私、豊田真由子。女子高校生で、衆議院議員。
青春も、お仕事も、両方頑張っちゃうんだから!
「あ〜疲れた!」
宿題を終えて、キンキンに冷えたコカ・コーラ片手に、私はテレビをつけてみる。
「臨時ニュースです。ただいまNASAが発表したことによりますと、ただいま巨大隕石が
地球に接近中で、来週には地球に衝突する危険性があるとのことです。東京大学宇宙物理学部の
久保田学教授によりますと、この隕石がもし地球に衝突すれば、人類が滅亡することはまず間違い無いだろう、ということです」
私は、顔を真っ青にしながら、テレビを消した。
「え、ええ、ええええええええっ!?それじゃ、私の青春は!?私のお仕事は!?」
私はすっかり元気をなくしてしまった。
深夜になっても、布団に潜って体がガタガタ震えて、眠ることができなかった。
トン、トン、トン…。
ふと、私の部屋のドアを誰かが叩いた。
「だ、だれ…」
ギイイイイ、とドアが開いた。
暗闇の中、月明かりでかすかに見えたその姿は…。
「な、なな、ナマハゲ〜!!!」
そう、それはあの、ナマハゲに他ならなかった。
「こんな時間にまだ起きている、悪い子はいねえがあ!」
ナマハゲが持っている包丁には、赤い血がこびりついていた。
こいつ、私を殺す気だ。そして、すでに誰かを殺しているのだ。
「ひ、ひいっ!?」
ナマハゲは一歩一歩、こちらに近づいてくる。
包丁についた血が、時々ペチョン、と床に落ちる。
「ぐ、ぐう!ぐうぐう!」
私は無理に寝たふりをした。しかし、それでもナマハゲは許してくれないらしい。
ナマハゲは一歩一歩、こちらに近づいてくるのだ。
ナマハゲは、私のすぐ近くまで来て、包丁を振り上げ、振り下ろす。
ぐしゃっ!ぐしゃっ!
刺されたのは私ではない。
ナマハゲだ。
そして、刺したのは、私の秘書、由紀夫さんだった。
由紀夫さんは言った。
「お嬢様!無事ですか!」
「は、はい。でも、このナマハゲは一体…」
「とにかく、ここは危険です。詳しいことは、車で話しましょう。さあ!」
由紀夫さんは、パジャマ姿のままの私を強引に連れ出し、車に乗せた。
由紀夫さんがアクセルを踏む。車は発進した。夜の町は、なぜかナマハゲで溢れかえっていた。
「このまま、安全なところへ逃げましょう」
と、由紀夫さんは言った。
悪夢のような光景。
夜の高速道路にも、ナマハゲが何体かうろついていた。
「お嬢様、隕石のニュース、見ましたか」
「は、はい。地球が滅亡するかもしれないっていう…」
「ええ。そして、突然そんなことを知らされた人たちは、頭がおかしくなり、自分をナマハゲだと思い込むようになった。
そして、ナマハゲは、眠ってない人を襲い、刺し殺す。寝るか、死ぬか。ナマハゲの前には、この二つの選択肢しかありません」
「でも、それじゃ」私は言った。「どうして私や由紀夫さんはナマハゲにならないのでしょうか」
「そこですよ、お嬢様。それはまだ、私にもわかりません。私た血だけでなく、他にも何人か、
ナマハゲになっていない人もいるそうですが…。ただ、そこを突き止めさえすれば、
ナマハゲになった人々を、元に戻す方法も見つかるかもしれません」
「もし、隕石が落ちなかったら、元に戻りますか」
「逆ですよ。隕石が落ちるから、ナマハゲになるんです」
「お嬢様、着きましたよ」
私はいつのまにか眠っていたらしい。東の山の上に朝日が出かかっている。
目をこすりながら私は、今、私がどこにいるのかを探った。
とんでもない田舎だ。小さなボロボロの工場の前に、車は止まっていた。
「ここは…?」
「なんてことない、辺鄙な田舎の廃工場です。ここに、ナマハゲにならなかった日本中の人が
集まって、作戦を立てることになっているのです。できるだけ、こういう、田舎に集まった方が、
ナマハゲのたくさんいる都会よりもいいと思いまして」
由紀夫さんが、工場の思いドアを、ギイイイイっと開けると、中にはすでに武装した
何人かの人がいた。
>>6
思い→重い
結局、集まったのは、30人だけだった。老若男女、様々だ。
小さな男の子で、泣いているのがいる。
「僕のパパも、ママも、ナマハゲになっちゃった」
私は、
「大丈夫。私たちで、きっと元に戻すことができるよ」
と勇気付けた。
「…さて」
と、由紀夫さんが皆に言った。
「一体、誰がナマハゲになり、誰がナマハゲにならなかったのでしょうか?偶然?それとも、
何か法則があるのでしょうか?まずは、それを探るためにも、皆さんで自己紹介をしましょう」
わかったことは、会社員、銀行員、作家、ロックンローラー、学生、自衛隊員、政治家…様々な人種が満遍なくここに集合しているので、
一見、この職業の人はナマハゲになる、というような法則性を導き出すことはできないようだった。
ふと、工場の入り口のドアが強引に開かれ、そこに一体のナマハゲがいて、
「寝ないこはいねえがあ!?」
と私たちに襲いかかった。
しかし、警察官人が簡単にそれを取り押さえてしまった。警察官は、やや興奮気味に、
「殺しますか!」
と私たちに聞いてきたが、そこですかさず私が、
「違うだろ〜!!!」
と叫んだ。
「生かして、檻に閉じ込めて、ナマハゲから元に戻す方法を探った方がいいでしょう」