酸素を吸って吐く度に肺が痛む。
あれから走り続けた足はもう限界を越えて横脇腹が痛みだした。
「はぁっ……はっ……っ」
人気のないところへ逃げるように入り込むと、複雑に建物が入り組んでいる裏の路地に腰を下ろした。
流石にこれだけ逃げればあいつらも追っては来ないだろう。
安堵感と疲労感で深いため息をついた。
「汗びっしょり……」
真夏ということもあって息を切らして酷使した身体は全身汗だくだ。
早くお風呂に入りたい。
切らしていた息も収まり腰を上げる。
「戻ろう」
逃げてきた道を引き換えそうとした時だった。
「ーー痛っ!?」
左の太ももの裏に鋭い痛みを感じその場に崩れる。
太ももには先端が鋭く尖った矢が深く刺さっていた。
「うぁ……〜っ!」
太ももから溢れだした血はみるみるズボンを赤色に染めていき、太ももが痙攣して動かない。
「やぁーっと見つけたぜ」
ぐぐもった低い声が背中から聞こえた。
太ももに痛みを与えないように首を声の主に向けると、ニヤッと薄汚い笑みを浮かべた。
見た目からして30代というところだろう。
目が隠れるほどの前髪に中肉中背の男だ。
「俺の目を盗んで何処に行ったかと思ったら。 そう遠くに行ってなくて安心したぜ」
迂闊だったーー。
体力が限界に近かったとはいえもう少し離れるべきだった。
が、時既に遅し。
男は鼻を燻る悪臭を身に纏いながらゆっくりと近づいてくる。
腕の1本なら切り落として逃げれたかもしれないが。
足にダメージを与えられたのは運が悪かった。
無念さと己の浅慮を呪った。
もうだめだーー。
「まあちょっと待つんだわうんこ」
背中に投げ掛けられた声は絶望的なこの状況に希望を差し込む鋭い一声だった。
す、すげえ✡( ( \(°ㅂ°)/ ) )✡