「あーきーらっ!」
時は昼休み。
私、春実 結は、幼馴染であり、親友でもある伊藤 晶に話しかけていた。
「何よ?結」
「もー!冷たいなー晶は。ってか、そんなことよりも合コン行ってみたくない?」
興奮気味の私とは対照的に、椅子に座ってファッション雑誌を読んでいる晶は冷静だ。
「んー……別に。ってか、結は楽しいことしてみたいだけでしょ?」
図星だ。
「うっ……だって、毎日つまんないんだもん。勉強ばっかだし」
この町は、いたって平凡なつまらない街。
それに加えて受験生でもある私たちは、勉強以外特にやることがない。
「結はいいじゃん。毎回学年トップなんだから。高校も、隣町の進学校に行くんでしょ?」
「うん……まぁ……そうなんだけどさ」
自分で言うのも恥ずかしくて、苦笑している私を見て、晶は続ける。
「あそこって、都内でも一二を争うくらいレベル高いんだよね?大丈夫なの?」
「平気だよ!だって、結ちゃんならできるよ。って、塾の先生も言ってたし」
「マジかー!あんた、勉強だけはできるもんね」
「だけって何よー!だけって!!」
そのまま私と晶は一緒に家に帰り、私はリビングで夕飯を食べていた。
温かいホワイトシチューを口に運びながら、今日晶と話したことをお母さんに話していた。
「もー……結!あなた合コンなんかに行ってる場合じゃないでしょ?」
「えー!?たまにはいいじゃん!」
「そんなの、受験が終わってからでいいでしょ。あと一か月だっていうのに」
まぁ、それもそうなんだけどさ……。
「それにあなた、あの高校がどれだけレベルが高いか分かっているの?」
「分かってるよー!もう、お母さんのケチ!」
「ケチでも何でも構いません!お母さんはね、あなたのためを思って言ってるのよ」
「はいはい」
私はその場をしのぎながら、パンを口に運ぶ。
結局、この話はお母さんに丸め込まれた。
夕食を食べ終わった私は、お風呂に入ろうとパジャマと下着を持って脱衣所へ。
髪と体を洗って、湯船につかった私は押し出されるように息を吐いた。
「あぁーっ……気持ちいー!」
そう言えば、修学旅行でも同じことを言って、晶に爆笑されたっけな……。
「まーいいや!あがろっ!」
自分の部屋に戻った私は、視界の隅に映った色紙に目をやった。
「これ……バド部の……」
懐かしいな、中三の夏にもう引退しちゃったけど、沙紀とか元気かな?
ふふっと笑いながら、私は宿題になっている数学のワークを開いた。
宿題と受験勉強を済ませ、布団に入ったのは夜の11時過ぎ。
私は自分の体温で暖まった布団にくるまりながら夢を見ていた。
「あなた、もうすぐ死ぬわね」
「えっ?」
通りすがりの女の子に唐突に言われた言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。
振り返ってみた女の子は不気味な笑みを浮かべていて……。
さっきまでの美人はどこへ行ったのやら。
「な、何よ……?」
初対面で、しかもすれ違っただけの女の子にそんなことを言われる筋合いはない。
そう思った私は軽い怒りを覚えた。
「あなたは一週間後に死ぬわ」
ふふっと、いやらしく笑いながら私を見つめる女の子に私は絶句した。
こんな女の子には今まであったことがない。
「ちょ、っと……いい加減なこと言わないでよ!」
「信じられないというなら、明日の朝に私を訪ねなさい。嫌でも信じさせてあげるわ」
―ピピピピッ ピピピピッ ピッ…… パンッ
「夢か……」
あんな夢を見るなんて、毎日どれだけ退屈してるの。私。
しかも、一週間後に死ぬとかありえない。
私が死ぬわけないんだから。
身支度を済ませ、焼き魚を食べ終わると、鞄をつかんで靴に足を入れた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
お母さんに手を振って家を出た私は、夢に出てきた女の子の事を考えていた。
夢とはいえ、何だか腹が立つ。
しかも、明日の朝って……。
今の事でしょ?
ホントなんなの?
そりゃあ、見渡す限りうちの学校の学ランとかセーラー服着てる人たちはたくさんいるよ?。
でも、私達の制服は白い生地で、たとえ夏服でも紺色のものを着ることはない。
なぁんだ……。冷静に考えたらすぐにわかるじゃん……。
たかが夢で……あほらしい。
気が付くと、私は横断歩道まで来ていた。
赤信号だったので、危ない危ないと深呼吸をして、ふと見た校門前。
私はそこに目を奪われないはずがなかった。
何故かというと……夢に出てきたあの女の子が私を見つめていて、ニヤニヤと笑っていたから。
え……?ちょっと、嘘でしょ?
何であの子がうちの学校に……。
いやいや、ちょっと待て。落ち着け私。
きっと、あの夢は転校生が来ることを暗示していて、その通りになったに違いない。
うん。きっとそうだ!
私は深呼吸をして、いつも通りに校門を通り過ぎようとすると……。
「あら、春実さん。おはよう」
あの子が私に声をかけてきたのだ。
「え……?」
「うふふ。随分余裕があるようね?でもいいのかしら?一週間後にあなたは死ぬのよ?」
その子は淡々と話を進めるけど……残念なことに、パニック状態の私に、その話の内容は理解できない。
「ちょっと待ってよ……。名前もわからない人にそんなこと言われても……」
「あら、そうね。自己紹介が遅れたわ。私の名前は、小口 二千翔よ」
「に、二千翔……ちゃん?」
「ふふっ。無理してちゃん付けしてもらわなくてもいいわ。私の事は、二千翔で結構よ」