起死回生
死にかかった人を生き返らせること。
また、絶望的場面や状況から一気にそれを覆すこと。
[太陽系。]
蒸し暑い夏それは、まるで私を焦がしているみたいだった。
怖かった。
そんな暑さを発する太陽が。恐ろしくおぞましく感じられた。あの暖かさで心が満たされていた春、域を通り越せばただの邪魔にしかならない。
「なんだろな…」
本当に。何なんだろう。
何が欠けているのか。何故君はその子を守りたいのか。君がその子の何を知っているのか。その子のどこが良くて君はそうやってその子の近くにいるのか。
何で、その子が好きなの…?
何で、一番近くにいた私を選んでくれなかったの。
何で、何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で
何で。
ゲシュタルト崩壊してしまうくらいノートに書いた「何で」。声に出そうにも上手く声にならなくて、行動で示そうとしても君には届かない。
何がその子と違うか…?それはわかりきったこと。力。私にはないものをその子は持っていた。私では到底入手不可能。ゲームの様に攻略本はない。販売されていないのだから、世に出回る情報を駆使してもそれを手に入れることは叶わない、私には。魔法、それは私にとっていまわしく太陽の様な存在だった。そうだよ、もう太陽なんか太陽系ごと全部、消えて仕舞えばいいのに。
[白、それはカラッポ?]
幼馴染の水瀬 優子『ミナセ ユウコ』、親友で男友達の影宮 宗太郎『カゲミヤ ソウタロウ』。
彼らは、俺とは違った。
正確には、
俺だけが違った。
ただ、違った。
そう、何かが。
「和樹『カズキ』ー、今日からほら〜従兄弟の星海 白雪『ホシミ シラユキ』ちゃん来るからね。部屋とか汚かったでしょう。隠すものとかあったら善は急げ、よ。」
「はいはー…って隠すものとか何もねえよ⁉善は急げって…最前尽くせってことか⁉日本語たまにおかしいよな、お母さん!」
「渡橋『ワタリバシ』家で大事なのはお母さんの言葉の意味を理解することよ。頑張ってね。」
「いやいや、お母さんの言葉の意味を理解できるそんな素晴らしい方がいるならば…っていたが、お父さん。」
部屋のゴミをゴミ箱からゴミ袋へ移す。ベッドの上の漫画は本棚へ、ちょっとエロい本はベッドの下へ…あ。待てよ、お母さんはまさかこれを隠せと…?思わず顔が真っ赤になる。いやいや、でもそんなにエロくはないだろう。ちょっとしたそういうライトノベルだし。
そうこうしているうちに部屋は片付いて、家のチャイムが鳴った。
ピンポーン…。
「はあ〜い。あら、白雪ちゃん久しぶりねえ〜。さ、上がって上がって。」
「こ、こんにちわ。叔母さん。ご無沙汰しています。えと、お邪魔します…。」
ちなみに俺の部屋は二階にあるので白雪ちゃんとやらがどの様な顔をしているのかは、玄関で目撃することはできなかった。まあ取り敢えず挨拶くらいして部屋に戻るか。白雪ちゃんとやらとお母さんのいる一階に下りる。
「和樹ー、あんた紅茶どこにしまったの?」
「あー?紅茶?」
台所にいたお母さんは食卓の椅子を使って高い棚を探していた。
「俺は面倒くさがりなの。食器棚にあるじゃん。」
「もー、あったものを元の場所に戻さないのはダメでしょ。」
無事紅茶をゲットしたお母さんは怒りながらも楽しそうだ。
「へいへーい。」
適当な返事でも何も言ってこない。何で機嫌がいいんだ。
「あ、あの…叔母さん!」
天使かと思った。可愛い声がして振り向けば真っ白。まるで太陽を知らない真っ白な肌。真っ白な雪のような長すぎず短すぎず綺麗な髪。それに映えるような赤いリボンのカチューシャ。顔は可愛い系の童顔。白いワンピース。天使だ。俺はついにお母さんのありがたみを知り、死ぬのか。
「和樹、挨拶しなさい。可愛いからって見とれてんじゃないわよ。」
「あ、こんにちわ。」
「ここ、こんにちわ。私、星海 白雪です。きょ、今日からこの家に住まわせていただく、居候みたいな…」
「は?住む?ここに?」
「は、はは、はいっ!」
は?
こんな年幅も無さそうな天使のような子と?
一緒に住む?
は?
もう一度言う。
は?
あえてもう一度。
は?
[一瞬の世界は。]
「かか、母さん?どういうこと?いまの俺に冗談とかは、無しでね。」
心臓がばくばくしている。綺麗だ。
「ほら、お母さんにも親戚の一人や二人や三人や四人…ってもっとだね、まあ、いるじゃない?」
「それで?」
「その親戚の娘がここの辺りの高校に通うことになったんだけれど、毎朝1時間30分はこの子の家からはかかるのよ。」
「はあ、で?」
「だから高校まで約30分で着くことのできるここにおいてあげようってなったのよ。言ってなかった?」
聞いてねえ。そのことを万が一にでもお母さんが話していたと仮定してもなんか人が今度来てなんかあるからー、なんて言い方をしていたら分かるはずがない。理解できない。それも重要なところが。
「あ、あの!渡橋 和樹くん、ですよね。私はですね、写真が好きなんです。」
「写真が?」
「はい。写真を撮っている時だけは私のものなんですよ。」
「何が?」
「世界が。カメラに映る世界は私のものになるんです、一瞬の間だけ。」
うっとりとした目に俺は釘付けになった。
「へー…。なあ母さん、まさか高校まで同じなんて言わねえよな?写真は写真でも趣味と本気とあるだろ?」
趣味でやっている写真の話か、本気でやっている写真の話か。どちらか。
「…え?同じに決まっているじゃない。」
「で、デスヨネー。」
俺の高校生活オワタ。サヨウナラ。
[題名だるいから…いいか。]
「あ、あの叔母さん…。私迷惑でしょうか?」
少し表情を曇らせるその美少女は本当に曇らせた顔も美少女だった。
母さんが怒る。
「…ほら!和樹のせいで白雪ちゃんが!まったくだからいつまでたっても彼女ができないのよ。」
母は表情を明るくすると白雪さんの方を向いて
「和樹なんか、気にしなくっていいんだからね。白雪ちゃんが好きなようにしていいからね。」
すんごい俺のボッチ感。男はここまで邪険にされないといけないのか。知ってたけど。
「あー、部屋は二階に和樹の部屋があるんだけどね、その隣でいいかしら?」
「あ、もう部屋を貸してもらえるのなら屋根裏部屋でも…」
「こんな可愛い子をそんなところに放っておけないでしょう。」
ヤバい。俺の存在。白雪さん…俺の母さん取らないで…。本気で思った。嫉妬だな。マザコンでは無いと思ってはいたけど…まさか、な。はは。
まあ、そんなこんなで早くも春休みが終わってしまう。ついに俺も高校生。いらないおまけ付きで。
「和樹くん!私も高校生になりますよ!凄いですね。晴れて私も春星高等学校の生徒です!」
テンションが高すぎはしないか。
「私はですね、凄く楽しいです!素晴らしいです!」
「はいはい、早く学校行きましょうか。」
「何を!私は和樹くんを待っているんですよ!」
一緒に行くつもりかよ。幼稚園児じゃああるまいし。
まあ、たまには優しくしてやってもいいか。
「じゃあ待ってろよ…、筆記用具にファイルに一応メモ帳…小説も持っていくか。あとは帰りに腹減った時用のパンに一応500円くらい持って行っておくか。」
「遅いです!すごーく遅いです!早くして下さい!パンは必要ありません!今日の下校時刻は午後11時ですよ。」
「だからこそ腹が減るんだろーが!馬鹿!」
「むむむ、和樹は私より頭が悪いくせに…!」
「出た、その頭が悪いくせに!俺はそんなに頭悪く無いっつの!お前が学年トップの首席で、俺がその5〜8位くらい下なだけだろ!」
「バーカバーカ!私は和樹くんが一人で登校する姿を想像したら可哀想で泣けてきたからこうして待ってあげているんです!」
「そんな優しさいらねえよ!?俺はならねえけどお前が迷子になる可能性はありうることだからな!」
「和樹くんは意地悪です!私は和樹くんはもっと優しいと思っていましたよ!ケチ!バカ!アホー!ナス!」
あー、うぜえ。でも慣れてしまったな。この春休みの期間ないだけで。
「新一年生はこちらに並んでくださーい。」
生徒会か何かの人がプラカードを持って一生懸命に声を出している。なんと面倒くさそうな…。
「和樹ー!」
「わっ!」
ドンッ!背中に強い叩かれるような衝撃を感じた。痛え。
「宗太郎…痛えんだけど。まあ、おはよう。」
「おっはー!って僕、和樹が昇天してくれるように思いっきり叩いたんだから痛いに決まってるじゃん!」
こいつ…。許さねえ。こんなにおちゃらけていて可愛いようにも見えるし、一応モテはするが毒舌。恐ろしい。
「か、和樹くん?この人は?友達ですか?」
「一応友達?いや、違うかも。」
「いやいや!それはないでしょ!おはよう、僕は和樹くんの一番の友達影宮 宗太郎です!和樹とは親友です!絶対!」
「え?」
白雪は戸惑って助けを求めるようにして俺に視線を送った。
「えーと、自称俺の親友の可哀想な奴。何か付け加えるとしたら…近づかないほうがいい。」
「影宮…宗太郎さんは、えっと、その、あの…」
白雪はますます困る。首をかしげてこの場をどう乗り切ろうかと。
「おはよう。和樹、宗太郎。なんかその子困ってない?」
「おー、優子ちゃん!おっはー。」
「あー、はいはい。おっはー。」
「なにその疲れてため息つくようなおっはー…僕みたいに可愛くテンション高く…」
「はいはい。和くんこの子知り合い?」
「俺ん家に居候しに来た親戚の星海 白雪。悪い奴じゃないから…多分。仲良くしてくれよ。」
親戚だし、敬語を使えとも言っていないのに敬語な事も考えると、礼儀正しい奴とも感じ取れたし、この前俺のへそくりおやつを勝手に食われたのはちょっといただけなかったが。
「あ、星海…さん?んー白雪ちゃん…?」
「えっと、白雪でいいです…」
「じゃあ、白雪さんの漢字って、白に雪であってるよね?」
「?は、はい。」
「じゃあ白ちゃんで!」
人の話聞いてねえー!
「はあーっ!とても今日は疲れましたね…。」
「そーだなー。明日からは授業も入ってくるし。だりい。」
「ふふ、和樹くんの友達のおかげで明日からが楽しみです」
♪〜、♪〜、♪〜…
聞きなれない音。白雪の携帯の着信音か?今の今まで聞いたことがなかったな。友達いなかったのか…?前の学校の奴らとかとのやりとりは一切なかったようにも感じられたが…ほとんど春休みを家で過ごしたし。まあ別にいいのだけれど。
「…っ!」
白雪は怯えている様子だった。その着信音に。まだ着信音の相手もわかっていない…というか見ていないのに、その怯えようはまるで自分の前に立ちはだかる脅威の獣を前にただ何もできないように…白雪もそれと同じように震えるばかりで行動を起こせずにいた。
「…白、雪?」
「は、はいっ!すみません。ちょっとぼーってしていて。」
白雪は怯えていたのを取り繕うようにして笑顔を作った。
「いやいや、携帯の着信音か何かなってるけど?いいの?」
「あ、私少し出かけてくるので。つ、つつっ…ついてこないでくださいね!」
「何その押すなよ、押すなよ…で押さなかったら押せよ!っていうノリな…」
「そんなこと言っている場合はないんです!!…あっ!その、ごめんなさい!」
白雪は柄にもなく声を荒げて叫んだ。それには俺も流石にビクッと…びびった。白雪はびびっている俺を置いて家から出て行った。追いかけるか、否か。それとも反省するか。
「追いかける…か。」
白い髪が揺れる。その髪は黒い制服を着ているから目立つのではなく、その髪は何者をも引きつけている気さえした。
「待てよ白雪…!」
白雪には聞こえていない。白雪がどんな顔をして走っているのか俺にはわからない。例えば怯えて怖がりながら足もすくんでしまうような中走っているのなら止めたい。辛い思いをすることないんだって。白雪は人気(ひとけ)のない曲がり角を曲がった。
「…はあ、はあ。…和樹くん」
「バレてたのかよ。隠れてたつもりはなかったけど。どうしたんだよ?気に触ること言ったんなら謝まる。でも理由が分からなきゃどうしようも」
「あなたは叶えたい夢や希望、望みや欲望はある?」
白雪の問いかけは、まるで自分で自分に問いかけているようだった。
「俺はある。例えば女の子と付き合ってみたいとか、学校消えろとか。それが…?」
「私は自分の浅はかな望みで、全てを壊してしまうような選択をしてしまったんです。」
意味が、わからない。だけど理解してやらねえと。そう思った。たった何週間一ヶ月の付き合いだとしても、だ。
「どういうことだ?俺はバカだしわかりやすく言ってくれよ。」
「…驚くかもしれませんが、私は人ではないです。和樹くん、私は望みを叶えるために 魔力を得た。」
魔力…。それは誰しもが持っているようなものではない。というか持っているはずがない。存在だってしないと思っていた。それが…