【住民が全員】コーポ避難所【犯罪者なんだが】

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1:風季乱:2020/08/05(水) 20:47

社員寮の工事で急遽身を移したアパート──【コーポ避難所】は、隣人どころか住民が全員犯罪者だった。

103号室なんかまたドンパチしてませんか?
101号室から悲鳴が聞こえるんですが。
あぁ、しかも泥棒に作り置きの唐揚げを盗まれてる。






手の焼ける男(物理)の息抜きに書いていくので、更新頻度は遅めです。
コメディー、たまにミステリー。
>>02 登場人物

2:風季乱:2020/08/05(水) 20:55




【キャラクター】

[遠藤 零壱(えんどう ぜろいち)] 103号室
食品会社に勤務するサラリーマン(26歳)。
お人好しだが正義感は皆無。
家事スキルが高く、よく作り置きした料理を泥棒に盗まれる。


[連条 渋貴(れんじょう しぶき)] 102号室
盗みを生業とする三十路の男。
スリや空き巣などの軽犯罪から、絵画やを美術館から持ち出すなどの大罪まで犯している。
零壱に料理をたかるなど、だらしない性格だがモテるらしい。


[但木(ただしぎ)] 101号室
本名不詳、推定年齢35歳。
大統領やマフィアでさえ恐れる凄腕の殺し屋。
無口で気難しく、信用していない相手には口をきかない。
毒を警戒してコンビニ弁当以外口にしていなかったが、零壱の料理だけは食べる。


[西馬 うずめ(さいば うずめ)] 201号室
ヤクザ組長の娘で、高校二年生。
高校は不登校気味で、クラッキングやダークウェブの徘徊をしている。
ワガママで食にうるさいが、零壱の料理は認めている。


[風橋 空真(かぜはし くうま)] 203号室
元ホストで結婚詐欺師の22歳。
常に変装して偽名を使い、裕福そうな女性に貢がせている。
一見チャラ男で浮ついた男だが、心から女性を愛したことはない。
過去のトラウマから手料理全般は駄目だが、零壱の料理は食べる。

3:風季乱:2020/08/06(木) 01:26



「──というわけで、1階の人は申し訳ないけど、来週から3ヶ月間だけ社員寮退去をお願いしますね」

──社員寮が燃えた。

といっても大規模な火災ではなく、一階の内二部屋が燃えただけに留まったのだが。
しかし思いの外傷んでいて修繕が必要だったようで、この際老朽化したところは徹底的に直そうという次第だった。

「俺らは近くに実家があるから別にいいけど……零壱(ぜろいち)、お前の実家って新潟だろ? 会社がホテルとか手配してくれんの?」
「いや特には……近場のアパートを借りるよ」

こういうのって普通は会社側が責任をもってホテルなり代替の住居を用意するべきなのだろうが、うちの会社はブラックな所があるのでその辺の保証は無い。

会社近くの──通勤時間1時間以内のマンスリーマンション等を借りられれば良いのだが、結構な人数が寮から追い出されるため、会社の周辺はかなり倍率の高い争奪戦になるだろう。

「3ヶ月間だけなんだべ? アパートじゃなくても、ウィークリーマンションとかさぁ」
「いや……もうこの際だから社員寮を出てくことにした」

俺はスマートフォンを取り出し、ブックマークしておいたアパートの入居者募集ページをスクロールした。

「ここに決めたんだ」
「へぇ、結構ここから近いじゃん。値段も悪くねぇし」

敷金、礼金0円、駅から徒歩10分、家賃3万、事故物件でもない。

しかしまさかこの部屋がとんだ"事件物件"だったなんて、この時の俺は知らなかった。
仕方ないだろ、どこにも記載されていないんだから。

4:風季乱:2020/08/07(金) 01:23

コーポ避難所。
それが俺が入居するアパートの名前である。

普通アパートの名前ってオーナーの苗字だとか好きなものだとか、シンプルに付けるなら地名をそのまま使ったりするが、"避難所"は何だかセンスがズレている気がしなくもない。

「しかし……あっさり入居決まりすぎだな」

避難所の大家に問い合わせしてから約三日後、なんと既に手元に鍵がある。

電話口でいくつかの質問に答えただけで入居を許可され、すぐに寮へ鍵が送られてきたのだ。
しかしその質問というのが、今思い出しても入居に関係ないような気がしてならない。

5:風季乱:2020/08/07(金) 01:36

電話口の声は、ダンディな男性の声だった。
奥の方から甲高い女性の声が微かに聞こえるが、彼は無視して俺と電話している。

「あの、コーポ避難所の入居についてなのですが……」
『貴方は道で困っている人がいたら──手を差し伸べますか?』
「は……? えっ? まぁ……自分にできることなら……」

まるで就職や受験の面接のような、道徳やモラルを問われる質問に、俺は戸惑いながらも言葉を紡いだ。

『あなたはニュースで殺人事件が報道された時──心を痛められる人ですか?』

問い合わせ先、間違ってないよな?

不気味に思った俺は受話器を一旦置こうとしたが、なぜか腕が固定されたような金縛りに遭っていた。
しかも、思ったことをバカ正直にそのまま口にしてしまう。
まるで脳と口がそのまま繋がっているような。

「誰が死んだとか、自分に関係ないことならどうでもいいです。許せないとか酷いとか、別に……」

自分の口から紡がれた言葉に一番驚いているのは自分だった。
心の奥底で自分はそんな非情な人間じゃないと押さえ込んでいたのが浮かび上がってしまった、
ビート板をプールに何度押さえつけても浮き上がってしまうように。

『……なるほど? お人好しだが、正義感はあってはいけない。貴殿はそれを満たしている』

片方の質問が当てはまる人は多いんだが、両方の質問に当てはまる人は中々居なくてね、と低い声。

正直気味悪いので今の答えで入居を断って欲しかったのだが、なんと俺は求められた正解を選んでしまったらしい。
褒められているんだか貶されているんだか分からん様な評価を頂いて、コーポ避難所への入居が決まった。

6:風季乱:2020/08/07(金) 19:04

とはいえ、過ぎてしまったことに文句を言うのは嫌いだ。
とりあえず内装に問題がないか確認する為、鍵を開けた。

「結構綺麗だな」

入って一通りザッと見た感想だ。

築10年ではあるが壁紙などはこまめに張り替えているらしく、目立った汚れや穴などもない。
洗濯物を干すベランダの日当たりも良いし、余裕があれば家庭菜園も出来るだろう。
キッチンもIH導入で綺麗だし、風呂は少し小さいが、シャワーで済ませてしまう俺には問題ない。

実際に下見することなく契約してしまったが、部屋に対する不満はこれといって無かった。

7:風季乱:2020/08/07(金) 19:04

「さて……引越し蕎麦作るか」

袋から取り出したのは、老舗の店で購入した蕎麦の麺だ。
香りの良い木箱に詰められたそれは、蕎麦に詳しくない俺から見ても綺麗な色をしている。
ダンボールから調理器具をいくつか出し、IHクッキングヒーターの電源を入れた。

引越し蕎麦は、"側"に引っ越してきましたという言葉遊びにひっかけて広まったという説がある。
江戸時代に始まり、数百年後の日本人も理解できる言葉遊びとして今も残っている。
洗剤や消耗品の方が助かるのだろうが、俺はあえて日本語のユーモアを大切にすることにした。

麺が良い感じの硬さになったら引き上げて冷やし、せいろに盛って刻み海苔を乗せる。
そしてこれまた少し値の張る麺つゆを小皿に入れて、引越し挨拶の準備は整った。

「とりあえず両隣だけで良いよな……」

俺の借りた部屋は102号室で、隣にはもちろん101号室と103号室があるわけだ。
一応ここには長く住むつもりだから、ご近所付き合いは大切にしていきたい。

8:風季乱:2020/08/11(火) 00:48




完成した蕎麦を盆に乗せ、まず101号室を尋ねた。
アスファルト上にビール缶やポテトチップスの袋、アイスの棒などが散乱しており、部屋を見ずともドア前の状態でだらしない人だということが伺える。
プランターに植えられていた植物だけはこまめに手入れしているようだが。

「すみませーん、隣に越してきた者ですがー」

呼び鈴が設置されていないため、数回ノックして返事を待った。
が、1分ほど待っても一行に返答がないから恐らく留守にしているのだろう。
土曜の昼前だし、どこかへ出かけていてもおかしくはない。

9:風李乱:2020/08/21(金) 18:15

「仕方ない、右隣に行くか……」

すぐ隣の103号室は、先程の部屋とは対照的にとても綺麗だった。
ドア前に物は一切置かれておらず、表札すら無い。
一応住民はいるらしいが。

唯一気になる点は、ドアに備え付けられている郵便受けがなぜかガムテープで封鎖されており、郵便物を入れられない状態になっていることだ。
別に悪臭や衛生的な面でこちらにも影響を及ぼす訳でもないので、事情はどうでもいい。

俺はお盆を両手で持ったまま、103号室のドアを数回ノックした。

「すみません、隣に越してきた者ですがー、ご挨拶よろしいでしょうかー」


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