王女と召使

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36:☆〜:2011/06/03(金) 17:19

「あ、あは、は、い、いもでも食べてらっしゃ、い」

37:全自動不良品:2011/06/14(火) 10:21

幕間劇

「ご馳走様でした!」

晩御飯の皿を空にしたミクが両手を合わせる。村まで女の子達を送ってお腹が空いていたのか、二杯もおかわりを要求してきた。作るのは私なんだから少しは遠慮というものを覚えて欲しい。

「まさかこんなに美味しい肉じゃがを食べられるなんて。思わず二杯もおかわりしちゃいましたよ」

個人的にはあまり好きではないのだけれど。芋が入ってるせいで、少し食べたらすぐにお腹が膨れてしまう。芋はできるなら食事ではなくおやつとして食べたい。

「じゃあなんで作ったんですか?」
「……なんとなく、芋を使った料理を作りたくなって」
「ふーん」

どうして作りたくなったのかは私にもよくわからない。稲妻のような天啓が降りてきて、芋を食えと命じられたような気がしたのだ。

「ほら、ミクさん。一緒に手伝ってください」
「了解ですサー! なにをすればいいですかサー!」

ミクが立ち上がって敬礼する。その返事のしかたはやめてくれないかな。

「私がお皿を洗うから、ミクさんはこれで拭いていって」
「イエスサー!」

背中にぴょんぴょん飛び跳ねてしがみついてくるミクに布巾を押しつけて、食器を洗う作業を再開する。隣でミクが頬を膨らませて「ハクさんノリ悪い」などと呟いているが、聞こえてない振りをした。

「さっさと終わらせて、お風呂に入って寝ましょう。明日は水を汲みに行かないと」

いつもならまだ水の貯蓄には余裕があるはずなんだけど、近頃は消費量が倍に増えたせいであっという間になくなってしまった。加えて今日は一気に四人分も使ったから、文字通り底を突いている。

「はいはい! それじゃあ今日は一緒にお風呂に入りましょうよ!」

突然隣でミクが大声を出すので、皿を落としてしまいそうになった。今なんて言った?

「ここのお風呂結構広いし、頑張れば一緒に入れますよ!」

いや流石に狭いんじゃないのか。そう言いかけて、ミクと私の細さなら本当にいけるんじゃないかと思い直してしまう。
いや、でも、ねえ。皿を洗う手を止めて、私とミクの体を見比べる。一目でわかる圧倒的なボディの戦力差に、思わず絶望を感じずにはいられない。主に胸囲の辺りに。

「……駄目っ」
「えっ。なんでですかいいじゃないですか」
「……………………駄目っ」
「そっ、そんな溜めて言うほどイヤですかっ? ハクさんのケチ!」

ミクが腕にしがみついてくる。ええいうるさいやつだ。私とミクが裸になって並ぶなんて、もはや拷問に近い所業じゃないか。

「この腕に押しつけてくる柔らかいものを切り落としてくれたら考えるわああ憎たらしい」
「ハクさん怖い!」
「冗談に決まってるじゃないですかやだなあハハハ」

私だって冗談の一つや二つ言えるんですよ?

「目が笑ってない、全然目が笑ってないですよ!」

それから、埒があかないと踏んだミクの泣き落としに折れて結局一緒にお風呂に入ったのはまた別の話。

38:全自動不良品:2011/06/30(木) 00:50

千年樹の麓に流れる清流のすぐ傍にかがんで、底まで覗けるほどに澄んだ水面に手をつける。今日は少し気温が高いので、手に感じるひんやりとした感覚がとても心地よい。
手が冷たさに慣れてきたところで、今度は思いきって裸足を浸してみた。さすがにまだきついんじゃないかと考えていたが、予想以上に快適だった。
スカートの裾をつまみあげて、川底をしっかりと踏みしめる。周りに誰もいないのを確認してから、川の流れに逆らうように足を蹴りあげて、水しぶきを飛ばしてみた。宙に舞う水滴が、木々の隙間から射し込む陽の光を反射してきらきらと輝く。なんだこれ、すっごく楽しい。
他に誰もいないのをいいことに、私は暫くの間、水遊びに精を出すことにした。帰りが遅い、とミクがうるさいこと言いそうだけど、普段から散々世話をしてやっているのだから、これくらいの役得は容されてもいいはずだ。
そもそもいつまでたっても起きてこないミクが悪い。よって文句を言われる筋合いはない。証明終了。



ミクが連れてきた双子の姉妹――名前はメルとロベリアというらしい――を家に招き入れて以来、頻繁に彼女達が訪ねてくるようになった。どうやら私の作るお菓子や料理を気に入ったようで、近頃はミクを見習い遠慮なくおかわりを要求し始めるようになってきた。
そのため、使う水の量がこれまでの四倍にまで膨れ上がり、今では毎日水を汲まないといけないようになってしまった。非常に面倒な上に、家から千年樹までは結構な距離があるので凄く疲れるのだ。

39:近々続きを書くので:2011/11/23(水) 22:16

あげます。
クソスレあげてごめんなさい。

40:不良品:2011/11/25(金) 17:33

でも、これはこれで不思議と悪い気はしない。
ミクと出会う以前の私なら、こんな気持ちで水を汲みにくることなんて絶対にありえなかった。ましてや、水を汲むついでに水遊びに没頭するなんて。


だから私は、村の人が同じように水を汲みに来たことに、声をかけられるまでまったく気付けないでいた。
「ねえ、ちょっと」

「はいっ!?」

声のした方へ振り向くと、迷惑そうな顔をした、私とそう変わらないくらいの年頃の女性がバケツを持って立っていた。

「……水、組みたいんだけど」

ちくちくとした声。細められた目。明らかに私のことを疎んでいる。ここまで露骨な態度を取られたのははじめてのことで、思わず頭が真っ白になって、身動きひとつ取れなくなってしまう。

女性の顔が苛立ったように歪み、ため息混じりにさっきより強い声で繰り返した。

「水、組みたいんだけど」

「あっ、ごめんなさいすいません!」

私はそれだけ答えると、慌てて川からはい上がった。入れ違いに女性が水面に寄り添い、膝をついて水を汲みあげる。
重たい空気に居たたまれなくなった私は小声で「すいませんでした」と再び謝り、バケツを持ってそうっとその場を離れた。
暗い気持ちで村に繋がる道を歩いていると、「おねえちゃん!」とかしましい声で呼ばれた。顔を上げてそちらを見ると、双子の少女達――メルとロベリアだ――が丁度駆け寄ってくるところだった。

ミクが誘拐同然にうちまで連れてきたこのふたりは、はじめはミクにしか懐いていなかったものの、お菓子を作ってあげているうちに私にもべったりとくっついてくるようになっていた。

餌付けされた犬猫のように見えなくもないけど、それをミクに言ったら「お菓子もそうだけど、ふたりともちゃんとハクさんのことが大好きなんですよ!」となぜか怒り気味に叱られてしまった。

「おねえちゃん、どこ行ってたの?」メルが私の服の裾を掴んでぴょんぴょん飛び跳ねる。服が伸びるからやめて欲しい。

「水を汲みに行ってたのよ」

「ふうん。ねえ、今日も遊びに行ってもいい……ですか?」

控えめな笑顔に、控えめな口調。ロベリアのこの上目遣いを交えたおねだりは反則級に可愛くて、私はついついなんでもしてあげたくなってしまう。

「いいわよ。ミクさんったら、いくら起こしても起きてくれないの。起こすの手伝ってくれたらお菓子も作ってあげる」

「ほんとっ? やったあ。メル、頑張ってミクちゃん起こすよ!」

「もうお昼なのにまだ寝てるんですね、ミクちゃん……」

このふたりはミクのことをミクちゃん、私のことをおねえちゃんと呼ぶ。小さな妹ができたみたいで嬉しいけど、なんで私だけ名前で呼んでくれないんだろうと少し複雑な気持ちにもなる。

「それじゃあ行きましょうか」

「うん! おねえちゃん、メルがバケツ持つよ?」

「あ、メルずるい。……私が持つの」

41:大和:2011/11/25(金) 18:19

不良品さんっ!
アドバイスありがとうございました!
ボカロ小説ですね〜、僕もボカロ好きですよ。

42:不良品:2011/11/25(金) 18:22

「ちょっと、子供が変な気遣わなくても」

「「おねえちゃんは黙ってて!!」」

「あ、すいません……」

異口同音に怒られて、思わず子供相手に敬語で謝ってしまう。なんで怒るんだろう、意味わかんない。
結局ふたりで一緒に持つことになり、私が不安げにその様子を眺めていると、突然誰かの叫び声が背中に浴びせられた。

「なにしてんのっ!?」

びくり、と私が肩を竦めて振り返ると、さっきの女性が凄い形相で私達を睨み付けていた。いや、違う。明らかに私個人を見ている。なんだ?

メルとロベリアも同様に振り返ると、ひゅっと息を吸って黙り込んでしまった。ふたりの知り合いなのかな、なんて呑気なことを考えていると、女性は手にしていたバケツを放り出してつかつかと大股で近寄ってきて、どんっと私の肩を突いた。

「あんたさあ、人んちの子供になにバケツ持たせてんの?」

はあ? あまりにも突然すぎる展開についていけず、ただひたすらに開いた口が塞がらない。言葉も出てこない。っていうか待って、人んちの子ってことは……。私はメルとロベリアと、目の前の女性を見比べる。

「違うの、お母さん!」

ふたりが私と女性の間に割り込んでくる。お母さん? この、私とそう変わらない顔で?
もう何から驚けばいいかわからずぐちゃぐちゃになった私の頭を、ぱあんという渇いた音が真っ白に塗り潰した。

捻れるメルの首。ばしゃん、と音を立てて落ちるバケツ。ロベリアがなにか言いたげに女性を見上げると、メルと同じように頬を張りとばされた。

怒りゆえだろうか。女性はぶるぶると身を震わせながらきっと私を再び睨み付けると、メルとロベリアの手を取って私から引き剥がすように距離を置いた。

「最近よくどっかに出かけてると思ったら……あんたが家に連れ込んでたの!?」

まるで、親の敵を見るような、女性の目。

「なにもしてないでしょうねえ! なに、なんなの? うちの子連れ込んでなにするつもりだったの?」

メルとロベリアが、目に涙を溜めて女性を見上げている。なぜか、叩かれてもいない私の頬がじん、と痛んだ。

「あんた達も! こんな女のところに毎日毎日……よくもまああんなに楽しそうな顔で通えるわね!」

女性の怒りの矛先がふたりに向けられる。ぐいっと手を引っ張りあげられて、ロベリアが呻いた。

「いい……? よく聞いてちょうだい? あんた達がさあ、あの女みたいに白髪になっちゃったらさあ! もううちの子じゃないからね? ほんとに捨てちゃうからね!? わかった!?」

メルが震える声で「……はい」と呟き、ロベリアは無言で頷いた。
女性の怒りはまだ収まらないらしく、また私を睨み付けた。

「あんたにはさあ、村に入って来なかったから今までなんにも言わなかっただけなの。今度こんなことしたら、追い出すからね!? あのミクって子もそうよ! なんであんたなんかと一緒に住んでんの? 頭おかしいんじゃない!?」

43:不良品:2011/11/25(金) 18:30

>>41
アドバイスを出せる立場にいるわけでもないのにえらそうに口を出してしまって申し訳ありませんでしたっー!

ボーカロイドについては悪ノ華シリーズと、知名度の高い曲しかわからないんですよね……。

44:不良品:2011/12/09(金) 13:45

びりびりと私の頬を叩く彼女の怒声。
息を荒げて肩を上下させていた彼女は、それで気が済んだのか、私に背を向けるとメルとロベリアを引き摺るようにして遠ざかっていく。
その背中が、遠目に見える突き当たりを曲がって、私の視界から消えても。

私はその場で立ち尽くす以外に、できなかった。


そっと自分の頬に触れる。思い出すのは、張り飛ばされた頬を腫らして涙を浮かべる、メルとロベリアの顔。

あ、これはだめだ。と独白した瞬間に、私のもろい心は自責の念に圧しつぶされてしまった。

45:不良品:2011/12/09(金) 21:50

家に帰った時の私は、それはそれはひどい顔をしていたんだろう。ミクが「ハクさんおかえりなさいお腹空きました!」と出迎えてくれたけど、私の顔を見るなり、唖然として黙り込んでしまった。

「ただいま、ミクさん。すぐになにか作りますね」

自分で笑ってしまいそうなくらい、からからに渇いた声が出てきた。
なにか言いたそうなミクの顔。でも私は目も合わせられずに、キッチンに立って夕飯の支度をする。

あのミクって子もそうよ!
なんであんたなんかと一緒に住んでんの?
頭おかしいんじゃない!?
あの女性の声が、ずっと頭の中でこだましている。
彼女だけなのか。いや、そんなはずはない。きっとみんな、表面上はあんなに親しげにしておきながら、ずっとミクのことを色眼鏡かけて見ていたのだ。
私と、一緒にいるから。
私が、一緒にいるから。
だから、メルとロベリアも、あんなふうに、頬を叩かれてまで叱責を受けるはめになった。
私がいるから。


食事の間、ミクはなにも訊いてこなかった。空恐ろしいほどの沈黙の中、咀嚼の音だけがやけに大きく響く。

「ハクさん、食べないんですか?」

ミクがいきなりそう言うので、私はびくりとして皿に視線を落とす。そこでようやく、私は自分が一口も食べていないことに気がついた。
でも、どうしても食べる気になれなかった。

「ごめんなさい。私、先にお風呂に入って寝ますね。ちょっと疲れちゃった。あ、かわりに食べてもいいですよ。お腹、空いてるでしょう?」

がちがちに固まった泥のような笑みを顔に張りつけて、私は席を立った。


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