私は、みんなと一緒に喋って、笑って……
そんな日々が、これからもずっと続いてくんだなって思ってた。
私が欲しかったものは、ただ1つ。
それは、永遠―
さらさらと降り続ける、真っ白な雪。
白い夜道を一人で歩いている、私。
『葉子!』
突然名前を呼ばれて、体が反射的に振り向いたのが分かった。
『あ……君―』
ピピピピッ……ピピピピッ……ピッ
聞きなれた音に、私は目を開けた。
「葉子ちゃん、起きて。もう、朝よ」
いつの間にか、笑顔でベッドの横に立っていたのは、お母さん。
「おはよう、葉子ちゃん」
「お、おはよう」
私は体を起こしながら、部屋をキョロキョロと見回した。
「あれ?私、今まで雪の中歩いてたのに……」
「雪?夢でも見たんでしょ?」
夢?そうだ、あれは夢だ。
何だか最近、同じ夢ばかり見るなぁ……
朝から厳しい顔をしている私に向かって、お母さんは言った。
「どうしたの?早く朝ごはん食べなさいね」
「うん……」
私は重い体を起こし、窓を全開にした。
カラカラカラ……
「うーん……気持ちいー」
心地よい風と共に、ほんのり香る、春のにおい。
私、桜木 葉子。
今日から、高校と言う名の新生活が始まる。
「いってきまーす!」
私は、温かい日差しの中を歩いていた。
腰まで伸びた、さらさらの黒髪を揺らしながら、私は桜並木道を進んでく。
交差点を渡る前に、私は綺麗な朝顔が咲いているのを見て、その足を止めた。
「わぁ……キレー」
あ、そういえば、こっちに行ってみたらどこに出るんだろ?
ダメダメ!そんなことしたら、遅刻しちゃうじゃん!
ここは、帰りによってみよー。
―放課後
「うーんと……どこだったけなぁ……」
時は放課後。私はあの、朝顔が咲いている綺麗な道を探しながら歩いていた。
「あっ、あったあった!」
あんまり遅いと、お母さん心配しちゃうから、ちょっとだけ。
ガサガサ……
どこまで行っても、朝顔が続いている道を歩きながら、私は最奥部を目指していた。
カサッ……
「あ……何これ?」
私は血の様に真っ赤な、花火が散ったように咲くそれを眺めた。
「お母さん、この花好きだよね。何て名前だったっけ……」
そうつぶやきながら、何本か花を摘んでゆく。
花を摘み終わって、家に帰ろうとした私の目に、それは映った。
私と全く同じ格好をした、雪のように白い女の子。
その子は、私の顔をしばらくの間見つめてから、口を開いた。
「あなた、それ……」
その、大きな瞳を見開きながら、聞いた。
「あぁ、これ?お母さんが好きな花だから、持って帰ろうと思って……」
「あなた、人間?」
何この子。と、思いながら、質問に答えた。
「うん。もちろん!」
「ここにいちゃいけないよ!早く戻って!!」
「え?」
「さぁ、早く!!その花も捨てて!!!」
「あ、うん」
その子は私の手を引いて、猛ダッシュした。
「あ、ヤバイ!」
前方を見ると、朝顔が出口をどんどんふさいでいた。
ついに、出口が完全にふさがれてしまうと、私達の足場が崩れ、深い闇に落ちてゆくのだった……
「おーきぃてぇ!」
「ん?」
「お?おきたぁ?」
目を開けると、私と女の子がきれいな草原に寝ていた。
「んー……ここは?」
「ここはね、花実の国。あたしは、ありす」
「私は、葉子。花実の国って、何?」
「花実の国っていうのはね、世界の花を管理している、つまり、花の生命みたいなものね。そして、あたしは案内人」
「案内人?」
「うん。葉子ちゃんが、お花積んでたとこあったでしょ?あれがね、花実の国につながる、時空ホールだったの。普段は、人間は入れないようにしてあるんだけど……結界が緩んでたみたいね」
「私はどうしたら帰れるの?」
「ううん。もう、帰れないよ」
「えぇ〜!?」
「か、帰れないって、どういうこと?ありすちゃん」
「だからね、もう、葉子ちゃんは帰れないんだよ。ここで、一生暮らしていくしかないね」
「そんな……」
私は泣きそうになった。
「泣かないで。葉子ちゃん……大丈夫。ここはいいところだよ?」
「でも……」
「大丈夫だから、安心して?ね?」
「……っ、うん……っ」
ようやく私が泣き止むと、ありすちゃんは立ち上がった。
「さ、いこっか?」
「え?どこに?」
「とりあえず、私の家にいこ?」
「うん!」
「わぁぁぁ!!」
私は、ありすちゃんの家の前で感動していた。
なぜなら……ありすちゃんの家が、とっっっっっっっっっっても大きいから!
効果音を付けるなら、ババァーン!!って、感じ。
「どうしたの?葉子ちゃん。早くはいろ?」
「うん!」
ありすちゃんの家で、お茶を飲んでいると、ありすちゃんが、こんな話を切り出した。
「葉子ちゃん、あのね……あたしも、人間なの……」
「え?」
「ごめんね……葉子ちゃん」
「ありすちゃん……」
「あのね、葉子ちゃん。聞いてくれる?」
「うん」
ありすちゃんは涙を拭いて、真剣な顔で私を見つめた。
「あたし、葉子ちゃんに嘘ついてた。帰れないって言ってたけど、本当は帰れる方法が1つだけあるの」
「え?」
「うん、でも、本当に話してもいいの?それに、これは帰るというよりも……」
ありすちゃんが口ごもった。
「何?話して?」
「葉子ちゃんの欲しいものが奪われてしまうの」
「欲しいもの?ないよ」
「無い場合は、葉子ちゃん……あなた自身が奪われてしまうわ」
「どういうこと?」
「死ぬっていう事よ」
「死……?」
「葉子ちゃん、花実の国を乱したものはそういうことになるのよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
私は慌ててありすちゃんの話を中断した。
「急にそんなこと言われたって……。それに、花実の国を乱したものって……。私、何かした?」