その夜、夢が降る

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12:時雨◆82:2019/10/23(水) 07:30




「あっ、イブ、光!」


待ち合わせ場所には、もう二人の姿があった。


二人の名前を呼ぶと、彼らは振り向いた瞬間目を丸くした。


「えっ、何……」


二人同時に走って私のもとへ来る。


「雨月!?ほんとに雨月!?うん、可愛すぎる!というより、綺麗……!!」


イブが目をキラキラさせながら言ってきた。


「え、ありがと……」


ほんとは、自覚したくなかったけれど、私はもうすぐ死ぬ。


だから、きっと私にとって最後の夏祭り。


私にとって、最後の思い出───。


だから、少し気合いを入れておしゃれをした。


浴衣を着て、髪を巻いてみただけなんだけど……


なんか、光がやばそうな気が……


「ヒナタ…………」


顔を伏せているから、光の顔は分からない。けど、なんかやばい気がする。


「誰のためにそんなおめかしを!?あ、俺!?嬉しい!!」


綺麗すぎる!好き!と叫びながら抱きつこうとしてくるので、慌てて逃げた。


「ちょ、人が見てるところで抱きつこうとしてこないで」


「断る!」


私はもう走るしかなかった。


体力と足の速さには自信がある。


人が少なくなってきたところで、足を止めた。


というより、人は私と光のくらいしかいない。


「やっぱヒナタ足はえーなー」


光が息を切らしながら歩いてきた。


「もう……光は夢中になると他のこと見えなくなるんだから、気をつけなよ」


と軽めに叱っても、光はまだニマニマしている。


「なによ」


「いやぁ〜、今の俺は無敵だから。だって俺のためにそんなおめかしを…」


私はため息をつき、光の頭を小突いた。


「いい加減目覚ませ」


「へっへっへ〜」


だめだこりゃ。


そう思い、私は話題を変えることにした。


「あっ、ねぇ、そろそろ会場行かない?もうすぐ花火が…」


『花火が始まるよ』と言いかけたとき、その言葉は光の言葉によって遮られた。


「ヒナタ、大事な話」


光に手を握られた。


「えっ…何……?」


心臓がドクンと揺れ動いた。


だって、このシチュエーションは、あの“悪夢”と似ているから。


場所も違くて、天気だって違う。


だけど……今の光と、夢の光の表情と雰囲気がそっくりなのだ。


まさか、正夢……?


花火開始のカウントダウンが遠く聞こえる。



「ヒナタ、



────好きだよ」


光の言葉と同時に、花火が打ち上がった。


花火の光と、夏祭りの屋台のちょうちんの光が、私たちを包み込んだ。


「……光、今…なんて……」


「俺はヒナタのことが好きだ。大好きだよ」


ずるい。


いっつもヘラヘラ笑って可愛いだの付き合って〜だの口説いてきたくせに………


こういうときだけ真剣になって、かっこよくなるのズルいよ。


「俺と、付き合ってください」


光が、恥ずかしそうにいい、握っていない片方の手で頭をかいた。



私は、




幸せだった。



「はい」



大きな花火が打ち上がった。


あまりにも、嬉しすぎて。


あまりにも、この瞬間が、幸せすぎて。




だから、私はもうすぐ、死んでしまうだろう。


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