【正味】自由に書きますわ【新しくスレ作るんもうエエ】

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1:ぜんざい◆A.:2016/10/07(金) 22:41 ID:74A



 どうもこんばんはぜんざいです。

 私、思ったのです。書きたい作品が多すぎて、その分だけスレを作ると数がとんでもないことになるからどうしようと、完全に無駄だぜ? と。そして答えがこうなりました。


 もういっそ全部引っくるめて自由に書いてしまえと(

 終着点がここなのです。

 なので、とにかくひたすらジャンルバラバラの夢小説書きます。
 コメント及び感想待ちます! 小説投稿はやめてほしいんだぜ?(⊂=ω'; )

 まあ簡単に言うと、私の落書きのようなものなので、他の人は感想だけということになりますね。うわあ上から目線だぁ! 恐らくコメントには感涙します、めっちゃなつきます。ビビります。

 ジャンルは大まかに言えば、wt、tnpr、妖はじ、turb、krk、FT、中の人、FA、mhaです。
 これからも増えるだろうと思われる模様。
 2ch的なものも出てくると予想されます。

 これまでの上記で『2chやだ!』「作品がやだ!」「ぜんざいがやだ!」言うからは目がつぶれないうちにご帰宅or gohome(΅΄ω΄→ ハヤク!

 2ch系では顔文字や「wwww」表現が出るかと思われます。嫌な方はブラウザバック!


 それでは、そしてーかーがやーくウルトラソheeeeeeeey((

 文的にうるさくてすいません。



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65:ぜんざい◆A.:2016/11/19(土) 20:30 ID:Feg



『あ、すまん』



 俺は沢田にそう言ってから指を鳴らしてそれを消し去った。それを見てディーノが「それ見せた方が早かったんじゃ」と呟く。



『改めて、団員NO'00の伊達いおり。これからは沢田らの手助けしたるわ、俺一応女やけど世界最強を味方につけとると心強いやろ?』
「まて! お前女なのか!?」
『うっさ、ディーノうっさ! せやでうっさ!』



 そうすれば沢田母に呼ばれて一階のリビングに降りた。ちなみに雲雀には絶好バラすなと念を押しておいた。


**



「いただきます」
「はいどーぞ」



 そんな声と共に夕食が始まる。



「さー何でも聞いてくれかわいい弟分よ」
『あれやろ、沢田、ファミリー着々と増やしとるんやろ』
「お、マジで?」
「ああ、いまんとこ獄寺と山本、あと候補が雲雀と笹川了平」
「友達と先輩だから!!!」
『ひばりん候補なんや……』



 そしてそのあとボンゴレがいかにすごいのかを聞いて、ディーノは部下がいないとへなちょこだと言うことを教えてもらった。一応原作読んでたからおぼとるけど、ここまでて。



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66:ぜんざい◆A.:2016/11/23(水) 23:34 ID:ATI


 どうもこんばんはぜんざいです。

 現在書いている小説がこんがらがりそうなので久々に小説以外で顔を出しました!

 メイン連載は『とうらぶ×ネギま!』、そしてそれのifが『re!×ネギま!』です。ちょこちょこ短編が出ますね。

 そしてこの度、またまた私の唐突な思い付きによりメインが増えます!(断言)
 簡単に内容を話すと、私今SS投稿掲示板のオリジナル板で『フレデリトリガー』なるものを連載しているわけですよ。
 そこに出てくる不死の人間不信少年が今回の新たなメインの主人公。一応とうらぶとの混合になります。

 そこで、「は?」「身内を混合?」「ふ ざ け ん な(°∀°ノシ バイバーイ)」な方が居れば即Uターンを。


 とりあえず、今回の主人公なる少年の設定を入れておきます。(別に今書いてるテケテケ事件編がシリアスになりすぎて息抜きしたいとかそんなんじゃ、ななな無いんだよ!?(ゼンゼンチガウヨ!?°∀°;ノシ))
 今書いてるテケテケ事件編よりちょっとあとのif的な話だと思ってください! 分からない人は『フレデリトリガー』で検索検索ぅ!


 【時前 透(ときまえ とおる)】:男
栂敷学園中等部所属一年(テケテケ事件後に復讐に囚われてなくてイキイキした目で柔道部に所属した)
 トリガー属性【黒雷】
 黒雷属性副作用<不死>

 性格は基本寡黙でお人好しかつ超好戦的。常に一緒に居る柿沢 葵(かきさわ あおい)とは両共に依存関係であり、心の支えでもある。彼は彼女の家でもあるカフェは半入り浸っている。(彼女とは交際関係ではない)
 フレデリトリガー主人公である【鉄我 凪(てつが なぎ)】と仲良くなってからは彼の一卵性の双子の姉である【鉄我 星奈(てつが せいな】)とも仲良くなりその関係で【火神 息吹(ひがみ いぶき)】【菊榁 宗二(きくむろ しゅうじ)】【欄栂 憐哉(らんとが れんや)】【堺堂 円(かいどう まどか)】【白石 雅臣(しらいし まさおみ)】などなど友好の輪をだんだんと広げていった。
 彼には同年の弟の【青山 光(あおやま ひかる)】いる。名字が違うのは両親が離婚したからで、透は父に、光は母に引き取られた。なお、透は光から自身の記憶を全て消しているので光自身透の事を覚えていない。それを知っているのは両親と幼馴染みの【日向 伊澄(ひなた いずみ)】のみ。伊澄は現在、光の幼馴染みとして行動し、日常を透に伝えている。透自身ブラコン。
 透自身結構な人見知りであり、他人からは悪い方に勘違いされやすいが、慣れれば強くてかっこよくて優しくて頭も良いちょっと天然なところもあるただのイケメン。
 容姿はトリガー使い特有の赤い瞳(上記の人物も同じく)。金髪に前髪の左側に黒メッシュが入っている。寝癖が酷い。
 つり目かつとても整った顔付きをしているが、右額右頬に切り傷の痕がある。同様の傷痕が首の左側面にひとつ、両腕に複数(左に縫い傷)、右手の甲にひとつ左手の甲に貫通した様な刺し傷、鎖骨から腹辺りまでびっしり切り傷(他大きな火傷に縫い傷と刺し傷と裂傷痕)。他にも下半身に多数(左太ももに切断したような傷)がある。だから不良と勘違いされ、【怪我の帝王】というレッテルがつけられた。透はトリガーの戦闘は好きだが殴り合い(ましてや一般人との喧嘩)は好まない。
 過去がとても酷い。五歳の時に父から黒雷の不死の副作用があるからと人体実験をされてきた。身体中の傷はそのせい。不死と言っても傷痕は残る、が、首が飛んでも心臓がつぶれても毒を飲んでも電気を流されてもウィルスで体を犯されても死なない。両親の離婚は父親の人体実験のせい(母はとても優しくて良い人、風の便りで亡くなっていることを知った)。
 天使殺し組織(エンジェルキラー)所属。悪魔の八代王の一人、【雷の女王シルヴィア】と【光の王アヴァタール】を使役している。二人とも好奇心旺盛かつお転婆なので手を焼いているようだ。
 武器は『シルヴィア』の大鎌、『アヴァタール』の日本刀。


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67:ぜんざい◆A.:2016/11/23(水) 23:58 ID:ATI

【フレトリ×とうらぶ】

透side

 現在日曜日の朝8時。今日、唐突に俺が所属しているエンジェルキラーの本部司令、火神伊奈(息吹の母)から直接呼び出しを受けた。
 一時期トリガーとフレデリを世間に発表してメディアが騒がしかったが、人の噂も75日、いや、実際75日も経っていないものの沈静化している。
 エンジェルキラーは政府とも繋がる大きな組織だ。度々天界から進行してくる天使を倒す組織なんてざらに居るが、エンジェルキラーは一際大きい。他で大きいところと言えば俺達の通う栂敷学園、あとは京都にある菊榁宗二の実家、宗家の菊榁一門(菊榁は次男だが【氷の王サタン】を使役しているので時期当主らしい。他にも長男が女ったらしだからという噂もある)。
 そのフレデリキラーの最高権力を持つ火神さんがただの傷だらけの化け物の俺なんかになんのようなんだろう。
 俺は化け物だ。トリガー自体の副作用が【不老】、だいたい二十歳ごろにトリガー使いは成長が止まる。まあ死なない訳じゃないんだが、俺には不死が加わって、完全なる不老不死体。なんだよもう最悪かよもう。
 相変わらずのネガティブ思考が抜けない俺はいつの間にか本部内の廊下を歩いており、前方に見知った顔を見つけた。



『……凪』
「あっ、透だ、おはよう。どうしたの? こんな朝っぱらから。目の隈酷くなった?」
『俺はちゃんと寝てる。……火神さんから呼び出し喰らった』



 俺がここに居る訳を話せば凪が一瞬にして顔を真っ青にし、「なにしたんだよお前!?」と絶叫した。流石IQが軽く200を越えている男、頭の回転が速い、多分雷速100kmぐらい……いや、言い過ぎか、いやでも……。



「とにかく伊奈さんから呼び出し食らうって相当だよ!? さっさと言った方が良いんじゃない? 僕もついてくし」
『悪い助かる』



 正直本当に、あの生ける武神(美人)の火神さんのところに一人で行くなんて怖かったので本当に助かった。



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68:ぜんざい◆A.:2016/11/24(木) 00:24 ID:ATI


『……失礼、します』



 コンコンとノックをしてそう告げれば「入れ」とテノールが聞こえてきてギィィと扉を開けながら自然と背筋が伸びる。結局凪は天使が出たので出動と言うことで姉の星奈と共にすたこらさっさと行ってしまった。裏切り者め。どうせ化け物の俺なんかと居たくなかったからなんだろ……とか今度凪の前で呟いてやる。俺は傷付いたぞ。
 つかつかと火神さんが腰を置く椅子と机の前に立ち、告げる。



『時前 透、来ました』
「……ああ」



 すると火神さんはおもむろに机に手をおいて椅子から立ち上がるといきなり俺に頭を下げた。ん?


「来てくれてありがとう、そしてすまん!」
『……え、訳わかんねぇ、ので説明頼みます。あと頭をあげてくれよ、あんた程の人に頭を下げられるような人間じゃねぇ俺』
「いいや、そんなことはない。君はあの薙斗でさえ認める優秀な実力者だ」



 薙斗とは。フルネームは【鉄我 薙斗(てつが なぎと)】、言わずもがなさっきの凪と星奈の父親である。世間にはあまり知られていないが双子の両親とか、火神さんとか夫の愁弥さんとか欄栂の両親など、彼らは一度世界を救ったことのある英雄である。その筆頭である薙斗さんが俺を認めるとかそれどんな幸せな夢。
 認める云々はとりあえず放っておくとして、頭を下げている用件を聞いた。



「ああ、すまないそっちが先だった。申し訳無さで行動が先走ってしまった。
 実は、政府とはまた少し違い、時の政府と言うのが存在するんだ。時の政府は、歴史を改ざんしようとする『時間遡行軍』なるものに対抗するために時間遡行……いわゆるタイムマシンを開発して審神者を過去に送り出している。タイムマシン設計にはうちの機械馬鹿も関わっていてな。いや、そんなことはどうでもいい。
 審神者とは、刀の記憶を甦らせ、想いを形にし、刀の付喪神に人の身を与えて時間遡行軍と戦う刀剣男士を生み出す能力を持つ。
 審神者の数は多くてな、そのなかで主従関係の主であることをいいことに付喪神である刀剣男士に無礼を働く者も出てきた。無理な出陣をさせたり傷ついても手入れで治してやらなかったり、夜伽……まあセックスを命じたりな」
『はい、質問っす。無礼を働く者が居ることは分かりました。セックスってなんすか』
「君は知らなくていいことだ」



 基本今までの人生は父親からの人体実験と今は既に死んでしまったあのカス親父に復讐することで頭がいっぱいいっぱいだったので勉強以外のことはまったくわからない。多分さっきの言葉も保健体育とかで習うんだろうけど俺保健体育だけ極端に物覚えが悪くなるから。火神さんが眩しいものを見る目でこちらを見てきたので一応すんません勉強しますと謝罪すれば「君は今のままで居てくれ」と強く言われた。



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69:ぜんざい◆A.:2016/11/24(木) 00:47 ID:ATI



「続けるぞ。
 その無礼を働く本丸をブラック本丸と言う。そのブラック本丸の原因は大抵『三日月 宗近』と言う滅多に姿を見せない美しい刀が中心なんだ。
 そしてそのブラック本丸の審神者はいずれ自身の刀剣に殺される。そして審神者の居ない本丸が出来上がるんだ。そんな本丸がいくつもある。普通の審神者を送り込めば人間不信の刀剣男士たちはその審神者すら殺す。
 そこで時の政府は不死の副作用を持つ君を派遣しろと要求してきた」
『なるほど……。どちらにしろ俺でよかった。葵の黒風……副作用の不死はバレてませんよね』
「そこら辺は大丈夫だ。君の場合政府に不老不死だとバレたのは雀佐が原因だからな。アイツ、実験データを政府に送っていたらしい」
『……あいつは死んでも俺に干渉してきますね』



 なるほど、政府が俺を派遣しろと。要するに寄越せと言うことだろう。死なない人間なんて貴重だ。そばにおいておきたいに決まっている。



『俺、政府の飼い犬になるんすか』
「いや、そこはちゃんと契約してある。本丸解決に協力するのは年に一件のみとな。破れば私が首を落とすから」
『物騒』
「そういうな。悪いが君に拒否権は無いようだ、決定事項にしたらしい。私は最後まで反対したんだが、すまない」
『気にしないでくれ、俺は元々あんたたちからの頼みを断る気は無い』
「……助かる」



 そう言った火神さんは悔しそうに唇を噛み締めた。なんかごめんなさい。
 その後俺は葵に知らせるために連絡を入れ、事を話せば「頑張ってね! ちょくちょく電話入れるからね! 一日一回!」と鼻声で返答された。

 家に帰って好き勝手していたシルヴィアとアヴァタールにもうまを伝えれば「面白そうだしいいじゃん! 私たちも一応神の席に腰置いてるし刀剣男士殴る! ボコボコよ!」「俺もやる! 切り裂くぜ!」とかノリ気だった。頼むから暴力行為はやめろ二人とも。悪魔か! あ、悪魔だった。

**

 数日後、一ヶ月二ヶ月現世を離れる的なことを言われたので盛大にお別れ会をして、俺は仕事場へと旅立った。
 大きな日本家屋の木製の門の前で案内係を待っていれば、ポゥンと何やら可愛らしい音をたてて面を被った小さな狐が現れた。



「あなた様が派遣されてきた刀剣男士更正員の時前透様ですね!! わたしはこんのすけともうします!」
『待て!! おいやめろ!!! やめろバカ野郎!!! ああ俺が時前 透! マジやめろってお前らああああ!』



 こんのすけの挨拶に適当に返して俺はシルヴィアとアヴァタールを取り押さえていた。だってコイツら塀を乗り越えて本丸に入ろうとしてんだよ! 止める気にもなるだろ!



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70:ぜんざい◆A.:2016/11/24(木) 01:14 ID:ATI



 お転婆どもを取り押さえて地面に重ねて放り、その上から座ってこんのすけに改めてよろしくと告げる。



<はいよろしくお願いします。それにしても、時前様は神気が中々に高いでございますねぇ……>
「ったりめーだろ! なんたって俺達が透の僕(しもべ)なんだからな!」
「嫌よしもべなんて言い方! 透が私たちの主って言えよ! そっちのが楽でしょ!」
『悪ぃこんのすけ、コイツらほっといていいから』
「「見捨てないで!」」



 こんのすけを腕に抱いてそそくさとその場を離れようとしたら素早く体にすがり付いてきた神を冷たい目で眺めて一応混乱しているようなので説明しておく。



『もし俺の神気とやらが高いなら確実にコイツらのせいだ。一応神の席に腰おいてるらしいからな。
 薄い桃色髪で高いところに二つ団子くくりにしてる女が【雷の王シルヴィア】金髪のハチマキ巻いてるシャツのボタン全開野郎が【光の王アヴァタール】』
<このような高位の神を御二人も!?>
『お前ら一応すごかったんだな』
「透が興味無さすぎんのよ!」
「もっと知ろうとしろよ!」
『馬鹿を知って俺にも馬鹿になれってのかばか野郎。本丸はここであってんだよなこんのすけ』
<あっはい>



 扉をギィと開けばそこには綺麗な日本庭園があるわけなかった。枯れ果てた池と木々、淀んだ空気に明らかに不衛生な本丸。これが前任の障気かよひっでえ。



『ひでえな。お前ら呼吸大丈夫か』
「本当にお前は俺たちをなんだと思ってんだ」
「これでも上位の神なんだからね! 実害ねーよ!」
『うるせーよカス共』
「「カス!!?」」
<(容赦無しですね…)>



 そんな事をしていれば二人を指差していた右腕が飛んだ。ぽーんって。ぶしゃあああ! とスプラッタな感じに吹き出た血液は地面にボタボタと滴り落ちて、宙に浮いていた腕はアヴァタールがキャッチしてムシャムシャ食べている。絵面やべえなおい。まあ俺も不死とはいえ、再生しない場所はある。目だ。目はやられたことないけど直感で。
 警戒態勢に入ったシルヴィアは「刀剣男士、見ーっけ」と笑顔で鎌をぶんぶんと振り回して手元に抑える。アヴァタールを見れば既に俺の腕を食い尽くしたのか骨しかなくてぶんっと縁側側の障子に投げた。和紙を貫通して飛んでったその部屋から「うわあ!」とかそんな悲鳴聞こえたけど知らん。
 シルヴィアの見る方向を見つめれば、そこにいたのはぼろっぼろながら全身真っ白の儚げな印象のある男、だがしかし。浮かぶ笑みがアヴァタールとシルヴィアくさい、ちょっとうざそうな奴。儚げな見た目が台無しだ。
 腕を再生してぶんぶんと上下に振れば機能する。新しい傷が出来たが仕方ない。


『こんのすけ、あの白い塊はなんだ』
「名刀、鶴丸国永様にございます。彼の性格は人を驚かすのが好きなお転婆さんです」
『お前らじゃねぇかよ』
「私もっと可愛いもん!」
「俺もっとかっけーもん!」
『もんとか使うんじゃねえキモい』
「「だから酷い!!」」



 しくしくと嘘泣きをし始めた兄妹にガチめに顔をしかめれば相手の鶴丸がけらけらと笑い出した。



『……なんだ』
「いやあ、腕を飛ばされたのに案外冷静だなとな。再生したし、なにもんだあんた。俺達は人間が嫌いだ、出ていけ」
『俺は自称高位の神を二人従えてる不死の化け物だ』
「……自称、なのか」
『自称だ』
「「違うわ!」」



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71:ぜんざい◆A.:2016/11/24(木) 23:51 ID:ATI

『鶴丸国永、一度引け』
「脳みそから内蔵まで食い尽くすぜ」
『……逃げろマジ逃げろ。俺が押さえてる間に逃げろ! マジで!』

じゅる、と涎をすすってギラギラした目で鶴丸を睨むアヴァタールを後ろから羽交い締めにして動きを止める。俺の必死な形相に危険を察知したのか鶴丸は苦虫を噛み潰したような顔をして本丸内へと姿を消した。興奮気味のアヴァタールに左腕を切り捨ててくれてやればそれはもう俺の腕をばくばくと食べ始めるのを確認してから、こんのすけは口を開いた。

<あのように攻撃的なやからも存在します、充分にお気をつけください>
『わかった』

そのあとは大広間にて挨拶。刃こぼれの酷い刀を幾つかつきつけられもしたが、俺は基本家の掃除をするから関わる気はないと告げておいた。折られてしまった仲間を取り戻すことは教えていない、だって恩着せがましいから。ここの本丸の刀数は多くなく、元は明石国行、御手杵、小狐丸、小烏丸、三日月宗近、太鼓鐘貞宗以外の刀剣は居たらしい。が、その大半が過度の戦と審神者の犠牲になったようだ。

「透、今から掃除?」
「えー、めんどくせ」
『いや、どれだけの部屋があるか見て回る。手入れ部屋と鍛刀部屋も見たい』
「ならいいや、りょーかいりょーかい。んじゃまぁ……行くかー」

ふらふらと本丸内を徘徊し、とりあえず全ての部屋を見て回った。
 大広間では見なかった水色髪のイケメンは傷だらけの小さい子供が四、五人寝かされている部屋で血みどろになって倒れていた。驚いたもののシルヴィアの「まずアヴァタールに見付からないように手入れ!」と言う言葉で慌てて手入れ部屋に押し込む。あんな血塗れの肉体を見たらアヴァタールがとびかかってしまう。危ない危ない。手入れ部屋はあと三つ。その部屋の子供の重傷者を順に手入れ部屋に運ぶ。とりあえず手伝い札を使ったので水色髪のイケメンは手入れは終わったがまだ目を覚まさないので布団で寝かせておいた。

『うわ、今更だけど、ひでえな』
「気付かなかった私も悪いけど、精液臭い」

よくよく布団を見てみれば涙と汗、他には粘着質は液体が。精液が何かは知らないが、これは衛生的に悪いものだとわかる。慌てて隣の大部屋にあった真新しい布団をその部屋に敷き詰めて水色髪のイケメンを寝かせる。規則正しい寝息が一番の救いだ。

『末席とは言え、神も怪我はすぐ治らないんだな……』
「コイツらは付喪神、本体が治らなきゃ傷は治らない。私達は日がたてば人と同じ様に治る」
『……俺が異常なのか、やっぱり俺は化け物なんだな……』
「ネガティブはやめてよ! それじゃあ私達上位の神が化け物に従ってることになるじゃん!」
『てめえはそればっかかカス!』
「相変わらず酷い!」

そんな会話をしながらよいせよいせと手伝い札を酷使しまくり、あの部屋にいた子供たち……刀剣男士は今、怪我も治って穏やかに眠っている。

『腹減ったな。どうせコイツら目ぇ覚めたら腹空かしてるだろうし、飯作りに行くか』
「ヤッター!」
『うるせえチビ』
「黙れ金髪」
『生まれつきだ馬鹿』

そんなことをうだうだ言いながらここでは厨と言うらしい厨房に来てみれば、見た目はあれだ、となりのト○ロの台所の広い版みてえだった。そのくせIHとかの最先端器具完備だから腹立つ。そして俺はそこで中華鍋をバリボリ食ってるアヴァタールを発見。

『お前なんてもん食ってんだ!?』
「意外とイケる」
『イケねーよアウトだ阿保』

一発キツめの肩パンを入れて、なに作ろうかと冷蔵庫を覗けば食品完備。なんだここ。今回は無難にカレーと言うことで深底の鍋に大量に作りましたカレー。うん、バーモ○ドカレー美味いよな。そんなことを考えて無心で飯食って、とりあえずさっきの大部屋に再び足を向けた。

72:ぜんざい◆A.:2016/11/25(金) 17:34 ID:ATI



 先程の大部屋を覗き見すればすやすやと心地よく寝ている刀剣男士を確認。ゆっくりと扉を閉めて、ふと火神さんからの言伝を思い出した。そう、なんでもいいから二本は刀を鍛刀、またはドロップを持ち帰らなければならない。こんのすけに残っている資材の量を聞けば残りは最低値もないと言う。なんだってー!? とアヴァタールとシルヴィアが悲鳴をあげるなか、俺はじゃあ出陣するかと声を掛けた。



「そーねー、足んないし」
「斬っていいんだよな?」
『おう』
「お、お待ちください! あなた方三人だけで行かれるなど……!」
『あっ、大丈夫です』
「拒否ですか!?」



 そうやって喚くこんのすけを放って俺たちは時間指定も面倒だったのでタイムマシンの向かい所は設定してあった『厚樫山』で過去に飛んだ。



**



「これこれこれぇ! これぞ戦! これぞ戦闘!」
『……待てよアヴァタール、行き先はサイコロで決めんだとよ。12面体とか珍しいな……』
「なんでも良いからちゃっと敵の本丸まで行ってちゃっと倒そ!」
『……手っ取り早いしな……』



 ほーい、とか言いながら賽の目の方向に進む。途中時間遡行軍と交戦したけどほぼアヴァタールが暴れたので俺とシルヴィアは出番無し。進んでいけば運良く敵の本丸にたどり着いたようで、流石にこの人数はアヴァタール一人ではキツいだろうと俺達も参戦した。
 右手に刀、左手に大鎌、今の俺はどこの殺人鬼だよ。まぁ化け物にはそれがお似合いってことか……。

 敵陣を倒しきれば、ここに来る以前で大量に発見した資材の他に一際輝くとても綺麗な太刀を見付けた。俺はそれに近寄って『太刀? なんでこんなところに。ウチのアヴァタールに折られなくてよかったな』とか一人言を呟いて一応戦利品として持ち帰ることにした。解刀すればきっと資材になるしな。

 かたり、とその太刀が少し動いたような気がした。



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73:ぜんざい◆A.:2016/11/26(土) 18:54 ID:ATI



 俺は今、先程の太刀を顕現させようとしていた。聞けばこの太刀は滅多に御目にかかれない珍しい刀らしく、解刀しようとしていた俺はこんのすけに怒鳴られて渋々顕現することになった。俺はエンジェルキラーに属している以上、審神者にはなれないので顕現したらこの太刀はこの本丸に引き継がれるらしい。

 顕現してやって来たのは、なんとも見目麗しい姿をした青年だった。



「俺は『三日月宗近』、天下五剣の中で最も美しいと言われている刀だ。11世紀の末に生まれた、要するに爺さ。いやはや、俺を解刀などしようとしたのはお前が初めてだぞ。いやぁ、焦った焦った」



 はっはっは、そう笑う自称爺の三日月宗近。なんだろう、どこか喰えない雰囲気がとても……凪に似ていた。彼の瞳の中の三日月が俺をまっすぐ、力強く見つめてくる。何を言えば良いのやら、シルヴィアとアヴァタールに目を向ければ、シルヴィアは「光と違う種類の綺麗……」アヴァタールは「うまそう」と呟きグウゥ……と腹を鳴らした。アヴァタールの発言と腹の音はこの際聞かなかったことにする。



「お、俺は食われるのか……?」
『いや、食わさねえから安心しろ。俺は時前 透、ちょっとの間よろしくな』



 俺が彼を少しばかり見上げてそう名乗れば、そのとたん三日月はふにゃりと微笑んだ。



「そうか、透と言うのか。名乗ってくれるのは嬉しいが良かったのか? 俺達は付喪神とは言え神の端くれ、名を教えれば隠される危険もあると言うに」
『え』



 そう聞いてばっと二人を振り返る。忠告してくれた三日月には悪いが、危険度はあいつらの方が上なのだ。サッと血が引くのが分かる。



『……したら、解雇……だな。それか、サタンに引き渡「「しないから解雇もサタンに引き渡すのもやめてぇええ!」」



 ぶちのめされる! と半泣きになりながらひしっ、と俺(の足)に物理的にすがり寄ってきた二人を蹴散らし『したらの話だ』と一つ言い放ち、三日月を見上げて『……忠告、ありがとう』と呟いた。



「なんだ? そこの二人も神か」
『……それもかなり上位のらしい。基本的に悪魔は気まぐれだけど、コイツらは人間臭い。そもそも神かどうかも怪しい』
「そこは神だって断言するもん!」
「こんのすけだって俺達の事神だって言ってたもん!」
『うるせえ失せろ愚神』
「愚神!? ぐしんて何アヴァタール!?」
「知らねえ!」
『……(´ω`;ゝ)(コイツら頭悪いな)』



 困り果てた俺は髪の毛を掻き、鬱陶しい兄妹を再び蹴散らして三日月に『基本的に無視してくれ』と教えれば上品に口もとを袖で隠してくつくつと笑う。そこら辺わきまえてて古臭いのはコイツが爺だからなのか、平安生まれだからかは知らん。



「どうやらずいぶんと猛々しいところに来てしまった様だな」
『……俺みたいな化け物が呼び出して悪かった』
「化け物……?」



 あっ、はい何でもないです。



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74:ぜんざい◆A.:2016/12/02(金) 01:21 ID:DwQ


re! のあのifの続き。原作逸れ、関係無い短編。ディーノと雲雀が修行して顔見知りになったあと。(リング争奪戦後)


『いやー、お前争奪戦の時ヤバかったなあ! モスカドゴーンて!』
「あれくらいいおりも出来るでしょ、『斬岩剣!』とか叫びながら」
『流派やし! 由緒正しい京都神鳴流やし!』



 応接室にて、そんな言い争いをする俺たち。するといきなりガラッと扉が開いて、部下を連れていないディーノが応接室に笑顔で入ってきた。
 向かい合う様に配置してある上質なソファに腰を掛けて顔を突き合わせていた俺たちは『ディーノくんや』「あれ? 何でいおりがここにいんだ?」「なに、知り合いなの」と各々反応を見せる。



「いやあ、いおりが恭弥と知り合いだったとはな!」
「ねえいおりなんでこんなうるさいのと知り合いなの?」
『成り行きでな』
「理由」
『成り行き』
「……理由」
『成り行き』
「……咬み殺す!」
『やれるもんならやってみい!』



 恭弥を煽るだけ煽り、トンファーで鋭い攻撃を繰り出してくる恭弥をへらへら笑いながら何でもないように避ける。はっはっはなんて笑って居れば、「え、いおりつええ」とディーノが唖然としている。いやまあ俺恭弥に攻撃されて当たったことないんで。はっははー!
 だがしかし、そこで問題が発生する。



「よし! なら俺も混ざるか!」



 と鞭を持って立ち上がったディーノ。恭弥はふぅんと鼻で笑い、俺は顔を青くさせる。



『えっ、ディーノくん参戦なん? え、嫌な予感しかせ「行くぜ!」待って話を』




 俺が鞭を振るおうとするディーノに近付き、後ろからトンファーで頭を狙ってくる恭弥に純粋に恐怖した。ディーノはソファから立ち上がると自分の足を踏み、すってんころりんと前屈みに倒れかけ、目の前に居た俺はぴしりと固まる。え。



「ちょっと」
『うおっ、がふっ、いでっ』



 あ、これディーノくんとぶつかるみたいな事を考えて悟った目をしていれば背後から恭弥に抱き抱えられるように引っ張られ、どさりと二人して尻餅をつく。そして支えなどないディーノの俺の腹に綺麗な頭突きを咬ましてくれましたよええはい。



『……いてえ』
「ちょっと、重いんだけど」
「いや待って! 見えない! 暗い!」
『おいディーノくんフードフード!』
「この人こんなんだったっけ……」
『部下が居ないと極端にいろいろダメになるんやこの人。君はいつまで俺をかかえているつもりなんやろな?』
「跳ね馬が退くまで」
『ディーノくんはよのいてえええ!』
「よしっ、フードは取れたぜ! すぐたつから待っうおお!」
『ガッハァ!』
「うっ」



 慌てて立ち上がろうとしたディーノは足を滑らせ俺のサラシでまっ平らに潰した胸へとダイブしてきた。その衝撃で後ろの恭弥も少し唸る。



「……重い」
『痛い……』
「すまんお前ら!」



.

75:ぜんざい◆A.:2016/12/04(日) 08:41 ID:Viw

(とうらぶの)

三日月side


 俺と蛍丸、愛染で部屋を散策していく。ここの刀剣は刀剣女士として出現する厄介な本丸で、審神者はそれで調子に乗り、夜伽を押し付けられていたと言う。
 まったく憤慨を覚えざるをえないが、そちらは主が行ってくれるだろう。



「っ!」



 ふと蛍丸が顔をしかめた。同時に強く薫ってくる鉄臭い香り、ああ、これは……。
 愛染が「血の臭いだ」と呟く。



「酷いね、誰だろ」
「ここの部屋からだな」



 俺が刀を構えつつパンっと襖を開けば酷い血液の臭いと、血がべたべたに張り付いた手入れ部屋。



「誰もいない……?」



 蛍丸が呟いたとき、俺は上を見上げてハッとする。滴ってくる血液が愛染の頭にぴちょんと落ち、「ん?」と愛染が上を見上げて「ぎゃあああ」と悲鳴をあげた。つられて蛍丸も見上げ、悲鳴をあげる。
 そこには肩と腕、太股に大きな杭を打たれて血見泥の太鼓鐘貞宗。



「た、太鼓鐘!!」
「三日月さん、どうしよう!」
「やむを得んな」



 俺はアデアットと呟き、アーティファクトを発動させる。ぱっと自身が輝き、ふっと消える。



「『複刀、月刻み』」



 ふひゅっ、と素早く刀を抜けばサラリとその杭へ吸い込まれていく本体、俺自身。そして目にも止まらぬ素早さで全ての杭を太鼓鐘に当たらずに破壊した。

 だらんと落ちてくる太鼓鐘ををなんなくキャッチして、血だらけのコイツに簡易手入れ札をのせる。
 淡い光を帯びながらだんだんと傷が塞がってきている事実に安堵して、「戻るぞ」と二人に声を掛ける。



「え。主のところに助太刀しなくていいのか?」
「コイツに無茶をさせるわけにはいかないだろう?」
「ああ、そうだよね。集合地点へ戻ろ」
「あーあ、審神者切れると思ったのにー!」
「これこれ、不謹慎なことを言うでない」
「えー、三日月さんも思ってるくせに!」
「……緋斬が怒るだろうなあ」
「「ごめんなさい」」



.

76:ぜんざい◆A.:2016/12/10(土) 23:56 ID:k..



**いおりside



 襖をすぱんと開けば、途端俺の左肩が一気に熱を帯びた。ぼたぼたと垂れるそれに、目の前で泣き出しそうな顔をする浦島に、顔をしかめる。
 隣の鶴丸が「主!」と叫ぶのが聞こえた。ちらりとアイコンタクトで鶴丸を見やれば鶴丸は呆れたように笑って審神者へと向かっていった。
 目の前で薄く涙を溢す浦島の頭をぐしゃぐしゃに撫で回してゆっくりと自分で刀を抜く。深く刺さった脇差は血に濡れ一層浦島虎徹が顔を歪める。刀帳にて、元来浦島虎徹と言う刀剣男士は常に笑顔で活発な男、こんなに泣きそうな顔をするやつじゃない。
 俺は今、手元に緋斬が無いから言霊の鎖は切れないものの、恐らく命令でやらされたであろう浦島に微笑み掛ける。彼の体には、傷ひとつなかった。



「や、俺、ごめん、なさい! あんたたちが助けに来てくれたの知ってたのに……」



 縋るように服を掴んできた浦島は懇願し、頼むから折らないでと泣き付いてきた。俺はそんな浦島の頭を優しく撫でて、口を開く。



『大丈夫、折らへん』



 本当に? そう言いたげな浦島に鼻で笑って見せて、少し説明してやろう。視界から外れている前方の鶴丸と審神者は知らない。



『俺んとこの本丸な、俺が鍛刀した刀、一人もおらへんねん。元々俺【黒本丸更生部隊】に配属されとってん。俺の一番最初の刀は二振り、三日月と燭台切。この二人は俺が初めて行った黒本丸に居ったんや』
「え……今、最強の本丸なのに?」
『せやねん』
「待て待て。俺も初耳だぞそれ」



 おいおい、そう言いながら寄ってきたのは既に頼んだ仕事を終えた鶴丸。彼の白い装束にたっぷりと付いている返り血はもう知らん。
 そうか、鶴丸は数十年後に来たんやったな。



『そこで、審神者の命令で戦ったんや。やからなあ、浦島の左肩刺したくらいやったらなんともないんや』
「……何で?」
『俺、そんときに戦った三日月に首飛ばされたから。それに比べたら全然。光忠は俺の腹をかっさばいた程度や』
「はぁ!!? そんなこと俺は知らないぞ!?」
『言ってへんもん』
「首!? 首!? え、首!? 飛ばされたの!? 何で生きてんの!?」
『俺、不老不死やねん』
「すっげえ!」
『それがもう……75年前やな』
「75年!? あんた今、何歳なの!?」
『92歳や』
「若いよ! 人間ってみんなこう!?」
「いや、待て浦島。ウチの主は13の時に人間を卒業している」
「すげえ!」
『やから浦島も気にしな。よかったらウチに来ませんか!!?』



 バッと両手で浦島の手を握れば、え? と呆然とされた。今度はこちらが懇願する目で浦島を見つめる。浦島は困ったように鶴丸を見上げた。



「鶴丸さん、」
「悪いな、ウチの主はとてつもなく運が無いんだ。鍛刀しても失敗しかしないし、ドロップも極稀にしかしない。もう、ここ50年ほど新しい刀剣男士は来ていないしな」
「そういうことかー。何振り居んの?」
「えーっとだな、ウチには一応主の刀に付いてる刀剣女士も居るんだ。そいつと俺も合わせて……6振りしかいないな。ウチには初期刀も居らんし」
「すっくないなぁ!? 分かった行くよ! 流石に寂しいよ!」
「その代わり練度超高いぞ。何せ俺達六振りしかいないからな。実際に刀剣男士は五振りしかいない、だから部隊にすぐ入れるぞ! どうだ驚いたか!」
「マジ!? めっちゃ驚いた!」



 途端目を爛々と輝かせる浦島には悪いけど、俺のライフはもうゼロよ……鍛刀とドロップの事は言わないでほしかった……。
 すると、不意に浦島の顔が青くなる。



「そうだ! 太鼓鐘! 太鼓鐘が! アイツ、審神者に『もうやめてやってくれ』って頼んだら、手入れ部屋で……。アイツ助けたら、太鼓鐘も一緒に」
『落ち着け浦島、太鼓鐘は保護したで、もちろんウチで引き取るから』
「よかった……」


 安心したのか浦島は心底安堵した顔で、ふっと俺に持たれかかってきた。緊張が解けたのだろう、ぐっすりと眠っていた。



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77:ぜんざい◆A.:2016/12/12(月) 23:59 ID:ELI



 門のところへと無傷の浦島と返り血まみれの鶴丸を連れて戻ってくれば、そこにはいつものメンバーがにこやかに談笑していた。
 ふと気が付けば燭台切がちらっ、ちらっ、と俺を見ては、ちらっ、ちらっ、と三日月の背を見ている。
 安心して腰が抜けた浦島をおぶっている俺は三日月の背を覗き込み、ああ、と納得した。そこにはすっかり傷も治り、すやすやと寝ている太鼓鐘貞宗の姿が。


『光忠、この子が噂の貞ちゃんか』
「そうだよ!! ねえ主! 貞ちゃんウチで引き取って貰えないかなぁ!?」
『浦島にも頼まれたし、うちの本丸そんなに数居らへんし、そのつもりやで』
「〜〜〜! 愛してる主! やっぱり僕の主は最高カッコいいよ!」



 がばっ、と飛び付いてきた燭台切にからからと笑って浦島がびっくりしてるから退いてくれと告げる。浦島に首に回された腕がきゅ、と力が入ったのでやっぱり驚いたのだろう。ばっと慌てて離れて驚かせてごめんね浦島君! と謝罪する光忠。そんな光忠は返り血にまみれた鶴丸を見て飛んでいったので俺達は三日月たちに寄っていった。



『おつかれ、太鼓鐘貞宗救出御苦労さん』
「おや、主は救出のことを知っておったのか」
『光忠からパクティオーカード機能のテレパティアで連絡があってな』
「なんと。俺は初耳だぞ!」
「おま、三日月!! こっちは一回教えましたで主!」
「主〜、疲れたー」
「俺もー」
『おんおん、無事任務終了したし久しぶりに新しい子、しかも二人も来てくれたし、大成功やな』
「俺も早く新しい主の本丸行ってみてぇなー」



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78:ぜんざい◆A.:2016/12/16(金) 19:00 ID:ELI

 とうらぶ一旦完結しました。いや。長かったです。
 次からはre! の原作沿いの混合無しです。下は設定です。名前は引き継ぎ。

『伊達 いおり』
 並盛中学生の風紀委員長の同級生。他クラス。
 成績普通、運動神経は少林寺拳法をしているので良いだろうと思われる。
 肩上しかない暗紅色の髪は外に緩く跳ねていて前髪が長い。顔は別に整っている訳でもなく男寄りのちょっとかっこいいかな、気のせいかぐらいの容姿。目が悪いので黒縁眼鏡着用。外したら美少女! って訳でもない。もっと男寄りに進化する(夢主は結構気に入っている)。関西弁で見た目を裏切らない低い声。口数はそんなに多くない。並ch(2chみたいなもの)やニヤニヤ動画(ニコニコ動画みたいなもの)ではかなり有名なオタク。絵師もしている。

 リアリスト。赤ん坊がヒットマンとかダメツナと呼ばれているらしい少年がマフィアのボスだとか同級生の風紀委員長が並盛町を牛耳っているとか未だ信じられない。ナニソレ美味しいの状態ないろいろ理不尽に可哀想な子。

 美術部所属、少林寺拳法に似ているから空手部を兼部している。学校ではオタクであることを必死で隠しているため美術部では絵画しか書かない。(コンクールで入賞したときの賞金や賞品の図書カードは全て漫画等に注ぎ込まれる)しかし隠れて学校でも書いたりしている。(小説の挿し絵とかアニメのキャラとか)

 少林寺拳法は棒術を使える(教えられる)レベル。高校に入ったら道場の師範だとかなんとか噂がたっているとかいないとか。並盛なんだから平和に生きたいと思っている一般家庭(両親世界一周旅行中)出身。

79:ぜんざい◆A.:2016/12/16(金) 20:27 ID:ELI


追記。一人称は『こっち』です。内心がテニプリの財前君みたい。


 今日からこっち、伊達いおりは並盛中学三年生。重度のオタクですが今年もバレず、静かに過ごせたらエエな。

 とか思とったのが結構前。もう数日経った新学期は波乱の幕開けのようです。
 新入生の沢田綱吉が三年の持田さんと喧嘩になって笹川涼子を景品に剣道勝負して沢田が持田の髪を全部ひっこぬいたり、校庭がいきなり爆発して40年前のタイムカプセルから高学歴の根津の赤点のテストが出てきて学歴詐称で解任されたり野球部エースになった一年生自殺未遂事件。
 なんやねん、去年まで平凡やったやろ。おいおいどないなっとんねん。平和で平凡な平均な町、並盛町の面影はいずこへや!? 



『そんなわけで白玉さんが疲れとるんはちょお学校で今いろいろあってや、余計にめんどくさがりになったゆうわけやねん。平凡は一体どこに散歩いってもーたんやろな……』

【散歩www】
【やwwwけwにwしwみwwじwみww】
【ファイトです!頑張って生きて!】
【生きるんだ白玉さん】

『うぇっす、まあぼちぼち頑張りますわー』

【これまたやる気のないww】
【次の生放送いつー?】
【早く早く】
【寒いだろ早く(バッ】

『変態はさっさとこの俺にひざまずけよ。悲鳴をあげても許さねえ』

【ぎゃーーー! ごめんなさーい!】
【な、なにをする気かしらー!?(ハアハア】
【出たーーーー!】
【キ(\°∀°/)ターーーー!】
【白玉様のドSがーーーー!?】
【キ(\°∀/°)ターーーー!!!】
【これで女の子らしいから怖い】
【ドSモード時は一人称が俺になる!】
【そこに痺れるぅ】
【憧れなぁい!】
【www】

『憧れへんのかい。なんやお前らこういうとき息ぴったりでテンションクソ高なるなぁ……。そろそろ時間やからさよならやな。次回も気まぐれや、見つけたらラッキーやな、よかったなうんうん。そんじゃ、お疲れさん』

【ラッキーな人にどうでも良ささが滲み出る!】
【次回は最初から!】
【ラッキーな人になるぞー!】
【おー!】



 ニヤ動の生放送を終えて、ギシッと椅子に背を預ける。あー、楽しいニヤ動ホンマ楽しい。
 非日常とか認めへん。こっちは。絶対に。絶対にや!


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80:ぜんざい◆A.:2016/12/16(金) 22:10 ID:ELI



 とある休日。本日はニヤ動をせずに絵を描いている工程を動画にアップしているヨーチューブコメント欄にてリクエストされた絵をデジタルでまったりしながら描くと予定しているので、午前中は外に出た。
 三年になる数日前、両親は書き置きを残して世界一周旅行へと出掛けてしまったのだ。こっちを一人で残して。まああの人たちのことだ、すぐ旅行に飽きて帰ってくるだろう。
 今日は古くなったパソコンをノートの方に買い換え様とPCを購入して行き着けの甘味屋で白玉ぜんざいでも食べようかと赴いた訳だ。

 正直に言おう。ぜんざいめっちゃうまい。ここのぜんざいクソうまい。今まで食ってきたぜんざいより全然うまい。こっちが並盛に来たとき珍しく関西のぜんざいを発見したので食べてみてからここのぜんざいに捕まった。虜にされた。表面上、こっちは表情筋があまり動かないのでよくわからないらしいが内心はめちゃくちゃ笑顔である。
 もぐもぐと店の表で、日傘で影になっていて赤い布の掛けられた長椅子に座って口をひたすら働かせていたら、向こうから並盛の旧服である学ランを羽織って制服姿の我らが風紀委員長がお見えになった。正直に言えば関わりたくない。いきなり殴られたらたまったもんじゃない。でもぜんざいが、ここのぜんざいがこっちを離してくれなへんのや。くそっ、ぜんざいェ。
 風紀委員長である雲雀が居るが仕方ない。ゆっくり味わって食おう。ところがどっこい。雲雀くんはあろうことかこの店へと入っていった。どうやら雲雀くんも御用達らしい。なんてこった。
 暖簾を潜って出てきた雲雀はこっちを一瞥してから此方が座って居る椅子とは違うもうひとつの方へすとんと腰を下ろして足を組んで待っている。その動作のなんと優雅なことか。

 気付いたときにはもう遅く、鞄からノートブックと鉛筆を取り出して雲雀に声を掛けていた。



『……ちょっとエエか』
「……なに」
『悪いんやけど、被写体してもらってかまわん?』
「……」
『嫌やったら別にエエんやけど』



 この雰囲気は断られそうや。心なしか少し落ち込みつつノートブックと鉛筆を鞄に戻そうとすると、がしりと腕を掴まれた。紛れもない、雲雀である。



「……別に構わないけど、理由を教えて」



 理由。まさかの理由。内心きょとんとしつつ『……綺麗やったから』と告げる。背景には散りつつあるけど綺麗な桜、雲雀のその端正な顔立ち、優雅な雰囲気。これをそのまま絵にしたいと思った。もちろんそのままずっとそうして貰うわけにもいかないから写真を撮らせてもらうけど。



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81:ぜんざい◆A.:2016/12/16(金) 22:26 ID:ELI



 一眼レフを構えてそう言えば雲雀は少し間を空けて「ふぅん」と鼻をならす。続けて「ここのぜんざい、もうひとつ奢ってくれるならね」と告げた。
 こっちはなんやそんなことでエエのかとかぼうっとしつつこくりと頷く。こっちは早速自分の時間に入った雲雀を写真に納めた。
 すると不意に雲雀がこちらを向いて「ねえ」と声を掛けてきた。



『なん……?』
「……やっぱりなんでもないよ。また今度応接室においで。茶ぐらい出してあげるよ。伊達いおり」
『……名前言うたっけ』
「風紀委員長だからね」



 そう言った雲雀に頷いて今までの雲雀のイメージを書き換える。雲雀は持って来られたぜんざいを心なしか微笑んで口に入れていた。ふっとその瞬間を写真で切り取る。やべ、そう思って雲雀を見れば彼は怒ってトンファーを持ち出すでもなくただこちらを一瞥するだけだった。その目は怒りをともしていなくて、一息つく。
 意外やけど、今日わかったこと。



『……雲雀は、優しい』



 自分のぜんざいを味わいながら不意に外に出た言葉に別に動揺するでもなく、ほっといた。雲雀は優しい。最強なんて恐れられているけど、甘味がけっこう好きで、綺麗な顔立ちをしていて彼の瞳の黒燿石は艶やかに煌めく。

 さっきの言葉を拾っていた雲雀が目を少しばかり見開いていることに気が付かなかった。


 それは、彼の心にどう影響したのか、気づいてすらいなかったこっちが知るわけがない。



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82:ぜんざい◆A.:2016/12/16(金) 22:46 ID:ELI

捏造注意


 その日は一応出来上がったら応接室に持っていくと雲雀と約束を取り付けて雲雀とは別れた。少し話をしていただけだったけど、個人的には雲雀は好きな部類だ、無理に話さなくて済む。
 ノートパソコンの入った段ボールを覆うビニール袋を引っ提げ帰路を歩いていたのだが、不意に「すみません」と大人のようなそうでないような男の声がこっちを引き留めた。振り返るも姿は見えない。気のせいかと向き直ろうとしたとき、「こっちですよ」と下から声を掛けられ目線を下げればそこにはあら不思議、雲雀そっくり……いや、雲雀を幼くしたような顔立ちの赤ん坊が二足歩行で居た。赤い中国を連想させる服に、赤いおしゃぶり。ん?
 明らかにこの子があの結構低い声出してたよね。
 しゃがみこんでその子を凝視すれば苦笑いされて「驚かせてしまいましたね」と驚くほど丁寧な口調で流暢に喋り出した。



『……いや、別に驚いた訳やなくて……なんでこんなとこに赤ん坊が一人でおるんやろなって』
「そこは別に気にしないでくださいね」
『あっはい』



 改めてどうしたのかと聞けば、しばらく並盛に泊まる宿を探していたらしい。探し人が見つかったけど今はまだ出ていくときではないから、と教えてくれた赤ん坊。どうやら精神年齢は成熟している様だ。



『……赤ん坊一人で? 泊まれるん?』
「……どうでしょうね。とりあえず、道をお聞きしただけなので。失礼します」



 雲雀そっくりな顔で微笑まれて複雑になる。……雲雀も笑ったらこうなるんじゃね? むしろちっちゃい頃こんなんだったんじゃね?
 とか考えているうちにすたすたと萌え袖をずるずる引きずって去っていく赤ん坊を呼び止める。振り向いた時に彼のひとつに纏めたおさげが揺れた。



『行くとこないんやったらウチ来ぃか? 今親旅行でおらんし、居候言うことで。親帰ってきてもエエって言うやろ』



 赤ん坊は大きな目をぱちぱちと数回瞬きして「良いのですか?」と首をかしげた。あざとい。非常にあざとい。かわいいなもー。



『かまへんかまへん、来るか?』
「……よろしくお願いしますね」



 赤ん坊は微笑んで「風(フォン)と言います」と自己紹介をした。赤ん坊で一人旅とかすげーななんて思いながら『伊達いおりや』と自己紹介で返したのだった。



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83:ぜんざい◆A.:2016/12/18(日) 23:59 ID:ELI

捏造有り


 風(フォン)君と家への道のりをのんびり歩く。彼の頭の上に乗る白い小さな猿はリーチと言うらしい。

 現在風くんはこっちの頭の上で正座して町の風景をキョロキョロと見回していた。



「……なんと言うか、平和ですね」
『……知っとる? 平和が一番普通やねんで……?』
「私は全国武道大会で何回か優勝していたりするので、周りはこんなに静かではありませんでしたよ」
『風くん。君、いったいどないな人生歩いてきたん』
「ふふふ」



 袖余りでくすくす笑う風くんが見えないけどきっとかわいいんだと思います。家に着いて風くんをひょいと地面に下ろし、部屋をひとつ与えた。家は一般家庭ですが部屋がちょうどひとつ余っているので困らなかったが。もちろんこっちの部屋は二つ。ニヤ動・実況部屋と普通に私室。私室ではパソコンで絵を描いたりするけどそんなにヤバいものは描かない主義だから。



「……広いですね」
『……まあ、赤ん坊にしては広いな……。基本的にここは風くんの私室にしてエエけど、寝るときはこっちの部屋来ぃか』
「良いのですか?」
『さすがに赤ん坊一人で寝かせるわけにはいかんし』



 足元の風くんを見れば綻ぶ様な笑顔が浮かんでいた。やはりなぜ赤ん坊の風くんが一人で日本に来たのかわからないが、まあ詮索はしないでおこう。やって面倒臭い。



「お風呂はどうするのですか?」
『……一緒に入るんはさすがにやめとこか』
「なぜです?」
『なんか、こう、風くん赤ん坊らしさがない言うか、大人らしいみたいな? 主にこっちが思春期やからや思うねん』
「そうですね(なかなか鋭い……)」
『悪いなぁ』



 とりあえず居候の風くんが我が家にやって来ました。
 ご飯食べて別々に風呂入ってこっちの部屋に来た。膝に風くん乗っけて髪の毛鋤いています。なにこの子髪の毛さらっさらやん。はい終わり、とポンと頭に手を乗せてそう言えば、風くんはこちらを振り向いてそのままこちらと向き合いながら真剣な表情で口を開いた。



「図々しいとは分かっているのですが、ひとつたのみごとがありまして……」
『かまへんよ、言うてみ』
「……あなたのご両親は構わないのですが、私を他の人とあまり会わせないようにしてください、私の探し人に勘づかれる恐れがあります」
『ん。りょーかいや。こっち基本的に昼間学校居るし、あんま人こーへんし』



 あっ、でも明後日遠い親戚が一人泊まりに来るわ。
 そう告げれば風くんは「明後日とその翌日でしたら私は外出しますので安心してください」とぱっちりつり気味のおめめが細められた。
 カワエエ!! ……けど、どうにも赤ん坊らしさがないねんなぁ。
 すると風くんが不意に「いおりさんは何か武術をやっていますか?」と聞いてきた。



『んー、一応な。少林寺拳法やっとる。棍棒が好きやねん。少林寺ではあんまやらんけど』
「ふむ、それなら日に一度私と組手をしませんか? 私が素手で君が棍棒です」
『……風くん大会優勝者なんやろ……?』
「大丈夫です! 組手と言っても一緒に鍛えるだけです! 居候させていただいているのですから!」
『お、おん……分かった……(いきなり目ぇキラキラしだしたな)』



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84:ぜんざい◆A.:2016/12/19(月) 00:19 ID:ELI



 その日の夜は風くんが寝たのを好機とし、早速今日購入したPCを設定していった。データ写してー、今日の雲雀くんの写真のデータ入れてー、普通の固定型でソフト起動してー。



『いざ!』
「……なにしてるんですか」
『っ!?』



 布団から起き上がって目を擦る風くんが不審そうな目でこっちを見てきた。まあ、確かに今日初めてあった人間はすぐには信用できないだろう。くそ、やってしまった。
 ノートパソコンの雲雀くんの写真のページをスッ、と閉じて目を逸らしながら『なんも』と返せば彼はこちらにとてとてと歩いて机の上に飛び乗りパソコンの画面を見てこちらを見て小首をかしげる。



「どうやら絵を書く機械のようですが、……さっきの写真はなんですか?」
『……今回の被写体っす』
「……無断で……盗撮ですか?」
『いやさすがにそれはせんよ!? ちゃんと許可もろてんで!?』
「それならいいんですけどね。絵をかくにせよ、電気を付けなさい。目が悪くなりますよ」



 風くんに促されて渋々電気を付けにいった。なんかこう、風くんって雰囲気あるやんね。
 そして絵を書くことに取り掛かると風くんが興味を持ったのか机の邪魔にならない位置に正座して「ほう」だの「わ」だの呟きながら興味津々に絵を書いている様を見ておられた。なんや気恥ずかしい。
 結局出来上がったのはそれから四時間後。書き始めたのが10時やから……深夜2時か、今回速かったな、背景もちゃんと書いたんやけど。
 うーん。机の上の風くんの眠そうなおめめがキラキラしてます。……眠いんやったら寝てええんやで?



「すごいです! 綺麗ですね! こんなこと出来るんですか!」
『なんやテンション高いな……どやぁすごいやろ(深夜テンションやろか?)』
「すごいです! またかいているところをみせてくださいね……!」
『おんおん、眠いんやったらはよ寝よな』



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85:ぜんざい◆A.:2016/12/19(月) 17:18 ID:Lr2


 本日、雲雀君に「出来たら見せて」と言われたので応接室にやって来ました。
 『小原や、失礼すんで』と告げれば「入ってきなよ」と返され、扉を開ける。そこには椅子に座って書類整理をする雲雀くんがいた。顔をあげた雲雀くんはソファに目線をやり、お湯のポットを見、こちらを見た。あっはい茶を入れろということですねわかります。
 無言の雲雀くんに若干溜め息を吐きつつ茶を入れてソファに座る。正面に座る雲雀くんはこっちが入れた茶を飲んで「見せてくれない?」と手を伸ばしてきた。どないしょう風くんの大きくなったバージョンにしかみえへん。



『ほら。デジタルで書いたから、綺麗やと思うで、画力は抜いて』



 厚紙にプリントアウトしたものを雲雀くんに渡せば彼は頬を緩めて「へぇ」と呟いた。



「なかなかだね、すごい」
『そらどーも』
「ねえ、前写真撮ってたよね」
『ん……ああ、あれか。せやな、撮る。今日も一応……昨日のは無いけどデジカメならあんで』
「見せて」



 デジカメを手渡してカチカチとリズムよくフォルダを見ていく雲雀くんの指がふとぴたりと止まった。
 「これ、データくれない?」と見せてきたのは桜が満開の並中。



『かまへんよ、もう描いた』
「へぇ、ありがとう。また好きなときにここへおいで。話し相手が欲しかったんだ」
『りょーかい』



 翌日お言葉に甘えて応接室に行けば昨日あげたデータの並中の写真が額縁にでかでかと飾られていた。



『……(雲雀くん……君ってなんやところどころ残念やな……)』



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86:ぜんざい◆A.:2016/12/19(月) 23:00 ID:Lr2



 家に帰宅すれば玄関の鍵は空いていた。風くんやろか、と思うもサイズの大きな革靴があったのであぁ来たんやなと悟る。奥で「うわわわわっ!」ゴチッ「でっ!」と言う声が聞こえてきた。慌てて靴を脱ぎ、リビングに行けばソファのところでガラスのコーヒーテーブルに顎をぶつけたと思われる親戚が倒れている。はあ、とひとつ溜め息を吐いて手を伸ばして引き起こせば「サンキューいおり」と彼は髪を掻いた。



『君な……勝手に家入るんはエエねんけど、転けるんやめてんか』
「おおっ、心配してくれてんのか!?」
『いや、物壊されたら困るねん』
「物の心配!?」



 涙目の彼をソファに座らせて、こっちは再び口を開いた。



『で、さっきはなんで転けたん……ディーノくん』
「いやー、いおりが帰ってきた! って思ってな、出迎えようと思ったら自分の足を踏んで転けちまった」



 たはー、と笑うディーノくんに苦笑いして『どーにか治らんのそのドジっ子属性』と小さく呟いた。そう言えば。



『ディーノくんって仕事なにしとん?』
「えっ、いや……はははっ、普通にな!」
『ん?』
「え、いや」



 慌て出すディーノくんに眉を細めるとぐっと言葉に詰まる様子に疑心を抱く。まあ、言いたくないのなら仕方ないか。



『こっちと君とじゃそこまで繋がりの血ぃ濃ぉないし……』
「へっ?」
『無関係……まあ関係無いっちゃ関係無いな……』
「んっ?」
『よお考えたらこっちに言う必要なかったな、すまん』
「えっ、えっ?」



 ぱっと顔をあげたディーノくんは戸惑ってるような焦ってるような顔してこちらを泣きそうな顔で見てくる。おいおい。ちょっと。イケメンがそんなんしんといてくれへんかな。
 ソファに再び深く腰を掛けたこっちを見て慌ててディーノくんが声を掛けた。



「いやっ、別にいおりが無関係だから言いたくなかったんじゃないんだぞ!!? いおりは平凡が好きだろ!? 俺の仕事平凡じゃねーから! だから言いにくかったの! 別に言いたくない訳じゃねーって!」
『あ、そうなん? ……平凡ちゃう仕事ってなん?』



 こっちがそう聞くと、ディーノくんは神妙な顔をして「イタリアンマフィアのボス……」と小さく呟いた。



.

 

87:ぜんざい◆A.:2016/12/19(月) 23:13 ID:Lr2



 へー、マフィアのボスかー、すげー……。



『!? マフィアのボス!!!?』



 がたっ、と立ち上がってディーノくんに詰め寄れば、ディーノくんは視線をそらしてこくこくとうなずく。っはー。



『……へなちょこディーノて呼ばれとったディーノくんが、ボスかー』
「いやいや、もう俺はへなちょこディーノなんて呼ばれてねー、跳ね馬ディーノだ」
『ならディーノくんドジするんなおった?』
「……まったくドジしない日の方が多いぜ! 一人の時はなんでかミスるんだよなー」
『……あ、はい(なんでなんやろ)』



 それから二人で他愛ない話をしつつディーノくんが唐突にリビングを出ていって戻ってきたときには大きな箱を抱えてやって来た。ん? なにそれ。



「いおりの誕生日プレゼントだ!」
『おっそ! え、おっそ! 今七月やで!? もうちょっとで夏休み入るで!? こっちの誕生日四月やで!?』
「仕事の都合で遅くなっちまった!」



 からからと笑うディーノくんは「開けて見ろー!」と箱をつき出してきたので受け取って開けて見ればそこには!



『……は? セグウェイ!?』
「おう! セグウェイだ!」
『……セグウェイ?』
「セグウェイ!」



 とりあえずディーノくんに飛び付いておいた。するとディーノくんのドジが発生、ディーノくんだけ後ろに倒れた。こっちは立ったままディーノくん見下ろして唖然。ディーノくんも唖然。え、ディーノくん……。



『……むっちゃ嬉しいわ……! やっぱディーノくん金持ちやな、流石マフィアのボス』
「どーいたしまして! 壊すなよ?」
『ディーノくんはそれを自分に言いや』
「え?」



 きょとんとするディーノくんに呆れつつ手を差し出して引き起こす。いやあ、ディーノくん万歳。夏休みはセグウェイ乗り回すわ。



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88:ぜんざい◆A.:2016/12/20(火) 00:31 ID:Lr2

上記では『今七月やで!?』といってしましたが誤りです。現在五月設定です。

 さて、やって来た体育大会。こっちの出場競技は借り物競争だ! なに引くんやろめっちゃ怖い!

 よーいドンで駆け出して紙に書かれた借り物を見れば、そこには「委員長」と書いてあった。……委員長? 委員長って借りれるもんやっけ? まあどこの、とは書かれてへんし誰でもエエんやと思うけど……。



<3年B組伊達いおりーー! 借り物を見て固まったがどうしたー!?>
『……委員長って書いてあるんやけど』
<まさかの委員長ーーー! 他人にあまり興味を持たない伊達は誰が委員長だか分かっているのかーー!?>
『おーい実況者ー、失礼やろー』



 そういってめんどくさいけど頑張る。一目散に駆け出したのはそう、唯一知ってる委員長、雲雀くんのところである。



『雲雀くん、ちょっと来てくれん?』
「やだ」
『(他の委員長知らんし)雲雀くんしかおらへんねん、また埋め合わせ持ってくから』
「……僕しか?」
『せや』
「……埋め合わせ、考えといてよ」
『りょーかい、抱えてエエ?』
「もう勝手にしなよ」



 了承をとったあと、彼の膝辺りを右腕で抱えて雲雀くんの上体はなんの支えもない状態で持ち上げて走る。雲雀くんは目を見開いた「うわっ……!」とか言ってたけど了承したんきみやから。異論は聞かへんで。



「ちょ、不安定……」
『おんぶか横抱きの方がエエか』
「……」



 以降雲雀くんは体勢に関して何も言わなくなった。



<3年C組伊達いおりの連れてきた委員長は……ひっ、ヒバリさんんんんん!? え、ヒバリさん!? 風紀委員長の雲雀恭弥さんだーーーー!>
「うるさいよ」
<あっはい>



 結果、1位。下ろした瞬間トンファーで頭をどつかれそうになりましたが避けました。いたいのいや。



「……咬み殺す」
『すまんて。謝罪と埋め合わせもしたるから』
「……」



 何も言わずスッ、とトンファーを下ろした雲雀くんかわエエわ……。

 学校中の人間が今日思ったこと。

(伊達いおりって、一体なにもの……!?)



.

89:ぜんざい◆A.:2016/12/20(火) 00:33 ID:Lr2


 誤字発見。

<3年C組伊達いおりー!>

 と実況者は言っていましたが実際にはB組です。ややこしくてごめんなさい。

90:ぜんざい◆A.:2016/12/20(火) 17:46 ID:Lr2




 体育大会から数日、最近こっちは風くんにべったりです。いや、なぜかと言うと可愛いし可愛いし可愛いし可愛いし。今日も今日とて風くん超可愛い。



『おはよう風くん』
「おはようございます」



 朝、ほぼ一人暮らし状態なこっちは自分で朝飯を作っとるから朝早くにおきなあかんのが面倒。だがしかし、目をごしごしして階段を降りてくる風くんの為、休むわけにはいかない。朝の破壊力が半端ないぞ風くん!


 家を出てから気が付いた。やべえ弁当鞄に入れてねえ。えぇ……嘘やん。



『……昼時雲雀くんとこ行くか……』



 一人でそんなことを呟きながら歩いて数分、頭にとすっと言う音と重力を覚え、びっくりしていたら「忘れ物ですよ」と声が聞こえ、風くんだ。と納得する。彼の手には弁当箱が。



『……ふぉんっくんんんんんんん……! ありがとおおおおお……!』



 ちょっと、うちのアルコバレーノが可愛すぎて鼻血噴出直前やねんけど。照れてる様に笑う風くんマジえんじぇー。



**

 帰宅途中、ある一軒家に黒服の男たちが大勢居た。……何やこれ。
 ぎょっとしつつ通れそうにないので別の道を探そうとした瞬間、その家の二階からとある人物が飛び出した。え、あれって……。



『ディーノくん……!?』



 ディーノくんは鞭を振るって二つの何かを上に放り投げつつスタッと着地。直ぐ様その背後の空中でその二つの何かが爆発した。……!? 爆発した!?



「またボスのやんちゃだな!」
「一日一回はドッキリさせやがる」
「今のはちげーよ!」



 スクッと立ち上がるディーノくんは笑顔で、ああ、昔のへなちょこディーノから成長しとるんやなってしみじみ感じた。すげー、昔なら絶対飛び降りるとかしなかった子なのに。
 二回の少年が「あの人カッコイイ……」と呟いていたのが微かに聞こえて、憧れの的にまでなるとは……顔だけは昔から良かったけど……すげーな、頑張ってボスやっとんねんな。あー、頬が笑顔でひきつるわー、ひくひくひきつってまうわー。

 すると不意にディーノくんがこちらを見た。こっちを視界に捉えたのか、それとも頬をひくひくさせている表情に気が付いたのか、視線に気付いたのか、目を見開いて唖然とした、そして部下と思われる黒服の方々もこちらを見て唖然。こっちもある意味唖然。
 ハッとしたディーノくんが焦ったように駆けてきた瞬間、こっちは顔を蒼白にさせてダッシュした。
 二人してその家の回りをドキャッと激走しながら話し合う。



『うん、ディーノくんマフィアのボスやもんな……! 正直あんま信じとらんかったけどこっちは信じた……! 安心しぃや信じたから!』
「待ていおり!!! 違うぞ!? いつもはこんなことしねーからな!? 今日が特にってだけだ!」
『希にあるんやろ!? あんねんやろ!? 頼む来んといてマジ来んといてホンマ勘弁して巻き込まんといてマジ頼む追っかけてこんといて家帰らしてホンマ君とおるといっつもトラブル巻き込まれとんねんとばっちりもれなく受けとんねんいやや来んな!』
「最近はそうでもねえ!」
『知らん!』



 しばらく二人して体力が無くなるまで走り回った。



.

91:ぜんざい◆A.:2016/12/20(火) 18:11 ID:Lr2



 どうやらあの家から少しだけ離れてしまった様。座り込んで足が痙攣してしまっているディーノくんを肩に背負っててくてくと歩いていく。重い。家の方に付くと黒服の方々に囲まれた。え、なになに怖い怖い怖い。



「あれ、ボス!」
「女の子に担がれてんぞ……!」
「ボス…」
「うっせうっせ! 足がさっきまで痙攣して動かなかったんだよ! もう呼吸も痙攣も治ったけどな!」
『それをはよ言えや、降ろすで』



.

92:ぜんざい◆A.:2016/12/20(火) 18:25 ID:Lr2



 ディーノくんはこっちの事を部下の人たちに説明すると、みんな一様に「あぁボスがセグウェイあげた親戚」と納得していった。納得するんかい。



「リボーン! 説明聞いてたな!」
「おう、ばっちりびっちりな」
『……黄色のおしゃぶりの赤ん坊なん……?』
「リボーンだ。よろしくな」



 一応よろしく、と返して「んじゃ」と踵を返す。するとがしっと腕を掴まれた。



「いおり、リボーンが飯食ってけってさ」
『……いや、エエわ。今回は遠慮しとく、もう朝に作り置きしてあんねん』
「ならしゃーねーな」
『リボーンくんも誘ってくれて感謝な』
「またこいよ」



 そして帰宅。朝に作り置きしてあると言うのは真っ赤な嘘である。だって晩御飯は愛しの風くんが作ってくれとんねんもん。風くんの炒飯旨いし。



『ただいまー』
「おかえりなさい」
『ん¨ん¨ん¨っ!』



 玄関先で身をのけぞらせ、顔に手のひらを乗せてとりあえず余り袖を引きずってとてとて駆けてきた風くんかわええ。



.

93:ぜんざい◆A.:2016/12/21(水) 18:51 ID:Lr2


 時は流れて2月、雲雀くんとも良好な仲は続いており、風くんは相変わらず愛らしい。風くんと手合わせしたりするけど、未だ勝てたことはないですはい。風くんも既に見つけた探し人に発見されて無いらしい。努力の賜物である。
 そして今日は2/14、男女問わず聖なる日のバレンタインデーだ。
 教室にて、少し仲の良い女子数人に挨拶を交わして席につく。そのままイヤホンを装着しつつ机に突っ伏して昼休み雲雀くんとこ行こうと睡眠を取った。


**

 いおりが寝たあとの教室にて。数人の女子がいおりの名前を数回呼び、聞こえてないと確認して教卓に立ち、告げる。



「伊達さんは完全に寝た! さあクラスメイトよ! ミステリアスで紳士的でいろいろ謎な伊達さんは誰にチョコレートを渡すのか予想するわよーー!」
「「「「おおおおおおおおお!」」」」



 いおりのクラス、B組がいおりを起こさないよう小さな声で怒鳴りをあげる。いおりはB組がおとなしいクラスだと認識しているがいおりがいるときだけ静かなだけで存外……と言うか学校一騒がしい、問題児の集まるクラスである。もちろん集まったのは偶然だが。



「雲雀さんと親密な関係っぽいからやっぱり雲雀さんにあげるんじゃないかな!?」
「あの風紀委員長と美術部兼空手部少女が! ってか!? 今度ネットのあの人に設定とかちょっと変えて教えてあげよー!」
「でも前に友達がさ、伊達さんが金髪イケメンの外国人と歩いてたの見たって言ってたんだけど!」
「なにそれ初耳! 伊達さんってやっぱり何者!?」



 きゃいきゃいとはしゃぐ女子に男子が割り込んで「いやいや、案外このクラスかもしれないぜ!」と笑う。



「ええー、他人に興味のない伊達さんがこのクラスの男子にー?」
「女子かもしれねーぜ?」
「百合!? っきゃー!」



 ギャーギャーと騒ぐB組の男女はもう性別を越えた仲の様な雰囲気を纏っていて、チョコレートが女子の方から男子の方から飛び交いない混ぜになりつつもみんなで交換し出す。
 すると一人の女子が「写真部の『写真販売館』、みんな知ってるよね?」とどこかから飛んできたチョコレートを食べながら言う。
 写真部の写真販売館とは、写真部が隠し撮りや許可撮りした人物の写真を販売する不定期写真販売店である。日程が不定期と言うことでこれを知っている人々はこぞって写真部に日にちを聞きに行き、そして噂として広まるアレだ。男女別で販売してあり、開催期間は各月一の様だ。
 これを知っているのは学校でもごくわずかなのだが、B組は全員情報を共有している。



「次の写真販売館さ、伊達さんのが出るって噂だよ! 他クラスの伊達秘密ファンクラブから情報が回ってきた!」
「なんだって隊長!?」
「隊長ホントに!? 伊達さんの写真!?」
「ちょ、私お小遣い使いきる!」



 クラスのみんながわっ、とその隊長と呼ばれる女子に駆け寄る。
 伊達秘密ファンクラブとは、ミステリアスな伊達や周りにあまり気付かれないように活動するファンクラブのことである。170cmとわりと高身長ないおりの顔は至って男寄りの普通の顔だが、原因はそのめんどくさがりかつ周りに興味のない性格だ。周りから見ると庇護欲が湧くらしい。そして時々見せる男前なシーン(代表的なのが体育大会で雲雀を持ち上げて走ったときのこと)にみんな惹かれるらしい。
 気付かないいおりもいおりだが気付かせないこのクラスもすごい。



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94:ぜんざい◆A.:2016/12/21(水) 19:30 ID:Lr2



 昼休み、ガタリと鞄を持って席を立ちながら教室を出た。いろいろと視線を感じるが鞄を持って立つのが珍しいに違いない。
 すたすたとそのまま廊下を突っ切りながら応接室の扉を五回ノックした。奥から「入っていいよ」と声が飛んできてがらりと扉を開いて中に入る。
 ノック五回、これはこっちが来たと知らせるためであり、こっちしか五回ノックしない。そのため雲雀くんは声を聞かなくてもこっちやと分かるわけだ。便利。
 後ろ手に扉をぴしゃんと閉めてソファに一直線、腰を下ろして溜め息を吐いた。



「なに? 伊達、疲れてるの?」
『……なんやちょっと、視線が多い気がしてな……』
「へえ」



 ソファにだらけつつ背もたれに体重を預けて雲雀くんに鞄から取り出したものを放り投げる。がさっ、と片手でキャッチした雲雀くんは相変わらずのむくれっつらでそれを見て、口角を上げる。



「へえ、チョコレート? 僕にかい?」
『……ん、日頃世話になっとる雲雀くんにな……市販のやけど』
「ふーん……」
『風紀委員、おつかれさん』
「……ん」



 そのままそこで弁当箱を広げれば雲雀くんは書類に目を通し始めた。雲雀くんは不意に「君、今年卒業させないからね」とこちらに告げた。突然の事で喉を通ろうとしていたものが変なところに入ってゲホゲホと蒸せる。若干涙目ながらも「は……?」と言えば雲雀くんは満足したように笑って「君は僕のお気に入りだからね」と卒業はさせない発言をした。つまり、こっちは雲雀くんが卒業すると言うまで卒業できないと言うわけですねはい。



『な、なんでやねん……そもそも高校、高校は……』
「そこら辺は安心しなよ、僕が口添えすれば高校は途中から転入可能さ、高校に通う年を越えても君が卒業出来なかったら高卒ってことにしてあげる」
『あっはい拒否権無いんやね』
「当たり前でしょ」



 まるで、何言ってるの? と言いたげな雲雀くんに溜め息しかでなかった。



**



『ただいま風くん……』
「おかえりなさいいおりさん」



 いつもより精気の無い目をして家に帰ると風くんに満面の笑みで出迎えられてちょっと悶えそうになった。



『風くんいつもありがとーな、晩御飯作ってくれて。チョコレート食える?』
「大丈夫ですよ、ありがとうございますいおりさん」
『ちょっと風くん腕に抱えてエエかな』



 困ったような天使の笑みの風くんを腕に抱えてずっと唸ってたこっちは端から見ればただの変人だと思われる。



.

95:ぜんざい◆A.:2016/12/23(金) 09:36 ID:Lr2


 春休み中、雲雀くんから花見の誘いをいただいた。私服で並盛中学の校門前で手ぶらでやって来た。私服? ナイキのジャージ、その下に黒い半袖シャツに短パンにニーソ、スニーカー、特別なことはなにもありません。すると雲雀くんがバイク乗ってきた。え、道路交通法違反じゃね? あれ? 違う? こっちが間違えとる? いやカッコいいんですがね?



「……なに、手ぶらで来たの」
『いや、特に作ることもないやろなーって』



 そう告げれば雲雀くんはムッ、としながら「早く乗って」とこっちに告げた。後ろに、ってことやろか。まあこっち今短パンやし大丈夫やろ。こっちは『ん、』と頷いて彼の後ろに跨がった。これさ、アニメとか漫画とかやったら横向きに座ったりしてるやんか、それ無理やわ、絶対落ちるやろ。え? こっち? 落ちるん嫌やから雲雀くんに抱き着く形でしがみついとるけどなにかおかしいところが?



「……」
『なあ、行かへんの』
「っ……分かってるよ」



 バイクが一回ドルンと大きな音を立てて走り出した。あ、ヤバい速いテンション上がるわヤバい。
 グッと雲雀くんに掴まる力を強めれば彼の肩が僅かに揺れる。もちろんこっちがそれなことに気が付くわけもなく『おー、はえー』なんて言っている。



『なぁ雲雀くん、君まだ中学生やろ、運転して大丈夫なん』
「大丈夫だよ」
『すげー(棒読み)』
「流石僕の町だよね」



 そんなこんなでとある公園に着きました。おおお、いい眺めだなー。



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96:ぜんざい◆A.:2016/12/23(金) 10:01 ID:Lr2



 案内されつつ奥へと進めば学ランの不良……風紀委員が三人組と言い合いしていた。雲雀くんはへぇとか言いながらそこら辺の木にもたれかかった。そして次の瞬間彼はその場に出ていって負けた風紀委員をトンファーで殴り倒した。
 そして次の瞬間には自校の保健医と以前見たリボーンくんがやって来た。そして花見の場所を巡って勝負するらしい。先に膝をついた方が負けというシンプルな決着の付け方、エエな、嫌いとちゃう。まあ真っ先に女好きの保健医はやられましたが。



**



 結果、三人目の沢田綱吉と対戦中、いきなり雲雀くんが膝をついた。どうやら保健医が殴られた時に蚊を放って雲雀くんにそういう病を撃ち込んだんだと。桜クラ病と言う、桜に囲まれたら立っていられないおかしな病らしい。



「約束は約束だ、せいぜい桜を楽しむがいいさ」



 結局こっちは影で見ていたから彼らに気付かれず、流石に悲しいので雲雀くんのあとを追うため影から出ていく。雲雀くん、それ負け惜しみにしか聞こえないよ。
 影から出てきて驚く三人組、沢田綱吉、獄寺隼人、山本武に、こっちの胸を見て鼻の下を伸ばす保健医、ドクターシャマル、そしてニヤリと笑う花咲爺のコスプレしたリボーンくん。



『……や、リボーンくん、久しぶりやな』
「おう、久しぶりだな伊達」
『沢田くんやっけ、久しぶりやな』
「あ、はい!」



 ねえねえ俺とあそばなーい? と鬱陶しく寄ってくるシャマルをガチスルー、空気と認識しながら放置する。
 獄寺と山本が沢田に「この女は誰っすか」と聞いていたので一応『伊達いおりや』と告げた。



「伊達はディーノの遠い親戚だゾ」
「っ! 跳ね馬の!?」
「ディーノさんの親戚なのなー」
『余計なこと言いな』



 そろそろ雲雀くんキレそうやから行くわ、とは言わずに『じゃ』と雲雀くんの行った方に駆け出した。



「あれ、伊達さんなんで走り出したんだろ」
「あっちって……ヒバリが行った方なのな?」
「伊達は雲雀と来てたんだぞ」
「「「えええええ!?」」」



.

97:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 00:05 ID:Lr2

ボカロ曲『東京テディベア』一部歌詞を使っています


 雲雀くんの強行のせいで二回目の三年生を繰り返すことになった哀れな女子中学生(年齢的には高校生)のいおりですはい。
 新学期が始まって沢田とか雲雀くんとかはドタバタな日々を送っているようですが基本的にモブ的位置に鎮座しているいおりさんは今日も今日とて平和に暮らしております。
 現在家にて風くんとぜんざいを食べ終わり、部屋に籠ってニヤニヤ動画の生放送を開始しようとしています。
 こっちがオタクということは学校ではバレておらず、風くん含む身内のみ。おもきしエンジョイ! 風くんも時々面白そうだからとちょくちょく乱入してきます。その時の風くんの名前はリーチらしいです、ペットの白猿のお名前ですねわかります。ちなみにこっちも風くんも顔出しNGや。

 今日はボカロの歌を歌うべく、開始早々「皆さん昨日ぶりですわー、挨拶したところで早速歌いまーす」と告げた。コメントを見れば「本当に早速ww」だの「キター!」「白玉のー!」「歌ってみたー!」だの。やんや、やんや、ブーラボー! 状態。



『そんじゃー『東京テディベア』歌ってみた』



 そう言えば「東京テディベア!」「キタコレ」「見れなかったやつドンマイ」と一斉にコメントが流れ出した。そこからリズムよく歌っていってサビに差し掛かる。この曲結構好きやねんなー……。



『全知全能の言葉をホラ聞かせてよ脳みそいが(ガチャ「白玉さん?」……リーチくん』



 突然ガチャリと扉が開いて部屋に入ってきたのは紛れもない風くん。コメント欄が「タwイwwミンwwwグ」「リーチちゃんキターーー」「ナイスタイミング」「88888888」「白玉の不服そうな声」「リーチたんかわ」とか再び一斉に流れ出す。
 歌うのは中止して「リーチくん膝おいでー」と座っているこっちの膝を叩けばヒョイと乗っかってくる、なんなんもうカワエエエエエエエエエ。



『こっからはリーチくんも乱入や、野郎共、かまへんなー』
「よろしくお願いします」



 コメント欄が「カワエエエエエエエエエ」等の類いで荒れたことは言うまでもない。



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98:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 13:49 ID:Lr2



 しばらく経って夏休み、本当に時間が過ぎるのは速いです。いや、マジで。もう夏休み最終日だよ、風くんはクーラーガンガンに効いた部屋でいつもの余り袖は傷にタンクトップ的inチャイナな服を着てソファで座ってテレビを見ています。いつもこっちが学校に行っとる時にこの子はどこにいってるか分からんけど、今日は流石に暑かったらしく、外には出ないようです。
 だが、今日は最終日かつ夏祭りのある日、風くんは「彼と出会っては大変ですから」と行かないので、『じゃあなんや買ってくるな』と言付けた。
 さて家を出るかと黒いタンクトップの上に半袖パーカーを羽織って短パンにスニーカーで肩掛け鞄を持って玄関を出るぞと言うところでスマホが着信を告げる。メールのようで覗いてみれば「雲雀恭弥」と表示されていた。内容は「夏祭りにショバ代取りに行くから君も来て」と言うものだった。なんやそれ面白そう。早速こっちは待ち合わせ場所に指定された並中校門前に足を動かした。

**


 雲雀くんや風紀委員の人等と共にやって来ました並盛神社。みんな手分けしてショバ代を取りに行くらしくなぜかこっちは雲雀くんと一緒になりました。
 風紀委員じゃ副委員長の草壁と仲がよくなにやら話をしたりする気の合う仲間である。
 雲雀はショバ代を取りつつこっちは屋台でたこ焼きやらお好み焼きやらを頬張りつつ奥へ進む。
 途中、小さな赤ちゃんが射的でとんでもない数の景品をゲットしとってすげーななんて思いながらあ、リボーンくんやと認識する。そして今更ながらに彼の胸元で光る黄色のおしゃぶりを発見した。あれ、風くんも色違いのんつけてたやんな……もしや風くんの探し人たちと見つかりたくない人とは……もしや(二回目)。
 フランクフルト片手に固まるこっちに痺れを切らした雲雀くんはトンファーをぶんまわしてきた。



「なにボーッとしてるの」
『っぶな、あっづ!』



 目の前に迫るトンファーを避けるべく身を引けばフランクフルトの温度が移ったケチャップがタンクトップのせいで大きく開いた鎖骨にべちゃりと大粒に落ちる。あついあついあついあついあついあつい! 直ぐ様ティッシュで拭き取れば雲雀くんは雲雀くんで唖然としていた。え、なに。



『え、なになに、まだどっか付いとん?』
「……いや、なんでもないよ」



 少し首を掲げつつ次に食べたかったものがチョコバナナなんですが雲雀くんもチョコバナナの屋台のショバ代を取りに行くらしいので同行することにした。
 そして雲雀くんはついて早々口を開く。



「5万」
「ヒバリさんーーーー!!?」



 あ、沢田や。他にも獄寺、山本が居た。なんや、屋台やっとんか。



「てめー何しに来やがった!」
「まさか」
「ショバ代って風紀委員にーーー!?」



 払えないなら屋台を潰す。と告げた雲雀くんを放り山本に「一本くれ」と告げる。たしかに、と言って5万を受け取って去っていく雲雀くんのあとを「そんじゃ」と沢田たちに言って追う。
 しばらくして並盛神社に行けば今噂の引ったくり犯に囲まれる沢田を発見した。え、なにこれ。



.

99:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 14:19 ID:Lr2



 率先して(笑顔で)駆けていく雲雀くんを見ながらりんご飴をガリガリかじる。あ、食い終わった。
 あれ、いつの間にか獄寺と山本が乱入してる。
 手持ち無沙汰に割り箸をいじっていると誰かが怒鳴る。



「コイツら本当に中坊か!?」
「見ろ! 境内に女が座ってんぞ!」
「ふはっ、巨乳かよ! メガネとかどんなオプションだっつーの!」
「アイツ人質にとっちまえ!」



 あれ、こっち? こっちに向かって駆けてくる男共に溜め息を吐いて立ち上がる。明らか一人オタク的発言したやつおったやんなオプションて、オプションて。そして武術なんてやってなさそうなこっちに男共は口角を上げ、雲雀くんたちの顔もあせる。えー、そんなに弱そうに見えるんこっち。心外やねんけど。
 こっちは駆けてくる男の一人の顔面向かって軽く飛び上がり、顔を足で挟んで後ろへ体を捻る。男は顔を引っ張られ身体を浮かし宙に浮く。こっちはそのまま顔を石畳に叩きつけた。ゴキャッ、ちゅーたから鼻の骨とか前歯とか折れたんちゃう?
 このままではこっちが頭を撃ってしまうので後ろ手に地面に手をついて丁度後ろにいた男の鳩尾に勢い付いた爪先を入れる。風くんと日々手合わせしてきたからこれくらいできひんと……なぁ(汗)? 殺されるっちゅーねん。

 その勢いのままくるりと一回転してスタッと地面に足をつける。タンクトップが腹まで捲れてしまっていたのでそれを整えながら唖然とする彼らを見た。



「……伊達、僕は君がそんなに強いなんて聞いてないよ」
『いや君と戦っても絶対負けるって分かっとるし、めんどいし』



 雲雀くんはふうんと背後に迫っていた男をトンファーで薙ぎ倒した。まさに鬼神やなコイツ。

 結局こっち等が勝利してリボーンに目をつけられる前に帰宅しました。



『風くん、たこ焼きとかりんご飴とか烏賊焼きとか買ってきたで』
「いい匂いですね! ありがとうございますいおりさん!」
『ん¨ん¨ん¨ん¨ん¨っ!』



.

100:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 17:12 ID:Lr2



 最近並中生が襲われる事件が多発している。この土日で並中の風紀委員8人が重傷で発見され、やられたやつは歯を抜かれているらしい。え、こわっ。
 今日は時間に余裕があったので風くんとゆったり朝御飯を食べながらそんな会話をした。



「物騒ですね……」
『ん……せやな』
「気を付けてくださいね」
『ん。今日からもうちょっと手合わせしよか』
「そうですね! そうしましょう!」



 朝から風くんは天使です。


**


 前方をリボーンと共に歩いていく沢田を発見。子供を連れていって良いのかとか思うけど気にしないことにした。



『おはよう沢田』
「っ!? だ、伊達さん!」
「おはようダゾ伊達」
『ん』



 やはり不良同士の喧嘩なのだろうか、こっちが思っていたことを沢田が口にした。そのとたん「違うよ」と声が掛かる。目の前に居たのは不機嫌そうな顔の雲雀くんが。



『おはよお雲雀くん』
「ちゃおッス」
「おはよう伊達。……今回のことは、身に覚えのないイタズラだよ……」



 雲雀くんは「もちろん、ふりかかる火の粉は元から絶つけどね」と身の毛がよだつ殺気を放ちながら言い切った。んー、物騒。
 不意にどこからか並盛中学の校歌が流れ出す。……雲雀くんのケータイの着うたでした。ホンマ君並中好きやな。一途っちゅーの?
 まあ、その連絡は沢田の知り合いのボクシング部主将がやられたと言うものだったが。沢田は血相変えて走っていきました。ばいばーい。



「僕はもう敵の尻尾を掴んだからね、咬み殺しにいく」
『アッハイいてら』



 今からトンファー振り回しながら機嫌よく歩いていった。元気がよろしくてけっこう!



**
ツナside


 今回の並中生が無差別に襲われている事件が俺が喧嘩を売られていることが判明した。歯が抜かれている数が順番だと言うところでリボーンが教えてくれた。歯でカウントダウンしてるとかなにそれ怖い。
 そこでリボーンがとあるランキングを取り出した。



「並中の喧嘩の強さランキング? え……これがどうかしたの?」
「おめーは鈍いな、襲われたメンツと順番がぴったり一致してんだ」
「えー!!? マジかよ! 本当だ! つーかこのランキングって」
「ああ。フゥ太のランキングだぞ」
「ええ!? あっ! 5位の草壁さんが襲われたってことは、次は四位の人が狙われるってことじゃん! 四位四位……!! 嘘だろ!?」



 獄寺くん!?



.

101:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 18:07 ID:Lr2



 翌日、結局雲雀くんはそのあと見掛けなかった。負けるなんてあり得ないと思うけど、万が一もあるかもしれん。



『……大丈夫やろか』


 そんなことを考えながら帰る帰路。


 Noside

 沢田たちが黒曜に突入に突入して、ツインズから笹川京子、三浦ハルを無事解放させ、沢田が敵方のバーズを殴ったあとの事だった。



「ふふふ……今回は特別にもう一人ゲストがいるのですよ……!」
「なっ」



 沢田たちに衝撃が走る。もう一人など心当たりがまったくない。流石のリボーンにも焦りの表情が伺えた。
 いったい誰なんだとみんながスクリーンを食い入る様に見つめる。パッ、とスクリーンに現れた人物に、全員が目を見開いた。



「なっ! 伊達さん!」
「……なんで伊達が、ディーノがキレるぞ」
「ほっほっほ! 彼女はどうやら雲雀恭弥の……いえ、これは野暮ですねェ。とりあえず、彼女も六道さんの指名でしてね」



 そこに映っていたのは呑気にふらふら歩くいおりの後ろに硫酸を持ちながら少しずつ近づいていくツインズそっくりの男だった。



「伊達先輩じゃねぇか!」
「きたねぇぞ!」



 リボーンもこれを予想しておらず、誰も助けにいかせていないのだと言う。あからさまにヤバい状況に沢田の顔に冷や汗が浮かんだ。

 だが。運悪くいおりは買い物の用事を思いだし、踵を返した。と言うよりなにかに気づいて振り向いた。
 そこには自分に硫酸をかけようとしている一人の大きな男が。



<っうおおおおおおぅ!?>



 女子とは思えない雄叫びをあげたいおりはそのあと、殴って、蹴って、突いて、足で薙いだ。そしてズドンと鳩尾に思いきり拳を突き入れる。吹き飛んで気を失った男に『やっべ、やってもた』といおりは相変わらずハイライトの無い死んだ目のまま口はそう言い足は男を転がす。



「足で転がしたーーーー!?」
「か、彼はツインズより凶悪なのに……!?」
「あっ! 伊達さんは並中強さランキング第2位だったーー!」



 いおりは男の持っていた硫酸の入った瓶を見て『物騒やな』と瓶を踏み潰した。
 そのあと制服を見て、風紀委員の言うとった黒曜生……やっぱ黒曜ヘルシーセンターか。と呟いて早足に家へと向かったことは、誰も知らない。



.

102:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 18:39 ID:Lr2



 こっちはディーノくん……いや、前々から兄貴って呼べとか言われてたから兄貴でいっか。兄貴にもらったセグウェイをかっ飛ばして黒曜ヘルシーセンターへやって来た。風くんに「怪我しないでくださいね!? 無茶は禁物ですよ! 絶対ですよ!」とめちゃくちゃ心配されながら来た。
 いやぁビビったビビった、夏休みもセグウェイ乗り回してたけど、エンジン着いとるとは。通りで重いわけだ。ちなみに時速30キロで飛ばしてきた。流石に60キロも70キロも飛ばしたらヘルメットいるやん? 30キロもたいして変わらんようにメットつけなあかん気ぃするけど。兄貴特有の手の入れ方である。
 背中に棍棒がちゃんと有ることを確認してセグウェイを見つからない、そして壊されないところへ隠すように置き、ぼろぼろの黒曜センターへと駆け出した。

 黒曜センターに足を踏み入れ、爆発音が鼓膜を震わせる。やはり誰かが戦っていたか。爆発音のするところへ向かった。
 見えた光景は壁に寄り掛かる獄寺が壁から出てきた手に心臓部を突かれているもの。……めんどくさっ、来んかったらよかった。
 とりあえずそれはヤバいだろうと白い帽子を被る眼鏡のバーコード少年の頭を棍で叩き付け、獄寺スレスレに手を突き刺している男の顔を思いっきり突く。



「っぐ」
「ぎゃっ!?」
「うおお!?」



 驚いて倒れかける獄寺をガシッと支えて『大丈夫か』と声をかければ、「伊達かよ……」と傷口を押さえながら息もたえだえにこっちを見た。



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103:ぜんざい◆A.:2016/12/24(土) 19:12 ID:Lr2



「ってえ! なんだこの女!」
「……援軍みたいだね」



 相手の黒曜生二人が棒を構えるこっちを睨む。獄寺は後ろのカーテンに持たれ、階段で足を滑らせて落ちてった。え、ちょま。



『うおっ』
「ぐっ」



 獄寺を支えていたこっちも巻き込まれて落下する。相手が「ぶっざまー」とか言ってるけど知らん。『大丈夫か獄寺くん』と獄寺に声を掛けてみるも返事はない。体が動かん見たいや。えー、これ二人もこっち相手すんの? えー。
 どこからともなくやって来た黄色い小鳥が「ヤラレタヤラレタ」と蔑笑する。そして校歌を歌い出した。これにはこっちもびっくりして鳥を振り返った。その奥にはもう一部屋ありそうで、誰か居そうで。気づいたときには獄寺がそこへボムを投げていた。待ってボム? ボム? 法律違反じゃね? あ、マフィアでした(遠い目)
 ガラガラと崩れた壁の奥から出てきたのは、雲雀くん。……雲雀くん、つかまっとったんか……。



「元気そうじゃねーか」
「ヒャハハハ! もしかしてそこの死に損ないが助っ人かー!?」



 雲雀くんはヨロ、としながら立ち上がり、「自分で出れたけど、まあいいや」と呟き、こっちを見て目を見開き、微かに微笑む。なんで微笑んだん、微笑むとこちゃうここ。



「……じゃあ、そこのザコ二匹はいただくよ」
「好きにしやがれ」



 すると相手が「死に損ないがなにいってんの?」といきなり身形を変えた。ライオンチャンネル! とか怒鳴っておりますが厨二ですかそうなんですねわかります。いや、やっぱ分からん。
 そしてその男子をトンファーで瞬殺した雲雀くんすごい。そのあと直ぐに白い帽子の彼を薙ぎ倒した。やぱすご。



「……う」
『重っ』



 その後ふらふらと此方に寄ってきてこっちの背中にばたりと倒れた。「背負って」え、何? 背負って? しゃーないな。背負ってあげるよしゃーないな!



『よっ』



 雲雀くんを背負って獄寺を脇に抱えて歩き出す。うん、重い。つか雲雀くんの腕の巻き付く力が強すぎて首絞まる絞まる。死ぬ死ぬ。



『ひ、雲雀くん絞まっとる絞まっとる首首』
「……」



 無視かばかやろー!



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104:ぜんざい◆A.:2016/12/25(日) 10:53 ID:Lr2



 雲雀くんに言われるがまま奥に進めば大量の毒蛇に絡まれる沢田が「ひいい! やめて! 助けて!」と喚いていた。雲雀くんはそれに同情するでもなくこっちの肩から身を乗り出してトンファーをぶん投げた。うおお、ば、バランスが……!
 直後脇に抱えている獄寺が「伏せてください10代目!」と怒鳴って爆発物をぶん投げた。だから! バランスが! 崩れる!



「ヒバリさん! 獄寺くん! ……え、伊達さん!?」



 沢田が雲雀くんをおぶり獄寺を脇に抱えて平然としているこっちを見て「どうなってんのおおお!?」と驚愕の声をあげる。そして沢田は途端に泣きそうになり「さ、三人とも……!」と呟いた。なぜか居るリボーンをちらりと見れば少し驚いているようだったが「俺はツナだけを育ててる訳じゃねーんだぞ」とドヤ顔した。待て、お前に育てられた覚えはない。風くんにはある。
 雲雀くんはこっちから飛び降りて脇に抱えている獄寺を後ろから蹴り飛ばした。「いてっ」て獄寺くんが声をあげた。え、え。



「……借りは返したよ」
『……(……雲雀くん酷い)』



 なんとも言えない顔をして獄寺を見ていたからか、目は口ほどにものを言うと言うからか「うるさい」と一蹴されてしまった。ん、ごめんなさい。



「これはこれは、外野がぞろぞろと。千種は何をして居るんですかね」
「へへ。メガネヤローならアニマルヤローと下の階で仲良く伸びてるぜ」



 突き飛ばされた獄寺くんが得意気に言った。いやいやそれやったん雲雀くんやで。



**


 まあそのあとなんやかんやあって雲雀くんが敵、六道骸と戦って勝ったかと思えば六道が自殺して、自殺したかと思えば生き返ってみんなを襲ってキレた沢田くんが六道骸を殴り飛ばして、勝って、六道骸たちが復讐者なるものに連れていかれて、医療班来て、解決。その一部始終を傍観していました伊達です。医療班には『あ、こっちは大丈夫なんで』と断った。セグウェイほったらかしにはできへんやろ。



『ただいまー』
「おかえりなさいいおりさん! !? ボロボロじゃないですか!」
『大丈夫、服だけや』
「……まったく、何をして来たのやら」



 とりあえず風くんに『リボーンが、』とだけ発してみれば笑いたくなるぐらい肩を跳ねさせた。あ、やっぱり。



「ど、どこでそれを?」
『今日の戦いで、味方として居ったよ。まあ、夏祭りの時とか、去年ぐらいに一回交流があっただけや』
「ば、バラさないでくださいね……!」
『ん。風くんがそういうんやったら。いやあ、風くんに見つかりたくなくて尚且つ探し終えた人がリボーンやったとは』
「……すみません」
『怒ってへんよおおおお!』



 がばっと抱き上げれば「わっ、わっ」と照れた声が耳元から聞こえてくる。



『ん¨ん¨ん¨ん¨ん¨っ! 風くんかわえぇぇぇ……』
「……(照汗)」



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105:ぜんざい◆A.:2016/12/25(日) 11:31 ID:Lr2



 それからしばらく。昨日の日曜日の商店街の爆発事故、原因不明とか怖すぎる。とりあえず今日は学校があるので朝刊を取りにポストを覗くと……手紙と共になんかゴツい変な形した半分の指輪が入ってました。……なにこれ。あわてて家に戻って風くんに指輪を見せる。



『……風くん、これなんやと思う?』
「……これは」



 真剣な顔して指輪を見つめた風くんは「……ボンゴレリング、ですね」と呟いた。手紙を見てみれば確かにこれはボンゴレリングと書いており、『夕焼のリング』と言うらしい。……夕焼ってあれ? 夕方の赤い空?
 手紙には『10日後にこれを取り合う戦いをするから鍛練しといてほしい』と書かれている。え、なにこれ勝手。でも風くん知ってるっぽいし、聞いてみるか。



『風くん、ボンゴレリングってなに?』
「……ボンゴレリングとは、イタリアンマフィア、ボンゴレファミリーに伝わる伝統的な証です。初代ボンゴレファミリーの中核だった七人がボンゴレファミリーである証として後世に残したもの。そしてファミリーは代々必ず八人の中心メンバーが八つのリングを受け継ぐ掟なのです。……後継者の証ですね」
『え』
「初代ボンゴレメンバーは個性豊かなメンバーで、その特徴がリングにも刻まれています。
初代ボスは全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空だったと言われている、故にボスとなる人物のリングは『大空のリング』
そして守護者となる部下たちは大空を染め上げる天候になぞらえられました。雨のリング、嵐のリング、雲のリング、霧のリング、晴のリング、雷のリング……そして、夕焼のリング」
『……もしかしなくても、それの一人に選ばれてもーたかもしれん系?』
「……そうですね」
『……非現実的や……』



 まあ、任されたからにはやらんとな。



『風くん、指導頼むわ』
「はい。怪我をしないよう力をつけていただきますからね」
『ん』



 いやあ。リングがいわくつきとか相手と殺し合いするかもとか書いてある手紙は燃やしちゃえ!
 ライターで手紙を燃やしながらこっちはまず学校に行くべく、棍を持って『いてきまーす』とおどけて告げる。風くんは笑って「いってらっしゃい」と送り出してくれた。本当に赤ちゃんなのかあいつは。
 久々に持っていく棍にテンションが上がりつつ風くんの包容力に負けそうになった今日の朝でした。



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106:ぜんざい◆A.:2016/12/25(日) 11:51 ID:Lr2



 学校にて。雲雀くんに呼ばれて応接室でお茶飲みながらカップのアイス食べてたら雲雀くんが日誌見ながらこっちの指輪にそっくりなものを指先でいじり出した。



『……雲雀くんもそれ貰ったんやな』
「そう。伊達、君もかい」
『ん』



 食べ終わったアイスのカップをゴミ箱に放り投げ、冷えた口に茶を流し込む。そこでいきなり応接室の扉が開いた。入ってきたのは部下のロマーリオさんを連れた兄貴でした。よぉーし、無視無視ー。



「お前が雲雀恭弥……だ、な……?」
「……誰……」
「いやわりいちょっと待ってくれなんでいおりがここに居るんだ」



 ディーノから全力で顔を背けながら俄関せずと言ったように茶をすする。
 もおおお、無視してたのになんで声掛けるかなもおおお! 雲雀くん待たされるのめっちゃ嫌なんだよほら超不機嫌顔じゃんもおおおおおおお!



「なに、伊達の知り合いなの」
『……や、まったく知らん人や』
「……へえ。向こうはそうでもないみたいだけど」
『(消えろクソ兄貴)』



 苛々しながら片足だけ貧乏揺すりをし出す。ディーノくんは涙目になりながら意図を察し口を開く。後ろのロマーリオさんが苦笑いしてますが大丈夫ですか。



「俺はツナの兄貴分でリボーンの知人、でもってそこの伊達いおりの親戚だ」
『おい余計なこと言わんでエエッちゅーの。へなちょこディーノ。クソ兄貴。ヘタレ』
「……ひでえ。まあ、今日ここに来たのは、雲の刻印のついた指輪の話がしたい」
「……ふーん、赤ん坊の。で、伊達の親戚か。伊達は後でなんで嘘ついたのか咬み殺すからね。
なら強いんでしょ、……ヘタレさん?」
「っ!?」
「僕は指輪の話なんてどーでもいいよ。あなたを咬み殺せれば……」



 ディーノくんは甚大な精神への攻撃を受けてしょぼくれながらも「なるほど問題児か」とにやりと笑う。



「いいだろう、その方が話が早い」



 その言葉と共に両者エモノを構えた。こっちはそそくさと家に帰って風くんと修業した。



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107:ぜんざい◆A.:2016/12/25(日) 15:48 ID:Lr2


 そして数日、最近雲雀くんと兄貴見ーひんなー、なんて思い今日学校行ったらいたので何してたんだろうとか思いながら家で寛いでたら、なんかいきなり家にピンクの髪をした覆面の女の人が二人来て「今日は夕焼のリング戦です。今晩11時に並盛中学中庭にお越しください」と告げられた。もちろんこっちはそれを断るでもなく『うぇっす』と敬礼で返した。なんか変なものを見る目で見られた気が……。
 奥に隠れていた風くんが曲がり角からひょこりと顔を覗かせ、「行きましたか?」と聞いてきた。



『おん、行った』
「ふう」



 今の時期本当に会いたくないらしく彼はマフィア間と関わることを頑なに拒む。まあそれも理由が有るからなんだろうけどさ。



『……一時間前に言いに来んでもええやん……』
「開始まであと一時間ですね……」
『ちょっと着替えてくるな。……風くんは見に来るん?』
「……そうですね、見つからないように、遠目から」
『見てくれるだけ有難いわ』



 ちなみに言うと、こっちは雲雀くん以外の守護者を知らない。風くんも知らないから知ってないのは当然である。
 玄関を出て、セグウェイに乗りながら玄関で見送ってくれる風くんに告げた。


『いってきます』
「……いってらっしゃいです」



 こっちは肩に棍の入った袋を引っ提げ、セグウェイのエンジンをつけて動き出した。


**


 一方、既に学校で待機していた沢田綱吉たちが夕焼の守護者に対して口々に言葉を垂れていた。



「リボーン! 夕焼の守護者、なんやかんやでまだ教えてもらって無いんだけど!!」
「まあ待て。驚きそうな奴が来るぞ」
「だから誰なんだよおおおお!」



 頭を抱える沢田を気にしつつ獄寺は「夕焼の奴に家庭教師はついてるんですか?」とリボーンに問うた。リボーンは若干眉をしかめる。相変わらず相棒である鷹のファルコに掴んでもらって浮いている青色のおしゃぶりを持つアルコバレーノ、コロネロは「俺も夕焼の守護者の家庭教師は知らねぇぞ、コラ」と口を開いた。コロネロはどうやら夕焼の守護者を知っているようである。
 リボーンは珍しく難しい顔をしながら「家庭教師は付けられてねぇ」と呟く。それには山本や笹川ですら目を見開き、沢田が叫ぶ。



「家庭教師が付けられてねぇってどういうことだよ!?」
「……単純に人手不足だ。それに、ソイツに教えられるだけの実力を持ったやつを見つけられなかったんだ。こればっかりはしゃーねえ、文句は家光に言え。アイツでもいりゃ安心だったんだがな」
「んなーーーー!?」



 沢田はリボーンの最後の言葉を聞き取る余裕はなく再び頭を抱えた。それを宥める山本、獄寺。笹川は極限に意味がわからんぞー! と叫んでいる。
 この時リボーンの脳裏に浮かんでいたのは出会ってから揉め事をしたことのない気の合う赤色のおしゃぶりを守護するアルコバレーノ、風の姿だった。コロネロも彼がこの場に居ないことを惜しむ。風は無敵の格闘家だ、大きな大会でも連続優勝している。この場にいれば大変頼りになったであろう。

 その時、校門の方からゴーと言う地面をなにかで滑る音が聞こえてきた。そして校門から顔を覗かせたのは。



『……あれ、沢田くんやん』



 相変わらず死んだ魚の様な目に眼鏡を掛ける無表情な伊達いおりだった。



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108:ぜんざい◆A.:2016/12/25(日) 23:15 ID:Lr2

「伊達さん!? ま、まさかヒバリさんに言われて巡回とかーー!?」
『え、え』
「あの女、ヒバリと一緒にいることが多いからきっとそうっすよ!」
「待てってツナ、獄寺。決めつけはあんま良くないのな」

怯える沢田、威嚇してくる獄寺をまあまあと穏やかに宥める山本。現在進行形で笹川は「極限に伊達だなーーー!」とか叫んでるけど知らない見えない聞こえない。こちらの喧しさに相手の黒ずくめの方々も若干引いているような雰囲気をかもし出している。違うこっちはまだなにもしとらん。呆れるようにリボーンを見やればそのとなりに鷹につかんでもらって浮いてるバンダナの赤ん坊発見。おしゃぶりは水色である。え、誰。

『リボーン、これはどない言うことなん、なんで沢田らが居るん』
「そこのダメツナが大空のリング所持者だからだ」
『エッマジデ』

戸惑いぎみにこっちはきょどる沢田綱吉を見つめる。学校では噂のみ聞いていたのだが、勉強もダメ運動もダメ何をしてもダメダメを貫き通してついたあだ名が【ダメツナ】の沢田綱吉。ちょっとした有名人だが、こっちはあまり興味が無かったから度々会う程度で学校では見たことなかってんけど。まあ彼の家の前で会ったり花見の時に会ったりしてますが。そんな冴えない彼が大空のリングを所持する将来ボンゴレファミリー10代目ボスだとは……やはり風くん同様人は見かけによらないな。風くんあんな幼いのに超強い。沢田はこちらを見て「もしかして、夕焼の守護者って」と勘づき始める。それをリボーンがにやりと笑って遮った。

「コイツが夕焼のリングの守護者、伊達いおりだ」
「えええーーーー!?」

小声で沢田が「伊達さん巻き込んだなんて、ヒバリさんに咬み殺される」と呟いたのは当然こっちには聞こえず、リボーンに誰がどのリングの守護者か教えてもらう。沢田の自称右腕を名乗る獄寺隼人が『嵐の守護者』。沢田の親友で野球少年な山本武が『雨の守護者』。学校のマドンナ、笹川京子の兄でありボクシング部主将の笹川了平が『晴の守護者』。雲雀恭弥は言わずもがな『雲の守護者』。そして五歳児でリボーン曰くうざくてバカな子供のランボと言う子が『雷の守護者』。うざくてバカとかはよく知らない。最後にあの黒曜での事件の主犯、六道骸が『霧の守護者』。彼捕まったんじゃ無かったっけ。そう問えば代理で女の子、クローム髑髏と言う子が存在するらしい。
残る争奪戦は今日の夕焼と雲、そして大空だけだと言う。マジかもう終わってんのか見たかった。

「そろそろ時間ですね」

チェルベッロ機関を名乗る…そう、家に知らせに来てくれた方々がそう呟いた。彼女たちは今回審判らしく公平にジャッジするとのこと。そして争奪戦ごとにその守護者にあったステージを用意してくれるらしくその説明へと入った。

「今回は夕焼のリング争奪戦、ファミリーを叱咤し時にはピンチに切り札となる赤色、と言う使命になぞらえて地面と柵が百度の熱を持つ灼熱のステージとなっています。相手を戦闘不能にする、リングから叩き出す、降参させるかすれば勝利となります」

どうぞ、と言われ、それぞれの方向の扉が開いたので背中の袋から棍棒を取り出し、袋をリボーンに預けてセグウェイのままそのリングにあがる。すると直ぐ様「お待ちください」とチェルベッロ機関の女性に止められた。

「セグウェイに乗車ですか?」
『あかんの?』

ふむ、困ったな。このセグウェイ、どうやら兄貴の特注らしく1000度の熱にも耐え、刃物も弾き飛ばすと言うから大丈夫だと思ったんですが。

「壊れる可能性もあります、良いですか?」
『大丈夫、使わして』
「……承諾しましょう」

うぃーんとか鳴るセグウェイに乗ったまま相手と対面した。相手の女の子はどうやら俗に言うミーハーでよく相手はコイツを守護者にしたなって感じの子だ。まあ選ばれる位だし強いんだろ。男には笑いを振り巻き此方はぎりと親の仇の様に睨まれる。美少女に睨まれるとなかなか心に来るものがありますな。

「それでは。伊達いおりVSリアス・セキセスの勝負を開始します。始め!」

109:ぜんざい◆A.:2016/12/26(月) 13:02 ID:hYw

開始の合図と共に相手の女の子が興奮した顔で「あはっ!」と大笑いしながらレイピア構えて走ってきた。

「私と当たったからには生きて帰れないわよ!」

セグウェイを動かしてぐるんと避ける。ちょ、彼女のブーツのそこがじゅうじゅうと音を立てておりますが大丈夫でしょうか。さわったら絶対火傷する嫌やー。痛いの嫌やー。死んだ目をしつつ避け際に棍を横に持つ。案の定前に進むと彼女の腹にダメージを追わせた。

「ぐっ」
『……(効いた、やと?)』

言っちゃなんだが拍子抜けする弱さだ。よく独立暗殺部隊幹部として動けたもんだ。そこから棍で彼女の横腹を突けばレイピアを納める鞘で防がれた。そしてそのまま勢いよくレイピアを放ってきた。え、ちょ、これはしゃがむべき? いや違う。

『っらあ!』

セグウェイに乗りつつ背後に回り背中から掌抵を喰らわせる。

「いやあ!」

その衝撃で彼女は地面に手をつく。じゅうううと焼ける音共に彼女の手から焦げた匂いと煙が立ち上る。だが、彼女は再び立ち上がり、こちらに鋭い蹴りを入れた。

『ってぇ』
「よくも、よくも私の体に醜い火傷を!」
『え』

そのまま凄い速さで突かれるレイピアを捌いては避ける。だが、たったひとつ読み違えて腹を右側寄りにレイピアが貫通する。リングの外から「伊達さん!」と沢田の叫び声がした。黙れ。

『っ』
「あは、あはは!!」

狂ったように笑う彼女にこちらは歯を食い縛り、棍で彼女を突き飛ばした。たたらを踏んで尻餅をつく彼女から再び煙が上がる。此方は刺されたところが熱を持って痛い。

「痛いわよね? あはっ! どお? 刺された痛みは!」
『ホンマ頭イタイ子やな』
「は!?」

激昴した彼女は此方に向かってきた。完全に彼女は周りが見えなくなっている。どこでそうなったかは知らないが、君の好きなイケメンたちが君が引いてるのを気付けば良いのに。ちょうど背後は柵、彼女はびゅんと言わせつつレイピアを振っている。見つけた、傷を塞ぐ方法。

『来いよキチガイ』
「ふざけんじゃないわ!誰が! 誰がキチガイよ!」

ニヤ、と笑って嘲笑してやれば簡単にノってくる彼女。外からの制止も聞こえていない。味方の外野が「伊達さんなに挑発してんの!?」と言う絶叫が響くも知らんわそんなん。平平凡凡に暮らしたかったこっちの日常を訳わからん連中に壊されて意外と気が立ってるんだ。期待を裏切らず迫る彼女は高速でその細長いレイピアを振り回す。それを寸でのところで避け、彼女はそのまま後ろの柵をズパっと刻んだ。小さくなって飛んでいく柵の一つをハンカチで受け止め、そのままシャツを捲って患部に押し当てた。

『…!』
「な、なにしてんの伊達さん!」
「!?」
「伊達先輩!?」
「極限になにを!」

なにって、止血やけど。横に細長い火傷痕にならぬようぐりぐりと柵だった棒を動かす。そう、こっちはソレのせいで気付かなかった。迫る足に。

『っだ!』
「あっはははっ!」

右から蹴りを喰らい、バランスを崩して地面に倒れる。その際セグウェイが勢い付けて跳ね飛ぶ。左腕の皮膚を焼く痛みに、歯を食い縛って起き上がろうとすればガッとその左腕を踏みつけられた。途端皮膚を焼く音が大きくなる。

「私に無礼な口を聞くから左腕が使い物にならなくなるのよ!」
『それはどうやろ』
「はあ?」

まだ気付かないのか。まだ、ソレが地面に落ちていないのを。にや、と笑って踏まれてる左腕を軸に足を持ち上げ彼女の腹を蹴り飛ばす。

「いった!」

ぼきっと音がしたから肋の一つや二つ折れてるんじゃね? 飛ばされて柵に衝突した彼女はキレて睨み付けてきた。だが、残念でした。

『わり』

起き上がったこっちは棍を槍投げのように投摘して彼女の腹にぶつかる。カランと落ちる棍。腹を抑える彼女。もうすぐ、終わる。

『チェックメイト』

そう呟いたとき、彼女の上にソレが落ちた。

110:ぜんざい◆A.:2016/12/26(月) 23:02 ID:hYw



 落ちてきたのはそう、セグウェイである。見事彼女の頭に落下して彼女は戦闘不能になりました。



「そこまで! 夕焼のリング戦勝者、伊達いおり!」
『っしゃー』



 酷い火傷を負った左腕を右手で庇いながらセグウェイに乗り、リングを降りる。渡された指輪は夕焼けを象っており、ゴツかった。



『……勝ったー』



 リボーンに指輪を投げ渡せば「よくやったな」と返ってきた。いやいやそれほどでもないぜよー。



『……痛い』



 腹の傷も痛いし塞いだ火傷も痛いし左腕の火傷も痛い。もう左腕の火傷は消えないんじゃないかってぐらい酷い。これからは包帯巻かないとダメなやつ? 「毒手やー」とかいわなあかんやつ?



「伊達、シャマルに手当てを頼んだぞ」
『あっ別にええ。家帰ってやるから』



 リボーンの気遣いを見事にぶち壊し、セグウェイに乗って家へと帰宅しようとする。隠れて影から見ていたと思われる雲雀くんも見えたので手を振っておいた。みんな雲雀くんに気付いてないんじゃね?
 ふと思い出し、チェルベッロ機関に声を掛ける。



『ちょお、チェルベッロのお姉さん』
「? なんでしょう」
『もうこのあとこのリング戦に呼び出さんといてな』
「っ……それは」
『やないとこっちリング叩き潰すから』
「!? わ、分かりました」



 よしよし。と満足げに頷き今度こそ家に帰る。これでもう、このあとにもしも『もう一回』があればこちらはリングを潰すから彼女たちは手が出せないだろう。
 学校はしばらく休もう、腕のことで休養を取りたい。家に帰ったら風くんで癒されよう。



**



『……ただいまー』
「いおりさんっ!」



 家に帰って玄関を閉めたと同時に風くんが物理的に飛んできて頭をぺちっと叩かれた。え、何事何事。
 え、と風くんを右腕で受け止めて抱えるとそのままポカポカと胸の辺りを叩かれた。いやっちょ、君力強いからドスドスいってるんですが。痛い。

 彼の大きな目を覗き込めば「あなたはバカですか!」と叱咤された。ごめん可愛いからそんな怖くない。



「あれほど怪我をするなと言ったでしょう! なのにあなたは……! 刺し傷はまだ仕方ないです……けど! 火傷で傷を塞いだり左腕を地面につけて火傷して蹴り飛ばすなど!」



 前言撤回、やっぱりとても威圧感があって怖いです風くん。恐怖から風くんを力一杯抱き締めると怒声が止んだ。「だ、大丈夫ですか!?」と心配そうに聞こえてくるその声に頬を緩める。



『……風くん、癒して』
「その前に手当てしましょうね」



 風くんは結局癒してくれなかった。冷たい。



.

111:ぜんざい◆A.:2016/12/28(水) 01:14 ID:hYw



 それからしばらくの間腹と左腕に包帯をぐるぐる巻きにしました。んんー! エクスタシー! なんて言わない。毒手なんて言わない。包帯はあまり見られたくないなあとしみじみ思っています。だって厨二ゲフンゲフン。なので左腕の包帯を隠すため、とうらぶ切国さんをリスペクトしてぼろ布を被ることにしました。これなら顔も見られなくて便利。風くんには家にいる間は羽織るだけにしなさいと注意されました。はーい。
 数日の間に再びチェルベッロ機関の女性が来て「大空の指輪戦をやるので出場願います」と言われた。が、忘れたとは言わせない。此方は指輪を地面に置き、奥から大振りのハンマーを取り出して振り下ろす準備をする。



『……これでも、やるん』



 布の間から視線を飛ばせば顔を青くしながら「い、いえ」と去っていかれました。ウィナー、こっち! 奥から風くんが可哀想なものを見る目で見ていたが知らん。
 そして今夜は久々のニヤ動だ。今までこっちは顔出しNGだったけど今はボロ布被ってるからね、姿を映してやりましょう。



『っちゅーわけで、顔は隠れてるけどこっちがホンマに女か判明すんでー』


<ひゃーはー!>
<男性を望むわよ!>
<女子中学生だっけ?>
<声が男性だからそんな風には思えなかったが>



『その真意は今からや。どーん』



<む、胸がある!>
<ボロ布被ってるけど大きいとわかる!>
<めろん!>
<お前みたいな中学生がいてたまるかww>
<メガネだと若干分かる!>
<女の子だった!>
<おや? 左腕に包帯が巻かれているぞ?>
<んんー?>



『エクスタシー! ってちゃうわ、ただの大きな火傷や、気にせんといてな。ちなみに胸に関してなんや言うとったやつ、前に出てこい、潰したるから跪け』



<こわっ!>
<何ヲ潰スノォ……>
<出た女傑!>
<出た女帝!>
<騎士さま!>
<白玉さま!>
<そこに痺れるぅ!>
<憧れなぁい!>



『憧れへんのかい……そろそろ時間やな、ほなまた見たってな』



<ばいちゃ!>
<恒例になりつつある『<そこに痺れる><憧れない>「憧れへんのかい」』ww>
<今度は最初から!>



 生放送後、明日の準備をする。なぜなんて答えは聞かない。だって明日から学校だから。長い間休んでたな……腹はまだ痛むけどそこまでじゃないし、大丈夫だろう。久々に家を出るか。



『じゃあ風くん、こっち明日から学校やから』
「はい、わかりました。……いおりさん、学校にもボロ布を被っていくのですか?」
『ん。流石に包帯巻いとるとこ見せられへん。多分これからもずっと被る』
「……気に入ったのですね」
『ん』



 ちょっと不機嫌そうにぶすくれる風くんを抱き上げて『……風くんは、かわええままやな』とそのまま抱えてリビングへとご飯を食べに向かった。その間風くんが腕のなかで抱えられてご満悦気味だった笑顔は可愛かった。



.

112:ぜんざい◆A.:2016/12/28(水) 14:11 ID:hYw

 学校に登校すれば朝一番に応接室に呼び出された。あ、怒ってますね分かります。雲雀くん激おこプンプン丸ですねいやキレてるなこれは。


『……おはよう』
「伊達」


 応接室の扉をノックして勝手に開ければ椅子に座ってこちらを睨み付けてくる雲雀くん。見ての通りご立腹でした。


「伊達」
『……おん』
「火傷を二ヶ所刺傷一ヶ所、どういう考えなの」
『……傷を塞ぐために、一ヶ所火傷した。左腕の火傷は、普通にやられてもた』
「頭から被ってるそのボロ布は?」
『……見られたくないねん、察してや』
「うるさい」


 むっすー、と頬を膨らませる雲雀くんに苦笑いしながらいつものようにソファに腰掛けた。布が顔の上半分をフードのように隠してしまっているからよく見えないがきっと不機嫌な顔をしてるだろう。
 そう思いながら鞄を置いて寛ぐと、雲雀くんがわざわざ隣に腰を降ろした。え、向こう向こう。もいっこあるやん。


「伊達。これから僕と二人の時は被るのやめて、鬱陶しいから。羽織るのはいいけど」
『……しゃーない』


 こっちの指差す抗議は無視かい。
溜め息を吐いてぱさっとフード状態になっていたそれをやめる。そして顔を晒せば隣で満足そうに笑む雲雀くんに悶えそう、可愛すぐる。だがしかし。可愛いが少し不満だ、被っちゃ駄目とか。内心むくれていると雲雀くんがいつもの顔に戻って口を開く。


「そうだ……沢田綱吉と、その群れ」
『……どないしたん』
「今行方不明になってるんだ。笹川京子やその他勢も含めてね」
『……へえ』


 本当にそうなんだと言う意識ぐらいしかないが。雲雀くんはそれすらも満足そうに、凶悪に微笑み「その人物がボンゴレに関係する奴ばかりなのさ」と呟いた。咄嗟に右の中指で存在をこれでもかと主張するボンゴレリングに視線を移す。
 雲雀くんはそろそろ僕らもかなと言葉を出した瞬間こっちは血の気が引いたようだった。そんなトンデモ超次元バトルに巻き込まれたらこっちはひとたまりもない。


『えー……嫌や、めんどい……』
「僕も嫌に決まってるでしょ」


 むすっと再びむくれた彼はそう悪態をついたあと、嫌そうに顔を歪めた。


「……僕、最近指輪の炎がどうとかって、連日跳ね馬が学校に不法侵入してきてるんだけど」
『……兄貴が?』
「親戚なんじゃないの? どうにかして」


 そう雲雀くんがぼやく。こっちはそれに首を振るしか出来なかった。やってめんどくさい。くあ、と欠伸をかます雲雀は大きなニャンコの様だ。また風紀委員の仕事を貫徹でもしたのだろうか。まったく、日本人働きすぎ。働きすぎ反対やー。


「……寝る」
『え』



 そのまま雲雀くんは横に倒れてこっちの太ももを枕に寝てしまった。髪が当たってくすぐったい。何こいつめっちゃかわええ。というか今日の雲雀くんはちょっとおかしい。相当疲れているのだろうかいやそうに違いない。
 そのまま一時間こっちは雲雀くんの頭をももに乗っけたまま漫画読んでました。雲雀くんが起きたときにボッシュートされました。悲しみ。



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113:ぜんざい◆A.:2016/12/30(金) 10:05 ID:hYw



「漫画は、不要物だよね」
『……うぃっす』



 結局取り返せなかったこっちはわざわざ応接室で正座してます。雲雀君はソファに座って動いてません、こっちが雲雀くんの前で床に正座してるだけです。これなんてイジメ?



「なんで読んでたの」
『暇やったんや……』
「ばか」



 唐突にばか呼ばわりされました。だからこれなんてイジメ!? って言うか平仮名みたいに聞こえた気がしてとても可愛いです。はいごめんなさい。
 目を下に向けて逸らしつつ『……すまん』と謝れば「許すわけないでしょ」と持っていた漫画でかなり強く叩かれた。……痛いっす。



『……痛い』
「ばか」
『すまん』
「ばか」
『すまんて』
「ばか」



 雲雀くんが迷いなくばかばか連呼してるんですがこれなんて萌え? 平仮名? むくれっつら? 美味しいだけですあざます。いただきます。
 脳内は顔の表情とは裏腹に真っピンクかつドピンクですが、雲雀くんはそんなことを知る由も無い。脳内だけはこっちの秘密のお花畑である。どやぁ。……あっ、はいさーせん。
 雲雀くんは溜め息を吐いてから、しばらく考えるような素振りを見せてからにやりと凶悪な笑みを顔に浮かべた。背筋がぞわりと粟立って、なんかヤバイ予感がする。
 ヤバイ雰囲気を撒き散らし始めた彼から離れるべく、バッと立ち上がって雲雀くんから距離を取ろうとすれば、後ろのコーヒーテーブルで下がれない。なんやねんもう、コレ邪魔。
 なんかピンチっぽい。直ぐ次の逃げ道へ視線を向ければ腰が引き寄せられいきなり勢いよく横に流れた景色。
 これは本格的にヤバイぞと反射でダンッ、とソファの縁に両の手を付いた。ソファとこっちの間に居るのは言わずもがな腰を引き寄せてきた雲雀くんである。



『っぶな、』



 いやほんとに危なかった。雲雀くんに衝突するとこだった。いや、なんこれ。なんなんこの状況。雲雀くんはなんかちょっと不機嫌ですけどなにコレこんなイベントはゲームでしか知らんし要らん。
 機嫌が悪いようで早急に退こうと腕に力を込めて中腰から起き上がろうとすれば腰に回されている腕がグッと押さえつけてきた。がくっ、と膝が曲がって態勢を崩したものの耐えた、耐えたよ、雲雀くんの上になんて乗ってしまえば一貫の終わりである。
 とか考えて雲雀くんの顔を見ればジッとその黒曜石の瞳がこちらを見つめて姿を映していた。



『……雲雀くん、今すぐ退くから、腕退けてんか』
「やだ」



 君は子供か。



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114:ぜんざい◆A.:2016/12/30(金) 10:41 ID:hYw

 雲雀くんはそこから普通に口を動かして話始めた。
 とりあえず態勢をどうにかさせて腰がツラい。そう口を挟めば「力を抜けばいいよ」と遠回しに離すことを断られた。


「……漫画を読んでたのは、仕方ないから許してあげる」
『……マジでか、ありがとう雲雀くん』
「その代わり、一つ頂戴」
『……は?』


 こっちの下で笑みこそ携えているものの空気は威圧感が溢れてどうにも断れない雰囲気だ。なにこの子怖い。ひく、と頬がひきつった気がする。
 雲雀くんは右手の人差し指で一つ、と示すのに合わせて『……ひとつ、』とこっちはその言葉を反復する。ひとつか、まあどうせあれだろう、一戦やろうぜみたいなものだろう。少し考え込み、そのあとに渋々頷いた。
 こっちを見上げてくる雲雀くんを見下ろして内容を聞く。あっやばい腰がもたない早く離して。


『で、その一つって何なん?』
「……これがいいね」


 雲雀くんは右の人差し指を折り曲げ、親指のこっちの唇をなぞる。ぴしりと完全に石化するこっちににや、と凶悪な笑みを微かに浮かべる雲雀くん。
 え、なに、唇を切って渡せと? 痛いから嫌だよ。こんな冗談いってる場合じゃないのは分かってますよえぇ分かってますとも。


『ま、待て雲雀くん、こう言うのはそんな風にやったらあかんやろ』
「そんな風ってなに」
『とりあえず待とうや、な? いやホンマ待って』
「君は良いって頷いたよね」
『いやせやけど、せやけどな? 戦いでもするんかとな……』
「うるさいよ」
『ぅえっ』


 グッと腰を引かれて体的にいろいろ限界だったこっちはがくっと膝を崩して雲雀くんの上に落ちた。うん痛くない。いやぁ胸がクッションになって助かった。
 意地になって身を起こそうとすればがっと抱き締められて困惑する。え、待って待っていおりさんのブレインオーバーヒートおおおお!!
 脳内はこんなに口が回るのに現実の口は一本線を引いたまま固く閉じていて開かない。


『……雲雀くん、離してくれへんか、苦しい』
「黙って」
『うぃっす』



 忘れたとは言わさないとばかりに漫画のような物体で頭を叩かれた。君ホンマ頭叩くん好きやな! 離してんか!
 こういうことを初めてされればまあそんな耐性もないと言うことで顔が赤くなる訳ですよ。動く右手で顔を触れば少しだけ熱い、少しだけかよ。
 もう少し抵抗すればよかったのに、と後悔するもどうしても出来なかった自分がいるのですなんでやろ、答えは聞いてない! ……それより聞きたくない! 無茶言うてすんまそん!
 頭の中で某電車仮面ライダーの紫の魔人的な人が暴れまわるなか、ぐいっと体が離された。また引っ張られても困るので咄嗟にソファの縁から離してしまった手を再び設置する。


「……ねえ伊達、もらっていい?」
『もらってエエか、て……』
「遅い。もう聞かない」
『……っ』


 強引にかっさらわれた。



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115:ぜんざい◆A.:2016/12/30(金) 13:49 ID:hYw



 雲雀くんはふっと唇を離し視線を逸らして、上目遣いにこちらを見たあと「見廻り行ってくるよ、いおり」と言葉を残しこっちを押し退けて応接室を出ていった。しばらく唖然としていたこっちはソファにぼすんと座り込み、片膝を抱える。自然と溜め息が出てきた。


『……えぇ……』


 僅かに赤くなってるであろう顔を隠すように片手で額を押さえてもう一度溜め息を吐く。
 こっちもここまでされて雲雀くんの気持ちに気付かへんほど馬鹿と違う。どうにもならんもどかしさを抱えながら今までのことを振り返る。今までで彼はそんな素振りを見せたことがあったんか? もしかしたらこっちが鈍すぎただけなんか? そうなんか? バレンタインの時も花見に誘ってくれたときも夏祭りに誘ってくれたときも彼はこうやったんか? ……あ、決定的なんは、さっきの……俗に言う膝枕やん……。
 思い返せば返すほど見つかるソレに頬が熱を持つ。めっちゃアピールされとるやん。で、耐えられんなって強行手段に出たと。え、これこっちが悪いん? 


『……なんやよう分からんなってきたわ……』


 とりあえず上目遣いでちょっとだけ顔が赤かった雲雀くんは可愛かった。
 どないしよう、脳内がいかがわしい方向に真っピンクになってく。待て待て、そんな思考は振り払え変態になりなくなければ。


『……明日また、来るか』


 そうして訳のわからなくなったこっちは応接室を鞄を持って出ていった。

 そしてそのあと、雲雀くんが行方不明になったと草壁くんから教えられた。



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116:ぜんざい◆A.:2016/12/30(金) 14:14 ID:hYw


 雲雀くんが行方不明になったと聞いて数日、こっちはまんばリスペクトのぼろ布を頭から被ってセグウェイで登校しようとしていた。



『そんじゃ、行ってくるわ』
「はい、いってらっしゃいです」
『(ガッハァ!!)』



 内心吐血ものの笑顔を風くんからいただき、頭を撫でくり回して『じゃ』と家を出た。ゴー、とセグウェイが走る。
 正直雲雀くんが行方不明だと聞いたときは血の気が引いた。その日一日はぼろ布被ってずっと屋上でボケッとしながらショックで空を眺めていました。
 通学路を進みながら思う。前までは沢田達が何かやらかしたー、だの校庭で爆発がー、だのリング争奪戦だー、だのと騒がしかったくせに、彼らが居ないだけでとても静かだ。聞けば2-Aの沢田綱吉の他に獄寺隼人、山本武、笹川京子も行方不明。3-Aの笹川了平もだと聞く。本当にリング争奪戦に出ていた人達が居ない。恐らくランボとか言う子供も、クローム髑髏と言う女の子もだと言う。そう、あの赤ん坊、リボーンですら。
 自分の右手の中指に填まる夕焼のリングを見つめ、思わず呟く。



『……一体何が起こっとるねん』



 途端、ひゅるると聞き慣れない音が聞こえた。振り向くと同時にそれは直撃して、煙に包まれる。
 ……なんやこれ。
 煙が微かに晴れ奥に見えたのは森。森の中にいるようだ。……はあ、なるほど。さっきの音がこうやって彼らをどこかに飛ばしたのか。なるほど。なるほど。納得……



『するか出来るかやるわけないやろクソが!』
「うぇっ!?」
「へ!?」
「わっ!」
「はひ!?」
「来たか」
「いおり姉!」



 あまりの衝動に怒鳴ってしまえば驚きの声をあげて見つめてくる声の主たち。そう、行方不明になっていた彼らである。
 沢田綱吉、笹川京子、リボーン。他にははひ! と呟いたポニーテールの女の子。見るからに大人な青年と、大きな白い帽子を被った女の子も居た。



「伊達お前、そんなキャラだったか?」
『……うっさいリボーンくん。びっくりしてん』



 直ぐ様ぴょんと肩に乗ってきたリボーンくんに頭を抱えながら呟くと沢田くんが泣きそうな顔をしながら「伊達さんんんん!」と叫んだ。うおっと、びっくり。
 そんな沢田くんをスルーしてポニーテールの女の子と白い帽子の女の子と青年を見た。その視線に気付いたのか三人はこちらに自己紹介してくれた。



「ハルは三浦ハルです! よろしくお願いします伊達さん!」
「私は大空のアルコバレーノのユニです、はじめまして伊達さん」
「僕はランキングフゥ太、こっちじゃはじめましてだよねいおり姉!」



 一応『よろしく』と返して困惑した顔をしながらリボーンくんを見る。リボーンくんはああそうだ、知らないんだったなと事情を説明してくれた。



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117:ぜんざい◆A.:2016/12/30(金) 14:50 ID:hYw



 どうやらこっちが当たったあれは10年バズーカと言う5分間だけ10年後の自分と入れ替わる超不思議武器の弾らしい。現在ここは10年後で、本来なら5分でもとに戻るらしいのだが今は軸が狂って元の世界に帰れないらしい。しかも、現在ボンゴレファミリーの守護者たちはこの森で軸を崩した敵対マフィアのミルフィオーレファミリーと交戦中だと言う。イコールその真っ只中と言うわけだ。
 そしてもうひとつ。この世界には匣兵器と言う小さなサイコロ型の匣に死ぬ気の炎を指輪に灯して戦うと言うスタイルになっているらしい。ボンゴレにはボンゴレリングとボンゴレ匣と言うものがあり、守護者はそれで応戦中のこと。10年後の沢田たちはリングが重要になって争奪戦が始まる予感を感じたから全員リングを壊したらしい。なるほど、過去のこっちらなら持ってるから代わりに戦ってくれと。
 リボーンに赤色とは違う、濃い紅色のボンゴレの紋章が入った小さな匣を渡された。


『……これが匣なん?』
「ああ、頼む伊達。戦ってやってくれ。これで勝てなければ俺たちは全滅、過去にも帰れない」
『……めんど。いけど、しゃーないなぁ』



 火よ灯れー、と心の中でやる気なさげに唱えていたらボオォォと大きな音をたてて紅色の炎がボンゴレリングから出てきた。それを匣にはめ込めと言われたのでかちっと炎を注入する。中から出てきたのは、羽部分が紅色の炎に燃える小さい小鳥。



『……これ?』
「実際には匣アニマルだ。実を言うと、夕焼の炎の波動は、この世界じゃお前だけらしい。夕焼の匣の実態は、大空より謎なんだ」
『……っちゅーことは、夕焼の匣は全部こっちじゃないと開けられへん言うことか』
「そう言うことだ、形態変化(カンビオ・フォルマ)と唱えてみろ、小鳥が初代夕焼の守護者の武器になるぞ」
『……へえ。トリ、形態変化』
「(……な、名前つけないのかな?)」



 沢田がそんな視線をくれていたが、構っている暇はない。ばささと羽を広げた小鳥はピカッと目眩しく輝き、ずしりとこちらの右手に重みを与えた。



『……斧』
「それが初代夕焼の守護者、大空を赤く染め浮き雲と共に流れる切り札と謡われた、アイザックの斧だ」
『デカッ』
「お前も身長以上の棒ぶんまわすだろ」
『うっさいわ』



 赤いラインの入った真っ黒の斧。刃先は鈍く光り、刃渡りはおよそリボーン三人分の大きさだ。持ち手の長さはこちらと同じ大きさで、とても大きいのに、軽い。試しにと沢田に持ってもらった。瞬間彼の腕はがくんとさがって斧はズズゥンと音をたてて落ちた。



『……もしかしたら、こっちが持ったら軽くなるん?』
「夕焼属性の炎の特徴は軽化だからな」
『……へえ。じゃあこっちちょっと爆発音やらでかい音しとるとこ行ってくるな』
「気ぃつけろよ」



 リボーンや沢田君たちに見送られ、こっちはセグウェイを加速させて森を駆けた。



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118:ぜんざい◆A.:2016/12/30(金) 17:49 ID:hYw



 邪魔な木々は切り倒して進んでいけば広いところに出る。そこではリボーンくんに教えてもらった真六弔花と戦うボンゴレ’s。
 ヴァリアーの方々に黒曜、そして、笹川や獄寺等の守護者たち。
 林の影でおおー、壮観壮観と呟いていれば、ヴァリアー側の一人の背後から大技を喰らわせようとする名も知らぬ真六弔花の一人。
 さあ今放たれるぞ! と言うところにセグウェイで突っ込んでいった。



『そーい』



 そのまま飛び上がってあのでかくて綺麗な斧を振り下ろせば気付かれた相手にサッと避けられ、斧は止まることなく地を割いた。
 ドガアアン、と言う大きな音にみんなの動きが止まり、こちらを見てくる。煙が晴れたとき、みんなが「あ!」「アイツ……」「ちっ」「来たな」「なっ!」とこっちを凝視してくる。少しむず痒かったので頬を掻きながらひとつ斧をぶぉんと薙ぎ、口を開いた。



『混ざらしてや』



 ざわめくそこから、獄寺が「伊達じゃねぇか!」と怒鳴る。そこから、こっちが助けた一人が後ろで「ゔお゙お゙お゙お゙い! 余計なことすんじゃねえ!!!」と刀で背中を切りつけてきたので斧の持ち手で受け止め、『黙れやカス』と睨んで蹴り飛ばす。周りから歓声が聞こえたが知らない。



『……え、なに。こっち来んかった方がよかったん?』
「いやー、そんなことはないですねー。相手する人数減って大助かりですー」
『ちょお君黙っといて』



 蛙のドデカイ帽子を被った緑髪の少年を黙らせたらいきなり乱闘になった。



『せぇい!』



 みんなの返答も聞かずこっちも乱闘に混ざった。軽々と斧を振り回し、敵を薙ぎ払う。
 すたん、と隣に着地音が聞こえたかと思ったら、手錠とトンファーを構えた雲雀くんがいつもの学ランで此方を見ていた。……え。手錠?



「……君も来たの」
『おん、さっきな。ビックリしたわ』



 あのときの事などなかったかのように話し掛けてきた雲雀くんに対応していつも通りに返せば「へえ」と満足げな声が飛んでくる。



『……改めて思うわぁ……』
「なに」
『斧くそ軽い』
「……あっそ」



 期待外れとでも言いたげな雲雀くんは武器を構えて駆け出す態勢に変わった。彼が駆け出す寸前に、思ったことを伝える。



『君が居ると、安心する』



 彼が肩を震わせたが、見て見ぬふり。機嫌が良さそうに相手に殴りかかっていた雲雀くんを見て、相手の人が可哀想になった。

 さーせん。



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119:ぜんざい◆A.:2016/12/31(土) 09:48 ID:hYw



 それでもその告げ目はやって来る。背後がいきなり輝きだし、ばしん、と白蘭に似た男が姿を表した。ソレは、終わりを告げるようにのしのしとゆっくり歩き出す。
 その様に敵味方関係無く目を見開いた。敵もどうやら知らなかったらしい。真六弔花最後の一人、GHOSTと言うようだ。
 相手の真六弔花の一人、桔梗が「白蘭様……早すぎる!」と呟いていたので相当な代物だろう。全裸やし白いしキモい。



「だが奴は敵! ミルフィオーレに間違い無い! 指を見ろ! マーレリングだ!」

 ヴァリアーのレヴィとか言うおっさんが怒鳴る。確かにマーレリングを付けているから真六弔花で間違いはないだろうと思うけど、うっさいなあ。
 呆れた目をして彼を見ていれば、途端に隣の前髪で目が見えないティアラの男、ヴァリアーのベルフェゴールが「先手必勝♪」と嵐の炎を纏ったナイフをビュオッとGHOSTに投げ付ける。避ける気配はない、よし、当たる。
 そう思ったのだが。彼のナイフはGHOSTを通り抜けた。死ぬ気の炎は纏っていない。そんなナイフは地面にさくさくさくっと刺さるだけ。



「!!」
「通り抜けた!」
「!!」
「幻覚か!?」



 敵味方関係無く驚き、六道骸とその弟子、ヴァリアーのフランが「幻覚ではなく実在している」と告げる。実在しとんのに透けるん? え? マジで?



「ならば撃つべし!」



 レヴィが叫びながら雷エイで攻撃する。だが、炎だけ吸いとられ、GHOSTは円形のバリアの中から無数の触手の様なものを放出させ、ミルフィオーレ、ボンゴレめがけて飛んでくる。
 一人、真六弔花の女の子、ブルーベルに触手がベトンと張り付いた。次の瞬間にはブルーベルは骨と皮だけになり地に伏せる。



「なにっ」
「味方を!」



 六道骸とバジルが声をあげた。まるで生命力を吸いとられたかのように萎んだ彼女。雷エイやXANXUSの憤怒の炎のこもった銃撃も炎を吸いとられて力を無くす。どうやら炎だけを吸収するらしい、なんと怖い。すると雲雀くんが自身のボンゴレリングを見て「リングの炎が……」と呟いた。見てみれば、確かにリングから炎が漏れだしている。ここまでするのか馬鹿野郎。
 早いとこ、結論はGHOSTには炎の攻撃が効かないのだ。無敵か!? 無敵なのか!?



『っ』



 向かってくる触手を飛んで避けて宙で一息着けば再びこっちめがけて飛んでくる触手。何も言わなくても狙われている。ふざけんな狙うな。死ぬ気の炎を吸われてこっちは疲弊してんだよ!



『ちっ』



 被っていたボロ布を触手の前にバサッと投げ付けだんっと地面に降りる。こっちの愛しのボロ布が!
 なんやねん、なんでこっち狙われとん!? 悪どく舌打ちしてひらひらと落ちてくる触手が既に離れたボロ布を既に諦め、逃げる。だってこっちだけ向かってくる触手の量が明らかに違う。なんなん、なんなんこれ!
 投げ捨てていたセグウェイに飛び乗りエンジンをドルルと掛ける。そこでも迫ってくる触手を必死に避ける。



「GHOSTは極限に伊達を狙ってるぞ!!」
「伊達って誰だよ! うししっ」
「白いボロ布を極限に被った……うおお!? 伊達! ボロ布はどうした!?」
『捨てた言うて! 回避につこたわボケ!』
「!?」



 なんこれ! なんこれ! なんでこっちばっかり狙われとん!?



.

120:ぜんざい◆A.:2016/12/31(土) 10:26 ID:hYw



 結局そのあとハイパーモードとかした沢田がやって来てGHOSTを倒してくれた、と言うか死ぬ気の零地点突破改なるものでGHOSTを逆にズボッと吸い込んだ。GHOSTは死ぬ気の炎の塊だったらしい。……確かに実態ですね分かります。
 そのあと白蘭登場。此方の大将沢田と敵の大将白蘭の衝突。そのあとユニが不思議な球体に包まれながら飛んできた。聞くに、マーレとボンゴレの二つの大空に大空のおしゃぶりを持つユニが共鳴して引っ張られてきたらしい。
 そのあとボンゴレリングが真の姿に変わって宝石のようなもののついたまた一風変わったゴツい指輪になった。そのあとユニが命を掛けておしゃぶり状態だったアルコバレーノを復活させ、死んでしまったユニとγに悲しみ、ユニを道具扱いする白蘭を沢田がXバーナーなるもので消し飛ばし、戦いは終結した。
 まあ、言いたいのは要するに、こっちらが勝ったと言うことだ。
 って言うか、風くん死んどったん!? 風くんが!? あの風くんが!? 待っとって風くん復活したら抱き上げたる!



「か、勝ったぜ!」
「うおお!」
「沢田殿! やりましたね!」
「勝ったぞーー!」
「ツナくん!」
「ツナさん!」



 獄寺と山本、笹川兄妹に三浦、バジルが沢田に向かって駆け出す。ふらりと倒れそうになった沢田を獄寺と山本が受け止めて、いつの間にか彼の近くにいたリボーンが「よくやったなツナ」と珍しく沢田を褒める。
 だが、沢田は「γと……ユニが……」と悲しそうに呟く。おしゃぶりの散らばるそこでγの弟である太猿と野猿が「姫……アニキ!」「こんなのってありかよー!」と泣いている。沢田はそれを見て顔をしかめ、告げる。



「γとユニだけじゃない……この戦いは多くの人が傷付きすぎたよ……」



 多くの人。こっちは今日未来に来たからそれに当てはまる人がどうなのかは知らん。けど、早めに来た沢田や山本たちはそれをひしひしと感じているに違いない。だが、そこに不穏な音が響く。ガスッと何かを蹴る音だ。見てみればヴァリアーの方々が残った真六弔花の桔梗を殺そうとしていた。



「ちょっ、何してるの!? もうこれ以上の犠牲者は要らないよ!」



 ぼろぼろの沢田が蹴り飛ばした本人、レヴィが「こんなカスを庇ってどうする気だ、コイツらは殺ししかできぬ怪物だぞ!」と渇を入れる。ここら辺は興味が無いので先程から鋭い視線を送ってくる雲雀くんにうぃーんとセグウェイに乗車しながら駆け寄った。



『雲雀くん、久しぶりやな』
「……ホントにね」



 腕を組んでぷいっとそっぽを向く雲雀くんの可愛さに鼻血が出そうになりながらも必死に耐えて苦笑いすれば彼は溜め息を吐いて「おぶって。数日戦いっぱなしなの。疲れた」とひょいと背中に回って飛び乗ってきた。許可を取れ許可を。



『……お前な』
「なに」
『なんも』
「僕は疲れてるんだよ」
『はいはい』



 呆れて乾いた笑いしか出なかったが、「大アリに決まってんだろ! コラ!」と言う怒鳴り声で意識がそちらへ向いた。



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121:ぜんざい◆A.:2016/12/31(土) 10:51 ID:hYw




 雲雀くんをおぶるためセグウェイからおりて彼を背負い直し、声の方を見る。そこには光輝く球体が。光を失い、そこから姿を表した赤ん坊にこっちは絶句する。……風くんとリボーンくんとコロネロくんの他にまだおったんかい。



「よくやったな沢田! コラ!」



 コロネロくんが大空のおしゃぶりを片手に沢田を労う。やはりコロネロの首にもその青いおしゃぶりが下がっていた。



「コロネロがいる! ……てことは!」
「アルコバレーノが……」
「ついに復活したのか!」
「赤ちゃんがいっぱい!」
「どこのベイビーちゃんですか!?」
「あれがトゥリニセッテの一角のおしゃぶりを持ちトゥリニセッテを監視する役目を持つ、最強の赤ん坊、『アルコバレーノ』
リボーンの旧くからの知り合いでもあるわ」



 アルコバレーノを知らない笹川京子と三浦ハルに獄寺の姉、ビアンキがアルコバレーノについて説明する。
 アルコバレーノなんて知らなかったこっちはそれを聞いてふんふんなるほどとうなずく。背後から呆れた視線を頂いた。雲雀くん酷い。
 不意に風くんの姿を見つけたこっちは『風くーん』と彼の名前を呼んでみる。背中の雲雀くんが「え」と呟いて驚いていたのは聞き逃さない。



「いおりさんっ! 無事でしたか!」
『おん、無事無事ー。さっき来たばっかやから』



 そう告げれば風くんからエンジェルスマイルを送られて鼻血が今度こそ出そうになった、君はこっちに亡くなれと言うのか。だがしかし、今は背中に雲雀くんがいるのである。鼻血なんか出したら殴られてしまうに決まってる。
 リボーンがこっちに向かって「知り合いか?」と聞いてきた。



『……まあ、』



 ここに来て過去の風くんから口止めされていたのを思いだし、煮えきらない態度でリボーンくんに返せば怪訝な顔をされたが、気にしてないように彼は前を向いて「てめーらおせーぞ」と呟いていた。
 アルコバレーノに聞けば事情は全て分かっているらしい。風くんが長々と教えてくれる。



「ユニは白蘭が倒された場合、世界にどの様な影響が起きるのかも我々に教えてくれました。白蘭が倒された今、持ち主を失ったマーレリングは無効化されました。それにより白蘭がマーレリングによって引き起こした出来事は全て……全パラレルワールドのあらゆる過去に遡り抹消されるのです」
「つまり白蘭のやった悪事は昔のこともきれいさっぱり跡形もなくなくなるんだぜコラ!!」
「え!? それって、ミルフィオーレに殺された人たちや山本のお父さんも!?」
「恐らく死んだこと自体がなかったことになるだろうな」



 わあああ! と喜びを全身で表す彼らにこっちは絶句する。え、山本くんのお父さん殺されとったん? え、そんな精神状態で戦ってたん!? 最近の子怖い。
 よっと雲雀くんを背負い直せば、みんなが「過去に帰ろう!」と騒ぎ出す。ようやく過去に帰れるらしい。あぁ安心安心。



『……雲雀くん、聞いとった?』
「過去に帰るんでしょ」
『せやな。……あー、疲れた』
「僕の方が疲れてる」
『はいはい』



.

122:ぜんざい◆A.:2017/01/02(月) 08:56 ID:cek


 今、雲雀くんのアジトに来ています。いやあ、和室って落ち着くなあ。
 なぜここに来ているかと言うと、雲雀くんが最後に見に来たかったらしい。10年後の雲雀くんが並盛風紀委員を中心とした風紀財団に作らせたらしい。スペックがやばい。広い畳の和室では雲雀くんの帰りを待っていた草壁くんが正座して鎮座していた。……10年後やのにリーゼンとくわえ草は変わらんのか……。
 去り際、草壁くんが「恭さん! いおりさん! お気をつけて!」と言っていたので、後ろ手に手を振って雲雀くんのアジトから出た。出てからやっとなぜ雲雀くんはここに来たのか、その心理に気が付き笑いが漏れる。彼の背中を見ながらやっぱり人の子なんやなぁ、っておもった。



「……何笑ってるの」
『いや、なんもない』
「……ふん」



 ふい、と拗ねた様にそっぽを向く雲雀くんが可愛くて仕方無い。表面では苦笑いして彼の隣を歩く。
 彼が行方不明になってから、なにか足りないと思っていた。それが埋まった様に思える。……寂しかったのか、こっちは。燻っていた違和感の答えを見つけて、満足そうに少しだけ微笑んだ。ねえ見た? 今ちょっと、普段仕事しない表情筋が働いてくれたよわーい。



『……過去に戻ったら、きみはどないする?』
「……いつも通りに動くだけだよ……ねえ、いおり」
『なんや、恭弥くん』



 名前を呼んでくる雲雀くんに逆に名前を呼び返せば不満そうな顔が見えた。……不満なん?
 身長ま1cmだけこっちの方が高いだけで彼の顔の位置はあまりこっちと変わらない。それにしてもなんでそんな不満そうな顔すんねん。



「くんは要らないよ」
『恭弥』
「ん」



 くん付けが不満だったのかホントかわええなきみ。
 サッと顔を伏せた彼は何を思ったのか背中に飛び乗ってきた。あっ、はい背負えと言うことですねわかります。
 よっ、と言う声と共に彼を背負えば首に巻き付く腕。なに、また首絞めるの? とか思ってたけど杞憂でした。どうやら雲雀くんは眠かったようで、ぐるりと腕を首に巻き付け抱き込むようにして腕を枕に顔を伏せてしまった。



『……いてっ』



 ぐりぐりと頭をこっちの頭に擦り付けた彼は、そのあと首筋にちくりとした痛みをくれてくれました。彼は満足げに「ん」と呟き今度こそ寝るぞ、と先程の態勢に戻った。こいつキスマーク残しよった。



『……降ろすで恭弥』
「……や、」
『よし許そう』



 くぐもった声と台詞が可愛すぎて許した。恭弥の頭で首筋は見えなくなるし、まあ大丈夫でしょう。恭弥くん可愛いよ恭弥くん。


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123:ぜんざい◆A.:2017/01/02(月) 09:19 ID:cek



「よーしみんな揃ったね! そろそろ出発だが、ボンゴレ匣は未来に置いていってもらう、取り外してくれ!」



 取り外した匣を地面に置き、みんながみんな匣兵器の中の動物と別れを惜しんでいたのでこっちも匣兵器からあの小鳥を呼び出し頭をひと撫でして恭弥の所に戻る。彼の匣兵器は雲のハリネズミのようだ。かわいかった。
 入江正一がアルコバレーノのヴェルデとにや、と笑っていたので何かしら企んでいるに違いない。
 足元辺りで頭のてっぺんでおさげにした中国少女の弟子と「達者でね、イーピン」とぺこりと二人で頭を下げ合う風くんを見てあ、二人和むとか思ってればぱっと風くんがこちらを見上げた。のでバチッと目が合う。彼はひとつ控えめかつ満面の笑みを見せ、「いおりさん」と呟いた。待って、いおりのライフはもうゼロよ。HPとMPが一気に吹き飛ばされたよ。
 それを悟られまいと頭を軽く振り、しゃがみ込む。



『なんや、風くん』
「……今、10年前の私があなたの家にいるのは、今は内密に」
『おん』



 質問を問えばちょいちょいとちっちゃなお手手で手招きする。だが、自分が来た方が早いと気付いたのか、とてとて駆けてきてこっちの耳に手を添えてから彼は小声でそういった。動作可愛かった。
 これは流石に小声になるわ、と思いつつサムズアップしながら頷き、頭を撫で回して立ち上がった。この時風くんが恭弥に対して勝ち誇った柔らかい笑みを向けていた事など、その時彼を見てなかったこっちはわからなかった。
 振り向いて恭弥を見ればとても不機嫌そうな顔をする彼に唐突過ぎて驚く。え、なんでそんな不機嫌なん?



「……そこの赤ん坊と、なに話してたの」
『……いや、ちょっとな……。多分過去に戻って、しばらく経ったら分かるで』
「……ふぅん」



 ハイパー不機嫌な彼に苦笑いし、「じゃあタイムワープをはじめるよ! 別れを惜しんでたらキリがないからね! アルコバレーノは過去のマーレリングを封印してすぐにここへ戻ってくる予定だ!」と言う声で前を向く。
 入江は沢田に「本当に……ありがとう」と泣きそうな顔で笑って告げた。沢田は困ったように微笑み、「さよなら」と別れを告げ、それは入江が「タイムワープスタート!」とボタンを押すまで浮かべられていた。



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124:ぜんざい◆A.:2017/01/02(月) 15:32 ID:cek

過去に戻ればこっちは恭弥と二人、応接室のソファにぼふんと落ちた。

『……戻ってきたん?』
「……そうなんじゃない?」

こっちがいつも座っとるソファの向かいにあるもうひとつのソファに落ちた恭弥はくあ、と久々にあくびを見せた。ああ、帰ってきたんや。訳のわからん世界から。「チチッ」と鳥の鳴く声が指から聞こえ、不思議に思って指を見てみれば、右の中指にはボンゴレリングと、あの小鳥があしらわれたアニマルリングがあった。……匣よりずっとコンパクトになったな、きみ……。アニマルリングをさらりと横目で流し、むすっと外を眺める恭弥に苦笑いしてソファを立つ。横目でこっちをちらりと見て再び外に視線を向けた彼を無視して隣に座った。

『……雲雀くん』
「……」
『恭弥』
「なに」

名前を呼べば直ぐ様返事が返されて、ゆっくりとこちらを向く恭弥に向き合い、『なあ』と呟く。

『前回のアレはどう受け取ったらエエんや、分からん』
「……君は僕をどう思うの」
『お前な……』

答えになってないソレに眉を寄せてから、彼の胸ぐらを掴んで引き寄せ、唇に噛み付く。痛くはない、筈だ。ぱっと離せば間近で少し赤くなって目を見開く恭弥に、にや、と笑ってついばむ様なキスを様々な角度から落とした。普通立場逆じゃね? なんて思いながらがっくがくの彼の膝を見て目を細める。震えた指で態勢が崩れまいと必死に服に掴まるから可愛い。死ぬ。相手が酸欠になり始めたので残っていた理性をかき集めて最後に舌で恭弥の唇を舐めて離れた。はぁ、と息を吐き出せば、がくがくとうつ向いて震える彼がぜぇはぁと息をきらして体内に酸素を取り込んでいるのが見える。

『……』
「はっ、はぁ、君……」
『すまん』
「ばか」

こっちを掴んでいる両手の力をぎゅっと強めてギッと水の膜の張った瞳で睨み付けてくる恭弥から目を逸らす。……いや、分かっている。今こんなことを考えるべきではないことぐらいは。分かっているが思考は回る、回ってしまった。可愛い。恭弥くん可愛いよ恭弥くん可愛い可愛い可愛い。照れ顔可愛いよ超可愛い。そんなことを脳内で繰り広げていることなどいざ知らず、彼は不機嫌そうにこちらを睨んで「こういうのって僕からするんじゃないの」と口を開いた。

『確かに、しとる時に思ったな……』
「……」

ほら見ろ、とばかりにこちらを見てぶすくれる恭弥に苦笑いした。

**

「おかえり!」
「少し地殻に影響を与えたがすべてうまくいったぜ!」
「よかった! お疲れさま!」
「お。子供のあいつらが過去へ帰った代わりに、この時代のこいつらが装置から目覚めたんだな」

10年後の世界にて。過去から帰ってきたこの時代のアルコバレーノたちと入江らが少しそんな会話をして、目覚めた彼らを見つめた。黒いスーツ姿の10年後の獄寺が「ところで」と久々に口を開く。

「ツナはどこいったんだ?」

ボンゴレファミリー10代目がいない、という山本の素朴な疑問に入江が「ああ、一足先に上にいってるよ」と答える。その端で、雲雀は伊達を睨めつけていた。実はこの時代の伊達は、ミルフィオーレのスパイとして潜み、情報をボンゴレに渡していたのだ。みんなと同じ黒いスーツを身に纏いながら頬をぽりぽりと掻く彼女は、この10年で自分より高くなった雲雀から目を逸らす。彼女もこの10年で今より少し身長は伸びたようだ、胸の方は言わずもがな。そんな彼女は、スパイ活動を雲雀に教えていなかった、絶対拒否される、それかついていくと言うに決まっていたから。

「……いおり」
『……』
「こっち向いて」

明らか不機嫌な雲雀に渋い顔をしながら向き直る伊達。雲雀はそれを見て少し満足そうに笑い、「説明して」と怒るのだった。


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125:ぜんざい◆A.:2017/01/02(月) 16:06 ID:cek



 先日の未来から過去に戻ってきたときの反動で起こった地震。それのおかげか所為なのか、今日、至門中学から七人の集団転校生がやって来るようだ。
 どうやら風くんは未来から記憶を受け取ったらしく、過去から帰ってきたあの日、こっぴどく叱られた。風くん怖かった。っていうかこっちに非はないやろ、いきなり10年後つれてかれてんから。
 あの日のことを思い出して少しぶすくれながら今日、以前から仲良くさせてもらっている『アーデ』さんとコラボでニヤ動生放送をするのだ! わーはっはっは!
 まだお姿を拝見したことはなく、どこに住んでいらっしゃるのかも分からないのでネットでアーデさんがこちらを見つけたら参加ということになっている。どうやらアーデさんはとんでもない美貌とスタイルの持ち主らしい。閲覧者談。



『うぇーいどもどもこんばんはー、白玉さんやでー。今日はコラボでアーデさん来はる予定でわりかしテンション上がりまくりな白玉さんやでー』

<アーデ姉様とコラボだとぅ!?>
<めろん同士コラボだとぅ!?>

『ちぎったるからはよ降伏しろや』

<こわっ!>
<hshs>
<久々千切る発言が来た! ……ふぅ>
<上のコメント万死だ!>
<億死だ!>

『アホ、京死やっちゅーねん。残念やなぁ』
「そんなの甘いわ、もっとよ」
『お、アーデさんおでましや。こんばんはー』
「白玉さん、こんばんは、今日は誘っていただけて嬉しいわ」
『いやいやー、受けてもらえたんが奇跡やわ』
「んなっ」

<白玉の男前さマジうらやまギルティ>
<白玉大御所っていうか超有名なんだからどこに誘い入れても受けてくれるだろ>
<アーデさんも最近注目上がりまくり>
<驚きアーデかわ>

『あれっ、こっち結構有名なっとったん?』
「気付いてなかったのね……」

<ニヤ動で知らぬ者が居ないぐらい>
<むしろそこまで行ってなんで顔出ししてないのか謎>
<むしろなんでライブ会場で歌ってないのが謎>
<白玉様もアーデさんも顔出しきゃもん!>
<アーデさん派の奴手ぇあげろー!>
<俺白玉派!>
<アーデ派>
<アーデ派>
<アーデ派>
<白玉派すくなっ!>

『おい心に今なにか刺さったんやけど、なぁ、鋼のハート貫かれてんけど、なあ。白玉さんの人気の無さよ……』
「き、気を落とす必要はないですよ!」
『アーデちゃんもう白玉さんと結婚して』
「!?」

<鋼のハート!>
<ガチィン!>
<貫かれた!>
<バキバキ!>

『いらんとこで効果音いれんな!』
「ふふっ」
『アーデちゃんかわ』

<し、白玉はかっこいい枠で人気!>
<そーもう!>
<お、俺も?>
<白玉レズ説>
<百合キタコレ>

『おらそこなんで疑問系やねん。レズでも百合でも無いわボケ! フォローするんやったら最後までしいや! 可哀想やろ!? この白玉さんが!』
「そうよ! 粛として清まりなさい!」

<はい! 粛として清まります!>
<白玉様が久々に楽しそう!>

『はあ? 楽しそうやと? 楽しいに決まっとるやろアホ!』
「ふふ」

<こう見えて白玉はリスナー大好き>
<うれぴい>
<おいやめろ照れるだろ白玉ぁ>
<アーデが微笑んだぞ! 聞いたか!?>
<聞いた!>

「心優しいわね、ってそんなとこまで聞いてなくて良いのよ!」
『』
「大変! 白玉さんが息してないわ!」
『』

<恥ずか死したか>
<したな>
<ギャップ>

『ギャップ言うた奴捻り潰す……っと、残念なことに捻り潰す前に時間来たな』
「あら、ホントだわ」
『そんじゃまた、やるかもしれんしやらんかも知れんけど、よろしゅう』

<やれよ!?>
<やってくれよ!?>
<さっきはいろいろ言ってすみませんでしたあああ!>

『よし許そう。またやるでー』
「そうね」

<やたー>
<キタ>
<コレ>
<ふううう!>



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126:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 11:51 ID:cek



こっちは久々に絵を書くべくスケッチブックとシャーペンを手に机に向き合って仕事をする恭弥をばりばりとすごい勢いで機嫌よく描いていた。恭弥も気にしていないのか、いつもと変わらず日誌に鉛筆を滑らせている。

「ねえきみ、僕を被写体にしてなにか楽しいの?」
『恭弥は絵になる。姿勢は、まあ世辞でもエエとは言えへんけど、綺麗やねん』
「……ふぅん」

お互い顔をあげずにそれぞれいましていることに集中しているので顔は見てないが、なんとなく満足げな声が恭弥から飛んでくる。なにこの子超可愛い。
応接室が柔らかい雰囲気に包まれるなか、それを切り裂くような「失礼!」と言う聞き覚えのある女の子の声が扉を開ける音と共に響いた。即座にばさっと復活したボロ布のフード部分を被る。左腕の包帯も腹の包帯も取れていない、腹は別にいいとして腕の方を見せるわけにはいかない。毒手とか言われたらたまったもんちゃうわ。

「あなたが並盛中風紀委員長、雲雀恭弥」

どうしてか聞き覚えのある声が恭弥に飛んでいき、若干不機嫌そうな恭弥が「誰? 君?」と顔をあげる。どうやらその女の子は至門中学三年の鈴木アーデルハイトと言うらしく、応接室を粛清委員会に明け渡せと要求しているようだ。彼女を見ればこっちとそれほど変わらない胸を携え黒い至門中学の制服を纏っている。左の腕には粛清と書いてある腕章が。これで粛として清まりなさい! とか言ったらアーデさんやん。ちなみにこっちの第一印象は「なんやこのクソ美人とりあえず描きてぇ」である。

「粛清……委員会?」
「断るのならそれなりに」

要するに、これからは粛清委員会が風紀委員会の代わりにこの学校の治安を守るから出てけっちゅーことやな。やってることは風紀委員会と一緒か。

「……ふぅん、面白いけど……それには全委員会の許可が必要になるな」
「もう許可は取りました」

いつの間にか恭弥の頭に居座るヒバードには目もくれず、アーデルハイトは「力ずくで」と各委員会の委員長を縛り上げた写真と拇印をひらりと見せた。

「ワオ。僕がその申し出を断っても、君は諦めそうにないね」
「当然です。力ずくで納得してもらいます」

アーデルハイトさんや、それはちょっと無理ちゃうやろか。恭弥相手に力ずくって絶対骨折れる仕事やで。遠い目をしてアーデルハイトを見つめる。
胸はこちらとそんな変わらんくせになんやねん腰ほっそ。あれか? これを俗に言うスタイル抜群と言うのか? 身長はこちらより高いしなにこれ君将来スーパーモデルにでもなるん?
布の隙間から視線を送っていたが、やがてなんか面倒なことになりそうだったので絵の方に集中する。こんなもん巻き込まれたら冗談にならん。

「ところで、そこにいる白い布の物体はなんですか」
「……なんで君にそんなこと教えないといけないの」

いや、ホンマ頼むから巻き込まんといて。こっちはただのしがない美術部部員です。っていうかこっちのことをそんなことで終わらそうとする恭弥も酷い。
ホンマに関わるなオーラを撒き散らせば相手も興味が無くなったのか「……それでは」と応接室を出ていった 恭弥ははぁと溜め息をついてぼすんと椅子に腰を下ろす。「……なにあれ」と呟いてから彼はこちらを訴えかけるように見た。

『……なんや』
「布」

布被るのやめろと。渋々ぱさりと被るのをやめれば変わらずじっとこちらを見てくる恭弥、なにがご不満ですか何様僕様恭弥様。『次はなんやねん』と問えば「……布、羽織るのやめて」と更なる要求をかましてきた。他でもない恭弥の頼みだが、……ううむ、悩む。短い間だがアイデンティティぞ? これ。
どうやら痺れを切らしたらしい彼は溜め息をひとつ吐き、椅子から立ち上がってこっちに向かって来る。そして布が落ちないようにボタンで止めていたボロ布を引っ掴み、ぶちっと引き契ってばさっと遠くへ投げ捨てた。流石にこれには目を見開く。え、あ、アイデンティティが!
 彼は布を剥がしたこっちを見つめて、不意に微笑む。え、なにがしたかったんきみ。

「うん」
『は?』
「君の体の方が好きだよ、僕は」
『変態か』

.

127:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 12:24 ID:cek



 翌日、今日は昨日の絵に色を塗るぞ! とセグウェイをうぃーんとか言わせながら朝早くに学校に来たのだが、校舎にはでかでかと粛清と書かれた垂れ幕が下ろしてあった。



『……なんっやこれ。絶句もんやねんけど。記念に写真撮っとこ』
「きみ、ふざけてるの?」



 スマホでぱしゃっと一枚校舎の写真を取れば、後ろから呆れたような声が返ってきた。セグウェイの上で態勢を変えればそれはそれはご立腹な恭弥くんが。あまりの怖さにヒバードがこっちの頭に乗っかってくる程度には怒ってる。
 アーデルハイトさんやっちゃったなー、とか不意に屋上を見てみれば、屋上の縁に立っている黒い制服姿の女の子。あれはまさしくアーデルハイト! あ、やべ。



「……風紀を大きく乱してくれたね……」
『あっはいそすね』



 ばっと駆け出す恭弥のあとをストッパーとして在るべくこっちもボロ布はためかせてセグウェイを動かした。

**

 屋上にて。時間が経ったのかグラウンドに生徒が大勢集まる。そのなかで、屋上で睨み合う恭弥とアーデルハイト。……これなんてバトルマンガ? って言いたい。
 屋上には沢田の守護者とアーデルハイトの他の七人の転入生が集まっていた。集団転入の時に手違いで七人と知らされていたものの、八人だったことが発覚し、恭弥はきちんと先生を咬み殺している。ちなみに沢田のクラスのかわいい女の子である。どうしてか恭弥に熱い視線を送っている様に思えるが気のせい気のせい。こっちに不思議そうな視線を送ってくれているが気のせい気のせい。



「やっと勝負する気になったのね」
「当然だよ、きみの行動は目にあまる。ここで終わらせよう」




 ちゃ、とトンファーを構えた恭弥からとんでもない殺気が放たれる。まあ常日頃一緒にいるこっちは慣れてなんとも思えていませんが。相手であるアーデルハイトがびくりと震える。そこで「ヒバリさん!」と沢田が入ってくるが無視無視。
 とりあえず、殺気にやられたと思われる倒れかけのさっきから恭弥を見てこっちを見手を繰り返していた女の子をがしっと支える。



『……大丈夫か』
「あ、は、はい!」



 布で顔は見えて無いように思えるが、多分それが不思議だったのだろう。「こ、声がかっこいいですねっ……!」と言われた。……おん、いつか言われるとおもっとってん、ニヤ動ではなく現実で声が男やなって。とりあえず遠い目をしながら「はははありがとさん」と伝えて彼女を立たせる。
 そしてこちらの制服を真正面から見た彼女は「女の方ですか!」と驚いたように呟いた。



「私、雨宮 桜です、よろしくお願いします」
『伊達いおり、よろしゅう』



 自己紹介を終え、恭弥の方に集中する。アーデルハイトは鉄扇を使うのか。ふむ、優美なり。



「また校則違反だよ、武器の携帯が認められているのは基本的に僕といおりだけだ」



 聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが、知らん見とらん聞いとらん。
 すると不意に微かにアーデルハイトから死ぬ気の炎が見えた気がした。その瞬間彼女は靴の踵のヒールで恭弥の顔めがけて蹴りあげた。オーイ、さっきから思ってましたがパンチラ多くないですかー?
 ぶちっと飛んでいく恭弥の第一ボタンがこちらに飛んできて、雨宮さんがキャッチする。



『すまん、それ貸して』
「えっ」



 恭弥のものだしさっさと返さないとうるさいし。手を伸ばせば彼女は渋々と言ったようにこちらにボタンを渡した。そして再び二人がトンファーと鉄扇をぶつけ合おうとしたとき、間に沢田が入ってきた。



「うっ、あ…が…う…げ……」



 倒れ込んだ沢田にさすがに同情した。



.

128:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 12:45 ID:cek


「なにしてんの? 君」



 間に割り込んで訳のわからぬまま倒れた沢田を見下ろして恭弥が呟く。アーデルハイトは「今のをくらって平気なのか!?」と驚いていた。いや、ゴキャッつってたから痛かったんじゃね? 沢田はただ慣れただけで。嫌な慣れやな。
 そこでリボーン登場。沢田がリボーンくんにたいして「リ、リボーン! なにすんだよ!」と怒鳴るが、リボーンくんは聞き入れるつもりはないようで、「無意味な抗争を防ぐのはボスとして当然だぞ」と当たり前のように言い放った。……無意味な抗争? ボスとして? ……嫌な予感するわぁ。
 どうやら転入生sはシモンファミリーと言う、ボンゴレのボス継承式に招待されたマフィアらしい。……ボンゴレボス継承式? ……ますます嫌な予感が。
 シモンファミリーはボンゴレと深い交流があり、その時代はl世(プリーモ)の時代まで遡るようだ。今では目立たない超弱小ファミリーだとか。……リボーンくん、そんなはっきり言ってやるなよ。

 ……それよりも。継承式のことだ。そっちの方が大事だ重要だ大問題やろが。
 リボーンはそんな心理を裏切って淡々と告げていく。



「七日後にここ日本で行われるボンゴレ継承式は、ツナが正式な10代目ボスになる、空前絶後の式典だ」



 そのとたん他の守護者から歓声が上がった。もちろん笹川山本獄寺である。だがふと笹川が疑問を口にした。



「だが同じ10代目候補のヴァリアーのXANXUSを倒した時点で沢田は10代目決定したのではないのか?」



 それをリボーンは「極限にわかってねーな了平は」と返す。え、リボーンくん今笹川のことめっちゃバカにせんかった?



「ボス候補であることと正式にボスになることでは天と地ほどの差があるぞ。
ボンゴレのボスの座につくということは、全世界の強大なボンゴレマフィアの指揮権を手に入れることだ。それはつまり、裏社会の支配者になることを意味する」
「ひいいっ、裏社会ー!?」



 ボス決定の沢田本人がビビっとるけどどうなんリボーンくん。こんなのに任して世界大丈夫なん?



「恐ろしく大いなる力を継承される式典なんだ。マフィア界全体が興味を示し注目している。この式典にはボンゴレの重鎮たちはもちろん次期ボンゴレボスの顔を見ようと招待された全世界の強豪マフィアが海を渡りこの日本へやって来るぞ」
「なんか怖いことになってんじゃん!! じょ、冗談じゃないよーー!」



 さすがに沢田に同意やわ。そんなめんどくさい世界に幹部として放り出されるとか絶対嫌やわ。



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129:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 14:55 ID:cek



 そこで屋上に「オイコラー! お前たち何をやっとるか!」と空気を読まないキチガイな先生の声が響きわたる。リボーンは静止も聞かず「んじゃあとでな」と飛び去り、みんなが教室へ戻り始めた。
 もう屋上に残っているのは恭弥とこっちとアーデルハイトと雨宮さんだけやし。
 いまだ睨み合いを続ける委員長二人に『ほら、そろそろ戻んで』と声を掛ける。やって置いてくと恭弥うっさいもん。
 屋上に居るからかばさばさとボロ布がはためいた。今日風強いな。
 だがしかし、聞き入れるつもりの無いような二人は「咬み殺す」「粛として清まりなさい!」と声を発してどつき合いを執行した。お前ら戦うん好きやな。……それにしてもアーデルハイトの粛として清まりなさい、アーデさんと似とるわ……。

 すると低い位置からボロ布が引っ張られて視線を向ければキラキラした目でこちらを見てくる雨宮さん。ん? かわええな、何? 襲ってくれって? え、かまへんよ?
 脳内がゆりっゆりに輝くのを知らず、雨宮さんは声を張り上げた。



「ファンです! サインください!!」
『……ん?』
「白玉様ですよね!? あのニヤ動の! ニヤ動リスナーで知らない人はいないです! さっきのめんどくさそうな声でわかりました! 握手してください!」
『!?』



 ぴしりと固まる。そして委員長二人の方を見ると片方は不思議そうに、片方は震えている。目の前の美少女は上目遣いに目をきらきら。……堪忍して……。



『……いや、こっちは白玉「え、白玉さん?」違う……う?』



 名前の聞こえた方を見るといかにも感動でうち震えてますって感じのアーデルハイト。若干目がうるんでるのは気のせいか?



「アーデよ、昨日ぶりね」
『……ワオ……』



 ……恭弥くん、今こっち超泣きたいすわ。思わず彼の口癖が飛び出た。
 遠い目をしながら恭弥に助けを求めれば、なぜか知らないがむすっと顔を歪めて腕組んで睨んで来ました。はやく済ませて僕のところに来いと告げてるようですはいはやく済ませます。
 雨宮さんと有り難く握手して、どこから出したかわからないサイン色紙にサインペンでサイン書く。アーデと分かったからとてもアーデルハイトと話しやすい。



『昨日ぶりやな。声似とったけどまさか本人やとは』
「ホントね、応接室にいたとは思わなかったわ。ボロ布被ってたからまさかとは思っていたけど」
『またコラボしょーな、昨日ホンマ楽しかったわ』
「ええ」
『またな』



 彼女らに手を気持ち軽く振って恭弥のもとにいくと早速昨日と同じようにボロ布引き剥がされた。なんなん恭弥、きみ引き剥がすん大好きやん。



「背負って。疲れた」
『はいはい。そのボロ布もっとってや』
「被る」



 よいしょ、と恭弥を背負って歩き出す。後ろでぱさ、と聞こえてから恭弥が頭からボロ布を被ったのだろう。
 驚く粛清委員長と雨宮さんに去り際手を振ればぎゅっと恭弥に首を絞められた。はいはい関わるなってことか。苦しいちゅーねん。



「きみ、有名なの?」
『……ちょっとだけな。小学生の頃から歌ってみたり生放送してみたりしとって。知らん間に有名なっとってん……』
「……白玉で?」
『ん』
「へえ」



.

130:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 15:37 ID:cek



 あれから数日。すでに連休に突入したのだが、誰かからからスマホに連絡が入った。



『……もしもし』
<伊達か!?>
『……せやけど、獄寺か? なんでこっちの番号知っと<うるせえ黙って聞け。……山本が何者かにやられた、今緊急手術を受けてる。現場は野球部の部室だ。……雲雀にも伝えろ!!>ブチッ……一方的ぃ』



 なんで彼がこちらの番号を知ってんねんリボーンくんか? リボーンくんなんか!? いやそもそも。応接室でなんでスマホなんか持ってるんだって話ですよね。クラフィおもろいです。そもそもなんで休日も応接室おるんこっち。あ。ほら恭弥がこっちに来てます。キレてます。



「なにスマホ持ってきてるの? 不要物だよね。まあ許してあげるからくちび『ま、待て待て恭弥』……なに」
『一大事や。山本がやられたらしい。しかも野球部の部室でや。血の海らしいで。はよ行こ』



 がっとこちらの顔を覗き込む恭弥に慌てて用件を伝えれば「……へえ、僕の見てないところでなにしてくれてんの」とご立腹だ。よかった。いやよくないけど。
 さあさっさと行こうそして恭弥よ忘れるのださっさと忘れろふぐっ。



「…っは……。今回も貰ったし、行こうか、その部室」
『……おまえな、理由付けてソレはあかんやろ。……受けか? 受けなんかお前は……』
「うるさい口は塞ぐよ」
『もうええわぼけ』



**

 その晩、家の固定電話に連絡が入った。誰だよ。



『もしもし』
<俺だ、リボーンだ>
『え、リボーンくん?』



 リボーンくんの名前が出た瞬間風くんの肩かびくりと震え、飲んでいた茶を吹いた。あーあ、後で掃除せんと。



『で、なん?』
<伊達、明日ボンゴレの継承式を開く。犯人の狙いはボンゴレの至宝らしいからな。犯人は明日絶対現れる、伊達も守護者として来てくれ>
『え』
<雲雀が迎えにいくから準備してろよ>
『は』



 出なあかんのかい……。


__

 クラフィ様のタイトルを出させていただきました。最近ランクが100越えし、織田信長やゼウスなど超ウィザードクリア出来てホクホクです。
 クラフィ最高。



.

131:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 16:05 ID:cek



 翌日、朝起きたらスーツが届いていました。とりあえずそれにさささっと着替えて朝食を取る。



「今日は継承式ですね」
『せやな』
「私は招待されてないので行けませんが、犯人を逃がしては行けませんよ」
『おん。……もしかしたら怪我するかもな』
「なら修行が足りなかったと言うことで時間を増やしましょう」
『決定やな』



**



 恭弥と共に継承式会場へとやって来ました。やはり二人とも黒のスーツです。え、下はスカートかって? 馬鹿野郎ズボンに決まってんだろ。
 会場ってさ、城をひとつ貸し切りにするもんなの? え、しちゃうもんなの?
 失礼ながら今日もボロ布を被っております。あ、シモンと一緒にいるボンゴレsを発見。



「珍しく自分達から来たぞ」
「ヒバリさん! 伊達さん!」
「……並盛中学(うち)の校内で並盛中学(うち)の生徒が傷つけられたんだ、犯人は咬み殺す」
『こっちは超不本意な』



 笹川の「これでボンゴレの守護者が全員揃ったな! 奴等は極限に頼りになる二人だ!」という声にたいして沢田がはいっ! と返していた。……君らこっちのことそんな強いと思ってへんくせに。



「さあ継承式に乗り込むぞ」



**



 継承はボンゴレI世の血の入った『罪』と言う小瓶が渡されれば完了する。血とかえげつい。
 さあボスの座が沢田綱吉へと継承されるぞ、と言うところで至るところから爆発が起きた。これは、煙幕か。
 目と耳が効かない。不利な状態でヴァリアーのこっちが未来で蹴り飛ばしてしまった銀髪ロング__スクアーロが「9代目は守護者に任せて大丈夫そうだなぁ!!」と怒鳴り、またあるところではキャバッローネのボスとして来ていた兄貴(ディーノ)が「来賓を守るぞ! ロマーリオ!」と動き出す。

 9代目の守護者が「金庫が破られている!」とひとつ叫んだ。どうやらみんなの前で継承しようとしていた『罪』は偽物で、本物は金庫に保管していたようだ。……盗られたか。
 すると、奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「七属性の炎で守るなど『罪』の場所を教えているようなもの」



 そうして姿を表したのは、シモンファミリーの面々だった。



.

132:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 16:26 ID:cek



 どうやら『罪』の中の血は、初代シモンファミリーのボスのものらしい。彼らがボンゴレに復讐するには『罪』が必要だったようだ。なぜそんなものがボンゴレの家宝なのか知らないが、こっちは話を聞かずに恭弥を背中に隠した。……何かがざわめいて仕方がない。気持ち悪い目が回る。
 雨宮さんの視線は、相変わらず恭弥に対しては熱くて、甘く蕩けるようなものだが、こっちに対しては先日の尊敬の念は無く、突き刺さるように鋭い。いみわからん。



「! ……いおり」
『……なんか、嫌な予感がすんねん』



 後ろ手に彼の手を握った。


 不意に体の奥のざわめきが強くなってシモンを見れば爆風がこちらを襲った。だがそれは獄寺の瓜の能力SISTEMA・C・A・Iで防御。彼らは己の填めるシモンリングを語る。
 大空の七属性に対をなす、大地の七属性だと。

 彼らはシモンの誇りを取り戻すためにボンゴレに復讐を望むらしい。……少し捻れているようにも思えるが。
 額に炎を灯した沢田が静かにシモンのボス、古里炎真に告げる。



「お前たちは、間違ってる。お前たちの辛い過去も、怒りの訳もわかった」



 シモンファミリーは訳あってマフィア界からさげすまれていたらしい。ひどい迫害を受け、みんな家族を失ったと聞く。そりゃそれがボンゴレのせいならキレるわな。



「だが、人を傷付けることは、誇りを取り戻すことじゃない!」



 衝撃で沢田を後ろから見つめた。彼はハイパー死ぬ気モードになると、性格が強気に変わる。話し方だってそうだ、普段はおどおどしてはっきり物事を告げられないのに。この状態になると核心をつく言葉を放つ。
 だが古里は聞き入れる気もないらしく、「アーデルハイト、さがっていて。僕一人で充分だ、ツナ君と守護者を潰すのは」と冷たく告げた。
 それにたいしてこちらは武器を構える。今日は斧ではなく棍棒だ。
 古里が手を不意にかざす。すると笹川と獄寺が左右に引っ張られるように壁に激突し、次は恭弥とクローム髑髏が天井に叩きつけられた。……彼は、重力を操るのか。
 不意に体が後ろに引っ張られる。やべ。



『……っぶね』



 自分から後ろへ飛び、壁に足を着地させて怪我は防いだ。びりびりと押さえつけられるような感覚だ。



「……彼女は、強いの? アーデルハイト」
「実力はボンゴレも見れていない。未知数よ」
『っ(誰が未知数やねん)』



.

133:ぜんざい◆A.:2017/01/03(火) 17:05 ID:cek


「ツナくん、信じかけてたんだよ」

 古里が沢田にそういった瞬間、体は再び注を浮いて、「やめろ!」という沢田の怒鳴りと共に他の四人とぶつけられる。
 ゴッと大きな音がしてこっちも含めて五人が地面に倒れ込んだ。

「みんな!」
「なぜ君にだけ攻撃してないかわかる? ツナくんには初代シモンがプリーモに受けた苦しみをしっかり味わって欲しいんだ」
「……! エンマ!」

 その声と共に素早くみんなが立ち上がる。それはこっちも例外じゃなくて、恭弥の隣ですくっと立ち上がった。だが、直ぐ様重力で叩き付けられてしまう。ぶちっと何かが切れる音がして、暑いものが右の額から流れる。くそ、血ぃ出た。
 そのままもっと強い重力で地面に押さえつけられる。骨が軋む、頭いたい。指でバキッと音が響く。9代目の守護者の人が「ボンゴレリングが!」と叫んでいたのでリングが割れたのか。すんませんアイザックさん指輪割れました。
 それは沢田が古里に攻撃を仕掛けるまで続き、目を閉じる。頭痛い。気が付けば古里たちシモンファミリーは立ち去ろうとしていた。

「クロームちゃんも連れてくよ、デートする約束してるからねーん♪」

 シモンの一人が意識を失ったクロームを横抱きにしながらそう呟く。すると、雨宮さんが「じゃあ私雲雀さん連れてく!」とこちらに駆け寄ってきた。……は? 恭弥連れてく? ……ふざけてんの? 今の発言で雨宮さんが恭弥に恋情を抱いているのが確信出来た。……無理。こっちはゆらりと立ち上がって、彼女を見据える。もっとボロ布になったそれをばさりと脱ぎ去って、睨む。

「へぇ、まだ立てるの?」
『……あー……それより君のが不快や。っざいし鬱陶しい。恭弥連れてく? は? ざけとん? 調子乗っとん? なあ? なあ? なあ!? なんとか言えやそこのカスが。なあおい』
「重傷負ってる癖に? よき私にそんなことが……キャッ!」

 あくどい笑みを浮かべてこちらに近寄ってきた彼女の足首に足払いを仕掛け、倒す。そこから彼女の胸辺りを左足でダンッと踏みつける。そのまま前のめりに左肘を太ももに起き、彼女の苦しむ様を見た。

「かはっ、あっ」
『黙れやクソみてぇな雌豚、あばら貫くぞ』
「あ゙っ、ひぐっ」

 足に力を入れればミシミシと軋む彼女のあばら。目に涙を浮かべ始めた彼女に額に青筋が浮かんだ気がした。

「やっ、かふっ、」
『なんや、お涙頂戴か? ざっけんなや雌豚ぁ。許しいほしいんやったら喉笛でも腹でも斬って死んで詫びるか、この場で全裸になって泣いて土下座して謝罪せえや。泣くくらいやったら靴でも何でも舐めて許しを請えよ。それかひたすら骨を折られた後に惨めに息絶えろ、なぁ、さっさと泣き喚く様を見せぇよ、泣けよ、おい聞いとんのかほらなんとか言えやおい!』

 再び足をあげて、高いところからふりおろすと、小さくバキッと音が聞こえる、それがこちらに刺激を与えたのか、自然と口角が釣り上がる。それと同時に「桜っ!」と言う古里の焦った声。途端こちらは地面に叩き付けられた。あまりの恐怖で意識を飛ばした彼女を古里が重力で引き寄せ、こちらを睨んで去っていく。押さえつけのなくなった体を起こして周りを見渡す。
 ディーノが、やって来た。

「キレたな」
『黙れや』

 その後すぐに人が部屋に入ってくる。

「おいしっかりしろ!」
「タンカを急げ!」
「怪我人多数だ!」

 そんな中、ディーノはこちらを連れて恭弥に駆け寄った。

「恭弥! 大丈夫か!?」
「寄らないで」

 恭弥はそのまま立ち上がり、「平気だよ」と血が流れる顔を見せてそういった。続けて憎々しげに微かに歯を食い縛りながら告げる。

「プライド以外はね」

.

134:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 10:07 ID:cek


 他の守護者も次々と来賓の方に助けてもらって起こされていた。その中で沢田が「……エンマ……手も足も出なかった」と呟く。
 それは他の守護者の脳内に響き、例外でもなくこっちも歯を食い縛った。
 それより、クロームが拐われてしまった。というかこっちがキレてしまった。もう何年もキレてなかったのに、なんてことだ。
 クロームが拐われたその時、意識を失っていたらしい獄寺と笹川は「マジスか!?」「何処へ行った!」と声をあげる。
 そんな彼らを放り、こっちは恭弥向かって一直線に歩き出した。



『恭弥』
「……いおり、肩貸して」
『ほら』



 がしっと恭弥の腕を掴んで肩を貸せば割れた額からぱたぱたと血が垂れてくる。そんなものに興味がないかのように前を向いて、怒鳴り合いをしていた9代目とスクアーロを眺めた。
 それに割り込んでリボーンが告げる。



「悪いニュースはそれだけじゃねえ。
エンマによって大空の七属性では最高位を持つボンゴレの至宝、ボンゴレリングがぶっ壊された」



 9代目の守護者の抱える台には壊されたボンゴレリングが綺麗に並べられていた。ばらばらになってしまったそれを見て目を逸らす。無惨な姿に初代に土下座でもしたい気持ちだった。

 もうリングはないのか……と残骸と化したそれを眺めていれば、「まだ光は消えとらんぞ」としわがれた爺の声が辺りに響く。奥から姿を現したのは、目隠しをしたお爺さんだった。……モヒカン?
 9代目がじじ様と言っていたので相当歳を召した方だろう。リボーン曰く彼は彫金師タルボと言い、ボンゴレにつかえる最古の人らしい。何でも初代の時代からつかえているとか。彫金師とは金属を加工しアクセサリーを作る職人のことで、彼は相当な腕を持つようだ。すげー。

 彼はボンゴレリングの前にたつと耳を傾け「おーイタタ」とリングに話し掛けた。彫金師タルボ曰く、優れたリングには魂が宿り、魂があれば感じることもあるとのこと。彼はその声を聞いてリングを作るのを生業としていると告げた。
 実際リングは生まれ変わりたがっていると言っているしそうなのだろう。ボンゴレリングはまだ、死んでいない。彼が言うにガワが壊れただけのようだ。



「ボンゴレリングは次の可能性を示しておるぞ」
「次の可能性……?」
「つまりまだボンゴレリングには、修復できる見込みがあると言うことですな!!」
「そうなるのう」



 修復できる、それを聞いて心がホッとして気付く。感じていた胸のざわめきは、リングが壊れる事だったのかと。彼は言う、修復と共にVer.アップをすると。



「お前たちは獣のリングを持っているようじゃの、わしに見せてくれんか」
「ケモノ……? アニマルリングのことですか?」
「そうじゃ、見せてみい」



 こっちたちは各々のアニマルリングを彼に渡した。タルボは「こやつらの魂も必要じゃ」とVer.アップに必須だと告げる。彼は「もちろん奴のアレも必須じゃがな」と自分の羽織っていたローブを広げ、現れた材料の多さに目を向く。そして彼がその中から取り出したのは赤い液体の入った瓶。そして、とんでもない言葉を放った。



「ボンゴレI世の血、“罰”じゃ」



 何で彼がそんなものを持っているのか知らないが、リングを作り直して貰えるらしい。罪と罰、本で読んだことのある気がしたが、内容は忘れてしまった。
 彼は告げる。リングの製造に成功すればボンゴレリングは今までにない力を手に入れる。ただ、失敗すればボンゴレリングの魂を失い、もう二度と輝くことはないだろうと聞かされた。確率は五分五分。こっちたちは全員それを肯定した。恭弥も無言ではあるもののリングには愛着を持っていたから修復できるのならそれがいい。
 どうするかは沢田に委ねられた。



「Ver.アップを、お願いします!!」



.

135:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 17:09 ID:cek



 こっちらは体を休めるため、9代目に用意してもらった部屋で休息を取っていた。
 恭弥があいつらとは別の部屋がいいと沢田たちのいる部屋の隣を陣取った。それについていくように部屋へ入る。怪我は手当てしてもらった。額には包帯が巻かれている。ちなみに腕と腹の火傷も見られ、「これはひどい! もっとちゃんと包帯を巻かねば!」と巻き直された。緩んでたしいっか。それと、ボロ布はもう再起不能、家に帰ったら予備を被ろう。

 無言でソファに座って天井を眺める。恭弥も好きなところ(と言うか窓際の椅子)に腰をかけ、無表情で外を眺めていた。不意に、恭弥が口を開く。こっちの肩が揺れた気がした。



「……ねえ」
『なん』
「きみ、跳ね馬が言ってたように、キレたの、あれ」
『雨宮踏みつけた時んことか』
「そう」
『キレたな、数年ぶりに』
「……なんで」
『恭弥を連れてくとか言うたから』
「……」
『思ってるより、こっち君のこと好きやわ』



 ぼー、と天井を眺めながらそう告げれば、照れ臭そうな声で「あっそ」と短く彼の声が飛んでくる。そしてふと気づいた。



『……まだちゃんと言うとらんな』
「…そうだね」
『……恭弥、好きやで』
「…僕も、好きだよ、いおり」



 本格的に照れ臭くなって天井から恭弥とは反対方向へ顔を向けた。恭弥も恭弥で顔を背けたまま、指先で肘おきをタン、タン、とついている。そして恭弥はおもむろに口を開いた。



「僕は、もっと強くなるよ。君に守られる側は、もう飽きた。今度は守られる側じゃなくて、守る側に立ちたい」
『……ん』
「ところで、沢田たちは君たちの実力を知らないよね」
『……絶対弱い思われとるやんな』
「見返せばいいよ」
『ん』



 そこで扉が開かれ、台の上に二つの手に収まる程度の小振りな岩が乗せられ、台車で姿を見せた。これが、新しいリング?



『……失敗したん?』



 持ってきた付き人にそれを聞けば彼は首を左右に振って、これに死ぬ気の炎を込めてくださいと恭弥とはこっちに告げる。……なるほど、失敗するかしないかはこっちらの炎の大きさに懸かっとるわけか。
 付き人がリングの岩を置いていったあと、それぞれが自分のものだと思われるソレを手に持ち、炎を灯す。
 炎の大きさとは、覚悟の大きさだ。
 ……こっちの覚悟は、せやな……死なへんことやな。死んでしまうと覚悟どころか全てを失うし、やりたいこともできない。
 そんな想いで岩を片手に炎を灯せば、一面が同時に、紅(ルージュ)と紫(バイオレット)の二つの色で覆われる。恭弥のタイミングと被ったようだ。ぴしぴしと岩に亀裂が入って、次の瞬間に岩はとある体の一部位めがけて飛んだ。
 首に巻き付いたソレは、堅い金属質の細長い物体になった。
 【夕焼のチョーカー Ver.X(イクス)】である。



『……チョーカー……』



 首もとをこの部屋の鏡で覗けば首の右に丸いガラスのような宝石のようなものにボンゴレ10代目を指すXが象られたボンゴレの紋様、その回りには小さな羽が羽ばたき、小鳥が端に止まっていた。小さな鎖がちゃらりと音を鳴らす。恭弥は雲のブレスレットのようで、ハリネズミが象られていた。突き出た刺が痛そうだが、綺麗なものだ。
 名前はVG(ボンゴレギア)と言うらしい。リングではなくなったが、これが今あるべき姿と気に止めない。



「行くよ」
『なんで』
「彼らが部屋に来る前に」
『……せやな』



 沢田たちが部屋へ突入してきた直前に、こっちと恭弥は窓から外へ出た。庭を徘徊して、声が聞こえる部屋を外から盗聴する。



「シモンファミリーの討伐は、ボンゴレX世(デーチモ)とその守護者とする。ただし、リボーンも同行すること。直に船の用意だ!」



 9代目の声が窓の外まで聞こえてくる。なるほど、島か。と納得してその場を二人で離れる。草壁にヘリで送ってもらおうと恭弥を見れば、既に携帯で連絡していた。



『はやっ』



.

136:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 17:42 ID:cek



 翌日、朝起きて風くんに事情を話す。昨日は家に帰って笑顔で寄ってきた風くんはこっちの額に巻かれた包帯と着替えてある服、そして腕に抱える再起不能になったボロ布を見てとびかかって来ましたから。どう? 天才的? 暴力的? ……どっちでもエエな、うん。昨日は気絶して話せなかったことを自白した。……別になんも悪いことしとらんねんけど。

 風くんはふむふむと頷き、長考してぱっと顔をあげた。



「……今回は、私もついていきます」
『!? リボーンくん居るで!?』
「もう大丈夫です。なので今回は行きます」
『でも9代目から指示』
「私には関係ありません。あなたは最近怪我ばかりです! 一体どれだけ心配させれば済むのですか!」
『うぃっす』
「意地でも行きます」
『なら一緒にいこか』



 そんなこんなで風くんを頭にのせて家を出た。もちろんおニューのボロ布被ってます。その上で上機嫌に鎮座している風くん。可愛すぎか。玄関横の鏡を見て鼻血を噴出したのは言うまでもない。……あーあ、新しいボロ布が、早速赤く汚れた。



「なんでいるの!」



 学校の屋上にて。なんで屋上にヘリポートが出来上がってんねんとか唖然としていたら、びっとこっちの頭の上を指差しながら声をあげる恭弥。視線的に風くんのことを言っている様子。
 こっちは彼に向かって『やから言うたやろ、近い未来会うて』と告げる。風くんは風くんで恭弥を見てにこにこ。そのまま彼の頭の上にすたんと移動し居座る。身軽やなー。



「……なんでいるの」
『風くんか?』
「それ以外に何があるの」
『なんや最近怪我多いって怒られてな。今回は意地でも行く言うて』
「……今回?」
『風くんな、こっt「私はいおりさんの家に居候させて頂いていますからね、毎回毎回大切な人が怪我だらけじゃ心配でしょう?」』
「……もう知らない」



 少し疲れたような顔をした彼は風くんを頭に乗っけたままヘリに乗り込んだ。恭弥も疲れる時は疲れんねんな……なんて意外に思った瞬間である。草壁くんが微笑んでいた。……きみホンマにこっちらより一個年下なん? お父さんみたいな雰囲気ばら蒔いとるけど。



.

137:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 18:30 ID:cek




 翌日、朝起きて風くんに事情を話す。昨日は家に帰って笑顔で寄ってきた風くんはこっちの額に巻かれた包帯と着替えてある服、そして腕に抱える再起不能になったボロ布を見てとびかかって来ましたから。どう? 天才的? 暴力的? ……どっちでもエエな、うん。昨日は気絶して話せなかったことを自白した。……別になんも悪いことしとらんねんけど。

 風くんはふむふむと頷き、長考してぱっと顔をあげた。



「……今回は、私もついていきます」
『!? リボーンくん居るで!?』
「もう大丈夫です。なので今回は行きます」
『でも9代目から指示』
「私には関係ありません。あなたは最近怪我ばかりです! 一体どれだけ心配させれば済むのですか!」
『うぃっす』
「意地でも行きます」
『なら一緒にいこか』



 そんなこんなで風くんを頭にのせて家を出た。もちろんおニューのボロ布被ってます。その上で上機嫌に鎮座している風くん。可愛すぎか。玄関横の鏡を見て鼻血を噴出したのは言うまでもない。……あーあ、新しいボロ布が、早速赤く汚れた。



「なんでいるの!」



 学校の屋上にて。なんで屋上にヘリポートが出来上がってんねんとか唖然としていたら、びっとこっちの頭の上を指差しながら声をあげる恭弥。視線的に風くんのことを言っている様子。
 こっちは彼に向かって『やから言うたやろ、近い未来会うて』と告げる。風くんは風くんで恭弥を見てにこにこ。そのまま彼の頭の上にすたんと移動し居座る。身軽やなー。



「……なんでいるの」
『風くんか?』
「それ以外に何があるの」
『なんや最近怪我多いって怒られてな。今回は意地でも行く言うて』
「……今回?」
『風くんな、こっt「私はいおりさんの家に居候させて頂いていますからね、毎回毎回大切な人が怪我だらけじゃ心配でしょう?」』
「……もう知らない」



 少し疲れたような顔をした彼は風くんを頭に乗っけたままヘリに乗り込んだ。恭弥も疲れる時は疲れんねんな……なんて意外に思った瞬間である。草壁くんが微笑んでいた。……きみホンマにこっちらより一個年下なん? お父さんみたいな雰囲気ばら蒔いとるけど。



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138:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 18:30 ID:cek

同じものを2つ投稿してしまいました。気にしないでください。

139:ぜんざい◆A.:2017/01/04(水) 22:19 ID:cek



 現在、風くんを抱えてヘリに乗ってます。運転は草壁、ほんまに君中学生なん?
 しばらくヘリに揺られれば、島が見えてきた。そこの山に沢田たちを発見する。気付いたこっちが恭弥を見れば、彼は既に草壁に指示を出していて、こちらを一度見てから扉を開ける。



「ご武運を祈ります」



 草壁のそんな言葉に「うん」『おん』と返して、風くんを抱え直す。恭弥はヘリの引っ掻けに足をカン、と音を鳴らしながら乗せ、下を若干笑顔で見下ろす。こっちはその横で片手で風くんを抱えながら恭弥と同じような態勢で驚く沢田たちを眺めた。ヒバードはこっちと恭弥を交互に見ていたので『恭弥に付いたって』と笑えば了解と言うように恭弥の横でぱたぱたと羽を羽ばたかせる。飛び降りた恭弥についていくヒバードをほほえましく見てから「風くん、リーチちゃんと抱えときや」と忠告し「はい」と返事が返ってきたのに頷き、遅れてこっちも飛び降りた。スカートの中が見えるとかそんなんいっそ関係無い。
 すたん、と地面に着地してヘリが去っていくのを背中で感じながら始まっていたアーデルハイトの言葉に耳を傾けた。後ろのリボーンがなぜ風が居るのかと言いたげな視線を送ってくれていますが。
 ……ありゃ、アーデルハイトの背中にしがみつくように立っているのは雨宮やないか。怯えたようにびくりと大袈裟に肩を揺らし、助けを求めるかのように敵である恭弥に視線を送る。どこの嫌われ系夢小説の悪女やねん。まあ案の定雨宮は恭弥に絶対零度の視線を浴びせられていましたが。



「勝負しろ雲雀恭弥」
「いい」



 アーデルハイトからの挑戦を一蹴したように思えた恭弥はその最中でも雨宮に鬱陶しいからこちらを見るなオーラを撒き散らしながら言い放つ。



「以前の屋上での戦いで君と言う獣の牙の大きさは見切った。君じゃ僕を咬み殺せない」
「何!!」



 あーあ。何を相手の神経を逆撫でするようなこと言うてんねん。呆れた顔して改めてアーデルハイトを眺める。……あの、そのですね、制服の前を開けるのは構わんのですけど、惜しげもなく胸を晒すんはやめてくれへんかな、心のカメラのシャッター音が鳴り止まんのですわ。そんなことを考えていれば腕に抱えていた風くんから呆れた視線をいただいた。なんやねん。



「まあだけど」



 そう呟いてジッとアーデルハイトを観察する恭弥。……思うんやけど恭弥って変態なん? 時々そんなオーラ発するんやけど。あれか? 恭弥も年頃なんか? やっぱし健全な(年齢的には高校生やけど)中学生やったん? まあ別にどんな恭弥でも愛でることには変わらへんねんけどな。



「僕の欲求不満のはけ口には丁度いい肉の塊だ」
「貴様……!! 未だシモンの恐ろしさをわかっていないようだな。勝負だ、ルールは互いの誇りによって決定する」



 そう告げてちゃっと大振りな刃物を構えたアーデルハイトは己の誇りを言い放つ。



「私の誇りは__【炎真率いるシモンファミリー】と、【粛清の志】!!」



 言うと思った。恭弥はそれをなんでもないようにスルーして「誇りでルールを決めるのかい? 変わってるね」と茶化す。
 途端、向かい風が勢いよく吹いて、髪の毛が舞い上がった。



「誇りなんて考えたことないけど……答えるのは難しくない。
【並盛中学の風紀】と【それを乱す者への鉄槌】」



 言うと思った。フード部分のボロ布を被ってその言葉を聞いてしみじみ実感する。だが彼はちらりとこちらを見て口角をあげて続けた。……なんでこっち見たん……。



「それと【伊達いおり】」



.

140:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 14:33 ID:cek



 その言葉に一同が固まる。唯一真っ先に動けたのは風くんで、こっちの腕の中で「何を言ってるんですか!!?」と某魔法先生主人公の様に眉間に皺を寄せ笑いながらツッコミを入れた。対する雨宮は絶句。



「雲雀は伊達にベタ惚れか」
「リボーン! なにを縁起でもないことを!」
『風くん今日ちょっとテンションおかしいな』
「あ、あの群れるのが嫌いなヒバリさんが……!」
「恐ろしいっすね……」
『沢田くんらにとっての恭弥ってなんなん』



 釈然としない様子でこっちは前に向き直り、「やはりな……ならばルールは簡単だ」と告げるアーデルハイトに何がやはりやねんと内心ツッコミを入れた。
 どうやら腕章没収戦をするらしく、文字通りお互いの腕章を先に奪った方が勝ちだ。アーデルハイトは付いてこいと崖から飛び降りスタンと着地する。どうやらそこが決戦の場らしい。
 恭弥は崖の方に近づいていき、その道中何やら顔が憔悴した沢田に声を掛ける。



「小動物、今の君の顔、つまらないな。
見てて、僕の戦い」



 沢田が「それって」と聞く前に恭弥はタン、と壁から飛び降りた。そこからロールを呼び出し、球針態でタンタンタンと足場を作り着地し、そして初めてVGを装着した。



「ロール、形態変化(カンビオ・フォルマ)」



 辺り一面が光輝き、恭弥の姿はいつもの学ランから改造長ランへと変化していた。背中には風紀と縫い付けてあり、やはり彼には風紀に対する並々ならぬ気迫があると改めて実感できる。いや、ヒバードの毛もリーゼンになるとは思わんかったわ、流石に。
 恭弥がVGを装着したあと、アーデルハイトが自ら滝に飛び込み、外部からの攻撃を一切遮断する氷の城、ダイヤモンドキャッスルを発動させヒッキーさせる。
 そこからでは腕章が取れないと思ったが、彼女は水を氷として操り、自分と同等の実力を持つ氷の人形を五百体出現させた。……五百体てしゃれになっとらんがな。名をブリザードロイドと言うらしい。厨二か。
 恭弥は襲いかかってきたブリザードロイドの攻撃をトンファーでいなし、そのあとVGによって頑丈になったトンファーの後ろから鋭利な鎖をじゃらりと垂らし、五体ほどを綺麗な切り口で切り刻む。鎖をトンファーに納めた恭弥はその綺麗な顔に凶悪な笑みを浮かべ、もう七体倒した。



「ブリザードロイドはあと493体、たとえ貴様と言えど体力と兵器が底をつく。私に辿り着くことなど絶対に不可能だ」



 こっちも恭弥も不可能? とぴくりと眉を寄せる。アーデルハイトはアホなんやろか。彼女は相手にしてしまった者の大きさを分かっていない。



「君は相手にしてしまった者の大きさをまだ気付いていないね。
僕の腕章を賭けてしまったことに、もっと覚悟を持った方がいい」



 恭弥の言葉にアーデルハイトが氷の中からなに? と眉を寄せた。



.

141:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 15:06 ID:cek



「風紀の二文字は何があっても譲らないよ。
……でも、誇りだから譲らないんじゃない。“譲れないから、誇り”なのさ」



 恭弥のその言葉はアーデルハイトに、ではなくて、沢田に告げられたように思える。実際、沢田の顔色が少し変わった。恭弥はトンファーを構えてアーデルハイトに言葉を投げる。



「待ってなよ、すぐに咬み殺してあげる」



 その言葉にアーデルハイトが「出来るものならやってみろ!」と怒鳴り、いっせいにブリザードロイドが恭弥に飛びかかった。三体の攻撃を右のトンファーで受け止め、ヒバードをこちらに寄越してからトンファーで凪ぎ払った。ぽすんとこちらのぼろ布の上に座ったヒバード。
 恭弥は再びトンファーから伸びるチェーンでブリザードロイドを切り裂き、靴のそこから出てきた鋭利な針で一体の顔面に蹴りを入れて突き刺す。そのまま体を回転させ、顔を砕いてから他のブリザードロイドと衝突させる。その際空中に躍り出た彼はロールに球針態で一方向に針を伸ばさせて10体ほど一気に倒す。球針態をそのまま元のサイズに戻した恭弥は小さくなった球針態をプクプクと増殖させ、トンファーで撃ち込む。宙から放ったそれは外れることなく多くのブリザードロイドへ命中した。そのままダンッと着地する恭弥にアーデルハイトは目を見開いて息を飲み、雨宮はぽかんと口を開け、沢田は唖然、獄寺は「つ、強ぇ」と呟きリボーンくんが「加減しなくていい分伸び伸び戦っているようにすら見えるな」と観察する。
 その横で驚いて目を真ん丸にする風くんを抱きながら、こっちは布の奥から微かに口角をあげて恭弥を見つめていた。その最中でもブリザードロイドの数は減っていく。恭弥容赦なし。
 恐れを知らず背後からとびかかってくるブリザードロイドたちに手錠を投げ付け各部位を引きちぎった。



「ちっ、ひるむな!」
「ひーふーみー……ふあ〜ぁ、そろそろ頃合いかな」



 大きなあくびをかました恭弥は再びトンファーからチェーンを伸ばし、近くの三体を刻む。そこから雲の炎の増殖でチェーンを伸ばしていき、恭弥は周りの敵を自身が回転しながら倒していき、そして__



「……!」
「嘘ぉ……」
「ぜ」
「全滅!!」



 恭弥はそのあとダイアモンドキャッスルに攻撃を仕掛け始めた。だが、アーデルハイトも黙ってはいない。再びブリザードロイドを出現させた。



「いいよ別に。戦力にカウントしてないから」
「……なぜだ? 何故貴様ほどの男が、沢田綱吉などにつく」
「ついてなんかいないさ。もしもついていると言うのならば、一番の理由はいおりがいるからだろうね。
君こそもう一匹の小動物につく意味あるの?」
「……炎真は軟弱な小動物などではない、シモンの悲しみを背負う強い男だ」
「いいや小動物さ。背負うなんて不釣り合いなことしてるから悲鳴をあげている」
「!」
「くっ、確かに炎真は戦いを好みはしない! 炎真にとって仲間を失うことは何よりも辛いことだ!」



 アーデルハイトの言い分を聞くと、要するに炎真の為に戦ってると言いたいのか、彼女は、彼女たちは。ただ、それは古里炎真に責任を押し付けとる言うことを気付けたらエエのに。



「君はひとつ勘違いをしているよ」



 そんな彼女に恭弥は不敵に笑って見せた。



.

142:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 15:40 ID:cek



「小動物は時として弱いばかりの生き物ではない。でなくちゃ地球上の小動物はとっくに絶滅してるよ」



 そう告げて恭弥は球針態をトンファーでダイヤモンドキャッスル向けて撃ち込み、言葉を続ける。



「小動物には小動物の生き延び方があるのさ」



 その場の全員がはっとして動きを止めた。……そろそろこっちの出番やろか。風くんに目配せして腕から頭の上に移動してもらう。屈伸して伸びをして、ぱんっとボロ布を伸ばした。布の端は所々ほつれ、まんま切国のそれだ。
 何が言いたいと言葉を投げるアーデルハイトに恭弥は「たとえば」と手のひらに乗るロールを見せた。



「君の氷の城を破壊するのは僕のトンファーではなく、この小動物のロールなのさ」
「なに?」



 ……やから球針態ぶちこんどってんな。納得。ホンマに、恭弥は頭がよお回るわ。



「君の自慢のこの城は、外からのどんな炎攻撃でも弾くようだけど、内側からの攻撃に耐えられるのかな」



 そうしてぴしぴしとダイヤモンドキャッスルにひびが走る。氷の城のなかで球針態が大きくなっているのだ。ぼんっとなかで大きくなった球針態はダイヤモンドキャッスルを砕いてアーデルハイトを外に出させる。地に足をつけたアーデルハイトの頭に恭弥はトンファーを構え、「終わりだよ」と死刑宣告を告げた。


「だが炎真は必ずやシモンを復興させる。ボンゴレについたことを後悔することになるだろう」
「僕はどちらにもついていない。僕のやりたいようにやるだけだ」
「……まさに何者にもとらわれることのない浮き雲だな。結局ボンゴレ大空の雲の守護者というわけか…」
「その言われ方嫌いだな……」



 そう会話をした恭弥は「まあ…確かに」とヒバードが羽ばたく空を見上げた。



「空があると、雲は自由に浮いていられるけどね。
……でもいずれ、大空でさえ、咬み殺す」



 そう言葉を放った恭弥は、アーデルハイトの【粛清】とかかれた腕章を引きちぎって「とったよ」と呟き「いらない」とぽいと捨てた。かわいそうやろ、やめたりや。
 そこで、雨宮が「次は私ね!」とこっちを睨んだ。だが、獄寺が「まだヴィンディチェが来てねえ!」と反論する。だが。



「ヴィンディチェにはもう言ってあるわ、私とアーデルハイトはペアバトルなのよ」
『……意地かよ』
「来なさい伊達いおり、案内してあげる」



 そう言ってひゅっと観戦していた岩場から飛び降り、恭弥たちが戦っていたところから走って遠ざかり始めた。こっちもしぶしぶと言ったように崖から飛び降りようとした……でもその前に。



『……沢田』
「え、伊達先輩……?」
『見てろ』



 布の奥からそれだけ告げてぱっと後ろ向きに、背中から飛び降りた。ばさばさとボロ布がはためく。奥で風くんが「ぶちかましてきてください」と口パクで言っているような気がした。
 くるんと回転し、すたんと着地。そして雨宮のあとを追いかけた。辿りついたのは、海岸だった。不思議なことに地面が砂浜ではなく岩場で多少不安定。……ここか。



「ここよ」
『……』
「よくも私にあんな真似してくれたわね」
『黙れ』



 布の奥からギラついた視線を送れば少し震えた雨宮。だが、それも一瞬、「黙る筋合いは無いわ」と双剣を手にした。



「言っておくけど、私はアーデルハイトより強いの」
『うざいなこのキチガイ。とっとと誇り言えや、始まらんやろ』
「キチガイじゃないわよっ。……答えてあげる、私の誇りは【シモンファミリー】と、この【双剣】と、【この世界にいること】よ!」
『……』



 絶句してドン引きした目で一歩下がる。雨宮は「なんでドン引きなのよ!」とわめいた。るさいわボケ。ざざんと波が彼女とこっちの足を濡らす。



『いや、【この世界にいること】て……トリップでもしてきたんかい、アホらし』
「っ! どうせあなたもトリップでしょ!」
『いやトリップってなんやねん。どこの夢小説やっちゅー話やねん』
「……(この子、本当にトリップしてないの? ならなんで夕焼の守護者なんて原作になかった指輪を持って雲雀さんの彼女なんかしてんの!? 本来私が雲雀さんの彼女になるはずだったのに!)」



 訳もわからずこっちをぎりぎりと睨んでくる彼女に溜め息を吐いてにや、と不敵に笑って見せた。



.

143:ぜんざい◆A.:2017/01/05(木) 23:52 ID:cek


『……こっちの誇り、言うてへんな』
「そうね、さっさと言いなさいよ。早くしたいんでしょ?」
『……こっちの誇りは【絵の才能に恵まれたこと】と【雲雀恭弥の隣におること】や』



 棍棒をびゅびゅんと手で回し、カンッと岩場に立てる。彼女はこっちの誇りを聞いたとき、いや、正確には恭弥の名前が出たときに目を吊り上げた。まあ吊り上げるだけで何もしてきて無いんやけど。



「伊達も雲雀にべた惚れか」
「当たり前でしょ、なんだと思ってたの赤ん坊」
「(他人のことでこんな自信満々なヒバリさん見たことないや……)」
「初耳ですよ雲雀恭弥! 私は認めませんからね!」
「風、お前どうしたんだ? さっきから伊達の親父みてえだぞ。それと、後でなんで伊達と来たのか、知り合いだったのか聞くからな」
「構いません、その代わりさっきの私がいおりさんの親父等と言う発言を取り消しなさい。まったく、何を言い出すのやら」
「……伊達のやつ、絵の才能に恵まれたとか言ってたけど……どうなんスかねぇ、10代目」
「いおりは絵が上手いよ、応接室に飾ってある校舎の絵、アレ、いおりが描いたやつだからね」
「えっ!? あの額縁に飾ってあるやつですか!? しゃ、写真じゃなかったんだ……」
「……マジかよ」
「確かにいおりさんびっくりするぐらい絵がお上手ですよね」
「(さっきから風のやつ、伊達のことになると喋り出すな……一体どうしちまったんだ?)」
『おまえらうるさいわ、黙れ』



 喧しい、むしろ女は三人も集まって無いのになぜか姦しい外野を一喝し、睨み付けてくる雨宮を蔑んだ目で流す。嘲りを込めて彼女を見据えれば「なによその目!」とキレられた。ヒステリックは嫌いやねんけど。うるさいし。



「ルールはさっきみたいな没収戦じゃない。ただのガチンコバトルよ。相手に降参と言わせるか、戦闘不能にした方が勝ち。どう? 分かりやすいでしょ?」
『小学生の考えそうな対決やな』
「いちいちうるさいのよあんたは!!」
『お前もな。ほら、誇りを懸けて戦うんやろ』
「……私は、絶対負けないわ、炎真の為にも、シモンの為にも__」



 彼女はそのあと、小声でこちらに聞こえる様にだけ呟いた。「あんたから雲雀さんを取る為にも」と。
 その瞬間、戦いは開始され、彼女は「私はVGを発動させる余裕なんてあげないわよ!」と双剣を両手にこちらへやって来た。ぞっと背筋に悪寒が走って咄嗟に「形態変化(カンビオ・フォルマ)!」と叫んだ。小鳥の名前はまだ決めてない。



「でぇりゃ!」
『いっ! がっ、は……』



 それと同時に彼女は双剣の柄の尾でこちらの喉を潰した。間に合った。あと一秒ほど叫ぶのが遅かったらVGを発動させられなかった。背後から彼女にたいしての殺気を感じるもこっちに向けられている訳じゃないので雨宮ご愁傷様とか思いながら彼女の腹を蹴り飛ばした。みしりと嫌な音が聞こえた気がする。



「かふっ、」



 そのまま雨宮は蹴りの威力により吹っ飛び、背後の海にばしゃんと膝をついた。



.

144:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 00:59 ID:cek

こっちのVGは発動していた。さっきまで並中の制服を来ていたのにネギ○!の主人公が後半着ていた様なノースリーブの物を着ていた。下は短パンにニーソ。二の腕まである黒い手袋。ズボン以外まんまやん、でも背中にボンゴレの紋章入っとるんやろな。変わらずボロ布は頭から被っとるけど。
腰にはベルトポーチが巻かれた軽装。ポーチの中を見れば一本のペン。そしてそこからぶら下がるのは邪魔にならない程度の申し訳サイズなスケッチブック。このVGはあれか、ネ○ま!リスペクトなんか?スケッチブックとペンの使い方が分かってしまった。

「私のリングの属性は【大海】、海は私にぴったりなのよ!」

そう叫びながら彼女は双剣に海のような深い青色の炎を……実際海も混じっているのだろうそれを纏わせてこちらを一閃した。こっちはそれを飛び上がりつつ避けて、スケッチブックとペンを手にする。

「なっ! あいつ!?」
「…VGの機能か」


驚く声が聞こえた。そんなの関係なしにばりばりとペンを滑らせ、次の瞬間には出来上がった絵。考えが正しければ。予想通りその紙はぼんと白い煙をあげ手に収まる。
こっちが書いたもの、それは未来に行ったときに振るった斧。そのあとにまだ必要だと思うものをストックページにさらさらと絵を書いていく。こっちのVGの能力はこのスケッチブックに書いた絵は実体化すると言うものだ。もちろん幻覚ではなく本物。

『っ!』

こっちはそのまま彼女めがけて斧を振り下ろした。寸での所で避けた彼女は海を転がる。獲物を失った斧は海を縦に裂き、地面の岩場を削った。そのまま斧を引き抜き近くの彼女めがけて横一閃に薙ぎ払う。それもしゃがんで回避した彼女に舌打ちして連撃を浴びせていった。彼女も実力はそこそこあるようで、逆手に持った双剣でガンギンと必死にガードしていく。これやったらスケブのページを開き、持ち手の長いハンマーを出して叩き付けた。

「嘘っ!」

彼女は双剣でハンマーを受け止める、だがそれがダメだった様だ。左手に持つ双剣にひびが入ってしまったらしい。こっちはそのまま双剣を足場に宙を翻りダンと岩場に足をついた。

「予想外だ、彼女があそこまで出来るなんて…」

アーデルハイトがこちらの背中を見ながらそう呟いたのが分かる。リボーンも「正直俺もここまでやるとは思ってなかったぞ」と口にした。

「俺たちはまだなんだかんだで伊達の実力を知らなかったのか」
「甘いですねリボーン。彼女はまだ本気を出していませんよ」

その風くんの言葉で雨宮は顔をしかめた。まるでまだ本気じゃないの?悔しい!って感じの顔がイラつく。苛々する。
後ろを呆れたように睨んで雨宮に再び向き直り、斧とハンマーのふたつを構えながら『まだやろ』とでも言いたげな顔をして挑発した。気ぃつけなあかん。やって彼女はまだリングの能力を使っとらんから。
彼女を鼻で笑ってから攻撃を仕掛ける。夕焼の炎の特徴。それは、軽化……だけではない。正式には『重軽』、10年後のこっちめ、面白がって軽化としか教えとらんかったなアホめ。彼女にハンマーを振り下ろしてから重さを100倍にする。これが当たればひとたまりもないだろう。
命の危険を察したのか彼女は左のひびの入った方でそれをいなした。行き場を失ったハンマーはそのまま海へどぼん。しかし、それだけでは収まらなかった。どっぽぉんと半径100メートルほどミルククラウン状に海は裂けて、したの剥き出しになった岩場はとんでもない轟音を轟かせながら円形に砕かれる。ぽっかりと空いた穴がさっきのハンマーの威力をこっちらに思い知らさせた。

「夕焼の守護者はファミリーの絶対的切り札となる…それどころの話じゃねーな」

外野のそんな声を聞きながらハンマーに炎を纏わせて軽化して担ぐ。下敷きになっていたのは、可哀想なことに粉々な雨宮の双剣であった。

「大海の炎の特徴は吸収よ…? 言わばクッションみたいな役割を果たせる。なのに、粉々なんて!」

こっちは顔面蒼白な雨宮を無言で嘲笑い、ハンマーと斧を消した。…意外に脳内で消えろとか思たら消えたから驚きや。

145:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 14:35 ID:cek




「なんで武器を消したの? ハンデのつもり?」



 雨宮が短く息を切らしながらこちらを睨む。見る人によっては確かにハンデの様に見えるのだろう。こっちの本当の戦闘スタイルを見てない人からしたら。基本的にこっちは素手か棍棒を扱う。これはまだまだ序の口なのだ。



『……』



 不機嫌そうな顔で背中の竹刀袋から棍棒を取り出した。こっちはスケッチブックにしゃかしゃかと文字を書き、立体化させる。

<アホか。準備運動済んだから本気でいくねん>

 ひゅひゅんと振り回せばやはりこれが一番しっくり来る。



「……準備運動だと?」
「そうです、彼女の本領は__」



 遠くでそんな会話をしているとも気付かずこっちは不機嫌を露にした無表情で棍棒を振り下ろした。きんっと双剣で重みの掛かった棍棒を受け止め、こっちはそれを支えに回し蹴りを一発彼女の腹にぶちこんだ。吹き飛ぶ彼女に追い打ちを掛けるようにして、逃がすわけもなく吹っ飛ぶ方向とは逆に勢いをつけるようにもう一度蹴りを入れる。
 かはっと胃の中のものを吐き出した彼女は更に浅瀬ではない、奥の方の海にばしゃんと転がった。ざざぁと波をうつ海は靴の中を水浸しにして、ボロ布の端を色濃く染める。
 勝敗は戦闘不能にするか相手に降参と言わせること。彼女はどうやらこっちの喉を潰したあと、参ったと言わせるつもりもなくなぶる気だったのだろう。いいだろう、そうしてやる。
 彼女の髪を引っ付かんで喉を思いきり拳で突いた。恐らくこれで喉は潰れてくれただろう。参ったとは言わせない。
 座り込んでげほげほと咳き込む彼女を冷えた目で見下ろし、ハッと嘲笑する。ざまあみろ。表面では睨みつけられているものの怯えたような色がその瞳の奥に伺えた。彼女はムキになって海の水を自在に操り、手の形を作って襲ってくる。そんな大振り、誰が喰らうと……ん?
 足が動かない。足元をよく見れば手の形をした海がまとわりついていて、回避の態勢が取れないようになっていた。せやった、ここ海やん。まあ出遅れである。
 こっちがそれに気づいて舌打ちしたときには海の手のなかにいて、がぼっと口から空気が漏れた。
 鼻に水が入って痛い、塩水が目に染みる、息が出来ない。
 ぶんっとそのまま投げられて背面の崖にぶつかった。



『かはっ……』



 ようやく肺に酸素を送り込めると大きく息を吸って吐く。……ちょっといおりさん、ぶちギレそうやわ。
 かひゅ、と息をしている雨宮はこちらを見て、こっちの炎で潰れた喉を軽化する。そもそも、最初の喉潰しの攻撃は軽化で軽くしていたので大ダメージではない。試しに声をあ、あ、と出してみると掠れはしているものの、ちゃんと出る。
 こっちは早速ダメになってしまったボロ布を脱ぎ去った。



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146:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 15:22 ID:cek



「__格闘技ですから」



 遠くで風くんが先程の言葉を続けた気がする。こっちは素早く彼女の元へ走り、足払いを仕掛ける。そして重力を失った彼女の右腕と右足をひっつかみ、ぐるんと回転させた。「っ!!!」と宙でぎゅんぎゅんきれいな円を描いて回転する彼女の鳩尾に『っぇやぁ!!』正拳突きをして吹き飛ばす。わーめっちゃ飛んだー。
 ざばば、と水切りの様に跳ねる彼女へ、聞いているかどうか分からないが言葉を投げ付けてやった。



『げほっ……譲りたくないものがあるんやったら、それが誇りやアホ。【この世界におること】とか当たり前すぎることバカみたいにかっこつけて言いよってからに……。そんなしょーもないもんとこっちの誇りを賭けろ言うんやったら加減せんからな。侮辱でもしてみぃ、悲鳴を上げてもどつき回すぞ』



 彼女のところまで言って腕組みしてそう告げた。彼女はとうとう怯えきった目をして両手をあげる。……何がしたいねん。



「こ、降参した!」
「伊達の勝ちっすね!」



 騒ぐ外野、それを聞いて命の安全を確保した雨宮。……はっ、何が。



『アホ、まだ終わっとらんわ』
「……え?」



 こっちは凶悪な笑みを浮かべて後ろを振り返る。沢田が顔を青くさせていたが、これはまだ勝敗が決していない。



『やって勝敗……【戦闘不能にする】か……【相手に降参と“言わせる”】か、やろ? 降参の身振りだけしても言うてへんから、まだや』



 沢田に向かってそう告げれば、リボーンは「アイツは俺以上の鬼だな」とにやりと笑う。すっかり怯えきって身を震わせる彼女の前にしゃがみこみ、『よおあんな偉そうな口聞いてくれたな』と嘲笑った。
 スケブにしゃかしゃかと手錠を掻いて実体化させて彼女の両手にかしゃんと掛ける。そのまま腕を持ち上げて岩場まで引き摺って行った。



「き、貴様! 桜になにをする気だ!」
『黙れカス』



 怒鳴ってきたアーデルハイトに冷酷になっているであろう視線をぶつけてスケブにさらさらととある絵を描く。フェアリー○イルの楽園の塔編でジェ○ールが懲罰房へ入れられたときに吊るされていたあの拘束台。それを実体化させて彼女の手錠に吊るす部分を取り付けた。攻撃されたらたまったもんじゃないからシモンリングと片方になってしまった双剣を預かっておく。
 一旦いろいろ書かねば、と手頃な椅子を実体化させてぼすんと腰をおろしてバリバリ、とリズムよく描いていく。描けたものは次々と実体化させて並べていく。鉄の処女(アイアンメイデン)、電気椅子、三角木馬、ファラリスの雄牛、昔の時代劇とかでよく見るギザギザの石の上に正座して太ももにレンガをのせる拷問具。あとは電○教師の柊有栖が持っていたような、ディーノのものとは違う鞭。
 きっとこっちの顔は凶悪かつ満足げだろう。ぱしーんぱしーんと鞭を手で弾いて彼女に微笑む。



『……ほら、どうにか言うてみ、害虫』
「っ!!!……かふっ、げほっ……」
『必死に声を出して喋ろうとする様が無様やな。どれからやってほしい? あ、アイアンメイデンは気にせんでも最後やから。電気椅子の電気もクソ強い静電気がずっと流れる感じやから死にはせんで』
「伊達さんなんかスイッチ入っちゃったー!」



 笑みを携えて椅子で足組んで彼女を見れば、彼女の背後の崖の上から沢田の突っ込む声が聞こえる。いやスイッチなんか入っとらんで。



『キレとるだけや』
「尚怖い!!!」
『……って、あ。……気ぃ失のうとる。……人って恐怖がキャパ振り切ると気絶するってホンマやねんな』
「気絶させちゃったよ!!!!」
『沢田うっさい』



.

147:ぜんざい◆A.:2017/01/06(金) 21:42 ID:cek



「勝敗は決した」



 そんな不気味な声が辺りに響いた。姿を表したのはシルクハットに包帯ぐるぐる巻きの黒いローブの男たち。恐らくあれが話に聞くヴィンディチェなのだろう。ヴィンディチェは一戦ごとに過去の記憶を見せるようだ。
 彼らはインクの瓶を手に、過去の記憶へとシモンとボンゴレの守護者を誘った。



**



「南イタリアの戦局の方は……あれからどうなっている?」



 イギリスの豪華な城の広間で、ボンゴレI世を中心にI世ファミリーが深刻な顔で会議をしていた。
 Gと呼ばれる獄寺に似た、I世の右腕かつ初代嵐の守護者が「敵の大部分が集結している……厄介な長期戦になりそうだぜ」と意見を発した。それに山本にそっくりの雨の守護者、浅利雨月が「しかしこれ以上ここに戦力を割くことはできまい」と苦々しい顔で反論した。六道そっくりの霧の守護者D・スペードが「他に三つの抗争をしているのですからね」とI世の横でそう呟いた。
 不意に、恭弥にそっくりだが口を開かない初代雲の守護者、アラウディの隣に居た頭からボロ布を被った女がI世に意見する。



「……こっちが出る」
「アイザック!?」



 がたんと椅子から立ち上がった、沢田の面影のある落ち着いたイケメン、I世__ジョットが驚いたように目を見開いた。隣のアラウディが腕を組んだままアイザックと呼ばれるボロ布を被った女を凝視する。初代夕焼の守護者であるアイザックはジョットに了承を得ようとするが、ジョット、アラウディ共に止められた。



「アイザックは仮にも女だ、最前線にだすわけにはいかない」
「……元軍のトップを女扱いをするな。舐めているのか、ジョット」
「舐めてない!」
「僕も反対だよ」
「……なんでだ」
「アイザックには目に見えるとこに居てもらわないと困るし調子出ないし監禁したい」
「」
「」
「ジョットもアイザックも息して。……怪我したらと僕泣くからね、部屋から出さないからね」
「……お前の泣き顔か、それもアリだな……。よしジョット、こっち前線行って大怪我してくる。待ってろアラウディ帰ってきたら声も出ないくらい抱き潰してやる、腰を痛める覚悟をしてろ」
「……今も、腰は痛いよ」
「下品だぞお前たち。頼むぞやめてくれ。アイザック、お前は大事な戦力なんだ今前線に出るのはやめてくれ、困る。頼むホントやめて」



 どうやら初代夕焼の守護者と雲の守護者は今のこっちと恭弥の関係より深いようだ。やっぱり受けと攻め逆じゃねなんて思いながらI世(プリーモ)さん苦労してんだなとかしみじみ思う。ちょっとアラウディさんがヤンデレちっくですが恭弥くんはそんなことにはならないと断言できる。多分。
 そこで敵の大部分に、孤立しているファミリーがいると言う。シモンファミリーである。驚いて助けにいこうとしたI世を引き留めて代わりに自分が行くと告げたD・スペードは口に不気味な笑みを携えその部屋をあとにした。結果的に、I世はシモン・コザァートを見捨ててなど居なかったのである。



「……I世は、シモン・コザァートを見捨ててなんか、なかったんだ……」



 過去を見終わった沢田が、ぽつりと呟いた。



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148:ぜんざい◆A.:2017/01/07(土) 19:09 ID:cek


 がしゃんと鈴木アーデルハイトと雨宮桜の首にヴィンディチェの首輪がはめられた。
 そこから流れで何者かがコザァートを罠にハメたことになるとリボーンが予測した。とたん、何かの気配を感じ、こっちは呆れたように溜め息をつき、恭弥が「そこにいる君は……誰だい?」と背後に向かってビュッ、と手錠を投げる。運良くその手前の枝に手錠がかかり、投げられた本人は「おっと、あぶねー!」とおちゃらけた声をあげた。
 姿を表したのはシモンファミリーの一人、加藤ジュリーだった。なぜか拐ったクロームをくっつけて。クロームの目は生気がなく、何かの術を掛けられたように見受けられた。
 アーデルハイトがジュリーを見て「炎真のことは……頼めるわね」と呟く。それに「あぁ、まかせとけ。お前はよくやったさアーデル」とジュリーが労りの言葉を投げた。それに「ジュリー……」と微かに涙ぐみ、恋情を込めた瞳でアーデルは名を呼ぶ。だが、そんな空気はジュリーの一言でぶち壊された。



「ぬふふっ、これでオレちんもきれいさっぱり、シモンに見切りをつけられる」



 加藤ジュリーのそんな言葉に沢田と獄寺は「!?」と驚愕し、獄寺の肩に乗っていたリボーンはジッとジュリーを見据える。こっちは地面にほったらかしにしていた風くんを抱えて「……!? ジュリー!?」と驚きを隠さず目に涙を溜めて見開くアーデルハイトを見た。気絶している雨宮など知らん。
 加藤ジュリーの正体……いや、加藤ジュリーで合っているのだろうけどその体を乗っ取っていたのは、初代霧の守護者、D・スペード。彼はもう数百年昔の人だ、なんでそんな人が現代に存在するのか謎だがシモン・コザァートを罠にハメたのは信じたくないが彼だった。ボンゴレの為だとかほざいていたが知らん。
 怒りに震えて「おのれ!」とD・スペードのもとへ動こうとしたアーデルハイトはヴィンディチェの鎖を全身に巻かれて身動きが出来なくなってしまった。D・スペードは「御苦労でした、アーデルハイト」と彼女に嘲笑をかました。途端、アーデルハイトは「ジュリーを! ジュリーをどこへやった!!」と激昴してしまう。彼女も恋する女の子だったようだ。
 途端、D・スペードの背後から「許さねえ!」と聞き覚えのない声が響き、D・スペードの背後から、シモンファミリーの一員である山本をやった犯人とも言う水野薫が鳩尾を貫いた。
 とか思ったら今度は水野薫がD・スペードの槍に貫かれて倒れる。なんなんこの刺したり刺されたりな状況。そしてそれを見た恭弥がD・スペードへつっかかる始末。途中で山本武が乱入してきて過去を再び見た。I世はD・スペードの企みに気付いており、シモン・コザァートは殺されていなかったことがわかった。まあそこからVGを解いて芝生のある辺りで座り、ひたすら風くんを愛でt……撫でていた。風くん髪さらっさらやわ。恭弥とやっぱ似とる。リーチもかわええよな。そうして一人と二匹を愛ていたら、ぱたぱたとヒバードがこちらに飛んできて撫でていた風くんの頭に遮るようにぽすんと乗った。お前もかわええなヒバード。
 気が付けばアーデルハイトたちと沢田は和解していた。沢田が古里炎真を救うと言う話になっていたようで、アーデルハイト、雨宮、水野はヴィンディチェに連れていかれた。なんまんだぶ。なんまんだぶ。
 そしてことが済んでこっち来た恭弥は横で寝転がって寝た。ヒバードが恭弥の腹の上に乗って同じように睡眠を取り出す。なにこのかわええ集団、なにこのかわええ集団。大事なことだから二回言いました。風くんを寝た恭弥の腕にもたれるようにおいて、予め持ってきていA4サイズのスケッチブックにバリバリしゃかしゃかとえんぴつを滑らす。



「どいつもヘコたれてるから一度しっかり休んだ方が良さそうだな、すでに寝てる奴もいるけどな」
「あっ!!!」
「ヒバリさん……いつから!? っていうか! 伊達さん!?」
『あっ……』
「伊達先輩なのなー」
「すげえ勢いで模写してやがる……」
『いや、ちょっと……鼻血出そうで気ぃまぎらわそうと……』
「「「鼻血!?」」」



.

149:ぜんざい◆A.:2017/01/07(土) 20:05 ID:cek

台本書きすいません…。
番外編【ハルのハルハルインタビュー】

 今日、リボーンに呼び出しを受けた風は沢田宅へとやって来ていた。

ハル「第二十八回、今回はリボーンちゃんのお友達の赤ちゃん、風ちゃんが来てくれました!」
風「こんにちは」ペコリ
ハ「こんにちは! おめめがクリクリでキュートです! 今回はイーピンちゃんにバレないようにお忍びで来ているということですが」
風「はい、今回、リボーンが家庭教師をすると聞き、それにともないイーピンの様子を見るため日本に来たのですが、イーピンには一人で修行をするよう言っているので師匠の私としては会うわけにはいかないのです」
ハ「はひ〜、赤ちゃんなのに礼儀正しくて敬語が上手ですー!」
ツナ「礼儀正しい所はイーピンそっくりだよ! でもまさかイーピンの師匠がアルコバレーノだとは……。リボーンやコロネロみたいに普通の赤ん坊じゃないってことだよな…」
リボーン「風は最強の拳法家だぞ。でっかい大会で何度も優勝してるんだ。素手での戦闘ならアルコバレーノでもトップだぞ」
ツ「やっぱただ者じゃない〜!」
風「リボーン、まだあなたと真剣に手合わせしたことがないから分かりませんね」
リ「まーな」ニッ
ツ「なんか全然赤ん坊同士の会話じゃないし! ブゥーとかバブーとかだろ? 普通!?」
ハ「確かに内容は難解でよくわかりませんでしたが…仲が良いのはわかりました!」
風「そう言われればリボーンとは不思議と、出会った最初の頃から争い事は有りませんね」
リ「別に争う理由がねーからな。ちなみに、どれくらい風の拳が超人的かツナの消ゴムで見せてやるぞ、ここに軽く撃ってこい風」
ツ「え? 俺の消しゴム?」
風「……しかし」
リ「いいから打て」
風「……では、軽く」
シュッ!! トンッ!!!
ツ「!! んなー! 消しゴムにくっきり小さな拳の跡がー!」
リボ「拳圧だけでこんなことができちまうんだぞ」
ハ「キャー! ちっちゃいお手々のマークがキュートです! この消しゴム欲しいです!」
ツ「そ……そういうもんか?」
リ「ところでハル、風に質問はねーのか?」
ハ「はひ! あります! 風ちゃんのお顔はヒバリさんによく似ていますが兄弟でしょうか?」
ツ「きょっ、兄弟!?」
風「フフッ、兄弟ではありませんよ」
ツ「でも確かに、よく似てる! ヒバリさんの小さい時ってこんなかも……」
風「……心当たりが無いわけではないのですが、彼が嫌がります、次の質問に行きましょう」
ツ「ん……?」
ハ「はひ……?」
リ「じゃあ俺から質問だ、風と伊達はいつから知り合いになったんだ?」
風「ああそのことですか。一年ほど前に私は既に日本に来ていたのですが、泊まる宿が見つからず手頃な所はないかと質問をした方が偶然いおりさんだったのです」
ツ「知り合ったのって偶然だったんだ……」
ハ「あの布を被ったかっこいい女性ですね!」
風「でしょう? かっこいいでしょう? そうでしょうそうでしょう」
リ「お前伊達が絡むと可笑しくなるな」
風「失礼ですよリボーン。そのままいおりさんに家に住んでも構わないと言われたので、現在はいおりさんの家に居候で二人で暮らしてます」
ハル「いおりさん、親はどうしたんでしょうか?」
風「世界一周旅行だと仰っていましたよ」

 すると下の道路から『待て待て待て誤解や誤解』と言う悲痛な叫び声がツナの部屋に聞こえてきた。何かがぶつかり合う音が辺りに響く。沢田たちが窓から身を乗り出せばそこには素手の白い物体とトンファーを持った雲雀。白い物体とは伊達である。

ツ「伊達さん!?」
いおり『あ、沢田やん。恭弥ちょお待って』
雲雀「やだ」ヒュカッ
い『聞き分け悪いで』
雲「……ちっ」
つ「(ヒバリさんが大人しくなったー!)」



 そうしてハルのハルハルインタビューに雲雀、伊達乱入。



.

150:ぜんざい◆A.:2017/01/07(土) 20:47 ID:cek

い『はー、インタビューな』
雲「僕も一回やったね」
ハ「と言うわけで風ちゃんとまとめて一緒にやっちゃいましょう!」
リ「そうだな」
ツ「大人数になったな」
ハ「伊達さんのプロフィールを教えてください!」
い『誕生日4/12、星座おひつじ座、血液型A型、身長175cm、体重56kgや』
ツ「体重まで言っちゃったよ!」
リ「こう聞くとお前身長たけぇな」
い『兄貴んとこの血ぃ引いとんちゃう? 身長だけ』
ハ「兄貴……?」
い『遠縁のディーノや』
ツ「そうだ、ディーノさんと親戚だった!」
風「彼、いおりさんにとても甘いですよね」
い『せやな、去年の誕生日セグウェイもろたし』
雲「ああ、あれ跳ね馬にもらったやつだったの」
ツ「誕生日プレゼントにセグウェイー!?」
リ「ディーノがマフィアのボスだってのもその時聞いたんだろ?」
い『せやな。いや、あいつ家豪邸やしボンボンやとはおもっとったけどマフィアのボスやったとは。あのへなちょこが』
ツ「ナチュラルに悪口だー!」
い『アイツ、こっちにマフィアやとか隠しとった理由分かるか?』
風「いえ……」
い『こっち非現実的なこと好きちゃうやん、アイツマフィアのボスとか非現実的って自覚しとったからだまっとった言う訳や』
リ「なるほどな」
ハ「難しいことは分かりませんが質問です! 伊達さんとヒバリさんはいつも一緒に居るようですが、お付き合いしているのですか?」
い『ノーコメンt』
雲「そうだよ」
ツ「伊達さんを遮ってヒバリさん即答だよ!!!!」
風「私は認めませんからね」
リ「お前は伊達の親か」
風「やめてくださいよリボーン」
ハ「ヒバリさんのスピーディな返答に驚きましたが、いつからお付き合いなされてるんですか?」
い『……』
雲「……」
ツ「顔見合わせて悩み始めた!」
リ「謎だな」
い『……いや、いつやろ』
雲「……10年後から帰ってきてから……いや、継承式のVGに炎を注入する直前かな」
ツ「(今日はヒバリさんよく喋るなぁ)」
雲「それより僕はなんであの風とか言う赤ん坊と二人で住んでたのか聞いてるんだけど。いつからなのか知らないんだけど」
い『いや、やから……おいおい頼むってトンファー構えんなて。せやな、恭弥と初めて会うたその帰りやな』
風・雲「えっ」
リ「偶然だな」
ツ「心なしか風とヒバリさんの間で火花が散ってるような気がするんだけど」
ハ「その……よ、汚れた布はどうしてですか?」
リ「華麗なスルーだな」
い『ボロつ布は左腕の包帯のカモフラージュや』
ハ「ではいおりさん、風さん、好きな食べ物はなんですか? 順番にどうぞ!」
い『ぜんざいやな』
風「麻婆豆腐です」
ツ「へー、やっぱり中華料理なんだね!」
風「ただし、昔と味覚が変わってしまい、甘口じゃないと食べれなくなってしまいました」
ハ「昔? まだスーパーヤングなのに?」
風「今の私は辛口の麻婆豆腐を食べると涙が止まらなくなるのです」
い『ちょっと風くん今から辛口の麻婆豆腐食いに行こ、早く』
リ「伊達が一眼レフとスケッチブックとえんぴつ持って食い付いたな」
雲「泣き顔が見たいなんていおり変態」
ツ「(ヒバリさんが風を超睨んでるー!)」
リ「ママンの麻婆豆腐は辛口でも美味いから食べてみろ、克服できるかもしんねーぞ。さっき頼んでおいたからな」
風「なんと……!」
ハ「大丈夫ですか風ちゃん? 汗が吹き出てますけど……っと言うことで今回はここでシーユーです!」

**

一階のテーブルにて。

風「うぅ、涙が止まりません……」
い『風くんかわええよ風くん風くん風くん風くん』カシャカシャカシャカシャカシャ
雲「……」
ツ「超連写してるー!!!」
リ「伊達のドツボにはまったみたいだな」
い『ちょっと風くんこっちおいで撫で回さして抱き上げさしてお持ち帰りさして』
リ「それは流石にキモいぞ」
い『キモないわ』キリッ☆)タラァ
雲「鼻血垂らしながら言われてもね」
ツ「いつものクールな伊達さんどこー!?」
ハ「はひ!? ツ、ツナさーん!」



.

151:ぜんざい◆A.:2017/01/09(月) 18:55 ID:Ldk

そのあと、まあいろいろあり脳内で今喉潰れとるからしばらく生放送無理やな、治ったらなに歌おうとか考えているうちに全てが収束していた。
気がつけば家にいて、腕に抱えていた風くんに「なんで家居るん」とか聞けば「終わったのですよ」とか呆れたようにぐちぐち言われた。可愛いから許す。聞くところによるとD・スペードを倒したからそのお礼で六道骸の体とこの戦いで捕まったみんなを釈放してもらえたと聞いた。驚くぐらい無関心だったこっちはへぇとだけ呟いた。それからもう一週間が経つ。
朝登校して応接室に行けば恭弥は居らず、草壁が「委員長なら遠征で黒曜に行きました」と教えられた。あー、六道か。なら今日の持ち物検査は無くなるんか、いや、アーデルハイトが気合い入れてやるか。

『ほな』
「はい」

草壁に短く声を掛け応接室から出た。もちろんボロ布はまた新しいのを新調しました。すっかり必須アイテムとなったボロ布は目立つものの体を隠してくれるから有難いわ。以前倒した雨宮の姿はあれから見ていない。どないしたんやろか。そんなことを考えながら歩き出した。



廊下にいつもの白い人物が現れた。ボロ布を頭に被った長身の少女、伊達いおりである。彼女は知るよしも無いが、校内ではかなりの有名人となっていた。唯一雲雀恭弥と対等な関係を結び、咬み殺されることのないと知られている。普段彼女に人が寄らないのはそれも有るが、一番の理由はそれではない。
 涼やかかつ鋭いつり目の赤と黒の入り混じった瞳はメガネのレンズを通しても褪せることなく輝いている。布がまともに隠している艶やかな黒髪は肩上ほどに短く切られて毛先が外に跳ねていた。
布に隠されているものの人よりかなり豊満かつ綺麗な丸みを帯びた柔らかげな胸は歩くたびゆさゆさと大きく揺れていく。アーデルハイトほどとは言わないが細い腰に曲線を描くヒップ、ミニスカートから見える太ももはニーハイソックスで締め付けられて絶対領域を発動させ、それらは頭から被るボロ布に隠され微かなチラリズムのおかげでとても艶めかしく見えていた。あまり開かない桜色の唇等の顔のパーツは普通より男寄りなものの色気を晒し出して、おまけに声もかなり低く、男どころか女までもに人気が高い。教員もそれには類に入れられる。
それゆえ、高嶺の花として声を掛けられることは少ないのだ。そしてもちろん、そんな彼女は誰のものにもならないことは周知の事実だった。そう思われていた。
 そんな彼女は廊下を歩くだけで男子生徒から視線を集めるのは必須で、もちろん視線は感じているもののそういう風に捉えられているなど知らぬいおりは煩わしそうに眉を潜め、尚前を歩く。だが、そんな彼女の前に二、三人ほどの少女がコッとローファーを鳴らしながら立ち塞がった。いおりはちらちらと三人の少女から注がれる視線に答える。

『なんや』

そう呟けば三人は顔を赤く染めてひそひそ会話をする。あまりに長いのでいおりはいらいら、周りは三人の少女を羨ましげにハラハラと見つめている。

「サインください!!!」

彼女らが背に持っていたサイン色紙とペンを頭を下げながらバッと差し出した。それに困惑して硬直するいおり。なんのことか分かっていないらしい。廊下の角から身を隠していた雨宮は「屋上で声を出しすぎたか」と憎々しげに舌打ちする。

「白玉様ですよね、伊達先輩は!」
「私達、大ファンなんです!」
「サイン下さい!」
『…雨宮ェ』

しゃーない、と微かに口を動かして三人分のサイン色紙に自分の白玉と言う名をさらさらと滑らせ、ニヤ動上の自分の絵を書いてその少女らに渡して素早く去っていった。彼女の姿が見えなくなったらその場に居た生徒は少女たちにどういうことだと詰め寄る。少女の彼女に関する説明する声を聞いてみんなが各々の声をあげていた。

152:ぜんざい◆A.:2017/01/11(水) 19:41 ID:Ldk



 今日はあの少女たち以来声をかけられへんかったな、なんや雨宮が後ろから物陰に身を隠して視線をくれよったなとか考えながら帰宅すれば、いつもは聞こえる「おかえりなさい」が聞こえないことに気が付いた。
 『風くん?』と声にしながら探していると、リビングのコーヒーテーブルに書き置きが残してあるのに気が付く。



『なんや……?
【いおりさんへ。
すみません、急用が出来てしまいました。とりあえず、フランスへ行ってきますね。しばらくしたらまた帰ります。お土産楽しみにしててくださいね。
風より】
……フランスか。やっぱ行動力凄いわ。せやんな、風くん本来の姿は大人やもんな。……アルコバレーノすげぇ。』



 その手紙を折り畳んで机に戻し、一旦アルコバレーノについて風くんから以前聞いたものを纏めてみよう。
 アルコバレーノ[虹の赤ん坊]、選ばれし七人(イ・プレシェルティ・セッテ)の七人が随分前に集められ、とある光を浴び呪いを受けて赤ん坊の姿にされてしまった、そして自身を見れば体の変化の他に、首には見たこともないそれぞれのおしゃぶりが下げられていたというもの。みんな、アルコバレーノになることなんて、誰一人望んでいなかったようで。マフィア最強の七人の赤ん坊なんか言われてるけど、彼らは何らかの被害者だったのだ。

 さて、今日は絵を書こう。風くんが縁側でほんのりしながらリーチを膝にのせてお茶をすする感じの、ほのぼのしたものを。

 なぜか若干の頭痛を覚えながら数時間かけて書き上げて、眠りについたのは深夜二時だったことから目を逸らした。


**


 数日後、けろりとした顔で帰宅してきた風くん。彼は少し困ったような顔をしてソファに姿勢正しく腰を下ろした。リーチは相変わらずほのぼのとして、風くんの頭の上でさくらんぼを食している。
 そして困ったような笑顔をしたので風くんが座る反対側に腰掛けた。本当に困っているような風くんはこちらに一瞥して、口を開く。雰囲気は重かった。



「……本当は恩人の貴女に、こんなことを頼みたくなど無いのですが……」
『……恩人とか、気にしなや』
「……それでは。すみませんいおりさん。私の代理になっていただけませんか?」
『……代理、ってなんなん?』



 最強の“選ばれし七人”(イ・プレシェルティ・セッテ)。

 運命の日の呪いにより、赤子の姿となる。

 彼らは七色のおしゃぶりを持ち、
 「虹」を意味する「アルコバレーノ」と呼ばれた。

 そして今____“虹の呪い”を巡り、新たなる物語の幕が開く。



.

153:ぜんざい◆A.:2017/01/11(水) 20:33 ID:Ldk


 風くんは帰りの飛行機で夢を見たと言う。自分がアルコバレーノになるキッカケを作った人物、鉄の帽子の男が夢の中に現れ、他にも自分以外のアルコバレーノが出てきた。鉄の帽子の男が告げる、「虹の呪いを解きたいか」。当然それにみんながYesと答えたが、リボーンは「信用できねえ奴と話したくねぇ。勝手に呪っといて呪いを解きたいかじゃねーぞ」と反論したらしい。鉄の帽子の男はそれに対して「アルコバレーノを一人減らすつもりだ」と言葉を発した。
 その一人は虹の呪いを解かれ一般人に戻る。そして今の任からも解放され晴れてもとの姿、もとの生活に戻れると言うわけだ。呪いを解かれるのは七人の中で最も強いアルコバレーノ。アルコバレーノ同士で殴り合いでもするのかと風くんは聞いたらしい。返ってきたのはYesの肯定。
 だが、風くんのような拳士やリボーンのような殺し屋等の武闘派は置いといて科学者やスタントマンもアルコバレーノには存在するのだ。戦うのに不利すぎる。鉄の帽子の男はそれにも頷き、万が一二つのおしゃぶりが同時に破壊されると大問題だと言うことも教えた。そこで、彼はあるルールを提案したようだ。

 各々が自分の代理を立てて戦う。

 確かにこれなら科学者でも出来るだろうと言うことだ。
 開催は【一週間後】。場所はアルコバレーノ全員に縁のある【日本】。詳細は追って伝えられる模様。プレゼントもあるようだ。

 これが風くんに聞いた全て。リボーンやコロネロと言うアルコバレーノにも聞いたようなのでまちがいないと風くんは断言する。



『……それで、ホンマに風くんの呪い解けるん?』
「……恐らく。あまり信用はしてませんが」
『……嫌な予感はするわ。でも、それがホンマやったら風くんの呪いは解けるんやな』
「……はい」



 そこまで会話をして深く考え込む。まだ声は本調子ではないが、全然大丈夫。一週間後、日本。国外じゃないなら問題はないな。なら、もう、答えは最初から一拓しかなかったそれに完全に決定した。



『……おん、やるわ、風くん』
「……いおりさんっ! 断っても構わないと言うのに! あなたは、なぜ、そうまでして!」



 自分で頼んだくせに。顔を苦渋に歪ませる風くんを身を乗り出して抱き上げ、再びソファに座りながらくしゃくしゃと頭を撫でる。風くんあったか。やっぱ子供体温やな。風くんがもとの姿に戻ったら、彼の体温はどうなっているのだろう。知りたい。



『……こっちと風くんの仲や。やる言うたらやるねん。断ったら追い出すで』
「……すみません、ありがとうございます、いおりさん」



 ギュッと風くんを抱き締めながら、『……もとに戻った君を見たいっちゅーのもある』と小さく呟けば、風くんは小さく微笑んで、「貴女らしい」と呟いた。



「いおりさん」
『なん』
「……ぐっ」
『え、どないしたん』
「苦しっ……」
『うおおおおお!!!!』



 慌てて体を離せば風くんが目を回していた。うおおおおお!!!! すまん風くんカワエエよ! うわ待ってこれカワエエて、恭弥がこっちに「いおりの変態」とあのVSシモン戦で言っていた言葉は間違いでは無くなってしまう。耐えろ、耐えるのだいおり!
 気を取り直した風くんはひょいと大窓へ移動し、こちらを振り返って告げた。



「私は少し他のアルコバレーノを偵察してきますね」
『おん、わかった』



 そのままがらりと窓を開いた風くんはトンッと塀に飛び乗り、屋根に飛び乗り走っていった。身軽ぅー。



.

154:ぜんざい◆A.:2017/01/13(金) 00:04 ID:Ldk

翌日。応接室にいけば、そこには恭弥をリボーンの代理に誘う兄貴の姿があった。

『…兄貴なにしとん』
「いおり! 良いところに! 恭弥をリボーンの代理に誘ってるんだ、手伝ってくれ! いおりも入るだろ!?」
『めんどくさそうやから断るわ』
「うそだろ!」

泣きそうになっている兄貴に蔑笑してソファに座る。ちらりと追い払えと恭弥に視線を送ると、恭弥ディーノに「一日目に答えを出してあげる」と告げて部屋から追い出した。やっぱ恭弥、こっちのことよお分かっとるわ。

「…追い払ったけど、これでいいの?」
『おん』

先程まで座っていた革張りの椅子から立ち上がり、こっちが座るソファの反対側にとさっと恭弥は座る。こくりと頷けば彼はずいっとこちらに身を乗り出し、何も言わずに深めのキスをしてから「、は…」と吐息を吐いて再び元の場所に腰を下ろした。恭弥くんホンマえろかわええ。自分からしたくせに顔赤いんがえろかわええ。めっちゃえろかわええ。大事なことなので三回言うた。ホンマえろかわええ。

『恭弥ホンマえろかわええな』
「っ、やめてくれない?」

ぱっと更に顔を赤くしてプイッと顔を背けた恭弥に苦笑いしながらフードを外す。はぁ…っと溜め息を吐けば恭弥に溜め息を吐き返された。なんやねんもう。

『…なんや』
「自覚が無いなら伝える気はないよ」
『…なんやねんお前』

腕を組み足を組みふんぞり返る恭弥に悪戦苦闘しつつソファから立ち上がって最後と言うようにキスをして舌を滑り込ませる。驚きはしているものの拒否する気は無いのか恭弥は驚くくらい無抵抗で応接室にはくちゅ、と小さく水音が響き、とりあえずここまでにするかと顔をあげて彼の口の端から垂れる唾液を舐めとった。再びばふ、と元のソファに座ると恭弥は垂れた唾液を腕で脱ぐって口の中に残ったそれをごくり飲み込む。

「…唾液多い」
『恭弥お前ホンマえろかわええなかわええよ恭弥エロいかわええ恭弥かわええ』
「かわいいだのエロいだのうるっさいよ。ほんと、立場逆なんじゃないの?」
『ほんまな』

それには度々目を遠くする。いや、恭弥が天性の受け体質なだけやねんホンマ。いおりさん悪ないもん。

『そろそろやな』
「何が?」
『兄貴が言うとったやろ。アルコバレーノの代理戦争んこと』
「ああ、なるほど」

理解したと言うように恭弥は途端に顔を微かに歪ませたが、まあ大丈夫だろう。そして次の瞬間には校庭側の窓ががらりと開いて、ぴょんと風くんが舞い込んできた。

「おや、いおりさんも居ましたか」
『ん』
「やっぱり君か」

恭弥はソファから立ち上がり、風くんが着地した執務をする方の机に向かっていった。風くんはにこにこしながら「私の頼みを聞いてくださいませんか?」と告げる。

「風か。頼みなんて話を聞かないと受けられないよ」
「そうでしたね。では、単刀直入に。雲雀恭弥、貴方には私の代理になってもらいたいのです。今回の代理戦争、優勝した暁には一人のアルコバレーノの呪いが解かれ、元の姿に戻れるとのことで」
「他にも代理は誰かいるのかい?」
「お察しの通り、いおりさんのみです」
『ん』
「へぇ、いおりも代理なんだ、だからさっき、跳ね馬の代理の誘いを断ったんだね」
『ん』
「お願いします、雲雀恭弥」
「…そうだね、構わないよ」

少し考え込むような仕草をした恭弥はすぐに了承の答えを出した。理由は簡単、強いやつと戦える。リボーンチームに入らなかったのは、そのチームに咬み殺したい人間がたくさん居るからだ。ただ、こっちがホッと息を着いたのも束の間、恭弥は「ただし」と言葉を続けた。

「君は強いの?」
「…自分で言うことでは無いのですが、いおりさんと組み手をして負けたことは一度たりともありませんね、完勝快勝です」
『おい風くん』
「なら、優勝したら僕と戦ってよ。それなら代理になってあげる。交換条件さ」
「はい、構いませんよ」
『決定やな』

チーム風が結成した瞬間だった。

155:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 18:48 ID:Ldk



 そして風くんから渡されたのが、なにやらゴツい腕時計だった。一応かちゃりと腕に時計を装着しながらこれは何かと聞く。



「いおりさんの時計が『バトラーウォッチ』、雲雀恭弥のものが『ボスウォッチ』なるものです。その時計をつけていれば代理となれるようなので。
昨日の夜、尾道と言う鉄の帽子の遣いだと言う方に虹の代理戦争の具体的ルールを教えていただきました。
各アルコバレーノとその代理の方を合わせた集団を“チーム”と呼び、各チームにその時計が配られたようです。各チームごとにアルコバレーノウォッチが一本、ボスウォッチが一本、バトラーウォッチが六本の計八本。アルコバレーノウォッチはアルコバレーノが。ボスウォッチは代理の中のリーダーとなる方が。バトラーウォッチはそれ以外の代理の方が。
聞けば、ルールはとても簡単なようです。ボスウォッチとバトラーウォッチを装着した各チームの代理の方々で戦闘を行い、ボスウォッチを破壊されたチームが敗ける。時計であるのは戦闘許可時間を知らせる為。戦闘は一日一回一定時間、いつ始まるか分かりません。この時計は開始一分前と開始と終了を伝えてくれる。アルコバレーノは基本戦いには参加できませんが、戦闘許可時間中ならプレゼントプリーズと時計に向かって呟けば全ての戦闘許可時間を通して3分のみ元の姿に戻れます。まあ、言うところのバトルロワイヤルらしいのですよ。他チームと同盟も組めるようです」



 風くんの説明を受けて彼の左腕に巻き付くアルコバレーノウォッチを見つめる。やっぱ小さいなあ。風くんをそのまま腕に抱えて「どうしますか? 同盟は、組みますか?」とこっちと恭弥に聞いてくる風くんに二人同時に『組まへん』「組まない」と返事をした。やっぱりか、と言うように苦笑した風くんはこっちの腕を抜け出してスタッと恭弥の頭の上に移動する。思わず素早くデジカメでその二人を撮ったこっちは悪ない。



「私はこれ以上代理を増やすつもりはありませんが、よろしいですか?」
「構わないよ、味方はいおりだけでいい。いおりだけしかいらないよ、いおり以外必要ない」
「ふふ、ただの確認ですよ雲雀恭弥。もとよりそのつもりです。代理はあなたたちだけでいい」
「気が合うね、きみ」
「そうですね」
『……』
「おや、いおりさん。そんな微妙な顔をして、どうしたのですか?」
「どうしたの、いおり」



 一瞬君たちの目の色がほの暗くなったのはとても気のせいだと思いたい。特に恭弥! アラウディさんみたいなヤンデレにはならんとってや!

 ちなみに今は放課後なので、もうすでに代理戦争一日目は始まっている。朝からよく戦闘が始まらんかったなと感心やわ。
 そう一息ついた瞬間<ティリリ>とけたたましく時計が音を鳴らす。思わず肩をびくりと跳ねさせて時計を凝視すると<バトル開始一分前です>と機械的な音が流れた。
 そのまま時計のカウントダウンが始まってしまい、少しばかり硬直する。



「さて」
「行くよ、いおり」
『え』



 風くんにさっと頭にフードを被せられ、恭弥にそのまま肩を引き寄せられて応接室の窓から飛び降りた。直ぐ様校舎のどこかで爆発音。ここ二階やけど!? っちゅーか、……なるほどな。パッと棍棒を背中の袋から取り出した。



「さっきのすげえ爆発は」
「まさか沢田では!?」
「10代目んとこに急ぐぞ!」



 下にいたのは野球のユニホームを着た山本、ジャージ姿の笹川、制服着崩しまくりの獄寺。彼らの行く手にすたっと着地し、「させないよ」と恭弥が呟く。



「君たちは僕たちが、咬み殺すから」



 トンファーを既に構えていた恭弥を横目に布の奥から彼ら三人を緩く睨む。恭弥の頭の上にはちゃっかり風くんが正座していた。なんやお前らかわええな。



.

156:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 19:48 ID:Ldk



 今思ったことを正直に口にしよう。ヒバードの上に乗ったリーチのコンビの存在感半端ないわ。とりあえずBLネタとして……ディーノ早よ来いや!!!!
 こっちらの現れた時の山本、笹川、獄寺の驚愕の表情が気持ちいい。なんちゅーか、こう、被虐心を煽られると言うか、とっても虐めたい。



「伊達にヒバリ!」
「ヒバリの頭に乗ってるのは…!」



 彼らが恭弥の頭に乗る風くんを見つめる。左手にトンファーを構えたままの恭弥は風くんを見てはいないものの「あの島に行ったときに自己紹介してなかったのか」と頬をむすりと微かに膨らませた。



「虹の赤ん坊(アルコバレーノ)の風(フォン)と申します。雲雀恭弥と伊達いおりには私の代理になって頂きました」
「なんだって!?」
「風の代理がヒバリと伊達!?」



 なぜボンゴレの守護者が沢田のチームではないのか!? とでも言いたげな彼らの顔に少しむかっ腹が立つ。無条件であまり関わりのない人にハイわかりましたとホイホイ仲間になりにいくわけがない。顔見知り程度の仲間と深い関係の仲間、どちらをとるかなんて一目瞭然だ。
 それに、恭弥も恐らくいろいろな条件が重なり、こっちが風くんのチームに居たことが決定打となりこちらのチームに入っただけのことやし。



「あなたたちが着けているのはリボーンチームのバトラーウォッチですね」
「ああ。俺たちはリボーンさんの代理だぜ」



 相変わらず獄寺は不良の癖に沢田とリボーンには敬称と敬語で話してるのがギャップを誘ってくる。
 恭弥は獄寺の言葉を聞き、「ってことは」と微かに上擦った声を出した。



「敵同士だね」



 好戦的な笑顔でビュッと右のトンファーをぶんまわす。尾から出たチェーンが彼らを襲った。間一髪と言うようにそれをしゃがんで避けた三人は今までの経験からか素早く立ち上がり、獄寺と笹川が恭弥に吠えた。



「てめーら!! リボーンさんの代理を断って風の代理になるとは!!!」
「裏切る気か!! 仲間(ファミリー)だと思っていたのに!」



 その言葉にぴくりと肩が動く。仲間と書いてファミリー、か。マフィアなんてどこの非現実だよ、と最近まで思っていた。最近はそれを受け入れ始めている自分がいる。……だが、マフィアを受け入れ始めただけで、ボンゴレファミリーの夕焼の守護者と認めた訳ではない。嫌と言うわけでも無いが、コミュニケーション能力のないこっちは人に囲まれるのが苦手だ。
 恭弥は根本的なものはこっちとは少し違うけど、大々的な部分は似ている。



『アホか』
「誰がファミリーだって? 僕は群れるのが嫌いなんだ」



 そう恭弥が告げた瞬間獄寺が「よく言うぜ」と微かに頬に汗を滲ませながら笑った。「風のチームだって他の代理と群れることになるだろうが」と続けた獄寺を恭弥は鼻を鳴らして嘲笑う。



「それは違うな。彼の代理はいおりと僕二人だからね。最大の理由はいおりが居たから」
「な!!」
「二人だと!?」
「君たちのチームに入らなかった理由は他にもあるけど、僕は話をしに来たんじゃない」



 トンファーを好戦的に構えた恭弥に「ふざけたことを言いおって!! ならば俺が分からせてやる!」と意気揚々と眉間に皺を寄せた笹川了平がVGを発動させて黄色い炎を纏いつつ戦闘態勢に変わった。



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157:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 20:55 ID:Ldk



「闘る気スかセンパイ!」



 山本が焦ったように笹川に問い掛けた。彼はあまり成績は良くないものの、バカではない。笹川がとあることを忘れているに気がついていた。アホか。笹川に静止なんか聞かへんっちゅーて。



「俺がヒバリの曲がった根性を叩き直してやる!」
『……無理やろ』



 小さい声で呟いたのだが「ちょっと」と恭弥に頭を小突かれた。今気がついたのだが、恭弥の背がこっちを少し抜かしていた。やはり成長期なんやろか。少し悔しい気もするがそれはそれで恭弥の色気が増すので良しとしよう。すると獄寺が叫んだ。



「待てっ! 守護者同士の真剣勝負なんて10代目は望んでねぇ!!!」
「……真剣勝負? こんなのゲームだよ」
『……ゲームならこれクソゲーやな』
「まあまあいおりさん。そう言わずに」



 布の奥で頬をむすりと膨らませていると恭弥の頭の上にいた風くんが苦笑いを溢した。
 恭弥の言葉に「何を!」と怒った笹川が「ならば真剣にさせてやる! 覚悟しろヒバリ!」と叫んだ。なんとも熱血漢のボクシングに集中する超スポーツマンである笹川らしい言葉だ。「では」とタンッと軽快な音を立てて恭弥の頭から飛び退いた風くんはこちらの腕に収まった。
 恭弥のゲームと言う言葉は意外に的を射ている。だって__



「ゆくぞ!」
「その様子じゃ忘れてる」



 ぶんと彼めがけて繰り出された笹川の拳。恭弥はそれを身を屈めて回避し、そのままトンファーを回転させて、笹川の腕からパキャ、と軽い音が響く。



「パキャ?」
「おしまい」
「あ」
「バカっ、バトラーウォッチを壊されちまったら代理じゃなくなるんだぞ!」



 __時計が壊されれば終わりのバトルロワイヤルなのだから。
 獄寺の言葉に同じ意を唱えつつ冷めた目で彼らを見つめた。



『恭弥がお前らのチームに入らんかったもうひとつの理由は』
「君達のチームには咬み殺したい相手がたくさんいるからさ」
「……!」
「ちっ」



 腕の中で風くんが「やはり代理を雲雀恭弥に代理を頼んで正解でしたね。戦いに対するモチベーションと技術、現時点で彼は私が求めるものをかなり満たしている」と呟く。その言葉に少しムッとする。どうにもこっちが恭弥と同等ではなく劣っているように思えて仕方がない。まあこんなもの思うだけ無駄だとそのムッとした表情を取り払った。だが、風くんは続けざま「いおりさんももちろん負けていませんよ。実力は私と拮抗していますし、あなたのある種の威圧感は私が見てきた中でトップです。威圧感があのXANXUSよりも凄まじい方を、見たことがかったのですがね。パワーもそこら辺の男では比べ物にはならないでしょうし」と嬉しいことを言ってくれた。片手で風くんを胸の前で抱えながらもう一方の片手で布を下にグイと下げる。なかなか嬉しいことを言ってくれるな。
 そのとたん、真逆の方向から荒々しい炎を感じて風くんとそちらを見る。



「炎は四つ……いや五つ……」
『……工場跡地の方向やな』



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158:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 23:15 ID:Ldk

Noside



「んじゃ、代理戦争一日目の報告会を始めるぞ。みんながどんな戦いをしたのか、ワクワクだな♪」



 並盛町にあるファーストフード店「NAMIMORIDINER」の一席にて。重苦しい雰囲気のリボーンチームのメンバーにとても面白そうだと言う感情を隠しもしないリボーンの声が響いた。
 ワクワクじゃないよ! といつもならツッコミを入れるはずの沢田綱吉_ツナも見るからにテンションが低い。
 そんな中口を開いたのは笹川だった。



「では俺から報告しよう。開始してまもなく、俺と獄寺と山本は落ち合い、沢田の下へ向かったのだ……。だがそこにアルコバレーノ風の代理となった雲雀と伊達が現れ、俺は応戦したのだが、敗けてしまった!!」
「え!? ヒバリさんと伊達さんが風の代理なの!?」



 笹川の報告に驚いて声をあげたツナに「ん……あ……」とバツの悪そうな顔をして言葉を濁すディーノ。ディーノは二人の勧誘を任されていたのだが、あえなく撃沈してしまったと言うわけだ。
 獄寺の「ちっ」と言う舌打ちに、困惑した顔のツナに、笹川が「極限にすまん!」と机に頭を打ち付けた。その反動で机が揺れて、笹川のコップが倒れて水が溢れる。



「ヒバリとダテの二人が相手じゃこっちの被害がそれだけで済むはずじゃねーな」
「あ、あぁ……」



 リボーンの呟きに山本が苦笑いしながら続きを話す。伊達は風を抱えて眺めているだけで全て雲雀が自分達の相手をしていたこと。少し雲雀と戦闘になったが獄寺のVGのダイナマイト_ゼロ着火で煙幕を張り、山本の雨燕の鎮静の雨を降らせ、雲雀の動きを鈍らせて戦略的撤退に成功したこと。



「ってな訳で、逃げ切って俺達のバトラーウォッチは無事だったが、ツナを探しているうちに時間切れ、タイムオーバーだ」



 しまり悪く告げてその短い黒髪をがしがしと掻く山本。獄寺は続けて「つかどーなってんだ跳ね馬ぁ! ヒバリとダテはお前がうちのチームに連れてくるんじゃなかったのかよ!」と机を思いきり叩いてディーノに怒鳴った。
 ディーノは顔の前で両手をパンとあわせて「わりい!」と苦難の顔で告げる。



「恭弥が今日うちの代理になるか答えを出すっつーから期待してたんだが!」



 そのままきれいな金髪を無造作に掻くディーノは「まさかその前に風チームに入って襲ってくるとは……いくらアイツでもそこまではしねーと……。想像を越えてたぜ。恭弥の説得中に入ってきたいおりに関しては即座に却下されちまった……」と失敗したなと顔を歪める。直ぐ様飛んでくる「甘ぇんだよ!」と言う獄寺の罵声を素直に飲み込んだ。



「こればっかりはヒバリ本人が決めたことだからしゃーねーな。恐らく勧誘されたのはダテが入ってきたあとだろ。ヒバリはダテにベタ惚れだからな。アイツが入るチームに着いていくに決まってる、ディーノが行った時点ではダテがどこに入るかはっきりしてなかったから答えを出すなんて言ったんだろ」
「えっ、ヒバリのやつ伊達先輩が好きなのか!?」
「伊達もヒバリが好きだしな。伊達に関しては最初から望み薄だったからな……期待はしてなかった」
「え、伊達さんに期待はしてなかったって……」
「やっぱ伊達の奴、弱ぇんスよ10代目」



 苦笑いでツナに声を掛けた獄寺にリボーンは素早く「そういう意味じゃねえ」と否定した。ディーノもそこは「違うぜ獄寺」とリボーンに同意する。



「ツナもだ。俺はそういう意味で言ったんじゃねえ」
「え…?」
「でも、シモン戦の時はアイツが一番傷だらけでしたよ?」
「あれは相手が女の子だったからだろうな。ダテは行き過ぎたフェミニストだ、女に本気を出すわけがねえ。言っちまえば、ダテは恐らくボンゴレじゃヒバリと同等、いやそれ以上の実力を隠してる」
「ひっ、ヒバリさん以上!?」



 リボーンの言葉にツナが飛び上がる。同じボンゴレファミリーと言えど、ツナたちに取ってあまり接点のない伊達。未来での戦いでだって最終局面でしか現在の彼女は出てこなかった。10年後の彼女でもあまり言葉を交わすことはなかった。まあ驚くほどのナイスバディだったが、声が低すぎて最初はみんな気付かなかった程。
 頭からボロ布を被って姿をあまり晒さない彼女に実力を図りかねている。



「それに」



 リボーンは神妙な面持ちで続けた。



.

159:ぜんざい◆A.:2017/01/14(土) 23:43 ID:Ldk




「俺が望み薄だと言ったのは、90%の確率でダテが風のチームに入ることが予想されたからだ」
「え!?」
「きゅ、90%の確率!?」
「それはほとんど伊達が風のとこに入るってことじゃないスか!」
「ああ」



 ボルサリーノの縁を指で弾いたリボーンは「なんでだか分かるか?」とディーノ含めツナに聞く。ツナは「わっ、わかるわけ無いだろ!? 俺伊達さんと会話したのシモンの島に行って伊達さんに「見とけや」って言われたぐらいだし!」と声をあげる。これに限ってはディーノも頭をもたげた。



「アイツほんっと自分のこと喋んねぇからな。ネットと違って現在じゃすげえ無口だし」
「……ネット?」
「んあ? リボーン、知らなかったのか? リボーン、ニヤニヤ動画って動画投稿サイト知らね?」
「……ああ、ツナが前に青鬼ってゲームの実況見てたな」
「いおり、あそこの一位を争う人気の大御所でさ、ハンドルネームなんだったかな……確か『白玉』だっけか?」
「え!?」
「マジスかディーノさん!」



 ディーノの呟きにツナと山本が反応する。獄寺は元々そういうサイトは見ないようだし、笹川は到底知っているとは思えない。



「お、俺が見てた青鬼の実況……白玉さんのだけど……」
「俺は歌ってみた聞いてたのな!」
「お前らファンだったのかー! アイツ生放送じゃ、すげー喋るよな!」
「声すごく格好いいから男の人かと思ってたよ……」



 ディーノ、ツナ、山本で盛り上がるその三人にリボーンは一人ずつ蹴りを入れて内容の軌道修正をした。



「話を戻すぞ。風がダテと知り合ったのは、俺がツナの家に来た日だ」
「っ、えぇ!?」
「つまり、ダテと風の二人は俺とツナみてえな関係ってことだな。そんなんじゃ、どっちの代理になるか、分かるだろ?」
「あ……そりゃ、風の代理になる、よね」
「しかもリング争奪戦の時、俺はダテに家庭教師をつけてなかった。だが、裏で風がダテ組手をして鍛えてたんだ、ある種のかてきょーとしてな。これらは全部風から聞いた話だが、実力は奴と拮抗し、無敵の拳法家の風を唸らせられてもまだそこが見えないらしい、それからXANXUSよりも威圧感が半端ないと来れば、もうアイツを弱いなんて言ってられねぇぞ。ダテは男相手の戦闘じゃ酷く冷酷で手加減しねえ、男の急所容赦なく狙ってくるからとりあえず気ぃつけろよ」
「ひいい!」
「ちなみにディーノは10分間俺と一緒にいて戦闘に間に合わなかったんだ」



 そしてそのままツナに報告を促す。ツナは一言「父さんに負けた」と告げた。ツナの父、沢田家光はチェデフと言うボンゴレの独立諜報機関のボスだ、バジルもそこに所属している。彼らチェデフはコロネロチームについたのである。それでもツナのボスウォッチが壊されなかったのは、リボーンがコロネロチームと同盟を組んだから。
 ツナは腕を枕がわりに顔を埋めて「うう……」と唸る。その様子に心配する獄寺、なんとなく分かってしまった山本、自分の気持ちに名前がいまいちつけられないツナ。



(なんなんだよ……なんなんだよこの気持ち!)



 歯を噛み締めるツナに、リボーンは口もとを緩めた。



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160:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 00:19 ID:Ldk



 夜、恭弥はこっちの家に居た。しばらくは共にいた方が良いとこっちが告げたのだ。家に入るとき、背後で少し空気の温度が下がったんを感じたこっちが振り返ってみれば、恭弥ににこにこと笑みを向ける風くんと今にもトンファーを持ち出しそうなほど不機嫌になった恭弥の姿が。
 とりあえずボロ布を玄関先のクローゼットに放り込み、『お前らはよ入れや』と風くんを抱えて恭弥の背を押す。



「……」



 むすっとした顔の恭弥は何も言わずソファに座ってテレビを見る。そんな恭弥に苦笑いしながらキッチンに向かって今日は何を作るかと悩んでいたら風くんが「無難に炒飯でも作りましょう」とやって来た。恭弥にもそれで良いのかと聞こうとしたら、彼は一階に設置していた本棚から抜き出してきたのかHUNTER×HUNTERをソファに仰向けに寝転がって読み始めていた。お前は猫か。うーわ! くっそ! んんん! かわええなぁもう! 死ぬ!
 しばらくして炒飯とスープが出来上がったので料理をダイニングテーブルに運び、恭弥に声を掛けるとすんなりやって来てくれた。



「……美味しい」
「ふふ、私が作ったんですよ」
「へえ、料理上手いんだね」



 お前ら親子か。顔そっくりやし。
 とりあえずそんなくだらないことを内心ぼやきながら食べるスピードの変わらない恭弥に微かに微笑む。風くんも満更では無さそうだ。とりあえず三人で完食してからリビングでのんびり過ごす。



「いおり、親は?」
『世界一周旅行中や。兄貴がマフィアやったし、自分で言うんもあれやけど、家かなりデカい名家やからそれもホンマか分からんけど』
「へえ」



 恭弥はそのままうつ伏せにソファに寝転がってHUNTER×HUNTERの続きを読破しだす。『気に入ったんか』とを漫画から逸らさず告げる。まあ面白いのだろう。だってHUNTER×HUNTERのアニメも映画も見たけど面白いやん。ずずず、とソファの上で烏龍茶をすする風くんも既に二周ほど読み返す程だ。
 しばらく穏やかな時間が流れたが、一巻読み終わったのか恭弥がこちらに向かって言葉を投げた。



「今日僕泊まるんでしょ?」
『おん』
「場所どうするの? 僕ソファとか嫌なんだけど」
『……せやなぁ。恭弥今夜こっちの部屋で寝たらええわ。こっちソファで寝る……多分こっち今夜寝ぇへんから、ベッドは恭弥が使ってエエよ』
「……は?」
「え?」



 恭弥と風くん、二人がぽかんと目を開く。やって今日は夜通しレコーディングして歌ってみたをやって、実況の編集して、その部屋の椅子で寝ると思うし。



「……いや、レコーディングとかそういうのあとで聞くけど、僕男なんだけど」
『大丈夫や、こっちの部屋着替えとかないし。あるのは機械だけや』
「確かに、女性らしさはないですよね……」
「……いおり」
『二人してそんな可哀想な目で見るんやめてくれや頼むから』



 とりあえず恭弥にこっちの部屋を案内したら「……気は進まないけど」と妥協してくれた。
 こっちの部屋にはベッドにデスク、その上に三つのパネルのパソコン、タブレット、音響機器にDVDレコーダー。地面にはコンポにコピックが敷き詰められた大きなペン立てが20個程。天井に届きそうな壁を隠すような大きな本棚には全て漫画がぎっしり敷き詰められ、全体的に白と黒のシックな感じにまとめあげている。地面に散らばるヘッドフォンは手に持っておく。



「……ホントに、機械多いね」
『……まあな。隣が風くんが過ごしとる部屋や』
「へえ」



 そんじゃ。と恭弥を部屋に押し込んで、風くんの部屋とは反対隣の防音室の扉を開けた。


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161:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 00:50 ID:Ldk

まふまふさんの立ち入り禁止と逃走本能の歌詞を使わせていただきました。歌詞が間違っていたらすみません。



 部屋に入って後ろ手に扉を閉めようとしたらガッと扉が開けられて驚いて振り向くと、いつもの無表情でこの室内をきょろきょろ視線を巡らせる恭弥と、恭弥の頭の上に乗って微笑む風くんがいた。



『……な、んや? え、どないしたん?』



 驚いて最初に声が裏返ってしまった。風くんは「久々に歌を聞こうかと」と悪びれる様子もなく微笑みながら呟き、恭弥は「何してるのか見に来た」とだけ。……要するに、この部屋に入りたいと。……うーん。



『……しゃーないな。頼むから静かにな』
「ん」
「はい!」



 微かに満足げに笑った恭弥と満面の笑みの風くんに全てを許した。いや、甘々過ぎやこっち……。
 とりあえず、以前リクエストを頂いていた逃走本能と尊敬するべきまふさんの立ち入り禁止を歌わせて頂こう。
 既に椅子に座った恭弥と、恭弥の膝の上にいる風くんに内心サムズアップしながらも、逃走本能を歌い出す。



『過去を<青春>と呼んで美化したって、消せやしねえな劣等感反吐が出るぜ』



 今日は少し調子が良いみたいで、下がよく回る。気分がいい。



『自己投影したモニターの中の
僕は唐突なサービス終了告知で
廃棄処分 死刑執行 殺されちゃってさ 生憎と面会謝絶だ
なけなしの感情は捨てちまえよ
半端に居座るなよ 吐き気がする

反逆の狼煙だ 今こそ覚醒前夜 抗え抗え 逃走本能
神様なんていない って神に誓ったりして 叫べrockyou』



 そこからはもう叫ぶようにストレス発散するように歌った。楽しくて仕方がない。棍棒振り回しているときも楽しくないと言えば嘘になるが、歌っているときも生放送するときも楽しいのだ。



『簡単に終わらせはしないぜ』



 と一通り歌いきり、逃走本能はこれでよし、と一発撮りして次の曲を流す。こっちがかなり好きな曲だ。というかまふさんの病み系の曲好きやわ。



「立ち入り禁止どこまでも 出来損ないのこの僕にただひとつ 一言だけ下さい 生きていいよってさ
教えて何一つ 捨て去ってしまったこの僕に 生を受け 虐げられ 尚も命を止めたくないのだ?
 痛い痛い痛い ココロが 未だ心臓なんて役割を果たすの 故に立ち入り禁止する」



 歌い終えて即パソコンをイジって編集、元々の動画に合わせて二つとも投稿完了。今回は早かったなとか思ってたら椅子に座っていた恭弥が「すごかった」とだけぽつりと先程までこっちが歌っていた場所を見つめながら呟く。



『ん』
「上手かった、人気とか言われるの分かった気がする」
『ん、どーも』
「……なんかむかつく」



.

162:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 11:39 ID:Ldk

翌日、代理戦争は二日目を迎えた。朝、学校に止まってると見たことのあるフェラーリが止まっていて、嫌な予感を感じた。慌てるように廊下を走って応接室に行けば、とある書類片手に顔をしかめた恭弥が革張りの椅子で寛いでいた。

『朝、駐車場ん所に、兄貴のフェラーリあってんけど』
「その予想、間違ってないよ。跳ね馬ディーノは今日から臨時の英語教師だ」
『…まちがいなく、代理戦争やろな』

二人して面倒だと気分を落としていれば、窓からひょいと入ってきていた風くんが「まあまあ」と微笑む。確かに、恭弥にとって兄貴は初めて自分に対して師匠面してきた兄貴肌。恭弥的には鬱陶しいのだろう。こっちは貰えるもんはもらっとく主義やし、ちっさいころから仲は良かったからなぁ……。あ、一時間目が始まった。

**
Noside

キーンコーンカーンコーン、無機質な鐘の音が教室と言わず学校中に谺する。もー授業かー、とツナは席に座った。炎真に聞けばシモンファミリーがスカルの代理になってくれたと言う。良かったなぁなんて思う反面ツナはまた強敵が増えたー! と焦っていた。空席に休みだとわかるクロームに少し心配の視線を残して、がしゃーんと言う耳障りな音と共に聞こえてきた「いでっ! 滑るなーこの学校の廊下は……」と昨日聞いたばかりの声が聞こえてきた。がらりと扉が開かれ、「おーいて…初日から決まらねーぜ」と呟きながら教室に入ってくる様子に、ツナ、獄寺、山本、笹川京子は目を見開く。

「チャオ! じゃねーな、英語はハローか」

入ってきたのは伊達眼鏡を掛け、左腕の刺青をバレないようにする包帯を巻いたディーノだった。

「(ディーノさん!?)」
「新任英語教師のディーノだ! ヨロシクな!」
「ははっ! すっげ!」
「ゲッうぜー!」

守護者はそんな反応を見せるもクラスの女子は「ちょっ、何!? 超かっこいい!」「金髪……キラキラ!」と色めき立つ。男子は今朝の様子を見たのか「フェラーリ乗ってた人だ!」と声を出した。
放課後にて。ディーノに屋上に連れてこられたツナ、獄寺、山本の三人はフェンスにもたれかかるディーノに開口一番「いいアイデアだろ」と聞かされた。

「教員なら学校で代理戦争が始まってもすぐに参加できるぜ」

そのとき、屋上の影から様子をうかがう女子生徒が「獄寺くんたちは良いけどなぜダメツナごときがディーノ先生と話せるのよ!!」「不釣り合いすぎる!」「どういうコネかしら」とツナに嫉妬の視線を送っていた。それに気づいた獄寺が「テメーは目立ち過ぎんだよ! ギャラリーがいたら戦えねーだろ!」と怒鳴り付ける。それを「そりゃそーだな」と笑い飛ばしたディーノ。だが、そのとたん屋上の扉が乱暴に蹴破かれ、怒気を滲ませた雰囲気を纏いながら歩いてくる白くてボロい人影、言わずもがないおりであった。

「いっ、いおり!」

 その姿に途端に焦ったような声をあげるディーノに、突然現れた色気たっぷりの女子の憧れの的の姿に女子生徒はどういう関係なのかと息を飲む。そのままディーノの前にたち、彼の頭を怒鳴りと共に拳骨で殴った。

『なんっでこんなとこにおるんやクソ兄貴!』
「いでえっ! 待ていおり話を聞け! 俺は代理戦争の」
『分かっとるわへなちょこが!』
「キャメルクラッチいたい!」

ぎしぎしとディーノの骨を軋ませる彼女に会話は分からないが怒鳴りだけ聞こえた女子生徒は「兄貴?」「って言うか伊達先輩関西弁であんなに声かっこいいんだね!」「それこそダメツナの分際でなんであそこに!」と言う声が上がる。

「仮にも俺遠縁で血つながってんの! 痛いだろ!」
『黙れや、朝から気分が最下層や』
「えぇ」

落ち込むディーノを一瞥して去ろうとしたとき、山本に不意に呼び止められた。

「先輩って白玉さんスか? ディーノさんが言ってたんすけど」
『…せやで、白玉や』
「お、俺たちファンです! 応援してます!」
「握手してください!」

すっと山本と握手して目を爛々と輝かせるツナの頭をわしわしと撫で回し、いおりは本当にディーノを殴り付ける為だけに来たらしく、屋上から去っていった。女子生徒から「ダメツナが伊達先輩に頭を!?」「知り合いだったの!?」「山本くんとも握手してたよね!」と騒いでいた。

163:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 11:59 ID:Ldk


 下校時刻、恭弥はディーノと接触して戦うことを取り付けたようだ。ホテルに泊まってるからそこにこいと言われたと恭弥に教えられ、風くんを腕に抱えて夜、そのホテルへと赴く。



「ずいぶん豪華なところへ来ましたね」
『兄貴の部下が間違えて取ったんやと』
「跳ね馬は夜、ここに来ると言っていたからね」



 そんな会話をしていて気付く。恭弥がなぜかディーノに執着していることに。何でだろうと疑問に思っていれば風くんはこっちの腕を抜け出して恭弥の頭の上に移り、「なぜです? ディーノにそこまでこだわるのは」とこっちの疑問を恭弥に聞いてくれた。



「あの人は初めて僕の師になったつもりの人だ、でもそんな存在、僕は要らない」



 そう冷たく言い放った恭弥に布の奥で苦笑いしてチンとちょうどよくやって来たエレベーターに乗り込んだ。
 最上階まで目指すエレベーター内はあまり会話がなくて、それでも少し落ち着く。だが、その階の手前でいきなり<ティリリ>と時計から音が鳴り、バトル開始一分前を告げた。……なんや、オチが読めてきた言うか……嫌な予感がする。



「始まりますね」
『ん』
「代理戦争で優勝したらって約束覚えてるかい?」
「もちろんです」



 そうして最上階に到着。ぷしゅっと扉が開かれたそこを見れば、自分たちよりも体のでかい黒ずくめの男たちと一人の女が立っていた。……ヴァリアーである。



「ゔぉ゙ぉい、これから出向こうって時に……」
「ししっ! ボロ布連れたカモがネギ背負って来やがった」
「伊達を連れたヒバリが風背負ってだろ」
「まんまじゃない…」
「久しぶりね、イケボ女」
『おまえ誰やねん美人ちゃん』
「ムムッ、風」
「やあマーモン」
「これはこれで嬉しいな、ここはまるでサバンナだ」



 見覚えのある子だが、適当に誰やねんと返しておいた。いや名前はちゃんと覚えてます。
 とりあえず向こう側のアルコバレーノのマーモンに親近感を抱き、とても可愛らしいフォルムを抱き締めたい。もうこの際変態と呼ばれてもかまわん。



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164:ぜんざい◆A.:2017/01/15(日) 12:16 ID:Ldk



「あれ? ボス猿がいないね」
『奥で寝とんやろ』
「ゔお゙ぉい伊達にヒバリぃ」
「笑わせるじゃん」
パシャッ
「俺達じゃ相手にならないって言うのかぁ?」
パシャシャッ
「君たちだって役には立つさ。僕の牙の手入れ程度にはね」
バシャバシャバシャバシャ
「……いおり」
『うぇっす』



 とりあえず向こうの方にも変な目で見られたのでデジカメを片付ける。壊されたらたまらんし。
 とたん、風くんが恭弥の頭から飛び降りて「プレゼントプリーズ」と呟く。姿が戻った瞬間彼はヴァリアー側のでっかいおっさんを壁に蹴り飛ばし、オカマはふらふらとしてついには倒れる。前髪の長いティアラの少年のナイフをそのまま足で蹴り返した風くんはその少年の時計を破壊してふぅと息をはいた。



「っひょー、とことん規格外っ!」
「無事だろうなぁ、ベルフェゴール、リアス」
「ったりめーじゃん! アホのレヴィやカマのルッスとは出来と育ちが違うし。だって俺王子だもん」
「私も簡単にやられるたまじゃないわよスク」



 だが、ベルフェゴールと呼ばれた少年は「時計は壊されちったけど」と悪びれる様子もなくスクアーロと呼ばれる銀髪ロングの声のでかいイケメンに笑った。



「終わってんじゃねーか! リアスを見習えカス王子が! だからいつまでもぺーぺーなんだ!!」
「そー言うけど相手はあの化け物だししょーがなくね?」
『リアスちゃん言うんやかわええ』パシャッ
「……ボロ布女は黙ってろぉ゙!!!」
『うぃっす』



 その隣で恭弥が自分そっくりの顔を持つ青年を睨む。



「ねえ、ちょっと君。なに余計なことしてんの?」
「あなた方二人では危なっかしくて、見てられません」
『おい風くん』



 呪解した風くんは恭弥そっくりのとてもイケメンさんでした。これが本来の姿なのかと思うと次から抱き上げるのに抵抗があるがもうこの際気にしない。恭弥と風くんからの色気に当てられそうないおりさんがいます。



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