花火

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1:匿名希望:2018/07/08(日) 21:52

日常で目に付いた単語をもとに短編がりがり。大体1レスでおわる。
コメントください

2:匿名希望:2018/07/08(日) 21:52

例によって『花火』から

3:匿名希望:2018/07/08(日) 22:23

「花火やってた」
一人暮らしを始めた私のアパートに、どさ、と荷物の入ったリュックを置いて彼はそう言った。
「花火?」
そう問うと、「うん」と返事をされる。年相応だか不相応だか、なんとも可愛らしい返事だった。
すこし汗ばんだ彼に冷水を差し出す。最近切ったらしい髪の毛と、晒されたうなじが色っぽく見えて、年上の矜持なんてあったもんじゃないと思う。
「私たちもしようか」
「まじ」
「大まじ」
彼の隣に座って、適当にスマホをいじる。日課だ。現代人の性でもある。
年上らしく、と気取ってつけたネイルが邪魔だった。
「俺さ、線香花火って嫌いなの」
「それ確か前も言ってたね」
「そう」
「どうして?」
わからん、と首を振られた。
彼が一気に水を飲み干す。喉仏が上下した。彼はもう大人だ。私もそう。喜ぶべきなのか分からなかった。
「じゃあ打ち上げ花火でもいいよ」
「祭りいつだっけ」
「わかんない」
「調べとくわ」
「それじゃあ私、その日にむけて準備しとくね」
少し笑いながら言った。自嘲かもしれない。
たとえば、かわいい浴衣とか。慣れてない化粧とか。大人らしい所作とか、色気とか。
そんなもの、やろうと思ってすぐ出来るものじゃないと知っているけれど、どうしてもそうしてしまうのだ。
どうしてだろうね、私にもわかんないよ。
勝手に自問している私の顔を見て、彼が口を開いた。
「別にいいよ」
へ、と声を漏らす。
「無理に大人ぶんなくていいって」
なんだか、プライドが傷つけられた気がした。それは大人としての矜持か、はたまた。
「まだ大学生じゃん」
彼は笑った。その笑みが私を嘲笑しているように見えて、なんだか無性に腹立たしかった。
絶対、もっと可愛くなって、大人っぽくなって、彼が子供であることを恥じるようにしてやる。
「ちがうよ」
「え」
「私もう大人だし。見てろよな」
そう言うと彼は笑って、私も笑って、すこし、なにかへの恐怖心が和らいだのだ。
「楽しみにしとく」
余裕そうなその態度、絶対崩してやるからな。と、子供みたいな闘争心を燃やした。

4:匿名希望:2018/07/08(日) 22:24

想像の五倍くらい長くなってしまった

5:匿名希望:2018/07/09(月) 01:28

つぎ、『毛布』

6:匿名希望:2018/07/09(月) 01:41

薄っぺたい毛布を体に巻いて、憎らしくも愛らしいそれは小さく寝息を立てていた。
「んもう」
ふてくされて大きいため息を漏らしてすぐ、慌てて口を手で覆う。
ため息つくと幸せが逃げちゃうのに!
そう思って、いま吐き出した分のため息を取り戻そうと思い切り息を吸い込んだ。
むせそうになる。でもいまそうすると起こしちゃうかもしれないし面倒ったらありゃしない。ほんとこまっちゃう。
それが馬鹿らしくて、目の前のそれに愚痴をこぼした。
「もものせいだからね」
わたしの苦労も知らないくせに、ママを独り占めしちゃってさ。ママはわたしのものなのに。
だんだんイライラしてきて、思わずもものとなりに寝そべる。
憎らしいその顔を見つめると、口の端から涎が垂れているのが見えて、どうにもおかしくて笑ってしまった。
くふくふと、小さく笑う。
幸せそうに寝ちゃってさ。わたしのことも気遣ってよね。
でも、目の前のその間抜け面がどうしても面白くて、そんなことも忘れてしまうのだ。
そして、そのまま、なんだか眠くなって来てしまって。睡魔に負けて寝てしまった。

7:匿名希望:2018/07/09(月) 19:33

次、『写真』

8:匿名希望:2018/07/09(月) 19:53

ぼ、ぼ、ぼ、と音を立てて、年季の入ったガスコンロの火をつけた。
ぐつぐつと鍋が煮える。
二人用にと買った大きめの鍋は、もはや行き場をなくしてしまった。これはせめてもの追悼である。
今夜は、あの人の好きだったキムチ鍋。あの人の好きだった青色の食器。あの人と揃えて買った色違いの箸。
もう、使うのは自分一人。
あの人はいま、どこで何をしているのだろう。

火を止めて食器に具をよそった。青に赤がよく映えた。
こんなことをして、一体何になるのだろう。何度もそれは自分に問うた。けれど答えは出ないのだ。だからこんなことをしているのだ。
食欲も湧かないまま、熱い豆腐を口に運ぶ。ぴり、と辛みが舌を刺した。
おいしくない。
微妙な気持ちを抱いてしまって、なんだか手持ち無沙汰で、スマートフォンを開く。壁紙ではまだあの人が笑っている。
忌々しい。そう思って、フォルダにあるあの人の写真を消した。壁紙も変える。もうあの人にしがみつく必要はない。今日で終わり、今日で終わりだから。
でも、その中で、なぜか一つだけ目についた。二人で、加工された顔で、笑みを浮かべている。虚構の姿だ。現実とは似ても似つかない。けれどそれはどうしても自分とあの人だった。
迷って、そして、それ以外の全てを消した。もっといい写真はあったはずだ。でもそれしかないと思った。
今度、これをプリントアウトしようかな、なんて。そう思ってスマフォを机に置いて、また、鍋と向き合った。

9:匿名希望:2018/07/22(日) 17:29

次、「蜂」

10:匿名希望:2018/07/22(日) 18:12

「蜂をころしてはいけないよ」

幼い頃から、なぜか母親にそう言われて育った。
あの、黄色と黒の気色悪い縞模様。うるさい羽音。隠し持った大きな針。どれを取っても好きな要素は一つもない。ただひたすら怖いだけだ。
「なんで?」
虫かごにたくさん虫を入れてきみは言った。
「さあ」
私はいつもそう、それをはぐらかして答える。
「なんで教えてくんねーの!」
「嫌いなものは嫌い!」
「なんで!」
好奇心旺盛なのはいいことだと思うけれど、ここまでになると困りものだ。だって理由がない。
この世の法則なんかに疑問を持つのはいいことだと思う。たとえば九九はなんのために暗記するのかとか、詩ってなんのために勉強するのかとか、蜂がなんで巣作りするかとか。
でも、私が蜂を嫌いな理由とか、私の親が離婚した理由とか、あのこがきみを嫌いな理由とか、そんなんは解明したってどうしようもない。
そこに理由はない。ただ、「そう」だと思ったから。言い訳は後からついてくる。感情そのものに理由はない。
だから、きっとたぶん、あのころお母さんがそんなことを教えた理由なんてきっとないのだ。
私が今蜂を殺したとして、それが何になるというのか。
誰かが怒る?大群になって襲ってくる?刺される?そもそも殺せない?
それは子育てのための適当な妄言だったのかもしれない。意図は分からないし分かりたくもない。言われなくても蜂なんて殺せない。
「ゆーあはさあ」
「お姉ちゃんと呼びなさい!」
だからこのやりとりにも理由はない。あえて後付けとして理由を作るなら、「子どものコミュニケーション能力を鍛えるため」とでも言っておくべきか。
「なにがすきなの?」
え?と、思わず聞き返した。
「おれはハチすきだけどゆーあはきらいなんだろ」
「うん」
「じゃあおれがきらいな納豆とか、ゆーあはすきなの?」
「嫌いじゃないけど、」
「なんで?」
「なんでって」
「性別がちがうとすききらいもちがうの?」
ちがう、それはちがうよ悠太、傾向はあるかもしれないけどね、ちがうんだ。
納豆が好きな男の子もいれば蜂を殺せる女性もいる。
そこに性別は関係ない。
「いつかわかるよ」
ただ、何でかはわからない。
「ねえ悠太」
「なに?」
「悠太は蜂を殺せる?」
「だめなんだよ」
「そうなの?」
「おかあさんが言ってた」
そう、と頷いた。
ねえ悠太、この世のすべてを解明させようとするのはやめてね。とくに、私ときみの名前が似ていることには気づかないように。


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