ー加恋ちゃんは気を引きたいー
「加恋ちゃん、また私の筆箱隠して!」
「あははっ! 綾音(あやね)ちゃん、ごめーん」
今、私の目の前にいる荒木加恋(あらきかれん)ちゃんは、私にちょっかいをかける事が大好きだ。いつもこうやって謝るけど、加恋ちゃんは楽しそうな顔をしている。
「―――って事なんですけど、黒木先輩。私嫌われてないんですか?」
思い込みだったら恥ずかしいけど、加恋ちゃんは私が困ってるのを見て嬉しそうな顔をする。
だから、ひょっとしたら加恋ちゃんは私を嫌ってるのかもしれない。そう考えて、私は加恋ちゃんと親しい黒木先輩に相談をした。
「あー、大丈夫大丈夫。そんな事ないよ」
いつものだから。なんて含みのありありと見える言葉と一緒に、先輩は否定してくれた。
……それにしても、先輩ってどうやって加恋ちゃんと仲良くなったのだろう。学年だって違うし、相性だってよくなさそうだし。
「……黒木先輩って、加恋ちゃんとどうやって仲良くなったんですか?」
気になった事はすぐに聞く。それが私。
躊躇いもせずに尋ねると、先輩はちょっとばつの悪そうな顔をした後、仕方が無さそうに答えた。
「親戚なんだ、あの子と」
「ええっ!?」
先輩と加恋ちゃんが親戚っ!?
思いもよらない事実に、私は思わず声を上げてしまった。そしてよく先輩の顔を見てみると、確かに少しだけ、加恋ちゃんに似てるような気がした。
……目つきの悪い所とか。
「変わってないんだねえ、アプローチの仕方も」
「は? アプローチ?」
「……えーと、」
―――あの子、悪さをしないと構ってもらえないって思ってるから。
そんな先輩の言葉に、私はますます「は?」と言いたくなったが、それを抑えて尋ねた。
「どういう事ですか?」
「あたしが言ったなんて言わないでよ。……そのまんまの意味。加恋、叔母さん――あの子の母親に、放任されて育ってるからさ」
……ああ、なるほど。
加恋ちゃんはお母さんに見てもらいたくて、悪い事したら本当に見てもらえて。
それで、私の気を引きたいからあんな事を……
「あたしもよくされたね。綾音、度が過ぎてるようならあたしから叱っておくけど、大目に見てやってくれない?」
「は、はいっ!」
……なんか、切ないよね。
私は両親から普通に愛情を注がれて、それなりの躾をされて育ってきたけど、加恋ちゃんは違う。
今までもこうやって、周りの大人や友達の気を引くために、いたずらをしたり。
「あっ先輩! ありがとうございました!」
とりあえず、心のモヤモヤは無くなった。
私は先輩にお礼をして、教室に帰る。……その途中、気付いてしまった。
「私、加恋ちゃんに……」
まるで自惚れているようだけど、そこそこの好意を寄せられている事に。構って欲しい、なんて思われちゃっている事に。そう考えると、途端に恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
「私――――」
あの子に、どんな顔して会えばいいの!?