【正味】混合とか【やりたい放題】

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1:マメツキ:2017/09/09(土) 14:29 ID:27M

 アポロ→ぜんざい→マメツキとなったマメツキです。
 わりとやりたい放題やってますが、今回はよくやる混合をメインにやっていこうと思います。
 混合と言っても私の小説のキャラが他作品にトリップや転生、または他作品のキャラが他作品にトリップ、転生するなど、他にクロスオーバーもやるかもしれないそれです。こちらではあまり夢はないかと。
 ルール。荒らしや成り済ましはご勘弁。
 晒しやパクリはもっとご勘弁。
 ケンカもやめましょう。
 基本的に私一人が自由にする場ですので感想のみ書き込んで下されば嬉しいです。

 補足として現在ここにある私が書いているスレから小説引っ張って来る可能性がかなり高いですが引っ張っている場合「!」をつけますので、これがあるとあぁ引っ張って来たんだなぁと思っていただければ幸いです。
では!(゚▽゚)/

2:マメツキ:2017/09/09(土) 14:34 ID:27M

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うちの子転生トリップ。環境はちょいちょいアレンジ加えつつも生き写し。記憶は無し。技は体が覚えてる的な。トリップするのは志賀 暁くん。個性は『絶対領域(テリトリー)』。自分が把握している空間内なら物を入れ換えたり酸素を無くしたり無重力にしたり重力をかけたり空気を固めて射出したり応用でかまいたちや空気を熱して爆発させたりできる、わりと良い個性。自分を浮かすことも可能。欠点らしい欠点は無いが半径500m圏内までしか発動出来ない。

**

 俺の家は大手製菓会社で、兄が一人いる。出来の良い兄貴はいつも褒め称えられ、ただ平均値なのに何故かさげすまれる俺。兄貴の個性は『記憶操作』、俺は『絶対領域(テリトリー)』、このどちらが会社に貢献するかなど目に見えていた。もちろん兄貴の記憶操作である。交渉ごとで自分たちが良い方に傾く交渉が兄貴がいれば100%できる。両親や召し使いがどちらを贔屓にするかなど、目に見えていた。
 俺も兄貴も容姿に優れていた、とは思う。ただ、外面だけは良い天才肌の兄貴と、普通な能力で無愛想な俺。人気がどちらに傾くかなど火を見るより明らか。クソみてぇな性格した女遊びの激しい兄貴でも、記憶操作なんて個性が有るから無敵で、でも記憶操作は俺だけには絶対効かなかった。から、夜な夜な隣の部屋から聞こえる媚声にうんざりしていた中学校生活。
 いつも比べられてきたひとつ上の兄貴が嫌いだった。



「……雄英、落ちた」



 俺が中二の冬。オールマイトに憧れて雄英を志望した兄貴が、入試に落ちた。他のヒーロー科も全滅。何でも出来た天才肌の兄貴が、落ちた。
 こんな俺でも人が死ぬのは辛いし、何より親や周囲を見返すために来年は雄英を受けるつもりだった。両親に「大丈夫だ!」「就職でも構わない、お前は社長になるのだから」と慰められている兄貴を横目に、俺は鼻を鳴らしてソファから立ち上がった。暴力の被害は受けたくない。まあ、遅かったのだが。



「何鼻鳴らしてんだよただの出来損ないごときが! 落ちた俺を笑ってんじゃねぇよ役立たずの癖によ! 志賀家の汚点が! 恥さらしが!」
「っ……!」



 どかっばきっと鈍い音が響くリビングで、親とも呼べない俺を産んだ奴等が、喧嘩とも呼べないただ一方的に殴られる俺を冷めた目で、しかし怒りを込めて睨んでいた。いつの間にか抜かしていた俺より身長の低い兄貴が、俺をひたすらに殴る。顔、腹、肩、腕、足。
 兄貴が俺に当たるのは良くて、俺は兄貴に当たるのはダメなのかヨ。
 もう、死にたい。それなのに死ぬことを許さない世界がただひたすらに憎たらしい。

 そんな中。
 俺は再び出会う。



「……あ?」
「ん……?」



 彼女に、出会う。
 ライトグリーンの髪の、今度は一卵性異性双生児ではない、天才の弟の姉でもなんでもないただの鉄の個性を持った『鉄我 星奈』に、出会う。

3:マメツキ:2017/09/09(土) 14:35 ID:27M

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 以前の鉄我 星奈との中学校のテラスでの偶然の出会いから数ヵ月。雄英入試ももう目前に迫っているこの寒い季節。猫好きや甘味好きと言う共通の『好き』を持った俺たちが打ち解けるのは速かった。星奈チャンはどこか懐かしい感じがすると彼女にぽつりと言ったのは昼休み、テラスで持ち寄ったスイーツなどの食べ比べをおこなって居たときだった。



「……何て言うか、私も分かる。暁は、すごく懐かしいんだよね」
『俺も俺も。なんでだろーネ』
「さぁ。あ、あっ、あっ! 暁おまっ、ショートケーキ食べた!? 食べたな!? 私のとっておき!」
「俺の好物はショートケーキだからァ。目の前に置いとくのが悪い」
「おまっ、暁、っんバカ!」
「うわっ! 俺のマカロン!」



 急速に減っていく机に大量に乗ってたホールケーキやクッキー、飲み物などの甘いもの。しばらくそんな感じで、不意に星奈チャンが手を止めたので、俺もピタリとゼリーに伸ばしかけていた手を止めた。



「そう言えば、暁は高校どこいくの?」
「雄英ィ。兄貴落ちたし、見返したいし、それ以前に自分を省みずに助けるヒーローってかっけェジャン?」
「へー、暁は雄英なんだ。一緒だね。体作りは一年生からやってるよ」
「え、マジで? 俺も全部一緒」
「やば、シンパシーやば」



 ニッ、と笑って見せる星奈チャンに「一緒かァ」と笑うと「受かったらだけどね」と意地悪く笑われた。まあ、その前に。



「多分俺、雄英受けるっちゃ受けるけどォ、受かったら多分家勘当されると思うんだよネェ」
「え、なんで?」
「ほら、兄貴が落ちたジャン? 俺が受かると兄貴のやつ絶対癇癪起こして親に勘当しろ! とか言うからァ。親も多分勘当したがってるからすると思うんだよネェ」



 もし受かったあとどーしよっかなァとゼリーをパクつきながら思案していると、「ウチ来れば?」と星奈があっけらかんと言い放つ。ゼリーが変なとこ入って蒸せたのは多分当たり前だ。



「ウチ来れば? って、簡単に言ってくれちゃってこの絶壁女……。家だけシェアハウスってことォ?」
「……いや、違うけど。ホントは今殴りたいけど、この話終わってからね。私めっちゃ我慢してるから」
「星奈チャンの魅力は胸じゃなくて足じゃナァイ?」
「ホントにぶん殴りたいけどあとでね」



 ここまで煽って殴りに来ないのは、わりと大事な話らしい。手に持っていたゼリーカップとスプーンをテーブルに置き、真面目な雰囲気を作る。



「あのさァ、シェアハウスじゃないってどういうことォ?」
「……あっ、シェアハウスっちゃシェアハウスなんだけど、そうじゃなくて、えーとね」



 必死に言葉を捻りだそうとする星奈チャンに、俺の頭にぽんと全く別の、俺の願望と言うかなんと言うかな案がひとつ浮かび上がるも、これは夢を見すぎかと思いつつ、ふざけるように口角を釣って言ってみた。



「なァに? もしかして婿に来いとかァ? それなら俺も途方にくれずに済むケド」
「あ、そうそれ」
「は?」



 本気で唖然として、頬杖をついていた顔をぱっとあげる。あんぐりと開けた口をした俺はさぞや滑稽だろう。さらりとなにいってンのこの子。
 星奈チャンはハッとしてから意味を理解しぷいっと顔を背けて腕をあげて「見ないで見るな」と呟いてるけど、赤い耳が覗いてるから、本気だろう。そこに思い至って、体温が急激に上昇したのが分かる。



「あのさァ、不意打ちとか……不意打ちとかやめてくんない……?」
「なんで二回言うのよ、バカツキムカつく。で、どうなの」
「……ここまで来て言えとか言うかヨ、フツー。……マジでわかんねェの? 星奈チャン」
「……分かるけど、聞きたい」
「乙女かヨ……しゃーねェな」

4:マメツキ:2017/09/09(土) 14:36 ID:27M

!

「うちの中学からじゃ、あのヘドロ事件の爆豪? って奴と緑谷ってのが雄英行くみてェ」
「どっから仕入れたのその情報」
「先生に聞いたんだヨ」
「教えてくれるんだ……」



 以前のプロポーズ紛いから数日。いつもの場所に集まるくせにギクシャクしていた時期からようやく抜け出し、うちの中学から雄英行く奴を先生に聞いてきた。爆豪、個性が『爆破』の過激な人物だ、最近は落ち着いてきているらしい。幼馴染みで無個性の緑谷と両とも酷く仲が悪いらしい。
 爆豪とは去年同じクラスだったらしい。先生に聞いた。ほとんど授業サボりまくりだったからなぁ……。

**

 そしてやって来た雄英一般入試当日。俺と星奈チャンは二人並んで校門を潜った。



「でっか雄英流石!」
「せっちゃんホント語彙力無いよネ」
「うるさい」



 俺はというと。入試を受けるまでが大変だった。親兄弟から猛反対を受けたのだ。出来損ないなんかに、お前に掛ける金が無駄だ。そんなことを言われても、彼らの目の奥に「こいつがもし受かったら……」と言う恐怖が映っていた。そこに俺が「勘当したけりゃしたらァ?」と挑発すればそのあとは売り言葉に買い言葉。入試結果を待つまでもなく勘当された。そういうわけなので、早いかとも思ったが星奈チャン家に挨拶に行くと泣くほど大歓迎された。実際泣かれた。ご両親の薙斗さんと聖さんからダダ泣きされながら娘をよろしくされ、なんか新築の家まで用意してくれるそうだ。金のことを相談すると全部受け持ってもらえるらしい。星奈チャンのご両親人気ヒーローでびっくりした。そりゃ金あるわ。俺も個人資産あるけど。



「それでは志賀さん、勘当された今のお気持ちをどうぞ」
「とても清々(せいせい)した清々(すがすが)しい気持ちです」
「クソ良い笑顔!」
「褒めんなヨ」
「褒めてないから」



 半目になって呆れ、スタスタ歩き去る星奈チャンの後ろ姿を眺める。彼女のハーフアップの髪を括っているリボンは俺の髪と同じ紺色。俺のピアス空けまくりの左耳で一番シンプルなピアスの色は、星奈チャンの髪の色。左の薬指の指輪をあまり見せないように学ランのズボンのポケットに左手を突っ込んで俺もそのあとを追った。後ろで「どけデク!」とか聞こえたが誰の声だろうな。


**


 プレゼント・マイクの説明会も終わり、実技がもう始まっている。俺の座る席が爆豪の隣だったことに驚いたが、それ以上に驚いたのは爆豪が俺を覚えていたことだ、多分だが。あのとき「……は?」と口をあんぐり開けていたのを見た、記憶力良いんだろうな。多分俺たちが受けることを知らなかった様だ。案の定人見知りを発動した俺は「ん」と頭を下げただけに終わる。隣の星奈チャンに無愛想だとくつくつ笑われたが初対面にどう接すれば良いか全然分からん。とりあえずげんこつ落とした。
 とりあえず、入試に集中しようと俺は背後に迫った3P敵を重力で押し潰した。65p目だ。敵pが65、この入試はヒーローの素質を見るためのものだろう。なら、敵を倒すだけでなく救助も必要な筈。下の人に当たりそうだったビルの落下物を消し飛ばしたり、別個で人を抱き抱えて避けたりと大忙しだ。そこで現れたお邪魔虫の0p敵。クソでかい。



「うわあああっ!?」
「なんだあれ!? でかすぎだろ!」
「逃げろ逃げろ!」



 逃げ行く人の波に逆らって、転けてる奴に手を貸したりしつつ0p敵のところに辿り着く。トントンと靴の足先を地面に叩き付けたり肩を回したりしていると、後ろから叫び声が聞こえた。



「おい! アンタなにしてんだよ! 逃げろよ!」
「……あ? ああ、俺? ダイジョーブ大丈夫ゥ、すぐ」



 終わるからァ。そう呟いて0p敵を睨むと、ぐしゃごしゃとえげつない音を立てながら、ぺしゃんこに潰れた0p敵。少しふらつきもするが、全然動ける。さて、そろそろ終わりか。

 そこで終了の合図。あとは結果を待つのみだ。


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5:マメツキ:2017/09/09(土) 14:37 ID:27M

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 一週間後、鉄我邸にて。新築は四月に入ってかららしい。星奈チャンや俺、薙斗さん聖さん四人とも各々そわそわしながらリビングにいた。
 俺と星奈チャンの筆記はギリギリ合格点。お互いA判定もらってたからここは心配してない。あとは実技。俺は確実通ってると思うが、星奈チャンは分からない。教えてくれないから。



「私ちょっとポスト見てくるわね!」



 意気揚々と唐突に出ていった聖さんに返事も出来ずに見送ると数秒後来たのゲシュタルト崩壊起こしながら二通の手紙を持って入ってきた。



「雄英から! 手紙!」
「うわあああああっ、緊張する!」
「俺まず自分の部屋で見ます、もし落ちてたら落ちてるとか薙斗さんと聖さんに見せたくねェんで」
「二人とも自分の部屋で! 部屋で見てきて! 心臓持たない! どうしよう薙斗!」
「お、おおおお落ち着け聖! 深呼吸だ! そら、ひっひっふー、ひっひっふー」
「「それじゃない」」
「落ち着くのはもしかして俺か!?」



 どたばた騒がしくも暖かい風景を横目に、俺は与えられた広い自室で封を切る。雄英卒の薙斗さん聖さんもこうだったのだろうか。中には小型プロジェクター。ここで合否が、決まる。



「……頼むヨ」
『私が投影された!』



 しょっぱなオールマイトとかビビった。どうやらオールマイトが今年から雄英教師になったらしい。うわ、うわーテンション上がる。



『素晴らしい成績だったよ志賀少年! 敵ポイント68p、そして聡明な君なら気付いていただろう! 我々が完全審査性のレスキューポイントが50! 総合118pと雄英高校トップの成績で、合格だ!』
「っしゃあああああああ!」



 大声で叫んだあと、ダダダダと荒々しく階段を駆け降りてリビングのドアを開けて雪崩れ込むと、薙斗さんが腕を広げて構えていて、そのまま俺より数センチ身長の低い彼に突っ込んだ。薙斗さんはグッと俺を抱き締めて叫ぶ。



「合格おめでとう暁!! お前の叫び声は下まで聞こえたぞ!」
「うわああああっ、うわ、うわー! ヤベェ超嬉しい受かったァ! 嫁も出来たし合格出来たしナァニ!? 俺もう死ぬのォ!? クソ嬉しいあざっす薙斗さん!」



 うわー言い続けて薙斗さんから離れると、星奈チャンが飛んでくる。「受かった、受かったぁ……!」と泣きそうになって笑ってるので俺も笑った。



「晩飯食べにいくぞー! 合格記念だ! 焼肉だー!」
「マジかあざっす!」
「焼肉ー!」
「薙斗が食べたいだけなんじゃ……」



 血縁関係のある家族とこうまで賑やかに騒いだことはなかった。血が繋がっている訳でもない俺を暖かく迎え入れてくれた薙斗さんと聖さんがとても好きだ。愛されたことのなかった俺が、報われた気がする。


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6:マメツキ:2017/09/09(土) 14:38 ID:27M

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https://ha10.net/up/data/img/20499.jpg
志賀くんです

7:マメツキ:2017/09/09(土) 14:39 ID:27M

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  俺は雄英のA組で既に席についていた。一人だけ出席番号も関係無く一番後ろの一人席。これは辛い。
 緑谷や丸顔と教室に集まるなか現れた薄汚い男、相澤先生。担任らしく、みんながみんな担任!? と目を剥いていた。そして渡される体操服とグラウンドに来いとの指示。
 早速グラウンドに出ると、個性把握テストを行うと告げられた。丸顔が「入学式は!? ガイダンスは!?」と聞くと、彼曰くそんな悠長なことしてられないよと告げられた。マジか。



「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト」



 なるほど。それで個性を把握するのか。爆豪がデモンストレーションで叫びながらボールを投げると700m超えが出て、みんなが面白そうだのさすがヒーロー科だのと騒ぐ。ただ、そのどれかの言葉が相澤先生の地雷を踏んだようで、最下位は除籍処分になるらしい。どうやら雄英はこんな風に困難をぶつけてくるらしい。いい性格してるわ。

それから。

 把握テストも無事に終わり、最下位除籍は合理的虚偽だと告げられ、ショックを受けているクラスを見た俺。今はというと、新築一戸建ての家のソファででろんとだらけていた。



「……あー、疲れたァ」
「お疲れー。A組入学式出てなかったねー、何かあったの?」
「B組出たのォ? 俺んとこそんな悠長なことしてられねェっつって個性把握テストやってたわ」
「うわー」



 ドン引きした星奈チャンが持ってきたケーキに飛び付くと、私のとこの先生はすごく親身だったよ、と星奈チャンに言われたので羨ましいと返しておいた。



**



 翌日からの通常授業。とても普通に必修科目と英語の授業。昼は大食堂で飯。とりあえずランチラッシュが最終的に白米に落ち着くよねとか言ってる隣でケーキ盛り合わせ頼んだらすんごい残念そうに見られた。また白米食いに来よう。

そして午後の授業はおまちかねのヒーロー基礎学。今日の講師はオールマイトで、戦闘訓練をするらしい。コスチュームを渡され、グラウンドベータに集合だと言われた。

 俺のコスチュームはとても個性に寄せてある。目に見える範囲にしか発動出来ない個性、だからスコープと言うかゴーグルを身に付け、黒い手袋を装着し、コートにワイシャツ、あとベルトポーチ。とてもシンプルだ。
 さて、始まるのか。ヒーロー基礎学。



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8:マメツキ:2017/09/09(土) 14:40 ID:27M

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 一クラス21人、奇数なので一人余る。今回、初の戦闘訓練は屋内対人戦闘だった。ツーマンセルでヒーロー、敵に別れてビルでの演習。核(ハリボテ)を敵がビルのどこかに隠し、ヒーローが探す。戦闘になってテープを巻けば巻かれた方の負け。
 ここで冒頭でも言った奇数人。一人余る。オールマイトはそれを見越していたようで、俺にB組に入ってくれと言った。拒否る理由もなかったのでこくりと頷く。
 第一戦、ヒーローチーム緑谷、麗日VS敵チーム爆豪、飯田。



「っはー、あの相性最凶最悪の幼馴染み同士が対戦相手とかやべェこえェ。オールマイトせんせェ、これやべェことンなるんじゃナァイ?」
「ん? 志賀少年、君も二人を知ってるのかい?」



 ぎゅるんと方向をモニターから俺に変更したオールマイト先生が首をかしげる。……君も、ってことはなにかしら、どちらか二人と繋がりがあるってことか。あーあー通じるとかバレたらヤバイんじゃねェ? とか眉を潜めるも、「まーネ。中学一緒だったし」と手をひらひらさせる。正直あまり関わりはなかったからよく知らねェけど。
 隣の赤髪が「中学での爆豪と緑谷ってどうだったんだ?」と俺に質問し、視線が俺に集まった。興味津々かヨ。



「んー、つっても、俺そんなに詳しく無ェんだよなァ。緑谷とは同じクラスになったことねェし、爆豪とは二年の時に一緒みてェだったらしいけど俺授業サボりまくりで面識なかったし、成績が学年トップしか取ってなかったのとプライドエベレストってくらァい。でもまあ、噂になるぐらいには知ってたヨ、有名だったしネ。関係最悪最低ド底辺、仲の悪すぎる幼馴染み」
「ド底辺……。はー、やっぱり爆豪の奴色々やべーんだ。入試一位は伊達じゃねーな!」
「はーん、爆豪一位だったんだァ。初めて知ったワ」



 とまあこんな感じで会話も赤髪、切島とした。爆豪たちの訓練も終わり、次は俺たち。葉隠、尾白VS俺、轟、障子。障子の六本腕かっけェ。戦闘用のビルに行くと、敵チームの二人は既に隠れているようなので、意気揚々とビルに入ろうとしたら轟に止められた。



「なァに? ツートンカラーの火傷チャン」
「……外出てろ、危ねぇから(火傷チャン……)」
「なんかあんのォ?」
「……おう」
「じゃあ任せた」



 あっさり身を引くと、ちょっと二人とも目を見開いて驚いていた。……ひどくナァイ? 争ってめんどくさくなるのは嫌なんだヨ俺。
 俺がビルを出るのと入れ違いで轟がビルに入り、その瞬間ビルがぱきんと凍る。障子の隣で「涼しい」と呟くと障子に変な目で見られた。

 結局俺達の完全勝利で終了。味気なかったな……。



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9:マメツキ:2017/09/09(土) 14:40 ID:27M

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 翌日、学校への登校中、門の前で人だかりが出来ていた。聞こえてくる内容を聞く限りオールマイトの授業の様子を聞きに来たんだろうな。

「うわー、やだなー。記者わんさといるじゃん」
「オールマイトいる世代に雄英入った宿命じゃネ? ……俺もわりと困るケド」
「ああ、あんたの元実家大手製菓会社取締り代表だからね。知ってる人は暁のことも知ってるんじゃない?」
「こーいうこともあんのォ? あーもーどうしよォ辛い死にたい」
「生きてよ私が困る」
「うん俺生きる」

 そのまま二人で、俺は顔を見られないようにその場を駆け抜け、校舎に入る。雄英バリアーなるものが門に設置されているので入ってこれない筈。

「あー冷や冷やしたァ」
「アンタは本当にね」
「ん」

 うんざりしたように頷き、下駄箱手前で俺たちはまた放課後に、と別れたのだった。
 教室に入って席につくと、相澤先生が入ってきたのでシーンと静まり返る教室。今朝のホームルーム、先生が言うに学級委員を決めてもらうらしい。普通科なら雑務って感じで誰もやりたがらないが、ヒーロー科での学級委員長は集団を導くって言うトップヒーローとしての素地を学べるからなっておいて損はない。現にA組の面々も諸手をあげて主張している。
 俺は別にやりたい訳でもないし、導くって言う素地はまた今度機会があるだろう。やりたい訳でもないが。
 飯田が挙手ではなく投票で決める方が良いと自分自身腕を聳え立たせながら告げる。やりたいならやめときゃ良いのに。蛙吹、もとい梅雨ちゃんが短い期間で投票もクソもないわ、みんな自分に入れると飯田に言うも、飯田はそれで複数票とった方がよりふさわしいと言い張るので投票となった。とりあえず面白いから飯田に入れよ。

**
 厳正な投票審査の結果、緑谷、八百万が委員長になった。
 そして昼。俺は食堂にて以前「白米!」と言い張るランチラッシュの目の前でケーキを頼んでしまったのでとりあえずハンバーグ定食大盛りを頼んだ。リベンジというかなんというか、相手も俺を覚えていたようで、「味わってね!」と言われる。とりあえずサムズアップしたあとケーキ盛り合わせ頼んだら気前よくケーキ一切れサービスしてくれた。ランチラッシュいい人!
 片手のトレーに大盛りハンバーグ定食、もう片手にケーキ盛り合わせのトレーを抱えながら席を探していると、切島と爆豪を発見した。見た感じ、爆豪が一人で食べてたところに切島が来たってところか。

「切島チャン、ここあいてんの?」
「お、志賀か! 空いてる空いてる!」
「邪魔すんネ」

 とりあえずハンバーグ定食を机に起き、席についてからケーキ盛り合わせを置く。切島の真ん前で俺の斜め前に座る爆豪はすごい顔して俺のこと睨んで来たけど、気にせずに早速ケーキに手をつけた。

「一番に手ぇつけんのがケーキかよ! 定食だろ普通!」
「俺も思った、自然と手がケーキの方行ってわりと俺今びっくりしてる」
「男子高校生にケーキ!」
「男子高校生だってケーキ食うケドォ!? ってかもう日本人の主食は甘味で良いと思うんだよネ、スイーツ万歳」
「甘党!」
「糖尿病が心配」

 隣でげらげら笑う切島を気にせずハンバーグ定食ほったらかしでケーキパクついて、不意に爆豪のどんぶり見たらラーメン真っ赤でビビった。思わず「うーわ赤い、赤い赤い赤すぎる」と呟くとあぁ!? と凄まれた。こわ。

「それ辛くナァイ? 普通に食ってるケドぜってェ辛いやつだロ」
「うるせークソ甘党」
「とても正論」
「切島チャンが裏切った、ダト……?」
「ぶはっ! はははっははははは!」

 笑いすぎじゃね? とかジト目で切島を見つつ、食べ終わった盛り合わせの皿を端に寄せ、ハンバーグ定食に取りかかる。大盛りでもちょっと足りないかも知れない。そこで食べ終わった爆豪がガタッと席を立ち、颯爽とどっか行った。

「アイツマジ無愛想だわー」
「それナー」

 げらげら笑いながら食べ進めると、皿がいつの間にか空になっていたので立ち上がると切島にまた教室でなーと見送られた。これが友人……!
 このあと教室で一人でホールケーキ食べてるとどっか行ってたらしい爆豪からすごい目で見られ、切島に爆笑されて「一切れくれよ!」と笑いながら言われたのであげた。もちろんホールケーキは完食した。満足満足。

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10:マメツキ:2017/09/09(土) 14:41 ID:27M

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https://ha10.net/up/data/img/20511.jpg
星奈チャンです

11:マメツキ:2017/09/09(土) 14:41 ID:27M

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 今日の昼になにやら放送があったらしいがケーキに夢中だった俺は全く知らず、どうしてか緑谷が非常口うんたらかんたらの飯田を委員長に推薦した。いいんじゃね?

 翌日の昼。今日のヒーロー基礎学だが、相澤先生とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになっにらしい。何をするのかと言うと、災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練。
 訓練場に着くと、スペースヒーローの13号に増えるお小言をいただき、個性は人を助けるためにあるのだと言われ、少し感動する。13号……かっけえ。
 以上! ご清聴ありがとうございました! と紳士的に礼をすると、ステキーぶらーぼーと声が上がる。かっこよかった。
 しかし、相澤先生が広場の方を見て、叫ぶ。



「一かたまりになって動くな!」
「え?」
「13号! 生徒を守れ!」



 命を救える訓練時間に俺らの前に現れた。



「なんだありゃ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「ちげェ、切島、あれは……」
「動くな! あれは敵だ!」



 プロが何と戦ってんのか。何と向き合ってんのか。それは、途方もない悪意。
 黒い霧から現れた大勢の敵。侵入者用センサーはあるものの動かない。それは敵にそういうことができるやつがいると言うこと。バカだがアホじゃない。用意周到に画策された奇襲。轟曰く。
 そして先生が飛び出した。あの人強いみたいだから。俺がぼうっとしてると腕を引っ張られて避難だ、なんだと言っていたが、次の瞬間には俺は黒い霧に体を包まれ、その場から姿を消した。
 みんなが騒然とするなか腕を引っ張った本人、切島が黒いもや霧に怒鳴る。



「なっ、てめ、志賀をどうした!?」
「彼は第一にこの場から離脱していただきました。以前拝借した書類で見ましたが、この場では彼の戦闘能力はどうやら群を抜いているようなので、一番の驚異と判断させていただきました」
「はぁ!? 訳わかんねえ!」



**

 俺が飛ばされた場所は倒壊ゾーンだった。うじゃうじゃいる敵に溜め息を吐きながらなんで俺こんな戦いにくいとこで一人なのとか呆れながら拳を握ると、後ろでドサドサっと誰かが来る音がした。切島と爆豪である。



「あれェ、爆豪チャンに切島チャン? もしかして飛ばされちまった?」
「……俺たちだけじゃねえ、他もだ」
「とりあえず、この敵どうにかしねぇとな!」



 そうして始まる対人戦闘。訓練ではない。本物の戦闘を俺たちは開始した。


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12:マメツキ:2017/09/09(土) 14:42 ID:27M

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  粗方敵を倒した所で、爆豪と切島が先生のところに駆け付けるようなので着いていくことにした。
 三人で瓦礫を駆けながら目的地へと向かう。とりあえず、俺の個性、テリトリーの応用であるテレポートをこの時すっかり失念していた。俺のばか野郎。
 その時気付かずに呑気に二人の横を走っていた俺は、不意に切島に問い掛けられる。



「なあ、志賀の個性って結局なんなんだ?」
「ん?」
「おいおい睨むなよ不良みてぇ」
「目付き悪いから勘違いされるケド睨んでねーヨ。それに元ヤンにンなこと言っちゃいけません」
「え、お前中学時代元ヤン!?」
「中三の始めまでナ。昔の話だから掘り返すのやめろヨ。ブン殴るぞ」
「滲み出る元ヤン」
「やめろっつってんだロ、っの馬鹿がヨ」



 切実な顔で返すと切島に引き気味に頷かれた。引くなよ泣くぞ。とりあえず、個性はなんなんだってことだよなぁ。



「あー、俺の個性だっけ?」
「おーそうそう! 動かずに空間爆発させたりねじ伏せたりしてるからさー検討つかねんだよな!」
「まァ使い道幅広いしナ、俺の個性は。俺の個性ね、『絶対領域(テリトリー)』っての」
「テリトリー……縄張り的な?」
「ちょっと違う。俺のは、俺が視認してる、もしくは理解している場所で自由自在に無双出来ンだヨ。例えばちょっといじくって空間を爆発させたりとか酸素奪ったりとか重力重くしてプレスしたりとか。重力無くして体軽くしたりとか空間ねじ曲げてものともの入れ替えたりネ」
「無敵かよ!」
「いや、視界塞がれたら終わりだからァ。遠くで操るには遠くまで見えてないとダメだしィ……あ」



 ようやくここでテレポートを思い出した俺は切島の腕を掴んで先を行く爆豪の首根っこを捕まえそのまま広場に飛ぶと爆豪から叱咤の嵐。一言いえ! だの最初からそうしろ! だのとめっちゃ罵られた。とりあえず黙らせるために拳骨した俺は悪くない。めっちゃ怒鳴られた。やかましい。



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13:マメツキ:2017/09/09(土) 14:43 ID:27M

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 走る途中、横から俺たちに向かってくる塊を視界に止め、咄嗟に爆発させて軌道を逸らす。
 見えた姿は、女。とりあえずその女には見覚えがあった。爆豪もそうらしく、「お前、」と目付きを鋭くさせた。



「……クソ女」



 チッと舌打ちして、不思議そうな顔をする切島とぐずる爆豪を先に行かせる。標的は恐らく俺だ。目にハイライトの無い、黒髪のアホ毛の飛んだショートカット、世間一般で可愛いの部類に入る顔。中学が一緒で、星奈チャンと出会ってからからっきし絡んで来なくなった、欠片も興味の無い女。時雨 都。多分分類するなら嫌いな部類だろう。
 彼女はギッと俺を睨む。その瞳に蕩けるような舌が痛くなるような甘い熱があるように思えて仕方ない。思わず身震いしたのはご愛嬌だ。



「……久しぶりね、志賀」
「もう一生見ねぇ顔だと思ってたんだが、吐き気がするわァ。てめェ、敵に堕ちたかヨ」
「そうなるのかしら? まぁ当然よね、二回も同じこと繰り返してるんだもの。せっかく、今回は『無双』の鉄我 星奈が居ないからチャンスだと思ったのに、この世界に存在するなんて」
「なに言ってんだ」



 はー、と溜め息を吐いた時雨は熱の籠った視線を俺にちらりと向けて、「また盗られた」と爪先の石を蹴る。そして再び俺を見てきょとんとして告げた。



「……あれ、前世の記憶思い出して無い……? じゃあ、二人がまた出会ったのは、運命だって言うの……!?」
「てめェ何言ってんだ……」



 本格的に気持ち悪くなって身動ぎすると、時雨が「動かないで、暁!」とその瞳に俺を写す。名前を呼ばれて逆立ってよだつ身の毛に、あとずさると時雨がどさりと何かを放った。



「……は、」
「暁のだぁい好きな、鉄我さんだよ」



 大声で星奈チャンの名前を叫びながら、彼女を抱えて距離を取る。意識は無い。呼吸はある。制服のまま。昼休みにでも拉致ったかこいつ。



「はあぁ、欲しい、欲しいの。暁が、欲しい」
「俺はお前みてェなブスいらねェヨ!」



 星奈チャンを腕に横抱きにして抱えながら空気を固めて銃弾を撃つ。彼女の肌にかするそれに舌打ちして、蹴りを食らわすと、時雨は星奈チャンを避けて俺の鳩尾をその手に握る剱で貫通させた。ずるりと引き抜いた血のつくその剱を舐める女はもう狂気に染まっていた。



「がっ、」
「ふふ、熱いなあ、美味しい……」
「時雨、てめ、」



 ふと、星奈チャンが目覚めた。俺の存在に驚いたようだが、時雨の剱を見て目の色を変えた。俺から飛び退いた星奈チャンは鉄のガントレットを作り出し、殴り掛かった。



.

14:マメツキ:2017/09/09(土) 14:44 ID:27M

!

 星奈チャンも時雨に見覚えがあったのか、腕を振り下ろすと同時に怪訝な顔で声を張り上げた。



「何で、私ここに居るわけ!? って言うか、時雨さんあんた敵にっ……!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい! この鉄女が! 高校に入ってから急に胸が大きくなったからって良い気になって……!」
「ねぇそれ今全然関係無くない!? 関係ないよね!?」



 時雨の振るう剱を飛び上がりながら避けた星奈チャンはバッと腕で胸部を隠す。顔が真っ赤だ超かわいい。流石俺の嫁。
 脳内わりとフルスロットルしてるが、俺は今腹を押さえて悶絶中だ、風穴空いてんだぞコルァ。とりあえず個性で傷の進行を止めてはいるが、腹を貫通してるからヤバイ状態。痛くて死にそう。正直泣きたい。



「はあぁ、鉄我さんと無駄なことしてたから、もうおしまいにしなきゃ……」
「はぁ!?」



 そう眉をしかめた星奈チャンに時雨が入り口の方を指差せば集まったプロヒーローたち。誰かが読んでくれたのだろう。よかったよかった。
 そう気が緩んだのも束の間、時雨が再びターゲットを俺に絞った。



「最後にもう一回!」
「……!」
「っだめ!」



 俺に向けられた手のひらに危険を察知した星奈チャンが俊敏に俺に飛び付いて、なんの個性かは知らないが時雨に吹き飛ばされる。
 ぽーんと吹っ飛ぶ俺たちの最後に見た時雨は歪な笑みを浮かべていた。さて、勢い任せに飛ばされて入り口まで宙を浮きながら空中散歩してるわけだが、これ高さかなりあるから落ちたら大事故だぞ。やべーやべーと考えるうちに、俺の視界に入る錆びた赤。あ、腹……。
 宙を舞う血を目撃した俺は、そのまま意識が飛んでしまった。



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15:マメツキ:2017/09/09(土) 15:12 ID:27M



 ぼやけた意識に、唐突に鮮明な映像が映し出された。



「……誰?」
「……アンタこそダレェ?」



 木々や葉に隠れるように存在していたいっそ神秘的と言っていいようなテラスで死んだ目をした俺と、絶望したような顔の星奈は出会っていた。
 それから似たような境遇でわあわあと気を合わせてはお互い惹かれていく。この世界星奈には双子の弟がいた。星奈も出来が良いが、彼女の弟はそれこそ『奇跡』と呼ぶに相応しい人災レベルの頭脳と身体能力を持つ、明るく人当たりの良い性格の天才だった。星奈は己と弟を比べ、気落ちしていたが俺も似たようなものだった。双子と違って仲は最悪だったけど。
 そこから何年も時を重ねて、周囲に人が増えて過ごして行った濃い時間。段々と薄れていく楽しくも辛い戦いが続いた幸せな時間に待ってくれと手を伸ばした。


 ハッと目を覚ませば視界に白一色しかない。鼻につく消毒液の臭いにあぁ医務室かと納得し、さっきのも夢だと理解した。そのまま身を起こそうとすると途端に腹に激痛が走る。


「あ゙っ、てぇ!」


 パッと押さえると余計に痛みは増してドサリと上体を倒す。傷痕こそないものの痛みがあるそれに、あぁ聖さんの個性だなと予想をつけた。しかし、聖さんに個性を掛けてもらったのは初めてなのに、どうして懐かしい感じがするんだろうか。
 不意にシャッとカーテンが開き、そこから弾丸のようにライトグリーンの塊が腹に飛び込んできた。そう、腹に。



「うわああああああああああああ! 暁起きたあああああああああ! 心配したんだからああああああ! この馬鹿ああああああ!」
「いあ゙あああああああああ! 死ぬ! 死なぅああああ! あたっ、頭を押し付けるなあああ! 腹ああああああああああああ!」



 起きて早々死に際とかありえない。未来の嫁に殺されかけるとか洒落にならん。
 やはり俺を治すために来てくれていた聖さんに助けてもらった。人生で一番死に近い体験した気がする。
 むすっと頬を膨らませる星奈にはいっそ触れないで、聖さんにあのあとどうなったかを問うた。



「……聖さん、俺が気絶した後どうなったんですか?」
「んー? そうねー、端的に言えばあのあとオールマイトが助けに来たのよ。怪我人はあっきーと緑谷って子だけ。貴方が一番重傷よ」



 敵にあなたたちの中学の友達が居たことには驚いたけれどね。
 そう笑った聖さんは相変わらず何を考えているかわからない、どうしてか俺を安心させてくれる笑顔を浮かべ、俺にもう寝ろと星奈を連れてカーテンを閉めた。

16:マメツキ◆A.:2017/09/26(火) 01:40 ID:mMM

唐突な話の転換。
 フレトリ←マギの逆トリからのフレトリ→マギのトリップ。煌帝国組、シンドバッドたちの時期のずれた原作前の幼い彼らが国軍大罪支部(フレトリ本編未登場)にやって来た。
 ちょっとした大罪支部の彼らの紹介。階級の高い順から。

プライド・ライロット【傲慢】【少将】
10歳と言う幼いながら支部では少将と言うトップの地位につき、ついでに支部のno.2。無邪気に面白おかしく残酷をモットーに仕事をする愛らしい容姿の少年。基本的にお仕事しなさいちゃんと働きなさいとみんなに説教するオカン。優秀な指揮官。トリガーは『黒影』

普 柘櫚(アマネ ザクロ)【怠惰】【准将】
 成人済み。きりっとした太い眉に半デコと眼帯と爽やかな笑みを常日頃いかなるときでも浮かべるイケメン。笑みがちょっと気味悪い。勤勉なクセにサボりグセが凄い。関西弁。戦闘スタイルが激しすぎて財務に回された支部のno.1。妻になるはずだった女性を亡くしている。トリガーは『拒絶』

枦木 海助(ロギ カイスケ)【強欲】【大佐】
 成人済み。金と地位と名誉を求める究極の欲しがり。欲しすぎて上二人の首を狙いにいく程度には強欲。女を欲しがらないのは嫁がいるから。愛妻家。戦闘センスが高いが基本自分と嫁のためにしか使わない。元盗賊。見た目だけなら好青年。トリガーは『強奪』

ゼクロス・アライブ【憤怒】【少佐】
 成人済み。男性。後に『七つの色瓶』の『黒』の呪いを受けて幼児化する強い人。茶髪でセンター分けの前髪と跳ねた髪と長い襟足を乱暴に後ろで縛ってるのが特徴。顔の鼻部分に横一線に傷がある。とある事件以降ふざけた白と黒の仮面を被るようになった。落ち着いてよくキレる。トリガーは『闇』

ラスト・メラニカ【色欲】【中尉】
 成人済みの女性。強欲の嫁さん。愛夫家。元ビッチ。美しい容姿と鈴を転がしたような声の持ち主だが脳内は基本ドピンク。戦いにもよく出るが基本ストレス発散する強欲の後ろでにこにこしてるので実力は不明。トリガーは精神操作系だと思われるが詳細は不明。

嶋 凛太郎(シマ リンタロウ)【暴食】【少尉】
 成人済み。怠惰に拾われた怠惰の補佐官。サボりグセのある怠惰をつれ戻すのはコイツの役目。黄色いハチマキをしているイケメン。食人種。陶器でも鉄でも何でも食らう。後の『七つの属王』の八代目『光の王 アヴァタール』。仕事に対しては真面目だがいつでも美味しそうな怠惰の首を狙っている。トリガーは『悪食』。

セトラ・レッドアイ【嫉妬】【少尉】
成人済みの女性。ホントはもっと高い階級なのだが昇進を拒否して拒否しまくる軍帽を目深に被る女。結婚済み。相手は大罪支部の『戦闘する医者』と呼ばれる軍医。後に『七つの色瓶』の『藍』の呪いを受けて幼児化する強い人。無口な方だが夫のことになると饒舌。基本色欲と居ることが多い。常時滞空。トリガーは『夢』


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17:マメツキ◆A.:2017/09/26(火) 23:07 ID:mMM



 それは、いつものように柘櫚が凛太郎の追手から笑顔で逃走に成功した時のことだった。



「ははは、相変わらず嶋は足が速いわー。臭いを辿って追い付かれるのも時間の問題やなー」



 からからと笑う柘櫚の真後ろでどさどさと二人分の人が落ちる音が響く。なんだなんだと不思議に思って振り向こうと横へ顔を向けた、振り返る、と言うその前に地面と激しくこんにちはした。
 目の前がチカチカしてあまり周囲のことがわからないが、恐らく自分は今首に何かの気配を感じている。考えられるのは刃物ぐらいで。
 柘櫚自身、自分の首が狙われるようなことをした心当たりはもう数えきれない。さぞ多くの人間が自分を恨んでいるだろう。恨まれては居ないが、美味しそうと言う理由で自分の補佐官に首を狙われているのだ、なんらおかしくはない。しかし、地面に頭を押さえつけられ、背中に馬乗りになられ、首に刃物をつきつけられても柘櫚は笑みを絶やさないのだ。それは、相手に悟られていなくとも、自分はこの場をすぐにでも形勢逆転できると言う自信。
 視線で姿を捉え、ふっと柘櫚はより笑みを深めた。



『ちょいちょい少年。君どこの子やねん。うちの指揮官くんやないねんから、子供が暗器なんか持つなや。危ないやろ』
「っうるさい! シンと私をさらって何をするつもりですか! ここはどこですか! あなたは何者ですか!」
『……ん?』
「おい待てジャーファル! 少しこの人の話を聞こう!」
『お、ええ判断や』



 そう言うと紫髪のふと眉の少年にキッと睨まれた。あれ、これ俺がアウェー? と首をかしげる。
 ここはどこ。俺は誰。なるほど、警戒していた天使の手先ではないようだ。目が本気で怯えているし、間違いないはず。と柘櫚は『俺はなー』と口を開いたその時。視界の端に見慣れたブーツが見え、咄嗟に立ち上がり、ジャーファルと呼ばれた少年を小脇に抱えて飛び上がる。この間0,1秒。次の瞬間には俺の頭があった地面が刀により抉れた。俺は呆然とするジャーファルくんを抱えて宙で冷や汗を垂らす。もちろん笑顔で。相当ご立腹だ。こりゃヤバい。



「……殺る」
「うっわ、俺の補佐官ながら物騒! 紫髪の少年! この子頼む!」



 木の幹を蹴り、紫髪の少年の側でジャーファルくんを下ろす。第二打撃、来ました。



「絶対殺る」
「いややわー、近頃の若者ってホンマどんな成長しとんのもー!」



 明らかに俺めがけて振り下ろされている刀の刃を指で摘まんで受け止める。刀の持ち主、凛太郎は飛び退くと少年たちを見て、俺を見る。



「……なんすか、怠惰さん。そのガキども。あっ、あぁ……やっぱり隠し子説ってホントだったんすね……」
「おいこら待て! なんなん隠し子説って!? ちゅーかやっぱりってひどないか凛太郎くん!」
「だって女性にだらしないじゃないすかアンタ」



 俺の心を限りなく削りとってくる凛太郎に待て! と手袋を投げ付け、後ろから殺気を送ってくる少年二人に微笑み掛ける。



「すまんね、いきなり俺の補佐官が。君らはまだ現状を把握できてないみたいやからちょっと落ち着いて話をしょう」
「そもそも、アンタが仕事サボって本部から脱走したから俺が呼ばれたんじゃないすか怠惰さん。その首噛み千切りますよ」
「もうお前の食人種の酷さはよくわかってるから! お前はちょっとプライドくん呼んできて、また異世界からの旅人やで」



 異世界からの旅人。その言葉で目の前の二人は目を見開いていた。



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18:マメツキ◆A.:2017/09/30(土) 00:03 ID:aVQ

変更。
『普 柘櫚(あまね ざくろ)』→『聖辺 柘榴(ひじりべ ざくろ)』



 二人をとりあえず本部に連れていき、現在廊下を並んで歩いている。凛太郎はちゃんと少将を呼びにいってくれた。
 不思議そうに廊下をキョロキョロと見回す二人に笑みを浮かべ、すれ違い様「お疲れ様です」「相変わらずですね」「真面目なんですからちゃんと仕事しましょうよ」と呆れた笑みを浮かべる隊士に「ほっといてやー」と苦笑いして、声をかける。



「いきなりでびっくりしたやろー、えーっと、ジャーファル? くんとシン、くんでエエの?」
「あっ、ジャーファルです、合ってます」
「俺はシンドバッドだよ」
「シンドバッドくんとジャーファルくんやな」



 てくてくと歩きながらそう告げて、とりあえず執務室に着くまで説明でもしようかと口を開いた。



「質問があったら好きなときに聞いてくれてかまわへんからな」
「……はい」
「わかりました」
「ここは多分、君らの居った世界とは違う異世界や。こうやって異世界から訳もわからずやって来る人間はわりと多い。そして、この大罪支部本基地の近くがかなり多発している。原因はまったくの不明。近くの、学園と言う教育施設の天才が原因究明に奔走してくれているお陰で俺は寝る暇さえなくなってるわけやけど、なぜか七日きっかりでもとの世界に帰れるんや。一生帰れないと言う事態にはならないと思うから安心してくれてエエよ」



 そう言うと少しホッとした面持ちの彼らに微笑み、何か質問は? と問い掛けるとここは何て言う国ですかと返ってきた。



「『日本』って言う極東の島国や。四季はかなりはっきりした、戦争がない平和な過ごしやすいとこやで」
「「戦争がない!?」」



 どうやら戦争がないってところがカルチャーショックらしい。まあ、『他国との』って意味やけど。



「なんで戦争がないんですか!? どういう方法で!?」



 やけに食い付くシンドバッドくんに「ちょっと誤弊があったわ、訂正」と頬をかく。ジャーファルくんがハテナを浮かべて首をかしげた。可愛い。



「『他国との』戦争がないだけや」
「他国との……? それはどういう」
「シンドバッドくん、さっき言うたよな。その方法は? て」
「? はい!」
「他国なんか目やない、もっと相手にすべき敵が居るからな」
「「っ……」」



 ふっと俺の笑みに影が差す。二人がびくりと肩を揺らしたのに気づき、じんわりとした怒りを心の奥底に押し返す。



「……もっと相手にすべき敵……」
「せや。本音は他国も戦争したいやろうな。でも、そんな余裕はない。
敵、そいつらは言ってしまえば……人類の敵や。人間と言う種族を実験動物や食糧、殺人訓練の相手としか見ていない。まれに戦力としてさらっていく時もあるけどな」



 人類の敵。その言葉の裏に隠された意味は、暗に相手は人間ではないと言っているようなものだ。



「……その、相手とは」
「天使や」
「てっ、天使!?」
「そう、天使。で、悪魔が人間の味方」



 逆だろ、と言う顔をする二人に苦笑いが浮かぶ。前に来た白雄くんと白蓮くんにもそんな顔されたなあ……。

19:マメツキ◆A.:2017/09/30(土) 00:18 ID:aVQ



 そうやって色々話して、質問には答えで返し、俺の執務室前に着いたので「まぁ、ここにいる間不自由はさせないから安心してくれや」と微笑みかけてからドアノブに手を掛けた。「はい!」と満足、と言ったように目を輝かせたシンドバッドくんとふにゃ、と笑むジャーファルくんに安心して扉を開けた。



「っしゃ今だっ!」
「えーいもういい! 取っちゃえ! 狙うは首だよね、首!」
「……死体は俺に回せよ」
「「お前以外食べねーよ」」



 開けた瞬間双剣を振りかざしてとびかかってきた海助くんにぎょっとして後ろの二人を抱えて前方にジャンプ。カウンターとして海助くんの顔面にそのまま膝蹴りを喰らわせた。流石柘榴くん! と気のいいことを言っているプライドくんは可愛いから許すけど凛太郎くんと海助くんは許さん。



「こらお前たち! 客がいる前でなんてことしとるんや! 仮にも俺お前等の上司やぞ!」
「ええー、だって先輩「下剋上なんか上等や! 好きなときに首取りにこい!」って言っただろうがー」
「俺も……」
「海助くんはしゃーないけど凛太郎くんにはなんも言うてへんわ! つか敬語使え敬語! 見ろ! シンドバッドくんとジャーファルくん唖然! どないするねん!」



 とりあえずシンドバッドくんとジャーファルくんをプライドくんに預け、二人をがみがみ叱る。「俺はとっとと寝たいねん!」と言うと「「おい本音」」と突っ込まれた。
 視界の隅で「あの人部下になめられてるんですね……」「こら、ジャーファルくん! なんてことを!」「いやいやシンドバッドちゃん! あながち間違ってないよ!」「「ええ!?」」なんて三人のやり取りがあったなんて知りません!



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