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578:GALAXY◆CHg 復帰:2018/11/03(土) 13:01

 数週間後、悠馬の葬式が執り行われた。
 そこには奏のお父さんもいた。参列している誰よりも顔を苦渋に歪め、地面を睨んでいる。
 私は既に涙が枯れた。心が壊れかかってる。これが、大切な人を失った悲しみなのかなぁ。──こんな形でなんて、知りたくなかったよ。
 私は奏のお父さんに近づいた。正面に来てようやく、彼は私の姿を認めた。
「夢乃ちゃん……ごめん。救えなかった……」
 その口から発せられるのは、何かを堪えるような声音。
「これ、約束のものです」
「……いらないよ。僕にそれを受け取る資格なんて、ない」
 ちらちらと奏の写真を見ているが、頑なに手を伸ばしてこない。いつもなら、亜光速で食らいつくはずなのに。それだけ彼の気持ちが許せないのだろう。
 私は彼を責めるつもりもないし、資格もない。悠馬は元々、既に死んでしまっていたはずなのだ。それを手術などの医療技術のお陰で生きながらえてこられた。その技術の中には、奏のお父さんの物だって入っていた。
 だから、感謝こそすれども恨んだり憎んだりするのは御門違いだ。
「私は、悠馬に死んでほしくなかった」
 そう言うと、さらに鋭く地面を睨みつける。いつの間にか彼の拳は出血でもしているのかという程に赤黒く染まり、どれほど強い力で握りしめているのかが嫌でもわかる。
 けれど、私は気付かぬふりをして、続きを話す。
「でも、苦しんでも欲しくなかった。だから、苦しまずに天国へ行けたのなら、それだけで私は」
 死んでほしくはなかったが、日に日に弱っていく悠馬も見たくなかった。棺に入れられた悠馬の顔は、驚くほど安らかで、治療による苦痛に満ちた表情など皆無だった。
 だからこそ、悠馬が安らかに眠ってくれたとわかる。そして、そうしてくれたのが奏のお父さんだと言うことも。
「夢乃ちゃん。実は、悠馬君が無くなる数分前に、僕は彼からどうしても伝えたいことというものを聞いた。勿論、君へ伝えたいことしかなかった」
 それはつまり、悠馬からの遺言? ……いや、伝言だろう。
「『夢乃、ごめん。俺もうすぐ死ぬわ。ごめん。夢乃が俺のためにしてくれたことは苦しい闘病生活の中で俺に勇気を与えてくれるものだった。ありがとう。俺は先に逝っちゃうけど、絶対天国で待ってるから。絶対、絶対にだ。……違うか。俺はずっと夢乃を見守ってるから。だから……いつまでも悲しみに明け暮れてるんじゃねぇぞ? どうせ夢乃の事だから『悠馬が死んで悲しい』とかずっと思ってるんだろうが、悲しむな。俺はずっとお前の心の中で生き続けてるから。そうだろ? 夢乃』だそうだ」
「あ、ありがとうございます……」
 これが、悠馬の最期の言葉?
 そう思うと、自然と、もう枯れ果てたと思っていた涙が、洪水のように、滝のようにドバドバと流れ落ちた。
「何が『心の中で生き続けてる』だよ……イタい、イタすぎるよ……」
「あ、そうそう。実はさっきの言葉にはもう少し続きがあってね。もし俺の予想通りの反応をしたら伝えてくれと言われているんだ。『なんだよイタいって。もうすぐ死ぬ……これを聞いてるってことはもう死んでるのか。ま、いいや。そんなやつにイタいはないだろ。確かに夢乃は将来俺以外に好きな人ができて、俺の事なんか忘れちゃうだろうけど、俺はずっと夢乃と一緒にいるからなって言いたいだけだっつの。じゃーな、夢乃。…………本音を言えば、もっと夢乃と居たかったよ』」
 それを聞いた私は、悠馬に全てお見通しだったことがおかしくて、笑ってしまった。

 いつの間にか涙は止まり、空には昼なのに月が出ていた。




 あぁ、悠馬? 今日は満月だよ。悠馬と一緒に見たいくらい、綺麗な月だよ。


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