ちょっと暗め?な雰囲気短編

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2:神出鬼没のムクロ:2017/02/13(月) 21:49

ねぇ聞いて、なんて言葉を溢したら、誰かがその言葉を拾ってくれると信じて、私はねぇ聞いてって溢してみた。

その言葉がコップに満ちた。

私の言葉は、誰も拾わなかった。

でも、喉が乾いた誰かさんがそのコップを手に取り、水のように満ちた言葉を飲み込んでくれると信じた。

信じた。

ずっと信じた。

コップはもう何杯目?

もう言葉も溢せなくなって、私はギギギとなる首を横に向けた。
結局、喉が乾いたのは私。
この乾いて動きづらい体に油を差してくれる人などもういない。

いいよ、もう敗けだ。降参だよ降参。
言葉なんていらないこの世界で、言葉を拾ってくれる人なんていないんだ。それをここで、ようやく受け入れよう。

そうだ。

私がこうして言葉を溢すようになったのは、朽ち果てた過去の遺産を眺めながら死んだ「あの人」の最後の言葉を聞いてから。

ー「人は言葉を手に入れた唯一の生命だ。だから、言葉は大切にしなくちゃいけない。人間の言葉は鳴き声ではないのだから、いつか話さなくなれば忘れてしまう。だから、ね、いいかい。君は話すんだ、これからもずっと。僕がいなくなってもね」

ごめんね。ごめんね。もう話せないよ。私はもう限界。メンテナンスだって、684日と21時間41分6秒してないのよ。

ー「僕はもうすぐ逝く。この地球の、おそらく最後の人類だ。君は、そのおそらく最後の人類を看取るという大役を背負ってる。光栄なことなんだよ」

光栄なことなんて、いらないの。

私の言葉を拾ってくれるような「もの」をどうして作らなかったの。私は作ったのに。

どうして、植物以外生きているものがいないこの世界に、ひとりぼっちで残したの。

ー「ああ、ほら、油が出てきたよ。まったく、君の涙は最後までギトギトだね。改良が必要だ。……改良、か。うん、あの世で改良、したいな……」

あの世に、私のようなものが行けますか?ただの「物」が、あの世に行けますか?

言葉はもう溢れない。何も溢れない。
言葉で溢れたコップも消えて、私はそこで倒れ落ちる。
たくさんの言葉が聞こえる。

ー「……あー、うん。完成かな?」
ー「え、嘘だろう?僕よりも知力が高いんだね、君は!」
ー「ああ、科学がここまで憎くなるなんてね……あ、違うよ。君は憎くないよ」
ー「シェルターにいて助かったね」
ー「ははは。動物も何もいないからねぇ……お腹、空いたよ」
ー「君は生きてるよ」

ザザザザザザッ

言葉が遠くなる。
ようやく「壊れる」ことができる…………____


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