榊原君は貧乏神

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1:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/07(火) 18:22

ども、芹菜と言います。

今回は恋愛(?)っぽい感じです、多分。

>>0002 ☆σ゚・*:.。.スレ主より.。.:*・゚σ☆

>>0003 ☆σ゚・*:.。.登場人物紹介。.:*・゚σ☆

2:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/07(火) 18:25


☆..*゚.スレ主より.゚*..☆

・荒らし、なりすまし等は禁止
・感想とかくれると喜びます
・アドバイスは辛口okです

3:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/07(火) 18:33

☆..*゚登場人物紹介゚*..☆

蒼波 宇宙
(あおなみ そら)
高校1年生(16歳)。
自称、極普通の女子高生。
帰宅部。
勉強・運動はどちらも得意。

榊原 向葵
(さかきばら あおい)
高校1年生(16歳)。
自称、貧乏神。
帰宅部。
勉強・運動はどちらも得意。

ホダカ
(ほだか)
神の使い。
向葵を人間界に導いた。
普段は『カミノセカイ』にいる。

4:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/08(水) 17:29

1.貧乏神との出会い

宇宙side(基本宇宙です)


11月15日、土曜日。

此処最近、平年なら暖かめのこの地方は、冷たい風が吹き荒れていた。

だが今日は、嬉しい程暖かい、小春日和。

土曜日で小春日和で、私は帰宅部。

こんな日は滅多に無い。

だからこそ、午後の今はまったりと読書をしたいと想っている。

が、しかし。

こめかみがピクピク動いて居るのが自分でも分かる。

昨日までの冷たい風の様に、私は声を尖らせて叫んだ。

「良い加減にしてよっ、もう!」

自分でもびっくりする程の大声。

こんなに大きな声、どれ程久しぶりに吐いただろうか。

やはりすっきりする。

しかし、大きな声を出したため、多少の恥ずかしさが心を襲う。

まあ幸い、家には誰も居ず、家の前の道にも誰もいない。

ホッと一息した瞬間、怒鳴ったにも関わらず、ポリポリとスナック菓子を食い荒らすあいつの
姿が目に入る。

「あのねぇ、此処掃除したばっかなんだから。早速カスを落とさないでよ。」

再び怒鳴る。

そんな私とは裏腹に、こいつはニッコリと笑う。

「いや、掃除したばっかって言ったって、また明日掃除するんでしょ?」

それはそれで正論であった。

思わず口をつぐむ。

「それはそうだけど………。」

本当にむかつく。

こいつとの出会いは、数ヶ月前に遡る。

5:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/08(水) 21:29

1.貧乏神との出会い

宇宙side


夏休み明け、ある転校生がやってきた。

先生が呼びかける。

「皆ー、今日から一緒勉強する榊原だ。仲良くしやれよ。榊原、自己紹介を頼む。」

榊原、そう呼ばれた男子は、まぁまぁモテそうな顔つきをしていた。

女子は皆、目を光らせている。

「えっと、榊原向葵って言います。千葉から来ました。よろしくお願いします。」

千葉か。

ふぅん、と納得する私。

「よし、じゃあ榊原。お前は……えーっと、蒼波の隣だな。」

はっ⁉

びっくりして前を見る。

榊原とか言う奴と目が合った。

そいつは、「よろしく」とでも言うように笑い、私の隣に座った。

女子のボス、坂本美優(さかもと みゆう)の目が光る。

うわぁ、これからどうなるんだろう。

ハラハラする私に、榊原君が声をかける。

「よろしくね、蒼波さん。」

私は自分の世界に篭っていたため、自分でも気持ち悪い程動揺した。

「あ、あっえぇと、よろしくお願いしましゅ…。」

派手に噛んだ。

榊原君がクスッと笑う。

もう最悪。

そこから消えたい気分だった。

「蒼波さんって、フルネームは何なの?」

話しかけられ、またもやビクッとする。

「あ、ええっと、蒼波宇宙って言います!」

今度は噛まずに言えた。

ホッと一息吐く。

6:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/09(木) 17:02

1 .貧乏神との出会い

宇宙side


「へぇ、なんか爽やかだね。」

よく言われる。

私は何と返して良いのか分からず、黙った。

沈黙。

9月になったというのに、まだ夏の暑い陽射しが教室に降り注ぐ。

しかし私と榊原君との沈黙は、極寒の北極ぐらい寒い程だった。

まぁ良い、どうせこいつと話す気は無いのだ。

女子の目が光るこの教室で、そんな親交的に話せるものか。

ふぅ、と息を静かに漏らす。

授業のベルが耳に染み込んだ。

先生が、「授業始めるぞー。」と言った。

そうか、今日の一時間目は先生担当の公民だった。

18歳選挙権やらなんやらで、最近は公民の授業がやけに多い。

まぁ得意科目の一つでもある訳なので、嫌とは思わなかった。

一時間目が終わり、次が美術だった事に気付く。

絵の具や教科書を揃えて居ると、榊原君がいきなり話しかけて来た。

「蒼波さんはさ。神とか妖怪とか、そういう類の物、信じる?」

予想外の質問で、一瞬思考が停止する。

私はちょっと考えてから答えた。

「さぁ....。でも、居るには居るんじゃないかな。だから神社とかもある訳だし?」

次の授業に遅れないために、手っ取り早く答える。

「じゃあ俺が、その神だったら?」

はぁぁ?

「何それ、どういう意味?」

榊原君の飄々とした態度にムカつきながらも、少し興味が湧いた。

「俺は。正真正銘の、貧乏神。君に取り付こうかなぁって考えてたとこ。」

はぁぁ?
 
ますます謎である。

「おい、そこの二人!早く美術室行かないと、武内先生に怒られるぞー。」

先生の声が飛ぶ。

7:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/09(木) 20:02

1.貧乏神との出会い

宇宙side


そうだ、武内先生と言えば、怖い事で有名な先生だった。

高校に入学してから、もう半年近くなると言うのに、全く覚えが悪い物だ。

まぁ、高校生活がどうでも良いのは本音であったが。

榊原君と一緒に教室を出て、美術室に向かった。

「で、蒼波さん。俺、取り付いても良いの?」

あぁそうだ、それがあった。

どうせ貧乏神なんて嘘っぱちに決まっている。

「ご自由にどうぞ。」

そう返すと、榊原君は笑った。

「ありがと。じゃ早速、今日から君ん家に居候させて貰うからね。」

はぁぁぁっ⁉

「それから俺は貧乏神だから、お小遣いとか気をつけてね。」

はぁぁぁぁぁっ⁉

貧乏神⁉

そうだ、自分はなんて事をしたんだ。

貧乏神なんかを家に匿っていたら、家が貧乏になる!

あぁぁぁ、どうしよう。

と心配したものの、パパは会社で課長に昇進、ママは給料の良いパートを見つけ、家は貧乏神などには
ならなかった。

いや、貧乏なのは私だ。

先月も今月も、お小遣いは空っぽ。

全部この榊原が使っているのである。

8:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/09(木) 20:04



第1章(>>4-7)

next. 2.貧乏神との生活

9:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/10(金) 17:25

2.貧乏神との生活

宇宙side


それからというもの、私の私生活は一変し、何とも不可思議なものであった。

私がこいつが人間界に来た理由を聞くと、いきなり天井にピンクの渦が現れ、中から一人の青年が 
出てきた。

「向葵、この娘がおまえの取り付く奴か?」

私はびっくりした。

何故って、ピンクの渦は小さいのに、中から出てきた青年は180cm以上ある。

やっぱり榊原は、本当に神なのかもしれない。

「あぁ、そうだよ。紹介する、蒼波宇宙って子。」

榊原は淡々と返した。

「そうか。」

青年も負けないくらいクールに返す。

私の形相が凄かったのか、榊原は慌てて青年の紹介をした。

「こいつ、ホダカっていうんだ。俺が人間界に来るために、色々手助けしてくれた。」

ほう。

.....。

向葵やらホダカやら、カミノセカイは名前が凄い。

10:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/10(金) 21:41

2.貧乏神との生活

宇宙side


そして、榊原が何故人間界に来たのかがわかった。

榊原は、家では姿を消し、私との会話も消しているらしい。

それは本当らしく、ママたちは何も感じてない。

それで、榊原が神というのがわかった気がした。

でも迷惑な神で、お小遣いは相変わらず空っぽ。

もう嫌だって、思った事が何回もあった。

でも。

榊原がいなかったら私は、












私としていられなかったかもしれない。

榊原に感謝できる事は沢山ある。

榊原が嫌だと思うところも沢山ある。

けれど、榊原がいてくれたからできることも沢山ある。

感謝しなければならないって、わかってる。

そう感じているのだけれど。

やっぱり言葉にできない。

そりゃあそうだ。

榊原が良い男子だったら話は別だ。

ただどうだろうか、こいつは。

ポリポリといつも菓子を食い荒らすこいつに、感謝など言えるものか。

11:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/12(日) 10:34

2.貧乏神との生活

宇宙side


「あぁっ、また零してるし!」

貧乏神・榊原との生活も早2カ月。

完璧に私の家に住み着いた榊原は、またもや菓子を食い荒らす。

『超・激辛!チリソース風味のスナック!』と書かれた赤い袋を手に持ち、榊原はまったりとした口調で
言った。

「これ別に辛くないんだけど。宇宙も食べる?」

はぁ?

「居候してる貧乏神の食べかけ菓子なんて食べたくないし。」

掃除機をビンビン言わせながら部屋中を駆け回る私。

榊原はいつの間にか、私のことを名前で呼ぶようになった、しかも呼び捨てで。

私はもちろん、向葵などと呼ばない。

最初のうちは榊原『君』だったが、今は榊原である。

こんな奴に君など付けるものか。

12:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/12(日) 21:08

2.貧乏神との生活

宇宙side


「っていうか宇宙、明日数学のテストだけど勉強してんの?」

あ。

勉強してない!

「やばいよ.......。私数学苦手なのに。」

勉強は得意な方である。

しかし、数学は苦手な方でテスト赤点は珍しくない。

「俺得意だけど、教えよっか?」

榊原が菓子の袋をゴミ箱に捨て、私を見た。

榊原に教えてもらう。

私のプライドが傷付く。

だが、テストで赤点を取るよりマシだ。

どうしようか。

「.......。じゃあ教えて。」

しょうがない。

教えてもらおう。

「了解。ってか宇宙、そんな恥ずかしがる事じゃないって。」

なんだこいつは!

人の嫌がる事をサラッと口に出すなんて........。

13:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio バレンタイン?何それ美味しいの?:2017/02/14(火) 20:36

2.貧乏神との生活

宇宙side


デリカシーに欠けすぎているが、とりあえず勉強は教えて貰った。

明日のテストも大丈夫そうである。

なんだかんだ言っても、やっぱり役に立つ。

まぁ、神なんだから多少は役立つものではないと困るが。

「宇宙、明日お互い頑張ろうね!」

榊原がにっこり笑ってくる。

「あ、うん....。勉強教えてくれて、ありがとね。」

何となく、言ってみた。

「ありがとう」って。

明日は、頑張れる気がした。

14:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/15(水) 22:04

2.貧乏神との生活

宇宙side


次の日。

数学のテストは予定通り行われ、私の思考も予定通り、パッと頭が冴えた。

一週間後に返ってきたテストは、満点ではなかった。

しかし、苦手だった応用問題も合っており、ホッとした。

榊原はもちろん、満点で、応用問題の考え方まで褒められていた。

「良かったね、宇宙。」

学校からの帰り道。

榊原が横に並びながら言う。

「うん。榊原こそ、満点で良かったじゃん、さすがだね。」

榊原を素直に褒めたのは、これが初めてだった。

夕陽が、燦々と空に散って行く。

私の心もその夕陽のように赤かった。

なんとなく、あったかい気持ちだった。

15:舞桜◆KSLAA.:2017/02/15(水) 22:43

こんばんは〜読ませてもらってます!
色々と表現上手くて羨ましい…!
更新ファイトです!

16:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/16(木) 19:37

>>15
舞桜来てくれたぁっっ!
どもども、ありがとうでございます。
更新頑張るぞぉ(`・∀・´)←

17:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/17(金) 21:26

第二章(>>9-14)

next.3. 貧乏神の助け

18:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/18(土) 17:28

3.貧乏神の助け

宇宙side


その日は、午後からいきなり、勢いの強い雨が降ってきた。

天気予報は、大外れ。

一日中晴れ、ということだったので、傘は持ってきていない。

いつも鞄の奥にしまっている折りたたみ式の傘も、先日の雨以降入れていなかった。

クラスの皆も、傘は持って来ていないらしく、ざわざわと騒いでいた。

この雨は、10分程の雨宿りでは止まなそうである。

しょうがない、濡れて帰るしかないか。

どうせ榊原も、傘は持って来ていない。

いくら神だとしても、こんなことまで見通せはしないだろう。

「宇宙、帰んないの?」

榊原に話しかけられ、立ち上がろうとする。

しかし、濡れて帰るのにはやはり抵抗がある。

当たり前だ。

濡れて帰って風邪でも引いたら最悪。

「あ、もしかして傘忘れたの?ママさん言ってたよ、今日は雨が降るって。」

はぁぁ?

「何それ、私そんなの知らないんだけど。」

ムッとして言うと、榊原はあれっと不思議そうにした。

「あ、そうか、あん時宇宙は顔洗ってたもんね。知らない筈だよ。」

あ、そうですか。

「ま、心配しなくても大丈夫。傘二つ持って来てるから。」

........。

その時私は、榊原を本当に神だと思った。

しかも貧乏神なんかじゃない。

幸福をもたらしてくれる神。

と思ったのも束の間。

「じゃあお礼に、お小遣いママさんに前借りして貰って良い?」

はぁ?

だめだ、こいつはやっぱり貧乏神.....。

19:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/20(月) 19:34

3.貧乏神の助け

宇宙side


次の日、予定通り私は、榊原に頼まれてママにお小遣いを前借りしに行った。

ママは良いと言ったけれど、少し呆れていた。

「宇宙、この頃お小遣い大切にしてないでしょ。ダメよ、なんでもかんでも買っちゃあ。」

それは私じゃないよ....。

落ち込みながらも、ママから前借りの分をもらい、榊原に渡した。

「ありがと、宇宙。」

はぁぁ。

疲れるなぁ、全く。

でもやっぱり、私の日常には榊原が居ないと落ち着かない。

そこは慣れちゃってるんだなぁって感じる。

20:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/22(水) 20:20

3.貧乏神の助け

宇宙side


今はもう、12月になった。

冷たい風が吹き荒れ、日が暮れるのも早くなってきた。

12月のある日。

私は遂に、切れた。

「あのさぁ.....。もう良い加減にしてよ⁉お金取られるこっちの気持ちとか考えた事ないでしょ?」

榊原は、いつもの様に飄々としていた。

「そんな事言ったってねぇ、宇宙?俺、貧乏神なんだよ?そんなの当たり前。」

何それ?

もう嫌だ。

「煩いよもう!そんな事言っても、もう騙されないんだから!」

また叫んだ。

自分の感情が、抑え切れなかった。

榊原は笑っていたけれど、だんだん笑みが消えていった。

「宇宙.....。」

最後にそう呟いてから。

榊原はドアを開け、出て行った。

21:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio (`・ω・´)キリッ:2017/02/25(土) 18:19

3.榊原の助け

宇宙side


私はそっぽを向いて、ベットに座った。

良いんだ、別に。

榊原が居ないからって、何なんだ。

私はそんなダメ人間ではない。

榊原がいない方が、よっぽど楽なのだ。


と。

自分の感情を。

決め付けていた。

次の日も。

その次の日も。

榊原は帰って来なかった。

最初のうちは私も怒っていたから、何も思わなかった。

でも。

居なければ居ないでやっぱり悲しいと思うものだった。

いつから、榊原のいる生活に慣れ切り、こんな風に思う様になったのだろうか。

数学を教えて貰った日から?

傘を貸してくれた日から?

違う。

榊原が私に取り付いた、あの日からだ。

22:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/26(日) 13:15

3.貧乏神の助け

宇宙side


喧嘩したことに、私は酷く後悔した。

なんであんな事、言ったのだろうか。

私は、私は。

榊原の事、嫌いなんかじゃない!

私は、外に出ようとした。

榊原を探すために。

そう思ったけれど。

ドアの前で立ち止まった。

私が探して、どうなるんだろう?

榊原に、「ごめんね。」って言えばそれで榊原とまた仲良くなれる?

そんな訳なかった。

それに。

榊原が何処にいるか知らなかった。

行く宛もない。

榊原に会ったとしても、それが何かを生み出す訳ではない。

やっぱり私は、独りぼっちなんだな。

昔の事を、思い出した。

私はずっといじめられて、苦しかった。

いつもいつも、私は『独りぼっち』だと思っていた。

幸い、いじめは収まったけれど、高校生になった今も『独りぼっち』だった。

榊原に出会ってからは、『独りぼっち』じゃなかったかもしれない。

でも今は。

『独りぼっち』。

『独りぼっち』という言葉が頭の中を埋めて行く。

何がしたいのかわからなくなって。

ベットに倒れ込んだ。

23:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/02/27(月) 19:36

3.貧乏神の助け

宇宙side


しばらくして、お母さんに呼ばれて下に降りた。

ご飯を食べ、お風呂に入り、髪を乾かした。

今日も明日も、榊原は帰って来ない。

そう思い、部屋のドアノブに手をかけようとした。

その時。

榊原の声が、聞こえた気がした。

「宇宙。」

って。

頭の中に、ポワーンと木霊する。

榊原が、私に話しかけている気がしてしょうがなかった。

思い切って部屋に入る。

そこには。

いつも通りの、部屋があった。

榊原の姿なんて、これっぽっちもなかった。

やっぱり、やっぱり帰って来ないんだ。

そう思うと、両目から涙が溢れた。

なんでだろう。

今まで榊原を、こんなに想ったことなんてないのに。

榊原がいないと、私は寂しいって。

そう気付いた。

涙は、大粒のまま、容赦無く溢れ落ちて行く。

私は突っ立ったまま、泣いていた。

拭っても拭っても、拭き取れない哀しみだった_______。

その時。

パタッと。

ドアの開く音がした。

「そ、ら....?」

榊原だった。

私の嗚咽に、びっくりした様だった。

私は我慢出来なくて。

独り言の様に言った。

「何処、行ってたのよ....。ずっと、ずっと心配してたんだからね...?」

ぽとっと、何かが落ちる音が聞こえた。

私の目からは、相変わらず涙が落ちて行く。

榊原が、歩み寄って来た。

何も言わずに、私の前まで来た。

榊原が、そっと私を抱き締めた。

びっくりして、涙が止まるかと思った。

24:芹菜◆.wmpFy.Zyhxio:2017/03/01(水) 20:45

3.貧乏神の助け

宇宙side


榊原が、呟く様に言った。

「心配させて、ごめん。でもさ...俺、絶対、いなくならないから。大丈夫だから。」

その言葉に、ホッとして。

私は榊原に縋り付いた。

そっか......そうだよね....。

でも、悪いのは榊原じゃない。

「私こそ....、ごめんね....。榊原の気持ちなんて、全然考えてなかった。」

榊原は、笑った。

「良いよ。それよりさ、宇宙。」

榊原がそっと、私を離した。

ドアのところに行って、袋を拾う。

「これ。」

そう言って、袋から箱を取り出した。

「明日、宇宙の誕生日でしょ。」

あ、そうか。

色々あって、忘れていた。

箱の中身は、カラーボールペンだった。

「宇宙、ノート取るのに色が無くて苦労してたからさ。」

榊原の気持ちが、嬉しかった。

でもなんだか恥ずかしくて、からかってみた。

「貧乏神でも、プレゼントできるんだ。」

榊原がクスッと笑う。

「その涙だらけの顔で言われても、効果ないよ。」

なにそれ!

25:   芹菜   ◆.wmpFy.Zyhxio:2017/03/03(金) 18:45

3.貧乏神の助け

宇宙side


笑いながら、私は思った。

榊原が居るって、楽しい。

榊原が居るって、嬉しい。

そう思った。

なんなんだろう、この気持ちは。

榊原を見ると、胸がドキドキする気がする。

もしかして私....、榊原に『恋』してる?

いやいやいや、そんな...ねぇ。

「宇宙、どうしたの?なんか浮かない顔してるけど。」

榊原が私の顔を覗き込んだ。

「な、なんでもないって!」

必死で否定しながらも、顔が紅潮しているのが分かる。

うわぁ、どうしよう....。

26:   芹菜   ◆.wmpFy.Zyhxio:2017/03/05(日) 17:23

第三章(>>18-25)

next.4.貧乏神への恋

27:   芹菜   ◆.wmpFy.Zyhxio:2017/03/08(水) 20:56

4.貧乏神への恋

宇宙side


次の日。

私の誕生日。

榊原から、ペンをプレゼントされたなんてまだ、全然信じられない。

夢じゃないかって思う。

これはやっぱり...『恋』だよね...?

なんか変な気がする。

何なんだろう。

その日の夜、私はケーキを食べ、気分が高揚していた。

二階に上がると、榊原がお菓子やらジュースやらを並べたテーブルの奥に座っていた。

「ど、どうしたの?」

榊原はにっこり笑った。

「どうって、宇宙の誕生日パーティだよ。」

は...はぁ....。

でも、素直に嬉しかった。

28:   芹菜   ◆.wmpFy.Zyhxio:2017/03/09(木) 21:37

4.貧乏神への恋

宇宙side


時間の流れは、実に早い。

パーティは終わりを迎えようとしていた。

いや、そもそもこのパーティに流れなどないのだが。

私があくびをした時、榊原がいきなり言った。

「あのさ、宇宙。」

榊原にしては真面目な顔で、少し驚く。

「俺、ずっと前から、宇宙のこと。______好きだった。」

え?

予想外の言葉で、私は驚きを隠せなかった。

「それで....。付き合わない、かな。俺と。」

ますます驚く。

まさか、自分の好きな人から告白されるなんて、思っていなかった。

少し、気持ちを整理する。

「私で、良ければ。」

少しの間、沈黙。

榊原は、いつのまにかいつも通りの笑顔になっていた。

29:   芹菜   ◆.wmpFy.Zyhxio:2017/03/18(土) 13:24

4.貧乏神への恋

宇宙side


なんか....、複雑な気分だった。

自分が何を言ったのか、まだ信じられない。

自分が何をしたのか、まだ信じられない。

榊原が何を言ったのか、まだ信じられない。

嬉しい様な、怒りたい様な。

でも一つ、分かりきっていることがあった。

それは、私が、榊原の事が好きっていうこと。

私と榊原って、付き合ってるってことなの?

え、そう言ったよね?

黙り切っていると、榊原が話しかけてきた。

「どうしたの、宇宙。」

ハッと我に返り、私は取り繕う様に言った。

「なんでも、ないよ。大丈夫。」

榊原は、フッと笑った。

「そっか。なら良かった。」

30:羽華◆mM:2017/03/19(日) 15:07

えと、こんにちは!芹菜さんの小説を読んでいる者です!
すごいおもしろいですね〜♪いつも続きが楽しみです。榊原君に対する宇宙ちゃんの気持ちが
上手ですね!酵素頑張ってください!

31:羽華◆mM:2017/03/19(日) 15:07

あ、ごめんなさい。上ので、更新が酵素になってました。

32:    芹菜   ◆.wmpFy.Zyhxio hoge:2017/03/19(日) 19:16

>>30-31
ありがとうございます!


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