岬のポエム

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5:詠み人知らず:2017/09/08(金) 00:27

地を覆う大きな傘。
中央に塔が一本建ち、それが機械の塊を支えている。
当然 真下にある集落には陽が当たらず、機械の隙間から漏れる「雨」に苛まれている。
人々は疑わない。
それが当たり前だったから。
何て事はない。
ただの「掟」なのだから。

あの傘が騙した日 空が泣いていた
街は盲目で 疑わない
君はその傘に 向けて唾を吐き
雨に沈んでく サイレンと

誰の声も聞かずに
彼は雨を掴み
私の手をとりあの傘へ
走るの

二人きりの約束をした
「絵本の中に見つけた空を見に行こう」
刹那雨さえも引き裂いて
もう悲しむ事も忘れたまま


降り頻る雨と共に、二人は傘の塔へとたどり着いた。
閉ざされていた両開きの扉は、押せば呆気なく開き、二人を拒みはしない。
誰も入ろうとはしないのだ。
鍵などあってもなくても同じだろう。
その扉の向こうの、


崩れ出し何処へ行く螺旋階段は
煤けて響いた滴り雨
泣きそうな私を そっと慰める様に
君は優しく 私の手を

白い影に追われて
逃げた先に檻の群
理由を探す暇も無く
気も無く

震えた手を 君が支えて
私はそんな背中を ただ見守るの
闇に溶けた 歯車は笑う
ホラ微かに風が頬を撫でる


「風が、流れてるわ」

女の子は言った。
男の子は小さく相槌を打った。
足を止める事はなかった。
とても遠くまで来た様な、或いはまだ走り始めて間もない様な。
絶望的に小さな二人を、誰が見つける事も無かった。
誰が見つける事も無かった。


白い影はもう追ってこなくて
とても悲しそうに消えた
錆びた匂いも煤けた黒さえも
やがて色を淡く変え
何処からか声が聞こえた様な
気がした様な 忘れた様な
螺旋階段の突き当たりには
とても小さな扉が
埃を纏い待っていた


「開けるよ」

「うん」


そこには何もかもがある様に見えた
色とりどりに咲いた花 深い青空
滲んだ世界に二人きり
もう何もいらないわ

絵本の中 とじ込んだ空を
在るべき場所に返した 忘れない様に
君がくれた 拙い花束を
笑いながら そっと肩を寄せた

世界の最後に傘を差す
ずっとこんな世界ならば よかったのに

悲しくないわ 君の側で...


花の咲いたその傘の上には
とても幸せそうな顔で

小さく眠る二人がいた


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