「面白い女だ。俺の妾になる気はあるか?」
美しい、しかしどこか冷たい声が
広い部屋に響く。
私の両親が事故にあった時、
彼は一緒に病院まで走ってくれた。
友達ができなくて悩んでいた私を、
皆の輪の中に引き入れてくれた。
苦手な数学を教えてくれた。
上手じゃないお弁当も完食して
『美味しかった!」って、笑顔で言ってくれた。
あの時も、この時も、いつもいつも
私を支えて守って勇気づけて......
何も出来ない、頼ってるだけだった私を
あなたは選んでくれた。
.......だから。
目の前で不敵に微笑む『王子』に向かって
私は笑顔で言った。
「ごめんなさい。
私には、最愛の人がいるんです。」
芹沢千尋、高校一年生。
乙女ゲームのヒロインですが、元いた世界の
彼氏だけを愛します。
混乱が収まらず、目の前のカイラ様をまともに
見ることもできない。
「妙な光とともにいきなり現れた」
カイラ様は、確かにそう言った。
でも『君だけの僕』でヒロインとなる
アリス=ファディアは、トリップ少女でも転生者でもない、最初からこの世界にいる少女。
カイラ様とも、16歳の春に
城に招かれた時に初めて出会うのだ。
それがどうだ....私は、カイラ様のベッドに
謎の光とともにいきなり現れた、完成なる不審者。
しかし見た目は、キャンベル王国でも
1、2を争う名家であるファディア家の長女、
アリス=ファディアそのもの。
いきなり王子の自室に謎エフェクト付きで登場した公爵令嬢(初対面)
うん、普通に私、不審者。
「ええっと、その、カイラ様...」
「何だ」
「私、本当に、そんな謎の光とともに登場するようや真似してました....?」
「あぁ。」
自信満々にうなずくカイラ様。
冷たさを感じる黄色の瞳が、興奮できらきらと年相応に輝いていた。
「すごかったぞ。
俺がそろそろ眠ろうと寝台に手をやった瞬間に、
視界が眩い光に奪われたんだ。
意味がわからなくて、目をつぶって耐えていたら
....間抜け面のお前がいた」
魔法系ラノベのヒロインのような登場だった。
聞いてて乾いた笑いすら漏れてしまう。
「....ふふ」
「なんだ?」
もう駄目だ。
そもそも私が本当にアリス=ファディアなのかもわからない。
顔が同じだけの別人じゃないのか。
登場から何から何まで違い、少女の中にいるのは
アリスではなく私だ。
「それより質問に答えろ娘、お前は誰なんだ」
最初よりやや苛立った声で、カイラ様が私に話しかけた。
そんなこと、分からないですよ。
相変わらずぐちゃぐちゃな頭に、愛しい恋人の顔が浮かんだ気がした。
*最低限の決まりだよ、ハハッ*
・荒らし、迷惑コメントはやめてね
・ヒロインがヒドインなので注意するんだよ〜
なんであたしの恋は筋書き通りにいかないの?
あたし、真城優には幼馴染がいる。名前は小暮碧斗。幼稚園から高校二年生に至る現在までずっと一緒。
あたしはずっと碧斗のことが好きで、碧斗も絶対あたしのことを好きだと思ってた。だって、普通そうじゃない? 誰もが二人は結ばれると思うじゃない?
だから、ずっと待ってた。碧斗があたしに好きって言ってくれるのを。いつも一緒なんだよ? 10年以上ずっと。
いつだってあたしは碧斗の特別で、碧斗はあたしの特別だった。
女の子の中で碧斗の家に行けるのはあたしだけだったし、碧斗が下の名前で呼ぶ女の子もあたしだけだった。
勘違いしても、しょうがないよね……?
勘違いしてる系ちょいウザヒロインと正統派イケメン幼馴染の話です
亀更新になると思いますが、感想等頂けると嬉しいです!
「私に誇れることって、何でしょう」
ふと頭の中に浮かんだ何気ない疑問を、ぽつりと口に出してみた。
人は、思春期になると自分の存在意義だか生きる意味やらを求めてむしゃくしゃしたり悩んだりするらしい。
いや、『ブスつらい』とか言ってキメ顔自撮り画像をつえったーにアップする痛いJKじゃあるまいし、私にそんなことはないだろう、と、少女…藤篠 カナリは思っていた。
そう。つい先ほどまでは。
「いやあ……こういうことって考え出すとなかなか答えが見つからないものだね」
「なに?『ブス辛い』とか言ってキメ顔自撮り画像をつえったーにアップする痛いJKに感化でもされた?」
「……」
思わず頬張っていた揚げ団子を喉にかからせるところだった。危なかった。本当に危なかった。
やっとの思いで吐き出した団子を再びゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
そして、咳き込みと共に言葉を繋いだ。
「沙々、君エスパーだったりする?」
「その発言はつまり、アンタが『ブスJK』の影響を受けたということを認めるということね?」
「認めるやらなんやらって……まあそうなんだけど。ていうかブスって言いきらないであげてよ。可哀想でしょ。」
二人の女子高生の何気ない会話。
まるでいつでもそこにあるような、ごく日常的な一場面である。
「長いので省略しただけですー」
「……‥」
いけしゃあしゃあと言ってのける彼女に、カナリは小さく溜息をついた。
(絶っっっ対に悪意あるわコイツ。ありありだわ。)
ガンッ!!
刹那、カナリの頭に強い衝撃が走った。
カナリの目は、きちんと膝の上にあった筈の沙々の右手の残像だけを捉えていた。
(……なんで口に出してないのに悪口って分かったんだろう。)
やっぱエスパーかな、と思いかけて、おっといけない、これも聞かれてたら私の頭に雪だるまができてまう、と思い直した。
カナリの脳天に、煙をあげる拳大の夏みかん。見ている者もおもわず「うっ」と顔を顰めたくなるような一級品(?)である。
そこを痛い痛いと摩りながら、ふと、動きを止めたカナリは暫く廊下の方を眺めていた。
が、それも束の間。すぐに視線を元に戻すと、カナリは最後の揚げ団子を口に放り込んだ。
「……うん、やっぱ世の中不公平だよ」