手くなってますよ!」

「……ふぅん」

トレーナーさんは褒めてくれて、なつきちゃんは……声のトーンで、そんなに反応は悪くないことが分かった。
ダンスも出来るようになってきて、歌も歌えるようになってきた。

……私、成長出来たかな?

そう思うと嬉しくて、練習だけど精一杯の力を出して歌ってしまった。

自分のパートを歌い終わると、次はなつきちゃんのパート。
私は歌うのをやめて、その間の振り付けを確認していた。

「高木さん、前よりは良くなっています。声量をもう少し! それだけです!」

「……はーい」

まだ少し声の大きさが小さいけど、前よりは絶対に大きくなってるはずだし、声はとっても綺麗。そして、なんていうか……少し、気持ちが入ってきたように見える。
なつきちゃんも、もう少しで出来るようになるはず。

「うわぁっ!」

……よそ見してたらターン失敗しちゃった。

私は、気を抜きすぎたと心の中で反省したのであった。



「ありがとうございました!」

「……お疲れ様でしたー」

レッスンが終わって、2人で挨拶をして、解散。

大体いつも通りのレッスンだったけど、少し違ったのは私がなつきちゃんに歌を教えたこと。
前までは教えられる側だったのに……。

だから、ちょっとだけ嬉しかったんだ。


……それが顔に出ていたのか、家に帰ってお母さんに笑われたのは恥ずかしかったけど。

とにかく、本番まであとちょっと。
最後まで気を抜かずに、しっかりとレッスンをして本番は成功させたいな。

48:スミレ◆aw:2018/07/11(水) 18:13

「……明日かぁ」

金曜日。普段なら、レッスンも休みで休日に心が跳ねるけど……
次の日は、ステージ本番なのだ。


「……楽しみ!初めてのステージ!」

緊張するどころか、逆に心が跳ねる。
アイドルとしての初めてが、楽しみでしょうがない。

そんな私は、軽くスキップなんてしながら通学路を歩いている。


「そうだ、そろそろ伝えてもいいかな……今まで、手伝ってもらえてたもんね」

まやさんに、自分がアイドルをやっていることを打ち明ける。
そして、ステージを見に来てほしい。そんな思いがあった。


「……会わないなぁ」

私の思いとは逆に、いつも通る道にまやさんはいない。
いや、毎日一緒に登校してたわけじゃないけど……学校で会えるかな?


思いが叶うことを願いながら、私は学校へ急いだ……。

49:スミレ◆aw:2018/07/11(水) 18:32

「おはよう!……あれ?」

靴箱を通って、いつものようにクラスへ行く。
けど、クラスの様子はいつも通りじゃなかった。

なんだか……ざわついている。


「あの、どうしたの?」

「美咲……」

女子の一人に声をかける。その子は、なんだか暗そうだ。


「あのね、まやさんが今日休みだって……」

「え―――」


この時初めて、クラスにもまやさんがいないことに気が付いた。
そして私は、思いを叶えられなかった……。



「……はぁ」

昼休み。私は、まやさんと歌の練習をしている校庭の隅っこに一人で来ていた。

ただ一人休むのは、いつものことのはずだ。でもなんか、寂しい。


「ステージ、誘いたかったなぁ……」

私の隠し事も何も聞かずに、ただ歌を応援してくれた。
だから今日、その恩返しがしたかった。


……考えても仕方ない。
恩返しがしたいなら、ステージでしっかり歌って踊ろう。


―――今日は、レッスンも最終日だ。

50:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 02:44

「こんにちはー!」

学校が終わり、レッスンのために事務所へやってきた。
受付のお姉さんが、笑顔で挨拶を返してくれる。

この人も、事務所が閉まることになっても残り続けた人なのかな?
だとしたら、すごく優しい人だなぁ……。
そんなことを考えながら、私は更衣室に向かった。


更衣室には、先客がいた。
……まあ、なつきちゃん以外居ないんだけど。


「はるな、来てたんだ」

「うん。ついさっき」

なつきちゃんは、一足先に着替えを済ませていて、
いつでも出ていける状態みたい。

私も着替えないと……



―――別になつきちゃんが先に行くことはなかったけど、
なんだか今日の動きは急ぎ気味だった。


「着替え、なんか手早くない?」

「そうかな……?」

当の本人も、珍しそうに私を見ている。……少し、恥ずかしい。

51:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 03:52

「よし!今日はリハーサルだ。一度きりだから、しっかり通せ!」

最後のレッスン……運動会前日みたい。頑張ろう!

「はいっ!」

「……はい」


なつきちゃんの返事は、声は小さかったけど
気持ちがこもってないわけじゃないように感じた。
これなら、リハーサル頑張れるかも……


……それから、ぶっ通しのリハーサルが始まった。

私もなつきちゃんも、始めた頃に比べて上手くなってる。
自分で言うけど、変化がはっきりわかる。


「さ、例のターンだ!」

トレーナーさんの合図で、私の意識が高まっていく。
ここで今度こそ、成功させる……!


今までは、支えてもらわないとできなかった、一回転。
でも、今日は―――

歌に合わせて、勢いよく回る。
不思議と体が軽くて、回った実感があった。


……できた。ようやくできたんだ、ターン!


達成感もあったけど、ひとまずは曲の最後まで歌って踊りきった。

52:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 08:12

「で、できた……」

曲が止まった瞬間、私はぺたりと座り込んだ。
疲れたというより、出来て安心したから。


「……すごい」

相変わらず立とうとするなつきちゃんに、拍手を送られた。
本番でもないのに、結構照れる。
なつきちゃんも、すごく頑張っていたと思う。こっちも拍手を送りたいくらい。


「上出来だな」

そう言って入ってきたのは、大和プロデューサーだった。


「明日のステージ、上手くいきそうか?」

「……はい!」

明日は成功する。自信を持って言える!

「よし、じゃあ今日はこの辺にして、やることが終わったら二人で駐車場に来てくれ」

「え、駐車場?」

レッスンを終えるには、まだ時間がある。それを早く切り上げて、何をするんだろう?

「終わるんだったら、あたしは親のお迎えが……」

「ご両親には連絡済みだ。じゃ、待ってるぞ」

「えー……」

大和プロデューサーは、レッスン室から出ていった。
用意周到ってこういう人に使うのかな……すごいなぁ。


……ストレッチまで終えて、私達もレッスン室を後にした。

53:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 17:22

「わぁ……」

着替えた私達は、プロデューサーの待つ駐車場にやってきた。
駐車場は地下にあって、なんだか薄暗い。


「……プロデューサー、どこだろ」

なつきちゃんの言う通り、プロデューサーの姿が見当たらない。
暗いし、探しにくいな。


「二人共、こっちだ!」

キョロキョロとしていると、プロデューサーの声が聞こえてきた。
……どこだろう?

「後ろ……」

「えっ?」
なつきちゃんに手を引かれ、くるりと半回転する私。


「あ……」

見ると、大きなワゴン車が停まっていた。


「これが、俺達の移動用の車だ」

「おっきいなぁ……」

我ながら、なんだか子供っぽい返事だったと思う。
そんな返事が出るくらい、私の目には大きくて立派な車に見えた。

本番も、これでステージがあるところまで行くのかな?
そういえば、ステージってどこで開かれるんだろう?全く聞いてないような……


「レッスンの時間まで削らせた。親にも連絡済み。ただ車を見せるだけじゃないよね?」

「高木、鋭いな。そうだ、これからステージ会場への下見に行く」

54:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 17:34

「大和プロデューサー、運転できたんですね」

「移動に車を使うときもある」

私達は今、プロデューサーの運転するワゴン車で、会場のある場所に向かっているらしい。


「はぁー、どんなところで歌って踊るのかな……」
大きな舞台を想像して、今からにやにやが抑えきれない。すごく楽しみ!


「なつきちゃ……あっ」

話題を振るために、声をかけようとした。
するとどうだろう。車の窓に頬杖をついて、すやすやと眠っている。

レッスンの後も、全然休んでなかった。
だから、疲れてたのかな……


「美咲、お前も寝てていいぞ」

「はーい……」

寝てていと言われた途端、気が抜けたのか私も眠くなってくる。
私も、少し休もう……。

おやすみ―――

55:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 19:12

「……なつき、起きて」

「うん……?」


先に眠っていたなつきちゃんに起こされたらしい。
どれくらい眠ってたんだろう?外はまだ明るいから、時間は経ってなさそうだけど。

「お前ら、着いたぞ」

「ここは……」

プロデューサーにドアを開けてもらい、車を降りる。
すると、見たことのある建物があった。


「近所のデパート?」

「そうだ。規模は小さいが、新人アイドルの出場にはぴったりなステージだ」

デパートか……思っていた場所とは少し違ったけど、ここで踊るってわかったら楽しみになってきた。

「入るぞ」



―――そう言って、大和プロデューサーに連れられてきたのは……裏口だった。


「……ここからなの?」

「ああ。本番も、こっから入る」

なつきちゃんは何だか不満そうだったけど、
裏口から入るってほんとの芸能人みたいで、なんだかいいなぁ。

中に入ると、細めの通路を歩いていく。
しばらくすると、控え室と書かれた部屋に着いた。

「ここが二人の控え室だ。他にもあるが、本番は他の控え室には行くなよ?」

「え、他のって……」

「言ってなかったな。いくつかのユニットと、ライブでパフォーマンスを競い合うんだ」

「ええーっ!?」

楽しみはそのままに、新しく緊張が湧いてくる……。
他のアイドルと、一緒に参加して、競い合う……私達が、通用するのかな?

56:ねむ◆96:2018/07/12(木) 19:23

面白くて好きです!
まるでプロみたいな感じで一目置いてます。

57:スミレ◆aw:2018/07/12(木) 20:23

「……お前たちなら通用するさ。俺が保証する」

「プロデューサー……」

そうだ、今日まで頑張ってきたんだ。
私達なら、出来る!


「あの、ステージを見に行きたいんだけど」

「そうだな。どんな場所で踊るか、しっかり見ておこう」

なつきちゃんが急かすと、プロデューサーは先の通路に振り返る。

「この先だ。ついて来てくれ」

そっか、まだステージを見てない。
デパートの、どんな場所なんだろう?

プロデューサーについっていって、デパートの更に奥へ進んでいく。
カツンカツンと階段を登っていったりもした。
あれ?これってもしかして……


「ここだ」

扉を開けると、涼しい風が吹き抜けてくる。

「わ……ここって、屋上?」

デパートの屋上……そういえば小さい頃に、キャラクターショーを見に来たこともあったっけ。
今度は、自分たちのステージになるんだ。


「準備、進んでる……」

屋上のど真ん中には、豪華に飾り付けられた大きなステージが建てられている。
見たところ完成しているようで、人はだれもいなかった。


「すごい!私達、ここで歌うんだよ!」

「うん……」

なつきちゃんは、大きなステージを見て見とれているようだった。
私も、すっごくワクワクしてしょうがない。

競い合うのも、歌うのも、踊るのも、全部楽しみだ。


「……ステージ、登ってみるか?」

「いいんですか!?」

58:スミレ◆aw:2018/07/13(金) 06:28

立入禁止とかは無かったので、ステージの横から階段を登っていく。
一段一段上がるたびに、ドキドキが弾けてしまいそうになる。


「ステージだぁ……」

登りきると、目の前にはすごく大きな景色が広がっていた。
お客さんはまだいないけど、ステージの壮大さを感じるには十分だった。


「……はるな」

「ん?」

屋上の風を目いっぱいに感じていると、なつきちゃんが話しかけてきた。

「明日……頑張ろ」

「うん!」
頑張ろう……
そう言ってくれたなつきちゃんの顔は、いつも以上に明るくて……
きっと同じように、ステージに感動しているのかもしれない。

明日の成功に、一層自信が持てる。
私達なら、きっと―――

59:スミレ◆aw:2018/07/13(金) 06:45

「そろそろ帰るぞ」

ステージの外から、プロデューサーが話しかけてきた。
空を見ると、夕焼けが出ている。いつの間にか、結構時間が経ったらしい。


「はーい!」

「はーい……」

また明日ね。と、心の中で、ステージに挨拶をしてみたり。
そして私達は、ステージから降り始めた。


「……あれ?」

階段を降りる直前、不思議な違和感に襲われる。
何だろう……この感じ。


「先に降りてて」

「え?……わかった」

なつきちゃんに先に行っててもらうと、私はそこにとどまった。


「この感じ……いや、まさか」


―――それは、私がいつも感じている空気。
その人に見とれてしまうような……
一緒にいて、すごく心地が良い……


「まやさん……?」


感じるのは、まやさんが漂わせるお嬢様の空気。
でもここに、まやさんはいない。
何でだろう……?


「美咲、戻るぞー!」

「あ、はーい!」

プロデューサーに呼ばれ、私は急いで階段を降りる。
それにしても、さっきの感じは……

60:Rika◆ok:2018/07/13(金) 20:12

――――今日は、ステージ本番。
準備をする為になつきちゃんと控え室のに向かっている途中、綺麗な衣装を着た2人組の女の子達が私達の横をすれ違った。

「今の、ステージの相手?」

「たぶん……」

なつきちゃんが不思議そうな顔をして尋ねてきたけど、私は自信が無かったので小さく答えた。
それにしても、さっきの人達綺麗だったなあ。

そう思いつつ、私達は控え室に入った。



控え室で、メイクなどをしてもらって、後は待ち時間。

「……こう?」

「うん!」

私となつきちゃんは向かい合ってダンスの振り付けや歌詞などを確認する。
その間の時間、私の心臓はもうバックバクだったけれど、なつきちゃんは平気そうな顔をしていた。

「きんちょう、しないの?」

だから、私は聞いてみる。

「……してるよ、これでも」

なつきちゃんは、私から目をそらしながら小さい声で答えた。
……良かった。私だけ緊張してるのかと思った。


それから暫く待っていると、控え室の扉をノックする音が聞こえた。
私は、「どうぞ!」と言いながら、扉の方を見た。

「お前ら、いよいよステージだな」

「……大和プロデューサー!」

控え目に扉を開きながら入ってきたのは、プロデューサーさんだった。

「お前らが一生懸命練習しているとこは見てきた。きっと成功する。そして、きっと勝てるはずだ!」

プロデューサーさんは、私達の顔を見ながら、自信満々な表情でそう言った。

「……じゃあ、頑張ってこいよ」

それから、そう言って出ていった。

まるで嵐みたいでびっくりしたけど、これもプロデューサーさんらしい。
そして、プロデューサーさんの言葉で勇気も出た。
……私達は、きっと大丈夫。

「ね、はるな」

「なに?」

すると、それまで何も言わなかったなつきちゃんが話しかけてきた。



「―――――負けないよ、あたし」

61:Rika◆ok:2018/07/13(金) 20:25

「美咲さん、高木さん、準備をお願いします」

「はい!」

スタッフの人に声をかけられて、私達は裏口に入る。
これからあの屋上でライブ。やっぱり緊張するけど……楽しみたい!

「上手くいったね!」

「ねー」

ワクワクしていると、私達の前の出番の人達が横を通り過ぎた。出番が終わったみたい。
……次は私達、か。

「……」

「……」

私となつきちゃんは、何も言わずに目を合わせる。
お互い、目指すものはただ一つ。年齢なんて、関係ない!

「……優勝、しよ」

「うんっ!」

なつきちゃんの言葉に、私は今までで一番大きな声で答えた。

スタッフの人はそんな私達を笑顔で見ていたけど、それからすぐに表情を険しくした。

……ああ、もうすぐなんだな。

その雰囲気に、言われなくても分かってしまう。



「じゃあ、カウントが終わったらステージへの階段を上がってください10、9、8、7――――――」

スタッフの人はカウントを始める。
緊張で身体が震えた。心臓の音がもっと大きくなった。

でも……そんなのには、負けない!

「―――――0!」


その合図で、私となつきちゃんは手を繋いで階段を駆け上がった。

……これから、私達のステージの始まりだ!

62:Rika◆ok:2018/07/14(土) 08:33

「……わあ!」

「……」

二人でステージに立った。

アイドルとして初めて立つステージ。そして、結構な数のお客さん。
全てが今までと全然違う世界みたいで、輝いていた。

「……」

「……」

二人で目を合わせてから、マイクの方に立つ。

「えっと……私はノルンの美咲春奈です!」

「……高木菜月。あたし達のライブ、見ててね!」

……なつきちゃん、いつもより声大きい。
そして、なんていうか、雰囲気も全然違う。

それなら、私も……!

「これから、一曲歌います! 私達の声、聞いていてくださいね!」


少しの歓声の後に、曲が流れる。
私は、イントロの部分の振り付けを踊りながら、マイクに近づいた。

そして、精一杯の力をふりしぼって歌い、踊る。

お客さんの表情が変わった。私の歌、聞いてくれてるのかな……。

そう思うと、少し嬉しくなった。
そうしているうちに、歌い手はなつきちゃんの方に変わった。

「おお……」

なつきちゃんは、淡々と歌って踊る。
元気系な私と正反対で、落ち着いている。踊りも歌も完璧で、お客さんを驚かせていた。

サビに入った。私達は、声を合わせて歌う。
初めは全然合わなくてバラバラだったけど、何度も練習してきたからきっと大丈夫。

「――――ノルン、いいぞー!」

もうすぐ曲が終わろうとした時、そんな声が聞こえてくる。
……隣で歌うなつきちゃんの表情がちょっと変わった。気のせいじゃない。お客さん、私達を認めてくれてるんだ!

それが嬉しくて、私は曲にもっともっと力を入れた……。



「――――ありがとうございました!」

曲が終わって、私は会場中を見渡しながら叫んだ。
振り付けも間違えなかった。なつきちゃんとの息もあった。ライブは成功。
……あとは、終わりの挨拶だけ。

「私達の歌、聞いてくれてありがとうございました! まだまだ未熟ですが、応援してくれると嬉しいです!」

私はそこまで言って、なつきちゃんにマイクを渡す。

なつきちゃんは、なんて言うのかな。

「初めてのステージで、少しだけ緊張してた。今まで緊張なんてした事ないのにね。
そして、ライブの熱気、凄かったよ。これもお客さん達のおかげ。
……ステージを最高なものにしてくれて、本当にありがとう!」

今までで一番大きな声でそう言ったなつきちゃんは、少しぎこちないけど、綺麗な笑顔だった。

「こっちこそ、いいライブを見せてくれてありがとう!」

「二人とも、応援してるよー!」

そんななつきちゃんの言葉に、会場は更に盛り上がった。
歓声の声も、大きくなってくる。

ああ、アイドルってこんな感じだったんだ……!



「ありがとうございました!」

最後にそう挨拶して、私達はステージから降りるために歩き出す。

「……!」

その時、観客席にいた一人の女の子の姿が目に入った。
独特な雰囲気で、上品。まるでお嬢様みたいで……。

あの感じ、間違いなく……まやさんだ!

63:Rika◆ok:2018/07/14(土) 08:34

なんであそこにまやさんがいたのか。
それが気になって仕方がなかったけど、今はとりあえずプロデューサーさんに会いたい。

「……美咲、高木!」

「プロデューサーさん!」

裏口から降りて控え室に入ると、そこにはプロデューサーさんがいた。
……もしかして、待っててくれたのかな。

「二人とも、すっごく良かったぞ! 俺、少し感動しそうになってた……」

「……そこまで?」

泣き目のプロデューサーさんに、なつきちゃんが面倒くさそうな顔をしながらそう言う。

……でも、そんななつきちゃんの声も、少し震えていた。

「はは、高木だって泣きそうじゃないか」

プロデューサーさんがからかうような表情でそう言う。

「だって……だってさ……今まで出来なかったことが出来て、笑えたんだよ? それが……嬉しくて…………」

なつきちゃんは、私達から顔を背けながらそこまで言って、地面に座り込んで……泣いていた。

「なつきちゃん……ううっ……」

まさか、なつきちゃんが先に泣くなんて思ってなくて、私はつられて泣いてしまった。

デパートの小さなライブ。でも、泣いちゃうくらいには最高のステージだった――――



「……落ち着いたか」

「は、はい」

「……なんかゴメン」

暫くして、私となつきちゃんはようやく落ち着いた。
結構な時間が経っていたみたいで、もうそろそろ次のユニットのステージらしい。

「……そうだ。他のアイドルの姿も見て見ないか?」

「えっ」

プロデューサーさんが、ライブの予定表を見ながらそう言う。
私は驚いて思わず変な声を出してしまった。

「ここから、関係者席に行けば見れる。ついてこい」

「ちょっと引っ張らないでよ…

……結局、私達はプロデューサーさんに引っ張られながら、控え室から連れ出された。

64:スミレ◆aw:2018/07/14(土) 09:49

プロデューサーに連れ出され、案内されたのは、関係者専用らしい見物席だった。


「……お、ちょうどステージの開幕だ。業界期待の一番星とか呼ばれてるユニットだな」

「期待の、一番星……?」


ステージの方に目をやると、スタンバイを済ませたらしい二人の女の子が立っている。

「言われてるだけ……ある」

「うん……」

なつきちゃんは、その二人に見入っていた。
一番目立つのは、星の髪飾りをつけた女の子。

キラキラしてるけど、クールな感じ。まるで、星いっぱいの夜空みたいな……。
隣の子も、負けず劣らず輝いている。素敵だな……。
「あ……」

今更気がついたけど、あの二人は多分、さっきすれ違っていた女の子たちだ。



「―――はい、STARSでした!みんな、ありがとう!」

クールな雰囲気から一転、星の子は明るい声でフィナーレを飾った。
お客さんも、私達のときより大きな歓声を上げている。


「スターズ……」

「今後またこんなイベントがあったら、強敵になりそうだな」

プロデューサーは、冗談交じりで怖がるように言った。


「大丈夫です……私達なら」

ね?となつきちゃんに視線を送ると、
「うん、大丈夫……」

と、なつきちゃんも返す。


「期待してるぜ、二人共」

「……はい!」

スターズを見届けて、私達は関係者席を後にした。

65:スミレ◆aw:2018/07/14(土) 10:33

「やぁやぁ。良いステージを見せてもらった」

「……社長?いらしてたんです?」

控え室へ戻る途中、事務所の社長さんと出会った。


「二人共、よかったぞ」

「ありがとうございます!」

社長さんに褒められて、とってもうれしかった。
なつきちゃんは、相変わらずそっぽ向いてたけど……。


「ところで社長、ただ見に来ただけで?」

「そうだ、その件だが……」

社長さんは、突然あらたまった感じになって、ごほんと咳をする。


「うちのような貧乏事務所が、どうしてこのイベントに参加できたと思う?」

「―――そ、それは……!?」

大和プロデューサーは、驚いたのか三歩くらい後ずさる。
よく考えたらそうだ……


「とあるお金持ちが、我が事務所に出資をしてくれたのだ。残りは売れた後のギャラで返すことを条件にな」

「それ、すごい……!」

お金持ちにも、気前のいい人がいるんだと思った。
そんなお金持ち、どんな人なんだろう?

「……売れなかったら、どうするつもりだったの?」

「あ。いや、それはだな、うん」

なつきちゃんのツッコミに、社長さんが何だか焦りだす。


「う、売れない心配はするな!それよりも……、挨拶に行かないか?そのお金持ちにな」

「行きたい!ステージに出れたお礼をしないと」

「別に、どっちでも……」

控え室手前の、特別室と書かれた部屋に案内された。
どんな人が、この先に……

66:スミレ◆aw:2018/07/14(土) 19:54

「失礼します。大原です」

二回ほどノックして、社長さんはドアを開ける。


「……大原氏!今回のステージ、中継で見させてもらいましたが、圧巻でしたな!」

そう言うのは、スーツを着た大柄なおじさん。
この人が、お金を出してくれた人?

「ええ。それもこれも、あなた様が出資をしてくれたおかげです」

「ワシの目の付け所がいいんですな!ハッハッハ……」

やっぱり、この人がお金を出してくれたんだ。
自慢気な言い方だけど……


「で、おじさん。何者なの?」

なんかしびれを切らしていたなつきちゃんが、鋭くツッコミを入れた。
大人にも容赦ないなぁ……。


「お、おじさん!?失礼だぞ、この人は……」

「いいんですよ大原氏。この年頃の女の子らしい。……ワシは凛々代財閥の会長、賢治だ」

「えっ、それって……」

りりしろ……聞き覚えがあるってレベルじゃない。
だって、その名字は……


「君らと同じくらいの娘がいるんだが、先程から姿が見えなくてな……」


「―――ここですわ、お父様」


後ろからの声。それと同時に、あの空気が周りを包んでいくのがわかる。


「あ……あ……」

私が驚いていると、声の主はドアをくぐってゆっくりとこっちに歩いてくる。


「……ステージ、よかったで?はるな」

「ま、まやさん……?」

67:スミレ◆aw:2018/07/15(日) 18:30

「はるな。この人、誰……?」

なつきちゃんは、突然現れたまやさんを不思議そうに見ている。
そっか、初めてだもんね……。


「この人、私のクラスメイトなの」

私がそう言うと、まやさんは一歩前に出てなつきちゃんの方を向いた。

「うち、凛々代 真夜。高木菜月さんやな。あんたもすごかったで」

「……ありがと」

なつきちゃんは、言葉は暗くても表情は嫌そうではなかった。


「真夜!人前でその口調はやめろと……」

会長さん……まやさんのお父さんが、会話を遮るように入ってくる。
……口調?

「……お父様。その件やけど、もう聞かれへん!」

「真夜……!?」

まやさんは、いつになく強気だった。
口調……そういえばさっきから、ずっと訛ってる方だ。


「うち……お嬢様な口調やめる!」

「え、まやさん、やめるって……!?」

68:スミレ◆aw:2018/07/15(日) 18:55

口調をやめる。
その意味が、私にはよくわからなかった。


「財閥の娘として、きちんとするように育てられてきた。将来のために、いろんなことが得意になった。
でも、それは本当のうちやない!」


「真夜……仕方ないんや!財閥の跡取りになってもらう以上、仕方ないんや!」

あれ?お父さんも口
調が……


「まぁまぁ、二人共落ち着いて!」

「黙っててくれへんか?親子の会話や!」

「ひっ!」

社長さんが止めに入ろうとするけど、
まやさんのお父さんの強い口調に、五歩くらい先まで下がってしまった。


「仕方ないって……うちの気持ち考えてへんの!?」

「そ、それは……」

まやさんの、気持ち……



―――なんでやろな?


―――将来のため、やから


―――すごいな。うちも、あんたみたいに


まやさん、本当は……


「財閥の仕事を否定してまうけど、うちは本当の自分を出したい!はるなが、そうさせてくれたんや!」

「え、私が……?」

69:スミレ◆aw:2018/07/15(日) 19:06

お嬢様で在りなさい……それは、父親の教えだった。

ですわも、ごきげんようも、必死に練習した。関西弁を隠して、私はお嬢様になった。


だけどそれは、転校初日に崩れ去ってしまった。


「あのー……どうしたの?」

「わ!……あ、驚いちゃって、ごめん」


送迎用の車も断って、学校に行くのに道に迷っていた私に、春菜は声をかけてくれた。
その時、つい口調が崩れてしまったのだ。


「うちね、よつば小学校に行きたいんよ。場所知ってる?」

「私、そこに通ってるんだ!一緒に行こ」

「ええの?助かるわぁ……」


お嬢様に戻るのも忘れて、私は素の自分で春菜と話した。



「はー……お嬢様で行かないけんのに、何しとるんやろ……」

学校についてから、私はトイレに篭った。
そして、しっかりと仕切り直して、転校生として教室に入った……。



「凛々代 真夜です。今日から、よろしくお願いしますわ」

お嬢様として、完璧だったはずなのに……その教室には、春菜がいた。


「……固くならなくてええんよ」

お嬢様の自分を見て、緊張している春菜に、私はまた口調を戻す。


それからというもの……春菜にだけは、素の自分で話すことを決めた。

70:スミレ◆aw:2018/07/16(月) 02:30

「周りがお嬢様お嬢様言うても、春菜はうちに、普通に接してくれた。跡取りとして完璧になるための歌声も、
笑顔で褒めてくれた」

―――だって……さっきの歌、すっごく声がきれいで、先生もびっくりするくらいだもん。
そんな人に習いたいなぁって


褒めすぎた。って、あのときは思った。
でも、まやさんにとっては、すごく嬉しかったんだ……


「自分のしてきたことに、もっと別の使い方があるんやないかって思い始めたんよ」


「……別の使いみち?言うてみ」

まやさんのお父さんは、真剣な顔でまやさんを見ている。


「お嬢様としてじゃなく、一人の女の子として、自分の歌で人を笑顔にしたい!……アイドル目指したいんや!」

「まやさん……!?」


アイドルを目指したい……まやさんの口から、すごいことが言い放たれた。

71:スミレ◆aw:2018/07/16(月) 08:18

「真夜!……跡取りの仕事を犠牲にしてでも、やるんか?やりたいんか?」

「ええ、最初は迷ったで。でもな、やっぱりうちの願いは変わらへん。みんなに、本当の自分を見てほしい!」

本当の、自分……
訛りで話し続けるまやさんを見て、すごくかっこいいと思った。あれが、本来のまやさんなんだ。



「……凄いな。娘が、思った以上に真面目で良い子に育っとる」

「会長……いい娘さんを」


お父さんの言葉に反応したのは、社長さんだった。
……なんだろう?なにか違和感が……


「わかった……跡取り修行は、一旦休みや!それよりも大事なアイドルの夢、叶えり!」

「……ええの!?でもそれじゃあ、財閥は……」

「小学生には重すぎたんや。もうしばらく、ワシがやったるさかい。思ったようにせい!」


アイドルを目指していい……まやさんのお父さんが認めてくれた。
それを言われたまやさんの顔は今まで見た中で一番明るくて、とても素敵だった。


アイドルか……スターズみたいに、ライバルになっちゃうのかな……?


「じゃあ、春菜と同じ事務所に入れて欲しいんよ!」

「え、まやさんそれって……」

その場にいた全員が、まやさんの発言に驚きを隠せなかった。

72:スミレ◆aw:2018/07/16(月) 19:46

「こ、これはまた凄いことを言い出しましたな……」

一番驚いた顔をしているのは、社長さんだった。
相手が相手だからなのかもしれない。


「……今のところ、二人でやって行けてる。それに、アイドルは口だけでなれるものじゃない」

「なつきちゃん……」

なんというか、まやさんに入ってほしくなさそうな……
なつきちゃんからは、そんな気持ちが見える気がする。


「うち、歌なら自信ある!それを仕事にする自信もある!」

「ふーん……」


「そうです社長さん、うちの娘のやる気は本物ですわ。それに、クラスメイトの女の子もいる。
ぜひとも、そちらの事務所で面倒見てやってください」

「しかしですな……」

まやさんのやる気は本物だ。私もまやさんとアイドル出来るなら、やりたい。
社長さんが悩む理由……あっ、まさか―――


「会長さん。ご存知だとは思うが、うちの事務所は金が無い。
今回のギャラでも、ここの二人しか見れない」

そう、プロデューサーの言う通り。
お金持ちに援助を頼まなきゃいけないくらいの、貧乏事務所。……詳しいことは、わかんないんだけど。


「……同じ事務所、無理やろか?」

まやさん……少し、泣いているようにも見える。
どうしよう、一緒にできないってなったら……


「いいや、その件については大丈夫や。娘のために、財閥がさらに資金援助したる」

「そ、そんな……!?いいのですか!?」

「いいんです。うちの娘が、売れないわけない。100倍になって戻ってきますわ」


ひゃ、百倍……それだけ、娘のまやさんを信じてるってことなんだ。


「……では、スカウトという形で、凛々代 真夜をうちの事務所で預かる。社長、問題ないですね?」

「ああ。ここまでやる気のある子だ。きっと光り輝いてくれる」


「社長はん……!ありがとうございます!」


―――この瞬間、ノルンに新しいメンバーが加わった。
財閥のお嬢様、凛々代真夜さん。

突然の話だったけど、三人でやっていけるかな……?

73:Rika◆ck:2018/07/16(月) 21:08

それから数日後。

「あ、ところで……」

まやさんの加入が決まったところで、社長さんが言った。

「この間のライブの結果が来ている」

……えっ!?
この間のって、デパートのライブのこと?

「……」

ちらりとなつきちゃんの方を見てみると、早く結果を聞きたいというような、落ち着かない様子だった。

なつきちゃんも意外と顔に出るんだなあ、なんて思いつつ、私は社長さんの言葉を待つ。

「STARS、ってユニットは覚えてるか」

「あ、あの二人組の……」

あの日、プロデューサーさんに連れられて見たユニット。なんていうか……2人とも凄かった。
それで、そのユニットがどうしたのだろう。

「実は、君たちノルンの成績がな……そのユニットと同等なのだ」

「ええっ!?」

STARSと同等……同じってこと? 私たちが……?

「もしかしたらライバルになるかもな。はっはっは!」

社長さんは愉快そうに笑うけれど、私が感じたのは不安。
あんなすごいユニットとライバルになるなんて、大丈夫なのかな……。



「それで、高木君は凛々代君の加入に不満があるようだが……」

ライブの結果を聞いた後、社長さんが突然話を変えて言う。

「別に。あの人が嫌なわけじゃないけど……いきなり1人増えるのは、やりにくいってだけ」

社長さんにそう返すなつきちゃんの顔は、いつも通りめんどくさそうだった。
……確かに、いきなり変わるのって少しやりにくかったりするかも。

私は、なつきちゃんの意見に少しだけ納得してしまった。

「まあ、凛々代君も歌には自信があると言っていたし、すぐになれるだろう。それで妥協してくれないか?」

社長さんは、なつきちゃんに困ったような表情をしながら頼んでいる。

「……ま、少しなら」

一方のなつきちゃんは、しょうがないなって顔。

社長さんがアイドルにお願いって、なんか立場が逆になってるような気がする。
なんて、失礼なことを思いながら私は2人の話を聞いていた。

「ありがとう。じゃ、これから3人でレッスンに励んでくれ」

なつきちゃんとまやさんが仲良くなるのには時間がかかりそうだけど……私は3人で頑張りたいって思った。

74:スミレ◆aw:2018/07/16(月) 21:58

―――時間は、その日の朝まで遡る。

ライブが終わって、はじめての平日。
私はいつもどおり、学校に向かっていた。


「ライブ、すごかったなぁ……」

歓声、そして私達の歌で笑顔になるお客さん……忘れられない。
また、あんなふうに出来たらいいな。


「……ほんとすごかったなぁ。次は、うちも一緒やで!」

「あ、まやさん!おはよう!」

いつもの場所で、まやさんが待っていた。


「……はるなって、呼んでええか?」

そうだ、この間もずっと、はるなって……。


「うん!良いよ!」

「じゃあうちのことも、呼び捨てにして欲しいんよ」

え、まやさんを呼び捨て!?
慣れないかもなぁ……。


「……ま、まや!」

うん、それでも頑張ってみよう……
そう思って、緊張気味だけど呼び捨てにしてみた。


「呼び捨てしあえるって、なんかええな。はるな!ほな、学校行こっか!」

「うん!」


いつもどおりだけど、今日のまやは、いつも以上に明るく見えた。

75:スミレ◆aw:2018/07/16(月) 22:21

「……そうだ。ずっと、この口調でいいってお父様に言われたんや」

「本当!?よかったね……」

本当の自分を見てほしい。まやはそう言っていた。
口調を変えなくても良くなったからなのかな、こんなに明るいのは。


―――だけど、学校についてから、まやの様子がおかしくなった。


「ど、どうしたの……?」

「いやな……。お嬢様で通してたから、いざこっちで行こうとなると緊張して……」

靴箱に入った途端、足を止めておどおどしている。
このままじゃ教室に行けないかも……どうしよう。


「まや。前言ってたよね、本当の自分を見てほしいって。だったら、ここで止まってたら……」

「……せやな。自分で言ったこと、つい忘れとったわ。じゃ、行くで」


そうして、私達は教室に向かう……。




「おはよう!」

まやの、訛った挨拶が、教室に響き渡った。


「おはよ……え!?」

「りりしろさん、だよね……?」

クラス中が、まやに驚いている。
そりゃ、こうなるよね……


「お嬢様だけど、こっちが本当の凛々代真夜!……仲良く、してくれるか?」

驚いているクラスメイトたちに遠慮しちゃったのか、少し抑えた声でまやは言った。


「意外!関西弁だったんだ……」

「前より、話しかけやすいかも……」

「もちろん!」

クラスからは、反対の声は出なかった。
それどころか、本当のまやを受け入れてくれている。


「よかったね!まや!」

「うん……学校生活、もっと楽しくなるわ、これ」


言葉遣いが変わったことで、まやはまた引っ張りだこになっちゃうんだけど……
それは、別の話。

76:スミレ◆aw:2018/07/17(火) 00:10

……もう一つ.
引っ張りだこになったのは、まやだけではない。


「みさきちゃん!デパートで、ステージやってたよね!?」

「すごかった!あんなふうに歌って踊れるなんて……」


学校内で、あのステージを見に来ていた人がいたらしい。
その人から噂になり、私が言う前にアイドルであることが知れ渡ってしまった。


「はは……ありがと」
突然のことで、どうコメントしたら良いかわからない私は、お礼の言葉くらいしか出てこなかった。



それから数時間後、下校時間……。


「今日もレッスンなの?大変だね」

「楽しいから大丈夫!心配してくれてありがとね」

同時に、レッスンのことを気にかけてくれる人も増えた。
休みが少ないのは大変だけど、目標のためなら頑張れる……。

そうだ、今日からまやも一緒なんだ。一緒に行けるのかな?


「ごめん!お父様が一緒に行きたい言うてるから……プロデューサーはんには、遅れる言うといて!」

「う、うん。わかった……」

残念、今日もまた1人。
でも、三人のレッスンだ。楽しみ!

77:Rika◆ck:2018/07/18(水) 20:36

それから、私はまやと別れて事務所に向かった。

「あ……」

そして、事務所が見えてきたところで、ある人物の姿も見えた。

「……いたんだ」

「な、なつきちゃん!」

まあ、それはなつきちゃんなのだけれど。
髪型がいつもと違ったから、一瞬誰か分からなかったなんて言えない。

「その髪型、可愛いよ!」

何も言わないのも少しあれだったから、私は思ったことをそのまま伝えた。

「……別に、わざわざ言わなくてもいいのに」

サイドテールにしてある髪を弄りながらそう答えるなつきちゃんは、いつも通り口調がキツかったけど不快そうではなかった。……やっぱり、素直じゃないな。

「それより、いつまでもここで立ち話しててもいいの? 事務所すぐそこだけど時間ないよ?」

すると、なつきちゃんは照れたように私から顔を背けながら言う。

「えっ!? い、急ごう!」

お母さんに持たされた腕時計で時間を確認すると、確かになつきちゃんの言う通りレッスンまで時間がなかった。
……それどころか、残り10分になっていた。

結局、私たちは急いで事務所に駆け込んで、それから急いでジャージに着替えたのだった。

78:Rika◆ck:2018/07/20(金) 18:14

着替え終わって、私たちはレッスンルームに入る。

それからまやが来るまで少し待っていると、レッスンルームのドアがガラリと開いた。

「今日から、よろしくお願いします」

入ってきたのは、ジャージに着替えたまやとまやのお父さん。
まやは礼儀正しく挨拶をするけど、やっぱり訛っている。なんだか、まやらしい。

「……トレーナーさん、娘をよろしく」

まやが挨拶をした後、まやのお父さんはそう言う。……まやのこと、心配なんだなぁ。

「は、はいぃ!」

相手は財閥の人だから、トレーナーさんも少し怯えてしまっている。

「そんな怖がらんでもええ。こっちは娘を世話してもらう立場やから」

まやのお父さんは、そんなトレーナーさんを見て笑いながら言う。

「じゃ、帰るからな。……真夜、頑張れ」

そして、まやにそう声をかけた後、レッスンルームから出て行った。

「……レッスン、始めましょうか」

それから、準備も出来たところでレッスンが始まった。



「はぁ……はぁ……はぁ……」

今日は私があんまり得意じゃないダンスレッスンだった。
この間のライブで歌った曲の振り付けを確認して、疲れのあまり私は地面にへたり込む。

「美咲さん、ちょっと体力が落ちてますね……ランニング、入れますか?」

すると、トレーナーさんがドリンクを渡しながらそう言ってくる。

「い、いいです……」

レッスンだけでもきついのに、ランニングなんて無理!

でも、体力は付けておこう。このままじゃずっとこうだし……。



「ステップは大きすぎず、小さすぎず。ターンはとにかくバランスを崩さないように……」

「……へえ、そうなんや」

一方のまやは、なつきちゃんにステップの基礎を教えて貰っていた。
なつきちゃんの方がまやを受け入れてくれなさそうだったけど、仲良さそうにしているから大丈夫かな。

「なつきって呼んでもええ?」

「……いいよ、別になんでも」

「じゃあ、なつきって呼ばせてもらうわ」

うっ、なつきちゃんを名前呼び……私が苦戦したことをいとも簡単に……

「美咲さん! さっきの振り付けもう一度確認します!」

「は、はい……」

よそ見をしているとトレーナーさんにそう言われたので、私は慌ててステップを踏み始める。

「……やっぱり、体力が足りませんね」

「す、すみません……」

……自分のことも心配しよう。



「じゃあ、レッスンはここまでです。凛々代さん、どうでしたか?」

「……たのしかった、です!」

「なら、良かったです。それでは、解散!」

トレーナーさんの声で、私たちは挨拶をしてレッスンルームから出た。

……まやにとって、初めてのレッスンは楽しいものになったみたい。まやがアイドルを楽しんでいるのを見ると、私まで嬉しくなる。

「……着替えよ」

まやと並んで歩いていたなつきちゃんが、そう言う。
私には、そんななつきちゃんがまやにすっかり心を許してしまったように見えた。

……なつきちゃん、少し前はまやのこと良くは思ってなかったはずなのに。
やっぱり、これもまやの力なのかな。

「おーい、はるな。はーるーなー……みさきはるな!」

「う、うわっ!」

考え事をしていたから、まやの声が聞こえてなかった。

「なつき、いってしまったんやけど」

「え? ほ、ほんとだ!」

私とまやは、先に歩いていってしまったなつきちゃんを急いで追いかける。

なつきちゃんと2人でも楽しかったけど……まやも加わって、さらに楽しくなりそうだ―――――

79:スミレ◆aw:2018/07/20(金) 18:51

土曜日。
一週間前とは違って、今日はなにもない日。

「暇だなぁ……」

自分の部屋でくつろぐ私は、とにかく暇で仕方なかった。
こんな時、まややなつきと遊べたら良いんだけど……



「……ランニング、しようかな」

この間のレッスンで、体力不足を指摘されてたんだっけ。
今のままじゃダメだと思った私は、このあたりを走ってこようかななんて思って、
体育着とジャージに着替える。


「よし、準備万端!」

「って言ってるそばから悪いんだけど……」

「あれ?お母さん、どうしたの?」


お母さんが、ドアを開けて入ってきた。
ノックをしないときは急な用事だって知ってるけど、何だろう?


「知らせがあるから、事務所に来てほしいって―――」

80:スミレ◆aw:2018/07/20(金) 19:07

何だろう?知らせって……。

私はジャージのまま、走って事務所に向かっていた。
この際ランニングも兼ねて、一石二鳥だよね。

「はぁっ……はぁっ……」

事務所までもう少し……でも、疲れた私は、
近くのベンチで休憩をすることにした。


「体力つけないとなぁ……」

レッスンを始めて疲れにくくはなったけど、たくさん走るとまだまだ厳しい。
それに夏が近いからか、温度も高くて結構きついものがある。


「お茶、持ってきてない……どうしよう」

なんでだろう。走るのにお茶を持ってこないなんて。
体力管理、まだまだダメだなぁ……。のどが渇いた……


「キミ、大丈夫?」

「ん……?」

暑さでうなだれていると、隣から声がした。

「こんな熱い中ランニング?水分取りなよ」

「あ、ごめんなさい……あなたは?」


帽子を深々とかぶって、髪は短い……男の子だ。
同い年くらい……?

「ごめん、いきなりだったね。ボク、イオリっていうんだ」

「わ、私、美咲春菜……」

「……知ってる」

「え―――」


知ってる?この子、初対面なのに、何で……


「そこの自販機、ジュース奢るから」

「え、いいの?」

「このままじゃキミ、熱中症だよ?」

確かに、と思った。
ここで断ったら、事務所に着く前に倒れてしまうかもしれない。
というわけで、ジュースを奢ってもらうことにした。


「……ぷはー。生き返った!」

「よかった。じゃあ、ボクはそろそろ帰るから」

「あ、ちょっと……」

イオリは、早々とその場を立ち去ってしまった。
お礼してないし、何より私を知ってることを……


「……また会った時にすればいいか。事務所に急がないと」

たっぷり休憩できた私は、事務所に急いだ。

81:Rika◆ck:2018/07/20(金) 20:28

事務所について、私は会議室に入る。

「おお、美咲。早かったな」

そこには、プロデューサーさんだけが居た。
走ってきたからか、なつきちゃんとまやはまだ来ていなかったのだ。

「あはは……ランニングして来たんです」

私は苦笑いをしながらプロデューサーさんに説明した。

「そうか。体を鍛えることは良いことだぞ。……高木は凛々代と上手く行ってるか?」

すると、プロデューサーは突然そう尋ねてきた。

「はい! 二人とも、すぐ仲良くなったんですよ」

私は、二人の関係を正直に話す。

「……それは良かった」

私の言葉を聞いて、プロデューサーは心の底から安心したような顔をした。
……プロデューサーさんなりに、心配してたのかな。



暫くプロデューサーさんと話していると、会議室の扉が開いた。

「失礼します」

「……はるな、早くない?」

中に入ってきたのは、まやとなつきちゃん。……一緒に事務所来るなんて、二人とも仲良しだね。

「な、なつきちゃん」

「……なに?」

「なんで、この前はポニーテールにしてたの?」

今日は、いつもどおり髪を下ろしてきているなつきちゃんにそう尋ねる。

「……下ろしてたら、動きにくいでしょ。あと邪魔だし。その……すこしは本気だそうと思ったから、邪魔にならないように結ぼうかなって」

少しの沈黙のあとに、なつきちゃんは答える。
その顔は素っ気ない感じだけれど、照れ隠しだってハッキリわかった。だって目合わせてくれないし。

「はぁ、もういいってこっち見なくて。
……で、プロデューサー。あたし達に知らせって何?」

私がなつきちゃんの顔をじっと見ていると、なつきちゃんは話をそらすようにしてプロデューサーさんに尋ねた。

「うちも気になっとったんや! プロデューサー、教えてや」

さっきまで黙っていたまやも、気になって仕方がないという感じで尋ねる。

そんな二人を見て、プロデューサーさんは「待ってました」と言わんばかりの顔をしてから……

「ああ、今から言う。凛々代は知らないと思うが、デパートのライブで歌ってたSTARSってユニットがあっただろう。そのユニットの事務所から、ライブの共演依頼が来ている」

……と、とんでもないことを言ったのだ。

82:スミレ◆aw:2018/07/20(金) 21:00

「どうやら、ノルンのことを気に入ったらしくてな。事務所あて……そして、お前らあてにも
手紙が来ていた」

事務所には、共演のことだと思うけど……私達にも?
それに、気に入ったって……

「私達への手紙って、何なんですか?」

「これだ。読んでみろ」

大和プロデューサーは、ポケットから一枚の紙を取り出した。
綺麗に折り畳まれてる。これが手紙かな?


「うち、読むね?えーと……」


ノルンのアイドルの方々へ
この度は、ライブイベントお疲れ様でした。

名前も知らないノルンがあんなにも輝いていて、
とても素敵に思いました。

そんなノルンに、ご依頼があります。
私達と共演してください。
あなた方となら、最高に輝けるライブが出来るはずです。

2週間後、町内のコンサートホールにて開かれるイベントで、お待ちしております。

STARS


「これ、私達が、認められたってこと……?」

「そうだよなつきちゃん!私達、あんな凄いユニットから……」

ノルンのことを、素敵だって言ってくれていた。
私達、認められたんだ……
あの人達と共演できるなんて、すごい!


「2週間か……うちもやるんやろ?間に合うやろか」

そうだ。まやは入ったばかりだ。
私達の歌も練習しようにも、二人用の曲だし……


「そうだな。本当はもう少し後にしたかったんだが……
凛々代も含めて、お前らには新しい曲を覚えてもらう」

「え、新曲……!?」

83:スミレ◆aw:2018/07/20(金) 21:42

「……そんなに曲を作れる人、雇う余裕あるの?」

そうだ、なつきちゃんのツッコミで思い出した。
この事務所って貧乏だったはず……


「こないだのギャラ。それに加えて、凛々代の父親……会長から、さらに支援金を頂いてな。俺と社長の意志だ。所属アイドルを、しっかりと成長させてやりたいんだ」

「お父様、そこまでやってくれるなんて……」

まやのためなのかな?
お金持ちでも、そこまで使える人って凄いな。

それに、プロデューサーたちも、私達のことをすっごく考えてくれてる。


「今日のレッスンは、新曲試聴だ。服はそのままでいいぞ。準備ができたら、ボイトレ室まで来てくれ」

プロデューサーはそう言うと、会議室から出ていった。


「まや、なつきちゃん!新しい曲を覚えて、スターズと最高のライブにしよう!」

「うん……!」

「うちは、初めてのステージやな。気合入るで!」

まや、凄い。全然緊張してない。
なつきちゃんも、いつもより頑張れそうな顔をしてる。

この三人なら、ノルンなら、怖いものなしだ……!

84:Rika◆ck:2018/07/20(金) 22:23

それから少しして、私たちは3人でボイトレ室に向かった。

「よし、来たか。じゃあ、この曲を聴いてくれ」

プロデューサーはそう言って、CDを入れる。

「わあ……!」

「なに、この曲……」

「……すごい」

流れてきたのは、なんて言うんだろう……少し切なげな感じなのだけれど、前向きな歌詞もあって、言葉では上手く表せないけどとってもいい曲。

……これを、私たちが歌うんだ。

「この曲はな、美咲と高木のライブを見に来ていた作曲家の方が作ったんだ」

「……じゃあ、もしかしてこれあたし達のイメージ?」

「まあ、そうなるな」

この曲が、私たち……
なんか、その作詞家さんに私たちが経験してきた苦労とか、色々とバレてるような気がする……。

そうじゃなかったから、最初らへんの切ない歌詞は出ないはずだから。

……やっぱり、作曲家さんってそういう所よく見ているのかな。

「うち、いい曲って思う」

うん、まやの言う通りすっごくいい曲だと思う。
この曲を歌えるようになったら。そして、踊れるようになったら……あのSTARSと共演しても、恥ずかしくならないはず。

「なーんか、単純だよね」

「まさかその単純な感情を表せないとでも言うのか、高木?」

「まさか」

一方、なつきちゃんはプロデューサーと難しそうな話をしている。この会話は、あの時に重ねてあるのかな。

あ、あの時って言うのはデパートライブの新曲視聴のこと。そのとき、なつきちゃんは“感情を出す”という事が分からなくて不安そうな表情をしていた。

だけど、今日はそんな雰囲気は全く出てない。それどころかプロデューサーの問いかけにも余裕そうに答えてるから、きっと大丈夫だろう。


「……はい、視聴終わり。さっきの手紙の通り本番は二週間後。その二週間の間、しっかりとレッスンに励むように」

「はい!」

「……はーい」

「はい」

曲が終わったあとのプロデューサーの言葉に、私たちはそれぞれ返事をする。

そこで気づいたんだけど、今日のプロデューサーはいつになく真剣だった。
やっぱり、自分のアイドルがライブに出れるってことは、プロデューサーにとって嬉しいんだろうな。

「じゃ、今日は解散。気をつけて帰れよ」

……私も、ライブに出れるのは嬉しい!

85:スミレ◆aw:2018/07/21(土) 12:36

「あれ?まやだ……」

受付に行くと、待合席にまやが座っていた。
何だか、退屈そうにしてる。話しかけてみよう。


「まや、どうしたの?」

私に気づいたまやは、目をぱぁっと輝かせながらこっちを向いた。


「はるなー!お父様が中々迎えにけーへんし、暇してたんよ!」

「そうだったんだ……」

暇、か……。
なつきちゃんも帰っちゃったし、1人で寂しそうだなぁ。


「お迎え来るまで、おしゃべりしない?」

「ええの?はるなも、都合があるんとちゃう?」

「いいよ!門限までに帰ればいいし」


それから、色々な話で盛り上がって、時間はあっという間に過ぎていく。


「……でね、その男の子が、ジュースおごってくれたんだ」

「ええやん!うちも……そんなかっこいい出会い、してみたいわぁ」


先程の、私を助けてくれた男の子の話をしていた。
そう言えばあの子、どこかで見覚えがあるような……


「名前、聞いたん?」

「えっ、名前!? えーと……」

頑張って、思い出そうとする……。


―――ごめん、いきなりだったね。ボク、イオリっていうんだ


「そうそう、いおり!いおりって言ってた」

「いおり……あれ?」

私が名前を言うと、まやは何だか引っかかる顔をした。


「どうしたの?何か、知ってるの?」

「うーん、聞き覚えあるなって。いや、同じ名前の人はいくらでもおるんやけどな」

「だよね……」


そのすぐ後、まやのお父さんが迎えに来た。
それを見送って、私も事務所を後にする……


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