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32:ブラックキャット:2013/02/23(土) 16:45 ID:bAY

夢羽は、教室のドアの前に立った。
一気に開け放つ。
一瞬だけの、沈黙。
これ程、苦手な物は無い。響夜と一緒だった時は、こんなの全然気にならなかった――――
下がりかけた眼が捉えたのは、一番会いたくなくて、一番会いたかった人。


「―――響、夜」


誰にも聞こえなかった声。でも、響夜は振り返った。
「夢羽……」




     ☆




屋上のドアを開ける。ぬるい風が吹いてきた。
風が、強い。
長い髪が、風に吹かれて揺れる。
風が来ない場所に移動する。…心が騒がしいのは、きっと気のせいだ。


聞き慣れた呼吸の音。
懐かしい匂いがする。
心臓の動悸が激しくなる。


「あれ、夢羽………」
――――気のせいじゃ、無かった。

33:ブラックキャット:2013/02/23(土) 18:44 ID:bAY

恐る恐る響夜の隣に座る。
響夜は夢羽を見ない。
沈黙に耐え切れなくて、夢羽は口を開いた。
「あ、あの「ごめん」
響夜は俯いたまま言った。
「遅いかもしれない。けど、ごめん。…言い過ぎた。あんなムキになるんじゃなかった」
夢羽に向き直って、笑う。


「……僕と夢羽、双子じゃないって。達也さんに、聞いた」


2人の頭上に、影が落ちる。
見上げると、人影がひとつ。
口を開いた。


「―――血の繋がっていない、赤の他人さ」


そう言って、人影は地面に降りた。
響夜が夢羽の前に立つ。夢羽が息を呑んだ。


「……達也さん」


達也は、幼い印象の残る顔で笑った。
「ごめんね、驚かせようと思って…さ。――――長が呼んでいます、来てください」
有無を言わさない態度に、2人は頷いた。












―――――――――2人は知らなかった。
自分達の一族の事、
自分自身の事、
自分に隠された秘密を。

34:ブラックキャット:2013/02/23(土) 19:17 ID:bAY

2人は、大きな古い家の前に立った。表札は無い。
「取り合えず、此処で待ってて。長に報告してくるから、3分くらい経ったら、来てくれる?上、で待ってるから」
言うだけ言うと、達也は何処かへ行ってしまった。

「……行ってみよっか」
夢羽は立上がったが、響夜がなかなか立ち上がらない。
「響夜、どうしたの…?」
近づくと、「…足」と小さく聞こえた。
「足……?」
首を傾げた夢羽に向かって、響夜は言った。
「痺れた…」
慣れない正座をしたからか。
堪える間も無く、小さく吹き出した。響夜の顔がみるみる不機嫌になっていく。
響夜に手を伸ばし、立上がらせる。
「ほら、行こう」




     ☆




―――――ガコッ
「わっ!本当に外れた!」
夢羽は、一枚の板を持ち上げた。
響夜が、軽く息を吐く。
「…すごいな、カラクリだらけだ」
本当、と夢羽は言う。けど、


――――響夜もすごい。


1回来た事あるみたいに、すいすい進んで行く。不思議と、響夜に付いて行けば心配ない、という安心感も感じていた。
外した板から、部屋へと入る。


畳以外、何も無い。


――――いや、ひとつだけ掛け軸がある。


「…あそこ、だな」
響夜は、ゆっくりと掛け軸を下ろす。現れたのは――――


「いらっしゃい。貴方達が2回目ね、此処まで来れたのは。
 …さすが、将也さんの息子ね。綾音の娘も、ちゃんと血を受け継いでるじゃない。
 ……本当そっくりね、貴方達は」

35:ブラックキャット:2013/02/23(土) 21:36 ID:bAY

其処に居たのは、若い女だった。
黒いシャツに黒いズボン、という全身黒尽くめの格好で立っていた。横には、達也も居る。

2人は、その女性の前に跪いた。足が勝手に動くんだ、しょうがない。
まず、響夜が口を開いた。


「“―――お久しぶりでございます、忍様”」
「“……正直、また会えるとは思ってなかったわ、忍”」




紅 忍。
これが、彼女の名だ。

36:ブラックキャット:2013/03/02(土) 20:07 ID:bAY

忍が、面倒くさそうに言う。
「結論から先に言っちゃうとねぇ…」
夢羽の頭が痛み出した。気分が悪い。


「貴方達の“体”にはね―――――……神様が居るのよ」


忍は、夢羽を指差した。


「夢羽には風神」


次に、響夜を指差す。


「響夜には雷神」


響夜が何かを呟いた。「そんな」か、「まさか」だろうが、今はそれどころじゃない。
さっきから頭痛が酷いのだ。
「……それが、本当だと、して?それが、私達に、何かあるの…?」

切れ切れの夢羽の言葉を聞いて、忍は確信した顔つきになった。
「…頭が痛いんでしょう?夢羽。貴女の中に居る風神が、『喋らせろ』って言っている証拠よ」
―――喋らせろ、って言ったって、どうすると言うのだろうか。

忍が夢羽の前に立つ。
「いい?目を閉じて…。ゆっくりと力を抜いて、何も考えないで…寝てるような感覚でね」
忍が夢羽の眼前でゆっくりと手を開くと、



夢羽は意識を失った。

37:ブラックキャット:2013/03/03(日) 21:47 ID:bAY

「夢羽っ…!」
「止めといた方が良いわ」
夢羽に近づくの響夜の腕を、忍が掴んだ。
「何でだよ、夢羽に何をしたんだ、意味解らないよ!」
忍の腕を振り解こうとしても、動けない。
達也が響夜を引っ張って、部屋の隅へと移動した。

響夜の耳元で呟く。
「――――夢羽は、まだ目覚めない。こうなったら…僕達に出来るのは、見守る事だけだよ」
響夜の脳裏に、火事の夜が蘇る。まだ新しい、残酷な記憶。
“目覚めない”? 目覚めないって言ったか?
夢羽が、
――――僕にとってただ一人の夢羽が。

パニックに陥りかけて、膝が床に着く。

その瞬間。
真っ青だった空が、黒く染まった。


風が――――吹いた。


強い風が部屋を巡る。
吹き飛ばされそうになって、達也の服を掴む。
立って居るのがやっとな響夜は、夢羽が立ち上がったことに気付かなかった。


『我は風神なり…我を呼び出したのは、誰だ?』
夢羽の髪が風になびく。
姿形は夢羽だけど…なんだか、知らない人を見ているような気がする。
「夢羽っ…!」



その風の中心に居たのは、紅い眼をした夢羽。

38:ブラックキャット:2013/03/04(月) 22:06 ID:bAY

『夢羽…?』
夢羽は目を細めて忍を見た。
『忍よ、この女子の名は 夢羽 と申すのか?』
夢羽が自分の名前を確かめているなんて、響夜からしてかなり変な光景だ。
忍は肩をすくめて答えた。
「えぇ、そうよ。貴女の……2代目の主よ、貴女が主導権を握ってどうするのよ?」

夢羽がニヤリと笑って、響夜の背中に悪寒が走った。


―――――夢羽じゃない。


『昔はフウ、フウ、と煩かったが。いつの間にか大人しくなったの、忍よ』
夢羽の言葉に、忍は意地悪く微笑んだ。
「…いい加減風を収めなさい、フウ。それに、夢羽にまだライを紹介しなくちゃいけないし、響夜にフウを紹介しなきゃいけないの。あまり時間が無いんだから」
『響夜、とな?』
夢羽が達也の陰に隠れるように立っている響夜の前に立った。

2つの紅い眼が、響夜を貫く。
心の裏側まで読み取られそうで、思わず目を逸らす。
『響夜…か、良い名じゃの。大切にするのだぞ』
「はい」
響夜は、拍子抜けしてしまった。なんだか、あんなに緊張してたのが嘘みたいだ。

『…それじゃ、我は戻るとするか。……忍よ、何か言う事は無いか?』
「無いわよ、馬鹿ね。それじゃぁね」
忍は、夢羽の眼前に開いた手を閉じた。
夢羽が、崩れ落ちる……
支えようと手を伸ばす


瞬間に、理不尽なほどの眠気が脳内を支配する。

39:ブラックキャット:2013/03/09(土) 17:01 ID:bAY

夢羽が目を覚ますのと、響夜が床に倒れ伏すのが同時だった。


刹那。


耳を貫いた、落雷。
忍は薄笑い、達也は苦笑。
頭の回転が追いつかない。

取り敢えず、達也に話しかけてみる。
「ねぇ、達也さん――――「いいかい夢羽、よく聞いて」
台詞を遮られてしまったが、なにやら大事な事らしい。


「響夜に――――絶対に、話し掛けないで。僕にも、忍さんにも、――――響夜にも、絶対」


――――どういう事。
響夜に話し掛けるな、ですか。
無理だよ……。
今も、床に倒れている響夜に近付きそうで、達也に腕を掴まれているというのに。

響夜、
ねぇ、
返事してよ。
聞こえてるくせに。
ねぇ――――


「響夜っ!!」


「夢羽っ!?」
達也が腕を掴んでいる力を強める。痛い。


『誰だ、騒々しい』


紅い眼が、夢羽を貫いた。

40:ブラックキャット:2013/03/16(土) 16:01 ID:bAY

響夜がゆっくりと起き上がる。
響夜の周りが真っ黒に染まり、たまにパチッ、と放電しているような音が聞こえる。


――――響夜じゃ、ない?


「きっ……響夜っ……!」
響夜は明らかに怒った顔をしている。……何で?

『ほう、今度の体は…前と違って、貧弱だな。食べ物が不足しておるのか?忍よ』
忍が笑う。
「そんな筈無いわよ、ただ…小食なんじゃないの?」
『成る程な……筋力もあまり無さそうだ。これで、仕事が勤まるのか?』
「大丈夫よ。サポートの為に貴方達を呼んだのよ」
『まさか……フウも居るのか?』
響夜が部屋を見回す。
反射的に、達也の後ろに隠れる。


『そこか』


掌をこちらに向ける。周りに小さく雷が見える。


――――来るっ!


其処からは反射だった。
掌を、同じように響夜に向け、強く念じる。
『やれやれ……』と聞こえたような気がした。


――――ドオオォォォォッッッ


勢いで後ろに吹っ飛ばされる。
壁に背中を打ちつけ、呻く。
そんな夢羽の様子を見て、達也は苦笑した。
「だから言ったのに……」

何が起こったのか分からない。

41:ブラックキャット:2013/03/17(日) 19:50 ID:bAY

 夢羽は、全く状況が飲み込めて居ない様子で周りを見回すが、誰も答えない。
その様子を見て、響夜――――否、ライが呆れた顔になる。
『フウよ、何間抜けな顔をしておる?貴様、兄に挨拶も無しに勝手な事をしてくれるな……』

 再び、ライの瞳が怪しく光る。
その瞳を見て、何か、沸々と沸いて出て来た物があった。
 それは脳裏で渦巻いて、人の形に変わった。


 青く、蒼い――――人。


『ライ……』
 ライが口を歪めて笑う。すると、何かに気付いたように床に膝を着いて屈む。
『何だ、これは?』


 その手には、錆びた短刀が握られていた。


『返せっ!』
 叫び終わる前に、その手から奪う。
ギュッ、と握る。
 それは何だ、と言いたい事が分かるライの視線に、フウは手に持った短刀を見る。
此れは……何と言えば良いのだろうか――――?

 しばらく言葉を探し、やっと答えを見つけたような気がする。
恐る恐る、口に出す。


『此れは、我の……封印の書だ』


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