【正味】自由に書きますわ【新しくスレ作るんもうエエ】

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1:ぜんざい◆A.:2016/10/07(金) 22:41 ID:74A



 どうもこんばんはぜんざいです。

 私、思ったのです。書きたい作品が多すぎて、その分だけスレを作ると数がとんでもないことになるからどうしようと、完全に無駄だぜ? と。そして答えがこうなりました。


 もういっそ全部引っくるめて自由に書いてしまえと(

 終着点がここなのです。

 なので、とにかくひたすらジャンルバラバラの夢小説書きます。
 コメント及び感想待ちます! 小説投稿はやめてほしいんだぜ?(⊂=ω'; )

 まあ簡単に言うと、私の落書きのようなものなので、他の人は感想だけということになりますね。うわあ上から目線だぁ! 恐らくコメントには感涙します、めっちゃなつきます。ビビります。

 ジャンルは大まかに言えば、wt、tnpr、妖はじ、turb、krk、FT、中の人、FA、mhaです。
 これからも増えるだろうと思われる模様。
 2ch的なものも出てくると予想されます。

 これまでの上記で『2chやだ!』「作品がやだ!」「ぜんざいがやだ!」言うからは目がつぶれないうちにご帰宅or gohome(΅΄ω΄→ ハヤク!

 2ch系では顔文字や「wwww」表現が出るかと思われます。嫌な方はブラウザバック!


 それでは、そしてーかーがやーくウルトラソheeeeeeeey((

 文的にうるさくてすいません。



.

133:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 17:05 ID:cek


「ツナくん、信じかけてたんだよ」

 古里が沢田にそういった瞬間、体は再び注を浮いて、「やめろ!」という沢田の怒鳴りと共に他の四人とぶつけられる。
 ゴッと大きな音がしてこっちも含めて五人が地面に倒れ込んだ。

「みんな!」
「なぜ君にだけ攻撃してないかわかる? ツナくんには初代シモンがプリーモに受けた苦しみをしっかり味わって欲しいんだ」
「……! エンマ!」

 その声と共に素早くみんなが立ち上がる。それはこっちも例外じゃなくて、恭弥の隣ですくっと立ち上がった。だが、直ぐ様重力で叩き付けられてしまう。ぶちっと何かが切れる音がして、暑いものが右の額から流れる。くそ、血ぃ出た。
 そのままもっと強い重力で地面に押さえつけられる。骨が軋む、頭いたい。指でバキッと音が響く。9代目の守護者の人が「ボンゴレリングが!」と叫んでいたのでリングが割れたのか。すんませんアイザックさん指輪割れました。
 それは沢田が古里に攻撃を仕掛けるまで続き、目を閉じる。頭痛い。気が付けば古里たちシモンファミリーは立ち去ろうとしていた。

「クロームちゃんも連れてくよ、デートする約束してるからねーん♪」

 シモンの一人が意識を失ったクロームを横抱きにしながらそう呟く。すると、雨宮さんが「じゃあ私雲雀さん連れてく!」とこちらに駆け寄ってきた。……は? 恭弥連れてく? ……ふざけてんの? 今の発言で雨宮さんが恭弥に恋情を抱いているのが確信出来た。……無理。こっちはゆらりと立ち上がって、彼女を見据える。もっとボロ布になったそれをばさりと脱ぎ去って、睨む。

「へぇ、まだ立てるの?」
『……あー……それより君のが不快や。っざいし鬱陶しい。恭弥連れてく? は? ざけとん? 調子乗っとん? なあ? なあ? なあ!? なんとか言えやそこのカスが。なあおい』
「重傷負ってる癖に? よき私にそんなことが……キャッ!」

 あくどい笑みを浮かべてこちらに近寄ってきた彼女の足首に足払いを仕掛け、倒す。そこから彼女の胸辺りを左足でダンッと踏みつける。そのまま前のめりに左肘を太ももに起き、彼女の苦しむ様を見た。

「かはっ、あっ」
『黙れやクソみてぇな雌豚、あばら貫くぞ』
「あ゙っ、ひぐっ」

 足に力を入れればミシミシと軋む彼女のあばら。目に涙を浮かべ始めた彼女に額に青筋が浮かんだ気がした。

「やっ、かふっ、」
『なんや、お涙頂戴か? ざっけんなや雌豚ぁ。許しいほしいんやったら喉笛でも腹でも斬って死んで詫びるか、この場で全裸になって泣いて土下座して謝罪せえや。泣くくらいやったら靴でも何でも舐めて許しを請えよ。それかひたすら骨を折られた後に惨めに息絶えろ、なぁ、さっさと泣き喚く様を見せぇよ、泣けよ、おい聞いとんのかほらなんとか言えやおい!』

 再び足をあげて、高いところからふりおろすと、小さくバキッと音が聞こえる、それがこちらに刺激を与えたのか、自然と口角が釣り上がる。それと同時に「桜っ!」と言う古里の焦った声。途端こちらは地面に叩き付けられた。あまりの恐怖で意識を飛ばした彼女を古里が重力で引き寄せ、こちらを睨んで去っていく。押さえつけのなくなった体を起こして周りを見渡す。
 ディーノが、やって来た。

「キレたな」
『黙れや』

 その後すぐに人が部屋に入ってくる。

「おいしっかりしろ!」
「タンカを急げ!」
「怪我人多数だ!」

 そんな中、ディーノはこちらを連れて恭弥に駆け寄った。

「恭弥! 大丈夫か!?」
「寄らないで」

 恭弥はそのまま立ち上がり、「平気だよ」と血が流れる顔を見せてそういった。続けて憎々しげに微かに歯を食い縛りながら告げる。

「プライド以外はね」

.

134:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 10:07 ID:cek


 他の守護者も次々と来賓の方に助けてもらって起こされていた。その中で沢田が「……エンマ……手も足も出なかった」と呟く。
 それは他の守護者の脳内に響き、例外でもなくこっちも歯を食い縛った。
 それより、クロームが拐われてしまった。というかこっちがキレてしまった。もう何年もキレてなかったのに、なんてことだ。
 クロームが拐われたその時、意識を失っていたらしい獄寺と笹川は「マジスか!?」「何処へ行った!」と声をあげる。
 そんな彼らを放り、こっちは恭弥向かって一直線に歩き出した。



『恭弥』
「……いおり、肩貸して」
『ほら』



 がしっと恭弥の腕を掴んで肩を貸せば割れた額からぱたぱたと血が垂れてくる。そんなものに興味がないかのように前を向いて、怒鳴り合いをしていた9代目とスクアーロを眺めた。
 それに割り込んでリボーンが告げる。



「悪いニュースはそれだけじゃねえ。
エンマによって大空の七属性では最高位を持つボンゴレの至宝、ボンゴレリングがぶっ壊された」



 9代目の守護者の抱える台には壊されたボンゴレリングが綺麗に並べられていた。ばらばらになってしまったそれを見て目を逸らす。無惨な姿に初代に土下座でもしたい気持ちだった。

 もうリングはないのか……と残骸と化したそれを眺めていれば、「まだ光は消えとらんぞ」としわがれた爺の声が辺りに響く。奥から姿を現したのは、目隠しをしたお爺さんだった。……モヒカン?
 9代目がじじ様と言っていたので相当歳を召した方だろう。リボーン曰く彼は彫金師タルボと言い、ボンゴレにつかえる最古の人らしい。何でも初代の時代からつかえているとか。彫金師とは金属を加工しアクセサリーを作る職人のことで、彼は相当な腕を持つようだ。すげー。

 彼はボンゴレリングの前にたつと耳を傾け「おーイタタ」とリングに話し掛けた。彫金師タルボ曰く、優れたリングには魂が宿り、魂があれば感じることもあるとのこと。彼はその声を聞いてリングを作るのを生業としていると告げた。
 実際リングは生まれ変わりたがっていると言っているしそうなのだろう。ボンゴレリングはまだ、死んでいない。彼が言うにガワが壊れただけのようだ。



「ボンゴレリングは次の可能性を示しておるぞ」
「次の可能性……?」
「つまりまだボンゴレリングには、修復できる見込みがあると言うことですな!!」
「そうなるのう」



 修復できる、それを聞いて心がホッとして気付く。感じていた胸のざわめきは、リングが壊れる事だったのかと。彼は言う、修復と共にVer.アップをすると。



「お前たちは獣のリングを持っているようじゃの、わしに見せてくれんか」
「ケモノ……? アニマルリングのことですか?」
「そうじゃ、見せてみい」



 こっちたちは各々のアニマルリングを彼に渡した。タルボは「こやつらの魂も必要じゃ」とVer.アップに必須だと告げる。彼は「もちろん奴のアレも必須じゃがな」と自分の羽織っていたローブを広げ、現れた材料の多さに目を向く。そして彼がその中から取り出したのは赤い液体の入った瓶。そして、とんでもない言葉を放った。



「ボンゴレI世の血、“罰”じゃ」



 何で彼がそんなものを持っているのか知らないが、リングを作り直して貰えるらしい。罪と罰、本で読んだことのある気がしたが、内容は忘れてしまった。
 彼は告げる。リングの製造に成功すればボンゴレリングは今までにない力を手に入れる。ただ、失敗すればボンゴレリングの魂を失い、もう二度と輝くことはないだろうと聞かされた。確率は五分五分。こっちたちは全員それを肯定した。恭弥も無言ではあるもののリングには愛着を持っていたから修復できるのならそれがいい。
 どうするかは沢田に委ねられた。



「Ver.アップを、お願いします!!」



.

135:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 17:09 ID:cek



 こっちらは体を休めるため、9代目に用意してもらった部屋で休息を取っていた。
 恭弥があいつらとは別の部屋がいいと沢田たちのいる部屋の隣を陣取った。それについていくように部屋へ入る。怪我は手当てしてもらった。額には包帯が巻かれている。ちなみに腕と腹の火傷も見られ、「これはひどい! もっとちゃんと包帯を巻かねば!」と巻き直された。緩んでたしいっか。それと、ボロ布はもう再起不能、家に帰ったら予備を被ろう。

 無言でソファに座って天井を眺める。恭弥も好きなところ(と言うか窓際の椅子)に腰をかけ、無表情で外を眺めていた。不意に、恭弥が口を開く。こっちの肩が揺れた気がした。



「……ねえ」
『なん』
「きみ、跳ね馬が言ってたように、キレたの、あれ」
『雨宮踏みつけた時んことか』
「そう」
『キレたな、数年ぶりに』
「……なんで」
『恭弥を連れてくとか言うたから』
「……」
『思ってるより、こっち君のこと好きやわ』



 ぼー、と天井を眺めながらそう告げれば、照れ臭そうな声で「あっそ」と短く彼の声が飛んでくる。そしてふと気づいた。



『……まだちゃんと言うとらんな』
「…そうだね」
『……恭弥、好きやで』
「…僕も、好きだよ、いおり」



 本格的に照れ臭くなって天井から恭弥とは反対方向へ顔を向けた。恭弥も恭弥で顔を背けたまま、指先で肘おきをタン、タン、とついている。そして恭弥はおもむろに口を開いた。



「僕は、もっと強くなるよ。君に守られる側は、もう飽きた。今度は守られる側じゃなくて、守る側に立ちたい」
『……ん』
「ところで、沢田たちは君たちの実力を知らないよね」
『……絶対弱い思われとるやんな』
「見返せばいいよ」
『ん』



 そこで扉が開かれ、台の上に二つの手に収まる程度の小振りな岩が乗せられ、台車で姿を見せた。これが、新しいリング?



『……失敗したん?』



 持ってきた付き人にそれを聞けば彼は首を左右に振って、これに死ぬ気の炎を込めてくださいと恭弥とはこっちに告げる。……なるほど、失敗するかしないかはこっちらの炎の大きさに懸かっとるわけか。
 付き人がリングの岩を置いていったあと、それぞれが自分のものだと思われるソレを手に持ち、炎を灯す。
 炎の大きさとは、覚悟の大きさだ。
 ……こっちの覚悟は、せやな……死なへんことやな。死んでしまうと覚悟どころか全てを失うし、やりたいこともできない。
 そんな想いで岩を片手に炎を灯せば、一面が同時に、紅(ルージュ)と紫(バイオレット)の二つの色で覆われる。恭弥のタイミングと被ったようだ。ぴしぴしと岩に亀裂が入って、次の瞬間に岩はとある体の一部位めがけて飛んだ。
 首に巻き付いたソレは、堅い金属質の細長い物体になった。
 【夕焼のチョーカー Ver.X(イクス)】である。



『……チョーカー……』



 首もとをこの部屋の鏡で覗けば首の右に丸いガラスのような宝石のようなものにボンゴレ10代目を指すXが象られたボンゴレの紋様、その回りには小さな羽が羽ばたき、小鳥が端に止まっていた。小さな鎖がちゃらりと音を鳴らす。恭弥は雲のブレスレットのようで、ハリネズミが象られていた。突き出た刺が痛そうだが、綺麗なものだ。
 名前はVG(ボンゴレギア)と言うらしい。リングではなくなったが、これが今あるべき姿と気に止めない。



「行くよ」
『なんで』
「彼らが部屋に来る前に」
『……せやな』



 沢田たちが部屋へ突入してきた直前に、こっちと恭弥は窓から外へ出た。庭を徘徊して、声が聞こえる部屋を外から盗聴する。



「シモンファミリーの討伐は、ボンゴレX世(デーチモ)とその守護者とする。ただし、リボーンも同行すること。直に船の用意だ!」



 9代目の声が窓の外まで聞こえてくる。なるほど、島か。と納得してその場を二人で離れる。草壁にヘリで送ってもらおうと恭弥を見れば、既に携帯で連絡していた。



『はやっ』



.

136:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 17:42 ID:cek



 翌日、朝起きて風くんに事情を話す。昨日は家に帰って笑顔で寄ってきた風くんはこっちの額に巻かれた包帯と着替えてある服、そして腕に抱える再起不能になったボロ布を見てとびかかって来ましたから。どう? 天才的? 暴力的? ……どっちでもエエな、うん。昨日は気絶して話せなかったことを自白した。……別になんも悪いことしとらんねんけど。

 風くんはふむふむと頷き、長考してぱっと顔をあげた。



「……今回は、私もついていきます」
『!? リボーンくん居るで!?』
「もう大丈夫です。なので今回は行きます」
『でも9代目から指示』
「私には関係ありません。あなたは最近怪我ばかりです! 一体どれだけ心配させれば済むのですか!」
『うぃっす』
「意地でも行きます」
『なら一緒にいこか』



 そんなこんなで風くんを頭にのせて家を出た。もちろんおニューのボロ布被ってます。その上で上機嫌に鎮座している風くん。可愛すぎか。玄関横の鏡を見て鼻血を噴出したのは言うまでもない。……あーあ、新しいボロ布が、早速赤く汚れた。



「なんでいるの!」



 学校の屋上にて。なんで屋上にヘリポートが出来上がってんねんとか唖然としていたら、びっとこっちの頭の上を指差しながら声をあげる恭弥。視線的に風くんのことを言っている様子。
 こっちは彼に向かって『やから言うたやろ、近い未来会うて』と告げる。風くんは風くんで恭弥を見てにこにこ。そのまま彼の頭の上にすたんと移動し居座る。身軽やなー。



「……なんでいるの」
『風くんか?』
「それ以外に何があるの」
『なんや最近怪我多いって怒られてな。今回は意地でも行く言うて』
「……今回?」
『風くんな、こっt「私はいおりさんの家に居候させて頂いていますからね、毎回毎回大切な人が怪我だらけじゃ心配でしょう?」』
「……もう知らない」



 少し疲れたような顔をした彼は風くんを頭に乗っけたままヘリに乗り込んだ。恭弥も疲れる時は疲れんねんな……なんて意外に思った瞬間である。草壁くんが微笑んでいた。……きみホンマにこっちらより一個年下なん? お父さんみたいな雰囲気ばら蒔いとるけど。



.

137:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 18:30 ID:cek




 翌日、朝起きて風くんに事情を話す。昨日は家に帰って笑顔で寄ってきた風くんはこっちの額に巻かれた包帯と着替えてある服、そして腕に抱える再起不能になったボロ布を見てとびかかって来ましたから。どう? 天才的? 暴力的? ……どっちでもエエな、うん。昨日は気絶して話せなかったことを自白した。……別になんも悪いことしとらんねんけど。

 風くんはふむふむと頷き、長考してぱっと顔をあげた。



「……今回は、私もついていきます」
『!? リボーンくん居るで!?』
「もう大丈夫です。なので今回は行きます」
『でも9代目から指示』
「私には関係ありません。あなたは最近怪我ばかりです! 一体どれだけ心配させれば済むのですか!」
『うぃっす』
「意地でも行きます」
『なら一緒にいこか』



 そんなこんなで風くんを頭にのせて家を出た。もちろんおニューのボロ布被ってます。その上で上機嫌に鎮座している風くん。可愛すぎか。玄関横の鏡を見て鼻血を噴出したのは言うまでもない。……あーあ、新しいボロ布が、早速赤く汚れた。



「なんでいるの!」



 学校の屋上にて。なんで屋上にヘリポートが出来上がってんねんとか唖然としていたら、びっとこっちの頭の上を指差しながら声をあげる恭弥。視線的に風くんのことを言っている様子。
 こっちは彼に向かって『やから言うたやろ、近い未来会うて』と告げる。風くんは風くんで恭弥を見てにこにこ。そのまま彼の頭の上にすたんと移動し居座る。身軽やなー。



「……なんでいるの」
『風くんか?』
「それ以外に何があるの」
『なんや最近怪我多いって怒られてな。今回は意地でも行く言うて』
「……今回?」
『風くんな、こっt「私はいおりさんの家に居候させて頂いていますからね、毎回毎回大切な人が怪我だらけじゃ心配でしょう?」』
「……もう知らない」



 少し疲れたような顔をした彼は風くんを頭に乗っけたままヘリに乗り込んだ。恭弥も疲れる時は疲れんねんな……なんて意外に思った瞬間である。草壁くんが微笑んでいた。……きみホンマにこっちらより一個年下なん? お父さんみたいな雰囲気ばら蒔いとるけど。



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138:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 18:30 ID:cek

同じものを2つ投稿してしまいました。気にしないでください。

139:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 22:19 ID:cek



 現在、風くんを抱えてヘリに乗ってます。運転は草壁、ほんまに君中学生なん?
 しばらくヘリに揺られれば、島が見えてきた。そこの山に沢田たちを発見する。気付いたこっちが恭弥を見れば、彼は既に草壁に指示を出していて、こちらを一度見てから扉を開ける。



「ご武運を祈ります」



 草壁のそんな言葉に「うん」『おん』と返して、風くんを抱え直す。恭弥はヘリの引っ掻けに足をカン、と音を鳴らしながら乗せ、下を若干笑顔で見下ろす。こっちはその横で片手で風くんを抱えながら恭弥と同じような態勢で驚く沢田たちを眺めた。ヒバードはこっちと恭弥を交互に見ていたので『恭弥に付いたって』と笑えば了解と言うように恭弥の横でぱたぱたと羽を羽ばたかせる。飛び降りた恭弥についていくヒバードをほほえましく見てから「風くん、リーチちゃんと抱えときや」と忠告し「はい」と返事が返ってきたのに頷き、遅れてこっちも飛び降りた。スカートの中が見えるとかそんなんいっそ関係無い。
 すたん、と地面に着地してヘリが去っていくのを背中で感じながら始まっていたアーデルハイトの言葉に耳を傾けた。後ろのリボーンがなぜ風が居るのかと言いたげな視線を送ってくれていますが。
 ……ありゃ、アーデルハイトの背中にしがみつくように立っているのは雨宮やないか。怯えたようにびくりと大袈裟に肩を揺らし、助けを求めるかのように敵である恭弥に視線を送る。どこの嫌われ系夢小説の悪女やねん。まあ案の定雨宮は恭弥に絶対零度の視線を浴びせられていましたが。



「勝負しろ雲雀恭弥」
「いい」



 アーデルハイトからの挑戦を一蹴したように思えた恭弥はその最中でも雨宮に鬱陶しいからこちらを見るなオーラを撒き散らしながら言い放つ。



「以前の屋上での戦いで君と言う獣の牙の大きさは見切った。君じゃ僕を咬み殺せない」
「何!!」



 あーあ。何を相手の神経を逆撫でするようなこと言うてんねん。呆れた顔して改めてアーデルハイトを眺める。……あの、そのですね、制服の前を開けるのは構わんのですけど、惜しげもなく胸を晒すんはやめてくれへんかな、心のカメラのシャッター音が鳴り止まんのですわ。そんなことを考えていれば腕に抱えていた風くんから呆れた視線をいただいた。なんやねん。



「まあだけど」



 そう呟いてジッとアーデルハイトを観察する恭弥。……思うんやけど恭弥って変態なん? 時々そんなオーラ発するんやけど。あれか? 恭弥も年頃なんか? やっぱし健全な(年齢的には高校生やけど)中学生やったん? まあ別にどんな恭弥でも愛でることには変わらへんねんけどな。



「僕の欲求不満のはけ口には丁度いい肉の塊だ」
「貴様……!! 未だシモンの恐ろしさをわかっていないようだな。勝負だ、ルールは互いの誇りによって決定する」



 そう告げてちゃっと大振りな刃物を構えたアーデルハイトは己の誇りを言い放つ。



「私の誇りは__【炎真率いるシモンファミリー】と、【粛清の志】!!」



 言うと思った。恭弥はそれをなんでもないようにスルーして「誇りでルールを決めるのかい? 変わってるね」と茶化す。
 途端、向かい風が勢いよく吹いて、髪の毛が舞い上がった。



「誇りなんて考えたことないけど……答えるのは難しくない。
【並盛中学の風紀】と【それを乱す者への鉄槌】」



 言うと思った。フード部分のボロ布を被ってその言葉を聞いてしみじみ実感する。だが彼はちらりとこちらを見て口角をあげて続けた。……なんでこっち見たん……。



「それと【伊達いおり】」



.

140:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 14:33 ID:cek



 その言葉に一同が固まる。唯一真っ先に動けたのは風くんで、こっちの腕の中で「何を言ってるんですか!!?」と某魔法先生主人公の様に眉間に皺を寄せ笑いながらツッコミを入れた。対する雨宮は絶句。



「雲雀は伊達にベタ惚れか」
「リボーン! なにを縁起でもないことを!」
『風くん今日ちょっとテンションおかしいな』
「あ、あの群れるのが嫌いなヒバリさんが……!」
「恐ろしいっすね……」
『沢田くんらにとっての恭弥ってなんなん』



 釈然としない様子でこっちは前に向き直り、「やはりな……ならばルールは簡単だ」と告げるアーデルハイトに何がやはりやねんと内心ツッコミを入れた。
 どうやら腕章没収戦をするらしく、文字通りお互いの腕章を先に奪った方が勝ちだ。アーデルハイトは付いてこいと崖から飛び降りスタンと着地する。どうやらそこが決戦の場らしい。
 恭弥は崖の方に近づいていき、その道中何やら顔が憔悴した沢田に声を掛ける。



「小動物、今の君の顔、つまらないな。
見てて、僕の戦い」



 沢田が「それって」と聞く前に恭弥はタン、と壁から飛び降りた。そこからロールを呼び出し、球針態でタンタンタンと足場を作り着地し、そして初めてVGを装着した。



「ロール、形態変化(カンビオ・フォルマ)」



 辺り一面が光輝き、恭弥の姿はいつもの学ランから改造長ランへと変化していた。背中には風紀と縫い付けてあり、やはり彼には風紀に対する並々ならぬ気迫があると改めて実感できる。いや、ヒバードの毛もリーゼンになるとは思わんかったわ、流石に。
 恭弥がVGを装着したあと、アーデルハイトが自ら滝に飛び込み、外部からの攻撃を一切遮断する氷の城、ダイヤモンドキャッスルを発動させヒッキーさせる。
 そこからでは腕章が取れないと思ったが、彼女は水を氷として操り、自分と同等の実力を持つ氷の人形を五百体出現させた。……五百体てしゃれになっとらんがな。名をブリザードロイドと言うらしい。厨二か。
 恭弥は襲いかかってきたブリザードロイドの攻撃をトンファーでいなし、そのあとVGによって頑丈になったトンファーの後ろから鋭利な鎖をじゃらりと垂らし、五体ほどを綺麗な切り口で切り刻む。鎖をトンファーに納めた恭弥はその綺麗な顔に凶悪な笑みを浮かべ、もう七体倒した。



「ブリザードロイドはあと493体、たとえ貴様と言えど体力と兵器が底をつく。私に辿り着くことなど絶対に不可能だ」



 こっちも恭弥も不可能? とぴくりと眉を寄せる。アーデルハイトはアホなんやろか。彼女は相手にしてしまった者の大きさを分かっていない。



「君は相手にしてしまった者の大きさをまだ気付いていないね。
僕の腕章を賭けてしまったことに、もっと覚悟を持った方がいい」



 恭弥の言葉にアーデルハイトが氷の中からなに? と眉を寄せた。



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141:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 15:06 ID:cek



「風紀の二文字は何があっても譲らないよ。
……でも、誇りだから譲らないんじゃない。“譲れないから、誇り”なのさ」



 恭弥のその言葉はアーデルハイトに、ではなくて、沢田に告げられたように思える。実際、沢田の顔色が少し変わった。恭弥はトンファーを構えてアーデルハイトに言葉を投げる。



「待ってなよ、すぐに咬み殺してあげる」



 その言葉にアーデルハイトが「出来るものならやってみろ!」と怒鳴り、いっせいにブリザードロイドが恭弥に飛びかかった。三体の攻撃を右のトンファーで受け止め、ヒバードをこちらに寄越してからトンファーで凪ぎ払った。ぽすんとこちらのぼろ布の上に座ったヒバード。
 恭弥は再びトンファーから伸びるチェーンでブリザードロイドを切り裂き、靴のそこから出てきた鋭利な針で一体の顔面に蹴りを入れて突き刺す。そのまま体を回転させ、顔を砕いてから他のブリザードロイドと衝突させる。その際空中に躍り出た彼はロールに球針態で一方向に針を伸ばさせて10体ほど一気に倒す。球針態をそのまま元のサイズに戻した恭弥は小さくなった球針態をプクプクと増殖させ、トンファーで撃ち込む。宙から放ったそれは外れることなく多くのブリザードロイドへ命中した。そのままダンッと着地する恭弥にアーデルハイトは目を見開いて息を飲み、雨宮はぽかんと口を開け、沢田は唖然、獄寺は「つ、強ぇ」と呟きリボーンくんが「加減しなくていい分伸び伸び戦っているようにすら見えるな」と観察する。
 その横で驚いて目を真ん丸にする風くんを抱きながら、こっちは布の奥から微かに口角をあげて恭弥を見つめていた。その最中でもブリザードロイドの数は減っていく。恭弥容赦なし。
 恐れを知らず背後からとびかかってくるブリザードロイドたちに手錠を投げ付け各部位を引きちぎった。



「ちっ、ひるむな!」
「ひーふーみー……ふあ〜ぁ、そろそろ頃合いかな」



 大きなあくびをかました恭弥は再びトンファーからチェーンを伸ばし、近くの三体を刻む。そこから雲の炎の増殖でチェーンを伸ばしていき、恭弥は周りの敵を自身が回転しながら倒していき、そして__



「……!」
「嘘ぉ……」
「ぜ」
「全滅!!」



 恭弥はそのあとダイアモンドキャッスルに攻撃を仕掛け始めた。だが、アーデルハイトも黙ってはいない。再びブリザードロイドを出現させた。



「いいよ別に。戦力にカウントしてないから」
「……なぜだ? 何故貴様ほどの男が、沢田綱吉などにつく」
「ついてなんかいないさ。もしもついていると言うのならば、一番の理由はいおりがいるからだろうね。
君こそもう一匹の小動物につく意味あるの?」
「……炎真は軟弱な小動物などではない、シモンの悲しみを背負う強い男だ」
「いいや小動物さ。背負うなんて不釣り合いなことしてるから悲鳴をあげている」
「!」
「くっ、確かに炎真は戦いを好みはしない! 炎真にとって仲間を失うことは何よりも辛いことだ!」



 アーデルハイトの言い分を聞くと、要するに炎真の為に戦ってると言いたいのか、彼女は、彼女たちは。ただ、それは古里炎真に責任を押し付けとる言うことを気付けたらエエのに。



「君はひとつ勘違いをしているよ」



 そんな彼女に恭弥は不敵に笑って見せた。



.

142:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 15:40 ID:cek



「小動物は時として弱いばかりの生き物ではない。でなくちゃ地球上の小動物はとっくに絶滅してるよ」



 そう告げて恭弥は球針態をトンファーでダイヤモンドキャッスル向けて撃ち込み、言葉を続ける。



「小動物には小動物の生き延び方があるのさ」



 その場の全員がはっとして動きを止めた。……そろそろこっちの出番やろか。風くんに目配せして腕から頭の上に移動してもらう。屈伸して伸びをして、ぱんっとボロ布を伸ばした。布の端は所々ほつれ、まんま切国のそれだ。
 何が言いたいと言葉を投げるアーデルハイトに恭弥は「たとえば」と手のひらに乗るロールを見せた。



「君の氷の城を破壊するのは僕のトンファーではなく、この小動物のロールなのさ」
「なに?」



 ……やから球針態ぶちこんどってんな。納得。ホンマに、恭弥は頭がよお回るわ。



「君の自慢のこの城は、外からのどんな炎攻撃でも弾くようだけど、内側からの攻撃に耐えられるのかな」



 そうしてぴしぴしとダイヤモンドキャッスルにひびが走る。氷の城のなかで球針態が大きくなっているのだ。ぼんっとなかで大きくなった球針態はダイヤモンドキャッスルを砕いてアーデルハイトを外に出させる。地に足をつけたアーデルハイトの頭に恭弥はトンファーを構え、「終わりだよ」と死刑宣告を告げた。


「だが炎真は必ずやシモンを復興させる。ボンゴレについたことを後悔することになるだろう」
「僕はどちらにもついていない。僕のやりたいようにやるだけだ」
「……まさに何者にもとらわれることのない浮き雲だな。結局ボンゴレ大空の雲の守護者というわけか…」
「その言われ方嫌いだな……」



 そう会話をした恭弥は「まあ…確かに」とヒバードが羽ばたく空を見上げた。



「空があると、雲は自由に浮いていられるけどね。
……でもいずれ、大空でさえ、咬み殺す」



 そう言葉を放った恭弥は、アーデルハイトの【粛清】とかかれた腕章を引きちぎって「とったよ」と呟き「いらない」とぽいと捨てた。かわいそうやろ、やめたりや。
 そこで、雨宮が「次は私ね!」とこっちを睨んだ。だが、獄寺が「まだヴィンディチェが来てねえ!」と反論する。だが。



「ヴィンディチェにはもう言ってあるわ、私とアーデルハイトはペアバトルなのよ」
『……意地かよ』
「来なさい伊達いおり、案内してあげる」



 そう言ってひゅっと観戦していた岩場から飛び降り、恭弥たちが戦っていたところから走って遠ざかり始めた。こっちもしぶしぶと言ったように崖から飛び降りようとした……でもその前に。



『……沢田』
「え、伊達先輩……?」
『見てろ』



 布の奥からそれだけ告げてぱっと後ろ向きに、背中から飛び降りた。ばさばさとボロ布がはためく。奥で風くんが「ぶちかましてきてください」と口パクで言っているような気がした。
 くるんと回転し、すたんと着地。そして雨宮のあとを追いかけた。辿りついたのは、海岸だった。不思議なことに地面が砂浜ではなく岩場で多少不安定。……ここか。



「ここよ」
『……』
「よくも私にあんな真似してくれたわね」
『黙れ』



 布の奥からギラついた視線を送れば少し震えた雨宮。だが、それも一瞬、「黙る筋合いは無いわ」と双剣を手にした。



「言っておくけど、私はアーデルハイトより強いの」
『うざいなこのキチガイ。とっとと誇り言えや、始まらんやろ』
「キチガイじゃないわよっ。……答えてあげる、私の誇りは【シモンファミリー】と、この【双剣】と、【この世界にいること】よ!」
『……』



 絶句してドン引きした目で一歩下がる。雨宮は「なんでドン引きなのよ!」とわめいた。るさいわボケ。ざざんと波が彼女とこっちの足を濡らす。



『いや、【この世界にいること】て……トリップでもしてきたんかい、アホらし』
「っ! どうせあなたもトリップでしょ!」
『いやトリップってなんやねん。どこの夢小説やっちゅー話やねん』
「……(この子、本当にトリップしてないの? ならなんで夕焼の守護者なんて原作になかった指輪を持って雲雀さんの彼女なんかしてんの!? 本来私が雲雀さんの彼女になるはずだったのに!)」



 訳もわからずこっちをぎりぎりと睨んでくる彼女に溜め息を吐いてにや、と不敵に笑って見せた。



.

143:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 23:52 ID:cek


『……こっちの誇り、言うてへんな』
「そうね、さっさと言いなさいよ。早くしたいんでしょ?」
『……こっちの誇りは【絵の才能に恵まれたこと】と【雲雀恭弥の隣におること】や』



 棍棒をびゅびゅんと手で回し、カンッと岩場に立てる。彼女はこっちの誇りを聞いたとき、いや、正確には恭弥の名前が出たときに目を吊り上げた。まあ吊り上げるだけで何もしてきて無いんやけど。



「伊達も雲雀にべた惚れか」
「当たり前でしょ、なんだと思ってたの赤ん坊」
「(他人のことでこんな自信満々なヒバリさん見たことないや……)」
「初耳ですよ雲雀恭弥! 私は認めませんからね!」
「風、お前どうしたんだ? さっきから伊達の親父みてえだぞ。それと、後でなんで伊達と来たのか、知り合いだったのか聞くからな」
「構いません、その代わりさっきの私がいおりさんの親父等と言う発言を取り消しなさい。まったく、何を言い出すのやら」
「……伊達のやつ、絵の才能に恵まれたとか言ってたけど……どうなんスかねぇ、10代目」
「いおりは絵が上手いよ、応接室に飾ってある校舎の絵、アレ、いおりが描いたやつだからね」
「えっ!? あの額縁に飾ってあるやつですか!? しゃ、写真じゃなかったんだ……」
「……マジかよ」
「確かにいおりさんびっくりするぐらい絵がお上手ですよね」
「(さっきから風のやつ、伊達のことになると喋り出すな……一体どうしちまったんだ?)」
『おまえらうるさいわ、黙れ』



 喧しい、むしろ女は三人も集まって無いのになぜか姦しい外野を一喝し、睨み付けてくる雨宮を蔑んだ目で流す。嘲りを込めて彼女を見据えれば「なによその目!」とキレられた。ヒステリックは嫌いやねんけど。うるさいし。



「ルールはさっきみたいな没収戦じゃない。ただのガチンコバトルよ。相手に降参と言わせるか、戦闘不能にした方が勝ち。どう? 分かりやすいでしょ?」
『小学生の考えそうな対決やな』
「いちいちうるさいのよあんたは!!」
『お前もな。ほら、誇りを懸けて戦うんやろ』
「……私は、絶対負けないわ、炎真の為にも、シモンの為にも__」



 彼女はそのあと、小声でこちらに聞こえる様にだけ呟いた。「あんたから雲雀さんを取る為にも」と。
 その瞬間、戦いは開始され、彼女は「私はVGを発動させる余裕なんてあげないわよ!」と双剣を両手にこちらへやって来た。ぞっと背筋に悪寒が走って咄嗟に「形態変化(カンビオ・フォルマ)!」と叫んだ。小鳥の名前はまだ決めてない。



「でぇりゃ!」
『いっ! がっ、は……』



 それと同時に彼女は双剣の柄の尾でこちらの喉を潰した。間に合った。あと一秒ほど叫ぶのが遅かったらVGを発動させられなかった。背後から彼女にたいしての殺気を感じるもこっちに向けられている訳じゃないので雨宮ご愁傷様とか思いながら彼女の腹を蹴り飛ばした。みしりと嫌な音が聞こえた気がする。



「かふっ、」



 そのまま雨宮は蹴りの威力により吹っ飛び、背後の海にばしゃんと膝をついた。



.

144:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 00:59 ID:cek

こっちのVGは発動していた。さっきまで並中の制服を来ていたのにネギ○!の主人公が後半着ていた様なノースリーブの物を着ていた。下は短パンにニーソ。二の腕まである黒い手袋。ズボン以外まんまやん、でも背中にボンゴレの紋章入っとるんやろな。変わらずボロ布は頭から被っとるけど。
腰にはベルトポーチが巻かれた軽装。ポーチの中を見れば一本のペン。そしてそこからぶら下がるのは邪魔にならない程度の申し訳サイズなスケッチブック。このVGはあれか、ネ○ま!リスペクトなんか?スケッチブックとペンの使い方が分かってしまった。

「私のリングの属性は【大海】、海は私にぴったりなのよ!」

そう叫びながら彼女は双剣に海のような深い青色の炎を……実際海も混じっているのだろうそれを纏わせてこちらを一閃した。こっちはそれを飛び上がりつつ避けて、スケッチブックとペンを手にする。

「なっ! あいつ!?」
「…VGの機能か」


驚く声が聞こえた。そんなの関係なしにばりばりとペンを滑らせ、次の瞬間には出来上がった絵。考えが正しければ。予想通りその紙はぼんと白い煙をあげ手に収まる。
こっちが書いたもの、それは未来に行ったときに振るった斧。そのあとにまだ必要だと思うものをストックページにさらさらと絵を書いていく。こっちのVGの能力はこのスケッチブックに書いた絵は実体化すると言うものだ。もちろん幻覚ではなく本物。

『っ!』

こっちはそのまま彼女めがけて斧を振り下ろした。寸での所で避けた彼女は海を転がる。獲物を失った斧は海を縦に裂き、地面の岩場を削った。そのまま斧を引き抜き近くの彼女めがけて横一閃に薙ぎ払う。それもしゃがんで回避した彼女に舌打ちして連撃を浴びせていった。彼女も実力はそこそこあるようで、逆手に持った双剣でガンギンと必死にガードしていく。これやったらスケブのページを開き、持ち手の長いハンマーを出して叩き付けた。

「嘘っ!」

彼女は双剣でハンマーを受け止める、だがそれがダメだった様だ。左手に持つ双剣にひびが入ってしまったらしい。こっちはそのまま双剣を足場に宙を翻りダンと岩場に足をついた。

「予想外だ、彼女があそこまで出来るなんて…」

アーデルハイトがこちらの背中を見ながらそう呟いたのが分かる。リボーンも「正直俺もここまでやるとは思ってなかったぞ」と口にした。

「俺たちはまだなんだかんだで伊達の実力を知らなかったのか」
「甘いですねリボーン。彼女はまだ本気を出していませんよ」

その風くんの言葉で雨宮は顔をしかめた。まるでまだ本気じゃないの?悔しい!って感じの顔がイラつく。苛々する。
後ろを呆れたように睨んで雨宮に再び向き直り、斧とハンマーのふたつを構えながら『まだやろ』とでも言いたげな顔をして挑発した。気ぃつけなあかん。やって彼女はまだリングの能力を使っとらんから。
彼女を鼻で笑ってから攻撃を仕掛ける。夕焼の炎の特徴。それは、軽化……だけではない。正式には『重軽』、10年後のこっちめ、面白がって軽化としか教えとらんかったなアホめ。彼女にハンマーを振り下ろしてから重さを100倍にする。これが当たればひとたまりもないだろう。
命の危険を察したのか彼女は左のひびの入った方でそれをいなした。行き場を失ったハンマーはそのまま海へどぼん。しかし、それだけでは収まらなかった。どっぽぉんと半径100メートルほどミルククラウン状に海は裂けて、したの剥き出しになった岩場はとんでもない轟音を轟かせながら円形に砕かれる。ぽっかりと空いた穴がさっきのハンマーの威力をこっちらに思い知らさせた。

「夕焼の守護者はファミリーの絶対的切り札となる…それどころの話じゃねーな」

外野のそんな声を聞きながらハンマーに炎を纏わせて軽化して担ぐ。下敷きになっていたのは、可哀想なことに粉々な雨宮の双剣であった。

「大海の炎の特徴は吸収よ…? 言わばクッションみたいな役割を果たせる。なのに、粉々なんて!」

こっちは顔面蒼白な雨宮を無言で嘲笑い、ハンマーと斧を消した。…意外に脳内で消えろとか思たら消えたから驚きや。

145:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 14:35 ID:cek




「なんで武器を消したの? ハンデのつもり?」



 雨宮が短く息を切らしながらこちらを睨む。見る人によっては確かにハンデの様に見えるのだろう。こっちの本当の戦闘スタイルを見てない人からしたら。基本的にこっちは素手か棍棒を扱う。これはまだまだ序の口なのだ。



『……』



 不機嫌そうな顔で背中の竹刀袋から棍棒を取り出した。こっちはスケッチブックにしゃかしゃかと文字を書き、立体化させる。

<アホか。準備運動済んだから本気でいくねん>

 ひゅひゅんと振り回せばやはりこれが一番しっくり来る。



「……準備運動だと?」
「そうです、彼女の本領は__」



 遠くでそんな会話をしているとも気付かずこっちは不機嫌を露にした無表情で棍棒を振り下ろした。きんっと双剣で重みの掛かった棍棒を受け止め、こっちはそれを支えに回し蹴りを一発彼女の腹にぶちこんだ。吹き飛ぶ彼女に追い打ちを掛けるようにして、逃がすわけもなく吹っ飛ぶ方向とは逆に勢いをつけるようにもう一度蹴りを入れる。
 かはっと胃の中のものを吐き出した彼女は更に浅瀬ではない、奥の方の海にばしゃんと転がった。ざざぁと波をうつ海は靴の中を水浸しにして、ボロ布の端を色濃く染める。
 勝敗は戦闘不能にするか相手に降参と言わせること。彼女はどうやらこっちの喉を潰したあと、参ったと言わせるつもりもなくなぶる気だったのだろう。いいだろう、そうしてやる。
 彼女の髪を引っ付かんで喉を思いきり拳で突いた。恐らくこれで喉は潰れてくれただろう。参ったとは言わせない。
 座り込んでげほげほと咳き込む彼女を冷えた目で見下ろし、ハッと嘲笑する。ざまあみろ。表面では睨みつけられているものの怯えたような色がその瞳の奥に伺えた。彼女はムキになって海の水を自在に操り、手の形を作って襲ってくる。そんな大振り、誰が喰らうと……ん?
 足が動かない。足元をよく見れば手の形をした海がまとわりついていて、回避の態勢が取れないようになっていた。せやった、ここ海やん。まあ出遅れである。
 こっちがそれに気づいて舌打ちしたときには海の手のなかにいて、がぼっと口から空気が漏れた。
 鼻に水が入って痛い、塩水が目に染みる、息が出来ない。
 ぶんっとそのまま投げられて背面の崖にぶつかった。



『かはっ……』



 ようやく肺に酸素を送り込めると大きく息を吸って吐く。……ちょっといおりさん、ぶちギレそうやわ。
 かひゅ、と息をしている雨宮はこちらを見て、こっちの炎で潰れた喉を軽化する。そもそも、最初の喉潰しの攻撃は軽化で軽くしていたので大ダメージではない。試しに声をあ、あ、と出してみると掠れはしているものの、ちゃんと出る。
 こっちは早速ダメになってしまったボロ布を脱ぎ去った。



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146:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 15:22 ID:cek



「__格闘技ですから」



 遠くで風くんが先程の言葉を続けた気がする。こっちは素早く彼女の元へ走り、足払いを仕掛ける。そして重力を失った彼女の右腕と右足をひっつかみ、ぐるんと回転させた。「っ!!!」と宙でぎゅんぎゅんきれいな円を描いて回転する彼女の鳩尾に『っぇやぁ!!』正拳突きをして吹き飛ばす。わーめっちゃ飛んだー。
 ざばば、と水切りの様に跳ねる彼女へ、聞いているかどうか分からないが言葉を投げ付けてやった。



『げほっ……譲りたくないものがあるんやったら、それが誇りやアホ。【この世界におること】とか当たり前すぎることバカみたいにかっこつけて言いよってからに……。そんなしょーもないもんとこっちの誇りを賭けろ言うんやったら加減せんからな。侮辱でもしてみぃ、悲鳴を上げてもどつき回すぞ』



 彼女のところまで言って腕組みしてそう告げた。彼女はとうとう怯えきった目をして両手をあげる。……何がしたいねん。



「こ、降参した!」
「伊達の勝ちっすね!」



 騒ぐ外野、それを聞いて命の安全を確保した雨宮。……はっ、何が。



『アホ、まだ終わっとらんわ』
「……え?」



 こっちは凶悪な笑みを浮かべて後ろを振り返る。沢田が顔を青くさせていたが、これはまだ勝敗が決していない。



『やって勝敗……【戦闘不能にする】か……【相手に降参と“言わせる”】か、やろ? 降参の身振りだけしても言うてへんから、まだや』



 沢田に向かってそう告げれば、リボーンは「アイツは俺以上の鬼だな」とにやりと笑う。すっかり怯えきって身を震わせる彼女の前にしゃがみこみ、『よおあんな偉そうな口聞いてくれたな』と嘲笑った。
 スケブにしゃかしゃかと手錠を掻いて実体化させて彼女の両手にかしゃんと掛ける。そのまま腕を持ち上げて岩場まで引き摺って行った。



「き、貴様! 桜になにをする気だ!」
『黙れカス』



 怒鳴ってきたアーデルハイトに冷酷になっているであろう視線をぶつけてスケブにさらさらととある絵を描く。フェアリー○イルの楽園の塔編でジェ○ールが懲罰房へ入れられたときに吊るされていたあの拘束台。それを実体化させて彼女の手錠に吊るす部分を取り付けた。攻撃されたらたまったもんじゃないからシモンリングと片方になってしまった双剣を預かっておく。
 一旦いろいろ書かねば、と手頃な椅子を実体化させてぼすんと腰をおろしてバリバリ、とリズムよく描いていく。描けたものは次々と実体化させて並べていく。鉄の処女(アイアンメイデン)、電気椅子、三角木馬、ファラリスの雄牛、昔の時代劇とかでよく見るギザギザの石の上に正座して太ももにレンガをのせる拷問具。あとは電○教師の柊有栖が持っていたような、ディーノのものとは違う鞭。
 きっとこっちの顔は凶悪かつ満足げだろう。ぱしーんぱしーんと鞭を手で弾いて彼女に微笑む。



『……ほら、どうにか言うてみ、害虫』
「っ!!!……かふっ、げほっ……」
『必死に声を出して喋ろうとする様が無様やな。どれからやってほしい? あ、アイアンメイデンは気にせんでも最後やから。電気椅子の電気もクソ強い静電気がずっと流れる感じやから死にはせんで』
「伊達さんなんかスイッチ入っちゃったー!」



 笑みを携えて椅子で足組んで彼女を見れば、彼女の背後の崖の上から沢田の突っ込む声が聞こえる。いやスイッチなんか入っとらんで。



『キレとるだけや』
「尚怖い!!!」
『……って、あ。……気ぃ失のうとる。……人って恐怖がキャパ振り切ると気絶するってホンマやねんな』
「気絶させちゃったよ!!!!」
『沢田うっさい』



.

147:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 21:42 ID:cek



「勝敗は決した」



 そんな不気味な声が辺りに響いた。姿を表したのはシルクハットに包帯ぐるぐる巻きの黒いローブの男たち。恐らくあれが話に聞くヴィンディチェなのだろう。ヴィンディチェは一戦ごとに過去の記憶を見せるようだ。
 彼らはインクの瓶を手に、過去の記憶へとシモンとボンゴレの守護者を誘った。



**



「南イタリアの戦局の方は……あれからどうなっている?」



 イギリスの豪華な城の広間で、ボンゴレI世を中心にI世ファミリーが深刻な顔で会議をしていた。
 Gと呼ばれる獄寺に似た、I世の右腕かつ初代嵐の守護者が「敵の大部分が集結している……厄介な長期戦になりそうだぜ」と意見を発した。それに山本にそっくりの雨の守護者、浅利雨月が「しかしこれ以上ここに戦力を割くことはできまい」と苦々しい顔で反論した。六道そっくりの霧の守護者D・スペードが「他に三つの抗争をしているのですからね」とI世の横でそう呟いた。
 不意に、恭弥にそっくりだが口を開かない初代雲の守護者、アラウディの隣に居た頭からボロ布を被った女がI世に意見する。



「……こっちが出る」
「アイザック!?」



 がたんと椅子から立ち上がった、沢田の面影のある落ち着いたイケメン、I世__ジョットが驚いたように目を見開いた。隣のアラウディが腕を組んだままアイザックと呼ばれるボロ布を被った女を凝視する。初代夕焼の守護者であるアイザックはジョットに了承を得ようとするが、ジョット、アラウディ共に止められた。



「アイザックは仮にも女だ、最前線にだすわけにはいかない」
「……元軍のトップを女扱いをするな。舐めているのか、ジョット」
「舐めてない!」
「僕も反対だよ」
「……なんでだ」
「アイザックには目に見えるとこに居てもらわないと困るし調子出ないし監禁したい」
「」
「」
「ジョットもアイザックも息して。……怪我したらと僕泣くからね、部屋から出さないからね」
「……お前の泣き顔か、それもアリだな……。よしジョット、こっち前線行って大怪我してくる。待ってろアラウディ帰ってきたら声も出ないくらい抱き潰してやる、腰を痛める覚悟をしてろ」
「……今も、腰は痛いよ」
「下品だぞお前たち。頼むぞやめてくれ。アイザック、お前は大事な戦力なんだ今前線に出るのはやめてくれ、困る。頼むホントやめて」



 どうやら初代夕焼の守護者と雲の守護者は今のこっちと恭弥の関係より深いようだ。やっぱり受けと攻め逆じゃねなんて思いながらI世(プリーモ)さん苦労してんだなとかしみじみ思う。ちょっとアラウディさんがヤンデレちっくですが恭弥くんはそんなことにはならないと断言できる。多分。
 そこで敵の大部分に、孤立しているファミリーがいると言う。シモンファミリーである。驚いて助けにいこうとしたI世を引き留めて代わりに自分が行くと告げたD・スペードは口に不気味な笑みを携えその部屋をあとにした。結果的に、I世はシモン・コザァートを見捨ててなど居なかったのである。



「……I世は、シモン・コザァートを見捨ててなんか、なかったんだ……」



 過去を見終わった沢田が、ぽつりと呟いた。



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148:ぜんざい◆A.:2017/01/07(土) 19:09 ID:cek


 がしゃんと鈴木アーデルハイトと雨宮桜の首にヴィンディチェの首輪がはめられた。
 そこから流れで何者かがコザァートを罠にハメたことになるとリボーンが予測した。とたん、何かの気配を感じ、こっちは呆れたように溜め息をつき、恭弥が「そこにいる君は……誰だい?」と背後に向かってビュッ、と手錠を投げる。運良くその手前の枝に手錠がかかり、投げられた本人は「おっと、あぶねー!」とおちゃらけた声をあげた。
 姿を表したのはシモンファミリーの一人、加藤ジュリーだった。なぜか拐ったクロームをくっつけて。クロームの目は生気がなく、何かの術を掛けられたように見受けられた。
 アーデルハイトがジュリーを見て「炎真のことは……頼めるわね」と呟く。それに「あぁ、まかせとけ。お前はよくやったさアーデル」とジュリーが労りの言葉を投げた。それに「ジュリー……」と微かに涙ぐみ、恋情を込めた瞳でアーデルは名を呼ぶ。だが、そんな空気はジュリーの一言でぶち壊された。



「ぬふふっ、これでオレちんもきれいさっぱり、シモンに見切りをつけられる」



 加藤ジュリーのそんな言葉に沢田と獄寺は「!?」と驚愕し、獄寺の肩に乗っていたリボーンはジッとジュリーを見据える。こっちは地面にほったらかしにしていた風くんを抱えて「……!? ジュリー!?」と驚きを隠さず目に涙を溜めて見開くアーデルハイトを見た。気絶している雨宮など知らん。
 加藤ジュリーの正体……いや、加藤ジュリーで合っているのだろうけどその体を乗っ取っていたのは、初代霧の守護者、D・スペード。彼はもう数百年昔の人だ、なんでそんな人が現代に存在するのか謎だがシモン・コザァートを罠にハメたのは信じたくないが彼だった。ボンゴレの為だとかほざいていたが知らん。
 怒りに震えて「おのれ!」とD・スペードのもとへ動こうとしたアーデルハイトはヴィンディチェの鎖を全身に巻かれて身動きが出来なくなってしまった。D・スペードは「御苦労でした、アーデルハイト」と彼女に嘲笑をかました。途端、アーデルハイトは「ジュリーを! ジュリーをどこへやった!!」と激昴してしまう。彼女も恋する女の子だったようだ。
 途端、D・スペードの背後から「許さねえ!」と聞き覚えのない声が響き、D・スペードの背後から、シモンファミリーの一員である山本をやった犯人とも言う水野薫が鳩尾を貫いた。
 とか思ったら今度は水野薫がD・スペードの槍に貫かれて倒れる。なんなんこの刺したり刺されたりな状況。そしてそれを見た恭弥がD・スペードへつっかかる始末。途中で山本武が乱入してきて過去を再び見た。I世はD・スペードの企みに気付いており、シモン・コザァートは殺されていなかったことがわかった。まあそこからVGを解いて芝生のある辺りで座り、ひたすら風くんを愛でt……撫でていた。風くん髪さらっさらやわ。恭弥とやっぱ似とる。リーチもかわええよな。そうして一人と二匹を愛ていたら、ぱたぱたとヒバードがこちらに飛んできて撫でていた風くんの頭に遮るようにぽすんと乗った。お前もかわええなヒバード。
 気が付けばアーデルハイトたちと沢田は和解していた。沢田が古里炎真を救うと言う話になっていたようで、アーデルハイト、雨宮、水野はヴィンディチェに連れていかれた。なんまんだぶ。なんまんだぶ。
 そしてことが済んでこっち来た恭弥は横で寝転がって寝た。ヒバードが恭弥の腹の上に乗って同じように睡眠を取り出す。なにこのかわええ集団、なにこのかわええ集団。大事なことだから二回言いました。風くんを寝た恭弥の腕にもたれるようにおいて、予め持ってきていA4サイズのスケッチブックにバリバリしゃかしゃかとえんぴつを滑らす。



「どいつもヘコたれてるから一度しっかり休んだ方が良さそうだな、すでに寝てる奴もいるけどな」
「あっ!!!」
「ヒバリさん……いつから!? っていうか! 伊達さん!?」
『あっ……』
「伊達先輩なのなー」
「すげえ勢いで模写してやがる……」
『いや、ちょっと……鼻血出そうで気ぃまぎらわそうと……』
「「「鼻血!?」」」



.

149:ぜんざい◆A.:2017/01/07(土) 20:05 ID:cek

台本書きすいません…。
番外編【ハルのハルハルインタビュー】

 今日、リボーンに呼び出しを受けた風は沢田宅へとやって来ていた。

ハル「第二十八回、今回はリボーンちゃんのお友達の赤ちゃん、風ちゃんが来てくれました!」
風「こんにちは」ペコリ
ハ「こんにちは! おめめがクリクリでキュートです! 今回はイーピンちゃんにバレないようにお忍びで来ているということですが」
風「はい、今回、リボーンが家庭教師をすると聞き、それにともないイーピンの様子を見るため日本に来たのですが、イーピンには一人で修行をするよう言っているので師匠の私としては会うわけにはいかないのです」
ハ「はひ〜、赤ちゃんなのに礼儀正しくて敬語が上手ですー!」
ツナ「礼儀正しい所はイーピンそっくりだよ! でもまさかイーピンの師匠がアルコバレーノだとは……。リボーンやコロネロみたいに普通の赤ん坊じゃないってことだよな…」
リボーン「風は最強の拳法家だぞ。でっかい大会で何度も優勝してるんだ。素手での戦闘ならアルコバレーノでもトップだぞ」
ツ「やっぱただ者じゃない〜!」
風「リボーン、まだあなたと真剣に手合わせしたことがないから分かりませんね」
リ「まーな」ニッ
ツ「なんか全然赤ん坊同士の会話じゃないし! ブゥーとかバブーとかだろ? 普通!?」
ハ「確かに内容は難解でよくわかりませんでしたが…仲が良いのはわかりました!」
風「そう言われればリボーンとは不思議と、出会った最初の頃から争い事は有りませんね」
リ「別に争う理由がねーからな。ちなみに、どれくらい風の拳が超人的かツナの消ゴムで見せてやるぞ、ここに軽く撃ってこい風」
ツ「え? 俺の消しゴム?」
風「……しかし」
リ「いいから打て」
風「……では、軽く」
シュッ!! トンッ!!!
ツ「!! んなー! 消しゴムにくっきり小さな拳の跡がー!」
リボ「拳圧だけでこんなことができちまうんだぞ」
ハ「キャー! ちっちゃいお手々のマークがキュートです! この消しゴム欲しいです!」
ツ「そ……そういうもんか?」
リ「ところでハル、風に質問はねーのか?」
ハ「はひ! あります! 風ちゃんのお顔はヒバリさんによく似ていますが兄弟でしょうか?」
ツ「きょっ、兄弟!?」
風「フフッ、兄弟ではありませんよ」
ツ「でも確かに、よく似てる! ヒバリさんの小さい時ってこんなかも……」
風「……心当たりが無いわけではないのですが、彼が嫌がります、次の質問に行きましょう」
ツ「ん……?」
ハ「はひ……?」
リ「じゃあ俺から質問だ、風と伊達はいつから知り合いになったんだ?」
風「ああそのことですか。一年ほど前に私は既に日本に来ていたのですが、泊まる宿が見つからず手頃な所はないかと質問をした方が偶然いおりさんだったのです」
ツ「知り合ったのって偶然だったんだ……」
ハ「あの布を被ったかっこいい女性ですね!」
風「でしょう? かっこいいでしょう? そうでしょうそうでしょう」
リ「お前伊達が絡むと可笑しくなるな」
風「失礼ですよリボーン。そのままいおりさんに家に住んでも構わないと言われたので、現在はいおりさんの家に居候で二人で暮らしてます」
ハル「いおりさん、親はどうしたんでしょうか?」
風「世界一周旅行だと仰っていましたよ」

 すると下の道路から『待て待て待て誤解や誤解』と言う悲痛な叫び声がツナの部屋に聞こえてきた。何かがぶつかり合う音が辺りに響く。沢田たちが窓から身を乗り出せばそこには素手の白い物体とトンファーを持った雲雀。白い物体とは伊達である。

ツ「伊達さん!?」
いおり『あ、沢田やん。恭弥ちょお待って』
雲雀「やだ」ヒュカッ
い『聞き分け悪いで』
雲「……ちっ」
つ「(ヒバリさんが大人しくなったー!)」



 そうしてハルのハルハルインタビューに雲雀、伊達乱入。



.

150:ぜんざい◆A.:2017/01/07(土) 20:47 ID:cek

い『はー、インタビューな』
雲「僕も一回やったね」
ハ「と言うわけで風ちゃんとまとめて一緒にやっちゃいましょう!」
リ「そうだな」
ツ「大人数になったな」
ハ「伊達さんのプロフィールを教えてください!」
い『誕生日4/12、星座おひつじ座、血液型A型、身長175cm、体重56kgや』
ツ「体重まで言っちゃったよ!」
リ「こう聞くとお前身長たけぇな」
い『兄貴んとこの血ぃ引いとんちゃう? 身長だけ』
ハ「兄貴……?」
い『遠縁のディーノや』
ツ「そうだ、ディーノさんと親戚だった!」
風「彼、いおりさんにとても甘いですよね」
い『せやな、去年の誕生日セグウェイもろたし』
雲「ああ、あれ跳ね馬にもらったやつだったの」
ツ「誕生日プレゼントにセグウェイー!?」
リ「ディーノがマフィアのボスだってのもその時聞いたんだろ?」
い『せやな。いや、あいつ家豪邸やしボンボンやとはおもっとったけどマフィアのボスやったとは。あのへなちょこが』
ツ「ナチュラルに悪口だー!」
い『アイツ、こっちにマフィアやとか隠しとった理由分かるか?』
風「いえ……」
い『こっち非現実的なこと好きちゃうやん、アイツマフィアのボスとか非現実的って自覚しとったからだまっとった言う訳や』
リ「なるほどな」
ハ「難しいことは分かりませんが質問です! 伊達さんとヒバリさんはいつも一緒に居るようですが、お付き合いしているのですか?」
い『ノーコメンt』
雲「そうだよ」
ツ「伊達さんを遮ってヒバリさん即答だよ!!!!」
風「私は認めませんからね」
リ「お前は伊達の親か」
風「やめてくださいよリボーン」
ハ「ヒバリさんのスピーディな返答に驚きましたが、いつからお付き合いなされてるんですか?」
い『……』
雲「……」
ツ「顔見合わせて悩み始めた!」
リ「謎だな」
い『……いや、いつやろ』
雲「……10年後から帰ってきてから……いや、継承式のVGに炎を注入する直前かな」
ツ「(今日はヒバリさんよく喋るなぁ)」
雲「それより僕はなんであの風とか言う赤ん坊と二人で住んでたのか聞いてるんだけど。いつからなのか知らないんだけど」
い『いや、やから……おいおい頼むってトンファー構えんなて。せやな、恭弥と初めて会うたその帰りやな』
風・雲「えっ」
リ「偶然だな」
ツ「心なしか風とヒバリさんの間で火花が散ってるような気がするんだけど」
ハ「その……よ、汚れた布はどうしてですか?」
リ「華麗なスルーだな」
い『ボロつ布は左腕の包帯のカモフラージュや』
ハ「ではいおりさん、風さん、好きな食べ物はなんですか? 順番にどうぞ!」
い『ぜんざいやな』
風「麻婆豆腐です」
ツ「へー、やっぱり中華料理なんだね!」
風「ただし、昔と味覚が変わってしまい、甘口じゃないと食べれなくなってしまいました」
ハ「昔? まだスーパーヤングなのに?」
風「今の私は辛口の麻婆豆腐を食べると涙が止まらなくなるのです」
い『ちょっと風くん今から辛口の麻婆豆腐食いに行こ、早く』
リ「伊達が一眼レフとスケッチブックとえんぴつ持って食い付いたな」
雲「泣き顔が見たいなんていおり変態」
ツ「(ヒバリさんが風を超睨んでるー!)」
リ「ママンの麻婆豆腐は辛口でも美味いから食べてみろ、克服できるかもしんねーぞ。さっき頼んでおいたからな」
風「なんと……!」
ハ「大丈夫ですか風ちゃん? 汗が吹き出てますけど……っと言うことで今回はここでシーユーです!」

**

一階のテーブルにて。

風「うぅ、涙が止まりません……」
い『風くんかわええよ風くん風くん風くん風くん』カシャカシャカシャカシャカシャ
雲「……」
ツ「超連写してるー!!!」
リ「伊達のドツボにはまったみたいだな」
い『ちょっと風くんこっちおいで撫で回さして抱き上げさしてお持ち帰りさして』
リ「それは流石にキモいぞ」
い『キモないわ』キリッ☆)タラァ
雲「鼻血垂らしながら言われてもね」
ツ「いつものクールな伊達さんどこー!?」
ハ「はひ!? ツ、ツナさーん!」



.

151:ぜんざい◆A.:2017/01/09(月) 18:55 ID:Ldk

そのあと、まあいろいろあり脳内で今喉潰れとるからしばらく生放送無理やな、治ったらなに歌おうとか考えているうちに全てが収束していた。
気がつけば家にいて、腕に抱えていた風くんに「なんで家居るん」とか聞けば「終わったのですよ」とか呆れたようにぐちぐち言われた。可愛いから許す。聞くところによるとD・スペードを倒したからそのお礼で六道骸の体とこの戦いで捕まったみんなを釈放してもらえたと聞いた。驚くぐらい無関心だったこっちはへぇとだけ呟いた。それからもう一週間が経つ。
朝登校して応接室に行けば恭弥は居らず、草壁が「委員長なら遠征で黒曜に行きました」と教えられた。あー、六道か。なら今日の持ち物検査は無くなるんか、いや、アーデルハイトが気合い入れてやるか。

『ほな』
「はい」

草壁に短く声を掛け応接室から出た。もちろんボロ布はまた新しいのを新調しました。すっかり必須アイテムとなったボロ布は目立つものの体を隠してくれるから有難いわ。以前倒した雨宮の姿はあれから見ていない。どないしたんやろか。そんなことを考えながら歩き出した。



廊下にいつもの白い人物が現れた。ボロ布を頭に被った長身の少女、伊達いおりである。彼女は知るよしも無いが、校内ではかなりの有名人となっていた。唯一雲雀恭弥と対等な関係を結び、咬み殺されることのないと知られている。普段彼女に人が寄らないのはそれも有るが、一番の理由はそれではない。
 涼やかかつ鋭いつり目の赤と黒の入り混じった瞳はメガネのレンズを通しても褪せることなく輝いている。布がまともに隠している艶やかな黒髪は肩上ほどに短く切られて毛先が外に跳ねていた。
布に隠されているものの人よりかなり豊満かつ綺麗な丸みを帯びた柔らかげな胸は歩くたびゆさゆさと大きく揺れていく。アーデルハイトほどとは言わないが細い腰に曲線を描くヒップ、ミニスカートから見える太ももはニーハイソックスで締め付けられて絶対領域を発動させ、それらは頭から被るボロ布に隠され微かなチラリズムのおかげでとても艶めかしく見えていた。あまり開かない桜色の唇等の顔のパーツは普通より男寄りなものの色気を晒し出して、おまけに声もかなり低く、男どころか女までもに人気が高い。教員もそれには類に入れられる。
それゆえ、高嶺の花として声を掛けられることは少ないのだ。そしてもちろん、そんな彼女は誰のものにもならないことは周知の事実だった。そう思われていた。
 そんな彼女は廊下を歩くだけで男子生徒から視線を集めるのは必須で、もちろん視線は感じているもののそういう風に捉えられているなど知らぬいおりは煩わしそうに眉を潜め、尚前を歩く。だが、そんな彼女の前に二、三人ほどの少女がコッとローファーを鳴らしながら立ち塞がった。いおりはちらちらと三人の少女から注がれる視線に答える。

『なんや』

そう呟けば三人は顔を赤く染めてひそひそ会話をする。あまりに長いのでいおりはいらいら、周りは三人の少女を羨ましげにハラハラと見つめている。

「サインください!!!」

彼女らが背に持っていたサイン色紙とペンを頭を下げながらバッと差し出した。それに困惑して硬直するいおり。なんのことか分かっていないらしい。廊下の角から身を隠していた雨宮は「屋上で声を出しすぎたか」と憎々しげに舌打ちする。

「白玉様ですよね、伊達先輩は!」
「私達、大ファンなんです!」
「サイン下さい!」
『…雨宮ェ』

しゃーない、と微かに口を動かして三人分のサイン色紙に自分の白玉と言う名をさらさらと滑らせ、ニヤ動上の自分の絵を書いてその少女らに渡して素早く去っていった。彼女の姿が見えなくなったらその場に居た生徒は少女たちにどういうことだと詰め寄る。少女の彼女に関する説明する声を聞いてみんなが各々の声をあげていた。

152:ぜんざい◆A.:2017/01/11(水) 19:41 ID:Ldk



 今日はあの少女たち以来声をかけられへんかったな、なんや雨宮が後ろから物陰に身を隠して視線をくれよったなとか考えながら帰宅すれば、いつもは聞こえる「おかえりなさい」が聞こえないことに気が付いた。
 『風くん?』と声にしながら探していると、リビングのコーヒーテーブルに書き置きが残してあるのに気が付く。



『なんや……?
【いおりさんへ。
すみません、急用が出来てしまいました。とりあえず、フランスへ行ってきますね。しばらくしたらまた帰ります。お土産楽しみにしててくださいね。
風より】
……フランスか。やっぱ行動力凄いわ。せやんな、風くん本来の姿は大人やもんな。……アルコバレーノすげぇ。』



 その手紙を折り畳んで机に戻し、一旦アルコバレーノについて風くんから以前聞いたものを纏めてみよう。
 アルコバレーノ[虹の赤ん坊]、選ばれし七人(イ・プレシェルティ・セッテ)の七人が随分前に集められ、とある光を浴び呪いを受けて赤ん坊の姿にされてしまった、そして自身を見れば体の変化の他に、首には見たこともないそれぞれのおしゃぶりが下げられていたというもの。みんな、アルコバレーノになることなんて、誰一人望んでいなかったようで。マフィア最強の七人の赤ん坊なんか言われてるけど、彼らは何らかの被害者だったのだ。

 さて、今日は絵を書こう。風くんが縁側でほんのりしながらリーチを膝にのせてお茶をすする感じの、ほのぼのしたものを。

 なぜか若干の頭痛を覚えながら数時間かけて書き上げて、眠りについたのは深夜二時だったことから目を逸らした。


**


 数日後、けろりとした顔で帰宅してきた風くん。彼は少し困ったような顔をしてソファに姿勢正しく腰を下ろした。リーチは相変わらずほのぼのとして、風くんの頭の上でさくらんぼを食している。
 そして困ったような笑顔をしたので風くんが座る反対側に腰掛けた。本当に困っているような風くんはこちらに一瞥して、口を開く。雰囲気は重かった。



「……本当は恩人の貴女に、こんなことを頼みたくなど無いのですが……」
『……恩人とか、気にしなや』
「……それでは。すみませんいおりさん。私の代理になっていただけませんか?」
『……代理、ってなんなん?』



 最強の“選ばれし七人”(イ・プレシェルティ・セッテ)。

 運命の日の呪いにより、赤子の姿となる。

 彼らは七色のおしゃぶりを持ち、
 「虹」を意味する「アルコバレーノ」と呼ばれた。

 そして今____“虹の呪い”を巡り、新たなる物語の幕が開く。



.

153:ぜんざい◆A.:2017/01/11(水) 20:33 ID:Ldk


 風くんは帰りの飛行機で夢を見たと言う。自分がアルコバレーノになるキッカケを作った人物、鉄の帽子の男が夢の中に現れ、他にも自分以外のアルコバレーノが出てきた。鉄の帽子の男が告げる、「虹の呪いを解きたいか」。当然それにみんながYesと答えたが、リボーンは「信用できねえ奴と話したくねぇ。勝手に呪っといて呪いを解きたいかじゃねーぞ」と反論したらしい。鉄の帽子の男はそれに対して「アルコバレーノを一人減らすつもりだ」と言葉を発した。
 その一人は虹の呪いを解かれ一般人に戻る。そして今の任からも解放され晴れてもとの姿、もとの生活に戻れると言うわけだ。呪いを解かれるのは七人の中で最も強いアルコバレーノ。アルコバレーノ同士で殴り合いでもするのかと風くんは聞いたらしい。返ってきたのはYesの肯定。
 だが、風くんのような拳士やリボーンのような殺し屋等の武闘派は置いといて科学者やスタントマンもアルコバレーノには存在するのだ。戦うのに不利すぎる。鉄の帽子の男はそれにも頷き、万が一二つのおしゃぶりが同時に破壊されると大問題だと言うことも教えた。そこで、彼はあるルールを提案したようだ。

 各々が自分の代理を立てて戦う。

 確かにこれなら科学者でも出来るだろうと言うことだ。
 開催は【一週間後】。場所はアルコバレーノ全員に縁のある【日本】。詳細は追って伝えられる模様。プレゼントもあるようだ。

 これが風くんに聞いた全て。リボーンやコロネロと言うアルコバレーノにも聞いたようなのでまちがいないと風くんは断言する。



『……それで、ホンマに風くんの呪い解けるん?』
「……恐らく。あまり信用はしてませんが」
『……嫌な予感はするわ。でも、それがホンマやったら風くんの呪いは解けるんやな』
「……はい」



 そこまで会話をして深く考え込む。まだ声は本調子ではないが、全然大丈夫。一週間後、日本。国外じゃないなら問題はないな。なら、もう、答えは最初から一拓しかなかったそれに完全に決定した。



『……おん、やるわ、風くん』
「……いおりさんっ! 断っても構わないと言うのに! あなたは、なぜ、そうまでして!」



 自分で頼んだくせに。顔を苦渋に歪ませる風くんを身を乗り出して抱き上げ、再びソファに座りながらくしゃくしゃと頭を撫でる。風くんあったか。やっぱ子供体温やな。風くんがもとの姿に戻ったら、彼の体温はどうなっているのだろう。知りたい。



『……こっちと風くんの仲や。やる言うたらやるねん。断ったら追い出すで』
「……すみません、ありがとうございます、いおりさん」



 ギュッと風くんを抱き締めながら、『……もとに戻った君を見たいっちゅーのもある』と小さく呟けば、風くんは小さく微笑んで、「貴女らしい」と呟いた。



「いおりさん」
『なん』
「……ぐっ」
『え、どないしたん』
「苦しっ……」
『うおおおおお!!!!』



 慌てて体を離せば風くんが目を回していた。うおおおおお!!!! すまん風くんカワエエよ! うわ待ってこれカワエエて、恭弥がこっちに「いおりの変態」とあのVSシモン戦で言っていた言葉は間違いでは無くなってしまう。耐えろ、耐えるのだいおり!
 気を取り直した風くんはひょいと大窓へ移動し、こちらを振り返って告げた。



「私は少し他のアルコバレーノを偵察してきますね」
『おん、わかった』



 そのままがらりと窓を開いた風くんはトンッと塀に飛び乗り、屋根に飛び乗り走っていった。身軽ぅー。



.

154:ぜんざい◆A.:2017/01/13(金) 00:04 ID:Ldk

翌日。応接室にいけば、そこには恭弥をリボーンの代理に誘う兄貴の姿があった。

『…兄貴なにしとん』
「いおり! 良いところに! 恭弥をリボーンの代理に誘ってるんだ、手伝ってくれ! いおりも入るだろ!?」
『めんどくさそうやから断るわ』
「うそだろ!」

泣きそうになっている兄貴に蔑笑してソファに座る。ちらりと追い払えと恭弥に視線を送ると、恭弥ディーノに「一日目に答えを出してあげる」と告げて部屋から追い出した。やっぱ恭弥、こっちのことよお分かっとるわ。

「…追い払ったけど、これでいいの?」
『おん』

先程まで座っていた革張りの椅子から立ち上がり、こっちが座るソファの反対側にとさっと恭弥は座る。こくりと頷けば彼はずいっとこちらに身を乗り出し、何も言わずに深めのキスをしてから「、は…」と吐息を吐いて再び元の場所に腰を下ろした。恭弥くんホンマえろかわええ。自分からしたくせに顔赤いんがえろかわええ。めっちゃえろかわええ。大事なことなので三回言うた。ホンマえろかわええ。

『恭弥ホンマえろかわええな』
「っ、やめてくれない?」

ぱっと更に顔を赤くしてプイッと顔を背けた恭弥に苦笑いしながらフードを外す。はぁ…っと溜め息を吐けば恭弥に溜め息を吐き返された。なんやねんもう。

『…なんや』
「自覚が無いなら伝える気はないよ」
『…なんやねんお前』

腕を組み足を組みふんぞり返る恭弥に悪戦苦闘しつつソファから立ち上がって最後と言うようにキスをして舌を滑り込ませる。驚きはしているものの拒否する気は無いのか恭弥は驚くくらい無抵抗で応接室にはくちゅ、と小さく水音が響き、とりあえずここまでにするかと顔をあげて彼の口の端から垂れる唾液を舐めとった。再びばふ、と元のソファに座ると恭弥は垂れた唾液を腕で脱ぐって口の中に残ったそれをごくり飲み込む。

「…唾液多い」
『恭弥お前ホンマえろかわええなかわええよ恭弥エロいかわええ恭弥かわええ』
「かわいいだのエロいだのうるっさいよ。ほんと、立場逆なんじゃないの?」
『ほんまな』

それには度々目を遠くする。いや、恭弥が天性の受け体質なだけやねんホンマ。いおりさん悪ないもん。

『そろそろやな』
「何が?」
『兄貴が言うとったやろ。アルコバレーノの代理戦争んこと』
「ああ、なるほど」

理解したと言うように恭弥は途端に顔を微かに歪ませたが、まあ大丈夫だろう。そして次の瞬間には校庭側の窓ががらりと開いて、ぴょんと風くんが舞い込んできた。

「おや、いおりさんも居ましたか」
『ん』
「やっぱり君か」

恭弥はソファから立ち上がり、風くんが着地した執務をする方の机に向かっていった。風くんはにこにこしながら「私の頼みを聞いてくださいませんか?」と告げる。

「風か。頼みなんて話を聞かないと受けられないよ」
「そうでしたね。では、単刀直入に。雲雀恭弥、貴方には私の代理になってもらいたいのです。今回の代理戦争、優勝した暁には一人のアルコバレーノの呪いが解かれ、元の姿に戻れるとのことで」
「他にも代理は誰かいるのかい?」
「お察しの通り、いおりさんのみです」
『ん』
「へぇ、いおりも代理なんだ、だからさっき、跳ね馬の代理の誘いを断ったんだね」
『ん』
「お願いします、雲雀恭弥」
「…そうだね、構わないよ」

少し考え込むような仕草をした恭弥はすぐに了承の答えを出した。理由は簡単、強いやつと戦える。リボーンチームに入らなかったのは、そのチームに咬み殺したい人間がたくさん居るからだ。ただ、こっちがホッと息を着いたのも束の間、恭弥は「ただし」と言葉を続けた。

「君は強いの?」
「…自分で言うことでは無いのですが、いおりさんと組み手をして負けたことは一度たりともありませんね、完勝快勝です」
『おい風くん』
「なら、優勝したら僕と戦ってよ。それなら代理になってあげる。交換条件さ」
「はい、構いませんよ」
『決定やな』

チーム風が結成した瞬間だった。

155:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 18:48 ID:Ldk



 そして風くんから渡されたのが、なにやらゴツい腕時計だった。一応かちゃりと腕に時計を装着しながらこれは何かと聞く。



「いおりさんの時計が『バトラーウォッチ』、雲雀恭弥のものが『ボスウォッチ』なるものです。その時計をつけていれば代理となれるようなので。
昨日の夜、尾道と言う鉄の帽子の遣いだと言う方に虹の代理戦争の具体的ルールを教えていただきました。
各アルコバレーノとその代理の方を合わせた集団を“チーム”と呼び、各チームにその時計が配られたようです。各チームごとにアルコバレーノウォッチが一本、ボスウォッチが一本、バトラーウォッチが六本の計八本。アルコバレーノウォッチはアルコバレーノが。ボスウォッチは代理の中のリーダーとなる方が。バトラーウォッチはそれ以外の代理の方が。
聞けば、ルールはとても簡単なようです。ボスウォッチとバトラーウォッチを装着した各チームの代理の方々で戦闘を行い、ボスウォッチを破壊されたチームが敗ける。時計であるのは戦闘許可時間を知らせる為。戦闘は一日一回一定時間、いつ始まるか分かりません。この時計は開始一分前と開始と終了を伝えてくれる。アルコバレーノは基本戦いには参加できませんが、戦闘許可時間中ならプレゼントプリーズと時計に向かって呟けば全ての戦闘許可時間を通して3分のみ元の姿に戻れます。まあ、言うところのバトルロワイヤルらしいのですよ。他チームと同盟も組めるようです」



 風くんの説明を受けて彼の左腕に巻き付くアルコバレーノウォッチを見つめる。やっぱ小さいなあ。風くんをそのまま腕に抱えて「どうしますか? 同盟は、組みますか?」とこっちと恭弥に聞いてくる風くんに二人同時に『組まへん』「組まない」と返事をした。やっぱりか、と言うように苦笑した風くんはこっちの腕を抜け出してスタッと恭弥の頭の上に移動する。思わず素早くデジカメでその二人を撮ったこっちは悪ない。



「私はこれ以上代理を増やすつもりはありませんが、よろしいですか?」
「構わないよ、味方はいおりだけでいい。いおりだけしかいらないよ、いおり以外必要ない」
「ふふ、ただの確認ですよ雲雀恭弥。もとよりそのつもりです。代理はあなたたちだけでいい」
「気が合うね、きみ」
「そうですね」
『……』
「おや、いおりさん。そんな微妙な顔をして、どうしたのですか?」
「どうしたの、いおり」



 一瞬君たちの目の色がほの暗くなったのはとても気のせいだと思いたい。特に恭弥! アラウディさんみたいなヤンデレにはならんとってや!

 ちなみに今は放課後なので、もうすでに代理戦争一日目は始まっている。朝からよく戦闘が始まらんかったなと感心やわ。
 そう一息ついた瞬間<ティリリ>とけたたましく時計が音を鳴らす。思わず肩をびくりと跳ねさせて時計を凝視すると<バトル開始一分前です>と機械的な音が流れた。
 そのまま時計のカウントダウンが始まってしまい、少しばかり硬直する。



「さて」
「行くよ、いおり」
『え』



 風くんにさっと頭にフードを被せられ、恭弥にそのまま肩を引き寄せられて応接室の窓から飛び降りた。直ぐ様校舎のどこかで爆発音。ここ二階やけど!? っちゅーか、……なるほどな。パッと棍棒を背中の袋から取り出した。



「さっきのすげえ爆発は」
「まさか沢田では!?」
「10代目んとこに急ぐぞ!」



 下にいたのは野球のユニホームを着た山本、ジャージ姿の笹川、制服着崩しまくりの獄寺。彼らの行く手にすたっと着地し、「させないよ」と恭弥が呟く。



「君たちは僕たちが、咬み殺すから」



 トンファーを既に構えていた恭弥を横目に布の奥から彼ら三人を緩く睨む。恭弥の頭の上にはちゃっかり風くんが正座していた。なんやお前らかわええな。



.

156:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 19:48 ID:Ldk



 今思ったことを正直に口にしよう。ヒバードの上に乗ったリーチのコンビの存在感半端ないわ。とりあえずBLネタとして……ディーノ早よ来いや!!!!
 こっちらの現れた時の山本、笹川、獄寺の驚愕の表情が気持ちいい。なんちゅーか、こう、被虐心を煽られると言うか、とっても虐めたい。



「伊達にヒバリ!」
「ヒバリの頭に乗ってるのは…!」



 彼らが恭弥の頭に乗る風くんを見つめる。左手にトンファーを構えたままの恭弥は風くんを見てはいないものの「あの島に行ったときに自己紹介してなかったのか」と頬をむすりと微かに膨らませた。



「虹の赤ん坊(アルコバレーノ)の風(フォン)と申します。雲雀恭弥と伊達いおりには私の代理になって頂きました」
「なんだって!?」
「風の代理がヒバリと伊達!?」



 なぜボンゴレの守護者が沢田のチームではないのか!? とでも言いたげな彼らの顔に少しむかっ腹が立つ。無条件であまり関わりのない人にハイわかりましたとホイホイ仲間になりにいくわけがない。顔見知り程度の仲間と深い関係の仲間、どちらをとるかなんて一目瞭然だ。
 それに、恭弥も恐らくいろいろな条件が重なり、こっちが風くんのチームに居たことが決定打となりこちらのチームに入っただけのことやし。



「あなたたちが着けているのはリボーンチームのバトラーウォッチですね」
「ああ。俺たちはリボーンさんの代理だぜ」



 相変わらず獄寺は不良の癖に沢田とリボーンには敬称と敬語で話してるのがギャップを誘ってくる。
 恭弥は獄寺の言葉を聞き、「ってことは」と微かに上擦った声を出した。



「敵同士だね」



 好戦的な笑顔でビュッと右のトンファーをぶんまわす。尾から出たチェーンが彼らを襲った。間一髪と言うようにそれをしゃがんで避けた三人は今までの経験からか素早く立ち上がり、獄寺と笹川が恭弥に吠えた。



「てめーら!! リボーンさんの代理を断って風の代理になるとは!!!」
「裏切る気か!! 仲間(ファミリー)だと思っていたのに!」



 その言葉にぴくりと肩が動く。仲間と書いてファミリー、か。マフィアなんてどこの非現実だよ、と最近まで思っていた。最近はそれを受け入れ始めている自分がいる。……だが、マフィアを受け入れ始めただけで、ボンゴレファミリーの夕焼の守護者と認めた訳ではない。嫌と言うわけでも無いが、コミュニケーション能力のないこっちは人に囲まれるのが苦手だ。
 恭弥は根本的なものはこっちとは少し違うけど、大々的な部分は似ている。



『アホか』
「誰がファミリーだって? 僕は群れるのが嫌いなんだ」



 そう恭弥が告げた瞬間獄寺が「よく言うぜ」と微かに頬に汗を滲ませながら笑った。「風のチームだって他の代理と群れることになるだろうが」と続けた獄寺を恭弥は鼻を鳴らして嘲笑う。



「それは違うな。彼の代理はいおりと僕二人だからね。最大の理由はいおりが居たから」
「な!!」
「二人だと!?」
「君たちのチームに入らなかった理由は他にもあるけど、僕は話をしに来たんじゃない」



 トンファーを好戦的に構えた恭弥に「ふざけたことを言いおって!! ならば俺が分からせてやる!」と意気揚々と眉間に皺を寄せた笹川了平がVGを発動させて黄色い炎を纏いつつ戦闘態勢に変わった。



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157:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 20:55 ID:Ldk



「闘る気スかセンパイ!」



 山本が焦ったように笹川に問い掛けた。彼はあまり成績は良くないものの、バカではない。笹川がとあることを忘れているに気がついていた。アホか。笹川に静止なんか聞かへんっちゅーて。



「俺がヒバリの曲がった根性を叩き直してやる!」
『……無理やろ』



 小さい声で呟いたのだが「ちょっと」と恭弥に頭を小突かれた。今気がついたのだが、恭弥の背がこっちを少し抜かしていた。やはり成長期なんやろか。少し悔しい気もするがそれはそれで恭弥の色気が増すので良しとしよう。すると獄寺が叫んだ。



「待てっ! 守護者同士の真剣勝負なんて10代目は望んでねぇ!!!」
「……真剣勝負? こんなのゲームだよ」
『……ゲームならこれクソゲーやな』
「まあまあいおりさん。そう言わずに」



 布の奥で頬をむすりと膨らませていると恭弥の頭の上にいた風くんが苦笑いを溢した。
 恭弥の言葉に「何を!」と怒った笹川が「ならば真剣にさせてやる! 覚悟しろヒバリ!」と叫んだ。なんとも熱血漢のボクシングに集中する超スポーツマンである笹川らしい言葉だ。「では」とタンッと軽快な音を立てて恭弥の頭から飛び退いた風くんはこちらの腕に収まった。
 恭弥のゲームと言う言葉は意外に的を射ている。だって__



「ゆくぞ!」
「その様子じゃ忘れてる」



 ぶんと彼めがけて繰り出された笹川の拳。恭弥はそれを身を屈めて回避し、そのままトンファーを回転させて、笹川の腕からパキャ、と軽い音が響く。



「パキャ?」
「おしまい」
「あ」
「バカっ、バトラーウォッチを壊されちまったら代理じゃなくなるんだぞ!」



 __時計が壊されれば終わりのバトルロワイヤルなのだから。
 獄寺の言葉に同じ意を唱えつつ冷めた目で彼らを見つめた。



『恭弥がお前らのチームに入らんかったもうひとつの理由は』
「君達のチームには咬み殺したい相手がたくさんいるからさ」
「……!」
「ちっ」



 腕の中で風くんが「やはり代理を雲雀恭弥に代理を頼んで正解でしたね。戦いに対するモチベーションと技術、現時点で彼は私が求めるものをかなり満たしている」と呟く。その言葉に少しムッとする。どうにもこっちが恭弥と同等ではなく劣っているように思えて仕方がない。まあこんなもの思うだけ無駄だとそのムッとした表情を取り払った。だが、風くんは続けざま「いおりさんももちろん負けていませんよ。実力は私と拮抗していますし、あなたのある種の威圧感は私が見てきた中でトップです。威圧感があのXANXUSよりも凄まじい方を、見たことがかったのですがね。パワーもそこら辺の男では比べ物にはならないでしょうし」と嬉しいことを言ってくれた。片手で風くんを胸の前で抱えながらもう一方の片手で布を下にグイと下げる。なかなか嬉しいことを言ってくれるな。
 そのとたん、真逆の方向から荒々しい炎を感じて風くんとそちらを見る。



「炎は四つ……いや五つ……」
『……工場跡地の方向やな』



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158:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 23:15 ID:Ldk

Noside



「んじゃ、代理戦争一日目の報告会を始めるぞ。みんながどんな戦いをしたのか、ワクワクだな♪」



 並盛町にあるファーストフード店「NAMIMORIDINER」の一席にて。重苦しい雰囲気のリボーンチームのメンバーにとても面白そうだと言う感情を隠しもしないリボーンの声が響いた。
 ワクワクじゃないよ! といつもならツッコミを入れるはずの沢田綱吉_ツナも見るからにテンションが低い。
 そんな中口を開いたのは笹川だった。



「では俺から報告しよう。開始してまもなく、俺と獄寺と山本は落ち合い、沢田の下へ向かったのだ……。だがそこにアルコバレーノ風の代理となった雲雀と伊達が現れ、俺は応戦したのだが、敗けてしまった!!」
「え!? ヒバリさんと伊達さんが風の代理なの!?」



 笹川の報告に驚いて声をあげたツナに「ん……あ……」とバツの悪そうな顔をして言葉を濁すディーノ。ディーノは二人の勧誘を任されていたのだが、あえなく撃沈してしまったと言うわけだ。
 獄寺の「ちっ」と言う舌打ちに、困惑した顔のツナに、笹川が「極限にすまん!」と机に頭を打ち付けた。その反動で机が揺れて、笹川のコップが倒れて水が溢れる。



「ヒバリとダテの二人が相手じゃこっちの被害がそれだけで済むはずじゃねーな」
「あ、あぁ……」



 リボーンの呟きに山本が苦笑いしながら続きを話す。伊達は風を抱えて眺めているだけで全て雲雀が自分達の相手をしていたこと。少し雲雀と戦闘になったが獄寺のVGのダイナマイト_ゼロ着火で煙幕を張り、山本の雨燕の鎮静の雨を降らせ、雲雀の動きを鈍らせて戦略的撤退に成功したこと。



「ってな訳で、逃げ切って俺達のバトラーウォッチは無事だったが、ツナを探しているうちに時間切れ、タイムオーバーだ」



 しまり悪く告げてその短い黒髪をがしがしと掻く山本。獄寺は続けて「つかどーなってんだ跳ね馬ぁ! ヒバリとダテはお前がうちのチームに連れてくるんじゃなかったのかよ!」と机を思いきり叩いてディーノに怒鳴った。
 ディーノは顔の前で両手をパンとあわせて「わりい!」と苦難の顔で告げる。



「恭弥が今日うちの代理になるか答えを出すっつーから期待してたんだが!」



 そのままきれいな金髪を無造作に掻くディーノは「まさかその前に風チームに入って襲ってくるとは……いくらアイツでもそこまではしねーと……。想像を越えてたぜ。恭弥の説得中に入ってきたいおりに関しては即座に却下されちまった……」と失敗したなと顔を歪める。直ぐ様飛んでくる「甘ぇんだよ!」と言う獄寺の罵声を素直に飲み込んだ。



「こればっかりはヒバリ本人が決めたことだからしゃーねーな。恐らく勧誘されたのはダテが入ってきたあとだろ。ヒバリはダテにベタ惚れだからな。アイツが入るチームに着いていくに決まってる、ディーノが行った時点ではダテがどこに入るかはっきりしてなかったから答えを出すなんて言ったんだろ」
「えっ、ヒバリのやつ伊達先輩が好きなのか!?」
「伊達もヒバリが好きだしな。伊達に関しては最初から望み薄だったからな……期待はしてなかった」
「え、伊達さんに期待はしてなかったって……」
「やっぱ伊達の奴、弱ぇんスよ10代目」



 苦笑いでツナに声を掛けた獄寺にリボーンは素早く「そういう意味じゃねえ」と否定した。ディーノもそこは「違うぜ獄寺」とリボーンに同意する。



「ツナもだ。俺はそういう意味で言ったんじゃねえ」
「え…?」
「でも、シモン戦の時はアイツが一番傷だらけでしたよ?」
「あれは相手が女の子だったからだろうな。ダテは行き過ぎたフェミニストだ、女に本気を出すわけがねえ。言っちまえば、ダテは恐らくボンゴレじゃヒバリと同等、いやそれ以上の実力を隠してる」
「ひっ、ヒバリさん以上!?」



 リボーンの言葉にツナが飛び上がる。同じボンゴレファミリーと言えど、ツナたちに取ってあまり接点のない伊達。未来での戦いでだって最終局面でしか現在の彼女は出てこなかった。10年後の彼女でもあまり言葉を交わすことはなかった。まあ驚くほどのナイスバディだったが、声が低すぎて最初はみんな気付かなかった程。
 頭からボロ布を被って姿をあまり晒さない彼女に実力を図りかねている。



「それに」



 リボーンは神妙な面持ちで続けた。



.

159:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 23:43 ID:Ldk




「俺が望み薄だと言ったのは、90%の確率でダテが風のチームに入ることが予想されたからだ」
「え!?」
「きゅ、90%の確率!?」
「それはほとんど伊達が風のとこに入るってことじゃないスか!」
「ああ」



 ボルサリーノの縁を指で弾いたリボーンは「なんでだか分かるか?」とディーノ含めツナに聞く。ツナは「わっ、わかるわけ無いだろ!? 俺伊達さんと会話したのシモンの島に行って伊達さんに「見とけや」って言われたぐらいだし!」と声をあげる。これに限ってはディーノも頭をもたげた。



「アイツほんっと自分のこと喋んねぇからな。ネットと違って現在じゃすげえ無口だし」
「……ネット?」
「んあ? リボーン、知らなかったのか? リボーン、ニヤニヤ動画って動画投稿サイト知らね?」
「……ああ、ツナが前に青鬼ってゲームの実況見てたな」
「いおり、あそこの一位を争う人気の大御所でさ、ハンドルネームなんだったかな……確か『白玉』だっけか?」
「え!?」
「マジスかディーノさん!」



 ディーノの呟きにツナと山本が反応する。獄寺は元々そういうサイトは見ないようだし、笹川は到底知っているとは思えない。



「お、俺が見てた青鬼の実況……白玉さんのだけど……」
「俺は歌ってみた聞いてたのな!」
「お前らファンだったのかー! アイツ生放送じゃ、すげー喋るよな!」
「声すごく格好いいから男の人かと思ってたよ……」



 ディーノ、ツナ、山本で盛り上がるその三人にリボーンは一人ずつ蹴りを入れて内容の軌道修正をした。



「話を戻すぞ。風がダテと知り合ったのは、俺がツナの家に来た日だ」
「っ、えぇ!?」
「つまり、ダテと風の二人は俺とツナみてえな関係ってことだな。そんなんじゃ、どっちの代理になるか、分かるだろ?」
「あ……そりゃ、風の代理になる、よね」
「しかもリング争奪戦の時、俺はダテに家庭教師をつけてなかった。だが、裏で風がダテ組手をして鍛えてたんだ、ある種のかてきょーとしてな。これらは全部風から聞いた話だが、実力は奴と拮抗し、無敵の拳法家の風を唸らせられてもまだそこが見えないらしい、それからXANXUSよりも威圧感が半端ないと来れば、もうアイツを弱いなんて言ってられねぇぞ。ダテは男相手の戦闘じゃ酷く冷酷で手加減しねえ、男の急所容赦なく狙ってくるからとりあえず気ぃつけろよ」
「ひいい!」
「ちなみにディーノは10分間俺と一緒にいて戦闘に間に合わなかったんだ」



 そしてそのままツナに報告を促す。ツナは一言「父さんに負けた」と告げた。ツナの父、沢田家光はチェデフと言うボンゴレの独立諜報機関のボスだ、バジルもそこに所属している。彼らチェデフはコロネロチームについたのである。それでもツナのボスウォッチが壊されなかったのは、リボーンがコロネロチームと同盟を組んだから。
 ツナは腕を枕がわりに顔を埋めて「うう……」と唸る。その様子に心配する獄寺、なんとなく分かってしまった山本、自分の気持ちに名前がいまいちつけられないツナ。



(なんなんだよ……なんなんだよこの気持ち!)



 歯を噛み締めるツナに、リボーンは口もとを緩めた。



.

160:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 00:19 ID:Ldk



 夜、恭弥はこっちの家に居た。しばらくは共にいた方が良いとこっちが告げたのだ。家に入るとき、背後で少し空気の温度が下がったんを感じたこっちが振り返ってみれば、恭弥ににこにこと笑みを向ける風くんと今にもトンファーを持ち出しそうなほど不機嫌になった恭弥の姿が。
 とりあえずボロ布を玄関先のクローゼットに放り込み、『お前らはよ入れや』と風くんを抱えて恭弥の背を押す。



「……」



 むすっとした顔の恭弥は何も言わずソファに座ってテレビを見る。そんな恭弥に苦笑いしながらキッチンに向かって今日は何を作るかと悩んでいたら風くんが「無難に炒飯でも作りましょう」とやって来た。恭弥にもそれで良いのかと聞こうとしたら、彼は一階に設置していた本棚から抜き出してきたのかHUNTER×HUNTERをソファに仰向けに寝転がって読み始めていた。お前は猫か。うーわ! くっそ! んんん! かわええなぁもう! 死ぬ!
 しばらくして炒飯とスープが出来上がったので料理をダイニングテーブルに運び、恭弥に声を掛けるとすんなりやって来てくれた。



「……美味しい」
「ふふ、私が作ったんですよ」
「へえ、料理上手いんだね」



 お前ら親子か。顔そっくりやし。
 とりあえずそんなくだらないことを内心ぼやきながら食べるスピードの変わらない恭弥に微かに微笑む。風くんも満更では無さそうだ。とりあえず三人で完食してからリビングでのんびり過ごす。



「いおり、親は?」
『世界一周旅行中や。兄貴がマフィアやったし、自分で言うんもあれやけど、家かなりデカい名家やからそれもホンマか分からんけど』
「へえ」



 恭弥はそのままうつ伏せにソファに寝転がってHUNTER×HUNTERの続きを読破しだす。『気に入ったんか』とを漫画から逸らさず告げる。まあ面白いのだろう。だってHUNTER×HUNTERのアニメも映画も見たけど面白いやん。ずずず、とソファの上で烏龍茶をすする風くんも既に二周ほど読み返す程だ。
 しばらく穏やかな時間が流れたが、一巻読み終わったのか恭弥がこちらに向かって言葉を投げた。



「今日僕泊まるんでしょ?」
『おん』
「場所どうするの? 僕ソファとか嫌なんだけど」
『……せやなぁ。恭弥今夜こっちの部屋で寝たらええわ。こっちソファで寝る……多分こっち今夜寝ぇへんから、ベッドは恭弥が使ってエエよ』
「……は?」
「え?」



 恭弥と風くん、二人がぽかんと目を開く。やって今日は夜通しレコーディングして歌ってみたをやって、実況の編集して、その部屋の椅子で寝ると思うし。



「……いや、レコーディングとかそういうのあとで聞くけど、僕男なんだけど」
『大丈夫や、こっちの部屋着替えとかないし。あるのは機械だけや』
「確かに、女性らしさはないですよね……」
「……いおり」
『二人してそんな可哀想な目で見るんやめてくれや頼むから』



 とりあえず恭弥にこっちの部屋を案内したら「……気は進まないけど」と妥協してくれた。
 こっちの部屋にはベッドにデスク、その上に三つのパネルのパソコン、タブレット、音響機器にDVDレコーダー。地面にはコンポにコピックが敷き詰められた大きなペン立てが20個程。天井に届きそうな壁を隠すような大きな本棚には全て漫画がぎっしり敷き詰められ、全体的に白と黒のシックな感じにまとめあげている。地面に散らばるヘッドフォンは手に持っておく。



「……ホントに、機械多いね」
『……まあな。隣が風くんが過ごしとる部屋や』
「へえ」



 そんじゃ。と恭弥を部屋に押し込んで、風くんの部屋とは反対隣の防音室の扉を開けた。


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161:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 00:50 ID:Ldk

まふまふさんの立ち入り禁止と逃走本能の歌詞を使わせていただきました。歌詞が間違っていたらすみません。



 部屋に入って後ろ手に扉を閉めようとしたらガッと扉が開けられて驚いて振り向くと、いつもの無表情でこの室内をきょろきょろ視線を巡らせる恭弥と、恭弥の頭の上に乗って微笑む風くんがいた。



『……な、んや? え、どないしたん?』



 驚いて最初に声が裏返ってしまった。風くんは「久々に歌を聞こうかと」と悪びれる様子もなく微笑みながら呟き、恭弥は「何してるのか見に来た」とだけ。……要するに、この部屋に入りたいと。……うーん。



『……しゃーないな。頼むから静かにな』
「ん」
「はい!」



 微かに満足げに笑った恭弥と満面の笑みの風くんに全てを許した。いや、甘々過ぎやこっち……。
 とりあえず、以前リクエストを頂いていた逃走本能と尊敬するべきまふさんの立ち入り禁止を歌わせて頂こう。
 既に椅子に座った恭弥と、恭弥の膝の上にいる風くんに内心サムズアップしながらも、逃走本能を歌い出す。



『過去を<青春>と呼んで美化したって、消せやしねえな劣等感反吐が出るぜ』



 今日は少し調子が良いみたいで、下がよく回る。気分がいい。



『自己投影したモニターの中の
僕は唐突なサービス終了告知で
廃棄処分 死刑執行 殺されちゃってさ 生憎と面会謝絶だ
なけなしの感情は捨てちまえよ
半端に居座るなよ 吐き気がする

反逆の狼煙だ 今こそ覚醒前夜 抗え抗え 逃走本能
神様なんていない って神に誓ったりして 叫べrockyou』



 そこからはもう叫ぶようにストレス発散するように歌った。楽しくて仕方がない。棍棒振り回しているときも楽しくないと言えば嘘になるが、歌っているときも生放送するときも楽しいのだ。



『簡単に終わらせはしないぜ』



 と一通り歌いきり、逃走本能はこれでよし、と一発撮りして次の曲を流す。こっちがかなり好きな曲だ。というかまふさんの病み系の曲好きやわ。



「立ち入り禁止どこまでも 出来損ないのこの僕にただひとつ 一言だけ下さい 生きていいよってさ
教えて何一つ 捨て去ってしまったこの僕に 生を受け 虐げられ 尚も命を止めたくないのだ?
 痛い痛い痛い ココロが 未だ心臓なんて役割を果たすの 故に立ち入り禁止する」



 歌い終えて即パソコンをイジって編集、元々の動画に合わせて二つとも投稿完了。今回は早かったなとか思ってたら椅子に座っていた恭弥が「すごかった」とだけぽつりと先程までこっちが歌っていた場所を見つめながら呟く。



『ん』
「上手かった、人気とか言われるの分かった気がする」
『ん、どーも』
「……なんかむかつく」



.

162:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 11:39 ID:Ldk

翌日、代理戦争は二日目を迎えた。朝、学校に止まってると見たことのあるフェラーリが止まっていて、嫌な予感を感じた。慌てるように廊下を走って応接室に行けば、とある書類片手に顔をしかめた恭弥が革張りの椅子で寛いでいた。

『朝、駐車場ん所に、兄貴のフェラーリあってんけど』
「その予想、間違ってないよ。跳ね馬ディーノは今日から臨時の英語教師だ」
『…まちがいなく、代理戦争やろな』

二人して面倒だと気分を落としていれば、窓からひょいと入ってきていた風くんが「まあまあ」と微笑む。確かに、恭弥にとって兄貴は初めて自分に対して師匠面してきた兄貴肌。恭弥的には鬱陶しいのだろう。こっちは貰えるもんはもらっとく主義やし、ちっさいころから仲は良かったからなぁ……。あ、一時間目が始まった。

**
Noside

キーンコーンカーンコーン、無機質な鐘の音が教室と言わず学校中に谺する。もー授業かー、とツナは席に座った。炎真に聞けばシモンファミリーがスカルの代理になってくれたと言う。良かったなぁなんて思う反面ツナはまた強敵が増えたー! と焦っていた。空席に休みだとわかるクロームに少し心配の視線を残して、がしゃーんと言う耳障りな音と共に聞こえてきた「いでっ! 滑るなーこの学校の廊下は……」と昨日聞いたばかりの声が聞こえてきた。がらりと扉が開かれ、「おーいて…初日から決まらねーぜ」と呟きながら教室に入ってくる様子に、ツナ、獄寺、山本、笹川京子は目を見開く。

「チャオ! じゃねーな、英語はハローか」

入ってきたのは伊達眼鏡を掛け、左腕の刺青をバレないようにする包帯を巻いたディーノだった。

「(ディーノさん!?)」
「新任英語教師のディーノだ! ヨロシクな!」
「ははっ! すっげ!」
「ゲッうぜー!」

守護者はそんな反応を見せるもクラスの女子は「ちょっ、何!? 超かっこいい!」「金髪……キラキラ!」と色めき立つ。男子は今朝の様子を見たのか「フェラーリ乗ってた人だ!」と声を出した。
放課後にて。ディーノに屋上に連れてこられたツナ、獄寺、山本の三人はフェンスにもたれかかるディーノに開口一番「いいアイデアだろ」と聞かされた。

「教員なら学校で代理戦争が始まってもすぐに参加できるぜ」

そのとき、屋上の影から様子をうかがう女子生徒が「獄寺くんたちは良いけどなぜダメツナごときがディーノ先生と話せるのよ!!」「不釣り合いすぎる!」「どういうコネかしら」とツナに嫉妬の視線を送っていた。それに気づいた獄寺が「テメーは目立ち過ぎんだよ! ギャラリーがいたら戦えねーだろ!」と怒鳴り付ける。それを「そりゃそーだな」と笑い飛ばしたディーノ。だが、そのとたん屋上の扉が乱暴に蹴破かれ、怒気を滲ませた雰囲気を纏いながら歩いてくる白くてボロい人影、言わずもがないおりであった。

「いっ、いおり!」

 その姿に途端に焦ったような声をあげるディーノに、突然現れた色気たっぷりの女子の憧れの的の姿に女子生徒はどういう関係なのかと息を飲む。そのままディーノの前にたち、彼の頭を怒鳴りと共に拳骨で殴った。

『なんっでこんなとこにおるんやクソ兄貴!』
「いでえっ! 待ていおり話を聞け! 俺は代理戦争の」
『分かっとるわへなちょこが!』
「キャメルクラッチいたい!」

ぎしぎしとディーノの骨を軋ませる彼女に会話は分からないが怒鳴りだけ聞こえた女子生徒は「兄貴?」「って言うか伊達先輩関西弁であんなに声かっこいいんだね!」「それこそダメツナの分際でなんであそこに!」と言う声が上がる。

「仮にも俺遠縁で血つながってんの! 痛いだろ!」
『黙れや、朝から気分が最下層や』
「えぇ」

落ち込むディーノを一瞥して去ろうとしたとき、山本に不意に呼び止められた。

「先輩って白玉さんスか? ディーノさんが言ってたんすけど」
『…せやで、白玉や』
「お、俺たちファンです! 応援してます!」
「握手してください!」

すっと山本と握手して目を爛々と輝かせるツナの頭をわしわしと撫で回し、いおりは本当にディーノを殴り付ける為だけに来たらしく、屋上から去っていった。女子生徒から「ダメツナが伊達先輩に頭を!?」「知り合いだったの!?」「山本くんとも握手してたよね!」と騒いでいた。

163:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 11:59 ID:Ldk


 下校時刻、恭弥はディーノと接触して戦うことを取り付けたようだ。ホテルに泊まってるからそこにこいと言われたと恭弥に教えられ、風くんを腕に抱えて夜、そのホテルへと赴く。



「ずいぶん豪華なところへ来ましたね」
『兄貴の部下が間違えて取ったんやと』
「跳ね馬は夜、ここに来ると言っていたからね」



 そんな会話をしていて気付く。恭弥がなぜかディーノに執着していることに。何でだろうと疑問に思っていれば風くんはこっちの腕を抜け出して恭弥の頭の上に移り、「なぜです? ディーノにそこまでこだわるのは」とこっちの疑問を恭弥に聞いてくれた。



「あの人は初めて僕の師になったつもりの人だ、でもそんな存在、僕は要らない」



 そう冷たく言い放った恭弥に布の奥で苦笑いしてチンとちょうどよくやって来たエレベーターに乗り込んだ。
 最上階まで目指すエレベーター内はあまり会話がなくて、それでも少し落ち着く。だが、その階の手前でいきなり<ティリリ>と時計から音が鳴り、バトル開始一分前を告げた。……なんや、オチが読めてきた言うか……嫌な予感がする。



「始まりますね」
『ん』
「代理戦争で優勝したらって約束覚えてるかい?」
「もちろんです」



 そうして最上階に到着。ぷしゅっと扉が開かれたそこを見れば、自分たちよりも体のでかい黒ずくめの男たちと一人の女が立っていた。……ヴァリアーである。



「ゔぉ゙ぉい、これから出向こうって時に……」
「ししっ! ボロ布連れたカモがネギ背負って来やがった」
「伊達を連れたヒバリが風背負ってだろ」
「まんまじゃない…」
「久しぶりね、イケボ女」
『おまえ誰やねん美人ちゃん』
「ムムッ、風」
「やあマーモン」
「これはこれで嬉しいな、ここはまるでサバンナだ」



 見覚えのある子だが、適当に誰やねんと返しておいた。いや名前はちゃんと覚えてます。
 とりあえず向こう側のアルコバレーノのマーモンに親近感を抱き、とても可愛らしいフォルムを抱き締めたい。もうこの際変態と呼ばれてもかまわん。



.

164:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 12:16 ID:Ldk



「あれ? ボス猿がいないね」
『奥で寝とんやろ』
「ゔお゙ぉい伊達にヒバリぃ」
「笑わせるじゃん」
パシャッ
「俺達じゃ相手にならないって言うのかぁ?」
パシャシャッ
「君たちだって役には立つさ。僕の牙の手入れ程度にはね」
バシャバシャバシャバシャ
「……いおり」
『うぇっす』



 とりあえず向こうの方にも変な目で見られたのでデジカメを片付ける。壊されたらたまらんし。
 とたん、風くんが恭弥の頭から飛び降りて「プレゼントプリーズ」と呟く。姿が戻った瞬間彼はヴァリアー側のでっかいおっさんを壁に蹴り飛ばし、オカマはふらふらとしてついには倒れる。前髪の長いティアラの少年のナイフをそのまま足で蹴り返した風くんはその少年の時計を破壊してふぅと息をはいた。



「っひょー、とことん規格外っ!」
「無事だろうなぁ、ベルフェゴール、リアス」
「ったりめーじゃん! アホのレヴィやカマのルッスとは出来と育ちが違うし。だって俺王子だもん」
「私も簡単にやられるたまじゃないわよスク」



 だが、ベルフェゴールと呼ばれた少年は「時計は壊されちったけど」と悪びれる様子もなくスクアーロと呼ばれる銀髪ロングの声のでかいイケメンに笑った。



「終わってんじゃねーか! リアスを見習えカス王子が! だからいつまでもぺーぺーなんだ!!」
「そー言うけど相手はあの化け物だししょーがなくね?」
『リアスちゃん言うんやかわええ』パシャッ
「……ボロ布女は黙ってろぉ゙!!!」
『うぃっす』



 その隣で恭弥が自分そっくりの顔を持つ青年を睨む。



「ねえ、ちょっと君。なに余計なことしてんの?」
「あなた方二人では危なっかしくて、見てられません」
『おい風くん』



 呪解した風くんは恭弥そっくりのとてもイケメンさんでした。これが本来の姿なのかと思うと次から抱き上げるのに抵抗があるがもうこの際気にしない。恭弥と風くんからの色気に当てられそうないおりさんがいます。



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165:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 15:05 ID:Ldk

Noside

「どいてくれる? 一人で出来るよ」
「おい待てヒバリぃ!」

 押し退けようとする雲雀にスクアーロが声をあげた。

「ヒバリを先に倒しちまったら激レア必至のアルコバレーノとの対戦ができなくなっちまうだろうが!」
「誰が倒されるって?」
「ふくれないで。レア度の問題ですよ」
「二人で掛かってくる分にはかまわないぜぇ! 三枚ずつ六枚におろしてやる! そこのボロ布女はリアスになぶられてろ!」

 スクアーロがリアスの方を見たときだった。泣きそうな彼女は拘束台に縄で腕を吊るされ、ボロ布の塊だった伊達が頭のフード部分をぱさりと落として芯のある短い鞭片手にリアスを眺めていた。

「んなっ」
「……いおりの目が輝いてたのはこういうことか」
「サディストモードのスイッチが入りましたね」

 いおりが彼女にスクアーロを指差しながら『こっちのことなぶれってさ。なぶってみ、できるんやったら』といやらしい笑みを浮かべて彼女の顔を覗き込んでいた。
 そこで「黙れカスザメ」と言う声と共に小さくて白い塊がスクアーロめがけて飛んでいき、オリジナルらしいナイフがリアスの腕を吊るしていた縄を切る。やっと来たな、XANXUS。とかその隣にいるマーモンを見つめながら思ういおり。そこでマーモンが風と会話をしていたのか「とにかくお前なんか大っ嫌いだ! 代理戦争に勝って呪いを解いてもとの姿に戻るのは僕さ!」と叫ぶ。

『さて。リアスの腕時計、壊しにいくか』

 いおりは瞳の奥に鋭利を宿らせながら睨んでくるリアスを睨み返した。

「それは本当なのか? 白蘭がコロネロの弾にやられツナが単独で家光さんを倒しに飛んでいった? ソイツはマズイぞ……今のツナじゃ家光さんに勝てない!」

 ヴァリアーVS風チームの戦いを物陰から伺う男が電話越しに呟く。相手にそっちの状況を教えてくれと伝えられ、彼は口を開いた。

「今来たところだが、すでに風チームとマーモンチームが……。! 始まった!
 XANXUS・スクアーロ・リアス対風・雲雀恭弥・伊達いおりの超高速バトル!」

**

 リアスに棍棒をブン回し、彼女のレイピアの攻撃を宙返りで避ける。そこで視界の端にXANXUSが銃を放ったことに気付き回避体制を取った。途端にドォン! とこの階のガラス窓が破壊され、みんながばっと距離をとる。
 マーモンが「なんてハイレベルな戦いなんだ、まだ様子見だろうに目が追い付かない」と呟いていたのを聞いて冷めた目で折れた左腕を右手で押さえるリアスを見つめた。折った。彼女はリング戦から強くなっているものの、到底及ばない。弱いままだった。ちらりと見回せばこちらのチームは風くんが少しダメージを受けていて恭弥に「君口ほどじゃないね、大丈夫なの?」と皮肉を告げた。

「はい。今の攻防で、この体のサイズの勘を取り戻しました」
「?」
「?」
「んだぁ? 負け惜しみかぁ?」
『アルコバレーノがそない弱いわけないやろアホ、まだこっちも勝ったことないのに』
「なっ」
「次はミクロン単位で動けそうです」

 服の裾に手を掛けながら放った風くんの言葉にスクアーロが「み、ミクロンだとぉ!?」と動揺する。リアスは歯を食い縛っていたので少し嘲笑った。バッと上着を脱ぎ去った風くんの肉体美に鼻血を出しそうになるも耐えてばっとVGを発動させて斧を構える。

「ヤロォ」
「カスが」
「面白くなってきたね」
『……』

 ボロ布を再び頭から被って、風くんの行きましょうの言葉を合図にこっちはリアスの背後に移動して裏拳を繰り出す。ぱきゃ、と言う軽快な音が響いて彼女の背を蹴り飛ばし、風くんが放つであろう技から回避させる。次の瞬間には風くんの奥義である爆龍炎舞が火を吹き、スクアーロの腕時計を破壊した。
 上空からXANXUSに止めをさそうとしていた風くんは急にぴたりと動きを止めて、それと同時に頭からコキンと音が聞こえた気がする。天井で退避した風くんはなぜかいきなり全身からぶしゃっと血を吹き出した。それから身を守るように布をグイと下げて目に入らないように防御する。ダンッと地面に着地した風くんは「危ないところでした」と呟いた。いきなりどうしたのか、訳がわからん。

「これで分かったろ? 武術より幻術の方が優れてる」

 凛とした涼やかな声が、フロアに響きわたった。

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166:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 15:38 ID:Ldk



「今放った奥義は、脳に特定の縛り(ルール)を作り、その縛りが破られたら肉体にダメージとなって返ってくる……バイパー・ミラージュ・R」
「ああそうさ。特別に今回は脳への縛りを教えてやるよ……。
 “勝利を疑ったものは、自爆する”」



 風くんの視線の先に居たのは、地面に藍色のおしゃぶりを転がさせて、自身をローブで隠した少女とも少年ともとれる子だった。XANXUSが「マーモン」と呟いたのであの赤ん坊なのだろう。顔はした半分しか見えていないが相当なクールビューティちゃんだろう。ショートカットの薄紫色の髪がフードから見えていた。



『……幻術?』
「そうだよ。バイパー・ミラージュ・Rを掛けられた者は、勝利を疑った瞬間に肉体にダメージを受けるようになるのさ。風のようにね」
『……へえ』



 こちらが布の奥から尊敬の眼差しを向けてマーモンを見つめれば、マーモンはふいと照れ臭そうに顔を背けて但しと続ける。
 どうやらバイパー・ミラージュ・Rは強力なぶん、対象者を絞れないようだ。だからこのフロアにいる人間全員に掛かっただろうし、味方それに自分にだって掛かってしまっていると言う。



「勝利を疑うと言う縛りは成功だったと思うよ。ボスの勝利への自信が揺らぐはず無いからね。ね、ボス」



 マーモンがXANXUSの横でそう言い放てば、風くんが「勝利への自信なら雲雀恭弥といおりさんも負けていませんよ」と言い返した。まあ、負けるとか有り得んとか思っとるけど。



「(ヒバリがどこまでボスに食らいついていけるかのかが見所だな。だが、この戦い勝敗の鍵を握るのは間違いなく__アルコバレーノ同士の戦いと、伊達の働きか)」
「マーモン、たしかあなたは先程幻術の方が武術より上だと言いましたね」
「ム。不服なのかい? 風」
「いえ、面白い比べ方をすると思い感心しました。そして興味が湧きました。
『私の武術があなたの幻術より上なのか下なのか』」
「その前向きなところが嫌いさ」
「そう言わずに」



 アルコバレーノの二人がざあっと砂のように消えたことに恭弥が目を見開く。スクアーロは二人が邪魔されないようにマーモンの幻術で姿を消し、一対一の勝負をする気だと言う。
 とりあえず腰のベルトポーチからスケッチブックを取り出し、バイパー・ミラージュ・R対策を作った。



『恭弥』
「なに」
『飲んどけ』



 出てきた丸薬を恭弥に渡してこっちも口に放り込む。これが、対策。幻術が効かないようにする薬だ。本当にこのスケッチブックは便利に思えて仕方がない。ノーリスクで思い通りの物が作れる。こくりと飲み込んだ恭弥は不思議そうにこちらを見た。



「なにこれ」
『幻術が、効かなくなる薬』
「はぁっ!?」
「幻術が効かなくなるだとぉ゙!?」



 スクアーロが「お前今日初めてマーモンが幻術を使うって知ったんじゃねーのか!」と叫ぶのに対し『おん、初耳やった』と呟いてXANXUSを睨む。



『んじゃ』
「僕らもやろう、ボス猿」
「散れ、ドカス」



 XANXUSと恭弥が駆け出すのと同時にこちらは距離を取って椅子に座り、スケッチブックにペンを滑らす。ストック付箋はいくらでもある。今は戦力を溜めようか。



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167:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 16:05 ID:Ldk



 こちらに三つの不思議そうな視線が突き刺さる。ちょ、なになにやめて。集中できひん。するとベルフェゴール、スクアーロ、リアナが興味深そうにとうとうやって来てしまった。



「ししっ、戦いほっぽりだしてなにお絵描きしてんだよボロ布サディスト女」
『……ひっどい言い草や、お絵描きちゃうし』
「どっからどう見ても遊んでんじゃねーか」
『VGのひとつやボケ』



 試しに札束の山の絵を書いて実体化させてみれば三人から「はあ!?」と言う声が上がった。天井にまで届きそうな札束の山。これはもう必要無いなと思わず破り捨ててしまえば、それは現実の物体として実在する。ドヤッ、と顔を三人に見せればムカつくと声を揃えて告げられた。解せぬ。



『とりあえずこの金は君たちにプレゼント(気まぐれ)』
「うわ。そのスケブありゃ何でもできんじゃん!」
『但し画力に限る』



 そう言い放ってフロアにボロボロの風くんと現在進行形で血を吐き出しているマーモンが再び姿を表した。


「考えることをやめなさいマーモン! 考えるほど多く血を流します!」
「あ゙っ!」



 マーモンめがけて駆け出した風くんは彼女に飛び蹴りを食らわそうとしながら「今気を失わせて楽にしてあげます!」ととびかかる。それと同時に風くんの首もとにひゅんっと赤いおしゃぶりが飛んできた。それにつられるように風の体は少年のものに変化し、ひゅんひゅんともとの姿に戻っていった。
 ……タイムオーバー、時間切れ。風くんは解呪の時間を使いきってしまった。コロコロ、と地面を転がった風くんは膝をついたマーモンの足にぶつかり動きが止まる。



「しまった! 私としたことが!」



<風の呪解、タイムオーバー>そんな無機質な音声が、聞こえた。



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168:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 16:23 ID:Ldk



「や…やった……。
ざまみろ風!! 勝負に負けても代理戦争で勝つのは僕だ!!」



 足元に転がる風に叫ぶマーモン。そのまま彼女は「風は戦闘資格を失った! あとはお前だけだ雲雀恭弥!」と恭弥に怒鳴った。恭弥はその様子をXANXUSの攻撃を受けながら見ている。



「ボスウォッチはもらった! えい!」
『効かへんで』



 マーモンが恭弥に幻術を発動させても何も起こらないことを見る前にこっちが彼女の前にたちはだって斧を構える。どうやらマーモンはこっちのことを忘れていたようだ。びくりと肩を揺らしてこちらを睨んだ。



「っ! さあボス! ボスウォッチを壊して!」
「あぁ飽きた。しねカス」



 マーモンがこちらを目の前にXANXUSに叫ぶ。芯の強い人だ、マーモンと言うこの子は。
 XANXUSの二挺拳銃の口径が大きく広がり、恭弥めがけてとてつもない威力のそれが放たれた。咄嗟に先程描き溜めていた絶対に貫かれない盾を恭弥の前に飛ばし、その攻撃を防がせる。XANXUSの攻撃はそのまま何も破壊することなく跳ね返り、XANXUSの頭上の天井を貫いた。



「お前! なにしたんだ!」



 マーモンがこちらに怒鳴り声をあげる。それにこちらはスケッチブックのページを素早く開き、マーモンを檻に閉じ込めた。



「いらいらするなもう! さっきからなんであんなチート級の物が飛び出てくるんだよ!」
『……それがこっちのVGやからや。こっちのVGは創造力と画力がものを言うねん。それを使いこなしてやれば__』



 一枚の紙をスケッチブックから千切り取ってビッと床に投げる。途端その場に現れたのは軍でも扱われる、戦車。



『__こんなことだって出来る』



 カチッと戦車のとあるボタンを押して『耳塞げ!』と怒鳴ってからXANXUSめがけて大砲を撃った。これで仕留められているとは到底思えない。とりあえずスケッチブックからこっちの身の丈二倍程の大剣を取り出し炎で軽化してから、槍投げの様にぶんと投げつける。50万倍、手が離れた瞬間そう叫べば轟音と共に床が盛大に崩れた。そこで、なぜか困り顔のディーノが頬を掻きつつ登場した。



「……いおりぃ、こりゃあやり過ぎだぜ」
『XANXUSがあれぐらいでやられるとはおもってへん』



 ディーノの登場にみんなが驚愕した。とりあえずこっちはさっきまで座っていた椅子に腰を掛けて疲れたので休ませていただくことにした。



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169:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 16:56 ID:Ldk



 少し寝てしまっていたらしい。大爆発でぱちりと目が覚めた。
 ここより上のフロアは消し飛び、ぼろぼろなXANXUSと恭弥の二人。その時戦闘終了の合図が鳴り響く。とりあえず、引き分けやな。だが恭弥は納得できておらず、決着をつけたいとトンファーを構えた。だが、すぐに時計から代理同士の戦闘許可時間外での戦いは固く禁じられていると聞き、恭弥はひゅっと回転させたトンファーで、ボスウォッチをばきっと壊した。
 みんなで一斉に口を開けて目を見開きながら恭弥を見つめる。恭弥は何でもないように壊れたボスウォッチを見せつけ、「いちぬけた」と呟いた。



「ぼ、ボスウォッチを……!! お前何したのかわかってるのか?」
「あり…え…ない…! 今までの戦いは一体なんだったんだ…」



 ディーノとマーモンがそう口を動かす。風くんが鼻をすすってから控えめに「優勝したら私と戦うと言う約束はよかったのですか?」と疑問を投げたら。



「僕は戦いたいときに戦う」
『……唯我独尊やな』
「……何か言ったかい?」
『なんも言うてへん』



 さっと目を逸らせばXANXUSが「だはっ! 同感!」と笑い出してこんなもの!と叫びながら憤怒の炎を時計に集める。それを見た瞬間マーモンは飛び上がり、他の幹部はXANXUSにのしかかった。



「ボォス! それはダメ!!!」
「はなせカス共!」
「嫌よXANXUS! 流石に全財産使い果たしたマーモンが可哀想!」
「時計は壊さないで! マーモンの一生のお願いなのよ!!!」
「ゔぉ゙ぉい跳ね馬ぁ! 早くヒバリをつまみ出せぇ!」



 ドタバタ喜劇を巻き起こしているヴァリアーを横目に檻の方へ赴き檻を消した。プレゼントストップさせて赤ん坊の姿に戻ったマーモンの前にしゃがみこんで頭を撫でる。なんってかわええんやこの子。甘んじて受け入れてあげてますってところがまた。



「……なにさ」
『いや、全財産使い果たしたってほんま? いくらほど?』
「そうだよ、兆はあった。僕は元の姿に戻るために金を集めていたんだ……ヴァリアーリングに使ったよ」
『ん。いおりさんの気まぐれな』



 スケブにさらさらと先程描いた札束の山を五、六個ほど書いて出現させ、現実のものとするために破り捨てる。ぱっと現れた金の山にマーモンは唖然とした。



「……これ、本物?」
『ん、本物。京の額の金や。やる』
「……くれるの」
『嘘は言わん』



 ふよふよと浮遊して金の山を見上げるマーモンはこちらを向いて「感謝の言葉なんて言わないよ」と幻術でそれを消して少し嬉しげだった。こっちは最後にマーモンの頭を撫でてからディーノと戦うと言って聞かない恭弥の元へ行く。



『恭弥、こっち疲れてもた。風くんも、帰ろや』
「うん」
「はぁ!!!?」



 ディーノが背後で大口開いて驚いているのを一瞥し、蔑笑して背負えと無言の圧力を掛けてくる恭弥をおぶった。恭弥の頭の上に風くんが飛び乗った気配がする。



『……そんじゃ、お先失礼するで』



 そのまま床からタンッと飛び降りる。スケブから浮遊機を呼び出し取り付けてそのまま家へと直行した。



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170:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 22:26 ID:Ldk


 空中散歩をして、しばらくしてから風くんは報告が入った第八のアルコバレーノについてアルコバレーノ全員で話し合うために今夜は一晩空けると途中で別れた。いってらっしゃいと一言送り出してもう遅いからとっとと家に帰って寝ようということになった。面倒なので今日も恭弥は家に泊まる。途中コンビニに寄りたいと言い出したので恭弥をコンビニで下ろして天体観測。栄養ドリンク等を購入して出てきた恭弥を再び連れて帰宅する。
 もう今日はいろいろあって疲れたわ。とソファに座り込んだ。電気をつける気力も無い。
 新任英語教師として現れたディーノ、ヴァリアーとの代理戦争の引き分け、恭弥の自爆。本当に、いろいろとありすぎた。ヴァリアーのみんなが規格外過ぎる。マーモンかわいかったよ。



『もう、はよ寝よ』
「……」



 はあと溜め息をついて立ち上がれば隣に座ってテレビを見ていた恭弥がすかさずグッとこっちの服の袖を親指と人差し指で摘まんで引っ張った。なんやこのいじらしくも可愛ええ小動物は。
 とか考えてる場合じゃない。素早く脳内整理を終えて、それでも唖然として恭弥を見つめる。とりあえず中腰のこの状態も腰にクるのでもう一度座らせてもらった。



「……」
『……』



 隣でむすっとこちらを見てくる恭弥の鋭い目を見つめ返して数十秒、恭弥はおもむろに全体重を乗せてぐいっと唇を寄せてくる。その表紙に自然と押し倒される形になって、珍しく今日はこちらが下だ。軽やかなリップ音を立てて離れる恭弥は目を見開いた。



『……ん?』
「ん、じゃないよ。もうちょっと警戒心を持ったらどうだい? 無防備過ぎる」
『……はぁ、風紀委員がこんなことしてええんか』
「僕も男なんだよ。……もう、僕がコンビニに寄った理由も分かってるんじゃないかい?」



 がさりと栄養ドリンクの中から取り出した、恭弥の手に収まって彼が揺らす度からからと中から音を出す箱を唖然と見つめる。
 僕は男、こっちは無防備過ぎる。つまり、そう言うことで。コンビニに寄ったんも、ソレ買うためで。今こっちに覆い被さっている恭弥は薄ら笑いを浮かべた。



『……あー』



 言葉にならない呻き声をあげながら右腕で目を覆えばすかさずそれは外されて頭の上で固定された。こっちの上にいながらもやっぱりどこか可愛らしい顔をする恭弥の唇に吸い付いて舌を差し入れて歯列をなぞり、上顎を擽って流れてくる唾液を飲み込む。



「……っは、ぁ」
『……あー、こっち初めてやけど』
「安心しなよ、僕もだから」



 再びもう一度唸って、まあエエか。もうどうにでもなれと不敵な笑みを浮かべてから恭弥の腰を片腕で引き寄せた。



**



 情事後、体力の限界の所為か、ソファの上でぐっすりと眠る恭弥に服を着せてから換気扇を回す。ついでに窓を開けて網戸にした。声は最小限押さえたので大丈夫な筈……って信じたいわぁ。とりあえず恭弥からは「僕の下に居るクセに言葉で攻めてこないでくれないか」と後々言われそうだ。やって、やられっぱなしはしょうに合わへんし。



『……途中で戦闘許可時間になったな』



 一応盗聴される危険性もあるので時計は外していた。もう既に終わっているであろうそれに沢田たちはどうなったやろうかと黒のTシャツと短パンを着ながら考える。スカルと言うアルコバレーノがやられてバミューダと言うヴィンディチェ引き連れた透明のおしゃぶりの赤ん坊。謎やな、とか思いながらなんの会議をしとるんやろうと今ここにいない赤色のアルコバレーノの姿を浮かべた。
 黒猫のような恭弥に毛布を掛けてとりあえずこっちはタブレットからユーチューブで活動しているポッキーさんの実況動画を見ることにした。



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171:ぜんざい◆A.:2017/01/17(火) 23:34 ID:Few

それからしばらくして、目覚めた恭弥と朝食を取る。風くんはまだ帰ってきていない。朝食を腹に納めてから昨日一睡もしてないのに気が付き、自覚した途端激しい眠気が襲ってきた。

『すまん恭弥。眠いから寝るわ』
「…僕もまだ眠い」

クッションを枕代わりにしてソファに寝転ぶと、恭弥がもうひとつのソファに腰を掛けて目を閉じた。腰は痛いし体はダルいしと調子は悪いものの、気分は悪くない。なんやろ、なんちゅーかすっきりしとる言うか。そんなことを考えながら、瞼は自然に降りてきて、抗わずに睡眠を欲した。
しばらくしてからがちゃりと玄関の鍵が開けられた気がして、目を覚ます。リビングを見渡せば既に恭弥は起きていて、FAIRYTAILを手に読書をしていた。ぼうっとしたまま空を見つめていたらリビングの扉が開けられて、気の抜けた声が響く。それを聞いた途端恭弥が漫画から顔をあげて嫌そうに顔をしかめた。ディーノである。

『…兄貴か、おはよう』
「おうおはよう! もう昼前だけどな…ってうお!? なんで恭弥がここに居るんだ!?」
「貴方には関係ない」
『昨日遅かったし、こっち体力限界やったから送る暇無くてな。泊まらせた』

少し微妙な顔をしたディーノだが、彼はこっちが本当に、体力が無いことを知っている。

「ほら、家でゴロゴロしてっと不健康だぜ。飯食い行こう!」
『嫌や』
「嫌だ」
「二人揃って即答かよ!」

ショックを受けたような振る舞いをするディーノをとりあえずソファに座らせて、テレビを付ける。キッチンの昇降機からポテトチップスのLサイズの袋を持ってコーヒーテーブルの上で広げた。コの時型のソファの一角をうつ伏せに寝転がって漫画を静かに読んでいる恭弥に占拠されているが、まあ許してやろう。
庭に繋がる大窓の方からゴオと言う音が聞こえ、首をかしげる。恭弥はめんどくさそうに身を起こした。そしてディーノが「ツナか!」と笑みを浮かべて名を呼んだ。上から降りてきたのは沢田。降りてきた沢田に合わせて窓の鍵をがちゃりと開けて中に入れる。

『よお分かったな、ここが家て』
「ツナは初代ボンゴレの直列の血筋だからな。ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)のおかげで超直感ってのがあるんだ」
『そら便利やな』

わしゃと沢田の頭を撫でてから家に改めて招いた。

「で。どうしたんだ? ツナ」
「あの、実は、三人に話があって来たんです!」
「話? 急ぐのか?」
「はい! とても!」

沢田に説明を受ければ、復讐者とはアルコバレーノの成れの果てらしい。この代理戦争は次期アルコバレーノを探すための戦争で、現アルコバレーノたちに掛けられた呪いは解けるどころか、勝敗がどうであれクビになり殺されてしまう、これは名が残らぬよう二世代間に分けられ、選ばれし七人がアルコバレーノになってしまう“運命の日”もまた然りらしい。仮にアルコバレーノは生き残っても廃人になるか、ヴィン復讐者になるかのどちらか。そして復讐者かつ透明のおしゃぶりを持つバミューダはこのアルコバレーノ交替システムを無くすため代理戦争に参戦し、唯一接触の可能な優勝のタイミングで、鉄の帽子の男、チェッカーフェイスを倒そうとしている。だが、チェッカーフェイスとシステムを葬り去ると現アルコバレーノの存在も消えてしまう。アルコバレーノに残されたのは生きるか死ぬかではなく、何をして死ぬかに限られている。だが沢田は現アルコバレーノを見殺しにせず7зを維持する方法を見つけた。それはおしゃぶりの死ぬ気の炎がなくなる前に、新しい炎を注入すると言うこと。その七つの炎が今後消えぬよう第8の炎『夜の炎』の持つワープの特性を使い延々と炎をともしていられる。イコール現アルコバレーノは死なないし、今後アルコバレーノと言う被害も合わないと言う事だ。

「バミューダチームそこまで強いのか!」
『それ、エエ案やけど、先にそのバミューダ倒さんとソレは無理ちゃうか』
「その事で話があります。俺の家に行きましょう」
「おう」
『ん』
「…」

そうしてこっちらは沢田家へ移動したのだった。

172:ぜんざい◆A.:2017/01/18(水) 22:32 ID:Few


 沢田家に来ると、既にヴァリアーや古里達、ミルフィオーレやキャバッローネの人々が彼の家の中や収まりきらなかった人は家の外にいた。とりあえず恭弥が中に入って群れるのを嫌がったのでお隣の屋根の上で待機。まもなくして恭弥くんは寝転がって寝ましたがなにか?
 こう見ると、ボンゴレの守護者のくせしてやはりボスである沢田と関わり合いがあまりなかったからか見知らぬ顔は多い。あのシモンの所に居るメガネとかリーゼンとか誰やねん。いやそれより。
 沢田家の庭の塀にほと近いところにてフワフワと背中の羽で宙に浮くあのぼさぼさヘアーの方は誰かな? もしかして白蘭サンなん?



『……とりあえず、書こう』



 全体的に白い風貌にまっさらな汚れを知らなさそうな白銀ともとれる綺麗な翼。これを絵に書かないで誰が美術部やっちゅーねん。持参の百均とかで売ってるスケブ片手に凄まじい速度でシャーペンを滑らせる。バリバリと音がうるさかったからか恭弥が眉を潜めながら起き上がってきた。



「……何書いてるの」
『あっこの白い人。後で許可とる。あかんかったら捨てる』
「いおりは僕だけを描けば良い」
『え、いや、そういう訳にもいかん』
「……書き上がったら見せてよね」
『ん』



 再び上体を倒して睡眠を取り始める恭弥を微かに一瞥してもう一度白蘭らしき人物を観察しようとすると、彼はこっちの目の前でにこにことこちらを見ていた。



『……ビビった……』
「ホントに? そのわりに普通の顔だけど?」
『いや、驚きましたて』
「関西弁だし、やっぱり伊達サンだね。君にとっては“はじめまして”かな、知っての通り僕は白蘭だよ」
『……ども』



 やはり白蘭だったのかと嘆息し、被写体として絵を描いても良いかと聞けば「もっちろん! 全然おーけーだよっ!」と後で見せてねと許可をいただいた。彼は満足したのか先程の場所に戻り、やはりにこにこしながら空中浮遊。
 沢田にお守りを渡しに来たらしい笹川京子(今後は京子と呼ぼうそうしよう)やハルがクロームを連れて沢田家に訪れた。彼女たちはヴァリアーを見「はひっ、何か恐い人たちがいます!」家の中を見「バジルくんや古里くんが居る!」白蘭を見「あの人飛んでます!」こっちらを見「お隣の屋根でヒバリさんが寝てて伊達先輩が絵を書いてる!」と声をあげた。静かに見守るクロームはとても麗しゅうございます。



「だから。お願いです。一緒に戦ってください」



 彼の家のリビングから、沢田綱吉の力強い言葉が聞こえた気がした。



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173:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 11:12 ID:Few



 前回、復讐者(ヴィンディチェ)に闇討ちを掛けられたらしい沢田はリボーンくん達アルコバレーノ達を救うための道具をあの彫金師、タルボさんに頼んでいると言う。



「ここにみんなに来てもらってることも、リボーンが知ったらきっと反対すると思う。もちろん無理にとは言いません、この戦いは危険すぎるんだ……」



 そうこっちらに告げた沢田の顔は勝ち目が無いなんて思っている顔じゃなかった。自然と布に隠れた顔が微かに緩むのを感じる。隣の恭弥も少しむず痒い顔をしていた。他のみんなも口に笑みを浮かべたり、曖昧な顔をする。



「フフッ。でもツナ君は勝ち目が無いなんて顔してないよ」



 そう笑みながら呟いたのは古里炎真だった。この言葉を皮切りに骸は「そのようですね、負けるつもりなど毛頭ない、そういう顔だ」と呆れた笑みを見せて一言放つ。「こーゆーときの綱吉くんて怖いんだ♪」「何を企んでやがる、ドカス」と白蘭、XANXUSも続けた。



「まだ細かく詰めてはいないけど、ひとつだけ決めてます……。
今度はこちらから仕掛けるんだ!!!!!!」



**

虹の代理戦争四日目。午後3時。「ティリリ」と『リ』ゲシュタルト崩壊を巻き起こしそうなけたたましい音で戦闘開始時間は始まった。今回の制限時間は90分。ずいぶんと長いものだなと嘆息すれば隣の恭弥がちらりとこちらを見てから視線を前に戻す。
 ディーノは立ちはだかる復讐者のイェーガーと透明のおしゃぶりを持つバミューダを前に彼らのなぜ沢田がいないのかと言う質問に答えてやった。
 沢田を中心に復讐者を倒す作戦を考えたのだが、やはり個性豊かすぎるメンバー故か、白蘭とXANXUS、六道骸が復讐者で一番強いイェーガーと戦いたいと物申した。沢田がそれだとバランスが悪くなるんじゃ、と横槍を入れると「断るのならやめだ、てめえとは組まん」「交渉決裂ですね」「多分僕も作戦作っても破ってイェーガークンのとこ行っちゃうな」と協調性皆無だ。沢田がディーノに助けを求めれば「お前がイェーガーと戦ったりそれ以外の復讐者に人員を均等に割く必要はない」と教えられる。
 イェーガー以外の復讐者を分断出来れば勝機はあるのだ。白蘭、XANXUS、六道骸がイェーガーにつっかかってる間、年が近くて機動力もあり実力も兼ね備えた沢田、古里、バジルの遊撃隊で各個撃破でも良い。こうして作戦は決まり、相手が自分達になったのだと教える。
 戦闘になった途端白蘭はイェーガーに白龍を繰り出して襲わせるも、イェーガー達復讐者が持つ第8の炎、夜の炎の特性『ワープ』でその白龍は首を斬られて倒された。
 そのままワープしたイェーガーは白蘭のところにいくと思われたが、XANXUSの背後に移動する。気付いたXANXUSが舌打ちを咬まして右腕の銃を振り上げたと同時にイェーガーの腕がXANXUSの右腕を吹き飛ばした。宙を舞うXANXUSの右腕を見てスクアーロは顔を驚愕に歪ませて左手の拳銃でイェーガーが居たところを撃つも避けられる。そのまま斬り掛かったスクアーロは左腕に装着された剣を振るうもワープで避けられ背後を取られた。そのまま剣でイェーガーの拳を受け止めるも剣がやられてしまい、スクアーロは心臓を貫かれてしまう。
 倒れたスクアーロに「起きろカスザメ」と短く言葉を吐いたXANXUSは飛ばされた右腕の断面を自身の怒りの炎で焼き止めて「ボス! 隊長!」駆け寄ってくるマーモンを「るせえ! 俺の事はほっとけ!」と怒鳴って一喝した。彼の皮膚には本気でキレると浮かび上がると言う9代目につけられた傷が見えており、怒り狂っている。怖きかな。



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174:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 11:43 ID:Few



 骸が「問題は死角となる背後へのショートワープ」と告げて、ヴェルデの幻術を本物にする機械で背後に鋼鉄のカバーを作った。白蘭の背後からぶつけられたイェーガーの攻撃はその鋼鉄のカバーに阻まれる。だが、次の瞬間イェーガーは腕だけワープさせ、白蘭の体を貫いた。ワープは全体だけではなかったらしい。盛大に血を吹き出す白蘭は「ほらXANXUSクン、今だよ」とXANXUSに指示した。



「でかしたドカス!」



 そう叫んだXANXUSは左の拳銃で経口がひどくでかいそれをぶっぱした。しかし、ぶっぱするもイェーガーはそれをワープで避けてXANXUSの両足の腱を切った。倒れ込むXANXUSと白蘭に、ヴェルデが呪解してスパナたちとの合作であるG(グリーン)・モスカで応戦するも効果なし。速攻でやられてしまった。
 そのまま六道の背後に飛んだイェーガーは彼の槍を折って腹へと腕を突き刺す。「浅いか」と引き抜いてもう一度刺そうとするその腕はディーノの鞭に巻かれて阻止された。なんてハイレベルな攻防だろうか。
 だがしかし、腕を残してワープしたイェーガーがディーノを肩から腰に掛けて大きく切り裂く。もう一撃食らわそうとするイェーガーの腕はディーノが骸にたいして攻撃を防いだように、鎖に腕を浚われ再び阻止された。そのチェーンの先に居たのは、トンファーを握る恭弥だった。



「借りは返したよ」



 ディーノに何か借りがあったらしい。未来でのことかと納得する。そのまま恭弥はイェーガーに鎖を投げ付けて仕掛ければ、イェーガーはワープするでもなくて受け止めてダメージをいなす。彼は今避けなかった。ということは、VGでの攻撃はワープで避けられないと言うこと。チャンスやな、とこちらはスケブで描いた転送機器を使い音もなくイェーガーの背後に現れ、斧で背を切り裂いた。



「ぐあっ!」
「なんだって!?」
「!!! ナイスだぞダテ!」



 痛みに声をあげるイェーガーに構いもせずスケブから槍を放つ。結局は避けられたが逃がすわけにもいかない。



「! ……彼女は」
「風の代理だった、ボンゴレの二人目の最強だぞ、バミューダ」
「……雲雀恭弥はまあ対処できる……彼女のあの瞬間移動はなんだったんだ」
「あいつのボンゴレギアだ。あのボンゴレギアは想像力と画力がものを言う。絵描きのダテにはぴったりだ」



 そんな会話をしているとは知らず、距離をとろうとするイェーガーに噛み付くように斧をぐるぐる目まぐるしく振り回した。刃物並みに鋭い腕をついてきたので宙返りして避けて、距離を取ったイェーガーにスケブから刀を取り出す。



『100万倍の10tや!!』



 宙返りのまま刀をぶおんと投げ飛ばしながらそう叫ぶ。勢いよくかつ素早く飛んでいく刀はイェーガーめがけて飛んでいき、次の瞬間にはドオオォンと地を大きく揺らして大きく砂煙を発生させた。
 ぶわ、と巻き起こる風はこちらの体を吹き飛ばしてくれる。ばさばさと激しくはためくボロ布を視界に入れながら地面まであとどれくらいだ。と呑気に考えながら宙を飛んでいればがっと体を支えられる。顔を見れば六道骸だった。



『お前か、六道』
「凄まじい攻撃でしたね、伊達いおり。こんな実力者がボンゴレにまだ居たとは」
『とりあえず離して』



 支えられていた骸の腕を退けてイェーガーの方を見る。砂煙が晴れればそこには地面を大きく陥没させて刺さっている刀と、その横で膝をついているイェーガー。……攻撃の刃は届いた筈。



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175:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 15:35 ID:Few


 ふわっとイェーガーの肩に乗り上げたバミューダ。



「次から次へと雑魚共か」
「いいさ、今のでディーノ君は戦えなくなった」

 グッと血を吹き出しながら膝をつくディーノはとても体調が悪そうだ。慌ててディーノに駆け寄り背中に背負ってXANXUSの元へ運ぶ。「あと三人だな」と呟いたイェーガーはちらりとこちらを見て、ふいと目をそらした。
 スケブから某魔法先生漫画で読んだ近衛ちゃんの治癒扇を取り出して回復に当たる。漫画同様完全回復治癒は一日一回、怪我をしてから3分間。右腕と足の腱が斬られてしまったXANXUSにそれを使用する。もとに戻る右腕と足を見てマーモンが「な、治った!?」と声をあげる。彼女の頭を撫でながら「治っても体力がない、見といたって」と頼んでからディーノの方に取り掛かる。ある程度回復させてふぅと額の脂汗を拭った。
 背中から聞こえるのは骸と恭弥の不一致な協力でイェーガーを追い詰めている音、途中から沢田が到着した。なぜこっちと恭弥のVGの攻撃をワープで避けなかったのか、今はなぜ避けていられているのか、疑問に思うもディーノに専念せねば。背後をちらりと一瞥して完全にディーノを治す。「ありがとな」と返ってくるディーノの言葉にどっと疲れが襲ってきた。



「驚いたぞ、お前のVGはこんなこともできるのか」
『これはこっちの知識から引っ張り出してきたやつや。テキストと絵を一緒に描けば、実現化する』
「有能だな」



 話し掛けてきたリボーンくんにそうやって答えを返す。
 その直後、近くからずぶりと言う肉が裂ける音が響いた。何事かと背後を見れば、何も居なくて疑問に思うも直ぐにこれは他人のものではないと感じた。一同がこちらを見て目を見開いていたのを見て自覚する。



『あ゙ぁっ!?』



 そのとたんじくじくどころではなく焼けるような痛みが襲ってきて思わずガクリと膝を付いた。ボロ布さえ貫いてこっちの肩を怪我させたのはあの部分ワープで、出てきた腕を無理矢理ひっこぬく。



『っで、』
「ダテ!!! お前なに無理矢理ひっこぬいてんだ!」
「っ、いおり!」



 リボーンが駆け寄ってきて、同じように左肩に刺し傷のような傷で血を垂れ流して倒れている恭弥が叫ぶ。
 どうやら復讐者はバミューダに与えられた炎エネルギーを蓄えて戦っていたらしい、バミューダが肩に頻繁に乗っかるのは補給するため。気付かなかったこちらも悪いが、よく気づいてくれた沢田。そうしてイェーガーを倒したようなのだが、イェーガーは最後の力を振り絞り、無傷のこっちに傷を負わせてくれたようだ。
 貫通した痛みは尋常ではなく、空いた風穴を押さえてうずくまる。



『ふぐっゔぅ』
「ダテ!」
「伊達さん!」



 はあはあと荒く息を乱すこっちにリボーンは(ここまで伊達が表情を露にするのは珍しいな、それだけやべえってことか)と顔をしかめる。
 恭弥も恭弥で自分だって痛いくせしてこっち見よってからに。最後の力を振り絞ってスケブに手を伸ばす。ひゅん、と出てきたのは先程と同じ治癒扇。これ、本当は一日一回やねんけど、明日の分を前借りして使うこともできる。
 光出すそれに身を任せればばきばきぼきぼきと肩から聞きたくない音が聞こえてきて口を固く引き結ぶ。布をめくればそこに傷はもうなく、いつも通りの肩だ。
 ダルい、体の中でなにかがぐるぐる回っているような気がしてならない。これは大きすぎる治癒扇子の力が体の中で渦巻いていると言うことか。後でどうにかせねばと落ちてくる瞼に好きにさせて、意識の糸はプツンと切れた。



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176:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 16:11 ID:Few


 目が覚めたらそこは病院で、一番に視界に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。
 むくりと起き上がって部屋を見渡せばいつも通りに優しく微笑む風くんを見て、『終わったん?』と聞けば「はい」と返された。彼の胸元におしゃぶりはないので大方成功したのだろう。
 こっちはなぜか普通の病服ではなく、黒いパジャマだ。……恭弥のものと同じだが、下は短パンだった。
 ……ともかくここは病室の、個室だ。とりあえずボロ布は無かったのでシーツで代用すれば「相変わらずですね」と曖昧に笑われた。
 そのまま風くんを抱き上げて腕に抱えながらぽけーっとしてると隣の病室が騒がしくなって、次の瞬間にはどごおーん、と派手な音を立てながら炎がこの部屋の壁を貫き、そのまま反対側の壁すらをも破壊した。
 目の前をきょとんと眺めていると炎が飛んできた反対側からビュッと鎖が飛ぶ。飛んでいった方向から「なっ、今の武器は!」と言う聞き覚えのある声が聞こえてきた。あの鎖は確か、恭弥のVG。隣は恭弥の部屋やったんか……。
 ぎゅ、と風くんを抱いてシーツの奥からぼう、とそちらを風くんと一緒になって見ていればヒバードの群れを連れた黒いパジャマ姿の恭弥が「僕の眠りを妨げるものは、何人たりとも咬み殺す」と告げる。
 恭弥とは反対側の部屋はヴァリアーが使っていたらしくて、沢田が「ヒバリさんもこの病院に!?」と叫びをあげる。ここは多分並盛病院やろな。っていうか恭弥、奥の壁壊してもーとるやん。



「ん、あれ、いおり」
『お、おはよう恭弥』
「ヴァリアーの隣の病室伊達さんだった! 伊達さんもこの病院にいたんだ……」
『ん。お疲れ沢田』



 布の奥からひらひらと手を振れば「白玉さんから手をふってもらった!」とハイテンションになる沢田。
 こちらにちょこんとやって来た数匹のヒバードの頭を撫でながら彼らのやり取りを傍観する。あ、ミルフィオーレも居る。
 恭弥が貫いた反対側の壁はどうやら六道たち黒曜一味がいたようで、ヴァリアー、恭弥、ミルフィオーレ、黒曜一味でドンパチ始めよった。やめろや。
 早々に傍観をやめて自身の個室にVGで作った絶対空域を張り付けて再びベッドに背を下ろす。



『……おしゃぶり無いと違和感あるなぁ風くん』
「そうですか? 私にはよく分かりませんね」
『風くんこれからどないするん?』
「……そうですね、呪いも解けましたし。私たちはこのまま年を重ねて成長するようなので、また旅に出ようかと」
『寂しなるなぁ……。よかったらでエエからこっちの家拠点にしたら?』
「良いのですか」
『かまんかまん、今更や』



 わしゃわしゃと髪をなでくり回す。多分中学を卒業したらボンゴレ本部があるイタリアに飛ぶ予感もするし、穏やかな残りの日々を楽しもうではないか。
 よきかなよきかな、と雲ひとつない晴天の空を窓から見上げた。



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177:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 16:42 ID:Few


 あれから一週間、こっちは以前とは少し違った生活を送っていた。……親が、帰ってきたのだ。



「いおりー、ボンゴレの守護者になったんですって? 名誉なことよねー」
「俺らが世界一周旅行と言う名のキャバッローネの任務に当たっとるときにそないでかいところの幹部になっとるとはな……!」
『……うっざ』



 どうやら両親はキャバッローネファミリー所属だったらしい。なんだってんだよ! とか某ポケモンダイパのキャラクターみたいに言ってみてももう遅いし、はぁと溜め息を吐いた。
 親は火傷とか傷とか初日はめちゃくちゃうるさかったので思いきりスルーして学校にやって来た。
 そう言えば、変わったところと言えば、みっつ。ひとつは恭弥がオープンに近付いてくるようになった。



「おはよういおり」
『おはよう恭弥、お疲れ』



 校門を通って下駄箱付近で恭弥と出会った。まだ関係性は明かしてはいないものの勘が超直感並みに鋭ければ気づいているやつも居るだろう。男子生徒の無躾な視線を受けながら溜め息を吐く。
 二つ目はもう学校中にこっちが白玉だと言うことがバレてファンだと言う子がサインをねだりに来るようになった。そう言うのは苦手なので最近は全力で逃げている。
 三つ目、それは沢田たちが見掛けたら挨拶しに来てくれることだ。



「おはようダテ」
「お、おはようございます伊達さん!」
「おはようなのな、伊達先輩!」
「っち」
『おんおはよう。っちゅーか最後の舌打ち気に入らんねんけど。なぁ、めっちゃ気に入らんねんけど。気に入らんねんけどおい獄寺』
「うるっせーよ! うぜーな!」



 う、うざないわ!
 内心動揺しながらもスルーして『じゃ』と先行く恭弥のあとを追う。



『……恭弥、今日見回りか?』
「そうだね、午後から」



 隣を歩く恭弥に聞けば午後からだと聞く。そのまま応接室に入れば恭弥はばふ、とソファに腰を下ろした。こっちもつられて反対側のソファに座る。
 そのまま無言で見つめ合うと少し笑えてきて、布の奥で口が緩んだ。



「いおり」
『なん』
「好きだよ」
『こっちも好きやで恭弥』



 満足したようにふわりと微笑む恭弥に鼻血が出そうだ。慌てて鼻を手で覆ってからティッシュで押さえた。



「……なにしてるの」
『……鼻血出そう。ちょお、さっきの顔に興奮した』
「変態」



 結局鼻血が出なかったのが一番の救いで、いじらしくも子供らしく可愛らしいキスをかましてきた恭弥に無理矢理攻守させて舌を滑り込ませてから口内を犯す。ぷは、と口を離せばそこから伸びる唾液はぷつりと切れた。



「……いおり、」
『ホンマかわええなぁ、恭弥』
「放せ馬鹿!」



 恭弥くんは相変わらず可愛らしいです。



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178:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 17:34 ID:Few


 一応上記のもので完結です。ここから番外編やifが増えます。きっと。

番外編【知られる】

 一人のボロ布を頭から被った少女が学校の廊下を歩けば、周りの生徒たちは割れるように道を開ける。
 少女_伊達は普通より男らしい顔をしている平凡な少女だ。特段美少女と言うわけでも無いし、勉強は彼女の取ったテストの点数は平均点として扱われるし、運動も飛び抜けて言い訳でもない。彼女としては女子持久走の1000mを走りきれるような体力すら持ち合わせていなかった。所謂体力無しだ。それでも生徒は彼女を目で追う。
 ただ、人柄は女子から憧れの的になるような気品と優しさを持ち合わせて心がかなり広い。以前一人の女子生徒が文化祭の時に伊達にペンキをぶちまけてしまっても「気にしなや」と怒りすらしなかった。行動が男らしいからなのだろうか。彼女に恋愛的な好意を抱く少女は多い。
 顔は平凡と言えどパーツは一つ一つが綺麗なもので、布から覗くショートカットで毛先が外に跳ねた艶やかかつ綺麗な黒髪、眼鏡の奥からでも色褪せない黒に赤が混じったような切れ長な目、化粧などしていない頬は薄い小麦色で、横一線に固く結ばれた唇はリップなど塗っていないだろうに綺麗な薄い桃色。彼女は可愛いものはあまり好きではなく、制服はリボンではなくネクタイだった。可愛いものも似合うだろうにと思った生徒は数知れず。
 身長は170cm程と高く、腕はすらりと長い。ミニスカートから伸びる太ももはちょうどいい具合に柔らかそうで、布からちらりと見えるふくらはぎは流石空手部だと思える程引き締まっている。腰は贅肉など知らぬようにアーデルハイト程ではないにしろ細く、
 ただ、男子が目で追うのは制服のベストに収まるネクタイと揺れる伊達の制服をはち切れんばかりに圧迫しているその豊満な胸だった。
 人よりかなり大きなサイズの胸は歩くたびに制服ごとたゆん、と魅惑的に揺れて視線が釘付けになってしまう。全体的にバランスの取れた肉体に恐らく形のいい美乳だろうと思われるそれは、思春期の男子生徒には目の毒だった。それがボロ布で隠され余計に妖艶に思えて、見てはいけないものを見てしまっているような感覚に陥る。幾人もの男子生徒が彼女を脳内で犯しただろうか。既に彼女が並盛最強の風紀委員長に全てを晒して繋がったことなど知るよしもない。
 そんな彼女に告白などと言う無謀なことをするようなバカはいない。彼女は校内のクールイケメンかつ高嶺の花は誰も手が出せないのだ。
 今、彼女に最も近いと言われている男が一人いる。だが、雲雀との関係などまだ知られていないので、それは違う。
 彼女に好意を抱くことを顕著に表す少年がいるのだ。



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179:ぜんざい◆A.:2017/01/21(土) 22:52 ID:Few

ただ、その少年はいおりのことが好きでも、いおり自身名前なんて覚えていないので話すのは決まって少年から。おはよう等の会話なのだが、マフィア関連人物以外で自分から話し掛けに行かないいおりはもちろん自分からその少年に声をかけることなどない。ただ、少年が話し掛けると短い挨拶程度はするので「伊達さんが喋ってる!」と噂になっていた。

「おっ、おはよう伊達!」
『おはよう』

 その日も少年はいおりに声を掛けた。友人からは彼氏確定じゃね等とつい先程言われたからか少し嬉しそうだ。それもそのはず、彼はサッカー部のエースのイケメン、例に漏れず女の子にモテていた部類だった。対するいおりは元々自身に声を掛けてくれる人が少ないので少し感激しつつ表には出さない。
 そのまま少し立ち話をして、二人は別れる。もちろんその少年が彼氏確定かもしれないと言う噂はいおりの耳には一切入っていないのだ。だが、雲雀は違う。自分が居ないときに特定も出来ない男子がそんなことを噂されていることに若干の腹を立てつつも応接室以外では風紀委員長の威厳を失うわけにもいかないのでやきもきしていた。

「淵樫(フチカシ)。伊達さんもお前に気があるんじゃね?」
「やめろって! まあ、昼休みに伊達さんに告白しようとは思ってるけど」

 まあ、呼び出すんじゃなくて俺が自分から伊達さんのとこ行くんだ。と照れ臭そうに告げた少年_淵樫の思考回路はこうだった。自分から伊達のクラスへ赴き、そこで告白する。そしてオーケーを貰えばそこで彼女を自分のものとして知らしめることが出来ると言う訳で。そして淵樫は、いおりの口から出る言葉がもうオーケー以外出ることはないと思っていた。
 昼休み、淵樫がいおりのクラスに行くといおりは居なかった。クラスメイトに聞くと、大抵昼休みは授業が終わるとすぐに教室を出ていると言う。今回も例に漏れず。そう聞いた途端淵樫は駆け出した。早くいおりのところで告白せねば、と言う謎の使命感に駈られながら。いおりの背中を見付けたのは応接室の近くだった。ここには誰も寄り付かないのに。危ないだろう、と淵樫が「伊達!」と声を掛ける前にいおりは五回ほどノックしたあと、がらりと扉を開いて何でもないように中に入っていった。ここで少年は目を見開く。伊達が慣れた手付きで風紀委員長の居る応接室に入っていったのだ。何をしにいったのかとても気になる為、聞き耳を立てた。奥から聞こえてきた言葉に淵樫はさらに目を見開くこととなる。

『ありがと恭弥、…このぜんざいどこで買ってきたん?』
「いおりが初めて僕の絵を描いたあそこだよ、僕が買いに行った訳じゃないけど」
『ああ、やっぱりか。あそこのぜんざいうまいやんな』
「そうだね」

なんと、あの雲雀と伊達が仲良さげに下の名前を呼びながら会話をしていたのだ。しかもいおりから声を掛けている。安らいだアルトトーンの声は耳にはご褒美だが、この展開は自分にとって良いものではない。伊達は俺が好きなんじゃなかったのか!? と言う疑問を抱えてはじめて気付く。いつも伊達に声を掛けていたのは自分だったこと、伊達は自分を横切っても何も言わないこと、そして名字すら呼んでいないことに。自分など最初から眼中に無かったのだと言う決定的な答えに辿り着いた。彼女の眼中にあるのは_

「そう言えばいおり、校内でとある男子生徒が君の彼氏確定だとかふざけた噂があるんだけど」
『…そんなんあったん? 知らんかったわ……』
「どうするつもりだったの?」
『嘲笑して断るわ。「こっちは恭弥一筋や」って』
「ワオ」

_雲雀恭弥のみ。しかももう彼女の純白は雲雀に捧げたようだ。そんな深い仲の関係に、勝てるわけもない。朝自分が考えていた作戦なんてあったもんじゃない。逆にこちらがとんでもない恥を掻くところだった。淵樫は呆然自失、ふらふらした足取りで自身の教室へと戻っていった。そして数日後、伊達いおりは雲雀恭弥のものであると言う事実が並盛で騒ぎになった。

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180:ぜんざい◆A.:2017/01/22(日) 08:38 ID:Few


 また新しいものを書きます。三日月宗近転生沢田綱吉成り代わり。雲雀さんは女の子で幼馴染みの並盛最強の最凶。

沢田 宗近
 三条大橋にて、時間遡行軍と交戦中、一緒に出陣していた薬研を庇って折れる。そして目が覚めたら赤ん坊として生まれていて、沢田宗近と名付けられる。顔は三日月宗近と変わらない。
 前世の記憶はあるものの戦闘技術しか使わない。幼い頃から聡明であまり親に手をかけなかった。その代わりめちゃくちゃ甘える。
 五歳の時に父の家光が連れてきた9代目に速攻懐き、夜、自分がマフィアの10代目候補だと知る。「それならば仕方がないなぁ、俺が立派なボンゴレ10代目になろう」とおじいちゃん気満載で9代目と約束して代わりにと三日月宗近と言う日本刀の写しをねだる。許可された。
 雲雀恭弥(♀)と幼馴染みで、超仲良し。ヒバリの年は一つ上。
 自分は美しいと自覚がある。運動は出来る。国語と歴史だけ教師も舌を巻くレベル。その他の教科がずたぼろ。
 リボーンを「坊や」と呼ぶおじいちゃん。部活無所属。死ぬ気弾に当たっても意識はあるしパンイチにならない。性格は穏やかかつのほほんかつおっとりしていてどこか抜けている。
 湯飲みで茶をすする姿が校内でもたびたび目撃されていて相性は「おじいちゃん」や「チカ」など。その綺麗な顔からか女子や女教諭からの支持率も高い。人当たりがよく原作のようなツナくんじゃない。朝はびっくりするほど早起き。縁側でのんびり茶をすすりすぎて遅刻することもしばしばなのでお隣さんの雲雀のバイクに乗せてもらったり。刀の勘は落ちていない。「グローブ」と「刀」を使用。グローブはめて刀を持つとか。雲雀大好き。
 紺色の髪に内番の時のようなバンダナを巻く。私服はあるものの家に居るときはほとんどじんべえ着てる。身長は165cm程度。多分伸びる。

雲雀恭夜(女版雲雀恭弥)
 並中最強最凶の風紀委員長に君臨する不良の頂点。宗近のお隣に住むひとつ上の幼馴染み。性格は原作通りだが、宗近には優しい。宗近が好きすぎて最近少しおかしい少女。
 笹川京子を敵視している面がある。
 宗近に「ボンゴレ10代目候補になった」と報告を受け、「じゃあ僕も入る。宗近の右腕になる」と渋ることなくファミリーに。
 容姿は原作とあまり変わりないが身長が156cmになった巨乳。服装はシャツに学ランを羽織るもののしたは膝より少し上気味のスカート。
 時々仕事を草壁に任せて宗近の部屋に入り浸ることもある。宗近の右腕にくっついていることが多い。宗近が好きすぎてちょっと怖い。
 一人称僕。獄寺や山本には左腕すらもったいないと思ってるちょいヤンデレ。


 上記を読んでこういうものが嫌い、苦手だと言う方はUターンです。

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181:ぜんざい◆A.:2017/01/22(日) 09:00 ID:Few


 俺、三日月宗近は薬研藤四郎を庇って折れた。意識が朦朧とする暗闇の中でその出来事を思い返す。いやはや、薬研はまだまだだなあ、折れてしまった俺も情けない。
 そうして無意識に目を見開けばそこには明るい世界があった。
 待て待て、俺は折れた筈だ、なのになぜ目が開いてあーだのうーだの声が出て小さな手足が動く? ああ、あれか、主の言っていた「転生」と言うものなのか。主が「転生して漫画の世界に行きたい」と常日頃耳が痛くなるほど叫んでいたことを思い出す。すまんなぁ主、俺が転生とやらをしてしまった。
 俺を生んだ両親は沢田奈々と沢田家光。俺は前世とやらでは刀の付喪神だったから親と言うものを感じたことがなかった。そうか、この温もりが親なのかと納得しながらこの人生を謳歌してやろうと微笑み、「あなたの名前は宗近よ、沢田宗近」と聞こえてきた声になんと言う偶然なのだろうなと眠気故に降りてくる瞼をそっと閉じた。

 あれから五年。五歳になった俺、沢田宗近はこの始まったばかりの人生を謳歌していた。お隣さんの雲雀恭夜と言う女の子は所謂幼馴染みと言うもので、家族ぐるみで仲が良かった。それは俺たちも例外ではない。



「宗近、なにする?」
『そうだなぁ、なにをしよう?』
「僕はなんでもいいよ」



 ひょいと唐突にやって来た恭夜に笑みを浮かべて一緒に縁側に座って何をするか考える。
 甚平の裾が引っ張られたかと思ったらこのままのんびりしようと恭夜が笑う。可愛らしい恭夜にそうだなぁと頷いて縁側でのんびりしていればいつもにこにこと笑顔を絶やさない母がお菓子を持ってきてくれた。
 甘くて美味しい饅頭を頬張ったあとにぽけぽけしながら二人して外を見ていれば、父がおじいさんを連れてきた。



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182:ぜんざい◆A.:2017/01/22(日) 09:14 ID:Few


「こんにちは宗近くん。私の名はティモッテオ、よろしくね」
『よろしくなぁ』



 微笑むおじいさん_ティモッテオに笑むとバンダナを巻いた頭を優しく撫でられた。

**

 その夜のことだった。喉の渇きで目が覚めて階段を音も無く降りていればこんな深夜にリビングに明かりがついていた。
 少し聞き耳を立てれば「やはりボンゴレの10代目は宗近くんには向いていないかもしれんな」「そうですか……」とティモッテオさんと父の会話が聞こえてきた。
 そのままドアを開けて『ボンゴレ10代目とはなにかな?』と言いながら姿を表せば「宗近!? 今は夜の一時だぞ!?」と父に怒られはしたものの『喉が乾いた』と言えばすぐなくなった。



『それで、ボンゴレ10代目とはなにかな?』
「……ボンゴレとは、イタリア最大のマフィアのことだ。このティモッテオはその9代目で、今、チカにボンゴレ10代目は出来るかどうか、話し合いをしていただけだ、つってもお前には難しいか」
「君にはまだ早い話だと思うし、難しいだろう、宗近くん」
『そうか……あいわかった。俺が立派な10代目になろう!』



 そう言いながら笑えば彼らは目を見開き「正気かね!?」と口を揃える。



『ああ、正気だぞ。本気の本気、大真面目だ。ボンゴレの歴史に興味が沸いた』
「この年で歴史に興味を持つとは……」
「やっぱりお前は俺の子だ!!!」
『はっはっは、俺はものじゃないぞ父さん』



 ははは、と笑いながら俺が晴れて10代目候補となった夜だった。不意には、と気が付き、『その代わりに』と笑って告げる。



『写しでも贋作でも何でも良い、太刀【三日月 宗近】がほしいなぁ、きっと手に馴染む』
「お前何でそんなもん知ってんだ!?」
「ああ、構わんよ」
「9代目!?」



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183:ぜんざい◆A.:2017/01/22(日) 09:46 ID:Few



「チカ! パス行ったぞ!」
『あいわかった』



 あれから数年の月日が経ち、俺は中学一年生になった。長い時を重ねようとも恭夜との仲は変わらず良くて、よく俺が帰ってきたら部屋にいることもしばしば。ただひとつ変わったと言えばトンファーと言う武器を持って不良を倒して不良の頂点となり、並盛の最強の風紀委員長として君臨していることだ。可愛らしいのは相変わらずだが。
 そんな俺は現在、体育の時間にバレーボールをしていた。回されたトスを飛び上がってスパイクでうち落とせばぱぁんとボールは向こうのコートに当たって大きな音を立てながら跳ね返り、得点として加算される。



「きゃああああっ!」
「チカくーん!」
「かっこいー!」



 騒ぐ外野にも微笑んでチームメイトとハイタッチする。



「やっぱお前が居ると勝てるな!」
「勝利の雄神だ!」
『はっはっは! 褒めろ褒めろ、褒められると俺は喜ぶ』
「じじいかお前は!」
「沢田らしーぜ」



 そんなこんなで試合は終了、体操着のままのんびりコートの外にいくとみんなからおつかれーと声を掛けられる。



「おつかれさんチカ。お前運動できるんだから野球部来いよ!」
『嬉しいことを言ってくれるなぁ山本』
「ちぇ、またかわされた」
『はっはっは!』



**

 そこから放課後、俺がのんびりと帰路を辿ろうと下駄箱に居たとき、後ろから「えっ、チカくん!?」と鈴を転がしたような可愛い声が聞こえてきた。
 不思議に思って振り向けば、そこには剣道部主将で三年の持田と一緒にいる笹川京子の姿が。



『おや笹川。持田さんも一緒か』
「おう沢田」
「ち、違うのチカくん、これは持田先輩に一緒に帰らないかって誘われて……」
『おぉ! そーかそーか。よきかなよきかな。仲が良いのは良いことだ』
「(き、気付いて無いのかな……? よかった……)」



 にこにこと笑みを浮かべながら『またな』と手を振って玄関から出れば「おー、また明日なー」「ま、またね!」と元気よく返ってくる。それに気分を良くして家に帰れば、母さんが「今日からね! 家庭教師の方が来るのよ!」と教えていただいた。



『家庭教師か、俺は国語と歴史以外からっきしだからなぁ』
「成績が上がるまで住み込みなのよ!」
『父さんが仕事に出ているからなぁ、晩飯の時は一人増えるのか』



 そんな会話をリビングでしていた時だった。突如「ちゃおっす」と幼い声が足元から聞こえてきて視線を下ろせばそこには黒いスーツとボルサリーノを被った赤ん坊がいた。
 「3時間早く来ちまったが特別に見てやるぞ」と呟く赤ん坊に母が「ボク、どこの子」と聞けば。



「ん? 俺は家庭教師のリボーン」



 そう答えが帰ってきた。母が「まあ!」と少し大きな声を出す。俺はしゃがみこんで『よろしくなぁ坊や』と数学のテキストを見せながら笑いかければ「わかってんじゃねーか」とリボーンはにやりと笑った。



『母さん、俺は今から勉強するぞ。後で縁側に行くからな』
「分かったわ宗近!」



 元気よく階段を降りていく母さんを見送り、椅子に座って『さて』とリボーンに微笑む。



『本題はどうだ? ティモッテオさんから聞いているのではないかな?』
「その通りだぞ、宗近。俺はお前を立派なボンゴレ10代目にするためにやって来たんだ」
『おお! それでは本格的に頑張ろうか』
「お前は物分かりが良いな」
『そうだろうそうだろう』



 腕を組んで制服のままにこにこと頷けば「じじくさいな」と言われた。いきなりのその言葉はなかなか心に来るな。



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184:ぜんざい◆A.:2017/01/22(日) 10:00 ID:Few


「そうと決まればファミリーを探さねーとな」



 リボーンのその言葉を聞いて直ぐ様恭夜のことが頭に浮かんだ。



『一人ぴったりな人物が居るぞ、坊や』
「お、本当か」
『ああ』



 リボーンを肩に乗せて玄関まで行き、母さんに少し出ると伝えて外に出た。そのまま隣の家のチャイムを鳴らすと、「なに」と短く返ってきた。



『俺だ、宗近だ』
<!? ちょ、ちょっと待ってて!>



 そうして待つ暇もなく玄関が開き、そこから驚いたような顔をしている恭夜が出てきた。



『やあ恭夜』
「珍しいね宗近、滅多に自分からこの家には来ないのに」
『あぁ』
「コイツかチカ」
「……なにその赤ん坊」
『俺の家庭教師だ』



 そうして再び恭夜を連れて自室へと戻ってきた。


「で、なんだい宗近、わざわざ呼びに来て」
『はっはっは、いやぁ。俺がイタリアンマフィアのボンゴレファミリー10代目候補だと伝えておこうとな』
「えっ」



 ぽかんとしてこちらを見つめる恭夜に笑って、『このリボーンと言う坊やは俺を立派な10代目に育て上げてくれるそうだ』と教えれば「なにそれ僕も入る」と、即答される。
 リボーンも「即決だな」と恭夜に聞けば「宗近のいるところに居たいからね。だから宗近の右腕になる」と俺の右腕に引っ付いてきた。柔らかくてういやつめ。



「ファミリー一人目ゲットだな」
『ああ、恭夜が入ってくれて助かった』
「ありがとう宗近」



 ぎゅむっとその大きな胸に抱き込むように恭夜に腕に巻き付かれてもはっはっはと笑う俺を見てリボーンが「鋼の理性だな」とにやりと笑ったのが見えた。



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185:ぜんざい◆A.:2017/01/27(金) 20:00 ID:gtA

眼鏡ボロ布の夢主(完結済み)+10年の復活のif(×ケロロ)

 代理戦争が終わって慌ただしい中学生活を送ってそれから10年。
 沢田綱吉は立派なボンゴレ10代目になって、こっちらはマフィア界でも沢田の守護者として名を轟かしていた。現在はイタリアを拠点として活動している。
 そんなとき、風紀財団の一人からにわかには信じられない情報が舞い込んだと恭弥が渋々ながらに沢田に報告し、ボスを交えた守護者会議となった。
 相変わらずこっちはボロ布を頭から被っとるで。黒のスーツも着とるけど、下は短パンである。



「えっと……ヒバリさんが財団の方からとある情報が入ったとのことで、集まってもらったんですけど……」
『……内容は? 恭弥』
「……日本の武蔵市と言うところで蛙のような見た目をした二足歩行の謎の生物を財団の極一部……数人が確認したみたいなんだよ、一応と思って報告したんだ。……武蔵市っていったら黒曜の反対に位置する並盛の隣だからね」
「っ、ユーマか!? 宇宙人か!?」
「今回ばっかはそーかもしんねーのな!!」



 未知の生物か、とテンション高く椅子からガタリと立ち上がった獄寺の隣で椅子の背もたれに持たれながら頭の後ろで手を組んでいる山本がヘラッと笑った。……非現実的やわぁ、非現実許せるキャパオーバーやって。宇宙人とかユーマとか信じひん。
 六道は別件で動いているためこの場におらず、騒ぐ獄寺と山本に沢田は苦笑いしてからすっと真剣な面持ちに変化した。この10年で彼は根本はそのままなのだろうが、少しだけ変わった。こう、やるときはきっちりやると言うか、ボスって感じの貫禄がある。恭弥は下につくなんて嫌なのだろうけど、それほど対立はなくなっている。



「で。今回のこの件、やっぱり財団の人が見つけたらしいから、ヒバリさんに行ってもらおうと思ってます……大丈夫ですか、ヒバリさん」
「僕は別に構わないよ。その代わり、いおりは連れていく」
『ん?』
「えっ、伊達さんって明日から休暇じゃなかったかな……」



 困ったように髪を掻く沢田はばさばさとそこら辺に散らばる書類を漁り出した。そんな彼を横目に恭弥を見つめて肯定する。



『……おん』
「なら休暇中に確認するだけでも良いんじゃない?」
『……しゃーないな、構わんで。っちゅーわけやから、沢田』
「分かりました……」



 若干遠い目をしながら頷く沢田は苦労人だ。獄寺と山本はからからと苦笑いだ。



「……リボーンにお兄さん貸して貰わないと……」
「えっ、あの芝生頭まだ修行してんすか10代目!?」
「……そうなんだよね」
「ホント物好きなのな!」
「お前は気楽そうで羨ましいよ山本ぉ!」



 ファイト、ボス。

 そんなこんなで、こっちと恭弥は日本に戻ってきた。



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186:ぜんざい◆A.:2017/01/27(金) 20:50 ID:gtA



 並盛から恭弥のバイクに股がってしばらく。情報が確かならここ、『日向』と書かれた一軒家に居るはずなので、わざわざやって来た。



「……ここだね」
『ん』



 恭弥がインターホンに手を掛けたときだった。中から「い・い・い・痛(いっ)てエエエエエエーー!」とその家から叫び声が聞こえてきた。恭弥と顔を見合わせて、一度インターホンを素早く押してから悪いと思いながらも玄関を蹴り破って「軍曹!!」「ど、どうしたの一体!」と声のするリビングに突入した。



「お水いる!? うわっ、すっごい変な汗かいて……ぎゃあああああ! どちら様ーーーー!?」



 黒髪の少年がこちらを見てコップを放り投げながら悲鳴をあげる。彼の足元に居るのは緑色の二足歩行の謎の生物。……情報は確かだったのか。
 緑色の蛙のような生物はぐわんぐわんと頭を回し、ぎゅりっぎゅりっと地面に顔を擦り付け、そしていきなりガバァッ! と顔をあげて何かに耐えるように声にならない悲鳴をあげた。傍らの赤髪の女の子が「やだ! 怖い〜!」と声をあげてから「どちら様!?」と叫ぶ。



「と、とうとうブラックメンが来ちゃったよおぉ〜〜!」
「えっ、嘘ぉ!」
「……そのブラックメンが何を指すのか知らないけど、そこの謎の小動物、ヤバいんじゃないの」
「そっ、そうだ! 軍曹〜!」



 なんとも慌ただしいものだ。そのあとすぐに後ろから「通した通した!」と赤いの黄色いの黒いのがやって来た……なんなんここ。



「ここから先は我々の管轄、余計な手出しは無用だ! ……ん? んなあぁ!?」
「ハイハイ危ないですから下がって〜……ですぅ!? 地求(ポコペン)人がなぜ!?」



 こっちらのことはいったんほっといてと告げれば本当に興味をなくしやがった。クソガエルども……。
 聞くと、緑色の蛙のような生物は『虫歯』らしい。彼らはやはり宇宙人で、彼らの星では虫歯を『C・W(カリエス・ウォー)』と呼ぶらしい。……世界は、広いな。要するに、ミクロ単位の宇宙人も居るらしく、それが歯に巣くっているらしい。それを退治するために自身もミクロになるようだ。へえ。



「そ、そそ……そちらのスーツのお二方は、ど、どういったご用件で……?」



 こっちらはソファに座らされ、その向かいに座ってがくがくぶるぶる震えながらこちらを見てくる一同。布の奥から恭弥を見れば、彼は肘おきに肘をついてはぁとため息を吐いた。



「……君たちは何か勘違いしているようだけど、僕らは別に宇宙人が居たからと言ってどうこうしようという為に来た訳じゃないよ」
「え……?」
「確認さ。僕の財団の一部がそこの緑色の蛙を見たと報告が入ってね。武蔵市の隣は並盛だから、凶悪な奴だったら跡形もなく咬み殺してるけど。見たところそこまで危険そうな奴じゃないから」
「じゃ、じゃあ」
「何もしないよ。まあ、隣は僕の町だから、風紀を乱せば咬み殺す。肝にでも命じておけば?」
「命じておくであります!」



 聞くところによると、彼らは地球を侵略しにケロン星から来た宇宙人らしい。獄寺が見たらテンション上げてそう。
 ケロロと言うらしい緑色の彼はケロロ小隊の隊長のようだ。階級は軍曹らしい。



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187:ぜんざい◆A.:2017/01/28(土) 12:38 ID:JRA


 ちょこちょこ話を変えてスミマセン。ですがしかし。書きたいものを見つけましたのでやっていこうと思います。楓ちゃんが中学の卒業式終了すぐあとにトリップ。年齢は若返って中学一年生。見た目は身長が170cmぐらいまで小さくなったかなぐらい。
【長瀬楓 ネギま!→復活】


 卒業式を終えて、寮に帰宅して、拙者は床についたはずでござる。なのになぜ一軒家の寝室で一人寝ているのだろうか。
 外を見れば麻帆良の都市の面影すらなくて、いろいろと身を持って体験してきたからかここが自分のいた世界ではないと言うことはわかった。まあ確かに自分のいた世界じゃなくて寂しい気持ちも有るが、それを嘆いても仕方がない。そう考えてから拙者はもとの世界に戻れるまでこの世界を満喫しようと決めたのだった。
 驚くことに拙者は中学一年生のようだ。ほうほう、これはまた面白そうな。アーティファクトも有るし、拙者が使っていた忍装束もある。恐らく瞬動も出来るだろう。前と変わらないなと思いながら始業式を控えて今日から始まるらしい学校生活を送るべく並盛中学の制服を身に纏った。



**

 あれから二ヶ月ほど経って、友人が出来た。笹川京子と黒川花だ。最初は拙者の喋り方を不思議に思っていたらしいクラスも馴染んできている。
 そこで少々不穏な噂を耳にした。クラスメイトに聞けば京子が沢田綱吉にパンツ一丁で告白されたらしい。それで朝から元気がなかったのかと納得するも、その噂がどうも沢田をからかうようにできていてキナ臭い。事実は事実なのだろうが、少しやり過ぎな気もする。
 沢田綱吉とは、同じクラスのある意味有名な生徒である。入学以来テストは赤点、体育で沢田のいるチームはいつも負け。何をしてもダメダメで友達もいない。そんな冴えない沢田を周囲はダメツナともてはやしている。いやいや、拙者も入学以来テストは全部赤点でござるよ。



「やっぱダメツナねー、しかも変態だったなんて」
『んー……? そうでござるかな? 拙者、その心意気は良しと思うでござる』
「えー、長瀬さんったら冗談キツいわよー」
『あいあい』



 周りの女の子にからからと笑われてしまう。教室に入ってきた沢田を一斉にもてはやす……と言うかからかっている男子たち。女子もそんな沢田を見て笑っている。
 なんと言うか、こう、釈然としないでござるなぁ。京子の顔も少し影ってきているし、花なんて呆れてしまっていた。
 慌てて出ていこうとする沢田は後ろを向くが、そこには剣道部の部員が待ち構えていた。……それはやりすぎではないかな。
 そう思いながらも友人たちが引き留めにかかってきて動けない。そのまま沢田は剣道部に体育館へと連れていかれた。



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188:ぜんざい◆A.:2017/01/31(火) 20:38 ID:JRA


 剣道大会の結果は沢田が持田の髪の毛を全て抜いて完全勝利。やはり彼にはネギ坊主に似て非なるものを感じるでござる。いやはや、持田先輩、禿げて可哀想に。



「ツナくんってスゴいね! ただ者じゃないって感じ!」



 京子が沢田にそう告げたのを聞き届けて『では拙者は日直だから、そろそろおいとまするでござるよ』と告げてその場を離脱した。黒いスーツの赤ん坊の視線に気付いたからである。鼻唄を歌いながら教室に戻った。
 沢田綱吉、これまた面白そうな子でござる。少し、傍観でもしてみるでござるか。


**

 しばらく観察して、一年が過ぎ、拙者は二年生になった。クラスは京子と同じ、まあ沢田たちとも同じだ。挨拶して少し雑談を交わすぐらいの仲でござる。
 どうやら沢田は裏の世界のボスと言っていいイタリアンマフィア、ボンゴレファミリーの10代目ボス候補らしい。帰国子女の獄寺隼人、野球部のエースの山本武を仲間に加えてワイワイ楽しげだ。並盛最強の不良兼風紀委員長の雲雀恭弥や京子の兄の笹川了平とも接触し、つい先刻ほど前に黒曜での六道骸一味との戦いが終わった所である。
 黒曜の体育館の外。沢田が筋肉痛で気を失った。やれやれ、本当に……こういうところはネギ坊主とは違うでござるな。ふっと呆れた息を吐いた時だった。パン、と銃撃の音が一発鳴り、それをすかさずクナイで弾き飛ばす。……気付かれたな。次からは札を使うでござるか。



「そこに居るのは誰だ」



 その問いには答えずに、拙者は天狗ノ隠簑でその場から姿を消した。今、正体がバレる訳にはいかないでござる。それにしても、あの赤ん坊……拙者の気配に気付くとはただ者ではないでござるな。


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リボーンside

 不意に感じた気配に素早く銃を撃てば何かで弾かれた。なんつー反応速度だ、ただもんじゃねーな。誰だ、と質問すればそれは答えられることなく、その相手は存在が消えたように気配を消す。手練だな、それも普通じゃねぇ。俺に気配を気付かせないとはなかなかやる。
 敵意は感じなかったからツナの命を狙って居るとかではないだろう。出来れば味方に引きずり込みてーな。



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189:ぜんざい◆A.:2017/01/31(火) 20:53 ID:JRA



 先日、商店街の方で大規模な爆発が起こったとニュースに出ていた。実際はボンゴレ所属の最強の暗殺部隊の「ヴァリアー」の幹部の一人、スペルビ・スクアーロがバジルと言う少年を追って事故を起こしたからなのだが。その際ボンゴレリングがどうのこうの。ああ、全て尾行で得た知識でござるよ。途中からキャバッローネファミリーのボス、跳ね馬ディーノが乱入してきて一時撤退となった。
 現在、山中外科医院と言う病院で怪我だらけのバジルを寝かせて、ディーノの話に耳を傾ける。どうやらスペルビ・スクアーロに取られたと思われたハーフボンゴレリングは偽物で、本物はディーノが持っていたと言う。



「ある人物からお前に渡すように頼まれてな」
「えー!? また俺に!? なんで俺なのー!?」
「そりゃーお前がボンゴレの……」
「す……すとっぷ! 家にかえって補習の勉強しなきゃ! ガンバロ!」



 そういって家に逃げ帰った沢田に溜め息をつき、拙者も音もなくそのあとを追った。



短い

190:ぜんざい◆A.:2017/02/04(土) 13:52 ID:EdQ



 流石に家の中まで尾行するとぷらいばしーとやらの侵害なので、そそくさと帰宅した。何やらお父上が帰ってきたらしい。二年ぶりだとか。いや別に叫んでいたのが聞こえただけでござるよ。



**

 翌日、家のポストに半分に割れた指輪が入っていた。はて、こんなものを送られることでも拙者はしたろうか?
 疑問もそこそこに沢田は再び昨日の医院へと寄っていった。
 そこには山本と獄寺がいて、沢田が半分の指輪を首から下げているように、デザインは違うものの半分のきれいな装飾のついた指輪を持っていた。リボーンとディーノに聞くところによると、沢田以外の六つの指輪は、次期ボンゴレボス沢田綱吉を守護するに相応しい六名に配られたようだ。



「俺以外にも指輪配られたのー!?」
「そうだぞ、ボンゴレの伝統だからな。
ボンゴレリングは初代ボンゴレファミリーの中核だった七人がボンゴレファミリーである証として後世に残したものなんだ。そしてファミリーは代々必ず七人の中心メンバーが七つのリングを受け継ぐ掟なんだ」
「それで後継者の証とかってー!?」
「10代目! ありがたき幸せっす! 身の引き締まる思いっす!」
「(めっさ喜んでるよ!)」



 まあ、そういう訳らしい。とても面白そうでござる。獄寺が「嵐のリング」、山本が「雨のリング」らしい。



「なんだ……? 雨とか嵐とか……天気予報?」
「初代ボンゴレメンバーは個性豊かなメンバーでな、その特徴がリングにも刻まれているんだ。
初代ボスは全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空のようだったと言われている。故にリングは大空のリングだ。そして守護者となる部下たちは、大空を染め上げる天候になぞらえられたんだ。荒々しく吹き荒れる疾風、『嵐のリング』、全てを洗い流す恵みの村雨、『雨のリング』、明るく大空を照らす日輪、『晴のリング』、何者にもとらわれず我が道を行く浮雲、『雲のリング』、激しい一撃を秘めた雷電、『雷のリング』、実体の掴めぬ幻影、『霧のリング』……そして最後に、闇に包まれし隠密、『影のリング』」
「……あれ? 八つ? ……数がおかしくないか? リボーン」
「ああ。つい先日、ボンゴレ地下室から偶然発見されたもんだ。今年から守護者に入る。つってもお前たちの持ってるリングじゃまだ……」
「ちょ! すとーっぷ! とにかく俺は要らないから!」



 次の会話が始まる前に、拙者は天井裏から姿を消した。
 あのスペルビ・スクアーロが狙ったのはリング、なら近々争奪戦が始まってもおかしくはない。
 ……瞬動、虚空瞬動、その他もろもろ、さらに鍛練しなければ。
 学校に行かず家に直帰して裏の森に入る。
 忍装束に着替えた拙者はぐっと背伸びをしたあとバサッと天狗ノ隠簑を羽織った。
 そのままトントンとジャンプして、虚空瞬動。ビュッと朝の心地いい風がほほを撫でてはすり抜けて、隠簑の布がバサバサとはためく。
 そのまま木の枝に着地してフヒュッと瞬動、再び前方の木に足を掛けては瞬動を繰り返した。



『鈍ってはいないでござるな』



 おもむろに背後へ振り返りその勢いで手裏剣を投げれば、ザクッと大きく太い木の幹の丁度中心に突き刺さる。
 それを満足げに見て頷き、懐から心眼と書かれた目隠し用の布を目に巻き付けた。幸いここには自然のアスレチックがある。以前にも魔法世界で似たようなことをした。



『樹龍が居ないのが残念でござるが、あのときほど辛い戦いでもなかろう。気楽にやるでござるよ。半日耐久森林マラソン。瞬動、虚空瞬動は禁止。いやあ、懐かしいでござるなぁ』



 そんなことをぼやきながら、ちらりと背後に視線を飛ばして「気配を消すのが下手でござるな」と呟き駆け出した。



**

家光side



「流石だな、甲賀中忍、長瀬 楓。気配を消した俺に気付くとは……。あれほどの実力でなんで中忍に収まってるんだ……? それにしても、下手と来たか……」



 本当にさすがとしか言いようがない。僅か中学二年にしてきっちり完成させられている。技術しかり、それぞれしかり。現在の地点でボンゴレ最強かもしれない影のリングを持つ女。
 ……心眼とか、やべーな。ただ者じゃねえ、どこでそんな戦闘術を覚えたのか。胸に煌めく白い翼のバッチも謎だ。



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191:ぜんざい◆A.:2017/02/05(日) 17:40 ID:EdQ


 数日後、夕暮れ時。修業もそこそこに、空腹感に襲われて帰宅するつもりなのだ。夢中になって鍛えていたからか数日何も口にしていなかってのでござるよ。
 電柱の上を瞬動で掛けていれば、以前拙者の修業を覗きに来ていた男。その傍らで走る少年。
 いいタイミングだ、とばっと彼らの前に飛び降りた。隠簑がバサバサとはためく。



『数日ぶりでござるな』
「!!……お前」
「何奴ですか親方様!」



 彼の前に飛び出た少年に苦笑いしながら『拙者、影の守護者でござる』と告げれは「おっ、お主が!」とパアッと顔を明るくさせた。



『長瀬 楓でござる』
「バジルです!」
『で。お主と親方様とやらは、今どこに向かおうとしているのでござるか?』



 親方様と呼ばれた人物は沢田の父らしく、現在ヴァリアーが雷の守護者を襲撃に来ているとの情報を得たらしい。飛び出していった沢田や雷の守護者ランボを探しているようだ。



『では、拙者も同行させてもらうでござる』
「すまん、助かる」



**


 拙者達が到着した時にはすでに沢田側のファミリー数人とヴァリアーが対立していた。
 その中でXANXUSと呼ばれる男が沢田を睨んで手に力を集め始めている。それを見て周囲が焦った。拙者は家光殿と視線を合わせてから糸付きの巨大な手裏剣をぶんっと投げる。
 ザクッと大きな音を立てながら地面に突き刺さるそれを糸で引き戻してやれば、XANXUSの気は削げた。よし。



「待てXANXUS、そこまでだ」



 家光殿が声を掛ければ一斉に視線がこちらへ向いた。



「ここからはオレが取り仕切らせてもらう」
「と、父さん!!?」
「なっ、10代目のお父様!?」
「家光……!」
「て、てめー、何しに」



 そんな会話が続くなか、家光殿はひとつ、死炎印とやらが刻まれた勅命がどうのこうの。まあ言いたいのは、同じ種類のリングを持つもの同士の一対一のガチンコバトルをやろうと言うことだ。会場は並中、審判はチェルベッロ機関らしい。ヴァリアーも去り、みんなも去ろうとした。
 ……その前に。



『拙者はいつまで無視を食らっていればよいでござるか?』
「わあっ! な、長瀬さん!?」
「長瀬!?」
『……夕暮れだからでござるかな? 拙者の影が薄く見えるでござるよ』



 ふっと自嘲気味た笑みを浮かべて羽織っている隠簑に顎を埋める。あまりにもでこざるよ……。



「ご、ごごご、ごめん! で、でもなんで長瀬さんが……!? まさか!」
「そのまさかだぞ」
『予想は当たっているでござる』
「な、長瀬さんも守護者ーー!? 長瀬さん普通の一般人でしょ!? なんでそんな服着てるのー!?」
『ござござ』



 詳しい話は翌日でござる。


.

192:ぜんざい◆A.:2017/02/08(水) 00:00 ID:EdQ



 結局あのあとは何も話さず「詳しいことは明日、拙者に家に来るでござるよ」とだけ告げて『にん!』とその場を離脱した。もちろん瞬動で。
 風呂上がり、拙者の世界を全て話すか、自身だけを話すか迷っていたのだが、いきなり天狗ノ隠簑が実体化し、淡く光出す。これは、以前の“最後の鍵”(グレートグランドマスターキー)の能力だった『アーティファクト強制発動』にそっくりだった。……誰かが、来るでござるか。



『……?』



 若干、旧知の友人に会えるとなると、わくわくする。そしてどさりと落ちてきたのは、三人の人影。全員、クラスメイトの……



「……楓?」
「楓さん!?」
「長瀬じゃん!」
『真名、のどか殿、朝倉殿……!』



 現れたのは同じ3-Aの龍宮真名(タツミヤ マナ)、宮崎のどか(ミヤザキ ノドカ)朝倉和美(アサクラ カズミ)だった。予想はやはり当たっていたか。



「楓、お前……今までどこに行っていたんだ……? フェイトがカンカンだったぞ」
『……そっちはまだ数ヵ月も経っていないでござるか、真名』
「ああ、フェイトが来てまだ二週間だ。お前は一週間前に行方不明になっている、ネギ先生にも連絡が行っていたからな、あの子も心配しているだろう」
『そうでござるか……実は拙者がこの世界に来てから既に一年半が経過しているのでござるよ』
「い、一年半ですかー……!?」
「え、じゃあこっちの世界と私たちの世界じゃ時間の流れが違うっていうの? 長瀬」
『そうみたいでこざるな』
「一応聞くがここはどこだ?」



 真名の問いに答えてやり、自分が今どんな境遇に居るかも話せば三人とも興味津々で頷いた。



「……守護者か。まあ、お前程の実力なら大丈夫だろうよ」
『やれやれ、真名。油断は禁物でござるよ』
「うるさい、わかっている」



 結果としては真名たちもこの家に住むことになり、明日の話は拙者達のいた世界のことも話すことに決定したでござる。にんにん。



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193:ぜんざい◆A.:2017/02/08(水) 21:37 ID:EdQ


 今日も学校に行かず、修行をするでもなく、友人たちとのんびり過ごす。
 今日、沢田たちは学校に行っているらしく、来るのは夕方になるだろう。



『暇でござるなぁ』
「じゃあ魔法世界行ったときの最終決戦の映像見る? あのあと編集して映画風に仕立てたんだよねー、全9時間! 舞踏会から夏休み最終日のイベントと決着まで! 見る? 暇潰しには持ってこいだって! 私のアーティファクトが全てを記録してたのよ!」
「……ほう」
「い、いいいいいや、で、でも……それには、私が調子に乗ってデュナミスさんに偉そうな口を聞いたところも……?」
「当たり前よ! それに、もう一回ネギくんの勇姿見れるんだけど、宮崎どうする?」
「! み、見ますー……!」
『決定でござるな』



 備え付きだったDVDプレーヤーに朝倉自作のDVDをセットして上映でござる。


**

 ツナside

 学校も終わって、山本や獄寺くん、リボーンと長瀬さん家にやって来た。でも、いくらチャイムを鳴らしても返事がない。どうしたんだろ……。



「長瀬のやつ、居ねーのな?」
「ったく、せっかく10代目が来たっつーのに」
「いや、長瀬はいるはずだ、見ろ、開いてるぞ」



 リボーンが玄関に手をかければ易々と開くドア。悪いとは思いながらも『オ邪魔シマース』と呟きながら入れば、靴が三足多いことに気が付く。誰か来てるのかななんて思いながら足を進めていった。



「なんて言うか……普通の家だね」
「そっすね……」



 獄寺くんに同意を貰いながら進めば、奥から「ほう、私がザジの姉と戦っていたときは丁度お前が風のアーウェルンクスと戦う時か」『そうでござるな』「宮崎は雷で気絶しちゃってたもんね、あんたフェイトに石化の針十本以上で狙われてたでしょ、何したの」「わ、私じゃなくて、多分いどのえにっきの方だと……」「それを引き出したのも、ある種の才能さ」「へぅ」と会話が聞こえてきて、その部屋の扉を開ければ、大きなテレビに外国人の顔立ちをした少年と長瀬さんが向き合う映像。それを見てるのは長瀬さんと肌の黒い美人と骸と似たようなパイナッポーヘアの女の子、ショートカットの気弱そうな女の子だった。



『おや、来たでござるか』
「わりーな、チャイム鳴らしても出てこねぇから入っちまった」
『全然かまわんでござる』



 そうして事情を話してもらった。あの三人は昨日突然やって来たらしい。



『拙者は長瀬楓、甲賀中忍でござる。実は拙者は一年半ほど前にいきなりこの見知らぬ大地に立っていてでござるな……つまり、拙者はこの世界の人間ではないのでござる』
「……多分ホントだな、疑うなよお前ら」
「分かってるよ、リボーン」
『助かるでござる。拙者、自分の世界では中学三年なのでござるが、若返ってしまったようでなぁ。
 拙者の世界は魔法が存在するのでござる』



 そこから一気に話してもらった。珍しく獄寺くんも大人しく、真剣に聞き入っている。そして全てを聞き終えて、自己紹介をすることになった。と言っても長瀬さんが他の人たちに俺たちのことを教えたみたいだけど。



「話は楓から聞いている、龍宮真名だ。楓とは死合いをした友人だ。向こうではスナイパーをしていた。もし頼みたいと言うならば、金さえ払ってくれれば何でもしてやることも出来るぞ? 半魔族だ、よろしくな」
「私は朝倉和美。麻帆良じゃ有名な実況者で新聞記者だよ。私たちの詳しい出来事が知りたいなら言ってね、私編集のDVD貸したげる、ちなみに新聞部ね」
「み、宮崎のどかですー……。えっと……と、図書館探検部所属です……あと、トレジャーハンターもしてます……よろしくお願いします……」



 肌の黒い美人が龍宮真名、パイナッポーヘアが朝倉和美、ショートカットの気弱そうな女の子が宮崎のどか。……女の子ばっかりだ。



「あ、ねーねー聞いて聞いてー! 長瀬ってばさー、魔法世界行ったとき、私達守るためにラスボス級の敵に一人で勝負しにいったんだよ、かっこよくない!?」
「え!? あ、朝倉さん!?」
「丁度今からなんだよねー! まあ見てなって!」



 朝倉さん強引だなぁ……。



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194:ぜんざい◆A.:2017/02/09(木) 23:25 ID:EdQ

三日月宗近転生沢田綱吉成り代わり番外編。※パラレルワールド注意※時間軸は虹の代理戦争終了直後。

**

 自宅にて。いつも通り甚平を着て、縁側で恭夜と茶をすする。思い返せばいろいろあったなぁと俺が呟けば、隣に引っ付いて離れない恭夜が「じじくさいよ」と俺の右腕に抱きつく力をギュッと強めた。
 その直後、どこかからランボの泣き声が聞こえてきて、ひゅるると風を切る間抜けな音が聞こえて、俺が刀を抜く前にそれは俺たち二人に着弾する。最後に聞こえたのは、獄寺の「10代目!」と叫ぶ声だった。

 その刹那、ボフンと音が響き、目の前を白い煙が覆う。大方10年バズーカだろうな。
 きょろきょろと見回せば、そこは俺の部屋で、でも太刀掛けが無い。はて……と首をかしげながら恭夜を見れば「……宗近の部屋なのかい……?」と怪訝そうに首をかしげている。

 煙が晴れて一番に見えた人影は、俺もよく知っている……この物語の主人公、沢田綱吉。恐らく恭夜と二人、人数のせいでなにかしらの不都合が起きて白蘭の言うパラレルワールドにでも来てしまったのだろう。目を見開き、口をはくはくさせてから、「りっ、りぼおぉぉぉぉおおん!」と隣のリボーンへと叫びをあげた。うるさいと一蹴してイタタと呟く彼を横目に、リボーンは「お前は誰だ」と呟く。部屋に居たらしい獄寺や山本もこちらを一瞥した。



『ん……? 俺か? 俺はなぁ、……はて? 恭夜、俺はなんでここにいるんだ?』
「はぁ!? ふざけてんのかてめえ!」
「まあまあ、落ち着けって獄寺」
「……あの子牛の10年バズーカとやらに当たったの、わかる? 大丈夫かい? 本当に脳までおじいちゃんになったの? 僕結構困るんだけど」
『はっはっは! それもそうだなぁ、俺も困る』
「おい」
『おっと。すまん、自己紹介だったなぁ。俺は沢田 宗近、好きに爺でも何でも呼べ呼べ。そして、恐らくパラレルワールドの『沢田綱吉』だ』
「ぱっ、パラレルワールドの俺!? お前が!?」
「パラレルワールドの10代目!?」
「すげーのな!」
『あなや、そこまで驚かれるとは』



 綱吉は「こんなイケメンがパラレルワールドの俺!? 明らかに何でも出来そうじゃん!」とうわあああ! と頭を抱える。だが、恭夜は綱吉に「そうでもないよ」と言い放った。



「へ?」
「宗近、朝は4時頃に自然と目が覚めて勝手に家から出て散歩みたいにほっつき歩いてるんだ。最悪三日も戻らないことも多いんだよ」
「は!? 三日!?」
「それに朝に縁側で呑気にお茶すすってるから遅刻はするわ、一日そこに居て夕方頃になって「あぁっ! 学校だ!」とか呟いてるし。なにもないところで転ぶわ授業中お茶を湯飲みで飲んでるわ僕が言わなきゃ学校まで甚平のままで行こうとするわ、国語と社会と体育以外ホントダメダメだし笑顔で刀を振り回すわ……前なんて宿題のプリントが嫌だからって庭先で細切れにしてたんだよ。無駄に顔も良いから変な女が寄ってくるし性格おじいちゃんだし言動おじいちゃんだし授業はサボって校内徘徊してるし昼時には中庭のベンチで野良猫たちと戯れながら寝てるしホントダメダメなんだよ」
『あなや、ずいぶんとボロクソに言われてしまった』



 へらりと笑えば恭夜に腹をどつかれた。



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195:ぜんざい◆A.:2017/02/10(金) 00:00 ID:EdQ



「さっきから、パラレルの10代目のことぼろくそに行ってるけど、てめぇは誰だよ」



 獄寺が不機嫌そうに恭夜を睨む。恭夜はああ、と呟いてから口を開いた。



「僕は雲雀恭夜。宗近の幼馴染みでその世界の並盛の風紀委員長をしてるよ」
「ヒッ、ヒバリさんーーー!? そっちの俺の世界じゃ女の子なの!?」
『おや、じゃあこの世界では恭夜は男か』
「なんかやだ」
『見てみたい気もするがなぁあいたたたた、いだっだだだっ! や、やめろやめろっ、痛いっ』
「なんかいらっとした」



 右横腹をトンファーでぐりぐりと圧迫されて痛みに悶えていれば、獄寺が俺に問い掛けてきた。



「パラレル10代目! そっちの世界の俺はちゃんと右腕として機能してますか!?」
『ん? ……ああ、お前はよくやってくれている。山本と日々俺の左腕の座を取りあっているぞ』
「ひっ、左腕ぇ!? 右腕じゃないんですか!?」
「バカ言わないでチンピラ。宗近の右腕は僕だよ。譲らない、絶対に、チンピラにも、山本にも、絶対、誰にも、僕だけ、僕だけの、あげない、僕だけが、宗近の、ダメだよ、宗近は、僕のもがっ」
『恭夜が俺の一番最初のファミリーで右腕だ』



 若干仄暗い雰囲気を出し始めて俺を見上げて腕をギリギリと抱き締めながら呟き出した恭夜の口を左手で塞いで彼らに微笑みかける。彼らは恭夜を見て若干顔を青くしていたが、分からんでもない。



「そっちのヒバリはお前に相当執心してんだな……」
『はっはっは! リボーンや、言うてくれるな。まあ俺は美しいからなぁ』
「うわあ! 言い切ったぞ俺!?」
「宗近は誰が見ても美しいからね、女性教員でさえ惚れるんだから」
「ヒバリさんがそんなこと言うなんて!?」



 騒ぐ綱吉に苦笑していれば、彼ははっとして俺を見た。



「そ、そっちじゃ、京子ちゃんどうなってる宗近!」
『ん〜……よくわからんなぁ』
「笹川京子、まあ、宗近にベタ惚れだよ」
『あなや、そうなのか』
「えっ、マジかよやべーな」
「嘘ぉ!」
「この世界の彼らならともかく、なんで宗近気付かないの……。いっつも宗近挟んで僕と言い争いしてるでしょ」
『あなや』
「ほんとムカつくね。なんなの、あれ。笹川京子の奴、僕の見てる前で宗近にべたべたべたべたべたべたべたべたと鬱陶しい、いずれ宗近の見てないとこで咬み殺す」



 目が完全に暗くなった恭夜を放置して『そうだ、三浦だ、そっちじゃどうなんだ?』と逆に問いかけてみた。



「ハル!? ハルは……えーっと、その……」
「ツナにベタ惚れだぞ」
『ほほう、仲良きことは美しきかな、羨ましい』
「そっちのハルは?」
『くうると言うものだな。毒舌家とでも言うか。子供が嫌い。動物が苦手。同性愛者。……俺に嫌悪感を抱いているようでな……いつもごみを見ているような目で見てくるんだ。「消えればいいのに」と言う言葉は口癖だな……流石に金的蹴りは効いた』
「そっちのハルなんか怖い! 無邪気なハルでよかった!」
「羨ましいぞ綱吉」



 っと、もうそろそろ五分か……。



『そうだ、記念に写真でも撮ろうか。今後きっとないぞこんなこと』
「そうするか」
「ええ……、僕別に宗近以外どうでもいいんだけど」
「ヒバリさん!?」



 最終的には記念写真を二つのカメラで撮って片方ずつ持った。



『じゃあな、頑張れよデーチモ』
「宗近もデーチモでしょ」
「宗近は宗近だよ」
『少し黙ろうな恭夜』
「宗近が言うなら、うん、わかったよ」
「(ヒバリさんめっちゃ素直ー!)じゃ、また会えたら良いな、宗近」
『ああ、またな、綱吉』



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196:ぜんざい◆A.:2017/02/11(土) 00:22 ID:EdQ


 自分の世界に戻ってから数日、俺と恭夜とリボーンが今後ボンゴレをどう引っ張るか思案していたときだった。
 ボゥンと音が鳴り響き、煙が部屋に蔓延する。奥からげほげほと咳き込む声がする。隣の恭夜は俺の腕をギュッと抱いた。
 煙が晴れて見えた姿は、先日見たあの沢田綱吉。リボーンにも一度事情を話しているので「ああ、アイツが」と目をしばたかせる。
 そして驚くことに綱吉の隣に居たのは、そちらの世界の雲雀恭弥。



「げほっ、げほっ、うぅ…あれっ!? 宗近!?」
『ああ、俺だ。数日ぶりだなぁ、綱吉や』
「……ちょっと。草食動物、ここどこ、なにこれ」



 雲雀恭弥が不機嫌そうに綱吉を見下ろした。ヒィッ! と情けない声をあげて怯える綱吉を指差して「アレがパラレルワールドのお前なんだな」と聞いてきた。コクリと頷けば「全く似てねぇな」と呟く。
 何やら綱吉が刺激したのか、雲雀恭弥がトンファーを取り出して今にも殴りかかりそうになってきた。



『これこれ、ここで暴れるのはやめろ、刀が折れる』
「その前に部屋が壊れるよ!? そっちの心配しろよ!!!」
「そっちのチカはツッコミ気質か」
「なに冷静に思案してんだよリボーン!」
「うるさい」



 雲雀恭弥のトンファーが風をきる。素早くて、避ける暇もない。ああこれは直撃だなとにこにこ微笑んでいれば、いきなり黒い何かが飛び込んできて雲雀恭弥のトンファーをガィンと派手な音を立てながら弾き飛ばした。ガン、と壁にぶつかりカランカランと地面を転がるトンファー。
 目の前に居たのは戦場でもあまり見れないガチギレの恭夜。彼女からは濃密な殺気が惜しげもなく晒されていて、常人なら気を失っているだろう。まあここにいる人間は全員常人じゃないが。
 恭夜はストンと俺の右横に腰を降ろして、パラレルの自分を見据える。彼も「ワオ」と呟いてから軽やかに地面に腰を降ろした。胡座。



「草食動物から聞いてたけど、パラレルワールドの僕って本当に女なんだね。まさかトンファー弾き飛ばすなんて」
「宗近に手を出したら、右腕の僕が許さない。地の果てまで追って無惨な死体に仕立てて宗近の前に転がすからね」
「へぇ、僕がそんなこと言うなんてね、群れてるのかい?」
「僕だって群れるのは好きじゃない、嫌いだよ、宗近以外にはこんなことしない。まあ他校生に並中生がやられたら、まあ多分怒るんじゃないの?」
「ずいぶんそこの沢田宗近を贔屓してるね、風紀の存在も曖昧だ」
「さっきも言わなかったかい? 僕は宗近の右腕だよ。僕の全ては宗近の為にあるといっていいし、宗近がいない世界なんて生きてる価値すらないんだ。宗近は僕の中で揺るぎない絶対、そう、僕は宗近のもので宗近は僕のものだ、宗近は僕の呼吸に等しい存在だ、僕の全てだ。宗近以外どうでもいい、誰にも僕の宗近には触らせない、宗近が、誰にも、絶対に、僕は、僕の、宗近だけ、あげない、渡さない、ダメだ、そうだ、なら僕が監きnむぐっ」
『とまあこんな風に頑張ってるみたいなんだ』



 完全に目からハイライトが消えたので慌てているのを動きには出さず悟られないよう恭夜の口を左手で塞いで雲雀恭弥に告げれば「……犯罪ワードが聞こえた気がしたんだけど」と表情変えずに俺に告げた。隣の綱吉は雲雀恭弥の影で完全に怯えている。
 いまだギリギリと力強く恭夜のその大きなめ胸に沈むように抱き締めるられている右腕はみ指先から感覚が無くなってきた。待て待て、血が止まっている。
 恭夜をガッ、と拳で少しだけ手加減して小突(?)けばハッとしたように力を緩めた。腕は離さないらしい。



「……宗近、今そっちのヒバリさん、結構力入れて殴ったの……?」
『ああ。前にもこんなことが数百回あるんだ、やさしめに小突いても戻ってこなくてなぁ』



 はっはっは! 困ったものだろう? と同意を求めれば目の前の雲雀が笑い事じゃないでしょと言う顔をして綱吉が「笑い事じゃないだろ!?」と気持ちよくツッコミをしてくれた。



「……とにかく、宗近に危害を加えたら咬み殺す」
「わかったよ」



 呆れたように自分を見つめる雲雀に苦笑いが浮かんだ。



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197:ぜんざい◆A.:2017/02/12(日) 02:24 ID:PaI

ぼろ布主+4が銀魂にトリップして絵描き屋として食い繋いで頑張ってもとの世界に戻ろうとする話。雲雀さんと婚約。


 それは唐突。自宅で相も変わらずぼろ布を被って椅子で綱吉に渡されたボンゴレの資料を片していた時だった。

 つい先日に成人した。今度ディーノと飲むかとか考えて頭を横に振る。恭弥がキレるからやめておこう。
 中学の時と変わらず左腕に巻き付く包帯の上から蛍光灯に反射してキラリと光るシンプルで控えめな指輪を一撫でした。あと、ちょっと。あと二週間ほど経てば、名字が伊達から雲雀になる。……まあ、そういうことになるわけだ。
 ふぅと書類をバサッと乱雑に机に投げ捨てて椅子の背もたれに体重を預ける。ちなみに白玉の本名が伊達 いおりと言うことはとっくの昔に知れ渡っていた。多分あれだ、文化祭でこっちが白玉だと知っていた綱吉と山本の本願に負けておこなってしまった体育館での白玉初ライブ。あれで顔と名前が拡散したんだ。うわ改めると泣きたい。以前恭弥にプロポーズ的なものをされてしばらく経ったあと、ネットで報告したら「あぁ、ヒバヒバか、よく頑張ったね(柔笑)」「やっとか、よく頑張ったなヒバヒバ(フッ☆キラッ」「おっそ!! とりあえず私からは心からおめ! ヒバヒバよく頑張った!」「ヒバヒバめ、俺らを焦らしたな、よく頑張った!」「俺たちシララーはヒバヒバと白玉をくっつくの応援し隊だからな、素直に嬉しい。ヒバヒバよく頑張った」「今思う、ヒバヒバの顔よく知らん。ヒバヒバよく頑張った」「どうせイケメン。ヒバヒバよく頑張った」「白玉さん裏山。ヒバヒバよく頑張った」「ヒバヒバのプロポーズの現場誰か撮ってないの? というかよく頑張ったねヒバヒバ」と暖かいコメントが返ってきた。なんかヒバヒバよく頑張ったの意味のコメントがよく語尾についていた気がする。恭弥は数度こっちの雑談生放送やホラゲ枠の生放送に乱入してくることがあり本人からの希望で「ヒバリ」と言う名でやっているのだが、リスナーさんからの愛称はヒバヒバだ。なんと可愛らしいことか。
 改めて指輪を眺める。どうやら恭弥特注らしくて、リングの裏にはこっちと恭弥の名前が刻まれていた。



『……ホンマ、』



 あんま実感沸かない。一緒になるのが嫌なわけではない。中学時代から(それはもう、学校で露見されたときからべったりぴったり)片時も離れずに一緒に居るので、あまりもとの生活でも変わらないような気がするのだ。もちろん嬉しいことですが。
 その時、パサリと自分の羽織っていたぼろ布が風もないのに揺れた。

198:ぜんざい◆A.:2017/02/12(日) 09:14 ID:PaI

『アンクル』にVGを変更。右足首。


 次の瞬間にはもうこっちは自室には居なかった。周りを見渡せば和風な人が行き交う大通り。あれ、なにこれタイムスリップ? とか考えるも普通にバイク走ってるしホンマなんなんここ。


**

 あれから数日。この世界の歴史の雑誌を図書館で借りて読んだ。ここは江戸のかぶき町、この世界には天人と言う宇宙人が存在し、天人に甘く侍に厳しく、と言う政治が回っている。官僚には天人も。以前天人を地球から追い出そうと、侍が攘夷戦争を起こしたらしい。まあ負けたが。政治が寝返ったのだ。以来攘夷志士は悪者として言われるようだ。その中でもテロとか起こすバカもいるらしいけど。……あれ、おかしいな。一回漫画で読んだこと有るような……。いや違うここはそこに似た別の何かだ。

 こっちはと言うと金をスケブで作り出し、家を購入した。大通りにある一軒家だ。とりあえずなにもしないわけにはいかないので、一階で絵描きでもしようか。と言うことになり、いろいろVGを駆使して一階を改造し、まああまり人は来ないものの頑張っている。
 それと、恭弥が居ない。恭弥が居ないだけでこんなに寂しいとは思わなかった。頭から被るぼろ布がこっちの震えを伝えて揺れる。
 ああ、もう時間だ。と店の席を立ち、今日は終わるとするかと立ち上がった時だった。



「ここ、まだやってっか」



 鼓膜を震わすなんちゅーか、恭弥とはちょっと違うとんでもないイケヴォ。恭弥もイケヴォですけど、コイツはなんかエロい。
 振り向いて『まだやっとります』と告げてから相手の姿を見て微かに一時停止するも、『なんか描きましょか?』と通常通りに告げた。
 そこには夕焼けをbackに背負ってキセルを手にこちらを見つめる紫が強い色の女物の着物を男結びでかなり着崩した色男がいました。いや問題はそこじゃない。そこじゃないんだ。



「あァ、この写真描いてくれ。A4で頼むぜ」
『わかりました。期限は何時ぐらいがエエですか』
「そうだなァ、三日後くれぇにまた来るぜ」
『了解っす』



 写真を受け取り奥へと引っ込もうとすればグイッと布を引っ張られて「おい、名前聞き忘れてんじゃねェか」と呆れた声で言われた。確かに忘れていた。いや問題はそこじゃない。



『すんません、忘れとりました。名前伺いますけど大丈夫ですか』
「構わねえ。俺ァ、“高杉 晋助”だ」
『(たっ!?)高杉 晋助さんですね、依頼承りました』
「おう」



 た か す ぎ  し ん す け
 そう、問題はここだった。ここだったのだ。いやそうですよね、上記の風貌に左目包帯眼帯とか高杉さんしかありえへんですよね。
 ちょっと、新撰組(おまわり)さーん。ここに過激派攘夷志士が居まーす。鬼兵隊の総督がここに居まーす。すごく関わりたくないでーす。俺は全てを壊したい病に掛かったいい年した厨二がここに居まーす。
 布を目深に被り直して背を向けてシャッターを閉めようとした時だった。



「客が来たのに顔も見せねぇとは、お前どんな頭してんだ」
『……こっちコミュ障なんで、目ェ見ると話せへんのですわ、勘弁したってください』
「へェ……まぁそう言うことにしといてやるよ。……ずいぶんとゴツいアンクルしてんな」
『友人から渡されたもんなんで。これらのために多くの人が血の海に沈んだとか沈まなかったとか』
「そんなに高価なもんか」
『まあ、とある、人間の命を大事にするマフィアに代々伝わる幹部の継承の証なんで、そこそこには高価やと。今代で10代目です』
「お前マフィアか」
『今はちゃいます。ただの戦闘は弱い一般人です』



 いぶかしげな視線を投げられたものの納得して高杉さんは帰っていった。なんか緊張した。とりあえず銀魂の世界とかなんなんこれ、なんなんこれなんなんこれなんなんこれ!?
 恭弥と風くんがとても懐かしいです帰りたい。



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199:ぜんざい◆A.:2017/02/12(日) 16:31 ID:PaI



 三日後、高杉さんは律儀に店にやって来た。やって来た高杉さんに絵を渡せば固まって「これ本当に絵か? 写真プリントアウトしたんじゃねぇのか」と疑われた。失敬な。



『うちにプリンターないです』
「実力かよ」
『うぃす』



 高杉さんはけらけらと笑ってから「また来るぜ」と行ってしまった。……うっ、嬉しい申し出ですけどぉ、もう来ないでくださぁいっ、怖いですぅっ。ダンロンの蜜柑ちゃんのように言ってみたがキモくて吐きそうだ。蜜柑ちゃんだから出来るのだあれは。しまった、長い間黙ってしまった。



『……また』



 慌ててそう告げれば高杉さんは振り返らずに片手をあげて手を振ってから行ってしまった。なんやあのエロイケメン。
 それを見送ってからぱたんと戸を閉める。どかりと椅子に座ってからあああああと大きく息を吐いた。



『……恭弥』



 ここにいない恭弥の名前を呼んだ。普通の紙に鉛筆を滑らせて恭弥のいつも通りのムスッとした顔を描いた。いつの間にか出てきていた夕焼小鳥がぽすりと頭の上に乗ったのが分かる。この小鳥もヒバードに似ているから不思議だ。



『せや、買い出し』



 慌てて立ち上がり、扉をガラリと開けて鍵を閉めて、ついでとばかりに周囲にばれないように三重に鍵を掛けてピッキング対策を施した。
 匣兵器からバイクを出していたのでそれに股がりヘルメットを被って出発した。バサバサとはためくぼろ布に隠れて、背後をつけてくる影には気づかなかった。


 必要だったものを購入し終えて帰宅。異変に気付いたのはその時だった。



『なんっや、これ』



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200:ぜんざい◆A.:2017/02/12(日) 23:16 ID:PaI

厳重に掛けておいた鍵はぶっ壊され、入られた形跡があった。嘘やろ。あるものないもの見てみれば金品は全て残っていたものの、下着が一枚無かった。嘘やろ。あれか、今ちまたで騒がれている下着ドロか。若い女の下着を盗んでは夜な夜なモテない男に振り撒いているあの鼠小僧の変態バージョンか。まあ捕まるやろ。そう思いVGで扉を修復して五重掛けの鍵を設置して家に入った。
そして数日後、高杉さんが再び店へと姿を見せた。隣にピンクのへそ出しセクシーな服を着た金髪美人をつれて。あれ来島また子よな。うーわめっちゃ美人や、実物めっちゃ美人や。高杉さんは頭に被っていた笠を小脇に抱えて煙管を加えながら「よう」とこちらに声をかけた。

『どうも高杉さん。隣の美人、高杉さんの彼女すか』
「なっ、なななっ、びっ、美人!?」
『はい、久々こんな美人見ましたわ』
「あ、ありがとうっす!」
「女店主、依頼だ」
『はい』

高杉さんの雰囲気がちょっと怖いものになったのでちゃんと話を聞くことにした。

「今ここで絵ぇ書くのは可能か?」
『全然』
「コイツ描いてやってくれ、前の絵をプリントアウトだっつって聞かねぇ」
「だってあんなの絶対プリントアウトっすよ! 金取り泥棒っすよ!」
『(ひどい言い草や)鉛筆でエエですか』
「頼むわ」

のんびりと一枚の白紙とバインダー、鉛筆を取りに奥へ引っ込みまた出てくれば二人してこちらを見つめてくるお二人の姿が。

『どないしました』
「てめェ左腕の包帯どうした。昔絡みで喧嘩か」
『いやこれこっちが16の時につけてもた大火傷です。見せれる様なもんやないんで包帯巻いとりますけど』
「そんでその包帯すら隠す為にボロ布頭から株ってんのか」
『こっちコミュ障なんで』
「嘘だな。いくら目を見ねえっつってもコミュ障がここまで喋れる筈ァねえ」
『あー、恥ずかしながら、コレないと不安になる言いますか、調子出んのですわ』
「ヘェ」

くすくすと鋭く目を細めて笑う高杉さんを不思議に思いながら来島さんに椅子に座ってもらい、こちらも正面に腰を掛ける。

『高杉さん、名前なんちゅーんですか』
「来島また子だ」
『来島さんすね、すんませんけどしばらく動かんといてください』
「了解っす」

また子のその合図を聞き、こちらはバリバリと鉛筆を滑らせ始めた。途中で力を込めすぎて鉛筆が折れたので『役立たんな』と一瞥もせずに勢いよく後ろに放り投げ、手元に呼びとして置いていた鉛筆を手に取りずしゃしゃとここ数年VGで鍛えた筆速でまた子を描き進めていった。

「(はえェな、手元が見えねぇ)」
「(なんかずしゃしゃとか聞こえてくるんすけど!?)」

二人が脳内でそんなことを考えているなんていざ知らず、ものの五分も経たずにまた子ちゃんを描き終えてしまう。

『とりあえず待たせるんアレなんで速攻仕上げました。雑になりましたけどそこら辺は堪忍してください。て、顔色悪いですけど、気分でも悪いんですか』
「い、いや、大丈夫っす。これ、今描いたんすよね!?」
『あっはい』
「晋助様! 見てくださいこのとんでもクオリティ! 五分っすよ五分!?」
「…女店主よォ、あんたあの絵もこんなスピードで終わらしたのか?」
『まあ』

そう頭を掻けば、唐突にヒタリと高杉さんから首もとに刀を置かれた。咄嗟に両手を上げて『高杉さん』と声を掛ける。

「おい、女店主よ。やっぱアンタ唯者じゃねーな」
『……タダの善良な一般市民です言うて』
「いや違ェな。本当にタダの善良な一般市民なら首に刀置かれて震えて泣き出すだろーよ、それに」
『それに?』
「さっきから俺は一般市民なら気絶するくれェの殺気を出してたんだ。そこの来島でさえ顔を青ざめる様な、な」
『!』

なるほど高杉さんたちは元々目的がコレだったのか。口実として絵の事を出したと。悲しいような賢い様な。いろいろと脱帽ものだ。

『ホンマ、脱帽もんやで高杉さん』
「あの殺気の中で平然と絵ぇ描いてたアンタにも脱帽だぜ俺ァ」
『いや、まぁ慣れとるんで、殺気とかには。集中し過ぎると分からんだけっちゅーか』
「慣れてるだと?」
『婚約者がそんくらいの殺気を常日頃から出しとるんですわ。多分本人無意識ですけど自然と言うか、アイツの雰囲気が殺気っちゅーか』
「んだそりゃぁ」

さて、高杉さんたちはこっちを一体どうするつもりなんやろか。

201:ぜんざい◆A.:2017/02/13(月) 23:36 ID:PaI




「てめェ、実力者だろ」
『自分で言うのもなんやけど、多分そうやないですか』
「鬼兵隊に入る気はねェか」
『無いな』



 即答すれば理由を聞かれた。そんなの単純に新撰組に追っかけられるのは困るからだ。そう返せば「ちげぇねぇ」と高杉さんはカラカラと笑って刀を納めた。



「ダメもとでまた何回か勧誘に来てやるよ。贔屓にしてやるから、まァ考えててくれや」
「っす。そういうことなんで」
「また来るぜ、女店主」
『来島さんまた来てな』
「てめえ」



 若干ムッとした高杉さんにフッと笑みを溢して『また』と返せば彼は返すことなく歩いていこうとする。が、ピタリと足を止めてこっちの姿を目に止めた。



「女店主……お前、名前なんだ」
『……伊達 いおりや』
「伊達か」



 今度こそ彼ら二人は網笠を頭に被って行ってしまった。なんか、悪人には見えんかったけどなぁ。
 そして翌日、差出人が高杉晋助の宅配便が届いて、すごく美味しそうかつ高級そうな水羊羹が送られてきたことには流石に驚いた。贔屓にってこういうことか。これは、無下には出来ひんぞ……どないしてくれるんや高杉さん。



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202:ぜんざい◆A.:2017/02/13(月) 23:50 ID:PaI


 ワイシャツを着てそれをそのまま腕捲り。腰にジャージを結んで下はワークパンツ。まぁダボッとしたディーノが穿いてる様なズボンだ。
 その上からボロ布を羽織って準備オーケー。そのままVGのスケブから恭弥の乗っていたバイク(スズキ・カタナ)を呼び出し、バイクを描いた紙を破って実体化。よし、甘味屋行ってきます。

 唐突に今日はぜんざいが食べたくなった。元々この世界に来て好物であるぜんざいを食べていないのだ。江戸やねん、食わな損々。でも主人公とのエンカウント率が上がりそうやわ。既に高杉さんに会うてるし。

 そんなことを考えながらバイクを走らせて甘味屋到着。店員さん(女性、顔も制服も可愛い)にぜんざいをひとつ頼んで大通りに面した外の長椅子に腰掛けた。
 運ばれてきたぜんざいを満足げに食す。ここの美味い。恭弥に食わしたい。
 さて帰るかと勘定をしていたときだった。
 遠くからパトカーのサイレンが響いてきて、そのままパトカーから茶髪の黒制服の青年がこっちのバイクに目を付けて「借りるぜぇ!!」とさしっぱなしだった鍵を回してエンジン掛けて行ってしまった。
 余程急いでたのか……新撰組大変やなぁ。……茶髪の彼が沖田だとは思いたくないな。

 遠くで「見つけやしたぜェ土方しねコノヤロー!!」と聞こえてきたのは知らんぷりだ。こっちは関係無いもん。



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203:ぜんざい◆A.:2017/02/15(水) 00:35 ID:PaI


 結局返ってきたバイクはボロボロで目が死ぬ。恐らく死んだ魚の様な目をしているであろうこっちに、沖田総悟らしい人物が(見た目だけ)申し訳なさそうにやって来た。



「すいやせーん、借りたつもりだったんですけどー、土方のヤローが避けやがったからぶっ壊れましたァ」
『(まぁまた出したらエエか……)ん、まあ新撰組やし、しゃーない』
「!? あァ、まぁ、はい」



 驚いたように目を見開いて見上げてくる沖田くんにあっ、これヤバイかも。と危機を察知してグイッと頭に被った布を引っ張り、苦し紛れに沖田くんの頭を一度ぽんと叩いてから足早にその場を去った。
 エンカウントして目ェつけられたら結構困るんですよね、いおりさんは傍観しとりたいんや、許せや、つか許してください頼みますマジで。

 帰宅して中に入ると何やら高級そうな包みが。……どないして入ったんや高杉サァン。開けてみれば高そうな和菓子詰め合わせ。甘味屋に行く前に届けてほしかった。正味行く前に届けてほしかった。二回目やんこれ言うん。


**


 そして翌日、ポストにとある茶封筒が入っていた。中身を見ればこっちの隠し撮りの写真の数々それと手紙。なに、これはあれか? 高杉さんの新手の嫌がらせですか?
 いやいやー、とか内心思いながら導入(笑)されていた手紙をぺらりと開く。そしてそこには!



「貴女をいつも見ている。そう、いつもいつも見ているんだ。左腕の包帯の下が見たいな、貴女の全てが知りたいよ、口調はどんな感じだい? 土佐弁? 関西弁? 標準語? 右足首のバンクルが高級そうで、足枷みたいに見えてとても綺麗だね。ところで左手の薬指の綺麗な指輪は誰から? でも俺はまだあげてないよ? ああ、安心して。大丈夫だから。分かってるよ? 無理矢理押し付けられたんでしょ? そして僕に嫉妬して欲しいんでしょ? だって君は他人を寄せ付けたくないみたいだからね。俺以外とは触れ合いたくないって事でしょ?」



 ……うぇぇえええぇぇえええぇぇい!
 なんだこの勘違い男! なんだこの勘違い男! 大事な事だから二回言うたよ! なんだこの勘違い男! 大事な事だから三回言うたよ! こっちは恭弥一筋やっちゅーねんボケ! 誰がお前なんかに嫉妬してもらいたいねん! キッモ! キッモ!!!



『勘違い馬鹿乙(笑)ダッセキッモ』



 手紙を書いた人物に嘲笑して、歩き出す。手紙をライターで燃やして炭になったからそのまま捨てた。とりあえず写真持って新撰組に行こうそうしよう超怖い。



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204:ぜんざい◆A.:2017/02/16(木) 23:46 ID:PaI




 新たなバイクに飛び乗りブォンブォンドルルルルと音を立てながら爆走して到着した新撰組屯所前。とりあえず、『すんまっせーん』とか軽ーく言う勇気もないので『ごめんください』と控え目に扉を開けた。こっち多分めっちゃ怪しい人やと思うねん。やってボロ布頭から被っとるんやで。
 は、と自嘲気味た笑みを微かに浮かべて一歩足を踏み入れれば、こっちに向かってスッ飛んでくる黒い影。人影のようにも見えるので避けるわけにもいかず、一緒になって吹き飛ばされないようにガシッとその人を片腕で支えた。左肩ゴキって言うた! ゴキ言うた!!
 どうやら目を回しているようで、顔を見てみればジミーと有名な山崎退だった。え。
 彼が飛んできた方向を見ればそこには今にも山崎さんぶん投げましたと言ったポーズの土方十四郎さん。



「……な、にか用か」
『今、投げはりました……?』
「いーぇぇえ!? 投げてませんけどぉ!?」
『あっはい』



 土方さんは声をあげながらこちらを脅すように見てきた。とりあえずそれをスルーして『被害届出しに来ましてん』と布の奥から彼を見据える。とりあえず山崎さんは地面に捨てた。



「被害届だと?」
『……まぁ。……ストーカーにおうてまして』
「近藤さんんんんんんん!? 志村の次はボロ布さんか!! 節操ねーな!?」
『多分その人ちゃいます』
「え」



 その後、土方さんの薦めで少し事情聴取されるらしく、取り調べ室へと連れていかれた。途中で沖田くんも合流しました。一度もこちらを見てくれませんなぜでしょう嫌われとるん? こっち。



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205:ぜんざい◆A.:2017/02/27(月) 23:56 ID:gAY

新連載的な。(銀魂沼にどっぷりハマったなんて言えへn((⊂三´ω`セイヤッ)
 #3年Z組銀八先生 #普通に #ギャグを目指す #始まるのは2Zから

 夢主設定。

 小原 いおり(こはら いおり):女
 見た目はこれまでの連載の女夢主と一緒。違いと言えば少し髪が伸びて肩につくかつかないぐらいのショートカット(毛先外ハネ)ぐらい。コミュ障。身長が172cm。極度のめんどくさがり。アニメは少年漫画系とラノベ系(両共グロ含むものもいける)、映画はグロテスクなものを好む(バイオハザードとか)、他はアニメのみ。よくスケブに鉛筆走らせてる。ゲーマー。二次元に嫁が居て三次元で歌い手さん追っかけしてるなんでもこいこい系全方位オタク。ドラマは見ない。両生類で、普段の声が男寄り。意識すればエロボ出る。オツムの出来はあまり良いとは言えないし悪いとも言えないとても平均的な人間。バイク通学。とある仕事で学校を休みすぎて二年からZ組に落とされた(実は学校側の配慮だったりする)。セーラーの上から赤と黒のナイキジャージ(上着)を着用。前のチャックは閉めない。顔も普通。ゲームと漫画の読みすぎで視力低下した眼鏡女子(生まれつき目が弱かったので進行が早い)。関西弁。あんま自分から話し掛けないし喋らない。多分ツッコミ要員になると思われる。桂や高杉とか女子に絡まれているのをクラスメイトはよく見かける、本人は受け答え。癒しは神楽と妙。一人称こっち。少しだけ太め、あんま誰も気付かない程度に太め。

**

 一年の時は、まぁ仕事が忙しくてあんまり学校来れなくて、それでも理事長の配慮で進級出来た。……けどなぁ。



「その代わり、Z組だよ」
『……マジすか』



 Z組とかホンマ無いわ。
 この春休みを終えればこっちは2-Z組になる。噂ではZ組はとんでもない問題児どもの集まりやとか。不良とか不良とか不良とか。もうこっちなんか取って食われるてまうわボケェ。クラス替えもこの銀魂高校は無いし、最近運動してへんし、護身術になりそうなのは3歳から中学に入るまでやってた少林寺拳法ぐらい。それでもやめてしまってブランクは4年程、出た大会でぽんぽん優勝取れたあの黄金期にはもう戻れない。初段取ってもやめんかったらよかったんやろか……。
 死んだ魚のような気力の無い目でボヤッと遠くを見る。ああ、学校行きたくない。成績も下がったから仕事一旦やめさせられたし、散々や……中学からやっとったもんやのに。エエもん、別のとこで同じ仕事するもん、こっちを手放したこと後悔しろ。
 そんなイライラをぶちまけるようにバイオハザードシリーズを一気見。いやあ、もうほんとなんてスプラッター。爽快感がパないわ。とガラスのコップに注いでいたコーラを飲み干す。



『……あー、めんどくさっ』



 さて、今日は浦島坂田船のCDの発売日やから、バイク飛ばすか。



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206:ぜんざい◆A.:2017/02/28(火) 00:25 ID:gAY

歌い手さんの名前が出てきます。関係者様だったり嫌や! 言う人はNGです!


 昼間、バイクを飛ばしてCD買って、そのままマックででも腹を満たそうかと言うとき、ビルにある大きな液晶から「今や国民的有名漫画、週刊少年マガ○ンで連載していた『セイクリッド・ソードワールド』が突然の打ちきり! 終了を祝うかのようにアニメ映画化が決定しました! 打ちきりと引き換えのファン待望の映画化! 才能に満ち溢れた高校生作家「三日月 恭夜」のアニメ映画! アニメは視聴率が朝ドラ並みと言う異例の快挙だったソレが、映画化です! あっ、二回も言っちゃった」と大きく宣伝されていた。へえ、あれアニメ映画化するんや。DVD出たら見よかなぁ。
 それぐらいの気持ちで手から下がる袋を握り直してマックへと入店した。
 このあとアニメイトでも行くか。そう、とうらぶ! 待っとってや、みっちゃあああん! 伊達組ばんざあああああい!



**



 そして始業式。出るのかめんどいとか思っていれば理事長に「アンタはこっちね」と引きずられ、始業式ほったらかしでZ組の教室前まで連れてこられた。「そこで待ってりゃ呼ばれるから」とだけ理事長は告げて行ってしまった。……Z組始業式出んでエエとかなにこれ夢のようやねんけどすっげー。

 そしてしばらく。いつまでたっても名前が呼ばれない。中からは何かを殴る音とオマケのようについてくる野太い悲鳴、そして笑い声と怒鳴り声。なんやこれカオス。このまま帰ってエエかなエエやんな。なんて考えながら暇だったので先程からイヤホンで先日買った浦島坂田船聞いてます。埋ーまってーいくー、泣きーむーしーなノォートがー! 流石志麻さん、そのエロボに一生着いていきますまーしぃかっこエエよまーしぃ。いや、他のメンバーも好きやで? でも志麻さんが一番好き。声がダイレクトアタックしてくれました。
 するといつの間にやら静かになっていて少し首をかしげると勢いよく目の前の引き戸が開いた。鬼の形相の銀髪の先生が居たので教室やっぱ間違えたかな、と無言で引き戸を閉める。だが直ぐ様再び戸が開けられイヤホン剥ぎとられた。あれ、若干涙目やんこの先生……あれ、よぉ見たら銀八先生やったわ。すんません。



「あのねぇ、さっきから数十回呼んでんの、反応してよ! 入ってこいよ!」
『……聞こえませんでしたわ』
「そりゃイヤホンつけてりゃね!? おとなしく待ってろよ!」
『……かれこれ30分待ってから着けたんやけどな……』
「すいませんでしたあああああ!」



 困ったようにそう言えばスライディング土下座して来たのでそれを少しだけ鼻で笑ってからふと気付き『スカートの中覗いても短パンやで』と告げれば「ごめんなさい」と立ち上がって90度に腰を折られた。覗く気やったんやな。
 ようやく教室に案内されて教卓の隣に立つ。このクラスの方々から様々な視線が突き刺さって痛いです。誰だ今こっちの顔見て鼻で笑ったやつ。あそこのアイマスク君ですね分かります。誰だこっちの胸に視線を寄越してる変態は隣の銀八先生ですね分かります。ふっつーの大きさの胸見てもおもんないやろ。
 あっ、あそこの泣きボクロの眼鏡の紫髪の女の子めっちゃ美人。髪の毛可愛くポニテにしたあの子も綺麗や、前列の渦巻き眼鏡掛けたチャイナ娘も眼鏡を外せばきっと可愛い。何ここ宝庫?



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207:ぜんざい◆A.:2017/02/28(火) 00:40 ID:gAY


「ほら、自己紹介しろ」
『小原いおりです、よろしく』
「もうちょっとなんかないの!? 好きなことは何々ですだとかなんでこのクラスに移籍してきたのかとか」
『……このセンセめっちゃめんどい、鬱陶(うっと)い』
「お前さっきから酷くね!?」



 あーうんはいはい的な感じて『じゃあ質問ある人手ぇあげて聞いてくださいー』とか適当に言ったらいっせいに手が上がった。ノリエエな。なんやこのクラス。



「小原さんは彼氏いますか!?」
『二次元嫁なら居ります、彼氏は居ません』
「あら、小原さん、あなた好きな食べ物は?」
『甘いものとインスタント』
「得意教科はなんなの?」
『国語と美術』
「なんでこのクラスに来たんだ? 問題でも起こしたのか?」
『出席日数足りんかった』
「小原さんゴリラはケツ毛ごと愛せますか!?」
『すまんなに言うとるか分からへん。あえて言うなら絶対無理』
「おい小原ァ、SMプレイか放置プレイどっちが好きでさぁ」
『やる方なら何でもエエ……ってなに言わすねんドアホ』
「マヨネーズは好きか」
『何でそのチョイスやねん、普通やわ』
「喧嘩は好きか?」
『好きか嫌いか以前にそもそもせぇへんわ喧嘩』
「第二の眼鏡アルか?」
『強いて言うなら紳士やな、チャイナの可愛子ちゃん。っていうか第二の眼鏡てなんやねん』
「小原お前スリーサイズいくつ?」
『なんでそれやねん!』



 銀八先生の頭を肩に掛けていたスクバでぶん殴り『とりあえずよろしく』と死んだ目で手を振れば「ひゃふー!」「祝えー!」「ケーキアルか!」とか騒ぎ出す始末。何やこのクラス。



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208:ぜんざい◆A.:2017/02/28(火) 22:08 ID:gAY

※小説沿いじゃないです。……小説沿いではありませんよ!


 席に着けばHRほったらかしで集まってくる2-Zに困惑する。お前ら流石に先生可哀想やで。とか思ってたら先生普通にジャンプ読んどるし。



「私神楽アル、よろしくネいおり」
『よろしく神楽』
「私志村 妙、よろしくお願いねいおりちゃん」
『よろしく妙』
「ぼ、僕は柳生九兵衛、よろしく……」
『よろしく九ちゃん、いおりでエエよ』



 可愛らしい(一人美少年みたいな)子たちと早速名前呼びをして仲良くなった。ここのクラスエエ人ばっかや。

 それから数日。

 授業中、隣の席の沖田に「あそこのV字前髪は土方さんでぃ。カッコつけたがりだから気ぃつけな」とかいろいろ土方に仕掛ける悪戯を二人で考案したりとなかなかに楽しい。案の定沖田と一緒に土方に怒鳴られた。こっち悪ないやん、こっち悪ないやん!

 昼休み、神楽と飯を食べていて神楽の飯の量の多さに驚きながら『よぉ食うんやな』と心の中で感心する。このほっそい体になんでそんな入るんや。

 休み時間騒がしい周りをスルーしてなかなかにインパクトのあるエリザベスにイラストデッサンしてもエエか頼めば[可愛く描けよ]とプラカードで返事が返ってきた。エエな、そういうキャラ。乱入してきた桂もエリザベスの隣に書いてやったわ、はーっはっはっは!

 帰りのSTにて、銀八先生からあーだこーだとまったく自分のためにならない話を手短に話され、解散。



「あ、いおりちゃん、今日一緒に帰らないかしら?」
「駅前のサーティツーに寄り道するアルよ! 冷たくて甘いアイス食うネ!」
『……ん、行く』



 バイクやしどないするかと悩んだものの楽しげだから誘いに乗っておこう。バイクは手で押しながらいけばいい。見ればうしろで近藤が「お妙さんが行くなら俺も!」とか挙手しているがお前付いてきたら轢くぞ、いおりさん本気だぞ。このあと風紀委員の土方と沖田が近藤と共にサーティツーにやって来ました。近藤めェ。そしてなぜか土方と沖田に奢らされました。なんでやねん。

**

 翌日、あまり寝れなかったが、ようやく仕事を無事終えて登校するぞ! ってところで外を見れば夜に雨でも降ったのか所々大きな水溜まりが伺える。

 そんなの気にせずブォンブォンとバイクにエンジンを掛けて住宅街を走る。こっちは風になった! うぇーい。なんて若干テンションハイになりながら住宅街を走る。
 そして、事件は怒ったのである。



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209:ぜんざい◆A.:2017/02/28(火) 22:38 ID:gAY

高杉くん性格が少し丸くなってます。


 ばしゃりと嫌な音が聞こえた。続いて「うおっ」何て言う男たちの声も。



『え……』



 急ブレーキを掛けて振り返れば学ランでたむろしていた不良たちがこちらを見て「学ランがぁぁあ!」「ズボンのケツが!」と怒鳴りこちらへやって来て叫ぶ。



「どーしてくれんだ! 一張羅がずちゃ濡れじゃねーか!」
『……すんませんした』
「すんませんで済むわけねーだろーが!」
「クリーニング代寄越せ!」
『ホンマすんませんした』
「こっち見て言えコルァ!」
「慰謝料払えよ!」
「それが無理なら体で払え!」
『さーせんっしたー』
「雑!」
「目がつめてぇ!」
『黙っとれや』
「んだとコルァ!」
『二回目やん』
「うるせーよ!?」
「女だろーと関係ねぇ! やっちまえ!」



 やっべ、とアクセルを握って走り出す。相手さんもバイクだったのか後ろでブオンブオンと激しいエンジン音が響く。夜よく走っとるやつやんうるさっ。とりあえず曲がり角を存分に使ってドリフト決めて華麗に撒いた。スマホの時計を見る。今何時や九時や遅刻や。ここまで来たらどーでもエエわとゆっくりとバイクを走らせていると。



「高杉ィ! 今日こそテメェをブッ倒してやるぜ!」
「……ハッ、クズが。そこら辺でくたばってろよ」
「鼻で笑ってんじゃねえ!」
「この人数じゃ流石のテメェも負けるだろーよ!」



 塀の上で三十人位に囲まれてジリジリと後退している同じクラスの高杉を発見した。そこ空き地やってんな。
 アイツも遅刻か、いや絡まれて学校行けなかったパターンの奴かこっちと一緒やな。可哀想に。
 どうやら高杉は武器も何も持っておらず、所持しているのは通学鞄のみのようだ。いつも登下校は河上と後輩のパツキン美人ちゃんとしとった気ィするけど……。
 あっ、高杉がとうとう塀ギリギリまでやって来てしまった。しゃーないな、助けてやろう。



『高杉』
「! 小原……!? なんでお前こんな時間に」
『言うとる場合か。こっち来い。飛び降りろ』



 そう告げれば高杉は少し顔をしかめて躊躇ったあと、目の前の三十人を越える大勢を見てから舌打ちしてバッと塀を飛び降りてこっちのそばに来た。ここまで言えばさすがに分かっているようでバイクの後ろに跨がる。



「飛ばせ小原!」
『ん、掴まっときや』



 言われなくても、とアクセルを握りびゅん、と飛ばす。咄嗟に高杉は片腕でこっちの腹を抱える様に抱き、速度に耐えた。後ろでも見てるんちゃう? そして現在時速100km越えたところ。あの不良連中の姿はみるみるうちに遠ざかる。やったね、もう大丈夫。ってところで減速してそのまま進む。このまま学校行こう。
 ふうと溜め息を吐いた高杉に『お前あんなに囲まれて、前に何したんや……』と小さく呟けば「うるせェ」と返ってきた。なんや、聞こえてたんか。



「わりぃ、助かった」
『大丈夫や、こっちも逃げとったところやから』
「……は?」
『ちょうどあそこの集団みたいな不良どもに……ってあれやん。いおりさん追われてたんあの集団やん』
「馬鹿野郎なに呑気に減速してんだ飛ばせ!」
『すまん飛ばす』



 そうして再びアクセルを握って、なんとか撒いて二人してぐったりしながら教室へ入ればちょうど国語だったらしく銀八先生に「お前ら二人大遅刻なってなんでそんなに疲れきってんの」とタルそうな目で告げられた。



「なになに二人で仲良くしっぽりでもしてたの」
『そんなわけ有るかボケェ!』
「黙ってろ銀八テメェ!」



 二人でドカバキと銀八を蹴り踏み抜いた。ちょっとすっきり。あれから高杉とは気が合うようで今や一緒にいる時間はクラスメイトの中では一番多くなった。恐らく銀八への怒りで波長が合わさった。



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210:ぜんざい◆A.:2017/03/01(水) 23:40 ID:/VU



 それは昼休み、課題を提出し終えた職員室の帰りだった。とりあえずついでに被写体探しでもするかとノートを小脇に抱えている。
 するとそれはまぁベタなことに、曲がり角でドォンと女子生徒とぶつかった。なんちゅうベタ、漫画で黒く塗り潰すのもベタ、関係無かった。



『っ、う』
「あいたっ!」



 どさりと尻餅をつく彼女にやらかしてもためっちゃテンプレやんとか考えながら『すまん』手をさしのべる。そうすると彼女は「ありがとうっす」と可愛らしい声でその可愛らしいお顔を見せてくれた。あれ、この子あれちゃう? 高杉とよくつるんどる後輩の子。



「ぶつかって申し訳ないっす! あ、あたし来島また子って言います! 一年っすよ!」
『あ……二年の小原や。ぶつかってすまん』



 ずいぶんと無愛想な返しをしてしまった。が、彼女は「小原先輩ッスね……小原ァ!?」とそのつり目かつ大きな目をひんむいてこちらを凝視した。美人に見つめられると照れる。とりあえずわなわなと震える来島に小さく『……どした』と聞けばビクッと肩が震えた。……え、こっちなんかしたっけな……。
 そして彼女はいきなり顔をあげてこちらに詰め寄る。



「最近晋助先輩と仲が良い女子生徒っすよね!? 一番気が合うとかで!」
『すまん知らんアイツがそれ言うたん? なぁ言うたん?』
「不良に囲まれてたところを颯爽とバイクに乗せて助けたとか!」
『いやそれ偶然居合わせただけやねんけど』
「恋人って噂もあr『すまん高杉とか正直考えられへん』即答っすか!? ぱねえっす!」
『何がぱないねんこっち高杉にかなり失礼なこと言うたぞ。確かに高杉見てくれはエエけどいおりさんはそこまでやな』



 お前はどこぞのベルバブ漫画のパー子かよとか思いながら手元のノートがないことに気づく。あのノートは中学から使っているものだ、中身が知れたら……うぉう黒歴史確定なり。いやなり。ってなんやねんバカヤロー!
 するとふと来島が「あ、ノート落ちてるっすよ」とサッと拾ってくれた。『お。ありが』とまで言えたが、とう、まで続かなかった。彼女が「勉強熱心っすねー」とぱらぱらとページをめくりだしたのだ。いやいやなにしてんのぉぉお!?
 そして不意にピタリと停止する彼女にあちゃーと頭を抱え込む。そして彼女はこっちを見、ノートを見、そしてまたこっちを見、再びノートに目を落として「はあああああ!!?」と絶叫した。ちょ、しーっ! しーっ!



「えっ、こっ、これっ、嘘っ、えぇええぇ!? まさか御本人っすかああああ!!!??」
『ちょ、しっ、しっ。声でかいっ、御本人やからっ。静かにっ。バレるっ』
「す、すいませんっす!」



 彼女は声を小さくしたが興奮は収まらないようで悶絶したように震えている。心なしかこちらを見る目がキラキラしているようにも見えた。



「すごいっす! 素直に尊敬っす!」
『……あー、おん』



 予想できたであろう展開。知られればそういう目的で近付いてくるのは当然の事だった。……もうしまいや、いおりさんは死んでくる。
 そして来島の発言は、きれいにこちらの予想を裏切ってくれた。



「あっ、でも色眼鏡で先輩を見るつもりはないっすから、安心してください! 仲良しな先輩後輩の仲になりたいっす」
『君は天使か』



 心優しい後輩兼親友が出来ました。ちなみに内容は他言無用、今は二人だけの秘密だ。



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211:ぜんざい◆A.:2017/03/03(金) 00:25 ID:/VU



 それから。また子とはよく遊ぶ仲になった。クラスの愚痴を聞いてもらったり聞いてあげたりいかに高杉がイケメンか聞かされたり。いおりさん男の子興味ない。

 そして気がつけばやって来ていた体育祭。体操服ブルマとかマジ有り得んってことでこっちは普通にスポーツショップのア○ペンでジャージのハーパンを履いている。

 基本的にいおりさんは体育祭、屋上でサボりである。だってなんだかー、だってだって何だもーん。あかん意味不明や。フェンスにもたれかかりすっかりその中毒性にやられたフリィダムロリィタを口ずさむ。フリィダームロリィーターマセた町でー。
 すると屋上の扉がバァンと豪快に開けられびくりと肩を震わせる。そちらへ視線を向ければ銀八センセがくわえ煙草でこちらを見ていた。



「歌ってたとこわりーなぁ、お前今から100m走だぞ出ろよ」
『高杉か土方か桂か山崎辺りにやらしたらええやんアホやなーこっちが出るわけないやろ。あ、さっちゃんでもエエで。あの子あんたの言うこと聞くやん』
「ひでぇなお前は」
『うっせぇよ黙れよ』
「無駄にイケボで言わないでくんない?」



 そういった銀八の横を通り抜けて『しゃーないな』と階段を降りる。もちろん向かう先は応接室だ。誰が体育祭なんか出るか。
 ざまあ銀八。ざまあ先程名前を挙げた男子生徒。



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212:ぜんざい◆A.:2017/03/09(木) 23:53 ID:m9E

トリップもの。浦島坂田船→銀魂

 歌い手様なのでご本人様や関係者様はスルーしてください。こう言うのが嫌な方もスルーおねしゃす。批判等は受け付けません。だってこれはぜんざいの自己満足だもの。


**
うらたぬきside

 気が付けばそこにいた。隣には坂田が居て、周囲を見渡し呆然。
 見慣れぬ古風な大通り、着物や袴姿の人々、空に浮く宇宙船、そして化け物のような恐らく天人と呼ばれる生き物。
 明らかにここは銀魂の世界だった。



「えもがっ!?」
「しっ!」



 大通りのど真ん中で叫べば目立つだろうが。と声にはせず坂田の口を片手で塞いでずるずると端へ寄せる。
 ぷはっと息を吐いた坂田は小声で「ここどこ!? やっぱ銀魂か!?」とおろおろと慌てる。お前が慌てるせいで俺慌てらんねぇだろ落ち着け餅つけ。



「さかたんの言う通りここは銀魂だろーな」
「銀さん居るかな」
「ちっげーだろ! ……俺らはここに来る前何してた? 誰といた?」
「え、浦島坂田船の四人でレコーディング……ああっ!」
「そーだよきっと志麻さんとセンラさんも居るんだよここに!」



 他の二人も居ることを願ってから自分達の身なりを見れば、あれだ、千本桜の時にフユカさんにイラストで書いてもらった時の服装だ。確かにぴったりだもんなぁ。と言うか。



「顔もイラストのままじゃん!」
「やっべーすっげー!」
「財布も有るし……あ、通帳もあるから多分金もこっちに来てるな」
「便利だな」



 やまだぬき、スマホ、財布。俺の所持品はこの三つだ。やまだぬきは肩に居た。かんわいいなおい! 俺は人間とたぬきのハーフだー! ふははははー!
 そうなると、残りの二人がどこにいるのか謎だ。二人で顔を見合わせれば坂田がハッとしてから「俺ら今金あるじゃん」とポツリと呟く。おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいまさかまさかまさかええーマジかええーっ。



「まさか、坂田っ、お前……!!」
「ふっ、そう、そのまさかだ!!!!」
「そうか、なるほど分かったぞ! それなら!! レッツゴー」
「万事屋!」



 二人で厨二なノリで茶番を起こしてから、バタバタと動きにくい着物で俺たちは勘を頼りに万事屋へと向かった。



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213:ぜんざい◆A.:2017/03/10(金) 00:21 ID:m9E

『wwww』表現あり。

 俺達が万事屋に着いたのは出発してから三時間後だった。動き始めたのは良いものの、あれだ、やっぱり勘を頼りにしてはいけなかったらしい。結論から言おうめっちゃ迷った。それもこれも……全部さかたんのせいだ!!!
 美味しいものや珍しいものを見つけてはあっちへふらふらそっちへふらふら。どこいくんだよお前!!! 万事屋行くんじゃねーのかよ!!! とかそういうやり取りをしてようやくたどり着きました『万事屋銀ちゃん』。
 俺たちは今玄関の前で立ち止まってます。なぜかと言うと。



「すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー」
「おいっ! いつまで深呼吸してんだようらさん!」
「いやだって緊張するじゃん!! しちゃうじゃん!!! さかたんしないの!?」
「めっwちゃwwしwてるwwww」
「ほらぁー!! ほらほらー!!」



 めっちゃ緊張するじゃん。なにこれすげー緊張するじゃんしちゃうじゃん。そんなこんなで五分経過。



「いやーやっぱり? 最初の印象で全部決まるじゃん? 何かする?」
「チャイム押したら歌うww?」
「えっwwいwいwwwけど」
「なにする?」
「……バレリーコ?」
「でぃんでぃんだーんさーあおーどりまっしょー! っておいおい駄目じゃんこれは流石に駄目じゃんおいおい真面目に考えろよさかたー」
「んー、虎視眈々?」
「絶対却下って言われるって分かれw魅惑ワンツースリーとか行きなり言い出したら驚くだろ引くだろwwwww」
「歌ってる時点で心配要らなくね?ww……あー、聖槍爆裂ボーイとか?」
「いーねそれでいこう!」
「あっ、虎視眈々駄目なのにそれ行けちゃうんだ!? なんで!? むしろそっちのがダメでしょうらさん!」
「そういう曲ばっか振ってくるお前もお前だろーがww」
「それもそうか」



 意を決してピンポーンとチャイムを押して、さあ扉を蹴破って__



「たのもぉぉぉぉおうぉぉぉぉぉおらぁあぁあ!」
「うらさんうるっさいな!? てか歌は!? てかうらさんどうしたのうるぁぁあ! って! 気でも触れたの!?」
「うるぁぁあ! とは言ってねーよ気が触れたとかそんな扱いすんなよ見ろやまだがこんなにしょぼーんって」
「なってねーじゃん! やまだぬきちゃん無言で大丈夫かって顔でうらたさん見てんじゃん!」
「…なん、だと……?」
「なん、だと……? じゃねーよ!!!」
「たのもおおおおおおおおお! 依頼だあああああ!」
「だからうらたさんうるさい! 勝手に扉開けちゃダメでしょ! って蹴破ってるけどね!」



 そう言いつつも坂田よ、ずけずけと入ってってるぞ、律儀に靴を脱いでいってるぞ偉いぞ坂田。
 そんなこんなで奥に視線をやれば迷惑そうな顔した銀髪天パとチャイナ少女。あっ、すいません。



「……ちょっとそこの二人、やかましいんですけど。扉壊れてんですけど」
「弁償ネ」
「「ごめんなさい」」



.

214:ぜんざい◆A.:2017/03/10(金) 10:37 ID:m9E


 なんやかんやで客間に通してもらい、依頼の内容を説明した。おっと、その前に自己紹介か。



「えーっと、うらたぬきです、はじめまして」
「俺はアホの坂田です、よろしく」
「君たち良いのそんな名前で」



 自己紹介をすれば速攻で返答が返ってきた。良いのって……なぁ。と坂田と顔を見合わせて「動画配信してるので……名前をバラすととんでもないことに」と坂田が話す。そこでまた止まってくれないのが銀さんたちだ。



「おいおい君たちぃ、夢見るのは良いんだけどね? 他人を巻き込むのはどうかと思うよ? たとえイケメンだとしても」
「はっきりと、はい嘘です言うアルヨロシ?」
「いやいやいやいや、嘘じゃないですって」
「よしリーダー、証拠動画をつきつけろ!」
「今すぐやってやんよ!」
「うらたさん流石!」



 隣に座る坂田がきゃんきゃん喚くが俺はスマホを取り出してとりあえず千本桜をかけてみた。恋色花火とかそこら辺でもよかったかも。
 ニコニコにて再生画面にしたそれをやまだぬきへと渡せばとてとてとそれを抱えて銀さんの方へと歩き、画面をそちらに向けて再生した。



「こんなもん見せられても……ん?」
「歌アルか?」



 流れ出す曲と同時に静かになる二人。浦! 島! 坂田! 船! のとこ好きだわやっぱ。

215:ぜんざい◆A.:2017/04/05(水) 00:14 ID:JO2

名前変えました。

唐突に書きたくなったシリーズの奴(の設定)。ポケモン。あれです、学パロです。にょた化注意、嫌な方はおすすめできません。ハーレム? かな? そうなのかな。男主。出てくるのはマメツキの知識にある子達だけ。ポケスペ要素はない、筈。多分。

晋夜(しんや)
黒髪黒眼鏡の隠れオタクな高校三年。身長はだいたい180前半ぐらい。デンジとマツバ、ゲンで行動することが多いが基本女の子に絡まれてる。天然タラシ。行動はわりと男前。鉄の理性を持つ(時々揺らぎそうになる)。幼馴染みが二人。二人とも女子。知能は中の上寄りの中。言わば平均。そう平均。アウトドアに見えてインドア寄り。目はかなり悪い。近視とちょっとだけ乱視。女子から人気があって男子とも仲良しな世にも珍しい隠れオタク。
レッド
幼馴染み1。ピクレに近いかも。黒髪のセミロング。さらっさらでくくったりはあまりしない。赤い瞳。身体能力が規格外。鋭いつり目の無愛想で無口な方なので冷たい印象を持たれがちと言うか現在進行形で持たれてたり。でも寡黙系美少女。晋夜好き。グリーンも好き。でも二人に対する好きがちょっと違う。後輩も好き。でも負けない。貧乳。無いわけではない。基本晋夜にくっついてる。黒タイツ。グリーンよりちょっと小さい高校三年生。意外と大胆。晋夜が初恋。そりゃそうなるか。
グリーン
幼馴染み2。一軍系な女子だが、ただ元気なだけ。ちょっと高飛車。でもそれに似合う頼れる系美少女。茶髪ショート。前髪にアメリカンピンを五つ付けてる。緑の瞳。運動神経が良いのでよく部活の助っ人へ推参する。ミニスカなのによく動き回るので晋夜とレッドをいつもハラハラさせている。晋夜も好きだしレッドも好き。でも二人に対する好きは違うベクトル。晋夜は好き、レッドは大切、的な。後輩可愛いよね。でも負けない、後輩には負けない。ガンガン攻めよう! 気づくまで! 昔から抱き付いていたのが仇になるとは……。な残念子。なんでもやれば出来ちゃう爆豪くん型コミュ力爆発女子。ハイソックス。普乳を気にする恋する乙女。レッドよりマシかと思う辺りちょっとひどい。身長は女子にしては低くレッドよりちょっと高い。意外にもウブ。晋夜が初恋。レッドがそうならそりゃこうなる。
ゴールド
晋夜達の後輩1。高校二年生。無邪気な元気爆発娘。黒髪で前髪爆発。後ろ髪は引っ張って高いところで括ってる。下ろしたら肩ちょっと下。元気系美少女。動くことが大好きで時々体育の時に男子に混ざったりしてシルバーに連行される。シルバーは頼れる大好きな親友ポジ。スカートはミニスカだがその下に黒のスパッツ。晋夜が関わると無邪気に見えて計算してたり。身長はグリーンより数センチ大きい。巨乳。自分の武器を理解している新星バカの子。勉強より運動したい。と言うか勉強なんかくそくらえ。晋夜もシルバーも好き。でもシルバーにも負けたくない。レッドやグリーンも好きだがやっぱり負けたくない。でもシルバーと一緒に晋夜と居たい。意識してもらえるまで抱きついてやる。レッド先輩が可愛いのでまもってあげたいと思ってる。元気っ子。シルバー離れが出来ない。グリーン先輩なんか経験多そう(そんなことはない)
シルバー
晋夜達の後輩2。高校二年生。頼れるお姉さん的ポジのツンデレ俺っ娘。デレの度合いが半端なく低く、もはやただのツンと化している。但し晋夜は除く。鈍い。ので晋夜が好きかも気付いてるか怪しい。実は初恋だったり。お金持ち。クール系美少女。ゴールドがお転婆なので中学の最初からずっと面倒を見ていたからかゴールドが離れてくれない。ちゃんとゴールドも好きだが恥ずかしくて口にはしない。ミニスカにニーソの絶対領域要員。身長はゴールドよりちょっと高い。頼るより頼られていたので甘やかしてくれる晋夜にたじたじで真っ赤になる。髪は原作よりちょっと長い。晋夜と話したいときはゴールドが頼り。持ちつ持たれつ的な。美脚。イエロー並みに極貧だが成長途中らしい。ほんとか。一般常識がぶっ飛んでる節がある。金銭感覚とか。

216:マメツキ:2017/04/05(水) 14:33 ID:JO2

晋夜くんです
https://ha10.net/up/data/img/18934.jpg

217:マメツキ◆A.:2017/04/05(水) 15:08 ID:JO2



 早朝、俺の朝は起こされるところから始まる。母さんが「晋夜ー、起きなさいよー」と言うところから始まり、幼馴染みの腹への直接攻撃で終わる。
 ぐへっ、なんてつぶれた悲鳴をあげながら、布団から身を起こせば俺の上に跨がってにやにやしているグリーン。お前スカートなんだから位置的に考えろよ太股柔らかそうですねハイ。



『……お前なんで居んの、ねえなんで居んの』
「おばさんが入れてくれたの! ほら起きてよ!」
『退け馬鹿野郎! 起きれねーし見えるぞ!』
「短パン履いてるもん」
『モラルを考えろ! 女だろ!』



 まったく、と呆れたように呟きながらバッと掛け布団をはげば、ころりと転がり落ちて「んきゃ!」と声をあげるグリーン。それを横目にボゥとする頭を左右に振って無理矢理覚醒させる。いかんいかん、二度寝しそう。



「こんな美少女に起こしてもらって無反応とか……」
『倫理的に考えなさい、倫理的に』
「アンタは私のお母さんか!」
『誰がお母さん!? お前の母さんは隣の家にいんだろーが!』



 ぎゃんぎゃんと床に座り込んで喚くグリーンを見て今のうちにとさっさと着替えを済ませてから『降りるぞー』とか声を掛けて扉を開けると、どんっと誰かにタックルをかまされた。グラッとよろめくも扉の縁をガッと掴んでバランスを取って確認すれば俺に寄りかかっているレッド。ちっさい。



『なにレッドお前ずっと扉の外にいたの』
「……居た」
『タックルかまされたように思うんだけど』
「……気のせい」



 気のせいなわけあるか、とか思いつつレッドを腰にくっ付けたまま引き摺って階段を降りる。危ない。レッドが落ちないように慎重に階段を降りれば途中でグリーンが背中に飛び付いてきたからもう踏んだり蹴ったりだ。お前ら美少女なんだからもうちょっとおしとやかにしなさい。俺に対する嫌がらせか。



『おはよ、う!?』
「ふふふ」



 二人を引っ付けたままリビングに入れば母さんが気持ちの悪い笑みを浮かべていた。正直鳥肌立った。すまん。

218:マメツキ◆A.:2017/04/05(水) 16:47 ID:JO2



 とある日の昼休み、俺はほとんどグループ化しているデンジ、マツバ、ゲンと教室の一角で昼食を取っていた。



『デンジ今日も菓子パンかよ』
「悪いか」
『悪いに決まってんだろ馬鹿野郎! もー、まったくこの子はー、もー』
「うるせぇオカン」
『馬鹿野郎、誰がオカンだ馬鹿野郎』
「うるせーよ馬鹿野郎馬鹿野郎って」



 どうしようデンジが反抗期なんだが、とかゲンに言えば「構ってくれて嬉しいんだろう」と笑ってた。おいおい笑い事じゃないんだぞ。あ、デンジがゲンの座ってる椅子蹴った。マツバは苦笑いしながら一人で重箱(二段)をもくもくと食しているし何ここカオス? カオスなの?



「ところで」
『ん?』



 ごちそうさま、と柏手を合わせていたマツバが思い付いたように俺を見た。俺はと言うとデンジの菓子パンを奪い取り、俺の弁当のおかずを詰め込むのが終わったところだ。ただいまデンジはエビフライをくわえて俺を睨んでいる何これ怖い。デンジ目が鋭いから怖いんだよなー、とか言いながらコーラを飲めば「晋夜って最近女の子とどうなの?」とマツバの好奇心にブッとコーラを吹いた。げほげほと蒸せて背中を撫でてくれるのはゲンしかいない。



『いきなり何!? なんなの!?』
「いや、最近どうなのかなって」
『どうなのとか言われてもな!? 俺彼女いない歴=年齢だからな!? 公言したくなかったわ馬鹿野郎!』
「「「えっ」」」
『えってなに!? みんなしてなんなの!?』



 みんなぶつぶつと「四股ぐらいかけてると思ってた」とか好き勝手言いやがって。誰だ今シたい放題とか言ったのデンジか! デンジだな! 俺まだ童てげふんげふんチェリーボーイだぞ! 偏見! 失礼!



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219:マメツキ◆A.:2017/04/21(金) 23:08 ID:iBo


上記の連載の主人公の設定をそのままにヒロアカの連載。レッドとグリーンはそのままですが、ゴールド、シルバー、新たにブルー、クリスタル、ルビー、サファイアが登場し、この六人はポケスペ設定になります。シルバーはあまり変わらない。にょた注意。

予告でした。多分すぐ書く。

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220:マメツキ◆A.:2017/04/22(土) 19:32 ID:iBo

やっぱりネギまの男主夢です。上記のものはいずれ。
 実は前々から考えていた連載ネタ。やりたかったけど原作コミックがマメツキの本棚の中に埋もれて見つからなかったのです。やっと発掘できた……なくしたかと思った(冷汗)。では、いってまいります(笑)(`∀´ゞ。

男主。
緋影 伊織(あかかげ いおり)

イメージ画
https://ha10.net/up/data/img/19184,jpg

 赤い瞳のつり目が特徴的な寡黙かつクールな少年。一応魔法使いだが、魔法剣士の部類に入る。魔法拳士でもある。「アホか」が口癖。得意な魔法の属性は炎。実力もちゃんとある。
 そのせいというかなんというか学園長に「男子校満員になっちゃったから女子中等部通ってね」とわざとらしくただ一人女子の中に放り込まれた苦労人。鋼の理性を持ち合わせており、学園では硬派なのも相まってかなり有名。イケメンである。空手四段。ネギに同情の念を抱いており、何かと世話を焼く。何が起こっても動じない。
 長瀬より少し高いぐらいの身長。声低い。クラスのネギ至上主義に呆れているのだが、同時に自分にもそれが向いているとは思っていない。ネギのようにおおっぴろなアピールはないが、同級生な為みんな恥ずかしがってアピールは控えめ。
 イメージ画の刀は相棒の『アヴァタール』。熱くなれと意思を込めれば刃がめっちゃ高温になって高層ビルぐらいなら溶けてすぱーん。普通の状態でも切れ味は抜群。
 明日菜のように固有能力を持って生まれているただの人間。向こうの世界出身ではない。能力は『身体炎化』、攻撃には使えないものの、移動速度は瞬間移動に近く、相手の攻撃はすり抜ける。ネギの雷化の劣化ver。人間に危害は加えない比較的優しい能力。
 のどかが気になっているものの行動に移す気は無い紳士。但し無表情。温厚派。両親は既に他界。



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221:マメツキ:2017/04/22(土) 19:37 ID:iBo

イラストが出なかったのでもう一回

https://ha10.net/up/data/img/19184.jpg

222:マメツキ◆A.:2017/04/22(土) 20:29 ID:iBo


 今日から三学期が始まる。寮を出て駅に着いて電車乗って降りて駅を出てそこから学校へ運んでくれる路面電車の後ろに着いている取っ手を握り、スケボーでそのまま進む。これは走って体力が減るとかがないのですごく楽だ。
 早いとこさっさと教室に行って教師を待とう。俺のクラス、先生が代わるみてェだから。高畑先生、結構好きな先生だったんだけどな……。巷じゃデス・メガネ高畑とか言われてるけど。
 ヘッドフォンの奥で響くボカロに合わせてふんふんと上機嫌に鼻唄を歌った。

**

 教室に着くと、人はまばらにしか居なかった。それぞれに「おはよう」と返しながら、ちらちらと受ける視線に気づかないふりをして自席に伏せる。いい加減慣れて欲しいものだ、男子が珍しいのは分かるけど、もう二年近く同じクラスなのだから。
 その視線の真意に気付くことなく流れる音楽を聞きながら俺は眠りにつくのだった。


**

ネギside

 魔法の修行として『日本の学校で先生をやること』と課せられた僕、ネギ・スプリングフィールドは学園長に言われてしずなさんと共に2-Aの教室の扉の前に立っていた。流石と言うように女子中学校だからかクラスは女の人ばかりで少し緊張するなぁ。
 そこでふと、一番後ろの席で伏せて寝ている男の人を見つけた。



「あれっ、なんで男の人……?」
「彼はね、男子校に空きがなかったからこちらに入ったの」



 大変だなぁ、と思いつつ先程渡されたクラス名簿を慌てて開けばタカミチ(高畑先生)の書き込みがたくさん。
 えぇっと……出席番号二番、緋影 伊織、空手部。わ、かっこいい人だなぁ。
 顔写真を見つつ、タカミチの書き込みは『頼りになるから安心しなさい』『空手四段』と書いてあった。タカミチが言うなら多分そうなのだろう。
 同性がいたことに安堵しつつ、僕は扉を開くのだった。



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223:マメツキ◆A.:2017/04/22(土) 22:32 ID:iBo



「キャアアア! か、かわいいー!!」



 何やら突然騒がしくなった教室の女子の騒ぎ声で目が覚めた。なんだなんだとむくりと体を起こせば教卓の方で子供がクラスメイトに囲まれていた。
 その様子を傍観していれば飛んでくる先生と言う声。どうやらあの男の子が俺たちの担任のようだ。すげーとか感心しながら眠たい頭を働かせていると「いい加減になさい!」といいんちょ__雪広あやかが机をバンと叩いて立ち上がった。



「皆さん席に戻って。先生がお困りになっているでしょう? アスナさんもその手を離したらどう? もっとも、あなたみたいな凶暴なおサルさんにはそのポーズがお似合いでしょうけど」



 雪広の言葉に感化され神楽坂を見てみれば確かに、神楽坂はネギ先生とやらの胸ぐらを掴みあげ、教卓の上へと座らせてメンチを切っていた。神楽坂ェ。



「なんですって?」
「ネギ先生、先生はオックスフォードをお出になった天才とお聞きしておりますわ。教えるのに年齢は関係ございません。どうぞHRをお続けになってください」
「は……どうも……」



 妙にキラキラした雰囲気の雪広にそういわれ、ネギ先生は唖然としたように返事を返した。返事したのは偉いぞ先生。俺が彼を眺めていればネギ先生がふと俺を見たので手をひらひらと振っておいたらずいぶんホッとしたように溜め息を吐いていた。同性が好意的で安心したのだろう、聞けばまだ10歳だと言う。それは仕方ない。
 雪広と神楽坂に視線を戻せば既に取っ組み合い手前、まあ、互いの胸ぐらを掴み合い怒鳴り散らし始めていてまたかと呆れた視線を飛ばして席を立った。



「言い掛かりはお止めなさい! あなたなんてオヤジ趣味のくせにぃぃ!」
「なっ!?」
「わたくし知ってるのよ、あなた高畑先生のこと……」
「うぎゃーーー! その先を言うんじゃねーこの女ー!」
『雪広、神楽坂、お前らそこまでにしとけ』



 ばっと殴りかかろうとしていた二人の間に腕を滑らせ引き剥がし、見下ろしながらたしなめる。二人はハッとしたようにそのままの形でかたまり、引き下がる。キッ、と睨み合いをしているからきっとまたやるだろう。



『見ろ、ネギ先生困ってんぞ。時間押してんだし、とっとと席戻れ。喧嘩すんのは悪いことじゃねェが、授業中じゃ迷惑が掛かること……分かってるよな?』
「……すみません」
「……ごめん緋影」
『分かれば良い。次からやめような』
「はいはいみんな、席に着いて〜ありがとねぇ緋影くん。ではネギ先生、お願いします」
「は、はい」



 その後、席について授業を開始したのは良いが、再び神楽坂と雪広が本格的な取っ組み合いの喧嘩をおっぱじめてしまい、英語の授業が消えたのはすぐの事だった。あの二人俺のいってたこと聞いてなかったのか。



.

224:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 14:45 ID:iBo



  やっと一段落ついた頃、やかましい教室を出校舎を出、俺はてくてくと散歩をしていた。
 音楽をシャカシャカヘッドフォンの奥で聞きつつ鼻唄を歌っていれば、前方に本を大量に持つ本屋ちゃん__宮崎のどかを発見した。ぐらぐらとバランスが危うく、進む先には手すりなどもない階段、なんと言うか、足を捻って落ちそうで怖い。



『宮崎』



 後ろから声を掛ければ彼女は立ち止まり、振り向く。不思議そうに「緋影くんー……?」と呟く彼女に落ちそうで怖かった、と伝えて本を宮崎の腕から取り上げた。宮崎はいいのに、とは言っていたが心配だっただけだと告げれば大人しくなった。好意は素直に受けとるに限るぞ。

 そのまま二人で階段を降りていけば視界の端に俺たちをぽけっと見上げているネギ先生がうつりこんだ。別に意識することも無いだろうとそのまま進んでいけば、一冊の本が滑り落ち、そのまま階段を外れて落下していく。そのまま落ちたら一瞬でお陀仏だろう。なんせこの学園の本はやたら古いのが多いし、劣化も激しい。価値は希少なものも多い。やべ、と思ったときには本はもうすぐ地面のそこ。気付いたときにはネギ先生が杖をふりかざし、ふわりと本が浮いた。
 バカ、なに魔法使ってんだよ、と思う暇もなく少年はそこへ飛び込み本を抱えて転がる。とりあえず感謝の意は示しとくか。



「は、はいこれ……落としましたよ!」
『おー、ありがとうネギ先生……ってうわ、っ、!?』



 感謝を述べた瞬間ネギ先生は神楽坂にさらわれていた。俺の手元にはあのとき落とした本だけが残っていて目が点になりそうだ。どんなときでも動かない表情筋はなにかと役に立つ。……見てたな、神楽坂の奴。



『まあ、とりあえず。傷がつかなくて良かった』
「はいー……後でお礼をしないとー……」
『確かこのあとネギ先生の歓迎会やるんだったか。俺は行かねェけど、その時に図書券とか渡せばいい』
「緋影くん来ないの……?」
『俺、新学期でもう疲れててな、先生にもよろしく言っといてくれ』
「あ、うんー……」



**


 翌日、ネギ先生もとっととホームルームを終わらせて一時間目の英語の授業を開始した。すらすらと英文を読み始めた先生は笑顔で「今のところ、誰かに訳して貰おうかなぁ」と微笑む。
 それと同時にさっ、さっ、と目線を背ける。神楽坂が一番目をそらしていたにも関わらず当てられ、ぎゃんぎゃんとわめき出すが読んで、大失敗。仕舞いにネギ先生のくしゃみで服が飛んで下着になる神楽坂を見まいとサッと俺は教科書を立てて視界を遮ったのだった。

 放課後、とっとと返ってきた俺は女子寮の一番隅の部屋、他の部屋よりもずっと広い俺にあてがわれた部屋へと帰宅していた。だがしかし、帰ってきたのも束の間、シャンプー等は向こうにあるよな、と呟き桶とタオル、そして着替えを持って部屋を出た。
 前々から学園長に頼んでいたのだ。月イチで大浴場貸し切り。女子風呂なので気が引けるが、ずっとあの部屋についている風呂ではなんか俺が嫌だ。
 いそいそとやって来た大浴場の札を『緋影入浴中』のものに掛けすたこらと準備をして中へと入った。



『……何回見てもすげェよなァ…ここは』



 どこぞの温泉施設のようだ。俺は一番オーソドックスな湯へと浸かりふへーと間抜けに息を吐き出す。やっぱり風呂はガス抜きだよなー。
 ずるずると滑っていき、肩が浸かる位まで体勢を崩し、枠に腕を引っ掻けてリラックス。そのまま防水加工のしてあるイヤホンをつけて濡れたタオルを目に掛けた。



.

225:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 15:07 ID:iBo



 何やらぎゃいぎゃいとやかましい。タオルを取って辺りを見れば神楽坂がネギ先生の頭を洗っていた。……俺、札掛けといたよな……気付かなかったのか?
 すいすいと泳いで二人に近付き声を掛ける。



『おい』
「わひぃっ!?」
「なっ、な、緋影!? なんでここに……!」
『なんでって……札掛けといたろ。『緋影入浴中』っての。見てねェのか?』
「嘘っ、今日だったの!? ごめん!」



 パッと謝れる神楽坂はいいやつだ。わざとじゃないならいい、洗い終わったらとっとと出な。と告げて俺は背を向け再び枠に腕を掛けた。
 と、そこで。脱衣所の方からきゃっきゃと女の声が聞こえてきた。今日は厄日か。ちら、と二人へ視線を送れば既に身を潜めており、ハァと息を吐く。なんなんだ今日は。
 入ってきたのは雪広、宮崎、早乙女__早乙女ハルナ、お嬢__近衛木乃香、綾瀬__綾瀬夕映。札、見てねぇのかよオイ。
 入ってきた五人はまず悲鳴をあげて俺が居ることに驚いた。



「なっ、なな、なんで緋影さんがここにいらっしゃって!?」
「あっ、もしかして……」
『そのもしかしてだよ。今日は俺の貸し切りの日だ。とりあえずタオル巻け』
「っうわ!」
「きゃあ!」



 そう俺が言えばみんな札見てなかった……と唖然としタオルを体に巻いた。こんなに来てるし、もうそろそろ良いだろう。



「す、すみません……すぐ出ますです」
「すまんなーイオリくん」
『いや、いい。俺が出る。もうそろそろ出るかと思ってたところだった』



 タオルを腰に巻いてざぱりと立ち上がり、彼女らの横を通り抜け俺は風呂から上がったのだった。



.

226:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 19:31 ID:iBo

一方の風呂場side
「それにしても……なんですのさっきのは! 何であの暴力的で無法者のアスナさんの部屋にネギ先生が」
「あー、それはウチのおじいちゃんがそうするよーに言ったんよ」

 雪広あやか、もとい『いいんちょ』の言葉にこのかがすかさずそう返した。学園長先生が? と聞き返すいいんちょたちとは別に綾瀬が宮崎に話し掛ける。

「それにしても、緋影さんには悪いことをしてしまいましたね」
「あうぅ……そうだねユエ」

 綾瀬、もといユエの言葉に同意した宮崎、もといのどかは気まずそうな表情を浮かべる。このかはそれに「ホンマ優しいやんなぁ、イオリくん」と微笑んだ。コクコクと一同が同意するなか、早乙女、もといハルナが「っていうか、私達の裸すら見ようとしてなかったよねぇ、緋影くん」とのびをしながら呟く。

「普通、ガン見するなり鼻血出すなり変なこと考えたりするのにさ」
「なっ、緋影さんはそんなこと致しませんわ! あの方は常識をわきまえておりますのよ! 今日だってアスナさんが突然下着になったときも咄嗟に教科書で見ないように……!」
「チキンかヘタレなだけってことも有り得るよねー」
「……いや、それはないと思いますよハルナ。私達を『女の子』として尊重してのことです。ですよね、のどか」
「う、うんユエー……今日だって私が大量の本、運んでるときに階段から落ちそうだったからーって、代わりに本を持ってくれたしー……」
「あーいうん硬派って言うんやなぁ」
「流石緋影さんですわー!」
「麻帆良の堅物は伊達じゃないってねー!」

 その会話を聞いていたアスナとネギ。湯船の中で葉に隠れたアスナにネギが小声で問い掛けた。

「緋影さんってそんなにすごいんですか?」
「そりゃそうよ。緋影の理性は鋼より固いの。そうじゃないとあんな場面で顔色が一切変わらなかったりなんてしないし、あんたにみたいにデリカシーが無いことなんてしないわ」
「あうー」
「わりと有名なのよ、緋影は。『麻帆良の堅物』って呼ばれてんの。クールでイケメンだから女子人気もかなり高いし。ウチのクラス、そんなに騒いだりしないけど水面下争いしてるわ」

 二人がそんな会話をしているとは露知らず、五人の会話はヒートアップしていく。

「ネギくん来たから人気が二分しそうやなー」
「な! ネギ先生も緋影さんも死守しますわ!」
「頑張るですよ、いいんちょさん」
「話を戻すけど、私達もネギくんか緋影くんと相部屋になれるようこのかのおじーちゃんに頼んでみよっかなー。ネギくんか緋影くんが一緒だと嬉しいよねー」
「なっ!?」
「えっ」
「そうですね」
「あっ、のどかは緋影くんの方が嬉しいかー!」
「はっ、ハルナー……!」

 そこで影から聞いていた二人はなんのはなしだと首をかしげ、いいんちょは声をあらげる。

「勝手に決めないでいただけます!? ネギ先生と同居し立派に育てるにはもっとふさわしい人物がいると思いますわ!」
「緋影くんは?」
「あっ、緋影さんは……ああっ、そんな……二十四時間一緒だなんて!」
「いいんちょ、なに考えたんや……?」
「でも緋影くん断りそうだよねぇ。こう、自分から告白して彼女が出来るまで同居とかしなさそう」
「誠実な方ですからね」
「はうう……」

.

227:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 20:09 ID:iBo


 ネギ先生が来てから5日が経過した。昨日はバカ五人衆(レンジャー)の居残り授業など麻帆良は恐ろしくやかましかったが、まあ退屈はしないので良いだろう。

 昼休み、俺が校内の一階の廊下を歩いていると、ばたばたと佐々木と和泉が駆けてきた。



「あっ、いおりくーん!」
「緋影くんやぁぁっ」
『え、なんだなんだ。どーしたお前ら怪我してるじゃねェか……』



 とりあえず手持ちの絆創膏を和泉の額に貼り、佐々木の手の甲にも貼る。聞くところによると高校生が場所を横取りしようとバレーで暴行を仕掛けてきたらしい。



『……とりあえず、俺が行ってくるからお前らネギ先生呼んでこい』
「ありがとーいおりくーん!」
「絆創膏もありがとなぁ!」



 ぱたぱたと駆けていく二人を見送りさて、行くかと俺も廊下を走り出した。まったく、高等部の人たちも大人気ないな。

**

 俺が校庭に到着すると話とは違い、神楽坂や雪広の二人、あとネギ先生もそこにいた。「誰が譲りますかこのババア!」と雪広が怒鳴ったのが鬨の声となり、中高生が殴り合いになろうする寸前。雪広、お前意外と口悪いな。やれやれ、とあたふたしているネギ先生を一瞥して俺は静かに声を掛けた。



『なにやってんすか、先輩方』



 俺の声に全員がぴたりと動きを止め、俺を見つめる。



『元気なのはいいんすけど、後輩相手にちょっと大人気なくないっすか』
「それは……」
『まぁでも、ウチにも非があったみてェなんで、あいこってことで場はおさめましょうか』



 後ろから神楽坂と雪広の両名に肩を組んでリーダー的存在の先輩を見つめれば「そ、そうね……」と引き下がっていただけた。去り際鼻を鳴らしていたのは頂けないが、まあ良いだろう。二人から腕を退けて先輩の方を見ながらため息を吐いた。



「でも緋影! 悪いのはあいつらよ!?」
『手ェ出しゃ一緒だ神楽坂。そもそも、お前ら美人なんだから取っ組み合いなんかすんな。みっともないぞ』
「うぅー……!」
「あ、緋影さんっ、そもそものところ、続きをなんとおっしゃいましたか……!? 私たちがどうの……」
『? 美人なんだから?』
「はうっ!」



 くら、と立ちくらみを起こした雪広を怪訝に見つめてから俺はそのあとの処理をネギ先生に丸投げしたのだった。



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228:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 21:51 ID:iBo

女子side
「ねえねえ、やっぱ緋影くんってすごくない?」
「……うん」
「確かに頼りにはなるかにゃー」
「……そのあと来た高畑先生もね」

 上から、和泉亜子、大河内アキラ、明石裕奈がそう会話していた。アキラの言った高畑は、あの騒動のあとの場を収束させてくれたのだ。その会話を聞き、このかがアスナに問い掛ける。

「なにかあったん?」
「高等部と場所の取り合い」
「えー、またですか?」
「みんなやられてるよ」



 アスナの言葉に不安そうに呟いたのは鳴滝双子だ。上から妹の文伽、姉の風香。見た目は小学生だが立派な中学生である。

「ネギくんはちょーっと情けなかったかなー」
「でも十歳だししょーがないじゃーん」



 明石__ゆーなの言葉に返答したのは佐々木まき絵。いいんちょが「なんですの皆さんあんなにネギ先生を可愛がっていらっしゃったのに!」と憤慨を露にする。そのままきゃっきゃと会話をしながらバレーをするため屋上のコートへと足を運んだ。……運んだのだが。



「あ!」
「あら、また会ったわねあんたたち。偶然ね♪」
「むっ」
「高等部2ーD!!」



 なんと、自習の先程の高校生たちがコートを占拠していた。そしてそこで捕まっているネギ先生。体育の先生が来れなくなったので代わりに、と言うことらしい。それで呆気なく捕まったわけだ。


**

 俺が体操服の長ズボンを吐き、ジャージを腰に巻いて屋上へやって来た頃にはなぜかあのときの高校生とうちのクラスはドッチボールをしていた。
 制服姿で明らかにやる気がないエヴァンジェリンに手招きされ、俺は彼女の隣に腰を下ろした。
 エヴァンジェリン・A(アタナシア)・K(キティ)・マクダウェル。小学生の見た目だが、金髪に白い肌、西洋人形(ビスク・ドール)のような美少女だ。だがしかし、その実態は齢三百年を生きる吸血鬼の真祖だ。『闇の福音』『ダークエヴァンジェル』『魔王』等と呼ばれる三百億の賞金が掛けられた悪の大魔法使い。実質最強に位置するのだ。
 どうやら俺は彼女に気に入られているようで、俺が胡座を掻けば彼女はその上にトスンと座る。側にはうちのクラスの天才二人__葉加瀬 聡美(はかせ さとみ)と超 鈴音(チャオ・リンシェン)が産み出したアンドロイドの絡操 茶々丸(からくり ちゃちゃまる)もいた。高身長だがこう見えて二歳らしい。頭いいけど。



「やっと来たか、いおりよ」
『おう。で、なにこれ』
「高等部がわざわざこちらに来て勝負をしにね。自分たちが勝ったらあの坊主を教生に寄越せと我が儘を通しに来たのさ。ついでにお前もな」
『普通に考えて無理だろ。学園長が素直に頷くとは思えねェ。そもそもそんな勝手な人事異動他が認めねェ筈だ。』
「ああ。それをあのクラスのバカ共が本気にしたのさ」
『みんなネギ先生大好きだな』
「(それだけじゃないと思うが)」



 エヴァ嬢の呆れた視線を受けつつ俺はそれをボケッと観察する。どうやら彼方さんは大会でも優勝したことのあるチームらしく「トライアングルアタックよ!」とあのリーダー格の人が叫んでいた。トライアングルアタックて。そこで立ち上がったのは雪広だ。



「ネギ先生気をつけて! 私が受けてたちますわ!」
『頑張れよ雪広ー』
「はうっ、緋影さんっ! ……ふっふっふ! さあ来なさいオバサマ方! 2-Aクラス委員長雪広あやかがネギ先生と緋影さんをお守りいたしますわ!」
『(気合い入ってんな雪広)』
「(こいつ……)」



 エヴァ嬢の冷やかな視線をなぜか一心に受けつつゲームの行く末を見守る。雪広? トライアングルアタックにやられてた。きゃ、とか、あん、とかビビりながら。やはりそこは雪広財閥の次女だというところか。よく頑張ったよ雪広。
 そして太陽を背にした先輩に神楽坂がやられ、一気に諦めモードに入ったがネギ先生の先生らしい言葉にみんなが気を持ち直し、無事勝利を納めた。ネギ先生、服が破ける程の威力のボールは投げないでください。



.

229:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 22:35 ID:iBo



 ネギ先生達他が魔法書を取りに行った期末テストも初めての学年クラス最下位を脱出しあまつさえトップを取れた。これでネギ先生も正式な先生として授業ができるはずだ。と言っても、もう終了式は終わっていて、ネギ先生は正式な先生としてこの学園で生活している。労働基準法はこの学園都市じゃ通用しないぜ。

 ……あぁ、今日は雪広のあの日だった。春休みで実家に帰省すると言っていたから、出向こうか。
 俺と雪広、神楽坂は小学校からずっと同じクラスで所謂『幼馴染み』に当たる。まあ、小1からの付き合いだ。神楽坂と雪広は出会って一時間目が終わったあとから喧嘩をし出し、それを俺が止めに入る。それが七年も続いたものだから、あの二人が喧嘩をし出すと俺が止めに入るのがデフォルトになってしまっていた。小さい頃は雪広、神楽坂両共に「いおり」くんや呼び捨てだったのだが、いつの間にか名字になっていた。神楽坂が高畑先生に好意を抱いてからだろうか。雪広も神楽坂につられるように呼ばなくなった。それが少しさみしいとも思うが、俺は最初から名字呼びしかしてなかったので当然と言える。関係は悪くないから気にしていない。
 そうしてやって来た雪広邸。相変わらず豪邸で広い。チャイムを押せば「どなたでしょうか」と執事さんの声が聞こえてきて『緋影です』と返答すれば、快く門を開いてくれた。
 だだっ広い前庭を相変わらず綺麗だなぁと感心しながら邸内へ足を踏み入れればメイドさん達が「ようこそいらっしゃいました、緋影様」と歓迎してくれる。それが幼い頃と変わらず少しくすぐったくなった。



『今どこに居ます? 雪ひ……あやかちゃんは』
「只今、ネギ先生とアスナ様、近衛様達とプールの方に居られますのでご案内いたましす」
『あざます』



 俺を見て懐かしそうに微笑むこの人たちの優しさに触れて、相変わらず雪広は恵まれていると素直に羨望できる。ここはとても暖かい。忘れずに今日、ネギ先生を連れてきた神楽坂も大概雪広想いだ。
 水着に着替えるかと聞かれたが、そこまでしてもらうわけにもいかないので断った。入るつもりはないが、プールサイドにでも居よう。



.

230:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 23:06 ID:iBo



 プールサイドの椅子に座っている雪広とネギ先生に『邪魔してるぞ』と声を掛ければ二人は驚いたように俺を見た。



「緋影くん!?」
「緋影さん……!? ど、どうして……!」
『遊びに来た。久しぶりに、執事さんたちにも挨拶したかったからな』
「まぁ……!」



 笑顔の雪広に大丈夫そうだな、と安堵してから、雪広が「私の手作りクッキーですの」とサッとクッキーの入った篭を取り出した。綺麗に焼けたそれはさすがと言うかなんと言うか、焼き具合が絶妙で酷く美味しかった。
 そこからまた水着姿の神楽坂が飛び込んで来て二人は大喧嘩。神楽坂のショタコン女と言う言葉がトリガーとなり、雪広が「もー怒りましたわ! 帰って! この家の敷地から即刻出てってくださいまし!」と叫び、売り言葉に買い言葉、「ハイハイわかったわよ出ていきます!」と神楽坂が背を向けた。お互いことを大事に想っているくせに、本当に不器用な幼馴染み達だ。俺が引き留めようとした瞬間、神楽坂が告げた。



「さっきのショタコン女は取り消しとく。今日だけは。ゴメン」



 なんだ、言えるじゃないか。俺はほっと息を吐き、落ち込んだ様子の雪広とそばにいるネギ先生を見つめた。



「ごめんなさいネギ先生、みっともないところを。アスナさんと私、本当に本当に仲が悪くて、いつもケンカばかり……」
「それは違いますよ。アスナさんは今日、いいんちょさんを元気付けようとして、僕にここに来るよう頼んだんですよ」
「え?」
「いいんちょさん、弟がいたんですよね。僕と同じくらいの」
「あ……!」



 そう、雪広には長男となる弟が居たのだ。結局、雪広はその弟に会えなかったが。今日は雪広の弟の誕生日であり命日だ。幼い頃、もうすぐ弟が生まれるんですのと嬉しそうに話していた。いつ生まれても良いようにと部屋まで作っていた。それらが全て実現が不可能となったときの雪広の落ち込み具合は半端が無かったのだ。毎日ショックが抜けきらず、綺麗な目は赤く少しばかり腫れていたのを覚えている。それを一番に元気付けたのは神楽坂。その頃、一等無口だった神楽坂は「元気出せ」の短い言葉と蹴りを一発。なにするんですの! とおいかけっこをして少しばかり元気を取り戻した雪広にホッとしたのも覚えてる。そのあといつものように俺が止めに入ったのだっていい思い出だ。



「そっか……今日は弟の誕生日でしたわね……」



 そこまで呟いてパッと俺を見た雪広は俺を嬉しそうに見つめる。俺は照れ臭くなって視線を逸らした。



「ありがとうございます、いおりくん」
『……! ……別に、大したことじゃない』



 そうして背を向けた雪広は「本当に、幼い頃からあの女は……」と震えた声で言葉を紡ぐ。



「暴力的で無法もので……とんでもないクラスメイトですわ……」



.

231:マメツキ◆A.:2017/04/23(日) 23:44 ID:iBo



 それから。ネギ先生のパクティオーがパートナーだあーだこーだだの、前々から知らされていた学園都市一斉電力調査で停電だの、その間に桜通りに出るだの言われていたエヴァ嬢がネギ先生と対決して負けただの、なんかもういろいろ濃い。何この一学期超濃い。あ、あと神楽坂の誕生日である4/21にはちゃんとプレゼントを渡してきた。新しいスニーカーである。神楽坂には両親が居らず、学費などは学園長が負担して返済など要らないと言っているのに律儀に毎朝新聞配達をしている。だからか、革靴ではないプライベート用のものはボロボロだった。喜んでくれたことには酷く安堵した覚えがある。
 そしてとうとうやって来た修学旅行。京都に行くらしい。京都といえば、お嬢の実家があるところか。今回俺は学園長からお嬢の護衛は頼まれていないので、ほとんど桜咲に任せるつもりだ。
 桜咲 刹那。京都神鳴流派の女剣士。半デコ少女だ。小柄なのだが『夕凪』と言う鐔のない太刀を使用するこのかの幼馴染みで専属護衛。このかとは距離を取っているようだ。幼い頃は仲がとてもよかったと聞いている。

 荷物を持って駅にやって来れば、ほぼ全員が集まっており「遅いよー」と口々に文句を垂れられた。なんてこった、一番はしゃいでいるのはネギ先生じゃねーか。

**

 新幹線に足を踏み入れてすぐ、俺と桜咲、ザジ__ザジ・レイニーディはネギ先生の元へと歩む。
 エヴァ嬢はネギ先生の父親、『世界を救った英雄』『赤毛の悪魔』『千の魔法を持つ男(サウザンド・マスター)』と呼ばれる20年前に世界を救った大英雄、ナギ・スプリングフィールドに登校地獄と言う中学生を延々やりつづける呪いを掛けられ、学園から外に出られないのだ。ちなみにもう15年中学生やってる。それの訳はどうやらエヴァ嬢がナギにしつこくアプローチしていたかららしい。女の子だったわエヴァ嬢。と言うわけで、エヴァ嬢は学園を離れられないから来ていない。茶々丸は主人と共に居ることを望んで不在。そのおかげで俺達六班は三人だ。流石に駄目だろうと先生に声を掛けた。
 俺達は他の班に入れてもらうことになり、一番親しい神楽坂のいる班になった。桜咲も。ザジは雪広のところだった。
 俺は席に着くなり班員__早乙女、宮崎、綾瀬、お嬢、神楽坂に挨拶をしてからイヤホンを装着し、アイマスクをしてから眠りについた。五時起きだぞコノヤロー集合はええよ。

**

 俺が早乙女に揺さぶられ、起こされたのは降りる直前だった。どうやら車内で蛙が大量発生する事態があったらしい。俺、どんだけ寝てたんだ……?

 京都に着くなり、清水寺で集合写真を撮った。鳴滝双子が「これが噂の飛び降りるアレ!」「誰かっ! 飛び降りれ!」と騒いでいた。
 その他、恋占いの石に雪広と佐々木が挑戦して、なぜか蛙がいる落とし穴にはまったり地味に宮崎が挑戦して無事辿り着いていたり。音羽の滝の恋愛側に酒が盛られていてクラスメイトの大半が酔い潰れたり。
 まあ、生徒指導の新田先生にばれなくてよかったよかった。やっぱり女子って恋のためならなんでもするんだな……。
 そしてやって来た旅館、嵐山。和風と言うか、風流で空気が澄んでてもう俺ここに住みたい。

232:マメツキ◆A.:2017/04/24(月) 00:12 ID:iBo


 修学旅行二日目。俺はネギ先生と同じ部屋にあてがわれていたのだが、ネギ先生が10歳と言うだけあって幼く、ずいぶんと仲良くなった。
 俺は男なので、一応班には組み込ませてもらったものの自由行動は基本一人で許可されている。特例だ。女ばかりに囲まれてちゃ息苦しいだろうって。新田先生、正直感謝です。
 二人して服を着替えて共に階段を降りていく。一階の大広間で朝食だ。



「それにしても、昨日は疲れました……」
『あー、酒飲んで大変だったみたいっすね。蛙が出てどうだのこうだの』
「それもありますが昨日の夜……いえ、なんでもないです!」
『(まだ俺も魔法使いだってこと分かってないのか。桜咲は無事判明したようだが)』
「朝御飯楽しみですねー! なんだろう!」
『っすね』
「緋影くん身長高いですもんね」
『成長期なんすよ』
「何センチぐらいですか?」
『あー……185越えたっけな……。まあ、心配しなくても先生もすぐ来ますよ、成長期』
「僕、どれくらい身長伸びるんだろう」



 そんな他愛ない会話をしている間、ネギ先生のそばにいるオコジョは俺を見つめていた。カモミール・アルベール。下着泥棒で有名だったあのオコジョ妖精だ。どうしてネギ先生の使い魔としているのか謎だが、ネギ先生のそばにいれば捕まる心配もないからか。打算的だな、コイツ。噂じゃパンツ神だとか。男として有り得ないだろコレは。

**

 朝食を食べ終え、ネギ先生と神楽坂と共にロビーを歩いていたときだった。宮崎がやって来たかと思うと佐々木が飛び込んで叫ぶ。


「あのー……」
「ネギくーん! いおりくーん! 今日一緒に見学しよー!」
「ちょ、まき絵さん! ネギ先生といおりくんはうちの3班と見学を!」
「えー! いいんちょずるーい! 先にうちが誘ったのにー!」
「あのー……」
「だったらぼくらの班もー!」



 ごちゃごちゃと争奪戦になっているネギ先生の頭をぽんぽんと撫でて視線で頑張れよ、と送るもののネギ先生は泣きそうな顔して訴えかけてきた。いや、そんな顔されても。その時だった。


「あ、あのー! ネギせんせー! 緋影くん! よ、よろしければ今日の自由行動……私達の班と一緒に回りませんかー……!?」



 宮崎にしては大きな声が出て、辺りは騒然とする。ネギ先生は少し考えたあと、あっさりと許可してしまった。あれか、お嬢が関西呪術協会の陰陽師一部に狙われてるからだろうか。



『俺はー……』
「緋影くん……!」



 やめろ、先生、俺をそんな目で見るな。同性で仲良くなったからだろうか。こっちに来てほしいオーラが半端ない。仕方ない。俺もいくとしよう。



『わかった、わかった先生。俺も一班に行くからそんな顔して俺を見るな』
「やったー!」
『(手放しのネギ先生の笑顔プライスレスェ……)宮崎も誘ってくれてありがとう』
「あー……いえー……」



 周囲が本屋が勝っただのなんだの言っているがなんのことかさっぱりな俺は首をかしげるしかなかった。



.


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