Twin Stars

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1:Rika◆ck:2018/12/16(日) 16:35

 愛歌という名前の少女は、歌が好きだった。
歌手になりたかった。……だが、チャンスがなかった。
叶うか叶わないか分からない夢。抱いているうちに、何度不安が襲ってきた事か。
しかし、彼女は一切諦める事無く一途に夢を追い続けた。

「後は、これしか……!」

 見限られ続け、ボロボロにされた心。
それでも、「夢を叶えたい」の一心で、彼女は最後のチャンスを掴もうとした。



「……よし」

 愛歌は呟き、目の前の大きな建物を見つめた。
その建物の前には、『STAR事務所アイドルオーディション会場』と書かれた看板が立っている。
そう、彼女にとっては―――“歌を歌うことが出来る”アイドルこそが、最後のチャンスだった。

2:Rika◆ck:2018/12/16(日) 16:55

「7番、斎藤愛歌さん」

「―――はい」

 決意のこもった、しっかりとした声で返事する愛歌。その瞬間、会場内に異様な雰囲気が漂い、空気が重くなる。
……それくらい、愛歌は本気だったのだ。自分の夢を叶える事、に。

「アイドルになりたい、と思った理由は?」

「歌が好きだからです!」

 面接官の堅い雰囲気に屈することなく、鋭い眼光で質問に答える愛歌に、審査員は最早感心していた。
「今時、ここまで一途な学生はいるのか」、と。そして、彼女のただならぬ目付きに。

「失礼ですが、『自分を見てもらいたい』と思った事は……」

「ありません!」

―――私は歌を歌いたい、だからアイドルになりたい、自惚れてなんかいない。
 はきはきとした声で愛歌は話し切り、遂には面接官までも感心させ、オーディションを終えた。

3:Rika◆ck:2018/12/16(日) 17:30

 その後、審査員は事務所に残って会議を行っていた。内容は勿論、本日のオーディションについて。
彼らは資料を手に持ち、人選を間違わないように、慎重に選考を行っていた。

「……逸材揃いだな」

 一人が呟けば、その場にいた全員が頷く。
面接を受けたのは、全て資料による一次審査を通過した人間だ。やはり、レベルは高い。

「通過人数は?」

「……一名です。スカウト枠とのユニット結成が企画されていますので」

 これは相当慎重に選ばなければならない、一同はそう思いながら、頭を抱えたのだった。
そして、この日から数週間に渡り、彼らは選考を行い続ける事となる……。

4:Rika◆ck:2018/12/22(土) 18:14

 一方、STAR事務所のプロデューサー、緒方(おがた)は、アイドルの星を見つけるために、街に出ていた。
……が、本人のこだわりが強すぎる故、中々スカウト候補は見つからずに居た。

「今日も切り上げか……」

 疲れ果てた緒方が、そう呟いた時だった。
目の前を通った、中学生ぐらいの少女。少女は誰が見ても分かる程につまらなさそうな顔をしていたが、変わり者の緒方にはそれが魅力的に見えたのだろう。
考える間もなく、緒方は少女に向かって歩いて行った。

「ねえ、君」
「……ん?」

 ポケットに手を突っ込み、緒方をじろりと見つめる少女。緒方は一瞬怯みそうになったが、それを堪えて続ける。

「私はこういう者なんだ」

 そう言いながら、緒方は少女に名刺を差し出した。
緒方の雰囲気はまるで胡散臭さの塊だったが、「STAR事務所プロデューサー」と書かれたその名刺を見て、少女はとりあえず彼を信用したようだった。

「ああ、本物なんだ。で、なんか用?」
「実は……」

―――君を、アイドルにスカウトしたい。

 その言葉を聞いた少女は、少し驚いたように目を見開いた後、鋭い目で緒方を睨みつける。

「はあ?」
「ひっ! す、すみません……」

 怯えた緒方を見た後、少女は面白くなさそうにため息をついて、名刺を鞄にしまった。

「もういい。帰る」
「ご、ごめん! もう一つだけ聞いて!」

 くるりと背を向けて歩きだそうとした少女は、緒方の声を聞き、足を止めた。

「アイドルになろうって思ったら、事務所に電話してくれないか!?」


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